説明

結晶性樹脂の状態変化の観測方法および観測装置

【課題】溶融状態の結晶性樹脂が結晶化して固化する状態変化を容易かつ簡便に観測できる結晶性樹脂の状態変化の観測方法および観測装置を提供する。
【解決手段】本発明の結晶性樹脂の状態変化の観測方法は、溶融状態から固化状態に状態変化している結晶性樹脂にレーザ光Lを入射させ、前記結晶性樹脂を通過したレーザ光Lに基づいて画像を作成し、該画像により結晶性樹脂の状態変化を観測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融状態の結晶性樹脂が結晶化して固化する状態変化を観測する結晶性樹脂状態変化の観測方法および観測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレン(以下「PE」という)、ポリプロピレン(以下「PP」という)、ポリスチレン(以下「PS」という)、ポリ塩化ビニル(以下「PVC」という)等の汎用プラスチックは、安価である上に、容易に成形できるため、袋や各種包装、各種容器、シート類等の多様な生活用品材料や自動車、電気などの工業部品や日用品、雑貨用等の材料として広く使用されている。
その一方で、汎用プラスチックは、機械的強度が不充分で、耐熱性が低い等の欠点を有するため、自動車等の機械製品や、電気・電子・情報製品に適さないことも多い。
これに対し、ポリエチレンテレフタレート(以下「PET」という)、ポリカーボネート(以下「PC」という)、ポリアミド、ポリオキシメチレン等のエンジニアリングプラスチックは機械的強度および耐熱性に優れている。
しかしながら、エンジニアリングプラスチックは高価である上に、ライフサイクルアセスメントにおける二酸化炭素排出量が多く、しかもモノマーリサイクルが困難または不可能なため、環境負荷が大きいという欠点を有している。
そこで、汎用プラスチックの機械的特性および耐熱性を改善することが求められている。汎用プラスチックの機械的特性および耐熱性を向上させる方法としては、PPやPEにおいて結晶の割合(結晶化度)を著しく高めた結晶体にすることが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開WO2008/108251明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、溶融状態の結晶性樹脂のシートを結晶化温度以上融点以下に調整し、溶融状態から結晶化状態に変化する位置にて一対のロールにより圧延および冷却して大きな伸長歪みをかけることで、高結晶性の結晶体を形成できるという知見を得た。
しかしながら、従来、結晶性樹脂の溶融状態から結晶化状態への状態変化を観測する方法は知られていなかったため、溶融状態から結晶化状態に変化する位置(固液界面)を正確に把握することは困難であった。そのため、得られた結晶体の結晶化度とそのときの生成条件のデータを蓄積して、溶融状態から結晶化状態に変化する位置を推測しており、非効率である上に正確さに欠けていた。このことから、上記高結晶性の結晶体を形成する方法の実用化が困難であった。
そこで、本発明は、溶融状態の結晶性樹脂が結晶化して固化する状態変化を容易かつ簡便に観測できる結晶性樹脂の状態変化の観測方法および観測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
従来の常識では、一対のロール間にレーザ光を出射すると、ロール表面で反射が起こるため、ロールの間を通った光を観測しても正確な情報が得られないと思われていた。
しかし、本発明者らが調べたところ、結晶性樹脂の状態変化部を通したレーザ光を撮像ユニットで受光し、画像を形成し、その画像を観察することで、溶融状態の結晶性樹脂が結晶化して固化する状態変化を容易に観測できることを見出した。
【0006】
すなわち、本発明は、以下の構成を包含する。
[1] 溶融状態から固化状態に状態変化している結晶性樹脂にレーザ光を入射させ、前記結晶性樹脂を通過したレーザ光に基づいて画像を作成し、該画像により結晶性樹脂の状態変化を観測することを特徴とする結晶性樹脂の状態変化の観測方法。
[2] 溶融状態の結晶性樹脂シートを一対の圧延ロールで圧延している際に圧延ロールの間で生じている結晶性樹脂の状態変化を観測することを特徴とする[1]に記載の結晶性樹脂の状態変化の観測方法。
[3] 溶融状態の結晶性樹脂が結晶化して固化する状態変化を観測する結晶性樹脂の状態変化の観測装置であって、
レーザ光出射部よりレーザ光を結晶性樹脂の状態変化している部分に向けて出射するレーザ光発生ユニットと、前記結晶性樹脂の状態変化している部分を通過したレーザ光を受光する撮像ユニットとを具備することを特徴とする結晶性樹脂の状態変化の観測装置。
[4] 溶融状態の結晶性樹脂シートを圧延する一対の圧延ロールを備える成形装置に、前記一対の圧延ロールの間の結晶性樹脂を観測するように取り付けられていることを特徴とする[3]に記載の結晶性樹脂の状態変化の観測装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明の結晶性樹脂の状態変化の観測方法および観測装置によれば、溶融状態の結晶性樹脂が結晶化して固化する状態変化を容易にかつ簡便に観測できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の観測装置の一実施形態例の側面を模式的に示す図である。
【図2】図1に示す観測装置における状態変化部を示す図であって、圧延ロールを水平に切断した際の断面図である。
【図3】撮像ユニットにて取得したデータを画像化処理して得た画像の一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の結晶性樹脂の状態変化の観測装置(以下、観測装置と略す。)の一実施形態例について説明する。
図1に、本実施形態例の観測装置を示す。本実施形態例の観測装置1は、溶融状態の結晶性樹脂シートSを圧延する一対の圧延ロール60,60を備える成形装置に取り付けられ、溶融状態の結晶性樹脂シートSを圧延ロール60,60により圧延および冷却した際に、圧延ロール60,60の間にて溶融状態の結晶性樹脂が結晶化して固化する状態変化を観測する観測装置である。
この観測装置1は、圧延ロール60,60の間の結晶性樹脂の状態変化している部分A(以下、「状態変化部A」という。図2参照)に向けてレーザ光Lを出射するレーザ光発生ユニット10と、状態変化部Aを通過したレーザ光Lを受光して撮像する撮像ユニット20と、撮像ユニット20で得たデータを画像化処理するコンピュータ40と、コンピュータ40での画像化処理結果を表示させる画像表示ユニット50とを具備する。本実施形態例では、レーザ光発生ユニット10から撮像ユニット20まで、レーザ光L,Lは直進している
【0010】
また、本実施形態例の観測装置1では、レーザ光発生ユニット10と状態変化部Aとの間に、レーザ光発生ユニット10から出射したレーザ光Lの強度を調整するための偏光板31が設けられている。
状態変化部Aと撮像ユニット20との間には、状態変化部Aを通過したレーザ光Lの焦点を調節する焦点調節用レンズ32、焦点調節用レンズ32を通過したレーザ光Lの強度を調整する偏光板33が設けられている。
偏光板31,33によりレーザ光L,Lの強度を調整し、焦点調節用レンズ32によりレーザ光Lの焦点を調整することにより、観測の精度を向上させることができる。
【0011】
本実施形態例におけるレーザ光発生ユニット10は、レーザ光生成部11と、レーザ光生成部11にて生成したレーザ光Lを出射させるレーザ光出射部12とを備える。レーザ光生成部11としては、ヘリウム−ネオンレーザ、半導体レーザ、YAGレーザ、炭酸ガスレーザ、エキシマレーザを適用することができる。レーザ光は直進性が高い上に、狭いところを通過させることができるため、狭小部分を観察する本発明に適している。
撮像ユニット20は、レーザ光出射部12から出射したレーザ光Lの出射方向の前方に配置され、焦点調節用レンズ32および偏光板33を通過したレーザ光Lを、内蔵された撮像素子(図示せず)にて受光する。撮像ユニット20としては、例えば、CCDカメラ、CMOSカメラなどが、レーザ光の波長に応じて適宜選択されて使用される。
画像表示ユニット50としては、液晶表示装置やCRTなどが使用される。
【0012】
上記観測装置1を用いた観測方法について説明する。
本実施形態例の観測方法では、まず、レーザ光発生ユニット10のレーザ光生成部11にてレーザ光を生成する。
そのレーザ光Lを、一対の圧延ロール60,60の回転軸と平行で、かつ、圧延ロール60,60の間を通過するように、レーザ光出射部12より出射させる。
次いで、レーザ光Lを偏光板31に通してレーザ光Lの強度を調整し、強度を調整したレーザ光Lを、圧延ロール60,60の間の状態変化部Aに入射させる。
状態変化部Aにおいて、圧延ロール60,60間の結晶性樹脂シートSの溶融状態の部分はレーザ光Lを透過し、結晶状態(固化状態)の部分はレーザ光Lを散乱させる。そのため、状態変化部Aを通過したレーザ光Lの光量は溶融状態の部分で多くなり、結晶状態の部分で少なくなる。
【0013】
次いで、状態変化部Aを通過したレーザ光Lを焦点調節用レンズ32および偏光板33に通した後、撮像ユニット20により受光する。そして、撮像ユニット20にて取得したデータをコンピュータ40により画像化処理し、その処理結果を画像表示ユニット50にて表示させて観察する。
【0014】
上記観測方法を適用できる結晶性樹脂シートSを構成する結晶性樹脂としては、例えば、ポリアルキレン、ポリアミド、ポリエーテル、液晶ポリマー等が挙げられる。具体的には、ポリエチレン、アイソタクティックポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレン、ポリ4メチルペンテン等のポリオレフィン類あるいは結晶性エチレン・プロピレン共重合体、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12等のポリアミド類、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル類、シンジオタクチックポリスチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、全芳香族ポリエステル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオロライド等のフッ素樹脂、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート等の脂肪族ポリエステル、ポリ乳酸、ポリビニルアルコール、ポリアセタール、ポリエーテルニトリル等が挙げられる。ただし、これらの樹脂に限定されるものではない。
これらの結晶性高分子は単独で使用してもよいし、同種のもので分子量が異なるものを組み合わせて使用してもよいし、非晶性の高分子と組み合わせて使用してもよい。
アイソタクティックポリプロピレンを使用する場合には、より高い剛性が得られる点では、mmmmによる立体規則性が95%以上であることが好ましく、97%以上であることがより好ましい。
結晶性樹脂シートSは、結晶化温度以上融点以下に調整されて溶融されていることが好ましい。
【0015】
上記観測装置1を用いた観測方法では、溶融状態の部分を通過したレーザ光Lの光量は多く、結晶状態の部分を通過したレーザ光Lの光量は少ないため、得られた画像においては、溶融状態の部分は明るくなり、結晶状態の部分は暗くなる。したがって、得られた画像によって、結晶性樹脂の状態変化を容易にかつ簡便に観察することができ、状態変化の位置や状況を把握することができる。また、この方法によれば、圧延ロール60,60の間のような極小の部分であっても、結晶性樹脂の状態変化の観察が可能である。
【0016】
図3に、撮像ユニット20にて取得したデータを画像化処理して得た画像の一例を模式的に示す。この例は、ロール間隔200μmの圧延ロール60,60(ロール回転数90m/分、ロール温度140℃)の間に溶融状態のポリプロピレンシートを下方に向けて供給し、圧延した際の、状態変化部Aを観測した例である。
圧延ロール60,60に供給され、圧延されたポリプロピレンシートは、圧延時に溶融状態から結晶化状態に状態変化する。この状態変化が生じている部分を上記観測装置1により観測した画像では、図3に示すように、ポリプロピレンシートを透過したレーザ光Lの光量が図の上から下に向かうにつれて少なくなっており、やがてレーザ光は全く透過しなくなる。レーザ光を透過する部分と透過しない部分との境界は固液界面であるから、この画像を観察することによって、溶融状態から結晶化状態に変化する位置を容易にかつ簡便に把握することができる。
【0017】
なお、本発明は上記実施形態例に限定されない。例えば、本発明では、偏光板31,33および焦点調節用レンズ32を備えなくてもよい。
また、状態変化部は、圧延ロール60,60の間でなくてもよく、結晶性樹脂を成形する際の、溶融状態から結晶状態に変化する部分およびその周辺であればよい。
また、レーザ光L,Lの進行方向は反射鏡を利用して屈曲させても構わない。
【符号の説明】
【0018】
1 観測装置
10 レーザ光発生ユニット
11 レーザ光生成部
12 レーザ光出射部
20 撮像ユニット
31,33 偏光板
32 焦点調節用レンズ
40 コンピュータ
50 画像表示ユニット
60 ロール
A 状態変化部
S 結晶性樹脂シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融状態から固化状態に状態変化している結晶性樹脂にレーザ光を入射させ、前記結晶性樹脂を通過したレーザ光に基づいて画像を作成し、該画像により結晶性樹脂の状態変化を観測することを特徴とする結晶性樹脂の状態変化の観測方法。
【請求項2】
溶融状態の結晶性樹脂シートを一対の圧延ロールで圧延している際に圧延ロールの間で生じている結晶性樹脂の状態変化を観測することを特徴とする請求項1に記載の結晶性樹脂の状態変化の観測方法。
【請求項3】
溶融状態の結晶性樹脂が結晶化して固化する状態変化を観測する結晶性樹脂の状態変化の観測装置であって、
レーザ光出射部よりレーザ光を結晶性樹脂の状態変化している部分に向けて出射するレーザ光発生ユニットと、前記結晶性樹脂の状態変化している部分を通過したレーザ光を受光する撮像ユニットとを具備することを特徴とする結晶性樹脂の状態変化の観測装置。
【請求項4】
溶融状態の結晶性樹脂シートを圧延する一対の圧延ロールを備える成形装置に、前記一対の圧延ロールの間の結晶性樹脂を観測するように取り付けられていることを特徴とする請求項3に記載の結晶性樹脂の状態変化の観測装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−69682(P2011−69682A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−220083(P2009−220083)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(597021842)サンアロマー株式会社 (27)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】