説明

絶縁樹脂組成物

【課題】ガラス転移温度が高く、弾性率制御が可能であり、接着性及び耐薬品性が優れ、電子材料用の絶縁材料、接着材及び配線板材料として有用な、ポリアミドイミド樹脂を含有する絶縁樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ジイミドジカルボン酸(a1)、カルボン酸末端ポリブタジエン(a2)およびカルボン酸末端水素化ポリブタジエン(a3)を含むカルボン酸末端化合物(A)と、ジイソシアネート(B)とを反応させて得られる重量平均分子量が10,000〜500,000のポリアミドイミド樹脂(U)、マレイミド化合物(V)および有機過酸化物(W)を含有し、(1)硬化物のガラス転移温度が200℃以上、(2)動的粘弾性測定装置を用いて測定した硬化物の貯蔵弾性率が25℃で100〜2,000MPa、250℃で10〜1,000MPaである絶縁樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス転移温度が高く、弾性率制御が可能であり、接着性及び耐薬品性に優れ、電子材料用の絶縁材料、接着材及び配線板材料として有用な、ポリアミドイミド樹脂を含有する絶縁樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミドイミド樹脂は、イミド環に起因した高ガラス転移温度(Tg)化が容易なこと、アミド基に起因した金属類との高接着性を示すこと、溶剤に可溶なこと等から、多くの研究が行われている。
また、ポリアミドイミド樹脂の製造方法としては、例えば、無水トリメリット酸と、芳香族ジイソシアネートとを反応させる工程を備える、いわゆるイソシアネート法が知られている。このイソシアネート法の例としては、芳香族トリカルボン酸無水物と芳香族ジアミンとをジアミン過剰条件で反応させ、次いでジイソシアネートを反応させる方法(例えば、特許文献1、2参照)等がある。
【0003】
近年では、さらに、ポリアミドイミド樹脂に、シロキサン構造を導入することにより弾性率、可撓性、乾燥効率等の特性を向上させる試みがなされている。かかるポリアミドイミド樹脂は、例えば、芳香族トリカルボン酸無水物、芳香族ジイソシアネート及びシロキサンジアミンを重縮合させる方法(例えば、特許文献3参照)、芳香族環を3個以上有するジアミン及びシロキサンジアミンを含む混合物と、無水トリメリット酸とを反応させて得られるジイミドジカルボン酸を含む混合物に、芳香族ジイソシアネートを反応させる方法(例えば、特許文献4参照)等により得られる。
【0004】
さらに、ポリアミドイミド樹脂に、ポリブタジエン構造を導入することにより、弾性率、可撓性及び耐熱性を向上させる試みもなされている。ポリアミドイミド樹脂にポリブタジエン構造を導入する方法としては、例えば、カルボン酸末端水素化ポリブタジエンをアミン末端化し、酸無水物と中間イミド化合物を経て、その後イソシアネート類を添加してポリアミドイミドを得る方法(例えば、特許文献5参照)、ポリイソシアネート類、酸無水物及びカルボン酸末端ポリブタジエンやカルボン酸末端水素化ポリブタジエンを一段階で反応させポリアミドイミドを得る方法(例えば、特許文献6参照)、カルボン酸末端アクリロニトリルブタジエンゴムとジジイミドジカルボン酸とジイソシアネートを反応させる方法(例えば、特許文献7参照)等がある。
【0005】
しかしながら、上記のように、ポリアミドイミド樹脂は、従来の製造方法に種々の改良が加えられているものの、以下のような課題があり、弾性率、可撓性、硬化性、耐熱性、接着性、耐薬品性等のすべての特性を満足したものが得られていない。
例えば、特許文献1、2、5、6に記載の製造方法の場合、分子量の高いポリアミドイミド樹脂を得ることが困難であるという問題がある。ポリアミドイミド樹脂の分子量が低いと、これを含有する樹脂組成物をフィルム状の接着剤とするときにおけるフィルム形成性が十分でない傾向にある。
一方、特許文献4に記載の製造方法の場合は、フィルム形成に十分な程度の高い分子量のポリアミドイミド樹脂が得られ、耐熱性もある程度向上するものの、特に吸湿したときの接着性や、配線板の製造工程で行われるアルカリ過マンガン液処理に対する耐薬品性が不十分である。これは導入したシロキサン構造が低弾性率や耐薬品性に優れているが、ケイ素−酸素結合がアルカリ過マンガン酸液よって容易に切断され、アルカリ過マンガン酸液に対する耐薬品性が低いことに起因する。
さらに、特許文献7に記載の樹脂は、耐薬品性や弾性率制御という点で良好であるが、200〜280℃の高温領域での耐熱性が不十分である。
【0006】
【特許文献1】特許第2897186号公報
【特許文献2】特開平4−182466号公報
【特許文献3】特開平5−009254号公報
【特許文献4】特許第3651210号公報
【特許文献5】特開平8−12763号公報
【特許文献6】特開平10−330449号公報
【特許文献7】特開2001−131525号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような状況に鑑みてなされたものであり、ガラス転移温度が高く、弾性率制御が可能であり、接着性及び耐薬品性に優れ、電子材料用の絶縁材料、接着材及び配線板材料として有用な、ポリアミドイミド樹脂を含有する絶縁樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、ポリアミドイミド樹脂の側鎖にポリブタジエン構造と反応性二重結合を導入し、さらにマレイミド化合物及び有機過酸化物を添加することでその反応性二重結合を効率よく反応させることにより、ガラス転移温度が高く、室温領域で低弾性率性(可撓性)を示し、耐熱性及び耐薬品性に優れたポリアミドイミド樹脂組成物が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち本発明は、以下の絶縁樹脂組成物を提供する。
1.ジイミドジカルボン酸(a1)、両末端にカルボキシル基を有するカルボン酸末端ポリブタジエン(a2)及び両末端にカルボキシル基を有するカルボン酸末端水素化ポリブタジエン(a3)を含むカルボン酸末端化合物(A)と、ジイソシアネート(B)とを反応させて得られる重量平均分子量が10,000〜500,000のポリアミドイミド樹脂(U)、マレイミド化合物(V)並びに有機過酸化物(W)を含有し、(1)硬化物のガラス転移温度が200℃以上、(2)動的粘弾性測定装置を用いて測定した硬化物の貯蔵弾性率が25℃で100〜2,000MPa、250℃で10〜1,000MPaであることを特徴とする絶縁樹脂組成物。
2.カルボン酸末端化合物(A)とジイソシアネート(B)の合計質量中の量として、ジイミドジカルボン酸(a1)の配合量が1〜30質量%、カルボン酸末端ポリブタジエン(a2)の配合量が1〜40質量%、カルボン酸末端水素化ポリブタジエン(a3)の配合量が10〜50質量%である上記1の絶縁樹脂組成物。
3.カルボン酸末端化合物(A)が、さらにカルボン酸末端アクリロニトリルブタジエンゴム(a4)含むものである上記1又は2の絶縁樹脂組成物。
4.カルボン酸末端アクリロニトリルブタジエンゴム(a4)の配合量が30質量%以下である上記3の絶縁樹脂組成物。
5.カルボン酸末端化合物(A)のカルボキシル基の合計に対するジイソシアネート(B)のイソシアネート基のモル比が1〜1.5である上記1〜4のいずれかの絶縁樹脂組成物。
6.ポリアミドイミド樹脂(U)100質量部に対して、マレイミド化合物(V)を10〜100質量部含有する上記1〜5のいずれかの絶縁樹脂組成物。
7.ポリアミドイミド樹脂(U)100質量部に対して、有機過酸化物(W)を0.1〜5質量部含有する上記1〜6のいずれかの絶縁樹脂組成物。
8.さらに、多官能エポキシ化合物(Y)と多官能アミン(Z)を含有する上記1〜7のいずれかの絶縁樹脂組成物。
9.ポリアミドイミド樹脂(U)100質量部に対して、多官能エポキシ化合物(Y)を10〜100質量部、多官能アミン(Z)を1〜20質量部各々含有する上記8の絶縁樹脂組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明の絶縁樹脂組成物は、ガラス転移温度(Tg)が高く、弾性率制御が可能であり、接着性及び耐薬品性に優れた特性があり、特に電子材料用の絶縁材料、接着材及び配線板材料などに有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の絶縁樹脂組成物に使用されるポリアミドイミド樹脂(U)は、ジイミドジカルボン酸(a1)、カルボン酸末端ポリブタジエン(a2)及びカルボン酸末端水素化ポリブタジエン(a3)、更に必要に応じてカルボン酸末端アクリロニトリルブタジエンゴム(a4)を含むカルボン酸末端化合物と、ジイソシアネートとを反応させて得られるものである。
【0012】
本発明において、ジイミドジカルボン酸(a1)を製造する方法として、無水トリメリット酸とジアミン化合物を非プロトン性溶媒中で0〜100℃に加熱する反応させる第1段階と、続いて150〜200℃に加熱する第2段階とを組み合わせて行うことが好ましい。
第1段階においては、無水トリメリット酸の酸無水基部分が、ジアミンのアミノ基と反応して開環し、アミド酸が生成する反応が主として進行し、第2段階においては、一旦開環していたアミド酸部分が、脱水閉環してイミド基が生成する反応が主として進行すると見られる。
【0013】
このジイミドジカルボン酸(a1)の製造の第1段階で無水トリメリット酸を反応させるジアミン化合物は、単一又は複数種のジアミン化合物が用いられる。また、その構造の一部にエーテル結合、エステル結合、スルフィド結合等を有していてもよい。
【0014】
具体的には、例えば、o−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP),ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、4,4'−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2'−ジメチルビフェニル−4,4'−ジアミン、2,2'−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル−4,4'−ジアミン、2,6,2',6'−テトラメチルビフェニル−4,4'−ジアミン、5,5'−ジメチル−2,2'−スルフォニル−ビフェニル−4,4'−ジアミン、3,3'−ジヒドロキシビフェニル−4,4'−ジアミン、(4,4'−ジアミノ)ジフェニルエーテル、(4,4'−ジアミノ)ジフェニルスルホン、(4,4'−ジアミノ)ベンゾフェノン、(3,3'―ジアミノ)ベンゾフェノン、(4,4'−ジアミノ)ジフェニルメタン、(4,4'−ジアミノ)ジフェニルエーテル、(3,3'―ジアミノ)ジフェニルエーテル、1,6ジアミノヘキサン、(4,4'−ジアミノ)ジシクロヘキシルメタン等が挙げられる。
無水トリメリット酸とジアミン化合物を反応させる第1段階の反応に用いられる非プロトン性溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド(DMAc)などが挙げられる。
第1段階の反応における反応温度は0〜100℃、好ましくは40〜80℃であり、反応時間は5〜60分、好ましくは10〜30分である。
【0015】
上記の第2段階においては、水と共沸可能な芳香族炭化水素を反応溶液にさらに加えて、反応により生成する水分を除去することが好ましい。水と共沸可能な芳香族炭化水素としては、トルエン、ベンゼン、キシレン、エチルベンゼン等が挙げられ、これらの中でもトルエンが好ましい。この芳香族炭化水素を加える割合は、非プロトン性溶媒100質量部に対して10〜50質量部であることが好ましい。この割合が10質量部未満であると生成した水が十分除去できなくなる傾向にあり、50質量部を超えると、反応温度が低下して、目的とするジイミドジカルボン酸(a1)の収率が低下する傾向にある。
【0016】
また、脱水閉環反応中に、水とともに芳香族炭化水素も留出して、反応溶液中の芳香族炭化水素の割合が上記の好適な範囲よりも少なくなる傾向にあるため、例えば、コック付きの水分定量受器中に留出した芳香族炭化水素を、水と分離した後に反応溶液中に戻す等して、芳香族炭化水素量を一定割合に保つことが好ましい。
第2段階の反応における反応温度は150〜200℃、好ましくは160〜180℃であり、反応時間は1〜4時間、好ましくは2〜3時間である。
なお、脱水閉環反応の終了後、温度を150〜200℃程度に保持して水と共沸可能な芳香族炭化水素を反応溶液中から除去しておくことが好ましい。
【0017】
以上のような反応による反応生成物は、下記一般式(1)で表されるようなジイミドジカルボン酸(a1)である。なお、一般式(1)中、Aは、反応に用いたジアミンからアミノ基を除いた2価の残基を示す。なお、ジアミンとして複数種のものを用いた場合は、反応生成物中にはAの異なる複数種のジイミドジカルボン酸が共存していることになる。
【0018】
【化1】

【0019】
ポリアミドイミド樹脂(U)の製造に用いられるカルボン酸末端ポリブタジエン(a2)及びカルボン酸末端水素化ポリブタジエン(a3)並びに必要に応じて用いられるカルボン酸末端アクリロニトリルブタジエンゴム(a4)としては、特に制限されないが、カルボン酸末端ポリブタジエンとしては下記一般式(2)で表される重量平均分子量が1000〜4000の化合物が好適に用いられ、カルボン酸末端水素化ポリブタジエン(a3)としては下記一般式(3)で表される重量平均分子量が1000〜4000の化合物が好適に用いられ、カルボン酸末端アクリロニトリルブタジエンゴム(a4)としては下記一般式(4)で表される重量平均分子量が1000〜4000の化合物が好適に用いられる。なお、一般式(2)〜(4)で表される化合物には、主鎖の各構造単位はランダムに存在している場合も含まれる。また、一般式(2)〜(4)におけるnはブタジエン基、ブチレン基(水素化ブタジエン基)、アクリロニトリル基の個数を示し、各カルボン酸末端化合物の重量平均分子量等により各々異なる数値となる。
【0020】
【化2】

【0021】
【化3】

【0022】
【化4】

【0023】
カルボン酸末端ポリブタジエン(a2)の具体的な例として、C−1000:商品名〔重量平均分子量1800、日本曹達(株)製〕等があり、カルボン酸末端水素化ポリブタジエン(a3)の具体的な例として、CI−1000:商品名〔重量平均分子量1800、日本曹達(株)製〕等がある。またカルボン酸末端アクリロニトリルブタジエンゴム(a4)の具体的な例として、ハイカーCTBN1300x8:商品名〔重量平均分子量3500、アクリロニトリル量18質量%、宇部興産(株)製〕やハイカーCTBN1300x13:商品名〔重量平均分子量3500、アクリロニトリル量26質量%、宇部興産(株)製〕などがある。
【0024】
本発明においては、カルボン酸末端ポリブタジエン(a2)、カルボン酸末端水素化ポリブタジエン(a3)及びカルボン酸末端アクリロニトリルブタジエンゴム(a4)の配合量は、弾性率制御や耐熱性に大きな影響を与えるため重要である。
ポリアミドイミド樹脂(U)中の各カルボン酸末端化合物の配合量は、カルボン酸末端化合物(A)とジイソシアネート(B)の合計質量中の量として、ジイミドジカルボン酸(a1)が1〜30質量%、カルボン酸末端ポリブタジエン量(a2)が1〜40質量%、カルボン酸末端水素化ポリブタジエン量(a3)が10〜50質量%、カルボン酸末端アクリロニトリルブタジエンゴム(a4)が0〜30質量%であることが好ましい。
ジイミドジカルボン酸(a1)を上記範囲とすることにより本発明の特徴である低弾性率化が可能となる。また、カルボン酸末端ポリブタジエン量(a2)、カルボン酸末端水素化ポリブタジエン量(a3)およびカルボン酸末端アクリロニトリルブタジエンゴム(a4)を上記範囲とすることにより、低弾性率化と共に、耐熱性との両立が可能となる。
【0025】
本発明において、上記のカルボン酸末端化合物(A)と反応させるジイソシアネート(B)としては、脂肪族ジイソシアネート又は芳香族ジイソシアネートを用いることができるが、芳香族ジイソシアネートを用いることが好ましく、両者を併用することがさらに好ましい。これらジイソシアネートとしては、例えば、下記一般式(5)で表されるものが挙げられる。
【0026】
【化5】

【0027】
一般式(5)において、Bは少なくとも1つの芳香族環を有する2価の有機基、又は2価の脂肪族炭化水素基を示す。Bとしては、下記式(6)で示されるような2価の基が挙げられ、特に、Bがジフェニルメタン基、トリレン基又はナフチレン基である芳香族ジイソシアネートや、がヘキサメチレン基、2,2,4−トリメチルヘキサメチレン基又はイソホロン基である脂肪族ジイソシアネートが好ましい。
【0028】
【化6】

【0029】
芳香族ジイソシアネートの具体例としては、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、ナフタレン−1、5−ジイソシアネート、2、4−トリレンダイマー等が挙げられ、これらの中でもMDIを用いることが好ましい。芳香族ジイソシアネートとしてMDIを用いることにより、得られるポリアミドイミド樹脂の可撓性が良好となり、また、ポリアミドイミド樹脂の結晶性が低減して、フィルム形成性もさらに良好となる。
【0030】
芳香族ジイソシアネート及び脂肪族ジイソシアネートを併用する場合は、脂肪族ジイソシアネートを全ジイソシアネート中の量として5〜10モル%程度使用することが好ましく、かかる割合で併用することにより、得られるポリアミドイミド樹脂の耐熱性を更に向上させることができる。
【0031】
カルボン酸末端化合物(A)とジイソシアネート(B)との反応は、例えば、カルボン酸末端化合物(A)を含む溶液中にジイソシアネート(B)を加えて、130〜200℃に加熱して進行させることができる。
これらの反応に用いられる溶液としては、ジイミドジカルボン酸の合成反応後の反応溶液に他のカルボン酸末端化合物を配合した溶液をそのまま用いてもよいし、これに必要に応じて他の溶媒を加えてもよい。なお、ジイミドジカルボン酸の合成に際して芳香族炭化水素溶媒を用いた場合には、この芳香族炭化水素溶媒を除去したものを用いることが好ましい。
【0032】
この反応において、カルボン酸末端化合物(A)の全カルボキシル基〔(ジイミドジカルボン酸(a1)、カルボン酸末端ポリブタジエン(a2)、カルボン酸末端水素化ポリブタジエン(a3)及びカルボン酸アクリロニトリルブタジエンゴム(a4)のカルボキシル基の合計量〕に対するジイソシアネート(B)のイソシアネート基の比率は、モル比(イソシアネート基/カルボキシル基)で1〜1.5の範囲であることが好ましく、1〜1.2の範囲であることがより好ましい。モル比を上記範囲とすることにより、ポリアミドイミド樹脂の分子量を効率に高めることができ、フィルム形成に有利となる。
【0033】
また、上記反応は、塩基性触媒の存在下に行うことが好ましい。塩基性触媒の存在下で反応を行うことによって、塩基性触媒を用いない場合と比較してより低い温度で反応を進行させることができるため、ジイソシアネート同士の反応等の副反応の進行が抑制されて、より高分子量のポリアミドイミド樹脂が得られる。
【0034】
塩基性触媒としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリ(2−エチルへキシル)アミン、トリオクチルアミン等のトリアルキルアミンが挙げられる。これらの中でも、トリエチルアミンは、反応促進に好適な程度の塩基性を有し、かつ反応後の除去が容易であることから特に好ましい。
塩基性触媒を用いる場合、反応温度は130〜180℃とすることが好ましい。
【0035】
上記の方法により得られるポリアミドイミド樹脂(U)は、通常、下記一般式(7)で表される。なお、一般式(7)中、Aは一般式(1)におけるものと同じ意味を有し、Bは一般式(5)におけるものと同じ意味を有する。
下記一般式(7)において、Wはポリアミドイミド樹脂におけるジイミドジカルボン酸(a1)のモル数、Xはカルボン酸末端ポリブタジエン(a2)のモル数、Yはカルボン酸末端水素化ポリブタジエン(a3)のモル数、Zはカルボン酸末端アクリロニトリルブタジエンゴム(a4)のモル数を示すことになる。なお、カルボン酸末端アクリロニトリルブタジエンゴム(a4)は必須ではないため、Zは0である場合が含まれる。nについては、一般式(2)〜(4)の場合と同じ意味を有する。
【0036】
【化7】

【0037】
このポリアミドイミド樹脂(U)の重量平均分子量は10,000〜500,000であることが好ましく、30,000〜200,000であることがより好ましい。
なお、本発明において重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定を行い、標準ポリスチレンを用いて作成した検量線により換算して得られる値である。
【0038】
本発明の絶縁樹脂組成物は、上記のポリアミドイミド樹脂(U)と共にマレイミド化合物(V)及び有機過酸化物(W)を含有するものである。
マレイミド化合物(V)は、ポリブタジエン中の二重結合をラジカルによる架橋反応させる上で、非常に重要である。なぜなら、ポリブタジエン中の二重結合は、ラジカル発生剤を添加しても、単独重合成が低いために架橋反応が進行しない。一方で、二重結合に隣接してカルボニル基を有するマレイミド化合物は、その電子吸引性からポリブタジエンの二重結合と交互共重合性に適した化合物であり、本発明のポリアミドイミド樹脂の硬化並びに、耐熱性及び耐薬品性の付与に欠かせない化合物である。
マレイミド化合物(V)の含有量は、ポリアミドイミド樹脂(U)100質量部に対し、10〜100質量部であることが好ましい。10質量部以上とすることにより、ポリアミドイミドの硬化が進行して耐熱性が向上し、100質量部以下とすることにより、室温領域の弾性率が一般のポリイミド樹脂やエポキシ樹脂よりも低下し、ポリブタジエン変性ポリアミドイミドの可とう性が得られるようになる。
【0039】
マレイミド化合物(V)は、マレイミド基を有する化合物であれば特に限定されない。具体的な例としては、一官能性のN−フェニルマレイミド、N−メチルマレイミドや二官能性のジフェニルメタンビスマレイミド、ポリフェニルメタンマレイミド、m−フェニレンビスマレイミド、ビスフェノールAジフェニルエーテルビスマレイミド、4,4'−ジフェニルエーテルビスマレイミドなどがあり、単独もしくは混合して使用できる。
【0040】
本発明の絶縁樹脂組成物において、ポリアミドイミド樹脂(U)中のポリブタジエン由来の二重結合とマレイミド化合物(V)の反応を開始させるためのラジカル発生剤として一般に使用されている有機過酸化物(W)を使用する。本発明の絶縁樹脂組成物に使用される有機過酸化物(W)は特に制限されないが、寿命との関係から分解温度(有機過酸化物は分解して遊離ラジカルが発生する温度)が高温のものを使用することが好ましい。
【0041】
具体的には、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン、ジクミルパーオキサイド、ジ(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、ジ−t−ヘキシルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド等があり、単独でも2種類以上混合して使用してもよい。
添加する有機過酸化物(W)の量は、ポリアミドイミド樹脂(U)100質量部に対し、0.1〜5質量部であることが好ましい。有機過酸化物(W)を0.1質量部以上とすることにより、耐熱性が良好となり、5質量部以下とすることにより、ビスマレイミドやポリブタジエンの副反応による特性低下を避けることができる。
【0042】
本発明の絶縁樹脂組成物には、流動性や接着性を付与するために、多官能エポキシ化合物(Y)を添加することが好ましい。多官能エポキシ化合物は、流動性、耐熱性、耐薬品性及び電気特性に優れ、比較的安価であることから、絶縁樹脂に広く用いられている。
本発明の絶縁樹脂組成物に使用される多官能エポキシ化合物(Y)としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂などのビスフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂などのノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族鎖状エポキシ樹脂、ビフェノールのジグリシジルエーテル化物、ナフタレンジオールのジグリシジルエーテル化物、フェノール類のジグリシジルエーテル化物、アルコール類のジグリシジルエーテル化物、及びこれらのアルキル置換体、ハロゲン化物、水素添加物などが例示される。本発明においてはこれらの多官能エポキシ化合物を単独で用いても、2種類以上を混合して用いても良い。
添加する多官能エポキシ化合物(Y)の量は特に制限されないが、ポリアミドイミド樹脂(U)100質量部に対し、10〜100質量部であることが好ましい。エポキシ化合物を10質量部以上とすることにより、流動性や銅との接着力が低下することがなく、100質量部以下とすることにより、絶縁樹脂組成物においてブタジエン変性ポリアミドイミドの低弾性率性が損なわれることや、多官能エポキシ化合物の物性が支配的になることがない。
【0043】
この多官能エポキシ化合物と共に用いる硬化剤は、該エポキシ化合物を硬化させるものであれば制限されず、例えば、多官能フェノール、多官能アルコール、多官能アミン、イミダゾール化合物、酸無水物、有機リン化合物及びこれらのハロゲン化物などがある。これらの硬化剤は、単独で用いても、2種類以上を混合して用いても良い。
本発明においては、多官能エポキシ化合物の硬化剤として、多官能アミン(Z)を使用することが特に好ましい。多官能アミンは、絶縁樹脂組成物中にあるマレイミド化合物と、マイケル付加して反応する。すなわち、多官能アミンを用いることにより、ポリアミドイミド樹脂(すなわち、ポリブタジエン変性ポリアミドイミド)、マレイミド化合物、多官能アミン及び多官能エポキシ化合物が反応して、均一な樹脂組成物を得ることができる。
【0044】
本発明において使用できる多官能アミン(Z)としては、特に制限されず、芳香族多官能アミンでも、脂肪族多官能アミンでも構わない。具体的には、例えば、o−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、4,4'−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、1、3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1、4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2'−ジメチルビフェニル−4,4'−ジアミン、2,2'−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル−4,4'−ジアミン、2,6,2',6'−テトラメチルビフェニル−4,4'−ジアミン、5,5'−ジメチル−2,2'−スルフォニル−ビフェニル−4,4'−ジアミン、3,3'−ジヒドロキシビフェニル−4,4'−ジアミン、(4,4'−ジアミノ)ジフェニルエーテル、(4,4'−ジアミノ)ジフェニルスルホン、(4,4'−ジアミノ)ベンゾフェノン、(3,3'―ジアミノ)ベンゾフェノン、(4,4'−ジアミノ)ジフェニルメタン、(4,4'−ジアミノ)ジフェニルエーテル、(3,3'―ジアミノ)ジフェニルエーテル、1,6ジアミノヘキサン、(4,4'−ジアミノ)ジシクロヘキシルメタン等が挙げられる。
この中で芳香族多官能アミンを使用すると室温領域でのエポキシ化合物と多官能アミンとの反応速度が低下するので、長時間のワニスに使用する場合には好適である。
【0045】
添加する多官能アミン(Z)の量は、ポリアミドイミド樹脂(U)100質量部に対し、1〜20質量部であることが好ましい。多官能アミン(Z)を1〜20質量部とすることにより、耐熱性が良好となる。
本発明の絶縁樹脂組成物中には、上記の成分の他に、必要に応じて、ゴム系エラストマー、難燃剤としてのリン系化合物、無機充填剤、カップリング剤、顔料、レベリング剤、消泡剤、イオントラップ剤等をさらに含有させてもよい。
【0046】
本発明の絶縁樹脂組成物の硬化は、100〜250℃程度で行うことが好ましい。硬化温度を100℃以上とすることにより硬化時間が短縮され、250℃以下とすることによりポリブタジエンの反応が空気中の酸素等により副反応が生じたり、弾性率の向上や可とう性の低下が発生することがない。
【0047】
本発明の絶縁樹脂組成物の特徴は、ポリブタジエンを導入したポリアミドイミド樹脂に、マレイミド化合物および有機過酸化物を添加することにより、高ガラス転移温度(Tg)化し、弾性率制御が可能であり、接着性や耐薬品性などに優れることである。
本発明の絶縁樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度(Tg)は200℃以上であれば、十分な耐熱性の信頼性が確保される。
また、本発明の絶縁樹脂組成物の硬化物は、動的粘弾性測定装置を用いて測定される貯蔵弾性率が25℃で100〜2,000MPa、好ましくは100〜1,000MPaであり、250℃で10〜1,000MPa、好ましくは10〜500MPaである。
本発明の絶縁樹脂組成物は、特に硬化物の高温での貯蔵弾性率の低下が小さく、接着性や耐薬品性などにも優れることから、特に電子材料用の絶縁材料、接着材、配線板材料などに極めて有用である。
【実施例】
【0048】
次に、下記の実施例により本発明を更に詳しく説明するが、これらの実施例は本発明を制限するものではない。
実施例および比較例では、以下の方法で銅張積層板を製造し、性能を評価した。
【0049】
(銅張積層板の製造)
製造例および比較製造例において得られた絶縁樹脂組成物のワニスを、銅箔〔古河サーキットフォイル(株)製、商品名:F3−WS−18〕上に乾燥後45μmになるように塗布し、130℃で9分加熱して乾燥させて、一方表面上に樹脂組成物層が形成された銅箔を得た。
次いで、この銅箔上の樹脂組成物層上に銅箔(F3−WS−18)を積層し、185℃で加熱しながら、2.5MPaで1時間プレスし、銅箔の間に厚さ45μmの樹脂組成物層を備える銅張積層板を得た。
得られた銅張積層板、硬化物について、下記方法によりピール強度、288℃はんだ耐熱性、動的粘弾性、ガラス転移温度、耐デスミア性および基板のそり量を測定することにより評価した。
【0050】
(絶縁樹脂組成物の評価・測定方法)
(1)ピール強度:
銅張積層板の銅をエッチングすることにより5mm幅の回路を作製し、それを試験片として、JISC6481に準拠して測定した。
(2)288℃はんだ耐熱性:
50mm×50mmの両面銅張積層板の評価基板を作製し、TMA試験装置〔デュポン(株)製TMA2940〕を用い、288℃のはんだ浴に浮かべ、評価基板の膨れが発生するまでの時間を測定した。
(3)貯蔵弾性率:
動的粘弾性測定装置を用い、両面銅張積層板から両面の銅箔をエッチングにより除去したものを試験片とし、測定幅5mm、チャック間距離20mm、昇温速度5℃/分、温度範囲:40℃〜300℃、ひずみ量3μm(0.015%)、周波数10Hzで25℃および250℃の弾性率を測定した。
(4)ガラス転移温度(Tg):
銅張積層板を銅エッチング液に浸漬することにより銅箔を取り除いた5mm角の評価基板を作製し、TMA試験装置〔デュポン(株)製TMA2940〕を用い、評価基板の熱膨張特性を観察することにより測定した。
(5)耐デスミア性:
50mm×50mmの両面銅張積層板の銅箔をエッチングにより除去したものを試験片とし、粗化液として、KMnO4:60g/リットルとNaOH:40g/リットルを加えた水溶液を作製し、70℃に加温して、サンプルを10分間浸漬処理した。続いて中和液としてSnCl2:30g/リットルとHCl:300ml/リットルを加えた水溶液を用い、サンプルを室温で5分間浸漬処理して中和した。その後、乾燥して重量を測定し、デスミア処理前後の重量変化を評価した。
(6)基板そり量:
両面の銅箔を除去した厚さ0.2mmのガラスクロスエポキシ積層板〔日立化成工業(株)社製、商品名:MCL−E−679F〕の片面上に、上記樹脂組成物層が形成された銅箔を樹脂組成物層が接するように重ね、185℃で加熱しながら、2.5MPaで1時間プレス後、銅箔をエッチング除去し、樹脂組成物層とガラスクロスエポキシ積層からなる基板を作製し、該基板を50×50mmに切断し、レーザ三次元形状測定装置を用いて、そり量を測定した。
【0051】
製造例1(ポリアミドイミド樹脂Aの製造)
ディーンスターク還流冷却器、温度計及び撹拌器を備えた2Lのセパラブルフラスコに、ジアミン化合物である(4,4'−ジアミノ)ジシクロヘキシルメタン〔新日本理化(株)製、商品名:ワンダミンHM(WHM)〕を44.1g(0.21mol)、無水トリメリット酸(TMA)を82.1g(0.43mol)及び非プロトン性極性溶媒であるN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を1200g投入して反応溶液とし、これを80℃で30分間撹拌した。
続いて、反応溶液に水と共沸可能な芳香族炭化水素であるトルエン200mLを加え、
160℃で2時間還流した。水分定量受器に理論量の水がたまり、水の流出が見られなくなっていることを確認後、水分定量受器中の水とトルエンを除去し、反応溶液の温度をさらに190℃まで上昇させて、反応溶液中のトルエンを除去した。
その後、反応溶液を室温まで冷却してから、カルボン酸末端ポリブタジエン〔日本曹達(株)製、商品名:C−1000〕を102.7g(0.053mol)、カルボン酸末端水素化ポリブタジエン〔日本曹達(株)製、商品名:CI−1000〕を115.5g(0.053mol)及びジイソシアネートである、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を91.0g(0.36mol)加え、反応溶液を190℃に上昇させて2時間反応させ、ポリアミドイミド樹脂AのNMP溶液を得た。
【0052】
製造例2(ポリアミドイミド樹脂Bの製造)
製造例1と同じ装置を用い、ジアミン化合物に2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン〔BAPP、和歌山精化工業(株)製〕を62.1g(0.15mol)、TMAを58.7g(0.31mol)及びNMPを1200g投入して反応溶液とし、これを80℃で30分間撹拌した。その後の脱水、脱トルエン工程後、反応溶液を室温まで冷却してから、カルボン酸末端ポリブタジエン〔日本曹達(株)製、商品名:C−1000〕を95.3g(0.050mol)、カルボン酸末端水素化ポリブタジエン〔日本曹達(株)製、商品名:CI−1000〕を64.3g(0.030mol)、カルボン酸末端アクリロニトリルブタジエンゴムを〔宇部興産(株)製、商品名:CTBN1300x8〕75.6g(0.020mol)及びMDIを71.5g加え、反応溶液を190℃に上昇させて2時間反応させ、ポリアミドイミド樹脂BのNMP溶液を得た。
【0053】
製造例3(ポリアミドイミド樹脂Cの製造)
製造例1と同じ装置を用い、ジアミン化合物に2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン〔BAPP、和歌山精化工業(株)製〕を47.9g(0.12mol)、TMAを45.3g(0.24mol)及びNMPを1200g投入して反応溶液とし、これを80℃で30分間撹拌した。その後の脱水、脱トルエン工程後、反応溶液を室温まで冷却してから、カルボン酸末端ポリブタジエン〔日本曹達(株)製、商品名:C−1000〕を115.2g(0.059mol)、カルボン酸末端水素化ポリブタジエン〔日本曹達(株)製、商品名:CI−1000〕を95.8g(0.044mol)、カルボン酸末端アクリロニトリルブタジエンゴム〔宇部興産(株)製、商品名:CTBN1300x13〕を53.7g(0.015mol)及びMDIを67.3g(0.27mol)加え、反応溶液を190℃に上昇させて2時間反応させ、ポリアミドイミド樹脂CのNMP溶液を得た。
【0054】
製造例4(ポリアミドイミド樹脂Dの製造)
製造例1と同じ装置を用い、ジアミン化合物である(4,4'−ジアミノ)ジシクロヘキシルメタン〔新日本理化(株)製、商品名:ワンダミンHM(WHM)〕を43.3g(0.21mol)、TMAを79.9g(0.42mol)及びNMPを1200g投入して反応溶液とし、これを80℃で30分間撹拌した。その後の脱水、脱トルエン工程後、反応溶液を室温まで冷却してから、カルボン酸末端ポリブタジエン〔日本曹達(株)製、商品名:C−1000〕を40.0g(0.020mol)、カルボン酸末端水素化ポリブタジエン〔日本曹達(株)製、商品名:CI−1000〕を183.1g(0.082mol)及びMDIを88.5g(0.35mol)加え、反応溶液を190℃に上昇させて2時間反応させ、ポリアミドイミド樹脂DのNMP溶液を得た。
【0055】
製造例5(ポリアミドイミド樹脂Eの製造)
製造例1と同じ装置を用い、ジアミン化合物である(4,4'−ジアミノ)ジシクロヘキシルメタン〔新日本理化(株)製、商品名:ワンダミンHM(WHM)〕を44.9g(0.21mol)、TMAを82.9g(0.43mol)及びNMPを1200g投入して反応溶液とし、これを80℃で30分間撹拌した。その後の脱水、脱トルエン工程後、反応溶液を室温まで冷却してから、カルボン酸末端ポリブタジエン〔日本曹達(株)製、商品名:C−1000〕を145.0g(0.074mol)、カルボン酸末端水素化ポリブタジエン〔日本曹達(株)製、商品名:CI−1000〕を71.2g(0.030mol)及びMDIを92.9g(0.37mol)加え、反応溶液を190℃に上昇させて2時間反応させ、ポリアミドイミド樹脂EのNMP溶液を得た。
【0056】
製造比較例1(ポリアミドイミド樹脂Fの製造)
製造例1と同じ装置を用い、ジアミン化合物に2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン〔BAPP、和歌山精化工業(株)製〕を161g(0.39mol)、TMAを167.2g(0.87mol)及びNMPを1200g投入して反応溶液とし、これを80℃で30分間撹拌した。その後の脱水、脱トルエン工程後、反応溶液を室温まで冷却してから、MDIを124.2g(0.50mol)加え、反応溶液を190℃に上昇させて2時間反応させ、ポリアミドイミド樹脂FのNMP溶液を得た。
【0057】
製造比較例2(ポリアミドイミド樹脂Gの製造)
製造例1と同じ装置を用い、ジアミン化合物である反応性シリコーンオイルX−22−161−B〔信越化学工業(株)製、商品名、アミン当量1,500〕を122.7g(0.072mol)、3,3'−ジアミノジフェニルメタン(DDM、和光純薬製試薬)を57.3g(0.29mol)、TMAを153.9g(0.80mol)及びNMPを1200gを投入して反応溶液とし、これを80℃で30分間撹拌した。その後の脱水、脱トルエン工程後、反応溶液を室温まで冷却してから、MDIを114.3g(0.46mol)加え、反応溶液を190℃に上昇させて2時間反応させ、ポリアミドイミド樹脂GのNMP溶液を得た。
【0058】
以上の製造例1〜5および製造比較例1〜2におけるポリアミドイミド樹脂の製造条件と重量平均分子量(Mw)の測定結果を第1表に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
実施例1
製造例1で得たポリアミドイミド樹脂Aの溶液に、ジフェニルメタンビスマレイミド〔BMI、大和化成工業(株)製〕を、ポリアミドイミド樹脂固形分100質量部に対し、30質量部加え、更に過酸化物であるジ(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン〔日本油脂(株)製、商品名:パーブチルP〕を1.0質量部加え、撹拌し、樹脂組成物のワニスを得た。評価・測定結果を第2表に示す。
【0061】
実施例2
製造例2で得たポリアミドイミド樹脂Bの溶液に、ポリアミドイミド樹脂固形分100質量部に対し、BMIを30質量部加え、更に過酸化物であるパーブチルPを1.0質量部加え、実施例1と同様の方法で樹脂組成物のワニスを得た。評価・測定結果を第2表に示す。
【0062】
実施例3
製造例3で得たポリアミドイミド樹脂Cの溶液に、ポリアミドイミド樹脂固形分100質量部に対し、BMIを30質量部加え、更に過酸化物であるパーブチルPを1.0質量部加え、実施例1と同様の方法で樹脂組成物のワニスを得た。評価・測定結果を第2表に示す。
【0063】
実施例4
製造例4で得たポリアミドイミド樹脂Dの溶液に、ポリアミドイミド樹脂固形分100質量部に対し、BMIを30質量部加え、更に過酸化物であるパーブチルPを1.0質量部加え、実施例1と同様の方法で樹脂組成物のワニスを得た。評価・測定結果を第2表に示す。
【0064】
実施例5
製造例5で得たポリアミドイミド樹脂Eの溶液に、ポリアミドイミド樹脂固形分100質量部に対し、BMIを30質量部加え、更に過酸化物であるパーブチルPを1.0質量部加え、実施例1と同様の方法で樹脂組成物のワニスを得た。評価・測定結果を第2表に示す。
【0065】
実施例6
製造例1で得たポリアミドイミド樹脂Aの溶液に、ポリアミドイミド樹脂固形分100質量部に対し、BMIを10質量部加え、更に過酸化物であるパーブチルPを1.0質量部加え、実施例1と同様の方法で樹脂組成物のワニスを得た。評価・測定結果を第2表に示す。
【0066】
実施例7
製造例1で得たポリアミドイミド樹脂Aの溶液に、ポリアミドイミド樹脂固形分100質量部に対し、BMIを50質量部加え、更に過酸化物であるパーブチルPを1.0質量部加え、実施例1と同様の方法で樹脂組成物のワニスを得た。評価・測定結果を第2表に示す。
【0067】
実施例8
製造例3で得たポリアミドイミド樹脂Cの溶液に、ポリアミドイミド樹脂固形分100質量部に対し、BMIを30質量部、過酸化物であるパーブチルPを1.0質量部、エポキシ化合物としてDER331L〔ダウ・ケミカル日本(株)製、商品名〕を20質量部及びBAPPを10質量部加え、実施例1と同様の方法で樹脂組成物のワニスを得た。評価・測定結果を第3表に示す。
【0068】
実施例9
製造例3で得たポリアミドイミド樹脂Cの溶液に、ポリアミドイミド樹脂固形分100質量部に対し、BMIを30質量部、過酸化物であるパーブチルPを1.0質量部、エポキシ化合物としてNC−3000H〔日本化薬(株)製、商品名〕を20質量部、BAPPを8質量部加え、実施例1と同様の方法で樹脂組成物のワニスを得た。評価・測定結果を第3表に示す。
【0069】
実施例10
製造例3で得たポリアミドイミド樹脂Cの溶液に、ポリアミドイミド樹脂固形分100質量部に対し、BMIを30質量部、過酸化物であるパーブチルPを1.0質量部、エポキシ樹脂としてNC−3000H〔日本化薬(株)製、商品名〕を40質量部、BAPPを16質量部加え、実施例1と同様の方法で樹脂組成物のワニスを得た。評価・測定結果を第3表に示す。
【0070】
比較例1
製造比較例1で得たポリアミドイミド樹脂Fの溶液に、ポリアミドイミド樹脂固形分100質量部に対し、BMIを30質量部、過酸化物であるパーブチルPを1.0質量部加え、実施例1と同様の方法で樹脂組成物のワニスを得た。評価・測定結果を第3表に示す。
【0071】
比較例2
製造比較例1で得たポリアミドイミド樹脂Fの溶液に、ポリアミドイミド樹脂固形分100質量部に対し、BMIを30質量部、過酸化物であるパーブチルPを1.0質量部、エポキシ化合物としてNC−3000Hを20質量部、BAPPを8質量部加え、実施例1と同様の方法で樹脂組成物のワニスを得た。評価・測定結果を第3表に示す。
【0072】
比較例3
製造比較例2で得たポリアミドイミド樹脂Gの溶液に、ポリアミドイミド樹脂固形分100質量部に対し、BMIを30質量部、過酸化物であるパーブチルPを1.0質量部、エポキシ化合物としてNC−3000Hを20質量部、BAPPを8質量部加え、実施例6と同様の方法で樹脂組成物のワニスを得た。評価・測定結果を第3表に示す。
【0073】
【表2】

【0074】
【表3】

【0075】
実施例1、実施例8および比較例2で得られた樹脂並びに一般的な高ガラス転移温度(Tg)エポキシ樹脂(クレゾールノボラック型エポキシ樹脂とフェノールノボラックの硬化物)の動的粘弾性(貯蔵弾性率)の測定結果を図1に記す。これから分かるように、一般的な高ガラス転移温度(Tg)エポキシ樹脂では、25℃の室温領域で弾性率が低く、200℃以上の高温領域で弾性率が1/100程度まで低下するのに対して、本発明の実施例1や実施例8の樹脂は、25℃の室温領域で弾性率が低く、室温領域から250℃の高温領域にかけて弾性率の低下の幅が1/10に満たない程度で安定している。比較例2では300℃程度の高温領域で弾性率の低下が見られるが、室温領域および250℃の高温領域での弾性率が高く、250℃程度で行う実装時から室温に冷却した際の熱膨張率の差に起因した応力が大きくなる。このことは比較例2における基板そり量の大きさとなって表れている。
【0076】
以上のように、本発明の絶縁樹脂組成物は、ブタジエン骨格を導入したポリアミドイミド樹脂をマレイミド化合物および有機過酸化物で硬化することにより、200℃以上の高ガラス転移温度(Tg)を示しつつ、一般的な高ガラス転移温度(Tg)エポキシ樹脂と比較して、室温領域で低弾性率性を、高温領域で高弾性率性を示すことができる。
従って、本発明の絶縁樹脂組成物を電気基板材料等に用いることで、耐熱性、接着性及び耐薬品性が優れると共に、基板のそりの低減に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】実施例1、実施例8、比較例2および一般的な高ガラス転移温度(Tg)エポキシ樹脂の動的粘弾性(貯蔵弾性率)の測定結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジイミドジカルボン酸(a1)、両末端にカルボキシル基を有するカルボン酸末端ポリブタジエン(a2)及び両末端にカルボキシル基を有するカルボン酸末端水素化ポリブタジエン(a3)を含むカルボン酸末端化合物(A)と、ジイソシアネート(B)とを反応させて得られる重量平均分子量が10,000〜500,000のポリアミドイミド樹脂(U)、マレイミド化合物(V)並びに有機過酸化物(W)を含有し、(1)硬化物のガラス転移温度が200℃以上、(2)動的粘弾性測定装置を用いて測定した硬化物の貯蔵弾性率が25℃で100〜2,000MPa、250℃で10〜1,000MPaであることを特徴とする絶縁樹脂組成物。
【請求項2】
カルボン酸末端化合物(A)とジイソシアネート(B)の合計質量中の量として、ジイミドジカルボン酸(a1)の配合量が1〜30質量%、カルボン酸末端ポリブタジエン(a2)の配合量が1〜40質量%、カルボン酸末端水素化ポリブタジエン(a3)の配合量が10〜50質量%である請求項1に記載の絶縁樹脂組成物。
【請求項3】
カルボン酸末端化合物(A)が、さらにカルボン酸末端アクリロニトリルブタジエンゴム(a4)含むものである請求項1又は2に記載の絶縁樹脂組成物。
【請求項4】
カルボン酸末端アクリロニトリルブタジエンゴム(a4)の配合量が30質量%以下である請求項3に記載の絶縁樹脂組成物。
【請求項5】
カルボン酸末端化合物(A)のカルボキシル基の合計に対するジイソシアネート(B)のイソシアネート基のモル比が1〜1.5である請求項1〜4のいずれかに記載の絶縁樹脂組成物。
【請求項6】
ポリアミドイミド樹脂(U)100質量部に対して、マレイミド化合物(V)を10〜100質量部含有する請求項1〜5のいずれかに記載の絶縁樹脂組成物。
【請求項7】
ポリアミドイミド樹脂(U)100質量部に対して、有機過酸化物(W)を0.1〜5質量部含有する請求項1〜6のいずれかに記載の絶縁樹脂組成物。
【請求項8】
さらに、多官能エポキシ化合物(Y)と多官能アミン(Z)を含有する請求項1〜7のいずれかに記載の絶縁樹脂組成物。
【請求項9】
ポリアミドイミド樹脂(U)100質量部に対して、多官能エポキシ化合物(Y)を10〜100質量部、多官能アミン(Z)を1〜20質量部各々含有する請求項8に記載の絶縁樹脂組成物。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2008−280504(P2008−280504A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−263266(P2007−263266)
【出願日】平成19年10月9日(2007.10.9)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】