説明

絶縁塗料及び絶縁電線、並びにそれを用いたコイル

【課題】ワニス固着力を低下させることなく、潤滑性を向上させることができる絶縁塗料及び絶縁電線、並びにそれを用いたコイルを提供する。
【解決手段】イソシアネート成分と酸成分とを合成反応させて得られるポリアミドイミド樹脂と、滑剤成分とを含む絶縁塗料において、前記ポリアミドイミド樹脂は、末端のイソシアネート基が、炭素数が8以上の高級アルコールからなる封止剤で封止されていることを特徴とする絶縁塗料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベース樹脂としてポリアミドイミド樹脂を用いた絶縁塗料及び絶縁電線、並びにそれを用いたコイルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
モーターや変圧器などは、例えば、ステータスロットに、絶縁電線(エナメル線)を巻回して形成されたコイルを複数挿入した後、挿入した複数のコイルの端末部分同士を溶接などによって接合することによって形成される。
【0003】
コイルを形成する際、絶縁電線が高速に巻回されるため、このコイル形成時に発生する絶縁電線の表面の傷を低減することを目的として、巻線性の優れたもの、すなわち、絶縁電線の表面の潤滑性(自己潤滑性)を向上させたものが求められている。
【0004】
絶縁電線の表面の潤滑性を改善する方法としては、絶縁電線の表面にパラフィン、脂肪酸エステルなどを主成分とした滑剤を塗布したり、あるいはベース樹脂に同様の滑剤を添加した潤滑性を有する絶縁塗料を導体上に塗布、焼付けして潤滑層を形成する方法がある。
【0005】
また、他の方法としては、ベース樹脂に安定化されたイソシアネート及び滑剤を配合した潤滑性を有する絶縁塗料を導体上に塗布、焼付けして潤滑層を形成する方法もある(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
一方、コイルは絶縁電線を巻回して形成された後、機械的強度や絶縁強度の向上のため、一般にワニスをコイルに含浸、硬化させるワニス含浸処理が行われるが、最外層に潤滑層を有する絶縁電線を使用したコイルは、その潤滑層がワニスのコイルに対する固着力(ワニス固着力)の阻害要因となり、潤滑層のない絶縁電線を使用したコイルに比べ、ワニス固着力が大幅に低下する。
【0007】
このようなワニス固着力の低下を改善する方法としては、コイルに含浸、硬化させるワニス(処理ワニス)との反応性を有する材料、例えば、エポキシ樹脂やシランカップリング剤などを、潤滑性を有する絶縁塗料に添加する方法がある(例えば、特許文献2、3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−45143号公報
【特許文献2】特開2002−75066号公報
【特許文献3】特開2007−213908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年では、省エネルギーの観点から、モーターや変圧器は高効率化が要求されており、これに対応して、ステータスロットの断面積に対する絶縁電線の導体の断面積の比率(占積率)を従来よりもさらに高くするために、ステータスロット内にほとんど隙間がない状態となるようにコイルが挿入される。
【0010】
そのため、コイルを挿入する際に発生する絶縁層の表面の傷を低減することを目的として、絶縁電線には優れたコイル挿入性、すなわち、ステータスロット内にコイルを挿入するときの挿入力(コイル挿入力)のさらなる低減が求められている。この要求を満たすためには、絶縁電線の表面の潤滑性をさらに向上させる必要がある。
【0011】
しかしながら、絶縁電線の表面の潤滑性をさらに向上させる場合、従来において問題であったワニス固着力の低下もさらに発生しやすくなるため、従来のようなワニス固着力の低下を改善する方法では、ワニス固着力の低下を抑制する効果が不十分となってしまう。
【0012】
そこで、本発明の目的は、ワニス固着力を低下させることなく、潤滑性を向上させることができる絶縁塗料及び絶縁電線、並びにそれを用いたコイルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、イソシアネート成分と酸成分とを合成反応させて得られるポリアミドイミド樹脂と、滑剤成分とを含む絶縁塗料において、前記ポリアミドイミド樹脂は、末端のイソシアネート基が、炭素数が8以上の高級アルコールからなる封止剤で封止されていることを特徴とする絶縁塗料である。
【0014】
請求項2の発明は、前記封止剤は、前記イソシアネート成分のモル量に対して、0.3モル%以上、5モル%未満の範囲のモル量で添加されている請求項1記載の絶縁塗料である。
【0015】
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載の絶縁塗料を、導体の外周に塗布して潤滑層が形成されていることを特徴とする絶縁電線である。
【0016】
請求項4の発明は、前記潤滑層は、その表面に直径が0.1μm以上、5μm以下の凹部を有する請求項3記載の絶縁電線である。
【0017】
請求項5の発明は、請求項3又は4に記載の絶縁電線がコイル状に巻回されており、その表面にワニスが含浸、硬化されていることを特徴とするコイルである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ワニス固着力を低下させることなく、絶縁皮膜の潤滑性を向上させることができる絶縁塗料及び絶縁電線、並びにそれを用いたコイルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係る絶縁電線の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な一実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0021】
先ず、図1により、本発明が適用される絶縁電線を説明する。
【0022】
絶縁電線10は、導体11上に汎用的なエナメル絶縁塗料を塗布、焼付けすることにより導体11の周囲に絶縁層12が形成され、さらにその上に本発明の絶縁塗料を塗布、焼付けすることにより潤滑層13を形成して得られる。
【0023】
なお絶縁電線10は、導体11上に、直接本発明の絶縁塗料を塗布、焼付けすることにより潤滑層13を形成して得るようにしてもよい。
【0024】
次に、この潤滑層13を形成するポリアミドイミド樹脂からなる自己潤滑性の絶縁塗料を説明する。
【0025】
本実施形態において、自己潤滑性を有する絶縁塗料は、ベース樹脂がポリアミドイミド樹脂からなり、このポリアミドイミド樹脂からなる絶縁塗料をイソシアネート成分と酸成分とを合成反応させて得る段階で、絶縁塗料の性状がエナメル塗装に適正な粘度、樹脂分濃度、分子量などになった時点でポリアミドイミド樹脂の末端基であるイソシアネート基を封止する封止剤として、炭素数が8以上の高級アルコールを合成系内に投入して、合成反応を停止させたものである。
【0026】
この絶縁塗料を用いることにより、潤滑層を形成する時に絶縁電線の表面に微小な凹状のくぼみが形成されているため、潤滑性を向上させてもアンカー効果によって強固なワニス固着力を有する絶縁電線(自己潤滑エナメル線)が得られる。アンカー効果とは投錨効果とも呼ばれ、接着剤などが接着物の微細な凹部に接着剤が入り込みそのまま硬化することでくさびのような働きをして、接着力が向上することをいい、この効果がワニス固着力向上に大きく寄与することになる。
【0027】
本発明に用いる絶縁塗料のポリアミドイミド樹脂からなる絶縁塗料は、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などの極性溶媒を主溶剤として使用し、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)などからなるイソシアネート成分と、トリメリット酸無水物(TMA)などからなる酸成分との主に2成分を合成反応させて得られる絶縁塗料であり、この合成反応時の封止剤として、炭素数が8以上の高級アルコールを用いるものである。
【0028】
高級アルコールの炭素数について、8以上であればアンカー効果を発揮しワニス固着力効果は得られるが、炭素数15〜30が、凹部の大きさ、深さ、数などの点で最も適しており望ましい。
【0029】
炭素数が8以上の高級アルコールとしては、ステアリルアルコール(炭素数18)やオレイルアルコール(炭素数18)などに例示されるアルコールが望ましく、なかでも不飽和アルコールは液状のものが多く、封止剤として取り扱いやすく、なお望ましい。また、分子量や分岐数などが各種存在するポリエチレングリコール(分子量600以上)やポリプロピレングリコールなども適用することが出来る。さらに、脂環または芳香環などの環状構造にアルコールが付加された構造のアルコールでも良い。これらの高級アルコールに、低級アルコールを併用しても良い。
【0030】
MDIなどからなるイソシアネート成分とTMAなどからなる酸成分とを用いたポリアミドイミド樹脂からなる絶縁塗料においては、イソシアネート成分と酸成分とをほぼ等モル量の配合比率で合成するが、イソシアネート成分については、酸成分のモル量に対して1〜1.05倍のモル量の範囲で酸成分よりも過剰な状態で合成されることもある。
【0031】
このとき、高級アルコールを封止剤として添加する量については、イソシアネート成分のイソシアネート基を封止するのに適当なモル量を添加する。例えば、イソシアネート成分のイソシアネート基を全て封止するだけのモル量でも良いし、イソシアネート成分のイソシアネート基よりも過剰、あるいは過小となるモル量でもよい。好ましくは、イソシアネート成分のモル量に対して、0.3モル%以上、5モル%未満の範囲となるモル量で添加するのが好ましく、より好ましくは0.3モル%以上、2モル%以下の範囲となるモル量で添加するのがよい。
【0032】
これにより、潤滑層を形成する際、絶縁塗料の焼付け硬化時に封止剤が解離して、さらに高分子量化して潤滑層が形成されるため、良好な潤滑性と強固なワニス固着力が得られる。
【0033】
絶縁電線の表面、すなわち、潤滑層の表面に形成された凹部の大きさは高級アルコールの種類と配合量により依存する傾向があるが、種々の材料の配合バランスや樹脂の分子量、添加剤などによって変わるため、最適な高級アルコールの量は上記同様、良好な潤滑性と強固なワニス固着力を得られる範囲で選定する必要がある。
【0034】
上述したように炭素数が8以上の高級アルコールの添加量(モル量)を、MDIの添加量(モル量)に対して、0.3モル%以上、5モル%未満の範囲とすることで、絶縁電線の表面(潤滑層の表面)に形成された凹部の直径を0.1〜5μmの範囲とすることができる。この凹部の直径が5μmを超えると、ワニス固着力の向上は得られるものの滑り性や摩耗性が悪化する、すなわち潤滑性が低下する傾向にあり、0.1μm未満になるとワニス固着力の向上効果が薄れることから、直径0.1〜5μmの範囲、望ましくは直径0.1〜3μmの範囲となるように高級アルコールを添加するのがよい。なお、凹部の直径とは、絶縁電線の表面(潤滑層の表面)を基準面として、光学顕微鏡を用いて基準面を観察したときに得られる凹部の直径を算術平均によって求められる値で示したものである。
【0035】
ポリアミドイミド樹脂塗料の原料、溶剤組成、分子量、粘度、濃度などには特に制限はなく、原料としてはMDI以外の既存のトリレンジイソシアネート(TDI)などのイソシアネート成分を併用しても良いし、酸成分としてトリメリット酸無水物(TMA)などの既存のトリカルボン酸無水物あるいはピロメリット酸二無水物(PMDA)などのテトラカルボン酸二無水物、テレフタル酸(TDA)などのジカルボン酸類を併用しても良い。
【0036】
溶剤には、NMP、あるいはNMP以外のポリアミドイミド樹脂塗料の合成に適した既存の極性溶媒を使ってもよいし、これらをNMPと併用してもよい。特性に影響しない範囲で他の溶媒で希釈しても良い。また、アミン類やイミダゾール類、イミダゾリン類などの反応触媒を使用しても良いが、特性を阻害しないものが望ましい。
【0037】
絶縁塗料に潤滑性を付与する添加剤としては、ポリオレフィン系や脂肪酸エステル系などの滑剤を用いる。滑剤の種類や添加量については特に限定はないが、ポリエチレン系の滑剤はポリアミドイミド樹脂に対し、1〜4質量部程度の添加量が望ましい。
【0038】
また滑剤のブリードを促進させる為、ポリイソシアネート化合物、安定化イソシアネートやエポキシ樹脂、フェノール樹脂などの材料を併用しても良い。なお、安定化イソシアネートとは、末端に持つイソシアネート基の全てがマスキング剤等によってマスキングされて安定化されたイソシアネート化合物である。また、ポリイソシアネート化合物とは、末端に持つイソシアネート基の全て、あるいは一部がマスキング剤等によってマスキングされていないイソシアネート化合物である。
【0039】
さらに添加剤として、分散剤、酸化防止剤、カップリング剤、レベリング剤などを併用しても良い。
【0040】
滑剤の分散にも特に限定はないが、ポリアミドイミド樹脂からなる絶縁塗料中に滑剤を適当量直接投入し、ミル等での強力撹拌しても良いし、分散性等を向上させるため、あらかじめ滑剤を有機溶媒等に分散させた分散液をポリアミドイミド樹脂からなる絶縁塗料中に投入・撹拌しても良い。
【0041】
潤滑性を有する絶縁電線の構造としては、汎用的なエナメル絶縁塗料からなる絶縁層の上にポリアミドイミド樹脂からなる上述の絶縁塗料を塗布焼付けして得られた潤滑層を設けた構造であるが、絶縁層や潤滑層の皮膜厚さや、絶縁層と潤滑層の皮膜厚の比率などには特に限定されるものはない。
【0042】
汎用的なエナメル絶縁塗料からなる絶縁層の種類にも限定は無く、絶縁層の種類が違う層数にも特に限定は無いが、汎用的には絶縁層は1層もしくは2層が望ましい。また、潤滑層の表面に潤滑油や固形の潤滑剤を塗布しても良い。
【実施例】
【0043】
各実施例、比較例において、次のように行った。
【0044】
撹拌機、還流冷却管、窒素流入管、温度計を備えたフラスコに下記実施例、比較例に示す原料を投入し、窒素雰囲気中で撹拌しながら約1時間で140℃まで加熱し、この温度で2時間反応させた後、還元粘度が約0.4dl/gのポリアミドイミド樹脂溶液が得られるように、実施例、比較例に示す封止剤で合成反応を止めて、ベース樹脂塗料となるポリアミドイミド樹脂塗料を作製した。
【0045】
次いで、ポリアミドイミド樹脂100質量部に対し、滑剤成分及び添加剤、添加樹脂を投入・撹拌し、自己潤滑性を有するポリアミドイミド樹脂からなる絶縁塗料(以下自己潤滑性ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料という)を作製した。
【0046】
また図1で説明したように、1.0mmの銅導体11上に汎用的なポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を塗布、焼付けし、皮膜厚30μmの絶縁層12を形成した後、その上に前記自己潤滑性ポリアミドイミド塗料を塗布、焼付けし、皮膜厚3μmの自己潤滑性ポリアミドイミドの潤滑層13を形成し、絶縁電線(自己潤滑性エナメル線)10を得た。
【0047】
実施例及び比較例における性状、得られたエナメル線の特性等については表1、表2に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
表1、2において、塗料特性として還元粘度(dl/g)と不揮発分(mass%)を測定した。
【0051】
また得られたエナメル線の特性評価として、JISC 3003に準拠し、寸法や表面外観を観察して良否を判定し、また皮膜の表面(潤滑層13の表面)に形成された凹部の平均直径(μm)は、光学顕微鏡を用いて潤滑層13の表面を観察して得られた凹部の直径を算術平均によって算出し、耐摩耗性試験として、JISC 3003に準拠し、往復摩擦をかけたときの皮膜が摩耗して導体が露出する迄の回数を測定し、滑り性としては、傾斜法により静摩擦係数を測定し、ワニス固着力(N)としては、NEMA法に準拠し、エポキシ系ワニスとポリエステル系ワニスとの固着力を測定した。
【0052】
次に表1、2に示した実施例1〜14と比較例1〜7を説明する。
【0053】
(実施例1)
イソシアネート成分として255.0g(1.02モル)のMDI(4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート)と、酸成分として192.0g(1.0モル)のトリメリット酸無水物(TMA)及び溶剤として1100gのNMP(N−メチル−2−ピロリドン)を投入して合成を行い、封止剤としてオレイルアルコール(炭素数;C18)5.4g(0.02モル)を投入し、合成反応を停止、樹脂分濃度28質量%のポリアミドイミド樹脂塗料を得た。
【0054】
さらに滑剤としてポリオレフィン系滑剤を8.9g(2質量部)を分散し、自己潤滑性ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0055】
(実施例2)
イソシアネート成分として255.0g(1.02モル)のMDIと、酸成分として192.0g(1.0モル)のTMA及び溶剤として1100gのNMPを投入して合成を行い、封止剤としてオレイルアルコール13.4g(0.05モル)を投入し、合成反応を停止、樹脂分濃度28質量%のポリアミドイミド樹脂塗料を得た。
【0056】
さらに滑剤としてポリオレフィン系滑剤を8.9g(2質量部)を分散し、自己潤滑性ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0057】
(実施例3)
イソシアネート成分として255.0g(1.02モル)のMDIと、酸成分として192.0g(1.0モル)のTMA及び溶剤として1100gのNMPを投入して合成を行い、封止剤としてオレイルアルコール0.8g(0.003モル)とメタノール(C1)0.3g(0.01モル)を投入し、合成反応を停止、樹脂分濃度28質量%のポリアミドイミド樹脂塗料を得た。
【0058】
さらに滑剤としてポリオレフィン系滑剤を8.9g(2質量部)を分散し、自己潤滑性ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0059】
(実施例4)
イソシアネート成分として262.5g(1.05モル)のMDIと、酸成分として192.0g(1.0モル)のTMA及び溶剤として1100gのNMPを投入して合成を行い、封止剤としてオレイルアルコール5.4g(0.02モル)を投入し、合成反応を停止、樹脂分濃度28質量%のポリアミドイミド樹脂塗料を得た。
【0060】
さらに滑剤としてポリオレフィン系滑剤を9.1g(2質量部)を分散し、自己潤滑性ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0061】
(実施例5)
イソシアネート成分として250.0g(1.0モル)のMDIと、酸成分として192.0g(1.0モル)のTMA及び溶剤として1100gのNMPを投入して合成を行い、封止剤としてオレイルアルコール5.4g(0.02モル)を投入し、合成反応を停止、樹脂分濃度28質量%のポリアミドイミド樹脂塗料を得た。
【0062】
さらに滑剤としてポリオレフィン系滑剤を8.8g(2質量部)を分散し、自己潤滑性ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0063】
(実施例6)
イソシアネート成分として255.0g(1.02モル)のMDIと、酸成分として192.0g(1.0モル)のTMA及び溶剤として1200gのNMPを投入して、還元粘度0.5dl/gの重合度まで合成を行い、封止剤としてオレイルアルコール5.4g(0.02モル)を投入し、合成反応を停止し、DMF200gで希釈し、樹脂分濃度24質量%のポリアミドイミド樹脂塗料を得た。
【0064】
さらに滑剤としてポリオレフィン系滑剤を8.9g(2質量部)を分散し、自己潤滑性ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0065】
(実施例7)
イソシアネート成分として255.0g(1.02モル)のMDIと、酸成分として192.0g(1.0モル)のTMA及び溶剤として1200gのNMPを投入して合成を行い、封止剤としてオレイルアルコール5.4g(0.02モル)を投入し、合成反応を停止した。
【0066】
その後、50℃まで冷却した後に、ヘキサノール(C6)5.1g(0.05モル)を混合し、滑剤成分の添加剤としてポリイソシアネート化合物を111.8g(25質量部)と、ポリオレフィン系滑剤を11.2g(2質量部)を投入し撹拌し、DMF(N,N−ジメチルホルムアミド)200gで希釈し、樹脂分濃度28質量%の自己潤滑性ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0067】
(実施例8)
イソシアネート成分として255.0g(1.02モル)のMDIと、酸成分として192.0g(1.0モル)のTMA及び溶剤として1000gのNMPを投入して合成を行い、封止剤としてオレイルアルコール5.4g(0.02モル)を投入し、合成反応を停止した。
【0068】
摩耗性向上剤(滑剤成分)としての添加剤として、エポキシ樹脂を44.7g(10質量部)を混合した後、DMF250gで希釈して樹脂分濃度28質量%のポリアミドイミド樹脂塗料を得た。
【0069】
さらに滑剤としてポリオレフィン系滑剤を8.9g(2質量部)を投入・撹拌し、自己潤滑性ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0070】
(実施例9)
イソシアネート成分として255.0g(1.02モル)のMDIと、酸成分として192.0g(1.0モル)のTMA及び溶剤として1100gのNMPを投入して合成を行い、封止剤としてオレイルアルコール5.4g(0.02モル)を投入し、合成反応を停止し、樹脂分濃度28質量%のポリアミドイミド樹脂塗料を得た。
【0071】
さらに滑剤として脂肪酸エステル系滑剤を8.9g(2質量部)を分散し、自己潤滑性ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0072】
(実施例10)
イソシアネート成分として230.0g(0.92モル)のMDIと17.4g(0.10モル)のTDI(トリレンジイソシアネート)、酸成分として172.8g(0.9モル)のTMAと10.9g(0.05モル)のPMDA(テトラカルボン酸二無水物成分)と8.3g(0.05モル)のTPA(ジカルボン酸成分)及び溶剤として900gのNMPを投入して合成を行い、封止剤としてオレイルアルコール5.4g(0.02モル)を投入し、合成反応を停止、DMF200gで希釈し、樹脂分濃度28質量%のポリアミドイミド樹脂塗料を得た。
【0073】
さらに滑剤としてポリオレフィン系滑剤を8.8g(2質量部)を分散し、自己潤滑性ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0074】
(実施例11)
イソシアネート成分として255.0g(1.02モル)のMDIと、酸成分として192.0g(1.0モル)のTMA及び溶剤として900gのNMPを投入して合成を行い、封止剤としてステアリルアルコール(C18)5.4g(0.02モル)を投入し、合成反応を停止、DMF200gで希釈し、樹脂分濃度28質量%のポリアミドイミド樹脂塗料を得た。
【0075】
さらに滑剤としてポリオレフィン系滑剤を8.9g(2質量部)を分散し、自己潤滑性ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0076】
(実施例12)
イソシアネート成分として255.0g(1.02モル)のMDIと、酸成分として192.0g(1.0モル)のTMA及び溶剤として900gのNMPを投入して合成を行い、封止剤としてドデカノール(C12)3.7g(0.02モル)を投入し、合成反応を停止、DMF200gで希釈し、樹脂分濃度28質量%のポリアミドイミド樹脂樹脂絶縁塗料を得た。
【0077】
さらに滑剤としてポリオレフィン系滑剤を8.9g(2質量部)を分散し、自己潤滑性ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0078】
(実施例13)
イソシアネート成分として255.0g(1.02モル)のMDIと、酸成分として192.0g(1.0モル)のTMA及び溶剤として900gのNMPを投入して合成を行い、封止剤としてオクタノール(C8)2.6g(0.02モル)を投入し、合成反応を停止、DMF200gで希釈し、樹脂分濃度28質量%のポリアミドイミド樹脂塗料を得た。
【0079】
さらに滑剤としてポリオレフィン系滑剤を8.9g(2質量部)を分散し、自己潤滑性ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0080】
(実施例14)
イソシアネート成分として255.0g(1.02モル)のMDIと、酸成分として192.0g(1.0モル)のTMA及び溶剤として900gのNMPを投入して合成を行い、封止剤としてポリエチレングリコール600(重量平均分子量Mw=600)を12.0g(0.02モル)を投入し、合成反応を停止し、DMF200gで希釈し、樹脂分濃度28質量%のポリアミドイミド樹脂塗料を得た。
【0081】
さらに滑剤としてポリオレフィン系滑剤を8.9g(2質量部)を分散し、自己潤滑性ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0082】
(比較例1)
イソシアネート成分として255.0g(1.02モル)のMDIと、酸成分として192.0g(1.0モル)のTMA及び溶剤として1100gのNMPを投入して合成を行い、封止剤としてメタノール(C1)0.6g(0.02モル)を投入し、合成反応を停止、樹脂分濃度28質量%のポリアミドイミド樹脂塗料を得た。
【0083】
さらに滑剤としてポリオレフィン系滑剤を8.9g(2質量部)を分散し、自己潤滑性ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0084】
(比較例2)
イソシアネート成分として255.0g(1.02モル)のMDIと、酸成分として192.0g(1.0モル)のTMA及び溶剤として1100gのNMPを投入して合成を行い、封止剤としてヘキサノール(C6)2.0g(0.02モル)を投入し、合成反応を停止、樹脂分濃度28質量%のポリアミドイミド樹脂塗料を得た。
【0085】
さらに滑剤としてポリオレフィン系滑剤を8.9g(2質量部)を分散し、自己潤滑性ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0086】
(比較例3)
イソシアネート成分として255.0g(1.02モル)のMDIと、酸成分として192.0g(1.0モル)のTMA及び溶剤として1100gのNMPを投入して合成を行い、封止剤としてブタノンオキシム(C6)1.7g(0.02モル)を投入し、合成反応を停止、樹脂分濃度28質量%のポリアミドイミド樹脂塗料を得た。
【0087】
さらに滑剤としてポリオレフィン系滑剤を8.9g(2質量部)を分散し、自己潤滑性ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0088】
(比較例4)
イソシアネート成分として255.0g(1.02モル)のMDIと、酸成分として192.0g(1.0モル)のTMA及び溶剤として1200gのNMPを投入して合成を行い、封止剤としてメタノール(C1)0.6g(0.02モル)を投入し、合成反応を
停止した。
【0089】
その後50℃まで冷却した後に、メタノール1.0g(0.03モル)を混合し、滑剤成分の添加剤としてポリイソシアネート化合物を111.8g(25質量部)とポリオレフィン系滑剤を11.2g(2質量部)を投入し撹拌し、DMF200gで希釈し、樹脂分濃度28質量%の自己潤滑性ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0090】
(比較例5)
イソシアネート成分として230.0g(0.92モル)のMDIと17.4g(0.10モル)のTDI、酸成分として172.8g(0.9モル)のTMAと10.9g(0.05モル)のPMDAと8.3g(0.05モル)のTPA及び溶剤として900gのNMPを投入して合成を行い、封止剤としてメタノール(C1)0.6g(0.02モル)を投入し、合成反応を停止し、DMF200gで希釈し、樹脂分濃度28質量%のポリアミドイミド樹脂塗料を得た。
【0091】
さらに滑剤としてポリオレフィン系滑剤を8.8g(2質量部)を分散し、自己潤滑性ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0092】
(比較例6)
イソシアネート成分として255.0g(1.02モル)のMDIと、酸成分として192.0g(1.0モル)のTMA及び溶剤として900gのNMPを投入して合成を行い、封止剤としてオクタノール(C8)1.3g(0.01モル)を投入し、合成反応を停止し、DMF200gで希釈し、樹脂分濃度28質量%のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0093】
(比較例7)
イソシアネート成分として255.0g(1.02モル)のMDIと、酸成分として192.0g(1.0モル)のTMA及び溶剤として1250gのNMPを投入して合成を行い、封止剤としてメタノール(C1)0.6g(0.02モル)を投入し、合成反応を停止し、樹脂分濃度28質量%のポリアミドイミド樹脂塗料を得た。
【0094】
さらに滑剤としてポリオレフィン系滑剤を8.9g(2質量部)及びシランカップリング剤44.7gを投入し、自己潤滑性ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0095】
以上において、実施例は、いずれも高級アルコールでイソシアネート基を封止して合成反応を停止させたものであり、エナメル線の表面に0.8〜4.9μmの凹状のくぼみが観察される。その大きさは高級アルコールの種類、添加量、ベース樹脂、添加剤などで変化するが、実施例の範囲における凹部の直径であれば、耐摩耗性や滑り性を損なわずに、ワニス固着力を向上することが出来る。
【0096】
実施例1〜6、8、9、11〜14は、封止剤として炭素数8以上のオレイルアルコールで封止すると共に、ポリアミドイミド樹脂をベース樹脂に滑剤を分散した自己潤滑性ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料であり、ワニス固着力、及び絶縁皮膜の潤滑性(滑り性)が良好なバランスを有していることが判る。つまり、本実施例においては、ワニス固着力を低下させることなく、絶縁皮膜の潤滑性を向上させることができる。なお、これらは往復摩耗値が1300回前後であるが、凹部の直径が大きくなると僅かに往復摩耗値が低下する傾向が認められるものの、実用上問題のない範囲である。また実施例7は、合成反応停止後、ヘキサノール(C6)を混合して滑剤と添加剤を分散させたものであり、往復摩耗値が1840回とさらに向上する。また実施例10は、イソシアネート成分として、MDIの他にTDIを加え、酸成分として、TMAの他に、PMIDとTPAを加えたものであり、往復摩耗値が1820回とさらに向上する。
【0097】
この実施例1〜14に対し比較例1〜5、7は、炭素数8未満の低級アルコールでイソシアネート基を封止して合成反応の停止を行っており、凹状のくぼみが観察されず、ワニス固着力は非常に低くなっている。これにより封止剤は、炭素数8以上の高級アルコールを用いるのがよい。
【0098】
また封止剤として高級アルコールを用いても適正量でなければ、凹状のくぼみが大きすぎて耐摩耗性が悪化したり、凹状のくぼみが観察されなくなってしまう。すなわち、TDIに対するMDIの過剰分(0.02モル)に対して、4倍の0.08モルのオレイルアルコールを添加した場合、ワニス固着力は高いものの表面外観が白濁し、耐摩耗性が悪くなってしまう。
【0099】
これにより封止剤は、過剰分に対して、基本的には等モル量か4倍未満の範囲のモル量で過剰な状態がよい。また、C8以下のアルコールを併用した場合には、実施例3のように過小でもよい。
【0100】
比較例4は、実施例7、8と同様に、ポリイソシアネート化合物やエポキシ樹脂により耐摩耗性を高めた組成となっているが、炭素数8以上の高級アルコールを用いていないため、ワニス固着力が大幅に低下している。
【0101】
また比較例6は、封止剤として、炭素数8のオクタノールを用いていため、実施例と同様に遜色ないワニス固着力を有しているが、滑剤を添加していないため、耐摩耗性、滑り性が悪い。また比較例7は、滑剤成分として滑剤の他にシランカップリング剤を添加したものであるが、高級アルコールを用いていないため、耐摩耗性、滑り性、ワニス固着力のいずれも満足しない。
【符号の説明】
【0102】
10 絶縁電線
11 導体
12 絶縁層
13 潤滑層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソシアネート成分と酸成分とを合成反応させて得られるポリアミドイミド樹脂と、滑剤成分とを含む絶縁塗料において、前記ポリアミドイミド樹脂は、末端のイソシアネート基が、炭素数が8以上の高級アルコールからなる封止剤で封止されていることを特徴とする絶縁塗料。
【請求項2】
前記封止剤は、前記イソシアネート成分のモル量に対して、0.3モル%以上、5モル%未満の範囲のモル量で添加されている請求項1記載の絶縁塗料。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の絶縁塗料を、導体の外周に塗布して潤滑層が形成されていることを特徴とする絶縁電線。
【請求項4】
前記潤滑層は、その表面に直径が0.1μm以上、5μm以下の凹部を有する請求項3記載の絶縁電線。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の絶縁電線がコイル状に巻回されており、その表面にワニスが含浸、硬化されていることを特徴とするコイル。

【図1】
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【公開番号】特開2010−238662(P2010−238662A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−48812(P2010−48812)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(591039997)日立マグネットワイヤ株式会社 (63)
【Fターム(参考)】