説明

結晶質トリペプチドエポキシケトンプロテアーゼ阻害剤

本発明は、結晶質トリペプチドケトエポキシド化合物、その調製法、及び関連する医薬組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2009年3月20日に提出された米国仮出願番号No. 61/162,196号及び2009年5月22日に提出された米国仮特許出願番号61/180,561号に基づく優先権を主張するものである。前述の出願の明細書の全文を、その言及をもってここに援用することとする。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
真核生物においてタンパク質分解は主にユビキチン経路を通じて媒介されるが、この経路で破壊の標的となったタンパク質は76アミノ酸のポリペプチドであるユビキチンに連結される。標的化されたユビキチン化タンパク質は、次に、その三つの主要なタンパク質分解活性の作用を通じてタンパク質をより短いペプチドに切断する多重触媒性プロテアーゼである26Sプロテアソームの基質として働く。プロテアソーム媒介性分解は、細胞内タンパク質ターンオーバーにおける一般的機能を有しながらも、更に、例えば主要組織適合性複合体(MHC)クラスI抗原提示、アポトーシス、細胞成長の調節、NF-κB活性化、抗原プロセッシング、及び炎症誘発性シグナルの伝達など、多くのプロセスでカギとなる役割も果たす。
【0003】
20Sプロテアソームは、28個のサブユニットが4つの環に構成されて成る700kDaの筒状多重触媒性プロテアーゼ複合体である。酵母及び他の真核生物では、7個の異なるαサブユニットが外側の環を形成し、7個の異なるβサブユニットが内側の環を成す。αサブユニットは19S (PA700) 及び11S (PA28) 調節性複合体の結合部位としてや、二つのβサブユニット環が形成する内側のタンパク質分解チャンバーにとっての物理的バリヤーとして働く。このように、in vivoにおいてこのプロテアソームは26S粒子として存在すると考えられている(「26Sプロテアソーム」)。in vivo 実験では、20S型のプロテアソームの阻害が26Sプロテアソームの阻害に容易に相関させられることが示されている。粒子形成中にβサブユニットのアミノ末端側のプロ配列が切断されると、アミノ末端のスレオニン残基が露出するが、この残基が触媒性の求核試薬として働く。このように、プロテアソーム中の触媒活性を担うこのサブユニットはアミノ末端に求核試薬残基を持ち、これらのサブユニットはN末端求核試薬(Ntn)ヒドロラーゼ(この場合の求核試薬性N末端残基は例えば Cys、Ser、Thr、及び他の求核試薬性部分である)ファミリーに属する。 このファミリーには、例えば、ペニシリンGアシラーゼ (PGA)、ペニシリンVアシラーゼ (PVA)、グルタミンPRPP アミドトランスフェラーゼ(GAT)、及び細菌性グリコシルアスパラギナーゼが含まれる。広汎に発現するβサブユニットに加え、より高等な脊椎動物は更に、それぞれ正常な相対物であるβ5、β1及びβ7を置換してこのプロテアソームの触媒活性を変化させる三つのインターフェロン-γ誘導性βサブユニット(LMP7、LMP2及び MECLl)を持つ。異なるペプチド基質を用いることで、これらの主要なタンパク質分解活性が真核生物20Sプロテアソームについて定義されてきた:大型の疎水性前記の後ろを切断するキモトリプシン様活性 (CT-L);塩基性残基の後ろを切断するトリプシン様活性(T-L);及び酸性残基の後ろを切断するペプチジルグルタミルペプチド加水分解活性 (PGPH)である。特徴付けが進んでいない更に二つの活性がプロテアソームに帰せられている:分枝状アミノ酸の後ろを切断するBrAAP活性;及び小型の中性アミノ酸の後ろを切断するSNAAP 活性である。この主要なプロテアソームタンパク質分解活性には異なる触媒部位が寄与しているようである。なぜなら、阻害剤や、βサブユニットでの点変異や、γ-インターフェロン誘導性βサブユニットの交換により、様々な程度、これらの活性が変化するからである。
【0004】
プロテアソーム阻害剤を調製及び調合するための優れた組成物及び方法が求められる。
【発明の概要】
【0005】
発明の概要
本発明の一態様は、式(I)の構造を有する結晶化合物又はその薬学的に許容可能な塩に関し、
【0006】
【化1】

【0007】
但し式中、
X はO、NH、又はN-アルキル、好ましくはOであり;
Y はN、S、又はC(R8)2、好ましくはNHであり;
Z はNH、N-アルキル、O、S 又はC(R8)2、好ましくは Sであり;
R1、R2、及びR3 は水素であり;
R4、R5、R6、R7
及び R8 のそれぞれは独立に、それぞれが選択的に、アルキル、アミド、アミン、カルボン酸又は薬学的に許容可能なその塩、カルボキシルエステル、チオール、及びチオエーテルから選択される基で置換される、水素、C1-6アルキル、C1-6ヒドロキシアルキル、C1-6アルコキシアルキル、アリール、及びC1-6アラルキルから選択され、好ましくは R4、R5及びR6、は独立にC1-6チオエーテル、C1-6ヒドロキシアルキル、及びC1-6アラルキルから選択され、そしてR7 はC1-6アルキルから選択され、より好ましくはR4 及びR5
はC1-6チオエーテルであり、そしてR7 はC1-6アルキルである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は結晶化合物1のDSC (示査走査熱量測定)サーモグラムを示す。
【図2】図2は結晶化合物1のXRPD(X線粉末回折)パターンを示す。
【図3】図3は結晶化合物1のTGサーモグラムを示す。
【図4】図4は、逆熱流(下側)及び非逆熱流(上側)とした、非結晶化合物1の、調節されたサーモグラムを示す。
【図5】図5は、実施例2(中央)、実施例3(上側)、及び実施例4(下側)に従って調製された結晶化合物1のDSCサーモグラムの比較を示す。
【図6】図6は、実施例2(上側)、実施例3(下から2番目)、及び実施例4(上から2番目)に従って調製された結晶化合物1のXRPDパターンに比較したときの、実施例1(一番下)に従って調製された非結晶化合物1のXRPDパターンを示す。
【図7】図7は、非結晶化合物1のTGサーモグラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
発明の詳細な説明
いくつかの実施態様では、本発明は式(I)の構造を有する結晶化合物又はその薬学的に許容可能な塩に関連し、
【0010】
【化2】

【0011】
但し式中、
X はO、NH、又はN-アルキル、好ましくはOであり;
Y はNH、N-アルキル、O、S、又はC(R8)2、好ましくは NHであり;
Z はNH、N-アルキル、O、S 又はC(R8)2、好ましくは Sであり;
R1、R2、及びR3 は水素であり;
R4、R5、R6、R7及びR8 のそれぞれは独立に、それぞれがアルキル、アミド、アミン、カルボン酸又は薬学的に許容可能なその塩、カルボキシルエステル、チオール、及びチオエーテルから選択される基で選択的に置換される水素、C1-6アルキル、C1-6ヒドロキシアルキル、C1-6アルコキシアルキル、アリール、及びC1-6アラルキルから選択され、好ましくは R4、R5及びR6は独立に、C1-6チオエーテル、C1-6ヒドロキシアルキル、及びC1-6アラルキルから選択され、そしてR7 はC1-6アルキルであり、より好ましくは、R4 及びR5
は C1-6チオエーテルであり、そして各R7 はC1-6アルキルである。
【0012】
いくつかの実施態様では、本発明は、式(II)の結晶化合物
【0013】
【化3】

【0014】
である。
【0015】
いくつかの実施態様では、本発明は、式(I)又は(II)の結晶化合物を調製する方法に関し、本方法は、(i)例えば米国特許出願第11/595,804号などに従って、非結晶化合物を調製するステップと;(ii)有機溶媒に前記非結晶化合物を溶解させるステップと;(iii) 前記溶液を過飽和させるステップと;(iv)結晶から流体をデカントすることにより結晶をろ過する、又は、いずれか他の適した分離技術により、結晶を単離するステップと;(v)結晶を洗浄する、のうちの一つ以上を含む。いくつかの実施態様では、調製するステップは更に、結晶化を誘導するステップを含む。いくつかの実施態様では、調製するステップは更に、乾燥するステップ、好ましくは 例えば真空圧下など、減圧下で、乾燥するステップを含む。
【0016】
いくつかの実施態様では、非結晶化合物を、アセトニトリル、酢酸エチル、ヘプタン、ヘキサン、酢酸イソプロピル、メタノール、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、トルエン、及び水、又はこれらのいずれかの組合せから選択される溶媒に溶解させてもよい。いくつかの実施態様では、式(II)の非結晶化合物を、アセトニトリル、ヘプタン、ヘキサン、メタノール、テトラヒドロフラン、及びトルエン、又はこれらのいずれかの組合せから選択される有機溶媒に溶解させてもよい。いくつかの好適な実施態様では、前記有機溶媒はトルエン、テトラヒドロフラン、又はアセトニトリル、好ましくは アセトニトリル又はトルエンである。
【0017】
いくつかの実施態様では、溶液を過飽和にするステップは、例えば水、ヘプタン、ヘキサン又は、有機溶媒と混和性の別の極性もしくは非極性液体などの逆溶媒をゆっくりと添加して溶液を冷却する(溶液にシードを加えながら、又は加えずに)ステップ、溶液の体積を減らすステップ、又はこれらのいずれかの組合せを含む。いくつかの実施態様では、溶液を過飽和させるステップは、逆溶媒を添加するステップと、溶液を周囲温度又はそれ未満に冷却するステップと、溶液から溶媒を蒸発させるなどにより、溶液の体積を減らすステップとを含む。いくつかの実施態様では、溶液を冷却するステップは受動的なもの(例えば周囲温度に溶液を放置するなど)でも、又は能動的なもの(例えば氷槽又はフリーザーで溶液を冷却するなど)でもよい。
【0018】
いくつかの実施態様では、本方法は更に沈殿又は結晶化を誘導するステップを含む。いくつかの実施態様では、沈殿又は結晶化を誘導するステップは第二次核形成を含み、この場合の核形成は種結晶の存在下か、又は、環境(結晶器壁、撹拌インペラー、音波破砕等)との相互作用でおきる。
【0019】
いくつかの実施態様では、結晶を洗浄するステップは、逆溶媒、アセトニトリル、ヘプタン、ヘキサン、メタノール、テトラヒドロフラン、トルエン、水、又はこれらのいずれかの組合せから選択される液体で洗浄するステップを含む。いくつかの実施態様では、当該の結晶を、逆溶媒及び有機溶媒の組合せで洗浄する。いくつかの実施態様では、前記逆溶媒は水であり、他方、他の実施態様ではそれはヘキサン又はペンタンなどのアルカン溶媒、あるいは、ベンゼン、トルエン、又はキシレンなどの芳香族炭化水素溶媒である。
【0020】
いくつかの実施態様では、結晶を洗浄するステップは、式(II)の結晶化合物を、テトラヒドロフランと、例えばヘキサン又はヘプタンなどのアルカン溶媒との混合物、あるいは、アセトニトリルと水の混合物、で洗浄するステップを含む。いくつかの実施態様では、結晶を洗浄するステップは、式(II)の結晶化合物をトルエンで洗浄するステップを含む。好適なこのような実施態様では、洗浄前に前記トルエンを冷却する。
【0021】
いくつかの実施態様では、式(II)の結晶化合物は実質的に純粋である。いくつかの実施態様では、式(II)の結晶化合物の融解点は約135乃至約160℃の範囲、約140乃至約155℃の範囲、約145乃至約150℃の範囲、又は更に約147乃至約149℃の範囲、例えば約149℃、である。
【0022】
いくつかの実施態様では、式(II)の結晶化合物のDSCは、例えば図1に示す結晶型の融解及び分解から起きるなど、約147℃に鋭い吸熱最大値を有する。
【0023】
いくつかの実施態様では、式(II)の結晶化合物のX線粉末パターンは、図2に示すように、 (θ-2θ°):
8.94; 9.39; 9.76; 10.60; 11.09; 12.74; 15.27; 17.74; 18.96; 20.58; 20.88; 21.58;
21.78; 22.25; 22.80; 24.25; 24.66; 26.04; 26.44; 28.32; 28.96; 29.65; 30.22;
30.46; 30.78; 32.17; 33.65; 34.49; 35.08; 35.33; 37.85; 38.48 である。
【0024】
いくつかの実施態様では、式(II)の結晶化合物のTGサーモグラムは、図3に示すように、25乃至125℃の温度範囲で0.0 乃至0.3% の重量消失を示す。
【0025】
いくつかの実施態様では、式(II)の結晶化合物を溶媒和化しない(例えば結晶格子は溶媒の分子を含まないなど)。いくつかの代替的実施態様では、式(II)の結晶化合物を溶媒和化する。
【0026】
いくつかの実施態様では、本発明は式(II)の結晶化合物の調製法に関し、
【0027】
【化4】

【0028】
本方法は、(i)式(III)の化合物
【0029】
【化5】

【0030】
(但し式中、Xはいずれかの適した対イオンである)を式(IV)の化合物
【0031】
【化6】

【0032】
に有機溶媒中で反応させるステップと、(ii)式(II)の化合物を有機溶媒に溶かした溶液を調製するステップと;(iii)溶液を過飽和させて結晶を形成させるステップと;(iv)例えば結晶をろ過する、デカントする、又はいずれか他の適した分離技術によるなどして結晶を単離して、式(II)の結晶化合物を提供するステップとを含む。
【0033】
いくつかの実施態様では、式(II)の化合物は、有機溶媒での溶液の調製前にクロマトグラフィーで精製されることはない。
【0034】
いくつかの実施態様では、調製は更に、結晶化を誘導するステップを含む。いくつかの実施態様では、調製は更に、例えば溶媒又は非溶媒流体などで結晶を洗浄するステップを含む。いくつかの実施態様では、調製は更に、好ましくは 真空圧下などの減圧下で乾燥させるステップを含む。
【0035】
いくつかの実施態様では、Xは、ヒドロブロミド、ヒドロクロリド、スルフェート、ホスフェート、ニトレート、アセテート、トリフルオロアセテート、シトレート、メタンスルホネート、ヴァレレート、オレエート、パルミテート、ステアレート、ラウレート、ベンゾエート、ラクテート、スクシネート、トシレート、マロネート、マレエート、フマレート、スクシネート、タルトレート、メシレート、2-ヒドロキシエタンスルホネート等から選択される対イオンである。(例えばBerge et al.
(1977) “Pharmaceutical Salts”, J. Pharm. Sci. 66: 1-19.を参照されたい)。いくつかの実施態様では、Xはトリフルオロアセテート、メタンスルホネート、トルエンスルホネート、アセテート、クロリド、及びブロミドから選択され、好ましくはトリフルオロアセテートである。
【0036】
いくつかの実施態様では、有機溶媒はアセトニトリル、酢酸エチル、ヘプタン、ヘキサン、酢酸イソプロピル、メタノール、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、トルエン、及び水、又はこれらのいずれかの組合せから選択される。いくつかの実施態様では、式(II)の非結晶化合物を、アセトニトリル、ヘプタン、ヘキサン、メタノール、テトラヒドロフラン、及びトルエン、又はこれらのいずれかの組合せから選択される有機溶媒に溶解させてもよい。いくつかの好適な実施態様では、有機溶媒はトルエン、テトラヒドロフラン、又はアセトニトリルであり、好ましくは アセトニトリル又はトルエンである。
【0037】
いくつかの実施態様では、調製は更に式(II)の結晶を洗浄するステップを含む。いくつかの実施態様では、結晶を洗浄するステップは、逆溶媒、アセトニトリル、ヘプタン、ヘキサン、メタノール、テトラヒドロフラン、トルエン、水、又はこれらのいずれかの組合せから選択される液体で洗浄するステップを含む。いくつかの実施態様では、結晶を、逆溶媒及び有機溶媒の組合せで洗浄する。いくつかの実施態様では、逆溶媒は水であり、他方、他の実施態様では、それはヘキサン又はペンタンなどのアルカン溶媒、あるいはベンゼン、トルエン、又はキシレンなどの芳香族炭化水素溶媒である。
【0038】
いくつかの実施態様では、調製は更に、式(II)の両方の結晶を、好ましくは真空圧下などの減圧下で乾燥させるステップを含む。
【0039】
いくつかの実施態様では、本発明は、式(II)の結晶化合物と薬学的に許容可能な単体とを含む医薬組成物に関する。いくつかの実施態様では、前記医薬組成物は錠剤、カプセル、及び注射から選択される。
【0040】
結晶トリペプチドエポキシケトンの使用
秩序あるタンパク質分解は正常な細胞機能の維持にとって重要であり、プロテアソームはタンパク質分解プロセスに欠かせない。プロテアソームは、正常及び悪性細胞において、細胞周期の進行及びアポトーシスにとって重要なタンパク質;例えばサイクリン、カスパーゼ、BCL2及びnF-kBのレベルを制御する (Kumatori et
al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1990) 87:7071-7075;
Almond et al., Leukemia (2002) 16: 433-443) 。従って、プロテアソーム活性の阻害を、関係する細胞に応じて、悪性、非悪性及び自己免疫疾患など、多様な疾患状態を処置する治療法につなげることができる。
【0041】
in vitro 及びin vivo モデルの両方で、悪性細胞はプロテアソームの阻害を概して引き起こし易いことが示されている。実際、プロテアソームの阻害は既に、多発性骨髄腫の処置にとっての治療戦略としてバリデートされている。これは部分的には、増殖性の高い悪性細胞がタンパク質を急速に除去するのにプロテアソーム系に依存していることが原因かも知れない (Rolfe et al., J. Mol. Med. (1997) 75:5-17; Adams, Nature (2004) 4:
349-360) 。従って、本発明のいくつかの実施態様は、ここで開示するプロテアソーム阻害化合物を有効量、このような処置を必要とする対象に投与するステップを含む、癌を処置する方法に関する。ここで用いられる場合の用語「癌」には、限定はしないが、血液由来性及び充実腫瘍が含まれる。 癌とは、血液、骨、臓器、皮膚組織及び血管系の疾患を言い、その中には、限定はしないが、膀胱、血液、骨、脳、乳房、子宮頸管、胸部、結腸、子宮内膜、食道、眼、頭部、腎臓、肝臓、肺、リンパ節、口、頸部、卵巣、膵臓、前立腺、直腸、腎臓、胃、精巣、喉、及び子宮の癌が含まれる。特定の癌には、限定はしないが、白血病(急性リンパ球性白血病 (ALL)、急性骨髄性白血病 (AML)、慢性リンパ球性白血病 (CLL)、慢性骨髄性白血病(CML)、ヘアリー細胞白血病)、成熟B細胞新生物(小リンパ性リンパ腫、B細胞前リンパ球性白血病、リンパ形質細胞性リンパ腫(例えばウォルデンストローム大グロブリン血症)、脾臓周辺帯リンパ腫、形質細胞骨髄腫、形質細胞腫、モノクローナル免疫グロブリン沈着病、重鎖病、結節外周辺帯B細胞リンパ腫(MALT リンパ腫)、結節周辺帯B細胞リンパ腫(NMZL)、濾胞性リンパ腫、外套細胞リンパ腫、びまん性B細胞リンパ腫、縦隔(胸腺)大B細胞リンパ腫、血管内大B細胞リンパ腫、原発性滲出物リンパ腫及びバーキットリンパ腫/白血病)、成熟T細胞及びナチュラル・キラー(NK)細胞新生物(T細胞前リンパ球性白血病、T細胞大顆粒状リンパ球性白血病、進行性NK細胞白血病、成人T細胞白血病/リンパ腫、結節外NK/T細胞リンパ腫、腸疾患型T細胞リンパ腫、肝臓脾臓T細胞リンパ腫、芽細胞性NK細胞リンパ腫、菌状息肉腫(サザリー症候群)、原発性皮膚未分化型大細胞リンパ腫、リンパ腫様丘疹症、 血管免疫芽細胞性T細胞リンパ腫、不特定の末梢T細胞リンパ腫及び未分化大細胞リンパ腫)、ホジキンリンパ腫(結節性硬化症、混合型細胞性、リンパ球−リッチ、リンパ球枯渇又は非枯渇型、結節性リンパ球優勢性)、骨髄腫(多発性骨髄腫、無痛性骨髄腫、くすぶり型骨髄腫)、慢性骨髄増殖性疾患、脊髄形成異常性/骨髄増殖性疾患、脊髄形成異常症候群、免疫不全関連リンパ増殖性障害、組織球性及び樹状細胞新生物、肥満細胞症、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、線維肉腫、悪性巨大細胞腫瘍、骨髄腫骨疾患、骨肉腫、乳癌(ホルモン依存性、ホルモン非依存性)、婦人科の癌(子宮頸管、子宮内膜、卵管、妊娠栄養膜疾患、卵巣、腹膜、子宮、膣及び外陰部)、基底細胞癌 (BCC)、扁平細胞癌 (SCC)、悪性黒色腫、隆起性皮膚線維肉腫、メルケル細胞癌、カポジ肉腫、星状細胞腫、毛様細胞性星状細胞腫、胎生期奇形性神経上皮腫瘍、乏突起細胞腫、上衣細胞腫、多形性神経膠芽腫、混合型神経膠腫、乏星状細胞腫、髄芽細胞腫、網膜芽細胞腫、神経芽細胞腫、胚細胞腫、奇形腫、悪性中皮腫(腹膜中皮腫、心膜中皮腫、胸膜中皮腫)、胃−腸−膵又は胃腸膵管神経内分泌腫瘍(GEP-NET)、類癌腫、膵臓内分泌腫瘍 (PET)、結腸直腸腺癌、結腸直腸癌、進行性神経内分泌腫瘍、平滑筋肉腫、粘液性腺癌、印鑑細胞腺癌、肝細胞癌、胆管癌、肝癌、血管癌、肝腺腫、限局性結節性過形成症(結節性再生性過形成、過誤腫)、非小細胞肺癌 (NSCLC) (扁平細胞肺癌、腺癌、大細胞肺癌)、小細胞肺癌、甲状腺癌、前立腺癌(ホルモン不応性、アンドロゲン非依存性、アンドロゲン依存性、ホルモン非感受性)、腎細胞癌、及び軟組織肉腫(線維肉腫、悪性線維性組織球腫、皮膚線維肉腫、脂肪肉腫、横紋筋肉腫、平滑筋肉腫、血管肉腫、滑膜肉腫、悪性末梢神経鞘腫瘍/神経線維肉腫、骨格外骨肉腫)がある。
【0042】
造血系及びリンパ系の腫瘍の多くは、細胞増殖の増加又は特定の細胞種を特徴とする。慢性骨髄増殖性疾患(CMPD)はクローン性の造血幹細胞の異常であり、骨髄系の一種以上の骨髄の増殖を特徴とし、その結果、末梢血中の顆粒球、赤血球及び/又は血小板の数が増加する。従って、このような疾患の処置でのプロテアソーム阻害剤の使用は魅力的であり、調べられているところである (Cilloni et
al., Haematologica (2007) 92: 1124-1229)。CMPDには、慢性骨髄性白血病、慢性好中球性白血病、慢性好酸球性白血病、真正赤血球増加症、慢性特発性骨髄線維症、本態性血小板減少症及び分類不可能な骨髄増殖性疾患を含めることができる。本発明の局面の一つは、ここで開示するプロテアソーム阻害化合物を有効量、このような処置を必要とする対象に投与するステップを含む、CMPDを処置する方法である。
【0043】
慢性骨髄単球性白血病、非定型慢性骨髄白血病、若年性骨髄単球性白血病及び分類不能の骨髄異形成性/骨髄増殖性疾患などの骨髄異形成性/骨髄増殖性疾患は、骨髄系の一つ以上での増殖を原因とする、骨髄の過細胞充実性を特徴とする。ここに記載する化合物又は組成物でプロテアソームを阻害すると、該化合物又は組成物を有効量、このような処置を必要とする対象に提供することにより、これらの骨髄異形成性/骨髄増殖性疾患の処置に役立てることができる。
【0044】
骨髄異形成症候群 (MDS)とは、主要な骨髄細胞系の一つ以上における異形成及び無効な血液生成を特徴とする、一群の造血幹細胞異常を言う。これらの造血系悪性疾患でプロテアソーム阻害剤でNF-κBを標的にするとアポトーシスが誘導され、悪性細胞が殺される(Braun et al.
Cell Death and Differentiation (2006) 13:748-758)。本発明の更なる実施態様は、ここで開示する化合物を有効量、このような処置を必要とする対象に投与するステップを含む、MDSを処置する方法である。MDSは、難治性貧血、筒状の鉄芽球を伴う難治性貧血、多系統性異形成を伴う難治性血球減少症、過剰な芽細胞を伴う難治性貧血、分類不能な骨髄異形成症候群、及び、孤立型del(5q)染色体異常を伴う骨髄異形成症候群を誘導する。
【0045】
肥満細胞症は、一つ以上の臓器におけるマスト細胞の増殖及びそれらのその後の蓄積である。肥満細胞症には、限定はしないが、皮膚肥満細胞症、無痛性全身性肥満細胞症 (ISM)、クローン性造血系非肥満細胞系譜疾患を伴う全身性肥満細胞症 (SM-AHNMD)、進行性全身性肥満細胞症 (ASM)、肥満細胞白血病 (MCL)、肥満細胞肉腫 (MCS) 及び皮膚外肥満細胞症がある。本発明の別の実施態様は、ここで開示する化合物又は組成物を、肥満細胞症と診断された対象に有効量、投与するステップを含む、肥満細胞症を処置する方法である。
【0046】
プロテアソームはNF-κBを調節するが、ひいては免疫及び炎症応答に関与する遺伝子を調節する。例えばNF-κB は免疫グロブリン軽鎖κ遺伝子、IL-2受容体α鎖遺伝子、クラスI主要組織適合性複合体遺伝子、並びに、例えばIL-2、IL-6、顆粒球コロニー刺激紳士、及びIFN-βなどをコードする数多くのサイトカイン遺伝子の発現に必要である (Palombella
et al., Cell (1994) 78:773-785)。従って、いくつかの実施態様では、本発明は、IL-2、MHC-I、IL-6、TNFα、IFN-β又は他の前に言及したタンパク質の発現レベルに影響する方法に関し、それぞれの方法は、ここで開示するプロテアソーム阻害化合物又は組成物を有効量、対象に投与するステップを含む。いくつかの実施態様では、本発明は、ここで開示する化合物又は組成物を治療上有効量、投与するステップを含む、哺乳動物における自己免疫疾患を処置する方法を含む。ここで言う「自己免疫疾患」とは、個体自身の組織から起き、個体自身の組織に悪影響する疾患又は障害である。自己免疫疾患又は障害の例には、限定はしないが、乾癬及び皮膚炎(例えばアトピー性皮膚炎)を含む炎症性皮膚疾患などの炎症性応答;全身性強皮症及び硬化症;炎症性腸疾患(例えばクローン病及び潰瘍性大腸炎)に伴う応答;呼吸不全症候群(成人呼吸不全症候群;ADRSを含む);皮膚炎;髄膜炎;脳炎;ブドウ膜炎;大腸炎;腎炎;湿疹及び喘息などのアレルギー状態、及び、T細胞の浸潤及び慢性炎症性応答の関与する他の状態;アテローム性硬化症;白血球接着不全;リウマチ様関節炎;全身性エリテマトーデス(SLE)糖尿病(例えばタイプI糖尿病又はインシュリン依存性糖尿病);多発性硬化症;レイノー症候群;自己免疫性甲状腺炎;アレルギー性脳脊髄炎;シェーグレン症候群;若年発症型糖尿病;及び、サイトカイン及びTリンパ球により媒介され、結核、サルコイドーシス、多発性筋炎、肉芽腫症及び脈管炎;悪性貧血(アジソン病)で典型的にみられる急性及び遅延型過敏症を伴う免疫応答;白血球血管外遊出を含む疾患;中枢神経系(CNS) 炎症性障害;多臓器不全症候群;溶血性貧血(限定はしないが、クリオグロブリン血症又はクームス陽性貧血を含む);重症筋無力症;抗原−抗体複合体媒介性疾患;抗糸球体基底膜疾患;抗ホスホリピド症候群;アレルギー性神経炎;グレーブズ病;ランバート−イートン筋無力症候群;水疱性天疱瘡;天疱瘡;自己免疫多腺性内分泌障害;ライター病;スティッフマン症候群;ベーチェット病;巨大細胞動脈炎;免疫複合体腎炎;IgA ネフロパチー;IgMポリニューロパチー;免疫血小板減少性紫斑病 (ITP)又は自己免疫血小板減少症がある。
【0047】
ウィルス感染した自己由来細胞についての免疫系のスクリーニングでは、発癌性の形質転換が起きるか、又は、見慣れないペプチドがそれらの表面に現れている。細胞内のタンパク質分解で小型のペプチドが発生してTリンパ球に提示され、MHCクラスI媒介性免疫応答が誘導される。従って、いくつかの実施態様では、本発明は、ここで開示する化合物に細胞を暴露する(又は対象に投与する)ステップを含む、細胞における抗原提示を阻害する又は変化させる免疫調節性作用薬として、当該化合物を用いる方法に関する。具体的な実施態様には、例えば哺乳動物の移植片体宿主疾患又は宿主体移植片疾患など、移植片又は移植体関連疾患を治療する方法であって、ここに記載する化合物を治療上有効量、投与するステップを含む方法が含まれる。ここで用いられる用語「移植片」とは、レシピエントへの移植に向けた、ドナー由来の生物材料を言う。移植片には、例えば島細胞などの単離細胞などの多様な物質;新生児の羊膜などの組織、骨髄、造血前駆細胞、及び角膜組織などの眼組織;皮膚、心臓、肝臓、脾臓、膵臓、甲状腺小葉、肺、腎臓、管状の臓器(例えば腸管、血管、又は食道など)が含まれる。管状の臓器は、食道、血管、又は胆管の損傷部分を置換するために用いることができる。皮膚移植片は火傷だけなく、損傷した腸管への包帯剤として、又は横隔膜ヘルニアなどの特定の欠損を閉じるためにも、用いることができる。移植片は、死体又は生きたドナーに関係なく、ヒトを含むいずれかの哺乳動物原を由来とする。場合によっては、ドナー及びレシピエントは同じ哺乳動物である。 好ましくは、移植片は骨髄、又は、心臓などの臓器であり、移植片のドナーおよびホストを、HLAクラスII抗原を適合させる。
【0048】
組織球及び樹状細胞新生物は、貪食細胞及び補助細胞を由来とするが、これら貪食細胞及び補助細胞は、抗原のプロセッシングとリンパ球への提示において主要な役割を有する。樹状細胞中のプロテアソーム含有量が枯渇するとそれらの抗原誘導性応答が変化することが示されている(Chapatte et
al. Cancer Res. (2006) 66:5461-5468) 。このように、本発明の別の実施態様は、組織球又は樹状細胞新生物のある対象に対し、ここに開示する化合物又は組成物を有効量、投与するステップを含む。組織球及び樹状細胞新生物には、組織球肉腫、ランゲルハンス細胞組織球、ランゲルハンス細胞肉腫、指状突起樹状細胞肉腫/腫瘍、瀘胞性樹状細胞肉腫/腫瘍及び未特定の樹状細胞肉腫がある。
【0049】
プロテアソームの阻害は、ある細胞種が増殖する疾患や免疫障害を処置するのに有益であることが示されている。よって本発明のある実施態様は、開示する化合物を有効量、それを必要とする対象に投与するステップを含む、原発性免疫障害(PID)に関連するリンパ増殖性疾患(LPD)の処置を含む。B細胞及びT細胞新生物及びリンパ腫を含め、リンパ滲出性障害の発生率増加を伴う免疫不全で最もよくある臨床上の状況は、原発性免疫不全症候群及び他の原発性免疫障害、ヒト免疫不全ウィルス(HIV)への感染、実質性器官又は骨髄同種移植を受けた患者における医原性免疫抑制、及び、メトトレキセート処置に伴う医原性免疫抑制である。LPDに通常関連する他のPIDは、限定はしないが、毛細血管拡張性運動失調(AT)、ウィスコット-アルドリッチ症候群(WAS)、分類不能型免疫不全(CVID)、重症複合型免疫不全(SCID)、X染色体関連リンパ球増加障害 (XLP)、ナイミーヘン染色体不安定症候群 (NBS)、ハイパー-IgM症候群、及び自己免疫リンパ球滲出性症候群 (ALPS)である。
【0050】
本発明の更なる実施態様は、腫瘍性タンパク質のプロテアソーム依存性調節に影響する方法と、癌成長を処置又は阻害する方法とに関し、該方法はそれぞれ、細胞(例えば対象中などのin vivo、又はin vitro)をここで開示するプロテアソーム阻害組成物に暴露するステップを含む。HPV-16及びHPV-18-由来E6タンパク質は、粗網状赤血球ライセート中でATP-及びユビキチン依存的結合と、p53の分解とを刺激する。劣性腫瘍遺伝子p53 は、変異した易熱性E1のある細胞株内で非許容温度で蓄積することが示されている。P53のレベル上昇はアポトーシスにつながることがある。ユビキチン系によって分解される癌原遺伝子の例には、c-Mos、c-Fos、及びc-Junがある。いくつかの実施態様では、本発明は、ここで開示するプロテアソーム阻害組成物を有効量、対象に投与するステップを含む、p53-関連アポトーシスを処置する方法に関する。
【0051】
本発明の別の局面は、限定はしないが、脳卒中、神経系への虚血性損傷、神経外傷(例えば衝撃的な脳への損傷、脊髄損傷及び神経系への外傷)、多発性硬化症及び他の免疫媒介性ニューロパチー(例えばギラン-バレー症候群及びその変形、急性運動軸索ニューロパチー、急性炎症性脱髄ポリニューロパチー、及びフィッシャー症候群)、複合HIV/AID痴呆、アキソノミー(原語:axonomy)、糖尿病性ニューロパチー、パーキンソン病、ハンチントン病、多発性硬化症、細菌性、寄生生物性、真菌性及びウィルス性髄膜炎、脳炎、血管性痴呆、多発梗塞性痴呆、レヴィー小体痴呆、ピックス病などの前頭葉痴呆、皮質下痴呆(例えばハンチントン又は進行性核上麻痺)、限局性皮質性委縮症候群(例えば原発性失語症)、代謝毒性痴呆(例えば慢性甲状腺機能低下症又はB12欠損)並びに感染(例えば梅毒又は慢性髄膜炎)によって引き起こされる痴呆を含む、神経変性疾患及び状態に処置に向けた、ここで開示するプロテアソーム阻害組成物の使用に関する。
【0052】
アルツハイマー病は老人斑及び脳血管へのβ-アミロイドタンパク質(β-AP)の細胞外沈着を特徴とする。β-APは、アミロイドタンパク質前駆体(APP)を由来とする39乃至42アミノ酸のペプチド・フラグメントである。少なくとも3種類のAPPのアイソフォームが公知である(695、751、及び770アミノ酸)。mRNAの選択的スプライシングによってアイソフォームができる;正常なプロセッシングはβ-AP配列の一部に影響を与えることで、β-APの生成を妨げる。プロテアソームによる異常なタンパク質プロセシングは、アルツハイマー脳内のβ-APの豊富度に寄与していると考えられる。ラットでのAPPプロセシング酵素は約10種の異なるサブユニットを含有する (22 kDa-32
kDa)。25 kDa サブユニットは、ヒトマクロペインのβ-サブユニットと同一なX-Gln-Asn-Pro-Met-X-Thr-Gly-Thr-SerのN末端配列を有する (Kojima, S. et al., Fed. Eur. Biochem. Soc., (1992) 304:57-60) 。このAPPプロセシング酵素は Gln15--Lys16
結合で切断するが、カルシウムイオンの存在下ではこの酵素は Met-1--Asp1
結合及びAsp1--Ala2 結合でも切断することで、β-APの細胞外ドメインを遊離させる。
【0053】
従って本発明の局面の一つは、ここで開示するプロテアソーム阻害化合物又は組成物を有効量、対象に投与するステップを含む、アルツハイマー病を処置する方法に関する。このような処置は、β-APプロセシングの速度を低下させるステップと、β-AP斑形成の速度を低下させるステップと、β-AP生成の速度を低下させるステップと、アルツハイマー病の臨床上の兆候を減らすステップとを含む。
【0054】
線維症は、線維芽細胞の過剰増殖性成長を原因とする、線維性結合組織の過剰かつ持続的な形成であり、TGF-βシグナル伝達経路の活性化に関連する。線維症は細胞外マトリックスの広範な沈着を含み、実質的にあらゆる組織内又は複数の異なる組織にわたって起き得る。通常、TGF-β刺激を受けたときに標的遺伝子の転写を活性化する細胞内シグナル伝達タンパク質(Smad)のレベルは、プロテアソーム活性によって調節される (Xu et al., 2000)。しかし、TGF-βシグナル伝達成分の分解加速が、嚢胞性線維症、注入線維症、心内膜心筋線維症、特発性肺線維症、骨髄線維症、後腹膜線維症、進行性塊状線維症、腎原性全身性線維症などの線維症状態で観察されている。線維症にしばしば関連付けられる他の状態には、肝硬変、びまん性実質性肺疾患、精管切除後疼痛症候群、結核、鎌状赤血球貧血及びリウマチ様関節炎がある。本発明の一実施態様はここで解説する組成物を有効量、このような処置を必要とする対象に投与するステップを含む、線維症状態又は線維症関連状態を処置する方法である。
【0055】
火傷の被害者の処置はしばしば線維症が妨げとなる。従って、いくつかの実施態様では、本発明は、火傷を処置するために本阻害剤を局所又は全身投与することに関する。術後の創傷閉鎖にはしばしば醜い瘢痕が伴うが、線維症を阻害することでこれを妨げられる場合がある。従っていくつかの実施態様では、本発明は瘢痕の防止又は低減の方法に関する。
【0056】
TNF-αなどのリポ多糖(LPS)誘導性サイトカインの産生過剰が、敗血症ショックに伴うプロセスにとって中心的だと考えられている。更に、LPSによる細胞活性化の第一段階は、特異的膜受容体へのLPSの結合だということが、広く受け容れられている。20Sプロテアソーム複合体のα-及びβ-サブユニットが、LPS結合タンパク質だと同定されているが、このことは、LPS誘導性シグナル伝達は、敗血症の処置又は防止において重要な治療上のターゲットかも知れないことを示唆している (Qureshi, N. et al., J.
Immun. (2003) 171: 1515-1525) 。従っていくつかの実施態様では、プロテアソーム阻害組成物を、敗血症ショックを防止及び/又は処置するためのTNFα阻害に用いてもよい。
【0057】
虚血症及び再潅流損傷から、身体組織に届く酸素に欠乏がある状態である低酸素症が起きる。この状態はIκ-Bαの分解増加を引き起こすことでNF-κBを活性化させる(Koong et al., 1994)。低酸素症に至るような損傷の重篤度は、プロテアソーム阻害剤投与で低減できることが示されている (Gao et al., 2000; Bao et al., 2001; Pye et
al., 2003)。従って、本発明のいくつかの実施態様は、ここで開示するプロテアソーム阻害化合物を有効量、このような処置を必要とする対象に投与するステップを含む、虚血状態又は再潅流損傷を処置する方法に関する。このような状態又は損傷の例には、限定はしないが、急性冠動脈症候群(脆弱性プラーク)、動脈閉塞性疾患(心臓、脳、末梢動脈及び血管閉塞)、アテローム性硬化症(冠状動脈硬化症、冠状動脈疾患)、梗塞、心不全、膵炎、心筋肥大症、狭窄、及び再狭窄がある。
【0058】
NF-κB はまた、HIVエンサンサー/プロモーターに特異的に結合する。pbj14のHIV調節タンパク質Nefは、mac239のNefに比較すると、タンパク質キナーゼ結合を制御する領域において二つのアミノ酸で異なる。タンパク質キナーゼはIκBのリン酸化のシグナルとなり、ユビキチン-プロテアソーム経路を通じてIκB分解を惹起すると考えられている。分解後、NF-κB は核内へ放出され、こうしてHIVの転写を促進する (Cohen, J., Science, (1995) 267:960)。いくつかの実施態様では、本発明は、それぞれが、ここで開示するプロテアソーム阻害化合物又は組成物を有効量、対象に投与するステップを含む、対象におけるHIV感染を阻害又は減らす方法、あるいは、ウィルス遺伝子の発現レベルを減らす方法に関する。
【0059】
ウィルス感染は数多くの疾患の病理に寄与する。進行中の心筋炎及び拡張型心筋症などの心臓の状態はコックスサッキーウィルスB3に関連付けられている。感染マウス心の相対的全ゲノム・マイクロアレイ解析では、特異的プロテアソームサブユニットが、慢性の心筋炎を発症したマウスの心臓で均一に上方調節されていた (Szalay et
al, Am J Pathol 168:1542-52, 2006)。いくつかのウィルスは、ウィルスがエンドソームから細胞質ゾルへ放出されるウィルス侵入ステップでユビキチン-プロテアソーム系を利用する。マウス肝炎ウィルス (MHV) はコロナウィルス属に属し、この属の中には更に重症急性呼吸症候群 (SARS)コロナウィルスも含まれる。Yu and Lai (J
Virol 79:644-648, 2005) は、MHVに感染した細胞をプロテアソーム阻害剤で処置するとウィルス複製が減少し、非感染細胞に比較したときのウィルス力価の減少と相関していたことを実証した。ヒトB型肝炎ウィルス(HBV)はヘパドナウィルス・ファミリーのメンバーであり、これも同様に、ウィルスに高度されたエンベロープタンパク質を増殖のために必要とする。プロテアソーム分解経路を阻害すると、分泌されるエンベロープタンパク質の量が著しく減少する (Simsek et
al, J Virol 79:12914-12920, 2005)。HBVに加え、他の肝炎ウィルス(A、C、D及びE)も、分泌、形態発生及び病原性にユビキチン-プロテアソーム分解経路を用いているかも知れない。従っていくつかの実施態様では、本発明は、ここで開示する化合物又は組成物を有効量、(対象に投与する)細胞に接触させるステップを含む、SARS又はA型、B型、C型D型及びE型肝炎などのウィルス感染を処置する方法に関する。
【0060】
いくつかの実施態様では、開示された組成物は、プロトゾア寄生生物により引き起こされる感染など、寄生生物感染の処置に有用であろう。これらの寄生生物のプロテアソームは、主に細胞分化及び複製活動に関与すると考えられている (Paugam et
al., Trends Parasitol. 2003, 19(2): 55-59)。更に、体内寄生性アメーバ種は、プロテアソーム阻害剤に暴露させた場合に被嚢能を失うことが示されている (Gonzales,
et al., Arch. Med. Res. 1997, 28, Spec No: 139-140) 。いくつかのこのような実施態様では、プロテアソーム阻害組成物の投与プロトコルが、プラズモディウム種(マラリアを起こすP.ファルシパルム、(原語:P. falciparum)、P.ヴィヴァックス(原語:P. vivax)、P.マラリア(原語:P. malariae)、及びP.オヴァール(原語:P. ovale)を含む)、トリパノゾーマ種(シャガス病を起こすT.クルジ(原語:T. cruzi)、及びアフリカ睡眠病を起こすTブルセイ(原語:T. brucei )を含む)、リーシュマニア種(L.アマゾネシス(原語:L. amazonesis)、L.ドノヴァニ(原語:L. donovani)、L.インファンタム(原語:L. infantum)、L.メキシカーナ(原語:L. mexicana)等々)、ニューモシスティス.カリニー(原語:Pneumocystis
carinii )(AIDS及び他の免疫抑制患者で肺炎を起こすことが公知の原生生物)、トキソプラズマ.ゴンジー(原語:Toxoplasma
gondii)、エントアメーバ.ヒストリティカ(原語:Entamoeba
histolytica)、エントアメーバ.インヴァデンス(原語: Entamoeba
invadens)、及びギアルディア.ランブリア(原語:Giardia
lamblia)から選択されるプロトゾア寄生生物によって引き起こされるヒトの寄生生物感染の処置にとって有用である。いくつかの実施態様では、開示されたプロテアソーム阻害組成物は、プラズモディウム.ヘルマニ(原語:Plasmodium
hermani)、クリプトスポリジウム種、エキノコッカス.グラニュロサス(原語:Echinococcus
granulosus)、エイメリア.テネラ(原語: Eimeria
tenella)、サルコシスティス.ニューロナ(原語:Sarcocystis
neurona)、及びニューロスポラ.クラッサ(原語:Neurospora
crassa)から選択されるプロトゾア寄生生物によって引き起こされる動物及び家畜の寄生生物感染の処置に有用である。 寄生生物性疾患の処置でプロテアソーム阻害剤として作用する他の化合物は、引用をもってその全文をここに援用することとするWO 98/10779に記載されている。
【0061】
いくつかの実施態様では、プロテアソーム阻害組成物は、赤血球及び白血球での修復なしで寄生生物のプロテアソーム活性を阻害する。いくつかの実施態様では、血球半減期が長いことにより、寄生生物への繰り返しの暴露に対する治療法で、保護を長期間、提供できよう。いくつかの実施態様では、プロテアソーム阻害組成物は、将来の感染に対して予防的化学療法を提供するものでもよい。
【0062】
原核生物は、真核生物20Sプロテアソーム粒子に同等なものを有する。原核生物の20S粒子のサブユニットの組成は真核生物のそれよりも簡単であるが、同様な態様でペプチド結合を加水分解する能力を有する。例えば、ペプチド結合への求核性の攻撃はこのβ-サブユニットのN末端にあるスレオニン残基を通じて起きる。このように、この発明の一実施態様は、ここで開示するプロテアソーム阻害化合物又は組成物を有効量、対象に投与するステップを含む、原核生物感染を処置する方法に関する。原核生物感染には、マイコバクテリア(例えば結核、らい病又はブルーリ潰瘍など)又は原始細菌によって引き起こされる疾患が含まれるであろう。
【0063】
20Sプロテアソームに結合する阻害剤は骨器官培養物中で骨形成を刺激することも示されている。更に、このような阻害剤をマウスに全身投与したとき、いくつかのプロテアソーム阻害剤は骨体積及び骨形成速度を70%を超えて増加させた(Garrett, I.
R. et al., J. Clin. Invest. (2003)
111: 1771-1782)ことから、ユビキチン-プロテアソーム機序は骨芽細胞分化及び骨形成を調節していることが示唆された。従って、開示するプロテアソーム阻害化合物又は組成物は、骨粗鬆症など、骨の消失に関連する疾患の処置及び/又は防止において有用であろう。
【0064】
よっていくつかの実施態様では、本発明は、ここで開示する化合物又は組成物を投与するステップを含む、癌、自己免疫疾患、移植片又は移植体関連状態、神経変性疾患、線維症関連状態、虚血関連状態、感染(ウィルス、寄生生物又は原核生物)、並びに骨の消失に関連する疾患から選択される疾患又は状態を処置する方法に関する。
【0065】
結晶トリペプチドエポキシケトンの投与
ここで解説する通りに調製された化合物は、当業で公知の通り、処置しようとする障害に応じて、そして患者の年齢、状態及び体重に応じて、様々な形を採ることができる。例えば、当該化合物を経口投与する場合、これらを錠剤、カプセル、顆粒、粉末、又はシロップとして調合してもよく、非経口投与の場合には、これらの注射(静脈内、筋肉内、又は皮下)、点滴製剤、又は座薬として調合してもよい。眼粘膜経路による適用の場合、これらの目薬又は眼用軟膏として調合してもよい。これらの調合物は従来の手段によって調製することができ、そして必要であれば、活性成分を、例えば結合剤、崩壊剤、潤滑剤、矯正薬、可溶化剤、懸濁補助剤、乳濁剤、コーティング剤、シクロデキストリン、及び/又は緩衝剤などの従来のいずれかの添加剤又は医薬品添加物と混合してもよい。投薬量は患者の症状、年齢及び体重、処置又は防止しようとする障害の性質及び重篤度、投与経路並びに剤形に応じて様々であろうが、一般的には、一日当たり0.01 から 2000 mgの化合物が成人のヒトの患者には推奨され、またこれを一回分の用量又は分割した用量で投与してもよい。一回分の剤形を作製するために担体材料と混合することのできる活性成分量は、一般的には、治療効果を生じる化合物量であろう。
【0066】
ある患者において処置の効験という点で最も有効な結果を生じるであろう組成物の正確な投与時間及び/又は量は、特定の化合物の活性、薬物動態、及び生物学的利用能、患者の生理学的状態(年齢、性別、疾患の種類及び段階、全身の健康状態、投薬への応答性、及び医薬の種類を含む)、投与経路等に応じるであろう。しかしながら、上記の指針は、例えば投与の最適な時間及び/又は量を決定するなど、処置を微調整するための基盤として用いることができ、それには、対象を観察するステップと、投薬量及び/又は時期を調節するステップとから成る慣例的な実験を要するのみであろう。
【0067】
文言「薬学的に許容可能な」とは、ここでは、健全な医学的判断の範囲内にあり、妥当な利益/リスク比に見合いつつ、過剰な毒性、刺激、アレルギー性応答、又は他の問題もしくは合併症を起こさずにヒト及び動物の組織と接触させて使用するのに適したリガンド、物質、組成物、及び/又は剤形を言うために用いられている。
【0068】
ここで用いられる場合の文言「薬学的に許容可能な担体」とは、例えば液体又は固体の充填剤、希釈剤、医薬品添加物、溶媒又は封入剤など、薬学的に許容可能な物質、組成物、又は賦形剤を意味する。各担体は、調合物の他の成分にとって適合性があり、かつ、患者にとって有害でないという意味において「許容可能」でなければならない。薬学的に許容可能な担体として役立てることのできる物質のいくつかの例には:(1)乳糖、ブドウ糖、及びショ糖などの糖類;(2)コーンスターチ、いもでんぷん、及び置換もしくは非置換のβ-シクロデキストリンなどのでんぷん;(3)セルロース、及び、カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース、及び酢酸セルロースなどのその誘導体;(4)粉末トラガカント;(5)麦芽;(6)ゼラチン;(7)タルク;(8)ココアバター及び座薬用ろうなどの医薬品添加物;(9)ピーナッツ油、綿実油、ベニバナ油、ゴマ油、オリーブ油、コーン油、及び大豆油などの油類;(10)プロピレングリコールなどのグリコール;(11)グリセリン、ソルビトール、マンニトール、及びポリエチレングリコールなどのポリオール;(12)酢酸エチル及びラウリル酸エチルなどのエステル;(13)寒天;(14)水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウムなどの緩衝剤;(15)アルギン酸;(16)無発熱源水;(17)等張生理食塩水;(18)リンガー液;(19)エチルアルコール;(20)リン酸緩衝溶液;及び(21)医薬調合物中に用いられる他の非毒性の適合性物質、がある。いくつかの実施態様では、本発明の医薬組成物は非発熱源性であり、即ち、患者に投与されたときに著しい温度上昇を誘導しない。
【0069】
用語「薬学的に許容可能な塩」とは、阻害剤の比較的に非毒性の、無機及び有機酸添加塩を言う。これらの塩は、阻害剤の最終的な単離及び精製中にin situで調製することも、あるいは、精製済みの阻害剤を遊離塩基形のままで適した有機もしくは無機酸に別々に反応させ、こうして形成された塩を単離することにより調製することもできる。代表的な塩には、臭化水素酸塩、塩酸塩、硫酸塩、重硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、酢酸塩、吉草酸塩、オレイン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、ラウリン酸塩、安息香酸塩、乳酸塩、リン酸塩、トシル酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、ナフチル酸塩、メシル酸塩、グルコヘプトン酸塩、ラクトビオネート、ラウリルスルホン酸塩、及びアミノ酸塩等々がある。(例えばBerge et al.
(1977) “Pharmaceutical Salts”, J. Pharm. Sci. 66: 1-19.を参照されたい)。
【0070】
他の場合、本発明の方法で有用な阻害剤は、一種以上の酸性官能基を含んでもよく、従って薬学的に許容可能な塩基と一緒に薬学的に許容可能な塩を形成することができる。これらの場合の用語「薬学的に許容可能な塩」とは、阻害剤の比較的に非毒性の無機及び有機塩基添加塩を言う。これらの塩も同様に、阻害剤の最終的な単離及び精製中にin situで調製することも、あるいは、精製済みの阻害剤を遊離酸形のままで適した塩基、例えば薬学的に許容可能な金属陽イオンの水酸化物、炭酸化物、又は重炭酸化物、アンモニア、に、又は薬学的に許容可能な有機一級、二級、又は三級アミン、に別々に反応させることにより調製することもできる。代表的なアルカリ又はアルカリ土類塩には、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、及びアルミニウム塩等がある。塩基添加塩の形成に有用な代表的有機アミンには、エチルアミン、ジエチルアミン、エチレンジアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、ピペラジン等がある(例えば上記のBerge et al.を参照されたい)。
【0071】
ラウリル硫酸ナトリウム及びステアリン酸マグネシウムなどの湿潤剤、乳濁剤、及び潤滑剤や、着色剤、剥離剤、コーティング剤、甘味料、着香料及び香料、保存剤、及び抗酸化剤も、本組成物中にあってよい。
【0072】
薬学的に許容可能な抗酸化剤の例には;(1)水溶性の抗酸化剤、例えばアスコルビン酸、塩酸システイン、亜硫酸水素ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム等;(2)油溶性の抗酸化剤、例えばアスコルビン酸パルミテート、ブチル化ヒドロキシアニソール (BHA)、ブチル化ヒドロキシトルエン (BHT)、レシチン、没食子酸プロピル、アルファ-トコフェロール等;(3)金属キレート剤、例えばクエン酸、エチレンジアミン四酢酸 (EDTA)、ソルビトール、酒石酸、リン酸等、がある。
【0073】
経口投与に適した調合物は、カプセル、カシェ剤、丸剤、錠剤、ロゼンジ(通常はショ糖及びアカシアゴム又はトラガカントゴムである、着香した基剤を用いて)、粉末、顆粒の形であってよく、あるいは、水性又は非水性の液体に溶かした溶液又は懸濁液として、あるいは水中油又は油中水の液体乳濁液として、あるいはエリキシル又はシロップとして、あるいは、香錠(ゼラチン及びグリセリン、又はショ糖及びアカシアゴムなどの不活性のマトリックスを用いて)として、及び/又は、口内洗浄剤としてなど、それぞれ所定量の阻害剤を活性成分として含有する形にしてもよい。更に組成物を巨丸剤、舐剤、又はペーストとして投与してもよい。
【0074】
経口投与用の固体剤形(カプセル、錠剤、丸剤、糖衣錠、粉末、顆粒等)の場合、活性成分を、クエン酸ナトリウム又はリン酸二カルシウムなどの一種以上の薬学的に許容可能な担体、及び/又は、以下のうちのいずれかと混合してもよい:(1)充填剤又は増量剤、例えばでんぷん、シクロデキストリン、乳糖、ショ糖、ブドウ糖、マンニトール、及び/又は珪酸;(2)結合剤、例えばカルボキシメチルセルロース、アルギン酸塩、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、ショ糖、及び/又は、アカシアゴム;(3)湿潤剤、例えばグリセロール;(4)崩壊剤、例えば寒天、炭酸カルシウム、いも又はタピオカでんぷん、アルギン酸、特定の珪酸塩、及び炭酸ナトリウム;(5)パラフィンなどの溶解遅延剤;(6)四級アンモニウム化合物などの吸収加速剤;(7)例えばアセチルアルコール及びものステアリン酸グリセロールなどの湿潤剤;(8)カオリン及びベントナイト・クレイなどの吸収剤;(9)潤滑剤、例えばタルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固形ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム、及びこれらの混合物;並びに(10)着色剤。カプセル、錠剤、及び丸剤の場合、医薬組成物は更に緩衝剤を含んでもよい。同一の種類の固形組成物も、乳糖又は乳糖などの医薬品添加物や、高分子量ポリエチレングリコールなどを用いて軟質及び硬質の充填ゼラチン・カプセル中の充填剤として用いてよい。いくつかの実施態様では、結晶トリペプチドエポキシケトンをカプセルとして哺乳動物に投与する。別の実施態様では、結晶トリペプチドエポキシケトンは式(I)の化合物である。あるより好適な実施態様では、結晶トリペプチドエポキシケトンは式(II)の化合物である。
【0075】
錠剤は、圧縮又は成型により、一種以上の付属成分と一緒に作成してよい。圧縮錠剤は結合剤(例えばゼラチン又はヒドロキシプロピルメチルセルロース)、潤滑剤、不活性の希釈剤、保存剤、崩壊剤(例えばでんぷんグリコール酸ナトリウム又は架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム)、界面活性剤又は分散剤を用いて調製できよう。成型錠剤は不活性の液体希釈剤で湿らせた粉末状の阻害剤の混合物を適した機械で成型することにより、作成できよう。
【0076】
錠剤や、例えば糖衣錠、カプセル、丸剤及び顆粒などの他の固形剤形は、選択に応じ、切り目を入れたり、腸溶コーティング及び薬剤調合業で公知の他のコーティングなど、コーティング及びシェル剤と一緒に調製したりしてもよい。更にこれらは、所望の放出曲線を提供するために様々な比率にしたヒドロキシプロピルメチルセルロース、他のポリマーマトリックス、リポソーム、及び/又はマイクロスフィアなどを用いて、中の活性成分の放出を遅くしたり、あるいは制御できるように調合したりしてもよい。これらは、例えば細菌保持フィルターを通したろ過などで滅菌したり、あるいは、無菌水や他の無菌の注射可能な媒質中に使用直前に溶解させることのできる無菌の固形組成物の形の滅菌剤を導入することにより、滅菌したりしてもよい。これらの組成物はさらに選択的に不透明剤を含有してもよく、また、活性成分のみを放出する、又は、胃腸管の特定の部分で優先的に、選択によっては遅れて放出する、組成物であってもよい。使用することのできる包埋組成物の例にはポリマー物質及びろうがある。更に活性成分は、適当であれば上述した医薬品添加物のうちの一種以上と一緒に、マイクロ被包型であってもよい。
【0077】
経口投与用の液体剤形には、薬学的に許容可能な乳液、マイクロ乳液、溶液、懸濁液、シロップ及びエリキシルがある。活性成分に加え、例えば水又は他の溶媒、可溶化剤、及び乳濁剤、例えばエチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、油類(特に綿実油、落花生油、コーン油、胚芽油、オリーブ油、ひまし油、ごま油)、グリセロール、テトラヒドロフリルアルコール、ポリエチレングリコール、及びソルビタンの脂肪酸エステル、並びにこれらの混合物など、当業で通常用いられる不活性の希釈剤を含めてもよい。
【0078】
不活性の希釈剤のほかに、経口用組成物には更に、湿潤剤、乳濁剤及び懸濁剤などのアジュバント、甘味料、着香料、着色剤、芳香剤及び保存剤も含めることができる。
【0079】
活性阻害剤に加え、懸濁液には、例えばエトキシル化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトール及びソルビタンエステル、微結晶セルロース、メタ水酸化アルミニウム、ベントナイト、寒天及びトラガカント、並びにこれらの混合物などの懸濁剤を含有させてもよい。
【0080】
直腸又は膣投与に向けた調合物は、座薬として提供してもよく、この座薬は、室温では固体であるが体温では液体であるため直腸又は膣腔内では融解して活性物質を放出するような、例えばココアバター、ポリエチレングリコール、座薬用ろう又はサリチル酸などを含む一種以上の適した非刺激性医薬品添加物又は担体に、一種以上の阻害剤を混合することにより、調製できよう。
【0081】
膣内投与に適した調合物には、更に、ペッサリー、タンポン、クリーム、ゲル、ペースト、フォーム、又は、当業において適切であることが公知の担体を含有するスプレー調合物もある。
【0082】
阻害剤の局所又は経皮投与用の剤形には、粉末、スプレー、軟膏、ペースト、クリーム、ローション、ゲル、溶液、パッチ、及び吸入剤がある。活性成分を、薬学的に許容可能な担体、そして必要にかも知れないいずれかの保存剤、緩衝剤、または推進薬と、無菌条件下で混合してもよい。
【0083】
軟膏、ペースト、クリーム及びゲルは、阻害剤に加え、例えば動物及び植物性脂肪、油、ろう、パラフィン、でんぷん、トラガカント、セルロース誘導体、ポリエチレングリコール、シリコーン、ベントナイト、珪酸、タルク、及び酸化亜鉛、あるいはこれらの混合物などの医薬品添加物を含んでもよい。
【0084】
粉末及びスプレーには、阻害剤に加え、乳糖、タルク、珪酸、水酸化アルミニウム、珪酸カルシウム、及びポリアミド粉末、あるいはこれらの混合物などの医薬品添加物を加えることができる。スプレーには更に、例えばクロロフルオロカーボン及びブタンプロパンなどの揮発性の非置換炭化水素など、従来の推進薬を含めることができる。
【0085】
阻害剤は代替的にはエーロゾルで投与することもできる。これは、本組成物を含有する水性のエーロゾル、リポソーム性製剤、又は固形粒子を調製することにより、達成される。非水性の(例えばフルオロカーボンの推進薬)懸濁液も用いることができよう。当該化合物の分解を引き起こしかねないせん断力への薬剤の暴露が抑えられるため、音波ネブライザーが好ましい。通常、水性のエーロゾルは、従来の薬学的に許容可能な担体及び安定化剤と一緒に薬剤の水溶液又は懸濁液を調合することによって作製される。担体及び安定化剤は、特定の組成物の要件によって異なるであろうが、典型的にはその中には、非イオン性の界面活性剤(トゥイーン、プルロニックス、ソルビタンエステル、レシチン、クレモフォル)、薬学的に許容可能な共溶媒、例えばポリエチレングリコール、活性アルブミンなどの無害のタンパク質、オレイン酸、グリシンなどのアミノ酸、緩衝液、塩類、糖類、又は糖アルコールがある。エーロゾルは一般に等張液から調製される。
【0086】
経皮パッチは、阻害剤の身体の制御された送達を提供するという付加的な利点を有する。このような剤形は、適した溶媒に薬剤を溶解又は分散させることにより、作製することができる。吸収促進剤を用いて、皮膚を横切る阻害剤のフラックスを増すこともできる。このようなフラックスの速度は、速度制御メンブレンを設けるか、あるいは、ポリマーマトリックス又はゲル中に阻害剤を分散させ得ることにより、制御することができる。
【0087】
非経口投与に適した本発明の医薬組成物は、一種以上の阻害剤を、一種以上の薬学的に許容可能な無菌の水性又は非水性溶液、分散液、懸濁液又は乳濁液と組み合わせて、あるいは、使用直前に無菌に注射可能な溶液又は分散液に再構築してもよい無菌粉末と組み合わせて、含み、その中には、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、目的のレシピエントの血液又は懸濁剤もしくは増粘剤と調合物を等張にする溶質を含めてもよい。
【0088】
本発明の医薬組成物中に用いてもよい適した水性及び非水性の担体の例には、水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)、及びこれらの適した混合物、オリーブ油などの植物油、並びにオレイン酸エチルなどの注射可能な有機エステルがある。適した流動性は、例えばレシチンなどのコーティング材料を用いたり、分散液の場合には必要な粒子サイズを維持したり、そして界面活性剤を用いるなどして、維持することができる。
【0089】
これらの組成物には更に、保存剤、湿潤剤、乳濁剤及び分散剤などのアジュバントも含めてよい。微生物の活動を防ぐには、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール粗ルビン酸等の多様な抗菌剤及び抗カビ剤を含めることで確実にできよう。更に、糖類、塩化ナトリウム等の張性調節剤を組成物中に含めることも好ましいであろう。加えて、注射可能な薬剤型の吸収を長引かせるには、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンなど、吸収を遅らせる物質を含めることにより行ってもよい。
【0090】
場合によっては、薬物の効果を長引かせるために、皮下又は筋肉内注射からの薬物の吸収を遅らせることが好ましい。例えば非経口投与された薬物型の吸収を遅らせるには、油性賦形剤中に薬物を溶解又は懸濁させることにより、達成される。
【0091】
注射可能なデポー型はポリラクチド-ポリグリコリドなどの生分解性のポリマー中に阻害剤のマイクロカプセル・マトリックスを形成することによって作製される。薬物対ポリマーの比、そして用いる特定のポリマーの性質に応じて、薬物放出速度を制御することができる。他の生分解性のポリマーの例にはポリ(オルトエステル)及びポリ(無水物)がある。デポー型の注射用調合物はまた、身体組織と適合性あるリポソーム又はマイクロ乳濁液中に薬物を捕獲することによっても調製される。
【0092】
薬剤の製剤は経口、非経口、局所、又は直腸によって投与されてもよい。これらはもちろん、各投与経路に適した形で投与される。例えば、これらは錠剤又はカプセル型、注射、吸入、眼用ローション、軟膏、座薬、輸注によって投与されたり;ローション又は軟膏によって局所投与されたり;座薬によって直腸投与されたりする。経口投与が好ましい。
【0093】
ここで用いられる場合の文言「非経口投与」及び「非経口投与する」とは通常、限定はしないが、静脈内、筋肉内、動脈内、鞘内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、被膜下、くも膜下、脊髄内及び胸骨内注射及び輸注を含む、注射による腸管及び局所投与以外の投与形態を意味する。
【0094】
ここで用いられる場合の文言「全身投与」、「全身投与する」、「末梢投与」、及び「末梢投与する」とは、例えば皮下投与など、患者の全身に入り、代謝等のプロセスに合うようにリガンド、薬物、又は他の物質を、中枢神経系に直接投与する以外の方法で投与することを意味する。
【0095】
これらの阻害剤は、経口、スプレーなどによる鼻腔、直腸、膣内、非経口、槽内、及び、バッカル剤及び舌下剤を含む粉末、軟膏又は滴剤などによる局所などを含め、いずれかの適した投与経路により、治療に向けてヒト及び他の動物に投与できよう。
【0096】
選択された投与経路に関係なく、適した水和型及び/又は本発明の医薬組成物で用いてもよい阻害剤は、当業者に公知の従来の方法により、薬学的に許容可能な剤形に調合される。
【0097】
本発明の医薬組成物中の活性成分の実際の投薬レベルは、患者にとって毒性となることなく、特定の患者、組成物、及び投与形態にとって所望の治療的応答を達成するのに有効な活性成分量が得られるよう、変更してもよい。
【0098】
薬学的に許容可能な混合物中の開示された化合物の濃度は、投与しようとする化合物の投薬量、用いる化合物の薬物動態上の特徴、及び投与経路を含め、複数の因子に応じて異なるであろう。一般的には、本発明の組成物は、非経口投与の場合、他の物質の中でもここで開示した化合物を約0.1-10% w/v 含有する水溶液の形で提供されよう。典型的な投薬範囲は、1乃至4回分に分割された用量で、一日当たり体重1キログラム当たり約0.01乃至約50 mg/kgである。各分割された用量は、本発明の同じ又は異なる化合物を含有していてもよい。投薬量は、患者の全体的健康、調合物、及び選択された化合物の投与経路を含め、複数の因子に応じた有効量となるであろう。
【0099】
定義
用語「Cx-yアルキル」とは、トリフルオロメチル及び2,2,2,-トリフルオロエチル等などのハロアルキル基を含め、x乃至y個の炭素を鎖内に含有する直鎖アルキル及び分枝アルキル基を含む置換もしくは非置換の飽和炭化水素基を言う。C0アルキルとは、この基が末端位置にある場合には水素を差し、内側であれば結合を差す。用語「C2-yアルケニル」及び「C2-yアルキニル」とは、上述のアルキル基に長さ及び可能な置換の点で類似であるが、それぞれすっくなくとも一つの二重又は三重結合を含有する置換もしくは非置換の不飽和脂肪族の基を言う。
【0100】
用語「アルコキシ」とは、酸素を付着させて有するアルキル基を言う。代表的なアルコキシ基には、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、tert-ブトキシ等がある。「エーテル」とは、酸素によって共有結合的に連結された二つの炭化水素である。従って、アルキルをエーテルにするようなアルキルの置換基は、アルコキシであるか、又はアルコキシに似ている。
【0101】
用語「C1-6アルコキシアルキル」とは、アルコキシ基で置換されることでエーテルを形成しているC1-6アルキル基である。
【0102】
用語「C1-6アラルキル」とは、ここで用いられる場合、アリール基で置換された C1-6アルキル基を言う。
【0103】
用語「アミン」及び「アミノ」は当業で公知であり、一般式:
【0104】
【化7】

【0105】
で表すことのできる部分など、非置換及び置換アミンの両者及びその塩を言い、この場合のR9、R10 及びR10’ はそれぞれ独立に水素、アルキル、アルケニル、- (CH2)m-R8を表し、あるいはR9 及びR10 はこれらが結合したN原子と一緒になって環構造内に4乃至8個のヘテロ原子を有する複素環を完成し;R8 はアリール、シクロアルキル、シクロアルケニル、ヘテロシクリル又はポリシクリルを表し;そしてm はゼロ又は1乃至8の整数である。好適な実施態様では、R9 又はR10 の一方のみがカルボニルであってよく、例えば R9、R10、及び窒素は一緒になってイミドを形成しない。更により好適な実施態様では、R9 及びR10 (及び選択的にR10’)はそれぞれ独立に水素、アルキル、アルケニル、又は- (CH2)m-R8を表す。いくつかの実施態様では、当該のアミノ基は塩基性であり、つまりそのプロトン化型は7.00以上のpKa を有する。
【0106】
用語「アミド」及び「アミド」は当業ではアミノ置換カルボニルとして公知であり、その中には一般式:
【0107】
【化8】

【0108】
で表すことのできる部分が含まれ、但しこの場合のR9、R10 は上に定義した通りである。アミドの好適な実施態様には、不安定な可能性のあるイミドは含まれないであろう。
【0109】
用語「アリール」はここで用いられる場合、環の各原子が炭素であるような5−、6−、及び7−員環の置換もしくは非置換単一環芳香族基を含む。用語「アリール」には更に、環のうちの少なくとも一つが芳香族であり、例えば他方の環状の環がシクロアルキル、シクロアルケニル、シクロアルキニル、アリール、ヘテロアリール、及び/又はヘテロシクリルであるなど、二つ以上の炭素が二つの隣接する環に共通である、二つ以上の環を有する多環式の環系も含まれる。アリール基にはベンゼン、ナフタレン、フェナントレン、フェノール、アニリン等が含まれる。
【0110】
用語「炭素環」及び「カルボシクリル」はここで用いられる場合、環の各原子が炭素である非芳香族の置換もしくは非置換の環を言う。用語「炭素環」及び「カルボシクリル」には、環のうちの少なくとも一つが炭素環であり、例えば他方の環状の環がシクロアルキル、シクロアルケニル、シクロアルキニル、アリール、ヘテロアリール、及び/又はヘテロシクリルであるなど、二つ以上の炭素が二つの隣接する環に共通である、二つ以上の環を有する多環式の環系も含まれる。
【0111】
用語「カルボニル」は当業で公知であり、その中には一般式:
【0112】
【化9】

【0113】
で表すことのできる部分が含まれ、但しこの場合X は結合であるか、又は酸素もしくは硫黄を表し、そしてR11 は水素、アルキル、アルケニル、-(CH2)m-R8 又は薬学的に許容可能な塩を表し、R11’ は水素、アルキル、アルケニル又は-(CH2)m-R8を表し、但しこの場合、式中の m 及びR8 は上に定義した通りである。Xが酸素であり、R11又はR11’ が水素でない場合、該式は「エステル」を表す。Xが酸素であり、R11 が水素である場合、該式は「カルボン酸」を表す。
【0114】
用語「ヘテロアリール」には、環構造が一個乃至4個のヘテロ原子を含むような置換もしくは非置換の芳香族の5−乃至7−員環の環構造、より好ましくは 5−乃至6−員環が含まれる。用語「ヘテロアリール」には更に、環のうちの少なくとも一つがヘテロ芳香族であり、例えば他方の環状の環がシクロアルキル、シクロアルケニル、シクロアルキニル、アリール、ヘテロアリール、及び/又はヘテロシクリルであるなど、二つ以上の炭素が二つの隣接する環に共通である、二つ以上の環を有する多環式の環系も含まれる。ヘテロアリールには、例えばピロール、フラン、チオフェン、イミダゾール、イソキサゾール、オキサゾール、チアゾール、トリアゾール、ピラゾール、ピリジン、ピラジン、ピリダジン及びピリミジン等が含まれる。
【0115】
用語「ヘテロ原子」は、ここで用いられる場合、炭素又は水素以外のいずれかの元素の原子を意味する。好適なヘテロ原子は窒素、酸素、リン、及び硫黄である。
【0116】
用語「ヘテロシクリル」又は「ヘテロ環基」とは、環構造が1個乃至4個のヘテロ原子を含むような置換もしくは非置換の非法構造の3−乃至10−員環構造、より好ましくは3−乃至7−員環を言う。用語「ヘテロシクリル」又は「ヘテロ環基」には更に、環のうちの少なくとも一つがヘテロ環式であり、例えば他方の環はシクロアルキル、シクロアルケニル、シクロアルキニル、アリール、ヘテロアリール、及び/又はヘテロシクリルであってよいような、2つ以上の炭素が2つの隣接する環に共通である、2つ以上の環を有する多環式の系も含まれる。ヘテロシクリル基には、例えばテトラヒドロフラン、ピペリジン、ピペラジン、ピロリジン、モルホリン、ラクトン、ラクタム等がある。
【0117】
用語「C1-6ヘテロシクロアルキル」は、ここで用いられる場合、ヘテロシクリル基で置換されたC1-6アルキル基を言う。
【0118】
用語「C1-6ヒドロキシアルキル」とは、ヒドロキシ基で置換されたC1-6アルキル基を言う。
【0119】
ここで用いられる場合の用語「阻害剤」は、(例えばsuc-LLVY-AMC、Box-LLR-AMC及びZ-LLE-AMCなどの標準的な蛍光発生性ペプチド基質のタンパク質分解による切断の阻害、20Sプロテアソームの多様な触媒活性の阻害)酵素の活性を遮断又は低下させる化合物を述べることを意図している。阻害剤は、競合的、不競合的、又は非競合的に作用することができる。阻害剤は可逆的又は非可逆的に結合し得るため、従ってこの用語には、酵素の自殺基質である化合物も含まれる。阻害剤は酵素の一つ以上の部位又は活性部位近傍で修飾することができるか、酵素の他の場所でコンホメーション上の変化を引き起こすことができる。
【0120】
ここで用いられる場合の用語「経口的に生物学的利用能がある」とは、マウスに40
mg/kg以下、20
mg/kg 以下、又は更には10
mg/kg以下の化合物が投与されたとき、投与から1時間後にはこのような化合物が血中のプロテアソームCT-L活性の少なくとも約50%、少なくとも約75%又は更には少なくとも約90%の阻害を示すことを述べることを意図したものである。
【0121】
ここで用いられる場合の用語「ペプチド」には、標準的なα-置換基を持つ標準的なアミド結合だけでなく、後述するように、通常用いられるペプチドミメティック、他の修飾された結合、非天然発生型の側鎖、及び側鎖修飾を持つものが含まれる。
【0122】
用語「ポリシクリル」又は「多環式」とは、例えば環同士が「縮合環」であるなど、二つ以上の炭素が二つの隣接する環に共通であるような二つ以上の環(例えばシクロアルキル、シクロアルケニル、シクロアルキニル、アリール、ヘテロアリール、及び/又はヘテロシクリル)を言う。多環の環のそれぞれは置換してあっても、又は非置換のままでもよい。
【0123】
用語「プロテアソーム」はここで用いられる場合、イムノ−及び構成的なプロテアソームを含むことが意図されている。
【0124】
用語「実質的に純粋な」は、ここで用いられる場合、対応する非晶形の化合物を含め、いずれか他の化合物を10%未満含有することを意味する、90%の純度を超える結晶質の多形を言う。好ましくは、結晶質の多形は95%を超える純度、又は更に98%を超える純度であるとよい。
【0125】
用語「妨げる」は当業で公知であり、例えば局所的な再発(例えば疼痛)、癌などの疾患、心不全などの複合症候群、又はいずれか他の医学的状態など、ある状態との関連で用いられる場合、当業でよく知られており、その中には、当該組成物を投与されていない対象に比較して、対象における医学的状態の頻度を軽減する、発症を遅らす、症状を軽減する組成物の投与が含まれる。このように、癌の防止には、例えば統計的及び/又は臨床上有意な量において、例えば未処置のコントロール集団に比較して予防処置を受けた患者集団における検出可能な癌の成長数を低下させること、及び/又は、未処置のコントロール集団に対して処置集団における検出可能な癌の成長の出現を遅らせること、が含まれる。感染の防止には、例えば未処置のコントロール集団に比較したときに処置集団において感染の診断数を低下させること、及び/又は、未処置のコントロール集団に比較して処置集団における感染の症状発症を遅らせること、が含まれる。疼痛の防止には、例えば、未処置のコントロール集団に比較して処置集団中に対象が経験する疼痛感覚の規模を軽減させる、あるいは代替的には疼痛感覚を遅らせること、が含まれる。
【0126】
用語「プロドラッグ」は、生理条件下で治療上活性な物質に転化する化合物を包含する。プロドラッグの通常の作製法は、生理条件下で加水分解して所望の分子が剥き出しになるような選択された部分を含める方法である。他の実施態様では、プロドラッグはホスト動物の酵素活性によって転化する。
【0127】
用語「治療的又は治療的な」処置は当業で公知であり、その中には、当該組成物のうちの一種以上をホストに投与することが含まれる。望ましくない状態(例えばホスト動物の疾患又は他の望ましくない状態)の臨床上の発現前に投与されるのであれば、その処置は予防的であり(即ち、望ましくない状態の発症からホストを防御する)、他方、望ましくない状態の発症後に投与されるのであれば、その処置は治療的(即ち、既存の望ましくない状態又はその副作用を軽減する、緩和する、又は安定化させることを意図している)である。
【0128】
用語「プロテアソーム」は、ここで用いられる場合、イムノ−及び構成的プロテアソームを含むことを意図している。
【0129】
用語「置換された」とは、置換基が、骨格の一つ以上の炭素に付いた水素を置換している部分を言う。「置換」又は「で置換された」には、このような置換が、置換を受けた原子と置換基の許容電荷に従ったものであり、その置換の結果、例えば再配列、環化、除去等の変化を自発的には行わないなどの安定な化合物ができるという暗黙の前提が含まれるものと理解されよう。ここで用いられる場合の用語「置換された」は、有機化合物のあらゆる許容可能な置換基を含むと考察されている。広い意味では、許容可能な置換基には、有機化合物の非環式及び環式、分枝状及び非分枝状、炭素環式及び複素環式、芳香族及び非芳香族の置換基が含まれる。適した有機化合物にとっては、許容可能な置換基は一種以上でも、同じ又は異なっていてもよい。本発明の目的のために、窒素などのヘテロ原子は、ヘテロ原子の電荷を満たす、水素置換基、及び/又は、ここで解説する有機化合物のいずれかの許容可能な置換基を有していてもよい。置換基には、例えばハロゲン、ヒドロキシル、カルボニル(例えばカルボキシル、アルコキシカルボニル、ホルミル、又はアシル)、チオカルボニル(例えばチオエステル、チオアセテート、又はチオホルメート)、アルコキシル、ホスホリル、ホスフェート、ホスホネート、ホスフィネート、アミノ、アミド、アミジン、イミン、シアノ、ニトロ、アジド、スルフヒドリル、アルキルチオ、スルフェート、スルホネート、スルファモイル、スルホンアミド、スルフォニル、ヘテロシクリル、アラルキル、又は芳香族もしくはヘテロ芳香族の部分を含めることができる。当業者であれば、炭化水素鎖上で置換される部分はそれ自体、適当であれば置換され得ることは理解されよう。
【0130】
当該の処置法について、ある化合物の「治療上有効量」とは、所望の投薬計画の一部として(哺乳動物、好ましくはヒト)に投与された場合に、例えばいずれかの医学的処置に適用される妥当な利益/リスク比でなど、処置しようとする障害又は状態あるいは美容目的にとって臨床上許容可能な標準に従って、症状を軽減する、状態を改善する、又は疾患状態の発症を遅らせる化合物量を言う。
【0131】
用語「チオエーテル」とは、硫黄部分をそれに付着させて有する、上に定義した通りのアルキル基を言う。好適な実施態様では、「チオエーテル」は-S-アルキルで表される。代表的なチオエーテル基にはメチルチオ、エチルチオ等がある。
【0132】
ここで用いられる場合の用語「処置する」又は「処置」には、対象の状態を向上させる又は安定化する態様で、ある状態の症状、臨床上の兆候、及び基礎病理を逆行させる、低減する、又は停止させることが含まれる。
【実施例1】
【0133】
実施例
実施例1
化合物1の合成
【0134】
【化10】

【0135】
(A)の合成
0 °Cの N-Boc セリン(メチルエーテル) (43.8 g、200 mmol)、トリエチルアミン (26.5 g、260 mmol) 及び4-(ジメチルアミノ)ピリジンのジクロロメタン(1.2 L) 溶液をクロロギ酸ベンジル (41 g、240 mmol)のジクロロメタン (250 mL) 溶液に30分間かけて加えた。できた混合液を同じ温度で更に3時間、撹拌した。飽和させた水性の重炭酸ナトリウム (200 mL) を加え、有機層を分離し、残った残渣混合液をジクロロメタン (2 x 400 mL)で抽出した。混合した有機層を飽和させた重炭酸ナトリウム (200 mL) 及びブライン (200 mL)で洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥させ、セライト-545を通してろ過した。減圧下で溶媒を取り除き、残渣をフラッシュ・クロマトグラフィー(シリカゲル、ヘキサン及び酢酸エチル)で精製した。 化合物(A) (54 g) を単離し、LC/MS (LRMS(MH) m/z:
310.16)で特徴付けた。
【0136】
(B)の合成
0℃の化合物(A)(54 g) のジクロロメタン (200 mL) 溶液をトリフルオロ酢酸 (200 mL) に10分間かけて加え、できた混合液を同じ温度で更に3時間、撹拌した。減圧下で溶媒を取り除き、残渣を高真空下に一晩置き、化合物(B)のTFA塩を生じさせ、LC/MS (LRMS (MH) m/z:
210.11)で特徴付けた。
【0137】
(C)の合成
0℃の化合物(B)(43.8 g、200 mmol)、N-Boc セリン(メチルエーテル) (36.7 g、167 mmol)、HOBT (27 g、200 mmol) 及びHBTU (71.4 g、200 mmol)のテトラヒドロフラン (1.2 L) 溶液に、N,N-ジエチルイソプロピルアミン (75 g、600 mmol) のテトラヒドロフラン (250 mL) 溶液を10分間かけて加えると、できた混合液のpHは最高で8だった。この混合液を室温で更に5時間、撹拌した。室温の減圧下で溶媒の大半を取り除き、飽和させた重炭酸ナトリウム水溶液 (400 mL)で希釈した。次にそれを 酢酸エチル (3 x 400 mL)で抽出し、重炭酸ナトリウム (100 mL) 及びブライン (100 mL)で洗浄した。混合した有機層を硫酸ナトリウム上で乾燥させ。セライト-545を通してろ過した。溶媒を減圧下で取り除き、残渣をフラッシュ・クロマトグラフィー(シリカゲル、ヘキサン及び酢酸エチル)で精製した。化合物(C) (65 g) を単離し、LC/MS (LRMS (MH) m/z:
411.21)で特徴付けた。
【0138】
(D)の合成
0℃の化合物(C)(18 g)のジクロロメタン (100 mL)溶液にトリフルオロ酢酸 (80 mL)を5分間かけて加え、できた混合液を同じ温度で更に3時間、撹拌した。溶媒を減圧下で取り除き、残渣を高真空下に一晩置いて中間物(D)のTFA塩を生じさせ、LC/MS (LRMS (MH) m/z:
311.15)で特徴付けた。
【0139】
(E)の合成
0℃のエチル-2-メチル-チアゾール-5-カルボキシレート (15 g、88 mmol)のテトラヒドロフラン (50 mL)溶液に水酸化ナトリウム水溶液 (5 N、50 mL)を10分間かけて加え、できた溶液を室温で更に2時間、撹拌した。次にそれを塩酸(2 N) でpH=1まで酸性化し、テトラヒドロフラン (3 x 100 mL)で抽出した。混合した有機層をブライン (30 mL)で洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥させた。溶媒の大半を減圧下で取り除き、残渣を凍結乾燥させて化合物(E) (14 g)を得た。
【0140】
(F)の合成
0℃の化合物(D) (41 mmol)及び 2-メチル-チアゾール-5-カルボン酸 (E) (6.0 g、42 mmol)、OBT (7.9 g、50 mmol)及びHBTU (18.0 g,
50 mmol) のテトラヒドロフラン (800 mL)溶液に、N,N-ジエチルイソプロピルアミン (~50 g)のテトラヒドロフラン (200 mL)溶液を5分間かけて、そのpHがほぼ8.5に達するまで加えた。できた混合液を同じ温度で一晩、撹拌した。次にそれを、飽和重炭酸ナトリウム水溶液 (200 mL)で反応停止させ、減圧下で溶媒の大半を取り除いた。残った溶液を酢酸エチル (3 x 400 mL)で抽出した。混合した有機層を飽和重炭酸ナトリウム水溶液 (200 mL)及びブライン (100 mL)で洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥させ、セライト-545を通してろ過した。減圧下で溶媒を取り除き、残渣をフラッシュ・クロマトグラフィー(シリカゲル、酢酸エチルに2% メタノールを加えたもの)で精製した。化合物(F)(17.1 g)を単離し、LC/MS (LRMS (MH) m/z:
436.15)で特徴付けた。
【0141】
(G)の合成
化合物(F) (17.1 g、95 mmol)のメタノール (300 mL)溶液に10% Pd/C (3 g)を加えた。できた混合液を1気圧の水素下で48時間、撹拌した。この混合液をセライト545 を通してろ過し、ろ過ケークをメタノール (~200 mL)で洗浄した。有機層を減圧下で濃縮し、高真空下に置いて化合物(G)を生じさせ、LC/MS (LRMS (MH) m/z:
346.1)で特徴付けた。
【0142】
(H)の合成
N-Bocフェニルアラニン-ケトエポキシド (140 mg、0.46 mmol)をDCM (2 mL)で希釈し、0℃まで冷却した。この溶液にトリフルオロ酢酸 (6 mL)を加えた。冷却槽を取り出し、反応液を1時間、撹拌すると、その時点でTLCでは開始物質が完全に消費されていることが示された。できた溶液を減圧下で濃縮し、高真空下に置いて化合物(H)のTFA塩を生じさせた。
【0143】
化合物1の合成
0℃の前述の化合物(H) (131 mg, 0.38
mmol)及び(J) (0.46 mmol)、HOBT (75 mg、0.48 mmol)及びHBTU (171 mg、0.48 mmol)のテトラヒドロフラン (20 mL)及び N,N-ジメチルホルムアミド (10 mL)溶液に N,N-ジエチルイソプロピルアミン (1 mL)を滴下で加えた。この混合液を同じ温度で更に5時間、撹拌した。次にそれを飽和重炭酸ナトリウム水溶液 (20 mL)で反応停止させ、溶媒の大半を減圧下で取り除いた。その後、残った混合液を酢酸エチル (3 x 40 mL)で抽出した。混合した有機層を飽和重炭酸ナトリウム水溶液
(20 mL)及びブライン (10 mL)で洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥させ、セライト-545を通してろ過した。減圧下で溶媒を取り除き、残渣をHPLC (0.02 M の酢酸アンモニウム水溶液及びアセトニトリル (66/34)で精製して化合物1 (92 mg)を生じさせ、これを凍結乾燥させ、LC/MS (LRMS (MH) m/z:
533.2)で特徴付けた。
【実施例2】
【0144】
実施例2
非晶質化合物1 (50 mg)をアセトニトリル (1 mL)に溶解させたのち、脱イオン水 (2 mL)を加え、約1−2週間かけて1mLをゆっくりと蒸発させることでこの溶液を過飽和させた。できた結晶をろ過し、1 mL 1:2アセトニトリル-水で洗浄し、真空下で12時間乾燥させて、融解点が148℃の化合物1 (25 mg)の結晶多形を提供した。 10℃/分の加熱率にしたTAインスツルメンツ・ディファレンシャル・スキャニングカロリメータ(原語:TA Instruments Differential Scanning Calorimeter)2920で記録したこの試料の特徴的なDSC曲線を図1に示す。
【実施例3】
【0145】
実施例3
非晶質の化合物1 (611 mg)をテトラヒドロフラン (5 mL)に溶解させたのち、ヘキサン (5 mL)を加え、この溶液に実施例2で調製した通りの結晶質多形化合物1をシードとして加え、約17時間かけて5mLをゆっくりと蒸発させることで、この溶液を過飽和させた。できた結晶をろ過し、1 mL 1:1テトラヒドロフラン-ヘキサンで洗浄し、真空下で12時間、乾燥させて、融解温度が147℃の化合物1の結晶質多形 (150 mg)を提供した。
【実施例4】
【0146】
実施例4
非晶質化合物1 (176 mg)をテトラヒドロフラン(5 mL)に溶解させた後、トルエン (25 mL) を加えた。この溶液に、実施例2の通りに調製された結晶質多形化合物1をシードとして加え、約2日間かけて20mLをゆっくり蒸発させることでこの溶液を過飽和させた。できた結晶をろ過し、15 mLトルエンで洗浄し、真空下で12時間乾燥させて、融解点が149℃の化合物1の結晶質多形(88mg)を提供した。
【実施例5】
【0147】
実施例5
非晶質の化合物1 (312 mg)をトルエン (50 mL)に溶解させ、約100℃まで加熱して溶解を完了させた後、ヘキサン(50 mL)を加え、この溶液に、実施例2の通りに調製した結晶質多形化合物1をシードとして加え、約2日間かけて60mLをゆっくりと蒸発させることでこの溶液を過飽和させた。できた結晶をろ過し、10 mLトルエンで洗浄し、真空下で12時間乾燥させて、融解点が149℃の化合物1の結晶質多形 (156 mg)を提供した。
【実施例6】
【0148】
実施例6
非晶質の化合物1 (1.4 g)をトルエン (25 mL)に溶解させ、約50℃まで加熱して溶解を完了させた後、22℃まで冷却することで過飽和させ、12時間かけて化合物を結晶化させた。できた結晶をろ過し、5 mLヘキサンで洗浄し、12時間かけて真空下で乾燥させることで、融解点が149℃の化合物1の結晶質多形 (0.94 g)を提供した。
【実施例7】
【0149】
実施例7
化合物1の合成
(H)の合成
N-Bocフェニルアラニン-ケトエポキシド (1.0 等量)をDCM (N-Boc フェニルアラニン-ケトエポキシド1kg当たり3 L) に三つ首の丸底フラスコ内で不活性の雰囲気下で溶解させ、溶液を氷槽内で冷却した。 次に、内部温度を10℃未満に維持するような速度でTFA (5.0 等量) を加えた。その後、反応混合液をほぼ20℃まで温め、1乃至3時間、撹拌した。次に、混合温度を25℃未満に維持しながらMTBE (N-Boc フェニルアラニン-ケトエポキシド1kg当たり3.6L) をこの反応混合液に加えた。 その後、ヘプタン (N-Boc フェニルアラニン-ケトエポキシド1kg当たり26.4 L)を加え、反応液を -5 乃至 0℃の温度に2乃至3時間、冷却して、化合物(H)を結晶化させた。白色の固体をろ過し、ヘプタン (N-Boc フェニルアラニン-ケトポキシド1kg当たり3L)で洗浄した。その後、白色の固体を真空下に12時間、22℃で置いた。収率は 86%であり、 HPLCの純度は99.4%だった。
【0150】
化合物1の合成
化合物(H)(1.2 等量)、化合物(G) (1.0 等量)、HBTU (1.2 等量)、HOBT (1.2 等量) 及びN-メチルピロリジノン(化合物(G)1kg当たり8L)を乾燥したフラスコに不活性の雰囲気下で加え、混合液を23℃で撹拌して溶解を完了させた。次に反応液を -5 乃至 0℃に冷却し、内部反応温度を0℃未満に維持しながらジイソプロピルエチルアミン (2.1 等量)を15分間かけて加えた。この反応混合液を0℃で12時間、撹拌した。
【0151】
反応混合液を8%重炭酸ナトリウム(化合物(G)1kg当たり40L)に注ぐことで粗化合物1を沈殿させ、粗化合物1の懸濁液を12時間、20乃至25℃で撹拌し、続いて0乃至5℃で1時間、撹拌した。白色の固体をろ過し、水(化合物(G)1kg当たり5L)ですすいだ。次にこの白色の固体を水 (15 L/kg)中で3時間、20乃至25℃で懸濁させ、ろ過し、水(化合物(G)1kg当たり5L)及び酢酸イソプロピル(化合物(G)1kg当たり2 x 2 L)ですすいだ。白色の固体を真空下で45℃で一定の重量になるまで乾燥させた。粗化合物1の収率は65%であり、HPLC純度は 97.2%だった。
【0152】
粗化合物1を、撹拌及び85℃で加熱して酢酸イソプロピル(粗化合物11kg当たり20L) に完全に溶解させた。次に、この溶液を熱ろ過して粒子状の物質を取り除き、溶液を85℃まで再加熱して透明な溶液を提供した。この透明な溶液を1時間当たり10℃ずつ65℃になるまで冷却してから、シード結晶を加えた。この溶液を1時間当たり10℃ずつで20℃まで冷却すると、化合物1の実質的な結晶化が起きた。この懸濁液を20℃で6時間、撹拌し、続いて0乃至5℃で最低2時間、撹拌し、ろ過し、酢酸イソプロピル(粗化合物1kg当たり1 L)ですすいだ。精製済みの化合物1を真空下で45℃で最低24時間、重量が一定になるまで乾燥させた。化合物1の収率は 87%であり、 HPLC の純度は 97.2%だった。
【実施例8】
【0153】
実施例8
化合物1の合成
化合物(H) (1.1 等量)、化合物(G)(1.0 等量)、HBTU (1.5 等量)、HOBT(1.5 等量)及び DMF (化合物(G)1kg当たり8 L) を乾燥フラスコ内に不活性の雰囲気下で加え、この混合液を23℃で完全に溶解させるまで撹拌した。次にこの反応液を -5乃至0℃まで冷却し、内部反応温度を0℃未満に維持しながらジイソプロピルエチルアミン (2.1 等量)を15分間かけて加えた。その後、反応混合液を0℃で3時間、撹拌した。
【0154】
内部温度を10℃未満に維持しながら、予冷しておいた飽和重炭酸ナトリウム化合物(G)1kg当たり94 L)を加えることでこの反応混合液を反応停止させた。次にその内容物を分液漏斗に移した。混合液を酢酸エチル (化合物(G)1kg当たり24 L)で抽出し、有機層を飽和重炭酸ナトリウム(化合物(G)1kg当たり12 L)及び飽和塩化ナトリウム(化合物(G)当たり12 L)で洗浄した。
【0155】
有機層を30℃未満の槽温度にした減圧下で濃縮して化合物(G)1kg当たり15Lにし、続いて酢酸イソプロピル (PR-0221kg当たり2×24L)で共蒸留した。酢酸イソプロピルで最終体積を化合物(G)1kg当たり82 Lに調節してから60℃まで加熱して透明な溶液を得た。この透明な溶液混合物を50℃まで冷却してからシード結晶を加えた。この溶液を20℃まで冷却すると、化合物1の実質的な結晶化が起きた。その懸濁液を0℃で12時間、撹拌してからろ過し、酢酸イソプロピル (化合物1kg当たり2 L)ですすいだ。 化合物1を真空下で20℃で12時間、重量が一定になるまで乾燥させた。化合物1の収率は48%であり、HPLC 純度は97.4%だった。
【0156】
均等物
当業者であれば、ごく慣例的な実験を用いるのみで、ここに記載された化合物及びその使用法の均等物を数多く認識され、又は確認できることであろう。このような均等物は本発明の範囲内にあるとみなされ、また以下の請求の範囲の包含するところである。
【0157】
上記参考文献及び公開文献のすべてを、引用をもってここに援用することとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)式(II)の化合物の有機溶媒溶液を調製するステップと;(ii)前記溶液を過飽和させて結晶の形成を起こさせるステップと;(iii)前記結晶を単離するステップと、を含む、式(II):
【化11】

の結晶質化合物を調製する方法。
【請求項2】
前記有機溶媒がアセトニトリル、酢酸エチル、ヘプタン、ヘキサン、酢酸イソプロピル、メタノール、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、トルエン及び水、あるいはこれらのいずれかの組合せから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記有機溶媒がアセトニトリル、ヘプタン、ヘキサン、メタノール、テトラヒドロフラン、及びトルエンから選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記有機溶媒がヘキサン、テトラヒドロフラン及びトルエンから選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
溶液を過飽和させる前記ステップが、逆溶媒の添加、溶液の冷却、溶液の体積減少、又はこれらのいずれかの組合せを含む、請求項1乃至4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
溶液を過飽和させる前記ステップが、逆溶媒の添加、溶液の周囲温度への冷却、及び溶液の体積減少を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記逆溶媒がゆっくりと添加される、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記逆溶媒がヘキサン、トルエン及び水から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記体積減少が蒸発によって行われる、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
溶液にシードを加えるステップを更に含む、請求項1乃至9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
結晶を洗浄するステップを更に含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記洗浄するステップが、逆溶媒、アセトニトリル、ヘプタン、ヘキサン、メタノール、テトラヒドロフラン、トルエン、水、又はこれらの組合せから選択される液体で洗浄するステップを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記洗浄するステップが、逆溶媒及び有機溶媒の組合せで洗浄するステップを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記逆溶媒がヘキサン又はヘプタンである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記結晶を単離するステップが結晶をろ過するステップを含む、請求項1乃至14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
減圧下で結晶を乾燥させるステップを更に含む、請求項1乃至15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
式(II):
【化12】

の構造を有する結晶化合物。
【請求項18】
図1に示す通りのDSCサーモグラムを実質的に有する、請求項17に記載の結晶化合物。
【請求項19】
約140乃至約155℃の融解点を有する、請求項17に記載の結晶化合物。
【請求項20】
約145乃至約150℃の融解点を有する、請求項19に記載の結晶化合物。
【請求項21】
図2に示す通りのXRPDパターンを実質的に有する、請求項17に記載の結晶化合物。
【請求項22】
8.94;
9.39; 9.76; 10.60; 11.09; 12.74; 15.27; 17.74; 18.96; 20.58; 20.88; 21.58;
21.78; 22.25; 22.80; 24.25; 24.66; 26.04; 26.44; 28.32; 28.96; 29.65; 30.22;
30.46; 30.78; 32.17; 33.65; 34.49; 35.08; 35.33; 37.85; 38.48の2θ値を有する、請求項17に記載の結晶化合物。
【請求項23】
式(II):
【化13】

の結晶化合物の調製法であって、
(i)式(III):
【化14】

(但し式中、Xはいずれかの適した対イオンである)の化合物を、式(IV):
【化15】

の化合物に第二有機溶媒中で反応させるステップと;
(ii)式(II)の化合物の第二有機溶媒溶液を調製するステップと;
(iii)溶液を過飽和させて結晶の形成を可能にするステップと;
(iv)結晶を単離して式(II)の結晶化合物を提供するステップと、
を含む、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−521363(P2012−521363A)
【公表日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−501028(P2012−501028)
【出願日】平成22年3月22日(2010.3.22)
【国際出願番号】PCT/US2010/028126
【国際公開番号】WO2010/108172
【国際公開日】平成22年9月23日(2010.9.23)
【出願人】(510094115)オニキス セラピューティクス, インク. (5)
【氏名又は名称原語表記】ONYX THERAPEUTICS, INC.
【Fターム(参考)】