説明

繊維強化樹脂部品およびその製造方法並びに製造装置

【課題】部品数を削減して組み立て工数を低減可能であり、補強部材用の型が不要となってコストの削減が可能な繊維強化樹脂部品およびその製造方法並びに製造装置を提供する。
【解決手段】本発明は、複数層で配置される繊維基材7〜9に樹脂を含浸させた繊維強化樹脂部品1である。当該繊維強化樹脂部品1は、隣接して同一層を構成する繊維基材8,9の端部同士が互いに重なって重畳部12を形成し、各層の前記重畳部12が積層方向に重なって形成される補強部5を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化樹脂部品およびその製造方法並びに製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば車両用の構造部材等において、軽量化のために樹脂が使用されてきており、特に、繊維材により強化されたFRP(繊維強化樹脂)が使用されている。FRP製の構造部材の曲げ剛性を向上させる方法として、例えば、別部品として補強部材を成形して組み合わせる方法が挙げられる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2008−68720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、補強部材を用いて構造部材の剛性を向上させると、部品数が多くなり、組立工数が増加する。また、補強部材の型を作製する必要があるため、コストが掛かる。
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、部品数を削減して組み立て工数を低減可能であり、補強部材用の型が不要となってコストの削減が可能な繊維強化樹脂部品およびその製造方法並びに製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明に係る繊維強化樹脂部品は、複数層で配置される繊維基材に樹脂を含浸させた繊維強化樹脂部品である。当該繊維強化樹脂部品は、隣接して同一層を構成する繊維基材の端部同士が互いに重なって重畳部を形成し、各層の前記重畳部が積層方向に重なって形成される補強部を有する。
【0007】
上記目的を達成する本発明に係る繊維強化樹脂部品の製造方法は、複数層で配置される繊維基材に樹脂を含浸させた繊維強化樹脂部品の製造方法である。当該製造方法は、隣接して同一層を構成する繊維基材の端部同士を互いに重ねて重畳部を形成しつつ、各層の前記重畳部の少なくとも2つを積層方向に重ねた端部積層部を、当該端部積層部の周囲の繊維基材の少なくとも一部とともに弾性体により加圧した状態で、前記繊維基材に樹脂を含浸させる成形工程を有する。
【0008】
上記目的を達成する本発明に係る繊維強化樹脂部品の製造装置は、複数層で配置される繊維基材に樹脂を含浸させた繊維強化樹脂部品の製造装置である。当該製造装置は、隣接して同一層を構成する繊維基材の端部同士を互いに重ねて重畳部を形成しつつ、各層の前記重畳部の少なくとも2つを積層方向に重ねた端部積層部を、当該端部積層部の周囲の繊維基材の少なくとも一部とともに加圧する弾性体を有する。
【発明の効果】
【0009】
上記のように構成した繊維強化樹脂部品によれば、隣接して同一層を構成する繊維基材の端部同士が重なって重畳部を形成し、各層の重畳部が積層方向に重なって補強部を形成しているため、別部材で補強部材を設ける必要がない。したがって、部品数が低減し、組立工数を低減できる。また、補強部材を成形するための他の成形型が不要であるため、設備コストを低減できる。
【0010】
上記のように構成した繊維強化樹脂部品の製造方法によれば、各層の重畳部を積層方向に重ねた端部積層部を、端部積層部の周囲とともに弾性体により加圧した状態で、繊維基材に樹脂を含浸させるため、弾性体が端部積層部の形状に沿って変形し、端部積層部を形状に沿って加圧できる。このため、別部材ではなく繊維強化樹脂部品と一体となった補強部を有する繊維強化樹脂部品を効果的に製造できる。したがって、繊維強化樹脂部品の部品数を低減でき、組立工数を低減できる。また、補強部材を成形するための他の成形型が不要であるため、設備コストを低減できる。
【0011】
上記のように構成した繊維強化樹脂部品の製造装置によれば、端部積層部を、当該端部積層部の周囲の繊維基材の少なくとも一部とともに加圧する弾性体を有するため、弾性体が端部積層部の形状に沿って変形し、端部積層部を形状に沿って加圧できる。このため、別部材ではなく繊維強化樹脂部品と一体となった補強部を有する繊維強化樹脂部品を効果的に製造できる。したがって、繊維強化樹脂部品の部品数を低減でき、組立工数を低減できる。また、補強部材を成形するための他の成形型が不要であるため、設備コストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1実施形態に係るフロア部品(繊維強化樹脂部品)を示す斜視図である。
【図2】図1のA−A線に沿う断面図である。
【図3】フロア部品に用いられる繊維基材のカットパターンを示す平面図である。
【図4】コア材を有する繊維強化樹脂部品の一例を示す断面図である。
【図5】第1実施形態に係るRTM成形型を示す斜視図である。
【図6】図5のB−B線に沿う断面図である。
【図7】下型の成形面に繊維基材を配置した際を示す断面図である。
【図8】成形型を型締めして樹脂を注入した際を示す断面図である。
【図9】成形型を型締めする際の、補強部が形成される部位の拡大断面図である。
【図10】成形型により補強部が形成された際を示す拡大断面図である。
【図11】別部品として設けられる比較例としての補強部材を示す断面図である。
【図12】第1実施形態の補強部の幅と曲げ剛性の関係を示すグラフである。
【図13】第2実施形態に係るフロア部品(繊維強化樹脂部品)を示す斜視図である。
【図14】第2実施形態に係るフロア部品に用いられる繊維基材のカットパターンを示す平面図である。
【図15】比較例としての繊維強化樹脂部品を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上、誇張されて実際の比率とは異なる場合がある。
【0014】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係る繊維強化樹脂部品であるフロア部品を示す斜視図、図2は、図1のA−A線に沿う断面図、図3は、繊維強化樹脂部品に用いられる繊維基材のカットパターンを示す平面図である。
【0015】
図1に示すフロア部品1は、車両のフロントフロア用の部品であり、炭素繊維である繊維基材に樹脂を含浸させた炭素繊維強化プラスチック(CFRP)製の繊維強化樹脂部品である。図中の矢印Dは、車体の前後方向の後方向を表し、矢印Dは車幅方向を示し、矢印Dは車体上下方向の上方向を示す。
【0016】
フロア部品1は、車体フロアを構成するフロアパネル2と、車幅方向Dの両端にてフロアパネル2から上方向Dへ立ち上がるシル3と、車幅方向Dの中央部にてフロアパネル2から上方向Dに凸形状で形成されるフロアトンネル4とを有している。シル3およびフロアトンネル4は、前後方向に延在するように形成されている。
【0017】
フロアパネル2およびシル3には、フロアトンネル4を挟んで車幅方向Dの両側に、車幅方向Dへ延びる補強部5A,5B(以下、5A,5Bを総じて5と称する場合がある。)が形成されている。補強部5は、図2に示すように、フロアパネル2およびシル3の補強部5と異なる部位よりも、繊維基材が多く重なって形成されている。なお、補強部5の詳細については後述する。
【0018】
フロア部品1は、図3に示すように、平面状の基材から切り出される第1繊維基材7、第2繊維基材8A,8Bおよび第3繊維基材9A,9Bを用いて、後述するRTM成形型30によって成形される。
【0019】
第1繊維基材7は、主にフロアトンネル4の強化繊維基材を構成する。第2繊維基材8A,8B(以下、8A,8Bを総じて8と称する場合がある。)は、主にフロアパネル2およびシル3の車両前方側の強化繊維基材を構成する。第3繊維基材9A,9B(以下、9A,9Bを総じて9と称する場合がある。)は、主にフロアパネル2およびシル3の車両後方側の強化繊維基材を構成する。積層方向に重なる複数の第1繊維基材7は、全て同じカットパターンの基材である。また、積層方向に重なる複数の第2繊維基材8も、全て同じカットパターンの基材であり、積層方向に重なる複数の第3繊維基材9も、全て同じカットパターンの基材である。
【0020】
第2繊維基材8A(8B)および第3繊維基材9A(9B)は、互いに隣接する端部に、互いに重なる重なり端部10,11を有しており、同一層を構成する第2繊維基材8A(8B)および第3繊維基材9A(9B)の重なり端部10,11同士が重なることで重畳部12が形成される。第2繊維基材8A(8B)および第3繊維基材9A(9B)を複数層交互に重ねることで、各層の重畳部12が積層されて補強部5A(5B)が形成されている。各繊維基材の厚さは、0.15〜1.0mm程度であるが、かならずしもこれに限定されない。
【0021】
ここで、”同一層”の第2繊維基材8A(8B)および第3繊維基材9A(9B)とは、互いに密接する重なり端部10,11を有する隣接した一組の繊維基材であることを示しており、かならずしも2つの繊維基材が同一平面に存在する必要はなく、2つの繊維基材の積層順が同一である必要もない。
【0022】
なお、同一層の第2繊維基材8と第3繊維基材9は、本実施形態では別部材であるが、同一部材であることもありうる。図4は、コア材21を有する繊維強化樹脂部品20の一例を示す断面図である。この例のように、コア材21の周囲を繊維基材22が覆っている場合には、同一の繊維基材22の両側の端部同士が重なることで、補強部23が形成される。コア材21としては、弾性体や発泡材、ハニカム材の使用が可能であり、軽量化のためには発泡材やハニカム材が好ましい。発泡材の材質としては特に限定されず、たとえば、ポリウレタンやアクリル、ポリスチレン、ポリイミド、塩化ビニル、フェノールなどの高分子材料のフォーム材などを使用できる。ハニカム材の材質としては特に限定されず、たとえば、アルミニウム合金、紙、アラミドペーパー等を使用することができる。
【0023】
補強部5における繊維基材の積層枚数は、図2に示すように、補強部5と異なる部位の積層枚数の2倍となるため、補強部5の厚さXが、補強部5と異なる部位の厚さXの約2倍となる。一例として、厚さXは4mmであり、厚さXは2mmである。補強部5におけるVf(繊維体積含有率)は、補強部5と異なる部位のVfよりも高い。繊維強化樹脂のVfが高いと、弾性率が向上するため、補強部5における剛性が高くなり、補強機能が向上する。一例として、補強部5におけるVfは70%であり、補強部5と異なる部位のVfは50%である。なお、Vf(繊維体積含有率)の測定方法は、JIS K 7052で定義されている。
【0024】
補強部5は、幅Wで形成される。幅Wの値が大きいほど補強部5の剛性が高くなり、補強機能が向上する。
【0025】
繊維基材には炭素繊維が用いられるが、ガラス繊維、アラミド繊維、金属繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、炭化ケイ素高強度合成繊維等を用いることができる。強化繊維基材の形態は特に限定されず、一方向シートや織物等を採用でき、必要に応じて事前に賦形した予備成形体(プリフォーム)の形態で用いる。
【0026】
使用する樹脂としては、粘度が低く強化繊維への含浸が容易な熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂を形成するRIM用(Resin Injection Molding)モノマーなどが好適である。熱硬化性樹脂としては、たとえば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、グアナミン樹脂、また、ビスマレイド・トリアジン樹脂等のポリイミド樹脂、フラン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリジアリルフタレート樹脂、さらにメラミン樹脂やユリア樹脂やアミノ樹脂等が挙げられる。
【0027】
また、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11などのポリアミド、またはこれらポリアミドの共重合ポリアミド、また、ポリエチレンテレフタラート、ポリブチレンテレフタラートなどのポリエステル、またはこれらポリエステルの共重合ポリエステル、さらにポリカーボネート、ポリアミドイミド、ポリフェニレンスルファイド、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリオレフィンなど、更にまた、ポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマーなどに代表される熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0028】
また、上述の熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、ゴムから選ばれた複数を混合した樹脂を用いることもできる。
【0029】
次に、フロア部品1を成形するためのRTM成形型30(成形装置)について説明する。
【0030】
図5は、本発明の実施形態に係るRTM成形型を示す斜視図、図6は、図5のB−B線に沿う断面図である。
【0031】
RTM成形型30は、図5、図6に示すように、一方の型としての上型31と、他方の型としての下型32を有し、上型31と下型32の間に、中間部材としての中間板33を有する。この上型31と中間板33によって、樹脂注入流路と基材への注入ポートを形成する。上型31には、外部から樹脂を供給する樹脂注入管35が連結されている。樹脂注入管35は、金属製パイプまたは樹脂製チューブから構成されている。上型31の周辺部は、中間板33と密着するO−リング36が設けられている。
【0032】
中間板33の上型側の面には、上型31に設けられる樹脂注入管35と連通する樹脂流路用溝37が加工されている。中間板33の下型側の面には、シリコンゴムからなる弾性シート38(弾性体)が均一の厚さYで設置されている。中間板33および弾性シート38には、各樹脂流路用溝37から下型側の面へ貫通する貫通孔39が複数形成されている。貫通孔39は、成形するフロア部品1の補強部5に対応する領域Lに、他の領域よりも多く設けられている。したがって、成形するフロア部品1の補強部5に対応する領域Lにおける貫通孔39の開口率が、他の領域における貫通孔39の開口率よりも高い。なお、開口率は、弾性シート38の表面積に占める貫通孔39の面積を表している。開口率を高くするためには、貫通孔39の数を増やすだけでなく、貫通孔39の孔径を大きくすることでも実現できる。
【0033】
弾性シート38の厚さYは、例えば4mmである。本実施形態では、後述するように弾性シート38は最大で2mm変形すると想定されるため、圧縮率50%に耐えうるシリコンゴムを適用する。なお、弾性シート38の厚さYは、弾性シート38の材料および硬度、想定される変形量および圧縮率等を考慮して、最適な値に適宜設定されることが好ましい。なお、弾性シート38の硬度は、JIS K 6253で定義される硬度で70〜90mNであることが好ましいが、かならずしもこれに限定されない。
【0034】
弾性シート38はシリコンゴムに限定されず、フッ素ゴムやエチレンプロピレンゴム等の他のゴム、エラストマー、高分子樹脂等が適用できる。
【0035】
下型32には、余剰樹脂を型外に排出するための樹脂排出管40が連結されている。樹脂排出管40は、金属製パイプまたは樹脂製チューブから構成されている。下型32の周辺部には、中間板33と密着するO−リング41が設けられている。
【0036】
次に、前述のRTM成形型30を用いた、フロア部品1の成形工程(成形方法)について説明する。
【0037】
図7は、下型の成形面に繊維基材を配置した際を示す断面図、図8は、成形型を型締めして樹脂を注入した際を示す断面図である。図9は、成形型を型締めする際の補強部が形成される部位における拡大断面図、図10は、成形型により補強部が形成された際を示す拡大断面図である。
【0038】
まず、図7に示すように、下型32の成形面に、第1繊維基材7、第2繊維基材8および第3繊維基材9を事前に賦形した予備成形体50(プリフォーム)を配置する。予備成形体50を事前に賦形するには、一般的な成形型(不図示)を適用できる。この賦形において、予備成形型内に第1繊維基材7、第2繊維基材8および第3繊維基材9を積層した後、予備成形を行うことで、フロア部品1の最終形状へ至る前の予備的形状を予備成形体50に付与する。予備成形体50における第1繊維基材7、第2繊維基材8および第3繊維基材9は、少量の形状保持剤によって形状が保持されている。この形状保持剤には、強化繊維に含浸される樹脂の例として前述した樹脂から適宜選択して適用できる。
【0039】
なお、繊維強化樹脂部品の形状次第では、第1繊維基材7、第2繊維基材8および第3繊維基材9を、予備成形することなく、直接、RTM成形型30に配置してもよい。
【0040】
予備成形体50は、図9に示すように、第2繊維基材8A(8B)および第3繊維基材9A(9B)を交互に複数層重ね、同一層を構成する第2繊維基材8A(8B)および第3繊維基材9A(9B)の重なり端部10,11同士が同一位置で積層された端部積層部51を有している。そして、第2繊維基材8Aと第3繊維基材9Aを積層した積層体と、第2繊維基材8Bと第3繊維基材9Bを積層した積層体との間に、第1繊維基材7を積層した積層体を配置して、各々を形状保持剤で保持している。
【0041】
なお、端部積層部51は、本実施形態では形状保持剤によって積層された状態に保持されているが、繊維基材を予備成形することなしに直接RTM成形型に配置する形態の場合には、複数の繊維基材が、形状保持剤を用いずに単に重ねた状態で配置される場合がある。
【0042】
次に、図8に示すように、上型31と下型32を型締めし、予備成形体50を中間板33と下型32の間のキャビティ内で押圧する。このとき、図10に示すように、中間板33の下型側の面に弾性シート38が設けられているため、弾性力によって、予備成形体50が押圧される。このとき、端部積層部51における繊維基材の積層枚数が、端部積層部51と異なる部位の積層枚数の2倍であるため、端部積層部51の厚さXが、端部積層部51と異なる部位の厚さXの約2倍となり、端部積層部51と対応する部位において弾性シート38が大きく変形する。これにより、予備成形体50は、端部積層部51において、他の部位よりも強い力を受けることになる。本実施形態では、端部積層部51の厚さXが4mm、端部積層部51と異なる部位の厚さXが2mmであり、弾性シート38の圧縮率は最大で50%である。
【0043】
この後、樹脂注入管35から樹脂を加圧注入し、O−リング36で密封された上型31と中間板33の間に樹脂を流入させる。流入された樹脂は、まず、中間板33の樹脂流路用溝37に沿って迅速に流動し、広い領域にわたって行き渡る。そして、複数設けられた貫通孔39を通して、複数箇所から実質的にほぼ同時に繊維基材7,8,9に注入され、繊維基材7,8,9の広い領域にわたって樹脂が良好にかつ迅速に含浸されていく。端部積層部51は、端部積層部51と異なる部位よりも厚いために樹脂が含浸し難いが、中間板33および弾性シート38の端部積層部51を押圧する領域Lの開口率が、端部積層部51と異なる部位を押圧する領域における開口率よりも高いため、補強部5へも効果的に樹脂を含浸させることができる。
【0044】
含浸させる際には、弾性シート38によって端部積層部51が他の部位よりも強い圧縮力を受けているため、端部積層部51に樹脂が含浸して形成される補強部5のVfは、他の部位のVfよりも高くなる。一例として、本実施形態では、補強部5のVfは70%となり、補強部5と異なる部位のVfは50%となる。
【0045】
O−リング41で密封された下型32と中間板33の間のキャビティ内は、樹脂排出管40より真空吸引される。含浸後の余剰樹脂は、キャビティの周辺に設けたフイルムゲート/ランナー(不図示)に流れ、樹脂排出管40から外部に排出される。予備成形体50の全域に樹脂が含浸した後に、樹脂排出管40を閉鎖し、樹脂圧を保圧しながら加熱硬化させる。
【0046】
この後、成形されたフロア部品1を脱型する。脱型では、上型31を上昇させ、フロア部品1を中間板33と共に下型32より取り出し、中間板33と分離する。中間板33との分離や、フロア部品1に樹脂突起が付着して後加工に手間取る場合には、予め中間板33と強化繊維基材との間に、離型用クロス等を配設しておくとよい。
【0047】
次に、本実施形態に係るフロア部品1の補強部5の剛性を計算した結果を示す。
【0048】
図11は、別部品として設けられる比較例としての補強部材を示す断面図、図12は、本実施形態の補強部の幅と曲げ剛性の関係を示すグラフである。
【0049】
図11に示すように、比較例としての補強部材70は、本実施形態のような補強部5を備えていないフロア部品を補強するために取り付けられる部材であり、フロア部品とは別部材で設けられる。この補強部材70の曲げ剛性Kの計算結果を、図12のグラフに点線で示す。
【0050】
図12中のドットは、本実施形態に係るフロア部品1の補強部5のみの剛性Kの計算結果を示している。すなわち、図2の幅Wの範囲内の部分の曲げ剛性である。補強部5の厚さXは4mm、補強部5のVfは70%、ヤング率Eは50GPaとして、曲げ剛性Kを算出した。
【0051】
結果として、幅Wが約80mm以上である場合に、補強部5の剛性Kが比較例の補強部材70の剛性Kと同等以上となることが確認された。このように、幅Wを変更することで剛性を変更できるため、車種の性能等によって、望ましい剛性Kを備える幅Wを設定できる。
【0052】
次に、本実施形態の効果について説明する。
【0053】
図15は、比較例としての繊維強化樹脂部品を示す断面図である。比較例としての繊維強化樹脂部品80は、図15に示すように、同一層を構成する繊維基材81,82の端部を突き合わせ、かつ剛性を保つために各層の突き合せ部83をずらしつつ積層している。このような繊維強化樹脂部品80は、剛性を高めるためには別途の補強部材(図11参照)を必要とし、したがって、補強部材を成形するための他の成形型が必要となる。また、各層の繊維基材のカットパターンが全て異なるため、部品数が多くなり、組立工数も多くなる。
【0054】
これに対し、本実施形態に係るフロア部品1(繊維強化樹脂部品)は、隣接して同一層を構成する繊維基材8,9の端部同士が重なって重畳部12を形成し、各層の重畳部12が積層方向に重なって補強部5を形成しているため、別部材で補強部材を設ける必要がない。したがって、部品数が低減し、組立工数を低減できる。また、補強部材を成形するための他の成形型が不要であるため、設備コストを低減できる。さらに、各層の重畳部12を積層方向に重ねるためには、上下に重なる繊維基材のカットパターンを同一とすることで容易に実現できる。したがって、カットパターンを減らすことができ、材料の歩留まりを向上させることができる。
【0055】
また、補強部5におけるVf(繊維体積含有率)が、補強部5と異なる部位におけるVfよりも高いため、補強部5の強度がより高い繊維強化樹脂部品を実現できる。
【0056】
本実施形態に係る維強化樹脂部品の製造方法および製造装置は、各層の重畳部12を積層方向に重ねた端部積層部51を、端部積層部51の周囲とともに弾性体38により加圧した状態で、繊維基材7〜9に樹脂を含浸させるため、弾性体38が端部積層部51の形状に沿って変形し、端部積層部51を形状に沿って加圧できる。このため、別部材ではなく繊維強化樹脂部品と一体となった補強部5を有する繊維強化樹脂部品を効果的に製造できる。したがって、繊維強化樹脂部品の部品数を低減でき、組立工数を低減できる。また、補強部材を成形するための他の成形型が不要であるため、設備コストを低減できる。また、繊維強化樹脂部品に凹凸があっても、弾性体38により狙いの成形圧力を付与することが可能となる。
【0057】
また、成形型30の内部に配置される中間板33に固定された弾性シート38により加圧するため、弾性シート38の成形型30内への配置が容易となる。すなわち、弾性体のみを型内に配置する必要がなくなり、工数を削減できる。
【0058】
また、中間板33および弾性シート38に形成される貫通孔39から樹脂を繊維基材7〜9に流入させるため、繊維基材7〜9の広い範囲へ均一に樹脂を流入させることができる。
【0059】
また、弾性シート38の端部積層部51を押圧する領域Lにおける貫通孔39の開口率が、弾性シート38の端部積層部51と異なる部位を押圧する領域における貫通孔39の開口率よりも高いため、厚みがあり樹脂が含浸し難い端部積層部51へ、効率よく樹脂を含浸させることができる。
【0060】
また、厚さが一定の弾性シート38により、端部積層部51および当該端部積層部51の周囲の繊維基材の少なくとも一部を加圧するため、成形品に凹凸があっても狙いの成形圧力を付与することができる。さらに、弾性シート38が端部積層部51の形状に沿って変形するため、補強部5の位置や形状が変更されても、同一の弾性シート38で押圧することができる。
【0061】
<第2実施形態>
図13は、第2実施形態に係る繊維強化樹脂部品であるフロア部品を示す斜視図、図14は、第2実施形態に係る繊維強化樹脂部品に用いられる繊維基材のカットパターンを示す平面図である。
【0062】
第2実施形態に係るフロア部品60(繊維強化樹脂部品)は、図13に示すように、車両の前後方向に対して傾斜する方向に延びる3つの第1補強部65、第2補強部66および第3補強部67を有している。
【0063】
フロア部品60は、図14に示すように、平面状の基材から切り出される第1繊維基材61、第2繊維基材62、第3繊維基材63および第4繊維基材64を用いて、第1実施形態で述べたRTM成形型30によって成形される。
【0064】
第1補強部65は、第1繊維基材61および第2繊維基材62の互いに隣接する重なり端部61A,62A同士が重なることで形成されている。第2補強部66は、第2繊維基材62および第3繊維基材63の互いに隣接する重なり端部62B,63A同士が重なることで形成されている。第3補強部67は、第3繊維基材63および第4繊維基材64の互いに隣接する重なり端部63B,64A同士が重なることで形成されている。
【0065】
このように、補強部65〜67の位置は、第1実施形態と異なる任意に変更することができる。そして、このように補強部65〜67の位置を変更しても、第1実施形態において用いたRTM成形型30を用いてフロア部品60を成形することができる。すなわち、弾性シート38が一定の厚さYで形成されているため、補強部65〜67が設けられる位置および形状が変更されても、弾性シート38が端部積層部の形状に沿って変形できる。これにより、補強部65〜67が設けられる位置および形状が変更されても、同一のRTM成形型30を用いて成形することができ、別途の成形型30を作製する必要がなく、費用の削減が可能である。
【0066】
なお、本発明は上述した実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の範囲内で種々改変することができる。例えば、本発明を、フロア部品以外の繊維強化樹脂部品に適用してもよい。また、第1実施形態では、全ての層の重畳部12が重なって補強部5が形成されているが、少なくとも2つの重畳部12が重なっていればよい。また、各繊維基材のカットパターンを、かならずしも同一としなくてもよい。この場合には、補強部の断面形状を、台形や長方形等の任意の形状に設定することができる。また、弾性シート38の厚さYは、かならずしも均一でなくてもよい。また、本発明に係る繊維強化樹脂部品は、かならずしもRTM成形により成形されなくともよく、他の成形方法によって成形されてもよい。
【符号の説明】
【0067】
1 フロア部品(繊維強化樹脂部品)、
5A,5B 補強部、
7 第1繊維基材、
8A,8B 第2繊維基材、
9A,9B 第3繊維基材、
10,11 重なり端部、
12 重畳部、
20 繊維強化樹脂部品、
22 繊維基材、
23 補強部、
30 RTM成形型(成形装置)、
31 上型、
32 下型、
33 中間板、
38 弾性シート(弾性体)、
39 貫通孔、
51 端部積層部、
60 フロア部品(繊維強化樹脂部品)、
61 第1繊維基材、
62 第2繊維基材、
63 第3繊維基材、
64 第4繊維基材、
61A,62A,62B,63A,63B,64A 重なり端部、
65,66,67 補強部、
補強部の剛性、
W 補強部(端部積層部)の幅、
補強部(端部積層部)の厚さ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数層で配置される繊維基材に樹脂を含浸させた繊維強化樹脂部品であって、
隣接して同一層を構成する繊維基材の端部同士が互いに重なって重畳部を形成し、各層の前記重畳部が積層方向に重なって形成される補強部を有する繊維強化樹脂部品。
【請求項2】
前記繊維強化樹脂部品の単位体積に対する繊維基材の体積比率を示す繊維体積含有率は、前記補強部が、前記補強部と異なる部位よりも高い、請求項1に記載の繊維強化樹脂部品。
【請求項3】
複数層で配置される繊維基材に樹脂を含浸させた繊維強化樹脂部品の製造方法であって、
隣接して同一層を構成する繊維基材の端部同士を互いに重ねて重畳部を形成しつつ、各層の前記重畳部の少なくとも2つを積層方向に重ねたことで形成される端部積層部を、当該端部積層部の周囲の繊維基材の少なくとも一部とともに弾性体により加圧した状態で、前記繊維基材に樹脂を含浸させる成形工程を有する繊維強化樹脂部品の製造方法。
【請求項4】
前記成形工程では、成形型の内部に配置される中間板に固定された弾性シートにより、前記端部積層部および当該端部積層部の周囲の繊維基材の少なくとも一部を加圧する、請求項3に記載の繊維強化樹脂部品の製造方法。
【請求項5】
前記成形工程では、前記中間板および弾性シートに形成される貫通孔から樹脂を前記繊維基材に流入させて、前記繊維基材に樹脂を含浸させる、請求項4に記載の繊維強化樹脂部品の製造方法。
【請求項6】
前記弾性シートの前記端部積層部を押圧する領域における貫通孔の開口率が、前記弾性シートの前記端部積層部と異なる部位を押圧する領域における貫通孔の開口率よりも高い、請求項5に記載の繊維強化樹脂部品の製造方法。
【請求項7】
前記成形工程では、厚さが一定の弾性シートにより、前記端部積層部および当該端部積層部の周囲の繊維基材の少なくとも一部を加圧する、請求項4〜6のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂部品の製造方法。
【請求項8】
複数層で配置される繊維基材に樹脂を含浸させた繊維強化樹脂部品の製造装置であって、
隣接して同一層を構成する繊維基材の端部同士を互いに重ねて重畳部を形成しつつ、各層の前記重畳部の少なくとも2つを積層方向に重ねた端部積層部を、当該端部積層部の周囲の繊維基材の少なくとも一部とともに加圧する弾性体を有する繊維強化樹脂部品の製造装置。
【請求項9】
前記弾性体は、成形型の内部に配置される中間板に固定された弾性シートである、請求項8に記載の繊維強化樹脂部品の製造装置。
【請求項10】
前記中間板および弾性シートは、樹脂を流入させる貫通孔を有する、請求項9に記載の繊維強化樹脂部品の製造装置。
【請求項11】
前記弾性シートの前記端部積層部を押圧する領域における貫通孔の開口率が、前記弾性シートの前記端部積層部と異なる部位を押圧する領域における貫通孔の開口率よりも高い、請求項10に記載の繊維強化樹脂部品の製造装置。
【請求項12】
前記弾性シートは、厚さが一定である、請求項8〜11のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂部品の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−31481(P2011−31481A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−179827(P2009−179827)
【出願日】平成21年7月31日(2009.7.31)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「地球温暖化防止新技術プログラム/自動車軽量化炭素繊維強化複合材料の研究開発」に係る委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】