説明

耐摩擦性艶消し転写面の形成方法

【課題】被装飾物に、磨耗性に優れた艶消し転写面を形成する方法を提供すること。
【解決手段】被装飾面に微細な凹凸が形成された被装飾物を提供する工程;被装飾物の微細な凹凸形状を有する被装飾面に、剥離シート及び転写層を有する転写シートを積層して転写層を被装飾面に固定する工程;剥離シートを剥離する工程;及び被装飾面に転写層が固定された被装飾物を焼成する工程;を包含する艶消し転写面の形成方法であって、該転写層は、構成要素として、装飾物の最外側面を形成する厚み1〜25μmの透明ハードコート層、及び被装飾面に接する厚み0.1〜10μmの接着層を有している耐摩擦性艶消し転写面の形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、艶消し転写面の形成方法に関し、特に、マット剤等を含まない転写シートを用いる艶消し転写面の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
転写シートを用いてプラスチック部品や外装品のような物品の表面を保護又は装飾する方法は従来から知られている。転写シートは、支持体である基体シートを含む剥離シート上に転写層が設けられた構成であり、この転写層が基体シートから物品の表面に転写される。物品の表面に転写された転写層は樹脂や図柄が層状に積層された積層体であり、物品表面に保護被覆や装飾被覆を形成する。
【0003】
剥離シートは転写層の支持部材であると共に、装飾表面形成部材でもある。転写後は、転写層の剥離シートに接する面が装飾物品の最外側面になるからである。装飾物品につや消しの外観が要求される場合は、剥離シートの表面に微細な凹凸を形成することが行われる。そうすると、転写層の最外側になる層の表面には微細な凹凸が形成され、装飾物品にはつや消しの外観が提供される。
【0004】
剥離シートの表面に微細な凹凸を形成するために、例えば、剥離シートを形成する際に母材にマット剤を練り込んでシート化することが行われる。しかし、マット剤を練りこんで形成したシートは柔軟性が低く、シートの強度も低下して破れ易くなる。
【0005】
剥離シートの表面に微細な凹凸を形成するための別の方法として、例えば、転写層の剥離性を確保するために剥離シートの面に形成される離型層に、マット剤を含有させることも行われる。例えば、特許文献1には、基体シート及び該基体シートの面上に形成されたマット剤含有離型層を有する剥離シートと、該マット剤含有離型層を被覆する表面保護層を少なくとも含む転写層とを、有する転写シートが記載されている。しかし、マット剤は離型層を形成するための離型インキに均一に分散し難く、微細な凹凸にムラが発生し易く、また、マット剤は硬度が高いため、剥離シートを三次元形状に加工したときマット剤含有離型層当該層が割れやすくなる。
さらに、表面保護層の下に絵柄層を形成すると絵柄層の一部にマット剤が侵入し、マット剤が絵柄層の一部を棄損する。
【0006】
また、剥離シートの表面に微細な凹凸が存在すると、剥離シートの面上に柄などの印刷を行う際に、ピンホールなどの欠陥が発生し易い。更に、シートを形成する際に、マット剤を練り込む操作、又は離型インキにマット剤を添加する操作が必要になり、転写シートの製造コストが高くなる。
【0007】
特許文献2には、支持体上に、少なくとも熱可塑性樹脂と着色剤からなる絵柄層、耐熱性微粒子を含有する中間層、接着層を積層してなる艶消し転写シートが記載されている。そして、この艶消し転写シートの接着層を被転写体に固定し、支持体を剥離し、支持体が剥離された被転写体を加熱することにより、艶消し転写面を形成することが記載されている。
【0008】
しかし、この艶消し転写シートは、中間層中、耐熱性微粒子の周囲が樹脂で充填されており、加熱による樹脂の収縮には限界がある。そのため、加熱しても絵柄層の表面に凹凸が十分に形成されず、艶消し効果が不十分である。中間層の割れは絵柄層に伝播し、絵柄層に傷が付いてしまう。
【0009】
また、耐熱性微粒子は中間層を形成するためのインキに均一に分散し難く、微細な凹凸にムラやピンホールが発生し易い。更に、表面保護層の下に絵柄層を形成した場合に、絵柄層の一部に耐熱性微粒子が侵入し、耐熱性微粒子が絵柄層の一部を棄損する。
【0010】
上記の通り、粒子と絵柄層を形成するインクとは相性が悪い。すなわち中間層と絵柄層との密着性が悪い。しかも、特許文献2の図1及び図2を参照して、転写シートを被転写体7と一体化させると、絵柄層2の表面形状は、下の中間層3の表面形状に合わせた凹凸形状となっており、基体シート1と絵柄層2との密着性が向上している。その結果、基体シート1を剥離するときには、絵柄層2が基体シート1側に接着して、基体シートとともに剥離してしまう。
【0011】
更に、艶消し転写シートを形成する際に、耐熱性微粒子を含有する中間層を形成する操作が必要となり、製造コストが高くなる。
【0012】
尚、本明細書において文言「マット剤等」は、装飾表面の艶を消す目的で凹凸を付与するために使用される材料を意味し、特許文献2の耐熱性微粒子等もその中に含まれる。
【0013】
また、装飾物品の転写面に形成された微細な凹凸には汚れが付着し易く、擦られると劣化又は摩耗して外観が変化し易く、従来の艶消し転写面には、耐摩擦性が不十分という問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2001−54999
【特許文献2】特開2005−22227
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、被装飾物に、耐摩擦性に優れた艶消し転写面を形成する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、被装飾面に微細な凹凸が形成された被装飾物を提供する工程;
被装飾物の微細な凹凸形状を有する被装飾面に、剥離シート及び転写層を有する転写シートを積層して転写層を被装飾面に固定する工程;
剥離シートを剥離する工程;及び
被装飾面に転写層が固定された被装飾物を焼成する工程;
を包含する艶消し転写面の形成方法であって、
該転写層は、構成要素として、装飾物の最外側面を形成する厚み5〜30μmの透明ハードコート層、及び被装飾面に接する厚み0.1〜10μmの接着層を有している耐摩擦性艶消し転写面の形成方法を提供する。
【0017】
ある一形態においては、前記艶消し転写面の表面粗さ(Ra)が2μm以下である。
【0018】
ある一形態においては、前記艶消し転写面の鏡面光沢度が60以下である。
【0019】
ある一形態においては、前記被装飾面の表面粗さ(Ra)が0.5〜2μmである。
【0020】
ある一形態においては、前記ハードコート層は熱及び活性エネルギー線硬化性樹脂の熱反応体を含んで成る。
【0021】
ある一形態においては、前記焼成は100〜200℃で1〜60分間行われる。
【0022】
ある一形態においては、前記被装飾物は耐熱性金属からなる。
【0023】
ある一形態においては、被装飾面に対する転写層の固定がロール転写機を用いて行われる。
【発明の効果】
【0024】
耐摩擦性に優れた艶消し転写面を安価及び容易に形成することができる。また、形成された艶消し転写面の外観は奥行き感を有している。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の方法によって艶消し転写面を形成する方法を示す工程図である。
【図2】本発明の方法に用いるのに好ましい転写シートの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
艶消し転写面の形成方法
図1は本発明の方法によって艶消し転写面を形成する方法を示す工程図である。本発明の艶消し転写面の形成方法では、図1(a)に示されるように、最初に、表面に微細な凹凸が形成された被装飾物1を提供する。微細な凹凸が形成された被装飾物の表面は、転写シートによって転写層が転写されて装飾される被装飾面2である。
【0027】
被装飾面の微細な凹凸は、凹凸に沿って転写シートの転写層が密着した場合に、透明なハードコート層を透過して、ハードコート層とその下に位置する層の界面が艶消し外観を与える程度の粗さに形成する。そのような表面粗さは、例えば、Raが0.5〜2μm、好ましくは0.8〜1.5μmである。Raが0.5μm未満であると転写面の外観の艶消し感が不十分になり、2μmを超えると転写シートの転写層が凹凸に沿って密着し難くなる。
【0028】
尚、ここでいう表面粗さRaは、JIS B−0601(1994)に規定されている算術平均粗さをいう。
【0029】
物品の表面に微細な凹凸を形成する方法には、例えば、しぼ加工及び梨地加工等の凹凸加工方法がある。被装飾物の材質が金属である場合は、被装飾面にサンドブラスト処理又はエッチング処理を施すことにより、直接微細な凹凸を形成することができる。また、被装飾物が成形品である場合は、予め金型の表面にサンドブラスト処理やエッチング処理を施すことにより、しぼ加工等の所望の凹凸形状に対応する形状を形成する。この金型を用いて成型を行うことにより、成形品の装飾表面に微細な凹凸が形成される。
【0030】
本発明の艶消し転写面の形成方法では、図1(b)に示されるように、まず、被装飾物1の微細な凹凸形状を有する被装飾面に、剥離シート3及び転写層4を有する転写シート5を、転写層4の側が被装飾面に接するように積層する。ここで、転写層4は最外側にハードコート層41及び最内側に接着層42を少なくとも有する。ハードコート層41は透明であり、その下に位置する層との界面が視認可能である。
【0031】
次いで、図1(c)に示されるように、例えばロール転写機6のような、被装飾物と転写シートを圧迫することが可能な手段を用いて、転写層を被装飾物1の被装飾面に固定する。この段階での固定は、剥離シートを剥離する際に転写層まで一緒に剥離しない程度の強度で転写層が被装飾面に固定されていれば足り、転写層の面は、被装飾面の微細な凹凸の凸部に接触して固定されていてよい。
【0032】
その後、図1(d)に示されるように、被装飾物と転写シートの積層体から剥離シート3を剥離する。残された転写層4と被装飾物1の被装飾面との間には、凹部において空洞7が形成されている。
【0033】
次いで、図1(e)に示されるように、被装飾面に転写層4が固定された被装飾物1を焼成する。すると、転写層4は軟化し、接着層42は微細な凹凸の凹部の空洞に落ち込む。その結果、被装飾面の凹凸に対応する凹凸が接着層42とハードコート層41の界面に形成され、転写面8が艶消しされる。
【0034】
焼成条件は、被装飾面の凹凸が上記界面に再現される忠実性を考慮しながら適宜調整すればよい。一般に、焼成温度は100〜200℃、好ましくは120〜180℃、より好ましくは150〜180℃である。また、一般に、焼成時間は1〜60分、好ましくは5〜30分である。
【0035】
焼成温度が上記範囲の上限より高いか、焼成時間が上記範囲の上限より長いと転写層の一部が熱量に耐え切れず、損傷してしまい、転写面の外観の艶消し感が不十分になる。焼成温度が上記範囲の下限より低いか、焼成時間が上記範囲の下限より短いと転写層の軟化が不十分で凹部の空洞に落ち込み難いために、転写面への凹凸の形成が不十分になり、転写面の外観の艶消し感が不十分になる。
【0036】
このようにして形成される被装飾物の転写面、つまり焼成が終了した後のハードコート層の露出面は実質的に平坦である。例えば、表面粗さ(Ra)が2μm以下、好ましくは1.5μm以下、より好ましくは1μm以下である。被装飾物の転写面の表面粗さ(Ra)が2μmを超えると転写面の奥行き感又は耐摩擦性の向上が不十分になる。
【0037】
また、この被装飾物の転写面は、例えば、JIS Z−8741に準ずる方法で測定される鏡面光沢度が60以下、好ましくは55以下、より好ましくは50以下である。被装飾物の転写面の鏡面光沢度が60を超えると転写面の外観の艶消し感が不十分になる。
【0038】
転写シート
図2は本発明の方法に用いるのに好ましい転写シートの構成を示す断面図である。剥離シート3の片面に接して転写層4が設けられている。剥離シート3は、基体シート31及び離型層32を有する。
【0039】
転写層4は、離型層32の面上に形成されたハードコート層41を有し、必要に応じて接着層42を有する。表示はしていないが、転写層4は、必要に応じて、着色層、図柄層、アンカー層及び金属薄膜などを有してよい。
【0040】
例えば、着色層は被装飾物品の地色を隠蔽して被装飾物品を着色するための層である。着色層は、基体シートの側の隣接している層、例えば、ハードコート層41の表面に、インキ又は塗料を展着させて形成する。
【0041】
着色層のバインダーとなる合成樹脂としては、ポリビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、セルロースエステル系樹脂、アルキド樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体樹脂、熱可塑ウレタン系樹脂、メタアクリル系樹脂、アクリル酸エステル系樹脂、塩化ゴム系樹脂、塩化ポリエチレン系樹脂、及び、塩素化ポリプロピレン系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の合成樹脂であることが好ましい。
【0042】
着色層の着色剤としては、顔料又は染料が挙げられる。着色層の着色剤は加飾シートを着色する用途に従来から使用される種類のものが用いられる。好ましい着色剤の具体例は、(1)インジゴ、アリザリン、カーサミン、アントシアニン、フラボノイド、シコニンなどの植物色素、(2)アゾ、キサンテン、トリフェニルメタンなどの食用色素、(3)黄土、緑土などの天然無機顔料、(4)アクリル系、ウレタン系などの無機顔料、(5)炭酸カルシウム、酸化チタン、アルミニウムレーキ、マダーレーキ、コチニールレーキなどが挙げられる。
【0043】
着色層を形成するために、金属薄膜細片をバインダー樹脂中に分散した、鏡面状金属光沢を有するインキ(以下、高輝性インキと言う。)からなる高輝性インキ層を用いてもよい。金属薄膜細片のインキ中の不揮発分に対する含有量は、3〜60質量%の範囲であることが好ましい。顔料として金属薄膜細片を使用した高輝性インキは、該インキを印刷又は塗布した際に金属薄膜細片が被塗物表面に対して平行方向に配向する結果、高輝度の鏡面状金属光沢が得られる。
【0044】
また、図柄層は文字又は絵柄を示す層である。図柄層の成分及び形成方法は、図柄に応じたパターン状に形成すること以外は着色層と同様である。
【0045】
転写層を構成する層のうち各樹脂層の形成は、特に断らない限り、従来と同様の方法によって行うことができる。従来の層形成方法の例には、層を構成する成分を含むインキ又は塗料を用いたグラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの印刷法がある。
【0046】
剥離シート
剥離シート3は転写層4が被装飾物品の被装飾面に固定された後に剥離される部材をいう。
【0047】
剥離シート3を構成する基体シート31は、図柄層やハードコート層をシート上に支持する用途に従来から使用されるシート材料又はフィルム材料である。フィルム材料は合成樹脂からなるシート材料をいう。合成樹脂としては、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、オレフィン系樹脂、ウレタン系樹脂、及び、アクリロニトリルブタジエンスチレン系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の合成樹脂が好ましく挙げられる。
【0048】
また基体シートとしては、上記の合成樹脂から形成された単層シート、単層シートを2以上積層した積層シート(各単層シートの材料組成は上記群から選択された合成樹脂を使用していれば同一であっても異なっていてもよい)、上記の合成樹脂を用いた共重合シートなどが挙げられる。
【0049】
基体シートの厚みは、5〜500μmであることが好ましい。基体シートの厚みが5μm以上であると、被装飾物品に転写シートを固定する場合に、転写シートを金型に配置する時のハンドリング性をより十分に確保できる。また、基体シートの厚みが500μm以下であると、適度な剛性を得ることができハンドリング性をより十分に確保できるようになる。
【0050】
離型層32は、剥離シートの剥離面全体に転写層に対する離型性を付与する層である。
【0051】
離型層32を形成するためのインキ又は塗料は、有機溶媒、結合剤として熱硬化性樹脂を含む組成物を用いるとよい。熱硬化性樹脂の例としては、尿素、メラミン、グアナミン、アニリンのようなアミノ基を持った不乾性油変性アルキッドに、ホルムアルデヒドを付加縮合させて得られる樹脂を5〜40重量%配合した樹脂組成物、又はメラミンと尿素の混合物をホルムアルデヒドと共縮合反応させて得られる樹脂、エポキシ樹脂とメラミン樹脂の混合物である樹脂などが挙げられる。
【0052】
離型層32の厚みは0.1μm〜30μmとする。離型層32の厚みが0.1μm未満であると、剥離シートが転写層から剥離し難くなり、30μmを超えると転写熱を接着層まで伝えづらくなるので、被装飾物品と転写層との接着性が悪くなる。好ましい離型層32の厚みは0.3〜20μmであり、より好ましくは1〜10μmである。
【0053】
転写層
転写層4は剥離シート3の片面に設けられて剥離シート3から被装飾物品の被装飾面に転写される層をいう。
【0054】
転写層4を構成するハードコート層41は、転写後に剥離シート3を剥離した際に、転写層4の最外側になる層である。ハードコート層41は、転写後、剥離シートを被装飾物品から剥離したときに、装飾物の表面に配置され、転写層を保護するために一定以上の硬度を有している。
【0055】
ハードコート層41は透明性を有する必要がある。具体的には、ハードコート層41の光透過率は20%以上、好ましくは40%以上、より好ましくは60%以上である。この光透過率が20%未満であると形成される艶消し転写面の奥行き感が不十分になる。ここでいう光透過率は、JIS K 7361に規定されている光透過率をいう。
【0056】
ハードコート層41としては、熱、紫外線又は電子線等のエネルギーを印加すると架橋又は硬化するエネルギー架橋性樹脂を用いることが好ましい。ハードコート層の材質としては、シアノアクリレート系やウレタンアクリレートなどの電離放射線硬化性樹脂や、アクリル系やウレタン系などの熱硬化性樹脂が挙げられるが、特に限定されない。好ましくは、エネルギー架橋性樹脂は紫外線又は電子線を印加して架橋する活性エネルギー線架橋性樹脂である。活性エネルギー線樹脂は、印加するエネルギーの量を増減することにより架橋の程度を容易に調整することができる。
【0057】
ハードコート層41の材質としては、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、ゴム系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂等のほか、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体系樹脂等のコポリマーが挙げられる。
【0058】
ハードコート層41に硬度が必要な場合には、紫外線硬化性樹脂等の光硬化性樹脂や、放射線硬化性樹脂、熱硬化性樹脂等を選定して用いるとよい。透明保護層は、着色したものでも、未着色のものでもよい。
【0059】
光硬化性樹脂としては、ポリエステル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、ポリオール(メタ)アクリレート、メラミン(メタ)アクリレート、トリアジン系アクリレート、エポキシ変性(メタ)アクリレート、ウレタン変性(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル変性ポリエステル等の不飽和エチレン系オリゴマーや不飽和エチレン系モノマーとを適宜混合したものに重合開始剤や増感剤を添加した組成物等が挙げられる。
【0060】
放射線硬化性樹脂としては、エチレン性不飽和二重結合を分子内に1個以上有するものやエポキシ基などのカチオン重合性基を分子内に1個以上有するものが挙げられる。エチレン性不飽和二重結合を分子内に1個以上有する樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、ポリエステルポリアクリレート樹脂、ポリエステルポリメタクリレート樹脂、エポキシポリアクリレート樹脂、エポキシポリメタクリレート樹脂、ウレタンポリアクリレート樹脂、ウレタンポリメタクリレート樹脂、アクリルポリアクリレート樹脂、アクリルポリメタクリレート樹脂などが挙げられる
【0061】
熱硬化性樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられる。なお、常温で硬化反応が進行するものも熱硬化性樹脂に含まれる。
【0062】
ハードコート層41を形成するのに好ましい活性エネルギー架橋性樹脂は、例えばWO97/40990に記載されているような、熱及び活性エネルギー線硬化性樹脂の熱反応体である。上記公報には、(メタ)アクリル当量100〜300g/eq、水酸基価20〜500、重量平均分子量5000〜50000のポリマーと多官能イソシアネートとを有効成分とする熱及び活性エネルギー線硬化性樹脂組成物が記載されている。
【0063】
上記ポリマーの具体例として、グリシジル基を有するポリマーにアクリル酸などのα,β−不飽和カルボン酸を反応させて得られるものが挙げられている。また、多官能イソシアネートの具体例としては、1,6−ヘキサンジイソシアネート等のジイソシアネートの3量体が挙げられている。
【0064】
上記公報では、熱及び活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を加熱して熱反応体を得、次いで、この熱反応体を用いて転写シートのハードコート層を形成している。そして、成形品の表面にこのハードコート層を転写して後、活性エネルギー線を照射することによりハードコート層を完全に硬化させている。
【0065】
熱及び活性エネルギー線硬化性樹脂は、加熱された場合、半ば架橋して流動性は失われるが、完全には架橋せず、柔軟性は維持される。それゆえ、被装飾物1の被装飾面に転写層4が固定されて焼成される際に、転写層は軟化しても流動し難く、転写面において凹凸が十分に再現され、艶消し効果が向上する。
【0066】
ハードコート層41の形成方法としては、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法、リップコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの印刷法がある。
【0067】
ハードコート層41の厚みは5μm〜30μm、好ましくは8〜25μm、より好ましくは10〜20μmとする。ハードコート層の厚みが5μm未満であると、充分な表面硬度が得られず、物品表面の保護機能が維持できない。一方、30μmを越えると、上記焼成の際に転写層が十分に軟化せず、転写面における凹凸の再現が不十分になりうる。
【0068】
ハードコート層41が活性エネルギー線硬化性樹脂を含んで成る場合は、焼成工程の後に活性エネルギー線を照射して上記樹脂を架橋させる。活性エネルギー線硬化性樹脂を架橋させるのに好ましい活性エネルギー線は、例えば、電子線、X線、紫外線、可視光線等が挙げられるが、好ましくは、波長200〜400nm、より好ましくは220〜300nmの紫外線である。紫外線の光源としては、例えば、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、無電極型ランプ等が挙げられるが、好ましくは高圧水銀灯を用いる。
【0069】
また、転写層を構成する接着層42は、転写シートの内側表面のうち被装飾物品に接着させたい部分に形成する。すなわち、内側表面全体を被装飾物品に接着させたい場合に、その表面全体に接着層を形成する。また、内側表面のうちの一部分を被装飾物品に接着させたい場合には、そのうちの一部分に接着層を形成する。
【0070】
接着層の構成材料としては、被装飾物品に対する十分な接着性を得ることができれば特に限定されない。接着層を被装飾物品に加熱圧着する場合には、接着層の構成材料としては、感熱性、感圧性を有する合成樹脂を適宜選択すればよい。
【0071】
例えば、被装飾物品の表面部分の構成材料がポリアクリル系樹脂の場合には、接着層の構成材料としては、ポリアクリル系樹脂を用いることが好ましい。また、例えば、被装飾物品の表面部分の構成材料がポリフェニレンオキシド共重合体、ポリスチレン系共重合体樹脂、ポリカーボネート系樹脂、スチレン系樹脂、ポリスチレン系ブレンド樹脂の場合には、接着層の構成材料としては、これらの樹脂と親和性のあるポリアクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂などを適宜選択して採用すればよい。
【0072】
更に、例えば、被装飾物品の表面部分の構成材料がポリプロピレン樹脂の場合は、接着層の構成材料としては、塩素化ポリオレフィン樹脂、塩素化エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、環化ゴム、クマロンインデン樹脂が使用可能である。
【0073】
接着層42の厚みは、0.1μm〜10μm、好ましくは0.5〜7μm、より好ましくは1〜5μmである。接着層の厚みが0.1μm未満であると被装飾物品に転写層が接着しづらくなり、一方、10μmを越えると、上記焼成の際に転写層が十分に軟化せず、転写面における凹凸の再現が不十分になりうる。
【0074】
また、転写層4の厚みは、5μm〜30μm、好ましくは10〜25μm、より好ましくは15〜20μmである。転写層の厚みが5μm未満であると十分な表面硬度、及び耐摩耗性の機能が得られない。一方、30μmを越えると、転写層が軟化せず、凹凸の表現が不十分となる。
【0075】
以下の実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。尚、実施例中「部」又は「%」で表される量は特に断りなき限り重量基準である。
【実施例】
【0076】
実施例1〜3
(転写シートの製造)
幅650mm、厚み38×10−3mm(38μm)の2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを基体シートとして用いた。この基体シートの一方の面全体に、グラビアコータ法を用いて、厚さ8μmの離型層を形成した。離型層を形成するためのインキとしてはウレタンアクリレート樹脂(紫外線硬化樹脂)を含むものを用いた。離型層の乾燥厚さは0.5μmとした。
【0077】
ウレタンアクリレート(日本合成化学社製「UV−1700B」)80部、光重合開始剤(チバスペシャリティケミカルズ社製「イルガキュアー184」)3.0重量部及び溶剤(MEK)100部を攪拌、混合してハードコート層用塗布液を得た。バーコート法によりこの塗布液を離型層の面全体を被覆するように塗布し、乾燥させて樹脂層を形成した。
【0078】
得られた樹脂層の乾燥厚みは10μmとした。形成した樹脂層は、引き続きラインの中で200℃に加熱して半ば架橋させてハードコート層とし、得られた中間積層体をロールに巻き取った。ハードコート層は透明であり、光透過率は70%であった。
【0079】
得られたロールを印刷ラインにセットし、中間積層体を繰り出して、黒色の着色インキを3層重ねて印刷した。全ての着色層を乾燥させた後、積層シートの面全体を被覆するように、アクリル樹脂、厚み1μmとなるようにグラビア印刷法でコーティングし、接着層を形成した。ハードコート層、着色層及び接着層を合わせた転写層の厚みは15μmであった。
【0080】
(艶消し転写面の形成)
被装飾物品としてアルマイト処理したアルミニウム板を準備した。これにブラスト加工することにより、上記アルミニウム板の被装飾面に微細な凹凸を形成した。微細な凹凸が形成された被装飾面の表面粗さ(Ra)は0.962μmであった。
【0081】
製造した転写シートを上記アルミニウム板の上に設置し、表面から表面温度200℃、ゴム硬度30゜、肉厚20mm、ロール径200mmのシリコンロールで押圧した。転写速度は2m/min×2パス、圧力は20kg/cmとした。
【0082】
転写シートのポリエチレンテレフタレートフィルムを剥離した。東京精密社製表面粗さ測定器「1500SD、サーフコム」を用いて焼成前転写面の表面粗さ(Ra)を測定した。また、日本電色工業(株)社製光沢計「PG−1M」を用いて焼成前転写面の鏡面光沢度(60°)を測定した。
【0083】
次いで、転写層及びアルミニウム板の積層体をオーブンに入れて、160℃で5分間加熱した。その後積層体をオーブンから取り出して室温まで冷却し、ハードコート層に250〜400nmの光を1分間照射した。
【0084】
形成された転写面を目視観察したところ艶消しされており、奥行き感が認められ、外観は良好であった。また、東京精密社製、表面粗さ測定器「1500SD、サーフコム」を用いて表面粗さ(Ra)を測定した。
【0085】
更に、(株)安田精機製作所製のテーバー磨耗試験機(磨耗輪:CS−10 荷重:1Kg/arm 回転数:500回転)を用い、JIS K7204に準拠して、艶消し転写面の耐摩擦性を試験した。これらの試験結果を表1に示す。
【0086】
【表1】

【符号の説明】
【0087】
1…被装飾物、
2…被装飾面、
3…剥離シート、
4…転写層、
5…転写シート、
6…ロール転写機、
7…空洞、
8…転写面、
31…基体シート、
32…離型層、
41…ハードコート層、
42…接着層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被装飾面に微細な凹凸が形成された被装飾物を提供する工程;
被装飾物の微細な凹凸形状を有する被装飾面に、剥離シート及び転写層を有する転写シートを積層して転写層を被装飾面に固定する工程;
剥離シートを剥離する工程;及び
被装飾面に転写層が固定された被装飾物を焼成する工程;
を包含する艶消し転写面の形成方法であって、
該転写層は、構成要素として、装飾物の最外側面を形成する厚み5〜30μmの透明ハードコート層、及び被装飾面に接する厚み0.1〜10μmの接着層を有している耐摩擦性艶消し転写面の形成方法。
【請求項2】
前記艶消し転写面の表面粗さ(Ra)が2μm以下である請求項1記載の耐摩擦性艶消し転写面の形成方法。
【請求項3】
前記艶消し転写面の鏡面光沢度が60以下である請求項1又は2記載の耐摩擦性艶消し転写面の形成方法。
【請求項4】
前記被装飾面の表面粗さ(Ra)が0.5〜2μmである請求項1〜3のいずれか記載の耐摩擦性艶消し転写面の形成方法。
【請求項5】
前記ハードコート層は熱及び活性エネルギー線硬化性樹脂の熱反応体を含んで成る請求項1〜4のいずれか記載の艶消し転写面の形成方法。
【請求項6】
前記焼成は100〜200℃で1〜60分間行われる請求項1〜5のいずれか記載の耐摩擦性艶消し転写面の形成方法。
【請求項7】
前記被装飾物は耐熱性金属からなる請求項1〜6のいずれか記載の艶消し転写面の形成方法。
【請求項8】
被装飾面に対する転写層の固定がロール転写機を用いて行われる請求項1〜7のいずれか記載の耐摩擦性艶消し転写面の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−212943(P2011−212943A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−82358(P2010−82358)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000231361)日本写真印刷株式会社 (477)
【Fターム(参考)】