説明

締結具

【課題】
各種板材で形成された天井や屋根に照明器具などを取り付けるため、従来のインサート金物と同様の機能を果たす締結具を提供すること。
【解決手段】
棒状の胴部12と、この胴部12の一端面に形成された鍔部13と、で構成される締結具11において、胴部12の先端面14には、軸方向に延びる雌ネジ17または雄ネジ18を形成して、且つ胴部12の先端面14側を円断面の導入部15として、この導入部15と鍔部13との間には、導入部15の側周面よりも半径方向に突出する凸部16を形成する。このように構成することで、締結具11を板材Pの下孔Hに打ち込む際、導入部15だけを下孔Hに差し込んだ段階で安定した姿勢が維持され、この状態で鍔部13を打撃すると、凸部16が下孔Hの内周面に食い込んで全体が不動状態で固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の内部に照明器具や配線などを取り付けるための締結具に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物に照明器具や配線や配管などを設置する場合、これらをコンクリート表面に直接取り付けることは困難であり、通常はインサート金物を介在させている。インサート金物は一面に雌ネジが形成されており、コンクリートを打設する際、この雌ネジがコンクリートの表面に露見するように埋め込むことで、凝固後、雌ネジにボルトを螺合させて照明器具などを取り付けることができる。なお凝固後のコンクリートにインサート金物を埋め込むことは不可能であり、このような場合にはコンクリートに穴をあけて各種のアンカーを打ち込むことになる。
【0003】
工場や倉庫などの大規模な建築物は、コストダウンやライフサイクルなどを考慮して、鉄骨に壁板を取り付けていく簡易な工法が採用される場合がある。このような建築物の屋根に瓦などの伝統的な素材が用いられることはなく、代わりに折板を始めとする金属板が用いられることが多い。金属板を用いた屋根は、断熱性などで不利な面もあるが、工期の短縮が可能でしかも建物の軽量化やリサイクルが容易など、様々な利点を有している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
折板を始めとする金属板の屋根から照明器具や配線などを吊り下げる場合、当然ながら前記のようなインサート金物は使用できないため、通常は金属板に孔を加工して、これにボルトを挿通して先部にナットを螺合させた後、ボルトの頭部とナットで金属板を挟み込んで全体を固定している。この際、ボルトやナットの供回りを防ぐため、双方に工具を掛ける必要があるが、金属板を隔てて両側で作業を行うため効率が著しく低下する。そこで金属板に孔を加工する際、同心でナットを溶接で取り付けていくこともある。しかし直径数センチ程度のナットを高所で一個ずつ溶接していく作業は様々な困難が伴い、しかも孔とナットの中心に誤差が生じるなどの不具合も発生しやすい。なお最近の商業施設には、屋根のほか天井にも金属板を用いる場合があり、照明器具などの取り付けに際して同様な課題が発生する。
【0005】
このような課題を解決するため、特許文献1記載のような技術が提案されている。この技術は木造建築物などにおいて、ボルトとナットを用いて部材を締結する際に用いられ、ナットと座金を一体化した上、座金の四隅を折り曲げてスパイクを形成して、このスパイクが部材に食い込むことでナットが固定され、ボルトを着脱する際、ナットの供回りを防止することを特徴としている。しかし、この発明を木材ではなく金属板に適用した場合、スパイクや金属板が変形して食い込みが不十分になる恐れがあるほか、スパイクを備えたナットだけを金属板に固定することも困難であり、様々な課題が発生する。
【特許文献1】特開2001−303664号公報
【0006】
本発明はこうした実情を基に開発されたもので、各種板材で形成された天井や屋根に照明器具などを取り付けるため、従来のインサート金物と同様の機能を果たす締結具の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題を解決するための請求項1記載の発明は、棒状の胴部の一端に鍔部が形成され、前記胴部の先端面には、軸方向に延びる雌ネジまたは雄ネジが形成され、且つ胴部の先端面側には円断面の導入部を備え、該導入部と前記鍔部との間には、導入部の側周面よりも半径方向に突出している凸部を備えていることを特徴とする締結具である。
【0008】
本発明は、天井や屋根などを構成する板材にボルトやナットなどを取り付けるための締結具であり、その胴部を板材に加工された下孔に差し込んだ後、鍔部を金槌などで打撃することで板材と一体化することを特徴とする。鍔部は文字通り鍔状に形成された部位であり、板材の表面に接触してストッパとしての機能を有しており、その形状は円盤状や矩形状や六角形状など自在である。対する胴部は、鍔部から突出する棒状のもので、鍔部から最も遠い端部を先端面と規定しており、この先端面から胴部の軸方向に沿って雌ネジまたは雄ネジが形成されている。雌ネジの場合には、当然ながら先端面から鍔部に向けて形成されるが、雄ネジの場合には、胴部よりも断面の小さい雄ネジが先端面から前方に突出する形態となる。なお軸方向とは、棒状の胴部の長手方向を意味しており、また半径方向とは、軸方向に対して直交する方向を意味している。
【0009】
導入部は、胴部において先端面側の部位を指しており、円断面であり文字通り、板材に差し込む際のガイドとなる機能を有している。この導入部を下孔に差し込むことで、胴部の傾きや半径方向への移動が拘束され、全体を安定した状態で仮置きすることができる。したがって導入部の長さは、想定される板材の厚さよりも大きくすることが好ましい。なお導入部の断面形状は必ずしも真円に限定されるわけではなく、板材への差し込みに支障がなければ、溝などが部分的に形成されていても構わない。
【0010】
凸部は、導入部と鍔部との間に形成されており、しかも断面から見て、導入部の側周面よりも半径方向に突出している部位であり、これが下孔の内周面に食い込むことで、回り止めとしての機能を発揮する。そのため凸部は、下孔の内周面に食い込めるだけの突出高さが必要になるが、その形状は自在である。しかし断面から見て、中心から遠ざかるに連れて先細りになるクサビ状が最適であり、また胴部の軸方向に延びる線状とすることが好ましい。そのほか凸部の数については制限がなく、最低一個だけでも回り止めとしての機能を発揮できるが、複数を形成しても良い。
【0011】
このように、円断面の導入部および凸部を胴部に設けることで、導入部によって下孔への差し込みが容易になり、しかも下孔によって導入部が拘束され、全体の姿勢が安定する。この際に鍔部を打撃すると、凸部が下孔の内周面に食い込み、双方の摩擦によって全体が不動状態で固定される。したがって単純な打ち込み作業だけで回り止めが実現して、先端面に形成された雌ネジにボルトを螺合することで、照明器具などを素早く取り付けることができる。
【0012】
請求項2記載の発明は、棒状の胴部の一端に鍔部が形成され、前記胴部の先端面側には、外周ネジが形成された導入部を備え、該導入部と前記鍔部との間には、導入部の側周面よりも半径方向に突出している凸部を備えていることを特徴とする締結具である。
【0013】
請求項2記載の発明は、鍔部や凸部に関しては請求項1記載の発明と同じだが、先端面に雌ネジや雄ネジが形成されておらず、代わりに先端面と凸部の間の導入部を単純な円柱状としないで、導入部に外周ネジを形成した形態である。ここで外周ネジとは、胴部の側周面に直接形成された雄ネジを意味する。請求項1記載の発明では導入部を円断面としているが、本発明では導入部に外周ネジが形成されているため、厳密には円断面ではないものの、ネジ山の凹凸は導入部の直径に比べて遙かに小さく、実質的には円断面とみなすことができる。また外周ネジは、先端面から凸部までの全域に形成する必要はなく、凸部付近では外周ネジを形成しないで単純な真円断面としても構わない。
【0014】
請求項3記載の発明は、凸部の具体的な形状を限定するもので、凸部の断面形状は、中心から遠ざかるに連れて先細りになるクサビ状で、且つ120度間隔で計三箇所に形成されていることを特徴とする。凸部の個数や配置については都度自在に決定できるが、本発明のように計三個を等間隔で配置すると、打ち込みの際に作用する反力が均等になるため、胴部が傾くことなく下孔の中を進んでいき、しかも凸部の個数を最小限に抑えることができる。また個々の凸部の断面形状(軸方向に対して直交する方向の断面)については、中心から遠ざかるに連れて先細りとなる単純なクサビ状とすると、製造が容易でさらに下孔の内周面に容易に食い込んでいくことができる。なお本請求項における断面とは、軸方向に直交する横断面を意味している。
【0015】
請求項4記載の発明は、締結具が板材に打ち込まれた後の抜け止めを目的としており、前記導入部を取り囲む筒状部と、該筒状部から前記鍔部に向けて末広がりに延在する拡張部で構成される逆止体を備え、前記拡張部は、内側に倒伏するように弾性変形可能で且つ前記凸部と重なる部位にスリットを形成してあり、また前記逆止体と導入部との接触面には、双方を一体化する締結手段を有しており、更に凸部の突出高さは、逆止体の肉厚よりも大きいことを特徴とする。
【0016】
本発明は、締結具の打ち込みを終えた後、その雌ネジにボルトを差し込む際などに、締結具が押し上げられて板材から抜け出すトラブルを防止するもので、前の請求項に示した締結具単体に逆止体を組み合わせて、これと鍔部によって板材を挟み込む構成とするものである。逆止体は、内周に導入部を挿通できる筒状部と、この筒状部の端面から鍔部に向けて末広がりに延びる円錐状の拡張部の二つの部位から構成され、拡張部の先端が板材に接触することで、締結具の抜け出しを防止する。したがって拡張部の先端の直径は、板材の下孔よりも大きくする必要がある。また拡張部が凸部を覆い隠すと凸部の機能が発揮できないため、横断面から見て凸部の外側になる部位では、拡張部を切り欠いてスリットを設けている。そのため拡張部は、花びらのような形状になる。なおスリットの形成範囲は、拡張部に限られず筒状部に達していても構わない。
【0017】
拡張部の先端の直径は、前記のように板材に加工された下孔よりも大きくする必要があるが、締結具を板材に打ち込む際、拡張部が下孔を通過できる必要がある。そこで拡張部を弾性変形可能な構造とすることで、下孔を通過する際は、拡張部が胴部に接触するように変形可能で、通過後は自然に末広がり形状に復元する。したがって逆止体は、樹脂または金属板など、弾性変形が可能な素材を使用する。また下孔の直径は、逆止体の筒状部および拡張部が通過できる大きさとする必要があり、さらに凸部の突出高さを逆止体の肉厚よりも大きくして、凸部が確実に下孔の内周面に食い込めるようにする。
【0018】
締結手段は、締結具に逆止体を取り付けるためのもので、逆止体を胴部から離脱することなく固定できればその形態は自在であり、具体例としては、導入部に環状の溝を形成して、対する逆止体の内周に突起や係止片などを形成して、双方を嵌め合わせる構成のほか、接着や溶接などを用いても良い。なお締結具に逆止体が取り付けられた状態において、拡張部の先端と鍔部との間には、板材の厚さに相当する隙間が確保できるよう、各部の寸法を決める必要があるが、他の筒状部や拡張部の長さなどについては、所定の機能を発揮できれば自在に決めることができる。
【発明の効果】
【0019】
請求項1記載の発明のように、円柱状の胴部の一端面に鍔部を形成して、胴部の先端側に円断面の導入部を設けて、その後方に半径方向に突出する凸部を設けて、この凸部を板材に食い込ませることで、締結具を不動状態で固定できる。したがって締結具にボルトなどを螺合させる際、締結具の供回りを防止でき、照明器具などの取り付け作業を素早く確実に実施できる。また締結具を板材に取り付ける際は、事前に板材に下孔を加工しておき、この中に導入部を差し込んで姿勢を安定させた状態で打ち込み作業が行えるため、安全性などにも優れている。さらに請求項2記載の発明についても、胴部の先端側の側周面に外周ネジを形成して、これを導入部として利用することで、請求項1記載の発明と同様な効果が発揮される。
【0020】
請求項3記載の発明のように、凸部の断面形状をクサビ状に限定することで、下孔の内周面を切り裂くように凸部を食い込ませることができ、しかも凸部を120度間隔で計三個を形成することで、凸部を下孔に食い込ませる際の反力が均等になり、胴部が傾くことなく下孔の中に差し込まれていき、締結具を確実に取り付けることができる。
【0021】
請求項4記載の発明のように、拡張部などを備えた逆止体を締結具に組み込むことで、締結具が板材に打ち込まれた際、鍔部と逆止体によって板材が挟み込まれた状態になる。したがって締結具を打ち込んだ後、ボルトの差し込みなどのため、締結具を押し上げるような荷重が作用した場合でも、逆止体の拡張部が板材に接触して、締結具の移動を拘束して板材からの抜け出しを防止する。そのため現地での作業がトラブルなく円滑に実施でき、施工時間の短縮や信頼性の向上などが実現する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1は本発明による締結具11の形状を示しており、図1(A)は先端面14に雌ネジ17を有するもので、図1(B)は側周面に外周ネジ21を有するものである。本発明による締結具11は、天井や屋根などを構成する各種の板材Pに打ち込まれて、照明器具などを取り付けるために使用され、円盤状の鍔部13と円柱状の胴部12が一体化された形状で、胴部12の側周面に凸部16が形成されている。そして図1(A)に示す締結具11の胴部12は、途中で断面径が変わることのない円柱状であり、鍔部13の反対側に位置する先端面14の中心には、軸方向に延びる雌ネジ17が形成されている。また先端面14から凸部16までの間の胴部12は、円断面で外周面には何らの凹凸もなく、この部位を導入部15と規定している。そして導入部15よりも鍔部13側では、胴部12の側周面を局地的にクサビ状に隆起させ、しかも軸方向に延びる凸部16が120度間隔で計三列形成されている。この凸部16の突出高さは、通常、約0.5mmから2mm程度である。また凸部16は使用時を考慮して、先端面14側に三角形状の傾斜面19が形成されているほか、末端側は鍔部13と接することなく直前で途切れている。
【0023】
締結具11が差し込まれる板材Pは、金属のほか木材や硬質樹脂なども使用可能であり、いずれの場合も事前に下孔Hを加工しておく必要がある。この下孔Hは、導入部15を容易に差し込み可能で、且つ凸部16が下孔Hの側周面に接触できるよう、直径が胴部12よりも1mmから2mm大きくなっており、下孔Hに導入部15を差し込むと、締結具11が安定した状態で保持される。その後、鍔部13を金槌などで打撃すると、凸部16の傾斜面19が下孔Hの側周面に食い込み始めて、最終的には鍔部13が板材Pに接触して打ち込みが完了する。この際、凸部16によって締結具11が板材Pと一体化して、雌ネジ17に他のボルトBを螺合させる際に供回りを防止でき、しかも軸方向に移動することもない。
【0024】
図1(B)は、図1(A)のような雌ネジ17を形成しないで、代わりに胴部12の先端面14側の側周面に外周ネジ21を形成しており、この外周ネジ21の後方に凸部16を形成している。そして先端面14と凸部16の間を導入部15と規定しており、この部分は外周ネジ21が形成されているものの実質的には円断面であり、図1(A)と同様、下孔Hに差し込む際にガイドとしての機能を発揮する。なお板材Pに打ち込んだ後は、外周ネジ21にナットを螺合させることで、照明器具などを取り付けることができる。
【0025】
図2は、図1(A)に示す締結具11の詳細形状を示しており、図2(A)は側面から見たもので、図2(B)は先端面14から見たもので、図2(C)は図2(B)のC−C断面である。このように計三列の凸部16はいずれも同形状で等間隔に配置されており、胴部12の中央付近から鍔部13の直前までの間、軸方向に延在している。また凸部16は、図2(A)のように先端面14側に傾斜面19が形成され、しかも図2(B)のように断面が鋭利なクサビ状になっており、板材Pの下孔Hに容易に食い込むことができる。
【0026】
図3は、図1(A)に示す締結具11と板材Pとの関係を示しており、図3(A)は導入部15だけを板材Pに差し込んだ状態で、図3(B)は締結具11の打ち込みが終わった状態を側面から見たもので、図3(C)は図3(B)のC−C断面である。図3(A)のように、板材Pに加工された下孔Hは、胴部12よりもわずかに直径が大きいため、胴部12を下孔Hに差し込んだ際、双方に隙間が生じているが、凸部16が板材Pの上面に接触しているため、これよりも締結具11が落下することはなく、導入部15だけが下孔Hに差し込まれた状態で安定して保持される。そのため鍔部13を打撃する際、締結具11に指などを添える必要がなく安全性に優れている。
【0027】
図3(A)の後、鍔部13を金槌などで打撃していくと、最終的には図3(B)のように、鍔部13が板材Pの上面に接触して打ち込み作業が終了する。この段階では図3(C)の断面図のように、凸部16の先端が下孔Hの内周面に突き刺さっており、双方の間の摩擦によって締結具11は不動状態で固定され、供回りが生じることはない。なお図3(C)のように、三列の凸部16を等間隔で配置することで、打ち込みの際、凸部16と板材Pとの摩擦による反力が均等になり、胴部12が下孔Hに対して傾くことなく真っ直ぐに進行していく。
【0028】
図4は、本発明による締結具11の形態例を示しており、図4(A)は凸部16を計六個配置した構造で、図4(B)は図4(A)の締結具11を先端面14の方から見たもので、図4(C)は先端面14から雄ネジ18が突出した構造である。凸部16は導入部15の側周面よりも突出していれば形状は自在であり、図4(A)および図4(B)のように胴部12の一部を六角断面として、この六角断面の頂部を凸部16として機能させることもできる。この場合も凸部16の先端付近に傾斜面19を形成しており、打ち込みの際、下孔Hの内周面に円滑に食い込めるようになっている。また図4(C)は、胴部12の先端面14から雄ネジ18が突出した形態である。締結具11に何らかの雄ネジを形成する場合、図1(B)のように胴部12の側周面を利用して外周ネジ21を設ける構造のほか、本図のように胴部12とは別に先端面14から雄ネジ18を突出させることもできる。なお各図に示す雌ネジ17や雄ネジ18や外周ネジ21は、直径が3mmから20mm程度を想定している。
【0029】
図5は、逆止体30の形状例を示しており、図5(A)は逆止体30を締結具11に取り付ける前の状態で、図5(B)は逆止体30を取り付けた状態で、図5(C)は図5(A)とは異なる形状の逆止体30’である。図5(A)に示す逆止体30は、円筒形の筒状部31と、この筒状部31から末広がりの円錐状に延在する拡張部32と、から構成されており、そのうち筒状部31は、内部に導入部15を差し込むことのできるよう、その内径は導入部15の外径よりもわずかに大きくなっている。また拡張部32は、凸部16を覆い隠すことのないようスリット33が形成されている。なお本図では凸部16が120度間隔で計三箇所に形成されているため、スリット33もこれに合わせた配置になっているが、拡張部32の変形性を向上するため、より多くのスリット33を形成しても構わない。
【0030】
図5(A)に示す筒状部31は、本来単純な円筒形だが、内部構造を示すため一部を切り欠いて描いている。筒状部31の内周面には、環状に突出する突起34が形成されており、また導入部15の外周面には、環状に削り込まれた溝22が形成されている。この突起34および溝22は、締結具11に逆止体30を取り付けるための締結手段であり、突起34が溝22に嵌まり込むことで、逆止体30が所定の位置に固定される。なお逆止体30は、合成樹脂で一体成形されており、拡張部32を押圧すると胴部12に密着可能だが、押圧をやめると復元できる弾性を有している。
【0031】
図5(A)の状態で締結具11に逆止体30を近づけていると、導入部15の先端部が筒状部31の内部に嵌まり込み、やがて突起34が先端面14に接触する。さらに逆止体30を強く押し込むと、筒状部31が拡張するように変形して、突起34が導入部15の外周面に乗り上がり、その後も押し込み続けると突起34が溝22に嵌まり込み、図5(B)のように逆止体30の取り付けが完了する。この際、拡張部32と鍔部13との間には、板材を挟み込むため所定の隙間が確保されている。またスリット33の位置を凸部16と一致させており、拡張部32が押し倒された際は、凸部16がスリット33から突出する。そのほか図5(B)では、筒状部31が先端面14よりも突出しているが、これらの形状に制約はなく自在に決定できる。
【0032】
図5(C)は、図5(A)とは形状が異なる逆止体30’の形状を示している。この逆止体30’のスリット33は、V字形状で切り込み量が多く、弾性変形も容易になっている。また締結手段については、図5(A)に示す環状の突起34ではなく、筒状部31の一部を内側に折り込んだ係止片35を設けている。この係止片35は、筒状部31を塑性変形させて形成するため、逆止体30の素材としては薄鋼板などが適している。なお図5では、締結具11の先端面14から雌ネジ17が形成されているが、図4(C)のような雄ネジ18を備えた構造においても、逆止体30の組み込みは可能である。
【0033】
図6は、図5(B)に示す締結具11を板材Pに打ち込む際の状況を示す縦断面で、図6(A)は打ち込む直前で、図6(B)は打ち込みの途中で、図6(C)は打ち込みの後である。図6(A)のように、締結具11の胴部12には逆止体30が取り付けられており、その筒状部31が導入部15を取り囲んでおり、さらに筒状部31の中央付近に形成された突起34が溝22に嵌まり込むことで逆止体30が固定されている。また筒状部31の上には末広がりの拡張部32が形成されているが、この拡張部32の先端と鍔部13との間には、板材Pの厚さよりもやや大きい隙間が確保されている。そのほか板材Pに加工された下孔Hは、筒状部31および拡張部32が通過できる直径となっている。
【0034】
筒状部31の先端を下孔Hに差し込んでいくと、やがて図6(B)のように拡張部32が下孔Hの内周面に接触するため、拡張部32が内側に倒伏するように変形する。そのため拡張部32も問題なく下孔Hを通過でき、その後、凸部16が下孔Hの内周に食い込んでいく。そして打ち込みが終了すると、図6(C)のように鍔部13が板材Pに接触すると同時に、拡張部32は板材Pを通過するため、弾性によって形状が復元する。したがって締結具11を押し上げようとする荷重が作用した場合、拡張部32が板材Pの下面に接触するため、締結具11が下孔Hから抜け出すことを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1(A)(B)】本発明による締結具の形状を示しており、(A)は先端面に雌ネジを有するもので、(B)は側周面に外周ネジを有するものである。
【図2(A)(B)(C)】図1(A)に示す締結具の詳細形状を示しており、(A)は側面から見た図で、(B)は先端面から見た図で、(C)は図2(B)のC−C断面図である。
【図3(A)(B)(C)】図1(A)に示す締結具と板材との関係を示しており、(A)は導入部だけを板材Pに差し込んだ状態の側面図で、(B)は締結具の打ち込みが終わった状態の側面図で、(C)は図3(B)のC−C断面図である。
【図4(A)(B)(C)】本発明による締結具の形態例を示しており、(A)は凸部を計六個配置した構造の斜視図で、(B)は図4(A)の締結具を先端面から見た図で、(C)は先端面から雄ネジが突出した構造の斜視図である。
【図5(A)(B)(C)】逆止体の形状例を示す斜視図で、(A)は逆止体を締結具に取り付ける前の状態で、(B)は逆止体を取り付けた状態で、(C)は図5(A)とは異なる形状の逆止体である。
【図6(A)(B)(C)】図5(B)に示す締結具を板材に打ち込む際の状況を示す縦断面図で、(A)は打ち込む直前で、(B)は打ち込みの途中で、(C)は打ち込みの後である。
【符号の説明】
【0036】
11 締結具
12 胴部
13 鍔部
14 先端面
15 導入部
16 凸部
17 雌ネジ
18 雄ネジ
19 傾斜面
21 外周ネジ
22 溝(締結手段)
30 逆止体
31 筒状部
32 拡張部
33 スリット
34 突起(締結手段)
35 係止片(締結手段)
B ボルト
H 下孔
P 板材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒状の胴部(12)の一端に鍔部(13)が形成され、前記胴部(12)の先端面(14)には、軸方向に延びる雌ネジ(17)または雄ネジ(18)が形成され、且つ胴部(12)の先端面(14)側には円断面の導入部(15)を備え、該導入部(15)と前記鍔部(13)との間には、導入部(15)の側周面よりも半径方向に突出している凸部(16)を備えていることを特徴とする締結具。
【請求項2】
棒状の胴部(12)の一端に鍔部(13)が形成され、前記胴部(12)の先端面(14)側には、外周ネジ(21)が形成された導入部(15)を備え、該導入部(15)と前記鍔部(13)との間には、導入部(15)の側周面よりも半径方向に突出している凸部(16)を備えていることを特徴とする締結具。
【請求項3】
前記凸部(16)の断面形状は、中心から遠ざかるに連れて先細りになるクサビ状で、且つ120度間隔で計三箇所に形成されていることを特徴とする請求項1または2記載の締結具。
【請求項4】
前記導入部(15)を取り囲む筒状部(31)と、該筒状部(31)から前記鍔部(13)に向けて末広がりに延在する拡張部(32)で構成される逆止体(30)を備え、前記拡張部(32)は、内側に倒伏するように弾性変形可能で且つ前記凸部(16)と重なる部位にスリット(33)を形成してあり、また前記逆止体(30)と導入部(15)との接触面には、双方を一体化する締結手段(22、34、35)を有しており、更に凸部(16)の突出高さは、逆止体(30)の肉厚よりも大きいことを特徴とする請求項1、2または3記載の締結具。


【図1(A)(B)】
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【図2(A)(B)(C)】
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【図3(A)(B)(C)】
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【図4(A)(B)(C)】
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【図5(A)(B)(C)】
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【図6(A)(B)(C)】
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【公開番号】特開2010−7849(P2010−7849A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−227429(P2008−227429)
【出願日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(507227278)リープ株式会社 (5)
【Fターム(参考)】