説明

絶縁フィルムおよびそれを備えたフラットケーブル

【課題】摺動性、および難燃性に優れた絶縁フィルムおよびそれを備えたフラットケーブルを提供することを目的とする。
【解決手段】フラットケーブル1は、複数の導体2と、第1および第2の接着剤層4,9と樹脂フィルム5とアンカーコート層7と難燃層8とからなり、導体2の両面を被覆する絶縁フィルム3とを備えている。難燃層は、JISK7171に準拠して測定された曲げ弾性率が900〜2900MPaであるポリプロピレン樹脂からなる樹脂組成物を必須成分とする。また、難燃層は、難燃付与剤を、ポリプロピレン樹脂からなる樹脂組成物の100重量部に対して、60重量部以上240重量部以下含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導体の両面を被覆する絶縁フィルム、およびそれを備えたフラットケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、車載カーナビゲーションシステムやオーディオ機器等の電子機器の内部配線材として、複数の平板状導体の両面を、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂フィルムと、当該樹脂フィルム上に形成された接着剤層とからなる絶縁フィルムにより被覆した構造のフラットケーブルが使用されている。
【0003】
また、一般に、フラットケーブルを製造する際には、導体の両面を絶縁フィルムで挟み込み、既知の熱ラミネータや熱プレス装置を用いて加熱加圧処理を行うことにより、導体を絶縁フィルムの接着剤層により、連続的にラミネート接着して、導体の両面を絶縁フィルムにより被覆する方法が採用される。
【0004】
ここで、一般に、フラットケーブルの難燃性を向上させるために、難燃性付与剤を含有する難燃層を設ける構成としている。より具体的には、例えば、樹脂フィルムと、樹脂フィルムの表面に設けられたアンカーコート層と、アンカーコート層の表面に設けられた難燃層と、難燃層の表面に設けられた接着剤層とを備える絶縁フィルムにより、導体の両面を被覆したフラットケーブルが開示されている。そして、難燃層としては、熱可塑性樹脂と熱可塑性エラストマーからなる樹脂組成物を主成分とし、難燃性付与剤を含有するものが使用される(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平9−201914号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1に記載の難燃層を備えたフラットケーブルにおいては、難燃層が熱可塑性エラストマーを主成分としているため、当該難燃層の摺動性と難燃性を両立させることが困難になるという問題があった。より具体的には、熱可塑性エラストマーを使用した場合、当該熱可塑性エラストマーの曲げ弾性率が小さく、柔らかいため、フラットケーブルを電子機器内の摺動部に接続した場合に、摺動部の動作に伴う屈曲運動に対する耐性(即ち、摺動性)が乏しく、フラットケーブルの摺動屈曲部分で導体が断線しやすいという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、摺動性、および難燃性に優れた絶縁フィルムおよびそれを備えたフラットケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、樹脂フィルム、アンカーコート層、第1の接着剤層、難燃層、第2の接着剤層がこの順に積層された絶縁フィルムであって、難燃層は、JIS K7171に準拠して測定された曲げ弾性率が900〜2900MPaであるポリプロピレン樹脂を主成分とし、さらに難燃付与剤を含有する樹脂組成物からなり、難燃付与剤を、ポリプロピレン樹脂100重量部に対して、60重量部以上240重量部以下含有することを特徴とする。
【0008】
同構成によれば、難燃層の摺動性と難燃性が向上するため、摺動性に優れ、UL規格の垂直燃焼試験(VW−1試験)に合格することができる、難燃性に優れた絶縁フィルムを提供することが可能になる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の絶縁フィルムであって、第1および第2の接着剤層が、酸変性ポリオレフィン樹脂を主成分とすることを特徴とする。
同構成によれば、第1および第2の接着剤層が、吸水や加水分解が起こり易い樹脂を含有していないため、第1および第2の接着剤層の耐水性、および耐湿熱性に優れた絶縁フィルムを提供することが可能になる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の絶縁フィルムであって、JIS K7210に準拠して荷重2.16kgf、温度230℃の条件で測定された前記酸変性ポリオレフィン樹脂のメルトフローレートが1.3g/10min〜9.2g/10minであることを特徴とする。
同構成によれば、第1および第2の接着剤層のラミネート加工性とフィルム加工性を向上させることが可能となる。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の絶縁フィルムであって、第1および第2の接着剤層と難燃層とが、溶融押出法により積層体として形成された後、ドライラミネート法により、積層体をアンカーコート層の表面に積層することを特徴とする。
【0012】
同構成によれば、ドライラミネートする際に、第1および第2の接着剤層の熱収縮を低減させることが可能になる。従って、絶縁フィルムにおけるカール状の変形の発生を防止できる。その結果、絶縁フィルムの加工性が向上し、導体を、2枚の絶縁フィルムで挟み込み、加熱加圧処理を行うことにより、導体の両面を絶縁フィルムによりラミネートして被覆する際に、絶縁フィルムにより、導体の両面を良好にラミネートすることが可能になる。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の絶縁フィルムと、導体とを備え、導体が、絶縁フィルムにより被覆されていることを特徴とするフラットケーブルである。同構成によれば、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の絶縁フィルムを備えるため、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の発明と同様の効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、例えば、導体の両面を絶縁フィルムにより被覆したフラットケーブルにおいて、摺動性、および難燃性に優れた絶縁フィルムおよびそれを備えたフラットケーブルを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明の好適な実施形態について説明する。図1は、本発明の実施形態に係るフラットケーブルの構成を示す概略図であり、図2は、図1のA−A断面図である。また、図3は、図1のB−B断面図である。
【0016】
本実施形態におけるフラットケーブル1は、図1、図2に示すように、所定の幅及び厚さを有する、複数の平板状の導体2の両面を、絶縁フィルム3により被覆した構造を有する。また、絶縁フィルム3は、樹脂フィルム5、アンカーコート層7、第1の接着剤層4、難燃層8、および第2の接着剤層9をこの順に積層することにより構成されており、フラットケーブル1は、2枚の絶縁フィルム3の間に、複数の導体2が挟まれた状態で、当該2枚の絶縁フィルム3を貼り合わせた構成となっている。
【0017】
また、図3に示すように、フラットケーブル1の端部(以下、「ケーブル端部」という。)1aにおいては、導体2をプリント基板や電機電子部品等に設けられた接続端子(不図示)と接続すべく、絶縁フィルム3を形成せずに、導体2の一部を外部に露出させる構成となっている。
【0018】
フラットケーブル1の製造方法としては、まず、導体2の両面を絶縁フィルム3で挟み込み、既知の熱ラミネータや熱プレス装置を用いて加熱加圧処理を行うことにより、導体2を第2の接着剤層9により、連続的にラミネート接着して、導体2の両面を絶縁フィルム3により被覆した長尺品を製造する。また、この際、ケーブル端部1aにおいて、絶縁フィルム3を形成せずに、導体2の一部を外部に露出させた露出部を設けるべく、打ち抜き加工によって、一方の絶縁フィルム3に穴部を形成しながら、当該絶縁フィルム3を導体2とラミネートし、その後、長尺品を一定の長さに切断することにより、フラットケーブル1が製造される。
【0019】
導体2は、銅箔、錫メッキ軟銅箔、ニッケルメッキ軟銅薄等の導電性金属箔からなり、導体2の厚みは、使用する電流量に対応するが、フラットケーブル1の摺動性等を考慮すると、20μm〜50μmが好ましい。
【0020】
樹脂フィルム5としては、柔軟性に優れた樹脂材料からなるものが使用され、例えば、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリイミド樹脂等からなる、フラットケーブル用として汎用性のある樹脂フィルムがいずれも使用可能である。ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンナフタレート樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂、ポリトリメチレンナフタレート樹脂、ポリシクロヘキサンジメチルテレフタレート樹脂、ポリシクロヘキサンジメチルナフタレートポリアリレート樹脂などが挙げられる。
【0021】
なお、これらの樹脂フィルムのうち、電気的特性、機械的特性、コスト等の観点から、ポリエチレンテレフタレート樹脂からなる樹脂フィルム5が好適に使用される。また、ポリイミド樹脂からなる樹脂フィルム5を使用することにより、UL(Underwriters Laboratories inc.)規格を満たす温度定格105℃以上の耐熱老化性を有するとともに、鉛を含有しないはんだによる電子部品の実装作業にも対応できる絶縁フィルム3を提供することが可能になる。また、本実施形態においては、樹脂フィルムの厚みが、12μm〜50μmのものが、好適に使用できる。
【0022】
第1および第2の接着剤層4,9としては、耐湿熱性に優れた樹脂材料を主成分とするものが使用され、本実施形態においては、酸変性ポリオレフィン樹脂を主成分とするものが使用される。一般に、接着剤層として、吸水や加水分解が起こり易い飽和共重合ポリエステル樹脂を含有しているものを使用すると、接着剤層の耐水性が悪く、耐湿熱性が低下するという問題があったが、本実施形態のごとく、酸変性ポリオレフィン樹脂からなる樹脂組成物を主成分とするものを使用することにより、第1および第2の接着剤層4,9の耐水性、および耐湿熱性に優れた絶縁フィルム3を提供することが可能になる。
【0023】
この酸変性ポリオレフィン樹脂としては、例えば、酸変性ポリプロピレン樹脂、酸変性ポリエチレン樹脂が挙げられる。なお、本実施形態においては、第1および第2の接着剤層4,9の厚みが、3μm〜15μmのものが、好適に使用できる。
【0024】
酸変性ポリプロピレン樹脂としては、耐熱性、および導体2との接着強度に優れたものが使用され、例えば、無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂、アクリル酸変性ポリプロピレン樹脂、イタコン酸変性ポリプロピレン樹脂が挙げられる。なお、ポリプロピレン樹脂を、エポキシ基、水酸基、カルボキシル基、アミノ基等の他の官能基で変性したものを使用することもできる。また、耐熱性、および導体との接着強度を向上させるとの観点から、酸変性ポリプロピレン樹脂の融点は、105℃〜155℃であることが好ましい。
【0025】
また、酸変性ポリオレフィン樹脂のメルトフローレート(MFR)が1.3g/10min〜9.2g/10minのものを使用することが好ましい。これは、メルトフローレートが1.3g/10min未満であると、溶融粘度が高くなり、導体とのラミネート加工において溶解しても流れにくいため、導体2と密着しない、導体2が埋まり込まない、皺が入ってしまうという不都合が生じる場合があり、一方、9.2g/10minを超えると、溶融粘度が低くなり、導体とのラミネート加工で接着剤が流れ出てしまうという不都合が生じる場合があるからである。また、酸変性ポリオレフィン樹脂のメルトフローレート(MFR)が1.3g/10min〜9.2g/10minのものを使用することにより、溶融押出法によりフィルム状の積層体として形成する場合、均一な厚みになるため、フィルム加工性が向上する。即ち、このような酸変性ポリオレフィン樹脂を使用することにより、第1および第2の接着剤層4,9の導体ラミネート加工性とフィルム加工性を向上させることが可能となる。なお、ここでいう「メルトフローレート」とは、JIS K 7210に準拠して、測定温度230℃、荷重2.16kgfの条件で測定したものである。
【0026】
また、アンカーコート層7は、樹脂フィルム5と第1の接着剤層4の接着性を向上させるために使用されるものである。このアンカーコート層7としては、第1の接着剤層4にコロナ処理を行う場合は、特に限定はなく、例えば、主剤であるポリウレタン樹脂に、イソシアネート系の硬化剤を混合した常温硬化型の樹脂組成物を主成分とするアンカーコート剤を使用したウレタン系のアンカーコート層が使用できる。なお、本実施形態においては、アンカーコート層7の厚みが、0.5μm〜5μmのものが、好適に使用できる。
【0027】
難燃層8としては、難燃性を有するとともに、摺動性に優れた樹脂材料を主成分とするものが使用され、本実施形態においては、高い曲げ弾性率を有するポリプロピレン樹脂からなる樹脂組成物を主成分とし、さらに難燃付与剤を含有する樹脂組成物からなるものが使用される。より具体的には、JIS K7171に準拠して測定された曲げ弾性率が、900〜2900MPaであるポリプロピレン樹脂からなる樹脂組成物を主成分とするものが使用される。これは、曲げ弾性率が900MPa未満であると、難燃層が柔らかくなるため、フラットケーブル1全体の摺動性を十分に向上することができない場合があり、一方、2900MPaを超えると、難燃層が硬くなり過ぎるため、座屈するという不都合が生じる場合があるからである。
【0028】
また、本実施形態においては、難燃層8に難燃付与剤である難燃剤を含有させて、UL規格の垂直燃焼試験(VW−1試験)に合格する難燃性を付与する構成としている。当該難燃剤としては、例えば、塩素化パラフィン、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリフェニル、パークロルペンタシクロデカン等の塩素系難燃剤や、エチレンビスペンタブロモジフェニル、テトラブロモエタン、テトラブロモビスフェノールA、ヘキサブロモベンゼン、デカブロモビフェニルエーテル、テトラブロモ無水フタール酸、ポリジブロモフェニレンオキサイド、ヘキサブロモシクロデカン、臭化アンモニウム等の臭素系難燃剤等のハロゲン系難燃剤が挙げられる。また、例えば、トリアリルホスフェート、アルキルアリルホスフェート、アルキルホスフェート、ジメチルホスフォネート、ホスフォリネート、ハロゲン化ホスフォリネートエステル、トリメチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルフェニルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリス(クロロエチル)ホスフェート、トリス(2−クロロプロピル)ホスフェート、トリス(2,3−ジクロロプロピル)ホスフェート、トリス(2,3−ジブロモプロピル)ホスフェート、トリス(ブロモクロロプロピル)ホスフェート、ビス(2,3ジブロモプロピル)2,3ジクロロプロピルホスフェート、ビス(クロロプロピル)モノオクチルホスフェート、ポリホスホネート、ポリホスフェート、芳香族ポリホスフェート、ジブロモネオペンチルグリコール等のリン酸エステルまたはリン化合物や、ホスホネート型ポリオール、ホスフェート型ポリオール、およびハロゲン元素を含むポリオール等が挙げられる。また、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、三酸化アンチモン、三塩化アンチモン、ホウ酸亜鉛、ホウ酸アンチモン、ホウ酸、モリブテン酸アンチモン、酸化モリブテン、リン・窒素化合物、カルシウム・アルミニウムシリケート、ジルコニウム化合物、錫化合物、ドーソナイト、アルミン酸カルシウム水和物、酸化銅、金属銅粉、炭酸カルシウム、メタホウ酸バリウム等の金属粉や無機化合物、シリコーン系ポリマー、フェロセン、フマール酸、マレイン酸、及びメラミンシアヌレート、トリアジン、イソシアヌレート、尿素、グアニジン等の窒素化合物等が挙げられる。
【0029】
なお、難燃層8に含有する難燃剤としては、上述の臭素系難燃剤、または塩素系難燃剤等のハロゲン系難燃剤を使用することが好ましく、また、臭素系難燃剤、または塩素系難燃剤を単独で使用しても良く、臭素系難燃剤と塩素系難燃剤を混合して使用する構成としても良い。
【0030】
また、本実施形態においては、フラットケーブル1の難燃性を一層向上させるとの観点から、難燃層8に難燃付与剤である難燃助剤を配合する構成としており、当該難燃助剤としては、三酸化アンチモンを使用することが好ましい。
【0031】
そして、本実施形態においては、難燃層8が、難燃剤および難燃助剤からなる難燃性付与剤を、上述のポリプロピレン樹脂からなる樹脂組成物の100重量部に対して、60重量部以上240重量部以下含有する構成としている。これは、難燃性付与剤の含有量が60重量部未満の場合は、フラットケーブル1全体の難燃性を十分に向上することができない場合があり、また、難燃性付与剤の含有量が240重量部より多い場合は、難燃層8のフィルム加工性が低下する場合があるからである。
【0032】
本実施形態においては、このような難燃層8を使用することにより、摺動性、および難燃性に優れたフラットケーブル1を提供することが可能になる。
また、絶縁フィルム3を作製する際には、溶融押出法により、第1および第2の接着剤層4,9と難燃層8を3層の積層体としてフィルム状に形成した後、ドライラミネート法により、このフィルム状の積層体をアンカーコート層7の表面に設ける。より具体的には、難燃層8を構成するポリプロピレン樹脂に、難燃剤、および難燃助剤からなる難燃性付与剤を配合した樹脂組成物を、2軸混合機、3本ロール等の混練機により混練する。次いで、この混練された樹脂組成物と、第1および第2の接着剤層4,9を形成する酸変性ポリオレフィン樹脂からなる樹脂組成物とを、Tダイ法、インフレーション法等の溶融押出法により同時に押し出して、第1および第2の接着剤層4,9、および難燃層8の3層を積層体としてフィルム状に形成する。次いで、樹脂フィルム5の表面上に上述のアンカーコート剤を塗布して、アンカーコート層7を形成した後に、アンカーコート層7を介して、第1および第2の接着剤層4,9、および難燃層8の3層からなる積層体を樹脂フィルム5とドライラミネートする方法が採用できる。このような方法により、ラミネートする際に、第1および第2の接着剤層4,9の熱収縮を低減させることが可能になるため、絶縁フィルム3におけるカール状の変形の発生を防止できる。
【0033】
以上に説明した本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)本実施形態においては、難燃層8が、JIS K7171に準拠して測定された曲げ弾性率が900〜2900MPaであるポリプロピレン樹脂を主成分とし、さらに難燃剤と難燃助剤からなる難燃付与剤を含有する樹脂組成物からなる構成としている。そして、難燃層8が、難燃剤と難燃助剤からなる難燃付与剤を、ポリプロピレン樹脂からなる樹脂組成物の100重量部に対して、60重量部以上150重量部以下含有する構成としている。従って、難燃層8の摺動性、難燃性が向上するため、摺動性に優れ、UL規格の垂直燃焼試験(VW−1試験)に合格することができる、難燃性に優れた絶縁フィルム3を提供することが可能になる。
【0034】
(2)本実施形態においては、第1および第2の接着剤層4,9が、酸変性ポリオレフィン樹脂を主成分とする構成としている。従って、第1および第2の接着剤層4,9の耐水性、および耐湿熱性に優れた絶縁フィルム3を提供することが可能になる。
【0035】
(3)本実施形態においては、第1および第2の接着剤層4,9を形成する酸変性ポリオレフィン樹脂の、JIS K7210に準拠して荷重2.16kgf、温度230℃の条件で測定されたメルトフローレートが1.3g/10min〜9.2g/10minである構成としている。従って、第1および第2の接着剤層4,9のラミネート加工性とフィルム加工性を向上させることが可能となる。
【0036】
(4)本実施形態においては、溶融押出法により、第1および第2の接着剤層4,9と難燃層8を3層の積層体として形成するとともに、ドライラミネート法により、積層体をアンカーコート層7の表面に設ける構成としている。従って、ラミネートする際に、第1および第2の接着剤層4,9の熱収縮を低減させることが可能になるため、絶縁フィルム3におけるカール状の変形の発生を防止できる。その結果、絶縁フィルム3の加工性が向上し、導体2を、2枚の絶縁フィルム3で挟み込み、加熱加圧処理を行うことにより、導体2の両面を絶縁フィルム3によりラミネートして被覆する際に、絶縁フィルム3により、導体2の両面を良好にラミネートすることが可能になる。
【0037】
なお、上記実施形態には以下のように変形しても良い。
・図4(図1のB−B断面図)に示すように、ケーブル端部1aにおいて、導体2と接続端子の接続信頼性を高めるために、ケーブル端部1aにおける導体2の露出部の表面をめっき層6により被覆する構成としても良い。
【0038】
この際、環境への配慮から、鉛を含有しないめっき層6を使用する構成とすることが好ましく、導体2と接続端子間の接続信頼性の低下を防止するとの観点から、鉛を含有しないめっき層6として金めっき層を使用することが好ましい。導体2の表面へのめっき処理は、無電解めっき法、または電解めっき法により行われ、金めっき層を設ける際には、露出した導体の表面に対して、まず、拡散防止層としてのニッケルめっき層を形成した後、当該ニッケルめっき層の表面上に金めっき層を形成する方法が採用される。このような構成により、導体2を、プリント基板や電気電子部品等に設けられた接続端子と接続する際に、導体2と接続端子間の接続信頼性の低下を効果的に防止することができる。
・また、第1および第2の接着剤層4,9に、酸化防止剤、着色剤(例えば、酸化チタン)、隠蔽剤、加水分解抑制剤、滑剤、加工安定剤、可塑剤、発泡剤等の既知の配合剤を添加する構成としても良い。また、これらの配合剤の混合は、溶融成形法でフィルムとする場合は、単軸混合機、二軸混合機等を使いて溶融混合する方法で行うことができる。
【実施例】
【0039】
以下に、本発明を実施例、比較例に基づいて説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、これらの実施例を本発明の趣旨に基づいて変形、変更することが可能であり、それらを本発明の範囲から除外するものではない。
【0040】
(実施例1)
(難燃性樹脂組成物の作製)
まず、100重量部のポリプロピレン樹脂〔日本ポリプロ(株)製、商品名ノバテックPP FL03H、曲げ弾性率1600MPa〕に、60重量部の難燃剤〔アルマベール(株)製、商品名SAITEX8010〕、および35重量部の難燃助剤である三酸化アンチモンを加え、2軸混合機を用いて、均一に混合して、難燃性樹脂組成物を作製した。
【0041】
(絶縁フィルムの作製)
次に、作製した難燃性樹脂組成物と、第1および第2の接着剤層4,9を形成する無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂〔三菱化学(株)製、商品名モディックAP P604V、メルトフローレート3.2g/10min〕からなる樹脂組成物とを、Tダイで同時に押し出して、第1および第2の接着剤層(厚さ0.005mm)、および難燃層(厚さ0.025mm)の3層を積層体としてフィルム状(厚さ0.035mm)に形成した。次いで、100重量部のポリウレタン樹脂〔三井化学ポリウレタン(株)製、商品名タケラックA−310〕と5重量部のイソシアネート系の硬化剤〔三井化学ポリウレタン(株)製、商品名タケネートA−3〕を混合した樹脂組成物を溶剤である酢酸エチルに溶解したアンカーコート剤を用意し、ポリエチレンテレフタレートからなる樹脂フィルム〔帝人デュポンフィルム(株)製、厚さ0.025mm)の表面上に上述のアンカーコート剤を塗布した後、乾燥させて溶剤を除去することにより、樹脂フィルムの表面上にアンカーコート層(厚さ0.003mm)を形成した。次いで、ドライラミネート法により、上述のフィルム状の積層体をアンカーコート層の表面上に積層した。より具体的には、第1の接着剤層4の表面に対してコロナ処理を行い、80℃に加熱された熱ロールを用いて加熱加圧処理を行うことにより、アンカーコート層の表面上に、第1および第2の接着剤層4,9、および難燃層8の3層からなる積層体がラミネートにより形成された、全体の厚さが0.063mmのフィルム状の絶縁フィルムを作製した。
【0042】
(フラットケーブルの作製)
次に、導体である錫メッキ軟銅箔(厚さ0.035mm、幅1.0mm)10本を平行に並べた状態で、当該錫メッキ軟銅箔を、作製した2枚の絶縁フィルムで挟み込み、130℃に加熱された熱ラミネータを用いて加熱加圧処理を行うことにより、錫メッキ軟銅箔の両面を絶縁フィルムによりラミネートして被覆し、ケーブル状に加工することにより、フラットケーブルを作製した。
【0043】
(摺動性評価)
次いで、作製したフラットケーブルに対して、摺動試験機(信越エンジニアリング(株)製、商品名SEK−31B4S)による摺動性試験を行った。より具体的には、摺動半径5.0mm、摺動速度700回/min、摺動ストローク250mmの条件で、図5に示すようにフラットケーブル1を固定部材10,11に固定して屈曲させた状態で、フラットケーブル1の長手方向Xに繰り返して往復移動させて摺動させた。そして、長手方向Xにおける一往復の摺動を1回として、200万回以上摺動できた場合を合格とした。以上の結果を表1に示す。
【0044】
(耐湿熱性評価)
次いで、作製したフラットケーブルに対して、耐湿熱性評価を行った。より具体的には、作製したフラットケーブルを、温度を85℃、湿度を85%に設定した恒温恒湿槽中に1000時間放置した後、フラットケーブルを恒温恒湿槽から取り出し、フラットケーブルのケーブル端部における露出した導体を、100mm/分の速度で90°剥離し、導体接着力〔g/mm〕を測定した。なお、導体接着力の測定は、引張り試験機〔INSTRON製、商品名INSTRON MODEL4301〕を使用して行った。また、導体接着力が100g/mmより大きいものを合格とした。以上の結果を表1に示す。
【0045】
(難燃性評価)
次いで、作製したフラットケーブルに対して、UL規格1581のVW−1に規定される垂直燃焼試験を行った。より具体的には、フラットケーブルを各々10本用意し、着火後、10本中1本以上燃焼したもの、燃焼落下物により、試料であるフラットケーブルの下方に配置した脱脂綿が燃焼したもの、または、試料であるフラットケーブルの上部に取り付けたクラフト紙が燃焼したものを不合格とし、その他を合格とした。以上の結果を表1に示す。
【0046】
(実施例2)
実施例1において使用したポリプロピレン樹脂〔日本ポリプロ(株)製、商品名ノバテックPP FL03H、曲げ弾性率1600MPa〕の代わりに、ポリプロピレン樹脂〔日本ポリプロ(株)製、商品名ノバテックPP FG4FA、曲げ弾性率900MPa〕を使用したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、難燃性樹脂組成物、絶縁フィルム、およびフラットケーブルを作製した。次いで、上述の実施例1と同一の条件により、摺動性評価、耐湿熱性評価、および難燃性評価を行った。以上の結果を表1に示す。
【0047】
(実施例3)
実施例1において使用したポリプロピレン樹脂〔日本ポリプロ(株)製、商品名ノバテックPP FL03H、曲げ弾性率1600MPa〕の代わりに、ポリプロピレン樹脂〔日本ポリプロ(株)製、商品名ノバテックPP FL6H、曲げ弾性率2900MPa〕を使用したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、難燃性樹脂組成物、絶縁フィルム、およびフラットケーブルを作製した。次いで、上述の実施例1と同一の条件により、摺動性評価、耐湿熱性評価、および難燃性評価を行った。以上の結果を表1に示す。
【0048】
(実施例4)
実施例1において使用した無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂〔三菱化学(株)製、商品名モディックAP P604V、メルトフローレート3.2g/10min〕の代わりに、無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂〔三菱化学(株)製、商品名モディックAP P502、メルトフローレート1.3g/10min〕を使用したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、難燃性樹脂組成物、絶縁フィルム、およびフラットケーブルを作製した。次いで、上述の実施例1と同一の条件により、摺動性評価、耐湿熱性評価、および難燃性評価を行った。以上の結果を表1に示す。
【0049】
(実施例5)
実施例1において使用した無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂〔三菱化学(株)製、商品名モディックAP P604V、メルトフローレート3.2g/10min〕の代わりに、無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂〔三井化学(株)製、商品名アドマーQE840、メルトフローレート9.2g/10min〕を使用したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、難燃性樹脂組成物、絶縁フィルム、およびフラットケーブルを作製した。次いで、上述の実施例1と同一の条件により、摺動性評価、耐湿熱性評価、および難燃性評価を行った。以上の結果を表1に示す。
【0050】
(実施例6)
難燃剤〔アルマベール(株)製、商品名SAITEX8010〕を40重量部、および難燃助剤である三酸化アンチモンを20重量部使用したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、難燃性樹脂組成物、絶縁フィルム、およびフラットケーブルを作製した。次いで、上述の実施例1と同一の条件により、摺動性評価、耐湿熱性評価、および難燃性評価を行った。以上の結果を表1に示す。
【0051】
(実施例7)
難燃剤〔アルマベール(株)製、商品名SAITEX8010〕を160重量部、および難燃助剤である三酸化アンチモンを80重量部使用したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、難燃性樹脂組成物、絶縁フィルム、およびフラットケーブルを作製した。次いで、上述の実施例1と同一の条件により、摺動性評価、耐湿熱性評価、および難燃性評価を行った。以上の結果を表1に示す。
【0052】
(比較例1)
実施例1において使用したポリプロピレン樹脂〔日本ポリプロ(株)製、商品名ノバテックPP FL03H、曲げ弾性率1600MPa〕の代わりに、ポリプロピレン樹脂〔日本ポリプロ(株)製、商品名ノバテックPP FX4E、曲げ弾性率650MPa〕を使用したこと、および実施例1において使用した無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂〔三菱化学(株)製、商品名モディックAP P604V、メルトフローレート3.2g/10min〕の代わりに、無水マレイン酸変性ポリエチレン樹脂〔三井化学(株)製、商品名アドマーNE827、メルトフローレート5.7g/10min〕を使用したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、難燃性樹脂組成物、絶縁フィルム、およびフラットケーブルを作製した。次いで、上述の実施例1と同一の条件により、摺動性評価、耐湿熱性評価、および難燃性評価を行った。以上の結果を表1に示す。
【0053】
(比較例2)
実施例1において使用したポリプロピレン樹脂〔日本ポリプロ(株)製、商品名ノバテックPP FL03H、曲げ弾性率1600MPa〕の代わりに、熱可塑性ポリエステル樹脂〔東洋紡(株)製、商品名バイロンGM400、曲げ弾性率1800MPa〕を使用したこと、実施例1において使用した無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂〔三菱化学(株)製、商品名モディックAP P604V、メルトフローレート3.2g/10min〕の代わりに、熱可塑性ポリエステル樹脂〔東洋紡(株)製、商品名バイロンGM990、メルトフローレート17g/10min〕を使用したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、難燃性樹脂組成物、絶縁フィルム、およびフラットケーブルを作製した。次いで、上述の実施例1と同一の条件により、摺動性評価、耐湿熱性評価、および難燃性評価を行った。以上の結果を表1に示す。
【0054】
(比較例3)
難燃剤〔アルマベール(株)製、商品名SAITEX8010〕を30重量部、および難燃助剤である三酸化アンチモンを15重量部使用したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、難燃性樹脂組成物、絶縁フィルム、およびフラットケーブルを作製した。次いで、上述の実施例1と同一の条件により、摺動性評価、耐湿熱性評価、および難燃性評価を行った。以上の結果を表1に示す。
【0055】
【表1】

表1に示すように、実施例1〜7のフラットケーブルは、いずれの場合においても、摺動性、耐湿熱性、および難燃性に優れていることが判る。一方、表1に示すように、比較例1のフラットケーブルは、摺動性に劣ることが判る。これは、比較例1のフラットケーブルにおいては、難燃層を構成する樹脂組成物に、曲げ弾性率の低い(650MPa)ポリプロピレン樹脂が含有されているためであると考えられる。また、比較例2のフラットケーブルは、耐湿熱性に劣ることが判る。これは、接着剤層を構成する樹脂組成物が、吸水や加水分解が起こり易いポリエステル樹脂を含有しているためであると考えられる。また、比較例3のフラットケーブルは、難燃性に劣ることが判る。これは、難燃層が、難燃付与剤をポリプロピレン樹脂からなる樹脂組成物の100重量部に対して、60重量部未満(即ち、45重量部)しか含有していないためであると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の活用例としては、導体の両面を被覆する絶縁フィルム、およびそれを備えたフラットケーブルが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施形態に係るフラットケーブルの構成を示す概略図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】図1のB−B断面図である。
【図4】図1のB−B断面図であって、本発明の実施形態に係るフラットケーブルの変形例の構成を示す概略図である。
【図5】実施例における摺動性評価を行う際の、フラットケーブルの状態を説明するための図である。
【符号の説明】
【0058】
1…フラットケーブル、1a…ケーブル端部、2…導体、3…絶縁フィルム、4…第1の接着剤層、5…樹脂フィルム、6…めっき層、7…アンカーコート層、8…難燃層、9…第2の接着剤層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂フィルム、アンカーコート層、第1の接着剤層、難燃層、第2の接着剤層がこの順に積層された絶縁フィルムであって、
前記難燃層は、JIS K7171に準拠して測定された曲げ弾性率が900〜2900MPaであるポリプロピレン樹脂を主成分とし、さらに難燃付与剤を含有する樹脂組成物からなり、前記難燃付与剤を、前記ポリプロピレン樹脂100重量部に対して、60重量部以上240重量部以下含有することを特徴とする絶縁フィルム。
【請求項2】
前記第1および第2の接着剤層が、酸変性ポリオレフィン樹脂を主成分とすることを特徴とする請求項1に記載の絶縁フィルム。
【請求項3】
JIS K7210に準拠して荷重2.16kgf、温度230℃の条件で測定された前記酸変性ポリオレフィン樹脂のメルトフローレートが1.3g/10min〜9.2g/10minであることを特徴とする請求項2に記載の絶縁フィルム。
【請求項4】
前記第1および第2の接着剤層と前記難燃層とが、溶融押出法により積層体として形成された後、ドライラミネート法により、前記積層体を前記アンカーコート層の表面に積層することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の絶縁フィルム。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の絶縁フィルムと、導体とを備え、前記導体が、前記絶縁フィルムにより被覆されていることを特徴とするフラットケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−27279(P2010−27279A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−184911(P2008−184911)
【出願日】平成20年7月16日(2008.7.16)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】