説明

耐摩耗性を改善する添加剤および潤滑剤組成物

【課題】 潤滑面、可動部間の磨耗を減少させる方法、潤滑剤、および磨耗減少剤を含んだ潤滑剤濃縮物。
【解決手段】 当該潤滑面は、潤滑粘度の基油と、マグネシウム化合物を欠いた潤滑剤組成物による表面の磨耗の低減よりも表面の磨耗をさらに低減させるのに効果的な量の、少なくとも一つの炭化水素に可溶なマグネシウム化合物とを含有する。当該潤滑剤組成物は、約0.05重量%以下のリンを含有し、またカルシウム洗浄剤を欠いている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に記載の実施例は、特定の油溶性マグネシウム添加剤、および組成物の耐摩耗性を向上するための、潤滑油組成物中における当該マグネシウム添加剤の用法に関連する。
【背景技術】
【0002】
次世代の乗用車のモーターオイルおよびヘビーデューティーディーゼルエンジンオイルの分野では、より厳しい公害防止装置の汚染を低減するため、組成物中のより低いリンおよび硫黄レベルでの同等の耐摩耗性が必要とされている。硫黄およびリンを含有した添加剤が完成したオイルに耐摩耗性をもたらすこと、さらに公害防止装置の効果を害するかそうでなければ低減させることは周知のことである。
【0003】
長年にわたり、ジンクジアルキルジチオホスフェート(「Zn DDP」)が潤滑油中で使用されている。また、Zn DDPは優れた耐摩耗性を有し、Seq IVAやTU3磨耗試験などのようなカムの磨耗試験に合格するために使用されてきた。それらのすべてが完全なものとして参照することにより本明細書に組み込まれている、特許文献1、特許文献2、特許文献3を含む多くの特許が、Zn DDPの製造および用途について扱っている。
【0004】
硫黄を含有した耐磨耗剤はよく知られており、ジヒドロカルビルポリスルフィド;硫化オレフィン;天然起源および合成起源の両方の硫化脂肪酸エステル;トリチオン;硫化チエニル誘導体;硫化テルペン;硫化ポリイン;硫化ディールス・アルダー付加物、その他が含まれる。具体例としては、硫化イソブチレン、硫化ジイソブチレン、硫化トリイソブチレン、ジシクロヘキシルポリスルフィド、ジフェニルポリスルフィド、ジベンジルポリスルフィド、ジノニルポリスルフィド、そして中でもジ−t−ブチルトリスルフィド、ジ−t−ブチルテトラスルフィドテトラスルフィド、およびジ−t−ブチルペンタスルフィドの混合物などのような、ジ−t−ブチルポリスルフィドの混合物などが挙げられる。上記のうち、硫化オレフィンは多くの用途に使用される。硫化オレフィンの製造方法は、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7、特許文献8、および特許文献9に記載されている。特許文献10に記載の硫化オレフィン誘導体もまた有用である。その他の硫黄含有耐磨耗剤については、特許文献11、特許文献12、および特許文献13に記載されている。
【0005】
優れた耐摩耗性を提供し、また自動車やディーゼルエンジンのために使用される公害防止装置との相性のよい潤滑剤が必要とされている。
【0006】
【特許文献1】米国特許第4,904,401号
【特許文献2】米国特許第4,957,649号
【特許文献3】米国特許第6,114,288号
【特許文献4】米国特許第2,995,569号
【特許文献5】米国特許第3,673,090号
【特許文献6】米国特許第3,703,504号
【特許文献7】米国特許第3,703,505号
【特許文献8】米国特許第3,796,661号
【特許文献9】米国特許第3,873,454号
【特許文献10】米国特許第4,654,156号
【特許文献11】米国特許第4,857,214号
【特許文献12】米国特許第5,242,613号
【特許文献13】米国特許第6,096,691号
【発明の開示】
【0007】
上述の事項を考慮して、本明細書に開示された例示的実施例は、潤滑面、可動部間の磨耗を減少させる方法、潤滑剤、および磨耗減少剤を含んだ潤滑剤濃縮物を提供している。この潤滑面は、潤滑粘度の基油と、マグネシウム化合物を欠いた潤滑剤組成物による表面の磨耗の低減よりも表面の磨耗をさらに低減させるのに効果的な量の、少なくとも一つの炭化水素に可溶なマグネシウム化合物戸を含んでいる。当該潤滑剤組成物は、約0.05重量%以下のリンを含有し、実質的にカルシウム洗浄剤を欠いている。
【0008】
一つの例示的実施例では、可動部を有する車が提供されるが、当該の車は、可動部を潤滑する潤滑剤を含んでいる。この潤滑剤は、マグネシウム化合物を欠いた潤滑剤組成物による可動部の表面の磨耗の低減よりも可動部の表面の磨耗をさらに低減させるのに効果的な量の、少なくとも一つの炭化水素に可溶なマグネシウム化合物を提供する量の耐磨耗剤を含んだ、潤滑粘度のオイルである。当該潤滑剤組成物は、約0.05重量%以下のリンを含有し、実質的にカルシウム洗浄剤を欠いている。
【0009】
また別の実施例では、潤滑粘度の基油成分と、マグネシウム化合物を欠いた潤滑剤組成物による磨耗の低減よりも磨耗をさらに低減させるのに効果的な量の、少なくとも一つの炭化水素に可溶なマグネシウム化合物を提供する量の耐磨耗剤を含んだ、完全に組成された潤滑剤組成物が提供されている。当該潤滑剤組成物は、約500ppm以下のリンを含有し、実質的にカルシウム洗浄剤を欠いている。
【0010】
本開示のさらなる実施例は、潤滑剤組成物に改善された耐摩耗性を提供するための潤滑剤濃縮物を提供している。この濃縮物は、実質的にカルシウム化合物を欠いており、ヒドロカルビル担体流体と、濃縮物を含む潤滑剤組成物に約120ppmから約2000ppmのマグネシウムをもたらすのに十分な量の、少なくとも一つの炭化水素に可溶なマグネシウム化合物を含んでいる。
【0011】
上記に簡単に説明したように、本開示の実施例は、潤滑剤組成物の耐摩耗性を著しく改善し、それによって同等の耐摩耗性を得るのに必要とされる耐磨耗剤中のリンおよび硫黄の量を減少させることのできる、炭化水素に可溶なマグネシウム化合物を含んだ耐磨耗剤を提供している。この添加剤を、表面の磨耗を減少させるために表面に塗布される油性の流体と混合してもよい。別の用途では、この添加剤は完全に組成された潤滑剤組成物中に提供される。当該添加剤は特に、現在提案されている乗用車のモーターオイル用のGF−4規準、およびヘビーデューティーディーゼルエンジンオイル用のPC−10規準に合うことを目的としている。
【0012】
本明細書に記載の組成物および方法は、自動車の公害防止装置の汚染を低減するために特に適しており、また一方で当該組成物は、潤滑剤組成物中の耐磨耗剤の性能を改善するのに適している。本明細書に記載の組成物および方法のその他の特徴および利点は、本明細書に記載の実施例を限定することなく実施例の態様を例示することを目的とした、以下の詳細な説明を参照することで明らかになる。
【0013】
前述の概要および以下の詳しい説明は、共に例示および説明のみを目的としたものであり、開示・請求された実施例のさらなる説明を提供することが意図されたものであると理解される。
【実施例の詳細な説明】
【0014】
一つの実施例では、潤滑油組成物中の成分として有用なマグネシウム化合物が紹介されている。マグネシウム化合物は、マグネシウムスルホネート、マグネシウムフェネート、サリチル酸マグネシウム、およびそれらの混合物から成るグループから選択された、炭化水素に可溶なマグネシウム化合物から成る。
【0015】
「炭化水素に可溶性の」という用語は、マグネシウム化合物と炭化水素材料の反応または錯体形成により、化合物が実質的に炭化水素材料中に懸濁あるいは溶解することを意味する。本明細書中で使用される「炭化水素」という用語は、炭素、水素、および/または酸素を様々な組み合わせで含んでいる、任意の多数の化合物を意味する。
【0016】
「ヒドロカルビル」という用語は、炭素原子が分子の残りの部分に結合しており、また主に炭化水素の特性を有する基を指す。ヒドロカルビル基の例には以下のものが含まれる:
(1)炭化水素置換基、すなわち、脂肪族(例えばアルキルまたはアルケニル)置換基、脂環式(例えばシクロアルキル、シクロアルケニル)置換基、また芳香族、脂肪族、および脂環基によって置換された芳香族置換基、また環が分子の別の部分によって完成されている(例えば二つの置換基が一緒になって脂環式ラジカルを形成している)ような環状置換基;
(2)置換された炭化水素置換基、すなわち、本発明の状況下で、主に炭化水素である置換基(例えばハロ(特にクロロおよびフルオロ)、ヒドロキシ、アルコキシ、メルカプト、アルキルメルカプト、ニトロ、ニトロソ、およびスルホキシ)などを変化させないような、非炭化水素基を含んだ置換基;
(3)ヘテロ置換基、すなわち、主に本発明の状況下で、主に炭化水素の特性を有しながら、そうでなければ炭素原子から成る環または鎖の中に炭素以外の原子を含んでいるような置換基。ヘテロ原子には硫黄、酸素、および窒素があり、またピリジル、フリル、チエニルおよびイミダゾリルのような置換基が含まれる。通常、ヒドロカルビル基中、炭素原子10個につき二つ以下、一般的には一つ以下の非炭化水素置換基が存在する。一般的にヒドロカルビル基中に非炭化水素置換基は存在しない。
【0017】
マグネシウム化合物は、望ましくは、超過量のマグネシウム陽イオンを含有する、塩基性あるいは過塩基性のマグネシウム塩である。通常、塩基性あるいは過塩基性の塩の金属比は約40以下、より具体的には約2から約30あるいは40である。
【0018】
通常用いられる塩基性(または過塩基性)のマグネシウム塩の製造方法は、化学両論的に超過量の金属中和剤を含む塩の鉱油溶液、例えば金属酸化物、水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩、硫化物などを、約50℃以上で熱することから成る。加えて、超過量の金属の取り込みを促進するため、過塩基化のプロセス中に各種のプロモーターが使用される。これらのプロモーターには、フェノール系の物質、例えばフェノール、ナフトール、アルキルフェノール、チオフェノール、硫化アルキルフェノール、およびホルムアルデヒドとフェノール系物質との様々な縮合生成物;メタノール、2−プロパノール、オクチルアルコール、セロソルブカルビトール、エチレン、グリコール、ステアリルアルコール、およびシクロヘキシルアルコールなどのようなアルコール;アニリン、フェニレンジアミン、フェノチアジン、フェニル・ベータ・ナフチルアミン、およびドデシルアミンのようなアミンなどの化合物が含まれる。
【0019】
マグネシウム塩が由来する有機酸性化合物は、少なくとも一つの硫黄酸、カルボン酸、リン酸、またはフェノールやそれらの混合物である。硫黄酸としては、スルホン酸、チオスルホン酸、スルフィン酸、スルフェン酸、部分的にエステルである硫酸、亜硫酸、およびチオ硫酸などがある。炭化水素に可溶なマグネシウム化合物の製造での使用には、スルホン酸が特に適している。
【0020】
成分(B)の製造に役立つスルホン酸には、以下の式で表されるものがある:
T(SOH) (I)
および
(SOH) (II)
【0021】
これらの式中、Rは、脂肪族化合物あるいは脂肪族置換の脂環式炭化水素、または本質的にアセチレン性不飽和がなく炭素数が約60以下の炭化水素基である。Rが脂肪族化合物である場合は、その炭素数は通常少なくとも約15であり、脂肪族置換の脂環基である場合は、この脂肪族置換基の炭素数は合計で少なくとも約12である。Rの例に、アルキル、アルケニル、およびアルコキシアルキルラジカル、および脂肪族置換の脂環基があり、このとき当該脂肪族置換基は、アルキル、アルケニル、アルコキシ、アルコキシアルキル、カルボキシアルキル等である。通常脂環核は、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘキセンあるいはシクロペンテンのようなシクロアルカンまたはシクロアルケンから得られる。Rの具体例として、セチルシクロヘキシル、ラウリルシクロヘキシル、セチルオキシエチル、オクタデセニル、および石油、飽和および不飽和のパラフィンワックス、また、各オレフィンモノマーユニットに付き2から8の炭素を含む、重合モノオレフィンおよびジオレフィンを含んだオレフィンポリマーから得られる基が挙げられる。Rにはまた、フェニル、シクロアルキル、ヒドロキシ、メルカプト、ハロ、ニトロ、アミノ、ニトロソ、低アルコキシ、低アルキルメルカプト、カルボキシ、カルバルコキシ、オキソ、チオ、または、本質的に炭化水素の特性が損なわれさえしなければ−−NH−−、−−O−−あるいは−−S−−のような遮断基などの、他の置換基も含まれる。
【0022】
式IのRは通常炭化水素であるか、あるいは本質的にアセチレン性不飽和がなく、約4から約60の脂肪族炭素原子を含む、例えばアルキルやアルケニルのような脂肪族炭化水素基である。しかしながらこの化合物には、置換基や、本質的に炭化水素の特性が損なわれないという条件下で、上記に列挙された遮断基が含まれる。通常、RまたはR中に存在する炭素以外の原子が、いずれも総重量の10%以上を占めることはない。
【0023】
上記の式中、Tはベンゼン、ナフタレン、アントラセン、あるいはビフェニルなどのような芳香族炭化水素、またはピリジン、インドール、あるいはイソインドールのような複素環式化合物から得られる環状核である。通常は、Tは芳香族炭化水素の核、特にベンゼンまたはナフタレンの核である。
【0024】
上記の式中の下付き文字「x」は、少なくとも1、通常は1から3である。下付き文字「r」および「y」は、各分子につき平均約1から2、通常は1である。
【0025】
当該のスルホン酸は通常、石油スルホン酸あるいは合成的に製造されたアルカリルスルホン酸である。石油スルホン酸の中で最も有用なものは、適切な石油の一部分をスルホン化し、続いて酸性スラッジを除去し、生成することによって製造されたものである。合成アルカリルスルホン酸は、通常ベンゼンとテトラプロピレンのようなポリマーとのフリーデル・クラフツ反応の生成物のようなアルキル化ベンゼンから製造される。以下に挙げるのは、本明細書に記載の水素に可溶なマグネシウム化合物の製造に役立つスルホン酸の具体例である。このようなスルホン酸には、マホガニースルホン酸、ブライトストックスルホン酸、ペトロラタムスルホン酸、モノおよびポリワックス置換ナフタレンスルホン酸、セチルクロロベンゼンスルホン酸、セチルフェノールスルホン酸、セチルフェノールジスルフィドスルホン酸、セトキシカプリルベンゼンスルホン酸、ジセチルチアントレンスルホン酸、ジラウリル・ベータナフトールスルホン酸、ジカプリルニトロナフタレンスルホン酸、飽和パラフィンワックススルホン酸、不飽和パラフィンワックススルホン酸、ヒドロキシ置換パラフィンワックススルホン酸、テトラ−イソブチレンスルホン酸、テトラア
ミレンスルホン酸、クロロ置換パラフィンワックススルホン酸、ニトロソ置換パラフィンワックススルホン酸、石油ナフテンスルホン酸、セチルシクロペンチルスルホン酸、ラウリルシクロヘキシルスルホン酸、モノおよびポリワックス置換シクロヘキシルスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、「二量体アルキル化」スルホン酸等が含まれるが、これらに限定はされない。
【0026】
ドデシルベンゼン「ボトム」スルホン酸を含み、アルキル基の炭素数が少なくとも8であるアルキル置換ベンゼンスルホン酸は、特に有用である。ドデシルベンゼン「ボトム」スルホン酸は、ベンゼンリングに1つ、2つ、3つ、またはそれ以上の分岐鎖C12 置換基を取り込むために、プロピレン四量体、あるいはイソブテン三量体でアルキル化されたベンゼンから得られる酸である。主としてモノおよびジドデシルベンゼンの混合物であるドデシルベンゼンボトムは、家庭用洗剤の製造の副産物として入手することができる。線状アルキルスルホン酸塩(LAS)の製造中に形成されるアルキル化ボトムから得られる同様の生成物もまた、本明細書に記載のスルホン酸塩の製造に有用である。
【0027】
炭化水素に可溶なマグネシウム化合物の製造に適したカルボン酸として、脂肪族、脂環式および芳香族のモノおよびポリ塩基性の、アセチレン性不飽和のないカルボン酸;アルキル置換またはアルケニル置換のシクロペンタン酸、アルキル置換またはアルケニル置換のシクロヘキサン酸およびアルキル置換またはアルケニル置換の芳香族カルボン酸が挙げられる。脂肪酸には通常、約8から約50、望ましくは約12から約25の炭素原子が含まれる。脂環式および脂肪族のカルボン酸は特に好適であり、飽和でも不飽和でもよい。具体例には、2−エチルヘキサン酸、リノレン酸、プロピレン四量体置換のマレイン酸、ベヘン酸、イソステアリン酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、パルミトレイン酸、リノール酸、ラウリン酸、オレイン酸、リシノール酸、ウンデカン酸(undecyclic acid)、ジオクチルシクロペンタンカルボン酸、ミリスチン酸、ジラウリルデカヒドロナフタレン−カルボン酸、ステアリル−オクタヒドロインデンカルボン酸、パルミチン酸、アルキルおよびアルケニルコハク酸、ペトロラタムまたは炭化水素ワックスの酸化により形成された酸、およびトールオイル酸、樹脂酸、等のような二つ以上のカルボン酸の市販の混合物が含まれる。
【0028】
また、炭化水素に可溶なマグネシウム化合物は、フェノール、つまり芳香環に直接結合したヒドロキシル基を含む化合物からも製造される。本明細書で使用される「フェノール」という用語には、カテコール、レゾルシノール、およびヒドロキノンのような、芳香環に一つ以上のヒドロキシ基が結合している化合物が含まれる。また、クレゾールやエチルフェノールのようなアルキルフェノール、およびアルケニルフェノールもこれに含まれる。ヘプチルフェノール、オクチルフェノール、ドデシルフェノール、テトラプロペン−アルキル化フェノール、オクタデシルフェノール、およびポリブテニルフェノールなどのような、炭素数が約3から100、特に約6から50であるアルキル置換基を含んだフェノールは特に好適である。一つ以上のアルキル置換基を含んだフェノールが使用されることもあるが、モノアルキルフェノールの方が、入手しやすくまた生成も容易であるため、より好適である。
【0029】
上述のフェノールと、少なくとも一つの低級アルデヒドあるいはケトンとの縮合生成物もまた有用である。ここで「低級」という用語はアルデヒドやケトンに含まれる炭素数が7以下であることを意味している。好適なアルデヒドとして、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、バレルアルデヒド、およびベンズアルデヒドが挙げられる。パラホルムアルデヒド、トリオキサン、メチロール、メチルフォルムセル(methyl formcel)、およびパラアルデヒドのような、アルデヒドを生成する試薬もまた好適である。
【0030】
例示的実施例の潤滑剤に含まれる炭化水素に可溶なマグネシウム化合物の量もまた様々であり、特定の潤滑油組成物中で有用な量は、等技術分野に精通した技術者により容易に決定される。本明細書に記載の潤滑剤中に含まれるマグネシウム化合物の量は、約0.15重量%から約2.0重量%である。オイル組成物中に含まれるマグネシウム化合物の量は、目的となる磨耗防止特性をもたらすのに十分な量である。
【0031】
潤滑油組成物の製造において、例えばミネラル潤滑油やその他の適切な溶媒などの炭化水素中に、1重量%から99重量%の濃縮物の活性成分の形態で添加剤が、一般的な方法として加えられる。通常これらの濃縮物は、完成した潤滑油、例えばクランクケースモーターオイルの形成の際、添加剤パッケージの重量パーツとして0.05重量パーツから10重量パーツの潤滑油と共に加えられる。濃縮物の目的は、もちろん、多様な物質の扱硫黄より簡易に扱いやすくすることであるが、それとともに最終的な混合物中に多様な物質が溶解または分散しやすくなるように促進することである。
【0032】
上述の炭化水素に可溶なマグネシウム化合物で作られた潤滑剤組成物は、広範囲にわたる用途に使用される。圧縮点火エンジンや火花添加エンジン用では、潤滑剤組成物が公表されたGF−4あるいはAPI−CI−4基準を満たす、あるいは超えることが望ましい。上述のGF−4あるいはAPI−CI−4基準に則った潤滑剤組成物には、完全に調合された潤滑剤を提供するため、基油およびオイル添加剤パッケージが含まれる。本開示に則った潤滑剤の基油は、天然潤滑油、合成潤滑油、およびそれらの混合物の中から選択された、潤滑粘度のオイルである。このような基油には、自動車やトラックのエンジン、船や鉄道のディーゼルエンジン等の火花添加および圧縮点火内燃エンジン用のクランクケース潤滑油として、従来から使用されていた基油が含まれる。
【0033】
天然油としては、動物油および植物油(例えばヒマシ油やラードオイル)、液体石油、および水素化精製され、溶媒処理あるいは酸処理された、パラフィン系、ナフテン系、およびパラフィン・ナフテン混合系の潤滑油などがある。石炭または頁岩から得られる潤滑粘度のオイルもまた有用な基油である。本開示の例示的実施例で使用される合成潤滑油には、これらに限定はされないが、ポリアルファオレフィン、アルキル化芳香族、アルキレンオキシドポリマー、インターポリマー、コポリマー、およびそれらの誘導体などを含んだ、多くの通常使用される合成炭化水素オイルのいずれかが含まれ、このとき末端ヒドロキシル基は、エステル化やエーテル化など、またジカルボン酸とシリコンベースのオイルとのエステルによって修正されている。
【0034】
完全に調合された潤滑剤には、従来より、本明細書で分散剤/阻害剤パッケージまたはDIパッケージと呼ばれ、組成物に必要な特性をもたらす添加剤パッケージが含まれている。好適なDIパッケージについては、例えば米国特許第5,204,012号および6,034,040号に記載されている。添加剤パッケージ中に含まれている添加剤の種類には、分散剤、摩擦低減剤、シール膨張剤、抗酸化剤、消泡剤、潤滑剤、防錆剤、腐食防止剤、解乳化剤、粘度指数向上剤等がある。これらの化合物のうちいくつかは、当技術分野に精通した技術者には周知のものであり、通常、従来の量で、添加剤および本明細書に記載の組成物と共に使用される。
【0035】
分散剤
潤滑剤組成物のもう一つの成分に、ポリアルキレン化合物から得られた少なくとも一つの分散剤がある。このポリアルキレン化合物の数平均分子量は、約400から約5000、あるいはそれ以上である。使用される分散剤には、アミン、アルコール、アミド、またはしばしば架橋基を通してポリマーの骨格に結合したエステルの極性部分などがあるが、これらに限定はされない。分散剤は、例えば米国特許第3,697,574号や3,736,357号に記載のマンニッヒ分散剤;米国特許第4,234,435号および4,6
36,322号に記載の無灰コハク酸イミド分散剤;米国特許第3,219,666号、3,565,804号、および5,633,326号に記載のアミン分散剤;米国特許第5,936,041号、5,643,859号、および5,627,259号に記載のコッホ分散剤、また米国特許第5,851,965号、5,853,434号、および5,792,729号に記載のポリアルキレンコハク酸イミド分散剤などの中から選択される。
【0036】
得に好適な分散剤は、ポリイソブテン(PIB)化合物から得られたポリアルキレンコハク酸イミド分散剤である。この分散剤は、数平均分子量が約800から約3000で、反応性PIBの含有量が約50%から約60%であるような分散剤の混合物であってもよい。潤滑剤組成物中の分散剤の総量は、潤滑剤組成物の総重量の約1重量パーセントから約10重量パーセントである。
【0037】
摩擦低減剤
本明細書に記載の潤滑油組成物に、油溶性摩擦低減剤が組み込まれてもよい。この摩擦低減剤は、窒素を含有した、または窒素を含まない、および/またはアミンを含まない摩擦低減剤の中から選択される。一般的に摩擦低減剤は、潤滑油組成物の0.02重量%から2.0重量%の量で使用される。望ましくは0.05重量%から1.0重量%、より望ましくは0.1重量%から0.5重量%の摩擦低減剤が使用される。
【0038】
使用される、このような窒素含有摩擦低減剤の例として、イミダゾリン、アミド、アミン、コハク酸イミド、アルコキシル化アミン、アルコキシル化エーテルアミン、アミンオキシド、アミドアミン、ニトリル、ベタイン、第4級アミン、イミン、アミン塩、アミノグアナジン、アルカノールアミド等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0039】
このような摩擦低減剤には、直鎖、分岐鎖、または芳香族のヒドロカルビル基やそれらの混合物、また飽和あるいは不飽和のヒドロカルビル基の中から選択されたヒドロカルビル基が含まれる。ヒドロカルビル基は主に炭素と水素から成るが、硫黄や酸素などの一つ以上のヘテロ原子が含まれてもよい。好適なヒドロカルビル基の炭素数は12から25であり、飽和でも不飽和でもかまわない。より望ましくは、これらは線状ヒドロカルビル基である。
【0040】
例示的摩擦低減剤として、ポリアミンのアミドが挙げられる。このような化合物は、線状の、飽和あるいは不飽和またはその混合のヒドロカルビル基を有し、その炭素数は約12から約25以下である。
【0041】
その他の例示的摩擦低減剤として、アルコキシル化アミンとアルコキシル化エーテルアミンがあるが、アルコキシル化アミンに、窒素1モルにつき約2モルのアルキレンオキシドが含まれていることが最も望ましい。このような化合物は、線状の、飽和あるいは不飽和またはその混合のヒドロカルビル基を有することができる。これらの炭素数は約12から約25以下であり、ヒドロカルビル鎖中に一つ以上のヘテロ原子が含まれていてもよい。エトキシル化アミンおよびエトキシル化エーテルアミンは、特に好適な窒素含有摩擦低減剤である。アミンおよびアミドは、そのまま、あるいは付加化合物、または酸化ホウ素、ホウ素ハロゲン化物、メタホウ酸塩、ホウ酸、またはホウ酸モノアルキル、ホウ酸ジアルキル、あるいはホウ酸トリアルキルのようなホウ素化合物との反応生成物の形態で使用される。
【0042】
摩擦低減剤として使用される無灰有機ポリスルフィド化合物として、以下の式で表される、二つ以上の隣接した硫黄原子を有する硫黄原子基が分子構造中に存在する、オイルの硫化物、または脂肪あるいはポリオレフィンのような有機化合物がある。
【化1】

【0043】
上記の式中、RおよびRはそれぞれ、直鎖、分岐鎖、脂環式ユニット、あるいは芳香族ユニットがあらゆる組み合わせで選択的に含まれている、直鎖、分岐鎖、脂環式、あるいは芳香族の炭化水素基を表している。不飽和結合が含まれることもあるが、飽和炭化水素基のほうが望ましい。これらの中では、アルキル基、アリル基、アルキルアリル基、ベンジル基、およびアルキルベンジル基は特に好適である。
【0044】
およびRはそれぞれ、二つの結合サイトがあり、直鎖、分岐鎖、脂環式ユニット、あるいは芳香族ユニットがあらゆる組み合わせで選択的に含まれている、直鎖、分岐鎖、脂環式、あるいは芳香族の炭化水素基を表している。不飽和結合が含まれることもあるが、飽和炭化水素基のほうが望ましい。これらの中では、アルキレン基が特に好適である。
【0045】
およびRはそれぞれ、直鎖または分岐鎖の炭化水素基を表している。下付き文字「x」および「y」はそれぞれ2以上の整数を表している。
【0046】
例えば、特に硫化マッコウクジラ油、硫化ピネン油、硫化大豆油、硫化ポリオレフィン、ジアルキルジスルフィド、ジアルキルポリスルフィド、ジベンジルジスルフィド、ジ−t−ブチルジスルフィド、ポリオレフィンポリスルフィド、およびビス−アルキルポリス
ルファニルチアジアゾールのようなチアジアゾール系化合物、および硫化フェノールなどについて言及されることがある。これらの化合物の中では、ジアルキルポリスルフィド、ジベンジルジスルフィド、およびチアジアゾール系の化合物が好適である。特に好適なのはビス−アルキルポリスルファニルチアジアゾールである。
【0047】
潤滑剤として、ポリスルフィド結合を有するCaフェネートのような金属含有化合物が使用されてもよい。しかしながら、この化合物は摩擦係数が大きいため、このような化合物の使用が常に適切であるわけではない。反対に、上記の有機ポリスルフィド化合物は、金属をまったく含まない無灰化合物ではあるが、他の摩擦低減剤と組み合わせて使用された場合、長時間にわたり摩擦係数を低く維持する優れた性能を表す。
【0048】
上述の無灰有機ポリスルフィド化合物(以後簡単に「ポリスルフィド化合物」と記す)は、硫黄(S)として計算された場合、潤滑剤組成物の総量に対して0.01重量%から0.4重量%、一般的には0.1重量%から0.3重量%、また望ましくは0.2重量%から0.3重量%の量で添加される。添加量が0.01重量%以下であると目的とする効果が得にくくなり、また0.4重量%以上であると腐食磨耗が増加する危険がある。
【0049】
本明細書で開示された潤滑油組成物中で使用される、窒素を含まない、有機、無灰(無金属)の摩擦低減剤は一般に知られたものであり、これにはカルボン酸および無水物をアルカノールあるいはグリコールと反応させることによって形成されるエステルが含まれるが、このとき特に好適なカルボン酸は脂肪酸である。その他の有用な摩擦低減剤には、通常、親油性の炭化水素鎖に共有結合した、末端が極性の基(例えばカルボキシル基やヒドロキシル基)が含まれる。カルボン酸および無水物とアルカノールとのエステルは、米国特許第4,702,850号に記載されている。特にマグネシウム化合物と組み合わせて使用するのに好適な摩擦低減剤は、グリセロールモノオレエート(GMO)のようなエステルである。
【0050】
上述の摩擦低減剤は、マグネシウム化合物と組み合わせて、組成物を確実に高周波往復運動リグ試験(HFRR)にパスさせるのに効果的な量で、本明細書で開示された潤滑油組成物に含まれる。例えば、摩擦低減剤は、平均HFRR磨耗傷を約100平方ミクロン以下とするのに十分な量でマグネシウムを含有した潤滑油組成物に加えられる。一般的に、目的の効果を得るため、摩擦低減剤は、潤滑油組成物の総重量に基づいて、約0.25重量%から約2.0重量%(AI)の量で添加される。
【0051】
耐磨耗剤
金属ジヒドロカルビルジチオホスフェート耐磨耗剤が、マグネシウム化合物との組み合わせで、例示的実施例に則った潤滑油組成物に添加されてもよい。このような耐磨耗剤はジヒドロカルビルジチオホスフェート金属塩から成り、このとき金属はアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属、またはアルミニウム、鉛、スズ、モリブデン、マンガン、ニッケル、銅、チタニウム、または亜鉛などである。潤滑油中で最も一般的に使用されるのは亜鉛塩である。
【0052】
ジヒドロカルビルジチオホスフェート金属塩は、周知の技術に基づき、まず通常は一つ以上のアルコールあるいはフェノールとPを反応させることによってジヒドロカルビルジチオリン酸(DDPA)を形成し、次に形成されたDDPAを金属化合物で中和させて製造される。例えば、ジチオリン酸は第1級アルコールと第2級アルコールの混合物を反応させることによって作られる。一方複数のジチオリン酸が製造され、片方のヒドロカルビル基の特性が完全に第2級のものであり、もう片方のヒドロカルビル基の特性が完全に第1級のものとなることもある。金属塩を作るために、どの塩基性あるいは中性の金属化合物を使用してもかまわないが、酸化物、水酸化物、および炭酸塩が最も一般的に使
用される。市販の添加剤には、中和反応において超過量の塩基性金属化合物が使用されるため、しばしば超過量の金属が含有されている。
【0053】
一般的に使用されるジンクジヒドロカルビルジチオホスフェート(ZDDP)は、ジヒドロカルビル ジチオリン酸の油溶性の塩であり、以下の式で表される。
【化2】

式中RおよびRは、炭素数が1から18、一般的には2から12であり、アルキルラジカル、アルケニルラジカル、アリルラジカル、アリルアルキルラジカル、アルカリルラジカル、および脂環式ラジカルなどのラジカルを含んだ、同一のあるいは別々のヒドロカルビルラジカルである。従ってこのラジカルは、例えばエチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、sec−ブチル、アミル、n−ヘキシル、i−ヘキシル、n−オクチル、デシル、ドデシル、オクタデシル、2−エチルヘキシル、フェニル、ブチルフェニル、シクロヘキシル、メチルシクロペンチル、プロペニル、ブテニルなどである。油溶性を得るためのジチオリン酸中の炭素原子の総数(すなわちRおよびR)は、通常5以上である。従ってジンクジヒドロカルビルジチオホスフェートは、ジンクジアルキルジチオホスフェートを含むことができる。
【0054】
ZDDPによって潤滑油組成物に導入されるリンの量を0.1重量%(1000ppm)に制限するため、ZDDPが望ましくは潤滑油組成物の総重量に基づき約1.0重量%以下の量で潤滑油組成物中に添加されるべきである。マグネシウム含有の洗浄剤との組み合わせにおいて、ZDDPから得られる潤滑油中のリンの量は、望ましくは約500ppm以下、より望ましくは約250ppmから約500ppmで最良の磨耗傷の結果が得られる。
【0055】
以下に挙げるその他の添加剤もまた本明細書で開示された潤滑油組成物中に存在してよい。
【0056】
粘度調整剤
粘度調整剤(VM)は、潤滑油に高温および低温での操作性を与えるために機能する。使用されるVMは、単一機能性であっても多機能性であってもよい。
【0057】
分散剤としても機能する、多機能性の粘度調整剤もまた知られている。好適な粘度調整剤には、ポリイソブチレン、エチレンとプロピレンのコポリマー、高級アルファオレフィン、ポリメタクリレート、ポリアルキルメタクリレート、メタクリレートコポリマー、不飽和ジカルボン酸とビニル化合物とのコポリマー、スチレンとアクリルエステルのインターポリマー、および部分的に水素化されたスチレン/イソプレンコポリマー、スチレン/ブタジエン、およびイソプレン/ブタジエン、また部分的に水素化されたブタジエンとイソプレンとイソプレン/ジビニルベンゼンのホモポリマーなどがある。
【0058】
酸化防止剤
酸化防止剤または抗酸化剤は、ベースストックが使用中に悪化する傾向を低減させるが、この劣化は金属表面上のスラッジやワニス状の堆積物のような酸化生成物、および粘度の増加によって証明できる。このような酸化防止剤には、ヒンダードフェノール、CからC12のアルキル側鎖を有するアルキルフェノールチオエステルのアルカリ土類金属塩
、カルシウムノニルフェノールスルフィド、無灰油溶性フェネートおよび硫化フェネート、ホスホ硫化あるいは硫化炭化水素、リン酸エステル、金属チオカルバメート、および米国特許第4,867,890号に記載の油溶性銅化合物などが含まれる。
【0059】
防錆剤
非硫黄ン性ポリオキシアルキレンポリオールとそのエステル、ポリオキシアルキレンフェノール、および陰硫黄ン性アルキルスルホン酸から成るグループから選択された防錆剤が使用されることもある
【0060】
腐食防止剤
銅および鉛を含んだ腐食防止剤が使用されることもあるが、通常は開示された実施例の組成物に必要とされてはいない。一般にこのような化合物は、炭素数が5から50のチアジアゾールポリスルフィド、それらの誘導体、およびそれらのポリマーなどである。米国特許第2,719,125号、2,719,126号、および3,087,932号に記載されているような、1,3,4チアジアゾールの誘導体が一般的である。その他の同様な物質について、米国特許第3,821,236号、3,904,537号、4,097,387号、4,107,059号、4,136,043号、4,188,299号、および4,193,882号に記載されている。その他の添加剤に、英国特許出願公開明細書第1,560,830号に記載されているような、チアジアゾールのチオおよびポリチオスルフェンアミドがある。ベンゾトリアゾール誘導体もまたこの種の添加剤に含まれる。これらの化合物が潤滑組成物中に含まれるとき、これらは通常、活性成分が0.2重量%を超えない量で存在する。
【0061】
解乳化剤
少量の解乳化成分が使用されてもよい。好適な解乳化成分はEP330,522号に記載されている。解乳化成分は、アルキレンオキシドと、ビス−エポキシドと多水酸基性アルコールとを反応させて得られた付加化合物とを反応させることによって作られる。解乳化成分は、活性成分が0.1質量%を超えないレベルで使用される。活性成分0.001質量%から0.05質量%の処理率が便利である。
【0062】
流動点降下剤
別名潤滑油流動性向上剤としても知られている流動点降下剤は、流体が流動するまたは注がれることのできる最低温度を下げる。このような添加剤はよく知られている。流体の低温流動性を改善するこれらの添加剤の典型的な例として、CからC18のフマル酸ジアルキル/ビニルアセテートコポリマー、ポリアルキルメタクリレート等が挙げられる。
【0063】
消泡剤
泡のコントロールは、例えばポリジメチルシロキサンのシリコンオイルなどのポリシロキサン系の消泡剤を含む、多くの化合物によってなされる。
【0064】
上述の添加剤のいくつかは、複数の効果を提供し、そのため、例えば単一の添加剤が分散剤/酸化防止として働く。このアプローチについてはよく知られているので、これ以上説明の必要はないものとする。
【0065】
個々の添加剤は、任意の便利な方法でベースストック中に組み込まれる。従って、各成分を望みの濃度レベルでベースストックあるいは基油ブレンドに分散あるいは溶解させることにより、ベースストックあるいは基油ブレンドに直接添加することができる。このような混和は室温、または高温で起こる。
【0066】
マグネシウム化合物の添加剤は、潤滑油組成物に直接加えられる。しかしながら、一つ
の実施例においてこれらは、添加剤濃縮物を形成するため、鉱油、合成油、ナフサ、アルキル化(例えばC10からC13のアルキル)ベンゼン、トルエンあるいはキシレンのような、実質的に不活性であり一般的に液体の有機希釈剤によって希釈された。これらの濃縮物は通常約1重量%から約100重量%、また一つの実施例では約10重量%から約90重量のマグネシウム化合物を含んでいる。
【0067】
本明細書に記載の組成物、添加剤、および濃縮物を調合するための使用に適した基油は、合成あるいは天然油、またはそれらの混合物のいずれから選択されてもよい。合成基油には、ジカルボン酸のアルキルエステル、ポリグリコールやアルコール、またポリブテン、アルキルベンゼン、リン酸の有機エステル、およびポリシリコンオイルを含むポリアルファオレフィンなどが含まれる。天然の基油には、原油のもと、例えばそれらがパラフィン系、ナフテン系、あるいはその混合物であるかどうかに関して多岐に渡るミネラル潤滑油がある。基油の粘度は一般に、100℃で約2.5cStから約15cSt、望ましくは約2.5cStから約11cStである。
【0068】
従って、使用される基油は、米国石油協会(API)の基油の互換性に関するガイドラインに指定された、グループIからグループVの任意の基油の中から選択される。このような基油のグループを以下に示す。
【表1】

【0069】
本明細書に記載の組成物の調合に使用された添加剤は、個々に、あるいは様々な組み合わせによって基油中に混和される。しかしながら、添加剤濃縮物(すなわち添加剤と、炭化水素溶媒のような希釈剤)を使用して、すべての成分を同時に混和することが望ましい。添加剤濃縮物の使用により、添加剤濃縮物の形態である場合に成分の組み合わせによって得られる相互の互換性が生かされる。また濃縮物の使用により、混和の時間が短縮され、また混和のエラー発生の可能性が低くなる。
【0070】
本実施例は、添加される炭化水素に可溶なマグネシウム化合物の濃度が比較的低く、元素としてのマグネシウムとして約120ppmから約2000ppmのマグネシウムをオイル中に提供する、内燃エンジン用の潤滑油を提供する。一つの実施例で、マグネシウム化合物は約250ppmから約1500ppmのマグネシウムを供給するのに十分な量で潤滑油組成物中に存在し、またさらなる実施例では約450ppmから約1000ppm
のマグネシウム金属を供給するのに十分な量で潤滑油組成物中に存在する。
【0071】
以下の例は、実施例の態様を例示することを目的とするものであり、実施例をいかようにも制限することを意図したものではない。
【0072】

十二種類の完全に組成された潤滑剤組成物を作り、それらの組成物の磨耗特性を高周波往復運動試験装置(HFRR)を使用して比較した。HFRR試験において、スチールボールをオイルに浸したスチールディスクに、20Hzの速度で1mm経路を通ってぶつかるように振動させた。ボールとディスクの間に7ニュートン(〜1.0GPa)の付加を加え、120℃で1時間、試験を行った。試験の後、HFRRディスク上の磨耗傷の表面とレースを、ウィスコンシン州ミドルトンのPrecision Devices,Inc.(Precision Devices,Inc.,Middleton,Wisconsin)から市販されている、マイクロアナライザー2000(MICRO ANALYZER 2000)を使用して測定した。磨耗傷の横断面積を、付加700グラム、120℃で、アナライザーにより報告した。磨耗傷測定値の標準偏差もまた表に記してある。各潤滑剤組成物には、約9重量パーセントの潤滑剤組成物を提供する、従来型のDIパッケージが含まれていた。DIパッケージには、従来の量の洗浄剤、分散剤、耐磨耗剤、摩擦低減剤、消泡剤、および抗酸化剤が含まれていた。組成物にはまた、少量のZDDPが含まれているものあるいはZDDPは含まれていないもの、またグリセロールモノオレエート摩擦低減剤が0.35含まれているもの、あるいは含まれていないものがあった。サンプル1からサンプル4には、ZDDPが含まれておらず、カルシウムあるいはマグネシウムの洗浄剤のいずれかが含まれていた。サンプル5からサンプル8には、0.05重量パーセントのZDDPと、カルシウムあるいはマグネシウムの洗浄剤のいずれかが含まれていた。サンプル9からサンプル12には、0.025重量パーセントのZDDPとカルシウムあるいはマグネシウムの洗浄剤のいずれかが含まれていた。組成物および試験の結果を以下の表に示す。
【表2】

【0073】
前述の結果に示されるように、マグネシウム含有洗浄剤とZDDPで調合されたサンプル6、8、10、および12は、カルシウム含有洗浄剤とZDDPで調合されたサンプル5。7、9、および11と比べて、磨耗傷が少なかった。0.05重量%のZDDP(サンプル5から8)を含んだ潤滑剤と比較して、磨耗傷が最も少なかったのは0.025重量%のZDDP(サンプル9から12)を含んだ潤滑剤であった。
【0074】
より具体的には、サンプル1とサンプル3は、サンプル2とサンプル4に比べて磨耗傷が少なく、これはカルシウムを含有した洗浄剤がZDDPを含まない状態でマグネシウムを含有した洗浄剤よりも磨耗をよく防止することを表している。サンプル3およびサンプル4の磨耗結果とサンプル1およびサンプル2の結果との比較により、界面活性摩擦低減剤を添加すると、カルシウム洗浄剤とマグネシウム洗浄剤の両方の耐摩耗性が妨げられることが明らかになった。しかしながら摩擦低減剤は、オイルの燃料効率特性の改善のために必要であり、完全に調合されたオイル中に一般的に含まれるものである。
【0075】
驚いたことに、マグネシウム含有洗浄剤がサンプル6およびサンプル8中に存在していたのにもかかわらず、サンプル6およびサンプル8の磨耗傷は、サンプル5およびサンプル7よりもそれぞれに少なかった。サンプル5およびサンプル8と比べ、ZDDPの含有量が少ないサンプル9およびサンプル12の磨耗傷はさらに少なかった。さらに、マグネシウム含有洗浄剤と共に、サンプル12中のグリセロールモノオレエート摩擦低減剤が存在すると、カルシウム洗浄剤で調合されたサンプル11よりも磨耗がよく防止された。
【0076】
約120ppmから約2000ppmのマグネシウム化合物を炭化水素に可溶なマグネシウム化合物の形態で含んでいる組成物は、従来のリンおよび硫黄の耐磨耗剤を低減させることを可能にし、それにより同様の改善された耐摩耗性および利点を実現させながらも、車の公害防止設備の性能改善を可能にすることが期待されている。
【0077】
本明細書の全体を通した多くの箇所で、多数の米国特許が参照されている。このような引用文献はすべて、完全に説明されたものとして本開示に明白に組み込まれている。
【0078】
前述の実施例は、その実行においてかなり変化の余地がある。従って本実施例は、上記に述べられた特定の例証に制限されることを意図したものではない。むしろ前述の実施例は法律的に使用可能なそれらの対応範囲を含む、添付の請求項の精神および範囲内にある。
【0079】
当特許権者は、開示された実施例のいずれをも一般に提供することは意図しておらず、また開示された修正あるいは変更は、それらがすべて完全に請求項の範囲内に収まらない状態になるまで、均等論により当実施例の一部であるとみなされる。
【0080】
本発明の主な特徴及び態様を挙げれば以下のとおりである。
【0081】
1.潤滑粘度の基油と、マグネシウム化合物を欠いた潤滑剤組成物による表面の磨耗の低減よりも表面の磨耗をさらに低減させるのに効果的な量の少なくとも一つの炭化水素に可溶なマグネシウム化合物とを含んだ潤滑剤組成物から成る潤滑面であり、このとき潤滑剤組成物が約0.05重量%以下のリンを含有するような潤滑面。
【0082】
2.潤滑面がエンジンドライブトレインから成るような、上記1に記載の潤滑面。
【0083】
3.潤滑面が内燃エンジンの内側面または成分から成るような、上記1に記載の潤滑面。
【0084】
4.潤滑面が圧縮点火エンジンの内側面または成分から成るような、上記1に記載の潤滑
面。
【0085】
5.マグネシウム化合物がマグネシウムスルホネートから成るような、上記1に記載の潤滑面。
【0086】
6.マグネシウムスルホネートが、全塩基価(TBN)が約300から約500の間である過塩基性スルホネートから成るような、上記2に記載の潤滑面。
【0087】
7.潤滑剤組成物中のリンの含有量が約250ppmから約500ppmであるような、上記1に記載の潤滑面。
【0088】
8.潤滑剤組成物がさらに、グリセロールエステルおよびアミン化合物の中から選択された無金属摩擦低減剤から成るような、上記1に記載の潤滑面。
【0089】
9.上記1に記載の潤滑面から成る自動車。
【0090】
10.潤滑剤組成物中の炭化水素に可溶なマグネシウム化合物の量が、約0.15重量パーセントから約2.0重量パーセントであるような、上記1に記載の潤滑面。
【0091】
11.可動部を有し、その可動部を潤滑するための潤滑剤を含んだ車であり、当該潤滑剤は潤滑粘度のオイルから成り、ある量の耐磨耗剤がマグネシウム化合物を欠いた潤滑剤組成物による可動部の表面の磨耗の低減よりも可動部の表面の磨耗をさらに低減させるのに効果的な量の、少なくとも一つの炭化水素に可溶なマグネシウム化合物を提供し、当該潤滑剤組成物が約500ppm以下のリンを含んでいるような車。
【0092】
12.マグネシウム化合物がマグネシウムスルホネートから成るような、上記11に記載の車。
【0093】
13.マグネシウムスルホネートが、全塩基価(TBN)が約300から約500の間である過塩基性スルホネートから成るような、上記12に記載の車。
【0094】
14.潤滑剤組成物中のリンの含有量が約250ppmから約500ppmであるような、上記11に記載の車。
【0095】
15.潤滑剤組成物がさらに、グリセロールエステルおよびアミン化合物の中から選択された無金属摩擦低減剤から成るような、上記11に記載の車。
【0096】
16.潤滑剤組成物中のマグネシウム化合物の量が約0.15重量パーセントから約2.0重量パーセントであるような、上記11に記載の車。
【0097】
17.可動部がヘビーデューティーディーゼルエンジンから成るような、上記11に記載の車。
【0098】
18.潤滑粘度の基油成分と、マグネシウム化合物を欠いた潤滑剤組成物による表面の磨耗の低減よりも多く表面の磨耗を低減させるのに効果的な量の、少なくとも一つの炭化水素に可溶なマグネシウム化合物を提供する量の耐磨耗剤とから成る、完全に組成された潤滑剤組成物であり、このとき潤滑剤組成物が約500ppm以下のリンを含み、カルシウム洗浄剤と有機モリブデン化合物を欠いているような、完全に組成された潤滑剤組成物。
【0099】
19.潤滑剤組成物が、圧縮点火エンジン用に適した、低灰、低硫黄、および低リン潤滑
剤組成物から成るような、上記18に記載の潤滑剤組成物。
【0100】
20.マグネシウム化合物が、全塩基価(TBN)が約300から約500の間である過塩基性マグネシウムスルホネートから成るような、上記18に記載の潤滑剤組成物。
【0101】
21.潤滑剤組成物中のリンの含有量が約250ppmから約500ppmであるような、上記18に記載の潤滑剤組成物。
【0102】
22.グリセロールエステルおよびアミン化合物の中から選択された無金属摩擦低減剤からさらに成るような、上記18に記載の潤滑剤組成物。
【0103】
23.潤滑剤組成物中のマグネシウム化合物の量が約0.15重量パーセントから約2.0重量パーセントであるような、上記18に記載の潤滑剤組成物。
【0104】
24.潤滑剤組成物に改善された耐磨耗性をもたらす潤滑剤濃縮物であり、この濃縮物が実質的にカルシウムを欠き、ヒドロカルビル担体流体と、濃縮物を含む潤滑剤組成物に約120ppmから約2000ppmのマグネシウムをもたらすのに十分な量の、少なくとも一つの炭化水素に可溶なマグネシウム化合物とから成るような、潤滑剤濃縮物。
【0105】
25.マグネシウム化合物が、全塩基価(TBN)が約300から約500の間である過塩基性マグネシウムスルホネートから成るような、上記24に記載の添加剤濃縮物。
【0106】
26.基油と上記24に記載の添加剤濃縮物とから成る潤滑剤組成物。
【0107】
27.可動部を潤滑油で潤滑する方法であり、耐摩耗性の増加を示し、またこの方法は一つ以上の可動部用の潤滑油として、基油と実質的にカルシウムを欠いている耐磨耗剤とを含んだ潤滑剤組成物を使用することから成り、耐磨耗剤が、ヒドロカルビル担体流体と、潤滑油に約120ppmから約2000ppmのマグネシウムをもたらすのに十分な量の炭化水素に可溶なマグネシウム化合物とから成るような方法。
【0108】
28.可動部がエンジンの可動部から成るような、上記27に記載の方法。
【0109】
29.エンジンが、圧縮点火エンジンおよび火花添加エンジンから成るグループの中から選択されている、上記28に記載の方法。
【0110】
30.エンジンがクランクケースを有する内燃エンジンを含み、また潤滑油がエンジンのクランクケース内に存在するクランクケースオイルから成るような、上記28に記載の方法。
【0111】
31.潤滑油が、エンジンを含んだ車のドライブトレイン内に存在するドライブトレインの潤滑剤から成るような、上記27に記載の方法。
【0112】
32.潤滑油がさらに、グリセロールエステルおよびアミン化合物の中から選択された無金属摩擦低減剤から成るような、上記27に記載の方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑粘度の基油と、マグネシウム化合物を欠いた潤滑剤組成物による表面の磨耗の低減よりも表面の磨耗をさらに低減させるのに効果的な量の少なくとも一つの炭化水素に可溶なマグネシウム化合物とを含んだ潤滑剤組成物から成る潤滑面であり、このとき潤滑剤組成物が約0.05重量%以下のリンを含有するような潤滑面。
【請求項2】
マグネシウム化合物がマグネシウムスルホネートから成るような、請求項1に記載の潤滑面。
【請求項3】
マグネシウムスルホネートが、全塩基価(TBN)が約300から約500の間である過塩基性スルホネートから成るような、請求項1に記載の潤滑面。
【請求項4】
潤滑剤組成物中のリンの含有量が約250ppmから約500ppmであるような、請求項1に記載の潤滑面。
【請求項5】
可動部を有し、その可動部を潤滑するための潤滑剤を含んだ車であり、当該潤滑剤は潤滑粘度のオイルから成り、ある量の耐磨耗剤がマグネシウム化合物を欠いた潤滑剤組成物による可動部の表面の磨耗の低減よりも可動部の表面の磨耗をさらに低減させるのに効果的な量の、少なくとも一つの炭化水素に可溶なマグネシウム化合物を提供し、当該潤滑剤組成物が約500ppm以下のリンを含んでいるような車。
【請求項6】
潤滑剤組成物がさらに、グリセロールエステルおよびアミン化合物の中から選択された無金属摩擦低減剤から成るような、請求項5に記載の車。
【請求項7】
潤滑剤組成物中のマグネシウム化合物の量が約0.15重量パーセントから約2.0重量パーセントであるような、請求項5に記載の車。
【請求項8】
潤滑粘度の基油成分と、マグネシウム化合物を欠いた潤滑剤組成物による表面の磨耗の低減よりも多く表面の磨耗を低減させるのに効果的な量の、少なくとも一つの炭化水素に可溶なマグネシウム化合物を提供する量の耐磨耗剤とから成る、完全に組成された潤滑剤組成物であり、このとき潤滑剤組成物が約500ppm以下のリンを含み、カルシウム洗浄剤と有機モリブデン化合物を欠いているような、完全に組成された潤滑剤組成物。
【請求項9】
潤滑剤組成物に改善された耐磨耗性をもたらす潤滑剤濃縮物であり、この濃縮物が実質的にカルシウムを欠き、ヒドロカルビル担体流体と、濃縮物を含む潤滑剤組成物に約120ppmから約2000ppmのマグネシウムをもたらすのに十分な量の、少なくとも一つの炭化水素に可溶なマグネシウム化合物とから成るような、潤滑剤濃縮物。
【請求項10】
可動部を潤滑油で潤滑する方法であり、耐摩耗性の増加を示し、またこの方法は一つ以上の可動部用の潤滑油として、基油と実質的にカルシウムを欠いている耐磨耗剤とを含んだ潤滑剤組成物を使用することから成り、耐磨耗剤が、ヒドロカルビル担体流体と、潤滑油に約120ppmから約2000ppmのマグネシウムをもたらすのに十分な量の炭化水素に可溶なマグネシウム化合物とから成るような方法。

【公開番号】特開2008−144142(P2008−144142A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−284824(P2007−284824)
【出願日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【出願人】(391007091)アフトン・ケミカル・コーポレーション (123)
【氏名又は名称原語表記】Afton Chemical Corporation
【Fターム(参考)】