繊維束
【課題】ウェブ、およびウェブを用いて得られる製品の物性や性能と、生産性、操業性、コストのバランスに優れた繊維束を提供する。
【解決手段】長繊維が一方向に配列してなる繊維束であって、該長繊維が繊維束の幅方向に向けて山部と谷部が形成されている捲縮を有し、かつその捲縮について、同一の長繊維に存在する捲縮のうち隣り合う捲縮の山部と谷部の頂点を結んだ直線の繊維束の長さ方向に対する傾きの絶対値であるところの特性値Aが0.3以上であることを特徴とする繊維束。
【解決手段】長繊維が一方向に配列してなる繊維束であって、該長繊維が繊維束の幅方向に向けて山部と谷部が形成されている捲縮を有し、かつその捲縮について、同一の長繊維に存在する捲縮のうち隣り合う捲縮の山部と谷部の頂点を結んだ直線の繊維束の長さ方向に対する傾きの絶対値であるところの特性値Aが0.3以上であることを特徴とする繊維束。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な集束性と開繊性を有する繊維束に関する。更に詳しくは、高速度の開繊性に優れ、開繊後のウェブが均一で風合いに優れた不織布に加工できる繊維束に関する。本発明の繊維束は、それ単独で、または他の部材例えば、不織布や、フィルム、パルプ等と積層、混合等をし、各種包装材、傷当て材、包帯、ハップ材、クッション材、断熱材等に使用される。
【背景技術】
【0002】
生理用ナプキンなどの吸収性物品の表面層や、掃除用モップやワイパーのワイピング部などに、例えばPE/PP、PE/PET、PP/PETなどの熱可塑性複合繊維が使用されている。そして、この熱可塑性複合繊維として連続した繊維束を開繊したウェブを用いる場合がある。
【0003】
連続した繊維束は、捲縮が付与された連続繊維同士が、お互いに密着するように集束しており、繊維密度が高い状態で存在する。これを前記表面層や、前記ワイピング部などに加工する際には、その製造工程において、繊維束を構成する連続繊維を幅方向にお互いに分離させて、見かけ幅を広げる工程、すなわち開繊工程を経る。この開繊工程を経ることで、連続繊維同士が集束した、繊維密度が高い状態である繊維束から、連続繊維同士が解れた、繊維密度が低い状態であるウェブを得ることができる。そうして得られた幅方向にほぼ均一な厚みと風合いを有するウェブから、前記表面層や、前記ワイピング部などが製造される。
【0004】
繊維束を開繊して均一なウェブを得るために、種々の方策が採られている。例えば特許文献1には、顕在捲縮および/または潜在捲縮を有する、単糸繊度0.5〜100デニール、全繊度1万〜30万デニール、顕在捲縮数が10〜50山/25mmである繊維束は、延伸開繊時の開繊幅が適当な範囲にあり、高速度で均一に開繊でき、風合いに優れたウェブを高い生産性で得られることが記載されている。しかし、より安定的に高い開繊性を示す繊維束が求められていた。
【0005】
【特許文献1】特開平9−273037号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、均一で風合いに優れたウェブを高い生産性で得るためには、高い開繊性を示す繊維束が不可欠であることが知られており、繊維束の構成樹脂の選定、紡糸、延伸、捲縮付与条件の設定等を試行錯誤的に設定することで、該繊維束が得られている。しかし、所望の高い開繊性を有する繊維束を得るためには、試行錯誤的な設定が必要であり、安定的に高い開繊性を示す繊維束を生産性良く得る点から、まだまだ満足できるものではない。
本発明が解決しようとする課題は、ウェブ、およびウェブを用いて得られる製品の物性や性能と、生産性、操業性、コストのバランスに優れた繊維束を供給しようというものである。具体的には、繊維束の幅方向に向けて山部と谷部が形成されている捲縮を有し、かつその捲縮が十分に屈曲した長繊維を含む繊維束を用いることで、梱包、物流、引き上げ工程では繊維密度が高い状態で集束した繊維束が、開繊工程における適度な延伸と緩和により、その捲縮の方向すなわち繊維束の幅方向に安定的に開繊し、均一で風合いに優れたウェブを得るというものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記した課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、繊維束を構成する長繊維の捲縮が、繊維束の幅方向に向けて山部と谷部を形成し、かつ十分に屈曲することで、開繊する前の繊維束の状態では繊維密度が高い状態で集束されているので充填性、ハンドリング性に優れ、続いての開繊工程において適度な延伸と緩和を施すと、その捲縮の方向に起因して隣り合う繊維同士が押し広げ合うので開繊性に優れ、また得られた開繊ウェブは均一で、風合いに優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
従って本発明は以下の構成を有する。
(1)長繊維が一方向に配列してなる繊維束であって、該長繊維が繊維束の幅方向に向けて山部と谷部が形成されている捲縮を有し、かつその捲縮について、同一の長繊維に存在する捲縮のうち隣り合う捲縮の山部と谷部の頂点を結んだ直線の繊維束の長さ方向に対する傾きの絶対値であるところの特性値Aが0.3以上であることを特徴とする繊維束。
(2)繊維束の幅方向に向けて山部と谷部が形成されている特性値Aが0.3以上である捲縮を繊維束の長さ方向に断続的に有することを特徴とする前記(1)記載の繊維束。
(3)繊維束の幅方向に向けて形成されている捲縮の特性値Aが1.0以上である前記(1)または(2)記載の繊維束。
(4)繊維束を構成する繊維の単糸繊度が0.5〜30デシテックス(dtex)である前記(1)〜(3)の何れかに記載の繊維束。
(5)繊維束の全繊度が0.5万〜200万デシテックス(dtex)である前記(1)〜(4)何れかに記載の繊維束。
(6)繊維束を構成する繊維が、ポリオレフィン系繊維、ポリエステル系繊維およびポリアミド系繊維から選ばれた少なくとも1種の熱可塑性繊維である前記(1)〜(5)の何れかに記載の繊維束。
(7)繊維束を構成する繊維が、融点差15℃以上を有する少なくとも2成分の熱可塑性樹脂を含む複合繊維である前記(1)〜(6)の何れかに記載の繊維束。
【発明の効果】
【0009】
本発明の繊維束は、それを構成する長繊維が、繊維束の幅方向に向けて山部と谷部を形成している捲縮を有し、該捲縮が十分に屈曲していることから、開繊する前は繊維密度が高い状態で集束されているので充填性、ハンドリング性に優れている。
また、本発明の上記特徴を有する繊維束は、開繊工程において適度な延伸と緩和を施すと、その捲縮の方向に起因して隣り合う繊維同士が押し広げ合うので、安定して開繊性に優れている。さらに、本発明の繊維束から得られた開繊ウェブは、均一で、風合いに優れているので、吸収体物品の表面層やワイピング部材、フィルターなどに好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を発明の実施の形態に則して詳細に説明する。
本発明の繊維束は長繊維が一方向に配列してなる繊維束である。繊維束を構成する長繊維は、特に限定されるものではなく、天然繊維であっても、半合成繊維であっても、合成繊維であっても何ら問題ないが、開繊後のウェブにヒートシールなどの熱接着性を付与できるという点からは、合成繊維のうち熱可塑性樹脂を含む熱可塑性繊維であることが好ましい。該熱可塑性繊維は、ポリエチレン、ポリプロピレン、プロピレンを主体とする他のαオレフィンとの2〜4元共重合体、ポリメチルペンテンなどのポリオレフィン類、ナイロン−6、ナイロン−66などに代表されるポリアミド類、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、酸成分としてイソフタル酸等を共重合した低融点ポリエステル、ポリエステルエラストマーなどに代表されるポリエステル類、フッ素系樹脂、等々を溶融紡糸したものである。また、環境負荷を抑制する点から、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペートテレフタレート等の生分解性樹脂を溶融紡糸した熱可塑性繊維も好適に使用される。また、繊維束を開繊して得られるウェブの風合いが向上する点から、スチレン−エチレンブチレン−スチレンブロック共重合体に代表されるスチレン系エラストマーやオレフィン系エラストマー、エステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー等のエラストマー樹脂も好適に使用される。
【0011】
さらに言えば、繊維束を開繊して得られたウェブを熱接着したシートの風合いが向上する点から、融点差がある熱可塑性樹脂成分を複合化した熱可塑性複合繊維が好適である。そのような融点差がある熱可塑性樹脂成分の組み合わせの例として、例えば高密度ポリエチレン/ポリプロピレン、高密度ポリエチレン/ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン/ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸/ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート/ポリエチレンテレフタレート、ナイロン−6/ポリエチレンテレフタレート、高密度ポリエチレン/ナイロン−66、ポリプロピレン/ナイロン−66、高密度ポリエチレン/ポリメチルペンテン等の組み合わせを挙げることが出来る。その融点差は20℃以上であることが好ましく、50℃以上であることが更に好ましい。熱接着は低融点成分が軟化または溶融し、高融点成分が溶融しない温度で行うが、融点差が20℃以上であれば、高融点成分の融点よりも十分に低い温度で熱処理が可能となる為、高融点成分の著しい熱収縮を伴うことなく、熱接着できるので好ましい。また融点差が50℃以上であれば、低融点成分の融点よりも十分に高い温度に熱接着温度を設定できるので、例えばヒートシール時間の短縮につながり、生産性が向上するのでより好ましい。
【0012】
該熱可塑性複合繊維の高融点成分の質量比は、10〜90質量%、好ましくは30〜70質量%である。高融点成分が10質量%以上であれば、ヒートシールなどの熱接着時に該熱可塑性複合繊維が過度に収縮することなく接着できるので好ましい。また高融点成分が90質量%以下であれば、満足できる熱接着強力が得られるので好ましい。高融点成分が10〜90質量%の範囲であれば、熱接着時の形態保持性と接着強力のバランスに優れ、高融点成分が30〜70質量%の範囲であれば、更にバランスに優れる。複合成分の数は特に制限されるものではなく、2成分の複合繊維であっても3成分以上の複合繊維であっても何ら問題ない。また、前述の熱可塑性樹脂は単独で、もしくは2種類以上を混合して用いてもよい。また、本発明の特徴である優れた開繊性を有する繊維束を得るという観点からは、クリンパー工程において膠着を生じにくく、開繊工程において十分な開繊性を示す樹脂構成が好適であり、このような組み合わせとしては、高密度ポリエチレン/ポリプロピレン、高密度ポリエチレン/ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン/ポリエチレンテレフタレートなどが例示できる。
【0013】
本発明の繊維束を構成する長繊維には、本発明の効果を妨げない範囲で、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、造核剤、エポキシ安定剤、滑剤、抗菌剤、消臭剤、難燃剤、帯電防止剤、顔料、可塑剤、及び他の熱可塑性樹脂などが添加剤として含まれてもよい。
【0014】
本発明の繊維束は、1種類の長繊維により構成されていてもよく、又は2種類以上の長繊維により構成されていてもよい。2種類以上の長繊維で構成されている場合、その混合の形態は特に限定されるものではなく、ランダムに混合されていてもよく、繊維束の幅方向に並列に混合されていてもよく、繊維束の厚み方向に積層するように混合されていてもよい。異なる種類の長繊維としては、繊維素材、断面形状、単糸繊度、単糸伸度、捲縮数、捲縮形状、捲縮方向、添加剤が異なるものなどが例示できる。
【0015】
繊維素材が異なる2種類以上の長繊維の組み合わせとして、ポリオレフィン、ポリエステル、及び、ポリアミドからなる群から選ばれた、少なくとも2種からなる繊維の組み合わせが例示できる。具体的にはポリエチレン/レーヨン、ナイロン/ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン/ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンサクシネート/ポリ乳酸等が例示できる。
断面形状が異なる2種類以上の長繊維の組み合わせとして、中実/中空、円形/三角形、星型/扁平等が例示できる。
単糸繊度が異なる2種類以上の長繊維の組み合わせとして、細繊度/太繊度等が例示できる。単糸伸度が異なる2種類以上の長繊維の組み合わせとして、低伸度繊維/高伸度繊維、弾性繊維/塑性繊維等が例示できる。
【0016】
捲縮数が異なる2種類以上の長繊維の組み合わせとして、捲縮数が多い長繊維/捲縮数が少ない長繊維等の組み合わせが例示できる。
捲縮形状が異なる2種類以上の長繊維の組み合わせとして、Ω型捲縮/ジグザグ捲縮または、スパイラルクリンプ/ジグザグ捲縮等の組み合わせが例示できる。捲縮方向が異なる2種類以上の長繊維の組み合わせとして、繊維束の幅方向に捲縮が形成されている長繊維/繊維束の厚み方向に捲縮が形成されている長繊維等の組み合わせが例示できる。
添加剤が異なる2種類以上の長繊維の組み合わせとして、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、造核剤、エポキシ安定剤、滑剤、抗菌剤、消臭剤、難燃剤、帯電防止剤、顔料、可塑剤、及び添加剤としての他の熱可塑性樹脂が異なる長繊維等が例示できる。
【0017】
本発明の繊維束は、捲縮を有する長繊維から構成され、該長繊維が繊維束の幅方向に向けて山/谷部が形成されている捲縮を有し、かつその捲縮について、同一の長繊維に存在する捲縮のうち隣り合う捲縮の山部と谷部の頂点を結んだ直線の繊維束の長さ方向に対する傾きの絶対値であるところの特性値Aが0.3以上であることを特徴とする。この特性値Aは、より具体的には、繊維束中にある長繊維の捲縮が繊維束の幅方向に向けて山/谷部が形成されている任意の50点を選び、各捲縮について、図1に示すように、同一の長繊維に存在する、隣り合う山部と谷部の頂点を結んだ直線(l)の繊維束の長さ方向に対する傾きの絶対値を求め、50点の絶対値の平均値として定義される。
さらに詳しくは、上記繊維束中の各点の捲縮における該絶対値は、図1に示す(Y)の(X)に対する比(Y/X)の絶対値であり、本発明の繊維束は、上記50点の該絶対値の平均値(すなわち特性値A)が0.3以上であり、より好ましくは1.0以上、さらに好ましくは1.6以上である。
上記の特性値Aが0.3以上であることで、開繊工程において適度な延伸と緩和を施すと、隣り合う繊維同士が押し広げ合い、幅方向に十分に開繊され、また得られた開繊ウェブは均一で、風合いに優れる。1.0以上であればより効果的であるので好ましく、1.6以上であれば更に好ましい。また、特性値Aが0.3以上であれば、捲縮は繊維束の長さ方向に連続的に存在しても良いし、断続的に存在しても良い。
【0018】
本発明において、繊維束の幅方向に向けて山/谷部が形成されている捲縮を有する繊維とは、図2に示す繊維束表面Sに対する直線(l)(図1参照)の傾き(α)が45度以下の繊維を言う。αが45度以下であれば、本発明の特徴である捲縮の方向に起因する、隣り合う繊維同士の押し広げ合い効果を効率よく得られやすいので開繊性に優れ、得られた開繊ウェブは均一で、風合いに優れることから好ましく、αが30度以下であれば、より効果が得られる点から好ましい。
なお、繊維束における長さ方向、幅方向、厚み方向及び表面Sは慣習的に特定される。すなわち、仮にxyzの座標軸中に繊維束をおいた場合、x軸を繊維束の長さ方向とし、y軸を繊維束の幅方向とした時、z軸は繊維束の厚み方向になる。このうちy軸とz軸方向は捲縮付与加工機の幅と高さで規定されており、一般的にy>zの長さとなる。この時、表面Sとはx-y平面にある繊維束の表面と特定される。
【0019】
本発明の繊維束は、捲縮の山/谷部が幅方向に向いている長繊維のみからなっても良いし、あるいは、捲縮の山/谷部が幅方向に向いている長繊維と捲縮の山/谷部が厚み方向に向いている長繊維とが混在していても良い。
さらに言えば、繊維束の長さ方向における任意の断面において、厚み方向に向けて山/谷部を形成している捲縮と、幅方向に向けて山/谷部を形成している捲縮が混在していても良い。
繊維束の幅方向に向けて山/谷部を形成している捲縮は、繊維束全体の捲縮の数に対して35%以上混在していることが好ましく、55%以上混在していることがより好ましい。このように繊維束の幅方向に向けて山/谷部を形成している捲縮の、繊維束における割合は、長さ方向の任意の点の繊維束断面において、捲縮の方向となるα値(図2に示す繊維束表面Sに対する直線(l)の傾き(度))を調べることで、判断することができる。
【0020】
繊維束の幅方向に向けて山/谷部が形成されている任意の長繊維における捲縮数は、8〜30山/2.54cm、好ましくは10〜20山/2.54cm、より好ましくは12〜18山/2.54cmである。捲縮数が8山/2.54cmよりも多い場合には、繊維束の集束性が良く、梱包容器への充填性が確保され、繊維束を梱包容器から引き上げる際にもスムーズで、繊維間の割れ、解れによる問題が低減され、開繊工程が安定化する点から好ましい。また、捲縮数が30山/2.54cmよりも少ない場合には、長繊維同士の絡まりや高密度化が抑制され、やはり開繊工程が安定化する点から好ましい。さらに言えば、30山/2.54cm以下の捲縮であれば、捲縮を付与しようとする場合、クリンパー工程において繊維束に過度の圧力を加える必要が無く、捲縮の均一性が確保され、繊維同士の膠着が生じたりする恐れが減少する点からも好ましい。
【0021】
捲縮付与方法については、特に規定されないが、例えば、(1)実質的に無捲縮の状態の繊維に、捲縮処理によって、繊維束の幅方向に向けて山/谷部を形成する捲縮を発現させる方法、(2)予め、実質的に繊維の厚み方向に向けて山/谷部を形成する捲縮を付与させた後、繊維束の厚み方向に向かう捲縮を、繊維束の幅方向に向かうこととなるようにする方法などを挙げることができる。
上記(1)における捲縮の付与方法としては、例えば、スタッファーボックス型の捲縮機のような装置であれば、捲縮付与装置の流路へ繊維束を安定的に進入せしめる為に、繊維束を捲縮付与装置の前部に付帯している近接するロール間を通過させた後、繊維束の幅方向から一定の圧力を与えながら捲縮装置から繊維束を排出させることで発現することができる。“一定の圧力”とは特に規定はされないが、好ましくは0.01〜1.00MPaの範囲である。更に好ましくは、繊維束における繊維同士の膠着を抑えて、安定して高速に繊維束を捲縮付与装置の流路に導入するためには近接ロール間を通過する時に付与される圧力は0.08〜0.20MPaである。
一方、上記(2)における捲縮の付与方法としては限定されるものではないが、例えば、一般的なスタッファーボックス型の捲縮機のような装置から排出された、厚み方向に山/谷部を形成する捲縮を有する繊維から成る繊維束を、繊維束の幅方向もしくは斜め方向から応力を加える工程を設けることで、繊維束の厚み方向に山/谷部を形成する捲縮を、繊維束の幅方向に山/谷部を有する捲縮に変化させることができる。応力を加える工程としては限定されるものではないが、ニップロールのものやスタッファーボックスにおけるボックス圧力などを用いることができる。
【0022】
本発明の繊維束を構成する長繊維は、強度が1.0cN/dtex以上であることが好ましく、より好ましくは1.3cN/dtex以上である。強度が1.0cN/dtex以上であることで、繊維の捲縮弾性が向上し、開繊工程において適度な延伸と緩和を施すと、本発明の特徴である隣り合う繊維同士が押し広げ合う効果を効率よく得られやすいので開繊性に優れ、得られた開繊ウェブは均一で、風合いに優れることから好ましく、1.3cN/dtex以上であればより効果を効率よく得られるので好ましい。
【0023】
本発明の繊維束を構成する長繊維の単糸繊度は好ましくは0.5〜100dtex、より好ましくは1.0〜70dtex、さらにより好ましくは2.0〜30dtexの範囲である。単糸繊度が0.5dtexよりも大きいことで、繊維一本が持つ繊維強度が高くなり、開繊時に単糸切れや毛羽立ちが抑制され、高い生産性で開繊を行うことができる点から好ましい。また、単糸繊度が100dtexよりも小さいことで繊維束の集束性が確保され、繊維束引き上げ時のもつれや、開繊性の低下を防ぐことが出来る点から好ましい。単糸繊度が0.5〜100dtexの範囲であれば、満足できるレベルの繊維強度、繊維束の集束性、開繊性が得られ、1.0〜70dtexの範囲であればより高いレベルの、2.0〜30dtexの範囲であれば更に高いレベルの繊維強度、繊維束の集束性、開繊性が得られる。
【0024】
本発明の繊維束は、全繊度が好ましくは0.5万〜200万dtex、より好ましくは2万〜100万、さらにより好ましくは4万〜50万dtexである。全繊度が0.5万dtexよりも大きい場合には、繊維束を構成する長繊維の本数が十分多くなるので、集束性が向上したり、開繊した際の均一性が確保されたりする点から、好ましい。また、全繊度が200万dtexよりも小さい場合には、繊維束の捩れや縺れ、絡まりを抑制する点から好ましい。全繊度が0.5万〜200万dtexの範囲であれば、前述の問題を生じることなく安定した加工を行うことができ、2万〜100万dtex、より好ましくは4万〜50万dtexの範囲であれば、更に加工速度を高速にできるので望ましい。
【0025】
本発明の繊維束を構成する長繊維の繊維断面形状については特に限定されるものではなく、円形であっても、異型であっても、中空であっても何ら問題ない。例えば紡糸口金の形状を適宜選択することで、様々な断面形状とすることができる。
また、繊維束を構成する長繊維が複合繊維の場合、鞘芯型であっても、偏心型であっても、並列型であっても、海島型であっても、多成分分割型であっても良い。
【0026】
本発明の繊維束を開繊する方法は特に限定されるものではない。繊維束を開繊する方法として、例えば、速度差のあるピンチロール間において繊維束に張力を与えた後に弾性的に収縮させ、捲縮に伸びと縮みを与えて開繊する方法、1対のピンチコック間に繊維束を保持させ、機械的に繊維束に伸びと縮みを与えて開繊する方法などが例示できる。
これらの中では、繊維束を構成する長繊維に適度な延伸を施しながら生産性良く開繊できるという観点から、速度差のある3本のピンチロールを用いて開繊する方法が特に好ましい。この時の1本目のピンチロール速度に対する2本目のピンチロールの速度は特に限定されるものではなく、1.2〜3.0倍の範囲であると本発明の繊維束を生産性よく開繊でき、また、2本目のピンチロール速度に対する3本目のピンチロールの速度も、特に限定されるものではないが、0.8〜0.9倍の範囲であると本発明の繊維束を開繊して得られたウェブが均一で、風合いに優れる点から好ましい。
【0027】
本発明の繊維束を開繊して得られた均一で風合いに優れたウェブを加工することで、地合に優れ、風合いの良い不織布を得ることが出来る。
ウェブを不織布に加工する手段として、スパンレース法、レジンボンド法が例示される。また、熱可塑性繊維を含むウェブであれば、ポイントボンド法、エアースルー法等も例示される。特に、本発明の繊維束を開繊して得られた均一で風合いに優れたウェブの特性を生かす点から、エアースルー法が好適に用いられる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はそれらによって限定されるものではない。なお、実施例中に示した物性値の測定方法又は定義を以下に示す。
尚、(1)〜(8)は得られた繊維束に関する評価・測定法であり、(9)、(10)は得られた繊維束を開繊工程にて開繊して得られたウェブ状物に関する評価方法である。
(1)単糸繊度
JIS−L−1015に準じて測定した。
(2)単糸強度
JIS−L−1015に準じて測定した。
(3)全繊度
繊維束を構成する長繊維の構成本数と単糸繊度から算出した。
(4)捲縮数
捲縮を付与した長繊維についてJIS−L−1015に準じて測定した。
【0029】
(5)捲縮方向
繊維束の任意の断面を顕微鏡等で撮影し、捲縮の方向となるα値(度)(図2参照)を評価した。繊維束の幅方向に向けて山/谷部を形成している捲縮が、すなわちα値が45度以下である捲縮が、該断面中に見える捲縮の数の55%以上である場合を「横」、35%以上55%未満である場合を「縦/横」、35%未満である場合を「縦」とした。
(6)特性値A
顕微鏡等で繊維束中の任意の50点を撮影し、同一の長繊維に存在する捲縮のうち隣り合う捲縮の山部と谷部の頂点を結んだ直線の繊維束の長さ方向に対する傾きの絶対値の平均値。
【0030】
(7)繊維束の集束性
繊維束1mについて繊維束の割れの状態と箇所を観察した。判定基準は、繊維束の割れが生じて完全に分離している箇所が0〜2の場合には良好、3以上の場合には不良とした。
(8)引き上げ性
50cm×50cm×50cmの梱包容器に繊維束を振り込み、10kg、5分間の条件で荷重した後に除重した。この繊維束を15m/minの速度で上方に垂直に引き上げ、この際の繊維束同士の縺れや絡まりの発生具合を観察した。5分間に発生した不具合の回数が0〜2回の場合には良好、3回以上の場合には不良と判定した。
【0031】
(9)繊維束の開繊性
本発明の繊維束の開繊性を示す指標として、下記のように規定する開繊係数を用いた。
開繊係数(K)=B/A
A:開繊処理前の繊維束の幅(単位mm)
B:繊維束をピンチロ−ル形の開繊機を用いて、ライン終速度25m/min、倍率1.4倍で延伸開繊した後、その延伸張力を開放することで繊維束を開繊し得たウェブの幅(単位mm)。
(10)ウェブの均一性
繊維束をピンチロ−ル形の開繊機を用いて、ライン終速度25m/min、倍率1.4倍で延伸開繊した後、その延伸張力を開放することで繊維束を開繊し得たウェブの厚み均一性および未開繊繊維束の有無を◎、○、△、×の4段階で評価した。
【0032】
〔実施例1〕
高密度ポリエチレンとポリエチレンテレフタレートを質量比50:50で複合して、鞘芯ノズルを用いて溶融紡糸し、10.8dtexの未延伸糸を得た。この未延伸糸3.1万本を束ね、これを90℃に加温された熱ロール延伸機にて3.6倍に延伸し、次いで幅方向に山/谷部を有する捲縮が35%以上含有することが可能となる、幅方向から応力を加えることが可能な20mm幅のクリンパーで15.3山/2.54cmの捲縮を付与した後に110℃で乾燥熱処理を行い、単糸繊度3.5dtex、全繊度10.7万dtexの繊維束を得た。
この繊維束の捲縮は、主に繊維束の幅方向に向けて山/谷部を形成しており、特性値Aは1.99であり、集束性、引き上げ性ともに良好であった。これを25m/minにて1.4倍で開繊したところ、長繊維が幅方向に均一に拡がり、未開繊繊維束も無く、風合いに優れたウェブを形成した。開繊係数は10.5であった。
【0033】
〔実施例2〕
高密度ポリエチレンとポリプロピレンを質量比50:50で複合して、鞘芯ノズルを用いて溶融紡糸し、10.8dtexの未延伸糸を得た。この未延伸糸2.4万本を束ね、これを90℃に加温された熱ロール延伸機にて4.0倍に延伸し、次いで実施例1と同様のクリンパーで15.3山/2.54cmの捲縮を付与した後に110℃で乾燥熱処理を行い、単糸繊度2.8dtex、全繊度7.0万dtexの繊維束を得た。
この繊維束の捲縮は、繊維束の幅方向および厚み方向に向けて山/谷部を形成しており、特性値Aは1.61であり、集束性、引き上げ性ともに良好であった。これを25m/minにて1.4倍で開繊したところ、長繊維が幅方向に均一に拡がり、未開繊繊維束も無く、風合いに優れたウェブを形成した。開繊係数は8.4であった。
【0034】
〔実施例3〕
高密度ポリエチレンとポリエチレンテレフタレートを質量比50:50で複合して、鞘芯ノズルを用いて溶融紡糸し、10.8dtexの未延伸糸を得た。この未延伸糸2.5万本を束ね、これを90℃に加温された熱ロール延伸機にて3.6倍に延伸し、次いで実施例1と同様のクリンパーで15.3山/2.54cmの捲縮を付与した後に110℃で乾燥熱処理を行い、単糸繊度3.6dtex、全繊度8.9万dtexの繊維束を得た。
この繊維束の捲縮は、主に繊維束の幅方向に向けて山/谷部を形成しており、特性値Aは2.17であり、集束性、引き上げ性ともに良好であった。これを25m/minにて1.4倍で開繊したところ、長繊維が幅方向に均一に拡がり、未開繊繊維束も無く、風合いに優れたウェブを形成した。開繊係数は8.7であった。
【0035】
〔実施例4〕
高密度ポリエチレンとポリエチレンテレフタレートを質量比40:60で複合して、鞘芯ノズルを用いて溶融紡糸し、8.6dtexの未延伸糸を得た。この未延伸糸2.5万本を束ね、これを90℃に加温された熱ロール延伸機にて2.9倍に延伸し、次いで実施例1と同様のクリンパーで14.8山/2.54cmの捲縮を付与した後に110℃で乾燥熱処理を行い、単糸繊度3.3dtex、全繊度8.3万dtexの繊維束を得た。
この繊維束の捲縮は、主に繊維束の幅方向に向けて山/谷部を形成しており、特性値Aは1.25であり、集束性、引き上げ性ともに良好であった。これを25m/minにて1.4倍で開繊したところ、長繊維が幅方向に均一に拡がり、実施例1〜3には及ばないものの風合いに優れたウェブを形成した。開繊係数は6.1であった。
【0036】
〔実施例5〕
高密度ポリエチレンとポリエチレンテレフタレートを質量比50:50で複合して、鞘芯ノズルを用いて溶融紡糸し、35.2dtexの未延伸糸を得た。この未延伸糸2.2万本を束ね、これを95℃に加温された熱ロール延伸機にて4.0倍に延伸し、次いで幅方向に山/谷部有する捲縮が35%以上含有することが可能となる、幅方向から応力を加えることが可能な35mm幅のクリンパーで15.5山/2.54cmの捲縮を付与した後に110℃で乾燥熱処理を行い、単糸繊度10.0dtex、全繊度22.4万dtexの繊維束を得た。
この繊維束の捲縮は、主に繊維束の幅方向に向けて山/谷部を形成しており、特性値Aは1.64であり、集束性、引き上げ性ともに良好であった。これを25m/minにて1.4倍で開繊したところ、長繊維が幅方向に均一に拡がり、実施例1〜3には及ばないものの、実施例4程度の風合いに優れたウェブを形成した。開繊係数は8.0であった。
【0037】
〔実施例6〕
高密度ポリエチレンとポリエチレンテレフタレートを質量比50:50で複合して、鞘芯ノズルを用いて溶融紡糸し、7.4dtexの未延伸糸を得た。この未延伸糸3.2万本を束ね、これを90℃に加温された熱ロール延伸機にて2.9倍に延伸し、次いで幅方向に山/谷部有する捲縮が35%以上含有することが可能となる、幅方向から応力を加えることが可能な20mm幅のクリンパーで14.5山/2.54cmの捲縮を付与した後に110℃で乾燥熱処理を行い、単糸繊度2.9dtex、全繊度9.4万dtexの繊維束を得た。この繊維束の捲縮は、主に繊維束の幅方向に向けて山/谷部を形成しており、特性値Aは0.58であり、集束性は実施例1〜5に比べ劣るものの、引き上げ性は良好であった。これを25m/minにて1.4倍で開繊したところ、若干の未開繊繊維束はあるものの、使用に耐える程度には幅方向に均一に拡がり、実施例1〜5には及ばないものの風合いに優れたウェブを形成した。開繊係数は3.6であった。
【0038】
〔比較例1〕
実施例1と同様にして未延伸糸を得た。これを、繊維束の厚み方向に加え幅方向に向かっても圧力を加えるプレートを有していない20mm幅のクリンパーを使用して捲縮を付与する以外は実施例1と同様に延伸し、単糸繊度3.5dtex、捲縮数14.3山/2.54cm、全繊度10.7万dtexの繊維束を得た。
この繊維束の捲縮は、主に繊維束の厚み方向に向けて山/谷部を形成しており、特性値Aは0.17であり、集束性が著しく低く、引き上げ不良が多発した。これを25m/minにて1.4倍で開繊したところ、幅方向にほとんど拡がらず、未開繊繊維束が多く、使用に耐えうる風合いのウェブは得られなかった。この時の開繊係数は1.8であった。
【0039】
〔比較例2〕
実施例3と同様にして未延伸糸を得た。これを実施例3と同様に延伸し、単糸繊度3.6dtex、捲縮数15.0山/2.54cm、全繊度8.9万dtexの繊維束を得た。しかしながら、高速クリンパーで捲縮を付与する際に、繊維束の幅方向に十分な圧力を加えなかったために、この繊維束の捲縮は、主に繊維束の幅方向に向けて山/谷部を形成しているものの、特性値Aは0.25と低く、本発明の所望の効果を得ることが出来なった。特性値Aは0.25であり、集束性が低く、引き上げ不良が発生した。これを25m/minにて1.4倍で開繊したところ、幅方向に若干拡がるものの、未開繊繊維束が多く、使用に耐えうるウェブは得られなかった。この時の開繊係数は2.4であった。
【0040】
上記実施例1〜6並びに比較例1及び2で得られた結果を、以下の表1〜2に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の繊維束の特性値Aを説明する図である。
【図2】本発明の繊維束を表す概略図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な集束性と開繊性を有する繊維束に関する。更に詳しくは、高速度の開繊性に優れ、開繊後のウェブが均一で風合いに優れた不織布に加工できる繊維束に関する。本発明の繊維束は、それ単独で、または他の部材例えば、不織布や、フィルム、パルプ等と積層、混合等をし、各種包装材、傷当て材、包帯、ハップ材、クッション材、断熱材等に使用される。
【背景技術】
【0002】
生理用ナプキンなどの吸収性物品の表面層や、掃除用モップやワイパーのワイピング部などに、例えばPE/PP、PE/PET、PP/PETなどの熱可塑性複合繊維が使用されている。そして、この熱可塑性複合繊維として連続した繊維束を開繊したウェブを用いる場合がある。
【0003】
連続した繊維束は、捲縮が付与された連続繊維同士が、お互いに密着するように集束しており、繊維密度が高い状態で存在する。これを前記表面層や、前記ワイピング部などに加工する際には、その製造工程において、繊維束を構成する連続繊維を幅方向にお互いに分離させて、見かけ幅を広げる工程、すなわち開繊工程を経る。この開繊工程を経ることで、連続繊維同士が集束した、繊維密度が高い状態である繊維束から、連続繊維同士が解れた、繊維密度が低い状態であるウェブを得ることができる。そうして得られた幅方向にほぼ均一な厚みと風合いを有するウェブから、前記表面層や、前記ワイピング部などが製造される。
【0004】
繊維束を開繊して均一なウェブを得るために、種々の方策が採られている。例えば特許文献1には、顕在捲縮および/または潜在捲縮を有する、単糸繊度0.5〜100デニール、全繊度1万〜30万デニール、顕在捲縮数が10〜50山/25mmである繊維束は、延伸開繊時の開繊幅が適当な範囲にあり、高速度で均一に開繊でき、風合いに優れたウェブを高い生産性で得られることが記載されている。しかし、より安定的に高い開繊性を示す繊維束が求められていた。
【0005】
【特許文献1】特開平9−273037号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、均一で風合いに優れたウェブを高い生産性で得るためには、高い開繊性を示す繊維束が不可欠であることが知られており、繊維束の構成樹脂の選定、紡糸、延伸、捲縮付与条件の設定等を試行錯誤的に設定することで、該繊維束が得られている。しかし、所望の高い開繊性を有する繊維束を得るためには、試行錯誤的な設定が必要であり、安定的に高い開繊性を示す繊維束を生産性良く得る点から、まだまだ満足できるものではない。
本発明が解決しようとする課題は、ウェブ、およびウェブを用いて得られる製品の物性や性能と、生産性、操業性、コストのバランスに優れた繊維束を供給しようというものである。具体的には、繊維束の幅方向に向けて山部と谷部が形成されている捲縮を有し、かつその捲縮が十分に屈曲した長繊維を含む繊維束を用いることで、梱包、物流、引き上げ工程では繊維密度が高い状態で集束した繊維束が、開繊工程における適度な延伸と緩和により、その捲縮の方向すなわち繊維束の幅方向に安定的に開繊し、均一で風合いに優れたウェブを得るというものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記した課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、繊維束を構成する長繊維の捲縮が、繊維束の幅方向に向けて山部と谷部を形成し、かつ十分に屈曲することで、開繊する前の繊維束の状態では繊維密度が高い状態で集束されているので充填性、ハンドリング性に優れ、続いての開繊工程において適度な延伸と緩和を施すと、その捲縮の方向に起因して隣り合う繊維同士が押し広げ合うので開繊性に優れ、また得られた開繊ウェブは均一で、風合いに優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
従って本発明は以下の構成を有する。
(1)長繊維が一方向に配列してなる繊維束であって、該長繊維が繊維束の幅方向に向けて山部と谷部が形成されている捲縮を有し、かつその捲縮について、同一の長繊維に存在する捲縮のうち隣り合う捲縮の山部と谷部の頂点を結んだ直線の繊維束の長さ方向に対する傾きの絶対値であるところの特性値Aが0.3以上であることを特徴とする繊維束。
(2)繊維束の幅方向に向けて山部と谷部が形成されている特性値Aが0.3以上である捲縮を繊維束の長さ方向に断続的に有することを特徴とする前記(1)記載の繊維束。
(3)繊維束の幅方向に向けて形成されている捲縮の特性値Aが1.0以上である前記(1)または(2)記載の繊維束。
(4)繊維束を構成する繊維の単糸繊度が0.5〜30デシテックス(dtex)である前記(1)〜(3)の何れかに記載の繊維束。
(5)繊維束の全繊度が0.5万〜200万デシテックス(dtex)である前記(1)〜(4)何れかに記載の繊維束。
(6)繊維束を構成する繊維が、ポリオレフィン系繊維、ポリエステル系繊維およびポリアミド系繊維から選ばれた少なくとも1種の熱可塑性繊維である前記(1)〜(5)の何れかに記載の繊維束。
(7)繊維束を構成する繊維が、融点差15℃以上を有する少なくとも2成分の熱可塑性樹脂を含む複合繊維である前記(1)〜(6)の何れかに記載の繊維束。
【発明の効果】
【0009】
本発明の繊維束は、それを構成する長繊維が、繊維束の幅方向に向けて山部と谷部を形成している捲縮を有し、該捲縮が十分に屈曲していることから、開繊する前は繊維密度が高い状態で集束されているので充填性、ハンドリング性に優れている。
また、本発明の上記特徴を有する繊維束は、開繊工程において適度な延伸と緩和を施すと、その捲縮の方向に起因して隣り合う繊維同士が押し広げ合うので、安定して開繊性に優れている。さらに、本発明の繊維束から得られた開繊ウェブは、均一で、風合いに優れているので、吸収体物品の表面層やワイピング部材、フィルターなどに好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を発明の実施の形態に則して詳細に説明する。
本発明の繊維束は長繊維が一方向に配列してなる繊維束である。繊維束を構成する長繊維は、特に限定されるものではなく、天然繊維であっても、半合成繊維であっても、合成繊維であっても何ら問題ないが、開繊後のウェブにヒートシールなどの熱接着性を付与できるという点からは、合成繊維のうち熱可塑性樹脂を含む熱可塑性繊維であることが好ましい。該熱可塑性繊維は、ポリエチレン、ポリプロピレン、プロピレンを主体とする他のαオレフィンとの2〜4元共重合体、ポリメチルペンテンなどのポリオレフィン類、ナイロン−6、ナイロン−66などに代表されるポリアミド類、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、酸成分としてイソフタル酸等を共重合した低融点ポリエステル、ポリエステルエラストマーなどに代表されるポリエステル類、フッ素系樹脂、等々を溶融紡糸したものである。また、環境負荷を抑制する点から、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペートテレフタレート等の生分解性樹脂を溶融紡糸した熱可塑性繊維も好適に使用される。また、繊維束を開繊して得られるウェブの風合いが向上する点から、スチレン−エチレンブチレン−スチレンブロック共重合体に代表されるスチレン系エラストマーやオレフィン系エラストマー、エステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー等のエラストマー樹脂も好適に使用される。
【0011】
さらに言えば、繊維束を開繊して得られたウェブを熱接着したシートの風合いが向上する点から、融点差がある熱可塑性樹脂成分を複合化した熱可塑性複合繊維が好適である。そのような融点差がある熱可塑性樹脂成分の組み合わせの例として、例えば高密度ポリエチレン/ポリプロピレン、高密度ポリエチレン/ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン/ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸/ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート/ポリエチレンテレフタレート、ナイロン−6/ポリエチレンテレフタレート、高密度ポリエチレン/ナイロン−66、ポリプロピレン/ナイロン−66、高密度ポリエチレン/ポリメチルペンテン等の組み合わせを挙げることが出来る。その融点差は20℃以上であることが好ましく、50℃以上であることが更に好ましい。熱接着は低融点成分が軟化または溶融し、高融点成分が溶融しない温度で行うが、融点差が20℃以上であれば、高融点成分の融点よりも十分に低い温度で熱処理が可能となる為、高融点成分の著しい熱収縮を伴うことなく、熱接着できるので好ましい。また融点差が50℃以上であれば、低融点成分の融点よりも十分に高い温度に熱接着温度を設定できるので、例えばヒートシール時間の短縮につながり、生産性が向上するのでより好ましい。
【0012】
該熱可塑性複合繊維の高融点成分の質量比は、10〜90質量%、好ましくは30〜70質量%である。高融点成分が10質量%以上であれば、ヒートシールなどの熱接着時に該熱可塑性複合繊維が過度に収縮することなく接着できるので好ましい。また高融点成分が90質量%以下であれば、満足できる熱接着強力が得られるので好ましい。高融点成分が10〜90質量%の範囲であれば、熱接着時の形態保持性と接着強力のバランスに優れ、高融点成分が30〜70質量%の範囲であれば、更にバランスに優れる。複合成分の数は特に制限されるものではなく、2成分の複合繊維であっても3成分以上の複合繊維であっても何ら問題ない。また、前述の熱可塑性樹脂は単独で、もしくは2種類以上を混合して用いてもよい。また、本発明の特徴である優れた開繊性を有する繊維束を得るという観点からは、クリンパー工程において膠着を生じにくく、開繊工程において十分な開繊性を示す樹脂構成が好適であり、このような組み合わせとしては、高密度ポリエチレン/ポリプロピレン、高密度ポリエチレン/ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン/ポリエチレンテレフタレートなどが例示できる。
【0013】
本発明の繊維束を構成する長繊維には、本発明の効果を妨げない範囲で、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、造核剤、エポキシ安定剤、滑剤、抗菌剤、消臭剤、難燃剤、帯電防止剤、顔料、可塑剤、及び他の熱可塑性樹脂などが添加剤として含まれてもよい。
【0014】
本発明の繊維束は、1種類の長繊維により構成されていてもよく、又は2種類以上の長繊維により構成されていてもよい。2種類以上の長繊維で構成されている場合、その混合の形態は特に限定されるものではなく、ランダムに混合されていてもよく、繊維束の幅方向に並列に混合されていてもよく、繊維束の厚み方向に積層するように混合されていてもよい。異なる種類の長繊維としては、繊維素材、断面形状、単糸繊度、単糸伸度、捲縮数、捲縮形状、捲縮方向、添加剤が異なるものなどが例示できる。
【0015】
繊維素材が異なる2種類以上の長繊維の組み合わせとして、ポリオレフィン、ポリエステル、及び、ポリアミドからなる群から選ばれた、少なくとも2種からなる繊維の組み合わせが例示できる。具体的にはポリエチレン/レーヨン、ナイロン/ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン/ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンサクシネート/ポリ乳酸等が例示できる。
断面形状が異なる2種類以上の長繊維の組み合わせとして、中実/中空、円形/三角形、星型/扁平等が例示できる。
単糸繊度が異なる2種類以上の長繊維の組み合わせとして、細繊度/太繊度等が例示できる。単糸伸度が異なる2種類以上の長繊維の組み合わせとして、低伸度繊維/高伸度繊維、弾性繊維/塑性繊維等が例示できる。
【0016】
捲縮数が異なる2種類以上の長繊維の組み合わせとして、捲縮数が多い長繊維/捲縮数が少ない長繊維等の組み合わせが例示できる。
捲縮形状が異なる2種類以上の長繊維の組み合わせとして、Ω型捲縮/ジグザグ捲縮または、スパイラルクリンプ/ジグザグ捲縮等の組み合わせが例示できる。捲縮方向が異なる2種類以上の長繊維の組み合わせとして、繊維束の幅方向に捲縮が形成されている長繊維/繊維束の厚み方向に捲縮が形成されている長繊維等の組み合わせが例示できる。
添加剤が異なる2種類以上の長繊維の組み合わせとして、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、造核剤、エポキシ安定剤、滑剤、抗菌剤、消臭剤、難燃剤、帯電防止剤、顔料、可塑剤、及び添加剤としての他の熱可塑性樹脂が異なる長繊維等が例示できる。
【0017】
本発明の繊維束は、捲縮を有する長繊維から構成され、該長繊維が繊維束の幅方向に向けて山/谷部が形成されている捲縮を有し、かつその捲縮について、同一の長繊維に存在する捲縮のうち隣り合う捲縮の山部と谷部の頂点を結んだ直線の繊維束の長さ方向に対する傾きの絶対値であるところの特性値Aが0.3以上であることを特徴とする。この特性値Aは、より具体的には、繊維束中にある長繊維の捲縮が繊維束の幅方向に向けて山/谷部が形成されている任意の50点を選び、各捲縮について、図1に示すように、同一の長繊維に存在する、隣り合う山部と谷部の頂点を結んだ直線(l)の繊維束の長さ方向に対する傾きの絶対値を求め、50点の絶対値の平均値として定義される。
さらに詳しくは、上記繊維束中の各点の捲縮における該絶対値は、図1に示す(Y)の(X)に対する比(Y/X)の絶対値であり、本発明の繊維束は、上記50点の該絶対値の平均値(すなわち特性値A)が0.3以上であり、より好ましくは1.0以上、さらに好ましくは1.6以上である。
上記の特性値Aが0.3以上であることで、開繊工程において適度な延伸と緩和を施すと、隣り合う繊維同士が押し広げ合い、幅方向に十分に開繊され、また得られた開繊ウェブは均一で、風合いに優れる。1.0以上であればより効果的であるので好ましく、1.6以上であれば更に好ましい。また、特性値Aが0.3以上であれば、捲縮は繊維束の長さ方向に連続的に存在しても良いし、断続的に存在しても良い。
【0018】
本発明において、繊維束の幅方向に向けて山/谷部が形成されている捲縮を有する繊維とは、図2に示す繊維束表面Sに対する直線(l)(図1参照)の傾き(α)が45度以下の繊維を言う。αが45度以下であれば、本発明の特徴である捲縮の方向に起因する、隣り合う繊維同士の押し広げ合い効果を効率よく得られやすいので開繊性に優れ、得られた開繊ウェブは均一で、風合いに優れることから好ましく、αが30度以下であれば、より効果が得られる点から好ましい。
なお、繊維束における長さ方向、幅方向、厚み方向及び表面Sは慣習的に特定される。すなわち、仮にxyzの座標軸中に繊維束をおいた場合、x軸を繊維束の長さ方向とし、y軸を繊維束の幅方向とした時、z軸は繊維束の厚み方向になる。このうちy軸とz軸方向は捲縮付与加工機の幅と高さで規定されており、一般的にy>zの長さとなる。この時、表面Sとはx-y平面にある繊維束の表面と特定される。
【0019】
本発明の繊維束は、捲縮の山/谷部が幅方向に向いている長繊維のみからなっても良いし、あるいは、捲縮の山/谷部が幅方向に向いている長繊維と捲縮の山/谷部が厚み方向に向いている長繊維とが混在していても良い。
さらに言えば、繊維束の長さ方向における任意の断面において、厚み方向に向けて山/谷部を形成している捲縮と、幅方向に向けて山/谷部を形成している捲縮が混在していても良い。
繊維束の幅方向に向けて山/谷部を形成している捲縮は、繊維束全体の捲縮の数に対して35%以上混在していることが好ましく、55%以上混在していることがより好ましい。このように繊維束の幅方向に向けて山/谷部を形成している捲縮の、繊維束における割合は、長さ方向の任意の点の繊維束断面において、捲縮の方向となるα値(図2に示す繊維束表面Sに対する直線(l)の傾き(度))を調べることで、判断することができる。
【0020】
繊維束の幅方向に向けて山/谷部が形成されている任意の長繊維における捲縮数は、8〜30山/2.54cm、好ましくは10〜20山/2.54cm、より好ましくは12〜18山/2.54cmである。捲縮数が8山/2.54cmよりも多い場合には、繊維束の集束性が良く、梱包容器への充填性が確保され、繊維束を梱包容器から引き上げる際にもスムーズで、繊維間の割れ、解れによる問題が低減され、開繊工程が安定化する点から好ましい。また、捲縮数が30山/2.54cmよりも少ない場合には、長繊維同士の絡まりや高密度化が抑制され、やはり開繊工程が安定化する点から好ましい。さらに言えば、30山/2.54cm以下の捲縮であれば、捲縮を付与しようとする場合、クリンパー工程において繊維束に過度の圧力を加える必要が無く、捲縮の均一性が確保され、繊維同士の膠着が生じたりする恐れが減少する点からも好ましい。
【0021】
捲縮付与方法については、特に規定されないが、例えば、(1)実質的に無捲縮の状態の繊維に、捲縮処理によって、繊維束の幅方向に向けて山/谷部を形成する捲縮を発現させる方法、(2)予め、実質的に繊維の厚み方向に向けて山/谷部を形成する捲縮を付与させた後、繊維束の厚み方向に向かう捲縮を、繊維束の幅方向に向かうこととなるようにする方法などを挙げることができる。
上記(1)における捲縮の付与方法としては、例えば、スタッファーボックス型の捲縮機のような装置であれば、捲縮付与装置の流路へ繊維束を安定的に進入せしめる為に、繊維束を捲縮付与装置の前部に付帯している近接するロール間を通過させた後、繊維束の幅方向から一定の圧力を与えながら捲縮装置から繊維束を排出させることで発現することができる。“一定の圧力”とは特に規定はされないが、好ましくは0.01〜1.00MPaの範囲である。更に好ましくは、繊維束における繊維同士の膠着を抑えて、安定して高速に繊維束を捲縮付与装置の流路に導入するためには近接ロール間を通過する時に付与される圧力は0.08〜0.20MPaである。
一方、上記(2)における捲縮の付与方法としては限定されるものではないが、例えば、一般的なスタッファーボックス型の捲縮機のような装置から排出された、厚み方向に山/谷部を形成する捲縮を有する繊維から成る繊維束を、繊維束の幅方向もしくは斜め方向から応力を加える工程を設けることで、繊維束の厚み方向に山/谷部を形成する捲縮を、繊維束の幅方向に山/谷部を有する捲縮に変化させることができる。応力を加える工程としては限定されるものではないが、ニップロールのものやスタッファーボックスにおけるボックス圧力などを用いることができる。
【0022】
本発明の繊維束を構成する長繊維は、強度が1.0cN/dtex以上であることが好ましく、より好ましくは1.3cN/dtex以上である。強度が1.0cN/dtex以上であることで、繊維の捲縮弾性が向上し、開繊工程において適度な延伸と緩和を施すと、本発明の特徴である隣り合う繊維同士が押し広げ合う効果を効率よく得られやすいので開繊性に優れ、得られた開繊ウェブは均一で、風合いに優れることから好ましく、1.3cN/dtex以上であればより効果を効率よく得られるので好ましい。
【0023】
本発明の繊維束を構成する長繊維の単糸繊度は好ましくは0.5〜100dtex、より好ましくは1.0〜70dtex、さらにより好ましくは2.0〜30dtexの範囲である。単糸繊度が0.5dtexよりも大きいことで、繊維一本が持つ繊維強度が高くなり、開繊時に単糸切れや毛羽立ちが抑制され、高い生産性で開繊を行うことができる点から好ましい。また、単糸繊度が100dtexよりも小さいことで繊維束の集束性が確保され、繊維束引き上げ時のもつれや、開繊性の低下を防ぐことが出来る点から好ましい。単糸繊度が0.5〜100dtexの範囲であれば、満足できるレベルの繊維強度、繊維束の集束性、開繊性が得られ、1.0〜70dtexの範囲であればより高いレベルの、2.0〜30dtexの範囲であれば更に高いレベルの繊維強度、繊維束の集束性、開繊性が得られる。
【0024】
本発明の繊維束は、全繊度が好ましくは0.5万〜200万dtex、より好ましくは2万〜100万、さらにより好ましくは4万〜50万dtexである。全繊度が0.5万dtexよりも大きい場合には、繊維束を構成する長繊維の本数が十分多くなるので、集束性が向上したり、開繊した際の均一性が確保されたりする点から、好ましい。また、全繊度が200万dtexよりも小さい場合には、繊維束の捩れや縺れ、絡まりを抑制する点から好ましい。全繊度が0.5万〜200万dtexの範囲であれば、前述の問題を生じることなく安定した加工を行うことができ、2万〜100万dtex、より好ましくは4万〜50万dtexの範囲であれば、更に加工速度を高速にできるので望ましい。
【0025】
本発明の繊維束を構成する長繊維の繊維断面形状については特に限定されるものではなく、円形であっても、異型であっても、中空であっても何ら問題ない。例えば紡糸口金の形状を適宜選択することで、様々な断面形状とすることができる。
また、繊維束を構成する長繊維が複合繊維の場合、鞘芯型であっても、偏心型であっても、並列型であっても、海島型であっても、多成分分割型であっても良い。
【0026】
本発明の繊維束を開繊する方法は特に限定されるものではない。繊維束を開繊する方法として、例えば、速度差のあるピンチロール間において繊維束に張力を与えた後に弾性的に収縮させ、捲縮に伸びと縮みを与えて開繊する方法、1対のピンチコック間に繊維束を保持させ、機械的に繊維束に伸びと縮みを与えて開繊する方法などが例示できる。
これらの中では、繊維束を構成する長繊維に適度な延伸を施しながら生産性良く開繊できるという観点から、速度差のある3本のピンチロールを用いて開繊する方法が特に好ましい。この時の1本目のピンチロール速度に対する2本目のピンチロールの速度は特に限定されるものではなく、1.2〜3.0倍の範囲であると本発明の繊維束を生産性よく開繊でき、また、2本目のピンチロール速度に対する3本目のピンチロールの速度も、特に限定されるものではないが、0.8〜0.9倍の範囲であると本発明の繊維束を開繊して得られたウェブが均一で、風合いに優れる点から好ましい。
【0027】
本発明の繊維束を開繊して得られた均一で風合いに優れたウェブを加工することで、地合に優れ、風合いの良い不織布を得ることが出来る。
ウェブを不織布に加工する手段として、スパンレース法、レジンボンド法が例示される。また、熱可塑性繊維を含むウェブであれば、ポイントボンド法、エアースルー法等も例示される。特に、本発明の繊維束を開繊して得られた均一で風合いに優れたウェブの特性を生かす点から、エアースルー法が好適に用いられる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はそれらによって限定されるものではない。なお、実施例中に示した物性値の測定方法又は定義を以下に示す。
尚、(1)〜(8)は得られた繊維束に関する評価・測定法であり、(9)、(10)は得られた繊維束を開繊工程にて開繊して得られたウェブ状物に関する評価方法である。
(1)単糸繊度
JIS−L−1015に準じて測定した。
(2)単糸強度
JIS−L−1015に準じて測定した。
(3)全繊度
繊維束を構成する長繊維の構成本数と単糸繊度から算出した。
(4)捲縮数
捲縮を付与した長繊維についてJIS−L−1015に準じて測定した。
【0029】
(5)捲縮方向
繊維束の任意の断面を顕微鏡等で撮影し、捲縮の方向となるα値(度)(図2参照)を評価した。繊維束の幅方向に向けて山/谷部を形成している捲縮が、すなわちα値が45度以下である捲縮が、該断面中に見える捲縮の数の55%以上である場合を「横」、35%以上55%未満である場合を「縦/横」、35%未満である場合を「縦」とした。
(6)特性値A
顕微鏡等で繊維束中の任意の50点を撮影し、同一の長繊維に存在する捲縮のうち隣り合う捲縮の山部と谷部の頂点を結んだ直線の繊維束の長さ方向に対する傾きの絶対値の平均値。
【0030】
(7)繊維束の集束性
繊維束1mについて繊維束の割れの状態と箇所を観察した。判定基準は、繊維束の割れが生じて完全に分離している箇所が0〜2の場合には良好、3以上の場合には不良とした。
(8)引き上げ性
50cm×50cm×50cmの梱包容器に繊維束を振り込み、10kg、5分間の条件で荷重した後に除重した。この繊維束を15m/minの速度で上方に垂直に引き上げ、この際の繊維束同士の縺れや絡まりの発生具合を観察した。5分間に発生した不具合の回数が0〜2回の場合には良好、3回以上の場合には不良と判定した。
【0031】
(9)繊維束の開繊性
本発明の繊維束の開繊性を示す指標として、下記のように規定する開繊係数を用いた。
開繊係数(K)=B/A
A:開繊処理前の繊維束の幅(単位mm)
B:繊維束をピンチロ−ル形の開繊機を用いて、ライン終速度25m/min、倍率1.4倍で延伸開繊した後、その延伸張力を開放することで繊維束を開繊し得たウェブの幅(単位mm)。
(10)ウェブの均一性
繊維束をピンチロ−ル形の開繊機を用いて、ライン終速度25m/min、倍率1.4倍で延伸開繊した後、その延伸張力を開放することで繊維束を開繊し得たウェブの厚み均一性および未開繊繊維束の有無を◎、○、△、×の4段階で評価した。
【0032】
〔実施例1〕
高密度ポリエチレンとポリエチレンテレフタレートを質量比50:50で複合して、鞘芯ノズルを用いて溶融紡糸し、10.8dtexの未延伸糸を得た。この未延伸糸3.1万本を束ね、これを90℃に加温された熱ロール延伸機にて3.6倍に延伸し、次いで幅方向に山/谷部を有する捲縮が35%以上含有することが可能となる、幅方向から応力を加えることが可能な20mm幅のクリンパーで15.3山/2.54cmの捲縮を付与した後に110℃で乾燥熱処理を行い、単糸繊度3.5dtex、全繊度10.7万dtexの繊維束を得た。
この繊維束の捲縮は、主に繊維束の幅方向に向けて山/谷部を形成しており、特性値Aは1.99であり、集束性、引き上げ性ともに良好であった。これを25m/minにて1.4倍で開繊したところ、長繊維が幅方向に均一に拡がり、未開繊繊維束も無く、風合いに優れたウェブを形成した。開繊係数は10.5であった。
【0033】
〔実施例2〕
高密度ポリエチレンとポリプロピレンを質量比50:50で複合して、鞘芯ノズルを用いて溶融紡糸し、10.8dtexの未延伸糸を得た。この未延伸糸2.4万本を束ね、これを90℃に加温された熱ロール延伸機にて4.0倍に延伸し、次いで実施例1と同様のクリンパーで15.3山/2.54cmの捲縮を付与した後に110℃で乾燥熱処理を行い、単糸繊度2.8dtex、全繊度7.0万dtexの繊維束を得た。
この繊維束の捲縮は、繊維束の幅方向および厚み方向に向けて山/谷部を形成しており、特性値Aは1.61であり、集束性、引き上げ性ともに良好であった。これを25m/minにて1.4倍で開繊したところ、長繊維が幅方向に均一に拡がり、未開繊繊維束も無く、風合いに優れたウェブを形成した。開繊係数は8.4であった。
【0034】
〔実施例3〕
高密度ポリエチレンとポリエチレンテレフタレートを質量比50:50で複合して、鞘芯ノズルを用いて溶融紡糸し、10.8dtexの未延伸糸を得た。この未延伸糸2.5万本を束ね、これを90℃に加温された熱ロール延伸機にて3.6倍に延伸し、次いで実施例1と同様のクリンパーで15.3山/2.54cmの捲縮を付与した後に110℃で乾燥熱処理を行い、単糸繊度3.6dtex、全繊度8.9万dtexの繊維束を得た。
この繊維束の捲縮は、主に繊維束の幅方向に向けて山/谷部を形成しており、特性値Aは2.17であり、集束性、引き上げ性ともに良好であった。これを25m/minにて1.4倍で開繊したところ、長繊維が幅方向に均一に拡がり、未開繊繊維束も無く、風合いに優れたウェブを形成した。開繊係数は8.7であった。
【0035】
〔実施例4〕
高密度ポリエチレンとポリエチレンテレフタレートを質量比40:60で複合して、鞘芯ノズルを用いて溶融紡糸し、8.6dtexの未延伸糸を得た。この未延伸糸2.5万本を束ね、これを90℃に加温された熱ロール延伸機にて2.9倍に延伸し、次いで実施例1と同様のクリンパーで14.8山/2.54cmの捲縮を付与した後に110℃で乾燥熱処理を行い、単糸繊度3.3dtex、全繊度8.3万dtexの繊維束を得た。
この繊維束の捲縮は、主に繊維束の幅方向に向けて山/谷部を形成しており、特性値Aは1.25であり、集束性、引き上げ性ともに良好であった。これを25m/minにて1.4倍で開繊したところ、長繊維が幅方向に均一に拡がり、実施例1〜3には及ばないものの風合いに優れたウェブを形成した。開繊係数は6.1であった。
【0036】
〔実施例5〕
高密度ポリエチレンとポリエチレンテレフタレートを質量比50:50で複合して、鞘芯ノズルを用いて溶融紡糸し、35.2dtexの未延伸糸を得た。この未延伸糸2.2万本を束ね、これを95℃に加温された熱ロール延伸機にて4.0倍に延伸し、次いで幅方向に山/谷部有する捲縮が35%以上含有することが可能となる、幅方向から応力を加えることが可能な35mm幅のクリンパーで15.5山/2.54cmの捲縮を付与した後に110℃で乾燥熱処理を行い、単糸繊度10.0dtex、全繊度22.4万dtexの繊維束を得た。
この繊維束の捲縮は、主に繊維束の幅方向に向けて山/谷部を形成しており、特性値Aは1.64であり、集束性、引き上げ性ともに良好であった。これを25m/minにて1.4倍で開繊したところ、長繊維が幅方向に均一に拡がり、実施例1〜3には及ばないものの、実施例4程度の風合いに優れたウェブを形成した。開繊係数は8.0であった。
【0037】
〔実施例6〕
高密度ポリエチレンとポリエチレンテレフタレートを質量比50:50で複合して、鞘芯ノズルを用いて溶融紡糸し、7.4dtexの未延伸糸を得た。この未延伸糸3.2万本を束ね、これを90℃に加温された熱ロール延伸機にて2.9倍に延伸し、次いで幅方向に山/谷部有する捲縮が35%以上含有することが可能となる、幅方向から応力を加えることが可能な20mm幅のクリンパーで14.5山/2.54cmの捲縮を付与した後に110℃で乾燥熱処理を行い、単糸繊度2.9dtex、全繊度9.4万dtexの繊維束を得た。この繊維束の捲縮は、主に繊維束の幅方向に向けて山/谷部を形成しており、特性値Aは0.58であり、集束性は実施例1〜5に比べ劣るものの、引き上げ性は良好であった。これを25m/minにて1.4倍で開繊したところ、若干の未開繊繊維束はあるものの、使用に耐える程度には幅方向に均一に拡がり、実施例1〜5には及ばないものの風合いに優れたウェブを形成した。開繊係数は3.6であった。
【0038】
〔比較例1〕
実施例1と同様にして未延伸糸を得た。これを、繊維束の厚み方向に加え幅方向に向かっても圧力を加えるプレートを有していない20mm幅のクリンパーを使用して捲縮を付与する以外は実施例1と同様に延伸し、単糸繊度3.5dtex、捲縮数14.3山/2.54cm、全繊度10.7万dtexの繊維束を得た。
この繊維束の捲縮は、主に繊維束の厚み方向に向けて山/谷部を形成しており、特性値Aは0.17であり、集束性が著しく低く、引き上げ不良が多発した。これを25m/minにて1.4倍で開繊したところ、幅方向にほとんど拡がらず、未開繊繊維束が多く、使用に耐えうる風合いのウェブは得られなかった。この時の開繊係数は1.8であった。
【0039】
〔比較例2〕
実施例3と同様にして未延伸糸を得た。これを実施例3と同様に延伸し、単糸繊度3.6dtex、捲縮数15.0山/2.54cm、全繊度8.9万dtexの繊維束を得た。しかしながら、高速クリンパーで捲縮を付与する際に、繊維束の幅方向に十分な圧力を加えなかったために、この繊維束の捲縮は、主に繊維束の幅方向に向けて山/谷部を形成しているものの、特性値Aは0.25と低く、本発明の所望の効果を得ることが出来なった。特性値Aは0.25であり、集束性が低く、引き上げ不良が発生した。これを25m/minにて1.4倍で開繊したところ、幅方向に若干拡がるものの、未開繊繊維束が多く、使用に耐えうるウェブは得られなかった。この時の開繊係数は2.4であった。
【0040】
上記実施例1〜6並びに比較例1及び2で得られた結果を、以下の表1〜2に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の繊維束の特性値Aを説明する図である。
【図2】本発明の繊維束を表す概略図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長繊維が一方向に配列してなる繊維束であって、該長繊維が繊維束の幅方向に向けて山部と谷部が形成されている捲縮を有し、かつその捲縮について、同一の長繊維に存在する捲縮のうち隣り合う捲縮の山部と谷部の頂点を結んだ直線の繊維束の長さ方向に対する傾きの絶対値であるところの特性値Aが0.3以上であることを特徴とする繊維束。
【請求項2】
繊維束の幅方向に向けて山部と谷部が形成されている特性値Aが0.3以上である捲縮を繊維束の長さ方向に断続的に有することを特徴とする請求項1記載の繊維束。
【請求項3】
繊維束の幅方向に向けて形成されている捲縮の特性値Aが1.0以上である請求項1または2記載の繊維束。
【請求項4】
繊維束を構成する繊維の単糸繊度が0.5〜100デシテックス(dtex)である請求項1〜3の何れか1項に記載の繊維束。
【請求項5】
繊維束の全繊度が0.5万〜200万デシテックス(dtex)である請求項1〜4の何れか1項に記載の繊維束。
【請求項6】
繊維束を構成する繊維が、ポリオレフィン系繊維、ポリエステル系繊維およびポリアミド系繊維から選ばれた少なくとも1種の熱可塑性繊維である請求項1〜5の何れか1項に記載の繊維束。
【請求項7】
繊維束を構成する繊維が、融点差15℃以上を有する少なくとも2成分の熱可塑性樹脂を含む複合繊維である請求項1〜6の何れか1項に記載の繊維束。
【請求項1】
長繊維が一方向に配列してなる繊維束であって、該長繊維が繊維束の幅方向に向けて山部と谷部が形成されている捲縮を有し、かつその捲縮について、同一の長繊維に存在する捲縮のうち隣り合う捲縮の山部と谷部の頂点を結んだ直線の繊維束の長さ方向に対する傾きの絶対値であるところの特性値Aが0.3以上であることを特徴とする繊維束。
【請求項2】
繊維束の幅方向に向けて山部と谷部が形成されている特性値Aが0.3以上である捲縮を繊維束の長さ方向に断続的に有することを特徴とする請求項1記載の繊維束。
【請求項3】
繊維束の幅方向に向けて形成されている捲縮の特性値Aが1.0以上である請求項1または2記載の繊維束。
【請求項4】
繊維束を構成する繊維の単糸繊度が0.5〜100デシテックス(dtex)である請求項1〜3の何れか1項に記載の繊維束。
【請求項5】
繊維束の全繊度が0.5万〜200万デシテックス(dtex)である請求項1〜4の何れか1項に記載の繊維束。
【請求項6】
繊維束を構成する繊維が、ポリオレフィン系繊維、ポリエステル系繊維およびポリアミド系繊維から選ばれた少なくとも1種の熱可塑性繊維である請求項1〜5の何れか1項に記載の繊維束。
【請求項7】
繊維束を構成する繊維が、融点差15℃以上を有する少なくとも2成分の熱可塑性樹脂を含む複合繊維である請求項1〜6の何れか1項に記載の繊維束。
【図1】
【図2】
【図2】
【公開番号】特開2010−156073(P2010−156073A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−334576(P2008−334576)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(506276907)ESファイバービジョンズ株式会社 (16)
【出願人】(506276712)イーエス ファイバービジョンズ ホンコン リミテッド (16)
【出願人】(506275575)イーエス ファイバービジョンズ リミテッド パートナーシップ (16)
【出願人】(506276332)イーエス ファイバービジョンズ アーペーエス (16)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(506276907)ESファイバービジョンズ株式会社 (16)
【出願人】(506276712)イーエス ファイバービジョンズ ホンコン リミテッド (16)
【出願人】(506275575)イーエス ファイバービジョンズ リミテッド パートナーシップ (16)
【出願人】(506276332)イーエス ファイバービジョンズ アーペーエス (16)
【Fターム(参考)】
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