説明

置換アセチレン重合開始剤、置換アセチレン重合開始剤系及びそれを用いた置換ポリアセチレン誘導体の製造方法

【課題】置換アセチレンの重合に対して高い触媒活性を有する置換アセチレンの重合開始剤を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)


で表されるフェロセン骨格を有するホスフィン−ロジウム錯体からなることを特徴とする置換アセチレンの重合開始剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、置換アセチレン重合開始剤、置換アセチレン重合開始剤系及びそれを用いた置換ポリアセチレン誘導体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
置換ポリアセチレンは、主鎖に特異的な共役ポリエン構造を有しており、主鎖の立体的構造や側鎖の置換基を制御することで、導電性、エレクトロルミネッセンス、らせん構造の形成といったさまざまな特性や機能を発現することが知られている。
【0003】
らせん構造を有するポリマーはキラルセンサー、光学分割剤等の用途に対して特に注目されている材料である(例えば、下記特許文献1〜3参照。)。
【0004】
本発明者らは、先に下記一般式(A)で表わされるフェロセン骨格を有するホスフィン−パラジウム錯体が一置換型のアセチレンモノマーの重合に対しても高い触媒活性を示すことを知見し、これを報告した(非特許文献1参照)。
【化1】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−292538号公報
【特許文献2】特開2008−291207号公報
【特許文献3】特開2008−273898号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】高分子学会予稿集,Vol.58,No.1,2009年,375頁。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、更に新規なアセチレンの重合開始剤の検討を進める中で、特定のフェロセン骨格を有するホスフィンとロジウムとの錯体、或いは特定のフェロセン骨格を有するホスフィンを含有する触媒系が、置換アセチレンの重合に対して高い触媒活性を示すこと、更に、これらの錯体及び触媒系を用いて、反応条件を種々検討する中で、らせん構造を有するポリマーが得られることを見出し本発明を完成するに到った。
【0008】
即ち、本発明の第1の目的は、置換アセチレンの重合に対して高い触媒活性を有する置換アセチレンの重合開始剤、置換アセチレンの重合開始剤系を提供すること。本発明の第2の目的は、前記重合開始剤及び重合開始剤系を用いた置換ポリアセチレン誘導体の製造方法を提供すること。また、本発明の第3の目的は、らせん構造を有する置換ポリアセチレン誘導体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明が提供しようとする第1の発明は、下記一般式(1)
【化2】

(式中、R及びRは炭素数1〜8のアルキル基、フェニル基を示し、但し、RとRは同一の基となることはない。Xは、アニオン原子を示す。式中、
【化3】

は、下記一般式(1a)又は(1b)
【化4】

で表されるノルボルナジエン又は1,5-シクロオクタジエンから選ばれる基を示す。)で表されるフェロセン骨格を有するホスフィン−ロジウム錯体からなることを特徴とする置換アセチレンの重合開始剤である。
また、本発明が提供しようとする第2の発明は、下記の第1の成分、第2の成分及び第3の成分を含有することを特徴とする置換アセチレンの重合開始剤系である。
第1の成分;下記一般式(2)
【化5】

(式中、R及びRは炭素数1〜8のアルキル基、フェニル基を示し、但し、RとRは同一の基となることはない。)で表されるフェロセン骨格を有するホスフィン。
第2の成分;下記一般式(3)
【化6】

(式中、Yはハロゲン原子を示す。式中の
【化7】

は、下記一般式(1a)又は(1b)
【化8】

で表されるノルボルナジエン又は1,5-シクロオクタジエンから選ばれる基を示す。)で表されるロジウム化合物。
第3の成分;下記一般式(4)
【化9】

(式中、Rはアリール基を示す。)で表される化合物。
また、本発明が提供しようとする第3の発明は、下記一般式(5)
【化10】

(式中、Aはアルコキシ基、アルキル基を示す。n1は0〜3の整数。n2は0又は2を示す。)で表わされる置換アセチレンを、前記第1の発明の置換アセチレンの重合開始剤の存在下に重合反応させることを特徴とする下記一般式(6)
【化11】

(式中、A、n1及びn2は前記と同義。)で表わされる繰り返し単位を有する置換ポリアセチレン誘導体の製造方法である。
また、本発明が提供しようとする第4の発明は、下記一般式(5)
【化12】

(式中、Aはアルコキシ基、アルキル基を示す。n1は0〜3の整数。n2は0又は2を示す。)で表わされる置換アセチレンを、前記第2の発明の置換アセチレンの重合開始剤系の存在下に重合反応させることを特徴とする下記一般式(6)
【化13】

(式中、A、n1及びn2は前記と同義。)で表わされる繰り返し単位を有する置換ポリアセチレン誘導体の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば置換アセチレンに対して触媒活性が高い新規な置換アセチレンの重合開始剤及び重合開始剤系を提供することができる。また、該置換アセチレンの重合開始剤及び重合開始剤系を用いることで、置換アセチレンから目的とする置換ポリアセチレン誘導体を効率的に得ることができる。また、本製造法によれば、らせん構造を有する置換ポリアセチレン誘導体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例4で得られた置換ポリアセチレン誘導体のCDスペクトル図(上段)及びUV−visスペクトル図(下段)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明する。
(置換アセチレンの重合開始剤)
本発明に係る置換アセチレンの重合開始剤は、下記一般式(1)で表されるホスフィン−ロジウム錯体からなるものである。
【化14】

【0013】
前記一般式(1)の式中のR及びRは、炭素数1〜8のアルキル基又はフェニル基を示し、但し、RとRは同一の基となることはない。
及びRで表される炭素数1〜8のアルキル基としては、非環式アルキル基と脂環式アルキル基が挙げられる。
非環式アルキル基には、直鎖状アルキル基と分岐状アルキル基がある。直鎖状アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基の炭素数1〜8のものが挙げられる。分岐状アルキル基としては、イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソヘプチル基、イソヘキシル基、1,1,3,3−テトラメチルブチル基等の炭素数3〜8のものが挙げられる。脂環式アルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数3〜8のものが挙げられる。また、これらのアルキル基は、一個以上の一価の置換基(例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子)で置換されたものであってもよい。
【0014】
本発明において、一般式(1)の式中のR及びRは、Rがメチル基、Rがtert−ブチル基が特に好ましい。
【0015】
一般式(1)の式中の
【化15】

は、下記一般式(1a)又は(1b)で表されるノルボルナジエン(以下、「nbd」と呼ぶこともある)又は1,5−シクロオクタジエン(以下、「cod」と呼ぶこともある)から選ばれる基を示す。
【化16】

【0016】
一般式(1)の式中のXはアニオン原子を示し、例えば、BF、BPh、PF、AsF、SbF等が挙げられて、この中、XはBF、BPhが特に好ましく用いられる。
【0017】
また、本発明の置換アセチレンの重合開始剤で用いられる前記一般式(1)で表されるフェロセン骨格を有するホスフィン−ロジウム錯体はリン原子上に不斉中心を有する化合物であり、その立体に関して(S,S)−体若しくは(R,R)−体のどちらか一方である光学活性体、(S,S)−体と(R,R)−体が混ざったラセミ体、又は(R,S)−体であるメソ体のいずれでも良い。
【0018】
前記一般式(1)で表されるフェロセン骨格を有するホスフィン−ロジウム錯体は、公知の化合物(例えば、特開2000−256384号公報参照。Tetrahedron: Asymmetry (1999), 10(5), 877-882等参照。)であり、公知の方法により製造することが出来る。その一例を示せば、該フェロセン骨格を有するホスフィン−ロジウム錯体の光学活性体(Rがメチル基、Rがtert−ブチル基)は、下記反応スキーム(1)に従って、フェロセン骨格を有するホスフィン(化合物(2))を得た後、所望のロジウム錯体と反応させることにより容易に製造することができる(例えば、特開2000−256384号公報、Tetrahedron: Asymmetry (1999), 10(5), 877-882、社団法人日本化学会編、「第4版 実験化学講座18,有機金属錯体」、pp339−344、丸善株式会社、1991年等参照)。
【化17】

(置換アセチレンの重合開始剤系)
本発明に係る置換アセチレンの重合開始剤系は、第1の成分の前記一般式(2)で表されるフェロセン骨格を有するホスフィン、第2の成分の前記一般式(3)で表されるロジウム化合物及び第3の成分の前記一般式(4)で表される化合物を含有する。
第1の成分に係るフェロセン骨格を有するホスフィンは、下記一般式(2)で表される。
【化18】

前記一般式(2)の式中のR及びRは、炭素数1〜8のアルキル基又はフェニル基を示し、但し、RとRは同一の基となることはない。
及びRで表される炭素数1〜8のアルキル基としては、非環式アルキル基と脂環式アルキル基が挙げられる。
非環式アルキル基には、直鎖状アルキル基と分岐状アルキル基がある。直鎖状アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基の炭素数1〜8のものが挙げられる。分岐状アルキル基としては、イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソヘプチル基、イソヘキシル基、1,1,3,3−テトラメチルブチル基等の炭素数3〜8のものが挙げられる。脂環式アルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数3〜8のものが挙げられる。また、これらのアルキル基は、一個以上の一価の置換基(例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子)で置換されたものであってもよい。
【0019】
本発明において、一般式(2)の式中のR及びRは、Rがメチル基、Rがtert−ブチル基であることが好ましい。
【0020】
また、本発明の置換アセチレンの重合開始剤系で用いられる前記一般式(2)で表されるフェロセン骨格を有するホスフィンは、リン原子上に不斉中心を有する化合物であり、その立体に関して(S,S)−体若しくは(R,R)−体のどちらか一方である光学活性体、(S,S)−体と(R,R)−体が混ざったラセミ体、又は(R,S)−体であるメソ体のいずれでも良い。
【0021】
前記一般式(2)で表されるフェロセン骨格を有するホスフィンは、公知の化合物(例えば、特開2000−256384号公報参照。Tetrahedron: Asymmetry (1999), 10(5), 877-882等参照。)であり、前述した反応スキーム(1)に従って容易に製造することができる。
【0022】
第2の成分に係るロジウム化合物は、下記一般式(3)で表される。
【化19】

一般式(3)の式中のYは塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子を示し、好ましくは塩素原子である。
【0023】
一般式(3)の式中の
【化20】

は、下記一般式(1a)又は(1b)で表されるノルボルナジエン又は1,5−シクロオクタジエンから選ばれる基を示す。
【化21】

【0024】
一般式(3)で表されるロジウム化合物は、例えば、シグマ・アルドリッチ社から一般試薬として購入できる。
【0025】
第3の成分に係る化合物は、下記一般式(4)で表される。
【化22】

一般式(4)中のRは、アリール基を示す。該アリール基としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等が挙げられる。一般式(4)式中のRは好ましくはフェニル基である。
【0026】
一般式(4)で表される化合物は、例えば、対応するハロゲン化物とn-BuLi等から通常の条件に従い合成することができる。
【0027】
置換アセチレンの重合開始剤系での各成分の配合割合は、第2の成分のロジウム化合物に対する第1の成分の前記一般式(2)で表されるフェロセン骨格を有するホスフィンのモル比で0.1〜10、好ましくは1〜3であり、第2の成分のロジウム化合物に対する第3の成分の前記一般式(4)で表される化合物のモル比で0.1〜10、好ましくは1〜5である。
【0028】
(置換ポリアセチレン誘導体の製造方法)
本発明に係る置換ポリアセチレン誘導体の製造方法は、本発明の前述した置換アセチレンの重合開始剤(以下、「重合開始剤」と呼ぶ)或いは置換アセチレンの重合開始剤系(以下、「重合開始剤系」と呼ぶ)の存在下に、前記一般式(5)で表わされる置換アセチレンの重合反応を行って、前記一般式(6)で表わされる繰り返し単位を有する置換ポリアセチレン誘導体を得るものである。
【0029】
重合反応に用いる置換アセチレンは、下記一般式(5)で表わされる。
【化23】

一般式(5)の式中のAは、アルコキシ基、アルキル基である。前記アルコキシ基としては、好ましくは炭素数1〜16、特に炭素数8〜14のアルコキシ基が好ましい。前記アルキル基としては、好ましくは炭素数1〜16、特に炭素数8〜14のアルキル基が好ましい。
また、一般式(5)の式中のn1は0〜3の整数を示し、式中のn2は0又は2の整数を示す。
本発明において、一般式(5)で表わされる置換アセチレンは、下記一般式(5a)又は(5b)で表わされるものが特に好ましく用いられる。
【化24】

前記一般式(5b)で表わされる置換アセチレンは、適切な重合反応条件を選択して重合反応に付すことにより不斉誘導されキラルモノマーとして作用するので、らせん構造を有するポリアセチレン誘導体の製造に好適に用いることができる。
【0030】
本重合反応では、本発明の前述した重合開始剤又は重合開始剤系が用いられる。
本重合反応における重合開始剤の添加量は、重合開始剤に対する置換アセチレンのモル比で10〜10,000、好ましくは50〜1,000である。
【0031】
本重合反応における本発明の重合開始剤系の添加量は、重合開始剤系の第2の成分のロジウム化合物を基準にして、該第2成分のロジウム化合物に対する置換アセチレンのモル比で5〜1,000、好ましくは10〜100である。
【0032】
使用できる溶媒は、原料を溶解でき生成物に対して不活性な溶媒であれば、特に制限なく用いることができる。例えば、テトラヒドロフラン、トルエン、ジクロロメタン、アセトニトリル、エチルアルコール、メチルアルコール、ヘキサン、ジエチルエーテル、N,N-ジメチルホルムアミド、クロロホルム、クロロベンゼン等が挙げられ、これは1種又は2種以上で用いることができる。
【0033】
本発明において、置換アセチレンの重合反応は、必要により塩基を添加し、重合反応を行うことにより、効率よく、且つ円滑に重合反応を行うことができる。
【0034】
用いることができる塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化バリウム、水酸化リチウム等の無機塩基類、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N−ジエチルシクロヘキシルアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、N,N’−ジメチルピペラジン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン,N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−プロパンジアミン、ピリジン、α−ピコリン、β−ピコリン、γ−ピコリン、4−エチルモルホリン、トリエチレンジアミン、1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]−5−ノネン、1,3−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセン、N−エチルピペリジン、キノリン、イソキノリン、N,N−ジメチルピペラジン、N,N−ジエチルピペラジン、キナルジン、2−エチルピリジン、4−エチルピリジン、3,5−ルチジン、2,6−ルチジン、4−メチルモルホリン、2,4,6−コリジン等の有機塩基類、ピリジル基やジメチルアミノベンジル基を有するイオン交換樹脂等の1種又は2種以上で用いられる。
【0035】
これらの塩基の添加量は、置換アセチレンに対するモル比で0.01〜10,000、好ましくは1〜100である。
【0036】
置換アセチレンの重合反応の反応温度は、重合を行う置換アセチレンの種類により適宜好適な温度条件を選択することが好ましいが、多くの場合、−20〜130℃、好ましくは25〜100℃である。また、反応時間は、重合を行う置換アセチレンの種類により異なるが、多くの場合3時間以上、好ましくは12〜60時間である。
【0037】
重合反応終了後、常法により、反応溶媒を除去し、必要により貧溶媒への再沈殿化等の精製を行うことにより、目的とする下記一般式(6)
【化25】

(式中、A、n1及びn2は前記と同義。)で表わされる繰り返し単位を有する置換ポリアセチレン誘導体を得ることができる。
【0038】
本製造方法で得られる置換ポリアセチレン誘導体は、数平均分子量が1,000〜5,000,000、好ましくは1,700〜3,001,000である。
【0039】
らせん構造の置換ポリアセチレン誘導体を得るには、置換アセチレンとして、一般式(5b)で表されるものを用い、前記した重合開始剤又は重合開始剤系において、好適な溶媒を選択し、重合反応条件として重合反応温度を制御して重合反応を行うことで、らせん構造の置換ポリアセチレン誘導体を得ることが出来る。
【0040】
らせん構造の置換ポリアセチレン誘導体の製造に用いる重合開始剤としては、前記一般式(1)で表されるフェロセン骨格を有するホスフィン−ロジウム錯体のうち光学活性のもの、即ち(S,S)体、又は(R,R)体を用いることができる。
【0041】
らせん構造の置換ポリアセチレン誘導体の製造に用いる重合開始剤系としては、第1〜第3の成分のうち、第1の成分の前記一般式(2)で表されるフェロセン骨格を有するホスフィンとして光学活性のもの、即ち(S,S)体、又は(R,R)体を用いることができる。
【0042】
らせん構造の置換ポリアセチレン誘導体の製造に用いる溶媒は、用いる重合開始剤及び重合開始剤系の種類により好適な溶媒を選択することが好ましい。
例えば、前記一般式(1)で表されるフェロセン骨格を有するホスフィン−ロジウム錯体として、下記一般式(1B)
【化26】

で表されるフェロセン骨格を有するホスフィン−ロジウム錯体の(S,S)体を用いる場合は、ジクロロメタンとテトラヒドロフランの混合溶媒を用いることが好ましい。この場合、ジクロロメタンとテトラヒドロフランの混合割合は体積比(前者:後者)で1:0.1〜10、好ましくは1:0.5〜2である。
【0043】
らせん構造のポリアセチレン誘導体の製造における重合反応の温度も、用いる重合開始剤及び重合開始剤系の種類により好適な温度を選択することが好ましい。
例えば、前記一般式(1B)で表されるフェロセン骨格を有するホスフィン−ロジウム錯体を重合開始剤として、用いた場合は−20〜130℃、好ましくは25〜100℃で重合反応を行うことが好ましい。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
実施例における数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)の評価は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC;JASCO PU−980/RI-930クロマトグラフィー、ポリスチレン換算)により行った。
【0046】
<重合開始剤試料>
<フェロセン骨格を有するホスフィンボラン(ラセミ)体の調製>
特開2000−256384号公報に記載の方法に従って合成した。
−78℃、アルゴン雰囲気下、激しく撹拌したt-ブチルジクロロホスフィン(7.00g, 44.0mmol)の乾燥テトラヒドロフラン(THF, 80mL) 溶液中に、フェロセン(3.89g,20.9mmol) 、n-ブチルリチウム- ヘキサン溶液(1.6M, 41mL, 65.6mmol)、テトラメチルエチレンジアミン(2.43g, 20.9mmol)から調製した1,1'- ジリチオフェロセン- テトラメチルエチレンジアミンのヘキサンスラリー溶液(約120mL)を1時間かけて滴下した。滴下後、冷却用バスを外し、室温で更に1時間撹拌した。次に反応混合物を0℃に冷却し、メチルマグネシウムブロミド-THF溶液(1.0M , 74mL, 74mmol) を加え、50℃に加温し,そのまま1時間撹拌した。その後、再び0℃に冷却し、ボラン−テトラヒドロフラン錯体(1.0M , 100mL) を加え,そのまま0℃で1時間、室温でさらに1時間撹拌した。塩酸を加えた氷水(700mL)中に慎重に注ぎ反応を停止した。酢酸エチル(600mL)を加え、有機層を分液した後、さらに水層を酢酸エチル(100mL)で1回抽出し、有機層を合わせた。飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧下留去した。得られた粗結晶をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=3:1)にて目的物を分取し、さらにヘキサン:酢酸エチル=3:1の混合溶媒から再結晶して、フェロセン骨格を有するホスフィンボランのラセミ体(2.0g, 4.8mmol)
を得た。
(同定データ)
1H NMR (CD2Cl3) δ 4.76-4.70(m,4H), 4.70-4.62(m、8H), 4.28-4.18(m, 4H), 1,50 (d, J=9.8Hz, 6H), 0.98(d, J=14.1Hz, 18H), 0.90-0.20(m, 6H).
13C NMR(CDCl3) δ75.4, 73.9, 70.8, 69.8(JP-C=62.5Hz), 28.8(JP-C=33.4Hz), 25.0, 5.9(JP-C=38.2Hz).
31P NMR(CDCl3,85%H3PO4) δ24.3.
IR(KBr): 3085, 2974, 2376, 1466, 1291, 1067, 837.
【0047】
<フェロセン骨格を有するホスフィンボラン(S,S)体及び(R,R)体の調製>
特開2000−256384号公報に記載の方法に従って合成した。
前記で調製したフェロセン骨格を有するホスフィンボラン(ラセミ)体(300mg)を光学異性体分離HPLC用カラム(ダイセル化学工業, キラルパックAD-H, 2cmφ×25cm)を用い、溶出液としてヘキサン:IPA=95:5を用い、流速8ml/minで光学分割し、各々100mg の(S,S)体(RT:1,5.6分)及び(R,R)体(RT:18.9分)(各99%ee 以上)を得た 。
<フェロセン骨格を有するホスフィン(ラセミ)体、(S,S)体、及び(R,R)体の調製(脱ボラン化)>
【化27】

特開2000−256384号公報に記載の方法に従って合成した。
アルゴン雰囲気下、前記で調整したフェロセン骨格を有するホスフィンボランの(ラセミ)体、(S,S)体、又は(R,R)体(42mg, 0.10mmol)、をピロリジン(1mL)中、70℃で2時間撹拌した。反応の終点は、シリカゲルTLC(酢酸エチル:ヘキサン=1,5)において、原料のボラン体のスポット(Rf値=0.3)が消失し、脱ボラン体のスポット(Rf値=0.7)が出現したことにより確認した。減圧下、ピロリジンを留去し、得られた粗生成物を脱空気し、アルゴンにて飽和したトルエンに溶解し、シリカゲルショートカラム(酢酸エチル:ヘキサン=1,5)に通して精製した。トルエンを減圧下留去し、オレンジ色の結晶(化合物(2-1))(34mg, 0.087mmol)を得た。
<フェロセン骨格を有するホスフィン−ロジウム錯体の調製>
【化28】

フェロセン骨格を有するホスフィン(化合物(2-1))のラセミ体又は光学活性体((S,S)体)を各34mg(0.087mmol)溶解したジクロロエタン(5mL)の溶液に、[Rh(COD)]BF(0.086mmol)を溶解したジクロロエタン(10mL)の溶液を加え、室温(25℃)で2時間攪拌下に反応を行った。次いで溶媒を減圧除去した。
次に、生成物をジクロロエタンへ再溶解した後、ジエチルエーテルを添加して沈殿させ、得られた沈殿物を常法により回収してフェロセン骨格を有するホスフィン−ロジウム錯体(化合物(1B))のラセミ体又は光学活性体((S,S)体)をそれぞれ得た。
(同定データ)
1H NMR (CD2Cl2) δ 1.23 (d, 18H, J = 14.3 Hz), 1,59 (d, 6H, J = 5.9 Hz), 2.00 (m, 2H), 2.16 (m, 2H), 2.46 (m, 2H), 2.62 (m, 2H), 4.38 (m, 2H), 4.41 (m, 2H), 4.54 (m, 2H), 4.58 (m, 2H), 4.74 (m, 2H), 5.71 (m, 2 H); 31P{1H} NMR (CD2Cl2) δ 17.3 (d, 147.4 Hz). Anal. Calcd for C28H44BF4FeP2Rh: C, 48.87; H, 6.44. Found: C, 48.32; H, 6.35
【0048】
<フェロセン骨格を有するホスフィン−ロジウム錯体の調製>
【化29】

前記で調製したフェロセン骨格を有するホスフィン(化合物(2-1))のラセミ体又は光学活性体((S,S)体)を各24mg(0.058mmol)溶解したジクロロエタン(10mL)の溶液を、[(nbd)Rh+[(η6-Ph)B-Ph3](0.058mmol)を溶解したジクロロエタン(5mL)の溶液に加え、室温(25℃)で攪拌下に一晩混合して反応を行った。次いで溶媒を減圧除去した。
次に、生成物をジクロロエタンへ再溶解した後、ジエチルエーテルを添加して沈殿させ、得られた沈殿物を常法により回収してフェロセン骨格を有するホスフィン−ロジウム錯体(化合物(1A)のラセミ体又は光学活性体((S,S)体)をそれぞれ得た。
(同定データ)
1H NMR (CD2Cl2) δ 0.99 (d, 18H, J = 14.3 Hz), 1.64 (d, 6H, J = 5.9 Hz), 1.73 (s, 2H), 4.04 (m, 2H), 4.23 (m, 2H), 4.33 (m, 2H), 4.39 (m, 2H), 4.55 (m, 2H), 5.28 (m, 2H), 5.36 (m, 2 H), 6.88 (m, 4H), 7.04 (m, 8H), 7.32 (m, 8H); 31P{1H} NMR (CD2Cl2) δ 16.6 (d, 1,53.4 Hz).
【0049】
本実施例で用いた重合開始剤試料を表1に示す。
【表1】

【0050】
<重合開始剤系試料>
<重合開始剤系試料a>
<第1の成分;フェロセン骨格を有するホスフィン>
フェロセン骨格を有するホスフィンは、前記フェロセン骨格を有するホスフィン(化合物(2-1))の光学活性体((R、R)体)を用いた。
<第2の成分;ロジウム化合物>
【化30】

シグマ・アルドリッチ社からの購入品をそのまま使用した。
<第3の成分;下記一般式(4a)の調製>
【化31】

−78℃、アルゴン雰囲気下、トリフェニルブロモエテン(10.00g、29.8mmol)、乾燥THF(100mL)の溶液に、n-ブチルリチウム-ヘキサン溶液(1.6M, 20mL, 32mmol)を滴下し、そのまま1時間撹拌した。その後、室温でさらに1時間撹拌し、目的物(化合物(4a))を含有したTHF-ヘキサン溶液を得た。
【0051】
<重合開始剤系試料b>
<第1の成分;フェロセン骨格を有するホスフィン>
フェロセン骨格を有するホスフィンは、前記フェロセン骨格を有するホスフィン(化合物(2-1))の光学活性体((R、R)体)を用いた。
<第2の成分;ロジウム化合物の調製>
【化32】

シグマ・アルドリッチ社からの購入品をそのまま使用した。
<第3の成分>
第3の成分の化合物は、重合開始剤系試料aと同じ化合物を使用した。
【0052】
本実施例で用いた重合開始剤系試料を表2に示す。
【表2】

【0053】
{実施例1〜8}
【化33】

置換アセチレンを濃度0.5Mになるよう各種溶媒に溶解し、重合開始剤試料に対する置換アセチレンのモル比が100(実施例1〜6及び実施例8〜9)又は50(実施例7)となるように重合開始剤試料を添加した。30℃で24時間重合反応を行った後、減圧下、揮発成分を留去し、重合を停止した。残渣を塩化メチレンに溶解し、多量のメタノール中に投入し、ポリアセチレン誘導体を得た。
また、実施例5については、重合反応は50℃で48時間行った。
(同定データ)
(置換アセチレン(R=PA)を重合して得られた置換ポリアセチレン)
1H NMR (CD2Cl2) δ 5.84 (s, 1H), 6.62-7.20 (m, 5H).
(置換アセチレン(R=PA−2OH)を重合して得られた置換ポリアセチレン)
1H NMR (CD2Cl2) δ 0.81-1.80 (m, 23H), 3.87 (broad, 2H), 4.30 (broad, 2H), 4.37 (broad, 4H), 6.70-7.20 (broad, 3H).
【0054】
【表3】

【0055】
【化34】

置換アセチレンを濃度0.5Mまたは0.1Mになるよう各種溶媒に溶解し、第2の成分のロジウム化合物に対する置換アセチレン(PA-2OH)のモル比が25になるように重合開始剤系試料を添加した。次に30℃で24時間重合反応を行った後、減圧下、揮発成分を留去し、重合を停止した。残渣を塩化メチレンに溶解し、多量のメタノール中に投入し、ポリアセチレン誘導体を得た。
なお、重合開始剤系試料の添加は、第2の成分に対する第1の成分のモル比が2、第2の成分に対する第3の成分のモル比が1.5になるように、溶媒へ個別に添加した。
【0056】
【表4】

【0057】
<らせん構造を有する置換ポリアセチレンの評価>
実施例4で得られた置換ポリアセチレンについてCHCl中で比旋光度及びUV−visスペクトルを室温(25℃)で測定した。なお、CHCl中の置換ポリアセチレンのモノマー単位の濃度は、0.2mMとした。
得られたCDスペクトルとUV−visスペクトルを図1に示す。
図1の結果から、実施例4で得られた置換ポリアセチレン誘導体はCHCl溶解中で大きい比旋光度を示すこと、また、主鎖ポリアセチレンに基づくCDシグナル、UV−可視シグナルは文献値(Journal of the American Chemical Society, (2003),125(21),6346-6347)と一致し、300nm付近にピークを示したことから主鎖がらせん構造を形成していることが確認された。
なお、実施例5、6、9については、CHCl中で比旋光度はほとんど観察されなかった。また、実施例10〜13については、CHCl中で弱い比旋光度が観察された。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明によれば置換アセチレンに対して触媒活性が高い新規な置換アセチレンの重合開始剤及び重合開始剤系を提供することができる。また、該置換アセチレンの重合開始剤及び重合開始剤系を用いることで、置換アセチレンから目的とする置換ポリアセチレン誘導体を効率的に得ることができる。また、本製造法によれば、らせん構造を有する置換ポリアセチレン誘導体を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】

(式中、R及びRは炭素数1〜8のアルキル基又はフェニル基を示し、但し、RとRは同一の基となることはない。Xは、アニオン原子を示す。式中、
【化2】

は、下記一般式(1a)又は(1b)
【化3】

で表されるノルボルナジエン又は1,5-シクロオクタジエンから選ばれる基を示す。)で表されるフェロセン骨格を有するホスフィン−ロジウム錯体からなることを特徴とする置換アセチレンの重合開始剤。
【請求項2】
前記一般式(1)の式中のRがメチル基、Rがtert−ブチル基であるフェロセン骨格を有するホスフィン−ロジウム錯体からなることを特徴とする請求項1記載の置換アセチレンの重合開始剤。
【請求項3】
前記一般式(1)の式中のXが、BF、BPhであるフェロセン骨格を有するホスフィン−ロジウム錯体からなることを特徴とする請求項2記載の置換アセチレンの重合開始剤。
【請求項4】
下記の第1の成分、第2の成分及び第3の成分を含有することを特徴とする置換アセチレンの重合開始剤系。
第1の成分;下記一般式(2)
【化4】

(式中、R及びRは炭素数1〜8のアルキル基、フェニル基を示し、但し、RとRは同一の基となることはない。)で表されるフェロセン骨格を有するホスフィン。
第2の成分;下記一般式(3)
【化5】

(式中、Yはハロゲン原子を示す。式中の
【化6】

は、下記一般式(1a)又は(1b)
【化7】

で表されるノルボルナジエン又は1,5-シクロオクタジエンから選ばれる基を示す。)で表されるロジウム化合物。
第3の成分;下記一般式(4)
【化8】

(式中、Rはアリール基を示す。)で表される化合物。
【請求項5】
第1の成分のフェロセン骨格を有するホスフィンが、前記一般式(2)の式中のRがメチル基、Rがtert−ブチル基であることを特徴とする請求項4記載の置換アセチレンの重合開始剤系。
【請求項6】
下記一般式(5)
【化9】

(式中、Aはアルコキシ基、アルキル基を示す。n1は0〜3の整数。n2は0又は2を示す。)で表わされる置換アセチレンを、請求項1記載の置換アセチレンの重合開始剤の存在下に重合反応させることを特徴とする下記一般式(6)
【化10】

(式中、A、n1及びn2は前記と同義。)で表わされる繰り返し単位を有する置換ポリアセチレン誘導体の製造方法。
【請求項7】
下記一般式(5)
【化11】

(式中、Aはアルコキシ基、アルキル基を示す。n1は0〜3の整数。n2は0又は2を示す。)で表わされる置換アセチレンを、請求項4記載の置換アセチレンの重合開始剤系の存在下に重合反応させることを特徴とする下記一般式(6)
【化12】

(式中、A、n1及びn2は前記と同義。)で表わされる繰り返し単位を有する置換ポリアセチレン誘導体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−46706(P2012−46706A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−192962(P2010−192962)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(000230593)日本化学工業株式会社 (296)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】