説明

耐久性のある低表面エネルギー化合物

【課題】コーティングダイス、エッジガイドおよびその他コーティング表面、そしてその他流体と接触する表面に耐久性のある縦すじを減少させる表面を提供する。
【解決手段】下式


(式中、Rfは過フッ素化末端基を含有するフルオロ脂肪族基であり、Rsは複数の炭素原子と、任意で1個以上のカテナリー酸素原子を含む有機溶解性基であり、Rbはエポキシシランと反応可能な有機官能基であり、各R4は水素、ハロゲンまたはメチルであり、各Qは独立に共有結合、ヘテロ原子または有機結合基である)のモノマーを反応してオリゴマーを形成し、次いで、エポキシシランでさらに重合することから得られるポリマー化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なポリマー化合物およびコーティング装置のダイス、エッジガイドおよびその他表面そしてその他流体と接触するコンポーネントのための耐久性のある低表面エネルギーのコーティングとしての使用に関する。特に、本発明は、縦すじを最小にし、ダイ清浄手順による損傷を最小にするための新規なポリマー化合物およびコーティングダイスでのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
液体を基材やウェブに適用またはコーティングするプロセスはよく知られている。しかしながら、そのプロセスは、用いる液体や基材、最終製品の性能目的およびプロセスそのものによって複雑となり得る。特定のコーティングニーズに応えるために、コーティング装置およびコーティングプロセスの変形が多く開発されている。
【0003】
米国特許第2,681,294号には、直接押出しおよび計量コーティングシステムのスライドタイプについてコーティングビーズを安定化するための真空方法が開示されている。かかる安定化はこれらのシステムのコーティング能力を向上するものである。しかしながら、これらのコーティングシステムは、いくつかのコートされた製品に必要とされる薄い湿潤層を、たとえ非常に低い液体粘度であっても、与えるには全体的な能力に欠けている。
【0004】
米国特許第4,445,458号には、コーティングビーズの下流側に界面力を与え、ビーズを維持するのに必要な真空の量を減じるための傾斜した減少面のある押し出しタイプのビーズコーティングダイが開示されている。真空の減少は、チャタリング、縦すじおよびその他コーティングの欠陥を最小にすると記されている。コーティング品質は、スロット軸に対する傾斜面の鈍角、そして可動ウェブの方への(オーバーハング)、そして可動ウェブから離れた(アンダーハング)傾斜のスロット軸に沿った位置を最良にすることによりさらに改善されると記されている。最良化により、感光エマルジョンをコーティングするのに望まれる高品質が得られる。しかしながら、いくつかのコートされた製品に望まれる薄い層の性能に欠けている。
【0005】
押し出しダイコーターおよびスライドコーターが抱える共通の問題は、基材に適用したときに液体の縦すじが生じることである。縦すじの生じる一つの要因は、コーティングビーズ近傍のダイリップ上の乾燥した液体残渣である。この要因とその結果である縦すじは、非常に揮発性の溶剤を含有する低粘度の液体に特によく見受けられる問題である。
【0006】
欧州特許公開EP 0 581 962 A1に、コーティング欠陥を減じるための一つの手法が記載されている。フッ素含有樹脂(ポリテトラフルオロエチレンのような)とニッケルの共析分散液をコーティング装置のダイフェースおよびリップにめっきする。硬化の際、この表面は、フッ素化表面の撥水特性を保ちつつ、コーティングダイに必要な剛性と寸法安定性を与えると報告されている。この処理は、コーティング液体によるダイ表面の濡れを防ぐと記されており、コーティングにおける縦すじ、滴下およびエッジ波立ちを減少させる。
【0007】
米国特許第5,380,365号は、フッ素化ポリエチレンのような低エネルギー材料のコーティングビーズに近接した、またはその下にあるスライドコーティングダイ表面のカバーリングまたはコーティングについて記載している。カバーリングは、コーティングリップ先端の0.05−5.00mm下から始まり、コーティングビーズから離れたところまで延びている。低表面エネルギーのカバーリングは、ベアメタルストリップによりコーティングリップ先端から分離されている。これは、ビーズの静的接触ラインに位置している。低エネルギーカバーリングは、コーティングの縦すじを排除し、ダイの浄化を促すと記されている。
【0008】
数多くの公知の化合物が、米国特許第3,787,351号(Olson)のような特許に記載されている。この特許には、フルオロ脂肪族基およびポリ(オキシアルキレン)溶解性基を含有するオリゴマーが記載されている。これらのオリゴマーは、例えば、ガラス強化ポリエステルまたはエポキシ樹脂複合体のような樹脂充填複合体の成形物品の機械的特性を改善するための湿潤剤として有用であると言われている。さらに、米国特許第4,415,615号(Esmayら)には、米国特許第3,787,351号のオリゴマーのいくつかを、均一なセル構造を生成するために、発泡感圧接着剤の調製における界面活性剤として用いることを開示している。
【0009】
非フッ素化の重合可能な界面活性剤は、例えば、米国特許第4,560,599号(Regen)に記載されている。この特許には、多官能性の重合可能な界面活性剤による固体基材の段階的な直接コーティングのための方法が記載されている。用いられている重合可能な界面活性剤の中には、メタクリレート官能性フォスファチジルコリンおよびりん酸エステルがある。
【0010】
Zh. Fiz. Khim、1982年、56、2898(抄録)には、共重合によりポリマー表面に疎水性および化学抵抗性を与えるのに有用な、式CH2=CHCO2CH2(CF2CF2nR(式中、RはHまたはF、nは1から4)のフッ素含有アクリレートが記載されている。
【0011】
米国特許第5,468,812号(Muggliら)には、少なくとも2個のペンダントフルオロ脂肪族基、少なくとも2個の有機溶解性基およびペンダントの重合可能なオレフィン基(二官能性モノマーから調製される)を有するポリマー、オリゴマーフルオロケミカル界面活性剤組成物が記載されている。この組成物は、アクリレートベースの感圧接着剤の表面エネルギーを減少させる。この組成物は、界面活性剤の存在により良好にコートし、エージングの際に接着性能を維持するアクリレートベースの感圧接着剤を調製するのに用いることができる。
【0012】
しかしながら、通常の作業条件において生じる摩耗および/または衝撃に耐える縦すじを減少させる材料に対する要望が残っている。耐摩耗性は、コートされた液体が摩耗品質を有しているとき、そして浄化の際に布、ブラシ等による表面の拭き取りを行うとき、特に重要である。耐衝撃性は、コーティングプロセスにおいて、ウェブまたは基材が材料を破損し、材料に打撃を与える場合があるとき、特に重要である。
【0013】
耐久性のある縦すじを減少させる材料は、容易に、素早く、そして費用効果が高くなるように適用されなければならない。適用プロセスは、材料に適用するためにかなりの間にわたってオフラインをとるコーティング装置を必要としてはならない。非常に専門的な能力のある施設に送るべきコーティング装置を必要とせずに、適用プロセスは比較的早く、コーティング現場またはその近くで行うことができるのが好ましい。
【0014】
さらに、縦すじを減少させる材料の適用プロセスには、コーティング装置に悪影響を及ぼすような大きなリスクが含まれていてはいけない。例えば、プロセスは、限界レベルを超えるまでコーティング装置の温度を上げることを必要とするようなコーティング装置の寸法を歪めるリスクを冒してはいけない。
【0015】
縦すじを減少させる材料の適用プロセスはまた、標準的な設備投資以下に抑え、プロセスと材料そのものは、実際にその材料をコーティング装置に適用するために標準的なコストしかかからないようにしなくてはならない。
【特許文献1】米国特許第2,681,294号
【特許文献2】米国特許第4,445,458号
【特許文献3】欧州特許公開EP 0 581 962 A1
【特許文献4】米国特許第5,380,365号
【特許文献5】米国特許第3,787,351号
【特許文献6】米国特許第4,560,599号
【特許文献7】米国特許第5,468,812号
【非特許文献1】Zh. Fiz. Khim、1982年、56、2898
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、公知の材料の欠点に対処し、特に、コーティングダイス、エッジガイドおよびその他コーティング表面、そしてその他流体と接触する表面に耐久性のある縦すじを減少させる表面を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の一実施形態は、ペンダントフルオロ脂肪族基、ペンダント有機溶解性基およびエポキシシランと反応したペンダント基を有するフルオロケミカルオリゴマーを含む新規なポリマー化合物である。
【0018】
好ましい実施形態において、ポリマーのフルオロケミカル部分が、
(i)過フッ素化末端基を有するフルオロ脂肪族基、
(ii)複数の炭素原子と任意で1個以上のカテナリー酸素原子を含む有機溶解性基および
(iii)エポキシシランと反応可能な有機官能基
に結合した脂肪族骨格であって、各フルオロ脂肪族基、有機溶解性基およびエポキシシランと反応可能な有機官能基が、共有結合、ヘテロ原子または有機結合基によりオリゴマー脂肪族骨格に独立に結合している。
【0019】
好ましい実施形態において、エポキシシランは、末端エポキシ基および末端にある重合可能なシラン基を含む。
【0020】
さらに好ましい実施形態において、フルオロケミカル部分は、式Iで表わされる1種類以上のオリゴマーを含む。


式中、R1、R2およびR3は、それぞれフッ素化、二官能性および溶解性モノマーから誘導された重合単位を表わし、合わせて脂肪族骨格を形成するものであり、
各Qは独立に共有結合、ヘテロ原子または有機結合基であり、
fは過フッ素化末端基を含有するフルオロ脂肪族基であり、
bはエポキシシランと反応可能な有機官能基であり、
sは複数の炭素原子と、任意で1個以上のカテナリー酸素原子を含む有機溶解性基であり、
a、b、cおよびdは化合物がオリゴマーとなるような整数であり、
エポキシシランは、

(式中、mおよびnは1から4の整数、Rは炭素原子10個未満の脂肪族基、炭素原子10個未満のアシル基または式(CH2CH2O)jZ(jは少なくとも1の整数、Zは炭素原子10個未満の脂肪族基である)の基である)により表わされる。
【0021】
さらに他の好ましい実施形態において、フルオロケミカル部分は、式IIで表わされる1種類以上のオリゴマーを含む。

式中、R4は水素、ハロゲンまたはメチルであり、Rf、Rs、Rb、a、b、cおよびdは上記の通りである。
【0022】
本発明はまた、
(i)フッ素化モノマー、エポキシシランと反応可能な基を有する二官能性モノマーをオリゴマー化し、モノマーを溶解して中間体組成物を形成する工程と、
(ii)耐久性のある低表面エネルギー化合物を提供するために工程(i)の中間体をエポキシシランと反応する工程とを含む上述の組成物を調製するプロセスを提供する。
【0023】
本発明のオリゴマーの構造を表わすのに本明細書において用いる式は、いくつかの種類のモノマーから誘導されたランダム重合単位鎖の存在を示している。これらの式は、例えば、ブロックコポリマー中のような「ブロック」単位、または鎖中のこれに代わるものの単位の順番は示していない。本明細書で用いるとき、「オリゴマー」または「オリゴマー性」という用語は、複数の重合単位、ただし、ポリマー中に存在する重合単位より少ない、例えば、5から約100の重合単位鎖を含有する化合物を指している。
【0024】
特定の置換基の説明および例示を単純にする手段として、「基」および「単量体」という用語を、置換されている化学種と置換されていない化学種を区別するために用いている。「基」または「アリール基」という用語を置換基を説明するために用いるとき、その置換基には、基本的な基の文言上の定義を超えた追加の置換基が用いられている。「単量体」という用語を置換基を説明するために用いる場合は、非置換基だけが含まれていることを意図している。例えば、「アルキル基」というフレーズは、メチル、エチル、プロピル、t−ブチル、シクロヘキシル、イソ−オクチル、オクタデシル等の純粋な炭化水素アルキル鎖のみならず、ヒドロキシル、アルコキシ、フェニル、ハロゲン原子(F、Cl、BrおよびI)、シアノ、ニトロ、アミノ、カルボキシ等の業界で公知の置換基を含むアルキル鎖も含まれることを意図している。例えば、アルキル基には、エーテル基(例えば、CH3−CH2−CH2−O−CH2−)、ハロアルキル、ニトロアルキル、カルボキシアルキル、ヒドロキシアルキル、スルフォアルキル等が含まれる。一方、「アルキル単量体」というフレーズは、メチル、エチル、プロピル、t−ブチル、シクロヘキシル、イソ−オクチル、オクタデシル等の純粋な炭化水素アルキル鎖のみを含むものと限定される。非常に強い求電子または酸化置換基のような活性成分と反応する置換基は、不活性または無害ではないとして当業者により当然のことながら除かれる。
【0025】
本発明の他の態様、利点および利益は、詳細な説明、実施例および請求項により明らかとなる。
【0026】
好ましい実施形態の詳細な説明
本発明の新規なポリマー化合物は、コーティング装置のダイス、エッジガイドおよびその他表面のための耐久性のある低表面エネルギー(DLSE)コーティングとして特に有用である。以下に、好ましい組成物、物品、装置およびこの組成物を用いる方法を開示する。本発明のフルオロ脂肪族オリゴマー部分のフッ素化モノマー、二官能性モノマーおよび有機溶解性モノマーを、式Iに示した好ましい実施形態を参照してさらに説明する。
【0027】
フルオロ脂肪族モノマー
フッ素化モノマーは、本明細書においてはRと示したフルオロ脂肪族基(すなわち、フッ素化脂肪族基)を含む。Rは、安定で、不活性な非極性の、好ましくは飽和した疎油性と疎水性の両方の性質を有する一価の基である。フッ素化オリゴマーは、好ましくは約2から約25のR基と、オリゴマーの総重量に対して、好ましくは約5重量パーセントから約30重量パーセント、より好ましくは約8重量パーセントから約20重量パーセントのフッ素を含む。フッ素の位置は実質的にR基にある。Rは、好ましくは少なくとも3個の炭素原子、より好ましくは3から20個の炭素原子、最も好ましくは6から12個の炭素原子を含有する。Rは、直鎖、分岐鎖または環状フッ素化アルキル基またはこれらの組み合わせ、または直鎖、分岐鎖または環状アルキル基の組み合わせを含むことができる。Rは好ましくは重合可能なオレフィン不飽和基がなく、任意で酸素、二価または六価の硫黄または窒素のようなカテナリーへテロ原子を含むことができる。各Rは約40重量%から約78重量%のフッ素、より好ましくは約50重量%から約78重量%のフッ素を含むのが好ましい。R基の末端部分は、過フッ素化末端基を含む。この末端基は、例えばCF3CF2CF2−、(CF32CF−等、少なくとも7個のフッ素原子を含有しているのが好ましい。式Cy(2y-1)のようなパーフルオロ脂肪族基はRの最も好ましい実施形態である。
【0028】
フルオロ脂肪族モノマーはフッ素化エチレン化不飽和モノマーである。フッ素化エチレン化不飽和モノマーおよびその調製方法は公知であり、例えば、米国特許第2,803,615号(Ahlbrechtら)および第2,841,573号(Ahlbrechtら)に開示されている。かかる化合物としては、アクリレート、メタクリレート、ビニルエーテルおよびフッ素化スルフォンアミド基含有アリル化合物、フルオロケミカルテロマーアルコールから誘導されたアクリレートまたはメタクリレート、フルオロケミカルチオール等のような一般的な部類のフルオロケミカルオレフィンが例示される。
【0029】
最も単純な形態において、フッ素化エチレン化不飽和モノマーはエチレン化不飽和基に結合した炭化フッ素基を含有している。この代わりに、好ましくは、炭化フッ素基は、同様に、エチレン化不飽和基に結合した炭化水素部分に結合している。フルオロケミカル基は炭化水素基に直接結合していても、スルフォンアミド基のような架橋基により結合していてもよい。モノマーの好ましいエチレン化不飽和部分は、アクリレート基またはメタクリレート基である。好ましい架橋基はスルフォンアミド基である。
【0030】
代表的なフッ素化エチレン化不飽和モノマーは次の通りである。

およびこれらの組み合わせである。好ましいフッ素化エチレン化不飽和モノマーはパーフルオロ脂肪族スルフォニルアミドアクリレートおよびこれらの組み合わせである。代表的な好ましいパーフルオロ脂肪族スルフォニルアミドアクリレートとしては、

が挙げられる。
【0031】
有機溶解性モノマー
有機溶解性モノマーには、本明細書においてはRsと記される有機溶解性モノマーが含まれる。Rs基は、例えば、ケトン、エステル、エーテル、炭化水素、アクリル酸、メタクリル酸、アクリレートおよびメタクリレートの重合可能な混合物等、従来の溶媒のような有機媒体に溶解する工程(i)において調製されるフッ素化オリゴマーを与える。Rs基の特に好ましい数は、特定のRs基および化合物が溶解される特定の媒体の性質により異なる。しかしながら、一般に、複数のRs基が好ましく、約2から約60、より好ましくは約4から約30である。各Rs基は少なくとも4個の炭素原子と任意で少なくとも1個のカテナリー酸素原子を含む。Rs基は、好ましくは約8から約50個の炭素原子を含むのが好ましく、直鎖、分岐鎖、環状またはこれらの組み合わせとすることができる。有機溶解性基Rsは、フッ素化オリゴマーにペンダントしているのが好ましい。好ましいRs基は、ポリオキシアルキレンまたはポリオキシアルキレニル基、例えば、ポリオキシエチレンまたはポリオキシエチレニル、および直鎖、分岐鎖、環状アルキルまたはアルキレン基、例えば、ブチル、ブチレン、オクチル、オクチレン、イソオクチル、イソオクチレン、オクタデシルまたはオクタデシレンおよびこれらの組み合わせを含む。
【0032】
溶解性モノマーはよく知られており、通常、市販されている、もしくは当業者により容易に調製される。溶解性モノマーとしては、C2およびそれより長い、好ましくはC4およびそれより長い、イソ−ブチルメタクリレート、イソ−オクチルアクリレート、オクタデシルメタクリレート等のようなアルキルアクリレートおよびメタクリレート;トリエチレングリコールアクリレートのようなポリアルキレングリコールのアクリレートおよびメタクリレート;メトキシポリエチレングリコールおよびポリエチレングリコールのアクリレートおよびメタクリレート、ヒドロキシ基により末端が封鎖されたエチレン酸化物とプロピレン酸化物のブロックコポリマーのアクリレートおよびメタクリレート、テトラメチレン酸化物グリコールのアクリレートおよびメタクリレート;およびアミノ末端ポリエーテルのアクリルアミドおよびメタクリルアミドが挙げられる。
【0033】
二官能性モノマー
二官能性モノマーは、エポキシシランと反応可能な本明細書においてはRbと記される有機官能基を含む。Rbは、エポキシシランと反応可能な基であれば何でもよい。かかる基としては、ヒドロキシ、アミノ、カルボン酸およびスルホン酸が例示される。Rbはヒドロキシ基であるのが好ましい。かかる基を含有する二官能性モノマーはよく知られており、通常、市販されている、もしくは当業者により容易に調製される。
【0034】
二官能性モノマーとしては、アクリルアミド、メタクリルアミド、マレインアミド、マレインイミド、N−イソプロピルアクリルアミド、グリオキサルビスアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、ジアセトンメタクリルアミド、メチロール化ジアセトンアクリルアミド、メチロール化ジアセトンメタクリルアミド、2−ヒドロキシー3−クロロプロピルアクリレート2−ヒドロキシ−3−クロロプロピルアクリレートメタクリレート、ヒドロキシC2〜C4アルキルアクリレートおよびメタクリレート、イソブテンジオール、アリルオキシエタノール、o−アリルフェノール、ジビニルカルビノール、グリセロールα−アリルエーテル、アクリル酸、メタクリル酸およびこれらの金属塩、ビニルスルフォンおよびスチレンp−スルフォン酸およびその金属塩、3−アミノクロトニトリル、モノアリルアミド、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルフォン酸(AMPS)およびその塩、グリシジルアクリレートおよびメタクリレート、アリルグリシジルエーテルおよびアクロレインが例示される。
【0035】
好ましい二官能性モノマーは、
ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)
ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)
ヒドロキシプロピルメタクリレート、および
ヒドロキシプロピルアクリレート
のようなヒドロキシ含有アクリレートモノマーである。
【0036】
フッ素化オリゴマー
上述した通り、フッ素化オリゴマーはフッ素化エチレン化不飽和モノマー、ポリオキシエチレンエチレン化不飽和モノマーおよび二官能性エチレン化不飽和モノマーのポリマーである。エチレン化不飽和基としては、アクリレート、メタクリレート、ビニルエーテルおよびアリル化合物のような一般的な部類のオレフィンが例示される。本発明に有用なフッ素化オリゴマーは、米国特許第5,468,812号に記載されている通りに調製することができる。
【0037】
フッ素化オリゴマーは、簡便に調製して、必要なペンダント官能性を備えたポリマー骨格を形成することができる。これは、ポリマー骨格にも堆積するように、モノマーに既に存在している所望のペンダント官能性を備えた適切なエチレン化不飽和モノマーを選択することによって簡便に行うことができる。これは、少なくとも3種類の材料の重合によるアクリレート骨格を形成することにより行うのが好ましい。アクリレートは作用する唯一の材料であるわけではないが、骨格に好ましいものである。
【0038】
フッ素化オリゴマーは、最終生成物に望ましい比率において3種類のモノマーの遊離基重合により調製される。モノマーは、約30から50wt%のフッ素化エチレン化不飽和モノマー、約44から64wt%のポリオキシエチレン不飽和モノマー、および約6から16wt%のヒドロキシル含有エチレン化不飽和モノマー、そして特に好ましくは、それぞれ34.5、54、11.5wt%の3種類のモノマーでポリマー中に存在するのが好ましい。重合は、酢酸エチル、2−ブタノン、エタノール、2−プロパノール、アセトン等のような溶剤において実施する。
【0039】
式Iに示された好ましい実施形態において、脂肪族骨格は、化合物にオリゴマー性を与えるのに十分な数の重合単位を含む。骨格は、約5から約100、より好ましくは約10から約50、最も好ましくは約20から約40の重合単位を含むのが好ましい。単一の重合単位は、複数のペンダント基を含むことができる。しかしながら、重合単位は、例えば、フルオロ脂肪族基を含むようなフッ素化モノマー、例えば、溶解性基を含有する溶解性モノマー、そして、例えば、エポキシシランとさらに反応できる官能基を含有する二官能性モノマーから誘導されるのが好ましい。化合物中のいくつかの種類の重合単位の相対および絶対数は、好ましい数のいくつかの種類のペンダント基がオリゴマー中に存在するようにするのが好ましい。従って、式Iを参照すると、aは好ましくは約2から約80、より好ましくは約5から約45、bは約1から約60、より好ましくは約2から約30、そしてcは約2から約70、より好ましくは約4から約55であるのが好ましい。
【0040】
従って、いくつかの種類の重合単位のモル比と、脂肪族骨格中のフッ素化、溶解性および重合可能なオレフィン基の数は、本発明の組成物中に存在する各オリゴマーにおいて同一とはならない。従って、本発明の組成物およびオリゴマーは、一般に、組成物の調製に用いる相対量により主に求められるいくつかの種類の各モノマーから誘導された重合単位の全体比に関して本明細書において特徴付けられている。
【0041】
架橋基Q
フッ素化オリゴマーにおいて、フッ素化、溶解性およびエポキシシランと反応可能な基は、式IにおいてQと記された架橋基により脂肪族骨格に結合されている。架橋基Qは、共有結合、OやSのようなヘテロ原子または有機基とすることができる。架橋基Qは、約1から約20個の炭素原子、任意で酸素−、窒素−または硫黄−含有基またはこれらの組み合わせを含有する有機基であって、好ましくは、例えば重合可能なオレフィン二重結合、チオール、クミル水素のような容易に抽出される水素原子およびフリーラジカルオリゴマー化を実質的に妨害する当業者に知られた他のかかる官能基のような官能基を含まない有機基が好ましい。架橋基Qに適した構造としては、直鎖、分岐鎖または環状アルキレン、アリーレン、アラルキレン、オキシ、オキソ、チオ、スルフォニル、スルフィニル、イミノ、スルフォンアミド、カルボキサミド、オキシカルボニル、ウレタニレン、ウレニレンおよびスルフォンアミドアルキレンのようなこれらの組み合わせが例示される。好ましい架橋基Qは、調製のし易さおよび市販性により選択することができ、それがRf、RsまたはRbを脂肪族骨格に結合するかどうかにより異なる。
【0042】
下記に、代表的な適した有機Q基を部分的にリストする。このリストにおいて、各kは独立に約1から約20の整数、gは0から約10の整数、hは約1から約20の整数、R’は水素、フェニルまたは炭素原子1から4個のアルキルであり、R”は炭素原子約1から20個のアルキルである。

【0043】
架橋基Rfについては、Qはアルキレンまたはスルフォンアミドまたはスルフォンアミドアルキレンが好ましい。架橋基Rsについては、Qはオキシカルボニルが好ましい。架橋基Rbについては、Qはアルキレンオキシカルボニルが好ましい。
【0044】
フルオロ脂肪族オリゴマーの脂肪族骨格は、当然、式Iに示した形式には存在しない。この骨格は各末端において水素またはその他の有機基(式Iには示されていない)により封鎖されている。末端基は、組成物を調製するのに用いる方法により存在する。特定のフッ素化化合物に存在する特定の末端基は、本発明の組成物の機能にとって特に重要ではない。典型的な末端基としては、水素またはアルキルチオール連鎖移動剤から誘導されたアルキルチオ基が挙げられる。
【0045】
最も好ましいフッ素化オリゴマーは、以下の反応機構に示す通りに調製することができる。

【0046】
反応機構の工程(i)において、フッ素化、二官能性および溶解性モノマーは、オリゴマー化されて式IIのフッ素化オリゴマー中間体を形成する。


式II
【0047】
式IIのフッ素化オリゴマーにおいて、R4、Q、Rf、Rs、Rb、a、b、cおよびdは上述した通りである。オリゴマー鎖を封鎖する基は、式または反応機構には示されていない。
【0048】
反応機構の工程(i)において、いくつかの種類のモノマーが各種類のモノマーの所望の相対数を含有する生成物を与えるのに必要な量で存在している。工程(i)においてはまた、適切な長さでオリゴマー鎖を封鎖する役割を担って、化合物中の各種類のモノマーの絶対数を制御することのできる連鎖移動剤が存在している。適した連鎖移動剤は、フリーラジカル反応を伝播および終結することのできる基を含む。これは当業者によく知られている。代表的な連鎖移動剤としては、エタンチオール、プロパンチオール、ブタンチオール、n−オクチルチオール、t−ドデシルチオール、2−メルカプトエチルエーテル、2−メルカプト−イミダゾール等のようなチオール類が挙げられる。連鎖移動剤は、工程(i)において脂肪族骨格の重合単位の数を制御するのに十分な量で存在する。連鎖移動剤は、反応中のモノマーのモル数に対して、通常、約1から約20モルパーセント、好ましくは約3から約10モルパーセントの量で用いる。
【0049】
工程(i)においてはフリーラジカル開始剤も存在している。かかる化合物は当業者に知られており、過硫酸塩、アゾ−ビス−イソブチロニトリルおよびアゾ−2−シアノ吉草酸等のようなアゾ化合物、クミン、t−ブチルおよびt−アミルヒドロ過酸化物のようなヒドロ過酸化物、ジ−t−ブチル過酸化物のようなジアルキル過酸化物、t−ブチル過安息香酸およびジ−t−ブチルパーオキシフタレートのようなパーオキシエステル、ベンゾイル過酸化物およびラウリル過酸化物のようなジアシル過酸化物が挙げられる。
【0050】
開始剤の適量は、特定の開始剤および用いているその他の反応物質により異なる。反応中の他の全反応物質の総重量に対して約0.1重量パーセントから約5重量パーセント、好ましくは約0.1重量パーセントから約1重量パーセントの開始剤を用いることができる。
【0051】
工程(i)は、例えば、乾燥窒素の雰囲気のような不活性雰囲気中で行うのが好ましい。工程(i)は、有機フリーラジカル反応に適した溶剤中で行うことができる。反応物質は溶剤中に存在させ、反応混合物の総重量に対して、例えば、約5重量パーセントから約90重量パーセントの適した濃度とすることができる。適した溶剤としては、ヘキサン、ヘプタンおよびシクロヘキサンのような脂肪族および脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエンおよびキシレンのような芳香族溶剤;ジエチルエーテル、グリム、ジグリムおよびジイソプロピルエーテルのようなエーテル類;酢酸エチルおよび酢酸ブチルのようなエステル類;アセトン、メチルエチルケトン(MEK、2−ブタノン)およびメチルイソブチルケトンのようなケトン類;ジメチルスルフォキシドのようなスルフォキシド;N,N−ジメチルホルムアミドおよびN,N−ジメチルアセトアミドのようなアミド;メチルクロロホルムのようなハロゲン化溶剤、フレオン13、トリクロロロエチレンおよびα,α,α−トリフルオロトルエン等のハロゲン化溶剤およびこれらの混合物が例示される。
【0052】
同様に、工程(i)は、有機フリーラジカル反応を実施するのに適したいかなる温度においても行うことができる。用いる特定の温度および溶剤は、試薬の溶解度、特定の開始剤を用いるのに必要な温度等を考慮すれば当業者であれば容易に選択できる。全ての開始剤および全ての溶剤に適した特定の温度を列挙するのは実際的ではないが、一般に適した温度は約30℃から約200℃の間である。
【0053】
例えば架橋組成のカテナリー溶解基を有する本発明のフッ素化オリゴマー組成物を調製する方法にはさらに、工程(i)において、例示した単官能性溶解性モノマーの代わりに、例えば、2個の重合可能なオレフィン単量体を結合する溶解性基を含むもののような二官能性溶解性モノマーを用いることが含まれるものと認識される。適した二官能性溶解性モノマーとしては、Carbowax1000、1450および3350のようなポリオキシアルキレンジオールのジアクリレートおよびジメチルアクリレートが例示される。かかる二官能性溶解性モノマーを用いるとき、工程(i)は、カテナリー溶解性基を有する軽く架橋したフッ素化オリゴマーを生成する。Rs基の性質によって、代替工程(i)の生成物を、本発明の組成物を与えるために変質または工程(ii)に関連して記載した通りにさらに手を加えてもよい。
【0054】
エポキシシラン
上述した通り、工程(ii)において、式IIのフルオロケミカルオリゴマーをさらにエポキシシランで重合して、本発明の耐久性のある低表面エネルギー(DLSE)のコーティングを形成する。
【0055】
エポキシシランは、重合可能な(好ましくは末端)エポキシ基および末端重合可能なシラン基を有する化合物または材料である。これらの基の架橋は、架橋鎖にNおよび/またはO原子を有する非加水分解性脂肪族、芳香族または脂肪族と芳香族の二価架橋基により行なわれる。例えば、O原子はエーテル結合のような鎖中にのみ存在する。
【0056】
本発明の放射線硬化組成物において有用な好ましいエポキシシランは、末端重合可能なエポキシ(オキシレン)基および末端シラン基を有する化合物であり、下式で表わすことができる。

式中、mおよびnは1から4の整数であり、Rはメチル、メチル、イソ−プロピル、ブチル、ビニル、アリルのような炭素原子10個未満の脂肪族基;またはホルミル、アセチルまたはプロピオニルのような炭素原子10個未満のアシル基;または式(CH2CH2O)jZ基(式中jは少なくとも1の整数、Zはメチル、エチル、イソ−プロピル、ブチル、ビニルおよびアリルのような炭素原子10個未満の脂肪族基)である。Rは炭素原子1から3個のアルキル基であるのが好ましい。代表的な好ましいエポキシシランとしては、
γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン
β−グリシドキシエチルトリメトキシシラン
γ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)プロピルトリメトキシシラン
β―(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン
等が例示される。最も好ましいエポキシシラン化合物はγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランである。
【0057】
上述のエポキシシランに加えて、本発明の組成物は、前記シランの加水分解物、プレポリマーまたはプレ濃縮物でもよい。加水分解物は、シランのOR基を部分または完全加水分解することにより形成することができる。「プレ濃縮物」という用語には、いくつかのケイ素原子が酸素原子により結合したシロキサンが含まれる。プレポリマーは、米国特許第4,100,134号に記載されているようなシラン以外の基のプレ重合により形成される。
【0058】
重合可能なエポキシ官能性シランは、総組成物の76から95wt%、好ましくは80から90wt%を構成している。
【0059】
耐久性のある低表面エネルギーポリマーの形成
本発明のコーティングを作成するのに有用な触媒系は数多くある。エポキシ基と末端重合可能なシラン基の両方を有する硬化系において、業界において、エポキシ基とシラン基の両方を硬化するものも中にはある、数多くの異なる種類の触媒を用いることが認識されている。米国特許第4,049,861号には、エポキシシランの硬化に、高度にフッ素化された脂肪族スルフォニルおよびスルホン触媒を用いることが教示されている。米国特許第3,955,035号には、エポキシシランのルイスおよびブレーンステッド酸触媒が教示されており、米国特許第4,101,513号には、エポキシシランの「オニウム」放射線感受性触媒の使用が教示されている。これら3種類の触媒はすべてエポキシおよびシラン基の両方を異なる程度まで硬化し、エポキシシラン組成物の好ましい触媒である。ジアゾニウム塩のような異なる触媒が有用であり、個々の基にこれらの触媒と組み合わせて用いる追加の触媒を添加してもよい。
【0060】
本発明のコーティングを作成するのに有用である代表的な有用な「オニウム」触媒としては、米国特許第4,156,046号に開示されているものが例示される。通常、これらは「アリールオニウム」触媒である。
【0061】
周期表のVII-A族のカチオンを有するこれらの触媒としては、
ジフェニルヨードニウムヨウ化物
ジフェニルヨードニウム塩化物
ジフェニルヨードニウム硫酸塩
ジフェニルヨードニウムトリクロロ酢酸塩
ジフェニルブロモニウム塩化物
(4−クロロフェニル)フェニルヨードニウムヨウ化物
ジ(4−メトキシフェニル)ヨードニウム塩化物
(4−メチルフェニル)フェニルヨードニウムテトラフルオロホウ酸塩
(4−トリフルオロメチル)フェニルフェニルヨードニウムテトラフルオロホウ酸塩
2,2−ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロフォスフェートおよび
1−(2−カルボエトキシナフチル)フェニルヨードニウム塩化物
が例示される。
【0062】
周期表のV-A族のカチオンを有するこれらの触媒としては、
(4−アセトフェニル)トリフェニルアンモニウム塩化物
(4−ブロモフェニル)トリフェニルフォスフォニウムヘキサフルオロフォスフェート
ジ−(1−ナフチル)ジメチルアンモニウムテトラフルオロホウ酸塩
ジフェニルアシルジメチルアンモニウムヘキサフルオロフォスフェート
ジフェニルメチルアンモニウムテトラフルオロホウ酸塩
テトラ(4−クロロフェニル)フォスフォニウムヨウ化物
テトラフェニルビスモニウム塩化物
テトラフェニルフォスフォニウムヨウ化物
テトラフェニルフォスフォニウムヘキサフルオロフォスフェート
テトラフェニルアルソニウムテトラフルオロホウ酸塩および
トリ−(3−チエニル)メチルアンモニウムテトラフルオロホウ酸塩
が例示される。
【0063】
「オニウム」触媒の好ましい種類は、周期表のVI-A族のカチオンを有するようなものである。これらの触媒としては、
トリフェニルスルフォニウム酢酸塩
トリフェニルスルフォニウムヘキサフルオロアンチモン酸塩
トリフェニルスルフォニウムヨウ化物
トリフェニルスルフォニウム硫酸塩
トリフェニルスルフォニウムトリクロロ酢酸塩
(4−クロロフェニル)ジフェニルスルフォニウムテトラフルオロホウ酸塩
(4−シアノフェニル)ジフェニルスルフォニウムヨウ化物
(2−ニトロフェニル)フェニルメチルスルフォニウム硫酸塩
トリフェニルセレノニウムヘキサフルオロアンチモン酸塩および
トリフェニルテルロニウムペンタクロロビスマス酸塩
が例示される。
【0064】
物品を用いる方法および組成物を用いる装置
図1および2に、コーティング装置の一実施例を示す。この場合、押し出しダイ10はバックアップロール12に対応した位置にある。図示した通りに、押し出しダイ10には、ダイトップ14および例えば15−5のステンレス鋼からなるダイ本体16が含まれる。ダイ入口18、ダイマニホルド20およびダイスロット22が、ダイトップ14とダイ本体16の間に形成されている。
【0065】
溶液、混合物、分散液またはエマルジョンのような液体24を、基材またはウェブ28に適用するために、ポンプ26(またはその他の手段)によりダイ10へ供給。液体24は、ダイスロット22を通して分散するためにダイ入口18からダイマニホルド20へ流れる。図2に示すように、ダイスロット22を通して流すことによって、例えば、ウェブをバックアップロール12とダイ10の間で移動するときに、液体24のビーズをウェブ28に提供することができる。真空チャンバー29は、ビーズの液体24上流を真空にしてビーズを安定化することができる。
【0066】
液体24は、ダイスロット22を通過して、上流ダイリップ30、下流ダイリップ32およびウェブ28に沿って連続コーティングビーズを形成することができる。液体24は、水ベースの液体、有機溶剤ベースの液体および100%固体の流体をはじめとする数多くの液体のうちの一つの液体とすることができる。上流ダイリップ30は、ダイ本体16の一部であり、下流ダイリップ32はダイトップ14の一部である。
【0067】
上流および下流ダイリップ30、32は、尖鋭端として形成したり、例えば、研磨によって丸めることができる。上流および下流リップ30、32は、清浄であってキズやバリがほとんどないようにしなければならない。
【0068】
ダイ10の主要部は、耐久性のある低表面エネルギー表面50(以下、DLSE表面50)により向上させることができる。ダイ10のベアステンレス鋼部分に比べてDSLE表面50の非常に低い表面エネルギーは、DLSE表面50の液体24の濡れを最小にし、これにより、コーティング中の縦すじの形成を減じることができる。DLSE表面50は、使用中に生じる可能性のある摩耗および衝撃に耐えながら、この能力を継続的に提供することができる。さらに、ダイ10にDLSE表面50を与えるプロセスは比較的単純で費用効果のあるものである。
【0069】
DLSE表面50の一実施形態には、前述の耐久性のある低表面エネルギーの組成物およびプライマー組成物が含まれ、ダイ10に対する接着を増大する。これら組成物の特定の実施形態は本開示の実施例に記載されている。実施例に記載された以外のプライマー組成物を用いることができる。
【0070】
実施例に記載されたもの以外の様々な耐久性のある低表面エネルギーの組成物も用いることができる。例えば、実施例に記載されたフルオロケミカルは、耐久性のある低表面エネルギー組成物1から30パーセント、より好ましくは5から20パーセント、さらに好ましくは7から13パーセントから構成される(実施例1:10パーセント)。
【0071】
図2は、DLSE表面50を下流ダイリップ32に近接したダイトップ14の一部および下流ダイリップ30に近接したダイ本体16の一部にはめ込むことができることを示している。DLSE表面50をはめ込むために、リセスをダイ10に切り込み、下塗り組成物および耐久性のある低表面エネルギー組成物で充填することができる。浅いまたは深いはめ込みが可能であるが、はめ込み深さは例えば、0.01から0.2500ミリメートルとすることができる。狭いまたは広いはめ込みが可能であるが、はめ込み幅は例えば、1から250ミリメートルとすることができる。はめ込みの長さは、ダイの幅と同じであるのが好ましい。
【0072】
図示したようにDLSE表面50がダイリップからやや後方にはめ込まれるようにダイ本体16および/またはダイトップ14を切断することができる。この方法により、ダイリップに小さなランドが作成される。この代わりに、DLSE表面50がダイリップの右に適用されるようにダイ本体16および/またはダイトップ14を切断することができる。この方法を用いる場合、ダイリップ表面を平滑にするために、軽い研磨剤でダイリップを研磨するのが好ましい。他の選択肢としては、DLSE表面50をダイリップを超えてダイスロット22へと導くことが挙げられる。さらに他の選択肢としては、DLSE表面50をはめ込むための深さに切断することなく、DLSE表面50を単にダイ本体16および/またはダイトップ14上に適用することが挙げられる。
【0073】
DLSE表面をダイ10に適用する方法の一実施形態は、本開示の実施例に記載されている。通常、その方法は、(a)DLSE表面50にダイ10の特定の部分を作成する工程と、(b)作成した部分にプライマー組成物を下塗りする工程と、(c)プライマー組成物を硬化する工程と、(d)硬化したプライマー組成物を削る工程と、(e)耐久性のある低表面エネルギーの組成物を下塗りした部分に適用する工程と、(f)耐久性のある低表面エネルギーコンポーネントを硬化する工程とを含む。
【0074】
この作成工程によれば、1つまたは2つの目的を達成することができる。第一に、ダイ10とプライマー組成物の間により良い接着を与えること、第二に、プライマーおよび耐久性のある低表面エネルギーの組成物を適用するリセスを与えることである。DLSE表面50を保護するために、リセスまたはトラフをDLSE表面50が配置されるダイ部分に加工することができる。より良い接着を与えるために、DLSE表面50が配置されるダイ部分を削ることができる。削り加工は、グリットブラスト、細かい紙やすりでの手による研磨そして強酸による化学エッチングをはじめとする数多くの方法で行うことができる。図3に、市販のコンポーネントでできたグリットブラスト装置60を示す。グリットブラスト装置60は、ダイ10に研磨剤を向けてダイ10の所望の表面部分を削ることができる。グリットブラスト装置60は、ブラスト封入具(図示せず)、空気圧縮機または圧縮窒素源(図示せず)、空気または窒素圧力コントロール(図示せず)、研磨粒子ホッパー(図示せず)、導管62、ノズル64、ノズルピボット装置(図示せず)およびワーク移動装置(図示せず)を含む。
【0075】
封入具およびホッパーは、Empire Abrasive Equipment Corp.(2101 West Cabot Blvd., Langhorne, ペンシルバニア州、19407)より入手可能で、PROFINISH型番PF-3696と呼ばれる。コントロール、導管62、ノズル64および研磨剤は、COMCO Inc.(2151 North Lincoln Street, Burbank,カリフォルニア州、91504)より入手可能である。2つのノズルを並べて配置するノズル構成が好ましい。好ましいノズルは、COMCO型番MB1500-23ノズル(矩形オリフィス、3.8ミリメートル×0.02ミリメートル)である。ノズルピボットまたは振動装置としては、Parker Hannifin Corp.のCompumotor Division(5500Business Park Drive, Rohnert Park、カリフォルニア州、94928-7902)より入手可能な型番S57-83-MOステッパモーターおよび型番S6ドライブがある。
【0076】
炭化ケイ素粉末および酸化アルミニウム粉末のような様々なMicroBLaster Precision研磨粉末がCOMCOより入手可能である。15−5ステンレス鋼でできたダイ10を研磨するには、10から100ミクロンの粒子サイズの炭化ケイ素粉末が好ましいが、他のサイズの粉末でも可能である。
【0077】
加圧空気または窒素が、研磨粉末を導管62を通じてノズル64へと送り出す。ノズル64は、研磨粉末がダイ本体16表面に当たって、研磨された部分66を与えるように、ダイ本体16(またはダイトップ14)のようなワークに向けられる。ダイ本体16は、ダイ本体16の所望の部分のみが研磨粒子に当たるようにテープで覆うことができる。
所望の研磨された部分66を与えるために、空気圧力は、平方インチ当たり100ポンドに設定するのが好ましく、ノズル62のオリフィスは、ダイ本体16から1.25センチメートルのところに配置するのが好ましく、ノズルは1分当たり2.5センチメートルの速度でダイ本体16を超えて移動され、1秒当たり24サイクルの速度で回転または往復運動させる。ノズルを26度の範囲(−13度から水平〜+13度から水平)で回転または振動させる。ノズルは2.5cm/分の速度でダイコンポーネントを超えて移動される。しかしながら、他の速度、距離および範囲が研磨された部分66を与えるために示されている(紙やすりまたはその他の削り材料をはじめとする他の研磨技術を用いることができる)。
【0078】
DLSE表面50をステンレス鋼コンポーネントに適用するときに特に有用な下塗り工程は、ダイ10を水平にして、プライマー組成物をダイ10の研磨された部分66に適用するものである。プライマー組成物の配合については実施例に記載してあるが、その配合の変更およびその他配合を用いることができる。プライマー組成物をダイ10の一部分または複数の部分にブラシで塗る、またはスプレーすることができる。図4に好ましい下塗り方法の概略図を示す。この方法には、(a)研磨された部分66が水平になるように組成物アプリケータ70に対してダイ本体16(またはダイトップ14)の研磨された部分66を配置する工程と、(b)ダイ本体16に対して制御された速度で組成物アプリケータ70を移動する工程と、(c)組成物アプリケータ70からダイ本体16へのプライマー組成物の容量速度を制御する工程と、(d)プライマー組成物をダイ本体16の研磨された部分66に塗り広げる工程とが含まれる。
【0079】
組成物アプリケータ70には、ニードル72、シリンジ74および制御された速度でシリンジを圧縮するための作動機構(図示せず)が含まれる。作動機構は、Cole-Parmer Instruments Company(7425 N.Oak Park Avenue, Niles,イリノイ州、60714)より市販されている74900シリーズのシリンジポンプである。プライマー組成物を幅約12.5ミリメートル、深さ0.08ミリメートルの研磨された部分66に適用するとき、プライマー組成物は、1時間当たり7.0立方センチメートルの速度で分配するのが好ましく、アプリケータ70は1分当たり15.2センチメートルの速度で移動するのが好ましい。プライマー組成物を研磨された部分66の長辺へ分配した後、ダイ本体16は、プライマー組成物が外側へ流れ出して研磨された部分66を覆うのに必要な時間静止したままとする。少しのブラシ繊維以外は全て除去し、小さなペイントブラシを用いてプライマー組成物をプライマー組成物により覆われていない領域に広げる。
【0080】
プライマー組成物を研磨された部分66へ適用したら、プライマー組成物に紫外線を当てて組成物を硬化する。XENON Corporation(20 Commerce Way, Woburn マサチューセッツ州、01801)より入手可能な紫外線源で、特定の速度および特定の間紫外線管を打つことができる。実施例に記した幅12.5ミリメートルで研磨された部分66に適用したプライマー組成物については、紫外線管は、プライマー組成物の0.5から5センチメートル上に配置するのが好ましく、1秒当たり7バーストの速度および5から60秒間打つのが好ましい。好ましい紫外線管は、約209ジュールのエネルギー出力をもつXENONより入手可能な型番890-1741である。
【0081】
プライマー組成物をダイ本体16で硬化させた後、下塗りした表面を、好ましくはグリットブラストして、下塗り表面と耐久性のある低表面エネルギー組成物(以下、DLSE組成物)の間の接着を改善する。前述した同一のノズル64を用いるが、炭化ケイ素粉末(COMCOより入手可能な20ミクロンの粒子サイズのもの)を用いる。好ましくは、空気圧力は平方インチ当たり70ポンド、ノズル64のオリフィスからワークの距離は25.4ミリメートル、ノズル64は、1秒当たり24サイクルで回転させ、ノズルを、ダイコンポーネントから1分当たり15.2センチメートルの速度で移動させる。
【0082】
次に、DLSE組成物を組成物アプリケータ70を用いて、プライマー組成物を適用するのに前述したのと同一の工程に従って研磨した下塗り表面に適用する。(プライマーおよびDLSE組成物の適用は、この代わりに静電スプレーで、単にドロッパーを用いて、ブラシにより、そしてコンポーネントを組成物に浸漬することによっても行うことができる。)次に、耐久性のある低表面エネルギー組成物を前述の硬化装置を用いて硬化することができる。打った紫外線は、18秒間当てるのが好ましい。
【0083】
ダイトップ14上でDLSE組成物を硬化した後、最終工程において、下流ダイリップ32の最も先端においてDLSE表面50を研磨して、グリットブラスト工程において生じた先端の荒さを除去または減少させる。しかし、この工程は、DLSE組成物がまさにダイリップ32の最も先端まで適用されていた場合にのみ向いている。
【0084】
DLSE表面50をダイ本体16および/またはダイトップ14の一部に適用する前述の方法を、フッ素化ポリエチレンコーティング(例えば、ポリテトラフルオロエチレンPTFE)をダイパーツに適用する方法と比較すべきである。本開示の実施例において、比較例にかかるPTFEプロセスを説明してある。PTFEコーティングおよびプロセスは、いくつかの方法によるDLSEコーティングおよびプロセスと大きく異なる。第一に、PTFEコーティングはある程度研磨しても低表面エネルギー表面を提供するが、PTFEコーティングは比較的柔らかく、ウェブがプロセス中に裂けたり、十分な力をかけてPTFEコーティングをたたいたりすると役に立たなくなる。DLSEコーティングはこの柔らかさによる衝撃はほとんど受けない。
【0085】
第二に、PTFEを適用するプロセスは、DLSEプロセスより非常に時間がかかる。これは、ダイパーツをコートしたり再コートさせる時間を最小にするなど、製造業者は生産休止期間を最小にするために努力していることから重要なことである。PTFE組成物を適用するのに必要な時間は、DLSE組成物を適用するのに必要な時間より何倍も多いと見積もられている。これは、生産スケジュール、生産効率および設備投資に多大な打撃を与える可能性がある。
【0086】
さらに、PTFEプロセスでは、DLSEプロセスに比べて非常に高い温度にダイパーツをさらす。ダイパーツのPTFEコーティングを焼くために、ダイパーツをオーブンに入れて約575華氏度(302摂氏度)まで加熱する。DLSEプロセスは、ダイパーツを例えば約80から約140華氏度(約27から49摂氏度)まで、より好ましくは約110華氏度(43摂氏度)まで加熱する。これらのダイパーツを形成するのに用いる鋼を575華氏度まで加熱し、室温まで冷やすと、寸法変化およびダイパーツ中の歪みを防ぐのに多大の注意を払わなければならない。これは、ダイパーツの表面がダイ使用中に精密なコーティングを与えるような一般に精密な下塗りであり、寸法変化がダイパーツを役に立たないものにさせる可能性がある点で重要である。
【0087】
さらに、PTFEコーティングの作成には、さらにいくつかの工程(多層PTFE層、PTFEコーティングの最終研磨)があり、処理されるダイパーツの取り扱いがさらにある。取り扱いが増えれば、ダイパーツの臨界表面が他の物品を不意にたたいたり、衝撃により損傷を受けるリスクが増す。ダイパーツの臨界表面の損傷は、表面の再研磨、悪くすると損傷したダイパーツを全て取り替える必要がでてくる。当然、これらの結果によりさらに、生産休止時間と多大な費用を招く。
【0088】
図5に、液体24と接触する2つの部分にDLSE表面50を含むスライドコーティング装置80の実施形態を示す。スライドコーティング装置80には、スライドアセンブリ82とスライドバックアップロール84が含まれる。スライドアセンブリ82には、多層の液体24をウェブ28に同時に供給することのできる多数のスライドブロック86、88、90、92、94が含まれる。
【0089】
図6−8に、スライドコーティング装置80にDLSE表面50を配置したところをより詳細に示す。特に、図6−7は、DLSE表面50を最後のスライドブロック94の上面に適用してスライドコーティング装置80を流下する液体24による上面の濡れを最小にする様子を示している。
【0090】
図6に、液体24をバックアップロール84およびウェブ28へ導くように配置されたエッジガイド96を示す。エッジガイド96の液体24による濡れを最小にすることのできるエッジガイド96部分へDLSE表面50を適用することができる。ステンレス鋼でできている場合には、エッジガイド96は前述の通り、削って下塗りしなければならない。しかし、プラスチック(例えば、チバガイギー製SL5170エポキシ)でできている場合には、DLSE組成物は、削ったり下塗りすることなく適用することができる。コーティング流体と接触するエッジガイド部分にDLSE表面50が存在していると、エッジガイドまたはその一部の濡れが最小となる。これにより、コーティングの品質に悪影響を及ぼす恐れのあるエッジガイド上のコーティング固体のビルドアップ/乾燥を最小にすることができる。
【0091】
図8に、バックアップロール84に近接した第1のスライドブロック86の表面を示す。この表面は、第1のスロットブロック86のこの表面への液体の流下による濡れを最小にするためにDLSE表面50を含むことができる。これは、同様に、コーティング固体のビルドアップおよびそれに関連する悪い結果を最小に抑える。
【0092】
DLSE表面50を前述したもの以外の押し出しダイ10およびスライドアセンブリ82部分および他のコーティング装置および流体と接触する表面に適用することができる。さらに、DLSE表面50は、液体を基材に適用するプロセスに含まれるもの以外の装置またはコンポーネントに耐久性のある低表面エネルギー表面を与えることができる。さらに、上述した以外のDLSE表面50の変形も、出願人により意図されるものであり、開示された本発明の一部とみなすものとする。
【0093】
本発明の目的および利点を、以下の実施例により説明するが、これらの実施例に示された特定の材料および量のみならずその他条件および詳細も本発明を不当に制限するとは解釈されないものとする。
【0094】
実施例
以下の実施例において用いられる材料はすべて、Aldrich Chemical Co.(ウィスコンシン州、ミルウォーキー)のような標準的な市販品の供給元より容易に入手可能である。特に指定しない限り、パーセンテージはすべて重量当たりである。次の用語および材料を用いた。
【0095】
EtFOSEMAはN−エチル−パーフルオロ(オクタン)スルフォンアミドエチルメタクリレートであり、3M社(ミネソタ州、セントポール)より入手可能である。
【0096】
γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランはダウケミカル社(ミシガン州、ミッドランド)よりZ-6040という商品名で入手可能である。また、OSi Specialities Inc,(コネチカット州、Danbury)よりA-187という商品名でも入手可能である。
【0097】
トリフェニルスルフォニウムヘキサフルオロアンチモン酸塩は、3M社(ミネソタ州、セントポール)より入手した。ユニオンカーバイド(コネチカット州、Danbury)からも入手可能である。
【0098】
実施例1
Carbowax750アクリレートの調製:
Carbowax750は、ユニオンカーバイド(コネチカット州、Danbury)より入手可能なポエチレングリコールモノメチルエーテルである。CH3O−(CH2CH2O)16−OHに近い式で表わされると考えられる。
Carbowax750アクリレートはCarbowax750とアクリル酸の反応生成物である。Carbowax750アクリレートの調製は米国特許第3,787,351号(Olson)の実施例2に記載されている。
【0099】
フルオロケミカルオリゴマーの調製:フルオロケミカルオリゴマーを、米国特許第5,468,812号の実施例1パートAに記載された通りに調製した。
【0100】
約950mLの瓶に、N−エチル−パーフルオロ(オクタン)スルフォンアミドエチルメタクリレート75.0g(0.120モル)、Carbowax750アクリレート117.5g(0.146モル)、ヒドロキシエチルアクリレート25.0g(0.216モル)、酢酸エチル溶剤250g、n−オクチルチオール5.0g(0.034モル)とアゾ−ビス−イソ−ブチロニトリル0.625gを入れた。瓶と内容物を減圧下で脱気し、窒素でパージして、きつく蓋を閉めて、加熱し、Launder-O-Meterにて65℃で16時間攪拌して、フルオロケミカルオリゴマーを得た。瓶を冷やし、減圧下で脱気し、空気でパージして、次の工程で用いた。溶液は酢酸エチル中に48wt%のオリゴマーを含有していた。オリゴマーは、34.5%のフルオロ脂肪族モノマー、54.0%の有機溶解性モノマーおよび11.5%の二官能性モノマーを含有していた。
【0101】
耐久性のある低エネルギー表面ポリマーの調製:耐久性のある低エネルギー表面ポリマーを次のものを混合することよって調製した。
【0102】
上述の酢酸エチル中48wt%のフルオロケミカルオリゴマー20.8g
γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン76.67g
γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン中30%トリフェニルスルフォニウムヘキサフルオロアンチモン酸塩13.33g
この配合において、フルオロケミカルオリゴマーは10wt%、トリフェニルスルフォニウムヘキサフルオロアンチモン酸塩は4wt%、(γ−グリシドキシ−プロピルトリメトキシシラン(Z-6040)は86wt%であった。
【0103】
プライマー組成物の調製:プライマー組成物を次のものを混合することによって調製した。
グリセロールプロポキシトリアクリレート(Radcure, Inc.製Ebecryl 53)=53.8wt%
1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(Sartomer Resins, Inc.製SR 238)=33.1wt%
ジペンタエリトリトールヒドロキシペンタアクリレート(Sartomer Resins, Inc.製SR 399)=5.5wt%
Irgacure184(チバガイギー製1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)=7.6wt%
【0104】
プライマーおよびDLSEポリマーのコーティングダイへの適用:図1−3に示したものと同様の押し出しダイトップ12およびダイ本体16にそれぞれ研磨されるこれらのダイコンポーネントの一部だけ(DSLE表面50と図示)が露出するように覆った。この工程の前に、DLSE表面50が配置されるリセスをダイ本体16に加工した。ダイトップ14にはリセスは加工しなかった。覆いをしたら、ダイコンポーネントをそれぞれ前述のグリットブラスト装置60に入れ、粒子サイズ50μmの炭化ケイ素粉末を用いて研磨した。気体(窒素)圧力を100lb/in2(6.89×102kPa)に設定した。ノズル62のオリフィスをダイ本体16から1.25cmのところに配置しノズルを2.5cm/分の速度でダイコンポーネントを超えて移動させ、24サイクル/分の速度で回転または往復運動させた。
【0105】
研磨したダイコンポーネントを前述のプライマー組成物で下塗りした。図4に好ましい下塗り方法の概略図を示す。この方法には、(a)研磨された部分66が水平になるように組成物アプリケータ70に対してダイ本体16(またはダイトップ14)の研磨された部分66を配置する工程と、(b)ダイ本体16に対して制御された速度で組成物アプリケータ70を移動する工程と、(c)組成物アプリケータ70からダイ本体16へのプライマー組成物の容量速度を制御する工程と、(d)プライマー組成物をダイ本体16の研磨された部分66に塗り広げる工程とが含まれる。組成物アプリケータ70には、ニードル72、シリンジ74および制御された速度でシリンジを圧縮するための作動機構76が含まれる。プライマー組成物を幅約12.5ミリメートル、深さ0.08ミリメートルの研磨された部分66に適用するとき、プライマー組成物は、7.0cm3/時間の速度で分配するのが好ましく、アプリケータ70は15.2cm/分の速度で移動するのが好ましい。プライマー組成物を研磨された部分66の長辺へ分配した後、プライマー組成物が外側へ流れ出して研磨された部分66を覆うのに必要な時間ダイ本体16は静止したままとする。少しのブラシ繊維以外は全て除去し、小さなペイントブラシを用いてプライマー組成物をプライマー組成物により覆われていない領域に広げる。
【0106】
プライマー組成物を研磨された部分66へ適用したら、プライマー組成物に前述のXENON紫外線源を当てて組成物を硬化する。紫外線管は、プライマー組成物の約1.6cm上に配置し、60秒当たり10バーストの速度で打った。
【0107】
プライマー組成物をダイ本体16上で硬化させた後、下塗りした表面は、上述の同一のノズル64を用いて、炭化ケイ素粉末(20μm粒子サイズ)でグリットブラストした。気体(窒素)圧力は70lb/in2(4.83×102kPa)であった。ノズル64のオリフィスをワークから25.4mm離した。ノズル64を24サイクル/秒の速度で回転させた。ノズルの流れがダイ本体16を超えて15.2cm/分の速度で移動するようにノズルを移動させた。
【0108】
次に、前述のDLSE組成物を組成物アプリケータ70を用いて、分配速度を好ましくは5cm3/hrとした以外は、プライマー組成物を適用するのに前述したのと同一の工程に従って研磨した下塗り表面に適用した。
【0109】
DLSE組成物を前述の硬化装置を用いて硬化した。打った紫外線を、18秒間にわたって当てた。ダイトップ14上でDLSE組成物を硬化した後、下流ダイリップ32の最も先端を研磨して、グリットブラスト工程において生じた先端の荒さを除去または減少させた。この工程では、DLSE表面50の研磨を最小にするために注意が必要である。
【0110】
これらの組成物および押し出しダイの作成のこのプロセスは、低表面エネルギーを処理表面に与えた。DLSE表面50と、水、6.4%のMEK水溶液および100%のMEKとの接触角を測定したところ、それぞれ100.1度、69.2度、43.6度であった。使用中、ウェブが壊れ、DLSE表面50を直接たたいた後でも、DLSE表面50の縦すじが減少したことが観察された。
【0111】
実施例2
実施例2は、酢酸エチル中のフルオロケミカルオリゴマーが10%ではなく1%の固体であった以外は実施例1と同様である。組成物を変更しても、実施例1の組成物により得られたのと同様の性能結果が得られた。
【0112】
実施例3
実施例3は、酢酸エチル中のフルオロケミカルオリゴマーが10%ではなく5%の固体であった以外は実施例1と同様である。組成物を変更しても、実施例1の組成物により得られたのと同様の性能結果が得られた。
【0113】
実施例4
実施例4は、酢酸エチル中のフルオロケミカルオリゴマーが10%ではなく20%の固体であった以外は実施例1と同様である。組成物を変更しても、実施例1の組成物により得られたのと同様の性能結果が得られた。
【0114】
比較例:ポリテトラフルオロエチレンコーティング
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)コーティング(プライマーおよびトップコート)をダイトップおよびダイ本体を含むダイパーツに適用した。ダイパーツ表面のグリットブラストをはじめとする前述の実施例に記載したのとほぼ同一の作成法を用いた。プライマーを攪拌し、150メッシュのステンレス鋼ワイヤスクリーンまたはチーズクロスにより濾過することによりプライマーを調製した。プライマーを前述の実施例に記載したのと同一の方法を用いてダイパーツ表面に適用した。プライマーの所望の乾燥したコーティング厚さは0.001インチ(25.4μm)であった。プライマーを1から5分間空気乾燥し、オーブンに入れて10分間にわたって400から450°F(204から232℃)までゆっくり加熱した。ダイパーツがほぼ室温になるまで冷やすためにオーブンの電源を切った。用いたプライマーは856から204シリーズ、未処理のポリテトラフルオロエチレン非粘着性プライマー(デュポン製)であった。ダイパーツ表面を清浄にして脱脂した。
15から30分間軽く攪拌またはかき混ぜ、100メッシュのステンレス鋼スクリーンで濾過することにより、PTFEトップコーティングを作成した。ダイパーツを120から140°F(48.8から60.0℃)まで予熱して、トップコーティングを室温にした。トップコーティングを下塗り表面に40から50lb/in2(2.76×102から3.45kPa)でスプレーした。乾燥したトップコーティングの最大厚さは0.001インチ(25.4μm)であった。
【0115】
トップコートしたダイパーツをオーブンに戻し575°F(301.7℃)までゆっくり60分間にわたって加熱した。その後、ダイパーツを少なくとも150°F(65.6℃)までゆっくり冷やした。トップコートの追加の層および追加の加熱および冷却工程を実施して最終的な乾燥トップコーティング厚さである0.004から0.006インチ(101.6から152.4μm)(例えば、少なくとも3回から5回繰り返す)にした。
【0116】
このコーティングの接触角試験は行わなかった。しかし、かかる試験の結果は未処理のポリテトラフルオロエチレンの接触角と同様であると見込まれる。水を用いると、未処理のポリテトラフルオロエチレンの接触角は84.0度であり、6.4%MEK水溶液を用いると、未処理のポリテトラフルオロエチレンの接触角は36.9度であり、100%MEKを用いると、未処理のポリテトラフルオロエチレンの接触角は23.2度であった。
【0117】
請求項により定義された本発明の技術思想または範囲から逸脱することなく前述の開示から適切な修正および変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】本発明による押し出しダイの概略断面側面図である。
【図2】図1に示した押し出しダイの断面部分側面図である。
【図3】本発明による耐久性のある低表面エネルギー表面を適用する前に表面にグリットブラストを行うのに有用な装置の概略等角図である。
【図4】本発明による耐久性のある低表面エネルギー表面のコーティングを適用するのに有用な装置の概略等角図である。
【図5】本発明によるスライドコーティング装置の概略断面側面図である。
【図6】図5に示したスライドコーティング装置の断面部分側面図である。
【図7】図6に示したスライドコーティング装置の断面部分側面図である。
【図8】図5から7に示したスライドコーターの部分平面図である

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)下式

(式中、Rfは過フッ素化末端基を含有するフルオロ脂肪族基であり、
sは複数の炭素原子と、任意で1個以上のカテナリー酸素原子を含む有機溶解性基であり、
bはエポキシシランと反応可能な有機官能基であり、
各R4は水素、ハロゲンまたはメチルであり、
各Qは独立に共有結合、ヘテロ原子または有機結合基である)のモノマーを不活性溶媒中で連鎖移動剤およびフリーラジカル開始剤の存在下、化合する工程と、
(ii)前記モノマーを反応させて、下式


(式中、Q、G、Rf、RsおよびRb4およびQは上述の通りであり、a、b、cおよびdは前記化合物がオリゴマーとなるような自然数である)で表わされる部分を有する1種類以上のオリゴマーを含む組成物を形成する工程と、
(iii)工程(ii)の前記中間体をエポキシシランでさらに重合する工程と
から得られるポリマー化合物。
【請求項2】
前記エポキシシランが、

および



(式中、mおよびnは1から4の整数、Rは炭素原子10個未満の脂肪族基、炭素原子10個未満のアシル基または式(CH2CH2O)jZ(jは少なくとも1の整数、Zは炭素原子10個未満の脂肪族基である)の基である)により表わされる)
で表わされる請求項1記載のポリマー化合物。
【請求項3】
(i)下式


(式中、Rfは過フッ素化末端基を含有するフルオロ脂肪族基であり、
sは複数の炭素原子と、任意で1個以上のカテナリー酸素原子を含む有機溶解性基であり、
bはエポキシシランと反応可能な有機官能基であり、
各R4は水素、ハロゲンまたはメチルであり、
各Qは独立に共有結合、ヘテロ原子または有機結合基である)のモノマーを不活性溶媒中で連鎖移動剤およびフリーラジカル開始剤の存在下、化合する工程と、
(ii)前記モノマーを反応させて、下式



(式中、Q、G、Rf、RsおよびRb4およびQは上述の通りであり、a、b、cおよびdは前記化合物がオリゴマーとなるような自然数である)で表わされる部分を有する1種類以上のオリゴマーを含む組成物を形成する工程と、
(iii)工程(ii)の前記中間体をエポキシシランでさらに重合する工程と
を含む請求項1のポリマー化合物を調製する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−302899(P2007−302899A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−180047(P2007−180047)
【出願日】平成19年7月9日(2007.7.9)
【分割の表示】特願平10−500565の分割
【原出願日】平成9年4月23日(1997.4.23)
【出願人】(590000422)スリーエム カンパニー (144)
【Fターム(参考)】