説明

繊維強化型プラスチックの接合構造及び接合方法

【課題】 多くの種類の高分子材料を、接着剤を使わずに、少ない工数で、繊維強化型プラスチック基板に強固に接合することが可能な、接合構造と接合方法を提供すること。
【解決手段】 繊維強化型プラスチック基板の合成樹脂と接着させたい部分の、表面の少なくとも一部のマトリックス2aを、物理的または化学的な手段により除去し、強化繊維1a、1bを表面に露出させ、マトリックスを除去した空間3に、可塑化した第二の高分子材料4を、付着、または成形することにより、露出した強化繊維間の空隙や凹凸に、可塑化した第二の高分子材料4が入り込み、そのまま硬化して、投錨効果が生じ、機械的結合による強固な接着を可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化繊維を含む繊維強化型プラスチックと、各種高分子材料との接合構造及び接合方法に関し、特に、電子部品の実装に多用されている繊維強化型プラスチック基板と各種高分子材料との接合構造及び接合方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に異種高分子材料を相互に接着するのは困難であり、特に、繊維強化型プラスチック基板においては、マトリックスとして用いる高分子材料として熱硬化型が用いられることが多く、硬化状態または可塑化状態の高分子材料を接触させただけでは、強固な接着状態を得るのは極めて困難である。
【0003】
高分子材料には、接着剤として用いられるものもあり、その接着力は、化学結合、水素結合、ファンデルワールス力に起因し、繊維強化型プラスチック基板の表面に接着が可能な接着剤として利用される種類もあるが、部品としての使用目的に合った高分子材料、あるいは加工性に優れた、汎用の高分子材料が、このような接着を可能にする成分や特性を具備することは稀である。
【0004】
従って、接着性の乏しい高分子材料を、繊維強化型プラスチック基板に接着するには、接着剤を用いるのが一般的であるが、接着の対象となる高分子材料の材質が限定される他、接着剤の管理、塗布方法、接着方法、又は接着面の粗さ、汚れなどに細心の注意を払う必要があり、生産するにあたり、多くの工数が必要とされる。
【0005】
このような技術の一例として、特許文献1には、接着面に予め微小な凹凸部を形成して、接着性を向上する技術が開示されている。また、特許文献2には、繊維強化型プラスチック部材同士を接合する手段として、強化繊維を露出させた部分を重ね合わせた部分に、樹脂材を充填する技術が開示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されている技術では、対象となる材質が限定されるという課題に、必ずしも十分に対処したものではないと考えられる。また、特許文献2に開示されている技術は、繊維強化プラスチック同士の接合方法であり、接合したい部材の両方に強化繊維が含まれていない場合には接合することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】 特開2002−284911号公報
【特許文献2】 特開2002−011795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の課題は、多くの種類の高分子材料を、接着剤を使わずに、少ない工数で、繊維強化型プラスチック基板に強固に接合することが可能な接合構造と接合方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記の課題解決のため、従来の技術を改良することを検討した結果なされたものであり、繊維材料と高分子材料からなる、繊維強化型プラスチックの、マトリックスを構成する高分子材料の少なくとも一部を除いて形成される、前記繊維材料が露出した部分に、可塑化した第二の高分子材料を充填してなることを特徴とする、繊維強化型プラスチックの接合構造である。
【0010】
また本発明は、繊維材料と高分子材料からなる、繊維強化型プラスチックの、マトリックスを構成する高分子材料の少なくとも一部を、物理的方法または化学的方法の少なくともいずれかの方法を用いて除くことにより、前記繊維材料を露出させる工程と、前記繊維材料が露出した部分に、第二の高分子材料を充填する工程を有することを特徴とする、繊維強化型プラスチックの接合方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明においては、繊維強化型プラスチックのマトリックスを形成する高分子材料の一部を、前記のように物理的方法または化学的方法で除去するが、マトリックスが熱可塑性高分子材料である場合は、適当な溶媒を用いて溶解することにより除去できるし、加熱によって溶融させることで除去できる。いずれの場合も、強化繊維が溶解しない溶媒を用いたり、強化繊維を破壊しない温度を用いたりすることで、強化繊維の形状や特性を損なうことなく、マトリックスのみを除去できる。
【0012】
また、マトリックスが熱硬化型高分子材料である場合は、一般的には溶媒による溶解や、加熱による可塑化が不可能なので、例えばレーザービームを照射することで、マトリックスを熱分解させる方法を用いることができる。この場合は、強化繊維としてケブラー(登録商標)のような高耐熱性の有機繊維を用いたとしても、加熱により、その形状や機械的特性を損なう可能性があるので、熱分解によりマトリックスを除去する場合は、強化繊維として、ガラス繊維などの無機繊維を使用したものが望ましい。
【0013】
また、本発明においては、未硬化状態の熱硬化性高分子材料や、可塑化状態の熱可塑性高分子材料で、強化繊維間の隙間や凹凸に充填できる粘度を持つ高分子材料全般に適用でき、投錨効果を発現できることから、多くの種類の高分子材料を強固に接合可能である。さらに、繊維強化型プラスチックのマトリックスと、化学的結合などにより接着性を発現する場合であれば、接着強度をより向上できる。
【0014】
しかも本発明によれば、接着剤を使用せずに繊維強化基板と合成樹脂を接着できるので、前記の接着剤を利用するにあたっての工数やコストを削減できる他、接着剤を使用しないことにより、接着剤に含まれる環境負荷物質の削減が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】 発明に係る、繊維強化型プラスチック基板へ他の高分子材料を接合する状態を、模式的に示した断面図、図1(a)は接合前の繊維強化型プラスチック基板、図1(b)はマトリックスの一部を除去した状態、図1(c)は他の高分子材料を接合した状態
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1は本発明に係る、繊維強化型プラスチックへ他の高分子材料を接合する状態を、模式的に示した断面図で、図1(a)は接合前の繊維強化型プラスチック基板、図1(b)はマトリックスの一部を除去した状態、図1(c)は他の高分子材料を接合した状態である。
【0017】
図1に示したように、本発明においては、まず繊維強化型プラスチック基板のマトリックス2aにおける、他の高分子材料を接合したい部分を除去して、強化繊維1a、1bを露出させる。次に、マトリックスを除去した空間3に、第二の高分子材料4を充填する。第二の高分子材料4の充填は、未硬化状態の熱硬化型高分子材料を塗布するか、基板を金型に取り付けてトランスファーモールドなどの方法で充填する。また、この工程で、可塑化した熱可塑性高分子材料を用いる場合は、基板を金型に取り付け、射出成形などの方法で充填する。
【0018】
このような方法で高分子材料を充填することにより、強化繊維間の空隙に当該高分子材料が入り込み、投錨効果が生じ、強固な接合状態を得ることができる。
【実施例】
【0019】
次に本発明の具体的な応用例として、外部端子付きICカードの製造工程におけるICモジュールとカード基材との接着を行う場合について説明する。
【0020】
外部端子付きICカードで使用されるICモジュールは、繊維強化型プラスチック基板、一般的にはガラスエポキシ基板に、ICチップや外部端子が搭載されている。反外部接触端子側の繊維強化型プラスチック基板の表面の一部、または全部のマトリックスを、例えばレーザービーム照射による熱で、除去し、強化繊維を露出させる。
【0021】
強化繊維が露出したICモジュールを、カード部成形用の金型に設置し、インサート成形を行なう。成形時にカード基材に使用したカード部成形用の高分子材料が、露出した強化繊維間の空隙に入り込み、その状態のまま高分子材料が硬化することで、ICモジュールとカード基材である高分子材料の間に、機械的結合が形成され、強固に接合される。
【0022】
以上に説明したように、本発明によれば、従来の技術では困難であった、繊維強化型プラスチックに、高分子材料からなる他の部材の接合が可能となり、繊維強化型プラスチックからなる部材の用途拡大に寄与するところは大きいと言える。なお、本発明は、前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の分野における通常の知識を有する者であれば想到し得る、各種変形、修正を含む要旨を逸脱しない範囲の設計変更があっても、本発明に含まれることは勿論である。
【符号の説明】
【0023】
1a,1b 強化繊維
2a,2b マトリックス
3 マトリックスを除去した空間
4 第二の高分子材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維材料と高分子材料からなる、繊維強化型プラスチックの、マトリックスを構成する高分子材料の少なくとも一部を除いて形成される、前記繊維材料が露出した部分に、可塑化した第二の高分子材料を充填してなることを特徴とする、繊維強化型プラスチックの接合構造。
【請求項2】
繊維材料と高分子材料からなる、繊維強化型プラスチックの、マトリックスを構成する高分子材料の少なくとも一部を、物理的方法または化学的方法の少なくともいずれかの方法を用いて除くことにより、前記繊維材料を露出させる工程と、前記繊維材料が露出した部分に、第二の高分子材料を充填する工程を有することを特徴とする、繊維強化型プラスチックの接合方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−79289(P2011−79289A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−246983(P2009−246983)
【出願日】平成21年10月5日(2009.10.5)
【出願人】(509297543)大倉工業株式会社 (1)
【Fターム(参考)】