説明

結腸直腸癌の転移を治療または予防する方法

差次的に発現された遺伝子を用いて結腸直腸癌の転移を検出する方法を開示する。結腸直腸癌を治療するためまたは結腸直腸癌の転移を予防するための物質を同定する方法も同様に開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、参照として本明細書に組み入れられる、2002年9月30日に提出された米国特許出願第60/414,709号に関する。
【0002】
技術分野
本発明は、結腸直腸癌を治療する方法および結腸直腸癌の転移を予防する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
背景技術
肝転移は、結腸直腸癌(CRC)患者の主な死因である。治療アプローチが進歩しているにもかかわらず、完全な治癒のためにはより有効な戦略が必要である。肝転移の予防または有効な治療は、何千人もの患者の生命を救うであろう。
【0004】
転移過程は、原発性部位からの癌細胞の放出、隣接する血管への浸潤、血流を通した転移部位への輸送、遠位臓器の血管外遊出および/または梗塞、ならびに新しい環境で栄養を獲得した浸潤細胞の再増殖など、多数の段階を伴う。したがって、多数の遺伝子が転移過程に関連すると予想される。多くの研究者が、この臨床的に重要な問題に取り組んでいるが、正確なメカニズムまたは重要な遺伝子は未だ明らかになっていない。肝転移に関連する多くの分子が報告されているが、ほとんどの研究では、一つのみまたはごく一部の分子に注目しているため、複雑な過程におけるそれぞれの遺伝子の重要性は、依然として曖昧なままである。
【0005】
マイクロアレイ技術の進歩により、何千もの遺伝子の発現レベルを1回の実験で同定することが可能になり、腫瘍組織における多数の遺伝子の発現変化に基づく癌の分類が示唆されている(Golubら、Science 286:531〜7(1999);Alizadehら、Nature 403:503〜11(2000))。cDNAマイクロアレイ技術により、正常細胞および悪性細胞における遺伝子発現の包括的プロファイルを得ること、ならびに悪性細胞および対応する正常細胞における遺伝子発現を比較することが可能になった(Okabeら、Cancer Res 61: 2129-37 (2001);Kitaharaら、Cancer Res 61: 3544-9 (2001);Linら、Oncogene 21: 4120-8 (2002);Hasegawaら、Cancer Res 62: 7012-7 (2002))。このアプローチは癌細胞の複雑な性質を明らかにすることを可能にし、発癌の機序を解明する一助となる。腫瘍において脱制御される遺伝子の同定は、個々の癌のより正確で間違いのない診断、および新規な治療標的の開発につながる可能性がある(BienzおよびClevers、Cell 103: 311-20 (2000))。
【0006】
最近、二つの研究グループが、cDNAマイクロアレイを用いて、悪性黒色腫の転移に関与する遺伝子を発見した。一方のグループは、高転移性黒色腫細胞の発現プロフィールを、同じ細胞株から確立した低転移細胞と比較した(Clarkら、Nature 406:532〜5(2000))。他方のグループは、様々な黒色腫細胞株と原発性黒色腫における発現プロフィールを分析した(Bittnerら、Nature 406:536〜40(2000))。さらに、結腸直腸癌の肝転移の基礎的メカニズムを開示するために、本発明者らは以前、遺伝子9192個を含むcDNAマイクロアレイを用いて、原発性腫瘍10例とその対応する転移病変の発現プロフィールを分析した(Yanagawaら、Neoplasia 3:395〜401(2001))。
【0007】
発癌のメカニズムを解明するためにデザインされた研究によって、抗腫瘍物質の分子標的を同定することは、既に容易になっている。特定の遺伝子産物の発癌活性を抑制するように設計された様々な物質が、腫瘍治療に有効であることが判明している(Heら、Cell 99:335〜45(1999);Linら、Cancer Res. 61:6345〜9(2001);Fujitaら、Cancer Res. 61:7722〜6(2001))。したがって、癌性細胞において通常アップレギュレートされる遺伝子産物は、新規抗癌剤を開発するための可能な分子標的として役立ちうる。
【0008】
CD8+細胞障害性Tリンパ球(CTL)は、MHCクラスI分子上に提示された腫瘍関連抗原(TAA)に由来するエピトープペプチドを認識して、腫瘍細胞を溶解することが示されている。TAAの最初の例としてMAGEファミリーが発見されて以来、他の多くのTAAが免疫学的アプローチを用いて発見されている(Boon、Int J Cancer 54: 177-80 (1993);Boonおよびvan der Bruggen、J Exp Med 183: 725-9 (1996);van der Bruggenら、Science 254: 1643-7 (1991);Brichardら、J Exp Med 178: 489-95 (1993);Kawakamiら、J Exp Med 180: 347-52 (1994))。発見されたTAAのいくつかは現在、免疫療法の標的として臨床開発の段階にある。これまでに発見されたTAAには、MAGE(van der Bruggenら、Science 254: 1643-7 (1991))、gp100(Kawakamiら、J Exp Med 180: 347-52 (1994))、SART(Shichijoら、J Exp Med 187: 277-88 (1998))およびNY-ESO-1(Chenら、Proc Natl Acad Sci USA 94: 1914-8 (1997))が含まれる。一方、腫瘍細胞において特異的に過剰発現されることが示された遺伝子産物は、細胞性免疫応答を誘導する標的として認識されることが示されている。このような遺伝子産物には、p53(Umanoら、Brit J Cancer 84: 1052-7 (2001))、HER2/neu(Tanakaら、Brit J Cancer 84: 94-9 (2001))、CEA(Nukayaら、Int J Cancer 80: 92-7 (1999))などが含まれる。
【0009】
TAAに関する基礎研究および臨床研究の著しい進歩にもかかわらず(Rosenbegら、Nature Med 4: 321-7 (1998);Mukherjiら、Proc Natl Acad Sci USA 92: 8078-82 (1995);Huら、Cancer Res 56: 2479-83 (1996))、結腸直腸癌を含む腺癌の治療のための候補となるTAAの数は非常に限られている。癌細胞で大量に発現されると同時にその発現が癌細胞に限定されるTAAは、免疫治療の標的として有望な候補になると考えられる。さらに、強力かつ特異的な抗腫瘍免疫応答を誘発する新たなTAAの同定は、様々な種類の癌におけるペプチドワクチン接種の臨床使用を促すと考えられる(Boonおよびvan der Bruggen、J Exp Med 183: 725-9 (1996);van der Bruggenら、Science 254: 1643-7 (1991);Brichardら、J Exp Med 178: 489-95 (1993);Kawakamiら、J Exp Med 180: 347-52 (1994);Shichijoら、J Exp Med 187: 277-88 (1998);Chenら、Proc Natl Acad Sci USA 94: 1914-8 (1997);Harris、J Natl Cancer Inst 88: 1442-5 (1996);Butterfieldら、Cancer Res 59: 3134-42 (1999);Vissersら、Cancer Res 59: 5554-9 (1999);van der Burgら、J Immunol 156: 3308-14 (1996);Tanakaら、Cancer Res 57: 4465-8 (1997);Fujieら、Int J Cancer 80: 169-72 (1999);Kikuchiら、Int J Cancer 81: 459-66 (1999);Oisoら、Int J Cancer 81: 387-94 (1999))。
【発明の開示】
【0010】
発明の概要
本発明は、結腸直腸癌の転移に相関した遺伝子発現パターンの発見に基づいている。
【0011】
結腸直腸癌の肝転移のメカニズムを明らかにして、転移の治療および予防のための新規の診断マーカーおよび/または薬物標的を同定するために、本発明者らは、ヒト遺伝子23040個を含むゲノム全体のcDNAマイクロアレイを用いて、肝転移を伴う原発性結腸直腸癌(CRC)15例と非癌性結腸粘膜との発現プロフィールを分析した。その結果、対応する非癌性粘膜と比較して、原発性病変において発現が頻繁に増強されている多くの遺伝子が同定された。これらの遺伝子の中で、肝転移を伴わない結腸癌組織11例と結腸の前悪性腫瘍9例との発現プロフィールのデータの比較から、その発現が転移を伴う腫瘍において上昇しているが転移を伴わない腫瘍では上昇していない遺伝子163個が同定された。本明細書において、これらの遺伝子は集合的に「MLX核酸」、「MLXポリヌクレオチド」、または「MLX遺伝子」と称され、対応するコードされるポリペプチドは「MLXポリペプチド」または「MLXタンパク質」と称される。
【0012】
したがって、本発明は、患者由来の生物試料における転移関連遺伝子の発現レベルを決定することによって、被験者における結腸直腸癌の転移病変の素因を診断または決定する方法を特徴とする。転移関連遺伝子とは、正常細胞または転移を伴わない原発性結腸直腸腫瘍と比較して、転移を伴う原発性結腸直腸癌細胞から得た細胞において異なる発現レベルを特徴とする遺伝子を意味する。正常細胞は、結腸直腸組織または良性腺腫から得られた細胞である。転移関連遺伝子には、例えばMLX1〜MLX163が含まれる(表1)。遺伝子の正常対照レベルと比較して遺伝子発現レベルが増加することは、被験者が結腸直腸癌の転移病変を有する、または発症するリスクを有することを示している。
【0013】
正常対照レベルとは、健常個体において、または結腸直腸癌の転移病変を有さないことが既知である個体集団において検出された遺伝子発現レベルを意味する。対照レベルとは、単一の参照集団に由来するまたは複数の発現パターンに由来する、単一の発現パターンである。例えば、対照レベルは、既に試験された細胞からの発現パターンのデータベースでありうる。
【0014】
または、試料における転移関連遺伝子のパネルの発現を、同じパネルの遺伝子の転移対照レベルと比較する。転移対照レベルとは、結腸直腸癌の転移病変を有する集団において認められる転移関連遺伝子の発現プロフィールを意味する。
【0015】
遺伝子発現は、対照レベルと比較して10%、25%、または50%増加する。または、遺伝子発現は、対照レベルと比較して1倍、2倍、5倍またはそれ以上増加する。例えば、転移関連遺伝子プローブと患者由来の組織試料の遺伝子転写物(例えば、mRNA)とのハイブリダイゼーション(例えば、チップ上で)による検出によって、発現が検出される。
【0016】
患者由来の生物試料とは、被験者由来の、例えば、結腸直腸癌の転移病変を有することが既知であるまたは疑われる患者由来の任意の生物試料である。例えば、生物試料は、原発性結腸直腸癌細胞または転移性結腸直腸癌細胞を含む被験者由来の組織を含む。転移細胞とは、原発性腫瘍部位から二次腫瘍部位へと遊走した癌細胞である。
【0017】
本発明はまた、MLX1〜MLX163の二つまたはそれ以上の遺伝子発現レベルの転移性参照発現プロフィールを提供する。
【0018】
さらに、結腸直腸癌を治療するためまたは結腸直腸癌の転移を予防するための化合物をスクリーニングする方法を提供する。本方法には、MLXポリペプチドを被験化合物に接触させる段階、およびMLXポリペプチドに結合する被験化合物を選択する段階が含まれる。
【0019】
さらに、本発明は、MLXポリペプチドを被験化合物に接触させる段階、およびMLXポリペプチドの生物活性を抑制する化合物を選択する段階を含む、結腸直腸癌を治療するためまたは結腸直腸癌の転移を予防するための化合物をスクリーニングする方法を提供する。
【0020】
本発明はさらに、一つまたは複数のMLXポリペプチドを発現する細胞を被験化合物に接触させる段階、および一つまたは複数のMLXポリペプチドの発現レベルを抑制する被験化合物を選択する段階を含む、結腸直腸癌を治療するためまたは結腸直腸癌の転移を予防するための化合物をスクリーニングする方法を提供する。
【0021】
さらに、本発明は、被験化合物と、MLX遺伝子の転写調節領域の下流にレポーター遺伝子を含むベクターとを、レポーター遺伝子の発現にとって適切な条件で接触させる段階、およびレポーター遺伝子の発現を阻害する被験化合物を選択する段階を含む、結腸直腸癌を治療するためまたは結腸直腸癌の転移を予防するための化合物をスクリーニングする方法を提供する。
【0022】
本出願はまた、結腸直腸癌を治療するためまたは結腸直腸癌の転移を予防するための組成物を提供する。本組成物は、例えば、抗癌剤であってもよい。本組成物は、MLXポリヌクレオチドのアンチセンスS-オリゴヌクレオチドもしくは低分子干渉RNA(siRNA)の少なくとも一部、または、MLXタンパク質に対する抗体もしくは抗体断片として記載されうる。本組成物はまた、結腸直腸癌を治療するためまたは結腸直腸癌の転移を予防するための化合物をスクリーニングする本発明の方法によって選択された化合物を含む組成物であってもよい。
【0023】
薬学的組成物の作用経過とは、望ましくは、結腸直腸癌転移の発生の阻害、または、悪性結腸直腸癌の原発性病変の成長もしくは増殖の阻害である。薬学的組成物は、ヒトおよび家畜哺乳類を含む哺乳類に適用されうる。
【0024】
さらに、本発明は、MLXタンパク質、そのタンパク質をコードするポリヌクレオチド、またはそのポリヌクレオチドを含むベクターを含む、結腸直腸癌を治療するためまたは結腸直腸癌の転移を予防するための組成物を提供する。そのような組成物は、抗腫瘍免疫を誘導すると期待される。
【0025】
本発明はさらに、本発明によって提供される任意の組成物を用いて、結腸直腸癌を治療するためまたは結腸直腸癌の転移を予防するための方法を提供する。
【0026】
本発明はまた、一つもしくは複数のMLX核酸配列に結合するまたはその核酸配列によってコードされる遺伝子産物に結合する検出試薬を有するキットを提供する。一つまたは複数のMLX核酸に結合する核酸アレイも同様に提供される。そのようなキットおよびアレイは、結腸直腸癌の転移を診断するために有用であると期待される。
【0027】
本発明の前述の概要および以下の詳細な説明はいずれも、好ましい態様に関するものであり、本発明または本発明の他の代替的態様を制限するものではないと理解されるべきである。
【0028】
発明の詳細な説明
本明細書において用いられる「一つの(a)」、「一つの(an)」、および「その」は、特記しない限り「少なくとも一つ」を意味する。
【0029】
本発明は、肝転移を伴う結腸直腸癌患者由来の原発性癌組織において多数の核酸配列の発現パターンが変化(増加)しているという発見に一部基づいている。遺伝子発現の差は、レーザー捕捉型顕微解剖(LCM)および包括的cDNAマイクロアレイシステムを用いて同定された。本明細書において同定された、差次的に発現された遺伝子は、診断目的のために、および、結腸直腸癌、特に転移を伴う悪性結腸直腸癌の治療用の遺伝子標的治療アプローチを開発するために、ならびに結腸直腸癌の転移を阻害するために用いられる。
【0030】
結腸直腸癌の転移病変を有する患者において発現レベルが増加している遺伝子を表1に要約するが、これらは、本明細書において集合的に「転移関連遺伝子」、「MLX核酸」、または「MLXポリヌクレオチド」と称され、対応するコードされるポリペプチドは「MLXポリペプチド」または「MLXタンパク質」と称される。特記しない限り、「MLX」とは、本明細書に開示された任意の配列(例えば、MLX1〜MLX163)を指すことを意味する。遺伝子は既に記載されており、データベースアクセッション番号と共に示される。
【0031】
生物試料中の、様々な遺伝子の発現または遺伝子によってコードされるタンパク質の活性を測定することによって、結腸直腸癌の転移を診断することができる。同様に、様々な物質に対するこれらの遺伝子の発現、または遺伝子によってコードされるタンパク質の活性を測定することによって、結腸直腸癌を治療するまたは結腸直腸癌の転移を予防する物質を同定することができる。
【0032】
結腸直腸癌の転移の診断
本発明は、被験者における結腸直腸癌の転移病変の発症の素因を診断する方法を提供する。特に、本方法は、患者由来の生物試料における転移関連遺伝子の発現レベルを決定する段階を含む。転移関連遺伝子(例えば、MLX1〜MLX163)の正常対照レベルと比較して転移関連遺伝子の発現レベルが増加すれば、患者が結腸直腸癌の転移病変を有する、または発生のリスクを有することを示している。
【0033】
本発明は、表1に列挙された、少なくとも一つ、最大で全部のMLX配列の発現の決定(例えば、測定)を含む。一つの遺伝子について得られた診断結果を確認するため、またはより信頼できる診断結果を得るために、本発明の方法に従って、複数のMLX遺伝子の発現レベルを決定することができる。MLX1〜MLX163によって示される配列の1個、2個、3個、4個、5個、25個、35個、50個、または100個もしくはそれ以上の発現が決定され、かつ望ましいならば、本明細書に記載のパラメータまたは条件の一つ、例えば結腸直腸癌の転移病変または結腸直腸癌の非転移病変に従って発現レベルが変化することが既知である他の配列と共に、これらの配列の発現を決定することができる。
【0034】
既知の配列のGenBankデータベース登録によって提供された配列情報を用いて、当業者に周知の技術により転移関連遺伝子を検出して測定する。例えば、MLX配列に対応する配列データベース登録内の配列を用いて、ハイブリダイゼーション分析、例えばノザンブロットハイブリダイゼーション分析においてMLX RNA配列を検出するためのプローブを構築することができる。もう一つの例として、配列を用いて、例えば、逆転写に基づくポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)のような増幅に基づく検出法において、MLX配列を特異的に増幅するためのプライマーを構築することができる。本発明の方法に従って、生物試料中のmRNAのようなMLX RNAを含む遺伝子転写物を検出することができる。さらに、MLX配列の検出は、DNAチップを用いて行うことができる。特に、MLX RNAとハイブリダイズする一つまたは複数のヌクレオチドを、検出のためにDNAチップ上に固定することができる。
【0035】
本発明の診断において、転移関連遺伝子の発現レベルは、(1)転移関連遺伝子のmRNAの検出、(2)転移関連遺伝子によってコードされるタンパク質の検出、または(3)転移関連遺伝子によってコードされるタンパク質の生物活性の検出によって決定される。
【0036】
mRNAを検出する方法は当業者に既知である。例えば、転移関連遺伝子に対応するmRNAのレベルは、ノザンブロッティングまたはRT-PCRによって推定することができる。表1に示す遺伝子のヌクレオチド配列を用いて、通常の方法に従って遺伝子を定量するためにプローブまたはプライマー用のヌクレオチド配列を設計することができる。
【0037】
同様に、転移関連遺伝子の発現レベルを、遺伝子(例えば、MLX1〜MLX163;表1)によってコードされるタンパク質の活性または量に基づいて分析することができる。転移関連タンパク質の量を決定する方法を下記に示す。例えば、イムノアッセイ法は、生体材料においてタンパク質を決定するために有用である。分析対象の各タンパク質の活性に従って、転移関連遺伝子によってコードされるタンパク質の活性を決定するために、任意の適切な方法を選択することができる。
【0038】
次に、生物試料中、例えば患者由来の組織試料中の一つまたは複数の転移関連遺伝子の発現レベルを、参照試料中の同じ配列の発現レベルと比較する。転移関連遺伝子の発現レベルを決定するために、生検によって得られる原発性結腸直腸癌組織細胞(すなわち、患者由来の組織試料)のような一つまたは複数の細胞を含む、被験者に由来する任意の生体材料を用いることができる。遺伝子発現はまた、血液または、喀痰のようなその他体液から測定される。したがって、本発明の「生物試料」には、体組織または体液、例えば生物学的液体(血液、血清、または喀痰など)が含まれ、組織から精製された細胞が含まれる。被験生物試料には、結腸直腸癌細胞の転移病変を含むことが既知であるまたは含むことが疑われる被験者由来の組織および細胞試料が含まれる。好ましくは、被験生物試料は結腸直腸癌を含む。
【0039】
参照生物試料(対照)は、例えば被験生物試料と類似した組織型に由来する。参照生物試料には、例えば、比較されるパラメータが既知である、すなわち癌性、非癌性、転移性または非転移性である、一つまたは複数の細胞が含まれる。または、対照生物試料は、アッセイされるパラメータまたは条件が既知である細胞由来の分子情報のデータベースに由来する。対照レベルは、単一の参照集団に由来するまたは複数の発現パターンに由来する単一の発現パターンであってもよい。正常対照レベルとは、結腸直腸癌の転移病変を有さない組織または患者に由来する試料において典型的に認められる転移関連遺伝子の発現プロフィールを意味する。被験生物試料において、正常対照レベルと比較してMLX1〜MLX163の発現が増加することは、被験者が結腸直腸癌の転移病変を有する、または発生のリスクを有することを示す。
【0040】
被験者は好ましくは哺乳類である。哺乳類は、例えば、ヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、またはウシでありうる。
【0041】
参照試料と比較した生物試料中の遺伝子発現レベルが、測定されるパラメータの有無を明らかにするか否かは、参照試料の組成に依存する。例えば、参照試料が非転移細胞からなる細胞集団である場合、細胞集団からなる被験生物試料における遺伝子発現レベルと参照細胞集団における遺伝子発現レベルが類似であれば、被験生物試料が非転移性であることを示している。逆に、参照試料が転移細胞で構成される細胞集団である場合、生物試料と参照試料との遺伝子発現プロフィールが類似であれば、細胞集団からなる被験生物試料に転移細胞が含まれることを示している。
【0042】
生物試料におけるMLX配列の発現レベルが、参照試料中の対応するMLX配列の発現レベルより1.0倍、1.5倍、2.0倍、5.0倍、10.0倍またはそれ以上高い場合、増加したと見なすことができる。本発明の方法に従って、結腸直腸癌関連遺伝子の転移病変の一つまたは複数が正常対照レベルより少なくとも10%(例えば、50%、60%、70%、80%、または90%またはそれ以上)増加している場合、被験者は結腸直腸癌の転移病変を有する、または発生のリスクを有すると診断される。
【0043】
望ましいならば、生物試料と参照試料のあいだで差次的に発現された配列の比較を、測定されるパラメータまたは条件と発現が無関係である対照核酸を考慮して行うことができる。例えば、対照核酸は、細胞の癌性もしくは非癌性状態、または転移性もしくは非転移性状態によって差がないことが既知である核酸である。被験核酸および参照核酸における対照核酸の発現レベルを用いて、比較される試料におけるシグナルレベルを標準化することができる。対照遺伝子は、例えば、β-アクチン、グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼまたはリボソームタンパク質P1となりうる。
【0044】
被験生物試料を、多数の参照生物試料と比較してもよい。多数の参照生物試料の既知のパラメータは、それぞれ異なってもよい。したがって、細胞集団からなる被験生物試料を、例えば結腸直腸癌細胞の転移病変を含むことが既知である第二の参照生物試料のみならず、例えば結腸直腸癌細胞の非転移病変(正常細胞)を含むことが既知である第二の参照集団と比較してもよい。
【0045】
遺伝子発現の変化が遺伝子の増幅または欠失に関連している場合、被験試料と参照試料における配列比較は、被験試料と参照試料において調べたDNA配列の相対量を比較することによって行うことができる。
【0046】
また、本明細書において同定された差次的に発現されたMLX配列によって、結腸直腸癌の治療経過もモニタリングすることができる。本方法において、被験生物試料は、結腸直腸癌の治療を受けている被験者から提供される。望ましいならば、生物試料は、治療前、治療中、または治療後の様々な時点で被験者から得られる。細胞集団における一つまたは複数のMLX配列の発現を決定して、結腸直腸癌状態の転移病変が既知である参照生物試料と比較する。参照生物試料は、治療に曝露されていない組織または被験者から得られる。
【0047】
参照生物試料が非転移性の結腸直腸癌細胞を含む場合、被験生物試料と参照生物試料におけるMLX配列の発現が類似であれば、治療が有効であることを示している。しかし、被験生物試料とこの参照生物試料におけるMLX配列の発現に差があることは、あまり好ましくない臨床転帰または予後を示している。
【0048】
「有効」とは、治療によって、病的にアップレギュレートされた遺伝子の発現が減少すること、病的にダウンレギュレートされた遺伝子の発現が増加すること、または被験者における結腸直腸癌の大きさ、発生、もしくは転移能が減少することを意味する。治療を予防的に適用する場合、「有効」とは、治療によって、結腸直腸癌の転移病変の形成を、例えば原発性腫瘍部位とは異なる解剖学的部位での二次腫瘍の検出を遅らせることまたは予防することを意味する。結腸直腸癌の転移病変の評価は、標準的な臨床プロトコルを用いて行われる。
【0049】
有効性は、結腸直腸癌および結腸直腸癌の転移病変の診断または治療のための任意の既知の方法に関連して決定される。結腸直腸癌は、例えば、直腸検査、結腸鏡、バリウム浣腸、例えば貧血またはCEA抗原に関する血液検査によって診断される。
【0050】
また、被験生物試料における一つまたは複数のMLX配列の発現を、疾患進行期のスペクトルにわたって患者に由来する参照生物試料における配列の発現と比較することによって、悪性結腸直腸癌を有する被験者の予後を評価する方法も、提供される。生物試料および参照生物試料における一つもしくは複数のMLX配列の遺伝子発現を比較することによって、または被験者に由来する生物試料における経時的な遺伝子発現パターンを比較することによって、被験者の予後を評価することができる。
【0051】
正常対照と比較して配列MLX1〜MLX163のうち一つまたは複数の発現が増加することは、予後があまり好ましくないことを示している。
【0052】
原発性結腸直腸癌の参照発現プロフィール
原発性結腸直腸癌の参照発現プロフィールを、本発明によって提供する。本発明のこのような発現プロフィールは、転移を伴う原発性結腸直腸癌細胞の、非転移性の結腸直腸癌細胞の、または正常細胞の、二つまたはそれ以上のMLX遺伝子の遺伝子発現パターンを含む。被験者における結腸直腸癌の転移病変の発生の素因を診断するため、結腸直腸癌の治療経過をモニタリングするため、および悪性結腸直腸癌を有する被験者の予後を評価するために、発現プロフィールを用いることができる。
【0053】
結腸直腸癌を治療するためまたは結腸直腸癌の転移を予防するための化合物のスクリーニング
本発明は、一つまたは複数のMLXポリペプチドを用いて結腸直腸癌を治療するためまたは結腸直腸癌の転移を予防するための化合物をスクリーニングする方法を提供する。本スクリーニング法の一つの態様は以下の段階を含む:(a)被験化合物をMLXポリペプチドに接触させる段階;(b)ポリペプチドと被験化合物との結合活性を検出する段階;および(c)MLXポリペプチドに結合する化合物を選択する段階。
【0054】
本発明の結腸直腸癌を治療するためまたは結腸直腸癌の転移を予防するための化合物をスクリーニングする方法のもう一つの態様において、本方法は、指標としてMLXポリペプチドの生物活性を利用する。このスクリーニング法には以下の段階が含まれる:(a)被験化合物をMLXポリペプチドに接触させる段階;(b)段階(a)のMLXポリペプチドの生物活性を検出する段階;および(c)被験化合物の非存在下で検出される生物活性と比較してMLXポリペプチドの生物活性を抑制する化合物を選択する段階。
【0055】
スクリーニングのために用いられる本発明のMLXポリペプチドは、以下のポリペプチドから選択される:
(1)MLX1〜MLX163からなる群より選択されるポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(2)一つまたは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたMLX1〜MLX163からなる群より選択されるポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、もとのポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の生物活性を有するポリペプチド;ならびに
(3)MLX1〜MLX163からなる群より選択されるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドであって、MLX1〜MLX163からなる群より選択されるポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列からなるポリペプチドと同等の生物活性を有するポリペプチド。
【0056】
本発明において、「生物活性」という用語は、転移病変を発生させる活性、すなわち転移病変を引き起こす活性(転移の発症)を含む転移の発生活性、転移の促進活性、および、転移病変の成長活性または増殖活性のような活性を指す。転移病変の形成活性および転移の促進活性には、原発性部位からの癌細胞の放出、隣接する血管への浸潤、血流を通しての転移部位への輸送、ならびに遠位臓器への血管外遊出および/または梗塞が含まれる。被験ポリペプチドが生物活性を有するか否かは、被験ポリペプチドをコードするDNAを、それぞれのポリペプチドを発現する細胞に導入する段階、および転移の発生または促進、細胞の成長または増殖、コロニー形成活性の増加等を検出することによって判定することができる。
【0057】
所定のタンパク質の生物活性を有するポリペプチドを作製するための方法は当業者に周知であり、これにはタンパク質に変異を導入する既知の方法が含まれる。例えば、当業者は、ヒトMLXタンパク質の生物活性を有するポリペプチドを、これらのタンパク質のいずれかのアミノ酸配列に部位特異的突然変異誘発法によって適切な変異を導入することによって作製することができる(Hashimoto-Gotohら、Gene 152: 271-5 (1995);ZollerおよびSmith、Methods Enzymol 100: 468-500 (1983);Kramerら、Nucleic Acids Res. 12: 9441-9456 (1984);KramerおよびFritz、Methods Enzymol 154: 350-67 (1987);Kunkel、Proc Natl Acad Sci USA 82: 488-92 (1985);Kunkel、Methods Enzymol 85: 2763-6 (1988))。アミノ酸変異は自然下でも起こりうる。得られる変異ポリペプチドがヒトMLXタンパク質の生物活性を有するという前提で、1つまたは複数のアミノ酸が変異したヒトMLXタンパク質のアミノ酸配列を有するタンパク質がMLXポリペプチドに含まれる。このような変異体において変異させるアミノ酸の数は一般に10アミノ酸またはそれ未満、好ましくは6アミノ酸またはそれ未満、より好ましくは3アミノ酸またはそれ未満である。
【0058】
変異タンパク質、またはある特定のアミノ酸配列の1つもしくは複数のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/もしくは付加によって改変されたアミノ酸配列を有するタンパク質である改変タンパク質は、元の生物学的活性を保つことが知られている(Markら、Proc Natl Acad Sci USA 81: 5662-6 (1984);ZollerおよびSmith、Nucleic Acids Res 10: 6487-500 (1982);Dalbadie-McFarlandら、Proc Natl Acad Sci USA 79: 6409-13 (1982))。
【0059】
変異させるアミノ酸残基は、アミノ酸側鎖の特性が保存される別のアミノ酸に変異させることが好ましい(保存的アミノ酸置換として知られる方法)。アミノ酸側鎖の特性の例には、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、および、以下の官能基または特徴を共通して有する側鎖がある:脂肪族側鎖(G、A、V、L、I、P);水酸基含有側鎖(S、T、Y);硫黄原子含有側鎖(C、M);カルボン酸およびアミド含有側鎖(D、N、E、Q);塩基含有側鎖(R、K、H);および芳香族含有側鎖(H、F、Y、W)。括弧内の文字はアミノ酸の一文字略号を示すことに注意されたい。
【0060】
ヒトMLXタンパク質のアミノ酸配列に1つまたは複数のアミノ酸残基が付加されたポリペプチドの一例は、ヒトMLXタンパク質を含む融合タンパク質である。融合タンパク質とは、ヒトMLXタンパク質と他のペプチドまたはタンパク質との融合物のことであり、これは本明細書記載のMLXタンパク質に含まれる。融合タンパク質は、ヒトMLXタンパク質をコードするDNAを他のペプチドまたはタンパク質をコードするDNAとフレームが合致するように連結し、この融合DNAを発現ベクターに挿入して、それを宿主において発現させるといった当業者に周知の技法によって作製しうる。MLXタンパク質と融合させるペプチドまたはタンパク質には制限はない。
【0061】
MLXタンパク質と融合させるペプチドとして用いられうる既知のペプチドには、例えば、FLAG(Hoppら、Biotechnology 6: 1204-10 (1988))、6個のHis(ヒスチジン)残基を含む6×His、10×His、インフルエンザ凝集素(HA)、ヒトc-myc断片、VSP-GP断片、p18HIV断片、T7タグ、HSVタグ、Eタグ、SV40T抗原断片、lckタグ、α-チューブリン断片、Bタグ、プロテインC断片などが含まれる。MLXタンパク質と融合させうるタンパク質の例には、GST(グルタチオン-S-トランスフェラーゼ)、インフルエンザ凝集素(HA)、免疫グロブリン定常領域、β-ガラクトシダーゼ、MBP(マルトース結合タンパク質)などが含まれる。
【0062】
融合タンパク質は、上に考察したように融合ペプチドまたはタンパク質をコードする市販のDNAと、MLXポリペプチドをコードするDNAとを融合させ、作製された融合DNAを発現させることによって作製しうる。このような融合タンパク質を発現させるために、市販のエピトープ-抗体系を用いることができる(Experimental Medicine 13: 85-90 (1995))。自己のマルチクローニングサイトを用いて、例えばβ-ガラクトシダーゼ、マルトース結合タンパク質、グルタチオンS-トランスフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)等との融合タンパク質を発現できるベクターが市販されている。
【0063】
任意のMLXタンパク質の生物活性を有するポリペプチドを単離するための当技術分野で知られた代替的な方法には、例えば、ハイブリダイゼーション法を用いる方法がある(Sambrookら、「Molecular Cloning」第2版、9.47-9.58、Cold Spring Harbor Lab. Press (1989))。当業者は、ヒトMLXタンパク質をコードするDNA配列の全体または一部に対して高い相同性を有するDNAを容易に単離して、単離されたDNAからヒトMLXタンパク質の生物活性を有するポリペプチドを単離することができる。MLXポリペプチドには、ヒトMLXタンパク質をコードするDNA配列の全体または一部とハイブリダイズするDNAによってコードされ、かつヒトMLXタンパク質の生物活性を有するポリペプチドが含まれる。これらのポリペプチドには、ヒト由来のタンパク質に対応する哺乳動物相同体(例えば、サル、ラット、ウサギ、およびウシの遺伝子によってコードされるポリペプチド)が含まれる。ヒトMLXタンパク質をコードするDNAに対して高度に相同なcDNAを動物から単離する際には、転移を伴う結腸直腸癌由来の組織を用いることが特に好ましい。
【0064】
ヒトMLXタンパク質の生物活性を有するポリペプチドをコードするDNAを単離するためのハイブリダイゼーションの条件は、当業者によって慣行的に選択されうる。例えば、30分間またはそれ以上にわたる68℃でのプレハイブリダイゼーションを「Rapid-hyb緩衝液」(Amersham LIFE SCIENCE)を用いて行い、標識したプローブを添加した上で、1時間またはそれ以上にわたって68℃で加温することによって、ハイブリダイゼーションを行ってもよい。それに続く洗浄段階は、例えば、低ストリンジェント条件下で行いうる。低ストリンジェント条件とは、例えば、42℃、2×SSC、0.1%SDS、または好ましくは50℃、2×SSC、0.1%SDSのことである。より好ましくは、高ストリンジェント条件を用いる。高ストリンジェント条件とは、例えば、室温の2×SSC、0.01%SDS中での20分間の洗浄を3回行った後に、37℃の1×SSC、0.1%SDS中での20分間の洗浄を3回行い、50℃の1×SSC、0.1%SDS中での20分間の洗浄を2回行うことである。しかし、温度および塩濃度などのいくつかの要因はハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響を及ぼすと考えられ、当業者は必要なストリンジェンシーを得るためにこれらの要因を適切に選択することができる。
【0065】
タンパク質をコードするDNAの配列情報に基づいて合成したプライマーを用いて、ヒトMLXタンパク質の生物活性を有するポリペプチドをコードするDNAを単離するために、ハイブリダイゼーションの代わりに、遺伝子増幅法、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法を使用することもできる。
【0066】
以上のハイブリダイゼーション法または遺伝子増幅法によって単離されたDNAによってコードされる、ヒトMLXタンパク質の生物活性を有するポリペプチドは、通常、ヒトMLXタンパク質のアミノ酸配列に対して高い相同性を有する。「高い相同性」とは一般に、40%またはそれ以上、好ましくは60%またはそれ以上、より好ましくは80%またはそれ以上、さらにより好ましくは95%またはそれ以上の相同性を指す。ポリペプチドの相同性は、「WilburおよびLipman、Proc Natl Acad Sci USA 80: 726-30 (1983)」中のアルゴリズムに従って決定することができる。
【0067】
本発明の方法において使用されるMLXポリペプチドは、その産生のために用いる細胞もしくは宿主または用いる精製方法に応じて、アミノ酸配列、分子量、等電点、糖鎖の有無、または形態に関して差異があってもよい。しかし、それがヒトMLXタンパク質のポリペプチドと同等の生物活性を有する限り、本発明の方法において使用することができ、かつ、MLXタンパク質と同等の生物活性を有するポリペプチドを利用するこのような方法は、本発明の範囲に含まれる。
【0068】
本発明で使用されるMLXポリペプチドは、当業者に周知の方法により、組換えタンパク質として調製することもでき、または天然タンパク質として調製することもできる。MLXポリペプチドをコードするDNAを適切な発現ベクターに挿入し、そのベクターを適切な宿主細胞に導入して抽出物を入手し、ポリペプチドを精製することにより、組換えタンパク質を調製することができる。
【0069】
特に、MLXポリペプチドを調製するための宿主として大腸菌を使用する場合には、ベクターは、大腸菌内で増幅させるための「ori」、および、形質転換された大腸菌を選択するためのマーカー遺伝子(例えば、アンピシリン、テトラサイクリン、カナマイシン、クロラムフェニコールなどの薬剤によって選択される薬剤抵抗性遺伝子)を有する必要がある。さらに、大腸菌内での発現対象となる発現ベクターは、大腸菌内で所望の遺伝子を効率的に発現しうるプロモーター、例えば、lacZプロモーター(Wardら、Nature 341: 544-6 (1989);FASEB J 6: 2422-7 (1992))、araBプロモーター(Betterら、Science 240: 1041-3 (1988))、またはT7プロモーターなどを有する必要がある。その点に関しては、例えば、pGEX-5X-1(Pharmacia)、「QIAexpressシステム」(Qiagen)、pEGFPおよびpET(この場合、宿主はT7RNAポリメラーゼを発現するBL21であることが好ましい)を上記のベクターの代わりに用いてもよい。さらに、ベクターは、ポリペプチド分泌のためのシグナル配列をも含みうる。大腸菌の周辺質(periplasm)へのポリペプチド分泌を指令するシグナル配列の一例は、pelBシグナル配列(Leiら、J Bacteriol 169: 4379 (1987))である。ベクターを標的宿主細胞に導入するための手段には、例えば、塩化カルシウム法および電気穿孔法が含まれる。
【0070】
大腸菌以外に、例えば、哺乳動物由来の発現ベクター(例えば、pcDNA3(Invitrogen)およびpEGF-BOS(Nucleic Acids Res 18(17): 5322 (1990))、pEF、pCDM8)、昆虫細胞由来の発現ベクター(例えば、「Bac-to-BACバキュロウイルス発現系」(GIBCO BRL)、pBacPAK8)、植物由来の発現ベクター(例えば、pMH1、pMH2)、動物ウイルス由来の発現ベクター(例えば、pHSV、pMV、pAdexLcw)、レトロウイルス由来の発現ベクター(例えば、pZIpneo)、酵母由来の発現ベクター(例えば、「Pichia発現キット」(Invitrogen)、pNV11、SP-Q01)、および枯草菌(Bacillus subtilis)由来の発現ベクター(例えば、pPL608、pKTH50)を、MLXポリペプチドの産生のために用いることもできる。
【0071】
ベクターをCHO細胞、COS細胞またはNIH3T3細胞などの動物細胞内で発現させるためには、ベクターは、この種の細胞における発現のために必要なプロモーター、例えば、SV40初期プロモーター(Rigby in Williamson編、Genetic Engineering、第3巻、Academic Press、London、83-141 (1982))、MMLV-LTRプロモーター、EF1αプロモーター(Mizushimaら、Nucleic Acids Res 18: 5322 (1990); Kimら、Gene 91: 217-23 (1990))、CAGプロモーター(Niwaら、Gene 108: 193-200 (1991))、RSV LTRプロモーター(Cullen, Methods in Enzymology 152: 684-704 (1987))、SRαプロモーター(Takebeら、Mol Cell Biol 8: 466 (1988))、CMV前初期プロモーター(SeedおよびAruffo、Proc Natl Acad Sci USA 84: 3365-9 (1987))、SV40後期プロモーター(GheysenおよびFiers、J Mol Appl Genet 1: 385-94 (1982))、アデノウイルス後期プロモーター(Kaufmanら、Mol Cell Biol 9: 946 (1989))、HSV TKプロモーターなどを有する必要があるほか、形質転換体を選択するためのマーカー遺伝子(例えば、薬剤(例えば、ネオマイシン、G418)によって選択される薬剤抵抗性遺伝子)を有することが好ましい。これらの特徴を備えた既知のベクターの例には、例えば、pMAM、pDR2、pBK-RSV、pBK-CMV、pOPRSV、およびpOP13が含まれる。外来遺伝子を発現させるための動物細胞への遺伝子導入は、例えばエレクトロポレーション法(Chuら、Nucleic Acids Res 15: 1311-26 (1987))、リン酸カルシウム法(ChenおよびOkayama、Mol Cell Biol 7: 2745-52 (1987))、DEAEデキストラン法(Lopataら、Nucleic Acids Res 12: 5707-17 (1984); SussmanおよびMilman、Mol Cell Biol 4: 1642-3 (1985))、リポフェクチン法(Derijard, B Cell 7: 1025-37 (1994); Lambら、Nature Genetics 5: 22-30 (1993): Rabindranら、Science 259: 230-4 (1993))等の任意の方法によって行うことができる。
【0072】
さらに、本方法を、遺伝子を安定的に発現させるため、およびそれと同時に、細胞内の遺伝子のコピー数を増幅するために用いることもできる。例えば、相補的DHFR遺伝子を含むベクター(例えば、pCHO I)を、核酸合成経路が欠失したCHO細胞に導入した後に、メトトレキサート(MTX)によって増幅することができる。さらに、遺伝子の一過性発現の場合には、SV40の複製起点を含むベクター(pcDなど)を、SV40T抗原を発現する遺伝子を染色体上に含むCOS細胞に形質転換導入する方法を用いることができる。
【0073】
以上のようにして得られたMLXポリペプチドは、宿主細胞の内部または外部(培地など)から単離して、実質的に純粋な均一なポリペプチドとして精製することができる。所定のポリペプチドに言及して本明細書で用いられる「実質的に純粋な」とは、そのポリペプチドが他の生体高分子から実質的に遊離していることを意味する。実質的に純粋なポリペプチドは、乾燥重量にして純度が少なくとも75%(例えば、少なくとも80%、85%、95%または99%)である。純度は任意の適切な標準的方法により、例えばカラムクロマトグラフィー、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、またはHPLC分析によって測定しうる。ポリペプチドの単離および精製のための方法は何らかの特定の方法には限定されない;実際には任意の標準的な方法を用いることができる。
【0074】
例えば、カラムクロマトグラフィー、フィルター、限外濾過、塩析、溶媒沈殿、溶媒抽出、蒸留、免疫沈降、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動、透析、および再結晶化を適切に選択し、組み合わせて、ポリペプチドの単離および精製を行ってもよい。
【0075】
クロマトグラフィーの例には、例えば、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィーなどが含まれる(「Strategies for Protein Purification and Characterization: A Laboratory Course Manual」、Daniel R. Marshakら編、Cold Spring Harbor Laboratory Press (1996))。これらのクロマトグラフィーを、HPLCおよびFPLCなどの液体クロマトグラフィーによって行ってもよい。したがって、本発明は、以上の方法によって調製された高純度のポリペプチドを提供する。
【0076】
同様に、MLXポリペプチドが宿主細胞(例えば、動物細胞および大腸菌)において、グルタチオン-S-トランスフェラーゼタンパク質との融合タンパク質として、または多数のヒスチジンを有する組み換え型タンパク質として発現される場合、発現された組み換え型タンパク質は、グルタチオンカラムまたはニッケルカラムを用いて精製されうる。または、MLXポリペプチドをc-myc、多数のヒスチジンまたはFLAGによってタグ付けされたタンパク質として発現する場合、これは、c-myc、HisまたはFLAGに対する抗体をそれぞれ用いて検出および精製することができる。
【0077】
融合タンパク質を精製した後、必要に応じてトロンビンまたは第Xa因子によって切断することによって、目的とするポリペプチド以外の領域を除外することも同様に可能である。
【0078】
当業者に既知の方法によって、例えば下記のMLXタンパク質に結合する抗体を結合させたアフィニティカラムを、MLXポリペプチドを発現する組織または細胞の抽出物に接触させることによって、天然のタンパク質を単離することができる。抗体は、ポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でもよい。
【0079】
被験化合物に接触させるMLXポリペプチドは、例えば、精製ポリペプチド、可溶性タンパク質、担体との結合型、または他のポリペプチドに融合した融合タンパク質でありうる。タンパク質を結合するために用いられうる支持体の例には、アガロース、セルロース、およびデキストランのような不溶性多糖類、ならびにポリアクリルアミド、ポリスチレンおよびシリコンのような合成樹脂が含まれ、好ましくは上記の材料から調製した市販のビーズおよびプレート(例えば、多ウェルプレート、バイオセンサーチップ等)が用いられうる。ビーズを用いる場合、それらをカラムに充填してもよい。
【0080】
化学結合および物理的吸着のような一般的な方法に従って、タンパク質を支持体に結合させてもよい。または、タンパク質を特異的に認識する抗体を介して、タンパク質を支持体に結合させてもよい。さらに、アビジンおよびビオチン結合によって、タンパク質を支持体に結合させることもできる。
【0081】
例えば、上記のMLXポリペプチドのいずれかを用いてMLXポリペプチドに結合するタンパク質をスクリーニングする方法として、当業者に周知の多くの方法を用いることができる。そのようなスクリーニングは、例えば免疫沈降法を、特に以下の様式で行うことができる。
【0082】
免疫沈降において、免疫複合体は、適当な界面活性剤(detergent)を用いて調製した細胞溶解物に抗体を加えることによって形成される。スクリーニングのための免疫沈降に用いられる抗体は、MLXタンパク質1〜163のいずれかを認識する。または、認識部位(エピトープ)に融合したMLXタンパク質をスクリーニングに用いる場合、エピトープに対する抗体を免疫沈降のために用いてもよい。免疫複合体は、MLXタンパク質、MLXタンパク質との結合能を含むポリペプチド、および抗体からなる。
【0083】
免疫複合体は、抗体がマウスIgG抗体であれば、例えばプロテインAセファロースまたはプロテインGセファロースによって沈降させることができる。MLXポリペプチドをGSTなどのエピトープとの融合蛋白質として作製する場合には、これらのエピトープと特異的に結合する基質、例えばグルタチオン-セファロース4Bを用いて、MLXポリペプチドに対する抗体を用いる時と同じ様式で免疫複合体を形成させることができる。
【0084】
免疫沈降は、例えば、文献中に記載された方法に倣ってまたは従って行うことができる(HarlowおよびLane、「Antibodies」、511-52、Cold Spring Harbor Laboratory publications、New York (1988))。
【0085】
SDS-PAGEは免疫沈降したタンパク質の分析に一般に用いられており、結合したタンパク質はゲルを適切な濃度で用いてタンパク質の分子量によって分析することができる。MLXポリペプチドと結合したタンパク質をクーマシー染色または銀染色などの一般的な染色法によって検出することは困難であるため、タンパク質に関する検出感度は、放射性同位体である35S-メチオニンまたは35S-システインを含む培養液中で細胞を培養し、細胞内のタンパク質を標識した上でタンパク質を検出することによって改善することができる。タンパク質の分子量がわかっている場合には、標的タンパク質をSDS-ポリアクリルアミドゲルから直接精製して、その配列を決定することができる。
【0086】
ポリペプチドを用いる、MLXポリペプチドと結合するタンパク質のスクリーニングのための方法として、例えば、ウエスト-ウエスタンブロット分析(Skolnikら、Cell 65: 83-90 (1991))を用いることができる。具体的には、細胞、組織、臓器、またはMLXポリペプチドと結合するタンパク質を発現すると予想される培養細胞から、ファージベクター(例えば、ZAP)を用いてcDNAライブラリを作製し、タンパク質をLB-アガロース上で発現させ、発現したタンパク質をフィルター上に固定し、精製および標識されたMLXポリペプチドを上記のフィルターと反応させ、かつ、標識によって、MLXポリペプチドと結合したタンパク質を発現するプラークを検出することによって、MLXポリペプチドと結合するタンパク質を得ることができる。MLXポリペプチドは、ビオチンとアビジンとの結合を利用することにより、またはMLXポリペプチドと特異的に結合する抗体、もしくはMLXポリペプチドと融合したペプチドもしくはポリペプチド(例えば、GST)を利用することにより、標識しうる。本発明の方法における標識のために、放射性同位体(例えば3H、14C、32P、33P、35S、125I、131I)、酵素(例えばアルカリフォスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、β-グルコシダーゼ)、蛍光物質(例えばフルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミン)、およびビオチン/アビジンなどの標識物質を用いる方法を用いてもよい。MLXタンパク質を放射性同位体で標識する場合、液体シンチレーションにより、検出または測定を行うことが出来る。または、酵素基質を加えて、発色などの基質の酵素的変化を吸光光度計を用いて検出することによって、酵素で標識されたMLXタンパク質を検出または測定することができる。さらに、蛍光物質が標識として使用される場合、蛍光光度計を用いて結合タンパク質を検出または測定してもよい。
【0087】
または、本発明のスクリーニング方法のもう1つの態様において、細胞を利用するツーハイブリッド系を用いることもできる("MATCHMAKER Two-Hybrid system""Mammalian MATCHMAKER Two-Hybrid Assay Kit"および"MATCHMAKER one-Hybrid system"(Clontech);"HybriZAP Two-Hybrid Vector System"(Stratagene);参考文献「DaltonおよびTreisman、Cell 68: 597-612 (1992)」「FieldsおよびSternglanz、Trends Genet 10: 286-92 (1994)」)。
【0088】
ツーハイブリッド系では、MLXポリペプチドをSRF結合領域またはGAL4結合領域と融合させて、酵母細胞で発現させる。ライブラリが発現したらVP16またはGAL4転写活性化領域と融合するように、MLXポリペプチドと結合するタンパク質を発現すると予想される細胞からcDNAライブラリを調製する。続いてcDNAライブラリを上記の酵母細胞に導入し、検出された陽性クローンからライブラリに由来するcDNAを単離する(MLXポリペプチドと結合するタンパク質を酵母細胞で発現させる場合には、この2つの結合によってレポーター遺伝子が活性化され、陽性クローンが検出されるようになる)。cDNAによってコードされるタンパク質は、以上のようにして単離したcDNAを大腸菌に導入してタンパク質を発現させることによって調製しうる。
【0089】
レポーター遺伝子としては、HIS3遺伝子のほかに、例えば、Ade2遺伝子、lacZ遺伝子、CAT遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子などを用いることができる。
【0090】
MLXポリペプチドと結合する化合物を、アフィニティークロマトグラフィーを用いてスクリーニングすることもできる。例えば、MLXポリペプチドをアフィニティーカラムの担体上に固定化し、MLXポリペプチドと結合しうるタンパク質を含む被験化合物をカラムに対して適用してもよい。本明細書における被験化合物は、例えば、細胞抽出物、細胞可溶化物などであってよい。被験化合物のローディング後に、カラムを洗浄し、MLXポリペプチドと結合した化合物を調製することができる。
【0091】
被験化合物がタンパク質である場合には、得られたタンパク質のアミノ酸配列を分析して、その配列に基づいてオリゴDNAを合成し、そのオリゴDNAを、タンパク質をコードするDNAを得るためのプローブとして用いて、cDNAライブラリをスクリーニングする。
【0092】
表面プラスモン共鳴現象を利用するバイオセンサーを、結合した化合物の検出または定量のための手段として本発明に用いることもできる。このようなバイオセンサーを用いると、ごく微量のポリペプチドのみを用いて、標識を行わずに、MLXポリペプチドと被験化合物との相互作用を表面プラスモン共鳴シグナルとしてリアルタイムに観察することができる(例えば、BIAcore、Pharmacia)。このため、BIAcoreなどのバイオセンサーを用いて、MLXポリペプチドと被験化合物との結合を評価することが可能である。
【0093】
固定化されたMLXポリペプチドを合成化合物、または天然物バンク、またはランダムなファージペプチドディスプレイライブラリに対して曝露させた場合に結合する分子をスクリーニングする方法、または、MLXタンパク質と結合するタンパク質だけでなく化合物(アンタゴニストを含む)も単離するための、コンビナトリアル化学に基づくハイスループット技法を用いたスクリーニング方法(Wrightonら、Science 273: 458-64 (1996);Verdine、Nature 384: 11-13 (1996);Hogan、Nature 384: 17-9 (1996))は当業者に周知である。
【0094】
スクリーニングによって単離された化合物は、結腸直腸癌の治療用、または結腸直腸癌の転移の予防用に、MLXポリペプチドの活性を阻害する薬物の候補となる。MLXポリペプチドに結合する活性を有する本発明のスクリーニング法によって得られた化合物の構造の一部が、付加、欠失、および/または置換によって変換されている化合物は、本発明のスクリーニング法によって得られた化合物に含まれる。
【0095】
または、MLXポリペプチドの生物活性が本発明のスクリーニングにおいて検出される場合、本スクリーニングによって単離された化合物は、MLXポリペプチドのアンタゴニストの候補物質となる。「アンタゴニスト」という用語は、それに結合することによってMLXポリペプチドの機能を阻害する分子を指す。さらに、本スクリーニングによって単離された化合物は、MLXポリペプチドと分子(DNAおよびタンパク質を含む)とのインビボ相互作用を阻害する化合物の候補物質となる。
【0096】
本発明の方法において検出対象となる生物活性が細胞増殖である場合、検出は、例えば、MLXポリペプチドを発現する細胞の調製、被験化合物の存在下での細胞の培養、および、細胞増殖の速度の決定、細胞周期の測定等、ならびに、コロニー形成活性の測定によって行われうる。
【0097】
上記のスクリーニングによって単離された化合物は、MLXポリペプチドの活性を阻害する薬物の候補物質であり、結腸直腸癌の治療および結腸直腸癌の転移の予防のために適用されうる。その上、MLXタンパク質の活性を阻害する化合物の構造の一部が付加、欠失、および/または置換によって変換されている化合物も同様に、本発明のスクリーニング法によって得ることができる化合物に含まれる。
【0098】
さらなる態様において、本発明は、結腸直腸癌の治療および結腸直腸癌の転移の予防において標的となる可能性がある候補物質をスクリーニングする方法を提供する。本方法は、候補治療物質が、転移病変を有する原発性結腸直腸癌に特徴的なMLX1〜MLX163の発現プロフィールを、転移病変を有さない結腸直腸癌状態を示すパターンに変換させるか否かを決定するための、候補治療物質のスクリーニングに基づく。上記において詳細に考察したように、MLX1〜MLX163の発現レベルを制御することによって、結腸直腸癌の発症および進行ならびに結腸直腸癌の転移を制御することができる。したがって、結腸直腸癌の治療または結腸直腸癌の転移の予防において標的となる可能性がある候補物質は、指標としてMLXポリペプチドの発現レベルおよび活性を用いるスクリーニングによって同定することができる。本発明の文脈において、そのようなスクリーニングは、例えば以下の段階を含んでもよい:(a)一つまたは複数のマーカー遺伝子を発現する細胞に、被験化合物を接触させる段階;および(b)被験化合物の非存在下で検出される発現レベルと比較してマーカー遺伝子の発現レベルを低下させる化合物を選択する段階。
【0099】
マーカー遺伝子を少なくとも一つ発現する細胞には、例えば、結腸直腸癌から、好ましくは原発性結腸直腸癌細胞から確立された細胞株が含まれる。例えば、細胞は、原発性結腸直腸癌細胞に由来する不死化細胞株である。スクリーニングのためのマーカー遺伝子は、MLX1〜MLX163をコードする遺伝子の群から選択される。
【0100】
発現レベルは、当業者に周知の方法によって推定することができる。スクリーニング法において、少なくとも一つのMLX遺伝子の発現レベルを低下させる化合物を、候補物質として選択することができる。正常対照レベルと比較した発現の減少は、その物質が、結腸直腸癌関連アップレギュレート遺伝子の転移病変の阻害剤であって、結腸直腸癌の転移病変の発生を阻害するために有用であることを示す。過剰発現された遺伝子の発現を抑制するために有効な物質は、臨床的恩典をもたらすと考えられ、そのような化合物を、転移または癌細胞増殖を阻害する能力に関してさらに試験することができる。
【0101】
さらに、このスクリーニング法に基づいて、一つまたは複数のマーカー遺伝子を発現する細胞として、被験者由来の被験細胞集団を用いて、被験者すなわち特定の個体にとって適当な、結腸直腸癌を治療するまたは結腸直腸癌の転移を予防する治療物質を選択することができる。
【0102】
個体の遺伝的構成の差によって、様々な薬物をそれぞれ代謝する能力に差が起こりうる。被験者中で、抗結腸直腸癌物質として作用するように代謝される物質は、転移状態の特徴から非転移状態の特徴である遺伝子発現パターンへの被験者の細胞における遺伝子発現パターン変化の誘導となって現れる。したがって、本明細書に開示された、差次的に発現されたMLX配列によって、被験者において物質が適切な抗結腸直腸癌物質であるか否かを決定するために選択された被験者由来の被験細胞集団において治療的または予防的な抗結腸直腸癌性と推定される物質を試験することができる。
【0103】
特定の被験者にとって適当な抗結腸直腸癌物質を同定するために、被験者由来の被験細胞集団を被験化合物に曝露して、MLX1〜MLX163配列の一つまたは複数の発現を決定する。
【0104】
被験細胞集団は、転移関連遺伝子を発現する結腸直腸癌細胞の原発性病変を含む。好ましくは、被験細胞は上皮細胞である。例えば、被験細胞集団を被験化合物の存在下でインキュベートして、被験細胞集団における一つまたは複数のMLX1〜MLX163配列の遺伝子発現パターンを測定して、一つまたは複数の参照プロフィール、例えば転移を伴う原発性結腸直腸癌の参照発現プロフィールまたは非転移性の結腸直腸癌参照発現プロフィールと比較する。結腸直腸癌の転移病変を含む参照細胞集団と比較して、被験細胞集団において一つまたは複数の配列MLX1〜MLX163の発現が増加するならば、物質に治療効果があることが示される。
【0105】
さらに、結腸直腸癌を治療するためまたは結腸直腸癌の転移を予防するための化合物をスクリーニングする方法のもう一つの態様において、本方法はMLX遺伝子のプロモーター領域を利用する。結腸直腸癌細胞におけるMLX遺伝子の発現を阻害する化合物は、MLXポリペプチドに関連した疾患、例えば結腸直腸癌の治療におよび結腸直腸癌の転移の予防に適用可能な候補薬物となると予想される。
【0106】
本スクリーニング法には以下の段階が含まれる:(1)レポーター遺伝子の上流にMLX1〜MLX163からなる群より選択される遺伝子の転写調節領域を含むベクターを構築する段階;(2)細胞を段階(1)のベクターによって形質転換する段階;(3)被験化合物を段階(2)の細胞に接触させる段階;(4)レポーター遺伝子の発現を検出する段階;および(5)被験化合物の非存在下での発現と比較してレポター遺伝子の発現を抑制する被験化合物を選択する段階。
【0107】
MLX遺伝子の転写調節領域は、プローブとしてヒトMLX遺伝子(MLX1〜MLX163;表1を参照されたい)の5'領域を用いて、ゲノムライブラリから得ることができる。その発現がスクリーニングにおいて検出できる限り、いずれのレポーター遺伝子をスクリーニングに用いてもよい。レポーター遺伝子の例には、β-gal遺伝子、CAT遺伝子、およびルシフェラーゼ遺伝子が含まれる。レポーター遺伝子のタイプに対応したレポーター遺伝子の発現の検出を行うことができる。ベクター導入の対象となる細胞に特に制限はないが、好ましい例には、転移を伴う結腸直腸癌の原発性病変に由来する細胞が含まれる。
【0108】
スクリーニングによって単離された化合物は、MLXタンパク質の発現を阻害する薬物の候補物質であり、結腸直腸癌の治療または結腸直腸癌の転移の予防に適用することができる。その上、MLXタンパク質の転写活性化を阻害する化合物の構造の一部が付加、欠失、置換、および/または挿入によって変換されている化合物も同様に、本発明のスクリーニング法によって得ることができる化合物に含まれる。
【0109】
任意の被験化合物、例えば細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物産物、海洋生物からの抽出物、植物抽出物、精製または粗タンパク質、ペプチド、非ペプチド化合物、合成低分子化合物、および天然化合物を、本発明のスクリーニング法において用いることができる。本発明の被験化合物はまた、以下を含む、当技術分野において既知の組み合わせライブラリにおける任意の多数のアプローチを用いて得られうる:生物学的ライブラリ;空間的に位置特定可能な平行固相または液相ライブラリ;脱重畳積分を必要とする合成ライブラリ法;「1ビーズ1化合物」ライブラリ法;およびアフィニティクロマトグラフィー選択を用いる合成ライブラリ法。生物学的ライブラリアプローチはペプチドライブラリに限定されるが、他の四つのアプローチは、ペプチドライブラリ、非ペプチドオリゴマーライブラリ、または化合物の低分子ライブラリに適用可能である(Lam、Anticancer Drug Des 12:145(1997))。分子ライブラリ合成法の例は、当技術分野において、例えば以下に記載されている:DeWittら、Proc Natl Acad Sci USA 90: 6909 (1993);Erbら、Proc Natl Acad Sci USA 91:11422 (1994);Zuckermannら、J Med Chem 37:2678 (1994);Choら、Science 261:1303(1993);Carrellら、Angew Chem Int Ed Engl 33:2059(1994);Carellら、Angew Chem Int Ed Engl 33:2061(1994);Gallopら、J Med Chem 37:1233 (1994)。化合物のライブラリは、 溶液中(例えば、Houghten、Bio Techniques 13:412(1992))、または、ビーズ上(Lam、Nature 354:82 (1991))、チップ上(Fodor、Nature 364:555 (1993))、細菌中(米国特許第5,223,409号)、胞子中(米国特許第5,571,698号;同第5,403,484号;および同第5,223,409号)、プラスミド中(Cullら、Proc Natl Acad Sci USA 89:1865(1992))、またはファージ中(ScottおよびSmith、Science 249:386(1990);Devlin、Science 249:404 (1990);Cwirlaら、Proc Natl Acad Sci USA 87:6378(1990);Felici、J Mol Biol 222:301(1991);米国特許出願第20020103360号)に提供されてもよい。
【0110】
キット
本発明にはまた、MLX検出試薬が含まれ、例えば、MLX核酸の一部と相補的であるオリゴヌクレオチド配列のような一つまたは複数のMLX核酸に特異的に結合するまたはこれを同定する核酸が含まれる。本試薬は、キットの形で共に包装される。試薬は、例えば核酸(固相マトリクスに結合されるか、またはそれらをマトリクスに結合させる試薬とは別に包装される)、対照試薬(陽性および/または陰性)、および/または検出標識は、別々の容器中に包装される。アッセイを行うための説明書(例えば、文書、テープ、VCR、CD-ROM等)をキットに含めてもよい。キットのアッセイ形式は、例えば、ノザンハイブリダイゼーションである。
【0111】
例えば、MLX検出試薬は、少なくとも一つのMLX検出部位を形成するために、多孔性小片のような固相マトリクスに固定される。多孔性小片の測定または検出領域には、核酸を含む多数の部位が含まれてもよい。被験小片はまた、陰性および/または陽性の対照部位を含んでもよい。または、対照部位は被験小片とは異なる小片上に存在してもよい。任意で、異なる検出部位は、異なる量の、すなわち、第一の検出部位ではより多い量、かつ次の部位ではより少ない量の固定された核酸を含んでもよい。被験試料を加えると、検出可能なシグナルを示す部位の数により、試料中に存在するMLXの量の定量的指標が提供される。検出部位は、任意の適切な検出可能な形状で形成してもよく、典型的には、被験小片の幅まで及ぶバーまたはドットの形状である。
【0112】
または、本キットは、核酸配列の一つまたは複数を含む核酸基質アレイを含む。アレイ上の核酸は、MLX1〜MLX163によって表される一つまたは複数の核酸を特異的に同定する。MLX1〜MLX163によって表される配列の2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、15個、20個、25個、40個、もしくは50個またはそれ以上の発現は、アレイ被験小片またはチップに結合するレベルによって同定される。基質アレイは、例えば、固相基質上、例えば米国特許第5,744,305号に記載の「チップ」上に存在しうる。
【0113】
アレイおよび複数性
本発明にはまた、一つまたは複数の核酸配列を含む核酸基質アレイが含まれる。アレイ上の核酸は、MLX1〜MLX163によって表される一つまたは複数の核酸配列に特異的に対応する。MLX1〜MLX163によって表される配列の2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、15個、20個、25個、40個、もしくは50個またはそれ以上の発現レベルは、アレイに対する核酸の結合を検出することによって同定される。
【0114】
本発明にはまた、単離された複数の核酸配列(すなわち、二つまたはそれ以上の核酸の混合物)が含まれる。本核酸配列は液相中または固相中にあってもよく、例えばニトロセルロース膜のような固相支持体に固定される。複数性には、MLX1〜MLX163によって表される一つまたは複数の核酸配列が含まれる。様々な態様において、複数性には、MLX1〜MLX163によって表される2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、15個、20個、25個、40個、もしくは50個またはそれ以上の配列が含まれる。
【0115】
チップ
DNAチップは、同時に多数の遺伝子の発現レベルを比較するのに便利な装置である。DNAチップに基づく発現プロファイリングは、例えば「Microarray Biochip Technology」(Mark Schena、イートンパブリッシング、2000)等に開示される方法によって行うことができる。
【0116】
DNAチップには、多数の遺伝子を検出するための固定化された高密度プローブが含まれる。したがって、多くの遺伝子の発現レベルを、1ラウンドの分析によって同時に推定することができる。すなわち、標本の発現プロフィールはDNAチップによって決定されうる。本発明のDNAチップに基づく方法は、以下の段階を含む:
(1)マーカー遺伝子に対応するaRNAまたはcDNAを合成する段階;
(2)aRNAまたはcDNAをマーカー遺伝子に関するプローブとハイブリダイズさせる段階;および
(3)プローブとハイブリダイズしたaRNAまたはcDNAを検出して、そのmRNA量を定量する段階。
【0117】
aRNAとは、RNAポリメラーゼによって鋳型cDNAから転写されたRNAを指す。DNAチップに基づく発現プロファイリング用のaRNA転写キットが市販されている。そのようなキットによって、T7 RNAポリメラーゼを用いて鋳型としてのT7プロモーター結合cDNAからaRNAを合成することができる。一方、ランダムプライマーを用いたPCRによって、mRNAから合成したcDNAを鋳型として用いてcDNAを増幅することができる。
【0118】
一方、DNAチップは、本発明のマーカー遺伝子を検出するための、その上部にスポットされたプローブを含む。DNAチップ上にスポットされるマーカー遺伝子の数に制限はない。例えば、本発明のマーカー遺伝子の5%またはそれ以上、好ましくは20%またはそれ以上、より好ましくは50%またはそれ以上、なおより好ましくは70%またはそれ以上を選択することができる。マーカー遺伝子に加えて、他の遺伝子をDNA分子チップ上にスポットすることもできる。例えば、その発現レベルがほとんど変化しない遺伝子のプローブを、DNAチップ上にスポットしてもよい。複数のチップ間または異なるアッセイ間でアッセイ結果を比較することを意図している場合、そのような遺伝子を用いてアッセイ結果を標準化することができる。
【0119】
プローブは、選択されたそれぞれのマーカー遺伝子に関して設計され、DNAチップ上にスポットされる。そのようなプローブは、例えばヌクレオチド残基5個〜50個を含むオリゴヌクレオチドであってもよい。DNAチップ上でそのようなオリゴヌクレオチドを合成する方法は、当業者に既知である。PCRによってまたは化学的に、より長いDNAを合成することができる。PCR等によって合成された長いDNAをスライドガラス上にスポットする方法も同様に、当業者に既知である。上記の方法によって得られるDNAチップは、本発明に従って結腸直腸癌の転移を診断するために用いることができる。
【0120】
調製されたDNAチップをaRNAに接触させた後、プローブとaRNAとのハイブリダイゼーションを検出する。aRNAは、蛍光色素によって予め標識することができる。Cy3(赤色)およびCy5(緑色)のような蛍光色素を用いてaRNAを標識することができる。被験者および対照由来のaRNAを、異なる蛍光色素によってそれぞれ標識する。両者の発現レベルの差を、シグナル強度の差に基づいて推定することができる。DNAチップ上の蛍光色素のシグナルをスキャナによって検出し、特殊なプログラムを用いて分析することができる。例えば、AffymetrixのSuiteは、DNAチップ分析のためのソフトウェアパッケージである。
【0121】
結腸直腸癌を治療するためまたは結腸直腸癌の転移を予防するための方法
本発明は、被験者において、結腸直腸癌の症状を軽減するため、結腸直腸癌の原発性病変の腫瘍の成長もしくは増殖を阻害するため、または結腸直腸癌の転移を阻害するための方法を提供する。治療化合物は、結腸直腸癌の転移病変を有するまたは発生のリスクを有する(または感受性を有する)被験者に対して、予防的または治療的に投与される。そのような被験者は、標準的な臨床法を用いて、または転移関連遺伝子、例えばMLX1〜MLX163の異常なレベルの発現もしくは活性を検出することによって同定される。予防的投与は、疾患もしくは障害が予防される、または代替的にはその進行が遅延するように、疾患の明白な臨床症状が現れる前に行われる。
【0122】
本明細書において「結腸直腸癌の転移の阻害」という句には、転移病変の発生の阻害が含まれ、ここで、転移病変の発生には、原発性部位からの癌細胞の放出、隣接血管への浸潤、血流を介した転移部位への輸送、ならびに上記のような遠位臓器への血管外遊出および/または梗塞のような、転移病変の形成および転移の促進を含む。
【0123】
本方法には、発現が異常に増加した遺伝子(「過剰発現された遺伝子」)の一つまたは複数の遺伝子産物の、発現、機能、またはその双方を減少させることが含まれる。発現は、当技術分野で既知のいくつかの方法のいずれによっても阻害される。例えば、本発明のスクリーニング法によってスクリーニングされた化合物を被験者に投与することによって、発現が阻害される。
【0124】
または、過剰発現された一つまたは複数の遺伝子の発現を阻害または拮抗する核酸、例えば過剰発現された一つまたは複数の遺伝子の発現を分解するアンチセンスオリゴヌクレオチドまたは低分子干渉RNA(siRNA)を被験者に投与することによって、発現が阻害されうる。
【0125】
そのような核酸には、ヒトMLXをコードするポリヌクレオチドまたはその相補鎖と特異的にハイブリダイズし、かつ少なくとも15ヌクレオチドを含むポリヌクレオチドが含まれる。本明細書において用いられる「特異的にハイブリダイズする」という句は、通常のハイブリダイゼーション条件で、好ましくはストリンジェントなハイブリダイゼーション条件で、他のタンパク質をコードするDNA分子との有意な交差ハイブリダイゼーションが起こらないことを意味する。
【0126】
過剰発現された遺伝子の一つまたは複数の遺伝子産物を阻害する好ましい核酸には、MLXタンパク質をコードするヌクレオチド配列内の任意の部位とハイブリダイズするアンチセンスオリゴヌクレオチドが含まれる。このアンチセンスオリゴヌクレオチドは、好ましくはMLXタンパク質をコードするヌクレオチド配列のうち連続した少なくとも15ヌクレオチドに対するものである。上記の連続した少なくとも15ヌクレオチドにおいて開始コドンを含む、上記のアンチセンスオリゴヌクレオチドが、さらにより好ましい。
【0127】
アンチセンスオリゴヌクレオチドの誘導体または改変産物を、アンチセンスオリゴヌクレオチドとして用いることができる。そのような改変産物の例には、メチル-ホスホネート型またはエチル-ホスホネート型のような低級アルキルホスホネート改変産物、ホスホロチオエート改変産物、およびホスホロアミデート改変産物が含まれる。
【0128】
本明細書において用いられる「アンチセンスオリゴヌクレオチド」という用語は、DNAまたはmRNAの特定の領域を構成するものに対応するヌクレオチドが完全に相補的であるオリゴヌクレオチドのみならず、DNAまたはmRNAおよびアンチセンスオリゴヌクレオチドがMLXタンパク質をコードするヌクレオチド配列と特異的にハイブリダイズできる限り、一つまたは複数のヌクレオチドのミスマッチを有するものも意味する。
【0129】
少なくとも70%またはそれ以上、好ましくは80%またはそれ以上、より好ましくは90%またはそれ以上、さらにより好ましくは95%またはそれ以上の相同性を有する場合、ポリヌクレオチドは、「連続した少なくとも15ヌクレオチド配列領域」に含まれる。本明細書において述べたアルゴリズムを用いて、相同性を決定することができる。
【0130】
アンチセンスオリゴヌクレオチド誘導体は、MLXポリペプチドをコードするDNAまたはmRNAに結合して、その転写または翻訳を阻害し、mRNAの分解を促進して、MLXポリペプチドの発現を阻害し、それによってMLXポリペプチドの機能を阻害することによって、MLXポリペプチドを産生する細胞に作用する。
【0131】
過剰発現された遺伝子の一つまたは複数の遺伝子産物を阻害する核酸にはまた、MLXタンパク質をコードするヌクレオチド配列のセンス鎖の核酸とアンチセンス鎖核酸の組み合わせを含む、低分子干渉RNA(siRNA)も含まれる。
【0132】
「siRNA」という用語は、標的mRNAの翻訳を妨害する二本鎖RNA分子を指す。siRNAを細胞に導入するために、RNAを転写するための鋳型としてDNAが用いられる技術を含む、標準的な技術が用いられる。siRNAは、ヒトMLXタンパク質をコードするポリヌクレオチドのセンス核酸配列とアンチセンス核酸配列とを含む。一つの転写物(二本鎖RNA)が、標的遺伝子からのセンス配列と相補的アンチセンス配列の双方を有する(例えばヘアピン)ように、siRNAが構築される。
【0133】
本方法は、MLX遺伝子の発現がアップレギュレートされている細胞の遺伝子発現を抑制するために用いられる。標的細胞においてMLX遺伝子転写物にsiRNAが結合すると、細胞によるMLXタンパク質産生の減少が起こる。オリゴヌクレオチドの長さは、少なくとも10ヌクレオチドであり、天然に存在する転写物と同じ長さであってもよい。好ましくは、オリゴヌクレオチドの長さは19ヌクレオチド〜25ヌクレオチドである。最も好ましくは、オリゴヌクレオチドの長さは75ヌクレオチド未満、50ヌクレオチド未満、または25ヌクレオチド未満である。
【0134】
アンビオン社(Ambion)のウェブサイト(http://www.ambion.com/techlib/misc/siRNA_finder.html)から入手可能なsiRNAデザインコンピュータープログラムを用いてsiRNAのヌクレオチド配列を設計してもよい。siRNAのヌクレオチド配列は、以下のプロトコルに基づくコンピュータープログラムによって選択される。
【0135】
siRNA標的部位の選択:
1.転写物のAUG開始コドンから開始して、AAジヌクレオチド配列に関して下流にスキャンする。各AAおよび3'に隣接する19ヌクレオチドの発生を、可能性があるsiRNA標的部位として記録する。Tuschlらは、5'および3'非翻訳領域(UTRs)ならびに開始コドン近傍の領域(75塩基以内)は、調節タンパク質結合部位に富む可能性があり、このため、これらの領域に対して設計されたsiRNAとエンドヌクレアーゼとの複合体が、UTR結合タンパク質および/または翻訳開始複合体の結合を妨害する可能性があることから、これらに対するsiRNAを設計しないように推奨している。
2.ヒトゲノムデータベースに対して可能性がある標的部位を比較して、他のコード配列と有意な相同性を有する全ての標的配列を、検討から除外する。相同性検索はBLASTを用いて行うことができ、これは、NCBIのサーバー(www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)上で認められうる。
3.合成に適した標的配列を選択する。アンビオン社のウェブサイト上で、評価用の遺伝子の長さに沿って、いくつかの好ましい標的配列を選択することができる。
【0136】
または、過剰発現された遺伝子の一つまたは複数の遺伝子産物の機能は、遺伝子産物に結合する、またはさもなくばその機能を阻害する化合物を投与することによって阻害される。例えば、本化合物は、過剰発現された一つまたは複数の遺伝子産物に結合する抗体である。
【0137】
MLXポリペプチドと結合する抗体は、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体などの任意の形態であってよく、これにはウサギなどの動物をMLXポリペプチドで免疫することによって得られる抗血清、すべてのクラスのポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体、ヒト抗体、ならびに遺伝子組換えによって作製されたヒト化抗体が含まれる。
【0138】
抗体を得るための抗原として用いられるMLXポリペプチドは、任意の動物種に由来するものでよいが、好ましくはヒト、マウス、またはラットなどの哺乳動物、より好ましくはヒトに由来する。ヒト由来のポリペプチドは、本明細書に開示するヌクレオチドまたはアミノ酸配列から入手しうる(表1を参照されたい)。
【0139】
本発明によれば、免疫化抗原として用いるポリペプチドは、完全タンパク質でもよく、またはタンパク質の部分ペプチドでもよい。部分ペプチドは、例えば、MLXポリペプチドのアミノ(N)末端またはカルボキシ(C)末端断片を含みうる。本明細書において、抗体とは、MLXポリペプチドの完全長または断片のいずれかと反応するタンパク質として定義される。
【0140】
MLXポリペプチドまたはその断片をコードする遺伝子を既知の発現ベクターに挿入してもよく、これはその後、本明細書に記載の宿主細胞の形質転換に用いられる。所望のポリペプチドまたはその断片を、任意の標準的な方法によって宿主細胞の内部または外部から回収し、後に抗原として用いることができる。または、ポリペプチドを発現する細胞全体もしくはその可溶化物、または化学合成したポリペプチドを抗原として用いてもよい。
【0141】
いかなる哺乳動物も抗原で免疫することができるが、細胞融合に用いる親細胞との適合性を考慮に入れることが好ましい。一般に、齧歯類(Rodentia)、ウサギ目(Lagomorpha)、または霊長類(Primate)の動物が用いられる。齧歯類の動物には、例えば、マウス、ラット、およびハムスターが含まれる。ウサギ目の動物には、例えばウサギが含まれる。霊長類の動物には、例えば、狭鼻猿類(Catarrhini)(旧世界サル)のサル、カニクイザル(Macaca fascicularis)、アカゲザル、マントヒヒ(sacred baboon)およびチンパンジーが含まれる。
【0142】
動物を抗原で免疫するための方法は当技術分野で周知である。抗原の腹腔内注射または皮下注射は、哺乳動物の免疫化のための標準的な方法である。より具体的に述べると、抗原を希釈して適切な量のリン酸緩衝食塩水(PBS)、生理食塩水などの中に懸濁させる。必要に応じて、抗原懸濁液を、フロイント完全アジュバントなどの適切な量の標準的アジュバントと混合して乳濁液とした上で哺乳動物に対して投与してもよい。その後に、適切な量のフロイント不完全アジュバントと混合した抗原の投与を4〜21日毎に数回行うことが好ましい。適切な担体を免疫化のために用いてもよい。上記のような免疫化の後に、血清を、所望の抗体の量の増加に関して標準的方法によって検討する。
【0143】
MLXポリペプチドに対するポリクローナル抗体を、血清中の所望の抗体の増加に関して検討した免疫後の哺乳動物から血液を採取し、従来の任意の方法によって血液から血清を分離することによって調製することもできる。ポリクローナル抗体にはポリクローナル抗体を含む血清が含まれ、ポリクローナル抗体を含む画分を血清から単離することもできる。免疫グロブリンGまたはMは、MLXポリペプチドのみを認識する画分から、例えば、MLXポリペプチドを結合させたアフィニティーカラムを用いた上で、この画分をプロテインAカラムまたはプロテインGカラムを用いてさらに精製して、調製することができる。
【0144】
モノクローナル抗体を調製するためには、抗原で免疫した哺乳動物から免疫細胞を収集し、上記の通りに血清中の所望の抗体のレベル上昇について確かめた上で、細胞融合に供する。細胞融合に用いる免疫細胞は脾臓から入手することが好ましい。上記の免疫細胞と融合させるためのその他の好ましい親細胞には、例えば、哺乳動物の骨髄腫細胞、より好ましくは、薬剤による融合細胞の選択のための獲得特性を有する骨髄腫細胞が含まれる。
【0145】
上記の免疫細胞および骨髄腫細胞は、既知の方法、例えば、Milsteinら(GalfreおよびMilstein、Methods Enzymol 73: 3-46 (1981))の方法に従って融合させることができる。
【0146】
細胞融合によって得られたハイブリドーマは、それらをHAT培地(ヒポキサンチン、アミノプテリン、およびチミジンを含む培地)などの標準的な選択培地中で培養することによって選択しうる。細胞培養は通常、HAT培地中で、所望のハイブリドーマを除く他のすべての細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な期間である、数日間から数週間にわたって続けられる。その後に、所望の抗体を産生するハイブリドーマ細胞のスクリーニングおよびクローニングのために標準的な限界希釈を行う。
【0147】
ハイブリドーマ調製用に非ヒト動物を抗原で免疫する上記の方法に加えて、EBウイルスに感染したリンパ球などのヒトリンパ球を、ポリペプチド、ポリペプチド発現細胞、またはそれらの可溶化物によりインビトロで免疫することもできる。続いて、免疫後のリンパ球を、無限に分裂しうるU266などのヒト由来の骨髄腫細胞と融合させ、MLXポリペプチドと結合しうる所望のヒト抗体を産生するハイブリドーマを得ることができる(特開昭63-17688号)。
【0148】
得られたハイブリドーマを続いてマウスの腹腔内に移植し、腹水を抽出する。得られたモノクローナル抗体は、例えば、硫酸アンモニウム沈殿、プロテインAもしくはプロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、またはMLXポリペプチドを結合させたアフィニティーカラムによって精製しうる。抗体は、MLXポリペプチドのアンタゴニストの候補としてはたらき、かつ、この抗体を、MLXポリペプチドと関連のある疾患に対する抗体療法に適用することもできる。得られた抗体を人体に対して投与する場合には(抗体療法)、免疫原性を抑えるためにヒト抗体またはヒト化抗体が好ましい。
【0149】
例えば、ヒト抗体遺伝子のレパートリーを有するトランスジェニック動物は、ポリペプチド、ポリペプチド発現細胞、またはそれらの可溶化物から選択される抗原で免疫することができる。続いて、抗体産生細胞を動物から採取し、骨髄腫細胞と融合させてハイブリドーマを得、そのハイブリドーマからポリペプチドに対するヒト抗体を調製することができる(国際公開公報第92-03918号、国際公開公報第93-2227号、国際公開公報第94-02602号、国際公開公報第94-25585号、国際公開公報第96-33735号、および国際公開公報第96-34096号を参照のこと)。
【0150】
または、免疫したリンパ球のような、抗体を産生する免疫細胞を、癌遺伝子によって不死化させ、モノクローナル抗体の調製に用いることもできる。
【0151】
このようにして得られるモノクローナル抗体は、遺伝子操作技術を用いて組換えにより調製してもよい(例えば、BorrebaeckおよびLarrick、「Therapeutic Monoclonal Antibodies」、MacMillan Publishers LTD(英国)より刊行(1990)、を参照)。例えば、抗体をコードするDNAを、抗体を産生するハイブリドーマまたは免疫リンパ球などの免疫細胞からクローニングして適切なベクターに挿入した上で、宿主細胞に導入し、組換え抗体を調製することができる。
【0152】
さらに、結腸直腸癌を治療するためのまたは結腸直腸癌転移を予防するための本発明の方法に使用される抗体は、MLXポリペプチドの1つまたは複数と結合する限り、抗体の断片または修飾抗体であってもよい。例えば、抗体断片は、Fab、F(ab')2、Fv、またはH鎖およびL鎖由来のFv断片を適切なリンカーによって連結した一本鎖Fv(scFv)であってもよい(Hustonら、Proc Natl Acad Sci USA 85: 5879-83 (1988))。より具体的に述べると、パパインまたはペプシンなどの酵素で抗体を処理することによって抗体断片を作製することもできる。または、抗体断片をコードする遺伝子を構築して発現ベクターに挿入した上で、適切な宿主細胞において発現させてもよい(例えば、Coら、J Immunol 152: 2968-76 (1994);BetterおよびHorwitz、Methods Enzymol 178: 476-96 (1989);PluckthunおよびSkerra、Methods Enzymol 178: 497-515 (1989);Lamoyi、Methods Enzymol 121: 652-63 (1986);Rousseauxら、Methods Enzymol 121: 663-9 (1986);BirdおよびWalker、Trends Biotechnol 9: 132-7 (1991)を参照されたい)。
【0153】
抗体を、ポリエチレングリコール(PEG)などの種々の分子と結合させることによって修飾することもできる。修飾抗体は抗体を化学的に修飾することによって得ることができる。これらの修飾方法は当技術分野で慣例的である。
【0154】
または、抗体を、非ヒト抗体由来の可変領域とヒト抗体の定常領域とのキメラ抗体として、または、非ヒト抗体由来の相補性決定領域(CDR)、ヒト抗体由来のフレームワーク領域(FR)および定常領域を含むヒト化抗体として入手することもできる。このような抗体は、既知の技術を用いて調製可能である。
【0155】
以上のようにして得られた抗体を均一になるまで精製してもよい。例えば、抗体を、一般的なタンパク質に対して用いられる分離法および精製法に従って分離および精製することができる。例えば、アフィニティークロマトグラフィーなどのカラムクロマトグラフィー、フィルター、限外濾過、塩析、透析、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動など(しかし、これらには限定されない)を適切に選択・組み合わせることにより、抗体を分離および単離することができる(「A Laboratory Manual」、HarlowおよびDavid Lane編、Cold Spring Harbor Laboratory (1988))。プロテインAカラムおよびプロテインGカラムはアフィニティーカラムとして用いられうる。用いられるプロテインAカラムの例には、例えば、ハイパーD、POROSおよびセファロースF.F.(Pharmacia)が含まれる。
【0156】
クロマトグラフィーの例には、アフィニティークロマトグラフィーを除いて、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィーなどが含まれる(「Strategies for Protein Purification and Characterization: A Laboratory Course Manual」、Daniel R. Marshakら編、Cold Spring Harbor Laboratory Press (1996))。クロマトグラフィーの手順を、HPLCおよびFPLCなどの液相クロマトグラフィーによって行うこともできる。
【0157】
例えば、吸光度測定、酵素結合免疫吸着アッセイ法(ELISA)、酵素免疫アッセイ法(EIA)、放射免疫アッセイ法(RIA)および/または免疫蛍光検査法を用いて、MLXタンパク質に対する抗体の抗原結合活性を測定することができる。ELISAにおいては、抗体をプレート上に固定化し、MLXポリペプチドをプレートに添加した後に、抗体産生細胞の培養上清または精製抗体といった所望の抗体を含む試料を添加する。続いて、一次抗体を認識し、アルカリホスファターゼなどの酵素で標識された二次抗体を添加し、プレートをインキュベートする。次に、洗浄の後に、p-ニトロフェニルリン酸などの酵素基質をプレートに添加して、試料の抗原結合活性を評価するために吸光度を測定する。C末端断片またはN末端断片といったポリペプチドの断片を、抗体の結合活性を評価するための抗原として用いてもよい。BIAcore(Pharmacia)を、MLXタンパク質に対する抗体の活性の評価に用いてもよい。
【0158】
本発明は、MLXポリペプチドに対する抗体を用いて、結腸直腸癌を治療するためまたは結腸直腸癌の転移を予防するための方法を提供する。本方法によると、MLXポリペプチドに対する抗体の薬学的有効量が投与される。MLXタンパク質の発現は転移を伴う結腸直腸癌細胞においてアップレギュレートされており、かつこれらのタンパク質の発現の抑制により、転移、細胞増殖または成長活性が減少すると予想されるので、抗体とこれらのタンパク質とを結合させることによって、結腸直腸癌を治療することができると予想され、または結腸直腸癌の転移を抑制もしくは予防することができると予想される。したがって、MLXポリペプチドに対する抗体は、MLXタンパク質の活性を減少させるために十分な用量で投与される。または、腫瘍細胞に対して特異的な細胞表面マーカーに結合する抗体を、薬物送達のためのツールとして用いることができる。したがって、例えば、細胞障害物質に結合させたMLXポリペプチドに対する抗体を、腫瘍細胞を障害するために十分な用量で投与してもよい。
【0159】
さらに、本発明は、MLXポリペプチドまたはそのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを投与することによって、結腸直腸癌を治療するためまたは結腸直腸癌の転移を予防するための方法を提供する。MLXタンパク質およびその免疫学的活性断片は、結腸直腸癌または結腸直腸癌の転移に対するワクチンとして有用である。したがって、本発明はまた、MLXタンパク質もしくはその免疫学的活性断片、タンパク質もしくはその断片をコードするポリヌクレオチド、またはポリヌクレオチドもしくはその断片を含むベクターを投与する段階を含む、抗腫瘍免疫を誘導する方法にも関する。いくつかの場合において、タンパク質またはその断片は、T細胞受容体(TCR)に結合した形で、または、マクロファージ、樹状細胞(DC)もしくはB細胞のような抗原提示細胞(APC)によって提示された形で投与されうる。DCは強い抗原提示能を有するので、APCの中でDCを用いることが最も好ましい。
【0160】
本発明において、結腸直腸癌または結腸直腸癌の転移に対するワクチンとは、動物に接種された場合に抗腫瘍免疫または転移を抑制する免疫を誘導する機能を有する基質を指す。一般に、抗腫瘍免疫には以下のような免疫応答が含まれる:
‐腫瘍に対する細胞障害性リンパ球の誘導
‐腫瘍を認識する抗体の誘導、および
‐抗腫瘍サイトカイン産生の誘導。
【0161】
このため、ある特定のタンパク質が、動物に接種した時にこれらの免疫応答を誘導する場合には、そのタンパク質は抗腫瘍免疫誘導作用を有すると判定される。タンパク質による抗腫瘍免疫の誘導は、宿主におけるタンパク質に対する免疫系の応答をインビボまたはインビトロで観察することによって検出しうる。
【0162】
例えば、細胞障害性Tリンパ球の誘導を検出するための方法はよく知られている。生体の内部に進入する外来物質は、抗原提示細胞(APC)の作用によってT細胞およびB細胞に対して提示される。APCにより提示された抗原に対して抗原特異的な様式で応答したT細胞は、抗原による刺激のために細胞障害性T細胞(または細胞障害性Tリンパ球;CTL)に分化した後に増殖する(これはT細胞の活性化と呼ばれる)。したがって、特定のペプチドによるCTL誘導は、そのペプチドをAPCによりT細胞に対して提示させ、CTLの誘導を検出することによって評価することができる。さらに、APCにはCD4+ T細胞、CD8+ T細胞、マクロファージ、好酸球およびNK細胞を活性化する作用もある。CD4+ T細胞およびCD8+ T細胞も抗腫瘍免疫において重要であるため、これらの細胞の活性化作用を指標として用いてペプチドの抗腫瘍免疫誘導作用を評価することができる。
【0163】
樹状細胞(DC)をAPCとして用いてCTLの誘導作用を評価するための方法は当技術分野で周知である。DCはAPCの中でも最も強いCTL誘導作用を有する代表的なAPCである。この方法では、まず被験ポリペプチドをDCと接触させ、続いてこのDCをT細胞と接触させる。DCとの接触後に目的の細胞に対する細胞障害作用を有するT細胞が検出されれば、被験ポリペプチドが細胞障害性T細胞を誘導する活性を持つことが示される。腫瘍に対するCTLの活性は、例えば、51Cr標識した腫瘍細胞の溶解を指標として用いて検出することができる。または、3H-チミジン取り込み活性またはLDH(ラクトースデヒドロゲナーゼ)放出を指標として用いて腫瘍細胞の損傷の程度を評価する方法もよく知られている。
【0164】
DC以外に、末梢血単核細胞(PBMC)をAPCとして用いてもよい。CTLの誘導は、PBMCをGM-CSFおよびIL-4の存在下で培養することによって増強されうることが報告されている。同様に、CTLは、PBMCをキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)およびIL-7の存在下で培養することによっても誘導されることが示されている。
【0165】
これらの方法によってCTL誘導活性を有することが確認された被験ポリペプチドは、DC活性化作用とそれに続くCTL誘導活性とを有するポリペプチドである。このため、腫瘍細胞に対するCTLを誘導するポリペプチドは腫瘍に対するワクチンとして有用である。さらに、ポリペプチドとの接触によって腫瘍に対するCTLを誘導する能力を獲得したAPCも腫瘍に対するワクチンとして有用である。さらに、APCによるポリペプチド抗原の提示によって細胞障害性を獲得したCTLを腫瘍に対するワクチンとして用いることもできる。APCおよびCTLに起因する抗腫瘍免疫を用いた、腫瘍に対するこのような治療方法は、細胞免疫療法と呼ばれる。
【0166】
一般に、細胞免疫療法のためにポリペプチドを用いる場合には、構造の異なる複数のポリペプチドを併用し、それらをDCと接触させることによってCTL誘導の効率が高まることが知られている。このため、DCをタンパク質断片で刺激する場合には、多くの種類の断片の混合物を用いることが有利である。
【0167】
または、ポリペプチドによる抗腫瘍免疫の誘導を、腫瘍に対する抗体産生の誘導を観察することによって確認することもできる。例えば、ポリペプチドに対する抗体が、ポリペプチドで免疫した実験動物において誘導された場合、および腫瘍細胞の成長、増殖、または転移がこのような抗体によって抑制された場合には、そのポリペプチドは抗腫瘍免疫を誘導する能力があると判定することができる。
【0168】
抗腫瘍免疫は本発明のワクチンを投与することによって誘導され、抗腫瘍免疫の誘導により、結腸直腸癌の治療および結腸直腸癌転移の予防が可能になる。癌に対する治療法または癌の発症もしくは癌の転移の予防は、癌性細胞の増殖の阻害、癌の退縮、ならびに癌の発症および癌の転移の抑制といった段階のいずれかを含む。癌を有する個体の死亡率の低下、血液中の腫瘍マーカーの減少、癌に付随する検出可能な症状の緩和なども癌の治療または予防に含まれる。このような治療効果および予防効果は統計学的に有意であることが好ましい。例えば、観測値で、細胞増殖性疾患に対するワクチンの治療効果または予防効果をワクチン投与を行わない対照と比較して、5%またはそれ未満は有意水準である。統計分析には、例えば、スチューデントのt検定、マン-ホイットニーのU検定またはANOVAが用いられうる。
【0169】
免疫学的活性を有する上記のタンパク質、またはタンパク質をコードするポリヌクレオチドもしくはベクターを、アジュバントと併用してもよい。アジュバントとは、免疫学的活性を有するタンパク質と同時に(または連続して)投与した場合に、そのタンパク質に対する免疫応答を増強する化合物を指す。アジュバントの例には、コレラ毒素、サルモネラ毒素、ミョウバンなどが含まれるが、これらには限定されない。さらに、本発明のワクチンを薬学的に許容される担体と適宜配合してもよい。このような担体の例には、滅菌水、生理食塩水、リン酸緩衝液、培養液などが含まれる。さらに、ワクチンが必要に応じて、安定剤、懸濁剤、保存料、界面活性剤などを含んでもよい。ワクチンは全身的または局所的に投与される。ワクチン投与は単回投与によって行ってもよく、または多回投与による追加刺激を行ってもよい。
【0170】
APCまたはCTLを本発明のワクチンとして用いる場合に、腫瘍を、例えばエクスビボの方法によって治療または予防することができる。より具体的に述べると、治療または予防を受ける対象のPBMCを採取し、細胞をエクスビボでポリペプチドと接触させ、APCまたはCTLの誘導後に、細胞を対象に対して投与することができる。ポリペプチドをコードするベクターをPBMC中にエクスビボで導入することによってAPCを誘導することもできる。インビトロで誘導されたAPCまたはCTLは投与前にクローニングすることができる。標的細胞を障害する活性の高い細胞のクローニングおよび増殖を行うことにより、細胞免疫療法をさらに効率的に行うことができる。さらに、このようにして単離されたAPCおよびCTLは、細胞が由来する個体における細胞免疫療法のみならず、他の個体の同様の種類の腫瘍にも用いられうる。
【0171】
結腸直腸癌を治療するためまたは結腸直腸癌の転移を予防するための組成物
結腸直腸癌を治療するためまたは結腸直腸癌の転移を予防するために、本発明のスクリーニング法によって単離された化合物を、ヒトおよび、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、サル、ヒヒ、またはチンパンジーなどの他の哺乳類に対する薬剤として投与する場合、単離された化合物を直接投与してもよく、または、既知の薬学的調製法を用いて投与剤形へと処方することもできる。
【0172】
薬学的製剤には、経口投与、直腸内投与、鼻腔内投与、局所(口腔内および舌下を含む)投与、膣内投与、もしくは非経口(筋肉内、皮下、および静脈内を含む)投与に適した製剤、または吸入もしくは吹き込みによる投与に適した製剤が含まれる。製剤は、任意で、個々の用量単位に包装される。
【0173】
経口投与に適した薬学的製剤には、それぞれ既定量の活性成分を含む、カプセル剤、カシェ剤、または錠剤が含まれる。製剤にはまた、粉剤、顆粒剤、または溶液、懸濁液もしくは乳剤が含まれる。活性成分は任意で、ボーラス舐剤(bolus electuary)または軟膏として投与される。経口投与のための錠剤およびカプセル剤は、結合剤、増量剤、潤滑剤、崩壊剤、または湿潤剤のような通常の賦形剤を含んでもよい。錠剤は、任意で、一つまたは複数の製剤成分と共に、圧縮または成形によって調製されうる。圧縮錠は、任意で、結合剤、潤滑剤、不活性希釈剤、潤滑剤、界面活性剤、または分散剤と混合された、粉剤または顆粒剤のような自由に流動する形状の活性成分を適切な機械で圧縮することによって調製されうる。成形された錠剤は、不活性液体希釈剤によって湿らせた粉末化合物の混合物を適切な機械で成形することによって調製されうる。錠剤を、当技術分野で周知の方法に従ってコーティングしてもよい。経口液体調製物は、例えば、水性もしくは油性の懸濁液、溶液、乳液、シロップ剤、もしくはエリキシル剤の形であってもよく、または、使用前に水もしくは他の適切な溶媒によって溶解するための乾燥産物として提供されてもよい。そのような液体調製物は、懸濁剤、乳化剤、非水性溶媒(食用油が含まれてもよい)、または保存剤のような通常の添加剤を含んでもよい。任意で、その中の活性成分が遅延型または制御型放出されるように、錠剤を調製してもよい。錠剤の包装は、毎月摂取される錠剤1個を含んでもよい。
【0174】
非経口投与のための製剤には、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、および、製剤を意図するレシピエントの血液と等張にする溶質を含んでもよい、水性および非水性の滅菌注射用溶液、ならびに、懸濁剤および濃化剤を含んでもよい、水性および非水性の滅菌懸濁液が含まれる。製剤は、単位用量または多用量容器、例えば密封アンプルおよびバイアルに入れてもよく、使用直前に滅菌液体担体、例えば生理食塩液、注射用水を加えるだけでよい、凍結乾燥状態で保存してもよい。または、製剤は、連続注入の形であってもよい。即時調合注射用溶液および懸濁液を、既に記載した種類の滅菌粉末、顆粒剤および錠剤から調製してもよい。
【0175】
直腸投与のための製剤には、カカオバターまたはポリエチレングリコールのような標準的な担体による坐剤が含まれる。口における局所投与、例えば口腔内投与または舌下投与のための製剤には、ショ糖およびアラビアゴムまたはトラガカントのような芳香性基剤に活性成分を含むロゼンジ、ゼラチンおよびグリセリンまたはショ糖およびアラビアゴムのような基剤に活性成分を含む香錠が含まれる。鼻腔内投与の場合、本発明の化合物を、液体スプレーもしくは分散粉末として、または点鼻液の形で用いてもよい。点鼻液は、一つまたは複数の分散剤、溶解剤、または懸濁剤も含む水性または非水性の基剤によって調製してもよい。
【0176】
吸入投与の場合、本化合物を、吹き込み器、ネブライザー、加圧パック、またはエアロゾルスプレーを送達するための他の簡便な手段から送達するのが好適である。加圧パックは、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素、または他の適切なガスのような適切な噴射剤を含んでもよい。加圧エアロゾルの場合、用量単位は、一定量を送達するための弁を提供することによって決定されうる。
【0177】
または、吸入または吹き込みによる投与の場合、化合物は、乾燥粉末組成物の形状、例えば、乳糖またはデンプンのような適切な粉末基剤と化合物との粉末混合物であってもよい。粉末組成物は、単位投与剤形で、例えばカプセル剤、カートリッジ、ゼラチン、または、吸入器または吹き込み器の助けを借りて粉末がそこから投与される、ブリスタパック(blister pack)の形で提供されてもよい。
【0178】
他の製剤には、治療物質を放出する埋め込み型装置および粘着小片が含まれる。
【0179】
望ましいならば、活性成分を持続的に放出するように適合させた上記の製剤を用いてもよい。薬学的組成物はまた、抗菌剤、免疫抑制剤、または保存剤のような他の活性成分を含んでもよい。
【0180】
特に上述した成分の他に、本発明の製剤には、当該製剤のタイプに関して当技術分野で一般的である他の物質が含まれてもよく、例えば経口投与に適した製剤には、一般的に容認される薬学的実践にとって必要な単位投与剤形において、芳香剤、界面活性剤、安定化剤、賦形剤、溶媒、保存剤、結合剤等が含まれてもよいことを理解すべきである。
【0181】
当業者に周知の方法を用いて、例えば動脈内、静脈内、経皮注射として、同様に鼻腔内、気管支内、筋肉内または経口投与として、本発明の薬学的組成物を患者に投与してもよい。投与量および投与法は、患者の体重および年齢ならびに投与法に従って変化するが、当業者はそれらを一般的に選択することができる。化合物がDNAによってコード可能な場合、DNAを遺伝子治療のためのベクターに挿入して、ベクターを投与して治療を行うことができる。投与量および投与法は、患者の体重、年齢および症状に応じて異なるが、当業者はそれらを適切に選択することができる。
【0182】
例えば、症状に応じていくつか違いはあるが、本発明のポリペプチドに結合してその活性を調節する化合物の用量は、健常な成人(体重60 kg)に経口投与する場合、約0.1 mg〜約100 mg/日、好ましくは約1.0 mg〜約50 mg/日、およびより好ましくは約1.0 mg〜約20 mg/日である。
【0183】
健常な成人(体重60 kg)に注射剤の形で非経口投与する場合、患者、標的臓器、症状および投与法に応じていくつか違いはあるが、約0.01 mg〜約30 mg/日、好ましくは約0.1〜約20 mg/日、およびより好ましくは約0.1〜約10 mg/日の用量を静脈内注射することが好適である。同様に、他の動物の場合においても、体重60 kgに換算した量を投与することが可能である。
【0184】
本発明は、活性成分として一つまたは複数のMLX遺伝子に対してアンチセンスオリゴヌクレオチド誘導体またはsiRNA誘導体を用いて、結腸直腸癌を治療するためまたは結腸直腸癌の転移を予防するための組成物を提供する。誘導体に対して不活性である適切な基剤と混合することによって、誘導体を、リニメントまたは湿布のような外用調製剤に調製してもよい。
【0185】
同様に、賦形剤、等張剤、溶解剤、安定化剤、保存剤、鎮痛剤等を加えることによって、誘導体を、必要に応じて、錠剤、粉剤、顆粒剤、カプセル剤、リポソームカプセル、注射剤、溶液、点鼻液、および凍結乾燥剤に調製することができる。これらは、以下の通常の方法によって調製されうる。
【0186】
疾患部位に直接塗布することによって、または疾患部位に達するように血管内に注射することによって、アンチセンスオリゴヌクレオチド誘導体またはsiRNA誘導体は患者に投与される。持続性および膜透過性を増加させるために、封入剤(mounting medium)も同様に用いてもよい。例としては、リポソーム、ポリ-L-リジン、脂質、コレステロール、リポフェクチン、またはこれらの誘導体が挙げられる。
【0187】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチド誘導体またはsiRNA誘導体の用量を、患者の病状に応じて適切に調節し、所望の量で用いることができる。例えば、0.1 mg/kg〜100 mg/kg、好ましくは0.1 mg/kg〜50 mg/kgの用量範囲を投与することができる。
【0188】
本発明はさらに、MLXタンパク質またはその断片に対する抗体を被験者に投与することによって、結腸直腸癌を治療するためまたは結腸直腸癌の転移を予防するための組成物を提供する。
【0189】
さらに、薬学的有効量のMLXポリペプチドを含む、結腸直腸癌を治療するためまたは結腸直腸癌の転移を予防するための組成物を提供する。MLXタンパク質を含む組成物は、抗腫瘍免疫性を高めるために用いることもできる。その上、結腸直腸癌を治療するためおよび結腸直腸癌の転移を予防するために、MLXタンパク質の代わりに、MLXタンパク質をコードするポリヌクレオチドまたはベクターを被験者に投与してもよい。MLXタンパク質をコードするポリヌクレオチドおよびベクターの形状は、それらが被験者においてMLXタンパク質またはその断片を発現し、被験者において抗腫瘍免疫を誘導する限り、如何なるようにも制限されない。
【0190】
例えば、症状に応じていくつか違いはあるが、結腸直腸癌を治療するためまたは結腸直腸癌の転移を予防するための抗体またはポリペプチドの用量は、健常な成人(体重60 kg)に経口投与する場合、約0.1 mg〜約100 mg/日、好ましくは約1.0 mg〜約50 mg/日、およびより好ましくは約1.0 mg〜約20 mg/日である。
【0191】
健常な成人(体重60 kg)に対する注射剤の形で非経口投与する場合、患者、標的臓器、症状および投与法に応じていくつか違いはあるが、約0.01 mg〜約30 mg/日、好ましくは約0.1〜約20 mg/日、およびより好ましくは約0.1〜約10 mg/日の用量を静脈内注射することが好適である。同様に、他の動物の場合においても、体重60 kgに換算した量を投与することが可能である。
【0192】
以下の実施例は、本発明を例示するとともに、当業者によるその作成および使用を補助する目的で提示される。実施例はいかなる形でも本発明の範囲を限定することは意図していない。
【0193】
別に定義する場合を除き、本明細書で用いるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する当業者が一般的に理解しているものと同じ意味を持つ。本発明の実施または検討においては本明細書に記載したものと同様または同等の方法および材料を用いることができるが、好ましい方法および材料は以下に説明するものである。本明細書中に引用するいかなる特許、特許出願および刊行物も参照として本明細書に組み入れられる。
【0194】
発明を実施するための最良の形態
本発明は以下の実施例によって詳細に例示されるが、これらの実施例には限定されない。
【0195】
1.材料および方法
(1)組織試料およびレーザー捕捉型顕微解剖(LCM)
インフォームドコンセントを得たうえで、同じ手術において結腸切除と肝切除とを受けた患者15人から、原発性CRC組織および対応する非癌性粘膜を得た。肝転移を伴わない原発性CRC組織および対応する非癌性粘膜は、インフォームドコンセントを得たうえで、結腸切除を受けた患者11人から得た。良性腺腫9例は、インフォームドコンセントを得たうえで、癌患者の、または内視鏡ポリープ切除による腫瘍の切除標本から得た。試料は全て、TissueTek OCT培地(Sakura、Tokyo、日本)に抱埋して、-80℃で凍結した。後に、凍結切片を70%エタノール中で45秒間固定して、ヘマトキシリン-エオジンによって染色し、70:30、50:50、および30:70のエタノール:キシレン混合液中で各段階30秒間脱水した後、最後に100%キシレン中で2分間脱水した。空気乾燥させた後、染色した組織をPixCell LCMシステム(Arcturus Engineering、Mountain View、CA)を用いて製造元のプロトコルに従って顕微解剖した。原発性病変由来の癌性細胞を選択的に顕微解剖した(各試料から、細胞約2×104個)。
【0196】
(2)RNA抽出およびT7に基づくRNA増幅
総RNAを各試料のレーザー捕捉型細胞からRLT溶解緩衝液350 μlを用いて抽出した(Qiagen、Hilden、独国)。抽出したRNAを、1UのRNase阻害剤(東洋紡、大阪、日本)存在下で、DNaseI(Roshe、Basel、スイス)10単位によって37℃で1時間処理して、混入している全てのゲノムDNAを除去した。70℃で10分間不活化した後、RNAをRNeasy Miniキット(Qiagen)によって製造元の推奨に従って精製した。全てのDNaseI処置RNAを、既に記載されたT7に基づく増幅に供した(Onoら、Cancer Res. 60:5007〜11(2000))。2ラウンドの増幅によって、各試料由来の増幅RNA(aRNA)15 μg〜80 μgが得られた。
【0197】
(3)cDNAマイクロアレイの構築と分析
国立バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information)のUniGeneデータベースから、いくつかのESTを含む23040個の別々のcDNA を選択した。マイクロアレイスライドガラス上にスポットされたDNAは、遺伝子特異的プライマー組および、鋳型としての市販のポリA RNA(Clontech、Palo Alto、カリフォルニア州)の混合物を用いたRT-PCRによって調製された(Onoら、Cancer Res. 60:5007〜11(2000))。産物をアガロースゲル上での電気泳動に適用して、予想される大きさの単一のバンドを示す産物をスポッティングのために利用した。遺伝子23040個に由来する、無作為に選択した産物2485個のさらなる配列分析から、そのcDNA配列の完全な一致が示された。
【0198】
実験による変動を減少させるために、2組のcDNAスポットを発現プロフィールの分析に用いた。各原発性腫瘍および正常上皮由来のaRNAのアリコート3 μgをそれぞれ、Cy3-dCTPおよびCy5-dCTP(Amersham Pharmacia Biotech)によって標識して、原発性病変と非癌性粘膜との発現を比較した。等量のCy3標識プローブおよびCy5標識プローブをマイクロアレイスライドガラス上で同時にハイブリダイズさせた。ハイブリダイゼーション、洗浄、およびスキャニングは、既に記載されているとおりに行った(Onoら、Cancer Res. 60:5007〜11(2000))。
【0199】
(4)データ分析
それぞれ二通りのシグナルの強度を、Array Visionコンピュータープログラム(Imaging Research Inc.、St. Catharines、オンタリオ州、カナダ)による光度測定によって評価して、マイクロアレイスライドガラスにスポットしたハウスキーピング遺伝子52個のCy3/Cy5比の平均値が1.0となるように標準化した(Kitaharaら、Cancer Res. 61:3544〜9(2001);Onoら、Cancer Res. 60:5007〜11(2000))。低いシグナル強度に由来するデータは信頼性が低いため、シグナル強度のカットオフ値がそれぞれのスライドガラスについて決定され、遺伝子全てのCy3またはCy5のS/N(シグナル対ノイズ)比が3より大きくなるようにふるい分けし、Cy3およびCy5の色素がいずれもカットオフ値より低いシグナル強度を生じた場合、その遺伝子をさらなる分析から除外した。各遺伝子のCy3/Cy5比は、二つのスポットを平均することによって計算した(Kitaharaら、Cancer Res. 61:3544〜9(2001);Onoら、Cancer Res. 60:5007〜11(2000))。非癌性粘膜と原発性腫瘍との比較に関して、遺伝子をその発現比(Cy3/Cy5)に従って三つの群に分類した:アップレギュレート(比は2.0に等しいまたはそれ以上)、ダウンレギュレート(比は0.5に等しいまたはそれ未満)、および発現変化なし(比は0.5と2.0のあいだ)。50%を超える被験症例において、2.0を上回るまたは0.5未満のCy3/Cy5比を有する遺伝子は、それぞれ頻繁にアップレギュレートまたはダウンレギュレートされた遺伝子であると定義された。
【0200】
2.結果
(1)LCMによる原発性CRCの単離
原発性癌細胞と転移癌細胞の正確な発現プロフィールを得るために、レーザー捕捉型顕微解剖(LCM)を用いて各種類の純粋な集団を収集した。この技法によって選択された癌細胞の比率は、顕微鏡による可視化によって測定され、>95%と推定された(データは示していない)。
【0201】
(2)肝転移を伴う原発性CRCにおいて頻繁にアップレギュレートされるが転移を伴わないまたは前悪性腫瘍を有さない原発性CRCではアップレギュレートされない遺伝子の同定
さらに、原発性結腸直腸癌15例の発現プロフィールを、対応する非癌性粘膜と比較した。この分析により、癌組織において頻繁に増大している多数の遺伝子が同定された。まず、肝転移を伴わない進行性結腸直腸癌11例、前悪性腺腫9例、および対応する非癌性粘膜の発現プロフィールを分析した。原発性病変由来の腫瘍細胞の転移可能性の予測に関する新規診断マーカーを同定するために、転移を伴う原発性病変と転移を伴わない原発性病変のあいだで発現レベルの異なる遺伝子を、次に選択した。肝転移を伴うCRC 15例の発現プロフィールを、転移を伴わない病変20例と比較した。アップレギュレートされた発現が半数を上回る、肝転移を伴う原発性病変において認められ、かつ転移を伴わない腫瘍の20%未満においてしか認められない遺伝子を選択した。この基準で、EST 10個を含む遺伝子163個(表1)を同定した。進行性結腸直腸癌患者の約30%において、原発性腫瘍の切除後に肝臓で疾患が再発したことから、これらの遺伝子の発現は、肝転移の予測マーカーとして役立ちうる。
【0202】
(表1)肝転移を伴うCRCにおいて頻繁にアップレギュレートされた遺伝子






【0203】
産業上の利用可能性
本発明のMLX核酸の発現は、対応する非癌性粘膜と比較して原発性病変において頻繁に増大した。したがって、これらの遺伝子は、結腸直腸癌の転移の診断マーカーとして役立ちうる。
【0204】
本発明を、特定の態様を参照して詳細に記載してきたが、本発明の目的および範囲から逸脱することなく様々な変更および改変を行ってもよいことが、当業者には明らかであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者由来の生物試料において転移関連遺伝子の発現レベルを決定する段階を含む、被験者における結腸直腸癌の転移病変の発症の素因を診断する方法であって、該遺伝子の正常対照レベルと比較してレベルが増加したら、該被験者が結腸直腸癌の転移病変を有する、またはその発症リスクを有することを示す方法。
【請求項2】
転移関連遺伝子がMLX1〜MLX163からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
複数の転移関連遺伝子の該発現レベルを決定する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
転移関連遺伝子の発現レベルが、以下からなる群より選択されるいずれか一つの方法によって決定される、請求項1記載の方法:
(a)転移関連遺伝子のmRNAの検出;
(b)転移関連遺伝子によってコードされるタンパク質の検出;および
(c)転移関連遺伝子によってコードされるタンパク質の生物活性の検出。
【請求項5】
発現レベルが、患者由来の生物試料の遺伝子転写物と、転移関連遺伝子プローブとのハイブリダイゼーションを検出することによって決定される、請求項1記載の方法。
【請求項6】
ハイブリダイゼーション段階がDNAチップ上で行われる、請求項5記載の方法。
【請求項7】
患者由来の生物試料が原発性結腸直腸癌である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
増加が、正常対照レベルより少なくとも10%大きい、請求項1記載の方法。
【請求項9】
MLX1〜MLX163からなる群より選択される二つまたはそれ以上の遺伝子の遺伝子発現パターンを含む、原発性結腸直腸癌の参照発現プロフィール。
【請求項10】
以下の段階を含む、結腸直腸癌を治療するためまたは結腸直腸癌の転移を予防するための化合物をスクリーニングする方法:
(1)以下からなる群より選択されるポリペプチドに被験化合物を接触させる段階:
(a)MLX1〜MLX163からなる群より選択されるポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(b)一つまたは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加された、MLX1〜MLX163からなる群より選択されるポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、もとのポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の生物活性を有するポリペプチド;ならびに
(c)MLX1〜MLX163からなる群より選択されるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドであって、MLX1〜MLX163からなる群より選択されるポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列からなるポリペプチドと同等の生物活性を有するポリペプチド;
(2)ポリペプチドと被験化合物との結合活性を検出する段階;ならびに
(3)ポリペプチドに結合する化合物を選択する段階。
【請求項11】
以下の段階を含む、結腸直腸癌を治療するためまたは結腸直腸癌の転移を予防するための化合物をスクリーニングする方法:
(1)以下からなる群より選択されるポリペプチドに被験化合物を接触させる段階:
(a)MLX1〜MLX163からなる群より選択されるポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(b)一つまたは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加された、MLX1〜MLX163からなる群より選択されるポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、もとのポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の生物活性を有するポリペプチド;ならびに
(c)MLX1〜MLX163からなる群より選択されるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドであって、MLX1〜MLX163からなる群より選択されるポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列からなるポリペプチドと同等の生物活性を有するポリペプチド;
(2)段階(a)のポリペプチドの生物活性を検出する段階;ならびに
(3)被験化合物の非存在下で検出される生物活性と比較して、ポリペプチドの生物活性を抑制する化合物を選択する段階。
【請求項12】
以下の段階を含む、結腸直腸癌を治療するためまたは結腸直腸癌の転移を予防するための化合物をスクリーニングする方法:
(1)一つまたは複数のマーカー遺伝子を発現する細胞に被験化合物を接触させる段階であって、マーカー遺伝子がMLX1〜MLX163からなる群より選択される段階;および
(2)一つまたは複数のマーカー遺伝子の発現レベルを低下させる化合物を選択する段階。
【請求項13】
一つまたは複数のマーカー遺伝子を発現する細胞が結腸直腸癌細胞を含む、請求項12記載の方法。
【請求項14】
以下の段階を含む、結腸直腸癌を治療するためまたは結腸直腸癌の転移を予防するための化合物をスクリーニングする方法:
(1)レポーター遺伝子の上流にMLX1〜MLX163からなる群より選択される遺伝子の転写調節領域を含むベクターを構築する段階;
(2)段階(1)のベクターによって細胞を形質転換する段階;
(3)段階(2)の細胞に被験化合物を接触させる段階;
(4)レポーター遺伝子の発現を検出する段階;および
(5)被験化合物の非存在下での発現と比較して、レポーター遺伝子の発現を抑制する被験化合物を選択する段階。
【請求項15】
MLX1〜MLX163からなる群より選択される一つまたは複数の核酸配列にそれぞれ結合する一つまたは複数の検出試薬を含む、キット。
【請求項16】
MLX1〜MLX163からなる群より選択される一つまたは複数の核酸配列にそれぞれ結合する一つまたは複数の核酸を含む、アレイ。
【請求項17】
請求項10〜14のいずれか一項記載の方法によって得られる化合物の薬学的有効量を投与する段階を含む、結腸直腸癌を治療するためまたは結腸直腸癌の転移を予防するための方法。
【請求項18】
MLX1〜MLX163からなる群より選択される一つまたは複数の遺伝子に対するアンチセンス核酸または低分子干渉RNAの薬学的有効量を被験者に投与する段階を含む、被験者における結腸直腸癌を治療するためまたは結腸直腸癌の転移を予防するための方法。
【請求項19】
MLX1〜MLX163からなる群より選択される遺伝子によってコードされるタンパク質に結合する抗体またはその断片の薬学的有効量を被験者に投与する段階を含む、被験者における結腸直腸癌を治療するためまたは結腸直腸癌の転移を予防するための方法。
【請求項20】
(a)〜(c)からなる群より選択されるポリペプチド、該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含むベクターの薬学的有効量を被験者に投与する段階を含む、被験者における結腸直腸癌を治療するためまたは結腸直腸癌の転移を予防するための方法:
(a)MLX1〜MLX163からなる群より選択されるポリヌクレオチドまたはその断片によってコードされるアミノ酸配列を含む、ポリペプチド;
(b)一つまたは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加された、MLX1〜MLX163からなる群より選択されるポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、もとのポリヌクレオチドまたはその断片によってコードされるアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の生物活性を有するポリペプチド;ならびに
(c)MLX1〜MLX163からなる群より選択されるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドであって、MLX1〜MLX163からなる群より選択されるポリヌクレオチドまたはその断片によってコードされるアミノ酸配列からなるポリペプチドと同等の生物活性を有するポリペプチド。
【請求項21】
(a)〜(c)からなる群より選択されるポリペプチド、該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含むベクターに、抗原提示細胞を接触させる段階を含む、抗腫瘍免疫を誘導する方法:
(a)MLX1〜MLX163からなる群より選択されるポリヌクレオチドまたはその断片によってコードされるアミノ酸配列を含む、ポリペプチド;
(b)一つまたは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加された、MLX1〜MLX163からなる群より選択されるポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、もとのポリヌクレオチドまたはその断片によってコードされるアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の生物活性を有するポリペプチド;ならびに
(c)MLX1〜MLX163からなる群より選択されるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドであって、MLX1〜MLX163からなる群より選択されるポリヌクレオチドまたはその断片によってコードされるアミノ酸配列からなるポリペプチドと同等の生物活性を有するポリペプチド。
【請求項22】
抗原提示細胞を被験者に投与する段階をさらに含む、請求項21記載の抗腫瘍免疫を誘導する方法。
【請求項23】
請求項10〜14のいずれか一項記載の方法によって得られる化合物の薬学的有効量を含む、被験者における結腸直腸癌を治療するためまたは結腸直腸癌の転移を予防するための組成物。
【請求項24】
MLX1〜MLX163からなる群より選択される一つまたは複数の遺伝子に対するアンチセンス核酸または低分子干渉RNAの薬学的有効量を含む、被験者における結腸直腸癌を治療するためまたは結腸直腸癌の転移を予防するための組成物。
【請求項25】
MLX1〜MLX163からなる群より選択される遺伝子によってコードされるタンパク質に結合する抗体またはその断片の薬学的有効量を含む、被験者における結腸直腸癌を治療するためまたは結腸直腸癌の転移を予防するための組成物。
【請求項26】
(a)〜(c)からなる群より選択されるポリペプチド、該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含むベクターの薬学的有効量を含む、被験者における結腸直腸癌を治療または結腸直腸癌の転移を予防するための組成物:
(a)MLX1〜MLX163からなる群より選択されるポリヌクレオチドまたはその断片によってコードされるアミノ酸配列を含む、ポリペプチド;
(b)一つまたは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加された、MLX1〜MLX163からなる群より選択されるポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、もとのポリヌクレオチドまたはその断片によってコードされるアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の生物活性を有するポリペプチド;ならびに
(c)MLX1〜MLX163からなる群より選択されるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドであって、MLX1〜MLX163からなる群より選択されるポリヌクレオチドまたはその断片によってコードされるアミノ酸配列からなるポリペプチドと同等の生物活性を有するポリペプチド。

【公表番号】特表2006−500945(P2006−500945A)
【公表日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−541213(P2004−541213)
【出願日】平成15年8月14日(2003.8.14)
【国際出願番号】PCT/JP2003/010338
【国際公開番号】WO2004/031774
【国際公開日】平成16年4月15日(2004.4.15)
【出願人】(504445356)オンコセラピー・サイエンス株式会社 (22)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】