説明

繊維強化複合材料成形方法及び繊維強化複合材料

【課題】繊維強化複合材料成形方法において、繊維強化複合材料の内層における樹脂体積含有率の低下を抑制することである。
【解決手段】繊維束に樹脂を含浸して形成したプリプレグをマンドレル22に巻回することにより繊維強化複合材料を成形する繊維強化複合材料成形方法であって、マンドレル22に第1プリプレグを巻回する第1巻回工程(S10)と、第1プリプレグが巻回されたマンドレル22に、第2プリプレグを巻回する第2巻回工程(S12)と、第2プリプレグが巻回されたマンドレル22に、第3プリプレグを巻回する第3巻回工程(S14)とを備え、第1プリプレグは、繊維束に第1樹脂を含浸して形成され、第2プリプレグは、繊維束に第2樹脂を含浸して形成され、第3プリプレグは、繊維束に第3樹脂を含浸して形成され、第2樹脂の熱膨張率は、第1樹脂の熱膨張率より大きく、第3樹脂の熱膨張率は、第2樹脂の熱膨張率より大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化複合材料成形方法及び繊維強化複合材料に係り、特に、繊維束に樹脂を含浸して形成されたプリプレグを、巻回部材に巻回することにより繊維強化複合材料を成形する繊維強化複合材料成形方法及び繊維強化複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
圧縮水素ガスや圧縮天然ガス(CNG)等を貯蔵する、例えば、車両用の高圧タンク等には、軽量化のために、繊維強化複合材料が用いられている。このような繊維強化複合材料には、例えば、強化繊維としての炭素繊維等に、熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂等を含浸させて成形した繊維強化複合材料が用いられる。繊維強化複合材料を成形するための繊維強化複合材料成形方法には、例えば、フィラメントワインディング(Filament Winding:FW)法等が使用される。フィラメントワインディング法は、樹脂含浸した繊維をマンドレル等に連続して巻き付けて積層することにより繊維強化複合材料を成形する方法である。
【0003】
特許文献1には、樹脂含浸連続繊維の巻回積層体であり、内層と外層とを有し、内層の繊維強化樹脂の繊維含有率が外層の繊維強化樹脂の繊維含有率よりも低い繊維強化樹脂管状体が示され、繊維強化樹脂管状体の製造方法は、回転するマンドレルに、樹脂含浸連続繊維をマンドレル軸に対し90度の方向で巻回し積層することにより内層を形成し、この内層上に所定の角度方向で樹脂含浸連続繊維を巻回し積層することにより外層を形成し、しかも、内層形成時の樹脂含浸連続繊維の張力を外層形成時の樹脂含浸連続繊維の張力よりも低くすることが示されている。
【0004】
特許文献2には、樹脂を含浸させた強化繊維をフィラメントワインディング法等でマンドレルに複数回巻回して厚み方向に重ねるとともに、その巻回途中において上記強化繊維または繊維の供給条件を変化させて巻回し一体に成形することが示されている。
【0005】
特許文献3には、マンドレルに第1プリプレグを順次巻回し、マンドレル側の最内層に巻回される第1プリプレグシートはマンドレルの周方向に強化繊維が引き揃えられたものであり、他の第1プリプレグシートはマンドレルの長手方向に強化繊維が引き揃えられたものであり、第1プリプレグシートの外側には、第2プリプレグシートが巻回されることが示され、第1プリプレグシートと第2プリプレグシートとは、ガラス繊維や炭素繊維等の強化繊維に合成樹脂を含浸させたものをシート状に加工したものであることが示されている。
【0006】
【特許文献1】特開平6−328577号公報
【特許文献2】特開昭58−138618号公報
【特許文献3】特開2001−231409号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、プリプレグをマンドレル等に巻き付けて積層し積層体を形成する場合には、プリプレグは、一般的に、所定の張力が負荷されてマンドレル等に巻き付けられる。プリプレグに含まれる樹脂は、半硬化状態であり樹脂粘度が低く流動性がある。そのため、マンドレル側である内側に巻き付けられたプリプレグに含まれる樹脂は、表層側である外側に向けて流れ出す可能性がある。そして、プリプレグを積層した積層体を硬化して成形した繊維強化複合材料において、マンドレル側である内層では樹脂が流出することにより樹脂体積含有率が低下する場合がある。
【0008】
そこで、本発明の目的は、繊維強化複合材料の内層における樹脂体積含有率の低下を抑制することができる繊維強化複合材料成形方法及び繊維強化複合材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る繊維強化複合材料成形方法は、繊維束に樹脂を含浸して形成されたプリプレグを、巻回部材に巻回することにより繊維強化複合材料を成形する繊維強化複合材料成形方法であって、巻回部材に第1プリプレグを巻回する第1巻回工程と、第1プリプレグが巻回された巻回部材に、第2プリプレグを巻回する第2巻回工程と、を備え、第1プリプレグは、繊維束に第1樹脂を含浸して形成され、第2プリプレグは、繊維束に第2樹脂を含浸して形成され、第2樹脂の熱膨張率は、第1樹脂の熱膨張率より大きいことを特徴とする。
【0010】
本発明に係る繊維強化複合材料成形方法は、第2プリプレグが巻回された巻回部材に、第3プリプレグを巻回する第3巻回工程を備え、第3プリプレグは、繊維束に第3樹脂を含浸して形成され、第3樹脂の熱膨張率は、第2樹脂の熱膨張率より大きいことを特徴とする。
【0011】
本発明に係る繊維強化複合材料は、繊維束に樹脂を含浸して形成されたプリプレグを、巻回部材に巻回することにより成形される繊維強化複合材料であって、巻回部材に、繊維束に第1樹脂を含浸して形成された第1プリプレグを巻回し、第1プリプレグが巻回された巻回部材に、繊維束に第1樹脂より大きい熱膨張率を有する第2樹脂を含浸して形成された第2プリプレグを巻回して成形されることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る繊維強化複合材料は、第2プリプレグが巻回された巻回部材に、繊維束に第2樹脂より大きい熱膨張率を有する第3樹脂を含浸して形成された第3プリプレグを巻回して成形されることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る繊維強化複合材料成形方法は、繊維束に樹脂を含浸して形成されたプリプレグを、巻回部材に巻回することにより繊維強化複合材料を成形する繊維強化複合材料成形方法であって、巻回部材に第1プリプレグを巻回する第1巻回工程と、第1プリプレグが巻回された巻回部材に、第2プリプレグを巻回する第2巻回工程と、を備え、第1プリプレグは、繊維束に第1樹脂を含浸して形成され、第2プリプレグは、繊維束に第2樹脂を含浸して形成され、第2プリプレグの樹脂含有率は、第1プリプレグの樹脂含有率より小さいことを特徴とする。
【0014】
本発明に係る繊維強化複合材料成形方法は、第2プリプレグが巻回された巻回部材に、第3プリプレグを巻回する第3巻回工程を備え、第3プリプレグは、繊維束に第3樹脂を含浸して形成され、第3プリプレグの樹脂含有率は、第2プリプレグの樹脂含有率より小さいことを特徴とする。
【0015】
本発明に係る繊維強化複合材料は、繊維束に樹脂を含浸して形成されたプリプレグを、巻回部材に巻回することにより成形される繊維強化複合材料であって、巻回部材に、第1樹脂を繊維束に含浸して形成された第1プリプレグを巻回し、第1プリプレグが巻回された巻回部材に、第1プリプレグより小さい樹脂含有率を有し、繊維束に第2樹脂を含浸して形成された第2プリプレグを巻回して成形されることを特徴とする。
【0016】
本発明に係る繊維強化複合材料は、第2プリプレグが巻回された巻回部材に、第2プリプレグより小さい樹脂含有率を有し、繊維束に第3樹脂を含浸して形成された第3プリプレグを巻回して成形されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
上記構成における繊維強化複合材料成形方法及び繊維強化複合材料によれば、繊維強化複合材料の内層における樹脂体積含有率の低下を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき、詳細に説明する。まず、繊維強化複合材料を成形する繊維強化複合材料成形システムについて説明する。図1は、繊維強化複合材料成形システム10の構成を示す図である。
【0019】
繊維供給装置12は、繊維束に樹脂を含浸して形成されたプリプレグ14を送り出す機能を有している。繊維供給装置12には、例えば、クリールスタンド(Creel Stand)等を用いることができる。繊維供給装置12は、プリプレグ14が巻き付けられた複数のボビン16と、プリプレグ14に負荷される張力を調整するための複数の繊維張力調整装置18とを有している。それにより、ボビン16から送り出されたプリプレグ14を、繊維張力調整装置18で所定の張力に調整して供給することができる。勿論、他の条件次第では、プリプレグ14の本数は、複数本に限定されることはなく、1本でもよい。
【0020】
繊維張力測定装置(図示せず)は、繊維供給装置12から送り出された複数のプリプレグ14に負荷された張力を測定する機能を有している。繊維張力測定装置(図示せず)には、一般的に、炭素繊維等の張力測定に用いられている張力測定装置を使用することができる。
【0021】
フィラメントワインディング装置20は、繊維張力測定装置(図示せず)から送り出されたプリプレグ14を、型または心金であるマンドレル22(Mandrel)等の巻回部材に巻回する機能を有している。フィラメントワインディング装置20は、プリプレグ14をマンドレル22等の円周方向や軸方向等に巻き付けることができる。フィラメントワインディング装置20は、例えば、マンドレル22等の回転軸方向に対して略垂直に巻き付けるフープ巻き(Hoop Winding)や、マンドレル22等の回転軸方向に対して所定の角度で巻き付けるヘリカル巻き(Helical Winding)等によりプリプレグ14をマンドレル22等に巻き付けて積層することができる。
【0022】
圧力容器、例えば、高圧タンク等を製造する場合には、巻回部材にポリアミド樹脂等により成形された樹脂ライナまたはアルミニウム等により成形された金属ライナ等を使用することができる。プリプレグ14は、フィラメントワインディング装置20により、張力を与えつつ樹脂ライナまたは金属ライナに巻き付けられて積層される。また、フィラメントワインディング装置20によれば、高圧タンクの胴部だけでなく、ドーム部等にもプリプレグ14を巻き付けて積層することができる。そして、プリプレグ14を積層して形成された積層体は樹脂硬化炉等で加熱硬化され、繊維強化複合材料が成形される。
【0023】
制御装置24は、繊維供給装置12と、繊維張力測定装置(図示せず)と、フィラメントワインディング装置20とにリード線とコネクタ等を用いて接続される。制御装置24は、繊維供給装置12と、繊維張力測定装置(図示せず)と、フィラメントワインディング装置20とを制御することができる機能を有している。例えば、制御装置24の制御によりフィラメントワインディング装置20等の始動及び停止を行うことができる。また、制御装置24は、繊維張力測定装置(図示せず)から出力されるプリプレグ14の張力データの電気信号を入力し、プリプレグ14の張力を制御することができる機能を有している。かかる制御装置24は、例えば、パーソナルコンピュータ(PC)等で構成することができる。また、制御装置24と接続されたデータロガ26には、プリプレグ14の張力データ等が記憶されて保存される。
【0024】
次に、繊維強化複合材料の成形方法について説明する。図2は、繊維強化複合材料成形方法を示すフローチャートである。繊維強化複合材料の成形方法は、第1巻回工程(S10)と、第2巻回工程(S12)と、第3巻回工程(S14)とを含んで構成される。
【0025】
第1巻回工程(S10)は、マンドレル22に第1プリプレグを巻回する工程である。第1プリプレグは、繊維束に第1樹脂を含浸して形成される。
【0026】
繊維束の繊維には、高強度繊維または高弾性繊維である炭素繊維等を使用することができる。そして、炭素繊維には、レーヨン系炭素繊維、ポリアクリロニトリル(Polyacrylonitrile:PAN)系炭素繊維またはピッチ系炭素繊維等が用いられる。勿論、第1プリプレグに用いられる繊維束の繊維には、炭素繊維に限定されることはなく、ガラス繊維またはアラミド繊維等を用いることができる。
【0027】
繊維束には、繊維径が、例えば、1μmから5μmの単繊維であるフィラメントを束ねたヤーン、ストランド、ロービング等を用いることができる。例えば、炭素繊維を用いた繊維束には、炭素繊維フィラメントを1万本〜5万本束ねた炭素繊維ストランドを用いることができる。また、繊維束には、一方向材だけでなく、平織や朱子織等で織られた織物材の繊維シート等を使用してもよい。勿論、他の条件次第では、繊維束は、これらの形態に限定されることはない。
【0028】
第1樹脂には、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂または不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂を使用することができる。勿論、第1樹脂は、上記合成樹脂に限定されることはない。第1樹脂には、常温で樹脂粘度100mPas以下の合成樹脂が使用されることが好ましい。
【0029】
まず、第1プリプレグが巻き付けられたボビン16は、繊維供給装置12にセットされる。そして、繊維供給装置12から所定の張力が負荷されて送り出された第1プリプレグは、フィラメントワインディング装置20でマンドレル22に巻回されて積層される。
【0030】
第2巻回工程(S12)は、第1プリプレグが巻回されたマンドレル22に、第2プリプレグを巻回する工程である。第2プリプレグは、繊維束に第2樹脂を含浸して形成される。
【0031】
第2プリプレグに含まれる繊維束には、第1プリプレグに含まれる繊維束と同種の繊維束を用いることが好ましい。例えば、第1プリプレグに含まれる繊維束に炭素繊維を使用する場合には、第2プリプレグに含まれる繊維束に炭素繊維を使用することが好ましい。勿論、他の条件次第では、第2プリプレグに含まれる繊維束には、第1プリプレグに含まれる繊維束と異なる繊維束を用いてもよい。
【0032】
第2樹脂には、第1樹脂よりも熱膨張率が大きい合成樹脂が使用される。これにより、第2樹脂の硬化による成形後の体積収縮率を、第1樹脂の硬化による成形後の体積収縮率よりも大きくすることができる。第2樹脂には第1樹脂に含まれる主剤、硬化剤、添加剤と異なる材料を使用して、第2樹脂の熱膨張率を第1樹脂の熱膨張率より大きくすることができる。また、第1樹脂に含まれる主剤、硬化剤、添加剤と同じ材料を使用する場合でも、各々材料の含有率を変えることにより第2樹脂の熱膨張率を第1樹脂の熱膨張率より大きくすることができる。第2樹脂には、常温で樹脂粘度100mPas以下の合成樹脂を使用することが好ましい。第2樹脂には、第1樹脂と同種の合成樹脂を用いることが好ましい。例えば、第1樹脂にエポキシ樹脂を使用する場合には、第2樹脂にもエポキシ樹脂を使用することが好ましい。勿論、他の条件次第では、第2樹脂には、第1樹脂と異なる合成樹脂を用いてもよい。
【0033】
第2プリプレグが巻き付けられたボビン16を繊維供給装置12にセットした後、繊維供給装置12から所定の張力が負荷されて送り出された第2プリプレグは、フィラメントワインディング装置20で第1プリプレグが巻回されたマンドレル22に巻回されて積層される。
【0034】
第3巻回工程(S14)は、第2プリプレグが巻回されたマンドレル22に、第3プリプレグを巻回する工程である。第3プリプレグは、繊維束に第3樹脂を含浸して形成される。
【0035】
第3プリプレグに含まれる繊維束には、第1プリプレグや第2プリプレグに含まれる繊維束と同種の繊維束を用いることが好ましい。例えば、第1プリプレグや第2プリプレグに含まれる繊維束に炭素繊維を使用した場合には、第3プリプレグに含まれる繊維束には、炭素繊維を使用することが好ましい。勿論、第3プリプレグに含まれる繊維束には、第1プリプレグや第2プリプレグに含まれる繊維束と異なる繊維束を用いてもよい。
【0036】
第3樹脂には、第2樹脂よりも熱膨張率が大きい合成樹脂が使用される。これにより、第3樹脂の硬化による成形後の体積収縮率を、第2樹脂の硬化による成形後の体積収縮率よりも大きくすることができる。第3樹脂には第2樹脂に含まれる主剤、硬化剤、添加剤と異なる材料を使用して、第3樹脂の熱膨張率を第2樹脂の熱膨張率より大きくすることができる。また、第2樹脂に含まれる主剤、硬化剤、添加剤と同じ材料を使用する場合でも、各々材料の含有率を変えることにより第3樹脂の熱膨張率を第2樹脂の熱膨張率より大きくすることができる。第3樹脂には、常温で樹脂粘度100mPas以下の合成樹脂を使用することが好ましい。第3樹脂には、第1樹脂または第2樹脂と同種の合成樹脂を用いることが好ましい。例えば、第1樹脂及び第2樹脂にエポキシ樹脂を使用する場合には、第3樹脂にもエポキシ樹脂を使用することが好ましい。勿論、他の条件次第では、第3樹脂には、第1樹脂または第2樹脂と異なる合成樹脂を用いてもよい。
【0037】
第3プリプレグが巻き付けられたボビン16を繊維供給装置12にセットした後、繊維供給装置12から所定の張力が負荷されて送り出された第3プリプレグは、フィラメントワインディング装置20で第2プリプレグが巻回されたマンドレル22に巻回されて積層される。
【0038】
図3は、マンドレル22に第1プリプレグと、第2プリプレグと、第3プリプレグとを巻回して積層した積層体30を示す断面図である。積層体30は、第1層32と、第2層34と、第3層36とを含んで構成される。第1層32は、マンドレル22に第1プリプレグを巻回して形成された層であり、第2層34は、第2プリプレグを巻回して形成された層であり、第3層36は、第3プリプレグを巻回して形成された層である。第1プリプレグから第3プリプレグは、いずれも所定の張力を負荷されてマンドレル22に巻回される。そのため、第1プリプレグに含まれる第1樹脂の一部が、第1層32から第2層34または第3層36へ流動して流出し、第2プリプレグに含まれる第2樹脂が、第2層34から第3層36へ流動して流出する。
【0039】
そして、積層体30は樹脂硬化炉等で加熱硬化され、繊維強化複合材料が成形される。ここで、第2樹脂の熱膨張率は、第1樹脂の熱膨張率よりも大きく、第3樹脂の熱膨張率は、第2樹脂の熱膨張率よりも大きい。合成樹脂の熱膨張率が大きいほど、上述したように、合成樹脂の硬化による成形後の体積収縮率も大きくなる。そのため、第1樹脂から第3樹脂の中では、第1樹脂は最も熱膨張率が小さいので、第1樹脂の硬化による成形後の体積収縮率は最も小さくなる。また、第3樹脂は最も熱膨張率が大きいので、第3樹脂の硬化による成形後の体積収縮率は最も大きくなる。
【0040】
第1樹脂の硬化による成形後の体積収縮率は最も小さいので、第1樹脂の流出がない場合には、硬化後の第1層32は、樹脂体積含有率が最も大きくなる。逆に、第3樹脂の硬化による成形後の体積収縮率は最も大きいので、第1樹脂または第2樹脂の流入がない場合には、硬化後の第3層36は、樹脂体積含有率が最も小さくなる。しかし、上述したように、第1プリプレグに含まれる第1樹脂の一部が、第1層32から第2層34または第3層36へ流出し、第2プリプレグに含まれる第2樹脂の一部が、第2層34から第3層36へ流出する。そのため、第1プリプレグから第3プリプレグを積層した積層体30を硬化して成形した繊維強化複合材料の樹脂体積含有率は、第1層32が最も大きく、第3層36が最も小さくなる。
【0041】
上記構成によれば、マンドレル22に、繊維束に第1樹脂を含浸して形成された第1プリプレグを巻回し、第1プリプレグが巻回されたマンドレル22に、繊維束に第1樹脂より大きい熱膨張率を有する第2樹脂を含浸して形成された第2プリプレグを巻回し、第2プリプレグが巻回されたマンドレル22に、繊維束に第2樹脂より大きい熱膨張率を有する第3樹脂を含浸して形成された第3プリプレグを巻回して繊維強化複合材料を成形することにより、繊維強化複合材料の内層における樹脂体積含有率の低下を抑制することができる。
【0042】
次に、他の繊維強化複合材料成形方法について説明する。他の繊維強化複合材料成形方法では、使用される第1プリプレグから第3プリプレグが、上記の繊維強化複合材料成形方法と異なる。なお、同様な要素は詳細な説明を省略する。
【0043】
繊維強化複合材料成形方法は、第1巻回工程と、第2巻回工程と、第3巻回工程とを含んで構成される。
【0044】
第1巻回工程は、マンドレル22に第1プリプレグを巻回する工程である。第1プリプレグは、繊維束に第1樹脂を含浸して形成される。繊維束には、上述した炭素繊維等が使用され、第1樹脂には、上述したエポキシ樹脂等が使用される。また、第1樹脂には、常温で樹脂粘度100mPas以下の合成樹脂を使用することが好ましい。第1プリプレグは、フィラメントワインディング装置20でマンドレル22に巻回されて積層される。
【0045】
第2巻回工程は、第1プリプレグが巻回されたマンドレル22に、第2プリプレグを巻回する工程である。第2プリプレグは、繊維束に第2樹脂を含浸して形成される。第2プリプレグに含まれる繊維束には、第1プリプレグに含まれる繊維束と同種の繊維束が用いられることが好ましい。第2プリプレグは、第2樹脂の樹脂含有率(レジンコンテント)が第1プリプレグに含まれる第1樹脂の樹脂含有率より小さくなるように形成される。また、第2樹脂には、常温で樹脂粘度100mPas以下の合成樹脂を使用することが好ましい。第2プリプレグは、フィラメントワインディング装置20で第1プリプレグが巻回されたマンドレル22に巻回されて積層される。
【0046】
第3巻回工程は、第2プリプレグが巻回されたマンドレル22に、第3プリプレグを巻回する工程である。第3プリプレグは、繊維束に第3樹脂を含浸して形成される。第3プリプレグに含まれる繊維束には、第1プリプレグまたは第2プリプレグに含まれる繊維束と同種の繊維束が用いられることが好ましい。第3プリプレグは、第3樹脂の樹脂含有率が第2プリプレグに含まれる第2樹脂の樹脂含有率より小さくなるように形成される。また、第3樹脂には、常温で樹脂粘度100mPas以下の合成樹脂を使用することが好ましい。第3プリプレグは、フィラメントワインディング装置20で第2プリプレグが巻回されたマンドレル22に巻回されて積層される。
【0047】
図4は、マンドレル22に第1プリプレグと、第2プリプレグと、第3プリプレグとを巻回して積層した積層体40を示す断面図である。積層体40は、第1層42と、第2層44と、第3層46とを含んで構成される。第1層42は、マンドレル22に第1プリプレグを巻回して形成された層であり、第2層44は、第2プリプレグを巻回して形成された層であり、第3層46は、第3プリプレグを巻回して形成された層である。第1プリプレグから第3プリプレグは、所定の張力を負荷されてマンドレル22に巻回される。そのため、第1プリプレグに含まれる第1樹脂の一部が、第1層42から第2層44または第3層46へ流動して流出し、第2プリプレグに含まれる第2樹脂の一部が、第2層44から第3層46へ流動して流出する。
【0048】
そして、積層体40は樹脂硬化炉等で加熱硬化され、繊維強化複合材料が成形される。ここで、第2プリプレグの樹脂含有率は、第1プリプレグの樹脂含有率よりも小さく、第3プリプレグの樹脂含有率は、第2プリプレグの樹脂含有率よりも小さい。第1プリプレグの樹脂含有率は最も大きいので、第1樹脂の流出がない場合には、硬化後の第1層42は、樹脂体積含有率が最も大きくなる。逆に、第3プリプレグの樹脂含有率は最も小さいので、第1樹脂または第2樹脂の流入がない場合には、硬化後の第3層46は、樹脂体積含有率が最も小さくなる。しかし、上述したように、第1プリプレグに含まれる第1樹脂の一部が第1層42から第2層44または第3層46へ流出し、第2プリプレグに含まれる第2樹脂の一部が、第2層44から第3層46へ流出する。そのため、第1プリプレグから第3プリプレグを積層した積層体40を硬化して成形した繊維強化複合材料の樹脂体積含有率は、第1層42が最も大きく、第3層46が最も小さくなる。
【0049】
上記構成によれば、マンドレル22に、繊維束に第1樹脂を含浸して形成された第1プリプレグを巻回し、第1プリプレグが巻回されたマンドレル22に、第1プリプレグより小さい樹脂含有率を有し、繊維束に第2樹脂を含浸して形成された第2プリプレグを巻回し、第2プリプレグが巻回されたマンドレル22に、第2プリプレグより小さい樹脂含有率を有し、繊維束に第3樹脂を含浸して形成された第3プリプレグを巻回して繊維強化複合材料を成形することにより、繊維強化複合材料の内層における樹脂体積含有率の低下を抑制することができる。
【0050】
なお、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施得ることは勿論である。例えば、上記の実施形態では、繊維強化複合材料を3層で形成しているが、3層に限定されることなく2層等でもよい。また、上記の実施形態では、繊維強化複合材料成形方法にプリプレグを用いる場合を示しているが、例えば、予め繊維束に樹脂を含浸させたプリプレグを使用するのでなく、樹脂含浸装置等を用いて繊維束に未硬化樹脂を含浸させる場合においても本発明は適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施の形態において、繊維強化複合材料成形システムの構成を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態において、繊維強化複合材料成形方法を示すフローチャートである。
【図3】本発明の実施の形態において、マンドレルに第1プリプレグと、第2プリプレグと、第3プリプレグとを巻回して積層した積層体を示す断面図である。
【図4】本発明の実施の形態において、マンドレルに第1プリプレグと、第2プリプレグと、第3プリプレグとを巻回して積層した積層体を示す断面図である。
【符号の説明】
【0052】
10 繊維強化複合材料成形システム、12 繊維供給装置、14 プリプレグ、16 ボビン、18 繊維張力調整装置、20 フィラメントワイディング装置、22 マンドレル、24 制御装置、26 データロガ、30,40 積層体、32,42 第1層、34,44 第2層、36,46 第3層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維束に樹脂を含浸して形成されたプリプレグを、巻回部材に巻回することにより繊維強化複合材料を成形する繊維強化複合材料成形方法であって、
巻回部材に第1プリプレグを巻回する第1巻回工程と、
第1プリプレグが巻回された巻回部材に、第2プリプレグを巻回する第2巻回工程と、
を備え、
第1プリプレグは、繊維束に第1樹脂を含浸して形成され、
第2プリプレグは、繊維束に第2樹脂を含浸して形成され、
第2樹脂の熱膨張率は、第1樹脂の熱膨張率より大きいことを特徴とする繊維強化複合材料成形方法。
【請求項2】
請求項1に記載の繊維強化複合材料成形方法であって、
第2プリプレグが巻回された巻回部材に、第3プリプレグを巻回する第3巻回工程を備え、
第3プリプレグは、繊維束に第3樹脂を含浸して形成され、
第3樹脂の熱膨張率は、第2樹脂の熱膨張率より大きいことを特徴とする繊維強化複合材料成形方法。
【請求項3】
繊維束に樹脂を含浸して形成されたプリプレグを、巻回部材に巻回することにより成形される繊維強化複合材料であって、
巻回部材に、繊維束に第1樹脂を含浸して形成された第1プリプレグを巻回し、
第1プリプレグが巻回された巻回部材に、繊維束に第1樹脂より大きい熱膨張率を有する第2樹脂を含浸して形成された第2プリプレグを巻回して成形されることを特徴とする繊維強化複合材料。
【請求項4】
請求項3に記載の繊維強化複合材料であって、
第2プリプレグが巻回された巻回部材に、繊維束に第2樹脂より大きい熱膨張率を有する第3樹脂を含浸して形成された第3プリプレグを巻回して成形されることを特徴とする繊維強化複合材料。
【請求項5】
繊維束に樹脂を含浸して形成されたプリプレグを、巻回部材に巻回することにより繊維強化複合材料を成形する繊維強化複合材料成形方法であって、
巻回部材に第1プリプレグを巻回する第1巻回工程と、
第1プリプレグが巻回された巻回部材に、第2プリプレグを巻回する第2巻回工程と、
を備え、
第1プリプレグは、繊維束に第1樹脂を含浸して形成され、
第2プリプレグは、繊維束に第2樹脂を含浸して形成され、
第2プリプレグの樹脂含有率は、第1プリプレグの樹脂含有率より小さいことを特徴とする繊維強化複合材料成形方法。
【請求項6】
請求項5に記載の繊維強化複合材料成形方法であって、
第2プリプレグが巻回された巻回部材に、第3プリプレグを巻回する第3巻回工程を備え、
第3プリプレグは、繊維束に第3樹脂を含浸して形成され、
第3プリプレグの樹脂含有率は、第2プリプレグの樹脂含有率より小さいことを特徴とする繊維強化複合材料成形方法。
【請求項7】
繊維束に樹脂を含浸して形成されたプリプレグを、巻回部材に巻回することにより成形される繊維強化複合材料であって、
巻回部材に、繊維束に第1樹脂を含浸して形成された第1プリプレグを巻回し、
第1プリプレグが巻回された巻回部材に、第1プリプレグより小さい樹脂含有率を有し、繊維束に第2樹脂を含浸して形成された第2プリプレグを巻回して成形されることを特徴とする繊維強化複合材料。
【請求項8】
請求項7に記載された繊維強化複合材料であって、
第2プリプレグが巻回された巻回部材に、第2プリプレグより小さい樹脂含有率を有し、繊維束に第3樹脂を含浸して形成された第3プリプレグを巻回して成形されることを特徴とする繊維強化複合材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−307726(P2008−307726A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−155916(P2007−155916)
【出願日】平成19年6月13日(2007.6.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】