説明

繊維含有物品

本発明は、再現可能な特有の形状の少なくとも幾つかの人造繊維を、特定のための手段として含有する繊維含有物品であって、再現可能な特有の形状が、該物品中に含有される残りの繊維の形状から明らかに区別可能である、物品に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は繊維含有物品に関する。特に、本発明は、追跡または安全確保の目的のための、そのような繊維含有物品の特定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高い価値を有する繊維を含有する製品の開発は開発コストおよびマーケティングコストの両方の点で財源を要する。これは特に、複雑な供給連鎖が存在する織物の分野において言えることである。ある織物物品を製造するために使用可能な、種々の供給業者から入手可能な多数の織物繊維材料が市場に存在し、これは、高価なオリジナルな開発実施を行う組織にとっては不都合なことである。さらに、最終織物物品への繊維材料の加工は多数の異なる加工工程を含み、これらの工程は、ほとんどの場合、異なる企業により世界的規模で行われる。
【0003】
したがって、中間(前駆体)製品または最終織物物品のいずれの場合も、その材料の起源およびこれらの材料の組成を特定することは容易な作業ではない。これは、時には織物物品がその起源に関して適切に記載されないという問題をも招く。時には、繊維の一般名称が誤って使用される。
【0004】
そのような織物連鎖における最終的な買い手は、示されている繊維材料が適切に使用されており、ブランド機能が適切に満たされていると確信することを望む。
【0005】
いくつかの繊維含有物品、例えば紙は、特に安全確保のための特定を要することがある。紙を特定するための手段として、紙に透かし模様を組込むことは、よく知られている。透かし模様は、紙が製造される際に紙に組込まれなければならないため、それは、偽造紙製品が製造される場合に克服しなければならない障害となる。他の織物含有物品、または専ら織物から構成される物品でさえも、それぞれ独自に特定可能であることが有用であろう。例えば、スワブのような医学用品目が、許可されていない場所に現れた場合に、追跡が維持されうるよう、医学用品目が特定可能なものとなることが有用であろう。また、ある織物含有製品は偽造されることがあり、特に、安全に関わるもの、例えばブレーキパッドなども、特定可能なものにされることが有用であろう。
【0006】
原料を繊維に変換するために用いる加工に耐える人造セルロース系繊維に非セルロース物質を含有させることは公知である。これは、この追加的物質が繊維材料の特性を変化させず材料の加工に影響を及ぼさないことを意味する。
【0007】
ついで、織物材料の化学分析により、これらの化学元素または化合物を検出する必要がある。
【0008】
そのアプローチの欠点は、織物材料の化学分析が、特別な装置を使用しなければ行うことができず、高い経費を要し、長時間を要することである。したがって、これのみに頼ることは問題となりうる。
【0009】
物品の容易な特定を可能にする特別な組合せのパラメーターまたは特性を有する物品を提供することが、本発明の目的である。特に、本発明の目的は、単独で又は他の繊維含有物品のなかで特定可能な繊維材料を含有する又は繊維材料から実質的になる物品を提供することである。そのようなパラメーターの組合せは、多数の人々および組織により安価で簡便に特定が行われうるよう選ばれる。
【発明の概要】
【0010】
発明の説明
本発明は、再現可能な特有の形状の少なくとも幾つかの人造繊維を、特定のための手段として含有する繊維含有物品を提供する。
【0011】
本発明の目的のための「再現可能な特有の形状」における形状は、物品に含有される残りの繊維の形状から明らかに区別可能な形状であると理解される。
繊維含有物品は、好ましくは、実質的に繊維からなる。
【0012】
好ましくは、再現可能な形状を有する人造繊維はセルロース系繊維であり、更に好ましくは、ビスコース繊維、ポリノジック繊維、高湿潤性(high wet)モジュラス繊維またはリオセル(lyocell)繊維からなる群から選ばれる。
【0013】
特に好ましいのは、再現可能な特有の形状の或る量の人造セルロース系繊維を含有する人造セルロース系繊維から実質的になる物品である。
【0014】
物品は、織物物品(textile article)、例えば、繊維の梱(bale)、スライバー、糸(yarn)、織物、衣類または家庭用織物(home-textile)であることが可能であり、あるいは不織物品(non-woven article)、例えばウェブ、充填用繊維、特に寝袋用または寝具物品用のものであることが可能であり、あるいは工業的物品、例えば繊維強化材、ロープ、フロック加工壁紙であることが可能であり、あるいは紙であることが可能である。
もう1つの好ましい実施形態においては、物品は特殊紙、特に銀行券用の紙である。
【0015】
特有の形状の繊維は、容易に特定されることを可能にするのに十分な比率で、繊維含有物品内に含まれうる。好ましくは、物品は、少なくとも1%かつ好ましくは10%未満の特有の形状の繊維を含有する。さらに好ましくは、物品は、1〜5%、最も好ましくは1〜2%の特有の形状の繊維を含有する。特有の形状の繊維は更に、化学的トレーサー(化学的追跡用物質)、好ましくは、製造工程においてのみ人造繊維中に組込まれうるものを含有しうる。
【0016】
繊維は特有のサイズの断面形状のものでありうる。例えば、繊維は、特有のサイズ化環状断面形状または特有の非環状断面形状のものでありうる。非環状断面形状は、例えば、押出の直後にセルロース系フィラメントを溶融させることにより、あるいは造形紡糸口金孔からの適当な紡糸液の押出により作製されうる。
【0017】
セルロース系人造繊維の場合、種々の公知繊維自体の断面形状の間に既に相違が存在する。
【0018】
例えば、標準的なビスコース繊維はやや鋸歯状の断面形状を示し、一方、ポリノジック繊維およびいくつかの特別な高湿潤性モジュラス繊維ならびに標準的なリオセル(lyocell)繊維は実質的に丸い断面形状を示す。どちらの断面形状もお互いから明らかに区別可能である。
【0019】
したがって、実質的に丸い断面を有する或る量の繊維を、鋸歯状の断面を有する繊維を含有する物品と混合すると、該物品が容易に特定されることが可能となる。
【0020】
また、特有の形状が、特有の長さの繊維を含みうることも可能である。ステープル繊維(ステープルファイバー)は、通常、フィラメントの連続的トウ(tow)の押出の後、トウを切断してステープル繊維を形成させることを含む方法により製造されるため、繊維の製造は、一旦製造されると繊維の後の使用者により偽造され得ない或る長さの繊維を与えるという特有なものである。後の使用者はステープル繊維をより短い長さに切断しうるに過ぎず、実際、繊維含有物品は、デザインを偽造しようとする者がそれぞれ異なる長さに切断することが恐らく不可能な何百万個のステープル繊維を含有する。
【0021】
人造セルロース系繊維の製造は、非常に高価なプラントを要する資本集約的方法であり、予想される偽造者が安易に行うことができないものである。
【0022】
追跡用要素を繊維内に組込む場合、着色色素、蛍光色素、ミクロスフェアを使用する特有の形状の粒子、あるいは既知の反応性または明確に推定される紫外もしくは赤外スペクトルを有する化学物質が使用されうるであろう。
【0023】
本発明は更に、繊維含有物品の特定を可能にするための方法であって、物品に含有される残りの繊維の形状から明らかに区別可能である、再現可能な特有の形状の少なくとも幾つかの人造繊維を物品に付与する工程を含んでなる方法に関する。
【0024】
特有の再現可能な形状を有する人造繊維の、本発明の物品内に含有されるその他の繊維への混合は、製造プロセスの種々の段階で行われうる。
【0025】
例えば、繊維は、繊維製造プロセス中に既に(例えば、それぞれの紡糸溶液から紡糸された後)、一緒に混合されうる。あるいは、繊維は、例えばヤーン(糸)のような織物物品を形成させる段階で一緒に混合されうる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明で使用するフィラメントを紡糸するのに使用する押出孔の概要図である。
【図2】フィラメントの断面の顕微鏡写真の複写である。
【図3】フィラメントの断面の顕微鏡写真の複写である。
【図4】フィラメント突出部の縦横比を決定するために行った測定結果を示す。
【図5】フィラメントの断面の顕微鏡写真の複写である。
【図6】本発明で使用するフィラメントを紡糸するのに使用する押出孔の概要図である。
【図7】フィラメントの断面の顕微鏡写真の複写である。
【図8】本発明で使用するフィラメントを紡糸するのに使用する押出孔の概要図である。
【図9】フィラメントの断面の顕微鏡写真の複写である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
発明の実施形態
つぎに、例示として、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明することとする。添付図面は、米国特許第6 333 108号から採用したものであり、ビスコース繊維製造プラントに近づかない限り偽造できないセルロース系繊維における特有の繊維形状の具体例を示している。
【0028】
図面において、図1、6および8は、本発明で使用するフィラメントを紡糸するのに使用する押出孔の概要図である。
図2、3、5、7および9は、フィラメントの断面の顕微鏡写真の複写である。
図4は、フィラメント突出部の縦横比を決定するために行った測定結果を示す。
【0029】
ポリエステル繊維またはポリプロピレン繊維のような幾つかの人造繊維は、溶融可能な重合体を加熱しそれを紡糸口金から押出すことにより製造されるが、これはセルロース系繊維の場合には当てはまらない。したがって、ポリエステルおよびポリプロピレンのような人造繊維は、(紡糸口金を製造するという難しさはあるものの)セルロース系繊維の場合より容易に小規模で製造されるであろう。ビスコース繊維のようなセルロース系繊維は、それ自体はよく知られている方法だが、繊維の偽造を可能にするほど小規模では、容易には模倣できない方法により、大きな複雑な製造プラントにおいて製造される。これはリオセル(lyocell)繊維にも当てはまり、この場合もまた、商業的使用のための繊維を製造するために大きな製造プラントが用いられる。
ビスコース法およびリオセル法は共によく知られている。
【0030】
ビスコース法においては、セルロースを苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)でスラリー化してアルカリセルロースを形成させ、それを押出し、排出させる。これを予備熟成させて、セルロースを部分的に解重合させる。予備熟成後、アルカリセルロースを二硫化炭素と反応させてセルロースキサントゲン酸ナトリウムを形成させる。そしてこれを更に苛性ソーダに溶解して、ビスコースまたはドープとしても公知の紡糸溶液を形成させる。ついで、紡糸過程を促進するためにキサンタート基の再分布が可能となるよう、ドープを熟成させる。熟成したドープを濾過し、紡糸口金から酸性液(典型的には硫酸を含有する酸性液)中に押出す。酸はアルカリと反応してナトリウム塩、典型的には硫酸ナトリウムを形成し、二硫化炭素が放出されて、長いフィラメントの形態でセルロースを再生する。
【0031】
リオセル法においては、セルロースを水および有機溶媒、例えばn-メチルモルホリンN-オキシド(NMMO)と混合し、混合物を真空下で加熱して水の一部を追い出して、NMMOと残りの水との混合物にセルロースを溶解させる。これはドープを生成し、ドープを紡糸口金およびエアギャップを介して紡糸浴内に押出す。紡糸浴において、溶存セルロースが析出してセルロースフィラメントを形成するよう、押出されたフィラメントからNMMOを溶出する。
【0032】
どちらの場合も、セルロースのフィラメントを適当な切断機に送って、ステープル繊維を形成させ、これが、本発明で好ましく使用される生成物である。
【0033】
造形繊維は、図面に示されている造形紡糸口金孔からフィラメントを押出すことにより製造することが可能であり、あるいは、造形繊維を形成させるために押出し直後にフィラメントが融合するよう密接して隣接した孔を有する紡糸口金からフィラメントを押出すことにより、それを製造することが可能である。繊維の形状およびステープル繊維フィラメントの長さの両方とも制御可能であり、製造方法においては、繊維製造者は、本発明の特有に特定可能な物品の製造を可能にするために、それぞれ特有の顧客に販売されうる多数の異なる組合せを製造することが可能である。
【0034】
造形繊維の製造方法の完全な詳細は米国特許第6333 108B号(その内容を参照により本明細書に組み入れることとする)に記載されている。本質的には、ビスコースドープは、所望の繊維の形状に適合するよう造形された押出孔から紡糸される。例えば、ビスコースは、図1に示すY形の押出孔から押出されることが可能であり、この場合、3本の足はお互いに対して120°で配置されており、各足の突出は長さ89ミクロンおよび幅25ミクロンである。これは、図2、3、5に示す及び図4に図式的に示す繊維を与える。同様に、図6に示す孔は、図7に示す繊維を与え、図8に示す孔は、図9に示す繊維を与える。
【0035】
繊維製造方法は、大きなビスコース繊維プラントを要するため、莫大な投資をしない限り、偽造繊維を製造することは不可能である。繊維製造者が、図4に示す長さLを様々に変化させて、1本の突出部が、残りの2本の突出部とは異なる長さを有するよう、あるいは3本すべての突出部が異なる長さを有するよう、あるいは3本すべての突出部が同じ長さを有するよう、様々な長さの突出部を有する繊維を製造することが可能である。突出部の幅Wを変化させることも可能である。さらに、突出部の数を変化させることが可能である。
【0036】
繊維の断面形状を変化させることが可能であるだけでなく、繊維のステープルの長さも変化させることが可能である。この場合もまた、ある与えられた長さへのステープル繊維の切断は、例えばビスコースまたはリオセル繊維のためのフルスケールの生産プラントにおいてのみ可能であり、相当な投資をしない限り偽造され得ない。
【0037】
少量のそのようなビスコースセルロース系造形繊維を通常のビスコース繊維と混合することにより、純粋なビスコース繊維と全く同様に加工され染色されうる製品を得ることが可能であり、一方、製品は、単にベイルまたはヤーン(糸)または織物または衣料品のいずれかから1組の繊維の断面をとり、それを顕微鏡下で検査することにより、容易に特定されうる。これは、繊維の起源が容易に追跡されうることを意味し、これは特定に相当役立つものであり、ある品目、例えば債券の場合には、製品の保証(security)面の特定を容易に可能にする。
【実施例】
【0038】
以下の実施例は本発明の織物物品の種々の実施形態を例示するものである。
【0039】
・標準的な(鋸歯状の)断面形状を有する98%ビスコース繊維とY形またはH形の断面形状を有する2%ビスコース繊維との混合物を含有する織物物品、例えばベイルまたはヤーン。
【0040】
・例えばPCT/AT2005/000493(予備公開されていない)に開示されている、標準的な(例えばピーナッツ状の)断面形状を有する97%の典型的な繊維と3%の典型的な繊維との混合物を含有する織物物品、例えばヤーンの繊維ベイル。
【0041】
前記の全ての実施例(具体例)において、当業者は、問題の物品に含有される繊維の断面形状を顕微鏡写真により検査することにより、該物品の実体を容易に決定することが可能である。すべての場合において、異なる断面形状を有する少量の繊維が明らかに確認されうるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
再現可能な特有の形状の少なくとも幾つかの人造繊維を、特定のための手段として含有する繊維含有物品であって、再現可能な特有の形状が、該物品中に含有される残りの繊維の形状から明らかに区別可能である物品。
【請求項2】
人造繊維がステープル繊維である、請求項1記載の物品。
【請求項3】
人造繊維がセルロース系繊維である、請求項1または2記載の物品。
【請求項4】
セルロース系繊維が、ビスコース繊維、ポリノジック繊維、高湿潤性(high wet)モジュラス繊維またはリオセル(lyocell)繊維からなる群から選ばれる、請求項2記載の物品。
【請求項5】
繊維、好ましくはセルロース系繊維から実質的になる、請求項1〜4のいずれか1項記載の物品。
【請求項6】
再現可能な特有の形状が、特有の環状断面形状、特有の非環状断面形状および特有の繊維ステープル長からなる群から選ばれる、請求項1〜5のいずれか1項記載の物品。
【請求項7】
物品が織物物品(textile article)である、請求項1〜6のいずれか1項記載の物品。
【請求項8】
物品が、ウェブのような不織物品(non-woven article)、充填用繊維、特に寝袋用または寝具物品用の充填用繊維、あるいは繊維強化材のような工業的物品、ロープ、フロック加工壁紙および紙からなる群から選ばれる、請求項1〜6のいずれか1項記載の物品。
【請求項9】
物品が特殊紙、特に銀行券用の紙である、請求項8記載の物品。
【請求項10】
織物物品が、繊維の梱(bale)、スライバー、糸(yarn)、織物、衣類または家庭用織物(home-textile)からなる群から選ばれる、請求項7記載の物品。
【請求項11】
特有の造形繊維が、物品中に含有される繊維の1〜10%未満、さらに好ましくは1〜5%、最も好ましくは1〜2%を含有する、請求項1〜10のいずれか1項記載の物品。
【請求項12】
繊維が更に、化学的追跡用物質を含有する、請求項1〜11のいずれか1項記載の物品。
【請求項13】
繊維含有物品の特定を可能にするための方法であって、該物品に含有される残りの繊維の形状から明らかに区別可能である、再現可能な特有の形状の少なくとも幾つかの人造繊維を該物品に付与する工程を含んでなる方法。
【請求項14】
特有の造形繊維が、物品中に含有される繊維の1〜10%未満、さらに好ましくは1〜5%、最も好ましくは1〜2%を含有することを特徴とする、請求項13記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2009−540140(P2009−540140A)
【公表日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−514589(P2009−514589)
【出願日】平成19年5月30日(2007.5.30)
【国際出願番号】PCT/AT2007/000259
【国際公開番号】WO2007/143762
【国際公開日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(500077889)レンツィング アクチェンゲゼルシャフト (20)
【Fターム(参考)】