説明

繊維強化成形体

【課題】繊維強化複合材料の表面の凹凸をより適切に吸収して最終成形体の表面の意匠性を高めた繊維強化成形体を提供する。
【解決手段】強化繊維と熱可塑性樹脂から形成された繊維強化複合材料の外面に、不連続繊維を熱可塑性樹脂中に分散させた熱可塑性基材を積層して一体化したことを特徴とする繊維強化成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化成形体に関し、とくに、強化繊維と熱可塑性樹脂から形成された繊維強化複合材料の表面性を高めた繊維強化成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
とくに、連続強化繊維(例えば、一方向に配列された連続強化繊維)を使用して繊維強化複合材料を成形する場合、強化繊維が不均一に存在することに起因する樹脂の不均一な収縮や、強化繊維が成形体表面に露出に近い状態で現れることにより、成形体の表面に望ましくない凹凸が残り、目標とする成形体表面の意匠性、つまり目標とする成形体の外観が得られないことがあるという問題があった。
【0003】
このような問題に対処するために、従来から、成形体の外観向上のために成形体の表面に熱可塑性樹脂フィルムなどを溶融温度にしてプレスによって複合する手法が知られている (例えば、特許文献1)。しかし、この手法では、樹脂フィルムが溶融時から固化する過程で、厚み方向も含めて収縮(成形収縮・固化収縮と呼ばれる)が生じ、たとえ平滑なフィルムを一体化しても、下地となる例えば繊維強化複合材料の凹凸に沿うように、該凹凸を概要残したままとなる。この凹凸を隠蔽しようとすれば、かなりの厚みのフィルムを使用するしかなかった。さらに、面方向には前述の固化収縮と共に、線膨張率差の問題が生じる。ベース部材である繊維強化複合材料と、その表面被覆部材である熱可塑性樹脂フィルムとの間の線膨張率差が大きく、複合成形した際に成形体に反りなどの欠陥を生じやすい。熱可塑性樹脂フィルムの冷却過程で樹脂を固化してから、常温に至るまでの収縮と、繊維強化複合材料の収縮が大きく異なり、繊維強化複合材料に比較して、樹脂フィルムが大きく収縮するため、この差により反りが生じる。結果として、樹脂フィルムを用いた手法では、表面の凹凸隠蔽が十分でなく、かつ繊維強化複合材料との組み合わせでは反りなどの問題を生じやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−147169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明の課題は、上記のような従来技術における問題点に着目し、とくに繊維強化複合材料の表面の凹凸をより適切に吸収して最終成形体の表面の意匠性を高め、併せて凹凸吸収用の表層基材を積層しても反りなどの欠陥を生じにくくし、表面性、全体形状特性をともに改良した繊維強化成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る繊維強化成形体は、強化繊維と熱可塑性樹脂から形成された繊維強化複合材料の外面に不連続繊維を熱可塑性樹脂中に分散させた熱可塑性基材を積層して一体化したことを特徴とするものからなる。
【0007】
この熱可塑性基材は、例えば、厚みの比較的小さいテープ状あるいはシート状のものに形成されて繊維強化複合材料の外面に積層され、繊維強化複合材料と一体化される。とくに、熱可塑性基材は、熱可塑性樹脂中に不連続繊維が分散されたテープ状あるいはシート状のプリプレグの形態に形成され、それが繊維強化複合材料の外面に積層された後、繊維強化複合材料の熱可塑性樹脂と熱可塑性基材の熱可塑性樹脂が溶融一体化されて繊維強化成形体に成形されることが好ましい。
【0008】
このような繊維強化成形体においては、不連続繊維を熱可塑性樹脂中に分散させた熱可塑性樹脂基材は、特にその不連続繊維を実質上ランダムに分散させ、シート状に加工した場合、複数点で単繊維が重なりあい特にプレスなどで圧縮された場合には、この重なりあいを起点として各単繊維が湾曲する。例えば該不連続繊維が炭素繊維やガラス繊維のように剛直で、弾性的な挙動を示す場合、曲がっていても圧力を除くと反力によって元通りの直線になろうとはね返る。この挙動をスプリングバックと呼ぶ。このようなスプリングバック効果を有する不連続繊維を、熱可塑性樹脂中に分散させた熱可塑性樹脂基材は、一旦薄いシート状に加工されていても、加熱して熱可塑性樹脂を溶融させると、繊維の動きが自由になりスプリングバックにより、全体として基材自体が厚み方向に膨張したようになる。本発明では、不連続繊維となっている単繊維のスプリングバックや、それによる熱可塑性基材の膨張挙動などを総称して、スプリングバック効果と称している。この熱可塑性基材が、凹凸を有する繊維強化複合材料の外面に積層され、該熱可塑性基材と繊維強化複合材料が溶融を介して一体化されることにより(より正確には、熱可塑性基材の熱可塑性樹脂と繊維強化複合材料の熱可塑性樹脂が溶融一体化されることにより)、繊維強化複合材料の外面に現れていた凹凸が熱可塑性基材によって吸収される。すなわち、熱可塑性基材の熱可塑性樹脂が溶融されると、スプリングバック効果により基材が膨張して厚みを増そうとする状態になり、これを繊維強化複合材料と一体化するように再加圧した際に、たとえ繊維強化複合材料の表面に凹凸がある場合にもこれを埋めて凹凸を吸収/隠蔽するような状態となる。この状態で加圧しつつ繊維強化複合材料及び熱可塑性基材の両方を冷却・固化させ、両者が一体化されると、マトリックスである熱可塑性樹脂自体は固化開始後収縮しようとするが、線膨張率が低く剛直で、かつスプリングバックしようとする不連続繊維により大きな収縮は抑制される。すなわち繊維強化複合材料の外面の凹凸形状の影響がそのまま熱可塑性基材の外面側に及ぶことが抑えられて、熱可塑性基材の外面、つまり成形体の表面の凹凸が軽減された状態とされ、表面性(意匠性)に優れた繊維強化成形体が得られることになる。換言すれば、繊維強化複合材料の外面の凹凸形状は熱可塑性基材の熱可塑性樹脂によって埋められて吸収されたまま、成形体の表面となる熱可塑性基材の外面に凹凸形状が現れることが抑えられ、繊維強化成形体の優れた表面性(意匠性)が達成される。さらに、熱可塑性基材によって覆われる繊維強化複合材料は、通常、面方向に見て、強化繊維の配向方向に支配される強い異方性を有しており、とくにその外面近傍の層における異方性は、面方向における維強化複合材料全体の撓みやすさ、さらにはより撓みやすい方向とより撓みにくい方向の存在に大きく関与する。一方、溶融された熱可塑性基材の熱可塑性樹脂が成形のために冷却される際に生じる収縮力(収縮応力)は、繊維強化複合材料の面方向に対してはほぼ均等に作用すると考えられるが、この収縮力が大きくなりすぎると、繊維強化複合材料に対して上記異方性の存在に伴うより撓みやすい方向への曲げ応力(曲げ撓みを生じさせる応力)が高くなりすぎ、最終成形体にとって大きな反りの発生の原因となる。しかし本発明では、熱可塑性基材における熱可塑性樹脂中に不連続繊維が分散され、均一に分布されているので、前述の如く基材厚み方向の収縮が抑えられるとともに、基材の面方向にも収縮が小さく抑えられ、最終成形体に大きな反りが生じることが防止される。その結果、繊維強化複合材料に表面凹凸吸収用の表層基材を積層しても、反りなどの欠陥を生じにくくすることができ、前述の如く最終成形品の表面凹凸を軽減して表面性を改良できることに加え、反り等を抑えて全体形状特性をも改良した、優れた品位の繊維強化成形体が得られることになる。
【0009】
このような本発明に係る繊維強化成形体においては、上記熱可塑性基材が、とくに抄紙プロセスにより分散された不連続繊維を熱可塑性樹脂中に含んだものからなることが好ましい。抄紙プロセスでは、液中(とくに、水中)で不連続繊維が攪拌などを伴って分散されるので、より均一な分散が進み、前述の重なり合った不連続繊維によるスプリングバック効果がより良好に発揮されることになる。したがって、繊維強化複合材料の表面凹凸吸収効果もより高く得られることになって、一層優れた最終成形品の表面性が得られる。加えて、その均一な繊維分散によって、シート状に加工した場合、シート自体の表面凹凸が極めて小さい。この特徴によっても優れた品位の繊維強化成形体が得られる。
【0010】
また、上記熱可塑性基材の厚みとしては、0.1〜0.4mmの範囲にあることが好ましい。厚みが0.1mm未満では、表層基材としては薄くなりすぎるおそれがあり、前述のような優れた繊維強化複合材料の表面凹凸吸収機能を持つことができたとしても、厚み的に十分に凹凸を吸収できなくなるおそれがある。厚みが0.4mmを超えると、十分な繊維強化複合材料の表面凹凸吸収機能を持つことはできるものの、熱可塑性基材は本来表面性、意匠性向上のための基材であり、成形体全体の強度、剛性は主として繊維強化複合材料に担わせることを意図しているから、熱可塑性基材は、表面凹凸吸収機能さえ満足できれば、成形体全体の軽量化のためには薄い方が好ましい。これらの両面から、熱可塑性基材の厚みは0.1〜0.4mmの範囲にあることが好ましい。
【0011】
また、上記熱可塑性基材の不連続繊維の単繊維の平均繊維長としては、1〜10mmの範囲にあることが好ましい。単繊維の平均繊維長が1mm未満では、前述の重なり合った不連続繊維によるスプリングバック効果が発揮されにくくなり、その分繊維強化複合材料の表面凹凸吸収機能が低下する。平均繊維長が10mmを超えると、抄紙プロセス等による不連続繊維の均一分散が難しくなるおそれが生じ、均一分散されている場合の面方向における均一なスプリングバック効果の発現、それに伴う優れた表面凹凸吸収効果が低減するおそれがある。
【0012】
また、上記熱可塑性基材における繊維体積含有率としては、10〜25%の範囲にあることが好ましい。繊維体積含有率が10%未満では、前述の重なり合った不連続繊維によるスプリングバック効果が発揮されにくくなり、その分繊維強化複合材料の表面凹凸吸収機能が低下する。本発明では、基本的には、繊維強化複合材料の表面凹凸の吸収は熱可塑性基材中の熱可塑性樹脂で行い、繊維強化複合材料の表面凹凸が熱可塑性基材の外面にまで現れることを抑えるのは、熱可塑性基材中の分散不連続繊維と熱可塑性樹脂で、とくに、不連続繊維によるスプリングバック効果の発揮によって行うようにしているので、繊維体積含有率が25%を超えると、下地である繊維強化複合材料の大きな表面凹凸の隠蔽性は良好となる傾向となるが、一方で表面の繊維含有量が増加することによる微小なざらつきのような凹凸が増加する。これは熱可塑性基材表面に短繊維の端部などが部分的に露出しやすくなってくるためである。
【0013】
上記強化繊維複合材料が複数層を有する場合には、該強化繊維複合材料の最外面および層間の両方に上記熱可塑性基材が配置されている構成を採用することができる。最外面に積層する熱可塑性基材の機能は上述したとおりであるが、層間に熱可塑性基材を配置することにより、隣接する層の表面に対しても熱可塑性基材による凹凸吸収効果を発揮させることが可能になり、層間密着性を向上できるとともに、各層の凹凸が累積されて複数層からなる強化繊維複合材料の最外面の凹凸が大きくなりすぎることが回避され、結果的に、強化繊維複合材料の最外面の凹凸吸収効果が高められ、より優れた最終成形品の表面性が得られる。
【0014】
本発明に係る繊維強化成形体において、上記熱可塑性基材の不連続繊維の種類はとくに限定されず、炭素繊維やガラス繊維、アラミド繊維などの強化繊維を使用することができるが、とくに炭素繊維からなる場合、高い弾性率を有するため、不連続繊維が互いに重なり合った場合に前述のスプリングバック効果に関し、より高い性能を発揮することが可能になり、より優れた最終成形品の表面性が得られる。
【0015】
また、上記熱可塑性基材の熱可塑性樹脂の種類もとくに限定されないが、強化繊維複合材料の熱可塑性樹脂との溶融一体化を考慮すると、該強化繊維複合材料の熱可塑性樹脂と相溶性の高いものが好ましく、同種の樹脂、とくに同一の樹脂であることがひとつの好ましい形態である。ただし本発明はこれに限定されるものではなく、異種同士の樹脂の組み合わせも可能である。この場合は、例えばSP値が近いような相溶性のしやすい樹脂同士の組み合わせを選択することの他、片方あるいは両方の樹脂系に相溶化剤として別の成分を加えることも可能である。さらに異種樹脂の間に両者と親和性の良い中間層を挿入するようなことも可能である。凹凸隠蔽性が特に高い熱可塑性基材の熱可塑性樹脂としては、成形時の収縮量(成形収縮、固化収縮)が小さい樹脂が好ましく、例えばポリカーボネートやABSなどの非晶性樹脂を例示することができる。非晶性樹脂単体である必要はなく、収縮が小さい非晶性樹脂/結晶性樹脂アロイなども例示することができる。中でも、熱可塑性基材の熱可塑性樹脂としては、成形時の収縮量が小さい非晶性樹脂であることが好ましい。熱可塑性基材の熱可塑性樹脂および強化繊維複合材料の熱可塑性樹脂として使用可能な樹脂を例示すると、ポリアミド(ナイロン6、ナイロン66等)、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、ポリカーボネート、ポリアミドイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリスチレン、ABS、液晶ポリエステルや、アクリロニトリルとスチレンの共重合体等を挙げることができる。これらの混合物でもよい。また、ナイロン6とナイロン66との共重合ナイロンのように共重合したものであってもよい。さらに得たい成形品の要求特性に応じて、難燃剤、耐候性改良剤、その他酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、着色剤、相溶化剤、導電性フィラー等を添加しておくことができる。
【0016】
また、本発明における繊維強化複合材料の強化繊維の形態としてもとくに限定されないが、連続繊維からなる場合、本発明はとくに有効である。すなわち、繊維強化複合材料の強化繊維が連続繊維からなる場合、その外面に凹凸が現れやすくなるのは、繊維の配列や、複合材料中の繊維の密度に局部的な分布があるような場合に加えて、近年プリプレグテープ、シートを自動積層するATL(Automated Tape Laying )、AFP(Automated fiber placement)という手法が浸透してきたためである。このような手法による場合、ある頻度で、テープ・シート間の積層時ギャップが避けられず、この部分にどうしても筋状の凹部が形成される。多層積層した場合にも内層のギャップが表面にまで影響を及ぼす。その外面に本発明における熱可塑性基材を積層して一体化することで、凹凸が効率よく吸収され、最終成形品としての繊維強化成形体の表面性が向上される。同時に、連続繊維からなる強化繊維を用いることで、繊維強化複合材料からなる部位に高い強度や剛性を持たせることができ、ひいては、最終成形品としての繊維強化成形体に高い強度や剛性を持たせることができる。したがって、繊維強化成形体としては、優れた機械特性と優れた表面性の両方を達成できることになる。なお、連続繊維の配列形態としては、一方向に並行に配列されたもの、織物の形態とされたもののいずれも採用でき、織物の形態の場合には、たて糸方向やよこ糸方向に連続繊維からなる強化繊維とは別に補助糸を配置しておくこともできる。
【0017】
また、上記繊維強化複合材料の強化繊維の種類としてはとくに限定されないが、炭素繊維からなる場合、あるいは少なくとも炭素繊維を含む場合、繊維強化複合材料、ひいては繊維強化成形体全体に、高い機械特性を付与できるので、とくに好ましい。
【発明の効果】
【0018】
このように、本発明に係る繊維強化成形体によれば、繊維強化複合材料の外面に不連続繊維を熱可塑性樹脂中に分散させた熱可塑性基材を積層して一体化した構造により、繊維強化複合材料の表面凹凸を適切に吸収して最終成形品としての繊維強化成形体の表面の意匠性を高めることができる。そして、該熱可塑性基材を積層しても成形体全体に反りなどの欠陥が発生することを抑制でき、成形体全体の形状特性についても改良することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施態様に係る繊維強化成形体の部分斜視図である。
【図2】本発明における熱可塑性基材の積層一体化による作用効果を例示する概念図である。
【図3】本発明との比較のための、樹脂からなる表層用基材を積層一体化する場合の問題点を例示する概念図である。
【図4】熱可塑性基材を積層一体化する場合の成形体全体の反りの発生への影響度合を比較するために行った計算によるモデル解析における、計算の前提としての積層体の積層構成を示す斜視図である。
【図5】図4に示した積層構成でのモデル計算結果を示す、表層用基材の種類と曲げ撓みとの関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明について、望ましい実施の形態とともに、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施態様に係る繊維強化成形体の概略構成を例示しており、図1(A)における1は、繊維強化成形体全体を示している。繊維強化成形体1は、強化繊維(例えば、炭素繊維)と熱可塑性樹脂から形成された繊維強化複合材料2の外面に(片面または両面に)、表層用基材として、図1(B)に拡大して例示するような不連続繊維3(例えば、炭素繊維からなる不連続繊維3)を熱可塑性樹脂4中に分散させた熱可塑性基材5を積層して一体化したものからなる。不連続繊維3の分散は、とくに抄紙プロセスによって行われ、分散されたシート形態の不連続繊維3に熱可塑性樹脂4が含浸され、比較的薄いテープ状あるいはシート状のプリプレグの形態とされた後、該熱可塑性基材5が繊維強化複合材料2の外面に積層され、加熱により熱可塑性基材5の熱可塑性樹脂4と繊維強化複合材料2の熱可塑性樹脂が溶融されて互いに一体化されている。
【0021】
とくに、繊維強化複合材料2の強化繊維が連続繊維からなる場合、例えば、繊維強化複合材料2の表層部を構成する繊維強化複合材料層の強化繊維が一方向に並行に配列された連続繊維からなる場合、その連続繊維延在方向と交差する(例えば、直交する)方向において、繊維強化複合材料2の外面には凹凸形状6が現れやすい。この繊維強化複合材料2の外面に現れた凹凸形状6が、表層用基材としての熱可塑性基材5の積層一体化によって吸収され、さらに、その凹凸形状6が、成形後の繊維強化成形体1の表面にまで(つまり、成形後の熱可塑性基材5の外面に)現れることが防止あるいは抑制され、最終成形品としての繊維強化成形体1の表面の意匠性が高められている。また、熱可塑性基材5が積層される際、熱可塑性基材5との間にギャップ7が発生するような凹部が繊維強化複合材料2の外面に存在している場合にも、そのギャップ7が成形後の繊維強化成形体1の表面に現れることを防止あるいは抑制することも可能である。
【0022】
この熱可塑性基材5の凹凸吸収に関する作用効果は、例えば図2に示すように表すことができる。図2に示すように、熱可塑性樹脂4中にとくに抄紙プロセスにより均一に分散された不連続繊維3が分散された抄紙基材でプリプレグ形態の加熱前の熱可塑性基材5aが、積層後に溶融温度にまで加熱されると、熱可塑性樹脂4が膨張して厚みが増大した熱可塑性基材5bとなる。この膨張基材が繊維強化複合材料2と一体化されて繊維強化成形体1に成形されるが、厚みが増大し膨張した熱可塑性基材5bにおいては、溶融された熱可塑性樹脂4が不連続繊維3の一部とともに容易に繊維強化複合材料2の外面の凹凸形状6(ギャップ7部分を含む概念として説明する)内に入り込み、凹凸を埋めて熱可塑性基材5bの層内で凹凸を吸収する。このとき、熱可塑性樹脂4の凹凸形状6内への流動に伴い、その凹凸の形状が成形されつつある熱可塑性基材5bの表面(外面)側に波及しようとするが、膨張した熱可塑性基材5b中では、つまり、不連続繊維3の周囲の樹脂が膨張された熱可塑性基材5bの層中では、均一に分散されていた不連続繊維3が、互いに重なり合った状態にて、樹脂の膨張に伴って、繊維層部分の厚みも基材厚み方向に増大するように挙動される。換言すれば、加熱前のプリプレグ形態の熱可塑性基材5a中では、互いに重なり合った状態にはあるが寝込んだ状態にあった不連続繊維3が、加熱により厚みが増大された膨張熱可塑性基材5b中では、互いに重なり合っていたそれぞれの不連続繊維3がより自由な状態とされて多かれ少なかれ起き上がり状態とされ、この状態でも各不連続繊維3は互いに重なり合った状態にあるから、基材の厚み方向に優れたスプリングバック効果を発揮することになる。このスプリングバック効果は、上述の熱可塑性基材5bの表面(外面)側に波及しようとする凹凸の形状を、熱可塑性基材5bの層中で吸収するように作用するから、熱可塑性基材5bの表面(外面)側に、ひいては繊維強化成形体1の表面側に凹凸が現れることが抑えられ、最終成形品としての繊維強化成形体1の表面の意匠性が高められる。つまり、不連続繊維3が分散された熱可塑性基材5を加熱膨張させて繊維強化複合材料2と一体成形することで、目標とする表面凹凸のない優れた表面性を備えた繊維強化成形体1が得られる。
【0023】
本発明との比較のために、図3に示すように、樹脂のみからなる表層用基材11を繊維強化複合材料12と積層一体化する場合には、上記のような分散された不連続繊維3によるスプリングバック効果が得られないため、繊維強化複合材料12の外面に存在していた凹凸13は樹脂溶融時には表層用基材11の表面には大きくは現れないものの、樹脂溶融時から室温へ冷却し表層用基材11を固化させる際には熱収縮(成形収縮)の発生により、冷却前の比較的平坦な元の表面14に比べて、繊維強化複合材料12の外面に存在していた凹凸13から波及した大きな凹凸15が、最終成形品16の表面に現れるようになる。
【0024】
本発明ではさらに、前述したように、熱可塑性基材を繊維強化複合材料に積層一体化した際の最終成形体に大きな反りが生じることも防止される。これを検討するために、表層用基材としての熱可塑性基材を繊維強化複合材料に積層一体化する場合の、成形体全体の反りの発生への影響度合を比較するため次のようなモデル的に積層板理論に基づく計算を行った。モデル計算の前提となる積層構成は、図4に示すように、連続炭素繊維を一方向に配向させた一方向プリプレグ(UDプリプレグ)(100mm×100mm)を4枚用い(厚み:0.15mm/ply)、中央の2枚が90°方向に連続炭素繊維を配向させたUDプリプレグ、その両側に0°方向に連続炭素繊維を配向させたUDプリプレグが配置されるように積層し(積層構成:0°/90°/90°/0°のUDテープ積層構成)、これを本発明で言う繊維強化複合材料とみなして、その片面に各種の表層用基材(厚み:0.2mm/ply)を積層一体化したものをモデル解析の前提構成とした。0°/90°/90°/0°のUDテープ積層体の線膨張率は約3.5×10であり、本発明における不連続繊維を分散させた表層用基材の線膨張率はそれよりも1桁高く、樹脂のみからなるフィルムの線膨張率はそれよりも2桁高い。この線膨張率の差により、冷却による成形の際に各部に収縮量の差が生じそれが成形体全体にとって曲げ撓みを生じさせる。
【0025】
この曲げ撓みの量(mm)を、計算により求めた。計算は、本発明における表層用基材としての、抄紙プロセスにより炭素繊維(CF)の不連続繊維を分散させたポリアミド6(PA6)[繊維体積含有率Vf:10%]、抄紙プロセスにより炭素繊維(CF)の不連続繊維を分散させたポリアミド6(PA6)[繊維体積含有率Vf:20%]、抄紙プロセスによりガラス繊維(GF)の不連続繊維を分散させたポリアミド6(PA6)[繊維体積含有率Vf:23%]のものと、比較例の表層用基材として、ポリアミド6(PA6)の樹脂のみからなるフィルム(PA6フィルム)とについて、行った。計算結果を図5に示す。
【0026】
図5に示すように、本発明における不連続繊維を分散させた表層用基材を用いた場合には、いずれも、樹脂フィルムからなる表層用基材を用いた場合に比べ、成形体の曲げ撓み(反り)を大幅に小さく抑えることができることが分かる。繊維体積含有率Vfについては、10〜20%の範囲で良好な結果が得られている。なお、図5において、0°方向の曲げ撓みが90°方向の曲げ撓みよりも小さいのは、4枚の一方向プリプレグ(UDプリプレグ)の積層構成として0°/90°/90°/0°の積層構成を採用し、撓みにくさにとって効果の高い表層側に0°方向に連続炭素繊維を配向させたUDプリプレグを配置したためである。このように、本発明においては、繊維強化複合材料に表面凹凸吸収用の表層用基材を積層しても、反りなどの欠陥を生じにくくすることができるという作用効果が、前述の最終成形品の表面凹凸を軽減して表面性を改良できるという作用効果と併せて得られる。
【0027】
最終成形品の表面凹凸を軽減できる効果については、次のような試験により確認した。すなわち、繊維強化複合材料の外面に凹凸形状が現れている場合の、本発明による表層用基材としての不連続繊維が分散された熱可塑性基材を用いて繊維強化成形体を成形した場合の試験における成形品の表面凹凸に関する目視外観評価結果を、比較例(表層用基材無しの場合、ポリアミド6(PA6)の樹脂のみからなるフィルム積層の場合)とともに表1に示す(なお、表1における「PC」はポリカーボネートを示す)。
【0028】
【表1】

【0029】
表1に示すように、本発明の表層用基材の積層により、いずれも表面凹凸の小さい優れた成形品の表面性が得られた。中でも、熱可塑性基材の熱可塑性樹脂として非晶性の樹脂を用いた場合には、とくに優れた結果が得られた。また、表1に示した結果からも、繊維体積含有率Vfについては、10〜25%の範囲で良好な結果が得られることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明に係る繊維強化成形体は、表面の意匠性が求められるあらゆる繊維強化成形体に適用できる。
【符号の説明】
【0031】
1 繊維強化成形体
2 繊維強化複合材料
3 不連続繊維
4 熱可塑性樹脂
5 熱可塑性基材
5a 加熱前の熱可塑性基材
5b 加熱後膨張した熱可塑性基材
6 凹凸形状
7 ギャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維と熱可塑性樹脂から形成された繊維強化複合材料の外面に不連続繊維を熱可塑性樹脂中に分散させた熱可塑性基材を積層して一体化したことを特徴とする繊維強化成形体。
【請求項2】
前記熱可塑性基材が、抄紙プロセスにより分散された不連続繊維を熱可塑性樹脂中に含んだものからなる、請求項1に記載の繊維強化成形体。
【請求項3】
前記熱可塑性基材の厚みが0.1〜0.4mmの範囲にある、請求項1または2に記載の繊維強化成形体。
【請求項4】
前記熱可塑性基材の不連続繊維の単繊維の平均繊維長が1〜10mmの範囲にある、請求項1〜3のいずれかに記載の繊維強化成形体。
【請求項5】
前記熱可塑性基材における繊維体積含有率が10〜25%の範囲にある、請求項1〜4のいずれかに記載の繊維強化成形体。
【請求項6】
前記強化繊維複合材料が複数層を有し、該強化繊維複合材料の最外面および層間の両方に前記熱可塑性基材が配置されている、請求項1〜5のいずれかに記載の繊維強化成形体。
【請求項7】
前記熱可塑性基材の不連続繊維が炭素繊維からなる、請求項1〜6のいずれかに記載の繊維強化成形体。
【請求項8】
前記熱可塑性基材の熱可塑性樹脂が非晶性樹脂からなる、請求項1〜7のいずれかに記載の繊維強化成形体。
【請求項9】
前記繊維強化複合材料の強化繊維が連続繊維からなる、請求項1〜8のいずれかに記載の繊維強化成形体。
【請求項10】
前記繊維強化複合材料の強化繊維が炭素繊維からなる、請求項1〜9のいずれかに記載の繊維強化成形体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−51151(P2012−51151A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−193693(P2010−193693)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】