説明

縮合環を有する重合性液晶化合物並びに該重合性液晶化合物の単独重合物及び共重合物

【課題】光学異方性Δnが高くても、室温で液晶相を示して結晶が析出せず、有機溶剤に対する溶解性に優れ、塗布性や配向性に優れ、かつ重合後の透明性に優れる重合性液晶化合物、並びに該重合性液晶化合物の重合物又は共重合物を提供すること。
【解決手段】下記一般式(1)で表される重合性液晶化合物。


(式中、R1及びR2は水素原子、メチル基又はハロゲン原子を表し、環A〜Cはベンゼン環、ナフタレン環等を表し、環A〜Cのうち少なくとも一つが縮合環であり、X〜Zは炭素原子数1〜6のアルキル基等を表し、L1〜L3は−COO−、−OCO−、−O(CH2j−(但しj=1〜8)等を表し、nは0又は1を表し、a〜cは、重合性液晶化合物が少なくともX、Y及びZのいずれかを1つ以上有することとなる数を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも一つの縮合環を含む直鎖上に並んだ複数の環構造を有し、環上に置換基を有し、ハロゲン原子等で置換されていてもよい(メタ)アクリロイルオキシ基を有する重合性液晶化合物、並びに該重合性液晶化合物の単独重合物及び共重合物に関する。これらの単独重合物及び共重合物は、光学異方体として有用なものである。
【背景技術】
【0002】
重合性官能基を有する液晶化合物(以下、「重合性液晶化合物」と称す)又は該重合性液晶化合物を少なくとも一種含有する液晶組成物(以下、「重合性液晶組成物」と称す)を、液晶状態で配向させた後、その状態で紫外線等の活性エネルギー線を照射すると、液晶分子の配向状態構造を固定化した重合物を作成することが出来る。このようにして得られた重合物は、屈折率、誘電率、磁化率、弾性率、熱膨張率等の物理的性質の異方性を有していることから、例えば、位相差板、偏光板、偏光プリズム、輝度向上フィルム、ローパス・フィルター、各種光フィルター、光ファイバーの被覆材等の光学異方体として応用可能である。重合によって得られる上記の光学異方体(重合物)においては、異方性以外の特性も重要である。該特性としては、重合速度、重合物の透明性、力学的強度、塗布性、溶解度、結晶化度、収縮性、透水度、吸水度、融点、ガラス転移点、透明点、耐薬品性、耐熱性等が挙げられる。
【0003】
上記光学異方体に用いられる液晶としては、らせんの分子配列に基づく特異的な液晶性を示すコレステリック液晶が挙げられる。コレステリック液晶は、そのらせん軸に対して平行に入射する自然光の内、ある波長の光の約半分を右(又は左)円偏光として反射し、残りの約半分を左(又は右)円偏光として透過する選択反射特性を示す。このコレステリック液晶の選択反射特性を示す選択反射波長帯域幅Δλは、Δλ=Δn・P(式中、Δnは光学(屈折率)異方性、Pはらせんピッチ)で表され、らせんピッチPは液晶分子構造で決定される固有の値であるので、Δnが大きなものは、Δλも大きくなり広帯域をカバーすることができる。
【0004】
また、光学異方体のコントラスト比に関わるリターデーションRは、R=Δn・d(式中、Δnは光学(屈折率)異方性、dは膜厚)によって表される。Rは特定の値に設定する必要があるので、Δnを大きくすればdを小さくすることができる。このように光学異方体を薄膜化できると、重合時の液晶の配向制御が容易となり、製造時の歩留まりが改善されて製造効率が向上する等の効果を得ることが可能である。
【0005】
また、重合性官能基が(メタ)アクリル基である重合性液晶化合物は、重合反応性が高く、得られた重合物は高い透明性を有するので、光学異方体としての利用が盛んに検討されている(例えば特許文献1〜9参照)。
【0006】
【特許文献1】特開平11−116534号公報
【特許文献2】特表平11−130729号公報
【特許文献3】特表平11−513360号公報
【特許文献4】特許第3228348号公報
【特許文献5】特開2005−015473号公報
【特許文献6】特開2005−206579号公報
【特許文献7】特開2002−265421号公報
【特許文献8】特開2002−308831号公報
【特許文献9】特開2002−308832号公報
【0007】
しかしながら、特許文献1〜9に記載の(メタ)アクリル基を有する重合性液晶化合物のうち、特許文献1〜6に記載の重合性液晶化合物は、液晶性、溶剤に対する溶解性、塗布性、光学異方性等の特性が充分に満足できるものとは言い難く、特に光学(屈折率)異方性(Δn)が大きなものは、溶解性、塗工性、配向性に乏しかったり、製膜ができなかったりして、使用に供し得る光学異方体を簡単に得ることはできなかった。また、特許文献7〜9には、Δnが大きく、配向膜への塗工性が良好で、容易に配向する重合性液晶化合物を提供しているが、これらの重合性液晶化合物は、室温で液晶相を示すものではなく、製膜後の膜厚が不安定であり、膜の配向の制御が困難である等の問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明における目的は、光学(屈折率)異方性(Δn)が高くても、室温で液晶相を示して(液晶相を示す温度範囲が広くて)結晶が析出せず、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン等の有機溶剤に対する溶解性に優れ、塗布性や配向性に優れ、かつ重合後の透明性に優れる重合性液晶化合物、並びに該重合性液晶化合物の重合物又は共重合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため、種々の重合性液晶化合物について検討を重ねた結果、特定の化学構造を有する重合性液晶化合物により、上記目的を達成できることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、下記一般式(1)で表される重合性液晶化合物を提供するものである。
【0011】
【化1】

(式中、R1及びR2は、各々独立に、水素原子、メチル基又はハロゲン原子を表し、
環A、環B及び環Cは、各々独立に、ベンゼン環、シクロヘキサン環、シクロヘキセン環、ナフタレン環、テトラヒドロナフタレン環、デカヒドロナフタレン環、アントラセン環又はフェナントレン環を表し、これらの環中、−CH=は−N=で、−CH2−は−S−又は−O−で置換されていてもよく、環A、環B及び環Cのうち少なくとも一つが縮合環であり、
X、Y及びZは、各々独立に、置換基を有してもよい炭素原子数1乃至6のアルキル基、置換基を有してもよい炭素原子数1乃至6のアルコキシ基、置換基を有してもよい炭素原子数2乃至6のアルケニル基、ハロゲン原子、シアノ基又は下記一般式(2)で示される基を表し、
1、L2及びL3は、各々独立に、単結合、−COO−、−OCO−、−(CH2h−、−CH=CH−、−(CH2iO−、−O(CH2j−、−O(CH2kO−、−OCOO(CH2l−、−(CH2mOCOO−、−(OCH2CH2o−、−(CH2CH2O)p−、−(OCH2CH(CH3))q−、−(CH(CH3)CH2r−、−(CH2sO(CH2t−、−O(CH2u−[Si(CH32O]v−Si(CH32(CH2w−、−CH=CHCH2O−、−OCH2CH=CH−、−CH=CH−COO−、−OCO−CH=CH−、−C≡C−、−(CH22COO−、−OCO(CH22−、−CF=CF−、−OCF2−、−CF2O−、−C≡C−COO−、−OCO−C≡C−又は−O−であって、一部の炭素原子がケイ素原子であってもよく、
nは0又は1を表し、
h、i、j、k、l及びmは各々独立に1乃至8の整数を表し、
o、p、q、r、s、t、u、v及びwは各々独立に1乃至3の整数を表し、
a、b及びcはそれぞれ環A、環B及び環Cにおける置換基の数であって、それぞれの置換される単環又は縮合環に含まれる6員環の数をdとすると、a、b又はcは、2d+2以下の整数であって、nが0のときは少なくともa及びbのいずれかは1以上であり、nが1のときは少なくともa、b及びcのいずれかは1以上である。)
【0012】
【化2】

(式中、R3は水素原子、メチル基又はハロゲン原子を表す。)
【0013】
また、本発明は、重合性液晶化合物を重合してなる単独重合物、重合性液晶化合物と他のエチレン性不飽和結合を有する化合物とを共重合してなる共重合物、及び上記重合性液晶化合物と光学活性基を有する単量体とを共重合してなる共重合物を提供するものである。
【0014】
さらに、本発明は、上記単独重合物及び上記共重合物からなる群から選択される少なくとも一種からなる光学異方体を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の単独重合物及び共重合物は、光学異方体として有用な液晶物質である。また、本発明の単独重合物及び共重合物に単量体として用いる本発明の重合性液晶化合物は、有機溶媒に対する溶解性に優れ、重合後の液晶性及び透明性が良好であり、さらに、光学(屈折率)異方性(Δn)が高いため、得られる光学異方体(単独重合物又は共重合物)の薄膜化が可能となったり、コレステリック液晶の選択反射波長帯域幅が広くなるといった効果も奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明について、その好ましい実施形態に基づき詳細に説明する。
【0017】
上記一般式(1)中、R1、R2、X、Y及びZで表されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、X、Y及びZで表される置換基を有してもよい炭素原子数1乃至6のアルキル基としては、メチル、クロロメチル、トリフルオロメチル、シアノメチル、エチル、ジクロロエチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、第二ブチル、第三ブチル、イソブチル、アミル、イソアミル、第三アミル、ヘキシル、2−ヘキシル、3−ヘキシル、シクロヘキシル、1−メチルシクロヘキシル等が挙げられ、置換基を有してもよい炭素原子数1乃至6のアルコキシ基としては、メチルオキシ、クロロメチルオキシ、トリフルオロメチルオキシ、シアノメチルオキシ、エチルオキシ、ジクロロエチルオキシ、プロピルオキシ、イソプロピルオキシ、ブチルオキシ、第二ブチルオキシ、第三ブチルオキシ、イソブチルオキシ、アミルオキシ、イソアミルオキシ、第三アミルオキシ、ヘキシルオキシ、シクロヘキシルオキシ等が挙げられ、置換基を有してもよい炭素原子数2乃至6のアルケニル基としては、ビニル、1−メチルエテニル、2−メチルエテニル、プロペニル、ブテニル、イソブテニル、ペンテニル、ヘキセニル等が挙げられる。
【0018】
上記一般式(2)中、R3で表されるハロゲン原子としては、上記R1として例示のものが挙げられる。
【0019】
上記一般式(1)で表される本発明の重合性液晶化合物としては、例えば下記一般式(3)で表される重合性液晶化合物を挙げることができる。
【0020】
【化3】

(式中、R1、R2、環A、環B、環C、X、Y、Z、a、b、c及びjは上記一般式(1)と同様であり、環A、環B及び環Cの少なくとも一つが縮合環である。)
【0021】
本発明の重合性液晶化合物は、前記一般式(1)で表されるものであればよいが、その中でも、上記一般式(3)で表される重合性液晶化合物は、液晶性、溶解性及び透明性が特に良い点で好ましい。
【0022】
上記一般式(3)で表される本発明の重合性液晶化合物の具体例としては、下記化合物No.1〜22が挙げられる。ただし、本発明は以下の化合物により制限を受けるものではない。
【0023】
【化4】

【0024】
【化5】

【0025】
【化6】

【0026】
【化7】

【0027】
【化8】

【0028】
【化9】

【0029】
【化10】

【0030】
【化11】

【0031】
【化12】

【0032】
【化13】

【0033】
【化14】

【0034】
【化15】

【0035】
【化16】

【0036】
【化17】

【0037】
【化18】

【0038】
【化19】

【0039】
【化20】

【0040】
【化21】

【0041】
【化22】

【0042】
【化23】

【0043】
【化24】

【0044】
【化25】

【0045】
本発明の重合性液晶化合物は、その製造方法については特に限定されず、公知の反応を応用して製造することができるが、例えば、上記一般式(1)において、L1が−COO−であり、L2が−OCO−であり、nが1である本発明の重合性液晶化合物は、下記〔化26〕に示す反応式に従って製造することができる。尚、下記〔化26〕に示す反応式において、L3を−O(CH2j−(但しj=1〜8)とすれば、上記一般式(3)で表される本発明の重合性液晶化合物が得られる。
【0046】
【化26】

【0047】
本発明の重合性液晶化合物は、重合性液晶性単量体として、単独で又は2種以上を組み合わせて、単独重合又は共重合させることができる。また、本発明の重合性液晶化合物は、エチレン性不飽和結合を有する化合物と共重合させることもできる。エチレン性不飽和結合を有する化合物としては、例えば、本発明の重合性液晶化合物以外のエチレン性不飽和結合を有する液晶性単量体(以下、他の液晶性単量体という)、光学活性基を有する単量体、(メタ)アクリル酸エステル等の化合物が挙げられる。これらのエチレン性不飽和結合を有する化合物は、それらの構造に応じて適当な量で使用することができるが、全単量体中、本発明の重合性液晶化合物が5重量%以上、特に10〜100重量%となる範囲で使用することが好ましい。
【0048】
上記他の液晶性単量体の具体例としては、下記化合物H−1〜H−14が挙げられる。
【0049】
【化27】

【0050】
【化28】

【0051】
【化29】

【0052】
【化30】

【0053】
【化31】

【0054】
【化32】

【0055】
【化33】

【0056】
【化34】

【0057】
【化35】

【0058】
【化36】

【0059】
【化37】

【0060】
【化38】

【0061】
【化39】

【0062】
【化40】

【0063】
上記の光学活性基を有する単量体としては、例えば、後に光学活性化合物として例示する化合物のうちのエチレン性不飽和結合を有するものが挙げられる他、エポキシ基、オキセタン基等のエポキシド基を1種以上有し且つ光学活性基を有する化合物等も挙げられる。
【0064】
上記の(メタ)アクリル酸エステル等のエチレン性不飽和結合を有する化合物としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、第二ブチル(メタ)アクリレート、第三ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、アリルオキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、1−フェニルエチル(メタ)アクリレート、2−フェニルエチル(メタ)アクリレート、フルフリル(メタ)アクリレート、ジフェニルメチル(メタ)アクリレート、ナフチル(メタ)アクリレート、ペンタクロルフェニル(メタ)アクリレート、2−クロルエチル(メタ)アクリレート、メチル−α−クロル(メタ)アクリレート、フェニル−α−ブロモ(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル、ジアセトンアクリルアミド、スチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン等が挙げられる。
【0065】
本発明の重合性液晶化合物は、上述したように(共)重合することにより、液晶性(共)重合物とすることができる。
【0066】
本発明の重合性液晶化合物の(共)重合物は、本発明の重合性液晶化合物を含む重合性液晶組成物を(共)重合することにより得ることができる。本発明の重合性液晶化合物を含む該重合性液晶組成物において、本発明の重合性液晶化合物の含有量は、好ましくは10〜95質量%である。
また、本発明の重合性液晶化合物の(共)重合物は、光学異方体を構成する場合には、少なくとも室温付近で液晶相を示し、望ましくは20℃以下で液晶相を示すことが好ましい。
【0067】
上記重合性液晶組成物には、本発明の重合性液晶化合物以外の液晶化合物、例えば前述の他の液晶性単量体を添加することができる。しかし、重合性液晶組成物を用いて作成する高分子の耐熱性を保持する意味で、本発明の重合性液晶化合物以外の液晶化合物の添加量は、上記重合性液晶組成物において50質量%以下、特に30質量%以下が好ましい。
【0068】
上記重合性液晶組成物には、その重合反応性を向上させることを目的として、熱重合開始剤、光重合開始剤等の重合開始剤を添加することもできる。これらを添加する場合は、重合性液晶組成物に対して、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下がさらに好ましく、0.5乃至3質量%の範囲が最も好ましい。
【0069】
上記の熱重合開始剤としては、公知のものを特に制限なく使用することができ、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、4,4−ジ(t−ブチルーパーオキシ)ブチルバレレート、ジクミルパーオキサイド等の過酸化物類;2,2’−アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物類;テトラメチルチラウムジスルフィド等が挙げられる。
【0070】
上記の光開始重合剤としては、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル及びベンゾインプロピルエーテル等のベンゾイン類;アセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−プロパン−1−オン及びN,N−ジメチルアミノアセトフェノン等のアセトフェノン類;2−メチルアントラキノン、1−クロロアントラキノン及び2−アミルアントラキノン等のアントラキノン類;2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン及び2,4−ジイソプロピルチオキサントン等のチオキサントン類;アセトフェノンジメチルケタール及びベンジルジメチルケタール等のケタール類;ベンゾフェノン、メチルベンゾフェノン、4,4'−ジクロロベンゾフェノン、4,4'−ビスジエチルアミノベンゾフェノン、ミヒラーズケトン及び4−ベンゾイル−4'−メチルジフェニルサルファイド等のベンゾフェノン類;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド等のオキサイド類、並びに、3−(2−メチル−2−モルホリノプロピオニル)−9−メチルカルバゾール等のカルバゾール類等が挙げられる。光重合開始剤は単独で使用しても、2種以上を併用しても良い。
【0071】
上記重合性液晶組成物には、その保存安定性を向上させるために、安定剤を添加することもできる。使用できる安定剤としては、例えば、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノアルキルエーテル類、第三ブチルカテコール類、ピロガロール類、チオフェノール類、ニトロ化合物類、2−ナフチルアミン類、2−ヒドロキシナフタレン類等が挙げられる。これらを添加する場合は、重合性液晶組成物に対して、1質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下が特に好ましい。
【0072】
上記重合性液晶組成物には、液晶骨格のらせん構造を内部に有する高分子を得ることを目的として、光学活性化合物を添加することもできる。該光学活性化合物としては、例えば〔化41〕に示す化合物を挙げることができる。
【0073】
【化41】

【0074】
本発明の重合性液晶化合物を偏光フィルムや配向膜の原料、又は印刷インキ及び塗料、保護膜等の用途に利用する場合、その目的に応じて、上記重合性液晶組成物には、金属、金属錯体、染料、顔料、色素、蛍光材料、燐光材料、界面活性剤、レベリング剤、チキソ剤、ゲル化剤、多糖、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、抗酸化剤、イオン交換樹脂、酸化チタン等の金属酸化物、重合禁止剤、光増感剤、架橋剤、液晶配向助剤等を添加することもできる。
【0075】
本発明の重合性液晶化合物は、重合又は共重合させることにより、本発明の重合性液晶化合物の(共)重合物からなる光学異方体とすることができる。該光学異方体は、例えば、本発明の重合性液晶化合物及び必要に応じてそれ以外の液晶化合物等の上述の各種添加成分を含み、さらに必要に応じて溶媒を加えてそれらを溶解させた重合性液晶組成物を、支持体上に塗布し、乾燥後、紫外線等を照射して重合させることにより製造することができる。上記支持体は、特に限定されないが、その好ましい例としては、ガラス板、ポリエチレンテレフタレート板、ポリカーボネート板、ポリイミド板、ポリアミド板、ポリメタクリル酸メチル板、ポリスチレン板、ポリ塩化ビニル板、ポリテトラフルオロエチレン板、セルロース板、シリコン板、反射板、方解石板等が挙げられる。本発明の重合性液晶化合物を含む上記重合性液晶組成物を上記支持体に塗布する方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、カーテンコーティング法、押し出しコーティング法、ロールコーティング法、スピンコーティング法、ディップコーティング法、バーコーティング法、スプレーコーティング法、スライドコーティング法、印刷コーティング法等を用いることができる。
【0076】
本発明の重合性液晶化合物の(共)重合物を製造する際に用いることができる上記溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン等が挙げられる。
【0077】
本発明の重合性液晶化合物の(共)重合物からなる光学異方体を作成する際に、本発明の重合性液晶化合物を配向させる方法としては、例えば、上述の支持体に事前に配向処理を施す方法が挙げられる。上記支持体に配向処理を施す好ましい方法としては、各種ポリイミド系配向膜、ポリアミド系配向膜、ポリビニルアルコール系配向膜等からなる液晶配向層を支持体の上に設け、ラビング等の処理を行う方法が挙げられる。また、本発明の重合性液晶化合物を配向させる方法としては、上記支持体上の重合性液晶化合物に磁場や電場等を印加する方法等も挙げられる。尚、上記光学異方体の膜厚は、光学異方体の用途等に応じて適宜選択されるが、好ましくは0.01〜100μmの範囲から選択する。
【0078】
本発明の重合性液晶化合物は、熱又は電磁波を用いる公知の方法により重合させることができる。電磁波による重合反応としては、前記光重合開始剤を用いて紫外光を照射するラジカル重合が好ましい。また、磁場や電場を印加しながら重合させることも好ましい。支持体上に形成した液晶(共)重合物は、そのまま使用しても良いが、必要に応じて、支持体から剥離したり、他の支持体に転写して使用しても良い。
【0079】
本発明の重合性液晶化合物の(共)重合物は、液晶ディスプレイの位相差フィルム、液晶ディスプレイの光学補償板(位相差板)、液晶ディスプレイの配向膜、偏光板、視野角拡大板、反射フィルム、カラーフィルター、ホログラフィー素子、光偏光プリズム、光ヘッド等の光学素子、ローパス・フィルター、輝度向上フィルム、偏光ビームスプリッター等の光学異方体として使用できる。
【実施例】
【0080】
以下、合成例、実施例等をもって本発明を更に詳細に説明する。しかしながら、本発明は以下の合成例、実施例等によって制限を受けるものではない。
以下の合成例等において、化合物の構造は、核磁気共鳴(1H−NMR)スペクトル、赤外吸収(IR)スペクトル等で確認した。また、化合物の熱転移挙動は、DSC及び偏光顕微鏡を用いて観察し、Cは結晶を、Nはネマチック相を、Iは等方性液体相をそれぞれ表す。
【0081】
〔合成例1〕化合物No.16の合成
化合物No.16を以下のステップ1〜3の手順に従って合成した。
<ステップ1>ベンジルエーテルの合成
下記ベンジルエーテルを〔化42〕に示す反応式に従い以下のようにして合成した。
【0082】
【化42】

【0083】
6−アクリロイルオキシ−2−ナフトエ酸1.90g(7.86mmol)をTHF10gに溶解し、−30℃に冷却した後、メタンスルホニルクロリド0.99g(8.65mmol)を加え、トリエチルアミン(TEA)1.91g(18.87mmol)を滴下した。1時間攪拌した後、4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)10mg(0.08mmol)を加え、4−ベンジルオキシ−2−n−プロピルフェノール2.00g(8.25mmol)をTHF7gに溶解したものを滴下し、1時間攪拌した。析出物をろ別し、ろ液を水洗した。溶媒を留去し、残渣をカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン、SiO2)により精製した後、アセトン溶媒で再結晶し、白色固体として目的物であるベンジルエーテルを得た(収量2.27g、収率61.9%)。
【0084】
<ステップ2>フェノールの合成
下記フェノールを、〔化43〕に示す反応式に従い以下のようにして合成した。
【0085】
【化43】

【0086】
無水塩化アルミニウム2.01g(15.08mmol)をアニソール9gに溶解し、氷水冷した後、ステップ1で得られたベンジルエーテル2.27g(4.87mmol)をアニソール9gに溶解したものを滴下した。1時間攪拌した後、塩酸を滴下して析出物を溶解させ、水洗を行った。溶媒を留去して、残渣をカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチル/トルエン=1/5、SiO2)により精製した後、アセトン/メタノール混合溶媒で再結晶し、白色固体として目的物であるフェノールを得た(1.20g、収率65.6%)。
【0087】
<ステップ3>化合物No.16の合成
化合物No.16を〔化44〕の反応式に従い以下のようにして合成した。
【0088】
【化44】

【0089】
6−(6−アクリロイルオキシ−ヘキシルオキシ)−2−ナフトエ酸1.04g(3.04mmol)をTHF12gに溶解し、−30℃に冷却した後、メタンスルホニルクロリド0.38g(3.34mmol)を加え、トリエチルアミン0.74g(7.29mmol)を滴下した。一時間攪拌した後、DMAP4mg(0.03mmol)を加え、ステップ2で得られたフェノール1.20g(3.19mmol)をTHF8gに溶解したものを滴下し、1時間攪拌した。析出物をろ別してろ液を水洗し、溶媒を留去して、残渣をカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチル/トルエン=1/5、SiO2)により精製した後、酢酸エチル/ヘキサンの混合溶媒で再結晶し、白色固体を得た(0.67g、収率31.5%)。得られた白色固体について分析を行ったところ、該白色固体は目的物である化合物No.16であると確認された。分析結果を下記に示す。
【0090】
(分析結果)
(1)IR(cm-1
2936,2866,1624,1474,1404,1339,1273,1246,1200,1169,1150,1065,1022
(2)1H−NMR(ppm)
0.9(t;3H),1.5−1.9(m;10H),2.6(q;2H),3.9−4.3(m;4H),5.7−6.6(m;6H),7.1−7.5(m;6H),7.7−8.3(m;7H),8.7(s;1H),8.9(s;1H)
(3)熱転移挙動
下記[化45]に、熱転移挙動を示す。
【0091】
【化45】

【0092】
〔実施例1、2及び比較例1〜3〕
以下の重合性液晶化合物について、溶媒溶解性、重合後の液晶性、及び重合後の透明性のそれぞれを評価した。評価は下記の方法に従って実施した。それらの結果について表1に示す。
重合性液晶化合物としては、合成例1に準じて合成した化合物No.1(実施例1)、合成例1で得られた化合物No.16(実施例2)、並びに比較化合物としての化合物H−1、H−12及びH−13(比較例1〜3)をそれぞれ用いた。
【0093】
(溶媒溶解性の評価)
シクロヘキサノン又はメチルエチルケトン(MEK)の有機溶媒に対し、33質量%の重合性液晶化合物を添加して、1時間静置後、重合性液晶化合物の溶解の有無を目視で確認した。溶解したものを○、溶解しなかったもの又は溶解後に結晶析出等の状態変化が現れたものを×とし、溶媒溶解性の評価とした。
【0094】
(重合後の液晶性の評価)
重合性液晶化合物1gをシクロヘキサノン2gに添加して撹拌して溶解した後、光重合開始剤(イルガキュア907:チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)0.05gを加え、シクロヘキサノンに完全に溶解させて溶液を調製した。この溶液を、ラビング処理を施したポリイミド配向膜を有するガラス板にバーコーターで塗布し、100℃で3分乾燥後、室温まで冷却し、次いで、水銀ランプで330mJ/cm2に相当する紫外線を照射して光学異方体(重合物)を得た。得られた光学異方体は、触針法により測定したところ、膜厚1.2〜1.5μmであった。該光学異方体を偏光顕微鏡で観察し、液晶相を確認できたものを○、液晶相を確認できなかったものを×とし、重合後の液晶性の評価とした。
【0095】
(重合後の透明性の評価)
上記(重合後の液晶性の評価)で得られた光学異方体において、液晶が着色することなく視認性が良いものを○、液晶が着色して視認性が悪くなったものを×とし、透明性の評価とした。
【0096】
【表1】

【0097】
表1より、比較例1〜3の重合性液晶化合物(化合物H−1、H−12及びH−13)に比べて、本発明の重合性液晶化合物は、溶媒溶解性及び重合後の液晶性において優れることが明らかであり、しかも重合後の透明性にも優れる。実施例1の化合物(化合物No.1)と同じ数の6員環を持つ比較例2の化合物(化合物H−12)は、溶媒溶解性が悪い上に、重合後は液晶性を持たなくなることから、本発明の重合性液晶化合物の優れた溶媒溶解性及び重合後の液晶性は、格別顕著なものであるといえる。
【0098】
〔実施例3〜5、比較例4〜7〕光学(屈折率)異方性(Δn)の比較
以下の重合性液晶化合物について、光学(屈折率)異方性Δnを求めた。Δnは、重合性液晶化合物をエステル系ネマチック液晶に10質量%添加した組成物の物性から外挿して算出した。それらの結果について表2に示す。
重合性液晶化合物としては、合成例1に準じて合成した化合物No.1(実施例3)及びNo.10(実施例4)、合成例1で得られた化合物No.16(実施例5)、並びに比較化合物としての化合物H−1〜H−3及び化合物H−8(比較例4〜7)をそれぞれ用いた。
【0099】
【表2】

【0100】
表2より、本発明の重合性液晶化合物は明らかにΔnが高い。この結果より、以下のことがいえる。即ち、本発明の重合性液晶化合物を単量体として用いて(共)重合物(液晶材料)を作成すると、液晶材料を薄膜化することが可能であり、得られる(共)重合物からなるコレステリック液晶の選択反射波長帯域幅が広くなるという優れた効果が奏される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される重合性液晶化合物。
【化1】

(式中、R1及びR2は、各々独立に、水素原子、メチル基又はハロゲン原子を表し、
環A、環B及び環Cは、各々独立に、ベンゼン環、シクロヘキサン環、シクロヘキセン環、ナフタレン環、テトラヒドロナフタレン環、デカヒドロナフタレン環、アントラセン環又はフェナントレン環を表し、これらの環中、−CH=は−N=で、−CH2−は−S−又は−O−で置換されていてもよく、環A、環B及び環Cのうち少なくとも一つが縮合環であり、
X、Y及びZは、各々独立に、置換基を有してもよい炭素原子数1乃至6のアルキル基、置換基を有してもよい炭素原子数1乃至6のアルコキシ基、置換基を有してもよい炭素原子数2乃至6のアルケニル基、ハロゲン原子、シアノ基又は下記一般式(2)で示される基を表し、
1、L2及びL3は、各々独立に、単結合、−COO−、−OCO−、−(CH2h−、−CH=CH−、−(CH2iO−、−O(CH2j−、−O(CH2kO−、−OCOO(CH2l−、−(CH2mOCOO−、−(OCH2CH2o−、−(CH2CH2O)p−、−(OCH2CH(CH3))q−、−(CH(CH3)CH2r−、−(CH2sO(CH2t−、−O(CH2u−[Si(CH32O]v−Si(CH32(CH2w−、−CH=CHCH2O−、−OCH2CH=CH−、−CH=CH−COO−、−OCO−CH=CH−、−C≡C−、−(CH22COO−、−OCO(CH22−、−CF=CF−、−OCF2−、−CF2O−、−C≡C−COO−、−OCO−C≡C−又は−O−であって、一部の炭素原子がケイ素原子であってもよく、
nは0又は1を表し、
h、i、j、k、l及びmは各々独立に1乃至8の整数を表し、
o、p、q、r、s、t、u、v及びwは各々独立に1乃至3の整数を表し、
a、b及びcはそれぞれ環A、環B及び環Cにおける置換基の数であって、それぞれの置換される単環又は縮合環に含まれる6員環の数をdとすると、a、b又はcは、2d+2以下の整数であって、nが0のときは、少なくともa及びbのいずれかは1以上であり、nが1のときは、少なくともa、b及びcのいずれかは1以上である。)
【化2】

(式中、R3は水素原子、メチル基又はハロゲン原子を表す。)
【請求項2】
下記一般式(3)で表される請求項1記載の重合性液晶化合物。
【化3】

(式中、R1、R2、環A、環B、環C、X、Y、Z、a、b、c及びjは上記一般式(1)と同様であり、環A、環B及び環Cの少なくとも一つが縮合環である。)
【請求項3】
上記一般式(1)又は(3)における環A、環B及び環Cのうちの二つ以上が縮合環であることを特徴とする請求項1又は2記載の重合性液晶化合物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の重合性液晶化合物を重合してなる単独重合物。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の重合性液晶化合物と他のエチレン性不飽和結合を有する化合物とを共重合してなる共重合物。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載の重合性液晶化合物と光学活性基を有する単量体とを共重合してなる共重合物。
【請求項7】
請求項4記載の単独重合物、請求項5記載の共重合物、及び請求項6記載の共重合物からなる群から選択される少なくとも一種からなる光学異方体。

【公開番号】特開2007−119415(P2007−119415A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−315699(P2005−315699)
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】