説明

耐放射線性のフッ化物結晶、特にフッ化カルシウム結晶の製造

【課題】紫外線放射に対して高い耐放射線性を有するフッ化物結晶、特にフッ化カルシウム結晶を製造する方法を提供する。
【解決手段】アルカリ金属フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物を含有する結晶粉末6を供給して結晶原料塊を形成するステップと、結晶原料塊を結晶成長ユニット内で溶融するステップと、溶融した結晶原料塊を冷却により凝固させるステップと、を含む方法。複合フルオロ酸のアンモニウム塩7及び脂肪族アルコール8を前記結晶粉末6又は前記結晶原料塊に添加して、酸化物系不純物を減らす。この方法により製造したフッ化物結晶、及び該フッ化物結晶から形成した光学コンポーネント。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線放射に対して高い耐放射線性を有するフッ化物結晶、特にフッ化カルシウム結晶を製造する方法であって、アルカリ金属フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物を含有する結晶粉末を供給して結晶原料塊を形成するステップと、結晶原料塊を結晶成長ユニット内で溶融するステップと、溶融した結晶原料塊を冷却により凝固させるステップと、を含む方法に関する。本発明は、この方法により製造したフッ化物結晶、及びこのようなフッ化物結晶から製造した光学コンポーネントにも関する。
【背景技術】
【0002】
大型、高均質、且つ理想的には無散乱の、アルカリ金属フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物、特にCaFの単結晶(又はインゴット)は、通常は一段階又は多段階方法で成長炉内の結晶原料塊から製造される。このような結晶、特にフッ化カルシウム結晶は、(近)紫外線範囲の波長で、例えば193nmで高い透過率を有する。したがって、これらは、投影又は照明ユニットにおいて例えばレンズ、プリズム等の透過型光学素子として、又はマイクロリソグラフィ用のレーザシステムにおいてビーム形成素子として用いることができる。言うまでもなく、単結晶だけでなく、例えば特許文献1に記載されているように、光学コンポーネントを製造するために複数相からなるフッ化物結晶材料を用いることも可能であり得る。
【0003】
特に、結晶材料を、例えば50mJ/cmよりも高いエネルギー密度で高い放射線照射量を有するレンズ位置、照明位置、及びレーザシステム位置で用いる場合、結晶材料が構造的な結晶欠陥(傷)を有していれば、例えばエキシマレーザにより生成される強いUV放射線が用いられることにより結晶材料が損傷を受けるという問題がある。このような構造的な結晶欠陥は、特に、結晶化中の外来原子又は外来粒子の取り込みにより引き起こされ得る結晶構造における欠陥である。強力なUV照射により、放射線量の増加に伴い結晶の透過率を不可逆的に低下させる色中心が傷に形成される。高純度結晶の場合、吸収係数は、放射線量を増加させると飽和値に達する傾向があり、この飽和値は、本出願人による特許文献2に記載されているように、フッ化物材料の耐レーザ性の特性測度としての役割を果たし得る。
【0004】
構造的な結晶欠陥には、適切に制御された成長・熱処理工程により影響を及ぼすことができることが基本的に知られている。したがって、例えば、特許文献3は、光学特性を改善したフッ化カルシウムの単結晶を、これに対して特定の温度プロファイルを有する熱処理工程の実行により製造する方法を開示している。
【0005】
特に、この技術の結果として成長装置内の結晶原料塊に導入される微量の酸素(ppm範囲)でさえも、結晶原材料又は結晶原料塊の溶融物において望ましくない化学的副反応を引き起こすことも知られている。このような副反応は、結晶格子への外来原子又は外来イオンの取り込みによる結晶欠陥の形成、及び金属酸化物、例えばCaO、PbO、又はMgOの微視的な小ささの粒子の沈殿にもつながり、したがって吸収又は散乱に起因する結晶の光学特性の低下につながる。
【0006】
このような酸素欠陥部位の形成には、適切な保護ガス雰囲気の使用及びスカベンジャの使用により影響を及ぼすことができる。スカベンジャは、浄化剤、すなわち、結晶原料から不純物を除去する役割を果たす物質である。フッ化物含有結晶の場合、PbF等の酸素スカベンジャをこの目的で通常は用いる。PbFの添加が、酸化物、水酸化物、又は水の実質的除去につながる化学反応を引き起こすことが分かっている。この場合、例えば、フッ化カルシウムの融点よりも数百℃低い温度でも揮発性である物質、例えばPbO等が、600℃〜900℃の温度範囲で形成される。
【0007】
この場合、不純物は、結晶周囲の雰囲気中に蒸発又は昇華し、そこで設備(成長炉)から除去することができる。このような手順は、例えば非特許文献1に記載されている。例えば小角粒界に沿って析出する結晶中の不純物を、このような精製工程により最小化することもできる。
【0008】
しかしながら、例えば特許文献4から、PbFの形態の結晶スカベンジャ(crystalline scavenger)の使用は、耐レーザ性の観点から、結晶中の異種金属酸化物(PbO)又はフッ化物(PbF)のかなりの残渣をもたらす可能性があり、これらを蒸留/昇華により完全に除去できないことが知られている。
【0009】
この問題を解決するために、例えば非特許文献2では、スカベンジャとしてPbFの代わりに別の金属フッ化物、すなわちZnFを用いることを提案している。特許文献5も、ZnFの形態のスカベンジャを複数の工程ステップで用いるフッ化物結晶の製造を記載している。しかしながら、ZnF及び同じくそこから形成されるZnOは、PbF及びPbOよりも高い温度で蒸発する。さらに、Zn残渣は、150nm〜約170nmのUV波長範囲で吸収も引き起こし、193nmで耐レーザ性に影響も及ぼす。
【0010】
特許文献6は、スカベンジャ、例えばテフロン(登録商標)、及び/又は金属フッ化物、例えばPbF、CoF、及びMnFを用いた、フッ化カルシウム結晶の製造を記載しているが、上述の問題はこれらのスカベンジャ材料の場合にも生じ得る。特許文献7も、固体の形態、例えばPbF、NHF、NHF・HF、若しくはポリテトラフルオロエチレン(テフロン)、又はガスの形態、例えばHF、F、若しくはNFの形態で供給されるフッ素化材料を利用する、フッ化物結晶を製造する方法を記載している。
【0011】
特許文献8は、スカベンジャ残渣に関する問題を回避するために、結晶スカベンジャに加えて反応性フッ素を含有する少なくとも1つの物質を含む反応ガスを用いることを提案している。これは、結晶中のスカベンジャ、例えばPbOの残渣の割合を最小化することができると言われている。したがって、例えば、反応式2PbO+CF→2PbF+COに従って反応するCFを反応ガスとして用いることが提案されている。この反応で改質したPbFは、酸素含有化合物と再度反応させることができるか、又は反応相手がもはや存在しない場合、これがPbOよりも若干低い沸点を有するため除去が容易であることを利用することができる。形成された第2化合物、つまりCOは、ガス状であり、減圧下で容易に除去することができる。
【0012】
しかしながら、特許文献4に記載の方法はいくつかの欠点も有する。PbFの沸点は、大気圧でPbOよりも約200℃しか低くないため、PbFが残ることで耐レーザ性を低下させ得る。PbOの蒸気圧(1500℃での蒸気圧、53.3mbar(40torr))は、PbFの蒸気圧(1500℃での蒸気圧、600mbar(450torr))の約1/10だが、鉛(Pb)化合物は、例えば成長炉内の黒鉛ライニング又はアクセス困難な場所に析出し得るため、鉛の全部を設備から除去することができるとは想定できない。さらに、PbO+CF→PbF+CO(酸化還元反応)の形態の副反応が生じる可能性があり、ブードア平衡(CO2+C⇔2CO)の結果として炭素が黒鉛の形態で結晶中に(黒色含有物として)取り込まれ、これが同様に透過率を低下させて結晶の他の光学特性を低下させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】英国特許第1 104 182号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第10 2009 030 203号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第0 939 147号明細書
【特許文献4】独国特許出願公開第101 42 651号明細書
【特許文献5】欧州特許出願公開第0 869 203号明細書
【特許文献6】欧州特許出願公開第0 919 646号明細書
【特許文献7】国際公開第01/025001号パンフレット
【特許文献8】独国特許出願公開第101 42 651号明細書
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】K. Th. Wilke, Kristallzuchtung, Deutscher Verlag der Wissenschaft, Berlin1988, page 630 ff.
【非特許文献2】"Czochralski growth of VV-grade CaF2 single crystals using ZnF2 additive as a scavenger", J. Chryst. Growth 222, (2001), pages 243-248.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、高い耐放射線性を有するフッ化物結晶を製造することができる方法を提供することである。本発明のさらに別の目的は、この方法により製造したフッ化物結晶、及びこのような結晶からできている光学コンポーネントを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この目的は、複合フルオロ酸(complex fluoro acid)のアンモニウム塩及び脂肪族アルコールを結晶粉末又は結晶原料塊に添加して酸素欠陥部位を減らすか又は酸化物系(oxidic)不純物を減らす、冒頭で述べたタイプの方法により達成される。
【0017】
本発明によれば、スカベンジャとしてのPbF又は他の無機金属フッ化物、例えばZnF、CdF、CoF、SnF等の使用を完全になくすことが提案される。望ましくない酸化物系物質をフッ化物系(fluoridic)物質に(例えば、Ca(OH)をCaFに)転化するために、このようなスカベンジャの代わりに、複合フルオロ酸のアンモニウム塩と脂肪族アルコールの形態のエステル化剤とを利用する。協奏的工程で、アンモニウム塩及び脂肪族アルコールのエステル化反応(アルコールのエステルとフルオロ酸及び中間体としてのHFそれぞれが形成される)を、酸化物系化合物からフッ化物系アルカリ土類金属化合物を生成する(例えば、Ca(OH)+2HF→CaF+2HO)ために利用する。形成されたエステルは、適当な工程条件下(低真空、高温)で容易に除去することができる。他の反応生成物(NH、HO)はガス状又は蒸気形態、すなわち、同様に適当な工程条件下(低真空、高温)で揮発性である。凝縮水は、蒸留により共沸除去することができる。したがって、本発明の工程において、結晶塊又は結晶粉末中の酸素欠陥を、また耐レーザ性を低下させるPb、Zn等の化合物の含有量も、低減することができるため、結晶材料の耐レーザ性を高めることができる。アンモニウム塩及び脂肪族アルコールをここで結晶粉末に添加して、脂肪族アルコール懸濁液中で結晶粉末を精製するようにしてもよく、又は結晶成長炉に導入された結晶原料塊で流体−固体反応を実行してもよい。以下の説明では、本質的に、脂肪族アルコール懸濁液中で実行される第1方法変形形態を説明する。しかしながら、言うまでもなく、流体−固体反応を実行する第2方法変形形態も同様に可能である。
【0018】
本方法の一変形形態では、複合フルオロ酸は、テトラフルオロホウ酸、ヘキサフルオロリン酸、ヘキサフルオロケイ酸、及びヘキサフルオロチタン酸からなる群から選択される。言うまでもなく、上述のもの以外の複合フルオロ酸のアンモニウム塩も本発明の方法で用いることができる。アンモニウム塩は通常、結晶成長炉への移送前の懸濁液中の結晶粉末に、又は結晶原料塊に混合される。懸濁液中の上記フルオロ酸の脂肪酸アルコール(ROHと称する)との可能な反応式を以下に示す。
【0019】
ヘキサフルオロケイ酸(HSiF):
【数1】

ヘキサフルオロリン酸(HPF):
【数2】

テトラフルオロホウ酸(HBF):
【数3】

ヘキサフルオロチタン酸(HTiF):
【数4】

【0020】
上述のように、この反応で形成されたCaFを除く物質は、ガス状又は揮発性であるため、化学プラント又は結晶成長ユニットから蒸留又は排気により除去することができる。上述の反応に原材料として関与する乾燥アンモニウム(NH)は、例えばガス導入管を介して反応混合物に添加される。
【0021】
さらに別の変形形態では、脂肪族アルコールは、メタノール(CHOH)、エタノール(COH)、プロパノール(COH)、及びブタノール(COH)からなる群から選択される。本発明の方法で用いられるこれらのアルコールは、一般的な化学式C2n+1OH(式中、n=1〜4)を有する。言うまでもなく、他の脂肪族アルコールも用いることができ、用いられるアルコールは無水(water-free)でなければならない。
【0022】
一変形形態では、過剰な脂肪族アルコールを結晶粉末に添加して脂肪族アルコール懸濁液を形成する。本方法を懸濁液中で実行するこの変形形態では、フッ化カルシウム粉末及び複合フルオロ酸のアンモニウム塩のスラリー化を適切な無水脂肪族アルコール中で攪拌により行うことができ、ガス導入管を介して乾燥アンモニアを導入することができる。懸濁液は、水酸化物/フッ化物転化との協奏的エステル化反応のための反応媒体としての役割を果たす。中間体として形成されたフッ化水素酸(HF)は、アルカリ金属フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物の酸化物系成分と反応する。反応混合物は冷却する必要があり得る。結晶原料塊を形成するために、懸濁液を加熱沸騰させることで水/アルコール共沸混合物を留出させる。形成されたオルトエステル(例えば、オルトリン酸トリエチル、沸点215℃、又はホウ酸トリエチル、沸点118℃、又はオルトケイ酸テトラエチル、168℃)が、続いて減圧下で除去される。言うまでもなく、複数の異なるアルコールの混合物及び複数の異なるアンモニウム塩の混合物を本方法で任意に用いることができる。
【0023】
用いられる複合フルオロ酸のアンモニウム塩は、結晶原材料(すなわち、結晶粉末又は結晶原料塊)中の酸化物、水酸化物、及び酸素原子との完全な反応を確保する量で原材料に添加される。この量は、原材料の純度に応じて広範囲内で変動し得る。0.01重量%〜7重量%、特に0.05重量%〜5重量%の量が本発明の方法に有利であることが分かっている。
【0024】
結晶原料塊を溶融するステップは、減圧下で、特に低真空下で実行されることが好ましく、200mbar未満(not more than)、特に100mbar未満の圧力が有利であることが分かっている。
【0025】
さらに別の変形形態では、少なくとも溶融するステップは、200℃〜1450℃、好ましくは500℃〜1400℃の範囲の温度で実行される。この工程又はエステル化反応は、特に、結晶粉末が懸濁液中の添加物質と良好に反応するか、又は結晶原料塊が固相反応で良好に反応する条件下で実行される。中間体として形成されるHF(NHF)は、酸化物系アルカリ土類金属物質(例えば、Ca(OH))と反応し、アルカリ土類金属フッ化物及び水(又はアンモニア及び水)を形成し、これが反応混合物から共沸除去される。ここで用いられる温度範囲は、共沸混合物の沸点に対応する。
【0026】
結晶原料塊又は結晶粉末は通常、アルカリ金属フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物、例えばCaFを含有するが、MgF、LiF、又はドープフッ化物結晶を用いることもできる。
【0027】
さらに別の変形形態では、アンモニアが結晶粉末又は結晶原料塊に付加的に導入される。アンモニアの導入は、目標を定めた方法で、例えばガス導入管を介して、又は別の方法で実行することができる。
【0028】
本発明は、上述の方法により製造されて0.01ppm〜10ppmの複合フルオロ酸のエステルを含有するフッ化物結晶、特にフッ化カルシウム結晶にも関する。この結晶は、最初に上述のように溶融した結晶原料塊又は結晶粉末を精製し、続いて精製された結晶原料塊を冷却により凝固させることにより形成され、結晶原料塊から配向単結晶を成長させるために種結晶を用いることが可能である。言うまでもなく、全ての従来の結晶成長法、例えば、ブリッジマン・ストックバーガー法、チョクラルスキー法、又は垂直温度勾配凝固法を、大型のフッ化物単結晶の成長に用いることができる。
【0029】
上述の方法により得られるフッ化物結晶は、縮合反応で形成される(オルト)エステルを本質的に含まないか、又はこの反応生成物を無視できるほど小さな割合しか有さず、この割合は、例えば0.01ppm〜10ppmの範囲であり、フッ化物結晶から製造される光学コンポーネントの光学特性に悪影響を及ぼさない。したがって、特に高い耐レーザ性を有する(事実上)残渣のないフッ化物結晶が得られる。
【0030】
このようなフッ化物結晶、特にフッ化カルシウム結晶を用いて、10×10−4l/cm未満、好ましくは5×10−4l/cm未満の吸収係数の飽和値を有する光学コンポーネントを得ることができる。長期照射における吸収係数の飽和値は、参照により本出願に援用される本出願人による特許文献2に記載の方法により求めることができる。
【0031】
本発明のさらに他の特徴及び利点は、本発明に重要な詳細を示す図面を用いた以下の本発明の実施例の説明から、また特許請求の範囲から得ることができる。個々の特徴それぞれを、本発明の変形形態において、単独で個別に又は複数の特徴の任意の組み合わせで実現することができる。
【0032】
実施例を概略図に示し、以下の説明において説明する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】アルカリ金属フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物を含有する結晶粉末の前処理用の化学プラントを概略的に示す。
【図2】フッ化物単結晶を製造するための結晶成長ユニットを概略的に示す。
【図3】光学コンポーネントの製造に用いることができるフッ化カルシウムブランクを光学コンポーネントを含んだ状態で概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1は、反応容器2、加熱/冷却装置3(所望に応じた冷却及び加熱用)、矢印で示す出口、及び温度測定デバイス4(温度計)を有する、化学反応用に設計したプラント1を示す。容器2には、本例ではフッ化カルシウム及び酸化物系不純物を含有する結晶粉末6と、複合フルオロ酸のアンモニウム塩7とを、無水脂肪酸アルコール8中で攪拌によりスラリー化する役割を果たす攪拌器5が設けられる。
【0035】
乾燥アンモニア10が、ガス導入管9を介して容器2に導入される。発熱反応が起こると、容器2内に存在する反応混合物が加熱/冷却装置3により冷却される。懸濁液中でのアンモニウム塩7とアルコール8及び酸化物系不純物、例えばCa(OH)との反応で、これらはフッ化物、例えばCaFに転化され、ガス状材料又は使用圧力及び使用温度で揮発性である材料、特にアンモニア及び水が、さらなる反応生成物として形成され、これらは出口を介して放出又は留出させることができる。ここで、水がアルコールとの共沸混合物を形成することが利用される。反応で形成された水は、蒸留により共沸除去され得る、すなわち出口を介して水分離器(図示せず)に搬送されるため、これは有利である。
【0036】
以下において、水分離器機能を多機能プラント1における蒸留機能(図示せず)で置き換え、懸濁液6、7、8を加熱/冷却装置3により沸点で維持し、数時間の攪拌及び水の除去後、依然として存在するアルコール成分8及びさらに他の揮発性成分、特に反応で形成されたオルトエステル(例えば、オルトリン酸トリエチル、沸点215℃、又はホウ酸トリエチル、沸点118℃、又はオルトケイ酸テトラエチル、168℃)を、蒸留の終わり頃に任意に減圧又は真空を用いて留出させる。脂肪族アルコールの再使用を意図する場合、これを適当に精製して無水にしなければならない。残っている結晶残渣は、結晶原料塊14を形成し、図2に示し以下でより詳細に説明する結晶成長ユニット11に移送される。
【0037】
上述の反応では、添加するアンモニウム塩7の量を、結晶粉末6中に存在する酸化物、水酸化物、及び酸素原子と理想的には完全に反応するよう選択する。結晶粉末6の純度に応じて、この目的で必要な量は大幅に変動し得るが、通常は約0.01重量%〜7重量%、特に約0.05重量%〜5重量%の範囲である。
【0038】
言うまでもなく、他のアルカリ金属フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物のフッ化物結晶を形成するためには、結晶粉末6中のフッ化カルシウムを適当なアルカリ金属フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物で置換されなければならない。添加する複合フルオロ酸のアンモニウム塩は、特に、テトラフルオロホウ酸、ヘキサフルオロリン酸、ヘキサフルオロケイ酸、及びヘキサフルオロチタン酸のアンモニウム塩であり得る。
【0039】
図2に概略的に示す結晶成長ユニット11は、結晶原料塊14を導入してあり発熱体13を介して加熱することができる溶融坩堝12を備える。結晶原料塊14は、本例の場合、先行する工程ステップにおいて脂肪酸アルコール懸濁液中で精製した(溶融物の形態の)概ね純粋なフッ化カルシウムを含む。
【0040】
結晶成長ユニット11は、閉鎖されており、結晶原料塊14の溶融中に形成し得る残りの揮発性反応生成物を放出するための出口16を有する。
【0041】
以下で説明する方法では、低真空(通常は200mbar未満、任意に100mbar未満)を結晶成長ユニット11に加え、結晶原料塊14を溶融状態になる温度まで加熱することにより、結晶原料塊14中に存在する揮発性成分を除去することができる。このような温度は、通常は200℃〜1450℃の範囲であるが、500℃〜1400℃の範囲内の温度が特に有利であることが分かっている。言うまでもなく、使用温度はフッ化物材料の融点を超えない。
【0042】
図1に関連して説明した溶融に先立つステップにおける精製により、結晶原料塊14は、酸素欠陥及びスカベンジャ残量を事実上有さないため、結晶材料の非常に高い耐放射線性を必要とする用途に特に適している。続いて、単結晶を結晶成長ユニット11内の結晶原料塊14から成長させるが、これは例えば、結晶核(図示せず)を結晶原料塊14と接触させ、溶融物を徐冷して単結晶(インゴット)を形成することにより行われる。
【0043】
上述の方法で得られるフッ化カルシウム結晶では、反応において形成されるエステルの割合が0.01ppm(重量比)〜10ppm(重量比)の範囲である。この割合は、残りのエステル残基がフッ化物結晶の耐放射線性に悪影響を及ぼさないほど十分に低く、例えば本出願人による特許文献2に記載の方法で求めることができる吸収係数の飽和値が、10×10−4l/cm未満、特に5×10−4l/cmとなる。
【0044】
本発明を以下の実施例で簡単に説明する。
【実施例】
【0045】
協奏的エステル化反応に必要な最小量の脂肪酸アルコールを、以下の反応式(R=C)の化学量論に従って求める(本例ではヘキサフルオロリン酸アンモニウムを用いる)。
【数5】

【0046】
反応が脂肪酸アルコール懸濁液中で起こるため、アルコール成分が過度に存在する。上記方程式に示す反応生成物(CaFを除く)は留出し、特に、形成された水は共沸混合物(エタノール/水混合物、沸点約78℃)として留出させることができる。形成される(リン酸の)オルトエステル及び共沸混合物の形成は、出口を介して得られる留出物(図1の矢印を参照)の温度を用いて監視することができる。
【0047】
本例では、いずれも超微粉化したアンモニウム塩としての43gのNHPF(0.064mol)及び312.32gのフッ化カルシウム(CaF)結晶粉末(4mol)を、内部温度測定デバイス(温度センサ4)、機械攪拌器5、水分離器(図示せず)、及びガス導入管9を設けた図1の反応容器2内の乾燥エタノール1200ml中に懸濁させた。乾燥アンモニア2.2g(0.128mol)を、続いてガス導入管を通して導入し、発熱反応の場合、反応混合物をごくわずかに沸騰するように冷却し、共沸蒸留を続いて2時間実行した。次に、水分離器を蒸留アタッチメントで置き換え、残りの溶媒及び形成されたオルトエステルを(終わり頃に減圧を用いて)留出させた。残っている残渣を成長炉に移送し、そこからCaF単結晶を引き上げるようにした。
【0048】
上述の方法で得たフッ化カルシウム結晶では、反応において、例えば形成されたオルトリン酸エステルの割合が約5ppmだけであった。他の揮発性反応生成物も、結晶から事実上完全に除去されたため、この方法で得られたフッ化カルシウム結晶は特に高い耐放射線性を有するものとなった。
【0049】
これを、上述の方法から得たCaF素地(blank)20又は適当な標本22(図3を参照)を50mJ/cmよりも高いエネルギー密度で照射することにより検査し、標本の吸収係数(k値)を1.5ギガパルス(10パルス)後にそれぞれ求めた(特許文献2を参照)。パルス数(例えば、0ギガパルス、1.5ギガパルス、3ギガパルス、4.5ギガパルス、6ギガパルス)に対して得たk値をプロットすると、飽和挙動が示され、吸収係数の飽和値kは10×10−4l/cm未満、ほとんどの場合は5×10−4l/cm未満であった。例えば図3に示すようなレンズ21の形態の、高い耐放射線性を有する光学コンポーネントを、CaF素地20から製造することができる。レンズ21は、例えば、投影レンズアセンブリ又は(液浸)リソグラフィ用の照明システムで高レベルの照射を受けるレンズの最終レンズを形成することができる。
【0050】
アルコール懸濁液中の結晶粉末6の上述の精製の代替として、図2の結晶成長ユニット11内の結晶原料塊14でのみ、すなわち流体−固体反応でのみ精製を実行することも可能である。このような不均一反応では、反応物は、互いに反応できるように界面に集まるか又は一方の相から他方の相に移動しなければならない。このような反応にアンモニアを導入するために、ガス導入管15を結晶成長ユニット11に設ける。このような手順を選択する場合、脂肪族アルコールもここで導入することができる。酸化物系不純物が固体形態で、例えばCaOとして結晶原料塊14中に存在するが、反応は、他の点では上述の方法で進む(3CaO+NHPF+3ROH+2NH→3CaF+(RO)PO↑+3NH↑+5HO↑、化学量論的量を超えた過剰な脂肪族アルコールを用いなければならない)。適当な温度プロファイルを加熱に用いた場合、流体−固体反応で形成される揮発性反応生成物を、出口16を介して結晶成長ユニット11から除去することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線放射に対する高い耐放射線性を有するフッ化物結晶、特にフッ化カルシウム結晶を製造する方法であって、
アルカリ金属フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物を含有する結晶粉末(6)を供給して結晶原料塊(14)を形成するステップと、
該結晶原料塊(14)を結晶成長ユニット(11)内で溶融するステップと、
前記溶融した結晶原料塊(14)を冷却により凝固させるステップとを備え、
複合フルオロ酸のアンモニウム塩(7)及び脂肪族アルコール(8)を前記結晶粉末(6)又は前記結晶原料塊(14)に添加して、酸化物系不純物を減らす、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記複合フルオロ酸は、テトラフルオロホウ酸(HBF)、ヘキサフルオロリン酸(HPF)、ヘキサフルオロケイ酸(HSiF)、及びヘキサフルオロチタン酸(HTiF)からなる群から選択される、方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法において、前記脂肪族アルコール(8)は、メタノール(CHOH)、エタノール(COH)、プロパノール(COH)、及びブタノール(COH)からなる群から選択される、方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法において、過剰な脂肪族アルコール(8)を前記結晶粉末(6)に添加して脂肪族アルコール懸濁液を形成する、方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法において、前記複合フルオロ酸の前記アンモニウム塩を、0.01重量%〜7重量%、好ましくは0.02重量%〜5重量%の量で前記結晶粉末(6)又は前記結晶原料塊(14)に添加する、方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法において、少なくとも前記溶融するステップを、200mbar未満、好ましくは100mbar未満の圧力下で実行する、方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法において、少なくとも前記溶融するステップを、200℃〜1450℃、好ましくは500℃〜1400℃の範囲の温度で実行する、方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法において、アンモニア(10)を前記結晶粉末(6)又は前記結晶原料塊(14)に付加的に導入する、方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法により製造したフッ化物結晶、特にフッ化カルシウム結晶(20)であって、複合フルオロ酸のエステルを0.01ppm〜10ppm含有する、フッ化物結晶。
【請求項10】
請求項9に記載のフッ化物結晶、特にフッ化カルシウム結晶(20)から製造した光学コンポーネント(21)であって、10×10−4l/cm未満、好ましくは5×10−4l/cm未満の吸収係数の飽和値を有する、光学コンポーネント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−121795(P2012−121795A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−250709(P2011−250709)
【出願日】平成23年11月16日(2011.11.16)
【出願人】(503263355)カール・ツァイス・エスエムティー・ゲーエムベーハー (435)
【Fターム(参考)】