説明

繊維強化プラスチックの成形方法

【課題】上型を使用しないVaRTM法にて繊維強化プラスチックを成形する方法に関し、樹脂の廃棄量削減と成形品の収率の向上との両立を可能ならしめて、複合材料の高強度化、軽量化することが可能な繊維強化プラスチックの成形方法。
【解決手段】成形型1の上に強化繊維材2、副資材を配置し、強化繊維材、副資材を密閉媒体8で覆い、密閉媒体8と成形型1の間を気密にシールし、密閉媒体8と成形型1との間を排気すると共に強化繊維材2に樹脂を注入して硬化させる繊維強化プラスチックの成形方法において、樹脂注入路5と真空吸引路6を設けて、真空吸引路6から排気しながら、樹脂注入路5から規定量の樹脂を注入・含浸した後、樹脂の注入を停止し、且つ真空吸引路6から樹脂が流出する前に、排気を停止し、実質的に強化繊維材2に注入・含浸した樹脂を真空吸引により除去しないで、樹脂を硬化させることを特徴とする繊維強化プラスチックの成形方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、航空機などの一次構造部材として好適に用いることができる、強化炭素繊維と樹脂とからなる繊維強化プラスチックの成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維強化プラスチック製の複合材料は様々な分野で利用されている。特に、航空機用途の複合材料においては、高強度化、軽量化、低コスト化が要求されるため、成形工程における廃棄物の量を削減し、且つ、複合材料全体に占める強化繊維の体積含有率(Vf)を55%〜60%程度のいわゆる高Vf化することが望ましい。
【0003】
繊維強化プラスチックを成形する方法として、強化繊維を所定の形状に賦形することによって強化繊維材(プリフォーム)を製作し、この強化繊維材を両面型にて形成されるキャビティー内に配置した後、該キャビティー内に樹脂を注入することにより、強化繊維材に樹脂を含浸させて成形体を成形するRTM(esin ransfer olding)法が知られている(図1)。RTM法においては、樹脂を加圧し、大気圧との差圧によりキャビティー内に樹脂を注入するため、樹脂の加圧設備と、両面型用のプレス機が必要になり、成形装置が大がかりになる。一方、両面型は使用せずに下型の上に強化繊維材を配置した後、強化繊維材をバギングフィルムなどの密閉媒体にて密閉し、密閉内部を真空吸引して減圧し、該密閉内部に大気圧を利用して樹脂を注入することにより、強化繊維材に樹脂を含浸させて成形体を製造するVaRTM(acuum ssisted esin ransfer olding)法が知られている。VaRTM法は、上型が不要であり、且つ真空圧のみで樹脂を含浸させるため、成形装置の簡略化を図ることができる好適な方法である。しかしながら、VaRTM法においては、上型を使用しないため、樹脂の注入時にバギングフィルムにかかる圧力が大気圧とつりあってスプリングバッグにより板厚が厚くなる現象が起こる。RTM法に比べて、VaRTM法においては成形中に板厚が厚くなる分、密閉内部に余剰に注入された樹脂を排出して、成形体の厚みの制御が必要になる課題があった。このような繊維強化プラスチックの成形方法に関する従来技術としては、特許文献1〜3に記載の技術が提案されている。
【0004】
特許文献1に記載のRTM成形法では、下型とバギングフィルム又は上型の内部に敷設された強化繊維材に、樹脂注入路から樹脂の注入・含浸を行うと共に、樹脂排出路から排気して樹脂を樹脂注入路から樹脂排出路まで充満して、強化繊維材に樹脂を含浸させた後、樹脂注入路と樹脂排出路とから強化繊維材に余剰に含浸された樹脂を排出させながら硬化することにより、成形品の厚みを調整することができる方法が記載されている。しかし、このRTM成形法では、製品となる成形品を構成する樹脂の量よりも多い樹脂量を強化繊維材に注入・含浸した後、所定の厚みになるまで、強化繊維材に含浸された樹脂を吸引除去するため、成形品を構成している樹脂量に加えて排出される樹脂量も必要であり、製造コストと廃棄物を増やす原因となっていた。
【0005】
特許文献2に記載のRTM成形法は、注入ポートと排出ポートとが形成された冶具の内部にプリフォームを配置し、前記注入ポートを通じて前記冶具内に樹脂を注入すると共に、前記排出ポートを通じて前記冶具内の樹脂を排出する第1含浸工程と、前記排出ポートを通じての樹脂の排出を継続しつつ、前記注入ポートからの樹脂の注入を停止して前記注入ポートから樹脂を排出する第2含浸工程を備えることを特徴としている。このRTM成形方法では、成形後の複合材料の繊維含有率Vfを均一にするために、特許文献1と同様に、第1含浸工程により、プリフォームに余剰に注入・含浸された樹脂を、第2含浸工程において排出することを特徴としている。そのため、成形後の複合材料を構成している樹脂量に加えて排出される樹脂量も必要であり、製造コストと廃棄物を増やす原因となっていた。
【0006】
特許文献3には、FRP成形体の目標の体積含有率よりも低い体積含有率となるように樹脂を強化繊維材に含浸させた後、樹脂の注入を停止し、しかる後に目標の繊維体積含有率になるまで樹脂の吸引を継続することにより、FRP成形品が目標とする繊維体積含有率になるようにするRTM成形方法が記載されている。このRTM成形も特許文献1,2と同様に、成形後のFRP成形品を構成している樹脂量に加えて排出される樹脂量も必要であり、製造コストと廃棄物を増やす原因となっていた。
【0007】
一方、樹脂の注入後に樹脂の排出を停止してしまうと、プリフォーム内部に余分な樹脂が残り、強化繊維のVfが低下し、所定のVf要求値を満たすのが困難であった。また、特許文献1,2のように、プリフォームに余分に含浸された樹脂を吸引除去すると、特に積層枚数が少なく、薄い繊維強化プラスチックを成形する場合においては、必要以上に樹脂を吸引除去してしまい、成形後の繊維強化プラスチックが薄くなりすぎることにより、Vfが要求値の上限を超えてしまう問題もあった。
【0008】
つまり上型を使用しないVaRTM成形においては、最終的に成形される繊維強化プラスチックの成形品を構成する樹脂量よりも多い樹脂量を意図的にプリフォーム内に注入・含浸させた後、プリフォーム内から余剰に注入・含浸された樹脂を吸引除去することにより、成形品の厚み、Vfを制御する方法しか示されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−212383号公報
【特許文献2】特許第4035464号公報
【特許文献3】特許第4104413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、上型を使用しないVaRTM法にて繊維強化プラスチックを成形する方法に関し、上記のような従来技術における問題を解消し、樹脂の廃棄量削減と成形品の収率の向上との両立を可能ならしめて、複合材料の高強度化、軽量化することが可能な繊維強化プラスチックの成形方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明に係る繊維強化プラスチックの成形方法は、成形型の上に強化繊維材、副資材を配置し、強化繊維材、副資材を密閉媒体で覆い、該密閉媒体と成形型の間を気密にシールし、密閉媒体と成形型との間を排気すると共に強化繊維材に樹脂を注入して硬化させる繊維強化プラスチックの成形方法において、樹脂注入路と真空吸引路を設けて、真空吸引路から排気しながら、樹脂注入路から規定量の樹脂を注入・含浸した後、樹脂の注入を停止し、且つ真空吸引路から樹脂が流出する前に、排気を停止し、実質的に強化繊維材に注入・含浸した樹脂を真空吸引により除去しないで、樹脂を硬化させる工程と、を備えている方法からなる。
【0012】
上記複合材料の成形方法において、樹脂の規定量とは、成形後の繊維体積含有率Vfを有する繊維強化プラスチックを構成する樹脂量と、樹脂注入路と樹脂吸引路の空隙を満たす樹脂量と、樹脂注入・含浸により副資材に含浸する樹脂量の合計であることが好ましい。
【0013】
上記繊維強化プラスチックの成形方法において、繊維体積含有率Vfの範囲は、50〜60%であることが好ましい。
【0014】
上記繊維強化プラスチックの成形方法において、副資材は、ピールプライおよび樹脂拡散媒体であることができる。
【0015】
上記繊維強化プラスチックの成形方法において、副資材に金網が含まれることができる。
【0016】
上記繊維強化プラスチックの成形方法において、ピールプライに含浸する樹脂の量は、20g/m〜60g/mであることが好ましい。
【0017】
上記繊維強化プラスチックの成形方法において、樹脂拡散媒体に含浸する樹脂の量は、100g/m〜700g/mであることが好ましい。
【0018】
上記繊維強化プラスチックの成形方法において、金網に含浸する樹脂の量は、100g/m〜700g/mであることが好ましい。
【0019】
上記繊維強化プラスチックの成形方法において、樹脂の注入量を重量でモニタリングすることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る、上型が不要なVaRTM法で繊維強化プラスチックを成形する方法によれば、余分な樹脂の排出を防ぐことができるため、廃棄物とコストの削減効果を高める。また、密閉媒体と成形型との間の空隙を満たす樹脂量を注入することで、強化繊維材に含浸される樹脂量を制御して、成形品の厚みおよびVfを制御することができ、強度、軽量性に優れた成形体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】上型を用いたRTM成形法の成形装置である。
【図2】実施形態に係わるRTM成形方法に用いる成形装置である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の望ましい実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0023】
図2は、本発明の一実施形態に係わるRTM成形方法に用いる成形装置の一例を示している。図2において、成形型1の材質としてはスチール、アルミ、インバーなどの金属材料、木材、または繊維強化プラスチックを挙げることができ、後述する成形工程による大気圧がかかっても変形しない剛性と、後述する樹脂硬化工程に耐え得る耐熱性とを兼ね備える必要があるが、このような特性を有する物であれば、その構造や材料に制限はない。成形型の形状は、平板型、凸型、凹型などの形態を挙げることができ、繊維強化プラスチックの所望の形状に合わせた形状をしている。また、成形型1には、繊維強化プラスチックを成形後に脱型するための脱型機構を設けても良い。
【0024】
成形型1内に、図示例では成形型1上に、強化繊維材2が配置される。強化繊維材2を構成する強化繊維としては、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサドール(PBO)繊維などの有機繊維、ガラス繊維、炭素繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、チラノ繊維、玄武岩(バサルト)繊維、セラミックス繊維などの無機繊維、ステンレス繊維やスチール繊維などの金属繊維、その他、ボロン繊維、天然繊維、変成した天然繊維などを繊維として用いた強化繊維などが好ましく用いられる。その中でも、炭素繊維はこれら強化繊維の中でも軽量であり、しかも比強度および比弾性率において特に優れた性質を有しており、さらに耐熱性や耐薬品生にも優れていることから、軽量化が望まれる航空機の構造部材などの部材に好適である。さらに、炭素繊維の中でも、高強度の炭素繊維が得られやすいポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維が特に好ましい。
【0025】
強化繊維材2は、例えば強化繊維布帛を積層したものからなり、最終成形品の形状を有していることが好ましい。なお、積層体を形成する強化繊維布帛の表面には、熱可塑性樹脂および/または熱硬化性樹脂を含んでいても良い。かかる熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂などを使用することができる。また、熱可塑性樹脂としては、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリカーボネイト樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアラミド樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、酢酸セルロース樹脂などを使用することができる。この中でも、強化繊維布帛積層体の布帛間を加熱加圧により付着させること、繊維強化プラスチックの硬化後にマトリックス樹脂と接着させることを考慮すると、マトリックス樹脂と接着性が良好な熱可塑性樹脂を単独で、もしくは熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂とをブレンドして使用することが好ましい。
【0026】
熱可塑性樹脂および/または熱硬化性樹脂の強化繊維布帛への付着形態は、点状、線状または不連続線状のいずれであっても良い。点状に付着させるためには、粒子状もしくは粉体状の熱可塑性樹脂および/または熱硬化性樹脂を強化繊維布帛の表面に散布して熱融着させると良い。また、線状または不連続線状に付着させるためには、不織布や織物などの連続繊維からなる布帛を強化繊維布帛の表面に貼り合わせた後に熱融着させると良い。かかる熱可塑性樹脂および/または熱硬化性樹脂は、強化繊維布帛の片面に設けても、両面に設けても良い。
【0027】
こうして得られる積層体を、成形型1の上面に配置する。
【0028】
本実施形態では、強化繊維材2の上に、マトリックス樹脂を拡散させるための樹脂拡散媒体4がピールプライ3を介して配置される。樹脂拡散媒体4には、マトリックス樹脂の流動抵抗が強化繊維材2内を流れる場合の流動抵抗に比べて低い抵抗をなす媒体であることが好ましく、具体的には、ポリエチレンやポリプロピレン樹脂製のメッシュ織物で、樹脂拡散媒体に含浸する樹脂の量は、100g/m〜700g/mであることが好ましい。ピールプライ3は、繊維強化プラスチックから樹脂拡散媒体4を容易に除去するために介装され、例えばナイロン製織物が用いられる。強化繊維材2にマトリックス樹脂が好適に流れることが好ましく、ピールプライに含浸する樹脂の量は、20g/m〜60g/mであることが好ましい。また、繊維強化プラスチックの表面粗度を低減、またはマトリックス樹脂の流動を増やす目的で、ピールプライ3上に金網を配置しても良い。金網に含浸する樹脂の量は、100g/m〜700g/mであることが好ましい。金網は例えばSUS304製のメッシュ織物で、強化繊維材2の形状に沿える剛性であることが好ましい。これら成形型1に配置された部材全体が、密閉部材からなる密閉媒体8で覆われる。ここで密閉媒体8とは、後述する樹脂注入含浸工程と、樹脂硬化工程で、加熱された状態で密閉媒体8の内部を密閉に保つことができる耐久性と、注入するマトリックス樹脂に対する耐薬品性を備える必要があり、密閉媒体8の材質としては、ナイロン、フッ素、シリコン、アラミド、ポリイミド、ポリエチレンなどの高分子材料を挙げることができるが、このような特性を有する物であれば、その構造や材料に制限はない。後述する樹脂注入含浸工程と、樹脂硬化工程で用いられる密閉媒体8は、加熱時の耐久性に優れる点を考慮すると、ナイロンフィルムを使用することが好ましい。密閉媒体8の内部を減圧状態に保ち、外部からの空気の流入を防止できるよう、粘着性の高い合成ゴム製のシーラント7で密閉媒体8の内部を密閉する。
【0029】
シーラント7によりシールされた密閉媒体8内に、樹脂注入路5と、真空吸引により密閉媒体内を減圧するための真空吸引路6が設けられ、それぞれ樹脂注入ライン9と真空吸引ライン12に接続されている。樹脂注入路5、真空吸引路6には、例えばアルミニウム製のCチャンネル材等を使用することができ、これらチャンネル材を、樹脂注入ライン9、真空吸引ライン12を形成するプラスチック製のチューブを介して外部部材と接続すればよい。また、成形型1に溝加工を施し、樹脂注入路5、真空吸引路6として使用してもよい。真空トラップ13は真空容積を確保し、密閉媒体8で密閉された内部の真空度を安定させる効果と、真空ポンプ14内に排気以外のものが流入するのを防ぐ目的から、真空トラップ13は真空吸引ライン12を介して真空吸引路6に接続される。真空ポンプ14は、真空吸引路6、真空トラップ13を介して、密閉媒体8で密閉された内部から排気し、内部を減圧状態に保持する。
【0030】
繊維強化プラスチックを構成するマトリックス樹脂10は、例えばプラスチック製のポット内に収容される。マトリックス樹脂10としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、フェノキシ樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、マレイミド樹脂、シアネート樹脂などの熱硬化性樹脂が好ましく用いられる。その中でも、エポキシ樹脂や不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂等や、それらの混合樹脂が好ましく、高靭性を付与するという点を考慮すると、エポキシ樹脂が特に好ましい。また、マトリックス樹脂10の注入量をモニタリングするために、マトリックス樹脂10は樹脂量モニタリング装置11上に配設される。樹脂量モニタリング装置11は繊維強化プラスチックの繊維体積含有率Vfを1.0%の精度で制御できる性能を備えていることが好ましく、例えば、1.0gまでの測定性能を備えた秤などが挙げられるが、Vf制御が可能である測定精度であれば、その測定性能に制限はない。ここで、成形品Vfを50〜60%の範囲で制御することが好ましいのは、例えば、航空機部材の場合、対金属材料とのコスト・性能比較では、Vfを50%以上とする必要があり、また、繊維体積含有率が60%を超えるような高Vfとなった場合には、含浸不良となってボイドを発生し、成形体における層間剪断強度が低下する等の問題が生じやすくなるためである。成形品の繊維体積含有率Vfの測定方法としては、板厚換算法、硫酸分解法、硝酸分解法等があげられる。
【0031】
上記のような成形装置を用いて本発明に係わる繊維強化プラスチックの成形方法は次のように行われる。まず、成形型1の成形面の上に強化繊維材2を配置し、その上にピールプライ3と樹脂拡散媒体4を配置する。樹脂注入路5と真空吸引路6は、例えば強化繊維材2の両端に配置し、それらに樹脂注入ライン9と真空吸引ライン12を接続する。これら樹脂注入路5および樹脂注入ライン9、真空吸引路6および真空吸引ライン12は、それぞれ、少なくとも1ライン配設する。次に、上記のように成形型1上に積層された各部材の上部から全体を覆うように密閉媒体8を被せ、密閉媒体の内部を減圧状態に維持するために周囲をシーラント7でシールする。そして、バルブA1を閉じ、バルブA2を開いて、真空吸引路6、真空吸引ライン12、真空トラップ13を介して、真空ポンプ14により吸引することによって、密閉媒体8で密閉された内部を0.1MPa以下の減圧状態にする。
【0032】
次に樹脂注入含浸工程において、成形型1をマトリックス樹脂10の注入温度まで加熱する。加熱方法としては、熱風加熱、熱媒加熱などが挙げられるが、温度制御が可能である加熱方法であれば、その加熱方法に制限はない。前記注入温度は、使用するマトリックス樹脂10を低粘度に保てる温度に加熱されていることが好ましく、樹脂の含浸効率と、繊維強化プラスチック面内の厚み斑を防ぐ条件に鑑みると、60〜90℃での加熱がより好ましい。
【0033】
成形型1が前記注入温度まで上昇したら、バルブA1を開き、樹脂注入路5よりマトリックス樹脂10を、樹脂注入ライン9を介して、密閉媒体8の内部に注入する。このとき、マトリックス樹脂10を収容するポットからバルブA1まで繋ぐ樹脂注入ライン9に樹脂が満たされた時点で、バルブA1を一旦閉め、マトリックス樹脂10の注入量モニタリング開始状態とすることが好ましい。樹脂量モニタリング装置11は、樹脂の重量をモニタリングできるように配設することが好ましく、樹脂注入ライン9に直接触れないように組み付けることがより好ましい。バルブA1を開いた後、マトリックス樹脂10は真空吸引ラインに向かって樹脂拡散媒体4内を拡散し、樹脂拡散媒体4内のマトリックス樹脂10は強化繊維材2内に含浸し始める。繊維体積含有率Vfが所定のVfに到達するために必要な樹脂量M1、バルブA1から樹脂注入路5までの空隙M2、樹脂注入路5の空隙M3、樹脂拡散媒体4の空隙M4、ピールプライ3の空隙M5、真空吸引路6の空隙M6、真空吸引路6からバルブA2までの空隙M7で求められる、M1〜M7の容積を満たす樹脂量の注入が確認されるまで、バルブA1を開き、密閉媒体内部にマトリックス樹脂10を注入する。ここで、副資材に金網を含む場合は、金網の空隙も考慮して、樹脂を注入する。M1〜M7の容積を満たす樹脂量のマトリックス樹脂10の注入が確認されたとき、バルブA1を閉じてマトリックス樹脂10の供給を停止する。そして、バルブA2より樹脂が流出する前にバルブA2を閉じて、バルブA1、A2間の領域に、M1〜M7の容積を満たす量のマトリックス樹脂10を閉じこめる。
【0034】
密閉媒体内部に注入されたマトリックス樹脂10を注入温度で保持する樹脂注入含浸工程、または、後の樹脂硬化工程において加熱し、硬化温度以下の領域において低粘度化することで、密閉媒体内部の樹脂圧力分布を安定させ、M1〜M7の空隙をマトリックス樹脂10で満たす。さらに、強化繊維材2を所定のVfに到達させるために必要な樹脂量M1を強化繊維材2内に残し、前記樹脂注入含浸工程、または後の樹脂硬化工程において強化繊維材層内のマトリックス樹脂10の厚み分布を安定化し、繊維体積含有率Vfを50〜60%の範囲内で制御する。
【0035】
次に樹脂硬化工程において、マトリックス樹脂10を加熱し硬化させる。加熱温度は、マトリックス樹脂10の硬化温度まで加熱することが好ましく、繊維強化プラスチックに求められる物性(例えば、耐久性など)に鑑みると、120℃以上200℃以下がより好ましい。硬化が終了した後、成形型1より繊維強化プラスチックを脱型する。得られた繊維強化プラスチックは必要に応じて所定の温度と時間において二次硬化を行うこともできる。
【0036】
このようにして得られた繊維強化プラスチックの成形方法は、余分なマトリックス樹脂10の排出を防ぐため、廃棄物とコストの削減効果を高める。成形サイクルに関しては、樹脂の排出を省略する分、時間を短縮できる。また、樹脂が排出した場合には、吸引する配管やトラップに溜まる樹脂の除去と洗浄作業、樹脂が溜まったチューブの廃棄作業等が必要になり、繰り返し成形するための作業を本発明により省略でき、成形サイクルを早めることができる。成形品質に関しては、密閉媒体8と成形型1との間の空隙を満たす樹脂量を注入することで、強化繊維材2に含浸される樹脂量を制御して、繊維強化プラスチックの繊維体積含有率Vfを制御することができ、強度、軽量性に優れ、航空機などの一次構造部材として好適に用いることができる成形体を得ることができる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の実施例を、図面に用いてさらに詳細に説明する。なお、本発明が、図面に記載された態様に限定されるものではない。
(実施例1)
図2の成形装置を用い、縦200mm、横200mmに裁断した炭素繊維織物をステンレス製平板からなる成形型1上に積層した。用いた強化繊維材形成用の強化繊維材は、東レ(株)製“トレカ”(登録商標)T800Sの一方向織物(基材目付:190g/m)であり、8ply積層した。積層した強化繊維材2の上に、ピールプライ3(ポリエステル製)及び樹脂拡散媒体4(ポリプロピレン製メッシュ材)を配置した。ピールプライ3に含浸する樹脂量は41g/mであり、樹脂拡散媒体4に含浸する樹脂量は401g/mのものを使用した。強化繊維材2に対して両端に樹脂注入路5(アルミ製Cチャンネル)と真空吸引路6(アルミ製Cチャンネル)を配設して、樹脂注入ライン9(ナイロン製チューブ)と真空吸引ライン12(ナイロン製チューブ)を介して、真空トラップ13と真空ポンプ14に接続した。全体に密閉媒体8(ナイロン製フィルム)を被せて周囲を粘着性の高い合成ゴム製のシーラント7でシールした。
【0038】
このとき、繊維強化プラスチックの繊維体積含有率Vfが57%に到達するために必要な樹脂量M1は23.6gであり、樹脂注入ライン9の空隙M2、樹脂注入路5の空隙M3、樹脂拡散媒体4の空隙M4、ピールプライ3の空隙M5、真空吸引路6の空隙M6、真空吸引ライン12の空隙M7の空隙M2〜M7の合計を満たす樹脂量は105.2gであった。
【0039】
上記の状態で、バルブA1を閉じ、バルブA2を開いて、真空吸引ライン、真空トラップを介して真空吸引路から吸引し、密閉媒体内を0.1MPaまで減圧した。その後、電気オーブン内に成形型を配置し、オーブン内を70℃に加温した。オーブン内が70℃に達した後に、バルブA1を開放して、バルブA1に樹脂が到達した時点でバルブA1を閉めた。樹脂量モニタリング装置11によりマトリックス樹脂10の樹脂量を確認した後、バルブA1を開放して、真空圧にて樹脂注入路5よりマトリックス樹脂10を注入した。マトリックス樹脂としてはエポキシ樹脂(注入温度の70℃における樹脂粘度が130mPa・s、70℃で1時間経過後の樹脂粘度が320mPa・s)を使用した。注入された樹脂は流動抵抗の低い樹脂拡散媒体4内を流れながら強化繊維材2内に含浸されていった。M1〜M7の容積を満たす樹脂量128.8gを注入した時点でバルブA1を閉じてマトリックス樹脂の供給を停止し、真空吸引路から樹脂が流出する前に、バルブA2を閉じ、排気を停止した。その後、電気オーブン内の温度を130℃まで昇温して、マトリックス樹脂を2時間加熱硬化させた。加熱硬化後、炭素繊維強化プラスチックを成形型より脱型した。得られた繊維強化プラスチックについて、樹脂注入側、真空吸引側、両者の中間点で繊維体積含有率Vfを測定した結果、55.8〜57.3%の範囲内であった。繊維体積含有率Vfは硫酸分解法により測定し、ASTM D3171の規格に基づいて実施した。
(比較例1)
実施例1と同様の成形装置を使用した。バルブA1を閉じ、バルブA2を開いて、真空吸引ライン、真空トラップを介して真空吸引路から吸引し、密閉媒体内を0.1MPaまで減圧した。その後、電気オーブン内に成形型を配置し、オーブン内を70℃に加温した。強化繊維材全体が70℃に達した後に、バルブA1を開放して、真空圧にて樹脂注入路5よりマトリックス樹脂10を注入した。マトリックス樹脂としてはエポキシ樹脂(注入温度の70℃における樹脂粘度が130mPa・s、70℃で1時間経過後の樹脂粘度が320mPa・s)を使用した。注入された樹脂は流動抵抗の低い樹脂拡散媒体4内を流れながら強化繊維材2内に含浸されていった。マトリックス樹脂10を、樹脂注入路5から真空吸引路6まで充満させる量(175.1g)を注入したあと、バルブA1を閉じてマトリックス樹脂の供給を停止した。その後、真空吸引路6から樹脂の排出を60分間継続した後、バルブA2を閉じ、樹脂の排出を停止した。真空吸引路から流れ出た樹脂量は50.8gであった。その後、電気オーブン内の温度を130℃まで昇温して、マトリックス樹脂を2時間加熱硬化させた。加熱硬化後、炭素繊維強化プラスチックを成形型より脱型した。得られた繊維強化プラスチックについて、樹脂注入側、真空吸引側、両者の中間点で繊維体積含有率Vfを測定した結果、60.3〜61.8%の範囲内であった。繊維強化プラスチックの繊維体積含有率Vfが60%を超える結果となった。
(比較例2)
比較例1において、樹脂量165.4gを注入し、樹脂の排出を1分間継続した。真空吸引路から流れ出た樹脂量は40.2gであった。得られた繊維強化プラスチックについて、樹脂注入側、真空吸引側、両者の中間点で繊維体積含有率Vfを測定した結果、58.1〜63.0%の範囲内であった。繊維強化プラスチックの繊維体積含有率Vfが60%を超える結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、航空機、船舶、自動車に限らず、産業用途やスポーツ用途などにも応用することができるが、その応用範囲が、これらに限られるものではない。
【符号の説明】
【0041】
1:成形型
2:強化繊維材
3:ピールプライ
4:樹脂拡散媒体
5:樹脂注入路
6:真空吸引路
7:シーラント
8:密閉媒体
9:樹脂注入ライン
10:マトリックス樹脂
11:樹脂量モニタリング装置
12:真空吸引ライン
13:真空トラップ
14:真空ポンプ
15:上型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形型の上に強化繊維材、副資材を配置し、強化繊維材、副資材を密閉媒体で覆い、該密閉媒体と成形型の間を気密にシールし、密閉媒体と成形型との間を排気すると共に強化繊維材に樹脂を注入して硬化させる繊維強化プラスチックの成形方法において、樹脂注入路と真空吸引路を設けて、真空吸引路から排気しながら、樹脂注入路から規定量の樹脂を注入・含浸した後、樹脂の注入を停止し、且つ真空吸引路から樹脂が流出する前に、排気を停止し、実質的に強化繊維材に注入・含浸した樹脂を真空吸引により除去しないで、樹脂を硬化させることを特徴とする繊維強化プラスチックの成形方法。
【請求項2】
前記規定量は、成形後の繊維体積含有率Vfを有する繊維強化プラスチックを構成する樹脂量と、樹脂注入路と樹脂吸引路の空隙を満たす樹脂量と、樹脂注入・含浸により副資材に含浸する樹脂量の合計であることを特徴とする、請求項1に記載の繊維強化プラスチックの成形方法。
【請求項3】
前記繊維体積含有率Vfの範囲は、50〜60%であることを特徴とする請求項2に記載の繊維強化プラスチックの成形方法。
【請求項4】
前記副資材は、ピールプライおよび樹脂拡散媒体であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の繊維強化プラスチックの成形方法。
【請求項5】
前記副資材に金網が含まれることを特徴とする請求項4に記載の繊維強化プラスチックの成形方法。
【請求項6】
ピールプライに含浸する樹脂の量は、20g/m〜60g/mであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の繊維強化プラスチックの成形方法。
【請求項7】
樹脂拡散媒体に含浸する樹脂の量は、100g/m〜700g/mであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の繊維強化プラスチックの成形方法。
【請求項8】
金網に含浸する樹脂の量は、100g/m〜700g/mであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の繊維強化プラスチックの成形方法。
【請求項9】
樹脂の注入量を重量でモニタリングする、請求項1〜8のいずれかに記載の繊維強化プラスチックの成形方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−173165(P2010−173165A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−17792(P2009−17792)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】