説明

縫製製品用基布およびその製造方法

【課題】優れた可縫性を有し、かつ容易にリサイクルが可能となる縫製製品用基布およびその製造方法を提供する。
【解決手段】ポリエステルマルチフィラメント糸またはポリエステル紡績糸の織物からなる基布であり、該マルチフィラメント糸または紡績糸の総繊度が30〜3000dtexであり、該織物のカバーファクターが下記式を満足し、かつ該基布の横断面において、織物の凹部と凸部の差aの、織物の厚みbに対する比a/bが15%以下であることを特徴とする縫製製品用基布とする。総繊度が30〜3000dtexであるマルチフィラメント糸または紡績糸からなり、カバーファクターが下記式を満足する織物に、160〜220℃のカレンダー処理を行う。
CF=√((経糸の総繊度)×経糸密度)+√((緯糸の総繊度)×緯糸密度)=1800〜2500

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は縫製製品用基布およびその製造方法に関し、さらに詳細には、優れた可縫性を有し、かつ容易にリサイクルが可能となる縫製製品用基布およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化の原因となっている温室効果ガス排出低減の必要性が叫ばれており、一般消費者の環境意識が向上する傾向にある。同じ商品を購入する際でも、多少価格が上がっても環境に優しいものを購入する動きが強まってきている。環境対応の手段としては種々挙げられるが、ポリエステル製品については樹脂、フィルム、繊維に亘ってリサイクルによる環境への負荷低減が主に実施されている。
【0003】
該技術については、例えば特許文献1〜3等にポリエステル製品の廃棄物から有効成分を回収する方法が開示されている。これらの方法は一部実用化され、リサイクルされたポリエステル材料を用いた製品が多く販売されるようになってきている。
【0004】
しかしながら、実際にそれらの技術の応用範囲をさらに広めるためには、回収された製品のリサイクル方法のみならず、商品の設計をリサイクル工程に乗せやすいものにしていく必要がある。
これらの例として、特許文献4にはポリエステル布帛の片面に、無色透明のポリエステルフィルムからなる防水透湿層が積層された衣類用防水透湿性布帛が開示されている。
【0005】
一方、最終商品に関して特許文献5にポリエステル繊維からなる基布の少なくとも片側面に、ポリエステル系エラストマーを被覆した鞄地が開示されている。また、特許文献6にポリエステルからなる基布を、発泡倍率2〜10倍のポリエステル系エラストマーの発泡体で被覆することによって、50%圧縮回復率が80%以上で、見かけ比重が0.65未満である鞄地が得られることが開示されている。
これらの技術は、商品に占めるポリエステル成分の比率を高め、回収後より効率的にリサイクルできるようにしたものである。
【0006】
しかしながら、これらは何れも、鞄作成のための縫製時において、基布を構成する繊維が目ずれや布目まがりを起こさないよう、基布の少なくとも片側にフィルムあるいは樹脂を被覆して繊維の接点を固定する必要があった。しかも、基布とフィルムあるいは樹脂の接着性を実用耐久性レベルに維持するためには、ポリエステル系以外の接着剤を塗布する必要があり、その分不純物が多くなり、鞄使用後のリサイクルが困難な状況であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−60369号公報
【特許文献2】特開2004−300115号公報
【特許文献3】特開2005−330444号公報
【特許文献4】特開2008−201014号公報
【特許文献5】特開2000−17578号公報
【特許文献6】特開2003−89982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、優れた可縫性を有し、かつ容易にリサイクルが可能となる縫製製品用基布およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、上記課題を解決するため検討した結果、ポリエステルを除く成分の量を低く抑え、従来樹脂を付与することなどによって達成されていた特性を織物のカバーファクター及び加熱ローラによる抑え付けによって基布を特定の形態とすることによってこれを可能としたものである。
【0010】
かくして本発明によれば、ポリエステルマルチフィラメント糸またはポリエステル紡績糸の織物からなる基布であって、該マルチフィラメント糸または紡績糸の繊度が30〜3000dtexであり、該織物のカバーファクターが下記式を満足し、かつ該基布の横断面において、織物の凹部と凸部の差aの、織物の厚みbに対する比a/bが15%以下であることを特徴とする縫製製品用基布が提供される。
CF=√((経糸の総繊度)×経糸密度)+√((緯糸の総繊度)×緯糸密度)=1800〜2500
【0011】
また、上記の縫製製品用基布の製造方法であって、総繊度が30〜3000dtexであるマルチフィラメント糸または紡績糸からなり、カバーファクターが下記式を満足する織物に、160〜220℃のカレンダー処理を行うことを特徴とする縫製製品用基布の製造方法が提供される。
CF=√((経糸の総繊度)×経糸密度)+√((緯糸の総繊度)×緯糸密度)=1800〜2500
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、優れた可縫性を有し、かつ容易にリサイクルが可能となる縫製製品用基布を提供することができる。また、本発明の製造方法によれば上記特性を有する縫製製品用基布を容認に製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】縫製製品用基布の横断面写真であり、織物の凹部と凸部の差aと織物の厚さbを説明する図である。
【図2】本発明の縫製製品用基布の一例を示す横断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の縫製製品用基布においては、該基布が、総繊度が30〜3000dte、好ましくは100〜2000dtexであるポリエステルマルチフィラメント糸またはポリエステル紡績糸からなる織物である必要である。繊度が30dtexよりも低い場合は、剛性が低くなり、縫製後の商品、特に鞄のような形状を保持させる必要がある用途に使用できない。一方、繊度が3000dtexよりも大きい場合は、剛性が硬くなりすぎて、商品の風合いが損なわれる。
【0015】
本発明において、上記ポリエステルマルチフィラメント糸またはポリエステル紡績糸を構成するポリエステル繊維の単繊維繊度は、好ましくは0.5〜10.0dtexであり、より好ましくは1.0〜5.0dtexである。また、ポリエステル紡績糸の場合は、繊維長は好ましくは10〜100mmであり、より好ましくは30〜70mmである。
【0016】
上記のポリエステルマルチフィラメント糸またはポリエステル紡績糸は、該総繊度を満たせば、細い繊度の原糸を合糸したものでも使用可能である。また、糸の形態としては、特にマルチフィラメント糸の場合、最終製品に、意匠性、手触り感などを付与するためにウーリー加工等が施されていてもよい。
【0017】
本発明において、基布の構成成分においてはポリエステルを除く成分を極力少なくすることが必要であり、その量を3重量%未満とすることが望ましい。該成分が3重量%以上の場合は、リサイクル工程において、それらを除去することができず、得られたリサイクル品の色、物理特性などの品質が低下するだけでなく、設備を傷める原因にもなり好ましくない。上記のポリエステルを除く成分としては、繊維や織物に付着する油剤や糊剤、繊維中に含まれる難燃剤、防炎剤、酸化防止剤、艶消し剤、紫外線吸収剤、防汚剤等が挙げられる。
【0018】
また、本発明においては、織物のカバーファクターが下記式を満たすことが必要である。カバーファクターが1800を下回ると、織物に隙間ができやすく、斜行や目曲がりなどの欠点が出やすいことに加え、縫製時にミシンがけをした際に目ずれが起こりやすく好ましくない。
CF=√(経糸の総繊度)×経糸密度+√(緯糸の総繊度)×緯糸密度=1800〜2500
【0019】
上記に加え、本発明において、織物の凹部と凸部の差aの、織物の厚みbに対する比a/bが15%以下となることが必要である。15%を超える場合は経糸と緯糸が交差する繊維同士の密着性が悪く、カバーファクターが低い場合と同様に、斜行や目曲がりなどの欠点が出やすいことに加え、ミシンがけをした際に目ずれが起こりやすく好ましくない。
また、本発明において、最終製品への意匠を付与するため、ポリエステルを除く成分が3重量%以上とならない範囲で、染色を施してもよい。
【0020】
さらに、本発明において、縫製時の目ずれをさらに抑える目的で、ポリエステル系の樹脂を基布にコーティングすることは有効である。ポリエステル系の樹脂としては、特にポリエステル系エラストマーが好ましく、ポリエステル単位からなる高融点の結晶性重合体(ハードセグメント)、並びに、ポリエーテル単位及び/又はポリエステル単位からなる低融点重合体(ソフトセグメント)とを主たる構成成分とするポリエステル重合体のようなポリマーを例示することができる。
【0021】
以上に説明した本発明の縫製製品用基布は以下の方法によって製造することができる。すなわち、総繊度が30〜3000dtexであるマルチフィラメント糸または紡績糸からなり、カバーファクターが下記式を満足する織物に、160〜220℃のカレンダー処理(以下、カレンダー加工と称することがある)を行うことによって製造することができる。この際、上記カレンダー処理は、圧力を50〜150トン、速度を4〜50m/分として行うことが好ましい。かかるカレンダー処理によって、織物の凹凸を小さく抑え、要に、織物の凹部と凸部の差aの、織物の厚みbに対する比a/bを15%以下とすることができる。
CF=√((経糸の総繊度)×経糸密度)+√((緯糸の総繊度)×緯糸密度)=1800〜2500
【0022】
また、織物に樹脂を付与する場合は、カレンダー処理の前に織物に樹脂を付与し、その後カレンダー処理を行うことができきる。この際、樹脂、特にポリエステル系以外の樹脂を付与する場合は、樹脂の量を3重量以下とすることが好ましい。
【0023】
本発明の縫製製品用基布は、鞄、手帳カバー、ペンケース、カードケース、バインダー、ランチョンマット、コースター、ブックカバー、ノートブック、パソコンケース、フォトフレーム、ティッシュボックスカバー、ポケットティッシュケース、ボタントレイ、クーラーバック、トートバックのようなものを例示することができるが、これらに限ることなく、縫製によって作られる製品全般にわたって使用することができる。
【実施例】
【0024】
次に、本発明の実施例および比較例を詳述するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、各評価については次に示す方法により実施した。
(1)織物を除く成分比率
生機に樹脂加工を実施する際、樹脂加工後の重量から生機の重量を差し引いた値を樹脂加工後の生地の重量に対する割合として%で示し、3重量%未満を合格とした。
(2)織物の凹凸
基布の横断面写真を取り、図1に示すように、織物の凹部と凸部の差a、織物の厚さbを測定し、15%以下を合格とした。
(3)布目曲がり
JIS L 1096に準じて測定し、5%以下を合格とした。
(4)滑脱抵抗力
JIS L 1096に準じてピン引掛け法により測定し、600N以上を合格とした。
(5)風合い(剛軟性)
JIS L 1096に準じてカンチレバー法により測定し、30〜60mmを合格とした。
【0025】
[実施例1]
総繊度500dtex、単繊維繊度1.44dtex、繊維長38mmの紡績糸(帝人ファイバー製)を、表1に示す織物密度で平織物に製織し、これを加熱式金属製フラットローラ(上ローラ)と、樹脂製フラットローラ(下ローラ)間で、上ローラ温度を190℃、圧力を100トン、速度を30m/分としてカレンダー加工を行い、縫製製品用基布を作成した。得られた基布において、ポリエステル以外の成分は、主に、繊維に付着した油剤、繊維中に含まれる二酸化チタンであり、その量は基布重量対比1.7重量%であるため、リサイクルが可能な範囲であった。
【0026】
[実施例2〜3、比較例2]
経糸または緯糸を、それぞれ表1に示すように、総繊度1000dtex、単繊維繊度1.44dtex、繊維長38mmの紡績糸(帝人ファイバー製)、総繊度800dtex、単繊維繊度1.44dtex、繊維長38mmの紡績糸(帝人ファイバー製)に変更した以外は、実施例1と同様にして縫製製品用基布を作成した。結果を表1に示す。得られた基布に付着または含まれるポリエステル以外の成分の量はいずれも基布重量対比3重量%であり、リサイクルが可能な範囲であった。
【0027】
[実施例4,5]
経糸及び緯糸を、それぞれ表1に示すように、総繊度2000dtex/960フィラメントのマルチフィラメント糸、総繊度3000dtex/960フィラメントのマルチフィラメント糸に変更した以外は、単繊維繊度1.44dtex、繊維長38mmの紡績糸(帝人ファイバー製)に変更した以外は、実施例1と同様にして、縫製製品用基布を作成した。結果を表1に示す。実施例1と同様に、該基布に付着または含まれるポリエステル以外の成分の量はいずれも基布重量対比3重量%であり、リサイクルが可能な範囲であった。
【0028】
[実施例6]
ポリエーテルポリエステルエラストマー樹脂(帝人ファイバー製)を溶融し、コーターで平織物に付与し、その後でカレンダー加工を行った以外は、実施例2と同様にして、縫製製品用基布を作成した。結果を表1に示す。得られた基布に付着した樹脂は、ポリエステル系樹脂(ポリエーテルポリエステルエラストマー樹脂)であり、該樹脂を除くポリエステル以外の成分の量は基布重量対比2.9重量%であり、リサイクルが可能なものであった。
【0029】
[比較例1]
ポリエーテルポリエステルエラストマー樹脂に代えてアクリル樹脂を用いた以外は、実施例6と同様にして、縫製製品用基布を作成した。結果を表1に示す。得られた基布において、アクリル樹脂を含むポリエステル以外の成分の量は基布重量対比3.5重量%であり、リサイクルに適さないものであった。
【0030】
[比較例3]
カレンダー加工を行わなかった以外は、実施例2と同様にして縫製製品用基布を作成した。結果を表1に示す。
【0031】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の縫製製品用基布は、優れた可縫性を有し、容易にリサイクルができるため、鞄、手帳カバー、ペンケース、カードケース、バインダー、ランチョンマット、コースター、ブックカバー、ノートブック、パソコンケース、フォトフレーム、ティッシュボックスカバー、ポケットティッシュケース、ボタントレイ、クーラーバック、トートバックに好ましく用いることができ、さらにこれらに限られることなく、縫製によって作られる製品全般にわたって使用することができる。
【符号の説明】
【0033】
a 織物の凹部と凸部の差
b 織物の厚さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルマルチフィラメント糸またはポリエステル紡績糸の織物からなる基布であって、該マルチフィラメント糸または紡績糸の総繊度が30〜3000dtexであり、該織物のカバーファクターが下記式を満足し、かつ該基布の横断面において、織物の凹部と凸部の差aの、織物の厚みbに対する比a/bが15%以下であることを特徴とする縫製製品用基布。
CF=√((経糸の総繊度)×経糸密度)+√((緯糸の総繊度)×緯糸密度)=1800〜2500
【請求項2】
織物にポリエステル以外の成分が付着しており、および/または、該織物を構成するポリエステルマルチフィラメント糸またはポリエステル紡績糸がポリエステル以外の成分を含み、該成分の全重量が、基布重量に対して3重量%未満である請求項1記載の縫製製品用基布。
【請求項3】
織物に、織物重量に対して3重量%未満の樹脂が付着している請求項1または2記載の縫製製品用基布。
【請求項4】
樹脂がポリエステル系エラストマーである請求項3記載の縫製製品用基布。
【請求項5】
基布の布目曲がりが5%以下である請求項1〜4のいずれかに記載の縫製製品用基布。
【請求項6】
請求項1に記載の縫製製品用基布の製造方法であって、総繊度が30〜3000dtexであるマルチフィラメント糸または紡績糸からなり、カバーファクターが下記式を満足する織物に、160〜220℃のカレンダー処理を行うことを特徴とする縫製製品用基布の製造方法。
CF=√((経糸の総繊度)×経糸密度)+√((緯糸の総繊度)×緯糸密度)=1800〜2500
【請求項7】
請求項3に記載の縫製製品用基布の製造方法であって、総繊度が30〜3000dtexであるマルチフィラメント糸または紡績糸からなり、カバーファクターが下記式を満足する織物に、織物重量に対して3重量%未満の樹脂を付着させた後、160〜220℃のカレンダー処理を行うことを特徴とする縫製製品用基布の製造方法。
CF=√((経糸の総繊度)×経糸密度)+√((緯糸の総繊度)×緯糸密度)=1800〜2500

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−17103(P2011−17103A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−162804(P2009−162804)
【出願日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】