説明

繊維機械

【課題】糸端がパッケージに巻き取られる状況において、当該糸端がパッケージ近傍の部材に絡み付くことを防止できる繊維機械を提供する。
【解決手段】精紡機は、巻取ドラムと、クレードルアームと、エアシリンダと、を備える。巻取ドラムは、パッケージに接触して回転することにより、当該パッケージを回転駆動する。クレードルアームは、パッケージを回転可能に支持し、当該パッケージを巻取ドラムに近づける方向である近接方向と、当該パッケージを巻取ドラムから離間させる方向である離間方向と、に回動可能である。エアシリンダは、クレードルアームを回動させるための力を加えることが可能である。また、エアシリンダは、接圧ポートと、逆圧ポートと、を備える。接圧ポートには、クレードルアームを近接方向に回動させるために、空気圧が供給される。逆圧ポートには、クレードルアームを離間方向に回動させるために、空気圧が供給される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パッケージを巻取ドラムから離間させる構成を備えた繊維機械に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の繊維機械は、例えば特許文献1に開示されている。特許文献1が示す繊維機械としての紡績機は、クレードルアームに保持したボビン(巻取ボビン)に糸を巻き付けてパッケージを形成するための巻取装置を備える。この巻取装置は、ボビン又はパッケージに接触してこれを回転駆動する回転ドラム(巻取ドラム)を備える。クレードルアームは揺動軸(支軸)を中心に揺動可能に構成され、巻取速度の減速制御手段である揺動制御機構によって、ボビン又はパッケージの回転ドラムに対する接触動作及び離隔時間を制御できるよう構成されている。この構成によれば、糸弛み取り装置(糸貯留装置)の弛み取り量(貯留量)が所定量よりも減少した場合に上記制御を行うことで、パッケージを回転ドラムから離隔させて巻取速度を減速させ、弛み取り量を増加させることができる。
【0003】
この紡績機では、前記揺動制御機構として、クレードルアームの一端にピストンロッドを連結させたエアーシリンダと、エアーシリンダに接圧用圧空と離隔用圧空とを供給する圧空供給源と、エアーシリンダに対する圧空の供給経路を切り替えるためのソレノイドバルブ装置と、を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−277949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の紡績機の構成において、糸切れ等が生じて巻取りを停止する場合は、クレードルアームを揺動させてパッケージを回転ドラムから離隔させる。離隔させてもしばらくの間は、パッケージは慣性力によって回転を続けるため、糸端はパッケージに巻き取られる。このとき、糸端はトラバースガイドによって左右に振られながら巻き取られる。このように糸端が左右に振られると、当該糸端がボビン等のパッケージ近傍の部材に絡み付いてしまう。このような糸の絡み付きは手作業でほどく必要があり、紡績作業における多大な時間ロスの原因となっていた。
【0006】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、糸端がパッケージに巻き取られる状況において、当該糸端がパッケージ近傍の部材に絡み付くことを防止できる繊維機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0008】
本発明の観点によれば、以下の構成の繊維機械が提供される。即ち、この繊維機械は、巻取ドラムと、クレードルアームと、駆動機構と、制御部と、を備える。前記巻取ドラムは、パッケージに接触して回転することにより、当該パッケージを回転駆動する。前記クレードルアームは、前記パッケージを回転可能に支持し、当該パッケージを前記巻取ドラムに近づける方向である近接方向と、当該パッケージを前記巻取ドラムから離間させる方向である離間方向と、に揺動可能である。前記駆動機構は、前記クレードルアームを近接方向及び離間方向に駆動する。前記制御部は、前記駆動機構を制御することにより、前記パッケージと前記巻取ドラムとの離間距離を調整する。
【0009】
即ち、糸切れ等が生じた場合は、巻取りを停止するためにクレードルアームを離間させて、パッケージを停止させる。しかしながら、慣性回転するパッケージに糸端が巻き取られる際に、当該糸端がパッケージ近傍の部材に絡み付くことがある。この点、上記の構成によれば、パッケージ近傍の部材の形状に応じて離間距離を調整することで、糸端がパッケージ近傍の部材に絡み付くことを防止できる。
【0010】
前記の繊維機械においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、この繊維機械は、糸を外周面に巻き付けて一時的に貯留する糸貯留ローラを備える。前記クレードルアームは、少なくとも、前記パッケージと前記巻取ドラムとが離間している第1位置と、第1位置よりも離間方向に位置する第2位置と、の間で揺動可能である。前記制御部は、前記糸貯留ローラに巻き付いている糸の量が減少したときは、前記クレードルアームを第1位置に揺動させる。また、前記制御部は、糸端が前記パッケージに巻き取られるときは、前記クレードルアームを第2位置に揺動させる。
【0011】
これにより、糸貯留ローラに巻き付いている糸の量(糸貯留量)が減少した場合でも、クレードルアームを第1位置に揺動させることで、糸貯留ローラから糸が解舒される速度を上回る速度で新しく糸を巻き付かせて、糸貯留量を増加させることができる。また、糸切れ等が生じた場合でも、パッケージ近傍の部材の形状等に応じてクレードルアームを第2位置に揺動させることで、糸端がパッケージ近傍の部材に絡み付くことを防止できる。また、第2位置に比べて第1位置は離間距離が小さいため、糸貯留ローラに巻き付いている糸の量をキメ細かく調整することができる。一方、糸端が前記パッケージに巻き取られるときは、クレードルアームを第2位置に揺動させることで、糸端がパッケージ近傍の部材に絡み付くことを効果的に防止できる。
【0012】
前記の繊維機械においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、この繊維機械は、前記糸貯留ローラに巻き付いている糸の量を検出する貯留量センサを備える。前記制御部は、前記貯留量センサが検出した糸の量が一定量以下になったときに、前記クレードルアームを前記第1位置に揺動させる制御を行う。
【0013】
これにより、糸貯留ローラに巻き付いている糸の量を正確に検出できるので、的確なタイミングで糸貯留量を増加させることができる。
【0014】
前記の繊維機械においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、この繊維機械は、糸を往復運動させて前記パッケージを形成するトラバースガイドを備える。前記クレードルアームが前記第2位置に揺動することで、前記トラバースガイドから糸が外れる。
【0015】
即ち、糸端をパッケージに巻き取るときに糸がトラバースガイドに案内(拘束)されていると、当該糸端が左右に振られながら巻き取られるため、パッケージの端部近傍のボビンホルダ等に絡み付き易くなる。この点、上記の構成によれば、適切なタイミングでクレードルアームを離間方向に揺動させることで、糸をトラバースガイドから外すことができる。従って、糸端がトラバースガイドによって大きく振られてボビンホルダ等に絡み付くことを確実に防止できる。
【0016】
前記の繊維機械においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、この繊維機械は、前記駆動機構として流体圧シリンダを備える。前記流体圧シリンダは、第1ポートと、第2ポートと、を備える。前記第1ポートには、前記クレードルアームを近接方向に揺動させるために、流体圧が供給される。前記第2ポートには、前記クレードルアームを離間方向に揺動させるために、流体圧が供給される。
【0017】
これにより、第1ポートに供給する流体圧と第2ポートに供給する流体圧とを変化させることで、パッケージを巻取ドラムから離間させるときの離間距離を調整することができる。
【0018】
前記の繊維機械においては、前記流体圧シリンダは、前記クレードルアームを離間方向に揺動させるために、流体圧が供給される第3ポートを前記第2ポートとは別に備えることが好ましい。
【0019】
即ち、糸切れ等が生じてから糸端がパッケージに巻き取られるまでの時間は非常に短いため、クレードルアームを素早く離間方向に揺動させることが必要になる。この点、上記の構成によれば、第2ポートに流体圧を供給したことによる力だけでなく、第3ポートに流体圧を供給したことによる力も、クレードルアームに加えることができる。そのため、糸切れ等が生じてからパッケージを巻取ドラムから素早く離間させることができ、糸端がパッケージ近傍の部材に絡み付くことを一層効果的に防止できる。
【0020】
前記の繊維機械においては、前記第3ポートに流体圧が供給されている間に、前記クレードルアームが近接方向に揺動することを阻止するロック部を備えることが好ましい。
【0021】
これにより、パッケージを巻取ドラムから離間している間に近接方向に力が掛かった場合でも、この離間している状態を維持することができる。そのため、意図しないタイミングで巻取りが再開することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係る精紡機の全体的な構成を示した正面図。
【図2】精紡機の縦断面図。
【図3】精紡機の主要な構成を示すブロック図。
【図4】エアシリンダの断面図。
【図5】糸貯留ローラの貯留量を調整する制御を説明するフローチャート。
【図6】糸貯留ローラの貯留量を調整するときのエアシリンダの制御を説明するタイミングチャート。
【図7】巻取ドラムからパッケージを離間して貯留量を増加させている様子を示す縦断面図。
【図8】糸切れ時の制御を説明するフローチャート。
【図9】糸切れ時のエアシリンダの制御を説明するタイミングチャート。
【図10】巻取ドラムからパッケージを離間して紡績糸をトラバースガイドから外した直後の様子を示す縦断面図。
【図11】トラバースガイドから紡績糸が外れた場合と外れなかった場合とを比較する模式図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、本発明の一実施形態に係る精紡機(繊維機械)について、図1から図3を参照して説明する。なお、本明細書において「上流」及び「下流」とは、紡績時での糸の走行方向における上流及び下流を意味するものとする。図1は精紡機1の全体的な構成を示した正面図である。図2は精紡機1の縦断面図である。図3は、精紡機1の主要な構成を示すブロック図である。
【0024】
図1に示す繊維機械としての精紡機1は、並べて配置された多数の錘(紡績ユニット2)を備えている。また、この精紡機1は、糸継台車3と、ブロアボックス80と、原動機ボックス5と、を備えている。
【0025】
図1に示すように、各紡績ユニット2は、上流から下流へ向かって順に、ドラフト装置7と、紡績装置9と、糸貯留装置12と、巻取装置13と、を主要な構成として備えている。ドラフト装置7は精紡機1が備えるフレーム6の上端近傍に設けられており、このドラフト装置7から送られてくる繊維束8を紡績装置9で紡績するように構成している。紡績装置9で生成された紡績糸10は、糸貯留ローラ21を経由して巻取装置13によって巻き取られ、これによりパッケージ45が形成される。
【0026】
ドラフト装置7は、スライバ15を延伸して繊維束8にするためのものである。このドラフト装置7は図2に示すように、バックローラ16、サードローラ17、エプロンベルト18を装着したミドルローラ19、及びフロントローラ20の4つのローラを備えている。なお、ドラフト装置7の駆動及び停止は、図略のモータを介して、ユニットコントローラ(制御部)100によって制御されている。
【0027】
紡績装置9の詳細な構成は図示しないが、本実施形態では、旋回気流を利用して繊維束8に撚りを与えて紡績糸10を生成する空気式のものを採用している。この紡績装置9の駆動及び停止はユニットコントローラ100によって制御されている。
【0028】
紡績装置9の下流には、糸貯留装置12が設けられている。糸貯留装置12は、糸貯留ローラ21と、糸掛け部材22と、上流側ガイド23と、電動モータ25と、下流側ガイド26と、貯留量センサ27と、を備えている。
【0029】
糸掛け部材22は、紡績糸10に係合する(引っ掛ける)ことが可能に構成されており、紡績糸10に係合した状態で糸貯留ローラ21と一体的に回転することで、当該糸貯留ローラ21の外周面に紡績糸10を案内できるように構成されている。なお、糸掛け部材22は、糸貯留ローラ21に対して相対回転可能に支持されている。また、例えば磁気的手段等からなるトルク発生手段により、糸掛け部材22が糸貯留ローラ21に対し相対回転するのに抗するトルクが発生するように構成されている。この抵抗トルクにより、糸掛け部材22は糸貯留ローラ21の回転に追従して回転し、結果として両者が一体的に回転できるように構成されている。一方、この抵抗トルクに打ち勝つような力が糸掛け部材22に加わった場合は、糸掛け部材22は糸貯留ローラ21に対して相対的に回転することができる。
【0030】
糸貯留ローラ21は、その外周面に紡績糸10を巻き付けて貯留できるように構成されている。また、糸貯留ローラ21は、ユニットコントローラ100によって制御されている電動モータ25によって一定の回転速度で回転駆動される。この構成で、糸掛け部材22によって糸貯留ローラ21の外周面に案内された紡績糸10は、糸貯留ローラ21が回転することにより当該糸貯留ローラ21を締め付けるようにして巻かれ、糸貯留装置12よりも上流側の紡績糸10を引っ張る。これにより、紡績装置9から紡績糸10を連続的に引き出すことができる。
【0031】
また、糸貯留ローラ21上の紡績糸10が一定量以上になれば、糸貯留ローラ21と紡績糸10との間の接触面積が大きくなり、スリップ等が殆ど発生しない。従って、前記一定量以上の紡績糸10が糸貯留ローラ21上に巻かれた状態で当該糸貯留ローラ21を回転駆動することにより、スリップ等を発生させることなく、紡績装置9から紡績糸10を安定した速度で引き出すことができる。なお、前記一定量(スリップが発生しなくなり紡績糸10を引っ張る力が安定する糸貯留量)のことを、以下の説明で必要最低貯留量と呼ぶことがある。
【0032】
貯留量センサ27は、糸貯留ローラ21に巻き付いている紡績糸10の貯留量を非接触式で検出し、ユニットコントローラ100に送信するように構成されている。
【0033】
上流側ガイド23は、糸貯留ローラ21のやや上流側に配置されている。この上流側ガイド23は、糸貯留ローラ21の外周面に対して糸を適切に案内する案内部材として構成されるとともに、紡績装置9から伝播してくる紡績糸10の撚りが当該上流側ガイド23よりも下流側に伝わることを防止する撚り止めの役割を兼ねている。
【0034】
下流側ガイド26は、糸貯留ローラ21のやや下流側に配置されている。この下流側ガイド26は、回転する糸掛け部材22によって振り回される紡績糸10の軌道を規制し、これより下流側の糸の走行経路を安定させて紡績糸10を案内する案内部材として構成されている。
【0035】
精紡機1のフレーム6の前面側であって紡績装置9と前記糸貯留装置12との間の位置には、ヤーンクリアラ(糸欠陥検出装置)52が設けられている。そして、紡績装置9で紡出された紡績糸10は、糸貯留装置12で巻き取られる前に前記ヤーンクリアラ52を通過するようになっている。ヤーンクリアラ52は走行する紡績糸10の太さを監視し、紡績糸10の糸欠点を検出した場合に、糸欠点検出信号をユニットコントローラ100へ送信するように構成されている。また、ヤーンクリアラ52の近傍には、糸欠点検出時に紡績糸10を切断するためのカッタ57が配置されている。
【0036】
巻取装置13は、クレードルアーム71と、巻取ドラム72と、トラバース装置75とを備えている。
【0037】
巻取ドラム72は、前記ボビン48に紡績糸10を巻き付けて形成されるパッケージ45の外周面に接触して駆動できるように構成されている。また、トラバース装置75は、紡績糸10に係合可能なトラバースガイド76を備えている。この構成で、トラバースガイド76を図略の駆動手段によって往復動させながら巻取ドラム72を図略の電動モータによって駆動することで、巻取ドラム72に接触するパッケージ45を回転させ、紡績糸10を綾振りしつつ巻き取るようになっている。
【0038】
図2に示すように、クレードルアーム71は、紡績糸10を巻き取るためのボビン48を回転可能に支持できるように構成されるとともに、支軸70のまわりに揺動可能に支持されている。これにより、紡績糸10が巻かれることによりパッケージ45の糸層径が増大しても、クレードルアーム71が揺動することにより当該糸層径の増大を吸収し、前記パッケージ45の表面を巻取ドラム72に対して適切に接触させ続けることができる。
【0039】
また、このクレードルアーム71には、エアシリンダ(駆動機構)60が接続されている。このエアシリンダ60は複動形空気圧シリンダとして構成され、ピストンロッド61と、当該ピストンロッド61に固定されたピストン62と、接圧ポート(第1ポート)63と、逆圧ポート(第2ポート)64と、を主要な構成として備えている。エアシリンダ60は、当該エアシリンダ60が備えるシリンダケース内に、接圧ポート63及び逆圧ポート64から空気を供給できるように構成されている。そして、接圧ポート63側と逆圧ポート64側に供給する空気の空気圧に差があると、空気がピストン62を押してピストンロッド61を駆動するように構成されている。なお、このエアシリンダ60の各ポートに対して空気圧を供給するか否かは、ユニットコントローラ100によって制御されている。
【0040】
糸継台車3は、図2に示すように、スプライサ(糸継装置)43と、サクションパイプ44と、サクションマウス46と、を備えている。糸継台車3は、ある紡績ユニット2で糸切れや糸切断が発生すると、ユニットコントローラ100からの制御信号により、フレーム6に固定されたレール41(図1を参照)上を当該紡績ユニット2まで走行し、停止して糸継ぎを行うように構成されている。
【0041】
前記サクションパイプ44は、軸を中心に上下方向に回動可能であり、紡績装置9から送り出される糸端(上糸)を吸い込みつつ捕捉して、スプライサ43へ案内できるように構成されている。サクションマウス46は、軸を中心に上下方向に回動可能であり、前記巻取装置13に支持されたパッケージ45から糸端(下糸)を吸引しつつ捕捉して、スプライサ43へ案内できるように構成されている。スプライサ43の詳細な構成については省略するが、旋回空気流によって糸端同士を撚り合わせることにより、上糸と下糸とを糸継ぎするように構成されている。
【0042】
次に、エアシリンダ60の詳細な構成について図2及び図4を参照して説明する。図4は、エアシリンダ60の断面図である。エアシリンダ60は、ピストンロッド61と、ピストン62と、接圧ポート63と、逆圧ポート64と、リフタ部(ロック部)90と、を備えている。
【0043】
接圧ポート63は、ブロアボックス80内に備えられた接圧用圧空源65に接続されている。この接圧用圧空源65から接圧ポート63に空気圧を供給すると、当該接圧ポート63からシリンダケース内に供給される空気がピストン62を押すので、ピストンロッド61がクレードルアーム71を引っ張る。これにより、パッケージ45を巻取ドラム72に押し付ける方向(近接方向)にクレードルアーム71が回動する方向の力(トルク)を加えることができるように構成されている。
【0044】
なお、接圧ポート63と接圧用圧空源65との間には図略の電磁弁が配置されており、ユニットコントローラ100の制御により、接圧ポート63に空気圧を供給するか否かを切り替えることができるように構成されている。
【0045】
一方、逆圧ポート64には、減圧弁67を介して接圧用圧空源65が接続されている。この接圧用圧空源65から逆圧ポート64に空気圧を供給すると、接圧ポート63に供給したときとは反対の方向にピストン62が押される。そのため、ピストンロッド61がクレードルアーム71を押し上げる。これにより、パッケージ45を巻取ドラムから離間させる方向(離間方向)にクレードルアーム71が回動する方向の力を加えることができる。
【0046】
なお、接圧ポート63と同様に、逆圧ポート64に空気圧を供給するか否かは、ユニットコントローラ100の制御によって切替可能に構成されている。
【0047】
また、減圧弁67は、前記接圧用圧空源65に接続されており、当該接圧用圧空源65が供給する空気圧から減圧された空気圧を逆圧ポート64に供給している。これにより、接圧ポート63より低い空気圧を逆圧ポート64に供給することができる。
【0048】
従って、接圧ポート63に空気圧が供給されている場合は、逆圧ポート64側の空気圧が接圧ポート63側の空気圧をある程度相殺するので、クレードルアーム71に近接方向に加わる力(トルク)を弱めることができる。一方、接圧ポート63に空気圧が供給されていない場合は、逆圧ポート64側の空気圧がピストンロッド61に図4の上向きに力を加えるため、クレードルアーム71を離間方向へ回動(変位)させることができる。
【0049】
このように、接圧ポート63と逆圧ポート64とに空気圧の差があると、その差分の空気圧がピストン62を押してピストンロッド61を駆動するように構成されている。
【0050】
また、エアシリンダ60は、リフタ部90を備えている。図4に示すように、リフタ部90は、リフタポート(第3ポート)68と、リフタピストン85と、テーパ部材86と、鋼球87と、バネ88と、を有する。
【0051】
図2に示すように、リフタポート68にはリフタ用圧空源69が接続されており、リフタ部90内に空気圧を供給できるように構成されている。また、接圧ポート63及び逆圧ポート64と同様に、リフタポート68に空気圧を供給するか否かは、ユニットコントローラ100の制御により切替可能に構成されている。
【0052】
リフタポート68に空気圧が供給されていない場合、リフタピストン85及びテーパ部材86は、図4に示すようにバネ88によって図の下向きに付勢されている。この状態においては、ピストンロッド61は図中の上下方向に自由に動くことができる。一方、リフタポート68に空気圧が供給されると、当該空気圧の作用によってリフタピストン85及びテーパ部材86が図4の上向きに駆動される。
【0053】
図4に示すように、テーパ部材86には、ピストンロッド61を上下に挿通させることができる挿通孔が形成されている。そして、この挿通孔は図4の下側が細まるようなテーパ状に形成されており、当該挿通孔の内周面が傾斜面86aとなっている。また、傾斜面86aとピストンロッド61との間には、複数の鋼球87が配置されている。
【0054】
以上の構成で、リフタポート68に空気圧が供給されてリフタピストン85及びテーパ部材86が図4の上向きに駆動されると、傾斜面86aとピストンロッド61との間に鋼球87が食い込む。そして、傾斜面86aと鋼球87によるクサビ作用によってピストンロッド61がテーパ部材86にロックされ、ピストンロッド61、テーパ部材86及びリフタピストン85が一体的に図4の上向きに移動する。即ち、リフタポート68に空気圧を供給することにより、リフタピストン85のストローク分だけ、ピストンロッド61を図4の上向きに駆動できるように構成されている。なお、この方向にピストンロッド61を駆動することにより、クレードルアーム71を図2の左側に若干回動させ、パッケージ45を巻取ドラム72から僅かに離間させることができる。
【0055】
また、リフタポート68に空気圧が供給されている場合、前記クサビ作用によってピストンロッド61がロックされているので、当該ピストンロッド61が図4の下向きに動かないように固定することができる。一方、リフタポート68に空気圧が供給されている場合であっても、ピストンロッド61を図4の上向きに動かすことは可能である。即ち、ピストンロッド61を図4の上向きに動かすと、当該ピストンロッド61と傾斜面86aとの間に食い込んでいた鋼球87が外れるので、クサビ作用によるロックが解除されてピストンロッド61を上向きに動かすことができる。このようにリフタ部90は、リフタポート68に空気圧を供給することで、ピストンロッド61の移動方向を一方向にのみ規制するように機能する。
【0056】
次に、本実施形態の精紡機1において糸貯留ローラ21の貯留量が前記必要最低貯留量より少なくなることを防止する制御について図5から図7を参照して説明する。図5は、糸貯留ローラ21の貯留量を調整する制御を説明するフローチャートである。図6は、糸貯留ローラ21の貯留量を調整するときのエアシリンダ60の制御を説明するタイミングチャートである。図7は、巻取ドラム72からパッケージ45を離間して貯留量を増加させている様子を示す縦断面図である。
【0057】
なお、タイミングチャートにおいて、「リフタポート」とあるのはリフタポート68に対する空気圧の供給状態を、「接圧ポート」とあるのは接圧ポート63に対する空気圧の供給状態を、「逆圧ポート」とあるのは逆圧ポート64に対する空気圧の供給状態を、それぞれ示している。
【0058】
まず、通常の巻取時(図2の状態)においては、逆圧ポート64とリフタポート68には空気圧が供給されない。そして、接圧ポート63に空気圧が供給されることにより、パッケージ45と巻取ドラム72が所定の接圧で接触し、適切に巻取りを行うことができる。
【0059】
また、貯留量センサ27は、糸貯留ローラ21が貯留している紡績糸10の貯留量を検出してユニットコントローラ100へ送信している。そして、ユニットコントローラ100は、この貯留量が前記必要最低貯留量以下か否かを判断している(S101)。ユニットコントローラ100は、貯留量が前記必要最低貯留量以下になったとを判断すると、リフタポート68に空気圧を供給する(S102)。
【0060】
リフタポート68に空気圧が供給されると、リフタピストン85のストローク分だけ、ピストンロッド61が図7の上向きに駆動され、図7のようにパッケージ45が巻取ドラム72から離間する(第1位置)。また、図6に示すように、リフタポート68に空気圧を供給している間においても、接圧ポート63には空気圧が供給されている。よって、ピストンロッド61は、図7の下向きに力を受けるが、リフタ部90のクサビ作用によりロックされているため、ピストンロッド61は移動しない。そのため、リフタ部90に空気圧が供給されている間は、パッケージ45は巻取ドラム72から離間した状態を維持する。
【0061】
また、パッケージ45が巻取ドラム72から離間すると、駆動力が失われるので、パッケージ45は徐々に回転速度を落としていく。
【0062】
そのため、紡績糸10がパッケージ45に巻き取られる速度は低下する。一方、紡績装置9は、通常時と同等の速度で紡績糸10を生成しているため、糸貯留ローラ21の上流側から供給される紡績糸10が、糸貯留ローラ21の下流側へ解舒される紡績糸10よりも多くなる。そのため、糸貯留ローラ21の貯留量が増加していく。
【0063】
なお、紡績糸10が巻き取られる速度が低下することで、糸貯留ローラ21に掛かる張力が低下すると、糸掛け部材22は糸貯留ローラ21と一体となって回転し、糸貯留ローラ21の下流側へ紡績糸10が解舒されなくなる。これによっても、糸貯留ローラ21の貯留量は増加していく。
【0064】
このように糸の貯留量が増加していく間においても、貯留量センサ27は貯留量の検出を続けており、取得した貯留量をユニットコントローラ100へ送信している。そして、ユニットコントローラ100は、この貯留量が所定量以上であるか否かを判断している(S103)。ここで、所定量とは、必要最低貯留量に対して一定のマージンを見込んで多く定められた量である。
【0065】
そして、貯留量が上記の所定量以上になると、ユニットコントローラ100は、リフタポート68への空気圧の供給を停止する(S104)。リフタポート68への空気圧の供給が停止されると、クサビ作用によるロックが解除される。そして、接圧ポート63に供給されている空気圧の作用によって、ピストンロッド61が図7の下向きに駆動される。このピストンロッド61の駆動によってクレードルアーム71は接触方向に回動するため、パッケージ45が巻取ドラム72と接触する。そして、巻取ドラム72と接触してパッケージ45が回転することで、紡績糸10の通常速度での巻取作業が再開される。
【0066】
次に、本実施形態の精紡機1において糸欠点が検出され、巻取りが停止した場合の動作について、図8から図10を参照して説明する。図8は、糸切れ時の制御を説明するフローチャートである。図9は、糸切れ時のエアシリンダの制御を説明するタイミングチャートである。図10は、巻取ドラム72からパッケージ45を離間して紡績糸10をトラバースガイド76から外した直後の様子を示す縦断面図である。
【0067】
紡績糸10の巻取中にヤーンクリアラ52が糸欠点を検出すると、当該ヤーンクリアラ52は糸欠点検出信号をユニットコントローラ100へ送信する。ユニットコントローラ100は、この糸欠点検出信号を受信すると(S201)、直ちにカッタ57によって紡績糸10を切断する(S202)。このカッタ57の切断動作により紡績糸10が切断され、下流側の糸端は、パッケージ45の回転に伴って当該パッケージ45側に巻き取られていく。
【0068】
ユニットコントローラ100は、紡績糸10を切断すると即座に接圧ポート63への空気圧の供給を停止し、同時に逆圧ポート64に空気圧を供給する(S203)。これにより、接圧ポート63に供給された空気圧の作用がピストンロッド61を図10の下向きに駆動する力が無くなる。そして、逆圧ポート64に供給された空気圧の作用によってピストンロッド61は上向きに駆動される。この結果、パッケージ45は巻取ドラム72から離間する。
【0069】
次に、ユニットコントローラ100は、リフタポート68に対する空気圧の供給を開始する(S204)。すると、リフタピストン85のストローク分だけ、ピストンロッド61が図10の上向きに駆動される。これにより、パッケージ45を巻取ドラム72から更に離した位置(第2位置)まで移動させることができる。
【0070】
なお、この一連のピストンロッド61の上昇はヤーンクリアラ52の糸欠点検出信号を受信してから即座に行われる。このようにピストンロッド61を素早く上昇させることで、(慣性で回転している)パッケージ45に紡績糸10の糸端が巻き取られるまでに、当該紡績糸10をトラバースガイド76から外すことができる。また、接圧ポート63及び逆圧ポート64による作用と、リフタポート68による作用と、が相まって、ピストンロッド61を大きく移動させることができる。これにより、紡績糸10をトラバースガイド76から確実に外すことができる。
【0071】
このようにトラバースガイド76から糸端を外すことによる効果について、図11を参照して説明する。図11は、トラバースガイド76から紡績糸10が外れた場合と外れなかった場合とを比較する模式図である。図11に示すように、トラバースガイド76は、ガイド面76aが紡績糸10に接触した状態で左右に往復動している。そのため、糸端が巻き取られる際に紡績糸10がトラバースガイド76によって案内されていると、糸端がガイド面76aによってパッケージの軸方向に振られ、ボビン48のボビンホルダ49等に絡み付いてしまう。この様子を図11(a)に示す。つまり、図11(a)で示した状況の後に、トラバースガイド76が図11(a)の左側へ動くことで紡績糸10は左へ振られる。その状態で糸端がトラバースガイド76を通過すると、糸端は左へ大きく振られ、ボビンホルダ49に絡み付いてしまう。このような糸の絡みは手作業で除去する必要があり、大きな時間ロスになる。
【0072】
一方、本実施形態の構成のように、トラバースガイド76から紡績糸10を外すことができた場合は、図11(b)に示すように紡績糸10の上流側はパッケージの軸方向の中央付近にあるため、糸端がボビン48の端部まで移動せずにパッケージ上に位置する。そのため、紡績糸10がボビン48等に絡む確率を低減させることができる。また、糸端がパッケージ中央付近に位置するため、サクションマウス46による口出しが容易となる。
【0073】
そして、ユニットコントローラ100は、接圧ポート63に空気圧を供給するとともに、逆圧ポートへの空気圧の供給を停止する(S205)。なお、この動作により、ピストンロッド61は通常時と同様に図10の下向きに力を受けるが、リフタ部90のクサビ作用によるロックが働いているので、現状の位置よりも下降することができない。
【0074】
続いて、ユニットコントローラ100は糸継台車3に制御信号を送り、当該紡績ユニット2の前まで走行させて糸継動作を開始させる(S206)。まず、ユニットコントローラ100は、紡績糸10の生成を再開する。前記紡績の再開と並行して、ユニットコントローラ100は、サクションパイプ44を紡績装置9の下流側近傍まで回動させるとともに、当該サクションパイプ44に吸引流を発生させて、紡績装置9より送り出される糸端(上糸)を捕捉する。続いて、吸引を続行しながらサクションパイプ44を下方に回動させることで、紡績装置9から紡績糸10を引き出しつつ、スプライサ43へ案内する。
【0075】
また、上記サクションパイプ44の回動動作と前後して、ユニットコントローラ100は、サクションマウス46をパッケージ45の表面近傍まで回動させ、吸引流を発生させる。また、前記サクションマウス46が吸引を開始するのと略同時に、パッケージ45の逆回転を開始する。これにより、パッケージ45の外周面から糸端(下糸)が引き出され、サクションマウス46によって吸引捕捉される。なお、このときパッケージ45から前記糸欠点を含む糸が引き出されてサクションマウス46に吸われることにより、前記糸欠点を含む糸をパッケージ45から除去することができる。
【0076】
続いて、パッケージ45を逆回転させつつ、下糸を吸引した状態でサクションマウス46を上方に回動させて、当該下糸をスプライサ43へ案内する。スプライサ43に下糸が案内されると、パッケージ45の逆回転を停止させる。
【0077】
スプライサ43に上糸及び下糸が案内されると、当該スプライサ43による糸継ぎが行われる。糸継中においても、紡績装置9による紡績は継続される。なお、糸継動作中は巻取装置13による巻取りが停止しているが、この間にも紡績糸10は紡績装置9から連続的に送り出されているから、紡績糸10をそのままにしていると糸の弛みが発生してしまう。そこで、紡績糸10を糸貯留ローラ21に巻き付かせることで、紡績糸10の弛みを防止する。
【0078】
そして、スプライサ43による糸継ぎが終了すると、リフタポート68への空気圧の供給を停止し(S207)、ピストンロッド61のロックを解除する。すると、接圧ポート63に供給されている空気圧の作用によりピストンロッド61が図10の下向きに駆動され、パッケージ45を巻取ドラム72に接触させる方向にクレードルアーム71が回動する。これにより、パッケージ45と巻取ドラム72とが接触して、紡績糸10の巻取りが再開する。
【0079】
なお、必要に応じて逆圧ポート64を駆動して、クレードルアーム71に加えられる力(トルク)を通常より弱めることもできる。この場合、パッケージ45は、巻取ドラム72に対して、通常の巻取時よりも弱い接圧力で接触する。これにより、パッケージ45の回転速度の急激な増加を防ぎ、紡績糸10の張り切れを防止することができる。
【0080】
以上で説明したように、本実施形態の精紡機1は、巻取ドラム72と、クレードルアーム71と、エアシリンダ60と、ユニットコントローラ100と、を備える。巻取ドラム72は、パッケージ45に接触して回転することにより、当該パッケージ45を回転駆動する。クレードルアーム71は、パッケージ45を回転可能に支持し、当該パッケージ45を巻取ドラム72に近づける方向である近接方向と、当該パッケージ45を巻取ドラム72から離間させる方向である離間方向と、に回動可能である。エアシリンダ60は、クレードルアーム71を近接方向及び離間方向に駆動している。ユニットコントローラ100は、エアシリンダ60を制御することにより、パッケージ45と巻取ドラム72との離間距離を調整している。
【0081】
これにより、紡績糸10の絡み付きによる作業効率の低下を防止できる。即ち、本実施形態の精紡機1では、糸切れ等が生じた場合は、巻取りを停止するためにクレードルアーム71を離間させて、パッケージ45を停止させる。しかしながら、慣性回転するパッケージ45に糸端が巻き取られる際に、当該糸端がボビンホルダ49等に絡み付くことがある。この点、本実施形態の構成によれば、接圧ポート63に供給する空気圧と逆圧ポート64に供給する空気圧とを変化させることで、パッケージ45を巻取ドラム72から離間させるときの離間距離を調整することができる。そのため、パッケージ45近傍の部材の形状に応じて離間距離を調整することで、糸端がボビンホルダ49等に絡み付くことを防止できる。
【0082】
また、本実施形態の精紡機1は、紡績糸10を外周面に巻き付けて貯留する糸貯留ローラ21を備えている。クレードルアーム71は、少なくとも、パッケージ45と巻取ドラム72とが離間している第1位置と、第1位置よりも離間方向に位置する第2位置と、の間で回動可能である。ユニットコントローラ100は、糸貯留ローラ21に巻き付いている紡績糸10の量が減少したときは、クレードルアーム71を第1位置に回動させる。糸端がパッケージ45に巻き取られるときは、クレードルアーム71を第2位置に回動させる。
【0083】
これにより、糸貯留ローラ21に巻き付いている紡績糸10の量(糸貯留量)が減少した場合でも、クレードルアーム71を第1位置に回動させることで、糸貯留ローラ21から紡績糸10が解舒される速度を上回る速度で新しく紡績糸10を巻き付かせて、糸貯留量を増加させることができる。また、糸切れ等が生じた場合でも、パッケージ45近傍の部材の形状等に応じて、クレードルアーム71を第2位置に回動させることで、糸端がパッケージ45近傍の部材に絡み付くことを防止できる。また、第2位置に比べて第1位置は離間距離が小さいため、糸貯留ローラ21に巻き付いている糸の量をキメ細かく調整することができる。一方、糸端がパッケージ45に巻き取られるときは、クレードルアーム71を第2位置に回動させることで、糸端がパッケージ45近傍の部材に絡み付くことを効果的に防止できる。
【0084】
また、本実施形態の精紡機1は、糸貯留ローラに巻き付いている紡績糸10の量を検出する貯留量センサ27を備える。ユニットコントローラ100は、貯留量センサ27が検出した紡績糸10の量が必要最低貯留量以下になったときに、クレードルアーム71を第1位置に回動させる制御を行う。
【0085】
これにより、糸貯留ローラ21に巻き付いている紡績糸10の量を正確に検出できるので、的確なタイミングで糸貯留量を増加させることができる。
【0086】
また、本実施形態の精紡機1は、紡績糸10を往復運動させてパッケージ45を形成するトラバースガイド76を備える。そして、クレードルアーム71が第2位置に回動することで、トラバースガイド76から糸が外れるように構成されている。
【0087】
即ち、糸端をパッケージ45に巻き取るときに紡績糸10がトラバースガイド76によって案内(拘束)されていると、当該糸端が左右に振られながら巻き取られるため、ボビンホルダ49等に絡み付き易くなる。この点、上記の構成によれば、クレードルアーム71を離間方向に回動させることで、紡績糸10を(早いタイミングで)トラバースガイド76から外すことができる。従って、糸端がトラバースガイド76によって大きく振られてボビンホルダ等に絡み付くことを確実に防止できる。
【0088】
また、本実施形態の精紡機1は、駆動機構としてのエアシリンダ60を備えている。エアシリンダ60は、接圧ポート63と、逆圧ポート64と、を備える。接圧ポート63には、クレードルアーム71を近接方向に回動させるために、空気圧が供給される。逆圧ポート64には、クレードルアーム71を離間方向に回動させるために、空気圧が供給される。
【0089】
これにより、接圧ポート63に供給する空気圧と逆圧ポート64に供給する空気圧とを変化させることで、パッケージ45を巻取ドラム72から離間させるときの離間距離を調整することができる。
【0090】
また、本実施形態の精紡機1においては、エアシリンダ60は、クレードルアーム71を離間方向に回動させるために、空気圧が供給されるリフタポート68を逆圧ポート64とは別に備える。
【0091】
即ち、糸切れ等が生じてから糸端がパッケージ45に巻き取られるまでの時間は非常に短いため、クレードルアーム71を素早く離間方向に回動させることが必要になる。この点、上記の構成によれば、逆圧ポート64に空気圧を供給したことによる力だけでなく、リフタポート68に空気圧を供給したことによる力も、クレードルアーム71に加えることができる。そのため、糸切れ等が生じてからパッケージ45を巻取ドラム72から素早く離間させることができ、糸端がボビンホルダ49等に絡み付くことを一層効果的に防止できる。
【0092】
また、本実施形態の精紡機1は、リフタポート68に空気圧が供給されている間に、クレードルアーム71が近接方向に回動することを阻止するロック部を備える。
【0093】
これにより、パッケージ45を巻取ドラム72から離間している間に近接方向に力が掛かった場合でも、この離間している状態を維持することができる。そのため、意図しないタイミングで巻取りが再開することを防止できる。
【0094】
また、本実施形態の精紡機1は、紡績糸10を往復運動させてパッケージ45を形成するトラバースガイド76を備える。そして、クレードルアーム71が離間方向に回動することで、トラバースガイド76から糸が外れる。
【0095】
即ち、糸端をパッケージ45に巻き取るときに紡績糸10がトラバースガイド76によって案内(拘束)されていると、当該糸端が左右に振られながら巻き取られるため、ボビンホルダ49等に絡み付き易くなる。この点、上記の構成によれば、クレードルアーム71を離間方向に回動させることで、紡績糸10を(早いタイミングで)トラバースガイド76から外すことができる。従って、糸端がトラバースガイド76によって大きく振られてボビンホルダ等に絡み付くことを確実に防止できる。
【0096】
また、本実施形態の精紡機1は、紡績糸10を外周面に巻き付けて一時的に貯留する糸貯留ローラ21を備える。そして、糸貯留ローラ21に巻き付いている紡績糸10の量が減少すると、クレードルアーム71を離間方向に回動する。
【0097】
これにより、紡績糸10に掛かる張力を一定にして巻取りを行うことができる。また、クレードルアーム71を離間方向に回動することで、パッケージ45の回転速度(巻取速度)を低下させることができる。従って、糸貯留ローラ21に巻き付いている紡績糸10の量(糸貯留量)が減少した場合でも、クレードルアーム71の離間方向の回動によって、糸貯留ローラ21から紡績糸10が解舒される速度を上回る速度で新しく糸を巻き付かせて、糸貯留量を増加させることができる。以上から、紡績糸10に掛かる張力を継続的に一定にして巻取りを行うことができる。
【0098】
また、本実施形態の精紡機1は、糸貯留ローラ21に巻き付いている紡績糸10の量を検出する貯留量センサを備える。
【0099】
これにより、糸貯留ローラ21に巻き付いている紡績糸10の量を正確に検出できるので、的確なタイミングで糸貯留量を増加させることができる。
【0100】
また、本実施形態の精紡機1においては、クレードルアーム71は、少なくとも、パッケージ45と巻取ドラム72とが離間している第1位置と、第1位置よりも離間方向に位置する第2位置と、の間で回動可能である。糸貯留ローラ21に巻き付いている紡績糸10の量が減少したときは、クレードルアーム71を第1位置に回動させる。糸切断後の糸端がパッケージ45に巻き取られるときは、クレードルアーム71を第2位置に回動させる。
【0101】
これにより、クレードルアーム71を、パッケージ45を巻取ドラム72に接触させる位置と、前記第1位置と、の間で回動させることで、糸貯留量をキメ細かく調整することができる。一方、糸端がパッケージ45に巻き取られるときは、クレードルアーム71を前記第2位置に回動させることで、糸端がボビンホルダ49等に絡み付くことを効果的に防止できる。
【0102】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0103】
巻取りを停止させる例として糸欠点を検出した場合を説明したが、これに代えて、糸切れが生じた場合及びパッケージが満巻になった場合等においても、本発明の構成を適用することができる。
【0104】
糸欠点を検出した場合の制御において、上記の実施形態ではクレードルアーム71を離間方向へ回動させるために各ポートを動作させたが、この動作させる順番は上記実施形態で示した順番に限られない。例えば、先にリフタポート68に空気圧を供給して、接圧ポート63及び逆圧ポート64を動作させても良い。
【0105】
流体圧シリンダは、空気圧シリンダに限らず、例えば油圧シリンダとすることができる。
【0106】
また、上記実施形態では駆動機構として空気圧シリンダを用いたが、駆動機構として他の構成を用いることができる。例えば、電磁ソレノイドを用いる構成や、カム及び電動モータ等を用いた場合でも、上記の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0107】
糸継台車3を備える構成に代えて、各紡績ユニット2が糸継ぎのための構成を備えるように変更することができる。
【0108】
逆圧ポート64には減圧弁67を介して接圧用圧空源65を接続する構成としたが、これに限らず、例えば接圧ポート63と逆圧ポート64には、別々の圧空源から空気圧を供給する構成としても良い。また接圧用圧空源65とリフタ用圧空源69は別々でなくても良く、接圧用圧空源65の空気圧をリフタポート68に供給しても良い。
【0109】
本発明の構成は、紡績機に限らず、回転するドラムをパッケージに接触させることにより当該パッケージを回転駆動させる構成の繊維機械(例えば自動ワインダ等)に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0110】
1 精紡機(繊維機械)
2 紡績ユニット
10 紡績糸
21 糸貯留ローラ
27 貯留量センサ
45 パッケージ
48 ボビン
49 ボビンホルダ
60 エアシリンダ(駆動機構、流体圧シリンダ)
63 接圧ポート(第1ポート)
64 逆圧ポート(第2ポート)
68 リフタポート(第3ポート)
71 クレードルアーム
72 巻取ドラム
76 トラバースガイド
100 ユニットコントローラ(制御部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パッケージに接触して回転することにより、当該パッケージを回転駆動する巻取ドラムと、
前記パッケージを回転可能に支持し、当該パッケージを前記巻取ドラムに近づける方向である近接方向と、当該パッケージを前記巻取ドラムから離間させる方向である離間方向と、に揺動可能なクレードルアームと、
前記クレードルアームを近接方向及び離間方向に駆動する駆動機構と、
前記駆動機構を制御することにより、前記パッケージと前記巻取ドラムとの離間距離を調整する制御部と、
を備えることを特徴とする繊維機械。
【請求項2】
請求項1に記載の繊維機械であって、
糸を外周面に巻き付けて一時的に貯留する糸貯留ローラを備え、
前記クレードルアームは、少なくとも、前記パッケージと前記巻取ドラムとが離間している第1位置と、第1位置よりも離間方向に位置する第2位置と、の間で揺動可能であり、
前記制御部は、前記糸貯留ローラに巻き付いている糸の量が減少したときは、前記クレードルアームを第1位置に揺動させ、
糸端が前記パッケージに巻き取られるときは、前記クレードルアームを第2位置に揺動させることを特徴とする繊維機械。
【請求項3】
請求項2に記載の繊維機械であって、
前記糸貯留ローラに巻き付いている糸の量を検出する貯留量センサを備え、
前記制御部は、前記貯留量センサが検出した糸の量が一定量以下になったときに、前記クレードルアームを第1位置に揺動させる制御を行うことを特徴とする繊維機械。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の繊維機械であって、
糸を往復運動させて前記パッケージを形成するトラバースガイドを備え、
前記クレードルアームが第2位置に揺動することで、前記トラバースガイドから糸が外れることを特徴とする繊維機械。
【請求項5】
請求項1から4までの何れか一項に記載の繊維機械であって、
前記駆動機構として流体圧シリンダを備え、
前記流体圧シリンダは、
前記クレードルアームを近接方向に揺動させるために、流体圧が供給される第1ポートと、
前記クレードルアームを離間方向に揺動させるために、流体圧が供給される第2ポートと、
を備えることを特徴とする繊維機械。
【請求項6】
請求項5に記載の繊維機械であって、
前記流体圧シリンダは、前記クレードルアームを離間方向に揺動させるために、流体圧が供給される第3ポートを前記第2ポートとは別に備えることを特徴とする繊維機械。
【請求項7】
請求項6に記載の繊維機械であって、
前記第3ポートに流体圧が供給されている間に、前記クレードルアームが近接方向に揺動することを阻止するロック部を備えることを特徴とする繊維機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−37608(P2011−37608A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−188647(P2009−188647)
【出願日】平成21年8月17日(2009.8.17)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】