説明

絶縁ワニス

【課題】絶縁処理時、VOCの発生が非常に少なく、且つコイルへの付着量が多くなり過ぎず、硬化物が優れた固着力を有する絶縁ワニスを得ることである。
【解決手段】ベースポリマーと、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートまたは2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートの反応性希釈剤と、多官能性ビニルモノマーと、有機過酸化物と、溶媒としての水とからなり、ベースポリマーの配合重量Aと反応性希釈剤の配合重量Bとの合計重量に対する反応性希釈剤の配合重量Bの割合R=B/(A+B)が0.70〜0.95の範囲にある水溶性の絶縁ワニスである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁ワニスに関するものであり、特に、電機機器のコイルの絶縁処理に用いられる絶縁ワニスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、電動機や発電機などの回転機のコイルは、絶縁性の保持と機械的強度の維持のため絶縁ワニスで処理されている。絶縁ワニスは、コイルの線間へ含浸する必要があり、低粘度が要求される。そのため、例えば、エポキシ樹脂やフェノール樹脂などの樹脂成分を有機溶剤に溶解させた溶剤型ワニスが広く用いられてきた。
しかし、溶剤型ワニスは、処理工程中に有機溶剤を揮散させる必要があり、多量の有機成分が揮発する。すなわち、溶剤型ワニスには、多量の揮発性有機成分に起因する安全衛生面や臭気面や大気汚染などの問題があった。これらを防止するため、溶剤型ワニスによる絶縁処理は、揮発した有機溶剤を外部に拡散させない処理装置で行う必要があり、処理装置が高価になるとの問題もあった。
【0003】
そのため、絶縁ワニスは、有機溶剤などの有機成分の揮発の少ないものが望まれてきた。有機溶剤の揮発がない絶縁ワニスとして、無溶剤型ワニスが実用化されている。
例えば、無溶剤型ワニスとして、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する熱硬化性樹脂(ベースポリマー)と、反応性希釈剤としての、エーテル結合もしくはエステル結合を有する低粘性ビニル系モノマーまたはエーテル結合もしくはエステル結合を有する低粘性1−アルキルビニル系モノマー、および必要に応じて1分子中に3個以上の(メタ)アクリロイル基またはアリル基を有する多官能性ビニルモノマーと、反応開始剤としての有機過酸化物とを混合してえられるワニスが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平10−285886号公報(第3頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
コイル等の絶縁処理に用いるワニスでは、コイルの線間へ含浸が必要であるので、低粘度が要求され、無用剤型ワニスでは、ワニスの低粘度化を反応性希釈剤を用いることにより実現している。
特許文献1記載の無用剤型ワニスでは、低粘度化のための反応性希釈剤として、エーテル結合もしくはエステル結合を有する低粘性のビニル系モノマー、または、エーテル結合もしくはエステル結合を有する低粘性の1−アルキルビニル系モノマー、または、上記低粘性のビニル系モノマーに、1分子中に3個以上の(メタ)アクリロイル基もしくはアリル基を有する多官能性ビニルモノマーを加えたもの、または、上記低粘性の1−アルキルビニル系モノマーに、1分子中に3個以上の(メタ)アクリロイル基もしくはアリル基を有する多官能性ビニルモノマーを加えたものが用いられている。
【0006】
上記無用剤型ワニスに用いられる反応性希釈剤はモノマーであるので、コイルの絶縁処理時に、反応性希釈剤は揮発する。特に、反応性希釈剤量が多くなると、その揮発量が増大し、大気汚染レベルでの揮発性有機化合物(VOC:Volatile organic compounds)が問題となる。
逆に、上記無用剤型ワニスにおいて、反応性希釈剤量が少ないと、無用剤型ワニスの粘度が高くなり、コイルに必要以上のワニスが付着し、絶縁処理における材料コストが増大するとの問題があった。
【0007】
この発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、絶縁処理時、VOCの発生が非常に少なく、且つコイルへの付着量が多くなり過ぎて処理の材料コストが増大するのを防止できる絶縁ワニスを得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係わる絶縁ワニスは、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する熱硬化性樹脂のベースポリマーと、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートまたは2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートの反応性希釈剤と、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基またはアリル基を有する多官能性ビニルモノマーと、反応開始剤である有機過酸化物と、溶媒である水とからなり、ベースポリマーの配合重量Aと反応性希釈剤の配合重量Bとの合計重量に対する反応性希釈剤の配合重量Bの割合R=B/(A+B)が0.70〜0.95の範囲にある水溶性の絶縁ワニスである。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係わる絶縁ワニスは、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する熱硬化性樹脂のベースポリマーと、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートまたは2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートの反応性希釈剤と、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基またはアリル基を有する多官能性ビニルモノマーと、反応開始剤である有機過酸化物と、溶媒である水とからなり、ベースポリマーの配合重量Aと反応性希釈剤の配合重量Bとの合計重量に対する反応性希釈剤の配合重量Bの割合R=B/(A+B)が0.70〜0.95の範囲にある水溶性の絶縁ワニスであるので、低VOCであり、絶縁処理においてコイルへ必要以上に付着することがなく、硬化物が優れたコイル固着力を備えている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
実施の形態1.
本実施の形態の絶縁ワニスは、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する熱硬化性樹脂のベースポリマーと、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートまたは2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートの反応性希釈剤と、架橋密度を向上させて絶縁ワニスの硬化物の耐水性と耐熱性とを向上させる、1分子中に2個以上、好ましくは3〜6個の(メタ)アクリロイル基またはアリル基を有する多官能性ビニルモノマーと、絶縁ワニスの硬化反応の開始剤である有機過酸化物と、溶媒である水とからなる水溶性絶縁ワニスである。
【0011】
本実施の形態の絶縁ワニスにおける、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する熱硬化性樹脂のベースポリマーには、エポキシアクリレート樹脂(ビニルエステル樹脂)、不飽和ポリエステル系樹脂、ウレタン結合含有アクリル樹脂などが挙げられる。これらのなかでは、耐加水分解性に優れ、強度、耐熱性に優れるという点から、エポキシアクリレート樹脂がとくに好ましい。
【0012】
上記エポキシアクリレート樹脂としては、たとえば一般式(I):
【0013】
【化1】

【0014】
(式中、R、RおよびRはそれぞれ独立してHまたはCH、Rは一般式:
【0015】
【化2】

【0016】
(式中、RはHまたはCHを示す)で表わされる基、nは1〜6の整数を示す)で表わされる化合物、一般式(II):
【0017】
【化3】

【0018】
(式中、R、RおよびRはそれぞれ独立してHまたはCH、Rは一般式:
【0019】
【化4】

【0020】
(式中、Rは前記と同じ)で表わされる基、mは1〜6の整数を示す)で表わされる化合物、一般式(III):
【0021】
【化5】

【0022】
(式中、R10、R11およびR12はそれぞれ独立してHまたはCH、R13、R14およびR15は一般式:
【0023】
【化6】

【0024】
(式中、Rは前記と同じ)で表わされる基、pは1〜6の整数を示す)で表わされる化合物などがあげられ、これらは単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0025】
また、本実施の形態の絶縁ワニスにおける、多官能性ビニルモノマーには、例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸などのカルボン酸や、トリメチロールプロパン、トリヒドロキシエチルイソシアヌレート、ペンタエリスリトールなどのアルコールと、アクリル酸、メタクリル酸、アリルアルコールなどのビニル基含有モノマーとの反応によってえられるエステルまたはエーテルであり、好ましくはトリメチロールプロパントリメタクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌル酸のトリアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートなどが挙げられ、特に、トリメチロールプロパントリメタクリレートとネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレートとが好ましい。
【0026】
また、本実施の形態の絶縁ワニスにおける、反応開始剤である有機過酸化物には、特に限定されるものではないが、例えば、t−ヘキシルハイドロパーオキサイドなどのパーヘキシル系、ベンゾイルパーオキサイドなどのアシルパーオキシド系、t−ブチルパーオキシベンゾエートなどの過酸エステル系、テトラメチルブチルハイドロパーオキサイドなどの有機ハイドロパーオキシド系、ジクミルパーオキサイドなどのジアルキルパーオキシド系の過酸化物などを好ましく例示することができる。
【0027】
本実施の形態の絶縁ワニスで用いられる反応性希釈剤の配合量は、ベースポリマーの配合重量Aと反応性希釈剤の配合重量Bとの合計重量に対する反応性希釈剤の配合重量Bの割合R=B/(A+B)が0.70〜0.95となる範囲である。好ましくは、0.86〜0.95である。
Rが0.70未満、つまり、反応性希釈剤として用いられた2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートまたは2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートが、反応性希釈剤とベースポリマーとの混合物中に重量割合で0.70未満であると、後述するように、反応性希釈剤に対する水の割合が増えすぎるとワニスに濁りが発生することから、添加する水の量が制限され少なくなるとともに、ベースポリマーの配合割合が多くなるので、絶縁ワニスの粘度が増加して、絶縁ワニスの付着量が多くなりすぎる。
しかし、Rが0.70以上であると、コイルに必要以上の絶縁ワニスが付着するのを防ぐとともに、必要な固着力を維持する。
また、Rが0.86以上であると、熱硬化性樹脂のベースポリマーの水溶媒への溶解時間が短くなる。特に高分子量の熱硬化性樹脂のベースポリマーの水溶媒への溶解時間の短縮が顕著であり、水溶性の絶縁ワニスの生産性が向上する。
【0028】
本実施の形態の絶縁ワニスが、絶縁処理時に必要以上の絶縁ワニスがコイルに付着するのを防止できるのは、本実施の形態の絶縁ワニスが水溶性であるので、溶媒である水の量により粘度を調整でき、反応性希釈剤の量のみによらず絶縁ワニスの低粘度化が可能となるためである。
また、本実施の形態の絶縁ワニスは、水溶性の絶縁ワニスであり、溶媒に水が用いられているので、VOCを抑制することができる。
【0029】
また、本実施の形態の絶縁ワニスにおいて、Rが0.95より大きくなると、ベースポリマーの割合が少なくなり過ぎて、絶縁ワニス硬化時の硬化収縮が大きくなるとともに、接着力が低下し、絶縁ワニスで処理したコイルの固着力が低下する。
【0030】
本実施の形態の絶縁ワニスで用いられる多官能性ビニルモノマーの配合量は、反応性希釈剤の3重量%〜30重量%、好ましくは4重量%〜20重量%である。多官能性ビニルモノマーの配合量が3重量%未満であると絶縁ワニス硬化物の架橋密度が低くなり、硬化物の強度が低下するとともに、硬化物の吸湿率が増大し、耐水性が低下する。
また、多官能性ビニルモノマーの配合量が30重量%より多いと、絶縁ワニス硬化物は、架橋密度が高くなりすぎ、硬化収縮にともないクラックが発生するおそれがあり、コイルの固着力が低下する。
【0031】
本実施の形態の絶縁ワニスで用いられる有機過酸化物の配合量は、絶縁ワニスの有機成分100重量部に対して0.1重量部〜5重量部、好ましくは0.5重量部〜3重量部である。有機過酸化物の配合量が0.1重量部未満では、絶縁ワニスの硬化性が低下する。また、有機過酸化物の配合量が5重量部より多いと絶縁ワニスのポットライフが、著しく短くなる。
【0032】
本実施の形態の絶縁ワニスで用いられる溶媒である水の配合量は、反応性希釈剤の配合重量の40重量%〜60重量%である。水の配合量が40重量%未満では、絶縁ワニス中の反応性希釈剤の割合が多く、VOCの低減効果が少ない。
逆に水の配合量が60重量%より大きいと、絶縁ワニスが濁るとともに、絶縁ワニスの粘度が低くなり過ぎて、絶縁処理においてコイルに付着するワニス量が少なく、ワニス処理したコイルの固着力が小さいので、コイルのワニス処理を複数回する必要があり、ワニス処理の生産性が低下する。
【0033】
本実施の形態の絶縁ワニスは、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する熱硬化性樹脂のベースポリマーと、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートまたは2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートの反応性希釈剤とを備えたものである。
そして、ベースポリマーの配合重量Aと反応性希釈剤の配合重量部との合計重量に対する反応性希釈剤の配合重量Bの割合C=B/(A+B)が0.70〜0.95となる範囲であるので、本実施の形態の絶縁ワニスは、水溶性の絶縁ワニスであり、低VOCであり、絶縁処理においてコイルに必要以上に絶縁ワニスが付着することがなく、その硬化物は優れた固着力と耐水性を有する。
【0034】
次に、本実施の形態の絶縁ワニスの効果を、実施例を挙げて説明する。
【0035】
実施例1.
ベースポリマーとしてのエポキシアクリレート(ビスフェノールAタイプ、1分子中のアクリロイル基:2個、数平均分子量:約520)30重量部と、反応性希釈剤としての2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート70重量部と、多官能性ビニルモノマーとしてのトリメチロールプロパントリメタクリレート10重量部と、有機過酸化物としてのt−ブチルパーオキシベンゾエート1重量部と、溶媒としての水40重量部とを、混合して均一に溶解させ、水溶性絶縁ワニスを得た。
【0036】
この得られた水溶性絶縁ワニスについて、濁りの有無、絶縁処理における非処理体へのワニスの付着量、VOC量、固着力、硬化物の吸湿率を求めて評価した。
評価試験の方法を以下に細述する。
(a)濁りの有無
水溶性絶縁ワニスをトールビーカに採取して目視観測する。
(b)ワニスの付着量
最初に、線径が1mmのマグネットワイヤー(住友電工ウインテック社製 ATZ−300)を用い、JIS C2103の規格に準拠して、試験体としてのヘリカルコイルを作製する。ヘリカルコイル(この後、コイルと記す)の10本を一組として重量を測定し、これを浸漬処理前のコイルの重量Wo(g)とする。
次に、10本一組のコイルを、評価する絶縁ワニス中に垂直に浸漬し、浸漬された状態で60秒間保持後に、コイルを1mm/秒の速度で引き上げる。引き上げられ、絶縁ワニスが付着したコイルを、160℃/2時間の条件で処理し、絶縁ワニスを硬化させて、硬化絶縁ワニスが固着したコイルを得る。この硬化絶縁ワニスが固着した一組のコイルの重量を測定して、絶縁ワニス硬化後のコイルの重量Wc(g)とする。
そして、ワニスの付着量Wa(g)を、下記(1)式から求めた。
Wa=Wc−Wo (1)
(c)VOC
ワニスの付着量を求めたのと同様にして、硬化絶縁ワニスが固着したコイルを得る。
この時、絶縁ワニス中から引き上げた直後の一組のコイルの重量を測定して、絶縁ワニス浸漬後のコイル重量Wt(g)とする。
そして、VOC値Wv(%)を、下記(2)式から求めた。
Wv=[{Wd×(1−水の配合割合)−Wa}/Wd]×100 (2)
但し、Wd=Wt―Wo
水の配合割合=水の配合重量/ワニスの重量
(d)固着力
ワニスの付着量を求めたのと同様にして、硬化絶縁ワニスが固着したコイルを得る。
このコイルを用い、スパン間隔50mm、荷重速度1mm/秒の条件で3点曲げ試験を行い、固着力Sa(N)をコイルが折れた時の加重より求めた。
(e)硬化物の吸湿率
160℃/2時間の条件で処理して硬化した絶縁ワニス硬化物から、寸法が30×30×3mmの試験片を調製し、まず、調製直後の試験片の重量Wb(g)を測定した。次に、この試験片を40℃/80%RHの雰囲気中に7日間保管し、保管後の試験片の重量Wh(g)を測定した。
そして、硬化物の吸湿率Ha(%)を、下記(3)式から求めた。
Ha={(Wh−Wb)/Wb}×100 (3)
これら(a)〜(e)の評価試験の結果は、表1にまとめて示した。
【0037】
実施例2.
ベースポリマーとしてのエポキシアクリレート(ビスフェノールAタイプ、1分子中のアクリロイル基:2個、数平均分子量:約520)14重量部と、反応性希釈剤としての2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート86重量部と、多官能性ビニルモノマーとしてのトリメチロールプロパントリメタクリレート13重量部と、有機過酸化物としてのt−ブチルパーオキシベンゾエート1重量部と、溶媒としての水51重量部とを、混合して均一に溶解させ、水溶性絶縁ワニスを得た。本実施例では、有機成分を水溶媒に均一に溶解させる時間が、実施例1に比べて、約1/2であった。
得られた水溶性絶縁ワニスについて、実施例1と同様の評価試験を行い、試験の結果は、表1にまとめて示した。
【0038】
実施例3.
ベースポリマーとしてのエポキシアクリレート(ビスフェノールAタイプ、1分子中のアクリロイル基:2個、数平均分子量:約520)5重量部と、反応性希釈剤としての2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート95重量部と、多官能性ビニルモノマーとしてのトリメチロールプロパントリメタクリレート14重量部と、有機過酸化物としてのt−ブチルパーオキシベンゾエート1重量部と、溶媒としての水57重量部とを、混合して均一に溶解させ、水溶性絶縁ワニスを得た。本実施例でも、有機成分を水溶媒に均一に溶解させる時間が、実施例1に比べて、約1/2であった。
得られた水溶性絶縁ワニスについて、実施例1と同様の評価試験を行い、試験の結果は、表1にまとめて示した。
【0039】
実施例4.
反応性希釈剤として、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートに替えて、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートを用いた以外、実施例2と同様にして、水溶性絶縁ワニスを得た。
得られた水溶性絶縁ワニスについて、実施例1と同様の評価試験を行い、試験の結果は、表1にまとめて示した。
【0040】
実施例5.
ベースポリマーとして、(ビスフェノールAタイプ、1分子中のアクリロイル基:2個、数平均分子量:約520)のエポキシアクリレートに替えて、(ノボラックタイプ、1分子中のアクリロイル基:3個、数平均分子量:約680)のエポキシアクリレートを用いた以外、実施例1と同様にして、水溶性絶縁ワニスを得た。
得られた水溶性絶縁ワニスについて、実施例1と同様の評価試験を行い、試験の結果は、表1にまとめて示した。
【0041】
実施例6.
ベースポリマーとして、(ビスフェノールAタイプ、1分子中のアクリロイル基:2個、数平均分子量:約520)のエポキシアクリレートに替えて、(ノボラックタイプ、1分子中のアクリロイル基:3個、数平均分子量:約680)のエポキシアクリレートを用いた以外、実施例2と同様にして、水溶性絶縁ワニスを得た。本実施例では、有機成分を水溶媒に均一に溶解させる時間が、実施例5に比べて、約1/3であった。
得られた水溶性絶縁ワニスについて、実施例1と同様の評価試験を行い、試験の結果は、表1にまとめて示した。
【0042】
実施例7.
多官能性ビニルモノマーとしてのトリメチロールプロパントリメタクリレートに替えて、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレートを用いた以外、実施例2と同様にして、水溶性絶縁ワニスを得た。
得られた水溶性絶縁ワニスについて、実施例1と同様の評価試験を行い、試験の結果は、表1にまとめて示した。
【0043】
実施例8.
多官能性ビニルモノマーの配合量を、3重量部とした以外、実施例2と同様にして、水溶性絶縁ワニスを得た。
得られた水溶性絶縁ワニスについて、実施例1と同様の評価試験を行い、試験の結果は、表1にまとめて示した。
【0044】
実施例9.
多官能性ビニルモノマーの配合量を、24重量部とした以外、実施例2と同様にして、水溶性絶縁ワニスを得た。
得られた水溶性絶縁ワニスについて、実施例1と同様の評価試験を行い、試験の結果は、表1にまとめて示した。
【0045】
比較例1.
ベースポリマーとしてのエポキシアクリレート(ビスフェノールAタイプ、1分子中のアクリロイル基:2個、数平均分子量:約520)の配合量を32重量部とし、反応性希釈剤としての2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートの配合量を68重量部とした以外、実施例1と同様にして、水溶性絶縁ワニスを得た。
得られた水溶性絶縁ワニスについて、実施例1と同様の評価試験を行い、試験の結果は、表1にまとめて示した。
【0046】
比較例2.
ベースポリマーとしてのエポキシアクリレート(ビスフェノールAタイプ、1分子中のアクリロイル基:2個、数平均分子量:約520)の配合量を4重量部とし、反応性希釈剤としての2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートの配合量を96重量部とした以外、実施例3と同様にして、水溶性絶縁ワニスを得た。
得られた水溶性絶縁ワニスについて、実施例1と同様の評価試験を行い、試験の結果は、表1にまとめて示した。
【0047】
比較例3.
多官能性ビニルモノマーとしてのトリメチロールプロパントリメタクリレートの配合量を2重量部とした以外、実施例2と同様にして、水溶性絶縁ワニスを得た。
得られた水溶性絶縁ワニスについて、実施例1と同様の評価試験を行い、試験の結果は、表1にまとめて示した。
【0048】
比較例4.
多官能性ビニルモノマーとしてのトリメチロールプロパントリメタクリレートの配合量を27重量部とした以外、実施例2と同様にして、水溶性絶縁ワニスを得た。
得られた水溶性絶縁ワニスについて、実施例1と同様の評価試験を行い、試験の結果は、表1にまとめて示した。
【0049】
比較例5.
溶媒の水を用いない以外、実施例1と同様にして、絶縁ワニスを得た。
得られた水溶性絶縁ワニスについて、実施例1と同様の評価試験を行い、試験の結果は、表1にまとめて示した。
【0050】
比較例6.
溶媒の水を用いない以外、実施例2と同様にして、絶縁ワニスを得た。
得られた水溶性絶縁ワニスについて、実施例1と同様の評価試験を行い、試験の結果は、表1にまとめて示した。
【0051】
【表1】

各評価試験の合格基準 : 付着量(Wa)<1.3 VOC(Wv)<12
固着力(Sa)>50 吸湿率(Ha)<3.5
【0052】
表1から明らかなように、本実施例の水溶性絶縁ワニスは、比較例5と比較例6とに示す水溶媒を用いない、反応性希釈剤を含有する無溶剤絶縁ワニスに比べて、ワニスの付着量とVOCとが大幅に小さい。
そして、本実施例に示す、ベースポリマーと反応希釈剤との混合物中の反応希釈剤の配合割合Rが0.70〜0.95である水溶性絶縁ワニスは、安定した濁りのないワニスであり、全ての評価試験の合格基準を満たしており、高固着力と低吸湿率とを維持するとともに、ワニスの付着量とVOCとが小さいものである。
しかし、Rが0.70未満になると、絶縁ワニスのコイルへの付着量が増加し、Rが0.95より大きくなると、コイルへの付着量が小さくなりすぎ、接着力が低下するとともに、絶縁ワニス硬化時の収縮が増大して、固着力が低下する。
【0053】
また、多官能性ビニルモノマーの割合が少ないと、絶縁ワニス硬化物の架橋密度が低くなり、硬化物の強度が低下して固着力が小さくなるとともに、硬化物の吸湿率が増大する。逆に、多官能性ビニルモノマーの割合が多いと、硬化物の架橋密度が高くなり、硬化収縮が増大し、硬化ワニスにクラックが発生する恐れが生じて、やはり固着力が低下する。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明に係わる絶縁ワニスは、絶縁処理時のコイルへの付着量が適正であり、VOCも少なく、コイル固着力に優れているので、汎用の電動機や発電機のコイルの絶縁処理に有効に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する熱硬化性樹脂のベースポリマーと、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートまたは2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートの反応性希釈剤と、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基またはアリル基を有する多官能性ビニルモノマーと、反応開始剤としての有機過酸化物と、溶媒としての水とからなり、上記ベースポリマーの配合重量Aと上記反応性希釈剤の配合重量Bとの合計重量に対する上記反応性希釈剤の配合重量Bの割合R=B/(A+B)が0.70〜0.95の範囲にある水溶性の絶縁ワニス。
【請求項2】
ベースポリマーの配合重量Aと反応性希釈剤の配合重量Bとの合計重量に対する上記反応性希釈剤の配合重量Bの割合R=B/(A+B)が0.86〜0.95の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の絶縁ワニス。
【請求項3】
1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する熱硬化性樹脂のベースポリマーがエポキシアクリレート樹脂であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の絶縁ワニス。
【請求項4】
多官能性ビニルモノマーの配合量が、反応性希釈剤の3重量%〜30重量%の範囲にあることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の絶縁ワニス。

【公開番号】特開2009−277541(P2009−277541A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−128453(P2008−128453)
【出願日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【出願人】(000236067)菱電化成株式会社 (4)
【Fターム(参考)】