説明

耐水性グリース組成物、並びにウォータポンプ用転がり軸受、波力発電機用転がり軸受及び浚渫機用転がり軸受

【課題】水分が混入した場合でも、白色組織剥離及び腐食の発生を抑制し、良好な潤滑を長時間維持することが可能な耐水性グリース組成物、並びに前記耐水性グリース組成物を封入してなり、耐水性に優れるウォータポンプ用、波力発電機用または浚渫機用の各転がり軸受を提供する。
【解決手段】 鉱油及び合成油から選ばれる少なくとも1種の潤滑油からなり、40℃における動粘度が70〜250mm/sである基油と、増ちょう剤とを含み、かつ、カルボン酸系防錆添加剤、カルボン酸塩系防錆添加剤及びエステル系防錆添加剤から選ばれる少なくとも1種をグリース全量の0.1〜20質量%の割合で含有するグリース組成物をウォータポンプ用、波力発電機用または浚渫機用の各転がり軸受に封入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水が混入した場合でも優れた潤滑性能を示す耐水性のグリース組成物に関する。また、本発明は、水と接触するウォータポンプや波力発電機、浚渫機に組み込まれ、水が混入した場合でも優れた潤滑寿命を示す転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の水冷エンジンに冷却水を圧送して循環するウォータポンプ、波エネルギーを利用して発電する波力発電装置、海洋や湖等の底泥を浚渫、搬送、後処理する種々の浚渫船や浚渫ロボットは、絶えず水と接触することから、これらに組み込まれる転がり軸受では、封入グリースに水が混入して潤滑不良が誘発されることが多い。このようなグリースへの水分の影響について、例えば、古村らは、潤滑油(#180タービン油)に6%の水分が混入すると、混入しない場合に比べて転がり疲れ寿命が数分の1から20分の1にまで低下することを報告している(古村恭三郎、城田伸一、平川清:表面起点および内部起点の転がり疲れについて、NSK Bearing Journal、No.636、pp.1-10、1977)。また、Schatzbergらは、潤滑油中に僅か100ppmの水分が混入するだけで鋼の転がり強さが32〜48%も低下することを報告している(P.Schtzberg、I.M.Felsen:Effects of water and oxygen during rolling contact lubrication、Wear 12、pp.331-342、1968)。
【0003】
このような寿命低下は、混入した水分から発生した水素が軸受材料に作用し、白色組織剥離と呼ばわれる金属剥離を引き起こすことが考えられている。このような剥離を防ぐために、亜硝酸ナトリウム等の不働態酸化剤を添加したグリース(例えば、特許文献1参照)、有機アンチモン化合物や有機モリブデン化合物を添加したグリース(例えば、特許文献2参照)、粒径2μm以下の無機系化合物を添加したグリース(例えば、特許文献3参照)等のように、グリースを改良することが行われている。これらは、転がり接触部に添加剤に由来する被膜を生成して軸受材料への水素の浸入を防いでいるが、被膜が形成されるまでの間に振動や速度変化による転動体の滑りが起こると、転がり接触部で金属剥離が起こる場合がある。
【0004】
グリースの改良以外の対策として、軸受材料にステンレス鋼を使用したり(例えば、特許文献4参照)、転動体をセラミックス製にすること(例えば、特許文献5参照)等が提案されているが、これら材料からなる軸受は一般に高価となる。
【0005】
また、軸受鋼のような鉄は、水により容易に腐食(錆)が生じ、軸受から異音が発生するという問題がある。水の混入が考えられる軸受では、耐腐食性を有することも非常に重要であり、上記と同様の方法により耐腐食性を同時に付与することがなされているが、錆の発生を抑制する効果が十分に得られていない。
【0006】
【特許文献1】特許第2878749号公報
【特許文献2】特許第3512183号公報
【特許文献3】特開平9−169989号公報
【特許文献4】特開平3−173747号公報
【特許文献5】特開平4−244624号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、水分が混入した場合でも、白色組織剥離及び腐食の発生を抑制し、良好な潤滑を長時間維持することが可能な耐水性グリース組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、このような耐水性グリース組成物を封入してなり、耐水性に優れるウォータポンプ用、波力発電機用または浚渫機用の各転がり軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は以下の耐水性グリース組成物、並びにウォータポンプ用、波力発電機用または浚渫機用の各転がり軸受を提供する。
(1)水と接触する機器や装置に組み込まれる転がり軸受に封入されるグリース組成物であって、鉱油及び合成油から選ばれる少なくとも1種の潤滑油からなり、40℃における動粘度が70〜250mm/sである基油と、増ちょう剤とを含み、かつ、カルボン酸系防錆添加剤、カルボン酸塩系防錆添加剤及びエステル系防錆添加剤から選ばれる少なくとも1種をグリース全量の0.1〜20質量%の割合で含有することを特徴とする耐水性グリース組成物。
(2)水冷エンジンに冷却水を圧送して循環させるウォータポンプに組み込まれる転がり軸受であって、内輪と外輪との間に複数の転動体を転動自在に配設してなり、前記内輪及び前記外輪の間に形成され前記転動体が配設された空間内に上記(1)記載の耐水性グリース組成物が封入されていることを特徴とするウォータポンプ用転がり軸受。
(3)波力発電機に組み込まれる転がり軸受であって、内輪と外輪との間に複数の転動体を転動自在に配設してなり、前記内輪及び前記外輪の間に形成され前記転動体が配設された空間内に上記(1)記載の耐水性グリース組成物が封入されていることを特徴とする波力発電機用転がり軸受。
(4)順接船や浚渫ロボットに組み込まれる転がり軸受であって、内輪と外輪との間に複数の転動体を転動自在に配設してなり、前記内輪及び前記外輪の間に形成され前記転動体が配設された空間内に上記(1)記載の耐水性グリース組成物が封入されていることを特徴とする浚渫機用転がり軸受。
【発明の効果】
【0009】
本発明の耐水性グリース組成物は、特定動粘度の基油を用いることで潤滑性を良好に維持するとともに、カルボン酸系、カルボン酸塩系、エステル系の各防錆添加剤を含有することで優れた耐腐食性及び白色組織剥離に対する耐性を発現する。
【0010】
また、本発明のウォータポンプ用、波力発電機用または浚渫機用の各転がり軸受は、このような耐水性グリース組成物を封入したことにより、水分が混入した場合でも優れた潤滑寿命を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に関して詳細に説明する。
【0012】
本発明の耐水性グリース組成物において、基油は、鉱油及び合成油から選ばれ、その40℃における動粘度が70〜250mm/sである。動粘度を前記範囲とすることで、低温起動時の異音の発生や、高温での油膜切れ等の不具合を解消することができる。このような効果をより確実にするために、40℃における動粘度は、120〜185mm/sが好ましい。
【0013】
鉱油は、減圧蒸留、油剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、硫酸洗浄、白土精製、水素化精製等を、適宜組み合わせて精製したものを用いることができる。
【0014】
合成油としては、炭化水素系油、芳香族基油、エステル系油、エーテル系油等が挙げられる。炭化水素系油としては、ノルマルパラフィン、イソパラフィン、ポリブテン、ポリイソブチレン、1−デセンオリゴマー、1−デセンとエチレンコオリゴマー等のポリ−α−オレフィンまたはこれらの水素化物等が挙げられる。芳香族系油としては、モノアルキルベンゼン、ジアルキルベンゼン等のアルキルベンゼン、あるいはモノアルキルナフタレン、ジアルキルナフタレン、ポリアルキルナフタレン等のアルキルナフタレン等が挙げられる。エステル系油としては、ジブチルセバケート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート、ジオクチルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジトリデシルグルタレート、メチル・アセチルシノレート等のジエステル油、あるいはトリオクチルトリメリテート、トリデシルトリメリテート、テトラオクチルピロメリテート等の芳香族エステル油、更にはトリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンベラルゴネート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールベラルゴネート等のポリオールエステル油、更にはまた、多価アルコールと二塩基酸・一塩基酸の混合脂肪酸とのオリゴエステルであるコンプレックスエステル油等が挙げられる。エーテル系油としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールモノエーテル、ポリプロピレングリコールモノエーテル等のポリグリコール、あるいはモノアルキルトリフェニルエーテル、アルキルジフェニルエーテル、ジアルキルジフェニルエーテル、ペンタフェニルエーテル、テトラフェニルエーテル、モノアルキルテトラフェニルエーテル、ジアルキルテトラフェニルエーテル等のフェニルエーテル油等が挙げられる。これらの潤滑油は、単独または混合物として用いることができ、上述した好ましい動粘度に調整されるが、中でも40℃における動粘度が120〜185mm/sのエステル油を単独使用した基油が好ましい。
【0015】
増ちょう剤は、有機系及び無機系の何れの増ちょう剤も使用できるが、環境への影響を考慮すると重金属を含まないものが好ましい。具体的には、リチウム石けん、カルシウム石けん、アルミニウム石けん、マグネシウム石けん、ナトリウム石けん等の金属石けんまたはこれらの複合石けん、ウレア化合物、ベントナイト、シリカ、カーボンブラック等を好適に使用できる。中でも、金属石けん及びウレア化合物が好ましい。また、これらは単独でも、混合して使用してもよい。
【0016】
増ちょう剤の配合量は、上記基油とともにグリースを形成し維持できる範囲であれば制限はないが、グリース全量の5〜35質量%とすることが好ましく、5〜25質量%がより好ましい。尚、混合使用の場合は、合計量でこの範囲とする。
【0017】
本発明では、カルボン酸系防錆添加剤、カルボン酸塩系防錆添加剤及びエステル系防錆添加剤から選ばれる少なくとも1種を添加する。添加量は、単独使用、混合使用の場合ともグリース全量に対して0.1〜20質量%である。添加量が0.1質量%未満では、白色組織剥離や腐食を抑制する効果が十分に得られない。一方、添加量が20質量%を超えると、軸受部材表面への防錆剤の付着量が多くなりすぎ、本発明のグリース組成物に由来する酸化膜等の生成を阻害して白色組織剥離が発生するおそれがでてくる。防錆性能を確かにし、白色組織剥離を考慮すると、添加量はグリース全量に対して0.25〜15質量%とすることが好ましい。
【0018】
カルボン酸系防錆剤としては、モノカルボン酸では、ラウリン酸、ステアリン酸等の直鎖脂肪酸、並びにナフテン核を有する飽和カルボン酸が挙げられる。また、ジカルボン酸では、コハク酸、アルキルコハク酸、アルキルコハク酸ハーフエステル、アルケニルコハク酸、アルケニルコハク酸ハーフエステル、コハク酸イミド等のコハク酸誘導体、ヒドロキシ脂肪酸、メルカプト脂肪酸、ザルコシン誘導体、並びにワックスやペトロラタムの酸化物等の酸化ワックス等が挙げられる。
【0019】
カルボン酸塩系防錆添加剤としては、脂肪酸、ナフテン酸、アビエチン酸、ラノリン脂肪酸、アルケニルコハク酸、アミノ酸誘導体の各金属塩等が挙げられる尚、金属元素としては、コバルト、マンガン、亜鉛、アルミニウム、カルシウム、バリウム、リチウム、マグネシウム、銅等が挙げられる。
【0020】
エステル系防錆添加剤としては、ソルビトール、ペンタエリスリトール、ショ糖、グリセリン等の多価アルコールとオレイン酸、ラウリン酸等のカルボン酸との部分エステルや、オレイルアルコール、ステアリルアルコール、ラウリルアルコール等の高級脂肪酸アルコール等が挙げられる。
【0021】
白色組織剥離の発生を抑制するには、上記の防錆添加剤による作用に加えて、転がり接触部に酸化膜が形成しやすくなれば、より効果的となる。そこで、耐水性グリース組成物には、下記の一般式(1)で表されるジアルキルジチオカルバミン酸系化合物、一般式(2)で表されるジアルキルジチオリン酸系化合物、一般式(3)〜(5)で表される有機亜鉛化合物、一般式(6)で表されるアルキルキサントゲン酸亜鉛から選ばれる少なくとも1種の有機金属塩を添加することが好ましい。
【0022】
【化1】

【0023】
一般式(1)、(2)において、Mは金属種を示し、具体的にはSb、Bi、Sn、Ni、Te、Se、Fe、Cu、Mo、Znから選択できる。また、R、Rは、同一基であっても、異なる基であってもよく、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基から選択される。R、Rとして特に好ましい基としては、1,1,3,3−テトラメチルブチル基、1,1,3,3−テトラメチルヘキシル基、1,1,3−トリメチルヘキシル基、1,3−ジメチルブチル基、1−メチルウンデカン基、1−メチルヘキシル基、1−メチルペンチル基、2−エチルブチル基、2−エチルヘキシル基、2−メチルシクロヘキシル基、3−ヘプチル基、4−メチルシクロヘキシル基、n−ブチル基、イソブチル基、イソプロピル基、イソヘプチル基、イソペンチル基、ウンデシル基、エイコシル基、エチル基、オクタデシル基、オクチル基、シクロオクチル基、シクロドデシル基、シクロペンチル基、ジメチルシクロヘキシル基、デシル基、テトラデシル基、ドコシル基、ドデシル基、トリデシル基、トリメチルシクロヘキシル基、ノニル基、プロピル基、ヘキサデシル基、ヘキシル基、ヘニコシル基、ヘプタデシル基、ヘプチル基、ペンタデシル基、ペンチル基、メチル基、第三ブチルシクロヘキシル基、第三ブチル基、2−ヘキセニル基、2−メタリル基、アリル基、ウンデセニル基、オレイル基、デセニル基、ビニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、ヘプタデセニル基、トリル基、エチルフェニル基、イソプロピルフェニル基、第三ブチルフェニル基、第二ペンチルフェニル基、n−ヘキシルフェニル基、第三オクチルフェニル基、イソノニルフェニル基、n−ドデシルフェニル基、フェニル基、ベンジル基、1−フェニルメチル基、2−フェニルエチル基、3−フェニルプロピル基、1,1−ジメチルベンジル基、2−フェニルイソプロピル基、3−フェニルヘキシル基、ベンズヒドリル基、ビフェニル基等があり、またこれらの基はエーテル基を有していてもよい。
【0024】
一般式(3)〜(5)において、R、Rは、同一基であっても、異なる基であってもよく、炭素数1〜18の炭化水素基及び水素原子から選択される。特に、R、Rが共に水素原子である、メルカプトベンゾチアゾール亜鉛(一般式(3))、ベンゾアミドチオフェノール亜鉛(一般式(4))、メルカプトベンゾイミダゾール亜鉛(一般式(5))を好適に使用することができる。
【0025】
一般式(6)において、Rは炭素数1〜18の炭化水素基である。
【0026】
上記の有機金属塩の添加量は、単独使用、混合使用ともに、グリース全量に対して0.1〜20質量%である。有機金属塩の添加量が、0.1質量%未満では酸化膜の形成促進に効果がなく、20質量%を超えても増分に見合う効果の向上が得られないばかりか、軸受材料との酸化反応を異常に促進して腐食や異常摩耗を発生させるおそれがある。有機金属塩の添加量は、0.5〜10質量%の範囲が特に好ましい。
【0027】
更に、グリース組成物には、必要に応じて、従来からグリース組成物に添加されているその他の添加剤を添加してもよい。例えば、フェニル−1−ナフチルアミン、フェニル−2−ナフチルアミン、ジフェニルアミン、フェニレンジアミン、オレイルアミドアミン、フェノチアジン等のアミン系酸化防止剤;p−t−ブチル−フェニルサリシレート、2,6−ジ−t−ブチル−p−フェニルフェノール、2,2´−メチレンビス(4−メチル−6−t−オクチルフェノール)、4、4´−ブチリデンビス−6−t−ブチル−m−クレゾール、テトラキス〔メチレン−3−(3´,5´−ジ−t−ブチル−4´−ヒドキシフェニル)プロピオネート〕メタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、n−オクタデシル−β−(4´−ヒドロキシ−3´,5´−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート、2−n−オクチル−チオ−4,6−ジ(4´−ヒドロキシ−3´,5´−ジ−t−ブチル)フェノキシ−1,3,5−トリアジン、4、4´−チオビス(6−t−ブチル−m−クレゾール)、2−(2´−ヒドロキシ−3´−t−ブチル−5´−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール等のヒンダードフェノール等のフェノール系酸化防止剤;オレイン酸やステアリン酸等の脂肪酸、ラウリルアルコールやオレイルアルコール等のアルコール、ステアリルアミン、セチルアミン等のアミン、リン酸トリクレジル等のリン酸エステル、動植物油等の油性向上剤;有機モリブデン等の極圧剤;ベンゾトリアゾール等の金属不活性化剤等を添加することができる。中でも、環境面から重金属を含まないものが好ましい。これら添加剤の添加量は、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に制限されるものではないが、グリース組成物全量の0.1〜20質量%が適当であり、0.1〜15質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜10質量%、特に好ましくは0.1〜5質量%である。添加量が0.1質量%未満では添加剤の効果が十分に現われず、20質量%を超えて添加しても効果の向上が望めない上、相対的に基油量が少なくなるため潤滑性が低下するおそれがある。
【0028】
また、本発明は上記の耐水性グリース組成物を封入してなるウォータポンプ用、波力発電機用または浚渫機用の各転がり軸受に関する。
【0029】
図1は、自動車のエンジンの冷却水を圧送して循環させるウォータポンプの一例を示す断面図である。図示されるウォータポンプ1は、インペラ14が固定された回転軸12を、軸方向に間隔を置いて配置した転がり軸受10によりケーシング13に支承して構成されている。冷却水は、インペラ14と転がり軸受10との間に配置されたメカニカルシール15により密封されている。本発明では、転がり軸受10に上記の耐水性グリース組成物を封入する。尚、符号11はプーリであり、エンジンに接続するベルトによりウォータポンプ1を駆動する。
【0030】
また、図2は自走式の浚渫機の一例を示す概略図である。図示される浚渫機21は、クローラー23で走行し、その前端部には、垂直方向の枢支軸26及び水平方向の枢支軸27により、先端に掘削カッター28を備えるラダー29が上下方向及び水平方向に旋回できるように接続されている。また、図3は枢支軸26,27周辺の拡大図であるが、垂直方向の枢支軸26は上部及び下端部が軸受31a,31bにより回動自在に支持されており、その上端にはラダー支持台39が設けられ、ラダー29の基端が、水平方向の枢支軸27を介して上下方向に回転自在に支持されている。また、垂直方向の枢支軸26は上部及び下端部が軸受31a,31bにより回動自在に支持されている。上部側の軸受31aは、機体30に対して軸受32aを介して水平方向の向きに支持させた横軸32の先端に支持されている。一方、下端部の軸受31bは、機体30の端面に固定した弧状のガイド33に対し、その弧状に沿って移動可能に係止されている。更に、ラダー29と軸受31b間には、上下回動駆動用の油圧シリンダ36が介在されており、これによってラダー29の上下方向の角度が調整されるようになっている。本発明では、軸受31a,31b,32aに上記のグリース組成物を封入する。
【0031】
また、図4は波力発電装置を使用した波消ブロックを示す概略図である。消波ブロックを兼ねた円筒管41は、その下部が沿岸の海中に没するように設置される。円筒管41内の水面は、(a)のように寄せ波のときには、図示矢印のように上昇するので、円筒管41の空気は、風筒47を通って吹き出す。また、引き波のときには、(b)に示すように、水面が図示矢印のように下降するので、空気は円筒管41内に吸い込まれる。円筒管41の上端には、防水ケーシング49が設置され、その内部に図5に示すような発電機50が収容されている。発電機50の回転子軸51には、ウェルズタービン58が固定されており、回転子軸51は防水スラスト軸受52により防水されている。波の作用により、ウェルズタービン58には、交互に逆方向の風が当たるが、このウェルズタービン58は交互に逆方向の風が当たっても常に一定方向に回転し続ける特性があり、連続的に発電機50を回転させて電力が発生される。尚、防水ケーシング59は、支持パイプ53により風筒47に取り付けられており、支持パイプ53の一本には発電機50で発電した電力を外部に取り出す海底用ケーブル54が挿通されている。また、支持パイプ53には防水パテ55を設けて支持パイプ53から防水ケーシング49内への水の侵入を防いでいる。本発明では、防水スラスト軸受52に上記のグリース組成物を封入する。
【0032】
ウォータポンプ、波力発電機及び浚渫機は水との接触機会が多いことから、これらに組み込まれる転がり軸受には水が浸入しやすい。しかし、上記のグリース組成物は特定の防錆添加剤を含有するため、本発明のウォータポンプ用、波力発電機用または浚渫機用の各転がり軸受は、水分が混入しても腐食を効果的に抑え、白色組織剥離も効果的に抑えることができ、長寿命となる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれにより何ら制限されることはない。
【0034】
(実施例1〜4、比較例1〜2)
表1に示す配合にて調製した試験グリースを、日本精工(株)製円すいころ軸受「HR30205(内径25mm、外径52mm、幅16.25mm)」に封入して試験軸受を作製した。尚、各試験グリースとも、フェノール系酸化防止剤(2,6−ジ−t−ブチルクレゾール;東京化成(株)製)、アミン系酸化防止剤(p、p´−ジオクチルジフェニルアミン;東京化成(株)製)、防錆剤(カルシウムホスフェート;King社製「NasulR1−CA」)及び極圧剤(無灰イオウ;Vanderbilt社製「Vanlube7723」)を各0.5質量%添加してある。そして、この試験軸受の内部に水を封入グリース全量に対して1質量%となるように注入した後、120℃、ラジアル荷重98N、アキシアル荷重1470N、回転速度3500rpmにて100時間連続回転させた。回転後に試験軸受を分解し、錆の発生及び剥離の発生の有無を目視にて観察した。結果を表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
表1に示すように、本発明に従いカルボン酸系防錆添加剤、カルボン酸塩系防錆添加剤及びエステル系防錆添加剤から選ばれる少なくとも1種をグリース全量の0.1〜20質量%の割合で含有する各実施例のグリース組成物を封入することで、防錆性能及び剥離防止効果が極めて良好で、長寿命の転がり軸受となることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】ウォータポンプの一例を示す一部断面図である。
【図2】浚渫機の一例を示す概略図である。
【図3】図2の一部を拡大して示す図である。
【図4】波力発電機の一例を示す概略図である。
【図5】波力発電機の具体的構成を示す拡大図である。
【符号の説明】
【0038】
1 ウォータポンプ
12 回転軸
13 ケーシング
14 インペラ
15 メカニカルシール
21 浚渫機
23 クローラー
26,27 枢支軸
28 掘削カッター
29 ラダー
31a,31b,32a 軸受
41 円筒管
47 風筒
49 防水ケーシング
50 発電機
51 回転子軸
52 防水スラスト軸受
58 ウェルズタービン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と接触する機器や装置に組み込まれる転がり軸受に封入されるグリース組成物であって、鉱油及び合成油から選ばれる少なくとも1種の潤滑油からなり、40℃における動粘度が70〜250mm/sである基油と、増ちょう剤とを含み、かつ、カルボン酸系防錆添加剤、カルボン酸塩系防錆添加剤及びエステル系防錆添加剤から選ばれる少なくとも1種をグリース全量の0.1〜20質量%の割合で含有することを特徴とする耐水性グリース組成物。
【請求項2】
水冷エンジンに冷却水を圧送して循環させるウォータポンプに組み込まれる転がり軸受であって、内輪と外輪との間に複数の転動体を転動自在に配設してなり、前記内輪及び前記外輪の間に形成され前記転動体が配設された空間内に請求項1記載の耐水性グリース組成物が封入されていることを特徴とするウォータポンプ用転がり軸受。
【請求項3】
波力発電機に組み込まれる転がり軸受であって、内輪と外輪との間に複数の転動体を転動自在に配設してなり、前記内輪及び前記外輪の間に形成され前記転動体が配設された空間内に請求項1記載の耐水性グリース組成物が封入されていることを特徴とする波力発電機用転がり軸受。
【請求項4】
順接船や浚渫ロボットに組み込まれる転がり軸受であって、内輪と外輪との間に複数の転動体を転動自在に配設してなり、前記内輪及び前記外輪の間に形成され前記転動体が配設された空間内に請求項1記載の耐水性グリース組成物が封入されていることを特徴とする浚渫機用転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−99856(P2007−99856A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−290011(P2005−290011)
【出願日】平成17年10月3日(2005.10.3)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】