説明

絶縁電線及びそれを用いたコイル製造方法

【課題】容易に固定化することができる絶縁電線及びそれを用いたコイル製造方法を提供する。
【解決手段】絶縁電線1は、導線2の表面に形成された絶縁体層3と、絶縁体層3の表面に形成され反応性樹脂を含む主剤8と反応して主剤8を硬化させる硬化剤層4とを備える。硬化剤層4は、絶縁体層3の表面に島状に形成されている。硬化剤層4は、表面に潤滑素材層10を備える。コイル製造方法は、絶縁電線1を巻き回すことによりコイル7を形成し、硬化剤層4を形成する硬化剤と反応して硬化する反応性樹脂を含む主剤8をコイル7に含浸させ、主剤8と反応させ硬化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気絶縁された電線及びそれを用いたコイル製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電動機用コイル等の巻線に用いる導線として、表面に絶縁体層を備える絶縁電線が知られている。前記絶縁電線を巻き回すことにより形成されたコイルは、例えば、電動機に使用した場合、機械的振動、電磁的振動等により該絶縁電線同士が衝突して絶縁が破壊されてしまうという問題がある。
【0003】
前記問題を解決するために、巻き回された前記絶縁電線の間に液状樹脂(ワニス)を含浸させ、該液状樹脂を加熱、硬化させたコイルが知られている(例えば特許文献1参照)。前記コイルによれば、前記絶縁電線同士の間隙に前記液状樹脂が硬化した樹脂が充填されると共に、該硬化した樹脂により該絶縁電線同士が固定化されるので、該絶縁電線同士の衝突により絶縁が破壊されることがない。
【0004】
前記コイルの固定化には、例えば、反応性樹脂を含む主剤と、該主剤を硬化させる硬化剤とを含む液状樹脂が用いられる。前記液状樹脂は、通常はタンク内に保管されており、必要に応じて取り出されて前記絶縁電線の間に含浸させられる。
【0005】
しかしながら、前記液状樹脂は、前記タンク内で保管されるときと、含浸に使用されるときとの温度差により、部分的に前記主剤と前記硬化剤とが反応して粘度が上昇し、該絶縁電線の固定化に用いることが難しくなることがあるという不都合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−48555号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、容易に固定化することができる絶縁電線及びそれを用いたコイル製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明の絶縁電線は、導線の表面に形成された絶縁体層と、該絶縁体層の表面に形成され反応性樹脂を含む主剤と反応して該主剤を硬化させる硬化剤層とを備えることを特徴とする。
【0009】
本発明の絶縁電線は、巻き回すことによりコイルを形成することができる。前記コイルは、前記絶縁電線同士の間隙に反応性樹脂を含む主剤を含浸させて加熱すると、前記絶縁体層の表面に形成された前記硬化剤層に含まれる硬化剤が溶融し、前記主剤と反応する。この結果、前記主剤と前記硬化剤との反応により硬化した樹脂が、前記絶縁電線同士の間隙に充填されると共に、該絶縁電線同士を固定することができる。
【0010】
本発明の絶縁電線は前記硬化剤層を備えているので、前記主剤として硬化剤を含まないものを用いることができる。従って、前記主剤がタンクに貯蔵されている間に部分的反応により粘度上昇を起こすことがなく、本発明の絶縁電線は該主剤により容易に固定化することができる。
【0011】
本発明の絶縁電線において、前記硬化剤層は、前記絶縁体層の表面全体を被覆して設けられていてもよいが、このようにすると、該絶縁電線を巻き回してコイルを形成する際に、該硬化剤層が摩擦となって該絶縁電線同士の滑りが悪くなる傾向がある。そこで、本発明の絶縁電線において、前記硬化剤層は、前記絶縁体層の表面に島状に形成されていることが好ましい。前記硬化剤層を島状に形成することにより、本発明の絶縁電線は、該硬化剤層による摩擦を低減して、前記コイルを容易に形成することができる。
【0012】
また、本発明の絶縁電線において、前記硬化剤層は、表面に潤滑素材層を備えることがさらに好ましい。本発明の絶縁電線は、前記潤滑素材層を備えることにより、さらに硬化剤層による摩擦を低減することができ、前記コイルをさらに容易に形成することができる。
【0013】
本発明の絶縁電線は、該絶縁電線を巻き回すことにより該コイルを形成する工程と、前記硬化剤層を形成する硬化剤と反応して硬化する反応性樹脂を含む主剤を該コイルに含浸させ、該硬化剤層と該主剤とを反応させ硬化させる工程とからなるコイル製造方法に用いることができる。
【0014】
本発明のコイル製造方法では、まず、本発明の絶縁電線を巻き回すことにより前記コイルを形成する。
【0015】
次に、前記硬化剤層を形成する硬化剤と反応して硬化する反応性樹脂を含む主剤を該コイルに含浸させる。前記主剤は、反応性樹脂のみからなる液状樹脂であり硬化剤を含まないので、タンク内に貯蔵されている間に部分的反応により粘度上昇を起こすことがない。したがって、前記主剤は、前記コイルに含浸させた場合に、該絶縁電線同士の間に容易に浸透し、前記硬化剤層と反応して硬化する。この結果、硬化した樹脂によりコイルが固定される。
【0016】
このとき、前記主剤が含浸されたコイルを加熱するようにしてもよい。このようにすると、前記硬化剤層に含まれる硬化剤と前記主剤との反応を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態の絶縁電線の構成を示す説明的断面図。
【図2】本実施形態の絶縁電線を用いたコイル製造方法の第1工程を示す工程図。
【図3】本実施形態の絶縁電線を用いたコイルの構成を示す説明的断面図。
【図4】本実施形態の絶縁電線を用いたコイル製造方法の第2工程を示す工程図。
【図5】本実施形態の絶縁電線を用いたコイル製造方法の第3工程を示す工程図。
【図6】本実施形態の絶縁電線を用いたコイル製造方法の第4工程を示す工程図。
【図7】束線の3点曲げ強度を測定する方法を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【0019】
本実施形態の絶縁電線1は、図1(a)に示すように、導線2の表面に形成された絶縁体層3と、絶縁体層3の表面に形成された硬化剤層4とを備える。硬化剤層4は、反応性樹脂を含む主剤と反応して該主剤を硬化させる硬化剤からなる。
【0020】
導線2としては、例えば、銅、アルミ、銀、金等からなるものを挙げることができる。
【0021】
絶縁体層3を形成する絶縁体としては、例えば、アミドイミド等の樹脂を挙げることができる。
【0022】
硬化剤層4を形成する硬化剤としては、例えば、脂肪族アミン、芳香族アミン、変性アミン、ポリアミド樹脂、三級及び二級アミン、イミダゾール類、液状ポリメルカブタン酸無水物、三フッ化ホウ素−アミン錯体、ジシアンジアミド、有機酸ヒドラジド、ジフェニルヨードニウムヘキサフロロホスフェート、トリフェニルスルホニウムヘキサフロロホスフェート等を挙げることができる。
【0023】
前記硬化剤と反応する主剤に含まれる反応性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等を挙げることができる。
【0024】
絶縁電線1は、まず、導線2の表面に前記絶縁体を塗布して絶縁体層3を形成し、さらに、絶縁体層3の表面に前記硬化剤を塗布して硬化剤層4を形成することにより得ることができる。
【0025】
次に、図1(a)に示す絶縁電線1を用いるコイル製造方法を、図2乃至図6を参照して説明する。
【0026】
まず、図2に示すように、巻枠5に対し、マグネットワイヤボビン6から供給される絶縁電線1を巻き回すことにより、コイル7を形成する。コイル7は、図3に示すように、絶縁電線1を整列させるように巻き回されている。
【0027】
次に、図4に示すように、コイル7に主剤8を含浸させる。主剤8は、硬化剤層4を形成する硬化剤と反応して硬化する反応性樹脂を含むものであり、図示しないタンクから供給される。主剤8は、絶縁電線1が硬化剤層4を備えているので、硬化剤を含む必要がない。したがって、主剤8は、前記タンク内に貯蔵されている間に前記硬化剤との部分的反応を起こさないので粘度上昇のおそれがなく、コイル7に含浸させたときに、絶縁電線1同士の間隙に容易に浸透する。
【0028】
次に、主剤8を含浸させたコイル7を80〜150℃の範囲の温度で10〜90時間熱処理することにより、図5に示すように、硬化剤層4に含まれる硬化剤が主剤8と反応し、未硬化樹脂8aを形成する。未硬化樹脂8aは、図6に示すように、前記反応により硬化樹脂9を形成し、硬化樹脂9が、絶縁電線1同士の間隙に充填されると共に、絶縁電線1同士を固定する。
【0029】
本実施形態の図1(a)に示す絶縁電線1では、硬化剤層4は絶縁体層3の表面全体を被覆して設けられているが、硬化剤層4は、図1(b)に示すように、絶縁体層3の表面に島状に形成されているものであってもよい。図1(b)に示す絶縁電線1は、まず、導線2の表面に前記絶縁体を塗布して絶縁体層3を形成し、さらに、絶縁体層3の表面に粒子状の硬化剤を塗布して、島状の硬化剤層4を形成することにより得ることができる。
【0030】
かかる構成を備える絶縁電線1は、巻枠5に巻き回すときに硬化剤層4による摩擦を低減して、コイル7を容易に形成することができる。
【0031】
また、絶縁電線1は、図1(c)に示すように、硬化剤層4の表面に潤滑素材層10を備えるものであってもよい。潤滑素材層10を形成する潤滑素材としては、例えば、潤滑油、パラフィン類、ワックス等の潤滑成分、または、ナイロン、ポリエチレン等の樹脂を挙げることができる。図1(c)に示す絶縁電線1は、図1(a)に示す絶縁電線1または図1(b)に示す絶縁電線1の表面に、前記潤滑素材を塗布して潤滑素材層10を形成することにより得ることができる。
【0032】
この構成によれば、絶縁電線1は、その表面に潤滑素材層10を備えることにより、巻枠5に巻き回すときに硬化剤層4による摩擦を低減することができ、コイル7を容易に形成することができる。
【0033】
次に、本発明の実施例、比較例、参考例を示す。
【実施例】
【0034】
本実施例では、銅からなる導線2の表面にアミドイミド樹脂からなる絶縁体層3を備える直径0.5mmの市販の電線の表面に硬化剤層4を形成することにより、絶縁電線1を得た。硬化剤層4は、常温で固体の変性アミン系硬化剤粉末を有機溶媒と共に前記絶縁体層3上に塗布し、1μm以上の厚さを備えるように形成した。
【0035】
次に、本実施例では、コイルに代えて、全長100mmの絶縁電線1を300本まとめ両端部を仮止めすることにより、絶縁電線1の束線を作成した。次に、前記束線に、反応性樹脂として、熱硬化性樹脂である液体状のエポキシ樹脂を含む主剤8を含浸した。
【0036】
次に、前記束線を、150℃の温度で1時間熱処理した。前記熱処理により、硬化剤層4から溶解した変性アミン系硬化剤が、エポキシ樹脂8と反応し、硬化したエポキシ樹脂9が、絶縁電線1同士の間隙に充填されると共に、絶縁電線1同士を固定した。この結果、全長100mm、外径15mmの円筒状の束線が得られた。
【0037】
次に、図7に示すように、距離dを存して配置された1対の支持体11,12上に、本実施例で得られた長さLの束線13を載置し、束線13の中央に荷重Fを加えたときの3点曲げ荷重を測定し、該3点曲げ荷重を指標として絶縁電線固定化力を評価した。本実施例では、支持体11,12の距離dは50mmであり、束線13の長さLは100mmとした。この結果、本実施例で得られた束線13の3点曲げ荷重は、1010Nであった。結果を表1に示す。
〔比較例〕
本比較例では、前記実施例で用いたものと同一の市販の電線を絶縁電線とし、全長100mmの該絶縁電線を300本まとめ、両端部を仮止めすることにより該絶縁電線の束線を作成した。前記絶縁電線は、硬化剤層4を全く備えていない。
【0038】
次に、本比較例では、前記束線に主剤8を全く含浸しなかった以外は、前記実施例と全く同一にして、該束線の3点曲げ荷重を測定した。この結果、本比較例で得られた束線の3点曲げ荷重は、147Nであった。結果を表1に示す。
〔参考例〕
本参考例では、前記実施例で用いたものと同一の市販の電線を絶縁電線とし、全長100mmの該絶縁電線を300本まとめ、両端を仮止めすることにより該絶縁電線束線を作成した。前記絶縁電線は、硬化剤層4を全く備えていない。
【0039】
次に、本参考例では、前記束線に、変性アミン系硬化剤を含む主剤8を含浸し、150℃の温度で1時間熱処理することにより、硬化したエポキシ樹脂9により前記絶縁電線を固定した以外は、前記実施例と全く同一にして、該束線の3点曲げ荷重を測定した。この結果、本参考例で得られた束線の3点曲げ荷重は、1040Paであった。結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

表1から、前記実施例の束線13によれば、絶縁電線が全く固定されていない前記比較例の束線に比較して、格段に優れた絶縁電線固定化力を備えていることが明らかである。
また、前記実施例の束線13によれば、硬化剤を含む主剤8により絶縁電線が固定されている前記参考例の束線と同等の絶縁電線固定化力を備えていることが明らかである。
【符号の説明】
【0041】
1…絶縁電線、 2…導線、 3…絶縁体層、 4…硬化剤層、 7…コイル、 8…主剤、 10…潤滑素材層。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
導線の表面に形成された絶縁体層と、該絶縁体層の表面に形成され反応性樹脂を含む主剤と反応して該主剤を硬化させる硬化剤層とを備えることを特徴とする絶縁電線。
【請求項2】
前記硬化剤層は、前記絶縁体層の表面に島状に形成されていることを特徴とする請求項1記載の絶縁電線。
【請求項3】
前記硬化剤層は、表面に潤滑素材層を備えることを特徴とする請求項1または請求項2記載の絶縁電線。
【請求項4】
導線の表面に形成された絶縁体層と、該絶縁体層の表面に形成され反応性樹脂を含む主剤と反応して該主剤を硬化させる硬化剤層とを備える絶縁電線を巻き回すことにより該コイルを形成する工程と、
該硬化剤層を形成する硬化剤と反応して硬化する反応性樹脂を含む主剤を該コイルに含浸させ、該硬化剤層と該主剤とを反応させ硬化させる工程とからなることを特徴とするコイル製造方法。
【請求項5】
前記主剤が含浸されたコイルを加熱し該硬化剤層と該主剤とを反応させ硬化させることを特徴とする請求項4記載のコイル製造方法。
【請求項6】
前記硬化剤層は、前記絶縁体層の表面に島状に形成されていることを特徴とする請求項4または請求項5記載のコイル製造方法。
【請求項7】
前記硬化剤層は、表面に潤滑素材が塗布されていることを特徴とする請求項4乃至請求項6のいずれか1項記載のコイル製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−238447(P2010−238447A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−83374(P2009−83374)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】