説明

繊維補強基材と、これを用いた積層基材及び高周波帯域用基板

【課題】周波数帯域の上昇に対する誘電正接の上昇を抑制して伝送損失を低く抑えるとともに、吸水率が低く、寸法安定性に優れた繊維補強基材と、これを用いた積層基材及び高周波帯域用基板を提供する。
【解決手段】ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維により形成されたシート材と、フッ素樹脂とを含む繊維補強基材であって、前記フッ素樹脂の含有率が、50〜95質量%である繊維補強基材とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種回路基板の製造に使用される繊維補強基材、特にマイクロ波、ミリ波とよばれる3〜300GHzの高周波帯域用基板に好適に用いられる繊維補強基材と、これを用いた積層基材及び高周波帯域用基板に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、高周波帯域における信号伝送において、伝送速度の向上とノイズの低減が求められており、プリント回路基板やアンテナ基板においても基板材料、配線技術、回路形態等からの検討が進められている。
【0003】
従来、高周波帯域用のプリント回路基板やアンテナ基板等として用いられる高周波帯域用基板は、低誘電率かつ低誘電正接であるガラスクロス/フッ素樹脂基板が多用されている。しかし、上記ガラスクロス/フッ素樹脂基板は、周波数帯域が上昇すると誘電正接が高くなり、伝送損失が増大するという欠点があった。これらの問題点を解決する方法として、アラミド繊維シート材にフッ素樹脂を含浸させたプリプレグを絶縁材として用いたアラミドシート/フッ素樹脂基板が提案されている(特許文献1、2参照)。前記アラミドシート/フッ素樹脂基板は、周波数帯域の上昇に対する誘電正接の上昇を抑制して伝送損失を低く抑えることが可能であるが、吸水率が高いため、半田耐熱性試験後の基板に膨れが発生する場合があり、半田耐熱性が十分とはいえなかった。また、吸水率が高いと、基板内に水分が取り込まれることによって、基板の誘電率及び誘電正接が不均一となる問題があった。
【0004】
一方、特許文献3には、ポリアリレート系液晶ポリマーからなる不織布にフッ素樹脂を含浸または積層させてなる基板材料を用いた、ポリアリレート系液晶ポリマー不織布/フッ素樹脂基板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−171480号公報
【特許文献2】特開2007−123737号公報
【特許文献3】特開2007−118528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、フッ素樹脂の線膨張係数は60〜160ppm/℃と非常に高いため、特許文献3の基板材料では、ポリアリレート系液晶ポリマーからなる繊維による補強効果が十分ではなく、寸法安定性の高い基板を得ることが困難であった。
【0007】
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものである。すなわち本発明は、周波数帯域の上昇に対する誘電正接の上昇を抑制して伝送損失を低く抑えるとともに、吸水率が低く、寸法安定性に優れた繊維補強基材と、これを用いた積層基材及び高周波帯域用基板を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下に示す手段により、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維により形成されたシート材と、フッ素樹脂とを含む繊維補強基材であって、前記フッ素樹脂の含有率が、50〜95質量%である繊維補強基材に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、周波数帯域の上昇に対する誘電正接の上昇を抑制して伝送損失を低く抑えるとともに、吸水率が低く、寸法安定性に優れた繊維補強基材、積層基材及び高周波帯域用基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の繊維補強基材の一例を示す断面図である。
【図2】本発明の繊維補強基材の別の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に用いるポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(以下、PBOともいう)繊維の引張強度は、特に限定されないが、3GPa以上であることが好ましく、より好ましくは4GPa以上、さらに好ましくは5GPa以上である。かかる強度のPBO繊維であれば、補強繊維としての繊維性能をマトリックス樹脂であるフッ素樹脂に十分に反映させることができる。なお、孔あけ等の加工性の観点からは、PBO繊維の引張強度は、10GPa以下であることが好ましい。PBO繊維の引張強度は、PBOの分子量や紡糸時のPBO溶液の濃度等により制御できる。
【0013】
また、本発明に用いるPBO繊維の引張弾性率も、特に限定されないが、100GPa以上であることが好ましく、より好ましくは125GPa以上、さらに好ましくは150GPa以上である。引張弾性率が100GPa以上であれば、PBO繊維によるフッ素樹脂の補強効果(線膨張係数の低減効果)を十分に発揮させることができる。なお、孔あけ等の加工性の観点からは、PBO繊維の引張弾性率は、500GPa以下であることが好ましい。PBO繊維の引張弾性率は、紡糸時のプロセス条件によって分子配向を調整することにより制御できる。
【0014】
また、本発明に用いるPBO繊維の破断伸度も、特に限定されないが、15%以下であることが好ましく、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下である。破断伸度が15%以下であれば、PBO繊維によるフッ素樹脂の補強効果(線膨張係数の低減効果)を十分に発揮させることができる。なお、紡糸時の歩留り(糸切れ率)の観点からは、PBO繊維の破断伸度は、1%以上であることが好ましい。PBO繊維の破断伸度は、PBOの分子量や紡糸時のPBO溶液の濃度等により制御できる。
【0015】
また、本発明に用いるPBO繊維の表面は、必要に応じてカップリング剤(アミノシラン、エポキシシランなど)による処理、サンドブラスト処理、ウェットブラスト処理、ホーリング処理、コロナ処理、プラズマ処理、イオンガン処理、エッチング処理などを施してもよい。
【0016】
本発明に用いるPBO繊維の単糸直径は、8〜15μmであることが好ましく、より好ましくは9〜13μm、さらに好ましくは10〜12μmである。単糸直径が8μm以上であれば、例えば繊維補強基材を表面処理して金属材料等との接着性を向上させる際に、十分な表面積を有するため、表面に凹凸構造を多数付与できる。一方、単糸直径が15μm以下であれば、例えば繊維補強基材を表面処理して接着性を向上させる際に、凹凸構造の付与による強度低下を抑制できる。PBO繊維の単糸直径は、紡糸時のプロセス条件である吐出量や延伸倍率等により制御できる。
【0017】
本発明に用いるPBO繊維により形成されたシート材の形態は特に限定されないが、織布、不織布、UD材(繊維を一方向へ引き揃えた不織布)などが例示できる。繊維補強基材の線膨張係数を低減させる観点からは、織布、不織布が好ましい。
【0018】
本発明で用いるフッ素樹脂は、従来公知のフッ素樹脂から適宜選択して使用することができ、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(EPE)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、クロロトリフルオロエテレン・エチレン共重合体(ECTFE)などが例示できる。
【0019】
中でも、繊維補強基材の吸水率を低減させる観点と、耐熱性、難燃性、及び電気特性の観点から、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(EPE)が好ましい。
【0020】
前記フッ素樹脂としては、繊維補強基材表面の接着性を向上させる観点から、極性官能基を含有するフッ素樹脂を使用してもよい。極性官能基を含有するフッ素樹脂としては、カルボン酸基又はその誘導基、水酸基、ニトリル基、シアナト基、カルバモイルオキシ基、ホスホノオキシ基、ハロホスホノオキシ基、スルホン酸基又はその誘導基及びスルホハライド基から選ばれる1種以上の極性官能基を含有するフッ素樹脂(極性官能基含有フッ素樹脂)を挙げることができる。
【0021】
上記極性官能基含有フッ素樹脂を得るには、例えば一般成形に用いられる前記例示のフッ素樹脂を合成しておき、後から極性官能基を付加あるいは置換することにより導入するか、前記例示のフッ素樹脂の合成時にこれら極性官能基を含有するモノマー(極性官能基含有モノマー)を共重合させることによって得ることができる。特に、製造工程の簡略化の観点から、極性官能基含有モノマーをフッ素樹脂合成時に共重合させることが好ましい。
【0022】
極性官能基含有モノマーとしては、−COOH、−CHCOOH、−COOCH、−CONH、−OH、−CHOH、−CN、−CHO(CO)NH、−CHOCN、−CHOP(O)(OH)、−CHOP(O)Cl、−SOFなどの基を含有するモノマーが例示できる。
【0023】
これら極性官能基含有モノマーは、極性官能基含有フッ素樹脂中に0.5〜10質量%の量で共重合されていることが好ましく、1.0〜5.0質量%の量で共重合されていることがより好ましい。極性官能基含有モノマーの量が0.5質量%以上であれば、繊維補強基材表面の接着性をより向上させることができる。また、極性官能基含有モノマーの量が10質量%以下であれば、繊維補強基材の成形性が良好となる上、繊維補強基材の吸水率を良好に維持できる。なお、極性官能基含有フッ素樹脂中の極性官能基含有モノマーの分布は、均一でも不均一でも良い。
【0024】
極性官能基含有フッ素樹脂中の極性官能基とフッ素基とのモル比(極性官能基/フッ素基)は、繊維補強基材の吸水率を低減させる観点、及び繊維補強基材表面の接着性を向上させる観点から、0.001〜0.15であることが好ましく、0.005〜0.10であることがより好ましく、0.01〜0.05であることが更に好ましい。
【0025】
本発明で使用されるフッ素樹脂の粘度あるいは分子量は、特に限定されず、例えばプリント回路基板やアンテナ基板等の用途に使用されるフッ素樹脂と同等であればよい。
【0026】
前記フッ素樹脂は、帯電防止性を付与する帯電防止剤を含有することもできる。その含有率は、帯電防止性の観点から、フッ素樹脂中、0.1〜2質量%であることが好ましい。帯電防止剤としては、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性イオン界面活性剤等の界面活性剤が好ましい。
【0027】
前記フッ素樹脂は、誘電率や誘電正接を低くする無機フィラーを含有することもできる。無機フィラーの材料としては、シリカ、クレー、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、珪藻土、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化錫、酸化アンチモン、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸バリウム、ドーソナイト、ハイドロタルサイト、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、珪酸カルシウム、モンモリロナイト、ベントナイト、活性白土、セピオライト、イモゴライト、セリサイト、ガラス繊維、ガラスビーズ、シリカ系バルーン、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、炭素バルーン、木粉、ホウ酸亜鉛等が挙げられる。
【0028】
前記無機フィラーは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。無機フィラーの含有率は、誘電率や誘電正接を低くする観点から、フッ素樹脂中、1〜50質量%であることが好ましい。また、これらの無機フィラーが多孔質であると、誘電率や誘電正接がさらに低くなるのでより好ましい。
【0029】
前記フッ素樹脂の線膨張係数は、特に限定されない。例えば、前記組成のフッ素樹脂の線膨張係数は、一般的に60〜160ppm/℃の値であることが知られている。前記フッ素樹脂の誘電率及び誘電正接についても特に限定されないが、高周波対応の観点から、誘電率及び誘電正接は小さい方が好ましい。例えば、前記組成のフッ素樹脂の誘電率及び誘電正接は、一般的に低い値であることが知られている。具体的には、1MHzにおける誘電率は2.0〜2.2であり、1MHzにおける誘電正接は3.0×10−4〜5.0×10−4である。
【0030】
本発明の繊維補強基材におけるフッ素樹脂の含有率は、周波数帯域の上昇に対する誘電正接の上昇を抑制して伝送損失を低く抑えるとともに、吸水率が低く、寸法安定性に優れた繊維補強基材を得るために、50〜95質量%の範囲とする。同様の観点から、55〜95質量%であることが好ましく、60〜95質量%であることがより好ましい。フッ素樹脂含有率を50質量%以上とすることにより、誘電率、誘電正接、及び吸水率を低減できる。一方、フッ素樹脂含有率を95質量%以下とすることにより、繊維補強基材の線膨張係数を低減して寸法安定性を向上させることができる。なお、本明細書において、線膨張係数の大小は、線膨張係数の絶対値の大小をいう。
【0031】
本発明の繊維補強基材の線膨張係数は、−10〜15ppm/℃であることが好ましく、より好ましくは−5〜10ppm/℃、さらに好ましくは−5〜5ppm/℃である。線膨張係数がこの範囲内であれば、寸法安定性が高いため、半田付け工程などの高温暴露工程において歪みや皺の発生を防止することができる。繊維補強基材の線膨張係数を上記範囲内に制御するには、PBO繊維とフッ素樹脂の含有率を調整することにより実現できる。つまり、PBO繊維の含有率を増やすと線膨張係数が小さくなり、フッ素樹脂の含有率を増やすと線膨張係数が大きくなる。
【0032】
本発明の繊維補強基材の製造方法は、特に限定されず、PBO繊維により形成された織布、不織布、UD材等のシート材にフッ素樹脂を含浸する方法や、PBO繊維により形成された織布、不織布、UD材等のシート材とフッ素樹脂フィルムとを加熱加圧成型により積層する方法等がある。
【0033】
シート材にフッ素樹脂を含浸する方法を採用する場合、得られる繊維補強基材は、例えば図1に示す断面構造を有する繊維補強基材となる。図1の繊維補強基材は、シート材1が芯材となり、フッ素樹脂2がマトリックス材となる繊維補強基材である。この場合、繊維補強基材全体の厚みは、実用性の観点から、20〜5000μmが好ましく、20〜1000μmがより好ましく、20〜500μmが更に好ましい。
【0034】
一方、シート材とフッ素樹脂フィルムとを加熱加圧成型により積層する方法を採用する場合、得られる繊維補強基材は、例えば図2に示す断面構造を有する繊維補強基材となる。図2の繊維補強基材は、シート材1の両面にフッ素樹脂フィルム3(フッ素樹脂層)が積層された繊維補強基材である。この場合、繊維補強基材全体の厚みは、実用性の観点から、20〜5000μmが好ましく、20〜1000μmがより好ましく、20〜500μmが更に好ましい。また、シート材1の厚みは、前記繊維補強基材の好適な厚みを実現するため、10〜2500μmが好ましく、10〜500μmがより好ましく、10〜250μmが更に好ましい。なお、フッ素樹脂層は、シート材の片面のみに形成されていてもよい。また、シート材の一部がフッ素樹脂で含浸されていてもよい。
【0035】
本発明の繊維補強基材を回路基板へ適用する場合、本発明の繊維補強基材の少なくとも片面に金属層を積層させて積層基材を形成すると、従来の回路基板の製造工程を利用して回路基板を製造できる。
【0036】
上記金属層の金属材料は、導電性である金属材料であれば特に限定されるものではないが、銀、銅、金、白金、ロジウム、ニッケル、アルミニウム、鉄、クロム、亜鉛、錫、黄銅、白銅、青銅、モネル、モリブデン、タングステン、錫鉛系半田、錫銅系半田、錫銀系半田等の単独又はそれらの合金が通常用いられ、銅を用いるのが性能と経済性のバランスにおいて好ましい。
【0037】
繊維補強基材と金属層を積層する方法は特に問わず、以下のような方法が例示される。
(1)繊維補強基材と金属箔を、接着剤層を介さず加熱加圧成型によって融着させる方法。
(2)繊維補強基材と金属箔を、接着剤層を介して加熱加圧成型によって融着させる方法。
(3)繊維補強基材表面に蒸着、スパッタリング、イオンプレーティングなどの真空コーティング技術を用いて金属層を形成する方法。
(4)繊維補強基材表面に無電解メッキ、電解メッキなどの湿式メッキ処理を施して金属層を形成する方法。
【0038】
本発明の繊維補強基材と、この繊維補強基材の少なくとも片面に積層された金属層とを含む積層基材、つまり本発明の積層基材は、上記(1)〜(4)の方法のいずれかを単独で、あるいは組み合わせることによって得られる。
【0039】
本発明の積層基材で使用する金属層や、必要に応じてその上に形成される後付けの厚膜金属層の表面には、金属単体や金属酸化物などの無機物からなる塗膜を形成してもよい。また金属層又は必要に応じてその上に形成される後付けの厚膜金属層の表面を、カップリング剤(アミノシラン、エポキシシランなど)による処理、サンドブラスト処理、ウェットブラスト処理、ホーリング処理、コロナ処理、プラズマ処理、イオンガン処理、エッチング処理などに供してもよい。
【0040】
本発明の積層基材を用いて、高周波帯域用基板等の各種回路基板を製造する方法は、特に限定されず、通常の方法を採用することができる。例えば積層基材の金属層、又は必要に応じてその上に形成される後付けの厚膜金属層上にフォトレジストを塗布し、乾燥後、露光、現像、エッチング、フォトレジスト剥離の工程により、金属層の一部を除去して配線回路パターンやアンテナパターン等の導体パターンを形成し、さらに必要に応じてソルダーレジスト膜形成、無電解錫メッキを行い、フレキシブルプリント配線板、それらを多層化した多層プリント配線板や、半導体チップを直接この上に実装したプリント配線板、あるいはアンテナ基板等が得られる。上記の導体パターンの作製手順や、多層化、半導体チップの実装における方法は特に限定されるものではなく、従来公知の方式から適宜選択し実施すればよい。
【実施例】
【0041】
以下、実施例および比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例における物性の評価方法は以下の通りである。
【0042】
<繊維の引張強度、破断伸度、引張弾性率>
測定対象の繊維の引張強度、破断伸度、引張弾性率は、オリエンティック社製「テンシロン」を用い、試料長200mm(チャック間長さ)、伸長速度100%/分の条件で歪−応力曲線を雰囲気温度20℃、相対湿度65%条件下で測定し、破断点での応力と伸びから引張強度(GPa)及び破断伸度(%)を計算して求め、更に曲線の原点付近の最大勾配を与える接線から引張弾性率(GPa)を計算して求めた。なお、各値は10回の測定値の平均値を使用した。
【0043】
<繊維の単糸直径>
測定対象の繊維の単糸をエポキシ樹脂で包埋した後、繊維軸方向と直交する方向に切断し、走査型電子顕微鏡(SEM)にて撮影を行った。得られたSEM像より、単糸直径を測定した。なお、表1に示す単糸直径の値は、各繊維について測定を10回行い、得られた測定値の平均値を採用した。
【0044】
<繊維補強基材の厚み>
繊維補強基材の厚さは、マイクロメーター(Mahr社製、ミリトロン1240)を用いて測定した。
【0045】
<繊維補強基材の線膨張係数>
測定対象の繊維補強基材について、下記条件にて伸縮率を測定した。測定は、90〜100℃、100〜110℃、・・・と10℃の間隔での温度に対する伸縮率を測定し、この測定を250℃まで行い、100℃から250℃までの全測定値の平均値を算出した。そして、繊維からなるシート材として不織布、織布を用いた場合は、面内のX、Y方向の平均値を算出して、その値を線膨張係数とし、UD材を用いた場合は、繊維軸方向(長手方向)の値を線膨張係数とした。
装置名:MACサイエンス社製 TMA4000S
サンプル長さ:10mm
サンプル幅:2mm
昇温開始温度:25℃
昇温終了温度:250℃
昇温速度:5℃/分
雰囲気:アルゴン
【0046】
<繊維補強基材の誘電率、誘電正接>
測定対象の繊維補強基材につき、円板共振器ストリップライン法により10GHzにおける誘電率及び誘電正接を測定し、更に、ファブリペロー共振器法により75GHzにおける誘電率及び誘電正接を測定した。
【0047】
<繊維、及び繊維補強基材の水分含有率>
測定対象の繊維又は繊維補強基材につき、JIS C6481(プリント配線板用銅張積層板試験方法)に基づいて求めた。浸漬条件は、水の温度を23℃とし、浸漬時間を24時間とした。
【0048】
<繊維補強基材の半田耐熱性>
測定対象の繊維補強基材につき、JIS C6481(プリント配線板用銅張積層板試験方法)に基づいて求めた。
【0049】
<高周波帯域用基板の伝送損失>
高周波帯域用基板の伝送損失は、ベクトルネットワークアナライザ(アジレントテクノロジ社製、8510XF)を用いて測定した。
【0050】
(使用した繊維)
本検討に用いた繊維について、種類とその物性を表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
(実施例1)
表1に記載のザイロンHM(商品名)からなる不織布(目付け量60g/m)に、真空プラズマ処理(ガス種:酸素、放電電力:3000W、ガス流量:5000sccm、処理圧力:400mTorr)を施した後、PTFEディスパージョン(三井デュポンフロロケミカル社製、商品名:PTFEディスパージョン34−JR)を含浸し、乾燥させ、フッ素樹脂含有率が80質量%の繊維補強基材前駆体を得た。得られた繊維補強基材前駆体を370℃、10MPaで2時間加熱加圧成形し、本発明の繊維補強基材(厚み130μm)を得た。得られた繊維補強基材の評価結果を表2に示す。
【0053】
(実施例2)
不織布の代わりに表1に記載のザイロンHM(商品名)からなる織布(目付け量120g/m)を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で繊維補強基材(厚み130μm)を作製し、評価した。得られた繊維補強基材の評価結果を表2に示す。
【0054】
(実施例3)
不織布の代わりに、表1に記載のザイロンHM(商品名)の繊維束を単繊維に分繊し、得られた単繊維を一方向へ引き揃えたUD材(目付け量12g/m、1列配列)を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で繊維補強基材(厚み130μm)を作製し、評価した。得られた繊維補強基材の評価結果を表2に示す。
【0055】
(実施例4)
表1に記載のザイロンHM(商品名)からなる不織布(目付け量60g/m)の両面に、側鎖に水酸基を有するPFAフィルム(厚み:50μm、水酸基とフッ素基とのモル比(水酸基/フッ素基)=0.03)を配し、上記PFAフィルムの融点以上である330℃、5MPaにて30分間加熱加圧成形を行い、本発明の繊維補強基材(厚み130μm)を得た。得られた繊維補強基材の評価結果を表2に示す。
【0056】
(実施例5〜7)
フッ素樹脂含有率を60質量%(実施例5)、70質量%(実施例6)、90質量%(実施例7)としたこと以外は、実施例1と同様の方法で繊維補強基材を作製し、評価した。得られた繊維補強基材の評価結果を表2に示す。なお、実施例5〜7の繊維補強基材の厚みは、いずれも130μmであった。
【0057】
【表2】

【0058】
(比較例1)
PBO繊維からなる不織布の代わりに、表1に記載のケブラー49(商品名)からなる不織布(デュポン帝人アドバンスドペーパー社製、商品名:THERMOUNT、目付け量55g/m)を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で繊維補強基材(厚み130μm)を作製し、評価した。得られた繊維補強基材の評価結果を表3に示す。得られた繊維補強基材は、アラミド繊維の吸水率が高いため、繊維補強基材の水分含有率も高くなり、煮沸後の半田耐熱性が劣化した。
【0059】
(比較例2)
PBO繊維からなる不織布の代わりに、表1に記載のベクトランUM(商品名)からなる不織布(クラレ社製、商品名:ベクスルMBBK、目付け量60g/m)を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で繊維補強基材(厚み130μm)を作製し、評価した。得られた繊維補強基材の評価結果を表3に示す。得られた繊維補強基材は、線膨張係数が大きいため、半田リフロー工程において歪みや皺が発生するおそれがある。
【0060】
(比較例3)
PBO繊維からなる不織布の代わりに、ガラスクロス(日東紡社製、目付け量50g/m)を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で繊維補強基材(厚み130μm)を作製し、評価した。得られた繊維補強基材の評価結果を表3に示す。得られた繊維補強基材は、75GHzでの誘電正接が大きいため、伝送損失が増大するおそれがあり、高周波帯域用基板として適当ではない。
【0061】
(比較例4,5)
フッ素樹脂含有率を40質量%(比較例4)、97質量%(比較例5)としたこと以外は、実施例1と同様の方法で繊維補強基材を作製し、評価した。得られた繊維補強基材の評価結果を表3に示す。なお、比較例4,5の繊維補強基材の厚みは、いずれも130μmであった。比較例4の繊維補強基材は、フッ素樹脂含有率が低いため、吸水率が高くなり、その結果、繊維補強基材の水分含有率も高くなり、煮沸後の半田耐熱性が劣化した。また、比較例5の繊維補強基材は、フッ素樹脂含有率が高く、PBO繊維による補強効果が十分でないため、線膨張係数が大きくなり、半田リフロー工程において歪みや皺が発生するおそれがある。
【0062】
【表3】

【0063】
(応用例1)
表1に記載のザイロンHM(商品名)からなる不織布(目付け量60g/m)に、真空プラズマ処理(ガス種:酸素、放電電力:3000W、ガス流量:5000sccm、処理圧力:400mTorr)を施した後、PTFEディスパージョン(三井デュポンフロロケミカル社製、商品名:PTFEディスパージョン34−JR)を含浸し、乾燥させ、フッ素樹脂含有率が80質量%の繊維補強基材前駆体を得た。得られた繊維補強基材前駆体を総厚みが1.6mmになるように複数枚積層し、さらにその両面に銅箔(古河サーキットフォイル社製、商品名:UWZ、厚さ18μm)を配し、370℃、10MPaで2時間加熱加圧成形を行い、積層基材を得た。得られた積層基材の片面にフォトレジスト(シプレー社製、商品名:FR−200)を塗布し、乾燥後にガラスフォトマスクで密着露光し、さらに1.2質量%KOH水溶液にて現像した。次に、HCl、過酸化水素及び塩化第二銅を含むエッチング液を用いて、40℃、2kgf/cmのスプレー圧でエッチングし、マイクロストリップライン(ストリップ幅:3.0mm)を形成後、洗浄を行い、125℃、1時間のアニール処理を行い、高周波帯域用基板を得た。得られた高周波帯域用基板の伝送損失は、10GHzで1.4dB/mであった。この結果から、本発明の高周波帯域用基板は、高周波帯域用として非常に有用であることが確認された。
【符号の説明】
【0064】
1 シート材
2 フッ素樹脂
3 フッ素樹脂フィルム(フッ素樹脂層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維により形成されたシート材と、フッ素樹脂とを含む繊維補強基材であって、
前記フッ素樹脂の含有率が、50〜95質量%である繊維補強基材。
【請求項2】
線膨張係数が−10〜15ppm/℃である請求項1に記載の繊維補強基材。
【請求項3】
前記繊維補強基材は、前記シート材に前記フッ素樹脂を含浸させた基材である請求項1又は2に記載の繊維補強基材。
【請求項4】
前記繊維補強基材は、前記シート材の少なくとも片面に前記フッ素樹脂により形成されたフッ素樹脂層を積層させた基材である請求項1又は2に記載の繊維補強基材。
【請求項5】
高周波帯域用基板の製造に使用される請求項1〜4のいずれか1項に記載の繊維補強基材。
【請求項6】
前記フッ素樹脂は、極性官能基を含有するフッ素樹脂である請求項1〜5のいずれか1項に記載の繊維補強基材。
【請求項7】
前記極性官能基を含有するフッ素樹脂中の極性官能基とフッ素基とのモル比(極性官能基/フッ素基)が、0.001〜0.15である請求項6に記載の繊維補強基材。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の繊維補強基材と、前記繊維補強基材の少なくとも片面に積層された金属層とを含む積層基材。
【請求項9】
請求項8に記載の積層基材の前記金属層の一部を除去して導体パターンを形成してなる高周波帯域用基板。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−219659(P2011−219659A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−91703(P2010−91703)
【出願日】平成22年4月12日(2010.4.12)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】