説明

繊維機械

【課題】パッケージを生産する繊維加工ユニットを多数備える繊維機械において、糸速センサーに固有の誤差のため、各錘で糸速センサーの検出する糸速に基づいてパッケージの糸長さを均一にしようとしても、実際に生産されたパッケージの糸長さは全錘で不均一となってしまう。
【解決手段】糸速を検出する糸速センサー7と、この糸速センサー7の検出値に基づいて、巻取りパッケージ4の糸長さを算出するシーケンサー12と、巻取りパッケージ4を形成する巻取り装置20と、を備えるワインディングユニット1を、多数備えるワインダー100であって、各糸速センサー7に対応する補正情報を、各シシーケンサー12に送信する設定器41を備え、各シーケンサー12は、各糸速センサー7の検出値を前記補正情報に基づいて各糸速の補正値を算出し、これらの各糸速の補正値に基づいて、各巻取りパッケージ4の糸長さを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
走行する糸の糸速を検出する糸速センサーと、この糸速センサーの検出値に基づいて、前記糸で形成される前記パッケージの糸長さを算出する糸長さ算出装置と、前記糸を巻き取ってパッケージを形成する巻取り装置と、を備える繊維加工ユニットを、多数備える繊維機械に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、紡績機やワインダー等、多数錘で同時にパッケージの形成が可能となるように、各錘毎に巻取り装置を備える繊維加工ユニットを多数備える繊維機械が知られている。このような繊維機械において、パッケージの糸長さを検出するための糸速センサーを備えるものも知られている(特許文献1)。糸速センサーで検出された糸速と、糸の検出時間とを積算すれば、糸長さの算出が可能である。
ここで、織布の製造等においては、原料となる多数のパッケージの糸長さが不均一である場合、最短の糸長さのパッケージに合わせて、可能な織布の大きさが決められてしまう。したがって、パッケージの糸長さが不均一な場合、織布の大きさが制限されるだけでなく、糸長さの長いパッケージは、余剰分の糸が無駄になってしまう。そこで、均一な糸長さのパッケージの生産が多数同時にできることが望ましい。
前述した糸速センサーを備える繊維機械においては、糸速(つまり糸長さ)を検出しながら、パッケージの形成が可能である。つまり、均一な糸長さのパッケージを多数同時に生産して欲しいとする要請に応えることができる。
【0003】
【特許文献1】特開2005−194024号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、糸速センサーは、その糸速センサーに固有の検出特性を有しており、多かれ少なかれ、その検出値と、その真の値との間には、誤差を含むものとなっている。また、この検出特性は、糸速センサー間にもおいても当然バラツキがあり、同じ糸速を複数の糸速センサーで検出させると、糸速センサーごとに異なる検出値が出力される。そうすると、繊維機械の制御系において、各糸速センサーの糸速の検出値に基づいてパッケージの糸長さを算出し、この糸長さが全錘で同一であると判断しても、実際に生産されたパッケージの糸長さは、全錘で不均一となってしまう。
これは、糸速センサーの構成に限定されるものではなく、糸に非接触で光学式や静電容量式で糸速検出を行うセンサーの場合であっても、糸に接触するローラ式で糸速(回転数)検出を行うセンサーの場合であっても、同じである。
【0005】
つまり、解決しようとする問題点は、パッケージを生産する繊維加工ユニットを多数備える繊維機械において、糸速センサーに固有の誤差のため、各錘で糸速センサーの検出する糸速に基づいてパッケージの糸長さを均一にしようとしても、実際に生産されたパッケージの糸長さは全錘で不均一となってしまう点、である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0007】
請求項1に係る繊維機械は、
糸を巻き取ってパッケージを形成する巻取り装置と、
走行する前記糸の糸速を検出する糸速センサーと、
この糸速センサーの検出値に基づいて、前記糸で形成される前記パッケージの糸長さを算出する糸長さ算出装置と、
を備える繊維加工ユニットを、多数備える繊維機械であって、
前記各糸速センサーに対応する補正情報を、前記各糸長さ算出装置に送信する設定器を備え、
前記各糸長さ算出装置は、前記各糸速センサーの検出値を前記補正情報に基づいて補正して、各糸速の補正値を算出し、これらの各糸速の補正値に基づいて、前記各パッケージの糸長さを算出する、ものである。
【0008】
以上構成により、次の作用がある。
各糸速センサーによる糸速の検出値を補正した補正値からは、各糸速センサーに固有の誤差の影響が除去される。したがって、この補正値を元に算出されるパッケージの糸長さからも、各糸速センサーに固有の誤差による影響が除去される。
【0009】
請求項2に係る繊維機械は、請求項1において、次の構成としたものである。
前記各補正情報は、前記各糸速センサーの出荷検査時に検出された検出特性に応じて、設定される、ものである。
【0010】
以上構成により、次の作用がある。
各糸速センサーの検出特性そのものを検出することにより、各糸速センサーの検出値と、真値との間の誤差が特定される。
【0011】
請求項3に係る繊維機械は、請求項1において、次の構成としたものである。
前記各補正情報は、前記各繊維加工ユニットにおいて、
試験的に巻き取った標本パッケージを解いて得た糸長さと、この標本パッケージの形成に要した巻き時間と、に基づいて算出される、実際の平均糸速と、
この標本パッケージの形成中における前記糸速センサーによる前記糸速の検出値を、前記巻き時間で平均した、検出に基づく平均糸速と、
を比較して対応関係を導出することで、設定される、ものである。
【0012】
以上構成により、次の作用がある。
実際の平均糸速と、検出に基づく平均糸速との対応関係の導出により、各糸速センサーの検出値と、真値との間の誤差が特定される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0014】
請求項1においては、
パッケージの糸長さの算出においては、糸速センサーに固有の誤差の影響が除去されるため、実際に生産されたパッケージの糸長さを全繊維加工ユニット間で均一とすることができる。
【0015】
請求項2においては、請求項1の効果に加えて、
糸長さ検出装置で検出した糸長さを、実際に生産されたパッケージの糸長さに一致させることができ、糸長さの検出精度が向上する。
【0016】
請求項3においては、請求項1の効果に加えて、
糸長さ検出装置で検出した糸長さを、実際に生産されたパッケージの糸長さに一致させることができ、糸長さの検出精度が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の一実施の形態を説明する。
本発明に係る繊維機械は、糸の巻取りを行う繊維加工ユニットを多数備えている。
本実施の形態は、繊維機械の一つであるワインダー100であり、このワインダー100は、繊維加工ユニットとして、パッケージの巻き返しを行う巻返しユニットを備える構成である。
繊維加工ユニットとしては、糸の巻取り機能を有する装置(装置の集合体)であればよい。例えば、繊維機械を紡績機とする場合は、繊維加工ユニットは糸を紡績して巻き取る紡績ユニットとなる。
【0018】
図1を用いて、ワインダー100の構成を説明する。
このワインダー100は、精紡機等で生産した給糸パッケージ2を巻き返して、所定形状の巻取りパッケージ4を形成する装置である。このワインダー100は、一錘の巻返しを担当するワインディングユニット1を多数備えている。
また、ワインダー100は、各ワインディングユニット1で共用の作業台車30や、各ワインディングユニット1に備える装置の一部を駆動する駆動装置40、各ワインディングユニット1や作業台車30の駆動を制御する制御装置50、を備えている。なお、ワインディングユニット1に備える各装置は、基本的には、このユニット1に備える駆動源(モータ)により、各ユニット1で独立して駆動される。
作業台車30は、各ワインディングユニット1で満巻きとなった巻取りパッケージ4を回収して、代わりに空ボビンを供給する装置である。
【0019】
図2を用いて、ワインディングユニット1を説明する。
ワインディングユニット1には、給糸パッケージ2が下部に配置され、巻取りパッケージ4が上部に配置されている。このワインディングユニット1には、給糸パッケージ2から巻取りパッケージ4に至る糸3の走行経路に沿って、解舒補助装置5、可変テンション装置6、糸継ぎ装置9、糸速センサー7、糸欠点検出装置8、綾振りドラム10、が配置されている。
また、綾振りドラム10を回転駆動するドラムドライバー11や、綾振りドラム10の回転速度を検出するエンコーダ16、ドラムドライバー11に指令して綾振りドラム10の回転駆動を制御するシーケンサー12も、ワインディングユニット1には備えられている。
【0020】
解舒補助装置5は、給糸パッケージ2より、その軸方向に糸3を解舒する際に発生する解舒バルーンを制御する装置である。
この解舒補助装置5は、給糸パッケージ2のボビン21に被さる傘状の筒部材51と、この筒部材51と給糸パッケージ2のチェス部との間隔δを略一定に保って降下させる駆動機構52と、を備えている。筒部材51は、解舒時のバルーン径が略一定となるように制御され、解舒が進行しても解舒増えないようにしている。
【0021】
可変テンション装置6は、給糸パッケージ2から解舒される糸3に、可変の巻取りテンションを加える装置である。
この可変テンション装置6は、糸3の糸走行経路を挟んで対向する位置で互い違いに配置される固定の櫛歯61および可動の櫛歯62と、両櫛歯61・62の噛み合い量を増減するソレノイド等の駆動機構63と、を備えている。
この可変テンション装置6は、シーケンサー12からの制御信号により、固定の櫛歯61に対する可動の櫛歯62の噛み合い量、すなわち糸走行経路のジグザグ状の屈曲程度が制御され、糸3に対して付与する巻取りテンションを逐次制御できる構造になっている。
【0022】
糸速センサー7は、非接触式で、糸3の走行速度(糸速)を検出する装置である。
この糸速センサー7は、本実施の形態では、糸に糸太さの変動があることを利用して、この糸の変動部位の移動速度を、空間フィルタ法により検出し、その検出値を出力する装置としている。
より詳しくは、この糸速センサー7は、光学式の糸太さ検出装置を糸走行方向に沿って複数備えており、糸走行方向で異なる位置にある糸太さ検出手段の出力信号を元に、空間フィルタ方式を利用して、糸3の走行速度を検出する。
この光学式の糸太さ検出装置は、受光素子と光源とを備えている。この糸太さ検出手段の検出位置を通過する位置の糸3の糸太さに応じて、受光素子への受光量が変化して、糸太さに応じた電気信号が、この糸太さ検出装置より出力される。
【0023】
糸3は、本実施の形態では、紡績糸である。このため、毛羽によって、糸3の長さ方向で糸太さが変動する。糸3の長さ方向で毛羽立ちのある部位は、糸太さが見かけ上太くなった部位である。さらに言えば、この部位は、糸太さが並、太、並、に変動する変動部位である。この糸太さの変動部位の移動速度を、空間フィルタ法により検出すれば、この移動速度は糸速に等しいので、糸速を検出したことになる。
【0024】
また、糸3の糸速を間接に検出する場合は、糸3に接触して従動するようにローラ(回転体)を配置し、このローラの回転速度を検出することで、糸速の検出を行う。糸速は、このローラの周速度に比例するため、このローラの回転速度より算出可能である。特に、このローラは、糸3の走行に連動して、この糸速に正比例して回転するので、このローラの回転速度は、糸速の情報を正確に反映している。
なお、糸3に接触させるローラを用いて、糸速を間接的に検出する場合は、糸3との間に滑りが発生するのを防止する必要がある。このため、糸速間接検出用のローラは、糸3の走行経路上において、ワキシング装置(ワックスを付与する装置)やオイリング装置(オイルを付与する装置)の糸走行方向の上流位置に、配置するものとする。
【0025】
糸欠点検出装置8は、スラブなどの糸欠点を糸3上に検出すると、糸3を切断する装置である。
この糸欠点検出装置8は、通過する糸3の糸太さを検出する糸太さ検出装置81と、糸太さが糸欠点であるか否かを判定する糸欠点判定装置82と、糸欠点であると判定されると糸3を切断する糸切断装置83と、を備えている。
糸太さ検出装置81や糸欠点判定装置82については、詳しくは後述するが、巻取り中において、糸太さ検出装置81が検出する糸3の糸太さの情報に基づいて、糸欠点判定装置82が糸欠点の有無を判断し、糸欠点が検出された場合には、直ちに糸切断装置83に糸切断を指令する。そうすると、糸切断装置83が作動して、強制的に糸切断が行われる。
また、この糸切断に伴い、糸太さ検出装置81からの糸走行信号がオフとなり、糸欠点判定装置82は糸切れを感知すると共に、綾振りドラム10の停止信号をシーケンサー12を介してドラムドライバー11に送信し、綾振りドラム10の回転を停止させる。
また、糸欠点検出装置8に備える糸太さ検出装置81も、糸速センサー7に備える糸太さ検出装置と原理的に同様であり、受光素子と光源とを備えている。そして、糸太さに応じた電気信号が、この糸太さ検出装置より出力される。
【0026】
糸継ぎ装置9は、給糸パッケージ2側の下糸と、巻取りパッケージ4の上糸とを、糸継ぎする装置である。糸欠点検出装置8での糸切断等により糸切れが発生すると、糸3は上糸と下糸とに分離されるので、この糸継ぎ装置9により糸継ぎして、巻取りパッケージ4への巻返しを再開する。ここで、糸太さ検出装置81からの糸走行信号がオフとなった場合、糸欠点判定装置82は、糸切断装置82の作動後に糸継ぎ装置9を作動させるべく、シーケンサー12を介して、糸継ぎ装置9に糸継ぎの指令信号を送信する。
【0027】
この糸継ぎ装置9は、空気流により上糸および下糸の繊維同士を絡ませて糸継ぎする空気ノズル装置91と、下糸を吸引捕捉して空気ノズル装置91に案内する下糸吸引装置92と、上糸を吸引捕捉して空気ノズル装置91に案内する上糸吸引装置93と、を備えている。
下糸吸引装置92は、糸3を吸引捕捉する吸引管を本体とし、この吸引管の先端の吸引口92aが、この吸引管の末端の軸92b回りに回動可能に構成されている。この吸引管の上下回動により、吸引口92aは、空気ノズル装置91と解舒補助装置5の下方位置との間を移動する。上糸吸引装置93も同様の構成であり、糸3を吸引捕捉する吸引管を本体とし、この吸引管の先端の吸引口93aが、この吸引管の末端の軸93b回りに回動可能に構成されている。この吸引管の上下回動により、吸引口93aは、空気ノズル装置91と巻取りパッケージ4の周面との間を移動する。
【0028】
ここで、糸欠点検出装置8で糸欠点の検出による強制的な糸切断が行われると、上糸は巻取りパッケージ4にて巻き取られ、下糸は、前記糸継ぎの指令信号に基づき、吸引口92aを解舒補助装置5の下方位置に待機させていた下糸吸引装置92に捕捉される。
次いで、上糸が、糸継ぎの指令信号に基づき、吸引口93aを巻取りパッケージ4の周面に待機させていた上糸吸引装置93に捕捉される。
その後、下糸吸引装置92が吸引口92aを上方に移動させて、下糸を空気ノズル装置91に導くと共に、上糸吸引装置93が吸引口93aを下方に移動させて、上糸を空気ノズル装置91に導き、空気ノズル装置91において、上糸と下糸とが糸継ぎされる。
この糸継ぎ動作の後、綾振りドラム10の回転駆動がシーケンサー12の指令により再開され、再度巻取りが行われる。
【0029】
綾振りドラム10は、糸3を巻取りパッケージ4に綾巻きする装置である。
より詳しくは、この綾振りドラム10は、糸3を巻取りパッケージ4の軸方向に振り動かす機能(トラバース手段)と、巻取りパッケージ4を回転させて、この巻取りパッケージ4上に糸3を巻き取る機能(巻取り手段)と、を有するものである。
巻取り手段としての機能は、この綾振りドラム10が円柱形状の回転体に形成されることで実現されている。この綾振りドラム10は、その外周面が巻取りパッケージ4の外周面と接触するように配置される。この状態で、この綾振りドラム10を回転させることで、巻取りパッケージ4が綾振りドラム10に連動して回転する。
また、トラバース手段としての機能は、この綾振りドラム10の外周面に形成された糸3を案内する溝10aによって実現されている。この溝は、この綾振りドラム10の周方向に沿って、綾振りドラム10の軸方向に変位するように形成されている。そして、この溝10aに案内される糸3が、綾振りドラム10の回転に伴って、綾振りドラム10の軸方向に振り動かされる。
【0030】
糸3を巻取りパッケージ4に綾巻きする装置としては、トラバース手段と巻取り手段とを一体的に備える綾振りドラム10に限定されるものではなく、トラバース手段としての装置と、巻取り手段としての装置とを、別体として備えるものであってもよい。例えば、トラバース手段は、糸ガイドを巻取りパッケージ4の軸方向に振り動かす装置とし、巻取り手段は、糸案内溝のない単なる円筒形状回転体(ドラム)としてもよい。
【0031】
巻取り装置20は、ボビン上に糸3を巻き取って巻取りパッケージ4を形成する装置である。
この巻取り装置20は、巻取りパッケージ4の芯たるボビンを支持するクレードルアーム19と、糸3を巻取りパッケージ4の軸方向に振り動かしながら巻取りパッケージ4を回転させる綾振りドラム10と、を備えている。この綾振りドラム10には、糸を前記軸方向に振り動かすための糸案内溝10aが形成されており、綾振りドラム10は、糸3のトラバース機能と、糸3の巻取り機能と、を同時に備える構成である。
【0032】
ドラムドライバー11は、巻取り装置20に備える綾振りドラム10を回転駆動する装置である。このドラムドライバー11は、綾振りドラム10を回転駆動させる駆動モータ11aと、この駆動モータ11aの出力を変化させるインバータ11bと、を備えている。
【0033】
回転速度検出センサー16は、巻取り装置20に備える綾振りドラム10の回転速度を検出する装置である。
【0034】
シーケンサー12は、ドラムドライバー11に指令して、綾振りドラム10の回転速度を制御する装置である。
このシーケンサー12は、コンピュータ装置であり、プログラムに基づいてデータ処理を行う演算装置12aと、データや前記プログラムの記憶される記憶装置12bと、を備えている。
そして、シーケンサー12は、綾振りドラム10の回転速度が、所定の目標値と一致するように、回転速度検出センサー16で検出される回転速度の検出値と比較しながら、ドラムドライバー11に指令値を送信し、綾振りドラム10の回転速度を制御する。ここで、所定の目標値は、時間経過(巻取りパッケージ4の巻き径の変化)に応じて変化する曲線として設定されている。具体的には、例えば、巻取りパッケージ4の巻き始め段階(加速)、途中段階(等速)、巻き終わり段階(減速)、等の三段階で変化する台形状曲線である。このような所定の目標値に関するデータが、予め、記憶装置12bに記憶されている。
【0035】
巻取りパッケージ4の糸長さを算出する糸長さ算出装置を説明する。
ここで、巻取りパッケージ4の糸長さとは、この巻取りパッケージ4に巻かれている糸3の全長を意味する。
この糸長さ算出装置は、本実施の形態では、シーケンサー12が兼用するものとしている。シーケンサー12は、糸速センサー7より出力される糸速の検出値に基づいて、巻取りパッケージ4に巻かれている糸3の長さを算出する。
より詳しく説明すると、まず、糸長さは、糸速と、糸3の走行時間と、の積で算出することが可能である。したがって、巻取りパッケージ4の巻き始め(空ボビンの状態)から、巻取りパッケージ4の巻き終わり(満巻き状態)となるまで、糸速の時間積分を行えば、途中で糸速に変化があったとしても、巻取りパッケージ4の糸長さを算出することが可能である。
つまり、シーケンサー12は、巻取りパッケージ4の巻き始めから巻き終わりに至るまで、糸速センサー7による糸速の検出値を時間積分して、巻取りパッケージ4の糸長さを算出する。
【0036】
図3を用いて、糸速センサー7の出力信号の補正機構を説明する。
個々の糸速センサー7は、固有の検出特性を有しており、異なる糸速センサー7同士では、実際には同じ糸速を検出対象とした場合でも、異なる検出値を出力するものとなる。本実施の形態の糸速センサー7の構成では、光源の出力や、受光素子の感度、等により、その検出特性が理想的な特性に対してズレを生じることになる。
この検出特性の相違を放置すると、糸速センサー7による糸速の検出値に基づいてシーケンサー12が算出した糸長さと、実際の糸長さとが、異なるという結果を招来する。そして、各ワインディングユニット1の巻取りパッケージ4の糸長さが、不均一となる。
そこで、糸長さの算出に際して、各糸速センサー7に固有の検出特性のバラツキの影響を除くことができるように、各糸速センサー7の出力信号(糸速情報)を補正することで、精度の高い糸速の算出が可能となる。
【0037】
前記補正機構は、補正情報の設定器41と、各ワインディングユニット1に備える糸速センサー7およびシーケンサー12と、を備えている。この設定器41は、制御装置40に備えられている。
この設定器41は、各ワインディングユニット1のシーケンサー12に、各糸速センサー7による糸速の検出値を補正するための補正情報をそれぞれ送信する。これらの各補正情報は、各糸速センサー7に固有の検出特性によるバラツキ(各糸速センサー7に固有の誤差)の影響を、除去するためのものである。各糸速センサー7に同じ糸速を検出させた場合には、各糸速センサー7に固有の検出特性のバラツキのため、各糸速の検出値にバラツキがある。そこで、各糸速の検出値を各補正情報に基づいて補正することで、各糸速センサー7に同じ糸速を検出させた場合に、各糸速の補正値に関しては、全て均一化されるものとするのである。
【0038】
そして、各シーケンサー12は、このシーケンサー12に対応する糸速センサー7から出力された糸速の検出値を、設定器41より送信された補正情報に基づいて補正して、糸速の補正値を算出する。
次いで、シーケンサー12は、その糸速の補正値に基づいて、巻取りパッケージ4の糸長さの算出を行う。
【0039】
前記の補正情報は、具体的には、次のような情報である。
例えば、糸速センサー7の検出特性のため、糸速の検出値が糸速の真値の100.1%の大きさとなる場合、検出値を−0.1%する(100.0/100.1倍する)ことで補正する。この場合、設定器41よりシーケンサー12に向けて、−1%という補正情報を、補正に係る情報として送信する。より詳しくは、この補正情報は、「%」表記で示される、信号を増幅や減衰させるという意味の情報と、その増幅や減衰の大きさを規定する「−1」という量の情報と、を含むものである。
また、糸速センサー7における真値と検出値との誤差は、単なる増幅や減衰という形(%の相違)でのズレとして発生するとは限らず、糸速によらず一定値のズレとして発生することもあれば、糸速に応じた変数として発生する場合もある。例えば、糸速が1000m/分の場合、糸速の検出値に対応する出力信号の電圧値が+0.1mVずれ、800m/分の場合、この電圧値が−0.05mVずれる、といった場合である。このような場合は、設定器41よりシーケンサー12に向けて、糸速に応じた誤差情報を、例えば、糸速と誤差の大きさとで構成されるテーブルを、補正情報として送信する。
【0040】
なお、糸速の真値は、例えば、試験的に糸を巻き取って標本パッケージを形成し、その実際に形成された標本パッケージの糸長さと、その形成に要した時間とから、逆算して求めた糸速で代用するものとする。加えて、実際に形成された標本パッケージの糸長さは、その標本パッケージを解いて得られた糸の長さを計測することで、特定可能である。
また、糸速の逆算において、満巻きとなった巻取りパッケージ4を用いるのは、この巻取りパッケージ4の糸量が多いので困難である。しかも、この満巻きの巻取りパッケージ4の巻取りに際して、糸速の制御パターン(糸速の時間変化曲線)が必ずしも一定ではなく、糸継ぎ等の分断もあるので、精度よく糸速を逆算するのが困難である。
【0041】
つまり、補正情報は、糸速の検出値より、糸速の補正値を導出する関数に相当するものである。
糸速の検出値をVDi、糸速の補正値をVCiとし、補正情報に相当するものであって、糸速の検出値を変数とする関数をf(VCi,Ci)とすると、これらの間には、数式1の関係がある。
iは、ワインディングユニット1がn個ある場合において、1〜nのいずれかの数である。また、Ciは、関数fの係数であり、各糸速センサー7毎に異なる値を取るものである。なお、検出値と真値(補正値)との対応関係は、各糸速センサー7で同様であるため、各補正情報で、関数の基本形は同一となる。
【0042】
【数1】

【0043】
前述した例、糸速の検出値が糸速の真値の100.1%の大きさとなる場合であれば、補正情報に相当する関数は、f=100/100+Ciにおいて、Ci=0.1の場合である。各糸速センサー7によって、Ciの値は異なるものである。
【0044】
特に、関数fに相当する部分は、シーケンサー12内の記憶装置12bに記憶させておくものとし、設定器41から各シーケンサー12に送信する情報としては、係数Ciを特定する情報だけであってもよい。
前述の例(糸速の検出値が糸速の真値の100.1%の大きさとなる場合)であれば、設定器41は、各シーケンサー12に、係数Ciに相当する−1、0、+2、等の情報を送信する。
【0045】
また、シーケンサー12は、糸速の補正値に基づいて、糸長さを算出する。
糸3の検出時間をTi、この検出時間内に走行する糸長さをLi、補正値VCiとの間には、数式2の関係がある。iは、数式1の場合と同じく、ワインディングユニット1がn個ある場合において、1〜nのいずれかの数である。
【0046】
【数2】

【0047】
以上構成により、各シーケンサー12は、各糸速センサー7に検出特性のためバラツキがあっても、前記補正情報に基づいて糸速の検出値を補正して、各糸速センサー7間でのバラツキの除去された糸速の補正値を算出する。そして、各ワインディングユニット1で形成された巻取りパッケージ4の糸長さが、シーケンサー12において、適正に算出される。したがって、ワインダー100において、各ワインディングユニット1で形成される巻取りパッケージ4の糸長さが、満巻き時に均一となるように、糸3の巻返しを行わせることが可能である。
【0048】
次に、前記補正情報を設定する方法について説明する。
第一の方法は、前記補正情報を、前記各糸速センサー7の出荷検査時に検出された検出特性に応じて、設定するものである。より詳しくは、各糸速センサー7における真値と検出値との間の誤差を特定して、この誤差を補正するように補正情報を設定するものである。
第二の設定方法は、前記補正情報を、試験的に巻き取った標本パッケージを解いて得た糸長さより算出した実際の平均糸速と、糸速センサー7の検出値より算出した検出による平均糸速とを比較することで、対応関係を導出して、設定するものである。
【0049】
第一の設定方法について説明する。
糸速センサー7が生産工場から出荷される際には、各糸速センサー7の性能検査が実施される。この性能検査により、各糸速センサー7において、糸速の検出値と、糸速の真値との誤差が、検出される。
このように、各糸速センサー7における真値と検出値との間の絶対的な差(誤差)が検出されるので、当然ながら、異なる糸速センサー7間における相対的な誤差(各糸速センサー7のバラツキ)も、特定することが可能である。
したがって、この性能検査によって得られた真値と検出値との間の誤差を補正するような補正情報を設定することが可能である。
第一の設定方法は、このようにして得られた補正情報を、設定器41に記憶させ、各シーケンサー12に送信させるようにするものである。
【0050】
第二の設定方法について説明する。
まず、各ワインディングユニット1において、糸速の補正情報を得るための試験用の標本パッケージの巻取りを行う。ここで、この標本パッケージを形成するのに要した時間(巻き時間)を特定することは可能である。また、この標本パッケージを形成した糸の糸長さは、この標本パッケージを解くことで、計測可能である。この計測が容易となるように、この標本パッケージの満巻き時の糸量は、通常の巻取りパッケージ4の満巻き時の糸量よりも小さいものとしている。そして、標本パッケージの糸長さと、標本パッケージの巻き時間とから、この標本パッケージを形成する際の実際の平均糸速が算出される。
一方、この標本パッケージの巻き取りの際に得られた糸速センサー7による糸速の検出値を平均して、平均糸速を算出する。この平均糸速は、標本パッケージを形成した際の糸速の平均値に相当するものであるが、あくまで、糸速センサー7の検出値に基づいて算出された値である。したがって、この検出に基づく平均糸速は、前述した検出特性による誤差の影響のため、実際の平均糸速とは相違するものである。
そして、この実際の平均糸速と、検出に基づく平均糸速と、を比較することで、対応関係を導出することが可能である。より多くの標本パッケージの巻取りを実行して、この比較を行うことで、この対応関係の導出の精度を高めることができる。
さらに、この導出された対応関係に基づいて、前記補正情報を設定することが可能となる。例えば、あるワインディングユニット1において、実際の平均糸速の大きさに対して、検出に基づく平均糸速の大きさが、0.1%だけ大きい場合、このワインディングユニット1のシーケンサー12に送信する補正情報を、−1%にする、といった具合である。
第二の設定方法は、このようにして得られた補正情報を、設定器41に記憶させ、各シーケンサー12に送信させるようにするものである。
【0051】
以上のような設定方法で、補正情報を設定することで、各糸速センサー7の検出値と、真値との間の誤差が特定される。
このため、各シーケンサー12で検出した糸長さを、実際に生産された巻取りパッケージ4の糸長さに一致させることができ、糸長さの検出精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】ワインダーの構成を示す概略図である。
【図2】巻取りユニットの構成を示す概略図である。
【図3】糸速センサーの出力信号の補正機構を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0053】
1 ワインディングユニット
7 糸速センサー
20 巻取り装置
12 シーケンサー(糸長さ算出装置)
41 設定器
100 ワインダー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸を巻き取ってパッケージを形成する巻取り装置と、
走行する前記糸の糸速を検出する糸速センサーと、
この糸速センサーの検出値に基づいて、前記糸で形成される前記パッケージの糸長さを算出する糸長さ算出装置と、
を備える繊維加工ユニットを、多数備える繊維機械であって、
前記各糸速センサーに対応する補正情報を、前記各糸長さ算出装置に送信する設定器を備え、
前記各糸長さ算出装置は、前記各糸速センサーの検出値を前記補正情報に基づいて補正して、各糸速の補正値を算出し、これらの各糸速の補正値に基づいて、前記各パッケージの糸長さを算出する、
ことを特徴とする繊維機械。
【請求項2】
前記各補正情報は、前記各糸速センサーの出荷検査時に検出された検出特性に応じて、設定される、
ことを特徴とする請求項1に記載の繊維機械。
【請求項3】
前記各補正情報は、前記各繊維加工ユニットにおいて、
試験的に巻き取った標本パッケージを解いて得た糸長さと、この標本パッケージの形成に要した巻き時間と、に基づいて算出される、実際の平均糸速と、
この標本パッケージの形成中における前記糸速センサーによる前記糸速の検出値を、前記巻き時間で平均した、検出に基づく平均糸速と、
を比較して対応関係を導出することで、設定される、
ことを特徴とする請求項1に記載の繊維機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−137571(P2007−137571A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−332037(P2005−332037)
【出願日】平成17年11月16日(2005.11.16)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】