説明

繊維製造装置及び繊維製造方法

【課題】より繊維径の細い繊維をエレクトロスピニング法により安定して製造することのできる繊維製造装置と繊維製造方法を提供する。
【解決手段】高分子物質またはピッチ系物質の溶融物を溶融物吐出ノズルから細糸状に吐出して繊維をエレクトロスピニング法により製造する際に、溶融物を細糸状に吐出する第1のノズル部51と、第1のノズル部51から吐出された溶融物をガスにより加圧しながら細糸状に吐出する第2のノズル部52とを有してなる溶融物吐出ノズル5を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロスピニング法(静電紡糸法)を用いた繊維の製造装置と製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体基盤上の電線・発光体用電子銃、各種センサなどのエレクトロニクス分野、高性能フィルターなどの環境対応分野、再生医療用スキャッフォールド、傷口保護材などのメディカル分野などへの応用を期待して、サブマイクロメータ以下の直径を持つ極細繊維に対する要求が高まりつつある。
このような極細繊維を製造する手法として、海島複合紡糸やポリマーブレンドから海成分を適当な溶媒で溶解して除去し、島成分をサブマイクロメータオーダの繊維として取り出す手法があるが、海成分を溶解可能な溶媒を使用しなければならないため、ポリマーの種類に制限を受け、汎用性に乏しいという欠点がある。そこで、複合紡糸法やブレンド紡糸法を使わずに繊維径がサブマイクロメータ以下の極細繊維を紡糸する方法として、エレクトロスピニング法の重要性が見直され、注目が集まっている。
【0003】
エレクトロスピニング法を利用した極細繊維の紡糸方法としては、光学的等方性ピッチまたは/および光学的異方性ピッチからなる紡糸原料ピッチを、紡糸原料ピッチの粘度が10ポイズ以下となる温度条件下で紡糸ノズルから吐出するとともに、紡糸原料ピッチの粘度が10ポイズ以下となる温度よりも50℃低い温度かそれ以上の温度に予熱されたガスを、紡糸ノズルの周囲から紡糸原料ピッチの吐出方向と同方向でかつ吐出繊維に平行に流出させることによって、紡糸原料ピッチを極細の炭素繊維に紡糸する方法が知られている(特許文献1参照)。
また、極細繊維を紡糸する他の技術としては、高分子物質を溶媒に溶かして溶液とし、高電圧が印加された出糸ノズルから吐出させながら、圧縮空気を噴射させて極細繊維を形成する技術も知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2680183号公報
【特許文献2】特許第4047286号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された方法では、繊維径が1.1〜1.2μmの炭素繊維は得られるものの、繊維径がサブマイクロメータ以下の極細繊維は得られないという問題があった。一方、特許文献2に開示された技術では、高分子物質溶液を紡糸するので、紡糸原料である高分子物質を特段加熱して紡糸する必要がない。このため、紡糸口金の絶縁は容易であるが、すべてが溶剤に溶けない高分子物質またはピッチ系物質は紡糸できないという問題があった。すなわち、高電圧を印加する部位(通常は、導電性を有する金属)、あるいは溶液が通液される部位が高温とならないので、絶縁材料として、プラスチック、セラミック等を利用できる。なお、セラミックは高温にも耐え得るが、金属との熱膨張率が異なるため、接合が難しいほか、絶縁破壊が起こる場合もある。また、液晶性の高分子/ピッチ系物質については、液晶状態で紡糸できなく、溶液紡糸であるため、高弾性、高熱伝導性等の特性が発現しないという問題があった。
本発明は上述した問題点に着目してなされたものであり、その目的は、より繊維径の細く、特性の発現が期待される繊維をエレクトロスピニング法により安定して製造することのできる繊維製造装置と繊維製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1記載の発明に係る繊維製造装置は、高分子物質またはピッチ系物質の溶融物から繊維をエレクトロスピニング法により製造するときに用いられる繊維製造装置であって、前記溶融物を貯蔵する貯蔵容器と、前記貯蔵容器に貯蔵された溶融物を細糸状に吐出する溶融物吐出ノズルと、前記溶融物吐出ノズルに対向して配置されたコレクタと、前記溶融物吐出ノズルと前記コレクタとの間に電圧を印加して前記溶融物を帯電せしめる溶融物帯電手段とを備え、かつ前記溶融物吐出ノズルが第1のノズル部と、前記第1のノズル部から細糸状に吐出された溶融物をガスにより加圧しながら細糸状に吐出する第2のノズル部とを有することを特徴とするものである。
【0007】
請求項2記載の発明に係る繊維製造装置は、請求項1に記載の繊維製造装置において、前記ガスが不活性ガスであり、該ガスの下限温度を前記溶融物の融点または軟化点−50℃、上限温度を前記溶融物の融点または軟化点+130℃に温度調整するガス温度調整手段を有することを特徴とするものである。
請求項3記載の発明に係る繊維製造装置は、請求項1または2に記載の繊維製造装置において、前記溶融物を加熱するための電磁誘導加熱手段を有することを特徴とするものである。
【0008】
請求項4記載の発明に係る繊維製造方法は、高分子物質またはピッチ系物質の溶融物から繊維をエレクトロスピニング法により製造するに際して、前記溶融物を貯蔵する貯蔵容器と、前記貯蔵容器に貯蔵された溶融物を細糸状に吐出する溶融物吐出ノズルと、前記溶融物吐出ノズルに対向して配置されたコレクタと、前記溶融物吐出ノズルと前記コレクタとの間に電圧を印加して前記溶融物吐出ノズルから吐出される溶融物を帯電せしめる溶融物帯電手段とを備え、かつ前記溶融物吐出ノズルが第1のノズル部と、前記第1のノズル部から細糸状に吐出された溶融物をガスにより加圧しながら細糸状に吐出する第2のノズル部とを有する繊維製造装置を用いて繊維を製造することを特徴とするものである。
【0009】
請求項5記載の発明に係る繊維製造方法は、請求項4に記載の繊維製造方法において、前記ガスが不活性ガスであり、該ガスの下限温度が前記溶融物の融点または軟化点−50℃、上限温度が前記溶融物の融点または軟化点+130℃であることを特徴とするものである。
請求項6記載の発明に係る繊維製造方法は、請求項4または5に記載の繊維製造方法において、前記溶融物を電磁誘導加熱手段で加熱することを特徴とするものである。
請求項7記載の発明に係る繊維製造方法は、請求項4〜6のいずれか一項に記載の繊維製造方法において、前記コレクタで捕集された繊維を不融化した後、炭素化、あるいは炭素化および黒鉛化することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1,3,4,6記載の発明によれば、第1のノズル部から細糸状に吐出された溶融物がガスにより加圧されながら第2のノズル部から細糸状に吐出される。これにより、溶融物吐出ノズルからコレクタに向けて細糸状に吐出される溶融物の径がより細くなるため、より繊維径の細い繊維をエレクトロスピニング法により安定して製造することができる。その結果、炭素ナノ繊維の製造による水素貯蔵材料、キャパシターや燃料電池の電極材料、太陽電池電極材料、生分解性高分子ナノ繊維による再生医療用スキャッフォールド、各種高性能フィルターや電池用セパレーターなどの具体的な応用分野に利用できる。
【0011】
請求項2及び5記載の発明によれば、第2のノズル部から細糸状に吐出される溶融物を加圧するガスとして不活性ガスを用いることで、繊維の急激な酸化・爆発等を防止することができる。
請求項7記載の発明によれば、より繊維径の細い炭素系繊維をエレクトロスピニング法により安定して製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る繊維製造装置の一実施形態を示す図である。
【図2】溶融物吐出ノズルの一実施例を示す図である。
【図3】実施例1で得られたピッチ系繊維の繊維径を示す図である。
【図4】比較例1で得られたピッチ系繊維の繊維径を示す図である。
【図5】比較例2で得られたピッチ系繊維の繊維径を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図1〜図5を参照して本発明に係る繊維製造装置と繊維製造方法について説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る繊維製造装置の概略構成を示す図、図2は本発明の一実施形態に係る繊維製造装置の要部を示す図であり、図1に示すように、本発明の一実施形態に係る繊維製造装置は高分子物質またはピッチ系物質の溶融物1として貯蔵する貯蔵容器2を備えている。
貯蔵容器2は例えばステンレス鋼で形成されており、この貯蔵容器2の外周面には、貯蔵容器2に貯蔵された溶融物1を溶融状態に保つために、電熱ヒータ3が巻装されている。
【0014】
貯蔵容器2を電磁誘導加熱する場合、電気抵抗がある程度大きい金属でないと電磁誘導による加熱効果が低くなるという点で、鉄やステンレス鋼で貯蔵容器2が形成されることが好ましく、アルミニウムや銅などは電気抵抗が小さいため誘導加熱に使う金属としては適さない。この場合、貯蔵容器2の外側には、貯蔵容器2に貯蔵された溶融物1を溶融状態に保つために、例えばコイルが電磁誘導加熱手段として非接触で巻装される。
また、貯蔵容器2は密閉構造となっており、この貯蔵容器2には、例えば0.3〜0.7MPa程度に加圧された窒素ガスが窒素ガス供給ライン4から供給されるようになっている。なお、溶融物1は貯蔵容器2とは別の容器で溶解された後、ギヤポンプ等により貯蔵容器2内に供給されるようになっている。
【0015】
貯蔵容器2に貯蔵された溶融物1は、溶融物吐出ノズル5から細糸状に吐出されるようになっている。この溶融物吐出ノズル5は貯蔵容器2の図中下端部に設けられており、溶融物吐出ノズル5の図中右方には、溶融物吐出ノズル5から吐出された溶融物1を繊維として捕集する平板状のコレクタ6が配置されている。
また、図2に示すように、溶融物吐出ノズル5は貯蔵容器2に貯蔵された溶融物1を細糸状に吐出する第1のノズル部51を有しており、この第1のノズル部51の外周には、第1のノズル部51から吐出された溶融物1を窒素ガスなどの加圧ガスにより加圧しながら細糸状に吐出する第2のノズル部52が設けられている。
【0016】
第2のノズル部52は第1のノズル部51の外周に形成された円筒状のバレル52aと、このバレル52aの先端側に例えば0.5mm程度のノズル口53を形成するノズルガイド52bとで形成されており、バレル52aには、窒素ガス等の加圧ガスを第2のノズル部52内に供給する加圧ガス供給口54が設けられている。
バレル52aは熱伝導性の良好な材料(例えばステンレス鋼)で形成されており、このバレル52aの外周面には、貯蔵容器2から第1のノズル部51内に供給された溶融物1を溶融状態に保つために、電熱ヒータ(図示せず)が巻装されている。
【0017】
貯蔵容器2を電磁誘導加熱する場合、バレル5は導電性があり、熱伝導性の良好な材料(例えば鉄、ステンレス鋼、アルミニウム、銅等)で形成されているのが好ましく、この場合は貯蔵容器2からの伝熱で高分子物質またはピッチ系物質が溶融状態に維持されるほか、バレル52a等への高電圧の印加により高分子物質またはピッチ系物質が帯電する。また、ステンレス鋼等の電気抵抗がある程度大きい金属でバレル52aが形成されている場合は、電磁誘導加熱を起こすためのコイルを非接触でバレル52aに巻装することで、上記と同様に高分子物質またはピッチ系物質の加熱・溶融状態を保つこともできる。
【0018】
電磁誘導加熱する場合、加熱ヒータに関する電気系統は高電圧に耐える仕様(普通は、ヒータ線を太くする。)の必要がなくなるほか、高電圧を印加する電圧発生部に生じた電流が、近接する電気ヒータに流れ込み、電気ヒータの電源に逆流するおそれもない。
コレクタ6は溶融物吐出ノズル5と対向して配置されており、このコレクタ6と溶融物吐出ノズル5との間には、溶融物吐出ノズル5から吐出された溶融物1を帯電させるために、溶融物帯電手段としての電圧発生器7から電圧が印加されるようになっている。
【0019】
上述のように、貯蔵容器2に貯蔵された溶融物1を細糸状に吐出する溶融物吐出ノズルとして、図2に示すような溶融物吐出ノズル5、すなわち溶融物1を細糸状に吐出する第1のノズル部51と、この第1のノズル部51から溶融物1をガスにより加圧しながら細糸状に吐出する第2のノズル部52とを有する溶融物吐出ノズル5を用いると、第1のノズル部51から細糸状に吐出された溶融物1がガスにより加圧されながら第2のノズル部52から細糸状に吐出される。これにより、溶融物吐出ノズルからコレクタに向けて細糸状に吐出される溶融物の径がより細くなるため、より繊維径の細い繊維をエレクトロスピニング法により得ることができる。
【実施例1】
【0020】
貯蔵容器2に貯蔵される溶融物1として軟化温度が200℃のコールタールピッチ系物質を用い、貯蔵容器:ステンレス鋼製貯蔵容器(容量:10mL)、溶融物吐出ノズル口径:0.20mm、貯蔵容器内原材料温度:330℃、溶融物吐出ノズル内原材料温度:330℃、加圧ガス:窒素ガス、加圧ガス予熱温度:330℃、溶融物吐出速度:1000mm/s、電圧印加条件:コレクタをアース電極として貯蔵容器と溶融物吐出ノズルに35kVの電圧を印加、溶融物吐出ノズル先端からコレクタまでの距離:80mm、貯蔵容器内窒素ガス圧:0.3MPaの条件で溶融物1を溶融物吐出ノズル5から細糸状に吐出した。そして、溶融物吐出ノズル5から吐出された溶融物1を繊維としてコレクタ6で捕集し、捕集された繊維を180℃の空気中で不融化してから、不活性ガス(窒素ガス)雰囲気で1000℃まで加熱して炭素化し、さらにアルゴンガス雰囲気で2700℃の温度条件で黒鉛化して得られた炭素繊維の繊維径を走査型電子顕微鏡で測定した。その結果、炭素繊維の繊維径は、図3に示すように、500nm前後であった。
【実施例2】
【0021】
加圧ガス予熱温度を150℃とした以外は、実施例1と同じ条件で、溶融物を繊維として捕集し、その後、実施例1と同じ条件で、不融化、炭素化、黒鉛化して炭素繊維を得た。得られた炭素繊維の繊維径を走査型電子顕微鏡で測定した。その結果、炭素繊維の繊維径は550nm前後であった。
【実施例3】
【0022】
コールタールを原料として調製した軟化点が280℃の液晶ピッチを用いた。これをステンレス鋼製の容器(容量10mL)に充填し、容器の下端にはステンレス鋼製の27Gのノズル(内径0.20mm)を付け、その外側に予熱ガスが流通できるよう、図2に示すような外筒を取り付けた。また、外筒の外側には温度制御ができる電磁誘導方式のヒータを巻いた。なお、通常の温度調節器(複数)を配置して容器の中のピッチ温度を350℃とノズルの温度を350℃に制御し、350℃に予熱した窒素ガスを、ノズルの先端の間隔で100m/sの線速度となるように流した。容器には、高電圧発生器で発生した25kVの電圧を印加し、ノズルの直下120mmの位置にアース電極を置いた。その後、密閉してある容器に0.5MPaの窒素圧をかけて紡糸した。紡糸は、良好に進み、極細のピッチ繊維が得られた。これを不融化、炭素化した後、2700℃で黒鉛化したところ、400〜600W/mKの熱伝導率を有する極細の炭素繊維となった。
【比較例1】
【0023】
溶融物吐出ノズル5とコレクタ6との間に高電圧を印加しない以外は、実施例1と同じ条件で炭素繊維を得、得られた炭素繊維の繊維径を走査型電子顕微鏡で測定した。その結果、炭素繊維の繊維径は、図4に示すように、1〜2μmであった。
【比較例2】
【0024】
溶融物吐出ノズル5の第2のノズル部52に加圧ガスを供給しない以外は、上記と同じ条件で炭素繊維を得、得られた炭素繊維の繊維径を走査型電子顕微鏡で測定した。その結果、炭素繊維の繊維径は、図5に示すように、1μm前後であった。
なお、図4と図5において、一部の太い繊維は、紡糸を開始した直後の温度が定常に達していないときに発生したものであり、コンタミである。
【比較例3】
【0025】
実施例2で用いた液晶ピッチをキノリン溶解して溶液とし、室温で紡糸した。なお、この際、加熱する必要がないため、電磁誘導方式のヒータは取り外した。実施例2と同様に、ノズルの先端の間隔で100m/sの線速度となるように180〜200℃の窒素ガスを流し(絶縁性があり、260℃までの耐熱性を有するPTFEチューブを介してガス予熱器から供給)、印加電圧を25kVとしてノズルの直下120mmの位置にアース電極を置いた。窒素ガスの温度を180〜200℃としたのは、紡糸直後にキノリンを揮散させて細糸状の形状を保つためである。生成した極細のピッチ繊維を不融化、炭素化した後、黒鉛化して得られた炭素繊維の熱伝導率は、20〜50W/mKであった。
実施例1と比較例1とを比較すると、実施例1は繊維径がサブマイクロメータ以下の炭素繊維を得られるのに対し、比較例1は繊維径がサブマイクロメータ以下の炭素繊維を得られないことがわかる。これは、実施例1は溶融物吐出ノズル5とコレクタ6との間に電圧を印加して炭素繊維を紡糸したのに対し、比較例1は溶融物吐出ノズル5とコレクタ6との間に電圧を印加しないで炭素繊維を紡糸したためである。
【0026】
次に、実施例1と比較例2とを比較すると、実施例1は繊維径がサブマイクロメータ以下の炭素繊維を得られるのに対し、比較例2は繊維径がサブマイクロメータ以下の炭素繊維を得られないことがわかる。これは、実施例1は溶融物吐出ノズル5の第1のノズル部51から吐出された溶融物1をガスにより加圧しながら第2のノズル部52から細糸状に吐出させて炭素繊維を紡糸したのに対し、比較例2は溶融物吐出ノズル5の第1のノズル部51から吐出された溶融物1をガスにより加圧せずに第2のノズル部52から細糸状に吐出させて炭素繊維を紡糸したためである。
【0027】
したがって、高分子物質またはピッチ系物質の溶融物から繊維をエレクトロスピニング法により製造する際に、高分子物質またはピッチ系物質の溶融物を細糸状に吐出する溶融物吐出ノズルとして、溶融物1を細糸状に吐出する第1のノズル部51と、第1のノズル部51から吐出された溶融物1を窒素ガスなどのガスにより加圧しながら細糸状に吐出する第2のノズル部52とを有してなる溶融物吐出ノズル5を用いることで、より繊維径の細い繊維をエレクトロスピニング法により得ることができる。
【0028】
また、実施例3と比較例3との比較では、比較例3では溶液状態で紡糸しているので、折角の液晶ピッチが分子配向せずに紡糸されるのに対して、実施例3では液晶ピッチが分子配向した状態で紡糸される。そのため、高い熱伝導率となった、と理解できる。
図1に示した本発明の一実施形態では、貯蔵容器2とは別の容器で固体状態の高分子物質またはピッチ系物質を融解しておき、これをギヤポンプ等で貯蔵容器2に供給するようにしたが、貯蔵容器2で固体状態の高分子物質またはピッチ系物質を融解するようにしてもよい。
【0029】
高分子物質またはピッチ系物質の溶融物1を貯蔵する貯蔵容器2として、図1に示した本発明の一実施形態では、ステンレス鋼で形成されたものを示したが、貯蔵容器2の材質は特に制限されるものではなく、高分子物質やピッチ系物質の種類に応じて任意に選択可能である。さらに、貯蔵容器2をステンレス鋼やガラス等で形成すると、貯蔵容器2を安価に製作できるが、貯蔵容器2に貯蔵される溶融物が腐食性の高い溶融物である場合には白金、ニッケル等の貴金属またはセラミック等で貯蔵容器2を形成してもよい。
【0030】
高分子物質またはピッチ系物質の溶融物1を貯蔵する貯蔵容器2として、図1に示した本発明の一実施形態では、ステンレス鋼で一体的に形成されたものを示したが、これに限られるものではなく、例えばメンテナンスを考慮して複数のパーツから貯蔵容器2を構成してもよい。この場合、内圧によって溶融物が漏れないように工夫することが望ましく、各パーツの間にアルミニウム製、銅製あるいはPTFE製などのパッキンを介在させることが好ましい。
図1に示した本発明の一実施形態では、貯蔵容器2に貯蔵された溶融物1を一つの溶融物吐出ノズル5から細糸状に吐出するようにしたが、溶融物吐出ノズル5の数は単数または複数の何れでも構わない。ただし、生産性が向上するという点では複数のほうが好ましい。
【0031】
実施例1では、溶融物吐出ノズル5から吐出される溶融物1の温度を330℃に設定して極細繊維を製造するようにしたが、これに限られるものでなく、溶融物吐出ノズル5から吐出される溶融物1の粘度が1〜100ポイズとなる温度条件で溶融物1を溶融物吐出ノズル5から細糸状に吐出するようにすれば、実施例1と同様に、繊維径がサブマイクロメータ以下の極細繊維を得ることができる。
【0032】
溶融物吐出ノズル5の第2のノズル部52内に供給される加圧ガスとして、実施例1では、窒素ガスを用いたが、これに限られるものではなく、例えば空気、ヘリウムガス、アルゴンガスなどを窒素ガスの代りに用いてよい。ただし、300℃を超えるような高温では急激な酸化により繊維が発熱したり発火したり場合があるので、空気の使用を避けることが好ましい。
好ましいガスの種類は、ヘリウム、窒素、アルゴンなどの繊維を酸化させない不活性ガスが好ましい。また、ガスの下限温度は溶融物の融点または軟化点から−50℃の温度が好ましく、ガスの上限温度は溶融物の融点または軟化点から+130℃の温度が好ましい。ここで、溶融物の融点または軟化点から−50℃の温度とは、溶融物の融点から−50℃または軟化点から−50℃の温度であり、溶融物の融点または軟化点から+130℃の温度とは、溶融物の融点から+130℃または軟化点から+130℃の温度をいう。
【0033】
ガスの温度が溶融物の融点または軟化点から−50℃よりも低い場合、第1のノズル部51の先端にある溶融物の吐出部を冷却しすぎて、溶融物の粘度が高くなるため、溶融物が良好に吐出できないことがある。また、ガスの温度が溶融物の融点または軟化点から+130℃の温度を超える場合、溶融物の粘度が低くなり、吐出物が粒子状になったり、溶融物が熱変質・劣化する場合もある。
貯蔵容器・溶融物吐出ノズル等の温度および加圧ガス温度が260℃を下回る場合、ガス温度調節手段と溶融物吐出ノズルの間に耐熱性のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)管を挿入して絶縁できるので、ガス温度調節手段としては通常のガスヒーターを利用できる。260℃を超える場合、ガス温度調節手段としては電磁誘導方式が好ましい。
【0034】
実施例1では、安全性の観点からコレクタ6をグランドして溶融物吐出ノズル5に正電圧を印加するようにしたが、コレクタ6が正極であってもよいし負極であってもよい。
実施例1では、溶融物吐出ノズル5とコレクタ6との間に35kVの電圧を印加して極細繊維を製造するようにしたが、これに限定されるものではない。ただし、溶融物吐出ノズル5とコレクタ6との間に印加される電圧が0.5kV未満であると溶融物1が溶融物吐出ノズル5から離脱しにくくなり、100kVを超えると溶融物吐出ノズル5とコレクタ6との間に放電が発生しやすくなるので、溶融物吐出ノズル5とコレクタ6との間に印加される電圧は0.5〜100kVであることが好ましい。
【0035】
実施例1では、溶融物吐出ノズル5の先端からコレクタ6までの距離を80mmに設定して極細繊維を製造するようにしたが、これに限定されるものではない。ただし、溶融物吐出ノズル5の先端からコレクタ6までの距離が10mm未満であると溶融物吐出ノズル5とコレクタ6との間に絶縁破壊が発生しやすくなり、200mmを超えると電場による繊維の引きが弱くなって溶融物吐出ノズル5から吐出される溶融物の径が細くなりにくくなるので、溶融物吐出ノズル5の先端からコレクタ6までの距離は10〜200mmであることが好ましい。
【0036】
貯蔵容器2に貯蔵される溶融物1として、実施例1では、軟化温度が200℃に調製されたコールタールピッチ系物質を用いたが、これに限られるものではない。例えば、貯蔵容器2に貯蔵される溶融物1が高分子物質であれば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレンテレフタレート(PPT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリフッ化ビニリデン(FVDF)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリアクリル酸、ポリメチルメタクリレ−ト(PMMA)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリアミド(ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610,ポリアミド12、ポリアミド46、ポリアミド9Tなど)、ポリウレタン、アラミド、ポリイミド(PI)、ポリベンゾイミダゾ−ル(PBI)、ポリベンズオキサゾール(PBO)、ポリビニルアルコ−ル(PVA)、セルロ−ス、酢酸セルロ−ス、酢酸酪酸セルロ−ス、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレンイミド(PEI)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリコハク酸エチレン、ポリ硫化エチレン、ポリ酸化プロピレン、ポリ酢酸ビニル、ポリアニリン、ポリテレフタル酸エチレン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリ酸化エチレン、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリカプロラクトン、ポリペプチド、タンパク質、コラーゲン、及びこれらのうち複数のコポリマーや混合物などが挙げられる。また、溶融物1がピッチ系物質であれば、コールタールピッチ、石油ピッチなどが挙げられる。また、上記の物質に有機物または無機物の粉末,ウイスカー等を混合させたものを高分子物質やピッチ系物質として用いてもよい。
【0037】
溶融物吐出ノズル5とコレクタ6との間に電圧を印加して溶融物1を帯電させる方法としては、溶融物吐出ノズル5の先端部に電圧を加える方法と溶融物吐出ノズル5内の溶融物1に電圧を加える方法とがあるが、溶融物吐出ノズル5内の溶融物1に電圧を加えるほうが装置の簡易性の観点から好ましい。
図1に示した本発明の一実施形態では、溶融物吐出ノズル5から細糸状に吐出された溶融物1を繊維として捕集するコレクタ6として、平板状に形成されたものを示したが、これに限られるものではなく、例えば回転ドラム状あるいは回転ベルト(ベルトコンベア)状に形成されたものを用いてもよい。ただし、生産効率の観点からは静的平板よりも回転式のコレクタが好ましい。
コレクタ6により捕集される繊維集合体の形状は短繊維だけでなく、平面状不織布、フィラメント、例えばチューブ状の構造体のような三次元構造体などとくに制限はない。また、フィルムや不織布の上に本発明の方法で製造される極細繊維を直接積層させることも可能である。
【符号の説明】
【0038】
1…溶融物、2…貯蔵容器、3…電熱ヒータ、4…窒素ガス供給ライン、5…溶融物吐出ノズル、51…第1のノズル部、52…第2のノズル部、6…コレクタ、7…電圧発生器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子物質またはピッチ系物質の溶融物から繊維をエレクトロスピニング法により製造するときに用いられる繊維製造装置であって、
前記溶融物を貯蔵する貯蔵容器と、前記貯蔵容器に貯蔵された溶融物を細糸状に吐出する溶融物吐出ノズルと、前記溶融物吐出ノズルに対向して配置されたコレクタと、前記溶融物吐出ノズルと前記コレクタとの間に電圧を印加して前記溶融物を帯電せしめる溶融物帯電手段とを備え、かつ前記溶融物吐出ノズルが第1のノズル部と、前記第1のノズル部から細糸状に吐出された溶融物をガスにより加圧しながら細糸状に吐出する第2のノズル部とを有することを特徴とする繊維製造装置。
【請求項2】
前記ガスが不活性ガスであり、該ガスの下限温度を前記溶融物の融点または軟化点−50℃、上限温度を前記溶融物の融点または軟化点+130℃に温度調整するガス温度調整手段を有することを特徴とする請求項1に記載の繊維製造装置。
【請求項3】
前記溶融物を加熱するための電磁誘導加熱手段を有することを特徴とする請求項1または2に記載の繊維製造装置。
【請求項4】
高分子物質またはピッチ系物質の溶融物から繊維をエレクトロスピニング法により製造するに際して、
前記溶融物を貯蔵する貯蔵容器と、前記貯蔵容器に貯蔵された溶融物を細糸状に吐出する溶融物吐出ノズルと、前記溶融物吐出ノズルに対向して配置されたコレクタと、前記溶融物吐出ノズルと前記コレクタとの間に電圧を印加して前記溶融物吐出ノズルから吐出される溶融物を帯電せしめる溶融物帯電手段とを備え、かつ前記溶融物吐出ノズルが第1のノズル部と、前記第1のノズル部から細糸状に吐出された溶融物をガスにより加圧しながら細糸状に吐出する第2のノズル部とを有する繊維製造装置を用いて繊維を製造することを特徴とする繊維製造方法。
【請求項5】
前記ガスが不活性ガスであり、該ガスの下限温度が前記溶融物の融点または軟化点−50℃、上限温度が前記溶融物の融点または軟化点+130℃であることを特徴とする請求項4に記載の繊維製造方法。
【請求項6】
前記溶融物を電磁誘導加熱手段で加熱することを特徴とする請求項4または5に記載の繊維製造方法。
【請求項7】
前記コレクタで捕集された繊維を不融化した後、炭素化、あるいは炭素化および黒鉛化することを特徴とする請求項4〜6のいずれか一項に記載の繊維製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−275339(P2009−275339A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−98052(P2009−98052)
【出願日】平成21年4月14日(2009.4.14)
【出願人】(591067794)JFEケミカル株式会社 (220)
【出願人】(592216384)兵庫県 (258)
【Fターム(参考)】