説明

耐摩耗性と摺動特性に優れる被覆工具およびその製造方法

【課題】 苛酷な使用環境下で使用される切削工具や金型等の工具において、耐摩耗性と摺動特性に優れる被覆工具およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 工具の基材表面に中間皮膜を介して硬質皮膜を被覆した被覆工具であって、該硬質皮膜は、原子比でSiよりもCが多く、組織に六方晶の結晶構造相を含むSiC膜であり、該中間皮膜は、AlxMyからなる窒化物又は炭窒化物(但し、x、yは原子比を示し、x+y=100、かつ、40≦x≦95、かつ、5≦y≦60、MはTi、Cr、V、Nbから選択される1種以上)であり、該基材側が立方晶の結晶構造、該硬質皮膜側が六方晶の結晶構造である耐摩耗性と摺動特性に優れる被覆工具である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた耐摩耗性と摺動特性が必要とされる、例えば切削工具ならびに金型等に適用される被覆工具およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、切削工具等には、その耐久性を向上させることを目的に、各種セラミックス膜を基材表面に被覆する表面処理が採用されている。各種の被覆手段の中では、多元系の硬質皮膜を高い密着性を有した状態で被覆できる物理蒸着法による被覆処理が増加している。
【0003】
近年では、被削材は高硬度化し、その高速加工も求められており、切削工具の使用環境はますます苛酷となっている。そのため、高硬度材を高速で切削するために、高硬度と高い耐熱性を有する硬質皮膜の開発が要求されている。例えば、多元系硬質皮膜としては、特許文献1に示すような、Alを含有し、さらには、Nb、Cr、Ti、Si等を含有した多元系窒化物からなる硬質皮膜が検討されているが、近年の切削工具の苛酷な使用環境下においては、耐摩耗性が十分ではない場合があった。
【0004】
一方、高硬度と高い耐熱性を有したセラミックス材料としてSiCが知られる。SiCは、バルクのセラミックスでは40GPa以上の高い硬度を有し、耐摩耗性と耐酸化性にも優れる。そのため、切削工具用の硬質皮膜として適用が進められている。
【0005】
SiC膜の工具への適用に関する検討として、例えば、特許文献2では、高周波電流を用いるRFマグネトロンスパッタ法等によりSiCの焼結体をターゲットとしてクラスターイオンを励起させ、基材表面にSiC皮膜を成膜する手法が開示されている。しかし、特許文献2のSiC皮膜は非晶質で硬度が低く、耐摩耗性が十分ではない問題があった。
また、特許文献3では、組成比の異なるSiCターゲットを用い、マグネトロンスパッタリング法の処理雰囲気を調整することで、立方晶の結晶構造相を有する結晶性SiC皮膜を被覆した耐摩耗性に優れるSiC皮膜が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−119810号公報
【特許文献2】特開2007−90483号公報
【特許文献3】特開2009−293111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非晶質SiC皮膜に比べて、特許文献3の結晶質SiCを含有する皮膜は耐摩耗性が高く、高温下における非晶質の結晶化によるクラック発生がないため、高温特性も優れる。しかし、近年、切削工具や金型使用環境は年々苛酷化し、切削工具や金型の作業面に成型時にかかる圧力は高く、更には、被加工材との摩擦も大きくなっていることから、作業面に被覆される硬質皮膜には、より高い耐摩耗性と摺動特性が求められるようになっている。そのため、従来のSiC皮膜では、近年の苛酷な環境下において更に寿命向上するには、十分ではない場合があった。
そして、結晶質のSiC皮膜と基材の密着性をさらに向上させることがより有効であることを突き止めた。
【0008】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、優れた耐摩耗性と摺動特性を有するSiC皮膜を苛酷な使用環境でも剥離しないよう、高い密着強度を有した状態で被覆した被覆工具およびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、SiC皮膜の組織に、六方晶の結晶構造相を含有させると同時に、炭素原子を皮膜中に多く含有させることにより、耐摩耗性と摺動特性を同時に向上させるのに特に有効であることを見出した。そして、中間皮膜の基材側と硬質皮膜側で、それぞれの結晶構造を制御することで、密着性と耐摩耗性が著しく改善され、被覆工具の性能を改善することを見出した。
【0010】
すなわち本発明は、工具の基材表面に中間皮膜を介して硬質皮膜を被覆した被覆工具であって、該硬質皮膜は、原子比でSiよりもCが多く、組織に六方晶の結晶構造相を含むSiC膜であり、該中間皮膜は、AlxMyからなる窒化物又は炭窒化物(但し、x、yは原子比を示し、x+y=100、かつ、40≦x≦95、かつ、5≦y≦60、MはTi、Cr、V、Nbから選択される1種以上)であり、該基材側が立方晶の結晶構造、該硬質皮膜側が六方晶の結晶構造である耐摩耗性と摺動特性に優れる被覆工具である。
【0011】
中間皮膜は、基材側から硬質皮膜側に向けてAlの含有量が増加することが好ましい。さらには、中間皮膜は、Si、Y、Bから選択される1種以上を原子比で20%以下含むことが好ましい。さらには、中間皮膜は、少なくともSiを含み、基材側から硬質皮膜側に向けてSiの含有量が増加することが好ましい。
【0012】
硬質皮膜のC量は、原子比で70%以下であることが好ましい。さらに、硬質皮膜の組織は、非晶質に六方晶の結晶構造相を含むことが好ましく、透過型電子顕微鏡による電子線回折において、(101)又は(002)の六方晶の結晶面が最大強度を示すことが好ましい。
【0013】
また、上述した本発明の被覆工具は、例えば、物理蒸着法により工具の基材表面に中間皮膜を介して硬質皮膜を被覆する製造方法であって、該中間皮膜の被覆では、AlxMyからなる(但し、x+y=100、40≦x≦95、5≦y≦60、MがTi、Cr、V、Nbから選択される1種以上)組成の異なる複数個のターゲットを用い、
AlxMyからなる窒化物又は炭窒化物(但し、x、yは原子比を示し、x+y=100、かつ、40≦x≦95、かつ、5≦y≦60、MはTi、Cr、V、Nbから選択される1種以上)からなり該基材側が立方晶の結晶構造、該硬質皮膜側が六方晶の結晶構造を形成し、
該硬質皮膜の被覆では、体積比で0を超え25%以下のC相を含んだSiC複合ターゲットを用い、該SiC複合ターゲットに印加する平均電力を2kW以上でスパッタする方法で被覆することができる。
【0014】
中間皮膜の被覆では、複数個のターゲットのうち、Alの含有量が多い組成のターゲットに印加する電力を増加させていくことで、基材側から硬質皮膜側に向けてAlの含有量が増加するように被覆することが好ましい。
中間皮膜の被覆では、AlxMy(但し、x+y=100、40≦x≦95、5≦y≦60、MがTi、Cr、V、Nbから選択される1種以上)の関係を満たし、さらにSi、Y、Bから選択される1種以上を原子比で20%以下含んだターゲットを1個以上用いることが好ましい。さらには、中間皮膜の被覆では、少なくともSiを含有したターゲットを1個以上用い、該Siを含有したターゲットに印加する電力を増加させていくことで、基材側から硬質皮膜側に向けてSiの含有量が増加するように被覆することが好ましい。SiC複合ターゲットのC相は、体積比で2%以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明により提供される被覆工具は、耐摩耗性と摺動特性に優れるSiC皮膜を高い密着性を有した状態で被覆されるので、優れた耐久性を発揮できる。そのため、苛酷な使用環境下で使用される切削工具や金型への工具への適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】試料番号2の、透過型電子顕微鏡によるビーム直径680nmの制限視野回折像であり、本発明の被覆工具の一例を示す図である。
【図2】試料番号2の、透過型電子顕微鏡による断面写真であり、本発明の被覆工具の一例を示す図である。
【図3】試料番号2の、透過型電子顕微鏡によるビーム直径3nmの微小部電子線回折像であり、本発明の被覆工具の一例を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明者等は、SiC皮膜の組織に六方晶の結晶構造相を含ませると同時に、炭素原子を皮膜中に多く含ませることにより、耐摩耗性と摺動特性を同時に向上させるのに特に有効であることを見出した。そしてさらに、被覆工具として性能をより高めるには密着性を改善する中間皮膜を設けること、具体的には基材と硬質皮膜の間に結晶構造を制御した中間皮膜を設けることを見出した。以下、本発明の構成要件について説明する。
【0018】
まず、本発明の硬質皮膜について詳しく説明する。
本発明では、SiC皮膜の組織に、靭性が高く硬質な六方晶の結晶構造相が含まれることで、硬度が著しく高まり、例えば、40GPa以上にも到達することができる。
そして、SiCの組織に六方晶の結晶構造相を含ませた上で、潤滑性能が優れる炭素原子を硬質皮膜中に多く含ませることで、40GPa以上の高硬度を有しながら硬質皮膜全体の摩耗係数を低下させることができるので、耐摩耗性と摺動特性を合わせて向上させることが可能となる。
SiC皮膜中のC含有量が多くなりすぎると耐摩耗性が低下するため、C含有量は原子比で70%以下であることが好ましい。
【0019】
硬質皮膜の組織は、非晶質に六方晶の結晶構造相が含まれることで、硬質皮膜中に歪が生じて圧縮残留応力が高くなり、硬質皮膜の硬度をさらに向上させるので好ましい。
硬質皮膜の組織中に六方晶の結晶構造相が含まれるかを確認するには、透過型電子顕微鏡による電子線回折が好ましい。X線回折装置を使用したX線回折では、非晶質や1〜2nm以下の微細な結晶が多く含まれる場合は、回折ピーク強度が弱いため、硬質皮膜の組織中に六方晶の結晶構造相が含まれるかを確認することが困難な場合がある。
そして、透過型電子顕微鏡による電子線回折によって、(101)又は(002)の六方晶の結晶面が最大強度を示すものは結晶性が高く高硬度であり、耐摩耗性に優れ好ましい。
本発明で硬質皮膜の組織が非晶質であるとは、硬質皮膜の透過型電子顕微鏡による観察において、明確な周期的構造が確認されず、電子線回折の結晶回折パターンが確認されない組織であることをいう。これは同様に、硬質皮膜が周期的構造を有さずに回折パターンが発生し難い1〜2nm以下の微粒な結晶粒子の集合組織からなる場合も、本発明でいう非晶質に含まれる。
残留圧縮応力を硬質皮膜の全体に均一に付与するためには、硬質皮膜中に六方晶の結晶構造相が微細に分散していることが好ましい。例えば、六方晶の平均結晶粒径を20nm以下とすることで、分散が均一となり、均一に残留圧縮応力を付与することができ耐磨耗性改善に有効であり好ましい。結晶粒径は、硬質皮膜中のC量が増加するとやや大きくなる傾向にある。
【0020】
本発明の硬質皮膜は、不可避的に含まれる酸素やその他の不純物を含有してもよい。そして、本発明の硬質皮膜の組織に、六方晶の結晶構造相を含み、炭素原子を多く含有した皮膜構造にすることで、優れた耐摩耗性と摺動特性を発揮することができる。そのため、本発明のSiC皮膜に他の元素を添加したとしても、本発明の硬質皮膜の構造を有することで、本発明の効果は損なわれずに発揮することができる。ただし、他の元素の添加量が原子比で10%より多いと、耐摩耗性が著しく低下するので、10%以下であることがこのましい。より好ましくは5%以下であり、さらに好ましくは1%以下である。
その他、必要に応じては、最表層に窒化物、炭化物、酸化物、硼化物、硫化物、金属等の機能膜を被覆しても良い。
【0021】
続いて、本発明の中間皮膜について詳しく説明する。
中間皮膜は、硬質皮膜の密着性をさらに向上させるために設けるが、中間皮膜自体の耐熱性と耐摩耗性が低いと、皮膜全体の特性も低下する傾向にある。そのため、中間皮膜の組成は、AlxMyからなる窒化物又は炭窒化物(但し、x、yは原子比を示し、x+y=100、かつ、40≦x≦95、かつ、5≦y≦60、MはTi、Cr、V、Nbから選択される1種以上)とする。
本発明の中間皮膜は、Alの添加が必須であり、Al含有量を40≦x≦95とすることで、皮膜全体の耐摩耗性と耐熱性を高めることができる。これよりも少ないと耐熱性が低下する傾向にある。これよりも多いと耐摩耗性が低下する傾向にある。
Ti、Cr、V、Nbから選択される1種以上の添加量を5≦y≦60とすることで、皮膜全体の耐摩耗性を高めることができる。これよりも少ないと耐摩耗性が低下する傾向にある。これよりも多いと耐熱性が低下する傾向にある。
【0022】
本発明では、中間皮膜を上記の組成範囲内に制御した上で、硬質皮膜側では、密着性をさらに向上させるために硬質皮膜と同様の六方晶の結晶構造とし、基材側では、結晶性が高く高硬度な立方晶の結晶構造とすることで、耐摩耗性を低下させずに硬質皮膜との密着性もより高いものにできることを突き止めた。
中間皮膜の結晶構造は、硬質皮膜の場合と同様に、透過型電子顕微鏡による電子線回折の最大強度を示す結晶面から特定することができる。
本発明において、中間皮膜の基材側が立方晶の結晶構造とは、透過型電子顕微鏡による電子線回折で、立方晶の結晶構造が最大強度を示すことである。また、中間皮膜の硬質皮膜側が六方晶の結晶構造とは、透過型電子顕微鏡による電子線回折で、六方晶の結晶構造が最大強度を示すことである。
【0023】
中間皮膜は、Alの含有量が多いほうが六方晶の結晶構造となり易い傾向にあり、基材側から硬質皮膜側に向けて、Alの含有量を増加させる傾斜組成とすることで、中間皮膜の結晶構造が立方晶から六方晶に緩やかに傾斜し易く、密着強度が向上して好ましい。
また、中間皮膜は、Si、Y、Bから選択される1種以上を20原子%以下含むことで結晶粒径がより微細化され、硬度および耐酸化性を改善するので好ましい。添加量がこれよりも多くなると皮膜の靭性が低下する傾向にあり、結晶構造を制御するのも困難となる。
また、中間皮膜がSiを含有すると、Alの含有量が少なくても六方晶の結晶構造となり易い傾向にある。そのため、基材側から硬質皮膜側に向けてSiの含有量を増加させる傾斜組成とすることで、中間皮膜の結晶構造が立方晶から六方晶に緩やかに傾斜し易く、密着強度が向上して好ましい。Siの含有量が多くなると、Alの含有量が多い場合には非晶質となり易い傾向にある。
【0024】
以下、本発明の製造方法について説明する。
従来のスパッタリング法でのSiC皮膜の成膜では、SiCターゲットの電気抵抗が高いため、ターゲットに印加する電力を高めると、ターゲット表面で異常放電(アーキング)が発生して放電が不安定になるという問題があった。そのため、安定した成膜条件でSiC皮膜を被覆するには、ターゲットに印加する電力を抑えた成膜エネルギーが低い状態で被覆する必要があるため、靭性が高く、しかも硬質な結晶性の良い六方晶の結晶構造相を含むSiC皮膜を得ることは困難であった。また、ターゲットに印加する電力が低いため、成膜レートも低く、生産性も低いという課題があった。
【0025】
発明者等は、ターゲットの電導性を改善する手法について鋭意研究した。そして、導電性を高めるためにSiC粉末にC粉末を混ぜ合わせてホットプレスで作製した、特定量のC相を含有したSiC複合ターゲットを用いることで、ターゲット表面の電気伝導率が格段に向上して、高い電力を供給することが可能となることを見出した。
【0026】
上述した通り、本発明においてSiC複合ターゲットとは、特定量のC相を含有したSiCターゲットである。C相を多く含有したSiC複合ターゲットを使用すれば、硬質皮膜であるSiC皮膜中に、Cが必要以上に多く含まれ耐摩耗性が劣化する場合がある。そのため、好ましい硬質皮膜を得るために、ターゲット中のC相を体積比で25%以下とした。ターゲット表面の電気伝導率を向上させるためにターゲット中のC相は体積比で2%以上であることが好ましい。
【0027】
より効率的に、SiC皮膜の組織に結晶性が高い六方晶の結晶構造相を含ませるには、SiC複合ターゲットに印加する平均電力を2kW以上とする。より好ましくは3kW以上である。ターゲットに印加する平均電力が2kW未満だと、成膜のエネルギーが低く、非晶質構造となり易く、SiCの組織に六方晶の結晶構造相を含有させるのが困難となる。また、成膜レートが低いので生産性も好ましくない。
装置の負荷および電力供給を安定させるためにも、ターゲットに印加する平均電力は10kW以下とすることが好ましい。
【0028】
中間皮膜の被覆では、基材側と硬質皮膜で特定の結晶構造となるようにする。例えば、AlxMyからなり(但し、x、yは原子比を示し、x+y=100、かつ、40≦x≦95、かつ、5≦y≦60、MはTi、Cr、V、Nbから選択される1種以上)、基材側と硬質皮膜側で組成の異なる複数個のターゲットを用いる。そして、反応ガスとして窒素や炭化水素系ガスを選択して成膜雰囲気を制御することで、AlxMyからなる窒化物又は炭窒化物(但し、x、yは原子比を示し、x+y=100、かつ、40≦x≦95、かつ、5≦y≦60、MはTi、Cr、V、Nbから選択される1種以上)で、基材側が立方晶の結晶構造、硬質皮膜側が六方晶の結晶構造に制御することができる。
本発明の中間皮膜は、Alの含有量が多くなると六方晶の結晶構造となり易い傾向にあり、基材側では、40≦x≦65、硬質皮膜側では、65<x≦95のターゲットを使用することが結晶構造を制御するのに好ましい。
さらに、複数個のターゲットのうち、Alの含有量が多いターゲットに印加する電力を増加させ、基材側から硬質皮膜側に向けてAlの含有量が増加する傾斜組成とすれば、中間皮膜が、立方晶から六方晶の結晶構造へと緩やかに傾斜し易く、密着性が向上して好ましい。
【0029】
そして、AlxMy(但し、x、yは原子比を示し、x+y=100、かつ、40≦x≦95、かつ、5≦y≦60、MはTi、Cr、V、Nbから選択される1種以上)の関係を満たし、さらにSi、Y、Bから選択される1種以上を原子比で20%以下含んだターゲットを1個以上用いることで、中間皮膜の結晶粒径が微細化され、硬度および耐酸化性を改善するので好ましい。
そして、少なくともSiを含んだターゲットを1個以上用いることでAlの含有量が少なくても六方晶の結晶構造となり易くなる。そのため、Siを含有するターゲットに印加する電力を増加させて、基材側から硬質皮膜側に向けてSiの含有量が増加する傾斜組成とすることで、中間皮膜が、立方晶から六方晶の結晶構造へと緩やかに傾斜し易く、密着性が向上して好ましい。
【0030】
また、中間皮膜の結晶構造は、成膜条件のうち基材に印加する負圧のバイアス電圧によっても制御することができる。つまり、負圧のバイアス電圧が大きくなると、立方晶の結晶構造となり易く、負圧のバイアス電圧が小さくなると、六方晶の結晶構造になり易い傾向にある。
【0031】
本発明の硬質皮膜を被覆するスパッタリング法は、基材にバイアス電圧を印加して、ターゲットをカソードとし、ターゲットに電力を印加して発生するグロー放電を利用し、ターゲットに衝突するイオンによってターゲット成分を弾き飛ばすスパッタ現象を利用して成膜手法である。
例えば、DC(直流)スパッタリング法、RF(高周波)スパッタリング法、非平衡マグネトロンスパッタリング法、パルス電源を利用したスパッタリング等の他には、HIPIMS(High Power Impulse Magnetron Sputtering)やHPPMS(High Power Pulse Magnetron Sputtering)等に代表されるターゲット成分のイオン化率が高い、高出力パルスマグネトロンスパッタリング法でも成膜することができる。
高出力パルスマグネトロン法で成膜することで、SiC皮膜の結晶性が向上し、より高硬度化するため好ましい。
本発明の中間皮膜は、スパッタリング法に限らず、アークイオンプレーティング法やイオンプレーティング法等の物理蒸着法が適用できる。いずれも被覆方法によっても複数個のターゲットを用いることで、中間皮膜の結晶構造を制御することが可能である。
【実施例】
【0032】
<特性評価用試料の作成>
機械的特性評価用として、JISに規定される高速度鋼SKH51を用意し、これを真空中1180℃の加熱保持から窒素ガス冷却により焼入れ後、540〜580℃での焼戻しにより64HRCに調質したものを用いた。基材の寸法は、厚さ5mm、直径20mmの円筒状を用いた。
上記の円筒状基材の表面を、♯1000、♯1500の研磨紙により磨いた後、電解研磨を行い、最後にエアロラップ処理(株式会社ヤマシタワークス製エアロラップ装置(AERO LAP YT‐300)使用)により平滑化して、表面粗さをRaで0.02μm、Rzで0.2μmに整えた。そして、炭化水素系の溶剤中で超音波洗浄して脱脂した。
【0033】
成膜手段にはスパッタリング法を採用し、中間皮膜と硬質皮膜を同一チャンバー内で連続して成膜できる、スパッタ蒸発源を4機(蒸発源番号1〜4)搭載した装置を使用した。そのうち、2機に硬質皮膜用のSiC系ターゲット、2機に中間皮膜用の合金ターゲットを設置した。
【0034】
ターゲットについて説明する。
硬質皮膜の成膜には、SiC粉末とC粉末を原料とし、これらをホットプレスにより成形し、特定量のC相を含有量したSiC複合ターゲットを用いた。またC相を含有しない通常のSiCターゲットも準備した。
【0035】
SiC95−C5のターゲットは、SiC粉末とC粉末を95:5の体積比率で混合し作製した。作製したターゲットの酸素量は871ppmであった。
SiC90−C10のターゲットは、SiC粉末とC粉末を90:10の体積比率で混合し作製した。作製したターゲットの酸素量は638ppmであった。
SiC80−C20のターゲットは、SiC粉末とC粉末を80:20の体積比率で混合し作製した。作製したターゲットの酸素量は426ppmであった。
SiCターゲットは、C相を含有しない通常のSiCターゲットであり、酸素量は612ppmであった。
中間皮膜の成膜には、合金ターゲットを使用した。各ターゲットのサイズは500mm×88mm、厚みを10mmとした。表1に使用したターゲットを示す。
【0036】
【表1】

【0037】
成膜プロセスについて説明する。
バイアス電源は、基材に接続され、独立して基材に負圧のバイアス電圧を印加する。基材は、毎分2回転で自転しかつ、固定冶具とサンプルホルダーを介して公転する。基材とターゲット表面間の距離は50mmとした。導入ガスは、N、Ar、Krを用い、ガス供給ポートから導入した。
【0038】
まず、成膜装置内のヒーターにより基材温度が500℃になった状態で90分間の加熱を行い、真空容器(チャンバー)内の圧力が4×10−3Paに達した後、Arガスを真空容器内に導入し、炉内の圧力を0.2Paとした。そして、基材に−200Vの直流バイアス電圧を印加した。Arイオンによる基材のクリーニングを10分間実施した。
【0039】
容器内の圧力を1×10−3Paに真空排気して、基材の温度を450℃の一定とし、一定流量のArガス500mlのもとで、容器内の圧力が600mPaになるようにNガスを導入した。そして、バイアス電圧を−120V、アノード電圧を−110Vに設定して、中間皮膜を成膜した。
【0040】
試料番号1〜12、14、15、17、18では、中間皮膜が傾斜構造層となるように成膜条件を調整した。まず、蒸発源番号1に6kWの平均電力を印加して、5000秒間(略0.5μm)成膜を行なった。その後、蒸発源番号2に2kWの平均電力を印加すると同時に、蒸発源番号2の平均電力を0.5W/秒の比率で6kWまで上昇させ、蒸発源番号1の平均電力を6kWから2kWへ、0.5W/秒の比率で減少させ、傾斜構造層の工程を略7500秒間実施して略1μmの傾斜皮膜を成膜した。その後、蒸発源番号1の電力供給を停止させ、蒸発源番号2を5000秒間(略0.5μm)成膜した。
【0041】
試料番号13は、以下の手順で上記の傾斜構造層のない試料とした。すなわち、蒸発源番号1による成膜を10000秒(略1μm)実施後、蒸発源番号1への電力供給を停止して、蒸発源番号2による成膜を10000秒(略1μm)行い、中間皮膜を成膜した。
【0042】
その後、容器内の圧力を1×10−3Paに真空排気して、基材の温度を450℃の一定とし、一定流量のArガス500mlのもとで、容器内の圧力が580mPaになるようにKrガスを導入した。そして、バイアス電圧を−120V、アノード電圧を−110Vに設定し、硬質皮膜の成膜を行った。試料番号16は、中間皮膜を成膜せずに硬質皮膜を成膜した。
【0043】
試料番号1〜17は、一定量のC相を含有したSiC複合ターゲットを使用した。
蒸発源番号3に、3kWの電力を印加し放電を開始した。500秒後、蒸発源番号4に3kWの出力を印加し放電を開始し、蒸発源番号3と4で略2μmのSiC系膜の成膜を行なった。
【0044】
試料番号18は、C相を含有しない通常のSiCターゲットを使用した。この場合、ターゲット表面の電気抵抗が高く、ターゲットに印加する電力を1kWよりも大きく設定した場合、ターゲット表面上で異常放電が発生して成膜が出来なかった。そのため、ターゲットに印加する電力を1kWに設定した。
各被覆試料は200℃以下に冷却後、容器内から取り出し皮膜特性を評価した。
【0045】
<皮膜組成>
皮膜組成を、電子プローブマイクロアナライザー(EPMA;日本電子(株)製JXA−8900R)を用いて分析した。分析は、皮膜の最表面に対し試験片を5度傾けた皮膜断面を鏡面研磨後実施した。そして分析値は、加速電圧15kV、試料電流0.2μA、計数時間10秒とした測定を5回実施し、その平均値とした。表2に、皮膜組成の分析結果を示す。数値は原子比を示す。
【0046】
【表2】

【0047】
定量分析で定性された酸素はターゲットに混入したもの、またはその他要因も含め不可避的に混入したと考えられる。SiC複合ターゲットで成膜した皮膜では、C/Siが1.38〜1.73と、どれもCが多く含有された。通常のSiCターゲットを使用して成膜では、Cに対してややSiが多く含有された。中間皮膜は合金ターゲットと略同一組成であった。
【0048】
〈結晶構造および結晶粒径〉
中間皮膜と硬質皮膜の結晶構造を測定するために、皮膜断面を透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察した。まず、試料を切断しダミー基板上にエポキシ樹脂を用いて接着し、その後、切断、Mo製補強リング接着、研磨、ディンプリング、Arイオンミーリングを行い断面TEM試料を準備した。測定前にはカーボン蒸着を施した。設備は日本電子製JEM−2010F型電界放射型透過電子顕微鏡を用い加速電圧を200kVとした。制限視野回折像はカメラ長50cm、制限視野領域をビーム直径680nmとした。格子像が観察された微小部は、微小部電子線回折(ビーム直径3nm以下)を実施して、最も強く現れる電子線回折パターンから、その皮膜の結晶構造を特定した。また、観察した格子像から平均結晶粒径を測定した。測定結果を表3に示す。
【0049】
図1は、試料番号2の硬質皮膜の透過電子顕微鏡によるビーム直径680nmの制限視野回折像を示す。(002)又は(101)、(110)、(112)又は(200)の六方晶の結晶面に対応した結晶回折パターンがそれぞれ確認される。中でも、(002)又は(101)の六方晶の結晶回折パターンが最も明るく、最強強度を示すことが確認される。
C相を含有したSiC複合ターゲットで成膜した試料番号1、3〜17も同様に、(002)又は(101)の六方晶の結晶回折パターンが最強強度を示した。
通常のSiCターゲットを使用した、試料番号18では、結晶回折パターンは確認されず非晶質であった。
【0050】
図2は、試料番号2の硬質皮膜の透過電子顕微鏡による断面写真の一例である。明確な格子像と周期構造がない箇所の両方が存在することが確認される。観察された格子像の長径は概ね10nm以下であった。一方、明確な周期構造が確認されない箇所は、非晶質もしくは非常に微細な結晶粒子が混在していると推定される。
試料番号1、3〜17でも、明確な格子像と周期構造が確認されない両方が観察された。
試料番号18は、明確な格子像は確認されず、制限視野回折像からも非晶質のSiCであることが確認された。
【0051】
図3は、試料番号2の硬質皮膜の格子像が確認された粒子内部の微小部電子線回折を示す。(002)の六方晶の結晶面にスポットが最も明確に観察される。本結果からも、本発明のSiC皮膜の組織には、六方晶の結晶構造相のSiCを含有することが確認される。
試料番号1、3〜17も同様に格子像の部分では、(002)の六方晶の結晶面に最も明確なスポットが確認された。
【0052】
<硬質皮膜の硬度測定>
エリオニクス製のナノインデンテーション装置を用い、硬質皮膜の硬度を測定した。皮膜の硬度を測定するために、試験片を5度傾けて、鏡面研磨後、皮膜の研磨面内で最大押し込み深さが層厚の略1/10未満となる領域を選定した。このとき略1/5程度でも基材の影響はなかった。押込み荷重49mN、最大荷重保持時間1秒、荷重負荷後の除去速度0.49mN/秒の測定条件で10点測定し、その平均値を求めた。本測定方法における皮膜硬度は、圧子の微細形状、測定時の温度、湿度、試料の表面状態に左右され易く、得られる数値は必ずしもビッカース硬さと一致しない。そのため、標準試料である単結晶Siを測定した。そのときの単結晶Siの皮膜硬さは12GPaであり、本測定結果をもとに相対比較することができる。測定結果を表3に示す。
【0053】
<摩擦係数測定>
SiC皮膜のFe系材に対する摩擦係数を測定するために下記の条件でボールオンディスク摩耗試験を行い、平均摩擦係数を測定した。測定結果を表3に示す。
ボール : φ6鏡面仕上げ、材質:SUJ2(60HRC)
基材 : φ20鏡面仕上げ、各種皮膜
回転半径 : 3mm
回転スピード : 10cm/s
荷重 : 2N
摺動距離 : 100m
摺動環境 : 室温、無潤滑
【0054】
〈切削試験〉
切削工具による耐久性評価用として、超微粒子超硬合金製(WC−Co−VC−Cr、WC平均粒径:0.4μm、Co含有量:6重量%、VC含有量:0.2重量%、Cr含有量0.6重量%)の2枚刃、半径0.5mmのボールエンドミルの基材を用いて、上記と同じ条件で成膜して試料No.1〜18の被覆工具を作製した。
【0055】
また、市場で一般的に使用されているTiAlN膜の単一膜を以下の手順で作製し、SiC皮膜との特性を比較した。
TiAlNの被覆には、成膜装置にアークイオンプレーティング装置(神戸製鋼所製:AIP−S40)を用いた。まず、基材温度を500℃に設定して、成膜装置内のヒーターによりで60分間の加熱を行い、真空容器(チャンバー)内の圧力が4×10−3Paに達した後、Arガスを真空容器内に導入し、炉内の圧力を2Paとした。そして、基材に−200Vの直流バイアス電圧を印加し、Arイオンによる基材のクリーニングを10分間実施した。その後、容器内の圧力を1×10−3Paに真空排気して、基材の温度を500℃の一定とし、容器内の圧力が2PaになるようにNガスを導入した。そして、バイアス電圧を−40Vに設定し、アーク蒸発源に150Aの電力を供給して、略4μmのTiAlN単一膜を成膜し、試料番号19とした。
【0056】
試料番号1〜19の被覆ボールエンドミルは、以下の評価条件で耐久性を評価した。評価結果を表3に示す。
[切削条件]
被削材:マルテンサイト系ステンレス鋼(HRC52)
工具回転数:150,000回転/分
テーブル送り量:4500m/分
切り込み深さ:軸方向0.05mm、ピックフィード0.2mm
加工方法:90度勾配面加工(最大軸方向切り込み深さ:0.25mm)
クーラント:乾式
寿命判定:最大摩耗幅が0.1mmに達するまでの切削長、10m未満切り捨て
【0057】
【表3】

【0058】
SiC複合ターゲットで成膜した試料番号1〜17のSiC皮膜は、六方晶の結晶構造相であり、通常のSiCターゲットで成膜した非晶質SiCであった試料番号18に比べて高硬度であった。
【0059】
SiC複合ターゲットで成膜した本発明例の試料番号1〜17は、通常のSiCターゲットで成膜した試料番号18に比べて摩擦係数が低くなった。これは、皮膜中に潤滑性能の優れるC原子が多く含有されているためである。
【0060】
本発明例である試料番号の1〜13は、中間皮膜の基材側と硬質皮膜側で異なるターゲットを使用し、基材側では立方晶の結晶構造相、硬質皮膜側では六方晶の結晶構造相を含有する組織であった。
試料番号14の中間皮膜は、硬質皮膜側では、AlとSiの含有量が多く、非晶質となった。
試料番号15の中間皮膜は、基材側と硬質皮膜側で同一のAl60Cr37Si3のターゲットを使用し、中間皮膜全体が立方晶の結晶構造となった。
試料番号17の中間皮膜は、基材側と硬質皮膜側で同一のAl80V20のターゲットを使用し、中間皮膜全体が六方晶の結晶構造となった。
【0061】
本発明例である試料番号1〜13は、硬質皮膜が結晶質のSiC皮膜であり、中間皮膜の基材側が立方晶の結晶構造、硬質皮膜側が六方晶の結晶構造であるため、優れた密着性と耐摩耗性を示し、本発明と中間皮膜が異なる試料番号14〜17よりもさらに工具寿命が向上した。
本発明例の試料番号1〜13は、SiC皮膜中のC含有が多いため、摺動特性に優れ、特に切れ刃表面の溶着物が減少して切削抵抗が低い。しかも高硬度で耐熱性に優れることから、優れた耐久性を示したと推定される。本発明の試料番号1〜13は、いずれもTiAlN皮膜である試料番号18よりも優れた切削性能を示した。
本発明例の硬質皮膜の中でも、中間皮膜が同じ試料番号1〜3の比較から、SiC皮膜中のSi含有量が多く、より高硬度な試料番号1および2の硬質皮膜がより優れた切削性能を示した。
試料番号2、13の比較から、中間皮膜に組成傾斜層を有してしている方が優れた工具性能を示した。
また、中間皮膜の硬質皮膜側の結晶粒径と硬質皮膜の結晶粒径が同程度である方が、切削性能が優れる傾向にあった。
硬質皮膜が非晶質である試料番号18は、摩耗進行が早く、また相手材の付着が激しいことから摺動特性が不足していると考えられ、異常摩耗が発生した。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、優れた耐摩耗性と摺動特性が要求される用途、例えば切削工具や金型等に用いられる被覆工具およびその製造方法について述べたものである。そして、その優れた耐摩耗性と摺導特性を考慮すると、自動車部品等の部材へ適用しても、優れた耐久性を発揮することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具の基材表面に中間皮膜を介して硬質皮膜を被覆した被覆工具であって、該硬質皮膜は、原子比でSiよりもCが多く、組織に六方晶の結晶構造相を含むSiC膜であり、該中間皮膜は、AlxMyからなる窒化物又は炭窒化物(但し、x、yは原子比を示し、x+y=100、かつ、40≦x≦95、かつ、5≦y≦60、MはTi、Cr、V、Nbから選択される1種以上)であり、該基材側が立方晶の結晶構造、該硬質皮膜側が六方晶の結晶構造であること特徴とする耐摩耗性と摺動特性に優れる被覆工具。
【請求項2】
中間皮膜は、基材側から硬質皮膜側に向けてAlの含有量が増加することを特徴とする請求項1に記載の耐摩耗性と摺動特性に優れる被覆工具。
【請求項3】
中間皮膜は、Si、Y、Bから選択される1種以上を原子比で20%以下含むことを特徴とする請求項1ないし2に記載の耐摩耗性と摺動特性に優れる被覆工具。
【請求項4】
中間皮膜は、少なくともSiを含み、基材側から硬質皮膜側に向けてSiの含有量が増加することを特徴とする請求項3に記載の耐摩耗性と摺動特性に優れる被覆工具。
【請求項5】
硬質皮膜のC量は、原子比で70%以下であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の耐摩耗性と摺動特性に優れる被覆工具。
【請求項6】
硬質皮膜の組織は、非晶質に六方晶の結晶構造相を含むことを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の耐摩耗性と摺動特性に優れる被覆工具。
【請求項7】
硬質皮膜の組織は、透過型電子顕微鏡による電子線回折において、(101)又は(002)の六方晶の結晶面が最大強度を示すことを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の耐摩耗性と摺動特性に優れる被覆工具。
【請求項8】
物理蒸着法により工具の基材表面に中間皮膜を介して硬質皮膜を被覆する製造方法であって、該中間皮膜の被覆では、AlxMyからなる(但し、x、yは原子比を示し、x+y=100、かつ、40≦x≦95、かつ、5≦y≦60、MはTi、Cr、V、Nbから選択される1種以上)組成の異なる複数個のターゲットを用い、
AlxMyからなる窒化物又は炭窒化物(但し、x、yは原子比を示し、x+y=100、かつ、40≦x≦95、かつ、5≦y≦60、MはTi、Cr、V、Nbから選択される1種以上)で、該基材側が立方晶の結晶構造、該硬質皮膜側が六方晶の結晶構造となるよう形成し、
該硬質皮膜の被覆では、体積比で0を超え25%以下のC相を含んだSiC複合ターゲットを用い、該SiC複合ターゲットに印加する平均電力を2kW以上でスパッタすることを特徴とする耐摩耗性と摺動特性に優れる被覆工具の製造方法。
【請求項9】
中間皮膜の被覆では、複数個のターゲットのうち、Alの含有量が多い組成のターゲットに印加する電力を増加させていくことで、基材側から硬質皮膜側に向けてAlの含有量が増加するように被覆することを特徴とする請求項8に記載の耐摩耗性と摺動特性に優れる被覆工具の製造方法。
【請求項10】
中間皮膜の被覆では、AlxMy(但し、x、yは原子比を示し、x+y=100、かつ、40≦x≦95、かつ、5≦y≦60、MはTi、Cr、V、Nbから選択される1種以上)の関係を満たし、さらにSi、Y、Bから選択される1種以上を原子比で20%以下含んだターゲットを1個以上用いることを特徴とする請求項8ないし9に記載の耐摩耗性と摺動特性に優れる被覆工具の製造方法。
【請求項11】
中間皮膜の被覆では、少なくともSiを含有したターゲットを1個以上用い、該Siを含有したターゲットに印加する電力を増加させていくことで、基材側から硬質皮膜側に向けてSiの含有量が増加するように被覆することを特徴とする請求項10に記載の耐摩耗性と摺動特性に優れる被覆工具の製造方法。
【請求項12】
SiC複合ターゲットのC相は、体積比で2%以上であることを特徴とする請求項8ないし11のいずれかに記載の耐摩耗性と摺動特性に優れる被覆工具の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−152878(P2012−152878A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−16014(P2011−16014)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000233066)日立ツール株式会社 (299)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】