説明

耐摩耗性被覆剤組成物、およびそれを被覆された基板

【課題】平滑な基板に対して、フルオロポリマーの存在に由来する非粘着性および低摩擦特性を維持しながら、基板に対する良好な付着性を有する耐摩耗性および耐久性を有するフルオロポリマーを含有する被膜で被覆された基板の提供。
【解決手段】摩耗力に抵抗する非粘着性被膜により被覆された基板であって、その被膜は、それぞれフルオロポリマー樹脂を含有するアンダーコートとオーバーコートとを含み、そのアンダーコートは、そのアンダーコートから出っ張るセラミック粒子をも含有し、そのオーバーコートは、そのアンダーコートから出っ張るその粒子をそのオーバーコートの厚さを介して伝達して、前記被膜から前記摩耗力をそらすことを特徴とする被覆された基板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオロポリマー被覆剤組成物、および改良された耐摩耗性を有するこれらの組成物を用いて被覆された基板に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願は、特願平11−218124号の分割出願であり、特に耐摩耗性被覆材組成物および該耐摩耗性被覆材組成物を被覆された基板に関する。
【0003】
フルオロポリマー樹脂、特にパーフルオロポリマー樹脂は、耐熱性および耐薬品性に加えて、それらの低い表面エネルギーおよび非粘着特性が知られている。より長期間にわたり耐摩滅性であり非粘着性である、金属基板上のポリマー被膜を実現することが、長らく所望されてきた。より長い有効寿命を有する被覆された基板を実現するための格別な関心事は、その耐引掻性に加えて、被覆された基板の摩耗に耐える能力である。「掻き傷(引掻)」とは、ナイフまたは他の金属製工具による切り口のような被膜の塑性変形に関連する。摩耗とは、被膜がフィブリル化し、およびその表面から脱離するあるいは切断されるところの摩擦または研磨により発生するような、摩滅される被膜の量を指す。被覆された基板を傷つける際に、引掻に引き続いて摩耗が起こってもよく、その場合においては、被膜の塑性変形をもたらすナイフは、引き続いて摩滅されるフィブリルの形成をもたらす可能性がある。
【0004】
非粘着性被膜の耐久性の問題は、しばしば金属基板に対する被膜の接着の問題として調べられてきた。もしその被膜が、調理の後に食品がその被膜に粘着するのを防止するように、あるいはその他の用途において低摩擦の滑り接触を容易にするように剥離性に関して最適化されるならば、ほぼその定義により、基板に対して非粘着性被膜を良好に接着させるための困難が存在するであろう。
【0005】
当該技術において一般的に、接着を促進することにおいて機械的結合がプライマー層中の結合剤の化学的相互作用を補助するような、非粘着性被膜の付着に先立つ金属基板の粗面化により接着が達成されてきている。典型的な粗面化は、酸エッチング、サンダー仕上げ、グリットブラスト仕上げ、ブラッシング、およびその基板上へのガラス、セラミック、またはエナメルフリットの焼き付けを含む。接着およびしたがって耐久性を向上させる別の手段は、米国特許第5,411,771号(Tsai)および米国特許第5,462,769号(Tsai)に開示されるような、粗面化した金属基板上への金属材料から成る機械抵抗性層のアーク噴霧を含む。接着を改良するための基板の粗面化および機械抵抗性の金属層の付着は、被覆操作に対して追加の費用を加え、および化学的エッチングの場合には、エッチング剤材料の廃棄の追加の費用がある。
【0006】
耐引掻性被膜を実現することに関する以前の努力は、パーフルオロカーボンポリマーに加えて、より硬い補助の耐熱性樹脂を使用することを含んだ。ある場合には、米国特許第4,180,609号(Vassiliou)および米国特許第4,123,401号(Berghmans他)に開示されるように、雲母およびアルミニウムフレークのような充填剤が、耐引掻性を改良する試みに用いられてきた。無機充填剤および耐熱性ポリマーの充填剤に帰すことができる改良された耐引掻性は、米国特許第5,106,682号(Matsushita)に開示されている。米国特許第5,106,682号(Batzer)において、小さい粒度の酸化アルミニウムを用いて補強された高い塗り厚のプライマー、酸化アルミニウムで補強された中間被膜、および慣用のトップコートを用いる多層系が開示され、それは剥離性を提供し、かつ依然として減少された掻き傷(引掻)を示す。上記の引例は、アルミニウム基板のグリットブラスト仕上げまたはフリット被覆に全て依存して、適切な粘着を達成している。
【0007】
上記の先行技術の解決法の全ては、接着を増大することまたは掻き傷(引掻)を減少することによって、より長寿命の被膜を実現することを試みているが、摩滅の機構、および被膜表面から摩耗力(abrasion force)を如何にそらせるかを検討していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第4,180,609号明細書
【特許文献2】米国特許第4,123,401号明細書
【特許文献3】米国特許第5,106,682号明細書
【特許文献4】米国特許第4,014,834号明細書
【特許文献5】米国特許第5,079,073号明細書
【特許文献6】米国特許第5,160,791号明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Handbook of Chamistry, 77th Edition, pp.12-186,187
【非特許文献2】CRC Materials Science and Engineering Handbook, CRC Press, Boca Raton, FL, 1991
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
平滑な基板に対して、その被膜表面から摩耗力をそらすことにより耐摩耗性および耐久性を付与する、フルオロポリマーを含有する被膜を形成することが課題である。さらに、その被膜に対して、フルオロポリマーの存在に由来する非粘着性および低摩擦特性を維持しながら、基板に対する良好な付着性を付与することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、優れた耐摩耗性を有する耐久性のある非粘着性の被膜に対する必要性を検討する。具体的には、本発明は、摩耗力に抵抗する非粘着性被膜を被覆された基板を提供する。その被膜は、被膜の厚さを介して出っ張ってその被膜から摩耗力をそらすセラミック粒子を含有するフルオロポリマー樹脂を含み、そこで前記セラミック粒子の最長径に対する前記被膜の厚さの比は、0.8〜2.0の範囲内である。
【0012】
さらに、本発明は、摩耗力に抵抗する非粘着性被膜を被覆された基板を提供する。その被膜は、それぞれフルオロポリマー樹脂を含有するアンダーコートおよびオーバーコートを含み、前記アンダーコートは、そのアンダーコートから出っ張るセラミック粒子をも含有し、前記オーバーコートは、前記アンダーコートから出っ張るセラミック粒子をそのオーバーコートの厚さを介して伝達し(telegraphing)、その被膜から摩耗力をそらす。好ましくは、前記セラミック粒子の最長径に対する前記アンダーコートと前記オーバーコートとの総合厚さの比は、0.8〜2.0の範囲内である。
【0013】
本発明は、平滑な表面に対して付着性である被膜を形成し、および耐摩耗性を示すことができる組成物をさらに含む。その組成物は、フルオロポリマー、ポリマー結合剤、および無機充填剤フィルム硬化剤を含み、そこで前記フィルム硬化剤の少なくとも30重量%は、少なくとも14マイクロメートルの平均粒度を有する大きなセラミック粒子で構成され、前記セラミック粒子の量は、前記組成物から形成された被膜の横断面の長さ1cmあたり少なくとも3個の前記粒子を提供するのに十分である。
【0014】
別の実施の形態において、本発明は、平滑な表面に対して付着性である被膜を形成し、および耐摩耗性を示すことができるプライマー組成物をさらに含む。その組成物は、フルオロポリマー、ポリマー結合剤、および無機充填剤フィルム硬化剤を含み、ポリマー結合剤に対するフルオロポリマーの重量比は0.5〜2.0:1であり、およびフルオロポリマーに対する充填剤フィルム硬化剤の重量比は少なくとも1.4:1である。好ましくは、その充填剤フィルム硬化剤は、少なくとも20マイクロメートルの平均粒度を有する大きなセラミック粒子を含む。より好ましくは、大きなセラミック粒子の量は、前記プライマー組成物から形成された被膜の横断面の長さ1cmあたり少なくとも3個の前記粒子を提供するのに十分である。
【発明の効果】
【0015】
本発明を用いることにより、耐摩耗性および耐久性を有する非粘着性被膜を用いて被覆された基板を提供することができる。さらに、本発明の被膜は、基板に対する良好な付着性を有し、基板の機械的粗面化を用いることなく基板に付着することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】セラミック粒子を含有するフルオロポリマーの非粘着性組成物で被覆された基板の横断面の概略図である。
【図2】アンダーコート内のSiC粒子と被膜表面内の偏向点とを示す、被覆された基板の横断面の1000倍拡大における走査電子顕微鏡写真である。
【図3】耐摩耗性に対する一定の荷重におけるSiC粒度の関係を示すグラフである。
【図4】耐摩耗性に対するSiCの大きな粒子の濃度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、セラミック粒子を含有するフルオロポリマーの非粘着性組成物で被覆された基板の横断面の概略図である。
【0018】
図2は、アンダーコート内のSiC粒子と被膜表面内の偏向点とを示す、被覆された基板の横断面の1000倍拡大における走査電子顕微鏡写真である。
【0019】
図3は、耐摩耗性に対する一定の荷重におけるSiC粒度の関係を示すグラフである。
【0020】
図4は、耐摩耗性に対するSiCの大きな粒子の濃度の関係を示すグラフである。
【0021】
本発明は、フルオロポリマー樹脂被覆剤組成物中に、大きなセラミック粒子を含む無機充填剤フィルム硬化剤を組み込むことにより、優れた耐摩耗性を示す非粘着性被覆剤組成物を実現する。大きなセラミック粒子は被覆剤組成物中に含有され、そして基板に対して付着されたときに、被膜の厚さを介して出っ張って、その粒子を伝達して、その被膜から摩耗力をそらす(すなわち偏向する)。そのような偏向は、被膜の除去をもたらす可能性のある、被膜を細断する摩耗力の存在を減少させる。本発明は、大きく硬い粒子を使用して摩耗力をそらすことと、同時にフルオロポリマーにより提供される被膜の十分な非粘着特性を依然として保持することとの間の適切なバランスの認識である。「大きい」とは、被膜の総乾燥フィルム厚さ(dft)に対してそれを比較するときにその粒子が大きいことを意味する。セラミック粒子の最長径(b)に対する総乾燥フィルム厚さ(a)の比は、0.8〜2.0の範囲内である。
【0022】
図1は、基板10、非粘着性被膜12および充填剤粒子13、14,15、16および17の横断面の概略図である。その図は粒子サイズの定義を説明する。「a」で示される矢印は、その粒子が配置される区域における被膜の総乾燥フィルム厚さの測定値である。「b」で示される矢印は、粒子の最長径の測定値である。図1に示されるような特定の被膜厚さに関して粒子を調べることにおいて、粒子13、14および16は本発明の定義された範囲内の比を有し、および被膜の厚さを介して「伝達して(telegraph)」、偏向点18、19、20を被膜表面において作成する。本発明の定義された範囲内にある粒子は、摩耗力に耐えることができる被膜表面における偏向点を助長する。粒子15は、耐摩耗性を補助するには「小さすぎて」、およびしたがって被膜表面に対して偏向点を伝達しない。粒子17は「大きすぎて」、および実際に被膜表面を突破して、フルオロポリマーに所望される非粘着性および低摩擦性を減少する。
【0023】
45マイクロメートルの平均dftに対するa/b比
粒子13(b=35マイクロメートル):a/b=1.3 −請求の範囲内
粒子14(b=56マイクロメートル):a/b=0.8 −最大の大きさ
粒子15(b=16マイクロメートル):a/b=2.8 −小さすぎる
粒子16(b=23マイクロメートル):a/b=2.0 −最小の大きさ
粒子17(b=64マイクロメートル):a/b=0.7 −大きすぎる
【0024】
被膜中の偏向点は、被膜表面の直下の大きな粒子の存在によってもたらされ、耐摩耗性を増進する。理論的には、セラミック粒子の理想的な形状は、a/b比が1.1である球形である。これは、基板上に位置した粒子が、基板から被膜厚さの約90%までに達し(すなわち出っ張り)、被膜の表面の約10%下に依然としてあることを意味する。しかし、本発明に用いられるセラミック粒子は一般的に球形ではなく、長径および短径を有する。その粒子は、本質的には非粘着性被膜に包み込まれ、および被膜の表面を貫通して突き出ないことが好ましい。本発明によれば、耐摩耗性被膜に関して、0.8〜2.0の範囲内にある粒子の好ましい数は、被覆された基板の横断面の1cmの長さ当り少なくとも3個である。
【0025】
セラミック粒子が、2.5以下の、および好ましくは1.5以下のアスペクト比を有することもまた好ましい。アスペクト比とは、粒子の最長径(長軸)に対して垂直に測定される寸法「s」に対する、最大距離に対する最長径「b」の比を意味する(図1)。アスペクト比は、好ましい粒子の形状および配向を定量化する手段である。高いアスペクト比を有する粒子は、本発明の好ましい粒子と異なり、平坦すなわち細長い。本発明の好ましい粒子は、好ましくはより球状であり、および理想的なアスペクト比1により接近する。もし基板上の被膜中の粒子が小さくおよび高いアスペクト比を有するならば、それらは基板に対して平行に配向して、そして被覆された基板に印加される摩耗力をそらすことはできないであろう。もし粒子が大きくおよび高いアスペクト比を有するならば、それらは基板に対して垂直に配向して、および被膜を貫通して突き出るおそれがある。摩耗力は、そのような粒子の頂部を押して被膜をゆがめるおそれがあり、およびその被膜から粒子を引き抜き、穴を残し、そして被膜をより迅速に摩耗させるおそれさえもある。
【0026】
(b/s比)
図1を参照するときに、本発明の請求される範囲内の粒子のアスペクト比b/sは
粒子13 b/s=2.3
粒子14 b/s=2.3
粒子16 b/s=1.3
である。
【0027】
しかし、粒子17は、図1に示す被膜系に対しては「大きすぎる」とみなされ、および2.6のb/s比を有する。粒子15は、図1に示す被膜系に対しては「小さすぎる」とみなされ、およびしたがってそのアスペクト比は重要なものではない。
【0028】
それぞれがフルオロポリマー樹脂を含有するアンダーコートおよびオーバーコートに被覆された基板を含む多層被覆系において、セラミック粒子は、好ましくは、アンダーコートに含有され、およびアンダーコートからオーバーコートの厚さを介して出っ張って、その粒子を伝達して、摩耗力をその被膜からそらすようにする。「アンダーコート」とは、本発明に規定された粒子を含有する表面被覆の下のいずれの被膜をも意味し、それらはプライマー被膜あるいは1つまたは複数の中間被膜であってもよい。「オーバーコート」とは、1つまたは複数の追加の中間被膜あるいはトップコートを意味し、それらはアンダーコートから出っ張る粒子をその被膜の厚さを介して伝達する。セラミック粒子の最長径に対するアンダーコートとオーバーコートとの総合厚さの比は、0.8〜2.0の範囲内である。アンダーコートから出っ張り、およびその粒子をオーバーコートの厚さを介して伝達させてその被膜から摩耗力をそらすアンダーコート中のセラミック粒子の数は、長さ1cm当り少なくとも3個、好ましくは長さ1cm当り少なくとも10個、より好ましくは長さ1cm当り少なくとも15個、および最も好ましくは長さ1cm当り少なくとも25個である。アンダーコートの概略の平面より上に出っ張るいずれのセラミック粒子も、依然として、アンダーコート材料により実質的に包み込まれて、すなわち被覆されている。
【0029】
非粘着性被膜で被覆された基板を含む単層被覆系において、その被膜は、セラミック粒子を含むフルオロポリマー樹脂を含有して、その被膜から前記摩耗力をそらす。そこでは、前記セラミック粒子の最長径に対する被膜の厚さの比は0.8〜2.0の範囲内である。被膜から摩耗力をそらすための被膜中の粒子の数は、長さ1cm当り少なくとも3個、好ましくは長さ1cm当り少なくとも10個、より好ましくは長さ1cm当り少なくとも15個、および最も好ましくは長さ1cm当り少なくとも25個である。
【0030】
(フルオロポリマー樹脂)
本発明の非粘着性被覆剤組成物のフルオロポリマー成分は、好ましくは、380℃において1×108Pa・sの溶融粘度を有するポリテトラフルオロエチレン(PTFE)である。なぜなら、組成物を配合することにおける簡単さおよびPTFEがフルオロポリマー類の中で最高の熱安定性を有している事実のためである。そのようなPTFEはベーキング中の皮膜形成能力を改良するための少量のコモノマー改質剤を含有してもよく、そのコモノマー改質剤は、パーフルオロオレフィン類(特にヘキサフルオロプロピレン(HFP))、またはパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)類(特にアルキル基が1から5炭素原子を含有する)であり、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)が好ましい。そのような改質剤の量は、PTFEに対して溶融加工性を与えるのには不十分であり、一般的に0.5モル%以下である。同様に簡単さのために、PTFEは単一の溶融粘度(通常、少なくとも1×109Pa・s)を有することができるが、異なる溶融粘度を有するPTFE類の混合物を用いてフルオロポリマー成分を形成することができる。組成物中の単一のフルオロポリマーの使用は、フルオロポリマーが単一の化学的本質および溶融粘度を有することを意味し、それは好ましい条件である。
【0031】
PTFEが好ましいとはいえ、フルオロポリマー成分は、PTFEと組み合わせる(ブレンドする)こと、あるいはPTFEを代替することのいずれかにより、溶融加工可能なフルオロポリマーとすることもできる。そのような溶融加工可能なフルオロポリマーは、TFEと少なくとも1つのフッ素化された共重合可能なモノマー(コモノマー)との共重合体を含み、それは、共重合体の融点を、TFEホモポリマー(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE))よりもかなり低く、たとえば315℃以下の融解温度まで減少させるのに十分な量でポリマー中に存在する。TFEに対して好ましいコモノマーは、3〜6炭素原子を有するパーフルオロオレフィン類、およびアルキル基が1〜5炭素原子(特に1〜3炭素原子)を含有するパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)類のようなパーフルオロ化されたモノマーを含む。特に好ましいコモノマーは、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)(PEVE)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)、およびパーフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)を含む。好ましいTFE共重合体は、FEP(TFE/HFP共重合体)、PFA(TFE/PAVE共重合体)、PAVEがPEVEおよび/またはPPVEであるTFE/HFP/PAVE、およびPAVEのアルキル基が少なくとも2つの炭素原子を有するMFA(TFE/PMVE/PAVE共重合体)を含む。皮膜を形成するのに十分であり、およびプライマー塗布において結着性を有するように成形された形状を持続することができるという点を除いて、溶融加工可能なテトラフルオロエチレン共重合体類の分子量は重要ではない。典型的には、ASTM D−1238にしたがって372℃において測定されるときに、溶融粘度は、少なくとも1×102Pa・sであり、および約60〜100×103Pa・sまで変動してもよい。
【0032】
フルオロポリマー成分は、一般的に、水中のポリマー分散液として商業的に入手可能であり、それは付着の容易さおよび環境的容認可能性ゆえに、本発明の組成物のために好ましい形態である。「分散液」とは、その分散液が使用される時間の範囲内で粒子の沈降が発生しないように、フルオロポリマー粒子が水性媒質中に安定に分散されているものを意味する。これは、典型的には0.2マイクロメートルのオーダーであるフルオロポリマー粒子の小さい寸法、および分散剤製造業者による水性分散液中の界面活性剤の使用により達成される。そのような分散液は、分散重合として知られている方法により、直接的に得ることができ、必要に応じて濃縮および/または界面活性剤のさらなる添加が引き続いて行われる。いくつかの場合においては、特にN−メチルピロリドン、ブチロラクトン、高沸点芳香族溶媒、アルコール、およびそれらの混合物のような有機液体を、水性分散液中に含むことが望ましい。
【0033】
あるいはまた、フルオロポリマー成分は、PTFE微粉末のようなフルオロポリマー粉末であってもよい。そのような場合においては、フルオロポリマーとポリマー結合剤との均質混合物を達成するために、典型的には有機液体が用いられる。有機液体は、結合剤がその特定の液体に溶解するという理由で選択してもよい。もしその液体中に結合剤が溶解しないならば、結合剤は、微細に分割されて、そしてフルオロポリマーとともにその液体中に分散される。得られる被覆剤溶液は、有機液体中に分散されたフルオロポリマーと、所望される均質混合物を達成するためにその液体中に分散されるかまたは溶解されるかのいずれかであるポリマー結合剤とを含むことができる。有機液体の特徴は、ポリマー結合剤の本質およびそれらの溶液または分散液のどちらが所望されるかに依存する。そのような液体の例は、特に、N−メチルピロリドン、ブチロラクトン、高沸点芳香族溶媒、アルコール、およびそれらの混合物を含む。有機液体の量は、特定の被覆作業に対して所望される流動性に依存する。
【0034】
(ポリマー結合剤)
本発明のフルオロポリマー組成物は、好ましくは耐熱性ポリマー結合剤を含有する。結合剤成分は、融解のために加熱するときに皮膜を形成し、および熱的に安定であるポリマーから構成される。この成分は、非粘着仕上げのための、基板に対してフルオロポリマーを含有するプライマー層を接着するための、およびプライマー層の内部またはその一部として皮膜を形成するための、プライマー付着においてよく知られている。フルオロポリマーそれ自身は、平滑な基板に対して、ほとんどもしくは全く接着性を持たない。結合剤は、一般的にフッ素を含有しないが、それでもなおフルオロポリマーに接着する。好ましい結合剤は、水または結合剤のための有機溶媒と水との混合物中に、可溶性であるかあるいは可溶化されるものである。この溶解性は、水性分散液形態中のフルオロポリマー成分とその結合剤をブレンドすることを補助する。
【0035】
結合剤成分の例は、その組成物のベーキング時にポリアミドイミド(PAI)に変換されてプライマー層を形成するポリアミド酸塩である。この結合剤は、ポリアミド酸塩のベーキングにより完全にイミド化された形態で得られるという理由で好ましく、この結合剤は、250℃を上回る連続使用温度を有する。ポリアミド酸塩は、一般的に、30℃においてN,N−ジメチルアセトアミド中の0.5重量%溶液で測定される際に、少なくとも0.1の内部粘度を有するポリアミド酸として入手可能である。米国特許第4,014,834号(Concannon)により詳細に記載されるように、そのポリアミド酸を、N−メチルピロリドンのような融合助剤およびフルフリルアルコールのような粘度降下剤中に溶解して、そして好ましくはトリエチルアミンである第3級アミンと反応させて、水に可溶である塩を形成する。ポリアミド酸塩を含有する得られる反応媒体は、次にフルオロポリマー水性分散液とブレンドすることができ、および融合助剤および粘度降下剤は水と混和性であるので、そのブレンディングは均一の被覆剤組成物を作成する。フルオロポリマー水性分散液の凝固を回避するように、そのブレンディングを、過剰の攪拌を用いずに、それらの液体を単に混合することにより達成することができる。用いることができる別の結合剤は、ポリエーテルスルホン(PES)およびポリフェニレンスルフィド(PPS)を含む。
【0036】
その液体が水および/または有機溶媒である液体媒体としてプライマー組成物が付着されてもそうでなくても、次に付着されるフルオロポリマーの層のベーキングと一緒のプライマー層の乾燥およびベーキング時に、前記の接着特性を発現して、基板の非粘着性皮膜を形成する。
【0037】
簡単のために、1つの結合剤のみを用いて、本発明の組成物の結合剤成分を形成してもよい。しかし、特に柔軟性、硬度または防蝕のような最終用途特性が所望されるときには、本発明に関して、複合の結合剤も同様に考慮される。一般的な組み合わせは、PAI/PES、PAI/PPS、およびPES/PPSを含む。
【0038】
特に、もし組成物が平滑な基板上のプライマー層として用いられるならば、フルオロポリマーと結合剤の比は、好ましくは0.5〜2.0:1の重量比の内にある。本明細書で開示される結合剤に対するフルオロポリマーの重量比は、その基板に対する付着の後のその組成物のベーキングにより形成される付着された層におけるこれらの成分の重量を基準とする。ベーキングは、ベーキング中にイミド結合が形成されるときのポリアミド酸塩の塩部分を含めて、被覆剤組成物中に存在する揮発性材料を追い出す。便宜的に、結合剤がベーキング工程によりポリアミドイミドに変換されるポリアミド酸塩であるときには、その結合剤の重量は、出発組成物のポリアミド酸の重量とみなすことができる。それによって、結合剤に対するフルオロポリマーの重量比を、出発組成物中のフルオロポリマーおよび結合剤の量により決定することができる。本発明の組成物が好ましい水性分散液の形態にあるときには、これらの成分は、分散液全体の約5〜50重量%を構成する。
【0039】
(無機フィルム硬化剤)
無機充填剤フィルム硬化剤成分は、1つまたは複数の充填剤タイプの材料であり、それは組成物のその他の成分に対して不活性であり、およびフルオロポリマーと結合剤とが融合するその最終ベーキング温度において熱的に安定である。そのフィルム硬化剤は水に不溶性であるので、それは典型的には均一に分散可能であるが、本発明の組成物の水性分散液の形態中には溶解しない。典型的には、本発明の充填剤フィルム硬化剤は、好ましくは少なくとも14マイクロメートルの、好ましくは少なくとも20マイクロメートルの、およびより好ましくは少なくとも25マイクロメートルの平均粒度を有する大きなセラミック粒子を含む。
【0040】
さらに、無機フィルム硬化剤のセラミック粒子は、好ましくは少なくとも1200の、およびより好ましくは少なくとも1500のヌープ硬度を有する。ヌープ硬度は、刻み目を付けることまたは引掻くことに対する材料の抵抗性を表現する尺度である。鉱物およびセラミックの硬度の値は、Handbook of Chamistry, 77th Edition, pp.12-186,187に記載されており、それはShackelfordおよびAlexanderのCRC Materials Science and Engineering Handbook, CRC Press, Boca Raton, FL, 1991からの標準物質を基準としている。被覆された表面に印加される摩耗力をそらすことおよびフルオロポリマーのオーバーコートに侵入した鋭利な物体の侵入に抵抗することにより、フィルム硬化剤成分は、基板上の被膜として付着される非粘着性フルオロポリマー組成物に対して耐久性を付与する。
【0041】
無機フィルム硬化剤のセラミック粒子は、好ましくは2.5以下、およびより好ましくは1.5以下の(前に規定したような)アスペクト比を有する。その粒子を含有する被膜に印加される摩耗力をそらすことができる本発明の好ましい粒子は、2.5以下のアスペクト比を有し、ならびに、本発明の好ましい粒子は、粒子の最長径が被膜厚さの少なくとも50%であり、および被覆フィルム厚さを25%以上越えない寸法を有する。
【0042】
好ましくは、被覆剤組成物は、大きなセラミック粒子を含有する少なくとも30重量%の充填剤フィルム硬化剤を含み、そのセラミック粒子は、少なくとも14マイクロメートルの、好ましくは20マイクロメートルの、およびより好ましくは25マイクロメートルの平均粒度を有する。好ましくは、その大きな粒子の量は、その組成物から形成される皮膜の横断面の長さ1cm当り少なくとも3個の前記粒子を与えるのに十分なものである。
【0043】
前記のように、平均粒度の測定値は、本発明の粒度の特徴的なものである。しかし適当なセラミック粒子の粒度は、被膜の全乾燥フィルムの厚さに対する粒度の比の関数である。セラミック粒子の最長径(b)に対する全乾燥フィルムの厚さ(a)の比は、0.8〜2.0の範囲内である。したがって、単一被覆系または少ない被膜の塗り厚を有する系のために本発明において必要とされる平均粒度は、多重被覆系またはより多い被膜の塗り厚を有する系のために必要とされるそのような粒子よりも小さい。被覆剤組成物に含有され、および基板上に付着されたセラミック粒子は、被膜の厚さを介して出っ張ってその粒子を伝達(telegraph)するので、摩耗力をその被膜からそらす。
【0044】
無機充填剤フィルム硬化剤の例は、少なくとも1200のヌープ硬度を有する無機酸化物、炭化物、ホウ化物および窒化物を含む。好ましいものは、ジルコニウム、タンタル、チタン、タングステン、ホウ素、アルミニウムおよびベリリウムの無機酸化物、窒化物、ホウ化物および炭化物である。特に好ましいものは、炭化ケイ素および酸化アルミニウムである。好ましい無機組成物に対する典型的なヌープ硬度値は、ジルコニア(1200)、窒化アルミニウム(1225)、ベリリア(1300)、窒化ジルコニウム(1510)、ホウ化ジルコニウム(1560)、窒化チタン(1770)、炭化タンタル(1800)、炭化タングステン(1880)、アルミナ(2025)、炭化ジルコニウム(2150)、炭化チタン(2470)、炭化ケイ素(2500)、ホウ化アルミニウム(2500)、ホウ化チタン(2850)である。
【0045】
(他の充填剤)
無機充填剤フィルム硬化剤の大きな粒子に加えて、本発明の非粘着性被覆剤組成物は、無機充填剤フィルム硬化剤のより小さい粒子も、1200未満のヌープ硬度を有する他の充填剤も含有してもよい。好ましくは、フルオロポリマー樹脂に対する充填剤フィルム硬化剤の重量比は少なくとも1.4:1である。より好ましくは、充填剤フィルム硬化剤の少なくとも30重量%は、少なくとも14マイクロメートルの、好ましくは20マイクロメートルの、およびより好ましくは25マイクロメートルの平均粒度を有する大きな粒子であり、およびその大きな粒子の量は、その組成物から形成される皮膜の横断面の長さ1cm当り少なくとも3個の前記粒子を与えるのに十分なものである。
【0046】
適当な追加の充填剤は、ガラスフレーク、ガラスビーズ、ガラス繊維、アルミニウムまたはジルコニウムのケイ酸塩、雲母、金属フレーク、金属繊維、微細セラミック粉末、二酸化ケイ素、硫酸バリウム、タルク等に加えて、酸化アルミニウム、焼成酸化アルミニウム、炭化ケイ素等の小さい粒子も含む。
【0047】
(被膜の付着)
本発明の組成物を、慣用の手段により基板に対して付着することができる。付着される基板に依存して、吹付およびローラー塗が、最も便利な付着方法である。浸漬およびコイル被覆を含む別のよく知られている被覆方法も適当である。非粘着性被覆剤組成物は、単一被膜系またはアンダーコートおよびオーバーコートを含む多重被膜系であってもよい。フルオロポリマーを含有する1つまたは複数の層のオーバーコートを、アンダーコートの乾燥前に、アンダーコートに対して慣用の方法により付着することができる。アンダーコート層およびオーバーコート層の組成物が水性分散液であるときには、好ましくは指触乾燥状態になった後のアンダーコート層に対して、オーバーコート組成物を付着することができる。アンダーコート層が有機溶媒による組成物を付着することにより作成され、および次の層(中間被膜またはトップコート)が水性媒体から付着されるときには、アンダーコート層を乾燥して、そのような次の層の付着の前に水と非相溶性の溶媒の全てを除去するようにしなければならない。
【0048】
得られる複合構造物をベークして、同時に全ての被膜を融合して、基板上の非粘着性被膜を形成することができる。フルオロポリマーがPTFEであるときには、素早く高いベーク温度が好ましく、たとえば、華氏800度(427℃)から開始し、そして華氏825度(440℃)まで上昇する温度において5分間にわたるようなものである。プライマーまたはオーバーコート中のフルオロポリマーがPTFEとFEPとのブレンドであるときには、ベーク温度は、(合計ベーク時間)3分の間に華氏800度(427℃)に上昇する華氏780度(415℃)に低下させてもよい。ベークされたアンダーコート層の厚さは、渦電流原理(ASTM B244)または磁気誘導原理(ASTM B499)に基づく膜厚測定装置を用いて測定され、および一般的に5〜20マイクロメートルの間である。オーバーコート層の厚さは、一般的に(中間被覆層およびトップコート層の両方について)10〜25マイクロメートルである。
【0049】
得られる複合構造物において、基板は、金属またはセラミックのような、ベーク温度に耐えることができるいずれの材料であってもよく、その例はアルミニウム、陽極処理アルミニウム、冷間圧延鋼、ステンレス鋼、エナメル、ガラスまたはパイロセラムを含む。基板は平滑であることができ、すなわちAlpa Co.(Milan, Itary)により製造されるモデルRT 60表面検査機により測定されるような50マイクロインチ(1.25マイクロメートル)未満の表面状態を有することができ、およびその基板は清浄にする必要がある。パイロセラムおよびいくつかのガラスに関して、わずかな化学エッチによるような基板表面の活性化により、改良された結果が得られ、その化学エッチは裸眼には見えないものであり、すなわちその表面は依然として平滑である。Tannenbaumに対する米国特許第5,079,073号において開示されているように、基板を、ポリアミド酸塩のミストコートのような接着剤を用いて化学的に処理することもできる。アンダーコート層がプライマーであるときには、それは基板上の第1のフルオロポリマーを含有する層とみなすことができ、および好ましくはそのプライマー層は基板に対して直接的に結合する。
【0050】
本発明の組成物を用いて作成されて非粘着仕上げを有する製品は、調理用具、オーブンウェア、炊飯器およびそれ用の内釜(insert)、水容器、アイロンの底板、コンベア、シュート、ロールの表面、刃身等を含む。
【実施例】
【0051】
(試験方法)
Taber摩耗試験
摩耗試験を、ASTM D4060に概して従って実施する。そこではフィルムの表面を、既知の荷重における2つの摩耗輪による摩滅にさらす。重量減損とdft減損とが、摩耗に対するフィルムの抵抗性の測定値であり、および規定数のサイクルの後に測定される。用いる装置はTaber Instrument Company製のTaber Abration Model 503である。異なるように記載された場合を除いて、全てのTaber試験は、CS17摩耗輪、荷重1kg、および1000サイクルを用いて行われる。250サイクル毎に、その摩耗輪を掃除して、摩耗表面を回復させる。
【0052】
サンドペーパー摩耗試験(SPAT)
非粘着性に被覆されたアルミニウムパネル(10cm×30cm)のサンプルを、サンドペーパーの正方形(5cm×5cm)片を用いて摩耗させる。そのサンドペーパーは、粗面と感圧性接着剤を被覆された柔らかい面とを有する。試験の目的のために、その柔らかい面を、柔らかいスポンジ(7×7×2.5cm)に接着し、サンドペーパーの粗面を露出したままにする。サンドペーパーの粗面を、一定の規定荷重の下で非粘着性被膜をこすって作用させる。サンドペーパーを、全長16.4cmにわたって、53サイクル毎分の振動数で前後に振動させる。規定回数のサイクルの後に、サンドペーパーを、新しいサンドペーパー片に交換する。最初に、および規定回数のサイクルの後に被膜のフィルム厚さを測定する。サンドペーパーの摩耗により形成された跡の中央、すなわち両端から約8cmの場所で、測定を実施した。摩耗は、サイクル数の関数として、フィルム厚さの減損で表す。
【0053】
機械的虎爪摩耗試験(MTP)
重り付ホルダー(400g総重量)により保持される3点のペン先を用いて、被覆された基板を連続的に引掻く。そのホルダーは、被覆された基板の表面をこすって、およびその表面に円を描いて、ペンを回転させる。被膜の厚さ全体の破損(すなわちペンの回転が、被膜全体を貫通する連続的な円形の道筋を形成して、基板に到達すること)を加速するために、この引掻き試験中は基板を200℃に加熱する。そして、そのような破損までの時間を記録する。破損までの時間が長ければ長いほど、非粘着性被膜の耐久性が良好である。
【0054】
機械工具摩耗試験(MUST)
非粘着性に被覆されたアルミニウム基板のサンプルを、被覆された表面に対して三角形の金属製の旋盤ビットを作用させることにより、摩耗および引掻き両方の抵抗性に関して試験した。三角形の旋盤ビットは、MSC Industrial Supply Company(Plainview, N. Y.)から商業的に入手可能な炭化タングステン施削インサート(turning insert)TNMG 322である。被覆された基板は、華氏400度(204℃)の温度に加熱された加熱板上に取り付けられて、調理条件をシミュレートする。被覆された基板は、1.6Kgの規定加重の下で三角形のビットを取り付けられた往復運動をする腕の移動にさらされる。ビットは、1サイクル毎秒の振動数で非粘着性表面を横切って振動して、3mm×53mmの摩滅パターンを作成する。ビットは、そのビットにより作成される溝の中に露出した金属の最初の出現が観測されるまで振動させられる。この観察がなされた時点で、試験を停止し、サイクルの総数を記録する。試験は3回繰り返され、そして破損までのサイクルの平均数を記録する。
【0055】
(フルオロポリマー)
PTFE微粉末:DuPont Company(Wilmington, DE)から入手可能なZonyl(登録商標)FluoroadditiveグレードMP 1600。
【0056】
PTFE−1分散液:ASTM D4895により測定される標準比重(SSG)2.25と、原料分散液粒度(RDPS)0.25〜0.28マイクロメートルを有するTFEフルオロポリマー樹脂分散液。
【0057】
PTFE−2分散液:DuPont Company(Wilmington, DE)から入手可能な、DuPont TFEフルオロポリマー樹脂分散液グレード30。
【0058】
FEP分散液:54.5〜56.5重量%の固形分含有率および150〜210ナノメートルのRDPSを有するTFE/HFPフルオロポリマー樹脂分散液。その樹脂は9.3〜12.4重量%のHFP含有率、および米国特許第4,380,618号に記載されているように変更されたASTM D−1238の方法により372℃において測定される11.8〜21.3の溶融流量を有する。
【0059】
PFA分散液:DuPont Company(Wilmington, DE)から入手可能な、DuPont PFAフルオロポリマー樹脂分散液グレード335。
【0060】
(ポリマー結合剤)
2種のポリアミドイミド樹脂を用いる。
(実施例1中の)PAI−1は、NMP/ナフサ/アルコール=40.5/21.5/2.0の比率でナフサおよびブチルアルコールを含有するNMPベースの溶剤中の、PAI樹脂の36重量%溶液(グレードPD−10629、Phelps-Dodge Magnet Wire Co.)。
(実施例3中の)PAI−2は、Torlon(登録商標)AI-10ポリ(アミド−イミド)(Amoco Chemicals Corp.)であって、6〜8%の残留NMPを含有する(ポリアミド酸塩に戻すことができる)固体樹脂である。
【0061】
ポリアミド酸塩は、一般的に、30℃においてN,N−ジメチルアセトアミド中の0.5重量%溶液として測定される際に、少なくとも0.1の内部粘度を有するポリアミド酸として入手可能である。米国特許第4,014,834号(Concannon)においてより詳細に記載されるように、そのポリアミド酸を、N−メチルピロリドンのような融合助剤およびフルフリルアルコールのような粘度降下剤中に溶解して、そして好ましくはトリエチルアミンである第3級アミンと反応させて、水に可溶である塩を形成する。
【0062】
PPS Phillips Petroleum製のポリフェニレンスルフィド樹脂Ryton V1。
【0063】
(無機フィルム硬化剤)
Elektroschmelzwerk Kempten GmbH(ESK)(Munich, Germany)により供給される炭化ケイ素:
P1200=平均粒度15.3±1マイクロメートル;
P600=平均粒度25.8±1マイクロメートル;
P400=平均粒度35.0±1.5マイクロメートル;
P320=平均粒度46.2±1.5マイクロメートル。
【0064】
平均粒度は、製造業者から与えられた情報により、FEPA-Standard-43-GB 1984R 1993改正(resp.) ISO 6344を用いる沈降法により測定される。
【0065】
Universal Abrasives(Stafford, England)から供給される酸化アルミニウム:
F1200=平均粒度3マイクロメートル;
F500=平均粒度12.8マイクロメートル;
F360=平均粒度22.8マイクロメートル;
F240=平均粒度44.5マイクロメートル。
【0066】
平均粒度は、製造業者から与えられた情報により、FEPA-Standard-42-GB 1984を用いる沈降法により測定される。
【0067】
(実施例1) 単一被膜系、炭化ケイ素
PTFE樹脂、ポリアミドイミド結合剤および溶媒を含む非粘着性被覆剤組成物を、表1の組成にしたがって調製し、そしてこの組成物100gに対して、異なる平均粒度および2500〜2900のヌープ硬度を有する3種のグレードの炭化ケイ素の異なる量を、表2に示すように添加する。
【0068】
【表1】

【0069】
平滑であり、洗浄して油脂を除去することによってのみ処理したが、機械的に粗面化していない冷間圧延鋼の基板に対して、被覆剤組成物の単一の層を付着する。その被膜は、吹付塗により付着される。別に指定しない限り、その被膜を350℃の温度でベークする。被膜の乾燥フィルム厚さを測定し、表2に記載する。被覆された基板は、前記のようにTaber摩耗試験にさらし、そして%摩耗(すなわち、(失われた被膜の厚さ)/(初期の全乾燥フィルム厚さ)×100)を表2に記載する。別に記載される場合を除いて、全てのTaber試験は、CS17/1kg/1000サイクルを用いる。実施例1−3、1−4、1−6および1−7の被覆された基板を薄片に切断し、そして走査電子顕微鏡(SEM)を用いて観察する。
【0070】
【表2】

【0071】
SiC(g)は、表1に示されるフルオロポリマー組成物(25重量%の固形分を有する、配合は前記表1を参照)100gに対して添加されるグラム数である。
(減損したフィルム塗り厚)/(初期dft)×100
【0072】
実施例1−1に示されるように、SiCを添加しないときには、被膜の全てが摩滅され、および摩耗は100%である。実施例1−2から1−10に示されるように、3〜5%のSiCの添加は、著しく摩耗を減少させ、4〜61%まで変化する%摩耗を有する。実施例1−9に示されるより低い耐摩耗性(61%)は、a/b比が0.8未満であることを示唆する。、なぜなら、P−400グレードは、48.2〜77マイクロメートルの範囲内に約3%の粒子を有し(製造業者の情報)、およびそのような粒子は31.6マイクロメートルの平均フィルム厚さに対して大きすぎるからである。この寸法の粒子は、被膜表面を突破し、およびその組成物の非粘着性を損なう。
【0073】
25.8±1マイクロメートルの平均粒度と1.0以下の範囲内のa/b比とを有する、すなわちSiC粒子の寸法は平均フィルム厚さと同一またはそれ以上である、タイプP600のSiCの3%の添加により、最良の結果が得られる。そのような被膜の耐摩耗性は優秀であるとはいえ、その被膜のテクスチャーはいくらか粗く、および剥離性または光沢のような他の特性に影響するおそれがある。前述したように、満足のいく系のためには、耐摩耗性と剥離性との間のバランスを達成する必要がある。
【0074】
実施例1−3、1−4、1−6および1−7は、0.8〜2.0の範囲内に収まるa/b比により規定されるような「大きな」粒子の存在を示す。断面内のいくつかの粒子のa/b比を記載する。同様に、被膜の表面における偏向点の数は、3点/(断面のcm)より大きかった。サンプル1−3に関して、被膜の横断面の長さ1cmあたり65個の大きな粒子(すなわち、a/b比が0.8〜2.0の範囲内にある65個の粒子)がある。
【0075】
実施例1は、「大きな」SiC粒子の存在が、単一被覆系の耐摩耗性を改良することを示す。しかし、2を越えるa/b比を有するより小さい粒子もまた、単一被覆系における耐摩耗性のために有益である。なぜなら、より小さい粒子のいくらかは、基板よりも被膜の表面に接近して存在し、被膜表面に追加の偏向点を増進するからである。
【0076】
(実施例2) 多重被膜系、プライマー中の酸化アルミニウム
ローラー塗布(すなわち、一連のローラーにより基板に対して被膜が付着される)により、基板に対して、プライマー/中間被膜/トップコートの3被膜系を付着する。基板は平滑であり、洗浄して油脂を除去されているが、機械的に粗面化されていない。表3に記載されるようなプライマー組成物は、金属基板に対する接着を促進し、および3マイクロメートルの平均フィルム厚さにおいて付着される。
【0077】
【表3】

【0078】
中間被膜の組成物はPTFE、ポリマー結合剤、および以下の表4に示される実施例2−2から2−4において、約2100のヌープ硬度を有する約15重量%の融解アルミナを含有する。比較のために、実施例2−1の中間被覆剤組成物は、酸化アルミニウムを含有しない。実施例2−2から2−4における中間被覆剤組成物は、添加されるアルミナのグレードが異なる。そのグレードのそれぞれは表6に示すように平均粒度において異なる。実施例2−2において、F−1200の粒子(平均粒度3マイクロメートル)を、中間被覆剤組成物に添加する。実施例2−3において、2つの異なる粒度のアルミナのブレンド(33/66の比のF500およびF360)を添加する。実施例2−4において、F−240(平均粒度44.5マイクロメートル)を添加する。中間被膜の役割は、被膜の接着および柔軟性を増進することであり、および5〜8マイクロメートルの平均フィルム厚さにおいて塗布される。中間被膜はアンダーコートとして機能する。
【0079】
【表4】

【0080】
固形分重量%=56%
P/B(顔料/結合剤)=99.6(主顔料=30.2、増量剤=36.21)
結合剤=3.66
フルオロポリマー=24.02
F/B(フルオロポリマー/結合剤)=6.6
【0081】
以下の表5に記載されるような組成を有するトップコート組成物は、非粘着(剥離)特性を提供し、および約15マイクロメートルにおいて塗布される。トップコートは、オーバーコートとして機能する。
【0082】
【表5】

【0083】
ローラー塗付着技術は、チキン・トラック(chicken track)(フィルムの不規則流)の形成により特徴づけられる。そのチキン・トラックの結果として、フィルム塗り厚は、20〜30マイクロメートルの平均フィルム塗り厚を有する場合に、(極端な場合には)7〜70マイクロメートルの間で変化することができる。
【0084】
被膜系の複数の層を、最小限の乾燥を用い、かつ被覆の間の硬化を行わずに、ウェット・オン・ウェットで順次塗布し、その後に、最小限3分間にわたる約400℃におけるように、被膜系を硬化させる。多重被膜系は、平均25マイクロメートルの乾燥フィルム厚さを有する。その基板を、前述したようなSPAT摩耗試験にさらす。SPAT摩耗試験は、前述の試験方法において記載されるように実施される。サンドペーパーは、3M Company製の酸化アルミニウムP-220, STIKIT(商標) 255 RD 800 Bであり、それは平均55マイクロメートルのアルミニウムの粒度を有する。規定荷重は、1.250Kgである。試験は、100サイクル毎に研磨紙を交換しながら、400サイクルにわたって実行される。
【0085】
この摩耗試験の結果を表6に示す。被覆された基板を薄片に切断し、そして透過電子顕微鏡(SEM)を用いて観察して、a/b比(すなわち、粒子の最長寸法に対する被膜厚さの比)およびその被膜の横断面の長さ1cm当たりの0.8〜2.0のa/b比を有する粒子の数を測定する。
【0086】
【表6】

【0087】
Universal Abrasives製融解アルミナ
表6の結果は、アルミナの粒度が増大するにつれて、耐摩耗性が向上することを示す。実施例2−1に示されるように、酸化アルミニウムの添加を伴わない場合には、基板は極度に摩滅されて、裸の金属を露出させる。実施例2−2に関して、中程度の量の摩滅が見られ、F1200粒子(平均粒度3マイクロメートル)が、この多重被膜系に対して小さすぎることを示唆する。より大きなF500/F360アルミナ粒子を有する実施例2−3は、ほとんど摩滅が無くSPAT試験の摩耗に耐え、およびさらに大きなF240アルミナ粒子を添加する場合の実施例2−4において摩滅は顕著でない。
【0088】
実施例2−3に関して、SEMは、被膜の横断面の長さ1cm当り10個の大きな粒子(a/b=0.8〜2.0の範囲内の10個の粒子)があり、その被膜表面に10個の偏向点があることを示す。実施例2−4に関しては、SEMは、被膜の横断面の長さ1cm当り7個の大きな粒子(a/b=0.8〜2.0の範囲内の7個の粒子)があり、その被膜表面に7個の偏向点があることを示す。アルミナを伴わない実施例2−1、および小さい粒度および2を越えるa/b比を有するアルミナの粒子を伴う実施例2−2に関しては、摩耗試験における劣悪な性能と一致して被膜の表面に偏向点がない。
【0089】
実施例2において記載したような多重被膜系に関して、大きな粒子は、アンダーコートのみに添加される。それらは、アンダーコートから出っ張るのに十分に大きく、およびオーバーコートの厚さを介して伝達されて、被膜の表面に偏向点を形成しなければならない。したがって、多重被膜系において、中間被膜内の小さい粒子が、実施例1の単一被膜系においてみられたようなさらなる耐摩耗性改良をもたらすことは起こりそうにない。
【0090】
(実施例3) 多重被膜系、プライマー中の炭化ケイ素
平滑なアルミニウム基板上に、プライマー中にSiC粒子を有する、プライマー/中間被膜/トップコートの3被膜非粘着系を吹付ける。そのアルミニウム基板は、洗浄して油脂を除去したのみで、機械的に粗面化されなかった。SiC粉末は、20/40/40の重量比の3つのグレードP320/P400/P600のブレンドである。その平均粒度は、前に明記したようなものである。プライマーの組成を表7に記載する。そのプライマーは、アンダーコートとして機能し、および平滑なアルミニウム基板上に付着され、そして乾燥される。その表面のテクスチャーは、サンドペーパーに類似して見える。
【0091】
次に、乾燥したプライマー上に中間被膜を吹付ける。トップコートを、その中間被膜に対して、ウェット・オン・ウェットで付着する。中間被膜およびトップコートの組成を、それぞれ表8および表9に記載する。中間被膜およびトップコートは、オーバーコートとして機能する。その被膜を、430℃の温度におけるベーキングにより硬化させる。
【0092】
制御された塗り厚(それぞれ15〜20/15/5〜10マイクロメートルである)において、プライマー/中間被膜/トップコートを付着することが重要である。なぜなら、プライマーの表面は非常に粗く、およびその谷部は中間被膜およびトップコートによって充填されるからである。被膜の表面に偏向点を形成するために、大きなSiC粒子は、プライマー(アンダーコート)から、オーバーコートの厚さの中を通って出っ張って、その表面の直下に位置する。これらの大きな粒子は、摩耗に抵抗するのに必要な偏向点を増進する。
【0093】
被覆された基板は、前述のようなMTP摩耗試験、SPAT摩耗試験、およびMUST引掻および摩耗試験にさらされる。また、被覆された基板は薄片に切断されて、透過電子顕微鏡(SEM)によって観察される。
【0094】
SPAT試験において、規定荷重は4.211Kgであり、およびサンドペーパーは、3M Company製の酸化アルミニウムP320(平均粒径45マイクロメートル)、タイプRDB 800Bである。そのサンドペーパーは、50サイクル毎に、新しい物と取り替えられる。フィルム厚さは、最初に、および毎50サイクル後に測定する。
【0095】
【表7】

【0096】
%固形分=30.4
P/B=142%
密度=1.21
揮発性溶媒(Vol. Sol.)=15.16%
【0097】
【表8】

【0098】
【表9】

【0099】
その多層被膜の断面のSEM顕微鏡写真を、図2に示す。その被膜中の大きな粒子の存在によって、a/b比が0.8〜2.0の範囲内である粒子の区域において、偏向点が存在する。粒子21は1.4のアスペクト比(b/s)を有する。粒子21は、1.0のa/b比を有して示され、および被膜の表面における偏向点は22に示されている。
【0100】
この実施例3の被膜は、横断面1cm当り約80個の偏向点を有する。その被膜は、前述のようなMTP摩耗試験に対して、少なくとも3時間にわたって抵抗する。比較して、その中に炭化ケイ素を持たない米国特許第5,160,791号の表1に記載されているものと同等の市販の多重被膜系においては、わずか90〜120分の後に、摩耗パターンが得られる。
【0101】
同等の結果は、P1200アルミナサンドペーパーを用いるSPAT試験においても得られる。3000サイクルの後に、SiCを用いて補強された被膜は、摩耗の視覚的徴候をほとんど示さず、および数マイクロメートルの被膜の減損を示したにすぎない。比較して、その中に炭化ケイ素を持たない米国特許第5,160,791号の表1に記載されているものと同等である多重被膜系は、完全な摩耗破損を示し、同一回数のサイクルの後に金属まで貫通して摩滅する。
【0102】
また、本実施例において準備された基板を、前述のようなMUST試験にさらす。その試験は、基板のサンプルに対して摩耗および引掻の組み合わせを試験することを実施する属性を有する。加重を加えられた振動する三角形の金属製旋盤ビットを用いて、基板のサンプルの非粘着性表面は、一連の3回の試験にかけられて、裸の金属が露出するまでのサイクルの数を測定される。この実施例に関して、試験結果は、それぞれ303、334、および265サイクルの後に金属が露出することを示し、301サイクルの平均値を有する。比較して、その中に炭化ケイ素を持たない米国特許第5,160,791号の表1に記載されているものと同等である市販の多重被膜系は、それぞれ135,135,および135サイクルの後に金属が露出することを示し、135サイクルの平均値を有する。
【0103】
(実施例4)
実施例3と同様に、一連の平滑なアルミニウム試験パネルを、プライマー/中間被膜/トップコートの3つの被膜の非粘着系を用いて被覆する。1つのパネルのプライマー組成物は、その中にSiC粒子を含有しない。その他のパネルは、それぞれ異なる粒度のSiC粒子(それぞれ、3マイクロメートル平均、15マイクロメートル平均、および25マイクロメートル平均を超えるもの(表7に示すようなブレンド)である)を有するプライマーを有する。全てのパネルを、実施例3に記載したような中間被膜とトップコートとを用いてオーバーコートする。その被膜の耐摩耗性を、4.211Kgの荷重の下でP320アルミナサンドペーパーで研磨するSPAT試験を用いて試験する。各50サイクルの後に、サンドペーパーを新しいものと交換して、そのフィルムの塗り厚を測定する。結果を図3に示す。図3は、プライマー中の8.3重量%の一定添加量における、耐摩耗性に対するSiC粒度の関係を示すグラフである。フィルムの減損を測定する摩耗のサイクルの数に対して、乾燥フィルム厚さ(dft)をプロットする。プライマー中に小さい粒子(3マイクロメートル)を有する多重被膜系に関して、フィルムの塗り厚の減損は、少しもSiCを持たないプライマーに関してとほぼ同一である。プライマー中に大きなSiC粒子(25マイクロメートル超)を有する場合、耐摩耗性は大いに改良される。15マイクロメートルのSiC粒度に関して、中間の結果が得られる。
【0104】
(実施例5)
実施例3と同様に、一連の平滑なアルミニウム試験パネルを、プライマー/中間被膜/トップコートの3つの被膜の非粘着系を用いて被覆する。パネル上のプライマーの組成は、SiC粒子の量が異なる。全てのプライマー中のSiC粉末は、20/40/40の重量比の3つのグレードP320/P400/P600のブレンドである。全てのパネルを、実施例3に記載したような中間被膜とトップコートとを用いてオーバーコートする。
【0105】
その被膜の耐摩耗性を、4.211Kgの荷重の下でP320アルミナサンドペーパーで研磨するSPAT試験を用いて試験する。各50サイクルの後に、サンドペーパーを新しいものと交換して、そのフィルムの塗り厚を測定する。結果を図4に示す。図4は、耐摩耗性(フィルム塗り厚の減損)に対するSiC粒子の量の関係を示すグラフである。フィルムの減損を測定する摩耗のサイクルの数に対して、乾燥フィルム厚さ(dft)をプロットする。より多い量の大きな粒子のSiCに対して、摩耗によるフィルムの減損がより少ない。
【0106】
また、摩耗に関して試験されるそれぞれのサンプルに関して、フィルム断面のSEM試験により、偏向点の数を測定する。セラミックのより高い濃度が、より多い数の被膜表面内の偏向点をもたらす。結果を以下の表10に示す。
【0107】
【表10】

【0108】
その結果は、偏向点の数は、充填剤の濃度に伴って増加し、およびより良好な耐摩耗性を促進することを、明白に示す。耐摩耗性は、被膜の横断面のcm当り少なくとも3個の偏向点を有して達成される。
【0109】
以下に、本発明の好ましい態様を示す。
[1] 摩耗力に抵抗する非粘着性被膜により被覆された基板であって、前記被膜は、それぞれフルオロポリマー樹脂を含有するアンダーコートとオーバーコートとを含み、前記アンダーコートは、前記アンダーコートから出っ張るセラミック粒子をも含有し、前記オーバーコートは、前記アンダーコートから出っ張る前記粒子を前記オーバーコートの厚さを介して伝達して、前記被膜から前記摩耗力をそらすことを特徴とする基板。
[2] 前記セラミック粒子の最長径に対する前記アンダーコートおよび前記オーバーコートの総合厚さの比は、0.8〜2.0の範囲内であることを特徴とする[1]に記載の被覆された基板。
[3] 前記セラミック粒子は、少なくとも1200のヌープ硬度を有することを特徴とする[1]に記載の被覆された基板。
[4] 前記セラミック粒子は、2.5以下のアスペクト比を有することを特徴とする[3]に記載の被覆された基板。
[5] 前記セラミック粒子は、無機窒化物類、炭化物類、ホウ化物類、および酸化物類から成る群から選択されることを特徴とする[3]に記載の被覆された基板。
[6] 前記アンダーコートの面より上に出っ張る前記セラミック粒子は、前記アンダーコートにより実質的に包まれていることを特徴とする[1]に記載の被覆された基板。
[7] 前記オーバーコートは、中間被膜およびトップコートを含むことを特徴とする[1]に記載の被覆された基板。
[8] 前記アンダーコートは、前記基板上のプライマーであることを特徴とする[1]に記載の被覆された基板。
[9] 被覆する前の前記基板は、平滑であることを特徴とする[1]に記載の被覆された基板。
[10] 前記アンダーコート中の前記粒子の数は、前記被膜の横断面の長さ1cmあたり少なくとも3個であることを特徴とする[1]に記載の被覆された基板。
[11] 前記アンダーコートは、少なくとも1つの耐熱性ポリマー結合剤を含むことを特徴とする[1]に記載の被覆された基板。
[12] 平滑な基板上に付着性被膜を形成し、および耐摩耗性を示すことができるプライマー組成物であって、フルオロポリマー、ポリマー結合剤および無機充填剤フィルム硬化剤を含み、前記ポリマー結合剤に対するフルオロポリマーの重量比は0.5〜2.0:1であり、および前記フルオロポリマーに対する前記充填剤フィルム硬化剤の重量比は少なくとも1.4:1であることを特徴とするプライマー組成物。
[13] 前記充填剤フィルム硬化剤の少なくとも30重量%は、少なくとも20マイクロメートルの平均粒度を有する大きなセラミック粒子から成ることを特徴とする[12]に記載のプライマー組成物。
[14] 前記充填剤フィルム硬化剤の少なくとも30重量%は、少なくとも25マイクロメートルの平均粒度を有する大きなセラミック粒子から成ることを特徴とする[12]に記載のプライマー組成物。
[15] 前記粒子は少なくとも1200のヌープ硬度を有することを特徴とする[13]に記載のプライマー組成物。
[16] 前記粒子は、2.5以下のアスペクト比を有することを特徴とする[15]に記載のプライマー組成物。
[17] 前記大きな粒子の量は、前記組成物から形成される前記被膜の横断面の長さ1cm当り少なくとも3個の前記粒子を与えるのに十分であることを特徴とする[13]に記載のプライマー組成物。
[18] 平滑な基板上に付着性被膜を形成し、および耐摩耗性を示すことができる組成物であって、フルオロポリマー、ポリマー結合剤および無機充填剤フィルム硬化剤を含み、少なくとも30重量%の前記充填剤フィルム硬化剤は、少なくとも14マイクロメートルの平均粒度を有する大きなセラミック粒子で構成され、および前記大きな粒子の量は、前記組成物から形成される前記被膜の横断面の長さ1cm当り少なくとも3個の前記粒子を与えるのに十分であることを特徴とする組成物。
[19] 前記充填剤フィルム硬化剤は、少なくとも20マイクロメートルの平均粒度を有する大きなセラミック粒子を含むことを特徴とする[18]に記載の組成物。
[20] 前記セラミック粒子は少なくとも1200のヌープ硬度を有することを特徴とする[18]に記載の組成物。
[21] 前記セラミック粒子は、無機窒化物、炭化物、ホウ化物、および酸化物から成る群から選択されることを特徴とする[18]に記載の組成物。
[22] 水性分散液であることを特徴とする[18]に記載の組成物。
[23] 有機液体をさらに含むことを特徴とする[18]に記載の組成物。
[24] 有機液体をさらに含むことを特徴とする[22]に記載の組成物。
[25] [18]に記載の組成物で被覆された基板。
[26] 摩耗力に抵抗する非粘着性被膜を用いて被覆された基板であって、前記被膜はセラミック粒子を含有するフルオロポリマー樹脂を含んで、前記被膜から前記摩耗力をそらせ、前記セラミック粒子の最長径に対する前記被膜の厚さの比は0.8〜2.0の範囲内であることを特徴とする基板。
[27] 前記セラミック粒子は少なくとも1200のヌープ硬度を有することを特徴とする[26]に記載の被覆された基板。
[28] [1]に記載の基板を被覆するための方法であって、前記アンダーコートおよび前記オーバーコートは、次が付着される前に一方の被膜が完全に乾燥することなしに、基板に対して付着され、および少なくとも350℃の温度に加熱することにより、前記非粘着性被膜が形成されることを特徴とする方法。
【符号の説明】
【0110】
10 基板
12 非粘着性被膜
13 充填剤粒子
14 充填剤粒子
15 充填剤粒子
16 充填剤粒子
17 充填剤粒子
18 偏向点
19 偏向点
20 偏向点
21 粒子
22 偏向点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平滑な基板上に付着性被膜を形成し、および耐摩耗性を示すことができるプライマー組成物であって、フルオロポリマー、ポリマー結合剤および無機充填剤フィルム硬化剤を含み、前記ポリマー結合剤に対するフルオロポリマーの重量比は0.5〜2.0:1であり、および前記フルオロポリマーに対する前記充填剤フィルム硬化剤の重量比は少なくとも1.4:1であり、前記無機充填剤フィルム硬化剤の少なくとも30重量%は、少なくとも14マイクロメートルの平均粒径を有する大きなセラミック粒子で構成されていることを特徴とするプライマー組成物。
【請求項2】
摩耗力に抵抗する非粘着性被膜を用いて被覆された基板であって、
前記基板は平滑な表面を有し、
前記非粘着性被膜は前記平滑な表面の上に設けられ、
前記非粘着性被膜はフルオロポリマー樹脂、ポリマー結合剤および無機充填剤フィルム硬化剤を含み、
前記無機充填剤フィルム硬化剤の少なくとも30重量%は少なくとも14マイクロメートルの平均粒径を有する大きなセラミック粒子で構成され、
前記非粘着性被膜の表面の前記セラミック粒子に対応する位置に、前記被膜から前記摩耗力をそらす偏向点が形成されており、
前記セラミック粒子の最長径に対する前記被膜の厚さの比は0.8〜2.0の範囲内であることを特徴とする基板。
【請求項3】
平滑な基板上に付着性被膜を形成し、および耐摩耗性を示すことができる組成物であって、フルオロポリマー、ポリマー結合剤および無機充填剤フィルム硬化剤を含み、少なくとも30重量%の前記無機充填剤フィルム硬化剤は、少なくとも14マイクロメートルの平均粒度を有する大きなセラミック粒子で構成され、および前記大きなセラミック粒子の量は、前記組成物から形成される前記被膜の横断面の長さ1cm当り少なくとも3個の前記粒子を与えるのに十分であることを特徴とする組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−43287(P2010−43287A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−265094(P2009−265094)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【分割の表示】特願平11−218124の分割
【原出願日】平成11年7月30日(1999.7.30)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】