線材の止水構造を形成するための治具および線材の止水方法
【課題】狙った位置に止水材を留めることができ、よって十分な止水性能を発揮できると共に、様々な太さの線材の束にも容易に対処できる線材の止水構造を形成するための治具および線材の止水方法を提供すること。
【解決手段】治具は、線材の束の外周を覆うカバー材の外周面に沿って略円環状の磁石を形成するように配置される少なくとも2つの円弧形磁石片2Aと、前記少なくとも2つの円弧形磁石片2Aにそれぞれ弦部4aを形成するように取り付けられた伸縮性を有するバンド4とを備え、前記液状の止水材が浸透している前記線材の束の部分の外周の前記カバー材の外周面を前記バンド4で挟み込んで保持しつつ前記磁石で前記液状の止水材に対して前記カバー材の外側から磁界を掛け、これにより前記液状の止水材を前記カバー材内の所定箇所に集める治具とする。
【解決手段】治具は、線材の束の外周を覆うカバー材の外周面に沿って略円環状の磁石を形成するように配置される少なくとも2つの円弧形磁石片2Aと、前記少なくとも2つの円弧形磁石片2Aにそれぞれ弦部4aを形成するように取り付けられた伸縮性を有するバンド4とを備え、前記液状の止水材が浸透している前記線材の束の部分の外周の前記カバー材の外周面を前記バンド4で挟み込んで保持しつつ前記磁石で前記液状の止水材に対して前記カバー材の外側から磁界を掛け、これにより前記液状の止水材を前記カバー材内の所定箇所に集める治具とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤハーネスを構成する電線間の隙間や被覆電線の芯線間の隙間などを止水する線材の止水構造を形成するための治具および線材の止水方法に関する(尚、本発明の説明における『止水』は、水の浸入を阻止することに限らず、水、油、アルコール、等を含む液体全般に有効に作用することを意味するが、ここでは一般的に名称として広く用いられている『止水』を用いて説明する)。
【背景技術】
【0002】
ワイヤハーネスの電線間(即ち、ワイヤハーネスを形成する線材間)の隙間を止水材で封止する止水方法として、図11に示すように、ワイヤハーネスを構成する複数の電線W(即ち、電線Wの束)に止水材200を塗布した後、塗布した箇所にシート(即ち、カバー材)10を巻き付け、次にシート10を図示略のクリップで一時的に固定して、止水材200が硬化した後にシート10からクリップを外して、当該シート10の部分を図示略のグロメットの首部で覆い、グロメットをワイヤハーネスに固定するようにしたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。この場合、作業上の止水材200の充填幅B(シート10で覆う長さ)は、止水材200の必要止水幅Aよりも大きくしてある。
【0003】
この方法では、止水材200を塗布した後にシート10でくるむだけなので、止水材200が毛細管現象により電線W間の隙間を伝って必要止水幅Aの外側へ流失してしまい、思った通りの止水性能が確保できないおそれがある。また、シート10の外側にはみ出した止水材200のはみ出し部分201が周囲を汚してしまうおそれもある。このように、はみ出し部分201が大きくなるように止水材200が電線W間の隙間および電線Wとシート10の内面との隙間に浸透後、硬化したワイヤハーネスは、その長さ方向に長い距離にわたって硬い部分を有するものとなってしまい、よってワイヤハーネスに必要な可撓性が低いものとなってしまう。
【0004】
次に、被覆電線の芯線間(即ち、被覆電線を形成する線材間)の隙間を止水材で封止する止水方法の一例を図12を参照しながら説明する。図12に示されるように、被覆電線51は、その複数の芯線(導体)53の周囲に絶縁被覆(即ち、カバー材)54を有する。この被覆電線51には、その端末部に接続端子52が圧着されている(即ち、加締められている)。
【0005】
被覆電線51への接続端子52の圧着は、絶縁被覆54が除去されて芯線53が露出されている被覆電線51の端末部を接続端子52のバレル55間にセットし、そしてバレル55を加締めて閉じ、これにより芯線53および絶縁被覆54を接続端子52に圧着固定する。
【0006】
このような接続端子52付きの被覆電線51の芯線53間を止水する止水方法では、被覆電線51の端末部に対し、上から(即ち、図12に向かって手前側から)鎖線楕円60の中心を目掛けて、流動性のある止水材を滴下供給し、止水材を絶縁被覆54の内側に浸透させ、これにより芯線53間の隙間および芯線53と絶縁被覆54の内面との隙間が止水材により埋められることを狙っている。尚、止水材としては、東亞合成株式会社製のアロンアルファ(登録商標)等の接着剤が用いられる。
【0007】
しかしながら、この方法による止水処理では、芯線53間の隙間および芯線53と絶縁被覆54の内面との隙間に毛細管現象のために均一に止水材が流れ込まない。それ故、鎖線楕円60の中心を目掛けて規定量の止水材を滴下供給しても、芯線53間あるいは芯線53と絶縁被覆54との間に隙間ができて(即ち、隙間が残って)所望の止水効果が得られない可能性が高い。
【0008】
そのため、大量の止水材を鎖線楕円60の中心を目掛けて滴下供給すると、隙間を埋めるという点では止水材が有効に作用する反面、止水材が必要止水幅以上に浸透してしまうという欠点が生じてしまう。つまり、止水材が芯線53間の隙間および芯線53と絶縁被覆54との隙間に必要止水幅以上浸透後、硬化した被覆電線51は、その長さ方向に長い距離にわたって硬い部分を有するものとなってしまい、よって被覆電線51(即ち、ワイヤハーネス)に必要な可撓性が低いものとなってしまう。
【0009】
このように、線材間の隙間に浸透させた止水材が何処まで浸透しているかを確認するのが困難な止水構造においては、上述した止水方法では止水処理の信頼性にばらつきが生じてしまう。
【0010】
ところで、一般に、ワイヤハーネスや被覆電線は、その仕様等によって線材の太さや数がまちまちである。すなわち、図11のように電線Wの束をシート10で覆ったものの太さ(即ち、外径)や、図12に示される被覆電線51の太さ(即ち、外径)も多様である。このため、それらのものに止水処理を行う際には、太さに合った内幅寸法を有する治具等を用意せねばならない。従って、太さの異なるものを多数、コンベア等で混流して生産する場合には、それらに合った治具も予め多数用意しておかなければならない。このように治具が多種多様あるということは、生産現場に混乱を招き、製造工程を煩雑化させ、また、コストがかかるという問題がある。
【0011】
【特許文献1】特開2005−73389号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、狙った位置に止水材を留めることができ、よって十分な止水性能を発揮できると共に、様々な太さの線材の束にも容易に対処できる線材の止水構造を形成するための治具および線材の止水方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前述した目的を達成するために、本発明に係る線材の止水構造を形成するための治具は、下記(1)〜(5)を特徴としている。
(1) 磁性流体である液状の止水材を束になった複数の線材間の隙間に浸透させた後、該止水材を硬化させてなる線材の止水構造を形成するための治具であって、
前記線材の束の外周を覆うカバー材の外周面に沿って略円環状の磁石を形成するように配置される少なくとも2つの円弧形磁石片と、
前記少なくとも2つの円弧形磁石片にそれぞれ取り付けられた伸縮性を有するバンドと、
を備え、
前記バンドが前記少なくとも2つの円弧形磁石片それぞれの円周方向両端部間に架設される弦部を有しており、そして
前記液状の止水材が浸透している前記線材の束の部分の外周の前記カバー材の外周面を前記バンドの弦部で挟み込んで保持しつつ前記磁石で前記液状の止水材に対して前記カバー材の外側から磁界を掛け、これにより前記液状の止水材を前記カバー材内の所定箇所に集めること。
(2) 上記(1)の構成の治具において、
前記磁石が開閉可能なケースに装着され、そして
前記ケースが開いているときに、前記カバー材で外周を覆われた前記線材の束が前記バンドの弦部間に受け入れられ、その後、前記ケースを閉じることで前記カバー材の外周面が前記バンドの弦部により挟み込まれて保持されること。
(3) 上記(1)または(2)の構成の治具において、
前記バンドが、2つ、前記少なくとも2つの円弧形磁石片のうち少なくとも1つの円弧形磁石片に取り付けられており、当該少なくとも1つの円弧形磁石片には間隔を持って並行に前記弦部が配置されていること。
(4) 上記(1)〜(3)のいずれかの構成の治具において、
前記バンドが、前記少なくとも2つの円弧形磁石片にそれぞれ取り付けられた輪ゴムであり、それらの前記弦部により、前記カバー材の外周面を挟み込んで弾性保持すること。
(5) 上記(1)〜(4)のいずれかの構成の治具において、
前記液状の止水材は、複数の磁性超微粒子を液状の止水剤中に分散させた複合材料であって、各磁性超微粒子の表面には界面活性剤が強固に化学吸着されており、
前記磁石による磁界で前記磁性超微粒子と伴に前記液状の止水剤を前記所定箇所に集めること。
【0014】
上記(1)の構成の治具によれば、液状の止水材が浸透している線材の束の部分の外周のカバー材の外周面をバンドの弦部で挟み込んで保持しつつ磁石で前記液状の止水材に対して前記カバー材の外側から磁界を掛けるため、一種類の治具により様々な太さの線材の束に適合することができ、止水構造の設計を容易なものとすることができるとともに作業性を向上させることができ、且つ製造コストを低減させることができる。
上記(2)の構成の治具によれば、ケースを開いてカバー材で外周を覆われた線材の束をバンドの弦部間に入れ、その後ケースを閉じるだけで容易にカバー材の外周面をバンドの弦部で挟み込むことができるので、作業性を向上させることができる。
上記(3)の構成の治具によれば、並行に配置された弦部によりカバー材をより圧迫した状態で挟み込むことができ、弦部間に止水材を集めて硬化させることができる。
上記(4)の構成の治具によれば、円弧形磁石片に輪ゴムを取り付けることにより該円弧形磁石片の円周方向両端部間に弦部を形成するため、容易に治具を作製することができ、より作業性を向上させることができる。
上記(5)の構成の治具によれば、磁力を用いて狙った位置に磁性超微粒子と伴に止水剤を集めて硬化させることができるので、設計通りの止水性能を得ることができると共に、設計範囲外に止水材がはみ出して周囲を汚すのを有効に防止することができる。
【0015】
また、上述した目的を達成するために、本発明に係る線材の止水方法は、下記(6)〜(9)を特徴としている。
(6) 磁性流体である液状の止水材を束になった複数の線材間の隙間に浸透させた後、該止水材を硬化させる線材の止水方法であって、
上記(1)〜(4)のいずれかに記載した治具を用意し、
前記液状の止水材が浸透している前記線材の束の部分の外周の前記カバー材の外周面を前記治具のバンドの弦部で挟み込んで保持しつつ前記治具の磁石によって前記液状の止水材を前記カバー材内の所定箇所に集めるように磁界を掛けた状態で当該液状の止水材を硬化させること。
(7) 上記(6)の止水方法において、
前記液状の止水材は、複数の磁性超微粒子を液状の止水剤中に分散させた複合材料であって、各磁性超微粒子の表面には界面活性剤が強固に化学吸着されており、
前記磁界により前記磁性超微粒子と伴に前記液状の止水剤が前記所定箇所に集められること。
(8) 上記(6)または(7)の止水方法において、
前記複数の線材がワイヤハーネスを形成する電線であり、それら電線間の隙間に前記液状の止水材を浸透させた状態で、前記電線の束の外周に前記カバー材として被せたシートの外側から前記磁石により磁界を掛けて、前記液状の止水材を前記所定箇所に集めること。
(9) 上記(6)または(7)の止水方法において、
前記複数の線材が被覆電線を形成する芯線であり、それら芯線間の隙間および該芯線の束と前記カバー材である絶縁被覆の内面との隙間に前記液状の止水材を浸透させた状態で、前記絶縁被覆の外側から前記磁石により磁界を掛けて、前記液状の止水材を前記所定箇所に集めること。
【0016】
上記(6)の止水方法によれば、液状の止水材が浸透している線材の束の部分の外周のカバー材の外周面を上記(1)〜(4)の治具のバンドの弦部で挟み込んで保持しつつ磁石で前記液状の止水材に対して前記カバー材の外側から磁界を掛けるため、一種類の治具により様々な太さの線材の束に適合させることができ、止水構造の設計を容易なものとすることができるとともに作業性を向上させることができ、且つ製造コストを低減させることができる。
上記(7)の止水方法によれば、磁石を使用することにより、磁力を用いて狙った位置に磁性超微粒子と伴に止水剤を集めて硬化させることができるので、設計通りの止水性能を得ることができると共に、設計範囲外に止水材がはみ出して周囲を汚すのを有効に防止することができる。
上記(8)の止水方法によれば、ワイヤハーネスを構成する電線間の隙間および該電線の束とシートの内面との隙間を効果的に止水することができる。また、この止水方法によれば、ワイヤハーネスに必要な可撓性を極力低めずに前記隙間を止水することができる。また、このように止水材の磁性体を纏った電線は、フェライトが装着された場合と同様、通電された際にノイズ低減効果を奏する。
上記(9)の止水方法によれば、被覆電線を構成する芯線間の隙間および該芯線の束と絶縁被覆の内面との隙間を効果的に止水することができる。また、この止水方法によれば、被覆電線に必要な可撓性を極力低めずに前記隙間を止水することができる。また、このように止水材の磁性体を纏った芯線は、フェライトが装着された電線と同様、通電された際にノイズ低減効果を奏する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、狙った位置に止水材を留めることができるので十分な止水性能を発揮できると共に、周囲を止水材で汚すおそれもなくなる。また、一種類の治具により様々な太さの電線束に適合させることができ、止水構造の設計を容易なものとすることができるとともに作業性を向上させることができ、且つ製造コストを低減させることができる。
【0018】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための最良の形態を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明に係る線材の止水構造を形成するための治具および線材の止水方法の好適な実施形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
【0020】
<第1実施形態>
図1(a)および(b)は本発明の第1実施形態の治具を説明する図であって、図1(a)は円弧形磁石片の斜視図、そして図1(b)は図1(a)の側面図である。図2(a)および(b)は第1実施形態の治具を用いて止水処理を実施している状態を示す図であって、図2(a)は斜視図、そして図2(b)は図2(a)のIIb−IIb矢視断面図である。そして、図3は第1実施形態の止水方法の原理説明のための図(磁石の断面図、およびシート内の透視図を含む。)である。
【0021】
第1実施形態の治具は、図1(a)および(b)に示したように、円弧形磁石片2Aと伸縮性を有するバンド4と、備える。円弧形磁石片2Aは、図2(a)および(b)に示したように、電線(線材)Wの束の外側を覆うカバー材としてのシート1の外周面に沿って略円環状(リング状)の磁石2を形成するように配置される。円弧形磁石片2Aは磁性を有する材料であって、自らの周囲に磁場を形成するものであれば特に限定されず、永久磁石、電磁石、永久磁性セラミック等様々なものを用いることができる。第1実施形態において、図1(a)および(b)に示したように、円弧形磁石片2Aは半径方向に磁化(着磁)され外周側と内周側それぞれに磁極(N極とS極)を持つ弓状の永久磁石を用いている。この第1実施形態においては、バンド4として輪ゴムを用いている。輪ゴムを円弧形磁石片2Aの円弧状側面部に掛けて該円弧形磁石片2Aの円周方向両端部間に弦部4aを架設している。
【0022】
第1実施形態の治具を用いて電線の束を止水処理するには、図2(a)および(b)に示したように、まず、線材であるワイヤハーネスを構成する電線(本実施形態では銅を導体とした被覆電線)Wの束の外周を覆うシート1と、液状の止水材3(図3等参照)と、上記した第1実施形態の治具を用意する。
【0023】
シート1としては、磁石2の磁束が通過可能で液状の止水材3が浸透しない非磁性の樹脂シート等を用いる。止水材3としては、磁性流体を用いる。つまり、止水材3は、ベース液となる液状の止水剤(即ち、接着剤等といった樹脂)の中に極めて複数の磁性超微粒子(即ち、磁性体)を均一に分散させたもの(複合材料)であって、各磁性超微粒子の表面には界面活性剤が強固に化学吸着されている。磁性超微粒子は、激しい熱運動と、表面の界面活性剤層の相互反発力のため、止水剤内で凝集することなく安定な分散状態を保つ。磁性超微粒子としては、マグネタイト等の強磁性超微粒子を用いる。
【0024】
本発明の止水構造を電線Wの束に適用する方法としては、該電線Wの束の止水すべき箇所に、上述の止水材3を塗布して、電線W間の隙間に止水材3を浸透させた状態で、止水材3を塗布した箇所に、シート1を巻き付ける。その後、バンド4が取り付けられた円弧形磁石片2Aをシート1の外側からあてがい、バンド4の弦部4aでシート1を挟み込んで弾性保持した状態でシート1の外側から止水材3に磁界を掛ける。そうすると、図3に示したように磁力線10の作用で、止水材3が止水すべき範囲にわたる電線W間の隙間および該電線Wの束とシート1の内面との隙間を埋めるように集まる。そこで、この状態を維持しながら、止水材3を硬化させる。そうすることにより、シート1内の所定箇所に止水材3が集められて硬化されたワイヤハーネスの止水構造が出来上がる。尚、この止水方法では、先ず電線Wの束に止水材3を塗布した後、該止水材3を塗布した箇所にシート1を巻き付ける手順を採っているが、その代わりに、先ず電線Wの束にシート1を巻き付けた後、電線W間の隙間および該電線Wの束とシート1の内面との隙間に止水材3を浸透するよう注入する手順を採ってもよい。止水構造を持つシート1付きの電線Wの束を本実施形態の治具から取り出すと、バンド4の弧状に弾性変形していた弦部4aが、その弾性復元力によって、図1(a)および(b)に示した略直線的に延長する状態にまで戻る。
【0025】
このように、磁石2を使用することにより狙った位置に必要な時間だけ止水材3を集めて、該止水材3を硬化させるので、設計通りの止水性能を得ることができると共に、設計範囲外に止水材3がはみ出して周囲を汚すのを有効に防止することができる。また、円弧形磁石片2Aに取り付けたバンド4の弦部4aによりカバー材1を挟み込むので、磁石2内での電線Wの束の移動が抑制され、安定的な止水処理を行うことができる。
【0026】
また、本発明の第1実施形態によれば、一種類の治具でも様々な太さの電線Wの束を止水することができる。つまり、電線Wの束の外径が磁石2の内幅寸法よりも小さい場合であっても適切な止水を行うことができる。この場合も、図4(a)および(b)に示すように、円弧形磁石片2Aに装着されたバンド4の弦部4aで電線Wの束の外周を覆うシート1の外周面を挟み込んで弾性保持する。磁石2の内周面とバンド4の弦部4aとの間には間隙が形成されるが、電線Wは弦部4aで保持されているので安定している。この状態で、上述のように電線W間の隙間に浸透している止水材に磁界を掛けると、止水材が止水すべき範囲にわたる電線W間の隙間および該電線Wの束とシート1の内面との隙間を埋めるように集まる。そこで、この状態を維持しながら、止水材を硬化させることにより、シート1内の所定箇所に止水材が集められて硬化されたワイヤハーネスの止水構造が出来上がる。このように、本発明の治具は、様々な太さの電線Wの束にも容易に対処でき、製造コストを低減することができる。
【0027】
<第2実施形態>
次に、図5(a)および(b)を参照して第2実施形態の治具を説明する。第2実施形態の治具では、上述した第1実施形態の治具がケース5に装着されている。ケース5は、ヒンジ5aで連結された開閉可能な2つの半円筒状の部材を備えるものである。このケース5の半円筒状の部材の内周面それぞれに、バンド4が取り付けられた円弧形磁石片2Aが、接着剤等の適宜な固定手段により固定されている。
【0028】
第2実施形態の治具を用いた止水方法では、まず、ワイヤハーネスを構成する電線Wの束の止水すべき箇所に上述の止水材を塗布して、電線W間の隙間に止水材を浸透させた状態で、止水材を塗布した箇所にシート1を巻き付ける。その後、図5(b)に示したように、開状態としたケース5の略中央部分に電線Wの束を位置させて、ケース5を閉じる。そしてシート1の外側から止水材に磁界を掛けると、止水材が止水すべき範囲にわたる電線W間の隙間および該電線Wの束とシート1の内面との隙間を埋めるように集まる。そこで、この状態を維持しながら、止水材を硬化させることにより、シート1内の所定箇所に止水材が集められて硬化されたワイヤハーネスの止水構造が出来上がる。このように、ケース5に装着した磁石2を用いることにより、電線Wの束への磁石2の適用がしやすくなり、また、ケース5を施錠可能にしておけば確実に電線Wを磁石2で包囲することができる。更に、ケースを構成する部材の一方を固定しておけば、他方の部材を動作させるだけで簡単にシート1を挟み込むことができるので、作業性が向上する。
【0029】
尚、ケースについては、図5(a)および(b)に示されるようなヒンジを設けず、ケースの本体を切れ目無いものにし、該本体自体を曲げることで開閉自在に構成したものでもよい。また、第2実施形態においては円筒状のケースを用いたが、本発明は円弧形磁石片を保持可能であればその形態は特に限定されず、四角形状や多角形状のケースを使用することができる。また、ケース5の内部の形状も磁石2を装着可能であれば特に限定されない。ケース5を開閉する作業スペースを考慮すると略円筒状とすることが好ましい。
【0030】
<第3実施形態>
次に、図6(a)および(b)を用いて第3実施形態の治具を説明する。第3実施形態の治具では、伸縮性を有するバンド41として、幅狭の輪ゴム2本を用いている。図6(a)に示したように、2本のバンド41は円弧形磁石片2Aに取り付けられており、該円弧形磁石片2Aには所望間隔Hを有して弦部41aが平行に配置される。尚、バンド41は、弦部41aが間隔を有して並んで配置されるように円弧形磁石片2Aに取り付けられればよいので、弦部41aの間隔が異なるように(例えばハ字状に)配置してもよい。
【0031】
第3実施形態の治具を用いた線材の止水方法でも、まず、ワイヤハーネスを構成する電線Wの束の止水すべき箇所に上述の止水材を塗布して、電線W間の隙間に止水材を浸透させた状態で、止水材を塗布した箇所にシート1を巻き付ける。その後、バンド41が取り付けられた円弧形磁石片2Aをシート1の外側からあてがい、バンド41の弦部41aでシート1を挟み込んで保持した状態でシート1の外側から止水材に磁界を掛ける。バンド41を2本並べて使用することにより、2本のバンド41により強く圧迫されたシート1内の電線Wの束の部分の間には液溜まり部Rが形成され、液状の止水材がシート1内の液溜まり部R内に移動しやすくなる。従って、第3実施形態の治具を使用することで止水材が液溜まり部Rに凝集して硬化されることにより、ワイヤハーネスはより可撓性が高くなる。尚、2つの円弧形磁石片2Aのうち一方の円弧形磁石片2Aに2本のバンド41を取り付け、他方の円弧形磁石片2Aに1本のバンド41あるいはバンド4を取り付けた形態であってもよい。この場合でも、上述の液溜まり部Rを部分的に形成することができる。
【0032】
ところで、上述した線材の止水方法において、流動性のある止水材として磁界により磁性超微粒子と伴に液状の止水剤が移動する特性(換言すれば、磁界により液状の止水材全体があたかも強磁性を持っているかのように移動する特性)を持つものを用いたが、これに限らず、本発明で止水材として用いる磁性流体は、液状の止水剤(即ち、接着剤等といった樹脂)に単に微細な鉄粉を混ぜた安価なものであってもよい。このように磁性流体中の磁性体が鉄粉のように錆びやすい性質を持っている場合、図7に示すように電線Wの両側から入ってくる外気や水分Sの影響で磁性体3aが錆びることが通常は懸念されるが、磁石2の作用で磁性体3aの分布を止水材2の中央に多く集めることにより、その両側の止水材3の止水剤が、外気や水分Sを遮断し、防錆効果を奏する。
【0033】
上述した線材の止水方法では、本発明を、ワイヤハーネスを構成する電線(被覆電線)W間の隙間および該電線Wの束とシート1の内面との隙間を止水材で封じる場合に適用した例について説明したが、本発明は、被覆電線を構成する芯線間の隙間および該芯線の束とその周りの絶縁被覆の内面との隙間を止水材で封じる場合にも適用することができる。
【0034】
これは例えば、上述した第1実施形態の治具を使用して1本の被覆電線に対して止水方法を実施している様子を示す図8(a)および(b)から明らかなように、被覆電線Wの端末部にある銅製の芯線Wa(即ち、線材)の露出部分に止水材供給装置20から止水材3を滴下供給して絶縁被覆Wb(即ち、カバー材)の内側へ浸透させた後、磁石2で絶縁被覆Wbの外側から掛けた磁界によって止水材3を絶縁被覆Wb内の所定箇所まで引き込んで芯線間Waの隙間および該芯線Waの束と絶縁被覆Wbの内面との隙間に浸透させることである。
【0035】
また、図11の従来例と同様に接続端子52が端末部に取り付けられた被覆電線Wの場合でも、図9に示すように、第1実施形態の治具と同構造ながら、より小型の治具を用いて図8(a)および(b)の例と同様の止水方法を適用することができる。つまり、被覆電線Wの端末部にある芯線Waの露出部分に止水材供給装置20から止水材3を滴下供給して絶縁被覆Wbの内側へ浸透させた後、絶縁被覆Wbの外側から磁石2により磁界を掛けて止水材3を絶縁被覆Wb内の所定箇所まで引き込んで芯線間Waの隙間および該芯線Waの束と絶縁被覆Wbの内面との隙間に浸透させる。
【0036】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0037】
例えば、磁石2については上述した各実施形態のように、少なくとも2つの円弧形磁石片2Aから構成することが好ましい。ただし、円弧形磁石片2Aの数は、2個に限定されない。2個よりも多い数の円弧形磁石片2Aを用いる場合には、円弧形磁石片2Aを磁極(N極とS極)が交互になるように配置するために偶数個で構成するのが良い。これは、偶数個だと円弧形磁石片2A同士が引き付けあうので、線材W;Waの束の外周を覆うシート(カバー材)1;Wbの外周面に沿って円弧形磁石片2Aを配置しやすいからである。尚、内周部でN極とS極が対向する位置にあるリング状の磁石2は、線材W;Waを通過する磁束が多くなるので、好ましい。上述した各実施形態のように円弧形磁石片2Aの数を2個とする利点としては、円弧形磁石片2Aに伸縮性のバンド4を取り付けた際の、弦部4aの伸縮可能な(つまり弾性変形可能な)範囲を大きくできることである。即ち、弦部4aと該弦部4aと対向する円弧形磁石片2Aの円弧状側面部との間隔を大きくして挟み込む線材W;Wbの束の太さの変化に適切に対応するという点から、2つの円弧形磁石片2Aで磁石2を構成することがより好ましい。ただし、円弧形磁石片2Aが奇数個であっても本発明が実施可能であることはいうまでもない。つまり、図10(a)および(b)に示すように、3個の円弧形磁石片2A;2B;2Cにそれぞれ取り付けられたバンド4;42;43の弦部4a;42a;43aでシート1;Wbを挟み込んで保持できるものである。
【0038】
また、バンド4;41については、上述した各実施形態では輪ゴムを用いたが、伸縮性を有するものであって、線材W;Waの束の外周を覆うカバー材1;Wbの外周面を保持できるものであれば材料は特に限定されず、ゴム製であっても、天然繊維製であっても、化学繊維製であっても、合成樹脂製であっても、それらの組み合わせであってもよい。また、バンド4;41の形状についても輪状(環状)に限定されず、長手方向に両端部を持つ帯状のものでもよい。帯状のバンドを用いる場合は、この帯状のバンドの長手方向両端部を円弧形磁石片2Aの円周方向両端部に金具や接着剤等の適宜な固定手段を用いて伸長状態で固定し、弦部4a;41aを形成すればよい。尚、固定手段として金具を用いる場合は、磁束密度を低下させないよう磁性金属製の金具を使用することが好ましい。
【0039】
ここで、本発明の理解を深めるため、本発明の線材の止水構造を形成するための治具について簡潔に纏めて述べる。
本発明の治具は、磁性流体である液状の止水材(3)を束になった複数の線材(W;Wa)間の隙間に浸透させた後、該止水材(3)を硬化させてなる線材の止水構造を形成するための治具であって、前記線材(W;Wa)の束の外周を覆うカバー材(1;Wb)の外周面に沿って略円環状の磁石(2)を形成するように配置される少なくとも2つの円弧形磁石片(2A)と、前記少なくとも2つの円弧形磁石片(2A)にそれぞれ取り付けられた伸縮性を有するバンド(4;41)とを備え、当該バンド(4;41)が前記少なくとも2つの円弧形磁石片(2A)それぞれの円周方向両端部間に架設される弦部(4a;41a)を有しており、そして前記液状の止水材(3)が浸透している前記線材(W;Wa)の束の部分の外周の前記カバー材(1;Wb)の外周面を前記バンド(4;41)の弦部(4a;41a)で挟み込んで保持しつつ前記磁石(2)で前記液状の止水材(3)に対して前記カバー材(1;Wb)の外側から磁界を掛け、これにより前記液状の止水材(3)を前記カバー材(1;Wb)内の所定箇所に集める。これにより、液状の止水材(3)が浸透している線材(W;Wa)の束の部分の外周のカバー材(1;Wb)の外周面をバンド(4;41)の弦部(4a;41a)で挟み込んで保持しつつ磁石(2)で前記液状の止水材(3)に対して前記カバー材(1;Wb)の外側から磁界を掛けるため、一種類の治具により様々な太さの線材の束に適合することができ、止水構造の設計を容易なものとすることができるとともに作業性を向上させることができ、且つ製造コストを低減させることができる。
本発明の治具は前記磁石(2)が開閉可能なケース(5)に装着されており、前記ケース(5)が開いているときに、前記カバー材(1;Wb)で外周を覆われた前記線材(W;Wa)の束が前記バンド(4;41)の弦部(4a;41a)間に受け入れられ、その後、前記ケース(5)を閉じることで前記カバー材(1;Wb)の外周面が前記バンド(4;41)の弦部(4a;41a)により挟み込まれて保持されるようにしてもよい。この治具では、ケース(5)を開いてカバー材(1;Wb)で外周を覆われた線材(W;Wa)の束をバンド(4;41)の弦部(4a;41a)間に入れ、その後ケース(5)を閉じるだけで容易にカバー材(1;Wb)の外周面をバンド(4;41)の弦部(4a;41a)で挟み込むことができるので、作業性を向上させることができる。
本発明の治具は、2つのバンド(41)を前記少なくとも2つの円弧形磁石片(2A)のうち少なくとも1つの円弧形磁石片(2A)に取り付け、当該少なくとも1つの円弧形磁石片(2A)に、間隔を持って並行に配置される前記弦部(41a)を設けた形態であってもよい。この治具では、並行に配置された弦部(41a)によりカバー材(1;Wb)をより圧迫した状態で挟み込むことができ、弦部(41a)間に止水材(3)を集めて硬化させることができる。
また、バンド(4;41)が、前記少なくとも2つの円弧形磁石片(2A)にそれぞれ取り付けられた輪ゴムであり、それらの前記少なくとも2つの円弧形磁石片(2A)の両端部間に架設される前記弦部(4a;41a)で、前記カバー材(1;Wb)の外周面を挟み込んで弾性保持するようにしてもよい。このように構成した治具では、容易に治具を作製することができ、より作業性を向上させることができる。
【0040】
また、ここで、本発明の理解を深めるため、本発明の線材の止水方法について簡潔に纏めて述べる。
本発明の線材の止水方法は、磁性流体である液状の止水材(3)を束になった複数の線材(W;Wa)間の隙間に浸透させた後、該止水材(3)を硬化させる線材の止水方法であって、上記した治具を用意し、前記液状の止水材(3)が浸透している前記線材(W;Wa)の束の部分の外周の前記カバー材(1;Wb)の外周面を前記治具のバンド(4;41)の弦部(4a;41a)で挟み込んで保持しつつ前記治具の磁石(2)によって前記液状の止水材(3)を前記カバー材内の所定箇所に集めるように磁界を掛けた状態で当該液状の止水材(3)を硬化させる。この止水方法では、磁石(2)を使用することにより、狙った位置に止水材(3)を必要な時間だけ集めて硬化させることができるので、設計通りの止水性能を得ることができると共に、設計範囲外に止水材(3)がはみ出して周囲を汚すのを有効に防止することができる。また、一種類の治具により様々な太さの線材の束に適合することができ、止水構造の設計を容易なものとすることができるとともに、製造コストを低減させることができる。
止水材(3)は、複数の磁性超微粒子を液状の止水剤中に分散させた複合材料であって、各磁性超微粒子の表面には界面活性剤が強固に化学吸着されており、磁界により磁性超微粒子と伴に液状の止水剤が前記所定箇所に集められる。この止水構造では、磁力を用いて狙った位置に磁性超微粒子と伴に集められた止水剤を硬化させたので、設計通りの止水性能が得られると共に、設計範囲外に止水材(3)がはみ出して周囲を汚すのを防止できる。
前記複数の線材はワイヤハーネスを形成する電線(W)であり、それら電線(W)間の隙間および該電線(W)の束とカバー材(1)の内面との隙間に止水材(3)が浸透し且つ硬化している。この止水構造では、ワイヤハーネスを構成する電線(W)間の隙間および該電線(W)の束とカバー材(1)の内面との隙間が効果的に止水される。また、この止水構造では、ワイヤハーネスに必要な可撓性を極力低めずに前記隙間が止水される。また、この止水構造のように止水材(3)の磁性体を纏った電線(W)は、フェライトが装着された場合と同様、通電された際にノイズ低減効果を奏する。
前記複数の線材は被覆電線(W)を形成する芯線(Wa)であり、それら芯線(Wa)間の隙間および該芯線(Wa)の束とカバー材である絶縁被覆(Wb)の内面との隙間に止水材(3)が浸透し且つ硬化している。この止水構造では、被覆電線(W)を構成する芯線(Wa)間の隙間および該芯線(Wa)の束と絶縁被覆(Wb)の内面との隙間が効果的に止水される。また、この止水構造では、被覆電線(W)に必要な可撓性を極力低めずに前記隙間が止水される。また、この止水構造のように止水材(3)の磁性体を纏った芯線(Wa)は、フェライトが装着された電線と同様、通電された際にノイズ低減効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の第1実施形態の治具を説明する図であって、(a)は円弧形磁石片の斜視図、(b)は(a)の側面図である。
【図2】第1実施形態の治具を用いて止水処理を実施している状態を示す図であって、(a)は斜視図、(b)は(a)のIIb−IIb矢視断面図である。
【図3】第1実施形態の止水方法の原理説明のための図である。
【図4】細い電線の束に対して第1実施形態の治具を用いて止水処理を実施している状態を示す図であって、(a)は斜視図、(b)は(a)のIVb−IVb矢視断面図である。
【図5】(a)は第2実施形態の治具の側面図、(b)は第2実施形態の止水方法を説明する図である。
【図6】(a)は第3実施形態の治具の円弧形磁石片の側面図、(b)は第3実施形態の止水方法を実施している状態を示す側面図である。
【図7】防錆効果の説明図である。
【図8】第1実施形態の止水構造を1本の被覆電線に対して実施している様子を示す図であって、(a)は斜視図、(b)は原理説明のための図である。
【図9】第1実施形態の止水構造を1本の、接続端子付き被覆電線に対して実施している様子を示す側面図である。
【図10】他の形態の円弧形磁石片の配置を説明する図である。
【図11】従来例を示す斜視図である。
【図12】他の従来例を示す上面図である。
【符号の説明】
【0042】
W:電線(線材)
1:シート(カバー材)
2:磁石
2A:円弧形磁石片
3:止水材(磁性流体)
4:バンド
4a:弦部
5:ケース
5a:ヒンジ
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤハーネスを構成する電線間の隙間や被覆電線の芯線間の隙間などを止水する線材の止水構造を形成するための治具および線材の止水方法に関する(尚、本発明の説明における『止水』は、水の浸入を阻止することに限らず、水、油、アルコール、等を含む液体全般に有効に作用することを意味するが、ここでは一般的に名称として広く用いられている『止水』を用いて説明する)。
【背景技術】
【0002】
ワイヤハーネスの電線間(即ち、ワイヤハーネスを形成する線材間)の隙間を止水材で封止する止水方法として、図11に示すように、ワイヤハーネスを構成する複数の電線W(即ち、電線Wの束)に止水材200を塗布した後、塗布した箇所にシート(即ち、カバー材)10を巻き付け、次にシート10を図示略のクリップで一時的に固定して、止水材200が硬化した後にシート10からクリップを外して、当該シート10の部分を図示略のグロメットの首部で覆い、グロメットをワイヤハーネスに固定するようにしたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。この場合、作業上の止水材200の充填幅B(シート10で覆う長さ)は、止水材200の必要止水幅Aよりも大きくしてある。
【0003】
この方法では、止水材200を塗布した後にシート10でくるむだけなので、止水材200が毛細管現象により電線W間の隙間を伝って必要止水幅Aの外側へ流失してしまい、思った通りの止水性能が確保できないおそれがある。また、シート10の外側にはみ出した止水材200のはみ出し部分201が周囲を汚してしまうおそれもある。このように、はみ出し部分201が大きくなるように止水材200が電線W間の隙間および電線Wとシート10の内面との隙間に浸透後、硬化したワイヤハーネスは、その長さ方向に長い距離にわたって硬い部分を有するものとなってしまい、よってワイヤハーネスに必要な可撓性が低いものとなってしまう。
【0004】
次に、被覆電線の芯線間(即ち、被覆電線を形成する線材間)の隙間を止水材で封止する止水方法の一例を図12を参照しながら説明する。図12に示されるように、被覆電線51は、その複数の芯線(導体)53の周囲に絶縁被覆(即ち、カバー材)54を有する。この被覆電線51には、その端末部に接続端子52が圧着されている(即ち、加締められている)。
【0005】
被覆電線51への接続端子52の圧着は、絶縁被覆54が除去されて芯線53が露出されている被覆電線51の端末部を接続端子52のバレル55間にセットし、そしてバレル55を加締めて閉じ、これにより芯線53および絶縁被覆54を接続端子52に圧着固定する。
【0006】
このような接続端子52付きの被覆電線51の芯線53間を止水する止水方法では、被覆電線51の端末部に対し、上から(即ち、図12に向かって手前側から)鎖線楕円60の中心を目掛けて、流動性のある止水材を滴下供給し、止水材を絶縁被覆54の内側に浸透させ、これにより芯線53間の隙間および芯線53と絶縁被覆54の内面との隙間が止水材により埋められることを狙っている。尚、止水材としては、東亞合成株式会社製のアロンアルファ(登録商標)等の接着剤が用いられる。
【0007】
しかしながら、この方法による止水処理では、芯線53間の隙間および芯線53と絶縁被覆54の内面との隙間に毛細管現象のために均一に止水材が流れ込まない。それ故、鎖線楕円60の中心を目掛けて規定量の止水材を滴下供給しても、芯線53間あるいは芯線53と絶縁被覆54との間に隙間ができて(即ち、隙間が残って)所望の止水効果が得られない可能性が高い。
【0008】
そのため、大量の止水材を鎖線楕円60の中心を目掛けて滴下供給すると、隙間を埋めるという点では止水材が有効に作用する反面、止水材が必要止水幅以上に浸透してしまうという欠点が生じてしまう。つまり、止水材が芯線53間の隙間および芯線53と絶縁被覆54との隙間に必要止水幅以上浸透後、硬化した被覆電線51は、その長さ方向に長い距離にわたって硬い部分を有するものとなってしまい、よって被覆電線51(即ち、ワイヤハーネス)に必要な可撓性が低いものとなってしまう。
【0009】
このように、線材間の隙間に浸透させた止水材が何処まで浸透しているかを確認するのが困難な止水構造においては、上述した止水方法では止水処理の信頼性にばらつきが生じてしまう。
【0010】
ところで、一般に、ワイヤハーネスや被覆電線は、その仕様等によって線材の太さや数がまちまちである。すなわち、図11のように電線Wの束をシート10で覆ったものの太さ(即ち、外径)や、図12に示される被覆電線51の太さ(即ち、外径)も多様である。このため、それらのものに止水処理を行う際には、太さに合った内幅寸法を有する治具等を用意せねばならない。従って、太さの異なるものを多数、コンベア等で混流して生産する場合には、それらに合った治具も予め多数用意しておかなければならない。このように治具が多種多様あるということは、生産現場に混乱を招き、製造工程を煩雑化させ、また、コストがかかるという問題がある。
【0011】
【特許文献1】特開2005−73389号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、狙った位置に止水材を留めることができ、よって十分な止水性能を発揮できると共に、様々な太さの線材の束にも容易に対処できる線材の止水構造を形成するための治具および線材の止水方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前述した目的を達成するために、本発明に係る線材の止水構造を形成するための治具は、下記(1)〜(5)を特徴としている。
(1) 磁性流体である液状の止水材を束になった複数の線材間の隙間に浸透させた後、該止水材を硬化させてなる線材の止水構造を形成するための治具であって、
前記線材の束の外周を覆うカバー材の外周面に沿って略円環状の磁石を形成するように配置される少なくとも2つの円弧形磁石片と、
前記少なくとも2つの円弧形磁石片にそれぞれ取り付けられた伸縮性を有するバンドと、
を備え、
前記バンドが前記少なくとも2つの円弧形磁石片それぞれの円周方向両端部間に架設される弦部を有しており、そして
前記液状の止水材が浸透している前記線材の束の部分の外周の前記カバー材の外周面を前記バンドの弦部で挟み込んで保持しつつ前記磁石で前記液状の止水材に対して前記カバー材の外側から磁界を掛け、これにより前記液状の止水材を前記カバー材内の所定箇所に集めること。
(2) 上記(1)の構成の治具において、
前記磁石が開閉可能なケースに装着され、そして
前記ケースが開いているときに、前記カバー材で外周を覆われた前記線材の束が前記バンドの弦部間に受け入れられ、その後、前記ケースを閉じることで前記カバー材の外周面が前記バンドの弦部により挟み込まれて保持されること。
(3) 上記(1)または(2)の構成の治具において、
前記バンドが、2つ、前記少なくとも2つの円弧形磁石片のうち少なくとも1つの円弧形磁石片に取り付けられており、当該少なくとも1つの円弧形磁石片には間隔を持って並行に前記弦部が配置されていること。
(4) 上記(1)〜(3)のいずれかの構成の治具において、
前記バンドが、前記少なくとも2つの円弧形磁石片にそれぞれ取り付けられた輪ゴムであり、それらの前記弦部により、前記カバー材の外周面を挟み込んで弾性保持すること。
(5) 上記(1)〜(4)のいずれかの構成の治具において、
前記液状の止水材は、複数の磁性超微粒子を液状の止水剤中に分散させた複合材料であって、各磁性超微粒子の表面には界面活性剤が強固に化学吸着されており、
前記磁石による磁界で前記磁性超微粒子と伴に前記液状の止水剤を前記所定箇所に集めること。
【0014】
上記(1)の構成の治具によれば、液状の止水材が浸透している線材の束の部分の外周のカバー材の外周面をバンドの弦部で挟み込んで保持しつつ磁石で前記液状の止水材に対して前記カバー材の外側から磁界を掛けるため、一種類の治具により様々な太さの線材の束に適合することができ、止水構造の設計を容易なものとすることができるとともに作業性を向上させることができ、且つ製造コストを低減させることができる。
上記(2)の構成の治具によれば、ケースを開いてカバー材で外周を覆われた線材の束をバンドの弦部間に入れ、その後ケースを閉じるだけで容易にカバー材の外周面をバンドの弦部で挟み込むことができるので、作業性を向上させることができる。
上記(3)の構成の治具によれば、並行に配置された弦部によりカバー材をより圧迫した状態で挟み込むことができ、弦部間に止水材を集めて硬化させることができる。
上記(4)の構成の治具によれば、円弧形磁石片に輪ゴムを取り付けることにより該円弧形磁石片の円周方向両端部間に弦部を形成するため、容易に治具を作製することができ、より作業性を向上させることができる。
上記(5)の構成の治具によれば、磁力を用いて狙った位置に磁性超微粒子と伴に止水剤を集めて硬化させることができるので、設計通りの止水性能を得ることができると共に、設計範囲外に止水材がはみ出して周囲を汚すのを有効に防止することができる。
【0015】
また、上述した目的を達成するために、本発明に係る線材の止水方法は、下記(6)〜(9)を特徴としている。
(6) 磁性流体である液状の止水材を束になった複数の線材間の隙間に浸透させた後、該止水材を硬化させる線材の止水方法であって、
上記(1)〜(4)のいずれかに記載した治具を用意し、
前記液状の止水材が浸透している前記線材の束の部分の外周の前記カバー材の外周面を前記治具のバンドの弦部で挟み込んで保持しつつ前記治具の磁石によって前記液状の止水材を前記カバー材内の所定箇所に集めるように磁界を掛けた状態で当該液状の止水材を硬化させること。
(7) 上記(6)の止水方法において、
前記液状の止水材は、複数の磁性超微粒子を液状の止水剤中に分散させた複合材料であって、各磁性超微粒子の表面には界面活性剤が強固に化学吸着されており、
前記磁界により前記磁性超微粒子と伴に前記液状の止水剤が前記所定箇所に集められること。
(8) 上記(6)または(7)の止水方法において、
前記複数の線材がワイヤハーネスを形成する電線であり、それら電線間の隙間に前記液状の止水材を浸透させた状態で、前記電線の束の外周に前記カバー材として被せたシートの外側から前記磁石により磁界を掛けて、前記液状の止水材を前記所定箇所に集めること。
(9) 上記(6)または(7)の止水方法において、
前記複数の線材が被覆電線を形成する芯線であり、それら芯線間の隙間および該芯線の束と前記カバー材である絶縁被覆の内面との隙間に前記液状の止水材を浸透させた状態で、前記絶縁被覆の外側から前記磁石により磁界を掛けて、前記液状の止水材を前記所定箇所に集めること。
【0016】
上記(6)の止水方法によれば、液状の止水材が浸透している線材の束の部分の外周のカバー材の外周面を上記(1)〜(4)の治具のバンドの弦部で挟み込んで保持しつつ磁石で前記液状の止水材に対して前記カバー材の外側から磁界を掛けるため、一種類の治具により様々な太さの線材の束に適合させることができ、止水構造の設計を容易なものとすることができるとともに作業性を向上させることができ、且つ製造コストを低減させることができる。
上記(7)の止水方法によれば、磁石を使用することにより、磁力を用いて狙った位置に磁性超微粒子と伴に止水剤を集めて硬化させることができるので、設計通りの止水性能を得ることができると共に、設計範囲外に止水材がはみ出して周囲を汚すのを有効に防止することができる。
上記(8)の止水方法によれば、ワイヤハーネスを構成する電線間の隙間および該電線の束とシートの内面との隙間を効果的に止水することができる。また、この止水方法によれば、ワイヤハーネスに必要な可撓性を極力低めずに前記隙間を止水することができる。また、このように止水材の磁性体を纏った電線は、フェライトが装着された場合と同様、通電された際にノイズ低減効果を奏する。
上記(9)の止水方法によれば、被覆電線を構成する芯線間の隙間および該芯線の束と絶縁被覆の内面との隙間を効果的に止水することができる。また、この止水方法によれば、被覆電線に必要な可撓性を極力低めずに前記隙間を止水することができる。また、このように止水材の磁性体を纏った芯線は、フェライトが装着された電線と同様、通電された際にノイズ低減効果を奏する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、狙った位置に止水材を留めることができるので十分な止水性能を発揮できると共に、周囲を止水材で汚すおそれもなくなる。また、一種類の治具により様々な太さの電線束に適合させることができ、止水構造の設計を容易なものとすることができるとともに作業性を向上させることができ、且つ製造コストを低減させることができる。
【0018】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための最良の形態を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明に係る線材の止水構造を形成するための治具および線材の止水方法の好適な実施形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
【0020】
<第1実施形態>
図1(a)および(b)は本発明の第1実施形態の治具を説明する図であって、図1(a)は円弧形磁石片の斜視図、そして図1(b)は図1(a)の側面図である。図2(a)および(b)は第1実施形態の治具を用いて止水処理を実施している状態を示す図であって、図2(a)は斜視図、そして図2(b)は図2(a)のIIb−IIb矢視断面図である。そして、図3は第1実施形態の止水方法の原理説明のための図(磁石の断面図、およびシート内の透視図を含む。)である。
【0021】
第1実施形態の治具は、図1(a)および(b)に示したように、円弧形磁石片2Aと伸縮性を有するバンド4と、備える。円弧形磁石片2Aは、図2(a)および(b)に示したように、電線(線材)Wの束の外側を覆うカバー材としてのシート1の外周面に沿って略円環状(リング状)の磁石2を形成するように配置される。円弧形磁石片2Aは磁性を有する材料であって、自らの周囲に磁場を形成するものであれば特に限定されず、永久磁石、電磁石、永久磁性セラミック等様々なものを用いることができる。第1実施形態において、図1(a)および(b)に示したように、円弧形磁石片2Aは半径方向に磁化(着磁)され外周側と内周側それぞれに磁極(N極とS極)を持つ弓状の永久磁石を用いている。この第1実施形態においては、バンド4として輪ゴムを用いている。輪ゴムを円弧形磁石片2Aの円弧状側面部に掛けて該円弧形磁石片2Aの円周方向両端部間に弦部4aを架設している。
【0022】
第1実施形態の治具を用いて電線の束を止水処理するには、図2(a)および(b)に示したように、まず、線材であるワイヤハーネスを構成する電線(本実施形態では銅を導体とした被覆電線)Wの束の外周を覆うシート1と、液状の止水材3(図3等参照)と、上記した第1実施形態の治具を用意する。
【0023】
シート1としては、磁石2の磁束が通過可能で液状の止水材3が浸透しない非磁性の樹脂シート等を用いる。止水材3としては、磁性流体を用いる。つまり、止水材3は、ベース液となる液状の止水剤(即ち、接着剤等といった樹脂)の中に極めて複数の磁性超微粒子(即ち、磁性体)を均一に分散させたもの(複合材料)であって、各磁性超微粒子の表面には界面活性剤が強固に化学吸着されている。磁性超微粒子は、激しい熱運動と、表面の界面活性剤層の相互反発力のため、止水剤内で凝集することなく安定な分散状態を保つ。磁性超微粒子としては、マグネタイト等の強磁性超微粒子を用いる。
【0024】
本発明の止水構造を電線Wの束に適用する方法としては、該電線Wの束の止水すべき箇所に、上述の止水材3を塗布して、電線W間の隙間に止水材3を浸透させた状態で、止水材3を塗布した箇所に、シート1を巻き付ける。その後、バンド4が取り付けられた円弧形磁石片2Aをシート1の外側からあてがい、バンド4の弦部4aでシート1を挟み込んで弾性保持した状態でシート1の外側から止水材3に磁界を掛ける。そうすると、図3に示したように磁力線10の作用で、止水材3が止水すべき範囲にわたる電線W間の隙間および該電線Wの束とシート1の内面との隙間を埋めるように集まる。そこで、この状態を維持しながら、止水材3を硬化させる。そうすることにより、シート1内の所定箇所に止水材3が集められて硬化されたワイヤハーネスの止水構造が出来上がる。尚、この止水方法では、先ず電線Wの束に止水材3を塗布した後、該止水材3を塗布した箇所にシート1を巻き付ける手順を採っているが、その代わりに、先ず電線Wの束にシート1を巻き付けた後、電線W間の隙間および該電線Wの束とシート1の内面との隙間に止水材3を浸透するよう注入する手順を採ってもよい。止水構造を持つシート1付きの電線Wの束を本実施形態の治具から取り出すと、バンド4の弧状に弾性変形していた弦部4aが、その弾性復元力によって、図1(a)および(b)に示した略直線的に延長する状態にまで戻る。
【0025】
このように、磁石2を使用することにより狙った位置に必要な時間だけ止水材3を集めて、該止水材3を硬化させるので、設計通りの止水性能を得ることができると共に、設計範囲外に止水材3がはみ出して周囲を汚すのを有効に防止することができる。また、円弧形磁石片2Aに取り付けたバンド4の弦部4aによりカバー材1を挟み込むので、磁石2内での電線Wの束の移動が抑制され、安定的な止水処理を行うことができる。
【0026】
また、本発明の第1実施形態によれば、一種類の治具でも様々な太さの電線Wの束を止水することができる。つまり、電線Wの束の外径が磁石2の内幅寸法よりも小さい場合であっても適切な止水を行うことができる。この場合も、図4(a)および(b)に示すように、円弧形磁石片2Aに装着されたバンド4の弦部4aで電線Wの束の外周を覆うシート1の外周面を挟み込んで弾性保持する。磁石2の内周面とバンド4の弦部4aとの間には間隙が形成されるが、電線Wは弦部4aで保持されているので安定している。この状態で、上述のように電線W間の隙間に浸透している止水材に磁界を掛けると、止水材が止水すべき範囲にわたる電線W間の隙間および該電線Wの束とシート1の内面との隙間を埋めるように集まる。そこで、この状態を維持しながら、止水材を硬化させることにより、シート1内の所定箇所に止水材が集められて硬化されたワイヤハーネスの止水構造が出来上がる。このように、本発明の治具は、様々な太さの電線Wの束にも容易に対処でき、製造コストを低減することができる。
【0027】
<第2実施形態>
次に、図5(a)および(b)を参照して第2実施形態の治具を説明する。第2実施形態の治具では、上述した第1実施形態の治具がケース5に装着されている。ケース5は、ヒンジ5aで連結された開閉可能な2つの半円筒状の部材を備えるものである。このケース5の半円筒状の部材の内周面それぞれに、バンド4が取り付けられた円弧形磁石片2Aが、接着剤等の適宜な固定手段により固定されている。
【0028】
第2実施形態の治具を用いた止水方法では、まず、ワイヤハーネスを構成する電線Wの束の止水すべき箇所に上述の止水材を塗布して、電線W間の隙間に止水材を浸透させた状態で、止水材を塗布した箇所にシート1を巻き付ける。その後、図5(b)に示したように、開状態としたケース5の略中央部分に電線Wの束を位置させて、ケース5を閉じる。そしてシート1の外側から止水材に磁界を掛けると、止水材が止水すべき範囲にわたる電線W間の隙間および該電線Wの束とシート1の内面との隙間を埋めるように集まる。そこで、この状態を維持しながら、止水材を硬化させることにより、シート1内の所定箇所に止水材が集められて硬化されたワイヤハーネスの止水構造が出来上がる。このように、ケース5に装着した磁石2を用いることにより、電線Wの束への磁石2の適用がしやすくなり、また、ケース5を施錠可能にしておけば確実に電線Wを磁石2で包囲することができる。更に、ケースを構成する部材の一方を固定しておけば、他方の部材を動作させるだけで簡単にシート1を挟み込むことができるので、作業性が向上する。
【0029】
尚、ケースについては、図5(a)および(b)に示されるようなヒンジを設けず、ケースの本体を切れ目無いものにし、該本体自体を曲げることで開閉自在に構成したものでもよい。また、第2実施形態においては円筒状のケースを用いたが、本発明は円弧形磁石片を保持可能であればその形態は特に限定されず、四角形状や多角形状のケースを使用することができる。また、ケース5の内部の形状も磁石2を装着可能であれば特に限定されない。ケース5を開閉する作業スペースを考慮すると略円筒状とすることが好ましい。
【0030】
<第3実施形態>
次に、図6(a)および(b)を用いて第3実施形態の治具を説明する。第3実施形態の治具では、伸縮性を有するバンド41として、幅狭の輪ゴム2本を用いている。図6(a)に示したように、2本のバンド41は円弧形磁石片2Aに取り付けられており、該円弧形磁石片2Aには所望間隔Hを有して弦部41aが平行に配置される。尚、バンド41は、弦部41aが間隔を有して並んで配置されるように円弧形磁石片2Aに取り付けられればよいので、弦部41aの間隔が異なるように(例えばハ字状に)配置してもよい。
【0031】
第3実施形態の治具を用いた線材の止水方法でも、まず、ワイヤハーネスを構成する電線Wの束の止水すべき箇所に上述の止水材を塗布して、電線W間の隙間に止水材を浸透させた状態で、止水材を塗布した箇所にシート1を巻き付ける。その後、バンド41が取り付けられた円弧形磁石片2Aをシート1の外側からあてがい、バンド41の弦部41aでシート1を挟み込んで保持した状態でシート1の外側から止水材に磁界を掛ける。バンド41を2本並べて使用することにより、2本のバンド41により強く圧迫されたシート1内の電線Wの束の部分の間には液溜まり部Rが形成され、液状の止水材がシート1内の液溜まり部R内に移動しやすくなる。従って、第3実施形態の治具を使用することで止水材が液溜まり部Rに凝集して硬化されることにより、ワイヤハーネスはより可撓性が高くなる。尚、2つの円弧形磁石片2Aのうち一方の円弧形磁石片2Aに2本のバンド41を取り付け、他方の円弧形磁石片2Aに1本のバンド41あるいはバンド4を取り付けた形態であってもよい。この場合でも、上述の液溜まり部Rを部分的に形成することができる。
【0032】
ところで、上述した線材の止水方法において、流動性のある止水材として磁界により磁性超微粒子と伴に液状の止水剤が移動する特性(換言すれば、磁界により液状の止水材全体があたかも強磁性を持っているかのように移動する特性)を持つものを用いたが、これに限らず、本発明で止水材として用いる磁性流体は、液状の止水剤(即ち、接着剤等といった樹脂)に単に微細な鉄粉を混ぜた安価なものであってもよい。このように磁性流体中の磁性体が鉄粉のように錆びやすい性質を持っている場合、図7に示すように電線Wの両側から入ってくる外気や水分Sの影響で磁性体3aが錆びることが通常は懸念されるが、磁石2の作用で磁性体3aの分布を止水材2の中央に多く集めることにより、その両側の止水材3の止水剤が、外気や水分Sを遮断し、防錆効果を奏する。
【0033】
上述した線材の止水方法では、本発明を、ワイヤハーネスを構成する電線(被覆電線)W間の隙間および該電線Wの束とシート1の内面との隙間を止水材で封じる場合に適用した例について説明したが、本発明は、被覆電線を構成する芯線間の隙間および該芯線の束とその周りの絶縁被覆の内面との隙間を止水材で封じる場合にも適用することができる。
【0034】
これは例えば、上述した第1実施形態の治具を使用して1本の被覆電線に対して止水方法を実施している様子を示す図8(a)および(b)から明らかなように、被覆電線Wの端末部にある銅製の芯線Wa(即ち、線材)の露出部分に止水材供給装置20から止水材3を滴下供給して絶縁被覆Wb(即ち、カバー材)の内側へ浸透させた後、磁石2で絶縁被覆Wbの外側から掛けた磁界によって止水材3を絶縁被覆Wb内の所定箇所まで引き込んで芯線間Waの隙間および該芯線Waの束と絶縁被覆Wbの内面との隙間に浸透させることである。
【0035】
また、図11の従来例と同様に接続端子52が端末部に取り付けられた被覆電線Wの場合でも、図9に示すように、第1実施形態の治具と同構造ながら、より小型の治具を用いて図8(a)および(b)の例と同様の止水方法を適用することができる。つまり、被覆電線Wの端末部にある芯線Waの露出部分に止水材供給装置20から止水材3を滴下供給して絶縁被覆Wbの内側へ浸透させた後、絶縁被覆Wbの外側から磁石2により磁界を掛けて止水材3を絶縁被覆Wb内の所定箇所まで引き込んで芯線間Waの隙間および該芯線Waの束と絶縁被覆Wbの内面との隙間に浸透させる。
【0036】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0037】
例えば、磁石2については上述した各実施形態のように、少なくとも2つの円弧形磁石片2Aから構成することが好ましい。ただし、円弧形磁石片2Aの数は、2個に限定されない。2個よりも多い数の円弧形磁石片2Aを用いる場合には、円弧形磁石片2Aを磁極(N極とS極)が交互になるように配置するために偶数個で構成するのが良い。これは、偶数個だと円弧形磁石片2A同士が引き付けあうので、線材W;Waの束の外周を覆うシート(カバー材)1;Wbの外周面に沿って円弧形磁石片2Aを配置しやすいからである。尚、内周部でN極とS極が対向する位置にあるリング状の磁石2は、線材W;Waを通過する磁束が多くなるので、好ましい。上述した各実施形態のように円弧形磁石片2Aの数を2個とする利点としては、円弧形磁石片2Aに伸縮性のバンド4を取り付けた際の、弦部4aの伸縮可能な(つまり弾性変形可能な)範囲を大きくできることである。即ち、弦部4aと該弦部4aと対向する円弧形磁石片2Aの円弧状側面部との間隔を大きくして挟み込む線材W;Wbの束の太さの変化に適切に対応するという点から、2つの円弧形磁石片2Aで磁石2を構成することがより好ましい。ただし、円弧形磁石片2Aが奇数個であっても本発明が実施可能であることはいうまでもない。つまり、図10(a)および(b)に示すように、3個の円弧形磁石片2A;2B;2Cにそれぞれ取り付けられたバンド4;42;43の弦部4a;42a;43aでシート1;Wbを挟み込んで保持できるものである。
【0038】
また、バンド4;41については、上述した各実施形態では輪ゴムを用いたが、伸縮性を有するものであって、線材W;Waの束の外周を覆うカバー材1;Wbの外周面を保持できるものであれば材料は特に限定されず、ゴム製であっても、天然繊維製であっても、化学繊維製であっても、合成樹脂製であっても、それらの組み合わせであってもよい。また、バンド4;41の形状についても輪状(環状)に限定されず、長手方向に両端部を持つ帯状のものでもよい。帯状のバンドを用いる場合は、この帯状のバンドの長手方向両端部を円弧形磁石片2Aの円周方向両端部に金具や接着剤等の適宜な固定手段を用いて伸長状態で固定し、弦部4a;41aを形成すればよい。尚、固定手段として金具を用いる場合は、磁束密度を低下させないよう磁性金属製の金具を使用することが好ましい。
【0039】
ここで、本発明の理解を深めるため、本発明の線材の止水構造を形成するための治具について簡潔に纏めて述べる。
本発明の治具は、磁性流体である液状の止水材(3)を束になった複数の線材(W;Wa)間の隙間に浸透させた後、該止水材(3)を硬化させてなる線材の止水構造を形成するための治具であって、前記線材(W;Wa)の束の外周を覆うカバー材(1;Wb)の外周面に沿って略円環状の磁石(2)を形成するように配置される少なくとも2つの円弧形磁石片(2A)と、前記少なくとも2つの円弧形磁石片(2A)にそれぞれ取り付けられた伸縮性を有するバンド(4;41)とを備え、当該バンド(4;41)が前記少なくとも2つの円弧形磁石片(2A)それぞれの円周方向両端部間に架設される弦部(4a;41a)を有しており、そして前記液状の止水材(3)が浸透している前記線材(W;Wa)の束の部分の外周の前記カバー材(1;Wb)の外周面を前記バンド(4;41)の弦部(4a;41a)で挟み込んで保持しつつ前記磁石(2)で前記液状の止水材(3)に対して前記カバー材(1;Wb)の外側から磁界を掛け、これにより前記液状の止水材(3)を前記カバー材(1;Wb)内の所定箇所に集める。これにより、液状の止水材(3)が浸透している線材(W;Wa)の束の部分の外周のカバー材(1;Wb)の外周面をバンド(4;41)の弦部(4a;41a)で挟み込んで保持しつつ磁石(2)で前記液状の止水材(3)に対して前記カバー材(1;Wb)の外側から磁界を掛けるため、一種類の治具により様々な太さの線材の束に適合することができ、止水構造の設計を容易なものとすることができるとともに作業性を向上させることができ、且つ製造コストを低減させることができる。
本発明の治具は前記磁石(2)が開閉可能なケース(5)に装着されており、前記ケース(5)が開いているときに、前記カバー材(1;Wb)で外周を覆われた前記線材(W;Wa)の束が前記バンド(4;41)の弦部(4a;41a)間に受け入れられ、その後、前記ケース(5)を閉じることで前記カバー材(1;Wb)の外周面が前記バンド(4;41)の弦部(4a;41a)により挟み込まれて保持されるようにしてもよい。この治具では、ケース(5)を開いてカバー材(1;Wb)で外周を覆われた線材(W;Wa)の束をバンド(4;41)の弦部(4a;41a)間に入れ、その後ケース(5)を閉じるだけで容易にカバー材(1;Wb)の外周面をバンド(4;41)の弦部(4a;41a)で挟み込むことができるので、作業性を向上させることができる。
本発明の治具は、2つのバンド(41)を前記少なくとも2つの円弧形磁石片(2A)のうち少なくとも1つの円弧形磁石片(2A)に取り付け、当該少なくとも1つの円弧形磁石片(2A)に、間隔を持って並行に配置される前記弦部(41a)を設けた形態であってもよい。この治具では、並行に配置された弦部(41a)によりカバー材(1;Wb)をより圧迫した状態で挟み込むことができ、弦部(41a)間に止水材(3)を集めて硬化させることができる。
また、バンド(4;41)が、前記少なくとも2つの円弧形磁石片(2A)にそれぞれ取り付けられた輪ゴムであり、それらの前記少なくとも2つの円弧形磁石片(2A)の両端部間に架設される前記弦部(4a;41a)で、前記カバー材(1;Wb)の外周面を挟み込んで弾性保持するようにしてもよい。このように構成した治具では、容易に治具を作製することができ、より作業性を向上させることができる。
【0040】
また、ここで、本発明の理解を深めるため、本発明の線材の止水方法について簡潔に纏めて述べる。
本発明の線材の止水方法は、磁性流体である液状の止水材(3)を束になった複数の線材(W;Wa)間の隙間に浸透させた後、該止水材(3)を硬化させる線材の止水方法であって、上記した治具を用意し、前記液状の止水材(3)が浸透している前記線材(W;Wa)の束の部分の外周の前記カバー材(1;Wb)の外周面を前記治具のバンド(4;41)の弦部(4a;41a)で挟み込んで保持しつつ前記治具の磁石(2)によって前記液状の止水材(3)を前記カバー材内の所定箇所に集めるように磁界を掛けた状態で当該液状の止水材(3)を硬化させる。この止水方法では、磁石(2)を使用することにより、狙った位置に止水材(3)を必要な時間だけ集めて硬化させることができるので、設計通りの止水性能を得ることができると共に、設計範囲外に止水材(3)がはみ出して周囲を汚すのを有効に防止することができる。また、一種類の治具により様々な太さの線材の束に適合することができ、止水構造の設計を容易なものとすることができるとともに、製造コストを低減させることができる。
止水材(3)は、複数の磁性超微粒子を液状の止水剤中に分散させた複合材料であって、各磁性超微粒子の表面には界面活性剤が強固に化学吸着されており、磁界により磁性超微粒子と伴に液状の止水剤が前記所定箇所に集められる。この止水構造では、磁力を用いて狙った位置に磁性超微粒子と伴に集められた止水剤を硬化させたので、設計通りの止水性能が得られると共に、設計範囲外に止水材(3)がはみ出して周囲を汚すのを防止できる。
前記複数の線材はワイヤハーネスを形成する電線(W)であり、それら電線(W)間の隙間および該電線(W)の束とカバー材(1)の内面との隙間に止水材(3)が浸透し且つ硬化している。この止水構造では、ワイヤハーネスを構成する電線(W)間の隙間および該電線(W)の束とカバー材(1)の内面との隙間が効果的に止水される。また、この止水構造では、ワイヤハーネスに必要な可撓性を極力低めずに前記隙間が止水される。また、この止水構造のように止水材(3)の磁性体を纏った電線(W)は、フェライトが装着された場合と同様、通電された際にノイズ低減効果を奏する。
前記複数の線材は被覆電線(W)を形成する芯線(Wa)であり、それら芯線(Wa)間の隙間および該芯線(Wa)の束とカバー材である絶縁被覆(Wb)の内面との隙間に止水材(3)が浸透し且つ硬化している。この止水構造では、被覆電線(W)を構成する芯線(Wa)間の隙間および該芯線(Wa)の束と絶縁被覆(Wb)の内面との隙間が効果的に止水される。また、この止水構造では、被覆電線(W)に必要な可撓性を極力低めずに前記隙間が止水される。また、この止水構造のように止水材(3)の磁性体を纏った芯線(Wa)は、フェライトが装着された電線と同様、通電された際にノイズ低減効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の第1実施形態の治具を説明する図であって、(a)は円弧形磁石片の斜視図、(b)は(a)の側面図である。
【図2】第1実施形態の治具を用いて止水処理を実施している状態を示す図であって、(a)は斜視図、(b)は(a)のIIb−IIb矢視断面図である。
【図3】第1実施形態の止水方法の原理説明のための図である。
【図4】細い電線の束に対して第1実施形態の治具を用いて止水処理を実施している状態を示す図であって、(a)は斜視図、(b)は(a)のIVb−IVb矢視断面図である。
【図5】(a)は第2実施形態の治具の側面図、(b)は第2実施形態の止水方法を説明する図である。
【図6】(a)は第3実施形態の治具の円弧形磁石片の側面図、(b)は第3実施形態の止水方法を実施している状態を示す側面図である。
【図7】防錆効果の説明図である。
【図8】第1実施形態の止水構造を1本の被覆電線に対して実施している様子を示す図であって、(a)は斜視図、(b)は原理説明のための図である。
【図9】第1実施形態の止水構造を1本の、接続端子付き被覆電線に対して実施している様子を示す側面図である。
【図10】他の形態の円弧形磁石片の配置を説明する図である。
【図11】従来例を示す斜視図である。
【図12】他の従来例を示す上面図である。
【符号の説明】
【0042】
W:電線(線材)
1:シート(カバー材)
2:磁石
2A:円弧形磁石片
3:止水材(磁性流体)
4:バンド
4a:弦部
5:ケース
5a:ヒンジ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性流体である液状の止水材を束になった複数の線材間の隙間に浸透させた後、該止水材を硬化させてなる線材の止水構造を形成するための治具であって、
前記線材の束の外周を覆うカバー材の外周面に沿って略円環状の磁石を形成するように配置される少なくとも2つの円弧形磁石片と、
前記少なくとも2つの円弧形磁石片にそれぞれ取り付けられた伸縮性を有するバンドと、
を備え、
前記バンドが前記少なくとも2つの円弧形磁石片それぞれの円周方向両端部間に架設される弦部を有しており、そして
前記液状の止水材が浸透している前記線材の束の部分の外周の前記カバー材の外周面を前記バンドの弦部で挟み込んで保持しつつ前記磁石で前記液状の止水材に対して前記カバー材の外側から磁界を掛け、これにより前記液状の止水材を前記カバー材内の所定箇所に集めることを特徴とする治具。
【請求項2】
前記磁石が開閉可能なケースに装着され、そして
前記ケースが開いているときに、前記カバー材で外周を覆われた前記線材の束が前記バンドの弦部間に受け入れられ、その後、前記ケースを閉じることで前記カバー材の外周面が前記バンドの弦部により挟み込まれて保持されることを特徴とする請求項1に記載した治具。
【請求項3】
前記バンドが、2つ、前記少なくとも2つの円弧形磁石片のうち少なくとも1つの円弧形磁石片に取り付けられており、当該少なくとも1つの円弧形磁石片には間隔を持って並行に前記弦部が配置されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載した治具。
【請求項4】
前記バンドが、前記少なくとも2つの円弧形磁石片にそれぞれ取り付けられた輪ゴムであり、それらの前記弦部により、前記カバー材の外周面を挟み込んで弾性保持することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載した治具。
【請求項5】
前記液状の止水材は、複数の磁性超微粒子を液状の止水剤中に分散させた複合材料であって、各磁性超微粒子の表面には界面活性剤が強固に化学吸着されており、
前記磁石による磁界で前記磁性超微粒子と伴に前記液状の止水剤を前記所定箇所に集めることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載した治具。
【請求項6】
磁性流体である液状の止水材を束になった複数の線材間の隙間に浸透させた後、該止水材を硬化させる線材の止水方法であって、
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載した治具を用意し、
前記液状の止水材が浸透している前記線材の束の部分の外周の前記カバー材の外周面を前記治具のバンドの弦部で挟み込んで保持しつつ前記治具の磁石によって前記液状の止水材を前記カバー材内の所定箇所に集めるように磁界を掛けた状態で当該液状の止水材を硬化させることを特徴とする線材の止水方法。
【請求項7】
前記液状の止水材は、複数の磁性超微粒子を液状の止水剤中に分散させた複合材料であって、各磁性超微粒子の表面には界面活性剤が強固に化学吸着されており、
前記磁界により前記磁性超微粒子と伴に前記液状の止水剤が前記所定箇所に集められることを特徴とする請求項6に記載した線材の止水方法。
【請求項8】
前記複数の線材がワイヤハーネスを形成する電線であり、それら電線間の隙間に前記液状の止水材を浸透させた状態で、前記電線の束の外周に前記カバー材として被せたシートの外側から前記磁石により磁界を掛けて、前記液状の止水材を前記所定箇所に集めることを特徴とする請求項6または請求項7に記載した線材の止水方法。
【請求項9】
前記複数の線材が被覆電線を形成する芯線であり、それら芯線間の隙間および該芯線の束と前記カバー材である絶縁被覆の内面との隙間に前記液状の止水材を浸透させた状態で、前記絶縁被覆の外側から前記磁石により磁界を掛けて、前記液状の止水材を前記所定箇所に集めることを特徴とする請求項6または請求項7に記載した線材の止水方法。
【請求項1】
磁性流体である液状の止水材を束になった複数の線材間の隙間に浸透させた後、該止水材を硬化させてなる線材の止水構造を形成するための治具であって、
前記線材の束の外周を覆うカバー材の外周面に沿って略円環状の磁石を形成するように配置される少なくとも2つの円弧形磁石片と、
前記少なくとも2つの円弧形磁石片にそれぞれ取り付けられた伸縮性を有するバンドと、
を備え、
前記バンドが前記少なくとも2つの円弧形磁石片それぞれの円周方向両端部間に架設される弦部を有しており、そして
前記液状の止水材が浸透している前記線材の束の部分の外周の前記カバー材の外周面を前記バンドの弦部で挟み込んで保持しつつ前記磁石で前記液状の止水材に対して前記カバー材の外側から磁界を掛け、これにより前記液状の止水材を前記カバー材内の所定箇所に集めることを特徴とする治具。
【請求項2】
前記磁石が開閉可能なケースに装着され、そして
前記ケースが開いているときに、前記カバー材で外周を覆われた前記線材の束が前記バンドの弦部間に受け入れられ、その後、前記ケースを閉じることで前記カバー材の外周面が前記バンドの弦部により挟み込まれて保持されることを特徴とする請求項1に記載した治具。
【請求項3】
前記バンドが、2つ、前記少なくとも2つの円弧形磁石片のうち少なくとも1つの円弧形磁石片に取り付けられており、当該少なくとも1つの円弧形磁石片には間隔を持って並行に前記弦部が配置されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載した治具。
【請求項4】
前記バンドが、前記少なくとも2つの円弧形磁石片にそれぞれ取り付けられた輪ゴムであり、それらの前記弦部により、前記カバー材の外周面を挟み込んで弾性保持することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載した治具。
【請求項5】
前記液状の止水材は、複数の磁性超微粒子を液状の止水剤中に分散させた複合材料であって、各磁性超微粒子の表面には界面活性剤が強固に化学吸着されており、
前記磁石による磁界で前記磁性超微粒子と伴に前記液状の止水剤を前記所定箇所に集めることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載した治具。
【請求項6】
磁性流体である液状の止水材を束になった複数の線材間の隙間に浸透させた後、該止水材を硬化させる線材の止水方法であって、
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載した治具を用意し、
前記液状の止水材が浸透している前記線材の束の部分の外周の前記カバー材の外周面を前記治具のバンドの弦部で挟み込んで保持しつつ前記治具の磁石によって前記液状の止水材を前記カバー材内の所定箇所に集めるように磁界を掛けた状態で当該液状の止水材を硬化させることを特徴とする線材の止水方法。
【請求項7】
前記液状の止水材は、複数の磁性超微粒子を液状の止水剤中に分散させた複合材料であって、各磁性超微粒子の表面には界面活性剤が強固に化学吸着されており、
前記磁界により前記磁性超微粒子と伴に前記液状の止水剤が前記所定箇所に集められることを特徴とする請求項6に記載した線材の止水方法。
【請求項8】
前記複数の線材がワイヤハーネスを形成する電線であり、それら電線間の隙間に前記液状の止水材を浸透させた状態で、前記電線の束の外周に前記カバー材として被せたシートの外側から前記磁石により磁界を掛けて、前記液状の止水材を前記所定箇所に集めることを特徴とする請求項6または請求項7に記載した線材の止水方法。
【請求項9】
前記複数の線材が被覆電線を形成する芯線であり、それら芯線間の隙間および該芯線の束と前記カバー材である絶縁被覆の内面との隙間に前記液状の止水材を浸透させた状態で、前記絶縁被覆の外側から前記磁石により磁界を掛けて、前記液状の止水材を前記所定箇所に集めることを特徴とする請求項6または請求項7に記載した線材の止水方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
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【図4】
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【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−136483(P2010−136483A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−307812(P2008−307812)
【出願日】平成20年12月2日(2008.12.2)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月2日(2008.12.2)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】
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