説明

給脂用ヘッドおよびこれを備えた給脂用ガン並びに給脂装置

【課題】給脂用ヘッドおよびこれを備えた給脂用ガン、並びに、給脂装置を提供する。
【解決手段】本発明の給脂用ヘッドは、ワイヤロープの外周面へ給脂する給脂用ヘッド20であって、ワイヤロープをその周方向に沿って環状に取り囲み、一端部21a,21aが閉鎖された一対の曲管部21,21と、これらの曲管部21,21の他端部21b,21bと連通する第二の管部22とからなり、これらの曲管部21,21の内周面には複数の給脂用孔が形成され、これらの曲管部21,21の一端部21a,21a各々は軸線方向に離間し、その間隙dはワイヤロープの直径よりも大であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーンなどで使用されるワイヤロープの性能維持のために、ワイヤロープへの油脂の供給に用いられる給脂用ヘッドおよびこれを備えた給脂用ガン並びに給脂装置に関する。
【背景技術】
【0002】
クレーンなどで使用されるワイヤロープは、ワイヤロープを構成する金属製の素線の錆や劣化を防止し、その性能を維持するために、定期的に油脂を供給(塗布)する必要がある。そのため、従来は、ブラシ、刷毛、布切れなどを使用して、手作業によりワイヤロープの表面に油脂を塗布していた。
しかしながら、クレーンなどで使用中のワイヤロープに、手作業により油脂を塗布する場合、ワイヤロープをクレーンから取り外して油脂を塗布することは稀で、多くの場合、ワイヤロープをクレーンに取り付けたまま、油脂を塗布していた。
特に、クレーンが天井走行クレーン(以下、「天井クレーン」と称する。)のようなものである場合、ワイヤロープへの手作業による油脂の塗布は、高所での作業となり危険であるばかりでなく、安全に作業するための足場を設置する必要があり、作業効率が非常に悪かった。また、天井クレーンでは、高所での危険な手作業となるため、ワイヤロープへの油脂の塗布が均一ではなかった。ワイヤロープへの油脂の塗布が不十分な部分があると、ワイヤロープの寿命が短くなるおそれがあるなどの問題があった。
【0003】
このような問題を解決する一つの方法として、以下のようなワイヤロープへのグリス塗布装置が提案されている。
このワイヤロープへのグリス塗布装置は、ワイヤロープを通す中空貫通穴を有し、ワイヤロープの周りにグリスを塗布するための複数の塗布アダプタと、この塗布アダプタにグリスを供給するグリス供給装置とから概略構成されている。また、塗布アダプタは、ワイヤロープを軸線上に支持する軸受リングと、この軸受リングの軸方向外側に位置し、ワイヤロープの周りをシールするシールブラシとから構成されている。そして、グリス供給装置は、複数の塗布アダプタに適量のグリスを計量分配する分配弁を備えている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
また、上記の問題を解決する別の方法として、上ケース、下ケースがワイヤロープを挟み込むように装着結合でき、上ケース、下ケースの中には耐油性のゴム、樹脂などの素材で箱の上下をワイヤロープへ装着結合した後にグリス塗装タンク室となるようにし、このタンクにはグリス注入用ホースを接続し、グリスをグリスポンプによりグリス塗装タンク内へ送り込み、そのタンク内をワイヤロープが通過した時に、ワイヤロープにグリスを塗装するワイヤグリス塗装用具が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開2004−238762号公報
【特許文献2】登実3020235号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のワイヤロープへのグリス塗布装置およびワイヤグリス塗装用具は、ワイヤロープを、上ケースと下ケースから構成されるケースをワイヤロープの軸線に沿って貫通する穴を通し、さらに、ワイヤロープを上ケースと下ケースにより挟み込んでいた。そのため、クレーンなどのように、複数の滑車とワイヤロープを組み合わせて用い、滑車によってワイヤロープの直線的な連続性が遮られる場合には、ワイヤロープへのグリス塗布装置を用いた方法では、連続性を有する箇所毎にグリスを塗布するための塗布アダプタを設ける必要があった。また、ワイヤグリス塗装用具を用いた方法では、滑車によってワイヤロープの直線的な連続性が遮られる毎にグリス塗布タンク室の付け替えをする必要があった。
【0006】
ワイヤロープへのグリス塗布装置を用いた方法では、滑車によってワイヤロープが折り返される毎に塗布アダプタの設置個数が増加するため、全てに設置すると設備費が高額となる。したがって、ワイヤロープへのグリス塗布装置を用いた方法は、クレーンのように、一本のワイヤロープと複数の滑車を組み合わせて用いる場合よりも、例えば、ガスホルダ(タンク内部に充填されているガス量により天井が上下するタイプのガスタンク)のような、動作が上下動のように比較的単純で、かつ、一本のワイヤロープに1個または2個程度の滑車が用いられる場合に適していると考える。
【0007】
また、ワイヤグリス塗装用具を用いた方法では、滑車によってワイヤロープが折り返される毎にグリス塗布タンク室の付け替えをする必要があると、クレーンのように、一本のワイヤロープと複数の滑車を組み合わせて用い、ワイヤロープを幾重にも折り返す設備では、グリス塗布タンク室の付け替え作業が煩雑で実用的ではなかった。
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、クレーンなどのように、複数の滑車により幾重にも折り返されているワイヤロープに対し、油脂を塗布する装置を複数設けたり、また、油脂を塗布する装置を付け替えたりすることなく、容易に油脂を塗布することができる給脂用ヘッドおよびこれを備えた給脂用ガン並びに給脂装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、ワイヤロープをその周方向に沿って環状に取り囲み、一端部が閉鎖された一対の曲管部と、これらの曲管部の他端部と連通する第二の管部とからなり、これらの曲管部の内周面には複数の給脂用孔を形成し、これらの曲管部の一端部各々を軸線方向に離間させ、その間隙をワイヤロープの直径よりも大とすることにより、安全で安定した作業位置から給脂用ガンの長さを有効に活用した給脂の作業を行うことができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の給脂用ヘッドは、ワイヤロープの外周面へ給脂する給脂用ヘッドであって、前記ワイヤロープをその周方向に沿って環状に取り囲むとともに、一端部が閉鎖された一対の曲管部と、これらの曲管部の他端部と連通する第二の管部とからなり、これらの曲管部の内周面には複数の給脂用孔が形成され、これらの曲管部の一端部各々は軸線方向に離間し、その間隙は前記ワイヤロープの直径よりも大であることを特徴とする。
【0011】
本発明の給脂用ヘッドは、前記曲管部の延在方向に垂直な断面積は、前記複数の給脂用孔の開口部の総面積の2倍以上であることが好ましい。
【0012】
本発明の給脂用ガンは、本発明の給脂用ヘッドと、該給脂用ヘッドからワイヤロープの外周面へ給脂する油脂量を制御する制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0013】
本発明の給脂装置は、本発明の給脂用ガンを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の給脂用ヘッドによれば、ワイヤロープの外周面へ給脂する給脂用ヘッドであって、前記ワイヤロープをその周方向に沿って環状に取り囲むとともに、一端部が閉鎖された一対の曲管部と、これらの曲管部の他端部と連通する第二の管部とからなり、これらの曲管部の内周面には複数の給脂用孔が形成され、これらの曲管部の一端部各々は軸線方向に離間し、その間隙は前記ワイヤロープの直径よりも大であるので、給脂用ヘッドの曲管部の一端部間の間隙にワイヤロープを絡めるようにして、曲管部がなす環のほぼ中央部にワイヤロープを配するのみで、ワイヤロープの外周面へ給脂する準備を整えることができる。したがって、従来のブラシや刷毛を用いた方法と比較して、短時間でワイヤロープに給脂することができる。また、給脂用ヘッドの内周面には複数の給脂用孔が等間隔に設けられているから、ワイヤロープの外周面へ満遍なく油脂を塗布することができる。また、従来のブラシや刷毛を用いた方法では、作業位置が高所で危険を伴うこともあったが、給脂用ガンを適宜調整することにより、安全で安定した作業位置から給脂用ガンの長さを有効に活用した給脂の作業を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の給脂用ヘッドおよびこれを備えた給脂用ガン並びに給脂装置の最良の形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0016】
本発明の給脂用ヘッドおよびこれを備えた給脂用ガン、並びに、給脂装置は、天井走行クレーンのバケツ巻上・巻下用ワイヤロープや開閉用ワイヤロープなどの外周面への油脂の給脂に用いられるものである。
【0017】
図1は、本発明に係る給脂装置の一実施形態を示す概略構成図である。
図1中、符号10は給脂装置、11は油脂タンク、12は圧力配管、13はポンプ、14は逆止弁、15は接続器、16はフレキシブルホース、17は給脂用ガン、18は給脂用ガンの直管部、19は制御手段、20は給脂用ヘッド、30はワイヤロープをそれぞれ示している。
この実施形態の給脂装置10は、油脂タンク11と、ポンプ13と、給脂用ヘッド20を備えた給脂用ガン17とから概略構成されている。
【0018】
油脂タンク11とポンプ13は、圧力配管12を介して接続されている。ポンプ13と給脂用ガン17は、圧力配管12、逆止弁14、圧力配管12、接続器15、フレキシブルホース16および接続器15を、この順に介して接続されている。
油脂タンク11は、ワイヤロープ30の外周面に供給する油脂を一時的に貯蔵するものである。油脂タンク11に貯蔵されている油脂は、圧力配管12を介して接続されたポンプ13によって、給脂用ガン17へ送出される。
油脂タンク11とポンプ13は、相互に近接して配設され、かつ、周辺に支障物がなく、作業性の良好な平らな場所に設置される。
【0019】
なお、圧力配管12の途中には、油脂タンク11の出口、ポンプ13の入口および出口、逆止弁14の前後などの適宜の位置にバルブを設けて、給脂装置10を使用していない時に、圧力配管12から油脂が漏れ出したり、圧力配管12に異物が侵入することがないようになっている。
【0020】
逆止弁14は、圧力配管12の途中に設けられており、これにより、ポンプ13によって送出された油脂が、ポンプ13や油脂タンク11に逆流することなく、所定の流速、流量にて、給脂用ガン17に供給されるようになっている。
また、逆止弁14の給脂用ガン17側に接続された圧力配管12には、フランジやカプラなどからなる接続器15を介して、自在に動かすことが出来るフレキシブルホース16が接続されている。
【0021】
給脂用ガン17は、接続器15を介して、フレキシブルホース16に接続されている。これにより、圧力配管12によって、給脂用ガン17の向きが制限されることがなく、結果として、給脂用ガン17の先端部をなす給脂用ヘッド20の向きが制限されることがない。
【0022】
油脂タンク11としては、その容量が数十リットルから数百リットル程度のものが用いられる。本発明では、1回の給脂量が18リットルを超えることはほとんどないが、例えば、200リットルのドラム缶1本分の油脂を、余裕をもって容れることができる容量の油脂タンクとして、300リットルの油脂タンクが用いられる。
【0023】
圧力配管12としては、特に限定されるものではなく、使用する条件(油脂の種類、油脂の送出圧力など)に応じて、材質、厚み、内径などが適宜決定される。例えば、油脂タンク11とポンプ13を接続する圧力配管12としては、ポンプ13の製造者の指定するものなどが用いられ、ポンプ13とフレキシブルホース16の間に用いられる圧力配管12としては、圧力配管用炭素鋼STPG370からなる圧力配管用鋼管15A(Sch60)などが用いられる。
【0024】
ポンプ13としては、特に限定されるものではなく、使用する条件(油脂の種類、油脂の送出圧力など)に応じて、適宜選択される。ポンプ13としては、例えば、容量1m/hr、全圧力10kg/cm、駆動電動機1.5kWのものが用いられる。
【0025】
フレキシブルホース16としては、耐圧性および耐油性のものが用いられるが、使用する条件(油脂の種類、油脂の送出圧力など)に応じて、材質、厚み、内径などが適宜決定される。また、フレキシブルホース16の長さは、天井走行クレーンのバケツ巻上・巻下用ワイヤロープや開閉用ワイヤロープの外周面へ給脂する際に、給脂用ガン17による作業に支障のない長さに適宜調整されるが、例えば、数m〜数十m程度に調整される。フレキシブルホース16の長さが短過ぎると、給脂用ガン17による作業を阻害する。一方、フレキシブルホース16の長さが長過ぎると、フレキシブルホース16自体を持ち運びすることが困難となる。フレキシブルホース16としては、例えば、内径約10mm、長さ2m、耐圧強度10kg/cm、耐油性の材質からなるものが用いられる。
【0026】
給脂用ガン17は、給脂用ヘッド20と、給脂用ヘッド20の後端側に接続された直管部18と、この直管部18と給脂用ヘッド20との間に設けられ、給脂用ヘッド20からワイヤロープ30の外周面へ給脂する油脂量を制御する制御手段19とから概略構成されている。
【0027】
図2は、本発明に係る給脂用ヘッドの一実施形態を示す概略平面図である。図3は、本発明に係る給脂用ヘッドの一実施形態を示す概略側面図である。図4は、本発明に係る給脂用ヘッドの一実施形態を示す概略正面図である。
給脂用ヘッド20は、ワイヤロープ30の外周面へ給脂するためのものであり、ワイヤロープ30をその周方向に沿って円環状に取り囲み、一端部21a,21aが閉鎖された一対の円弧状をなす曲管部21,21と、曲管部21,21の他端部21b,21bと連通する、直管状の第二の管部22とから構成されている。また、曲管部21,21の内周面21cには複数の給脂用孔23が形成され、曲管部21,21の一端部21a,21aのそれぞれは軸線方向に離間し、その間隙dは、一対の曲管部21,21がなす円内に通されるワイヤロープ30の直径よりも大となっている。
さらに、曲管部21,21が円弧状をなし、これらの曲管部21,21全体が円環状をなしている。そして、曲管部21,21の一端部21a,21aは、平面視した場合(図2において、一対の曲管部21,21がなす円内にワイヤロープ30を通した場合に、ワイヤロープ30の軸方向から見て)に、その一部が重なっている。これにより、給脂作業中にワイヤロープ30が動いても、給脂用ヘッド20がワイヤロープ30の周方向に沿って環状に取り囲む状態を維持できるので、ワイヤロープ30の外周面へ確実に給脂することができる。
【0028】
給脂用孔23の開口部の大きさは、給脂用孔23からワイヤロープ30へ給脂する油脂の量(以下、「給脂量」と言うこともある。)、給脂用孔23の開口部からワイヤロープ30へ向かって吐出する油脂の吐出圧力、給脂用孔23の数に応じて適宜決定される。逆に、給脂用孔23の大きさと数が決まれば、給脂用孔23からワイヤロープ30への給脂量は、給脂用孔23からの油脂の吐出圧力を調節することにより制御することができる。この吐出圧力は、上記のポンプ13の送出圧力、あるいは、ポンプ13と給脂用ガン17の間に用いられる圧力配管12の途中に減圧弁(図示略)を設けることにより、調節することができる。
【0029】
また、曲管部21,21の沿在方向に垂直な断面積は、複数の給脂用孔23の開口部の総面積の2倍以上であることが好ましく、3倍以上かつ5倍以下であることがより好ましい。このようにすれば、複数の給脂用孔23の開口部の総面積に対する、曲管部21,21の沿在方向に垂直な断面積が上記の範囲内であれば、各給脂用孔23からワイヤロープ30に対して、ほぼ同量の油脂を安定に給脂することができる。
例えば、給脂用孔23の開口部の直径を0.5mm〜2.0mm程度、給脂用孔23の数を6〜18個程度、好ましくは給脂用孔23の開口部の直径を0.5mm〜1.0mm程度、給脂用孔23の数を8〜12個程度とした場合、最大で内径が12mmの曲管部21を用いれば、曲管部21,21の沿在方向に垂直な断面積が、複数の給脂用孔23の開口部の総面積の2倍となり、最低の目標を確保できる。
【0030】
実際には、給脂用孔23の開口部の大きさと数を決定した後、複数の給脂用孔23の開口部の総面積に対する、曲管部21,21の沿在方向に垂直な断面積が好ましい範囲となるように、曲管部21,21の内径を決定する。
なお、上記の圧力配管12、フレキシブルホース16、給脂用ガン17の直管部18、給脂用ヘッド20の第二の管部22などの内径は、曲管部21,21の内径と同じか、あるいは、より大きくすることにより、油脂を送出するために十分な余裕をもたせる。
仮に、給脂用孔23の開口部の直径を1.0mm、給脂用孔23の数を12個、複数の給脂用孔23の開口部の総面積に対する、曲管部21,21の沿在方向に垂直な断面積を4倍とした場合、曲管部21,21の内径を約7.0mmとすればよい。
【0031】
給脂用ガン17の直管部18、給脂用ヘッド20の第二の管部22、曲管部21,21をなす管としては、圧力配管用炭素鋼STPG370からなる圧力配管用鋼管6A(Sch40)などが用いられる。
【0032】
なお、この実施形態では、曲管部21,21が円弧状をなし、これらの曲管部21,21全体が円環状をなしている給脂用ヘッド20を例示したが、本発明の給脂用ヘッドはこれに限定されない。本発明の給脂用ヘッドにあっては、一対の曲管部が、ワイヤロープを環状に取り囲んでいれば、その形状は如何なるものであってもよい。
【0033】
給脂用ヘッド20の制御手段19は、給脂用ガン17を把持する部分に設けられ、給脂用ヘッド20からワイヤロープ30の外周面へ給脂する油脂量を制御するものである。このような制御手段19としては、例えば、ピストルの引金のような構造のものが挙げられ、この引金を引いた時に、給脂用孔23の開口部から油脂が吐出し、一方、引金を放した時に、給脂用孔23の開口部からの油脂の吐出が停止する。
また、制御手段19としては、例えば、バルブのような構造のものが挙げられ、このバルブを開いた時に、給脂用孔23の開口部から油脂が吐出し、一方、バルブを閉じた時に、給脂用孔23の開口部からの油脂の吐出が停止する。ここで、バルブのような構造のものとしては、ニードルバルブやボールバルブが用いられる。ボールバルブは、コック式のハンドルを用いる形式のバルブであり、このボールバルブを用いれば、バルブの開閉が瞬時にできることから、給脂の開始および停止、並びに、給脂量の調整を速やかに行うことができる。
【0034】
なお、圧力配管12の末端付近に設けられるバルブのポンプ13側に減圧弁を設け、油脂の吐出圧力を調整すれば、給脂量の調節を作業者の手元に近い場所で容易にできるので好ましい。ポンプ13の吐出圧力を直接調節する方法もあるが、この方法では吐出圧力を調整する場所が作業者からかなり離れた位置となるため、作業性が大幅に低下するおそれがある。
【0035】
また、ワイヤロープ30への給脂の作業を一人で行うことを考慮すると、ポンプ13の起動や停止を行うための操作盤は、ポンプ13の近傍に設けることが好ましい。
さらに、減圧弁14や、ポンプ13およびその操作盤を、給脂の作業を行う場所の近くに設けることがより好ましい。このようにすれば、全ての作業を一人で行うことができる。
【0036】
次に、この実施形態の給脂装置10を用いて、ワイヤロープ30の外周面へ給脂する方法について説明する。
先ず、ワイヤロープ30への給脂を開始する前に、フレキシブルホース16に、接続器15を介して、給脂用ガン17を接続する。
次いで、圧力配管12、フレキシブルホース16などからの漏れの有無を確認した後、必要なバルブの開閉を行う。
次いで、油脂タンク11に十分な油脂が貯蔵されているかどうかを確認し、必要に応じて(油脂量が不足している場合に)、油脂タンク11に油脂を補給する。
次いで、各圧力配管12などに設けられているバルブの開閉を確認した後、ポンプ13を起動する。ポンプ13を起動した後、逆止弁14により圧力調整を行う。この際、必要に応じて給脂用ガン17の制御手段19により、圧力調整を行う。給脂用ガン17の制御手段19がピストルの引金のような構造のものである場合、この引金を引いた時に油脂が吐出し、あるいは、制御手段19がバルブのような構造のものである場合、バルブを開くと油脂が吐出するので、外部に零れないように容器を準備して油脂を受ける。
【0037】
次いで、圧力調整が完了した後、一旦、給脂用ガン17の制御手段19により油脂の吐出を停止し、給脂用ヘッド20の曲管部21,21の一端部21a,21a間の間隙dにワイヤロープ30を絡めるようにして、曲管部21,21がなす円のほぼ中央部にワイヤロープ30を配する。
【0038】
次いで、給脂用ガン17の制御手段19を調節して、ワイヤロープ30の外周面へ給脂を開始する。
制御手段19がピストルの引金のような構造のものである場合、この引金を引いて給脂用ヘッド20から油脂を吐出する。また、制御手段19がバルブのような構造のものである場合、バルブを開いて給脂用ヘッド20から油脂を吐出する。
給脂用ヘッド20からの油脂の吐出を開始したら、給脂用ヘッド20をワイヤロープ30に沿ってゆっくりと上下または前後させて、油脂をワイヤロープ30に満遍なく塗布する。油脂をワイヤロープ30に満遍なく塗布するためには、必要に応じて、給脂用ヘッド20を上下または前後させるのに合わせて、左右に捻るようにすることが好ましい。
【0039】
次いで、ワイヤロープ30に対して、給脂用ガン17の給脂用ヘッド20が届く範囲への油脂の塗布が終了した後、給脂用ガン17を給脂可能な位置に移動させるか、あるいは、ワイヤロープ30を繰り出すなどの操作を行い、給脂用ガン17によるワイヤロープ30への給脂を継続する。
この際、一旦、給脂を中断する必要があれば、給脂用ガン17の制御手段19を調節して、ワイヤロープ30の外周面へ給脂を停止する。給脂用ガン17の移動、あるいは、ワイヤロープ30の繰り出しが終了し、準備が整ったら、給脂用ガン17によるワイヤロープ30の外周面へ給脂を再開する。
【0040】
なお、ワイヤロープ30が滑車によって複数回折り返されている場合、給脂用ガン17を給脂可能な位置に移動させたり、ワイヤロープ30を繰り出すなどの操作を繰り返し、給脂用ガン17によりワイヤロープ30へ順次給脂する。
【0041】
そして、ワイヤロープ30の外周面への給脂が完了したら、給脂用ガン17の中に残っている油脂が零れて周辺を汚さないように処置した後、給脂用ガン17の制御手段19を調節して、ワイヤロープ30の外周面へ給脂を停止する。
その後、給脂用ガン17の給脂用ヘッド20を、ワイヤロープ30に接触しないように静かに取り外し、安全で作業に支障のない場所に仮置きする。併せて、ポンプ13を停止し、誤って油脂が給脂装置10から噴出しないようにする。
【0042】
次いで、各圧力配管12などに設けられているバルブのうち、必要なバルブを閉じる。
次いで、フレキシブルホース16および給脂用ガン17を、これらの中に残っている油脂が零れて周辺が汚れないように処置した後、これらの中に残っている油脂を排出して、所定の場所に片付ける。この際、必要に応じて、圧力配管12、フレキシブルホース16および給脂用ガン17の末端には、塵埃などによる汚れや異物の侵入を防止するために、キャップなどにより栓をする。
最後に、圧力配管12、フレキシブルホース16および給脂用ガン17の中から排出させた油脂を片付け作業を終了する。
【0043】
以上説明したように、この実施形態の給脂装置10によれば、給脂用ヘッド20の曲管部21,21のそれぞれを軸線方向に離間させ、その間隙dにワイヤロープ30を絡めるようにして、曲管部21,21がなす円のほぼ中央部にワイヤロープ30を配するのみで、ワイヤロープ30の外周面へ給脂する準備を整えることができる。したがって、従来のブラシや刷毛を用いた方法と比較して、短時間でワイヤロープに給脂することができる。また、給脂用ヘッド20の内周面21cには複数の給脂用孔23が等間隔に設けられているから、ワイヤロープ30の外周面へ満遍なく油脂を塗布することができる。よって、油脂の塗布が不十分であることにより、ワイヤロープ30が錆や損傷を受けるのを防止することができる。
また、従来のブラシや刷毛を用いた方法では、作業位置が高所で危険を伴うこともあったが、この実施形態の給脂装置10によれば、給脂用ガン20を適宜調整することにより、安全で安定した作業位置から給脂用ガン20の長さを有効に活用した給脂の作業を行うことができる。また、従来は2名以上で行っていた作業を、全て一人で行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の給脂用ヘッドおよびこれを備えた給脂用ガン、並びに、給脂装置は、給脂用ヘッド部に設けられている給脂用孔の径を小さくし、かつ、給脂圧力を上昇させることで細かな粒径で噴霧できるようにすると、円柱状のものの表面へのペイント塗装にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係る給脂装置の一実施形態を示す概略構成図である。
【図2】本発明に係る給脂用ヘッドの一実施形態を示す概略平面図である。
【図3】本発明に係る給脂用ヘッドの一実施形態を示す概略側面図である。
【図4】本発明に係る給脂用ヘッドの一実施形態を示す概略正面図である。
【符号の説明】
【0046】
10 給脂装置
11 油脂タンク
12 圧力配管
13 ポンプ
14 逆止弁
15 接続器
16 フレキシブルホース
17 給脂用ガン
18 直管部
19 制御手段
20 給脂用ヘッド
21 曲管部
22 第二の管部
23 給脂用孔
30 ワイヤロープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤロープの外周面へ給脂する給脂用ヘッドであって、
前記ワイヤロープをその周方向に沿って環状に取り囲むとともに、一端部が閉鎖された一対の曲管部と、これらの曲管部の他端部と連通する第二の管部とからなり、これらの曲管部の内周面には複数の給脂用孔が形成され、これらの曲管部の一端部各々は軸線方向に離間し、その間隙は前記ワイヤロープの直径よりも大であることを特徴とする給脂用ヘッド。
【請求項2】
前記曲管部の延在方向に垂直な断面積は、前記複数の給脂用孔の開口部の総面積の2倍以上であることを特徴とする請求項1記載の給脂用ヘッド。
【請求項3】
請求項1または2記載の給脂用ヘッドと、該給脂用ヘッドからワイヤロープの外周面へ給脂する油脂量を制御する制御手段とを備えたことを特徴とする給脂用ガン。
【請求項4】
請求項3記載の給脂用ガンを備えたことを特徴とする給脂装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−260528(P2007−260528A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−87225(P2006−87225)
【出願日】平成18年3月28日(2006.3.28)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】