説明

絶縁被膜付き電磁鋼板および積層鉄心

【課題】表面に接着性樹脂を含有する絶縁被膜を有する電磁鋼板であって、積層し加熱加圧した場合に、絶縁被膜同士が十分に接着可能な電磁鋼板を提供する。
【解決手段】ベースとなる被膜中に加熱および/または加圧により変形する粒状樹脂が分散する構造になり、該粒状樹脂の平均粒径が1.0〜50.0μmで、かかる粒状樹脂を該絶縁被膜中に1.0〜50質量%の割合で含み、さらに該絶縁被膜の片面当たりの付着量が4.0 g/m以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転器や変圧器等に用いる加熱接着型の絶縁被膜付き電磁鋼板、およびそれを用いた積層鉄心に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転器、変圧器等の電気機器に使用する鉄心は、渦電流を減少させるための絶縁被膜を電磁鋼板に被覆し、ついで打ち抜きまたはせん断加工を施して、複数枚の鋼板を積み重ねたのち、溶接、カシメまたは接着剤により固着して製造していた。しかしながら、溶接により電磁鋼板を固着する方法には、鉄心のエッジ部が短絡して絶縁性が低下するという問題や、熱歪みの発生によって鉄心の磁気特性が劣化するという問題があった。
また、カシメにより電磁鋼板を固着する方法には、加工歪みの発生によって磁気特性が劣化すると同時に、電磁鋼板の厚みが薄くなった場合、十分なカシメ強度が得られないという問題があった。さらに、接着剤により電磁鋼板を固着する方法には、上述したような磁気特性の劣化の問題はあまりないものの、電磁鋼板の1枚1枚に接着剤を塗布する必要があるため作業性が極めて悪く、また、必ずしも絶縁被膜間での接着力が十分とはならないという問題があった。
【0003】
これに対し、特許文献1には、ガラス転移温度:60℃以上の熱可塑性アクリル樹脂エマルジョンや、エポキシ樹脂ヱマルジョンを主成分とする組成物を塗布し、乾燥して得られた鋼板を、積層し、加熱加圧することで積層鉄心を製造する方法が開示されている。この方法は、接着剤を塗布する工程を省略したものであり、加工歪みの影響を受け難いだけでなく、コイル状に巻いても鋼板の被膜同士が接着して剥がれなくなる、いわゆるブロッキングの発生が抑制できるという利点を有する。
【0004】
しかしながら、上記方法で製造された電磁鋼板(以下、「従来の加熱接着型電磁鋼板」という)を、加熱加圧して得られた積層鉄心は、接着面積が小さな部分が発生する場合があり、その場合、層間はく離(接着面でのはく離)が生じるという問題があった。
特に、上掲した特許文献1に記載の方法では、鋼板板厚が薄い場合や絶縁被膜の厚みが薄い場合などに、絶縁被膜や鋼板の凹凸の影響を受けやすくなるという問題が顕在化していた。
【0005】
この点、特許文献2には、粒径:0.01〜0.5μmの微粒子重合体を絶縁被膜に分散させることで、絶縁被膜の膜厚を1.5μm程度に薄くしても、十分な接着強度が得られるという技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2−208034号公報
【特許文献2】特許第4143090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上掲した特許文献2に開示の技術でも、板厚が薄い場合や表面粗度が大きい場合には、接着していない面積が大きくなりやすく、接着強度が十分とは言えなかった。
上記したメカニズムを、さらに図を用いて説明する。図1に、従来の加熱接着型電磁鋼板を積層して得られる積層鉄心の、接着部分における断面模式図を示す。同図に示したように、実際の板形状は平坦でなく凹凸を有している(図1(a))。従って、絶縁被膜の膜厚が薄くなるに従い、図1(b)、(c)に示したように、加熱融着する部分が限られて、未接着部分が多く残ることになる。その結果、鋼板同士の接着強度は大きく低下することになる。
【0008】
本発明は、上記した現状に鑑み開発されたもので、表面に接着性樹脂を含有する絶縁被膜を有する電磁鋼板であって、それらを積層し加熱加圧した場合に、絶縁被膜同士が十分な接着強度を有する電磁鋼板を提供することを目的とする。特に、鋼板の板厚が0.35mm以下と薄く、接着層の平均厚みが4μm以下と薄い場合であっても、十分な接着強度を有する電磁鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、上記した課題を解決すべく鋭意研究を行った。その結果、鉄心用電磁鋼板の絶縁被膜中に、所定の粒径の粒状樹脂を含有させることにより、所期した目的が有利に達成されるとの知見を得た。すなわち、鉄心作製のために鋼板を加熱加圧した場合、絶縁被膜のベース中に、ベース厚よりも大きい粒径の粒状樹脂が含有されていると、この粒状樹脂が優先的に鋼板表面で融着すると共に押し潰されて拡がるため、未接着部の面積が大幅に減少し、鋼板同士の接着強度が向上することを見出した。
【0010】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.加熱および/または加圧により接着可能な絶縁被膜を有する電磁鋼板であって、該絶縁被膜は、ベースとなる被膜中に加熱および/または加圧により変形する粒状樹脂が分散する構造になり、該粒状樹脂の平均粒径が1.0〜50.0μmで、かかる粒状樹脂を該絶縁被膜中に1.0〜50質量%の割合で含み、さらに該絶縁被膜の片面当たりの付着量が4.0 g/m以下であることを特徴とする絶縁被膜付き電磁鋼板。
【0011】
2.前記絶縁被膜の片面当たりの付着量が0.05 g/m以上であることを特徴とする前記1に記載の絶縁被膜付き電磁鋼板。
【0012】
3.前記1または2に記載の電磁鋼板を2枚以上積層して、加熱および/または加圧により接着させてなり、鉄心占積率が96.0%以上であることを特徴とする積層鉄心。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、加熱および/または加圧により接着可能な絶縁被膜を有する電磁鋼板を、積層して加熱加圧した場合に、絶縁被膜同士が十分な接着強度を有する電磁鋼板を提供することができる。特に、本発明に従う電磁鋼板は、鋼板の板厚が薄く、また絶縁被膜の平均厚みが4μm以下と薄くても、十分な接着強度を発揮するため、組み上がった鉄心の占積率を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】従来の積層鉄心の接着部分における断面模式図である。
【図2】本発明に従う積層鉄心の接着部分における断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を具体的に説明する。
まず、本発明の絶縁被膜付き電磁鋼板について説明する。
本発明の絶縁被膜付き電磁鋼板は、電磁鋼板の少なくとも一方の表面に絶縁被膜を有する絶縁被膜付き電磁鋼板であって、その絶縁被膜は加熱および/または加圧により接着する性能を有している。
特に、本発明の絶縁被膜中には、図2に示すように、加熱および/または加圧により変形して接着する粒状樹脂が分散しており、その平均粒径が1.0〜50.0μmの範囲であることを特徴とする。
【0016】
本発明に用いられる電磁鋼板としては、特段の限定はなく、公知のもの、すなわち、無方向性、1方向性、2方向性などいずれの電磁鋼板であっても用いることができる。また、電磁鋼板の鋼板組成は、特に限定されず、公知のものを用いることができる。さらに、電磁鋼板の板厚は、特に限定されないが、一般的な鋼板の厚みである0.05〜1.0mm程度とするのが好ましい。特に、本発明は、板厚が0.35mm以下の鋼板に適用して有利なものである。
【0017】
加えて、鋼板の粗度も特に限定はされないが、算術平均粗さRa(JIS B 0601-2001)で、0.1〜1.0μm程度の範囲が好適である。また、厚みがO.35mm以下の薄鋼板では、鋼板表面の粗度が高くなる傾向にあるため、本発明の効果が特に大きくなり、鋼板同士の十分な接着強度を保ちながら、鉄心の占積率を高くすることができる。
【0018】
本発明に用いられる加熱および/または加圧により接着可能な絶縁被膜のベースとなる被膜は、特に限定されず、アクリル系、エポキシ系、フェノール系およびシリコーン系等の接着性樹脂のいずれもが好適に使用でき、これらを、1種または2種以上の接着性樹脂の混合物として用いることができる。なお、アミン系硬化剤、シリカ等の添加物を本発明の効果を損なわない範囲で、絶縁被膜に対し、0.01〜40.0質量%程度添加することができる。
また、上記の接着性樹脂は、ガラス転移温度または軟化温度が60℃以上であることが好ましい。ガラス転移温度または軟化温度が60℃以上であると、良好な接着強度が得られると共に、鋼板をコイル状に巻き取った場合においても、鋼板同士のいわゆるブロッキングを抑制する効果がある。
【0019】
本発明に用いられる粒状樹脂は、加熱および/または加圧により変形するものであることが必要である。その成分に特段の制限はないが、特に、スチレン、アクリル、エポキシ、フェノールおよびシリコーン等の粒状樹脂が好適に使用でき、これらのうちの1種または2種以上を混合して使用することができる。
また、本発明において、粒状樹脂の平均粒径は、1.0〜50.0μmとする必要がある。1.0μmに満たないと、未接着部分が大きくなり接着強度が低下する。一方、50.0μmを越えると、粉吹きの問題が顕れる。好ましくは3.0〜30.0μmの範囲である。
なお、上記の粒状樹脂の平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、粒状樹脂単体を観察する方法、絶縁被膜を表面から観察する方法、絶縁被膜を凍結破断させた破断面を観察する方法などにより求めることが可能である。
【0020】
本発明における絶縁被膜は、前記粒状樹脂を1.0〜50質量%の割合で含むことが必要である。というのは、1.0質量%に満たないと、高い接着強度が得られず、一方、50質量%を超えると、成膜性が低下し粉吹き性に劣るからである。
【0021】
本発明における絶縁被膜は、その性能を一層向上させるために、防錆剤等の添加剤を含有させることができる。この場合は、絶縁被膜の固形分の100質量部に対して30質量部以下とするのが好ましい。
【0022】
本発明における絶縁被膜の付着量は、4.0g/m以下とする。4.0 g/mを超えると鉄心占積率(加熱および/または加圧により積層接着された電磁鋼板の全体に対する地鉄の比率)が低下し、鉄心占積率を96.0%以上とすることができない。2.0 g/m以下とするのがより好ましい。また、十分な層間接着力を得られるという点で、片面あたりの付着量として0.05 g/m以上が好ましく、0.1 g/m以上とすることがより好ましい。
【0023】
本発明の絶縁被膜付き電磁鋼板は、その製造方法を特に限定されず、常法に従えば良い。また、絶縁被膜の形成方法は、例えば、エマルジョン、ディスパージョン等の水系の接着性樹脂(粒状物資を含み、又はさらに添加剤を含む)をロールコーター法、フローコーター法、スプレー塗装、ナイフコーター法等、種々の方法で電磁鋼板に塗布し、ついで、一般的に実施されるような熱風式、赤外式、誘導加熱式等の方法で焼付け処理を行うなどが挙げられる。これらの塗布工程などは、電磁鋼板を切り板状としてから行ってもよいが、コイル状のままで塗装して焼付けした方が、生産性が高く、実用的である。
【0024】
本発明に従う電磁鋼板を、積層し加熱加圧した場合、所定粒径の粒状樹脂が、鋼板表面で効果的に融着するため、絶縁被膜同士の間に隙間を生じることなく、十分に密接して接着することができる。そのため、接着不良による層間はく離を引き起こすおそれがない。また、本発明に従う電磁鋼板は、鉄心の製造中、絶縁性が低下したり、熱歪みや加工歪みにより磁気特性が劣化するという問題を引き起こすことがなく、また、絶縁被膜の形成後にさらに接着剤を塗布する必要がないので、作業性が悪いという問題も発生しない。
【0025】
本発明に従う鋼板を加熱する場合、その加熱温度は、用いられている絶縁被膜のベースとなる被膜を形成するマトリックス樹脂および粒状樹脂のガラス転移温度以上、または融点における流動性が発現される温度以上のいずれかであれば特に限定されない。なお、加熱温度は、具体的には100〜500℃程度、より好ましくは150〜300℃程度の範囲である。
【0026】
本発明に従う鋼板を加圧する場合、その加圧力は、4.90×105〜9.81×106Pa (4〜100kgf/cm2)であることが好ましい。9.81×105〜9.81×106Pa (10〜100kgf/cm2)であることがより好ましい。
また、本発明の積層電磁鋼板の製造における加圧時間は、10〜10000秒の範囲であるのが好ましい。
【実施例1】
【0027】
以下に、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限られるものではない。
幅:200mm、長さ:300mmおよび板厚:O.05〜O.50mmの電磁鋼板(電気鉄板)に、表1に示すような各種ベースとなる被膜を形成するマトリックス樹脂と粒状樹脂を所定の含有量で含有した各種の水系の接着性樹脂をロールコーターで塗布し、ついで、到達板温:260℃で焼付け、放冷して、種々の被膜付着量の絶縁被膜を、片方の表面に有した絶縁被膜付き電磁鋼板を得た。
粒状樹脂の平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、粒状樹脂単体を観察する方法により求めた。具体的には、任意の3視野について約500〜10000倍のSEM観察し、各視野の平均値を求め、それらの平均値を平均粒径とした。また、被膜付着量はアルカリ剥離または溶剤剥離による重量減少から求めた。
【0028】
上記の絶縁被膜付き電磁鋼板について、以下の評価を行った。
(1)接着強度
2枚の絶縁被膜付き電磁鋼板(幅:20mm×長さ:70mm)を、先端から10mmまでの部分のみで絶縁被膜同士が接着するように、ずらして積層 (ラップ部分、幅:20mm×長さ:10mm) し、ホットプレスを用いて、温度:200℃、圧力:9.81×105Paおよび時間:1分の各条件で加熱加圧して接着し、接着強度測定用の試験片を得た。この試験片を用い、引張速度:3mm/minの条件で室温(23℃)にて引張試験を行い、破断したときの最大応力を求めて接着強度を評価した。
【0029】
(2)鉄心占積率
上述した接着強度の評価方法と同様に鋼板を接着した後、JIS C 2550:2000に準拠して、鉄心占積率を測定した。なお、板厚:O.23mm未満の鋼板の場合、鉄心占積率を求めるための組み立てるに要する鋼板の枚数について、JIS規格に規定がないため、本試験では36枚の鋼板を積層して試験を実施した。
【0030】
(3)粉吹き性
試験条件として、フェルト接触面の幅:1Omm×長さ:1Omm、荷重:4.90×104Pa、被膜表面を100回単純往復を採用した。往復試験後の擦り跡を目視観察して、被膜の剥離状態および粉吹き状態を目視評価した。評価基準は以下のとおりである。
(評価基準)
○: 被膜残存率80%以上
△: 被膜残存率50%以上80%未満
×: 被膜残存率50%未満
【0031】
(4) 熱伝導率
鋼板3枚を積層し、積層方向の圧力を0.6MPaとしたときの熱伝導率を温度傾斜法で測定した。
◎:2.0 W/(m・K)超え
○:1.5以上、2.0 W/(m・K)以下
△:1.0以上、1.5 W/(m・K)未満
×:1.0 W/(m・K)未満
【0032】
【表1】

【0033】
同表に示したとおり、本発明に従う発明例は、そのいずれもが高い接着強度、熱伝導率および鉄心占積率となり、粉吹き性についても良好な結果となっている。
これに対し、試験No.1は、粒状樹脂の粒径が本発明の範囲より小さく、試験No.11は、粒状樹脂の含有量が本発明の範囲より小さいため、接着強度に劣り、また、試験No.10は、粒状樹脂の粒径が本発明の範囲より大きく、試験No.20〜22は、粒状樹脂の含有量が本発明の範囲より大きいため、粉吹き性に劣っていた。さらに、試験No.29〜31は、絶縁被膜の付着量が多く、鉄心占積率が本発明の範囲に満たないため、熱伝導率に劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱および/または加圧により接着可能な絶縁被膜を有する電磁鋼板であって、該絶縁被膜は、ベースとなる被膜中に加熱および/または加圧により変形する粒状樹脂が分散する構造になり、該粒状樹脂の平均粒径が1.0〜50.0μmで、かかる粒状樹脂を該絶縁被膜中に1.0〜50質量%の割合で含み、さらに該絶縁被膜の片面当たりの付着量が4.0 g/m以下であることを特徴とする絶縁被膜付き電磁鋼板。
【請求項2】
前記絶縁被膜の片面当たりの付着量が0.05 g/m以上であることを特徴とする請求項1に記載の絶縁被膜付き電磁鋼板。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電磁鋼板を2枚以上積層して、加熱および/または加圧により接着させてなり、鉄心占積率が96.0%以上であることを特徴とする積層鉄心。





【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−174739(P2012−174739A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−32637(P2011−32637)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【出願人】(000003322)大日本塗料株式会社 (275)
【Fターム(参考)】