説明

耐摩耗性難燃性樹脂組成物、成形物品及び耐摩耗性絶縁電線

【課題】 高度の難燃性とともに、耐熱性、機械特性、可撓性の耐摩耗性が優れる耐摩耗性難燃性樹脂組成物、成形物品及び耐摩耗性絶縁電線を提供することを課題とする。
【解決手段】 (a)エチレン含有量が65質量%以上75質量%未満のエチレンプロピレンゴムを50〜90質量%、(b)酢酸ビニル含有量が28質量%以下のエチレン−酢酸ビニル共重合体を5〜45質量%、及び(c)マレイン酸で変性された直鎖状低密度ポリエチレンを5〜30質量%を含有するベース樹脂成分100質量部に対し、(d)水酸化アルミニウムを50〜120質量部、(e1)架橋剤1〜5質量部を含有する耐摩耗性難燃性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノンハロゲンの耐摩耗性難燃性樹脂組成物、成形物品及び耐摩耗性絶縁電線に関する。
【背景技術】
【0002】
各種機器の内部および外部配線に使用される絶縁電線には、高度の難燃性とともに、耐熱性、機械特性、可撓性のほかに、耐摩耗性が要求される。
一般に、絶縁電線に電流を流すと導体が発熱し、これに伴い絶縁電線全体の温度が上昇する。このため、密閉器内等の配線材として使用される絶縁電線には、耐熱性を有すること、および熱老化試験後の機械特性の低下が少ないことが要求される。また絶縁電線を敷設する際の応力で破断しないような機械特性を有することが必要とされる。さらに配電盤内等の機械部品や電気部品が密集した設備中や、湾曲管内に電線を曲線状に折り曲げて取り付ける際に、電線の曲げ作業性の良好な可撓性を有することが必要とされる。また、絶縁電線の製造時や敷設作業時に絶縁電線表面がこすられて表面に傷が発生した場合には、その傷が大きい場合には電気特性を損なう可能性があるため、耐摩耗性の絶縁電線が必要とされる。
従来、耐熱性を有し、機械強度と可撓性に優れた難燃性の絶縁電線としては、被覆層を構成するベース樹脂として塩素化ポリエチレンを用いたものが使用されてきた。塩素化ポリエチレンは、ハロゲンである塩素を含むため、塩素による難燃効果により、難燃性を発揮することができる。また塩素化ポリエチレンは100℃を越える耐熱性を有するため、塩素化ポリエチレンを被覆層として用いて、この被覆層を架橋させることにより、耐熱性と、機械強度及び可撓性を併せ持つ絶縁電線を得ることができる。
【0003】
しかし、塩素化ポリエチレンを被覆層に用いた絶縁電線を焼却すると、ダイオキシンなどの塩素系有毒ガスが発生する。このガスの人体への影響を少しでも減少させるために、ノンハロゲンの難燃性樹脂組成物を被覆層に用いた絶縁電線が必要となっている。
ベース樹脂としてポリエチレンを使用してノンハロゲンの難燃性樹脂組成物を得るためには、通常、樹脂100質量部に対して、金属水和物を50〜200質量部を配合する必要がある。金属水和物が高充填されたポリエチレン系の難燃性樹脂組成物は機械特性が低下するものの、非架橋状態では比較的可撓性を有するものを得ることができる。しかし架橋しない場合は耐熱性が不足する。一方、金属水和物が高充填されたポリエチレン系の難燃性樹脂組成物を架橋すると、難燃性樹脂組成物は硬いものとなり、機械強度は高いが可撓性が低下する。
そこで、エチレン−エチルアクリレート共重合体やエチレン−酢酸ビニル共重合体に、難燃剤として水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムなどの金属水和物とともに、場合によりリン系やシリコーン系の難燃助剤、窒素化合物又は亜鉛化合物などの難燃助剤を配合したものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかし特許文献1記載のポリマー組成物では、熱老化試験後の機械特性と耐磨耗性については、十分とはいえない。
また、エチレン−エチルアクリレート共重合体やエチレン−酢酸ビニル共重合体に、副成分として、各種のエラストマーやゴムが配合された樹脂組成物を用いて被覆層が形成された電線が記載されている(例えば、特許文献2及び3参照)。これらの電線は、良好な可撓性や圧接加工性を有することが記載されている。しかし、これらの文献に記載された電線では、可撓性に優れるとともに、耐摩耗性を有するという点については十分とはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2007−512426号公報
【特許文献2】特開2000−294036号公報
【特許文献3】特開2008−84833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の問題点を解決し、高度の難燃性とともに、耐熱性、機械特性、可撓性の耐摩耗性が優れる耐摩耗性難燃性樹脂組成物、成形物品及び耐摩耗性絶縁電線を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題について鋭意検討した結果、エチレン含有量が特定の範囲内のエチレンプロピレンゴム、特定の範囲内の酢酸ビニル含有量を有するエチレン−酢酸ビニル共重合体及びマレイン酸で変性された直鎖状低密度ポリエチレンをそれぞれ特定の割合で含有するベース樹脂に対して、難燃剤として水酸化アルミニウムを特定の配合量で含有する耐摩耗性難燃性樹脂組成物が上記課題を解決することを見出した。本発明はこの知見に基づきなされたものである。
【0007】
すなわち本発明は、
<1>(a)エチレン含有量が65質量%以上75質量%未満のエチレンプロピレンゴムを50〜90質量%、(b)酢酸ビニル含有量が28質量%以下のエチレン−酢酸ビニル共重合体を5〜45質量%、及び(c)マレイン酸で変性された直鎖状低密度ポリエチレンを5〜30質量%を含有するベース樹脂成分100質量部に対し、(d)水酸化アルミニウムを50〜120質量部、(e1)架橋剤1〜5質量部を含有することを特徴とする耐摩耗性難燃性樹脂組成物、
<2>(a)エチレン含有量が65質量%以上75質量%未満のエチレンプロピレンゴムを50〜90質量%、(b)酢酸ビニル含有量が28質量%以下のエチレン−酢酸ビニル共重合体を5〜45質量%、及び(c)マレイン酸で変性された直鎖状低密度ポリエチレンを5〜30質量%を含有するベース樹脂成分100質量部に対し、(d)水酸化アルミニウムを50〜120質量部、(e2)架橋助剤1〜10質量部を含有することを特徴とする耐摩耗性難燃性樹脂組成物、
<3><1>又は<2>記載の耐摩耗性難燃性樹脂組成物を架橋させてなる成形物品、及び
<4>導体外周の最外層に<1>又は<2>記載の耐摩耗性難燃性樹脂組成物を用いてなる被覆層が形成され、該被覆層が架橋された絶縁電線であって、該絶縁電線のJASO 618の耐摩耗性試験のスクレープ試験結果が800回以上であることを特徴とする耐摩耗性絶縁電線、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、高度の難燃性とともに、耐熱性、機械特性、可撓性の耐摩耗性が優れる耐摩耗性難燃性樹脂組成物、成形物品及びこれを用いた耐摩耗性絶縁電線を提供することができる。これにより、本発明の耐摩耗性絶縁電線は、高温環境下においても好適に用いることができ、又燃焼時にも有毒なガスの発生による人体への悪影響を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の耐摩耗性絶縁電線の一実施態様について模式的に示した概略断面図である。
【図2】本発明の耐摩耗性絶縁電線の他の一実施態様について模式的に示した概略断面図である。
【図3】本発明の耐摩耗性絶縁電線のさらに他の一実施態様について模式的に示した概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の耐摩耗性絶縁電線について、図面を参照しながら説明する。
図1は、後述する本発明の耐摩耗性難燃性樹脂組成物を最外層として使用した絶縁電線10の好ましい態様を示した耐摩耗性絶縁電線である。図1に示されるように、本発明の耐摩耗性絶縁電線は、導体1上に直接、本発明の耐摩耗性難燃性樹脂組成物を用いてなる被覆層が形成され、該被覆層が架橋されることによって、架橋被覆層3が形成されている。
また図2は、後述する本発明の耐摩耗性難燃性樹脂組成物を最外層として使用した絶縁電線20のほかの好ましい態様を示した耐摩耗性絶縁電線である。図2に示されるように、本発明の耐摩耗性絶縁電線は、導体1上に他の層2を介して、最外層に本発明の耐摩耗性難燃性樹脂組成物を用いてなる被覆層が形成され、該被覆層が架橋されて架橋被覆層3が形成されている。他の層2としては、ポリエステル製のテープやナイロン製のテープなどのセパレータが巻回されたものを使用することができる。
さらに図3は、後述する本発明の耐摩耗性難燃性樹脂組成物を使用した絶縁電線30のさらにほかの好ましい態様を示した耐摩耗性絶縁電線である。図3に示されるように、本発明の耐摩耗性絶縁電線は、導体1上に内部導電層5が形成され、内部導電層5上に被覆層4が形成され、さらに該被覆層上に本発明の耐摩耗性難燃性樹脂組成物を用いてなる架橋被覆層3がシース層として形成されている。図3の被覆層4は、本発明の耐摩耗性難燃性樹脂組成物を用いていてもよい。
【0011】
本発明の耐摩耗性難燃性樹脂組成物は、エチレンプロピレンゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体及びマレイン酸で変性された直鎖状低密度ポリエチレンを含有するベース樹脂成分に、水酸化アルミニウムが配合されてなる。
(a)エチレンプロピレンゴム
本発明の耐摩耗性難燃性樹脂組成物において、(a)成分として用いられるエチレンプロピレンゴムは、エチレン、プロピレン及び非共役ジエンの3元共重合体であるEPDMと、エチレンとプロピレンの共重合体であるEPMの両方をいうものとする。本発明において用いられるエチレンプロピレンゴムは、エチレン含有量が65質量%以上75質量%未満である。エチレンプロピレンゴムとしては、2種類以上のエチレンプロピレンゴムを使用することができ、EPDMとEPMを併用することができる。2種類以上のエチレンプロピレンゴムを使用した場合は、エチレンプロピレンゴム全体のエチレン含有量が65質量%以上75質量%未満とする。エチレンプロピレンゴムのエチレン含有量は好ましくは、67〜72質量%である。この範囲内において、エチレンプロピレンゴムのエチレン含有量を多くすることにより、混練時や押出時の加工性を向上させるとともに、機械強度を向上させることができる。エチレン含有量が少なすぎると十分な機械特性、特に引張強度が得られない。エチレン含有量が多すぎると、樹脂組成物が硬くなりすぎる。
エチレンプロピレンゴムの配合量は、ベース樹脂成分の100質量部に対して、50〜90質量%である。この範囲内においてエチレンプロピレンゴムの配合量を多くすることにより、本発明の樹脂組成物の硬度の上昇を抑制し、可撓性を付与することができる。エチレンプロピレンゴムの配合量が少なすぎると硬くなりすぎ、多すぎると機械強度が不足する。
【0012】
(b)エチレン−酢酸ビニル共重合体
本発明の耐摩耗性難燃性樹脂組成物において、(b)成分として用いられるエチレン−酢酸ビニル共重合体は、酢酸ビニル含有量が多すぎると、引張強度が低下するため、酢酸ビニル含有量は28質量%以下のものを用いる。エチレン−酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル含有量が少なすぎると難燃性が低下する。
エチレン−酢酸ビニル共重合体の配合量は、ベース樹脂成分中、5〜45質量%である。この範囲内において、エチレン−酢酸ビニル共重合体の配合量を多くすることにより、難燃性を確保しつつ引張強度を高くすることができる。エチレン−酢酸ビニル共重合体の配合量が少なすぎると十分な難燃性を得ることができず、多すぎると硬くなりすぎる。
【0013】
(c)マレイン酸で変性された直鎖状低密度ポリエチレン
マレイン酸で変性された直鎖状低密度ポリエチレンとしては、例えば、直鎖状低密度ポリエチレンとマレイン酸を有機パーオキサイドの存在下に加熱、混練することにより行うことにより製造することができる。マレイン酸による変性量はポリエチレン樹脂100質量部に対し、通常0.1〜7質量%程度である。マレイン酸で変性された直鎖状低密度ポリエチレン樹脂を加えることにより、難燃性樹脂組成物の伸びを大きくすると共に機械強度を上げることができる。マレイン酸で変性された直鎖状低密度ポリエチレンの密度は0.91〜0.93が好ましい。
マレイン酸で変性された直鎖状低密度ポリエチレンの配合量は、ベース樹脂成分中、5〜30質量%である。マレイン酸で変性された直鎖状低密度ポリエチレンの配合量が少なすぎると耐摩耗性向上の効果がなく、多すぎると硬くなりすぎる。
【0014】
(d)水酸化アルミニウム
本発明の耐摩耗性難燃性樹脂組成物において、難燃剤として(d)水酸化アルミニウムが配合されてなる。水酸化アルミニウムとしては、表面が処理されていないものでも、表面が脂肪酸やシランカップリング剤で処理されているものを使用することができる。水酸化アルミニウムは水酸化マグネシウムより廉価で入手可能なため、廉価で本発明の耐摩耗性難燃性樹脂組成物を製造することができる。
表面処理を行っていない水酸化アルミニウムとしては、例えば、市販品として、(商品名、ハイジライトH42M 昭和電工(株)製)などを使用することができる。ステアリン酸、オレイン酸などの脂肪酸で表面処理された水酸化アルミニウムとしては、商品名、ハイジライトH42S 昭和電工(株)製)など)、シランカップリング剤で表面処理された水酸化アルミニウムとしては、(商品名、ハイジライトH42STV 昭和電工(株)製)など)を使用することができる。
【0015】
水酸化アルミニウムの表面処理に用いられるシランカップリング剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等のビニル基またはエポキシ基を末端に有するシランカップリング剤、メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のメルカプト基を末端に有するシランカップリング剤、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリプロピルメチルジメトキシシラン等のアミノ基を有するシランカップリング剤などの架橋性のシランカップリング剤が好ましい。またこれらのシランカップリング剤は2種以上併用してもよい。
このような架橋性のシランカップリング剤の中でも、末端にエポキシ基および/またはビニル基/メタクロキシ基を有するシランカップリング剤がさらに好ましく、これらは1種単独でも、2種以上併用して使用してもよい。
【0016】
本発明で用いることができるシランカップリング剤で表面処理した水酸化アルミニウムとしては、予め表面処理するのに十分な量のシランカップリング剤を適宜水酸化アルミニウムに対してブレンドして行うことができる。シランカップリング剤の量は、具体的には金属水和物に対し0.2〜2質量%加えることが好ましい。シランカップリング剤は原液でもよいし、溶剤で希釈されたものを使用してもよい。
また、予め脂肪酸やリン酸エステルなどで表面の一部が前処理された金属水和物に、さらにシランカップリング剤を用い表面処理を行った水酸化アルミニウムなども用いることができる。
【0017】
本発明の耐摩耗性難燃性樹脂組成物において、水酸化アルミニウムは、ベース樹脂成分100質量部に対して50〜120質量部を配合する。水酸化アルミニウムの配合量が少なすぎると十分な難燃性が得られず、多すぎると機械強度が低下する。
本発明の耐摩耗性難燃性樹脂組成物において、リン系化合物や赤リン、シリコーン系化合物、窒素化合物、亜鉛化合物などの難燃助剤を適宜加えることができる。
【0018】
(e1)架橋剤、(e2)架橋助剤
本発明の耐摩耗性絶縁電線は、導体外周の最外層に前記耐摩耗性難燃性樹脂組成物を用いてなる被覆層が形成され、該被覆層が架橋されている。架橋する方法としては、放射線架橋や化学架橋が適宜施される。その方法は、適宜、従来の方法で施される。
本発明の耐摩耗性絶縁電線は、架橋剤を配合して耐摩耗性難燃性樹脂組成物とし、該組成物を導体上に直接又は間接に押出被覆し、加熱処理する方法、すなわち化学架橋により製造することが好ましい。
化学架橋の場合の押出被覆の温度は、ベース樹脂成分としてエチレンプロピレンゴムが含まれるとともに、架橋剤が添加されるので、70〜140℃であることが好ましく、さらに好ましくは80〜110℃である。
【0019】
架橋剤としては、好適なものとして有機過酸化物を挙げることができる。例えば、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシド)ヘキシン、1,3−ビス−(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1,−ジ−t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン等が挙げられる。その配合量は、ベース樹脂成分100質量部に対して、1〜5質量部とする。さらに好ましくは、2〜4質量部である。架橋剤の配合量が少なすぎると、耐摩耗性難燃性樹脂組成物の架橋が不十分となり、耐熱性が低下する。架橋剤の配合量が多すぎると、架橋密度が高くなりすぎて、十分な引張伸び物性が得られない。
本発明の耐摩耗性絶縁電線は、耐摩耗性難燃性樹脂組成物を用いてなる被覆層が架橋されているため、耐熱性に優れている。被覆層を化学架橋での架橋する場合、導体上に直接又は間接に耐摩耗性難燃性樹脂組成物を押出被覆した後、160〜200℃で加熱して架橋することが好ましい。
【0020】
放射線架橋により本発明の耐摩耗性絶縁電線を製造する場合としては、電子線架橋のほか、γ線架橋を挙げることができる。その中でも電子線架橋が好ましい。電子線架橋を行う場合、電子線の照射線量は1〜30Mradとすることが好ましい。効率よく架橋を行うために、ポリプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレートなどの(メタ)アクリレート系化合物、トリアリルシアヌレートなどのアリル系化合物、マレイミド系化合物、ジビニル系化合物などの多官能性化合物を架橋助剤として配合してもよい。架橋助剤の配合量は、ベース樹脂成分100質量部に対して、1〜10質量部とする。さらに好ましくは、1〜6質量部である。
架橋助剤に用いる多官能性化合物は、多官能モノマーに含有される単位質量当たりの二重結合の数により、架橋効率が異なってくる場合はあるが、架橋助剤の配合量が少なすぎると、耐摩耗性難燃性樹脂組成物の架橋が不十分となり、耐熱性が低下する。架橋助剤の配合量が多すぎると、架橋密度が高くなりすぎて、十分な引張伸び物性が得られない。
【0021】
この他に本発明の耐摩耗性難燃性樹脂組成物には、電線被覆層において使用されている各種の添加剤、例えば、充填剤、カーボン、シリカ等の補強剤、着色剤、ワックス等の滑剤、老化防止剤などを本発明の目的を損なわない範囲で適宜配合することができる。
【0022】
本発明の耐摩耗性絶縁電線は、導体外周の最外層に前記耐摩耗性難燃性樹脂組成物を用いてなる被覆層が形成され、該被覆層が架橋された絶縁電線であって、該絶縁電線のJASO D618の耐摩耗性試験のスクレープ試験結果が800回以上とされている。
本発明の耐摩耗性絶縁電線は、ベース樹脂成分100質量部に対して水酸化アルミニウムが50〜120質量部と高充填されている樹脂組成物を用いてなる被覆層が導体外周の最外層に形成されているにもかかわらず、十分な可撓性を有するとともに、耐摩耗性に優れるという優れた効果を奏する。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0024】
表1の実施例1〜9および表2の比較例1〜8については、表1、2に示す各成分のうち、ジクミルパーオキサイドを除き、バンバリーミキサーを用いて溶融混練した。その後、この混練物に表1、2に示す配合量のジクミルパーオキサイドを加え、40〜80℃に設定した8インチロール機にて混練して、耐摩耗性難燃性樹脂組成物を得た。当該組成物をシート状に成形した後、160℃で30分間プレス加硫し、耐摩耗性難燃性樹脂組成物を架橋した。この組成物から以下の各種試験の試験片を作製し、試験を行い、その性能について評価した。
表1の実施例10、11、表2の比較例9、10については、表1、2に示す各成分をすべて加え、バンバリーミキサーを用いて溶融混練して、耐摩耗性難燃性樹脂組成物を得た。当該組成物をシート状に成形した後、15Mradで電子線照射して架橋したものを用いて、以下の各種試験の試験片を作製し、試験を行い、その性能について評価した。
【0025】
表1及び表2において、以下の材料を用いた。なお表1及び表2において、ベース樹脂成分(エチレンプロピレンゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体、マレイン酸で変性された直鎖状低密度ポリエチレン)中の各成分は、ベース樹脂成分中の含有量を質量%で示す。エチレンプロピレンゴムのムーニー粘度は、JISK 6300−1 5.7試験結果のまとめ方のとおりに従い記載した。例えば、※1のEPT3045において、以下の内容を表す。
40M:ムーニー粘度
L:ロータの形状でL形のものを用いた
(1+4):予熱時間1分間とロータの回転時間4分
100℃:試験温度
【0026】
(使用した材料)
(1)EPR(エチレンプロピレンゴム):
※1 EPT3045 三井化学社製商品名
ムーニー粘度 40ML(1+4)100℃
※2 EP51 JSR社製商品名
ムーニー粘度 38ML(1+4)100℃
※3 EPT3012P 三井化学社製商品名
ムーニー粘度 15ML(1+4)100℃
【0027】
(2)EVA(エチレン酢酸ビニル共重合体):
※4 EV40LX 三井デュポン・ポリケミカル社製商品名
MFR(JIS K 7210) 2g/10min.
※5 EV260 三井デュポン・ポリケミカル社製商品名
MFR(JIS K 7210) 6g/10min.
※6 EV460 三井デュポン・ポリケミカル社製商品名
MFR(JIS K 7210) 2.5g/10min.
(3)マレイン酸変性直鎖状低密度ポリエチレン:
※7 L6101M 日本ポリオレフィン社製商品名
【0028】
(4)水酸化アルミニウム:
※8 ハイジライトH42M 昭和電工社製商品名
(5)カーボン:
※9 シースト3 東海カーボン社製商品名
HAF(High Abrasion Furnace):高耐摩耗性グレード
(6)ステアリン酸:
ビーズステアリン酸 日油社製商品名
(7)酸化亜鉛:
酸化亜鉛2種 三井金属鉱業社製商品名
(8)2,2,4−トリメチル−1,2ジヒドロキノリン重合体:
ノクラック224 大内新興化学工業社製商品名
(9)ジクミルパーオキサイド:
パークミルD 日油社製商品名
(10)トリメチロールプロパントリメタクリレート:
オグモントT−200 新中村化学社製商品名
【0029】
(1)引張り強さ
厚さ2mmの試験片を用いて、JIS K 6251(加硫ゴムの引張り試験方法 JIS3号ダンベル使用)に準拠して、引張強さを測定した。引張強さが10MPa以上を合格とした。
【0030】
(2)硬さ
厚さ12mmの試験片を用いて、JIS K 6253の(加硫ゴムの硬さ試験方法 デュロAタイプ)に準拠して硬さを測定した。硬さが90以下を合格とした。なお、デュロAタイプで硬さを測定できないほど硬いものは、デュロDタイプで硬さを測定した。
【0031】
(3)切断時伸びの加熱老化後の残率
厚さ2mmの試験片を用いて、JIS K 6257(加硫ゴムの老化試験方法)に準拠して試験片の切断時伸びの老化残率(%)を測定した。加熱条件は150℃×96時間とし、残率80%以上の場合を耐熱性合格とした。
【0032】
(4)難燃性
厚さ3×幅10×長さ300mmの試験片を用いて、JIS C 3005(ゴム・プラスチック絶縁電線試験方法)の28.難燃における傾斜試験法に準拠して行った。着火後消火する時間が60秒以下のものを○で表示し、60秒以内に消火しなかったものを×で表示し、○を難燃性合格とした。
【0033】
(5)耐摩耗性
表1の実施例1〜9および表2の比較例1〜8については、被覆層の厚さが1.0mmとなるように、被覆層を押出成形して得た外径φ3.7mmの電線を水蒸気架橋(蒸気圧の1.5Mpa加圧下)して、絶縁電線を製造した。また、表1の実施例10、11、表2の比較例9、10については、被覆層の厚さが1.0mmとなるように、被覆層を押出成形して得た外径φ3.7mmの電線に15Mradで電子線照射して架橋して、絶縁電線を製造した。
これらの絶縁電線について、JASO D618の耐摩耗試験−スクレープ試験に準拠して、耐摩耗試験を行った。測定条件は、摩耗速度60往復/分、荷重1000g、ブレード針先端Φ0.25mmで、絶縁電線を摩耗させ、導体とブレード針が導通するまでの回数を測定し、耐摩耗性の評価を行った。磨耗回数が800回以上のものを合格とした。
【0034】
(6)押出加工性
前記の通り作製した耐摩耗性難燃性樹脂組成物をリボン状に成形し、またはペレット状に裁断して、電線製造用の押出機を用いて、被覆層の厚さが1.0mmとなるように、被覆層を押出成形し、外径φ3.7mmの絶縁電線を製造するに際し、当該被覆層の押出加工性について評価した。押出機の温度設定は、80〜90℃とし、製造線速が従来の塩素化ポリエチレンを用いた絶縁電線(50m/分)と同等であったものを○、それ以下であったものを×とし、○の場合を合格とした。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
表1の結果から、実施例1〜11の樹脂組成物は、いずれも機械強度すなわち引張強さが10MPa以上で、かつ加熱試験後でも切断時伸びの残率が80%以上と耐熱性に優れていることがわかる。又、難燃性も着火後60秒以内に消火しており、難燃性が合格であった。またいずれの実施例も、硬さは90(デュロA)以下であり、合格レベルであった。さらに耐摩耗性についても磨耗回数が何れも800回以上となっており、優れた特性を示した。
一方、表2の比較例1はエチレン−酢酸ビニル共重合体とマレイン酸変性ポリエチレンを含まないため、難燃性、耐摩耗性が不合格であった。比較例2、3は、エチレンプロピレンゴムとして、エチレン含有量が56質量%のものを用いたため、耐磨耗性と引張強さが不合格であり、かつ伸び老化残率も80%を下回っており、不合格である。比較例4では、エチレンプロピレンゴムが少量であり、エチレン−酢酸ビニル共重合体が多いため、硬さが96(デュロA)となり硬すぎる結果となり、またマレイン酸変性ポリエチレンを含まないため、耐摩耗性が不合格であった。比較例5、6は、エチレン−酢酸ビニル共重合体として、酢酸ビニル含有量が41質量%のものを用いたため、引張強さが不合格となり、マレイン酸変性ポリエチレンを含まないため、耐摩耗性が不合格であった。また、水酸化アルミニウムの配合量が少ないため、難燃性が不足している。更に比較例6は、架橋剤が少ない為、伸び老化残率が80%を下回っており、耐熱性が合格しない。比較例7、8もエチレン−酢酸ビニル共重合体として、酢酸ビニル含有量が41質量%のものを用い、難燃性は合格しているものの、比較例7は、引張強さが不足している。また、マレイン酸変性ポリエチレンを用いているため、耐磨耗性は合格しているものの、硬さが94となり硬すぎた。比較例8については、架橋剤が多く、硬くなりすぎ、デュロA硬さでは測定できず、さらに硬いものを測定するのに用いられるデュロD硬さを測定したところ、50であり、また耐熱性も合格しない。
比較例9、10は、マレイン酸変性ポリエチレンの配合量を40質量%としたため、耐摩耗性は優れているものの、硬くなりすぎ、比較例8と同様にデュロA硬さでは測定できず、デュロD硬さを測定したところ、59、51であった。またマレイン酸変性ポリエチレンの配合量が多いため、樹脂組成物の溶融粘度が上昇し、押出機への負荷が高くなり、押出加工性に問題が生じた。更に比較例10は、架橋助剤が少なく、耐熱性が合格しない。
【符号の説明】
【0038】
1 導体
2 他の層(例えば、セパレータ)
3 耐摩耗性難燃性樹脂組成物を用いてなる架橋被覆層
4 他の被覆層
5 内部導電層
10 耐摩耗性絶縁電線
20 耐摩耗性絶縁電線
30 耐摩耗性絶縁電線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)エチレン含有量が65質量%以上75質量%未満のエチレンプロピレンゴムを50〜90質量%、(b)酢酸ビニル含有量が28質量%以下のエチレン−酢酸ビニル共重合体を5〜45質量%、及び(c)マレイン酸で変性された直鎖状低密度ポリエチレンを5〜30質量%を含有するベース樹脂成分100質量部に対し、(d)水酸化アルミニウムを50〜120質量部、(e1)架橋剤1〜5質量部を含有することを特徴とする耐摩耗性難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
(a)エチレン含有量が65質量%以上75質量%未満のエチレンプロピレンゴムを50〜90質量%、(b)酢酸ビニル含有量が28質量%以下のエチレン−酢酸ビニル共重合体を5〜45質量%、及び(c)マレイン酸で変性された直鎖状低密度ポリエチレンを5〜30質量%を含有するベース樹脂成分100質量部に対し、(d)水酸化アルミニウムを50〜120質量部、(e2)架橋助剤1〜10質量部を含有することを特徴とする耐摩耗性難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2項記載の耐摩耗性難燃性樹脂組成物を架橋させてなる成形物品。
【請求項4】
導体外周の最外層に請求項1又は2記載の耐摩耗性難燃性樹脂組成物を用いてなる被覆層が形成され、該被覆層が架橋された絶縁電線であって、該絶縁電線のJASO 618の耐摩耗性試験のスクレープ試験結果が800回以上であることを特徴とする耐摩耗性絶縁電線。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−82277(P2012−82277A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−228174(P2010−228174)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(591086843)古河電工産業電線株式会社 (40)
【Fターム(参考)】