説明

耐変色性セラミックコーティングを有する食物用器具およびその製法

熱源、例えばガスの炎または電気コンロの発熱体、と直接接触させることが可能な、色熱安定性、耐変色性のセラミックコーティングを有する食物用器具物品。本発明の食物用器具物品は、食物に接触する内面(110)および熱源に接触する外面(115)を有する金属食物用器具物品(105)、熱源に接触する外面(115)の一部に付着した接着層(120)、並びに接着層(120)の一部に隣接して付着した第1セラミック層(125)を含み、第1セラミック層(125)は(Ti,Al)N、(Ti,Al)CN、(Ti,Al,X)N、または(Ti,Al,X)CNから選択される。TiCNのトップ層を、第1セラミック層(125)に隣接して付着させてもよい。接着層に隣接しそして第1セラミック層の下に付着した(Ti,Al)N、(Ti,Al)CN、(Ti,Al,X)N、または(Ti,Al,X)CNから選択される第3セラミック層およびTiN、TiCN、XN、またはXCNから選択される第4セラミック層の交互層が任意にあってもよい。交互層は所望なだけ何回繰り返してもよい。そのような食物用器具の製造法も開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に耐変色性コーティングを有する食物用器具物品、さらに詳しくは熱源に接触する外面に熱安定性、耐変色性セラミックコーティングを有する食物用器具物品、およびそのような食物用器具物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
TiN、ZrCN、およびTiCNのようなセラミックコーティングは、装飾的外観および耐変色性の理由でコック、ドア用硬質器具、標識、各種建築用途、および他の工業用途を含む様々な用途に用いられてきた。これらの用途ではガスの炎または発熱体のような熱源との直接接触がかかわらない。
【0003】
セラミックコーティングは、米国特許第5,447,803号、第6,197,438号、および第6,360,423号に記載のように、調理道具の食物接触面上の非粘着性コーティングとして、または抗粘着性のために用いられてきた。しかしながら、これらのコーティングは調理道具の熱源接触面上には用いられなかった。さらに米国特許第6,197,438号には、TiN、TiCN、ZrN、CrN、およびAlTiNを含めた各種セラミックコーティングが火炎色安定性に乏しいと記載されている。どのような試験が行われたか、あるいはそれらがどのような条件で行われたかは記載されていない。
【0004】
調理道具は鋳鉄、銅、アルミニウム、および鋼を含めた様々な材料から製造することができる。各種類の調理道具には利点および欠点がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
シーズニングした鋳鉄調理道具は強靭で耐磨耗性の表面を有する。しかしながら、鋳鉄は錆び、そして調理道具面の損傷を避けるために注意深くきれいにしておかなければならない。さらに、酸性食物は表面から鉄を浸出させ、場合によっては健康問題に至ることがある。
【0006】
銅調理道具はすぐれた熱伝導性を有する。しかしながら、鋳鉄またはステンレス鋼のような他の調理道具材料よりもずっと軟質であるため、傷つきやすい。銅はまた酸化しやすく、変色する。銅は磨いて変色を除くことができるが、表面仕上げを維持するにはかなりの努力を要する。
【0007】
アルミニウム調理道具はすぐれた熱伝導性を有する。しかしながら、アルミニウムも変色しやすい。これは磨くことができないが、コンロのバーナーおよび食物粒子は調理道具を変色させやすいので、定期的に洗い落とさなければならない。
【0008】
ステンレス鋼調理道具は広く用いられている。その強度および耐久性は知られている。ステンレス鋼はきれいにするのが比較的容易であり、その光沢を銅よりもよく保持する。しかしながら、ステンレス鋼は熱伝導性に乏しい。乏しい熱伝導性を解消するために、アルミニウムまたは銅円板をステンレス鋼の深鍋や平鍋の底に加えることがよくある。多くの場合、食物用器具の底は銅でできているか、または銅メッキされている。あるいは、アルミニウムまたは銅の層はステンレス鋼でクラッディングされて多層製品となる。しかしながら、ステンレス鋼の平鍋が露出した銅を有していると、銅は光沢を保つために磨かなければならない。
【0009】
多くの人々は銅調理道具の外観を好むが、仕上げを維持するために要する時間および努力は、多くの人々がそれを使用する妨げとなっている。従って、維持が容易で耐変色性である食物用器具物品のためのコーティングが求められている。
【0010】
本発明は、熱源に接触する外面に色熱安定性、耐変色性のセラミックコーティングを有する食物用器具物品を提供することによってこの要望を満たす。「食物用器具」とは、調理道具、刃物類および他の手動で食物を処理するもの(例えば、濾し器、ストレイナー等)、食物を供するためのもの(例えば、皿、ボール等)、並びに食物を食べるための用具を意味する。「調理道具」とは、コンロ上で調理するための平鍋および深鍋、ベーキング装置、焼き器、料理用具(例えば、スプーン、フライ返し等)、および食物の料理に用いられる食物調理装置(例えば、電気フライパン、炊飯器等)を意味する。「耐変色性」とは、セラミックコーティングが空気中で抗変色性であり、そしてコーティングが変色または剥離することなく直接加熱に耐えることを意味する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
1つの態様では、本発明の食物用器具物品は、食物に接触する内面および熱源に接触する外面を有する金属食物用器具物品;熱源に接触する外面の一部に付着した接着層;および接着層の一部に隣接して付着した第1セラミック層を含み、第1セラミック層は(Ti,Al)N、(Ti,Al)CN、(Ti,Al,X)N、または(Ti,Al,X)CNから選択される。「付着した」とは、介在層なしで先行する層に直接付着していることを意味する。「隣接して付着した」とは、先行する層に、必ずしも直接ではないが、続いて付着していることを意味する。先行層に直接付着していても、あるいは互いに隣接して付着している層の間に1つ以上の介在層が存在していてもよい。「(Ti,Al,X)N、または(Ti,Al,X)CN」は、過半量成分としてのチタンおよびアルミニウムを、より少量の他の元素(「X」)と共に含む窒化物または炭素窒化物合金を意味する。他の元素には、限定されないが、クロムおよびイットリウムが含まれる。(Ti,Al,X)N、または(Ti,Al,X)CN合金には、限定されないが、規則格子構造(Ti,Al)N/XNまたは(Ti,Al)CN/XNが含まれる。
【0012】
所望により、銅風の色を得るために第1セラミック層の一部に付着させたTiCNのトップ層があってもよい。「銅風の色」とは、例えば青銅、ローズゴールド、または銅に似た色を含めた、銅の外観を有する色を意味する。
【0013】
接着層に隣接し、そして第1セラミック層の下に付着させた第2セラミック層が任意にあってもよく、第2セラミック層はTiN、TiCN、XN、またはXCNから選択される。
【0014】
接着層に隣接し、そして第1セラミック層の下に付着させた(Ti,Al)N、(Ti,Al)CN、(Ti,Al,X)N、または(Ti,Al,X)CNから選択される第3セラミック層およびTiN、TiCN、XN、またはXCNから選択される第4セラミック層の交互層が任意にあってもよい。交互層は所望により何回も反復させることができる。
【0015】
金属食物用器具物品は、限定されないが、鋼、ステンレス鋼、チタン、クラッディング用材料、またはそれらの合金を含めた材料でつくることができる。
接着層は、限定されないが、チタン、クロム、ジルコニウム、またはそれらの合金を含めた材料でつくることができる。
【0016】
本発明の別の側面は、色熱安定性、耐変色性のセラミックコーティングを有する食物用器具物品の製造方法である。この方法は、食物に接触する内面および熱源に接触する外面を有する金属支持体を提供すること;接着層を熱源に接触する外面の一部に付着させること;第1セラミック層を接着層の一部に隣接して付着させること、ここで、第1セラミック層は(Ti,Al)N、(Ti,Al)CN、(Ti,Al,X)N、または(Ti,Al,X)CNから選択する;そして金属支持体を食物用器具物品に成形することを含む。金属支持体はコーティングを付着させる前または後に食物用器具物品に成形することができる。
【0017】
層は、限定されないが、物理的蒸着法を含めた方法によって付着させうる。層は所望により、陰極アーク蒸着法によって付着させてもよい。
チタンアルミニウム窒化物((Ti,Al)N)コーティングは、耐酸化性および耐磨耗性が高いため、乾燥および高速機械加工操作において一般に用いられる。一般的な(Ti,Al)Nコーティングは、50/50At%のTiAlターゲット(標的)を用いて付着される。(Ti,Al)Nコーティング上の最高作業温度は1450°Fに達することができる。(Ti,Al)Nコーティングは硬く、用いられる物理的蒸着法により、2600〜3000HV,0.05の微小硬度を有する。50/50(At%)の(Ti,Al)Nコーティングは、付着条件により、褐色または紫がかった色を有する。
【0018】
チタン炭素窒化物(TiCN)は非常に硬いセラミックコーティングであり、3000HV,0.05より上の微小硬度を有する。窒素ガス対アセチレンまたはメタンの割合を調節することによって、TiCNは銅風の色から黒色までの範囲の色を有することができる。
【0019】
本発明のセラミックコーティングは、耐変色性の熱源に接触する外面を有する食物用器具のために、所望により、(Ti,Al)N、(Ti,Al)CN、(Ti,Al,X)N、または(Ti,Al,X)CNの高い耐酸化性および耐磨耗性と、TiCNコーティングの銅風色特性を合わせ持つ。
【0020】
(Ti,Al)Nの紫がかった色は、トップ層を用いるならば、TiCNのトップ層用のベースとして働くことができる。
本発明のコーティングの全体厚みは、食物用器具の用途により、一般に約0.5〜約20ミクロンである。TiCNのトップ層は、用いるならば、一般に約2.0ミクロン未満である。
【0021】
本発明のセラミックコーティングは、通常の料理条件で燃焼または変色することなく、ガスの炎および電気コンロの発熱体と直接触れることができる。TiCNの加熱限界は750°Fであり、その下のセラミック層(Ti,Al)Nは1450°Fまでの温度に耐えることができる。料理中、内容物が沸騰条件下にあるときでも、内容物は実際には調理道具を劇的にさます。調理道具の底の実際温度は750°Fより下である。さらに、クラッディング用材料から製造された調理道具は、(クラッディングされた複合材を形成する)ステンレス鋼とアルミニウムの分離を避けるため、熱源が900°Fより下の温度であることを必要とする。加熱は中間または低い設定がよい。本発明では、TiCNのトップ層が薄いため、熱源はTiCNトップ層および下にあるセラミック層の両方と作用し合う。トップ層としてTiCNを有する本発明の多層セラミックコーティングは、中間加熱設定の料理条件での直接加熱に適している。加熱源と直接触れる面は通常750°Fより下の温度である。TiCNのトップコーティングがない場合、同様に着色された(Ti,Al)Nは食物用器具を変色から守ることができる。
【0022】
(Ti,Al)N、(Ti,Al)CN、(Ti,Al,X)N、または(Ti,Al,X)CNの第1セラミック層は、所望ならば、トップ層にしてもよい。コーティングの色は、層の組成および付着条件により変えることができる。(Ti,Al)Nおよび(Ti,Al)CNの色は、本技術分野における当業者によく知られているように、プロセスの調節および各種ガスの添加によって、紫からスモークグレーないし黒に変えることができる。(Ti,Al)Nまたは(Ti,Al)CNに他の元素、例えばクロムを加えて(Ti,Al,Cr)Nまたは(Ti,Al,Cr)CNを形成することによって、これらコーティングの耐酸化性はさらに高まる。上述のように、これらコーティングは本技術分野における当業者によく知られた付着法を調節することによって様々な色にすることができる。(Ti,Al)N、(Ti,Al)CN、(Ti,Al,X)N、または(Ti,Al,X)CNのトップ層は、1450°Fより下の高温での用途で必要とされる熱源用に設計される。
【0023】
(Ti,Al)N/TiN、(Ti,Al)CN/TiCN、(Ti,Al,X)N/XN、または(Ti,Al,X)CN/XCNの交互配列は、コーティングの靭性および熱安定性をさらに改善するので望ましい。これによって、薄い多層コーティングを有する金属シートを成形プロセスでコーティングに亀裂を生じることなく絞り成形することが容易になる。各交互層の一般的な厚さは約0.1〜約1.0ミクロンである。
【0024】
図1は、本発明の食物用器具物品についての1つの態様100を示す断面図である。金属食物用器具物品105、例えば平鍋がある。金属食物用器具物品105は、食物に接触する内面110および熱源に接触する外面115を有する。金属食物用器具物品105は、限定されないが、鋼、ステンレス鋼、チタン、クラッディング用材料、またはそれらの合金を含めた各種金属でつくることができる。金属食物用器具物品は固体金属または固体合金でつくることができ、あるいは金属表面を有する多層構造のようなクラッディング用材料でつくることができる。多層構造の例は、限定されないが、ステンレス鋼−クラッドアルミニウムまたは銅、プラズマ溶射ステンレス鋼コーティングを有するアルミニウム、あるいはグラファイトのような非金属コア材料を取り囲んでいる金属外層である。
【0025】
熱源に接触する外面115の一部に付着した接着層120がある。接着層の厚さは一般に約1.0ミクロン未満である。接着層は、限定されないが、チタン、クロム、ジルコニウム、またはそれらの合金を含めた金属でありうる。
【0026】
第1セラミック層125は、接着層120の一部に隣接して付着させる。第1セラミック層125は、(Ti,Al)N、(Ti,Al)CN、(Ti,Al,X)N、または(Ti,Al,X)CNにしうる。第1セラミック層125の厚さは一般に約0.5〜約10ミクロンである。第1セラミック層125は、ガスの炎に直接曝されたり、電気コンロの高発熱体と触れたりしても、高い耐酸化性および抗変色性を提供する。第1セラミック層は、トップ層が含まれるならば、トップ層の支持体となる。第1セラミック層125はこの態様では接着層上に付着されているように示されているが、所望により、接着層120と第1セラミック層125との間に1つ以上の介在層があってもよい。
【0027】
TiCNのトップ層130は第1セラミック層125の一部に付着される。TiCN層130は、TiCN層130の厚さは一般に、約0.1〜約2.0ミクロンである。所望ならば、コーティングに銅風の色を提供する。銅風の色は、本技術分野における当業者によく知られているように、望ましい色および付着プロセス、例えば窒素対アセチレンまたはメタンの割合、付着温度、および真空レベルによって決定される。
【0028】
TiCN層130はこの態様では第1セラミック層125上に付着されているように示されているが、第1セラミック層125とTiCN層130との間に1つ以上の介在層があってもよい。
【0029】
図2は、本発明の食物用器具物品についての別の例200を示す断面図である。食物に接触する内面210および熱源に接触する外面215を有する金属食物用器具物品205がある。接着層220は熱源に接触する外面215の一部に付着している。
【0030】
交互層225、230、235、240、245、250がある。層225、235、245はTiN、TiCN、XN、またはXCNでありうる。層225はこの態様では接着層220上に付着されているように示されているが、接着層220と第1セラミック層225との間に1つ以上の介在層があってもよい。
【0031】
層230、240、250は(Ti,Al)N、(Ti,Al)CN、(Ti,Al,X)N、または(Ti,Al,X)CNでありうる。付着プロセスおよびガス混合物を調節することによって、熱安定性セラミックを得ることができる。
【0032】
層225、230、235、240、245、250の厚さは一般に約0.1〜約1.0ミクロンである。
各層は、食物用器具物品の熱源に接触する外面全体、例えば、平鍋の底および側面に、またはその一部のみ、例えば、平鍋の底のみに付着させることができる。
【0033】
コーティング層は、蒸発、スパッタリング、陰極アーク、またはイオンビームのような物理的蒸着法を用いて、あるいは別の適当な方法を用いて付着させることができる。
例として、コーティングを食物用器具物品に付着させる1つの方法を記載する。本技術分野における当業者によく知られているように他の方法または工程を用いることもできる。
【0034】
食物用器具物品はまず成形し、その後被覆しても、あるいは平らな金属シートを被覆し、その後平鍋に成形してもよい。本方法では、金属シートを陰極アーク蒸着によって被覆し、その後平鍋に成形する方法について説明する。
【0035】
金属シートは、必要に応じて、付着を行う前に磨いて表面を滑らかにすることができる。本技術分野で公知のようなバフ磨きまたは艶出し配合物、あるいは他の研磨材を用いることができる。適当な仕上げの例は、限定されないが、4番仕上げ(表面仕上げ約10ミクロインチ)および8番非方向性鏡面磨きした表面(表面仕上げ約2〜3ミクロインチ)である。
【0036】
次に、シートを十分に洗浄し、乾燥して、グリース、残留した磨き材、ゆるいおよび埋まった粒子、酸化物、塩残留物、または他の異物を除去する。一般的な洗浄には、超音波洗浄と組み合わせた水性洗浄システムが含まれる。
【0037】
シートは、図3に示すように、適当な取り付け具に取り付け、付着チャンバー300のプラネタリーに置く。シート305は示すように付着の間、1または2折り返しプラネタリー回転させうる。回転テーブル310は全てのシートを回転させうる。所望により、個々のシート305を回転させてもよい。
【0038】
適切なターゲット315および320を図3に示すようにチャンバー内に置く。例えば、50%チタン/50%アルミニウム(At%)の圧縮金属粉ターゲット320を、純粋なチタンの金属ターゲット315と共に用いてもよい。図3の略図は、全てのターゲット315および320が付着プロセスにおいて働いているとき、(Ti,Al)N/TiNの規則格子構造層を形成する一般的なモデルである。合金ターゲットは、純粋な金属ターゲットと共に用いられるチタン、アルミニウムおよびXの組み合わせの圧縮金属粉、並びに本技術分野における当業者によく知られているような他の組み合わせでもよい。ターゲットの数および種類はチャンバーの大きさおよび付着されるコーティングによって決まる。
【0039】
チャンバーは約10−3Paの圧にする。シートの厚さ、大きさ、量、および材料の種類により、シートは約350〜450°Fに加熱する。
シートを800〜1200Vの負電圧にすることによってグロー放電させて、シートをミクロ−クリーンにする。
【0040】
接着層をまず付着させる。適切なターゲット(例えば、Ti)を点火し、平鍋を約600〜1000Vのバイアス電圧、約10−2Paの真空レベルにてイオン(Ti)で衝撃を加えて、一般に約1.0ミクロン未満の厚さの接着層を形成する。
【0041】
チタンアルミニウムターゲットを働かせ、そしてチタンターゲットを停止する。次に、窒素を系に導入して、(Ti,Al)Nの層を形成する。適用した負のバイアス電圧は、約0.4〜1.5Paの真空レベルで約80〜200Vである。(Ti,Al)N層は高い磨耗および酸化抵抗を提供する。
【0042】
TiAlターゲットを停止し、チタンターゲットを働かせる。すでに存在する窒素に加えて、メタンまたはアセチレンを導入して、約80〜200Vのバイアス電圧でTiCNの層を付着させる。TiCN層は銅風の色を提供する。色は、物理的蒸着プロセス中の操作条件および窒素対メタンまたはアセチレンの割合を変えることによって変化させることができる。(Ti,Al)NおよびTiCN層の組成は、本技術分野における当業者によく知られているように、各層に用いるターゲットの数および種類を変えることによって並びに付着プロセスを調節することによって変化させることができる。付着温度は付着の終わりで約600〜900°Fまで上げることができる。
【0043】
所望により、各種層の間に追加の層を加えてもよい。(Ti,Al)NおよびTiN;(Ti,Al)CNおよびTiCN;(Ti,Al,X)NおよびXN;または(Ti,Al,X)CNおよびXCNの交互層を付着させてもよい。所望により、(Ti,Al,X)Nまたは(Ti,Al,X)CNは規則格子構造層でもよい。
【0044】
ポリ塩化ビニルフィルムの層(または他の適当な保護層)をシートの被覆面に施して、被覆を成形中の衝撃から保護してもよい。
ブランクを被覆し、ブランクを平鍋に浅絞り成形することによる食物用器具物品の製法は、絞り成形時の半径領域の表面組織変化を避けるため、半径を有する形の食物用器具物品に非常に適している。このプロセスでは、表面仕上げは一般に10〜16ミクロインチである。10ミクロインチ未満の高度に磨かれた表面仕上げは、浅絞り成形の非常に大きな半径を有する食物用器具物品に用いることができる。
【実施例】
【0045】
実施例1
厚さが0.8インチの8インチ×8インチの304ステンレス鋼ブランクを上記の方法を用いて被覆した。ブランクは市販の4番および8番鏡面仕上げを有していた。被覆ブランクを6インチ直径の平鍋に絞り成形した。
【0046】
図4に被覆ブランク400を示す。平鍋が成形されたとき、食物と接触する面410、および平鍋が成形されたとき、熱源に接触する外面となる反対側の面415を有するブランク405がある。個々の層は示されていないが、コーティング420は面415上に形成された。次に、直径8インチの被覆ブランクを、図4bに示すような平らな底を有する直径6インチの平鍋に浅絞り成形した。側壁430は半径を有する底435に垂直である。
【0047】
本発明のコーティングは、半径領域を含めた全ての表面に十分に接着した。4番表面仕上げ平鍋は、底面と比べて、半径領域の表面組織に有意な変化がなかった。8番鏡面を有する高度に磨かれた平鍋は、底の鏡面と比べて、半径領域の表面組織に目に見える違いを示した。
【0048】
実施例2
本発明の食物用器具物品を、本発明により製造された平鍋の中で水を直接ガスの炎および電気発熱体上で沸騰させることによって、熱安定性および耐変色性について試験した。調理道具の被覆表面を約1.2から2時間、連続加熱した。これは一般的な料理条件と比較するとかなり厳しい試験である。この手順を2〜3回繰り返した。結果は表1に示す。
【0049】
実施例1および2は、銅で電気メッキされた底と低い側壁を有する伝統的なステンレス鋼の平鍋であった。高いガス炎の上で1および2時間沸騰させた後、底表面はひどい酸化および黒い変色スポットを示した。黒ずんだ酸化スポットは、2時間後の平鍋の底でずっとひどく(実施例2)、これは銅調理道具の一般的な変色外観であった。この実施例では、変色スポットは磨いて除去しなければならなかった。
【0050】
実施例3〜10では、本発明のコーティングの性能を示す。実施例3および4では、調理道具は本発明のコーティングで被覆した。実施例5〜10では、8インチブランクを被覆し、そして6インチ平鍋を被覆ブランクから成形した。
【0051】
電気コンロ加熱では、発熱体の外径は約6インチであった。6インチ平鍋を発熱体の上に置いたとき、平鍋の半径領域は外側発熱体に直接触れる。発熱体は「高」設定では950°Fに達することができる。この試験は、底、側面および半径を含む成形面のコーティング接着および耐変色性を評価するすぐれた評価試験である。
【0052】
実施例3は、(Ti,Al)Nの層およびTiCNのトップ層を有するステンレス鋼ボールであった。水を低いガス炎の上のボール中で2時間沸騰させた。少し黒ずんだスポットがわずかあるだけであり、これらはガスの炎からの付着物であった。付着物は熱水およびタオルで落とすことによってほとんど完全に除去された。
【0053】
実施例4は、(Ti,Al)Nの層およびTiCNのトップ層を有するステンレス鋼平鍋であった。平鍋を電気コンロ上で1時間、中くらいのガス炎上で3時間、低いガス炎上で2時間、そして高いガス炎上で1.5時間(合計7.5時間)加熱した。平鍋は格子跡の周辺に変色を示した。変色領域は、6.5時間の加熱により格子上の汚れと反応したガスの炎からの付着物である。平鍋は布巾を用いて熱い石けん水で洗浄し、熱水ですすぎ、そして十分に乾燥し、タオルのみを用いて汚れスポットおよび格子跡を擦り落とした。このようにしてきれいにした後、格子跡はほとんど完全に消えた。平鍋はその銅風の色を維持した。
【0054】
実施例5は(Ti,Al)Nの層およびTiCNのトップ層を有する銅風色のステンレス鋼平鍋であった。水を、高温に設定した電気コンロ上の平鍋の中で沸騰させた。電気発熱体は平鍋の底と接触していた。2時間の加熱の後、発熱体と触れているいくらかの領域の底面が少し黒ずんだ円を示した。これは熱い石けん水および乾燥タオルできれいにすることができた。平鍋の半径領域は、950°Fに達することができる発熱体と直接接触していても、色の変化を示さなかった。
【0055】
実施例6は(Ti,Al)Nのトップコーティングを有するステンレス鋼平鍋であった。水を、高温に設定した電気コンロ上で沸騰させた。平鍋の底の外観は基本的に変化しなかった。ウインデックス(Windex、登録商標)クリーナーを用いてきれいにした。
【0056】
実施例7は、高いガス炎上で加熱した以外は、実施例6と同じ平鍋を用いた。水を2時間沸騰させた後、平鍋の底は格子の周辺にガスの炎の付着物を示した。これらの付着物は熱い石けん水またはバーキーパーズ(Bar Keepers、登録商標)クリーナーで容易に除去することができた。平鍋の底はその外観を保持した。
【0057】
実施例8および9は、ローズゴールド色を有するTiCNのトップコーティングを有する同じ平鍋であった。水を平鍋の中で、高温に設定した電気コンロ上で(実施例8)、および中くらいの炎設定にしたガスコンロ上で(実施例9)、1.5時間沸騰させた。電気コンロ上での加熱では、ほんの少しの小さい黒ずんだスポットのみが見られた。ガスの炎上での加熱では、いくつかの黒っぽい褐色のスポットが見られた。これらのスポットは熱い石けん水および乾燥タオル、またはウインデックスクリーナーによって容易に落とすことができた。
【0058】
実施例10は、金属に似たグレー色の(Ti,Al,Cr)Nのトップ層を有する多層コーティングで被覆された予備成形深鍋であって。水を高いガス炎上で2時間沸騰させた。深鍋の底にはいくつかの火炎付着物が見られ、これらは熱い石けん水またはバーキーズパークリーナーできれいに落とせた。
【0059】
これらの実施例で、ガス火炎付着物または格子跡は加熱後に目に見えるようになった。付着物または格子跡が変色または酸化しなかったことを示すために、実施例11で平鍋(実施例7で用いたものと同じもの)を格子上に直接置かず、シャフト上に置いた。平鍋を何も物理的に触れさせずに、ガスの炎によって平鍋の底を加熱した。ガスの炎であるため、底表面の温度は1100〜1200°Fで一定していた。2時間加熱した後、底表面には目に見える変化はなく、ガスの火炎付着物もなかった。従って、格子跡はガスの炎と格子上の汚れとの反応によって形成され、変色はしなかった。
表1
【0060】
【表1】

【0061】
熱い石けん水で落とし、タオルで乾燥させた
バーキーパーズクリーナーまたはレモン汁で落とした
ウインデックスで落とした
銅に適した配合物で磨いた
本発明の多層セラミックコーティングは熱に安定な色を有するコーティングを提供する。コーティングは、ガスの炎および電気発熱体に長時間直接曝されても、高い耐酸化性および耐変色性を示す。食物用器具物品は容易にきれいにすることができ、それらの銅風色または他の色を維持する。本発明の多層コーティングは成形中、半径領域において十分に接着し、そしてまた直接加熱でも良好な耐変色性を示す。本発明のコーティングは、シートまたはブランクを被覆し、次いで、シートまたはブランクを平鍋に成形する能力を提供する。これは個々の平鍋を被覆するよりも経済的であるが、所望ならばそのように行うこともできる。
【0062】
(Ti,Al)N、(Ti,Al)CN、(Ti,Al,X)N、または(Ti,Al,X)CNのトップ層は、高温加熱条件用に設計される。セラミックコーティングは、高温加熱条件下でも、その色(金属に似た色から褐色、および紫色から黒色)を維持する。いくつかの電気およびガスコンロでは1500〜1660°Fに達することができるが、調理道具中の液体内容物は加熱面を劇的にさます。加熱面は一般に、(Ti,Al)Nコーティングの場合は1450°Fの熱限界に達しない。従って、(Ti,Al)N、および(Ti,Al,X)CNのセラミックコーティングは調理道具業界で利用しうるどのような加熱源にも用いることができる。(Ti,Al)Nの層およびTiCNコーティングのトップ層からなるコーティングは、料理時の低ないし中程度の加熱設定条件に適している。(Ti,Al)Nの層およびTiCNコーティングのトップ層を有するコーティングは、銅風の色および耐変色性能を有する。このコーティングは、銅の伝統的な使用を、調理道具における使用に門戸を開くものである。
【0063】
本発明の説明のために特定の代表的な態様を示してきたが、本技術分野における当業者には、請求項で限定される本発明の範囲を逸脱することなくここに記載の組成および方法を変更しうることは明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の食物用器具物品についての1つの態様を示す断面図である。
【図2】本発明の食物用器具物品についての別の態様を示す断面図である。
【図3】本発明に有用な陰極アーク蒸着チャンバーの略図である。
【図4】本発明によって被覆されそして平鍋に浅絞りされた金属ブランクの略図である。
【符号の説明】
【0065】
110 食物に接触する内面
115 熱源に接触する外面
120 接着層
125 第1セラミック層
130 トップ層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
色が熱安定性で耐変色性のセラミックコーティング、を有する食物用器具物品であって、
食物に接触する内面および熱源に接触する外面を有する金属の食物用器具物品;
熱源に接触する外面の一部に付着した接着層;
熱源に接触する外面の反対側の接着層の側の上にある接着層の一部に隣接して付着した第1セラミック層、ここで、第1セラミック層は(Ti,Al)N、(Ti,Al)CN、(Ti,Al,X)N、または(Ti,Al,X)CNから選択され、セラミックコーティングは耐変色性であり、熱源との接触後の色の熱安定性を維持する、
を含む食物用器具物品。
【請求項2】
熱源に接触する外面の反対側の第1セラミック層側にある第1セラミック層の一部に隣接して付着したTiCNのトップ層をさらに含む、請求項1に記載の食物用器具物品。
【請求項3】
接着層と第1セラミック層との間に付着した第2セラミック層をさらに含み、第2セラミック層はTiN、TiCN、XN、またはXCNから選択される、請求項1に記載の食物用器具物品。
【請求項4】
接着層と第1セラミック層との間に付着した(Ti,Al)N、(Ti,Al)CN、(Ti,Al,X)N、または(Ti,Al,X)CNから選択される第3セラミック層およびTiN、TiCN、XN、またはXCNから選択される第4セラミック層の交互層をさらに含む、請求項1に記載の食物用器具物品。
【請求項5】
各交互層の厚さが約0.1〜約1.0ミクロンである、請求項4に記載の食物用器具物品。
【請求項6】
金属食物用器具物品が、鋼、ステンレス鋼、チタン、クラッディング用材料、またはそれらの合金から選択される材料で製造されている、請求項1に記載の食物用器具物品。
【請求項7】
接着層が、チタン、クロム、ジルコニウム、またはそれらの合金から選択される金属である、請求項1に記載の食物用器具物品。
【請求項8】
コーティングの全体の厚さが約0.5〜約20ミクロンである、請求項1に記載の食物用器具物品。
【請求項9】
色が熱安定性で耐変色性のセラミックコーティングを有する食物用器具物品の製造方法であって、
食物に接触する内面および熱源に接触する外面を有する金属支持体を提供すること;
接着層を熱源に接触する外面の一部に付着させること;
第1セラミック層を熱源に接触する外面の反対側の接着層側にある接着層の一部に隣接して付着させること、ここで、第1セラミック層は(Ti,Al)N、(Ti,Al)CN、(Ti,Al,X)N、または(Ti,Al,X)CNから選択される;そして
金属支持体を食物用器具物品に成形すること、ここで、セラミックコーティングは耐変色性であり、熱源との接触後の色の熱安定性を維持する、
を含む方法。
【請求項10】
TiCNのトップセラミック層を第1セラミック層の一部に付着させることをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
第2セラミック層を接着層と第1セラミック層との間に付着させることをさらに含み、第2セラミック層はTiN、TiCN、XN、またはXCNから選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
(Ti,Al)N、(Ti,Al)CN、(Ti,Al,X)N、または(Ti,Al,X)CNから選択される第3セラミック層およびTiN、TiCN、XN、またはXCNから選択される第4セラミック層の交互層を、接着層と第1セラミック層との間に付着させることをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
各交互層の厚さが約0.1〜約1.0ミクロンである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
層が物理的蒸着法によって付着される、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
層が陰極アーク蒸着法によって付着される、請求項9に記載の方法。
【請求項16】
コーティングの付着前に、金属支持体が食物用器具物品に成形される、請求項9に記載の方法。
【請求項17】
コーティングの付着後に、金属支持体が食物用器具物品に成形される、請求項9に記載の方法。
【請求項18】
金属食物用器具物品が、鋼、ステンレス鋼、チタン、クラッディング用材料、またはそれらの合金から選択される材料で製造される、請求項9に記載の方法。
【請求項19】
接着層が、チタン、クロム、ジルコニウム、またはそれらの合金から選択される金属である、請求項9に記載の方法。
【請求項20】
コーティングの全体の厚さが約0.5〜約20ミクロンである、請求項9に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2006−521176(P2006−521176A)
【公表日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−509012(P2006−509012)
【出願日】平成16年3月3日(2004.3.3)
【国際出願番号】PCT/US2004/006403
【国際公開番号】WO2004/084690
【国際公開日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【出願人】(505315960)ナショナル・マテリアル・エルピー (3)
【Fターム(参考)】