説明

線状発光体およびその製造方法、ならびにその線状発光体を用いた発光装置

【課題】有機系蛍光体を気密に封止するに当たって、その耐熱温度に充分耐えられる気密封止法を提案することによって、白色LED、色ばらつきの少ない白色LEDを実現できる線状の発光装置およびその製造方法を提供する。
【解決手段】発光素子から発光された光を可視光に変換する有機系蛍光体を備えた線状発光体であって、前記有機系蛍光体が2枚の板材であって、少なくとも一方が透光性の板材の板の間に挟み込み、気密封止されている線状発光体とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線状発光体およびその製造方法、ならびにその線状発光体を用いた発光装置、特に、白色LEDが実現できる線状発光体およびその製造方法、ならびにその線状発光体を用いた発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、発光装置としては、リードフレームや絶縁基板(ガラエポ、セラミック、MID)上に、LED素子をAgペースト等で実装し、ワイヤーボンドで接続し、これをエポキシ樹脂やシリコーン樹脂で封止してLEDランプとしていた。白色LEDの場合は、GaN系青色素子を使い、上記樹脂中にYAG蛍光体を混合してLEDランプを構成し、励起光としての黄色とYAG蛍光体を透過した青色とで擬似白色を実現していた(特許文献1)。
しかし、上記YAG蛍光体は何れも無機系蛍光体であるため励起スペクトルが広く、液晶カラーフ
ィルターとのマッチングが悪く、 効率、クロストーク、等の課題があった。
そこで、色再現性を広げる為に上記樹脂中のYAG蛍光体に加え、赤色蛍光体を加えたり、赤色LEDを付加したりしていた。
これらの中で、特許文献2、3等に提案されているジケトン、或いは、特許文献4等に提案のカルボン酸を配位子とするEu錯体は、発光強度が高く、かつ、演色性に優れ、色再現性に優れた赤色発光物質である。
しかし、これらの錯体は、酸素や湿度に敏感であり、気密封止を必要とする。
従来、このような封止を行う方法として、発光装置の外部キャップの内部の内壁に蛍光体層を塗布により、形成して、内部を真空または不活性ガスの雰囲気にして気密封止をすることが提案されている(特許文献5)。しかし、この提案では、キャップの材質や何℃程度の温度で封着するのか等についての開示は一切なく、現実に封着を行ったものではない。
その他、有機高分子錯体を発光体として用いることに関する提案もある(特許文献6)が、具体的な封止方法に関する点については一切開示されていない。
【特許文献1】特開2006−49657号公報
【特許文献2】特開2005−252250号公報
【特許文献3】特開2003−81986号公報
【特許文献4】特開2005−8872号公報
【特許文献5】特開2004−352928号公報
【特許文献6】特開2002−163902号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
有機系蛍光体は、耐熱温度が低く、例えば、200℃程度以上には、封止の際の温度を上げることはできない。
従って、本発明の目的は、有機系蛍光体を気密に封止するに当たって、その耐熱温度に充分耐えられる気密封止法を提案することによって、白色LED、特に色ばらつきの少ない白色LEDを実現できる線状発光体およびその製造方法、ならびにこの線状発光体を用いた発光装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
このような目的は、発光素子から発光された光を可視光に変換する有機系蛍光体を備えた線状発光体であって、前記有機系蛍光体が2枚の板材であって、少なくとも一方が透光性の板材の板の間に挟み込み、気密封止されていることを特徴とする線状発光体によって達成される。
この場合、発光素子としては、近紫外光を発光する近紫外LEDであることが好ましい。
また、透光性の少なくとも一方の板材としては、ガラス板であることが好ましい。
また、前記2枚の板材はガラス板であって、このガラス板の間に、前記有機系蛍光体が、融着剤によって気密封止されていることが好ましい。
また、2枚のガラス板は融着剤と枠部材とを用いて気密封止されていることも好ましい。
そして、前記融着剤は半田材から形成されることが好ましい。
そして、前記枠部材はガラス材または熱硬化型接着剤から形成されていることが好ましい。
さらに、前記有機系蛍光体は赤色蛍光体錯体であることが好ましい。
また、前記赤色蛍光体錯体はEuのジケトンまたはカルボン酸錯体であることが好ましい。
また、前記有機系蛍光体に加えて、さらに、青および/または緑色の蛍光体を用いることが好ましい。
さらには、1つまたは2つ以上の近紫外LEDを線状発光体に配置して、発光装置を構成することが好ましい。
そして、線状発光体の製造工程においては、所定の枠材パターンを形成させて透光性の板材を貼り合わせる工程を有し、
この貼り合わせた工程の際に、空間とゲート部が形成されており、
さらに、前記枠材パターン間に露出したゲート部から、所定の雰囲気で、有機系蛍光体を注入する工程と、
前記ゲート部に融着剤を付与してゲート部を閉口する工程と、
切断する工程とを有し、集合で、線状発光体を得ることが好ましい。
また、2枚の透光性の板材のうち、透光性の板材の一方に、所定の雰囲気で、有機系蛍光体を付与する工程と、
一方および/または他方の透光性の板材に、前記有機系蛍光体の付与した際の形状に従って枠部材を所定のパターンで形成する工程と、
これら2枚の透光性の板材を所定の雰囲気下で融着ないし封止する工程と、
切断する工程とを有し、集合で、線状発光体を得ることが好ましい。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、有機系蛍光体の特性劣化がなく気密封止でき、かつ、有機系蛍光体の塗布量並びに位置が制御できるので、色ばらつきの少ない白色LEDが実現できる。また、近紫外LEDから照射される近紫外の光を蛍光体によって励起光に変換しているので、温度や長期劣化による色座標のズレが生じない。また、有機系蛍光体の励起光は鋭いので、色再現性および彩度を高くできる。しかも、任意のサイズ、例えば、A4サイズ以上のディスプレイが可能な線光発光体が実現できるので、パソコン等の用途において、極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本実施形態における線状発光体は、板材として、特に、透光性基板として、より好ましくは、2枚のガラス板の間に有機系蛍光体を挟み込んで気密封止した点に特徴がある。基本的な構成は、図1、2に示されるように、発光装置100は、その上方が開口された射出成形基板、より好ましくはアルミナ等のセラミックを材質とする成型基板1と、この成型基板の底部に実装される発光ダイオード素子(図示なし)と、成型基板1に対向して、例えば、実装基板上にそれと一体的に設けられた図示しない反射枠体と対向して、2枚の板材、特に透光性基板、好ましくは、長尺のガラス板311,315とその間に挟持されて、かつその内部に気密に封止された有機系蛍光体40の層を有する容器から構成された線状発光体10が配置されている。なお、上記では、セラミックを材質とする基板を例示したが、特に制限なく用いることができる。また、LED素子を内蔵する成型基板1は、図示例では、線状発光体の両側に、2個設けているが、1個のみでもよい。その他、線状発光体10の下方に、複数個配置することもできる。また、透光性の板としては、ガラス板の他、例えば、ガラスガスバリアー性を持たせた各種プラスティック材料の板材も用いることができる。なお、発光素子としては、近紫外光を発光する近紫外LEDが好ましい。
この場合、気密に封止するとは、真空であっても窒素、Ar等の不活性ガス雰囲気中に封止してもよく、酸素ガス濃度が100ppm、好ましくは、20ppm以下の雰囲気に気密に封止することを言う。また、シリコーンオイル等の不活性な液体を用いて、封止してもよい。
【0007】
線状発光体10を構成する2枚のガラス板311,315は、直線状であり、通常、厚さ0.1〜2mm程度、幅1〜5mm程度、特に、2〜3mm程度で、長さは、ディスプレイの短手方向または長手方向の長さに合わせた長さとする。従って、例えば、10〜500mm、特に、A4サイズのディスプレイでは、ディスプレイの長手方向の長さである約300mmとされる。この2枚のガラス板311,315は、互いに同一材質から形成されていてもよいし、或いは、異なる材質から形成されていてもよい。但し、両者は、可視域で透明で、強度の高いものが好ましい。
ガラス材質のヤング率としては、50〜80MPa程度、密度としては、2〜3g/cm、屈折率としては、1.4〜1.6程度、軟化点としては、600〜1600℃の任意の範囲にあればよい。なお、可視域の透過率は、400nm以上で、80%以上、特に、85%以上あることが好ましい。
そして、350nm以下の近紫外域における透過率は、40%以下であることが好ましい。
このようなガラス材料としては、白板ガラス、高珪酸ガラス、亜鉛ホウ珪酸ガラス 等の何れであってもよい。例えば、白板ガラスとしては、SiO60〜80%、Al1〜5%、B2〜5%、NaO,KO,CaOの総計20〜30%のもの、高珪酸ガラスとしては、SiO 80 %以上、特に、90%以上のもの、また、亜鉛ホウ珪酸ガラスとしては、SiO70〜90%、残ZnO等の組成のものが好ましい。
なお、板材の一方を、アルミナ、セラミックス等の反射または散乱させる板材とすることもできる。これによれば、特に、図示のように、例えば、LEDが実装された成型基板1を線状発光体10の両端に設けてバックライトとした場合に、いずれかの板材に反射部材などを別途設ける必要がなくなり、製造工程を簡単化できる。しかし、このような場合も板材の一方は、透光性の板材とする。なお、線状発光体の線状とは、直線状であるが、必ずしも直線状だけでなく、必要に応じ、曲線状であってもよい。
【0008】
このような2枚のガラス板311,315を用いて両者を融着ないし封着するには、シール材を用いる。シール材としては、紫外線硬化樹脂等の各種接着剤を用いることもできるが、気密封止性の点で、特に、Sn系の低融点半田材料の融着によることが好ましい。図1、2に示される例では、シール材として、融着剤51,55(55は枠部材となるものである。)が形成されている。これによって、用いる有機系蛍光体の耐熱温度以下の温度で気密封止が可能となるため、熱による特性劣化が防止される。
この場合、Sn系半田としては、Snに58%の共晶組成のBiを含む合金等が好ましく、融点は110〜140℃程度とすることが好ましい。この際、必要に応じて、フラックス等を用いてもよい。
【0009】
図3、4には、このような融着ないし封止による気密封止を行うためのより効率的な方法が示される。
図3、4に示される例では、長尺のガラス板311の片面に、例えば、スクリーン印刷やディスペンサー等や、その他に方法によって、間隙を決定するためのスペーサーのシール材として、X方向に所定のパターン555を複数個有する枠部材55をガラスフリット等のガラス材を塗工ないし付与することによって形成する。このパターン555は、発光体の形状に応じ、2本の直線部を単位としている。そして、互いに平行に配置された2本の短冊状の直線部は、その一端が、連接されており、その他端には、ゲート部552を有するように、間隙をおいて、互いに対抗している。そして、その厚さは50〜100μm程度である。
その後、もう1枚の長尺のガラス板315をその上に載せ、所定の融着処理を施す。融着温度は、例えば、400〜600℃とする。その後、この場合は、集合体に、ゲート部552が露出しているので、この露出しているゲート部552から、有機系蛍光体を例えば、ペーストとして付与する。そして、Sn系等の低融点半田材の融着剤51をゲート部552に付与し、200℃以下の温度、例えば、140〜170℃の温度で、局所加熱して、融着を行う。そして、図3の図示Yの方向に、一方向、即ちY方向に、例えば、超硬チップのスクライバーを用いて切断して、図2に示される単体の線状発光体10を得る。このように集合で線状発光体10を得る。これにより、製造の効率化と製造時間の短縮ができる。
なお、蛍光体を付与し、ゲート部552を封止する前に、単体に切断して、その後、露出させたゲート部552から、有機系蛍光体を注入して、ゲート部552を融着封止して、線状発光体10を得てもよい。図示の例では、ガラス板311,315両者の融着後に、ゲート部552は、既に露出している。しかし、注入および融着の前に、Y方向の切断を行い、その後、集合体からの単体への切断を行って、ゲート部552を露出させ、その後、注入および融着を行ってもよい。
なお、パターン555を複数列、XY方向に設ける場合は、互いに、例えば、Y方向に対向する両端に各々ゲート部552を形成してもよい。図示のように、X方向のみに複数列のパターン555を形成した場合には、切断することなく全ての凹部553内に有機蛍光体を付与できる。また、XY方向の両方に、パターン555を複数列も設ける場合は、切断した後、ゲート部を露出させて、その後、有機系蛍光体を注入すればよい。
【0010】
このようにして、枠部材55のパターン555間に形成された凹部553内に、所定の雰囲気中で、蛍光体のペースト等を注入した後、同じ雰囲気中で、例えば、ディスペンサー等によって、Sn系半田等の低融点半田材料の融着剤51(図1参照)で、融着すればよい。 所定の温度で、融着すれば、線状発光体10が得られる。この場合、蛍光体は、図示のように、矩形状の直線として設けてもよいし、その他、曲線状であっても、円形等の各種形状として設けてもよい。
このような場合、枠部材55は、2枚のガラス板311,315と同一、或いは異なる材質のガラスフリット等のガラス材を用いてもよいし、必要に応じ、間隙を決定するためのフィラ−を添加した各種接着剤を塗布して用いてもよいし、その他、融着剤51自体を塗工して用いて付与してもよい。この場合の融着剤51の付与には、メッキその他の方法によってもよい。その場合、融着半田の材料に関しては、特に制限はない。また、以上では、枠部材および有機系蛍光体のそれぞれのパターン555を一方向、例えば、それぞれ、X方向に、複数対および複数個設けた例を示したが、その他、XY方向に亘って、それぞれを複数対および複数個ずつ設け、先ず一方向、例えば、X方向に切断し、各パターン555のゲート部552を露出させて、その後、有機系蛍光体の注入と融着とを行ってもよい。この場合は、1個の単体の線状発光体10を得るには、他方の方向、Y方向の切断を要するが、この切断は、融着および注入の前または後のどの時点で行ってもよい。なお、X方向にパターン555を複数個設けたものを、Y方向に2列設けた場合には、各列のパターン555のゲート部552をガラスの端部に向くようにする。これによれば、X方向の切断をすることなく、全てのパターン555の凹部553に蛍光体を注入することができるから、製造の効率化と製造時間の短縮ができる。
【0011】
次に線状発光体10の作成方法の異なる方法について図5、6、7に基づき説明する。
図5、6、7に示される例では、長尺のガラス板311の一面上に、先ず、所定の雰囲気中で、有機系蛍光体のペースト等をスクリーン印刷等によって例えば矩形状のパターンに形成する。この場合も図示例では、X方向に複数個設けているが、Y方向にも複数個設けてもよいことは、勿論である。そして、この有機系蛍光体のパターンに対応して、他方のガラス板315の一面上に、例えば、スクリーン印刷によって、シール材のパターン555を枠部材55として、50〜100μm程度の厚さで形成する。シール材としては、例えば、エポキシ系の熱硬化型接着剤を用いることができる。そして、2枚のガラス板311,315を重ね合わせ、例えば、120〜180℃程度の所定の温度で接着する。その後、Y方向に切断して、例えば、窒素雰囲気中で、UV硬化型接着剤や、低融点半田材料をゲート部552に付与し、UV硬化処理を施せばよい。この場合も切断と注入および融着との順序は、問わない。
なお、シール材のパターン555を、ガラス板311,315のいずれか一方、或るいは、両方に形成させて、線状発光体を製造することもできる。
【0012】
次に、有機系蛍光体について説明する。
本発明では、蛍光体として、有機系蛍光性錯体が用いられる。その他、各種蛍光体部分を主鎖中に含むポリマー等本の有機系蛍光体も用いることができる。蛍光性錯体としては、特に限定されないが、通常、1種または2種以上の配位子アニオンと3価の希土類元素のイオンとの錯体である希土類イオン錯体が使用される。希土類元素しては、Sm、Eu、Tb、Ey、Tm等が挙げられる。なかでも、赤色蛍光体としてはEu(ユーロピウム)元素、青色蛍光体としてはTm(ツリウム)元素、緑色蛍光体としては、Tb(テルビウム)元素のイオン錯体が好ましい。
このような蛍光性錯体としては、特開2005−8872号公報、特開2004−356358号公報、特開2004−352928号公報、特開2005−41941号公報、特開2005−41942号公報、特開2005−112923号公報、特開2005−252250号公報、特開2003−81986号公報、特許第3668966号公報、特開2003−147346号公報、国際公開第2004/104136号パンフレット、国際公開第2004/107459号パンフレット、国際公開第2005/75598号パンフレット等に記載されているものを例示することができる。
【0013】
特に、赤色蛍光性錯体であるユーロピウム錯体が好ましく用いられる。本発明においては、主鎖に蛍光体物質を含むポリマーを用いることもできるが、発光効率の点では、赤色蛍光体としてジケトン、或いは、カルボン酸を配位子とするユーロピウム錯体を用いることが好ましい。この赤色蛍光体に加えて、前述の各種有機系蛍光体を用いてもよいし、或いは、無機系の蛍光体を用いることもできる。
このような錯体の好ましい例としては、まず、下記式(1)で表される特定のβ−ジケトンのアニオンを配位子とする錯体が挙げられる。
【0014】
【化1】

【0015】
式(1)において、pは1または2であり、qは1、2、3または4である。Xは各々同一であっても異なっていてもよく、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、炭素数1〜20の基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、またはメルカプト基を表す。Yは各々同一であっても異なっていてもよく、炭素数1〜20の基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、またはメルカプト基を表す。Zは水素原子または重水素原子を表す。
【0016】
炭素数1〜20の基としては;
直鎖または分枝を有するアルキル基(Cn2n+1;n=1〜20)、およびパーフルオロアルキル基(Cn2n+1;n=1〜20)、パークロロアルキル基(CnCl2n+1;n=1〜20)などの直鎖または分枝を有するパーハロゲン化アルキル基;
直鎖または分枝を有するアルケニル基(ビニル基、アリル基、ブテニル基)、およびパーフルオロアルケニル基(パーフルオロビニル基、パーフルオロアリル基、パーフルオロブテニル基)、パークロロアルケニル基などの直鎖または分枝を有するパーハロゲン化アルケニル基;
シクロアルキル基(C2n−1;n=3〜20)、およびパーフルオロシクロアルキル基(C2n−1;n=3〜20)、パークロロアルキル基(CCl2n−1;n=3〜20)などの直鎖または分枝を有するパーハロゲン化アルキル基;
シクロアルケニル基(シクロペンテン−イル基、シクロヘキセン−イル基等)、およびパーフルオロシクロアルケニル基、パークロロアルケニル基などのパーハロゲン化アケニル基;
フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基等の芳香族基、およびパーフルオロフェニル基、パーフルオロナフチル基、パーフルオロビフェニル基、パークロロフェニル基、パークロロナフチル基、パークロロビフェニル基などのパーハロゲン化芳香族基;
ピリジル基等のヘテロ芳香族基、およびパーフルオロピリジル基等のパーハロゲン化ヘテロ芳香族基;
ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基、およびパーフルオロベンジル基などのパーハロゲン化アラルキル基;
等を挙げることができる。
【0017】
XおよびYで表される炭素数1〜20の基は、必要に応じて重水素原子、ハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、メルカプト基などの置換基で置換されていていてもよい。
また、炭素数1〜20の基の任意の位置のC−C単結合の間に−O−、−COO−、−CO−を一個または複数個介在させて、エーテル、エステル、ケトン構造としてもよい。
【0018】
XおよびYがアルケニル基である式(1)のユーロピウム錯体を、必要に応じてエチレン、プロピレンなどのオレフィンおよびハロゲン化オレフィン重合させて高分子ユーロピウム錯体としてもよい。
【0019】
式(1)で表される化合物において、Yとしては、前記のものが使用可能であるが、特に、ユーロピウム錯体あるいはユーロピウム錯体を含む固体担体の安定性および発光強度の点を考慮すると、炭素数1〜4のアルキル基、パーハロゲン化アルキル基、芳香族基、パーハロゲン化芳香族基、ヘテロ芳香族基、パーハロゲン化ヘテロ芳香族基が好ましく、なかでもパーフルオロアルキル基、芳香族基、ヘテロ芳香族基が最も好ましい。
【0020】
pは1または2であるが、好ましくは2である。qは1〜4のいずれかであるが、好ましくは3である。
【0021】
式(1)で表される錯体であってZが重水素原子Dであるものは、Zが水素原子である式(1)で表される錯体と重水素化剤を重水素置換反応することにより得られる。用いられる重水素化剤は、重水素を含むプロトン性化合物、具体的には、重水、重水素化メタノール、重水素化エタノールなどの重水素化アルコール、重塩化水素、重水素化アルカリなどが挙げられる。反応を促進させるためにトリメチルアミン、トリエチルアミンなどの塩基剤や添加剤を加えてもよい。重水素置換反応は、Zが水素原子である式(1)で表される錯体と重水素化剤を混合することにより得られるが、反応時に非プロトン性の溶媒を加えてもよい。非プロトン性溶媒としてはアセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン等のハロゲン系溶媒、ジメチルスルオキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)等が挙げられる。中でも、式(1)が溶解可溶な溶媒が好ましい。
【0022】
また、用いる重水素化剤の量としては、式(1)で表される錯体の総量(1質量部とする)に対して1〜100質量部程度が例示され、好ましくは1〜20質量部程度である。
【0023】
混合する方法としては特に限定されず、室温から150℃の温度で、好ましくは30℃から100℃の温度で、必要に応じて撹拌下、0.1〜100時間、好ましくは00.1〜20時間混合すればよい。
【0024】
撹拌後、重水素化剤および溶媒を留去することにより、重水素化錯体が得られる。また、必要に応じて、再結晶、カラムクロマト、昇華等の方法によりさらに精製可能である。
【0025】
式(1)で表される錯体の具体例としては、式(1)の表記に従って示すと、
X=H,Y=CF,Z=H,p=2,q=3の組合せで示されるもの(錯体化合物1−1)、
X=H,Y=CF,Z=D,p=2,q=3の組合せで示されるもの(錯体化合物1−2)、
などが挙げられる。
【0026】
また、ユーロピウム錯体の好ましい例としては、芳香族環を含む置換基を有するβ−ジケトンのアニオン、あるいは芳香族基を含む置換基を有するカルボン酸イオンを配位子とする錯体が挙げられる。
【0027】
芳香族環を含む置換基を有するβ−ジケトンのアニオンを配位子とする錯体としては、例えば、下記式(2)、(3)または(4)で表されるユーロピウム錯体が挙げられる。
(REu (2)
(REu(R
(3)
〔(REu〕
(4)
式(2)、(3)および(4)において、Rは芳香族環を含む置換基を有するβ−ジケトンのアニオンであり、Rはルイス塩基からなる補助配位子であり、Rは4級アンモニウムイオンである。
【0028】
式(2)、(3)および(4)における芳香族環を含む置換基を有するβ−ジケトンとしては、少なくとも1つの芳香族基を有することが好ましく、さらに、この芳香族基としては、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素化合物または芳香族複素環(ヘテロ環)化合物から誘導される基が挙げられる。
芳香族炭化水素化合物としては、例えば、ベンゼン、ナフタレン、フェナントレン等が挙げられる。芳香族複素環化合物としては、フラン、チオフェン、ピラゾリン、ピリジン、カルバゾール、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェン等の酸素、窒素、硫黄原子を含む複素環化合物が挙げられる。
【0029】
また、これらの芳香族炭化水素化合物または芳香族複素環化合物の置換基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル等のアルキル基;トリフルオロメチル、ペンタフルオロメチル等のフルオロアルキル基;メトキシ、エトキシ等のアルコキシ基;ベンジル、フェネチル等のアリールオキシ基;ヒドロキシル基;アリル基;アセチル、プロピオニル等のアシル基;アセトキシ、プロピオニルオキシ、ベンゾイルオキシ等のアシルオキシ基;メトキシカルボニル、エトキシカルボニル等のアルコキシカルボニル基;フェノキシカルボニル等のアリールオキシカルボニル基;カルボキシル基;カルバモイル基;アミノ基;ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、メチルベンジルアミノ、ジフェニルアミノ、アセチルメチルアミノ等の置換アミノ基;メチルチオ、エチルチオ、フェニルチオ、ベンジルチオ等の置換チオ基;メルカプト基;エチルスルフォニル、フェニルスルフォニル等の置換スルフォニル基;シアノ基;フルオロ、クロロ、ブロモ、ヨード等のハロゲン基等が挙げられる。これらの置換基は、互いに結合して環を形成してもよい。
【0030】
β−ジケトンを構成する芳香族基以外の置換基としては、前述した芳香族炭化水素化合物または芳香族複素環化合物の置換基と同様な置換基(但し、ハロゲン基は除く)が挙げられる。芳香族環を含む置換基を有するβ−ジケトンの具体例(1〜19)を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0031】
【化2】

【0032】
式(2)で表されるユーロピウム錯体の具体例(1〜7)を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0033】
【化3】

【0034】
次に、式(3)で表されるユーロピウム錯体について説明する。式(3)におけるルイス塩基からなる補助配位子(R)としては特に限定されないが、通常、ユーロピウムイオンに配位可能な窒素原子または酸素原子を有するルイス塩基化合物から選択される。それらの例としては、置換基を有していてもよいアミン、アミンオキシド、ホスフィンオキシド、スルホキシド等が挙げられる。補助配位子として使用される2個のルイス塩基化合物は、それぞれ異なる化合物でもよく、また、2個の化合物で1つの化合物を形成していてもよい。
【0035】
具体的には、例えば、アミンとしては、ピリジン、ピラジン、キノリン、イソキノリン、フェナントリジン、2,2’−ビピリジン、1,10−フェナントロリン等が挙げられる。アミンオキシドとしては、ピリジン−N−オキシド、2,2’−ビピリジン−N,N’−ジオキシド等の上記アミンのN−オキシドが挙げられる。ホスフィンオキシドとしては、トリフェニルホスフィンオキシド、トリメチルホスフィンオキシド、トリオクチルホスフィンオキシド等が挙げられる。スルホキシドとしては、ジフェニルスルホキシド、ジオクチルスルホキシド等が挙げられる。これらに置換する置換基としては、前述した置換基が例示される。中でも、特に、アルキル基、アリール基、アルコシキル基、アラルキル基、アリールオキシ基、ハロゲン基等が好ましい。
【0036】
これらのルイス塩基化合物の中でも、ビピリジンやフェナントロリン等のように、分子内に配位する原子、例えば窒素原子等の2個存在する場合は、1つのルイス塩基化合物で2個の補助配位子と同様な働きをさせてもよい。なお、これらのルイス塩基化合物に置換する置換基としては、前述した置換基が例示される。中でも、特に、アルキル基、アリール基、アルコシキル基、アラルキル基、アリールオキシ基、ハロゲン基等が好ましい。
【0037】
補助配位子として使用するルイス塩基化合物(R)の具体例(1〜23)を以下に例示するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0038】
【化4】

【0039】
式(3)で表されるユーロピウム錯体の具体例(1〜13)を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0040】
【化5】

【0041】
次に、式(4)で表されるユーロピウム錯体について説明する。式(4)におけるアンモニウムイオンとしては、アルキルアミン、アリールアミン、アラルキルイオンから誘導される4級アンモニウム塩が挙げられる。アミンの置換基としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル、オクチル等のアルキル基;ヒドロキシエチル、メトキシエチル等の置換アルキル基;フェニル、トリル等のアリール基;ベンジル、フェネチル基等のアリールアルキル基等が挙げられる。
【0042】
式(4)で表されるユーロピウム錯体の具体例(1〜5)を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0043】
【化6】

【0044】
一方、芳香族基を含む置換基を有するカルボン酸イオンを配位子とする錯体としては、例えば、式(5)で表されるユーロピウム錯体が挙げられる。
(R−(X−COO)Eu(R
(5)
式(5)において、Rは置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環または芳香族複素環を少なくとも1つ含む基であり、Xは2価の連結基であり、nは0または1であり、Rは、ルイス塩基からなる補助配位子である。
【0045】
式(5)で表される配位子は、芳香族環を少なくとも1つ含み、π電子を8個以上有し、π電子共役系を構成するカルボン酸イオンを配位子として用いることが、吸収波長域の点から好ましい。また、芳香族環の個数は、カルボン酸イオンの母体化合物の三重項エネルギーが、ユーロピウムイオン励起状態エネルギーレベルよりも高いものであれば特に制限されないが、通常、3環式以下の芳香族または芳香族複素環を用いることが好ましい。芳香族環の個数が4環以上の場合は、例えば、芳香族環を4環以上有するピレン等の化合物は、半導体発光素子等からの光を吸収して励起された三重項エネルギーが低くなり、ユーロピウム錯体が発光しなくなるおそれがある。
【0046】
式(5)中のRは、置換基を有していてもよい3環式以下の芳香族環、または複素芳香族環から誘導される1価の基であることが好ましい。芳香族環としては、例えば、ベンゼン、ナフタレン、インデン、ビフェニレン、アセナフテン、フルオレン、フェナントレン、テトラリン、インダン、インデン等の芳香族単環式炭化水素または芳香族縮合多環式炭化水素;ベンゾキノン、ナフトキノン、アントラキノン等の芳香族炭化水素から誘導される化合物等が挙げられる。複素(ヘテロ)芳香族環としては、フラン、ピロール、チオフェン、オキサゾール、イソキサゾール、チアゾール、イミダゾール、ピリジン、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、クマリン、ベンゾピラン、カルバゾール、キサンテン、キノリン、トリアジン等の芳香族単環式複素環または芳香族縮合多環式複素環等が挙げられる。
【0047】
また、Rが有していてもよい置換基としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル等のアルキル基;トリフルオロメチル、ペンタフルオロエチル等のフルオロアルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;エチニル基;フェニルエチニル、ピリジルエチニル、チエニルエチニル等のアリールエチニル基;メトキシ、エトキシ等のアルコキシ基;フェニル、ナフチル等のアリール基;ベンジル、フェネチル等のアラルキル基;フェノキシ、ナフトキシ、ビフェニルオキシ等のアリールオキシ基;ヒドロキシル基;アリル基;アセチル、プロピオニル、ベンゾイル、トルオイル、ビフェニルカルボニル等のアシル基;アセトキシ、プロピオニルオキシ、ベンゾイルオキシ等のアシルオキシ基;メトキシカルボニル、エトキシカルボニル等のアルコキシカルボニル基;フェノキシカルボニル等のアリールオキシカルボニル基;カルボキシル基;カルバモイル基;アミノ基;ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、メチルベンジルアミノ、ジフェニルアミノ、アセチルメチルアミノ等の置換アミノ基;メチルチオ、エチルチオ、フェニルチオ、ベンジルチオ等の置換チオ基;メルカプト基;エチルスルフォニル、フェニルスルフォニル基等の置換スルフォニル基;シアノ基;フルオロ、クロロ、ブロモ、ヨード等のハロゲン基等が挙げられる。これらの中でも、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、シクロアルキル基、シクロアルキル基、アリールオキシ基、アラルキル基、エチニル基、ハロゲン基が好ましい。なお、Rにおいては、これらの置換基に限定されるものではない。また、これらの置換基はさらに置換基を有していてもよい。
【0048】
次に、式(5)におけるカルボン酸イオンは、2価の連結基であるXを有しない場合(n=0)と、有する場合(n=1)とに分けられる。更に、2価の連結基であるXを有する場合(n=1)、Xは、カルボニル基を有する場合と、有しない場合との2種類に分けられる。このため、式(5)におけるカルボン酸イオンは、さらに、カルボニル基を有しない式(5−1)と、カルボニル基を有する式(5−2)とで表される。ユーロピウム錯体は、これらのカルボン酸イオンを配位子とする錯体構造のいずれであってもよい。
−R−COO (5−1)
−(CO)−(R−COO (5−2)
【0049】
式(5−1)および式(5−2)において、Rは、2価の連結基となるものであればよいが、例えば、アルキレン基、環集合炭化水素から誘導される2価の連結基、脂肪族環、芳香族環、複素環から誘導される2価の連結基等が挙げられる。また、式(5−2)において、mは0または1である。Rの、アルキレン基としては、メチレン、エチレン等が挙げられる。環集合炭化水素としては、ビフェニル、テルフェニル、ビナフチル、シクロヘキシルベンゼン、フェニルナフタレン等が挙げられる。脂肪族環としては、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、ノルボルナン、ビシクロヘキシル等が挙げられる。芳香族環としては、前述した芳香族環の具体例と同様な化合物が挙げられる。複素環としては、前述した芳香族複素環の他に、ピラゾリン、ピペラジン、イミダゾリジン、モルホリン等の脂肪族複素環が挙げられる。その他、−SCH−等のチオアルキレン;−OCH−等のオキシアルキレン;ビニレン(−C=C−)等が挙げられる。なお、Rは、これらの2価の置換基に限定されるものではない。また、これらの2価の置換基はさらに置換基を有していてもよい。
【0050】
式(5)におけるカルボン酸イオンが誘導されるカルボン酸の具体例を以下に例示するが、本発明はこれらに限定されるものではない。式(5)においてnが0の場合の化合物は、以下のカルボン酸(1〜10)が挙げられる。
【0051】
【化7】

【0052】
式(5)においてnが1であり、XがRである場合(式(5−1))の化合物は、以下のカルボン酸(11〜15)が挙げられる。
【0053】
【化8】

【0054】
式(5−2)において、mが0の場合の化合物は、以下のカルボン酸(16,17)が挙げられる。
【0055】
【化9】

【0056】
式(5−2)において、mが1の場合であって、Rがフェニル基、Rがフェニル基の場合の化合物は、以下のカルボン酸(18〜30)が挙げられる。
【0057】
【化10】

【0058】
式(5−2)において、mが1の場合であって、Rがフェニル基、Rがナフチル基の場合の化合物は、以下のカルボン酸(31〜34)が挙げられる。
【0059】
【化11】

【0060】
式(5−2)において、mが1の場合であって、Rがフェニル基、Rがその他の基の場合の化合物は、以下のカルボン酸(35〜37)が挙げられる。
【0061】
【化12】

【0062】
式(5−2)において、mが1の場合であって、Rがナフチル基、Rが芳香族環の場合の化合物は、以下のカルボン酸(38〜41)が挙げられる。
【0063】
【化13】

【0064】
式(5−2)において、mが1の場合であって、Rがナフチル基、Rがその他の基の場合の化合物は、以下のカルボン酸(42〜44)が挙げられる。
【0065】
【化14】

【0066】
式(5−2)において、mが1の場合であって、Rがアセナフチル基、Rがフェニル基その他の場合の化合物は、以下のカルボン酸(45〜48)が挙げられる。
【0067】
【化15】

【0068】
式(5−2)において、mが1の場合であって、Rがフルオレニル基、Rがフェニル基の場合の化合物は、以下のカルボン酸(49〜55)が挙げられる。
【0069】
【化16】

【0070】
式(5−2)において、mが1の場合であって、Rがフェナントレニル基、Rがフェニル基その他の場合の化合物は、以下のカルボン酸(56〜59)が挙げられる。
【0071】
【化17】

【0072】
式(5−2)において、mが1の場合であって、Rが複素環基、Rがフェニル基の場合の化合物は、以下のカルボン酸(60,61,I−1〜I−21)が挙げられる。
【0073】
【化18】

【0074】
【化19】

【0075】
【化20】

【0076】
式(5)における配位子としてのカルボン酸イオンが誘導されるカルボン酸は、公知の合成方法により合成することができる。合成法については、例えば、新実験化学講座第14巻「有機化合物の合成と反応(II)」第921頁(1977)日本化学会編、または、第4版実験化学講座第22巻「有機合成IV」第1頁(1992)日本化学会編等に記載されている。代表的な合成法としては、対応する第1アルコールやアルデヒドの酸化反応、エステルやニトリルの加水分解反応、酸無水物によるフリーデル・クラフツ反応等が挙げられる。
【0077】
特に、無水フタル酸、ナフタル酸無水物、無水こはく酸、ジフェン酸無水物、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸無水物、2,3−ピリダジンジカルボン酸無水物等のジカルボン酸の環状無水物を用いたフリーデル・クラフツ反応では、分子内にカルボニル基を有するカルボン酸が合成できる。例えば、芳香族炭化水素または芳香族複素環と無水フタル酸とを用いたフリーデル・クラフツ反応によれば、下記反応式に示すように、ベンゼン環のオルト位にカルボニル基が結合したカルボン酸が容易に合成できる。ベンゼン環のオルト位にカルボニル基が結合したカルボン酸は、パラ位置換体に比べ輝度が高い錯体が得られやすいことから好ましい。なお、式中、Arは、芳香族炭化水素または芳香族複素環を表す。
【0078】
【化21】

【0079】
式(5)におけるルイス塩基からなる補助配位子(R)としては、前述した式(3)におけるルイス塩基からなる補助配位子(R)と同様な化合物が挙げられる。
【0080】
このようなカルボン酸を配位したユーロピウム錯体としては以下のものを例示することができる。
【0081】
【化22】

【0082】
【化23】

【0083】
【化24】

【0084】
【化25】

【0085】
【化26】

【0086】
【化27】

【0087】
本発明においては、赤色蛍光性錯体であるユーロピウム錯体とともに用いられる青色蛍光体と緑色蛍光体としては、前記の蛍光性錯体の他、公知の蛍光体を使用することができる。このような蛍光体としては、例えば、青色蛍光体として、ZnS:Ag、Sr(POCl:Eu、BaMgAl1017:Eu等の無機蛍光体が挙げられる。また、緑色蛍光体としては、ZnS:Cu、ZnS:CuAl、BaMgAl1017:Eu,Mn等の無機蛍光体が挙げられる。
白色光を発光させるには、これらの蛍光体を組み合わせて使用すればよい。
【0088】
本発明に用いるLED(発光ダイオード)は、近紫外LEDであり、発光ピーク波長としては、360nmから470nmの範囲にあることが好ましく、特に、380nmから470nmにピーク波長を有することが好ましい。とりわけ、405±10nmの発光ピーク波長を有するLEDを用いることが好ましい。
ピーク波長が過度に短波長側にあると、錯体等の有機化合物が光劣化しやすくなり、ピーク波長が過度に長波長側にある場合は、蛍光性錯体の発光に必要な光励起エネルギーが得られず、蛍光体が発光できなくなる。
【実施例1】
【0089】
昭和電工株式会社製の近紫外LED GU35S400T(中心波長400nm)を実装した成型基板1を、線状発光体10の両端に装着し、発光装置100を組み立てた。
線状発光体10の2枚のガラスは、ドイツのシュピーゲルグラス社製特殊薄板ガラス(白板ガラス)D263No.2((熱膨張係数:73×10−7/℃)を用いた。大きさは、A4サイズの約300mmで、幅400mm、厚さ0.5mmのもの用意した。これらを水系洗剤で洗浄し、蒸気乾燥した。上面ガラス基板315となるガラス材は、フリットガラスペーストを印刷後、300℃で乾燥した。乾燥後のペースト厚は50μmであった。下面ガラス基板311となるガラス材には、フリットガラスペーストを印刷した(図3、4参照)。印刷は、スクリーン印刷により、400メッシュのステンレスのスクリーン版を用いて行い、ウェット状態で保持した。フリットガラスは、エレクトロ−サイエンス ラボラトリ社の品番#4017Cを用いた。
次に、上面ガラス基板315と下面ガラス基板311とを重ね合わせ、焼成した。重ね合わせ時の基板間隔は100μmとした。焼成は、100℃で30分(溶剤乾燥)、350℃で45分、480℃で1時間とし、トータルで3時間行った。この時、1cmあたり20〜30gの圧力をかけた。焼成し融着した後の基板間隔は70μmであった。
次いで、幅2.0mmに短冊状に切断した。即ち、2枚貼り合わせの表裏から、超硬チップのスクライバーを用いて、Y方向のみ切断した。
錯体蛍光体のペーストの注入口(ゲート部552)面に、Cr、Ni、Agの金属の多層蒸着を行った。
錯体蛍光体として、ユーロピウム錯体化合物1−1[式(1)において、X=H,Y=CF,Y=H,p=2,q=3の組合せのもの]を用い、これをシリケート樹脂に分散させてペーストを調製した。なお、ペーストを調製する材料は、シリコーン樹脂やポリビニルアルコールでもかまわない。
続いて、この調製したペーストを、ゲート部552から凹部553内へ注入し、注入した後に、150℃で加熱してペーストを硬化させた。その後、注入口(ゲート部552)を半田封止した。半田は、低融点半田を用いた。具体的には、Sn系半田のBi 58質量%の共晶合金(千住金属社製:半田温度139℃)を用いた。封止作業温度は、160℃とした。
その後、Y方向の切断を行い、長さ300mm、幅2.0mm、厚さ1.07mmの線状の発光体の単体を得た。
これらについて、洗浄液としてアセトンを使用した超音波洗浄機により、切断時、注入時の汚れを洗浄した。
【0090】
気密性をレッドチェック液で検査した。この液に浸漬して、6時間後、外観検査で判断した。その結果、気密性に優れることがわかった。
このものは、高い色再現性を持った赤色発光が線状に観察された。
【実施例2】
【0091】
ホウ珪酸ガラス系のガラス材のショットガラスD263(板厚0.5mm)を2枚用意し、これらを水系洗剤で洗浄し、蒸気乾燥した。下面ガラス基板311となる一方のガラス基板には、実施例1と同じ有機蛍光体を分散させたペーストを用いてスクリーン印刷により印刷した(図5、6、7参照)。ペースト厚は、50μmとした。スクリーン印刷は、350メッシュのステンレスのスクリーン版を用いて行った。上面ガラス基板315となるもう一方のガラス基板には、シール材として、エポキシ系熱硬化型接着剤のストラクトボンドHC−1413FP(三井化学製)を用い、スクリーン印刷により、図示のように、印刷した。スクリーン印刷は、250メッシュのステンレスのスクリーン版を用いて行った。シール材の印刷後、90℃で10分間仮乾燥した。
次に、上面ガラス基板315と下面ガラス基板311とを重ね合わせ、焼成した。重ね合わせ時の基板間隔は100μmとした。焼成は、150℃で1時間行った。この時、1cmあたり200〜300gの圧力をかけた。焼成し接着した後の基板間隔は60μmであった。
次いで、2枚貼り合わせの表裏から、超硬チップのスクライバーを用いて、パターンが印刷されていない部分であるパターン間から切断、つまり図示のY方向から切断し、実施例1と同一サイズの単体を得た。
この錯体蛍光体のペーストを硬化させ、その後、注入口を封止材として、スリーボンド3051(住友スリーエム社製)を用いて、窒素雰囲気中で紫外線硬化処理を施して、封止した。
これらについて、洗浄液としてアセトンを使用した超音波洗浄機により、切断時、注入時の汚れを洗浄した。
気密性をレッドチェック液で検査した。この液に浸漬して、6時間後、外観検査で判断した。その結果、気密性に優れることがわかった。
このものを線状発光体10として用いて実施例1と同様にして発光装置を組み立てたところ、高い色再現性を持った線状の赤色発光が観察された。
【実施例3】
【0092】
実施例1、2において、注入するペーストとして、BaMgAl1017:Eu(青色蛍光体)、ZnS:Cu(緑色蛍光体)、および実施例1と同じユーロピウム錯体化合物1−1(赤色蛍光体)の混合物をポリビニルアルコールに分散させたものを用いるほかは同様の操作を行い、このものを線状発光体10として用いて、実施例1、2と同様にして発光装置を組み立てたところ、高い色再現性を持った線状に発光する白色発光が観察された。
【実施例4】
【0093】
実施例1〜3において、ユーロピウム錯体(赤色蛍光体)を、前述の各種例示化合物にかえるほかは、同様の操作を行ったところ、同様に、良好な結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0094】
白色LEDが実現できる線状発光体およびその製造方法、ならびにその線状発光体を用いた発光装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】線状発光体の実施形態の構成を示す正面図である。
【図2】線状発光体の実施形態の構成を示す模式断面図である。
【図3】線状発光体の製造における第1の融着封止方法の説明図である。
【図4】線状発光体の製造における第1の融着封止方法の説明図である。
【図5】線状発光体の製造における第2の融着封止方法の説明図である。
【図6】線状発光体の製造における第2の融着封止方法の説明図である。
【図7】線状発光体の製造における第2の融着封止方法の説明図である。
【符号の説明】
【0096】
100 発光装置
10 線状発光体
1 成型基板
311,315 ガラス基板
40 有機系蛍光体
51 融着剤
55 枠部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光素子から発光された光を可視光に変換する有機系蛍光体を備えた線状発光体であって、前記有機系蛍光体が2枚の板材であって、少なくとも一方が透光性の板材の板の間に挟み込み、気密封止されていることを特徴とする線状発光体。
【請求項2】
前記発光素子は、近紫外の光を発光する近紫外LEDである請求項1の線状発光体。
【請求項3】
前記透光性の少なくとも一方の板材は、ガラス板である請求項1または2の線状発光体。
【請求項4】
前記2枚の板材がガラス板であって、このガラス板の間に、前記有機系蛍光体を、融着剤によって気密封止している請求項1〜3のいずれかの線状発光体。
【請求項5】
前記2枚のガラス板が融着剤と枠部材とを用いて気密封止されている請求項4の線状発光体。
【請求項6】
前記融着剤は、半田材から形成される請求項1または5の線状発光体。
【請求項7】
前記枠部材は、ガラス材または熱硬化型接着剤から形成されている請求項5または6の線状発光体。
【請求項8】
前記有機系蛍光体は、赤色蛍光体錯体である請求項1〜7のいずれかの線状発光体。
【請求項9】
前記赤色蛍光体錯体は、Euのジケトンまたはカルボン酸錯体である請求項8の線状発光体。
【請求項10】
前記有機系蛍光体に加えて、さらに、青および/または緑色の蛍光体を用いる請求項1〜9のいずれかの線状発光体。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかの線状発光体に1つまたは2つ以上の近紫外LEDを配置した発光装置。
【請求項12】
所定の枠材パターンを形成させて透光性の板材を貼り合わせる工程を有し、
この貼り合わせた工程の際に、空間とゲート部が形成されており、
さらに、前記枠材パターン間に露出したゲート部から、所定の雰囲気で、有機系蛍光体を注入する工程と、
前記ゲート部に融着剤を付与してゲート部を閉口する工程と、
切断する工程とを有する、集合で、複数の請求項1〜10のいずれかの線状発光体を得る線状発光体の製造方法。
【請求項13】
2枚の透光性の板材のうち、透光性の板材の一方に、所定の雰囲気で、有機系蛍光体を付与する工程と、
一方および/または他方の透光性の板材に、前記有機系蛍光体の付与した際の形状に従って枠部材を所定のパターンで形成する工程と、
これら2枚の透光性の板材を所定の雰囲気下で融着ないし封止する工程と、
切断する工程とを有する、集合で、複数の請求項1〜10のいずれか線状発光体を得る線状発光体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−324337(P2007−324337A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−152180(P2006−152180)
【出願日】平成18年5月31日(2006.5.31)
【出願人】(000131430)シチズン電子株式会社 (798)
【Fターム(参考)】