説明

緑内障性の網膜障害および眼科疾患を処置するためのJUNN末端キナーゼのインヒビター

緑内障および他の眼科疾患(例えば、虚血性視神経障害、黄斑変性、色素性網膜症、網膜剥離、網膜の裂傷または円孔、および他の虚血性の網膜障害または神経障害)の処置のための組成物が開示される。組成物および方法は、特に、緑内障および他の眼科疾患の処置における、Jun N末端キナーゼ(JNK)のインヒビター(例えば、1,9−ピラゾロアントロン)の使用に関する。組成物は、経口用処方物、局所的な眼科外科手術用洗浄液または眼内用処方物であり得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1.発明の分野
本発明は、一般に、眼神経保護の分野に関し、より具体的には、緑内障性の網膜障害および他の眼科疾患を処置するための、Jun N末端キナーゼ(JNK)のインヒビターの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
2.関連技術の説明
眼における多くの眼科的な変化(例えば、緑内障、急性虚血性視神経障害、黄斑変性、色素性網膜症、網膜剥離、網膜の裂傷または円孔、および他の虚血性の網膜障害または視神経障害)は、視力の喪失につながり得る、網膜神経の損傷または死を引き起こす。例えば、原発性の開放隅角緑内障(POAG)は、視神経損傷、そして、最終的には盲目につながる、進行性の疾患である。この疾患の原因は、長年にわたり、多数の研究の主題であったが、依然として、完全には理解されていない。緑内障は、網膜および視神経の神経変性をもたらす。最適な医療ケアおよび外科手術処置の下でさえも、視覚機能の減衰を引き起こす網膜神経節細胞(RGC)の緩やかな減少が伴う(非特許文献1;非特許文献2)。
【0003】
眼内圧(IOP)の異常な上昇は、緑内障の主要なリスクファクターである。現在、緑内障について唯一利用可能な処置は、医薬品または外科手術のいずれかによってIOPを低下させることである。IOPを低下させることは、POAGの発症を遅らせ、そして、その損傷を与える作用を遅らせるのに有効である。それにもかかわらず、緑内障患者の視野の喪失は、必ずしも常にIOPと相関するわけではなく、そして、IOPの低下だけでは、疾患プロセスを完全に停止させない。このことは、圧力が、緑内障性の網膜障害および眼神経障害の唯一の原因ではない可能性があることを暗示している。さらなる機構(特に、視神経頭部および網膜に存在する機構)が、RGCの死に寄与するようである。
【0004】
緑内障性の網膜障害のいくつかの機構が、仮説を立てられている。いずれも、単独では、緑内障患者において通常観察される病理学的変化の広範なスペクトルおよびパターンを説明するには十分ではないようである。おそらく、緑内障は、2以上の病因学を必要とし、そして、異なる機構が、異なる患者および/または疾患の異なる段階において現れる。より重要な提案のいくつかは、神経栄養因子の中断、血管の異常(虚血)、およびグルタミン酸の毒性である。これらの機構は、最終的には、RGCのアポトーシスにつながる(非特許文献3)。
【0005】
同じ機構が、他の眼科疾患に関与していると提唱されている。例えば、神経栄養因子の減少は、色素性網膜症のラットモデルと関連している(非特許文献4)。網膜への特定の神経栄養因子の導入は、色素性網膜症(非特許文献5)、網膜剥離(非特許文献6;非特許文献7)、および実験的な黄斑変性(非特許文献8)に関連する網膜損傷を減少させ得る。網膜虚血は、急性虚血性視神経障害、黄斑変性(非特許文献9)、および他の虚血性の網膜障害または視神経障害に関与する。同様に、グルタミン酸の毒性は、網膜剥離において見られる網膜の損傷に寄与し得る(非特許文献10)。
【非特許文献1】Van Buskirkら,「Predicted outcome from hypotensive therapy for glaucomatous optic neuropathy」AM J OPHTHALMOL(1993)25:p.636−640
【非特許文献2】Schumerら,「The nerve of glaucoma」,ARCH OPHTHALMOL(1994)112:p.37−44
【非特許文献3】Clark & Pang,「Advances in Glaucoma Therapeutics」,EXPERT OPIN EMERGING DRUGS(2002)7:p.141−164
【非特許文献4】Amendolaら,「Postnatal changes in nerve growth factor and brain derived neurotrophic factor levels in the retina, visual cortex,and geniculate nucleus in rats with retinitis pigmentosa」,NEUROSCI LETT(2003)345:p.37−40
【非特許文献5】Taoら,「Encapsulated cell−based delivery of CNTF reduces photoreceptor degeneration in anima models of retinitis pigmentosa」,INVEST OPHTHALMOL VlS Sci(2002)43:p.3292−3298
【非特許文献6】Hisatomiら,「Critical role of photoreceptor apoptosis in functional damage after retinal detachment」,CURR EYE RES (2002)24:p.161−172
【非特許文献7】Lewisら,「Effects of neurotrophin brain−derived neurotrophic factor in an experimental model of retinal detachment」,INVEST OPHTHALMOL VlS Sci(1999)40:p.1530−1544
【非特許文献8】Yamadaら,「Fibroblast growth factor−2 decreases hyperoxia−induced photoreceptor cell death in mice」,AM J PATHOL(2001)159:p.1113−1120
【非特許文献9】Harrisら,「Progress in measurement of ocular blood flow and relevance to our understanding of glaucoma and age−related macular degeneration」,PROG RETINA EYE RES (1999)18:p.669−687
【非特許文献10】Sherry & Townes−Anderson,「Rapid glutamtergic alterations in the neural retina induced by retinal detachment」,INVEST OPHTHALMOL ViS Sci (2000)41:p.2779−2790
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
現在、疾患プロセスにおいて眼組織が損傷を受ける機構を中断しようとする、緑内障のための治療は利用可能ではない。疾患の根底にある病理学的な原因に対処し、それによって、網膜神経節細胞の喪失または損傷からの保護を提供する、緑内障の処置が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(発明の要旨)
本発明は、眼の組織に対して損傷を引き起こす機構に作用することを目的とした、緑内障および他の眼科疾患を処置するための組成物および方法を提供することによって、先行技術のこれらおよび他の欠点を克服する。この組成物および方法は、眼科疾患(例えば、緑内障、急性虚血性視神経障害、黄斑変性、色素性網膜症、網膜剥離、網膜の裂傷または円孔、および他の虚血性の網膜障害または眼神経障害)に関連する、欠陥のある網膜組織の処置のための、少なくとも1種のJNKのインヒビターを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
(好ましい実施形態の詳細な説明)
本発明は、緑内障および他の眼科疾患(急性虚血性視神経障害、黄斑変性、色素性網膜症、網膜剥離、網膜の裂傷または円孔、および他の虚血性の網膜障害または眼神経障害が挙げられる)を処置するための組成物および方法に関する。上記組成物は、薬学的に受容可能なビヒクル中に、1種以上のJNKのインヒビターを含有する。
【0009】
Jun N末端キナーゼ(JNK)は、3つの遺伝子:JNK1、JNK2およびJNK3にから誘導したmRNA転写物のオルタナティブスプライシングにより作製した、少なくとも10のアイソフォームを含む、ストレスにより活性化されるキナーゼのファミリーである(Guptaら(1996))。JNKの活性化は、ストレスにより誘導されるアポトーシスの特定の形態に必要とされ(Tournierら(2000))、多数の転写因子および細胞タンパク質(特に、アポトーシスに関連するもの(例えば、Bcl2、BCI−XL、p53など))のリン酸化をもたらす。細胞培養において、JNKの活性化は、種々の損傷によって誘導される神経細胞のアポトーシスと相関する(Xiaら(1995);Le−Niculescuら(1999))。JNK3は、栄養因子の中断後の、交感神経細胞の死に必要とされる(Brucknerら(2001))。JNK3を欠失するマウスは、カイニン酸により誘導した海馬神経毒性に対して抵抗性である(Yangら(1997))。これらの神経保護性の作用により、JNKのインヒビターは、脳の変性疾患(例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、脳卒中および虚血により誘導される脳の機能不全)のための治療として提案されている。加えて、JNKのシグナル伝達経路もまた、炎症に関与する分子のいくつかの活性および代謝を調節するので(Manning & Mercurio(1997))、JNKインヒビターは、慢性関節リウマチ、喘息、慢性移植片拒絶病、炎症性大腸疾患および多発性硬化症のような免疫疾患のための処置として提案された。他の研究はさらに、JNKインヒビターが、肥満、2型糖尿病(Hirosumiら(2002))および癌(Adjei(2001))のための潜在的な治療因子として有用であり得ることを示す。
【0010】
JNKインヒビターが、上に列挙された多数の薬理学的作用を有してもなお、緑内障を処置するのに有用であるということは、明白ではない。その理由は、以下のとおりである。(1)前記の疾患のいずれもが、緑内障または前述の眼科疾患に関連することが示されていない。(2)脳における変性疾患に有用な治療因子は、常にRGCの緑内障性のアポトーシス死、または、他の眼科疾患に対して保護するわけではないので、脳における薬物の有用性は、眼におけるその有用性を予測しない。(3)炎症、免疫異常、糖尿病、肥満または癌は、緑内障または前述の眼科疾患の病因学として広くは受け入れられていない。
【0011】
予想外なことに、本発明者らは、非ペプチド性のJNKインヒビターであるSP−600125が、培養中のラットの網膜神経細胞、すなわちRGCの、グルタミン酸により誘導したか、または、栄養因子の中断により誘導した死に対して保護性であったことを発見した。本発明者らはまた、この化合物が、ラットにおける虚血/再灌流により誘導した眼神経障害に対しても保護性であったことを見出した。栄養因子の欠乏、虚血およびグルタミン酸の毒性は、緑内障および種々の眼科疾患の潜在的な機構として提唱されているので、これらのデータは、非ペプチド性のJNKインヒビターが、緑内障および他の眼科疾患(例えば、虚血性視神経障害、黄斑変性、色素性網膜症、網膜剥離、網膜の裂傷または円孔、および他の虚血性の網膜障害または神経障害)の処置または予防のための治療因子として有用であることを示す。
【0012】
本明細書中で使用される場合、「JNKのインヒビター」は、JNKの活性をコントロール値の50%以下に低下させ得る化合物をいう。JNK活性に対する化合物の潜在的な阻害作用は、当業者によって容易に評価され得る。多くのJNK活性アッセイキットが市販されている(例えば、Stratageneカタログ番号205140、Upstateカタログ番号17−166など)。
【0013】
本発明の方法および組成物において有用であると予測されるJNKインヒビターの例としては、SP600125、および、特許出願WO2O0035906、WO200035909、WO200035921、WO200064872、WO200112609、WO20O112621、WO200123378、WO200123379、WO200123382、WO200147920、WO200191749、WO2002046170、WO2002062792、WO2002081475、WO2002083648、WO2003024967(これらの全ては、本明細書中に参考として援用される)に開示される薬理学的に活性な化合物が挙げられるがこれらに限定されない。
【0014】
上記方法は、緑内障および/または他の眼科疾患(例えば、急性虚血性視神経障害、黄斑変性、色素性網膜症、網膜剥離、網膜の裂傷または円孔、および他の虚血性の網膜障害または眼神経障害)の処置のために、ヒト患者に、1種以上のJNKインヒビターを投与する工程を包含する。
【0015】
本発明のJNKインヒビターは、当業者に公知の処方技術に従って、種々のタイプの薬学的組成物中に含まれ得る。一般に、JNKインヒビターは、局所的な眼科投与もしくは眼内投与のための溶液または懸濁液において、あるいは、全身投与(例えば、経口または静脈内)のための錠剤、カプセルまたは溶液として処方される。
【0016】
JNKインヒビターの経口用処方物が、投与が簡便であることに起因して好まれる。経口用処方物は、液体または固体の形態であり得る。一般に、経口用処方物は、活性なJNKインヒビターと不活性な賦形剤とを含む。一般に、固体の錠剤またはカプセルの投薬形態は、充填剤、結合剤、時間放出性コーティングなどのような種々の賦形剤を含有する。液体の投薬形態は、キャリア、緩衝液、等張化剤、可溶化剤などを含有する。
【0017】
一般に、上記の目的のための利用される用量は変動するが、網膜の神経障害を阻害または改善するために有効な量である。本明細書中で使用される場合、用語「薬学的に有効な量」とは、網膜の神経障害を阻害または改善する量をいう。JNKインヒビターは、通常、約0.01重量%〜約10.0重量%の量で、これらの処方物中に含まれる。好ましい濃度は、約0.1重量%〜約5.0重慮%の範囲である。局所投与については、これらの処方物は、熟練した医師の慣用的な判断に応じて、1日に1〜6回、疾患部位に送達される。例えば、処置に有用な錠剤または液体の形態の、全身投与は、約10〜1000mgのJNKインヒビターを含み、そして、熟練した医師の判断に応じて、1日あたり1〜4回行なわれ得る。
【0018】
本明細書中で使用される場合、用語「薬学的に受容可能なキャリア」とは、安全で、かつ、本発明のJNKインヒビター少なくとも1種の有効量の所望の投与経路に適切な送達を提供する、あらゆる処方物をいう。
【0019】
以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を示すために含まれる。以下の実施例に開示される技術は、本発明の実施においてうまく機能する、本発明者によって発見された技術を代表するものであり、従って、その実施のための好ましい様式を構成するものと考えられ得ることが、当業者により理解されるべきである。しかし、当業者は、本開示を考慮して、開示され、そして、なお同じかまたは類似する結果を得る特定の実施形態において、多くの変更が、本発明の精神および範囲にから逸脱することなくなされ得ることを理解するべきである。
【実施例】
【0020】
(実施例1)
以下の実施例は、網膜細胞への細胞毒性の損傷に対するJNKインヒビターの保護作用を示す。
【0021】
(ラットの網膜神経節細胞生存アッセイ)
成体のSprague−Dawleyラットを、CO窒息によって安楽死させた。これらのラットの眼を摘出し、そして、ダルベッコの改変イーグル培地:栄養混合物F12(1:1DMEM/F12)に入れた。この網膜を、DMEM/F12中にパパイン(34単位/mL)、DL−システイン(3.3mM)およびウシ血清アルブミン(0.4mg/ml)を含有するパパイン溶液中で、37℃にて25分間インキュベートした。次いで、網膜片を、細胞が分散するまで、トリチュレートした。細胞懸濁物(1.5ml;約4.5×10細胞を含む)を、ポリ−D−リジンでコーティングしたガラス底の培養皿の各々に入れた。これらの細胞を、Barresら(1988)によりこれまでに記載された培養培地中で、37℃にて95%空気/5% COで3日間培養した。
【0022】
細胞生存に対するグルタミン酸の毒性を評価する実験において、細胞を、100μMのグルタミン酸と共に3日間培養した。細胞生存に対する神経栄養因子の中断の有害な作用を評価する実験において、塩基性線維芽細胞増殖因子、脳に由来する栄養因子、および、毛様体に由来する神経栄養因子を、培地から除去し、そして、細胞を3日間培養した。JNKインヒビターであるSP600125の潜在的な保護作用を評価する実験において、細胞を、グルタミン酸の存在下、または、示される栄養因子の非存在下で、化合物と共に3日間培養した。3日の倍よ期間の終わりに、細胞を、Thy−1(RGCについての細胞表面マーカー)について免疫染色し、そして、蛍光顕微鏡下で観察した。Thy−1陽性の細胞を計数し、そして平均を取った。結果を図1に示す。
【0023】
図1は、RGCの生存が、示される神経栄養因子の存在に依存し、その結果、培養培地からの神経栄養因子の除去(TF中断)は、コントロール群の約50%までのRGCの死を引き起こしたことを示す。SP600125との細胞のインキュベーションは、このような損傷に対して細胞を有意かつ完全に保護した。図1はまた、グルタミン酸がRGCに対して毒性であったことも示す。なぜならば、100μMのグルタミン酸の培養培地への添加は、細胞生存を約50%減少させた。この場合もまた、SP600125との細胞のインキュベーションはまた、この細胞毒性に対して細胞を有意かつ完全に保護した。
【0024】
(実施例2)
以下の実施例は、ラットにおける、虚血により誘導した眼神経障害に対する、JNKインヒビターの保護作用を示す。
【0025】
(ラットにおける、虚血/再灌流により誘導した眼神経障害)
成体のWistarラットを安楽死させ、そして、各動物の一方の眼の前房を摘出した。カニューレを、持ち上げた生理食塩水のレザバに接続した。このレザバの高さを、動物の収縮期圧よりも高い眼圧を生じるように調整し、そして、網膜の血流を停止することによって、網膜の虚血を生じた。虚血の60分後、カメラ内の(intracameral)カニューレを除去し、網膜を再灌流させた。2週間後に、ラットを安楽死させ、その視神経を単離し、0.1M カコジル酸緩衝化溶液中の2%パラホルムアルデヒド、2.5%グルタルアルデヒドにおいて固定し、薄切し、そして、HollanderおよびVaaland(1968)により記載されるようにして調製したイソプロパノール:メタノール(1:1)中の1% p−フェニレンジアミンにおいて染色した。視神経切片の各々における視神経の損傷を、Pangら(1999)によってこれまでに報告されたOptic Nerve Damage Scoreによってランク付けした。このランク付けシステムにおいて、1のスコアは、損傷がないことを表し、そして、5のスコアは、完全な損傷を表した。
【0026】
SP600125の潜在的な保護作用を試験するために、選択した動物を、SP600125の腹腔内注射(30mg/kg)で、虚血を誘導する2日前から始まる16日間にわたり毎日処理した。結果を図2に示す。
【0027】
図2は、視神経の損傷スコアにおける劇的な増加により示されるように、虚血/再灌流が、視神経に対して有意な損傷を引き起こしたことを示す。図2はまた、視神経の損傷スコアにおける有意な減少により示されるように、SP600125の全身性の投与が、網膜に対するこの虚血性の損傷に対して保護し得ることを示す。
【0028】
(実施例3)
JNKインヒビターであるSP600125を、培養した成体ラットの網膜神経節細胞(RGC)において試験した。グルタミン酸により誘導した細胞毒性、および栄養因子の中断により誘導した細胞毒性の両方に対して保護することが示された。
【0029】
(方法)
(A.RGCの培養)
成体のSprague−DawleyラットをCO窒息によって安楽死させた。これらのラットの眼を摘出し、そして、網膜を単離した。網膜細胞を、パパイン溶液中で、37℃にて25分間インキュベートし、次いで、5mLのRGC培養培地(種々の栄養補充物+1% 胎児ウシ血清を含むNeurobasal培地)で3回洗浄した。網膜細胞を、トリチュレーションによって分散させた。細胞懸濁物を、ポリ−D−リジンおよびラミニンでコーティングした8ウェルの区画化された培養スライド(chambered culture slide)上に入れた。これらの細胞を、次いで、37℃にて95%空気/5% COで培養した。
【0030】
(B.細胞毒性の損傷)
グルタミン酸により誘導した毒性の研究のために、細胞を、ビヒクルまたは示された化合物を用いて30分間前処理し、その後、100μMのグルタミン酸で3日間処理した。
【0031】
栄養因子の中断の研究のために、3つの栄養因子(塩基性線維芽細胞増殖因子、脳に由来する神経栄養因子および毛様体神経栄養因子)を、培養培地から除去した。細胞を、この培地中で、示された化合物と共に3日間培養した。
【0032】
(C.細胞生存の定量)
インキュベーション期間の終わりに、細胞を固定し、免疫細胞化学によりThy−1(RGCマーカー)について標識した。細胞の生存を、各ウェルにおけるThy−1陽性の健康な細胞を手動で計数することによって定量した。
【0033】
(結果)
(A.ラットRGCにおける、グルタミン酸により誘導した毒性に対する、SP600125の作用)
グルタミン酸が、ラットのRGCに対して毒性であり;50〜70%の細胞のみが、100μMのグルタミン酸での3日間の処理の後に生存したことが、以前に示されている。これらの細胞におけるグルタミン酸により誘導した毒性は、MK801を用いた前処理によって防止され得る。SP600125は、用量依存性の様式で、この損傷に対して保護性であった(図3)。
【0034】
(B.RGCにおける、栄養因子の中断により誘導した毒性に対するSP600125の作用)
これまでに、3つの栄養因子を3日間除くことにより、約40〜50%の細胞の死が引き起こされることが示された。SP600125は、用量依存性の様式で、この損傷に対して保護性であった(図4)。
【0035】
(実施例4)
緑内障および他の眼科疾患を処置するために有用な局所用組成物:
【0036】
【表1】

上記の処方物は、まず、精製水の一部をビーカーに入れ、そして、90℃まで加熱することによって調製される。次いで、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)をこの加熱した水に加え、そして、全てのHPMCが分散するするまで、強くボルテックスで撹拌することによって混合する。HPMCを水和するために、得られた混合物を、次いで、混合しながら、冷却させる。この得られた溶液を、次いで、液体入口と疎水性の滅菌通気孔フィルタとを有する容器内でオートクレーブすることによって滅菌する。
【0037】
次いで、塩化ナトリウムおよびエデト酸二ナトリウムを、この精製水の第二の部分に加えて、溶解させる。次いで、塩化ベンサルコニウムをこの溶液に加え、そして、この溶液のpHを、0.1M NaOH/HClを用いて7.4に調整する。次いで、この溶液を、濾過によって滅菌する。
【0038】
SP600125を、乾熱またはエチレンオキシドのいずれかによって滅菌する。エチレンオキシド滅菌を選択した場合、50℃において少なくとも72時間の曝気が必要となる。滅菌した化合物を無菌的に秤量し、そして、加圧したボールミル容器内に入れる。次いで、滅菌したガラスボールをこの容器に加え、そして、この容器の内容物を、225rpmにおいて、16時間、または、全ての粒子が約5ミクロンの範囲内に入るまで、無菌的に製粉する。
【0039】
無菌条件下で、これより前の工程によって形成された、微粉化乾燥懸濁物または溶液を、次いで、混合しながら、HPMC溶液に注ぐ。ボールミル容器およびその中に収容されるボールを、次いで、塩化ナトリウム、エデト酸二ナトリウムおよび塩化ベンザルコニウムを含有する溶液の一部でリンスする。このリンスしたものを、次いで、HPMC溶液に無菌的に加える。次いで、溶液の最終的な容量を精製水で調節し、そして、必要に応じて、溶液のpHをNaOH/HClを用いてpH7.4に調整する。
【0040】
(実施例5)
局所投与のための好ましい処方物:
【0041】
【表2】

(実施例6)
経口投与のための処方物:
錠剤:
1〜1000mgのJNKインヒビターは、デンプン、ラクトースおよびステアリン酸マグネシウムのような不活性成分と共に、錠剤形成の分野の当業者に公知の手順に従って処方され得る。
【0042】
本明細書中に開示され、そして、特許請求されるあらゆる組成物および/または方法は、本開示を参照して、過度の実験を行なうことなく、作製および実行され得る。本発明の組成物および方法は、好ましい実施形態の点から記載されてきたが、本明細書中に記載される組成物および/または方法、ならびに、方法の工程、または、方法の工程の順序における変更は、本発明の概念、精神および範囲から逸脱することなく適用され得ることは、当業者に明らかである。より具体的には、化学的かつ構造的に関連する特定の因子が、本明細書中に記載される因子と置き換えられ、同様の結果を達成し得ることが明らかである。当業者に明らかであるあらゆるこのような置き換えおよび修正は、添付の特許請求の範囲により規定される本発明の精神、範囲および概念の範囲内であると判断される。
【0043】
参考文献
以下の参考文献は、本明細書中に示される手順または詳細に対して補足的に、例示的な手順または他の詳細を提供する程度に、本明細書中に具体的に参考として援用される。
特許文献および公開特許出願
【0044】
【表3】

書籍
他の刊行物
【0045】
【表4】

【0046】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0047】
添付の図面は、本明細書の一部を構成し、そして、本発明の特定の局面をさらに示すために含まれる。本発明は、本明細書中に提示される特定の実施形態の詳細な説明と組み合せて、これらの図面を参照することにより、より良く理解され得る。
【図1】栄養因子ありなし、グルタミン酸(100μM)ありなしの、ラットRGC生存に対するSP600125の作用。細胞を、それぞれの条件で3日間培養した。生存を、全てのThy−1陽性の健康な細胞を計数することによって定量した。
【図2】虚血/再灌流により誘導した眼神経障害に対するSP600125の作用。1の視神経損傷スコアは、損傷がないことを表し、そして、5のスコアは、完全な損傷を表した。:Studentのt検定によって、ビヒクル処置した群に対してp<0.05。
【図3】培養した成体ラットRGCの生存に対するSP600125の作用。細胞を、SP600125のありなしで、グルタミン酸(100μM)で3日間処理した。
【図4】培養した成体ラットRGCの生存に対するSP600125の作用。選択した栄養因子(bFGF、BDNF、CNTF)を、コントロールを除く全てのウェルから取り除いた。細胞を、示される濃度のSP600125で3日間処理した(TF=栄養因子)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
緑内障、ならびに虚血性視神経障害、黄斑変性、色素性網膜症、網膜剥離、網膜の裂傷もしくは円孔、および他の虚血性の網膜障害または視神経障害のような他の眼科疾患の処置のための組成物であって、1種以上のJun N末端キナーゼ(JNK)のインヒビターの有効量と、薬学的に受容可能なビヒクルとを含有する、組成物。
【請求項2】
前記JNKインヒビターがSP600125である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物が経口用処方物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物が、局所的な眼科外科手術用洗浄液または眼内用処方物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物が経口用処方物である、請求項2に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物が、局所的な眼科外科手術用洗浄液または眼内用処方物である、請求項2に記載の組成物。
【請求項7】
緑内障の処置のための方法であって、該方法は、1種以上のJNKインヒビターの有効量と、薬学的に受容可能なビヒクルとを含有する組成物を、ヒト患者に投与する工程を包含する、方法。
【請求項8】
前記JNKインヒビターがSP600125である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記組成物が経口用処方物である、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記組成物が、局所的な眼科外科手術用洗浄溶液または眼内用処方物である、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記組成物が経口用処方物である、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記組成物が、局所的な眼科外科手術用洗浄溶液または眼内用処方物である、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
急性虚血性視神経障害、黄斑変性、色素性網膜症、網膜剥離、網膜の裂傷または円孔、および、他の虚血性の網膜障害または視神経障害からなる群より選択される眼科疾患を処置するための方法であって、該方法は、1種以上のJNKインヒビターの有効量と薬学的に受容可能なビヒクルとを含有する組成物をヒト患者に投与する工程を包含する、方法。
【請求項14】
前記JNKインヒビターがSP600125である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記組成物が経口用処方物である、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記組成物が、局所的な眼科外科手術用洗浄溶液または眼内用処方物である、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記組成物が経口用処方物である、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記組成物が、局所的な眼科外科手術用洗浄溶液または眼内用処方物である、請求項14に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−518922(P2008−518922A)
【公表日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−539134(P2007−539134)
【出願日】平成17年10月27日(2005.10.27)
【国際出願番号】PCT/US2005/038825
【国際公開番号】WO2006/050045
【国際公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【出願人】(399054697)アルコン,インコーポレイテッド (102)
【Fターム(参考)】