説明

耐指紋性に優れたクリヤ塗装ステンレス鋼板

【課題】 クリヤ塗装ステンレス鋼板を取り扱う時に疵付き防止のために使用する保護フィルムを剥がした時の糊(粘着剤)の残存を防止することにより、表面保護フィルム使用時のクリヤ塗装ステンレス鋼板の耐指紋性劣化を防止し耐指紋性に優れたクリヤ塗装ステンレス鋼板を提供する。
【解決手段】 合成ゴムの粘着層を含むポリオレフィンまたはポリエチレンのフィルムからなる保護フィルム、クリヤ塗膜およびステンレス鋼板からなるクリヤ塗装ステンレス鋼板。本発明によれば、クリヤ塗装ステンレス鋼板を取り扱う時に疵付き防止のために使用する保護フィルムを剥がした時の糊(粘着剤)の残存が殆どないため、クリヤ塗装ステンレス鋼板の耐指紋性の劣化を防止することが可能であり、耐指紋性に優れたクリヤ塗装ステンレス鋼板を得ることができる。従って、家電製品、建材内装材だけでなく、建材外装用としても最適なクリヤ塗装ステンレス鋼板を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐指紋性に優れた家電、建材、自動車等の部品に利用されるクリア塗装ステンレス鋼板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼板は、優れた耐食性,意匠性,加工性等を活用し、外装材,内装材,表装材等として広範な分野で使用されている。なかでも、研磨目により独特の表面模様をつけた研磨仕上げ材は、意匠性が重視される部材として重宝されている。線状の研磨目を一定方向に長く付けたヘアライン仕上げやランダムな研磨目を付けたNo.4仕上げ材が良く知られている。
【0003】
ステンレス鋼板などの板材をプレス成形加工する際には、従来、潤滑油を塗布してから成形を行い、成形加工後に溶剤やアルカリ脱脂を使用して潤滑油を落としていた。これら潤滑剤の使用はプレス環境を劣悪にするとともに、脱脂溶剤として使用されていたフロンや有機溶剤がオゾン層を破壊することから、それら脱脂溶剤の規制が強化され使用が禁止されるに至った。このように潤滑油の使用は、さらに廃液処理や作業環境の問題もあるため、無塗油でプレス成形でき、脱脂が省略できる地球環境にやさしいクリア塗装ステンレス鋼板が求められている。特許文献1は発明の一例である。
【0004】
家電製品の筐体や内装材、表装材に使われるクリヤ塗装ステンレス鋼板は、表面光沢が非常に高い特長を有するが、それがゆえに特に意匠性(表面外観)を重要視する用途の場合、鋼板の取り扱いや運搬時に付く、すり疵が目立ちやすく加えて指紋等の汚染が目立ちやすい問題点がある。
【0005】
裸のままのステンレス鋼板の耐指紋性を考慮した技術として、研磨目を付けた後で光輝焼鈍することによって汚れ除去性が改善されることが報告されている(特許文献2)。また、耐指紋性を考慮したクリヤ塗装ステンレス鋼板として、クリヤ塗膜の中に非晶質シリカを含有する技術が発明されている(本発明者の未公開特許)。
【0006】
一方、ステンレス鋼板の運搬、加工等の取り扱い時の表面を保護するために、表面保護フィルムが使用されることがある。保護フィルム貼り付けは、疵付き防止や指紋の付着防止に有効である。(特許文献3)。しかしながら、クリヤ塗装ステンレス鋼板の場合には、表面保護フィルムを剥がした時に、保護フィルムを貼る前のクリヤ塗装ステンレス鋼板そのものに比較して、指紋が付きやすくなり耐指紋性が劣化する問題点が認識されている。したがって、耐指紋性を考慮したクリヤ塗装ステンレス鋼板であっても、表面保護フィルムの影響まで配慮しないと、指紋汚染に対する高い機能を十分発現することができない。表面保護フィルムの耐指紋性へ及ぼす影響の検討例はなく、したがって、表面保護フィルムの使用を前提として耐指紋性を考慮したクリヤ塗装ステンレス鋼板は未だ開発されていない。
【0007】
【特許文献1】特開平9−24578号公報
【特許文献2】特開平10−259418号公報
【特許文献3】特開昭64−30677号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、クリヤ塗装ステンレス鋼板を取り扱う時に疵付き防止のために使用する保護フィルムを剥がした時の糊(粘着剤)の残存を防止することにある。これによって、保護フィルムを剥がした時のクリヤ塗装ステンレス鋼板の耐指紋性の劣化を防止し、耐指紋性に優れたクリヤ塗装ステンレス鋼板を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決する手段を鋭意検討した結果、保護フィルムの種類を検討し、耐指紋性に優れたクリア塗装ステンレス鋼板を発明した。
(1)合成ゴムの粘着層と支持体からなる表面保護フィルム、クリヤ塗膜およびステンレス鋼板からなることを特徴とする耐指紋性に優れたクリヤ塗装ステンレス鋼板。
(2)前記支持体がポリオレフィンまたはポリエチレンのフィルムであることを特徴とする上記(1)に記載の特徴とする耐指紋性に優れたクリヤ塗装ステンレス鋼板。
(3)粘着層に使用される粘着剤は1〜5N/25mmの粘着力であることを特徴とする上記(1)(2)に記載の耐指紋性に優れたクリヤ塗装ステンレス鋼板。
【0010】
以下に本発明を詳細に説明する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、クリヤ塗装ステンレス鋼板を取り扱う時に疵付き防止のために使用する保護フィルムを剥がした時の糊(粘着剤)の残存が殆どないため、クリヤ塗装ステンレス鋼板の耐指紋性の劣化を防止することが可能であり、耐指紋性に優れたクリヤ塗装ステンレス鋼板を得ることができる。従って、家電製品、建材内装材だけでなく、建材外装用としても最適なクリヤ塗装ステンレス鋼板を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、クリヤ塗装ステンレス鋼板の耐指紋性に及ぼす表面保護フィルムの影響を鋭意検討した結果完成したものである。
【0013】
<表面保護フィルム>
表面保護フィルムは、粘着層と粘着層の支持体のフィルムから構成される。クリヤ塗装ステンレス鋼板の場合、表面保護フィルムを使用し剥がした後の耐指紋性が劣化することがあるが、鋭意調査したところ、表面保護フィルムの糊(粘着剤)残りが耐指紋性劣化の原因であることを解明した。粘着剤の粘着力が弱いと、表面保護フィルムを使用しその後剥がしたときに、クリヤ塗膜側に粘着剤が残存してしまうことが原因で、耐指紋性が劣化する。
【0014】
本発明においては、支持体のフィルムとしては、ポリエチレン、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、PET(polyethylene telephthalate)ポリアミド等のフィルムが使用できる。
【0015】
本発明においては、粘着層として合成ゴム系粘着剤を使用する。合成ゴム系粘着剤フィルムではクリヤ塗装ステンレス鋼板側に糊(粘着剤)残りは生じないが、アクリル系粘着剤の場合には糊(粘着剤)残りが発生し、耐指紋性が劣化する。粘着剤の粘着力が低いと、表面保護フィルムを使用後クリヤ塗装ステンレス鋼板から剥がす時に、粘着層の粘着剤そのものの結合力が弱いために支持体のフィルムから粘着剤(粘着層)そのものが剥離してしまうかまたは粘着層内で粘着剤が分離してしまい、クリヤ塗装ステンレス鋼板側に糊(粘着剤)の残存が生じる。一方、粘着剤の粘着力が十分高い場合には、表面保護フィルムをクリヤ塗装ステンレス鋼板から剥がす時に、フィルムと粘着剤が剥離するまたは粘着層内で粘着剤が分離してしまうことがないので、糊(粘着剤)残りは生じない。
【0016】
本発明においては、粘着剤の粘着力は1〜5N/25mmである。1N/25mm未満では、粘着力不足により、クリヤ塗装ステンレス鋼板側に糊(粘着剤)残りが生じる。5N/25mm超では粘着力は飽和するので、5N/25mm以下で十分である。アクリル系粘着剤の粘着力は、1N/25mm未満で本発明の範囲を外れている。
【0017】
<化成処理>
研磨または光輝焼鈍を経たステンレス鋼板は、クリア塗膜形成後に種々の形態に加工されることから、脱脂、リン酸塩処理、クロメート処理、Crフリー処理等の塗装前化成処理によって塗膜密着性を改善することが好ましい。具体的には、アルカリ脱脂、酸洗等でステンレス鋼板の表面を清浄化した後、必要に応じてリン酸塩処理で表面の濡れ性を高め、クロメート処理,Crフリー処理で塗膜密着性、耐食性を向上させる。一方、ステンレスクリア潤滑鋼板が、家電製品等に使用される場合には、従来よりある金属表面処理としてのクロメート処理は、僅かであるが6価クロムを含有するため、シックハウス症候群などの問題を生じるため有害であるとともに、クロム処理を化成処理とした場合ステンレス鋼板表面が僅かに黄色みを帯びるので好ましくない。また、ノンクロメートの金属表面処理剤に鎖状水分散シリカを配合した化成処理膜を用いると、非常に高光沢のクリヤ塗膜ステンレス鋼板を得ることができる。
【0018】
<クリヤ塗膜>
本発明におけるクリア塗膜は、水酸基、カルボキシル基、アルコキシシラン基などから選ばれる1種、2種の架橋性官能基を有するアクリル樹脂を主成分とする熱硬化性樹脂組成物である。アクリル樹脂は、塗料用樹脂として既知の製造方法により得ることができる。
【0019】
アクリル樹脂は、たとえばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタアクリル酸メチル、メタアクリル酸エチル、メタアクリル酸イソプロピル、メタアクリル酸n−ブチル、メタアクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロへキシル、メタクリル酸ラウリル等の脂肪族又は環式アクリートを用いることができる。これらは、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル類。スチレン、a−メチルスチレン等のスチレン類。アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のアクリルアミド系単量体等から選ばれる1種、2種以上の非官能性単量体を水酸基、カルボキシル基、アルコキシシラン基等の架橋性官能基を持った重合性単量体の1種または2種以上と反応させることにより得ることができる。
【0020】
1分子中に水酸基及び重合性不飽和二重結合をそれぞれ1つ以上含有する単量体としては、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドキシプロピル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル等のヒドロキシアルキルエステル、プラクセルFM1〜5、FA−1〜5(ダイセル化学工業製)ラクトン変性水酸基含有ビニル重合モノマーを挙げることができる。
【0021】
カルボキシル基を有する重合体単量体は、1分子中にカルボキシル基及び重合性不飽和二重結合をそれぞれ1つ以上含有する化合物であり、例えばアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等を挙げることができる。
【0022】
アルコキシシラン基を有する重合体単量体は、1分子中にアルコキシシラン基及び重合性不飽和二重結合をそれぞれ1つ以上含有する化合物であり、例えばビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、メタアクリロキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0023】
前述のとうり、アクリル樹脂は、水酸基、カルボキシル基、アルコキシシラン基等の架橋性官能基を有する。ここで、アクリル性樹脂は架橋性官能基を1分子あたり、2個以上有することができる。また、樹脂のガラス転移点30〜90℃が適しており、好ましくは50〜90℃の範囲内にあるのがより適している。樹脂のガラス転移点が30℃以下の場合は、連続プレス時の摩擦、加工発熱のため鋼板表面の温度が80〜100℃に上昇することにより、塗膜の軟化を生じ、金型に塗膜樹脂が付着する。また、90℃超の場合には、ピンホール、レベリング不足等の塗装時の作業性が悪い。アクリル樹脂の数平均分子量は3000〜50000のアクリル樹脂、特に4000〜10000の範囲にあるのが適している。3000以下では架橋剤との反応性が乏しすぎて塗膜にはならず、50000以上の場合、溶剤での溶解性が不足して樹脂液にならない。アクリル樹脂の数平均分子量は樹脂のガラス転移点に連動しており、分子量を上記範囲内とすることにより、ガラス転移点を上記好適範囲にすることが可能となる。
【0024】
アクリル樹脂系熱硬化性樹脂成分のもう一つの構成成分である架橋剤は、ブロックイソシアネート樹脂とアミノ樹脂である。
【0025】
ブロックイソシアネート化合物は、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物であり、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネートなどの脂環族ジイソシアネート、該ポリイソシアネートのビューレットタイプの付加物、イソシアヌル環タイプ付加物等であり、これらのポリイソシアネートをフェノール類、オキシム類、活性メチレン類、ε−カプロラクタム類、トリアゾール類、ピラゾール類等のブロック剤で封鎖したものであり、ジブチルチンジラウリレート等の有機錫触媒がブロック剤の解離促進剤として使用される。
【0026】
アミノ樹脂はアミノ化合物(メラミン、グアナミン、尿素)とホルムアルデヒド(ホルマリン)を付加反応させ、アルコールで変性した樹脂を総称し、塗料用樹脂としてはメラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、尿素樹脂、ブチル化尿素樹脂、ブチル化尿素メラミン樹脂、グリコールウリル樹脂、アセトグアナミン樹脂、シクロヘキシルグアナミン樹脂があるが、その中でも熱硬化性に起因する耐指紋性、耐疵付き性、耐薬品性という面からメラミン樹脂が好ましい。変性するアルコールの種類によってメチル化メラミン樹脂、n−ブチル化メラミン樹脂、イソブチル化メラミン樹脂、混合アルキル化メラミン樹脂等に分かれる。
【0027】
アクリル樹脂系熱硬化性樹脂組成物における樹脂と架橋剤の両成分の構成比率は目的に応じ広い範囲内にわたり変えることができ、アクリル樹脂中の(OH+COOH)基1モルに対して、イソシアネート基が0.1〜2.0モルとすることが良い。好ましくは0.1〜1.0、さらに好ましくは0.2〜0.8モルが良い。なお、基体樹脂の一分子中の末端及び側鎖は、水酸基、カルボキシル基、アルコキシシラン基等から選ぶことができる。アクリル樹脂系熱硬化性樹脂組成物における樹脂と架橋剤の両成分の構成比率は目的に応じ広い範囲内にわたり変えることができる。アミノ樹脂はアクリル樹脂固形分100質量部に対して10〜40質量部、好ましくは15〜30質量部とすることが良い。
【0028】
クリア塗装には、更に添加剤としてレベリング剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、艶消し剤、シランカップリング剤等を混合させ、塗料化しても良いし、顔料又は染料を分散させ、カラークリアとすることも可能である。また、必要に応じてエポキシ樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂等を含んで良い。
【0029】
本発明においては、該熱硬化性樹脂組成物100質量部あたり、固形分量でオルガノシリカゾルを2.0〜10質量部、非晶質シリカを0.5〜5.0質量部を選択的に含有することができる。
【0030】
オルガノシリカゾルとは、有機溶媒にナノメートル(nm)レベルのコロイダルシリカを安定に分散させたコロイド溶液であり、セラミックの持つ性能を有し、含有することで塗膜の硬度、耐疵付き性、耐指紋性が向上する。分散媒の溶剤の種類や固形分により、MA−ST−M、IPA−ST、EG−ST、EG−ZL、NPC−ST、DMAC−ST、DMAC−ST−ZL、XBA−ST、MIBK−ST(以上、日産化学工業株式会社製)などが挙げられ、アクリル樹脂との相溶性に応じて単品もしくは併用して選択すればよい。該熱硬化性樹脂組成物100質量部あたり、固形分量で2.0〜10質量部の含有が好ましいが、3〜8質量部がさらに好ましい。2.0質量部以下では、耐疵付き性や硬さが不足し、10質量部以上では加工性が劣化する。
【0031】
非晶質シリカは多孔性をもった流動性粉末であり、平均粒径、細孔容積、細孔径、表面処理の違いで多くの種類が市販されている。この特長である多孔性と表面が水との親和性が強い水酸基でおおわれていることからと推測するが、含有することで耐指紋性が大幅に上がる。該熱硬化性樹脂組成物100質量部あたり、固形分量で0.5〜5.0質量部の含有が好ましいが、1.0〜4.0質量部がさらに好ましい。0.5質量部以下では、耐指紋性が低下し、直接塗膜に触れたとき指紋が付きやすく、ガーゼでのふき取りも容易でない。5.0質量部以上では耐指紋性の効果は維持するが、塗膜の光沢が低くなりすぎ、クリア塗装ステンレス鋼板の高級感がなくなる。
【0032】
本発明においては、クリア塗膜の硬化を促進するための硬化触媒を含んでも良い。ブロックイソシアネート樹脂の硬化触媒としては、ジ−n−ブチルチンオキサイド、n−ジブチルチンクロライド、ジ−n−ブチルチンジラウリレート、ジ−n−ブチルチンジアセテート、ジ−n−オクチルチンオキサイド、ジ−n−オクチルチンジラウリレート、テトラ−n−ブチルチン等が挙げられる。
【0033】
一般にアミノ樹脂の硬化触媒としてスルホン酸系やアミン系の触媒が使用されるが、短時間焼付けを可能とする目的にはスルホン酸系触媒の中でもP−トルエンスルホン酸系触媒が好ましく、熱硬化性樹脂組成物と該架橋樹脂組成物の固形物100質量部あたり固形分量で0.5〜5質量部、好ましくは1〜2質量部含有することが望ましい。0.5質量部以下では、その効果が得られず、5質量部以上では硬化が飽和するだけでなく、加工性も劣化する。
【0034】
本発明はまた、上記熱硬化性樹脂組成物と該樹脂固形物100質量部あたり、固形分量でポリオレフィン系ワックスを0.25〜5.0質量部含有すると好ましい。ポリオレフィン系ワックスとしては、パラフィン、マイクロクロスタリン、ポリエチレン、ポリエチレン−フッ素等の炭化水素系ワックス等が挙げられる。加工時には、素材の加工発熱と摩擦熱により皮膜温度が上昇するためワックスの融点は70〜160℃が適切であり、70℃未満では加工時に軟化溶融して固形潤滑添加物としての優れた特性が発揮できず、160℃を超えるものは、硬い粒子が表面に存在することにより摩擦特性を低下させるので、高度の成形加工性は得られない。
【0035】
ポリオレフィン系ワックスの酸価としては、0〜30が望ましく、30を超えると樹脂との相溶性が良くなり、ワックスが均一に塗膜表面に浮き上がらないため、加工性が不十分となる。
【0036】
これらのワックス粒径は0.1〜7.0μmが適切である。7.0μmを超えるものは、固形化したワックスの分布が不均一となるため好ましくない。また、0.1μm未満の場合は、加工性が不十分である。ポリオレフィン系ワックスの量は熱硬化性樹脂組成物と該樹脂固形物100質量部あたり0.25〜5.0質量部が適当である。0.25質量部未満では加工性は不十分であり、5.0質量部を超えると塗膜表面にムラが発生して、クリア鋼板の外観を損なう。
【0037】
<ステンレス鋼板>
クリヤ塗装ステンレス鋼板の基材に使用されるステンレス鋼板は、鋼種に関する特段の制約はなく、フェライト系,オーステナイト系,二相系等、各種ステンレス鋼を使用できる。表面仕上げとしては研磨仕上げが望まれる。ステンレス鋼板に研磨目を付ける方法にはバフ研磨を始めとして各種方法で採用可能である。また、研磨仕上げの後に光輝焼鈍を施してもよい。研磨時に発生した酸化皮膜を除去し、焼鈍時に発生しがちなテンパーカラーを抑制するため還元性雰囲気で実施される。適切な条件での光輝焼鈍によってステンレス鋼板の表面に形成される皮膜は、研磨時に生成した酸化皮膜に比較して、Cr、Si、Alが濃化しており、耐テンパーカラー性が向上している。
【実施例】
【0038】
以下に、本発明の実施例および比較例について説明する。実施例中、単に部とあるものは質量部を示し、%とあるものは質量%を示す。
【0039】
温度計、還流冷却器、攪拌器、滴下ロート、窒素ガス導入管を備えた4つ口フラスコに表1の通りトルエン、酢酸ブチルを規定量入れ、110℃まで昇温し窒素ガスを吹き込みながら攪拌し、メタアクリル酸メチル、スチレン、メタアクリル酸n−ブチル、メタアクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2ヒドロキシエチル、アクリル酸メチル、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)の混合物を3時間かけて滴下し、滴下終了後さらにAIBNを追加して同温度でさらに3時間反応させて不揮発分50%のアクリル系共重合体を得た。
【0040】
さらに硬化剤であるブロックイソシアネート「デスモジュールVPLS2253」(住化バイエルウレタン株式会社製)とアミノ樹脂としてメラミン樹脂を表1のように配合し、クリヤ塗料を得た。オルガノシリカゾル、非晶質シリカ、P−トルエンスルホン酸(アミノ樹脂の硬化触媒)およびポリオレフィンワックス(潤滑剤)は、表1に示す配合割合に応じてクリア塗料に含有させ、上塗り塗料を製造した。
【0041】
【表1】

【0042】
ステンレス鋼板としては、SUS430、SUS430J1L(Nb添加)、SUS304のNo.4研磨材を用いた。
【0043】
これらのステンレス鋼板上にノンクロメート系の化成処理塗膜処理液(アミノシラン系)をロールコーターにて蛍光X線にてSiO2が2〜50mg/m2になるように塗装し、板温(MT)が100℃になるよう乾燥させた。続いて本発明のクリヤ塗料をバーコーターにて板温(MT)が232℃になるように焼付け、クリア塗装ステンレス鋼板を得た。
【0044】
得られたクリア塗装ステンレス鋼板について、塗膜の加工性、硬さ、光沢度、耐疵付き性、耐指紋性、耐洗剤性、耐薬品性試験を調べたところ、塗膜の評価はすべて4以上(合格)であり耐指紋性に優れたクリヤ塗装ステンレス鋼板である。本発明では、これらクリヤ塗装ステンレス鋼板を供試材とした。
【0045】
塗膜の評価方法は以下の通りである。
【0046】
(1) 塗膜の加工性
JIS K5600 5−2(耐カッピング性)に従って評価した。
5:7mm以上(合格)
4:5〜7mm(合格)
3:3〜5mm(不合格)
2:1〜3mm(不合格)
1:1mm以下(不合格)
【0047】
(2)硬さ
JIS K5600 5−4 引っかき硬度(鉛筆法)に従って評価した。
5:6H以上(合格)
4:5H(合格)
3:4H(不合格)
2:3H(不合格)
1:2H以下(不合格)
【0048】
(3)光沢度
JIS K5600 4−7 鏡面光沢度に従って評価した。
5:90以上(合格)
4:70〜90(合格)
3:50〜70(不合格)
2:30〜50(不合格)
1:30以下(不合格)
【0049】
(4)耐疵付き性
研磨剤入り家庭用洗剤「ジフ」(日本リーバ製)をガーゼを4枚重ねた上に滴下し1kgの荷重で100回こすり、疵付き性を評価する
5:疵がない(合格)
4:ほとんど疵が目立たない(合格)
3:はっきりと疵が確認できる(不合格)
2:疵で塗膜の光沢がなくなっている(不合格)
1:塗膜が削れ素地に達している(不合格)
【0050】
(5)耐指紋性
指で塗面を1kg重の力で押え、指紋の付き方を確認し、付着した指紋をガーゼでふき取る。
5:指紋が付かない(合格)
4:ほとんど指紋が目立たない(合格)
3:うっすらと指紋が確認でき、除去は容易(不合格)
2:うっすらと指紋が確認でき、除去は困難(不合格)
1:はっきりと指紋が確認できる(不合格)
【0051】
(6)耐洗剤性
供試材を40℃で72時間マジックリンにつけ塗膜の状態を観察、評価した。
5:跡が全く無い (合格)
4:跡が僅かに認められる (合格)
3:跡がやや目立つ (不合格)
2:跡が濃く残る (不合格)
1:剥離する (不合格)
【0052】
(7)耐薬品性
5%硫酸と5%水酸化ナトリウムを供試材に2mL滴下し、蓋をしたのち、16時間後の塗膜の状態を観察、評価した。
5:跡が全く無い (合格)
4:跡が僅かに認められる (合格)
3:跡がやや目立つ (不合格)
2:跡が濃く残る (不合格)
1:剥離する (不合格)
【0053】
前記クリヤ塗装ステンレス鋼板に対し、種々の保護フィルムを手で張り付けた後、ローラーで押し付け、80℃で48時間保定した。その後、保護フィルムをクリヤ塗装ステンレス鋼板から剥がして、保護フィルムの糊残りが耐指紋性に及ぼす影響を評価した。その結果を表2に示す。
【0054】
【表2】

【0055】
耐指紋性の評価方法は、供試材であるクリヤ塗装ステンレス鋼板の評価方法と同じである。ただし、異なる10箇所で測定し、平均値として評価した。
【0056】
本発明によれば、クリヤ塗装ステンレス鋼板に保護フィルムとして、ポリエチレンまたはポリオレフィンのフィルムに合成ゴムの粘着層を持つ保護フィルムを使用することにより、保護フィルムを剥がした後においても糊(粘着剤)残りがなく、保護フィルムを使用する前(実施例13)と同様の耐指紋性に優れたクリヤ塗装ステンレス鋼板を得ることができる。
【0057】
一方、保護フィルムの粘着層に合成ゴムを含有しない比較例(実施例7〜12)では、保護フィルムを剥がした後にクリヤ塗装ステンレス鋼板に糊(粘着剤)残りが生じ、耐指紋性が劣化する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成ゴムの粘着層と支持体からなる表面保護フィルム、クリヤ塗膜およびステンレス鋼板からなることを特徴とする耐指紋性に優れたクリヤ塗装ステンレス鋼板。
【請求項2】
前記支持体がポリオレフィンまたはポリエチレンのフィルムであることを特徴とする請求項1に記載の特徴とする耐指紋性に優れたクリヤ塗装ステンレス鋼板。
【請求項3】
粘着層に使用される粘着剤は1〜5N/25mmの粘着力であることを特徴とする請求項1又は2に記載の耐指紋性に優れたクリヤ塗装ステンレス鋼板。

【公開番号】特開2006−347053(P2006−347053A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−177615(P2005−177615)
【出願日】平成17年6月17日(2005.6.17)
【出願人】(503378420)新日鐵住金ステンレス株式会社 (247)
【Fターム(参考)】