説明

缶のオフセット印刷用凸版

【課題】網点の太りを低減することにより印刷の品質を向上させることができる缶のオフセット印刷用凸版を提供する。
【解決手段】凸版1Aは画線部として多数の凸部2を備えている。さらに、網点面積率が所定の値以下の網点に対応する凸部2について、網点面積率が減少するのに従い、凸部2の高さhが低下している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、金属缶等の缶の外面にオフセット印刷により印刷をするための缶のオフセット印刷用凸版、該凸版を備えた缶のオフセット印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被印刷体にオフセット印刷により印刷をするための凸版の製造方法として、例えば次の方法が知られている。
【0003】
すなわち、活性光線として例えば紫外線の照射により硬化可能な感光性樹脂層を有する版材を準備する。そして、感光性樹脂層上に原画フィルムを密着載置し、この原画フィルムの印刷パターンに合わせて感光性樹脂を紫外線の照射により硬化させる。次いで、硬化していない感光性樹脂をブラシ洗浄により除去する。その後、版材を乾燥させる。これにより、所望する凸版が製造される。
【0004】
また、被印刷体として缶の外面に凸版を用いたオフセット印刷により印刷をする方法としては、例えば、特開2006−181727号公報に記載された方法が知られている(特許文献1参照)。この方法では、凸版として、スクリーン線数120〜200Lpi、及びショアA硬度60°〜90°のレーザ露光樹脂凸版が用いられている。このレーザ露光樹脂凸版の製造方法は次のとおりである。
【0005】
すなわち、紫外線の照射により硬化可能な感光性樹脂層上にカーボン塗膜層を形成する。そして、このカーボン塗膜層を印刷パターンに合わせてレーザ照射により除去する。次いで、カーボン塗膜層が除去された部位の感光性樹脂を紫外線の照射により硬化させる。その後、残存したカーボン塗装膜と硬化していない感光性樹脂とを水で洗浄除去する。これにより、所望するレーザ露光樹脂凸版が製作される。
【0006】
なお、凸版を用いたオフセット印刷による印刷方法ではないが、缶の外面に印刷をする他の方法として、水なし平版を用いたオフセット印刷による印刷方法も知られている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2006−181727号公報(段落[0007]、[0018]、図4参照)
【特許文献2】特開2002−36710号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
而して、上記の従来の方法には次の難点があった。
【0008】
すなわち、上記の従来の方法に用いられる凸版は、網点面積率の小さな網点に対応する凸部、網点面積率の大きな網点に対応する凸部など、様々な大きさの網点に対応する多数の凸部を、画線部として有しており、これらの凸部の高さは互いに等しく設定されている。したがって、これらの凸部に付着したインキをブランケットに転写する際には、網点面積率の小さな網点に対応する凸部がブランケットに食い込む量と、網点面積率の大きな網点に対応する凸部がブランケットに食い込む量とが略同じになる。そのため、凸部の大小にかかわらず、インキが凸部の外側に広がった状態でブランケットに転写される。そして、この広がり状態でブラケットに転写されたインキがブラケットから缶の外面に転写される。その結果、印刷された缶の外面において、網点の大小にかかわらず網点の太りが生じる。これにより、網点画像の潰れ等が生じ、印刷の品質が低下する。
【0009】
本発明は、上述した技術背景に鑑みてなされたもので、その目的は、網点の太りを低減することにより印刷の品質を向上させることができる缶のオフセット印刷用凸版、該凸版を備えた缶のオフセット印刷装置、前記凸版を用いて印刷がされた缶、及び、前記凸版を用いた缶の外面印刷方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下の手段を提供する。
【0011】
[1] オフセット印刷により缶の外面に印刷をするための、缶のオフセット印刷用凸版において、
網点面積率が所定の値以下の網点に対応する凸部について、網点面積率が減少するのに従い、凸部の高さが低下していることを特徴とする缶のオフセット印刷用凸版。
【0012】
[2] スクリーン線数80〜200Lpiの印刷をするためのものであり、
前記所定の値は10%である前項1記載の缶のオフセット印刷用凸版。
【0013】
[3] 網点面積率の減少量1%当たりの凸部の高さの低下量が0.005〜0.02mmの範囲の割合で、凸部の高さが低下している前項2記載の缶のオフセット印刷用凸版。
【0014】
[4] 凸部の高さの最大低下量が0.1mm以下に設定されている前項3記載の缶のオフセット印刷用凸版。
【0015】
[5] 凸部は、基台部と、該基台部の上面の中央部に形成され該上面の直径よりも小径の円柱状の先端部と、を有している前項1〜4のいずれかに記載の缶のオフセット印刷用凸版。
【0016】
[6] 網点面積率が減少するのに従い、凸部の基台部の上面の高さは一定であるとともに、凸部の先端部の長さは短くなっている前項5記載の缶のオフセット印刷用凸版。
【0017】
[7] ダイレクトレーザ彫刻法により凸部が形成された前項1〜6のいずれかに記載の缶のオフセット印刷用凸版。
【0018】
[8] 感光性樹脂に活性光線が照射されることにより硬化した感光性樹脂硬化層を有しており、
前記樹脂硬化層の表面に凸部が形成されている前項7記載の缶のオフセット印刷用凸版。
【0019】
[9] 凸版を用いたオフセット印刷により缶の外面に印刷をする、缶のオフセット印刷装置において、
前記凸版として、前項1〜8のいずれかに記載の凸版を備えていることを特徴とする缶のオフセット印刷装置。
【0020】
[10] 凸版を用いたオフセット印刷により外面に印刷がされた缶において、
スクリーン線数80〜200Lpiであって網点面積率4%以下の網点の太りが5%以下という印刷状態で、印刷がされていることを特徴とする缶。
【0021】
[11] 網点面積率4%以下の網点の欠落がない印刷状態で、印刷がされている前項10記載の缶。
【0022】
[12] 前記凸版として、前項1〜8のいずれかに記載の凸版を用いたオフセット印刷により印刷がされている前項10又は11記載の缶。
【0023】
[13] 外面に印刷がされた缶の製造方法において、
前項1〜8のいずれかに記載の凸版を用いたオフセット印刷により印刷をすることを特徴とする缶の製造方法。
【0024】
[14] 前項1〜8のいずれかに記載の凸版を用いたオフセット印刷により缶の外面に印刷をすることを特徴とする缶の外面印刷方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明は以下の効果を奏する。
【0026】
[1]の発明では、網点面積率が所定の値以下の網点に対応する、凸版の凸部について、網点面積率が減少するのに従い、凸部の高さが低下している。そのため、凸版の凸部に付着したインキをブランケットに転写する際に、網点面積率の小さな網点に対応する凸部がブランケットに食い込む量が減少する。これにより、この凸部に付着したインキの広がりが抑制される。そして、このようにインキの広がりが抑制された状態で、インキがブランケットから缶の外面に転写される。そのため、小さな網点についてその太りを低減することができる。これにより、印刷の品質を向上させることができる。
【0027】
[2]の発明では、缶の外面にスクリーン線数80〜200Lpiで印刷をする場合において、網点面積率が10%以下の網点の太りを低減することができる。
【0028】
[3]の発明では、網点面積率が10%以下の網点の太りを確実に低減することができる。
【0029】
[4]の発明では、網点面積率が10%以下の網点の太りを更に確実に低減することができる。
【0030】
[5]の発明では、凸版の凸部は、基台部と、該基台部の上面の中央部に形成され該上面の直径よりも小径の円柱状の先端部と、を有している。これにより、インキが付着した凸部がブランケットに押圧されてインキが凸部の外側に広がった場合において、インキのはみ出し部が、凸部の基台部の上面と先端部の周面との間の隅部に捕捉される。これにより、網点の太りを更に確実に低減することができる。
【0031】
[6]の発明では、凸部の先端部の強度を確保することができる。
【0032】
[7]の発明では、凸版の凸部を容易に形成することができるし、凸版の製造工程を短縮して短時間で凸版を製造することができる。
【0033】
[8]の発明では、レーザ彫刻時に生じた削り粉を水洗いで除去することができる。そのため、凸版を容易に製造することができる。
【0034】
[9]の発明では、上記[1]〜[8]のいずれかの発明の効果と同様の効果を奏する缶のオフセット印刷装置を提供できる。
【0035】
[10]の発明では、外面に高品質の印刷がされた缶を提供できる。
【0036】
[11]の発明では、外面に更に高い品質の印刷がされた缶を提供できる。
【0037】
[12]の発明では、外面に高品質の印刷がされた缶を確実に提供できる。
【0038】
[13]の発明では、缶の外面に高品質の印刷をすることができる。
【0039】
[14]の発明では、缶の外面に高品質の印刷をすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
次に、本発明の幾つかの実施形態について、図面を参照して以下に説明をする。
【0041】
図1において、(20)は、本発明の一実施形態に係る缶のオフセット印刷装置である。この印刷装置(20)は、図6に示した缶(30)の円筒状の缶胴部(31)の外面にオフセット印刷(詳述するとドライオフセット印刷)により印刷をするものである。
【0042】
この缶(30)は、シームレス缶であって、その材質は、金属であり、詳述すると例えばアルミニウム(その合金を含む。以下同じ)である。また、この缶(30)は、DI缶(Draw and Ironing 缶)であり、缶胴部(31)と缶底部(32)とが一体に形成されたものである。なお、この缶(30)の缶蓋部は図示されていない。この缶(30)の内部には飲料(例:ビール)や食品などが収容される。
【0043】
図1に示すように、印刷装置(20)は、ブランケット胴(23)、複数の版胴(22)、複数のインキング手段(21)、缶(30)をブランケット胴(23)側に送る缶送り手段(24)、缶送り手段(24)に缶(30)を供給する缶供給手段(25)などを備えている。
【0044】
本発明の一実施形態に係る凸版(1A)は、印刷装置(20)の版胴(22)に取り付けられるものであり、印刷装置(20)を用いたオフセット印刷(ドライオフセット印刷)により缶(30)の缶胴部(31)の外面に網点印刷をするために用いられるものである。
【0045】
図2に示すように、この凸版(1A)は、活性光線として例えば紫外線(U)の照射により硬化可能な感光性樹脂に紫外線(U)を照射することにより硬化した感光性樹脂硬化物からなる層(7)を有している(図3及び図4参照)。本明細書では、この層(7)を「感光性樹脂硬化層」という。この樹脂硬化層(7)は、接着層(8)を介してスチール等からなる基材(9)上に形成されている。
【0046】
さらに、この樹脂硬化層(7)の表面(即ち凸版(1A)の版面)には、画線部(画像部)として多数の凸部(2)が形成されている。これらの凸部(2)は、缶(30)の外面に施される網点印刷の網点に対応するものであり、これらの凸部(2)の頂面に印刷インキが付着されるものである。
【0047】
この凸版(1A)では、網点面積率が所定の値以下の網点に対応する凸部(2)について、網点面積率が減少するのに従い、凸部(2)の高さhが段階的に徐々に低下している。本実施形態では、スクリーン線数80〜200Lpi(即ち31.5〜78.7線/cm)であって網点面積率10%以下(即ち0〜10%の範囲)の網点に対応する凸部(2)について、網点面積率が減少するのに従い、凸部(2)の高さhが段階的に徐々に低下している。一方、網点面積率10%を超える網点に対応する凸部(2)については、その高さhは低下しておらず、即ち一定である。
【0048】
さらに、網点面積率の減少量1%当たりの凸部(2)の高さhの低下量が0.005〜0.02mmの範囲の割合で、凸部(2)の高さhが低下している。なお図2において、−Δhは、凸部(2)の高さhの低下量を示している。
【0049】
さらに、凸部(2)の基準高さに対する凸部(2)の高さhの最大低下量が0.1mm以下に設定されている。なお、凸部(2)の基準高さとは、多数の凸部(2)のうちの凸部(2)の高さが低下していないものの高さであり、本実施形態では、網点面積率10%を超える網点に対応する凸部(2)の高さが、凸部(2)の基準高さに設定されており、具体的には、例えば網点面積率20%の網点に対応する凸部(2)の高さが、凸部(2)の基準高さに設定されている。また図2において(2z)は、凸部(2)の底部である。この底部(2z)に対する凸部(2)の高さhは、例えば0.3〜0.5mmの範囲に設定され、具体的には例えば0.4mmに設定される。
【0050】
さらに、各凸部(2)は、縦断面台形状の基台部(3)と、該基台部(3)の上面(3a)の中央部に基台部(3)の軸と同軸に一体形成され、該上面(3a)の直径aよりも小径の円柱状の先端部(4)と、を有している。これにより、凸部(2)の先端部(4)がトップハット状に形成されている。本実施形態では、基台部(3)は具体的には円錐台状に形成されている。凸部(2)の先端部(4)の頂面は、当該凸部(2)の頂面に対応している。
【0051】
凸部(2)の基台部(3)の上面(3a)の直径aと先端部(4)の直径bとの比a/bは、例えば1.2〜3の範囲に設定されるのが望ましい。
【0052】
さらに、網点面積率が減少するのに従い、凸部(2)の基台部(3)の上面(3a)の高さh1は一定であるが、凸部(2)の先端部(4)の長さtは段階的に徐々に短くなっている。こうすることにより、凸部(2)の先端部(4)の強度を確実に確保することができるし、更に、凸部(2)の高さhの設定を、後述するダイレクトレーザ彫刻法により容易に行うことができる。なお、凸部(2)の底部(2z)に対する基台部(3)の上面(3a)の高さh1は、例えば0.2〜0.4mmの範囲に設定される。
【0053】
また、凸部(2)の基台部(3)のレリーフ角θは、例えば30〜90°の範囲に設定される。
【0054】
ただし本発明では、h、a/b、t、h1及びθは、それぞれ上記の範囲内であることに限定されるものではない。
【0055】
次に、この凸版(1A)の製造方法を以下に説明する。
【0056】
この凸版(1A)の凸部(2)は、公知のダイレクトレーザ彫刻法により形成されたものである。
【0057】
すなわち、図3に示すように、凸版(1A)の版材として、基材(9)上に接着層(8)を介して活性光線としての紫外線(U)の照射により硬化可能な感光性樹脂層(6)が形成された版材を準備する。そして、この感光性樹脂層(6)の表面に光源(S)から紫外線(U)を照射し、これにより感光性樹脂層(6)を例えば深さ0.4mm程度硬化させて感光性樹脂硬化層(7)を形成する。感光性樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール系、ビニルエステル系又はポリアミド系の樹脂が用いられ、またショアD硬度が例えば20〜80のものが好適に用いられる。
【0058】
次いで、図4に示すように、この樹脂硬化層(7)の表面にレーザ光(L)を照射することにより、樹脂硬化層(7)の表面に多数の凸部(2)を直接彫刻形成する。この際のレーザ彫刻深さは、例えば0.3〜0.5mmである。また使用するレーザ光(L)は、例えばCO2ガスレーザ光(波長10640nm)であって、その出力は例えば500Wである。
【0059】
次いで、樹脂硬化層(7)の表面に付着している削り粉を水洗いで除去し、その後、樹脂硬化層(7)の表面を乾燥する。
【0060】
次いで、樹脂硬化層(7)の表面に紫外線を再度照射することにより、樹脂硬化層(7)に残存している未硬化部分を硬化させる。
【0061】
以上の工程により、図2に示した所望する凸版(1A)が製造される。
【0062】
次に、本実施形態の印刷装置(20)の構成について、図1及び図5を参照して以下に説明する。
【0063】
この印刷装置(20)は、凸版(1A)以外は公知の構成のものである。すなわち、印刷装置(20)の各版胴(22)には、本実施形態の凸版(1A)が取り付けられている。各凸版(1A)には、例えば多段ロール式のインキング手段(21)により印刷インキ(K)が供給されて、各凸版(1A)の多数の凸部(2)にインキ(K)が付着される。本実施形態では、印刷装置(20)は、3組のインキング手段(21)及び版胴(22)を備えており、これらのインキング手段(21)は、例えば3色(藍、草、黄)の印刷インキ(K)を供給可能なものである。ブランケット胴(23)には複数のブランケット(10)が取り付けられている。このブランケット(10)は従来のものと同じであり、例えばゴム製である。
【0064】
この印刷装置(20)を用いた印刷方法では、図1及び図5に示すように、ブランケット胴(23)の回転に伴い、ブランケット(10)には凸版(1A)の凸部(2)に付着したインキ(K)が転写される。この際に、高さhが低下していない凸部(2)がブランケット(10)に例えば深さ0.15mm食い込むように、凸部(2)がブランケット(10)に押圧される。一方、缶供給手段(25)により缶送り手段(24)に供出された缶(30)は、缶送り手段(24)のマンドレル(24a)に自転可能に保持された状態で、缶送り手段(24)によりブランケット胴(23)側に搬送されて、缶(30)の缶胴部(31)の外面がブランケット(10)に接触しつつ缶(30)が自転する。このとき、ブランケット(10)に付着したインキ(K)がブランケット(10)から缶(30)の缶胴部(31)の外面に転写される。これにより、缶胴部(31)の外面に印刷がされ、もって、外面に印刷がされた缶(30)が製造される。
【0065】
而して、本実施形態のオフセット印刷用凸版(1A)には次の利点がある。
【0066】
すなわち、網点面積率が所定の値以下の網点に対応する、凸版(1A)の凸部(2)について、網点面積率が減少するのに従い、凸部(2)の高さが低下している。そのため、図5に示すように、凸版(1A)の凸部(2)に付着したインキ(K)がブランケット(10)に転写される際に、網点面積率の小さな網点に対応する凸部(2)がブランケット(10)に食い込む量が減少する。これにより、この凸部(2)に付着したインキ(K)の広がりが抑制される。そして、このようにインキ(K)の広がりが抑制された状態で、インキ(K)がブランケット(10)から缶(30)の缶胴部(31)の外面に転写される。そのため、小さな網点についてその太りを低減することができる。これにより、印刷の品質を向上させることができる。
【0067】
さらに、この凸版(1A)は、スクリーン線数80〜200Lpiの印刷をするためのものであり、前記所定の値は10%であるから、網点面積率が10%以下の網点の太りを低減することができる。特に、スクリーン線数100〜200Lpiの印刷をするためのものであり、前記所定の値は10%である場合に、網点面積率が10%以下の網点の太りを低減することができる。
【0068】
しかも、網点面積率の減少量1%当たりの凸部(2)の高さhの低下量が0.005〜0.02mmの範囲の割合で、凸部(2)の高さhが低下していることにより、網点面積率が10%以下の網点の太りを確実に低減することができる。
【0069】
その上、凸部(2)の高さhの最大低下量が0.1mm以下に設定されていることにより、網点面積率が10%以下の網点の太りを更に確実に低減することができる。
【0070】
さらに、凸部(2)は、縦断面台形状の基台部(3)と、該基台部(3)の上面(3a)の中央部に形成され該上面(3a)の直径aよりも小径の円柱状の先端部(2)と、を有している。これにより、図5に示すように、インキ(K)が付着した凸部(2)がブランケット(10)に押圧されてインキ(K)が凸部(2)の外側に広がった場合において、インキ(K)のはみ出し部が、凸部(2)の基台部(3)の上面(3a)と先端部(4)の周面との間の隅部(5)に捕捉される。これにより、網点の太りを更に確実に低減することができる。
【0071】
さらに、図2に示すように、網点面積率が減少するのに従い、凸部(2)の基台部(3)の上面(3a)の高さh1は一定であるが、凸部(2)の先端部(4)の長さtは短くなっている。これにより、凸部(2)の先端部(4)の強度を確保することができる。
【0072】
さらに、ダイレクトレーザ彫刻法により凸部(2)が形成されているので、凸版(1A)の凸部(2)を容易に形成することができるし、凸版(1A)の製造工程を短縮して短時間で凸版(1A)を製造することができる。
【0073】
さらに、凸版(1A)は、感光性樹脂に紫外線(U)が照射されることにより硬化した感光性樹脂硬化層(7)を有しており、該樹脂硬化層(7)の表面に凸部(2)が形成されているので、レーザ彫刻時に生じた削り粉を水洗いで除去することができる。そのため、凸版(1A)を容易に製造することができる。
【0074】
また、本実施形態の印刷装置(20)は、本実施形態の凸版(1A)を備えているので、上記の利点と同様の利点がある。
【0075】
また、本実施形態の凸版(1A)を用いたオフセット印刷により缶(30)の外面に印刷をすることにより、例えば、後述する実施例1〜5に示すように、スクリーン線数80〜200Lpiであって網点面積率4%以下の網点の太りが5%以下という高品質の印刷状態で、外面に印刷がされている缶(30)を提供することができる。しかも、例えば、網点面積率4%以下の網点の欠落がないという更に高い品質の印刷状態で、外面に印刷がされている缶(30)を提供することができる。
【0076】
また、本実施形態の缶の製造方法及び缶の外面印刷方法は、いずれも、本実施形態の凸版(1A)を用いたオフセット印刷により印刷をするものである。したがって、缶(30)の外面に高品質の印刷をすることができる。
【0077】
以上で本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に示したものであることに限定されるものではなく、様々に変更可能である。
【0078】
例えば、上記実施形態では、図2に示すように、凸版(1A)の凸部(2)は、縦断面台形状の基台部(3)と、該基台部(3)の上面(3a)の中央部に形成され該上面(3a)の直径aよりも小径の円柱状の先端部(4)と、を有するものである。しかしながら、本発明では、凸版(1A)の凸部(2)は図4に示した形状のものであることに限定されるものではない。すなわち、本発明では、その他に、例えば、図7に示した凸版(1B)のように、凸部(2)は円柱状の先端部を有していないものであっても良い。
【0079】
また、上記実施形態では、凸版(1A)の材質として、凸版(1A)を容易に製造でききる点で感光性樹脂硬化物が用いられているが、本発明では、凸版(1A)の材質は感光性樹脂硬化物であることに限定されるものではなく、その他に、通常の樹脂、カーボン、ゴム等であっても良い。
【0080】
また、上記実施形態では、網点面積率10%以下(即ち0〜10%の範囲)の網点に対応する凸部(2)について、網点面積率が減少するのに従い、凸部(2)の高さが低下しているが、本発明では、その他に、例えば、網点面積率8、6又は4%以下の網点に対応する凸部(2)について、網点面積率が減少するのに従い、凸部(2)の高さが低下していても良い。また、本発明では、高さが低下される凸部(2)のうち最小の凸部は、特に限定されるものではなく、例えば、網点面積率0.5%の網点に対応する凸部であっても良いし、網点面積率1%の網点に対応する凸部であっても良いし、その他の網点面積率の網点に対応する凸部であっても良い。
【0081】
また、本発明では、缶(30)は図6に示した形状のものであることに限定されるものではなく、その他に、例えばボトル缶であっても良い。また、本発明では、缶(30)の材質はアルミニウムであることに限定されるものではなく、その他に、例えばスチールであっても良い。
【実施例】
【0082】
次に、本発明の具体的な実施例及び比較例を以下に示す。
【0083】
<実施例1〜5>
上記実施形態で示した凸版(1A)の製造方法に従って、次の構成の凸版(1A)の凸部(2)をダイレクトレーザ彫刻法により形成した。
【0084】
すなわち、この凸版(1A)は、図2に示した構成のものであり、この凸版(1A)の表面(即ち版面)には、網点面積率1〜30%の範囲に対応する多数の凸部(2)が形成されている。さらに、網点面積率10%以下の網点に対応する凸部(2)について、網点面積率の減少量1%当たりの凸部(2)の高さhの低下量が0.01mmの割合で、凸部(2)の高さhが低下している。一方、網点面積率10%を超える網点に対応する凸部(2)については、その高さhは低下しておらず、即ち一定である。また、凸部(2)の基準高さに対する凸部(2)の高さhの最大低下量、すなわち凸部(2)の基準高さに対する網点面積率1%の網点に対応する凸部(2)の高さhの低下量は0.1mmである。なお、凸部(2)の基準高さは、網点面積率10%を超える網点に対応する凸部(2)の高さである。
【0085】
また、凸部(2)の基台部(3)の上面(3a)の直径aと先端部(4)の直径bとの比a/bは1.5に設定されている。また、凸部(2)の底部(2z)に対する凸部(2)の基台部(3)の上面(3a)の高さh1は0.3mmに設定されている。また、凸部(2)の基台部(3)のレリーフ角θは50°に設定されている。
【0086】
また、レーザ彫刻深さは0.4mmであり、また、使用したレーザ光(L)はCO2ガスレーザ光であって、その出力は例えば500Wである。
【0087】
以上の構成の凸版(1A)を用いて缶(30)の缶胴部(31)の外面に、上記実施形態で示した印刷方法に従ってスクリーン線数80〜200Lpiの網点印刷をした。そして、その印刷について網点の太り(ドットゲイン)を調べた。その結果を表1に示す。なお、網点の太りは次式(a)により算出した。
【0088】
網点の太り(%)=[(網点面積実測値−網点面積理論値)/網点面積理論値]×100 …(a)
<比較例1〜5>
図8に示した凸版(50)を、以下に示した従来の方法により製造した。
【0089】
感光性樹脂層(53)を有する版材を準備した。そして、感光性樹脂層(53)上に原画フィルムを密着載置し、この原画フィルムの印刷パターンに合わせて感光性樹脂を紫外線の照射により硬化させた。次いで、硬化していない感光性樹脂をブラシ洗浄により除去した。次いで、版材を乾燥させた。
【0090】
以上の工程を経て製造された凸版(50)の凸部(52)の高さhは、網点面積率の大小によらず一定に設定されている。なお図8において、(55)は基材、(54)は接着層である。
【0091】
この凸版(50)を用いて、上記実施例1〜5と同じ印刷条件で、缶(30)の缶胴部(31)の外面にスクリーン線数80〜200Lpiの網点印刷をした。そして、その印刷について網点の太りを調べた。その結果を表1に示す。
【0092】
【表1】

【0093】
表1に示すように、実施例1〜5は、網点面積率10%以下の網点の太りが比較例1〜5に比べて非常に小さかった。しかも、実施例1〜5は、網点面積率4%以下の網点の太りが5%以下という高品質の印刷状態で、缶(30)の缶胴部(31)の外面に印刷をすることができた。したがって、本発明に係る凸版(1A)を用いて印刷をすることにより、滑らかな階調再現が可能である。
【0094】
一方、比較例1〜3では、網点面積率2%以下の網点についてその一部が欠落していた。また、比較例4及び5では、網点面積率8%以下の網点についてその全部が欠落していた。それらの理由は、凸版(50)を製造する際におけるブラシ洗浄時に、網点面積率2%以下又は8%以下の網点に対応する凸部(52)が折れて欠落したためである。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明は、例えば、金属缶等の缶の外面にオフセット印刷により印刷をするための缶のオフセット印刷用凸版、該凸版を備えた缶のオフセット印刷装置に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係るオフセット印刷装置の概略構成図である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態に係るオフセット印刷用凸版の概略断面図である。
【図3】図3は、同凸版の製造工程のうち、感光性樹脂層に紫外線を照射する工程の概略断面図である。
【図4】図4は、同凸版の製造工程のうち、ダイレクトレーザ彫刻法により樹脂硬化層の表面に凸部を形成する工程の概略断面図である。
【図5】図5は、同凸版の凸部に付着した印刷インキをブランケットに転写させるために、凸版の凸部をブランケットに押圧した状態の概略拡大断面図である。
【図6】図6は、同印刷装置により印刷がされる缶の一部切欠き斜視図である。
【図7】図7は、本発明のもう一つの実施形態に係るオフセット印刷用凸版の概略断面図である。
【図8】図8は、比較例1〜5で用いた凸版の概略断面図である。
【符号の説明】
【0097】
1A、1B…凸版
2…凸部
3…基台部
3a…上面
4…先端部
5…隅部
6…感光性樹脂層
7…感光性樹脂硬化層
8…接着層
9…基材
10…ブランケット
20…印刷装置
21…インキング手段
22…版胴
23…ブランケット胴
24…缶送り手段
25…缶供給手段
30…缶
31…缶胴部
K…印刷インキ
L…レーザ光
U…紫外線(活性光線)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オフセット印刷により缶の外面に印刷をするための、缶のオフセット印刷用凸版において、
網点面積率が所定の値以下の網点に対応する凸部について、網点面積率が減少するのに従い、凸部の高さが低下していることを特徴とする缶のオフセット印刷用凸版。
【請求項2】
スクリーン線数80〜200Lpiの印刷をするためのものであり、
前記所定の値は10%である請求項1記載の缶のオフセット印刷用凸版。
【請求項3】
網点面積率の減少量1%当たりの凸部の高さの低下量が0.005〜0.02mmの範囲の割合で、凸部の高さが低下している請求項2記載の缶のオフセット印刷用凸版。
【請求項4】
凸部の高さの最大低下量が0.1mm以下に設定されている請求項3記載の缶のオフセット印刷用凸版。
【請求項5】
凸部は、基台部と、該基台部の上面の中央部に形成され該上面の直径よりも小径の円柱状の先端部と、を有している請求項1〜4のいずれかに記載の缶のオフセット印刷用凸版。
【請求項6】
網点面積率が減少するのに従い、凸部の基台部の上面の高さは一定であるとともに、凸部の先端部の長さは短くなっている請求項5記載の缶のオフセット印刷用凸版。
【請求項7】
ダイレクトレーザ彫刻法により凸部が形成された請求項1〜6のいずれかに記載の缶のオフセット印刷用凸版。
【請求項8】
感光性樹脂に活性光線が照射されることにより硬化した感光性樹脂硬化層を有しており、
前記樹脂硬化層の表面に凸部が形成されている請求項7記載の缶のオフセット印刷用凸版。
【請求項9】
凸版を用いたオフセット印刷により缶の外面に印刷をする、缶のオフセット印刷装置において、
前記凸版として、請求項1〜8のいずれかに記載の凸版を備えていることを特徴とする缶のオフセット印刷装置。
【請求項10】
凸版を用いたオフセット印刷により外面に印刷がされた缶において、
スクリーン線数80〜200Lpiであって網点面積率4%以下の網点の太りが5%以下という印刷状態で、印刷がされていることを特徴とする缶。
【請求項11】
網点面積率4%以下の網点の欠落がない印刷状態で、印刷がされている請求項10記載の缶。
【請求項12】
前記凸版として、請求項1〜8のいずれかに記載の凸版を用いたオフセット印刷により印刷がされている請求項10又は11記載の缶。
【請求項13】
外面に印刷がされた缶の製造方法において、
請求項1〜8のいずれかに記載の凸版を用いたオフセット印刷により印刷をすることを特徴とする缶の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜8のいずれかに記載の凸版を用いたオフセット印刷により缶の外面に印刷をすることを特徴とする缶の外面印刷方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−183888(P2008−183888A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−21943(P2007−21943)
【出願日】平成19年1月31日(2007.1.31)
【出願人】(000186854)昭和アルミニウム缶株式会社 (155)
【Fターム(参考)】