説明

繊維束及びその接合方法、並びに、FRP成形体の製造方法

【課題】フィラメントワインディング法によるFRP成形体の製造方法において、繊維束の巻き付け易さを損なわず、且つ、成形体の形状の不均一や物性の低下を招くことのないように、繊維束を接合する。
【解決手段】繊維束を回転部材に巻き付けるフィラメントワインディング法において用いられる繊維束の接合方法であって、繊維束f1の一方の端部と、繊維束f5の一方の端部との周囲に、熱収縮チューブ1を配置する工程(a)と、熱収縮チューブ1材料を加熱して収縮させることにより、繊維束f1と繊維束f5とを接合する工程(b)とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維束を回転部材に巻き付けるフィラメントワインディング法によるFRP(繊維強化プラスチック)成形体の製造方法、並びに、そこで用いられる繊維束とその接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
FRP成形体の製造方法の1つとして、フィラメントワインディング(FW)法がある。FW法とは、樹脂を含浸させた繊維束をワーク(回転部材)に巻き付けることによって成形体を作製する方法である。さらに、この成形体を加熱して樹脂を硬化させることにより、FRP成形体が完成する。FW法によれば、円柱や球等の回転体形状を有するFRP製品を効率良く作製できるので、パイプや高圧ガスタンク等の製造工程において利用されている。
【0003】
FW装置には、繊維束が巻かれたボビンが備えられており、そこからワークに対して繊維束が連続的に供給される。そのため、ボビンに巻かれた繊維束を使い終えると、新しいボビンに交換する交換作業が行われる。
【特許文献1】特開2000−94472号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
1つのFRP成形体を作製している途中でボビンを交換する場合には、使用済みのボビンの繊維束の巻き終わりと新しいボビンの繊維束の巻き始めとを接合しなければならない。その際に、両者を結索すると、結び目付近が開繊されない状態で成形体内に取り込まれてしまう。すると、成形体表面から結び目部分が盛り上がる等、形状が不均一になってしまい、美観上好ましくない。また、結び目周辺の強度が低下する等、部分的に物性が低下するおそれもある。
【0005】
或いは、1つのFRP成形体の作製中にボビン交換をしないで済むように、ボビンに繊維束が残っていても、新しいボビンに交換してからFW装置の動作を開始させる場合もある。しかし、この場合には、繊維束の歩留まりが低下すると共に、ボビン交換の際に糸(繊維束)通し等の手間が生じるため、装置の稼働率が低下してしまう。
【0006】
関連する技術として、特許文献1には、射出成形同時絵付装置で用いられるシート巻出装置において、ロールシートの終了端と新しいロールシートの開始端とを接着剤によって接合することが開示されている。
【0007】
しかしながら、この方法をFW法に適用し、単に接着剤を用いて繊維束同士を接合すると、接合部における柔軟性が低下してしまうので、繊維束をワークに巻き付け難くなってしまう。また、硬化した接合部はワークの形状に沿い難くなるので、やはり、形状の不均一や部分的な物性の低下を招くことになる。
【0008】
そこで、上記の問題点に鑑み、本発明は、FW法によるFRP成形体の製造方法において、繊維束の巻き付け易さを損なわず、且つ、成形体の形状の不均一や物性の低下を招くことのないように、繊維束を接合すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の1つの観点に係る繊維束の接合方法は、繊維束を回転部材に巻き付けるフィラメントワインディング法において用いられる繊維束の接合方法であって、第1の繊維束の一方の端部と第2の繊維束の一方の端部との周囲に、熱収縮材料を配置する工程(a)と、前記熱収縮材料を加熱して収縮させることにより、前記第1の繊維束と前記第2の繊維束とを接合する工程(b)とを備える。
かかる構成とすることにより、第1の繊維束と第2の繊維束とを、熱収縮材料が配置された領域、即ち、接合部の柔軟性を保ったまま接合することができる。
【0010】
ここで、工程(a)において、前記第1の繊維束の一方の端部と前記第2の繊維束の一方の端部とを、接続して配置することが望ましい。
また、工程(a)において、前記第1の繊維束の一方の端面と前記第2の繊維束の一方の端面とを、対面させて接続することにより、接合部をあまり太くせずに両者を接合することができる。
【0011】
本発明の1つの観点に係る繊維束は、第1の繊維束と、第2の繊維束であって、一方の端面が、前記第1の繊維束の一方の端面に接続されている第2の繊維束と、前記第1の繊維束と前記第2の繊維束との接合部の周囲に配置された熱収縮材料とを備える。前記繊維束は、繊維束を回転部材に巻き付けるフィラメントワインディング法において用いられる。
【0012】
本発明の1つの観点に係るFRP成形体の製造方法は、繊維束を回転部材に巻き付けるフィラメントワインディング法によるFRP成形体の製造方法であって、巻き付けに使用中の第1の繊維束の後端部と、次に使用される第2の繊維束の先端部との周囲に、熱収縮材料を配置する工程(a)と、前記熱収縮材料を加熱して収縮させることにより、前記第1の繊維束と前記第2の繊維束とを接合する工程(b)とを備える。
【0013】
かかる構成とすることにより、第1の繊維束と第2の繊維束との接合部の柔軟性を保つことができるので、繊維束を回転部材に巻く際に、接合部についても他の部分と同程度の巻き易さを維持することができる。また、繊維束を巻き付けた成形体表面を、回転部材の形状に沿ってほぼ均一にすることができる。
【0014】
ここで、工程(a)において、前記第1の繊維束の後端部と前記第2の繊維束の先端部とを、接続して配置することが望ましい。
また、工程(a)において、前記第1の繊維束の後端面と前記第2の繊維束の先端面とを、対面させて接続することにより、接合部をあまり太くせずに両者を接合することができるので、繊維束を回転部材に均一に巻き付けることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、成形体の表面やピッチがほぼ均一になるように繊維束を回転部材に巻き付けることができ、また、接合部付近についても、他の部分と同様の物性を維持することができる。従って、そのようなFRP成形体が適用される製品の性能を十分に発揮させることが可能になる。
【0016】
また、本発明によれば、繊維束の端部同士を容易且つ短時間に接合することができる。さらに、使用中の繊維束を使い切ることができるので、材料の歩留まりを向上させることが可能になる。加えて、繊維束を使い切った後で連続して次の繊維束を供給するので、FW装置への糸通し作業等の手間及び時間を省いて、装置の稼働率を向上させることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。なお、同一の構成要素には同一の参照番号を付して、説明を省略する。
図1は、本発明の一実施形態に係るFRP成形体の製造方法を示すフローチャートである。図1に示すように、この方法は、フィラメントワインディング(FW)法によりFRP成形体を製造する方法である。
【0018】
また、図2は、FW装置の概略的な構成を示す図である。このFW装置は、繊維束供給部10と、樹脂含浸部20と、給糸部30と、ワーク(回転部材)40とを含んでいる。ワーク40としては、円筒形状の型(マンドレル)や、多層構造の内側の容器(ライナ)等が取り付けられ、図2においては、ワーク40として高圧タンクのライナが示されている。
【0019】
まず、工程S10において、繊維束供給部10に備えられたボビン11a〜11dに、繊維束f1〜f4が十分に残っているか否かを確認する。そして、繊維束f1〜f4が残っている場合には、FW装置の動作を開始させ、繊維束(繊維)f1〜f4を繊維束供給部10から樹脂含浸部20に供給する。
【0020】
次に、工程S11において、含浸ローラ22及び23によって案内することにより、繊維束f1〜f4を樹脂槽21内の樹脂に浸す。樹脂を含浸した繊維束f1〜f4は、給糸部30に送られる。なお、繊維束f1〜f4としては、ドライ(樹脂を含浸させていない繊維束)及びプリプレグ(予め樹脂を含浸させてある繊維束)のいずれを使用しても良いが、後者を用いる場合には、工程S11は省略される。
【0021】
次に、工程S12において、給糸部30において繊維束f1〜f4を1列に束ねることにより繊維束Fを形成し、これをワーク40に供給する。ここで、給糸部30は、ワーク40の長手方向に往復移動可能な状態で設置されている。一方、ワーク40は、回転駆動部41により駆動されて、回転運動している。このような給糸部30の往復運動とワーク40の回転運動とを同期させることにより、繊維束Fをワーク40に対して所定の角度で巻き付ける。
【0022】
さらに、工程S13において、繊維束Fを巻き終えたワーク40をFW装置から取り外し、加熱炉において所定の温度で加熱する。それにより、繊維束Fに含浸している樹脂が硬化し、FRP製の高圧タンクの本体が完成する。
【0023】
一方、工程S10において、ボビン11a〜11dのいずれかにおいて繊維束f1〜f4の残りが僅かとなっている場合には、交換用の新しい繊維束を用意する(工程S21)。
【0024】
そして、工程S22において、図3に示すように、残りが僅かとなった使用中の繊維束(例えば、繊維束f1)の後端部と、新しい繊維束f5の先端部とを、熱収縮性樹脂によって形成されたチューブ(熱収縮チューブ)1の中に配置する。その際には、繊維束f1と繊維束f5との間に、長さ方向の隙間ができないように、両者を接続して配置することが望ましい。さらには、繊維束f1と繊維束f5とが重ならないように、それぞれの端面同士を接触させることが望ましい。
【0025】
熱収縮チューブ1としては、熱収縮させた際に硬化せず、且つ、繊維束f1〜f4及びそこに含浸させる樹脂にあまり影響を与えない材料(例えば、含浸させる樹脂と同種の成分を含む材料)が用いられる。
【0026】
次に、工程S23において、図4に示すように、ヒータ2によって熱収縮チューブ1を加熱することにより収縮させる。それにより、繊維束f1と繊維束f5とが接合される。さらに、新しい繊維束f5が巻かれたボビンをボビン11a(図2)の代わりに取り付け、FW装置の動作を開始させる。
【0027】
以上の説明においては、熱収縮チューブを用いて繊維束を接合したが、熱収縮性を有する樹脂材料であればどのような形態であっても利用することができる。例えば、熱収縮シートを繊維束f1及びf5の周囲に巻きつけても良い。
また、工程S21〜S23については、FW装置の動作開始時だけでなく、FW装置の稼働中に繊維束の残量を確認しながら(工程S10)、必要に応じて随時行うようにする。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態に係るFRP成形体の製造方法を示すフローチャートである。
【図2】フィラメントワインディング装置の概略的な構成を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る繊維束の接合方法を説明するための図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る繊維束の接合方法を説明するための図である。
【符号の説明】
【0029】
1…熱収縮チューブ、2…ヒータ、f1〜f5…繊維束

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維束を回転部材に巻き付けるフィラメントワインディング法において用いられる繊維束の接合方法であって、
第1の繊維束の一方の端部と、第2の繊維束の一方の端部との周囲に、熱収縮材料を配置する工程(a)と、
前記熱収縮材料を加熱して収縮させることにより、前記第1の繊維束と前記第2の繊維束とを接合する工程(b)と、
を備える繊維束の接合方法。
【請求項2】
工程(a)は、前記第1の繊維束の一方の端部と、前記第2の繊維束の一方の端部とを、接続して配置することを含む、請求項1記載の繊維束の接合方法。
【請求項3】
工程(a)は、前記第1の繊維束の一方の端面と、前記第2の繊維束の一方の端面とを、対面させて接続することを含む、請求項2記載の繊維束の接合方法。
【請求項4】
第1の繊維束と、
第2の繊維束であって、一方の端面が、前記第1の繊維束の一方の端面に接続されている第2の繊維束と、
前記第1の繊維束と前記第2の繊維束との接合部の周囲に配置された熱収縮材料と、
を備える繊維束。
【請求項5】
前記繊維束は、繊維束を回転部材に巻き付けるフィラメントワインディング法において用いられる、請求項4記載の繊維束。
【請求項6】
繊維束を回転部材に巻き付けるフィラメントワインディング法によるFRP成形体の製造方法であって、
巻き付けに使用中の第1の繊維束の後端部と、次に使用される第2の繊維束の先端部との周囲に、熱収縮材料を配置する工程(a)と、
前記熱収縮材料を加熱して収縮させることにより、前記第1の繊維束と前記第2の繊維束とを接合する工程(b)と、
を備えるFRP成形体の製造方法。
【請求項7】
工程(a)は、前記第1の繊維束の後端部と、前記第2の繊維束の先端部とを、接続して配置することを含む、請求項6記載のFRP成形体の製造方法。
【請求項8】
工程(a)は、前記第1の繊維束の後端面と、前記第2の繊維束の先端面とを、対面させて接続することを含む、請求項7記載のFRP成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−221723(P2008−221723A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−65650(P2007−65650)
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】