説明

耐汚染物質性ナノ粒子コーティングを有する製紙用ファブリックおよび現場塗布の方法

製紙システムにおける、異物による汚染に対する製紙用ファフリックの抵抗性を改善するために、製紙用ファブリックが、ナノ粒子タイプコーティングを塗布することによって処理される。コーティングは、ファブリック製造の間に塗布され、ヒートセットの間に硬化される。あるいは、コーティングは、制御された均質な方法でコーティングをファブリックに塗布するために、既存のシャワーを利用すること、またはスプレーブームもしくは他の適切なコーティング塗布装置をドライヤセクション内に置くことによって、塗布または新しくされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐汚染物質性コーティングを製紙用ファブリックに現場で塗布するための方法、およびそのようにコーティングされる製紙用ファブリックに関する。特に、本発明は、機械ダウン時間を低減させる、ナノ粒子コーティングを製紙用ファブリックに現場で塗布するための方法を目的とする。
【背景技術】
【0002】
製紙用ファブリックは、パルプスラリから紙の初期ウェブを形成するため、およびこの初期ウェブに様々な脱水工程および乾燥工程を行い、様々なタイプの紙製品を形成するため、製紙機械と共に使用される。製紙用ファブリックは、一般に、目の細かいメッシュ状になっており、製紙機械内での位置に従って様々な構成をとることができ、たとえば、特定のプレスファブリックおよびドライヤファブリックにおいて、バットの追加層を含んでもよい。
【0003】
紙を形成するために使用される主としてセルロースのファイバストック内に懸濁させた粒子は、ピッチ、接着剤、他の糊状物質、ならびに製紙用ファブリックに固着する傾向を有するその他の材料を含んでもよく、ファブリック透過性を低減させ、かつ製紙用ファブリックの性能に悪影響を与えている。この問題に取り組むための従来の知られている解決策は、ファブリックの耐固着性を高めるため、およびファブリックが製紙機械に設置された後、より長期間ファブリックをより清浄な状態に保つために、ファブリックを抗汚染物質性材料でコーティングすることを、提案している。しかし、従来の知られているコーティングは、使用につれて摩耗し、結果として、製紙用ファブリックの性能が減弱する。加えて、コーティング自体の厚さは、コーティング自体がファブリック透過性を低減しないようにするために、非常に薄くなくてはならなかった。
【0004】
初期のコーティングの寿命がかなり短かった一方で、浴を使用してファブリックに塗布され、次いで、製紙設備上にファブリックを設置する前に200°Fから400°Fの温度で硬化される、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含む、1つの従来の知られている抗汚染物質性コーティングが開発された。この抗汚染物質性コーティングは、より長い寿命を有したが、依然として摩耗しやすかった。
【0005】
ナノ粒子コーティングもまた、以下に記載されているように、知られている:すなわち、国際公開公報第02/50191号、溶媒プアゾル―ゲル系(Solvent-Poor Sol-Gel Systems);米国特許第6,482,525号、ゾルゲルラッカーでコートされた熱造形性支持体を作製する方法(Method for producing themoshaped substrates coated with a SOL-Gel Lacquer);米国特許第6,620,514号、ナノ構造の成形体及び層並びにそれらを製造するための方法(Nanostructured forms and layers and method for producing them);米国特許第6,607,994号、繊維製品のためのナノ粒子ベースの恒久的処理(Nanoparticle-Based permanent treatments for textiles);米国特許第6,649,266号、微細構造化表面を有する製造された基体(Substrates produced with a microstructured surface);米国特許第6,629,070号、ナノ構造化成型体(Nanostructured moulded bodies);国際公開公報第03/014232(A1)号、耐摩耗性疎水性および/または疎油性コーティングを製造するための材料(Material for producing abrasion proof hydrophobic and/or oleophobic coatings)。このようなコーティングは、たとえば耐汚染性のため、または摩耗寿命を増大させるために、様々なタイプのファブリックと共に使用されてきた。しかし、このようなコーティングは、特に製紙用ファブリックと共には使用されてきていない。
【0006】
使用中、抗汚染物質性コーティングの利点を維持するため、再コーティングし、続いて再設置するために、かなりの残存耐用寿命を有する製紙用ファブリックを製紙機械から取り外すこともまた、知られている。しかし、これには、製紙機械に関し、かなりの更なるコストおよびダウン時間が伴う。
【特許文献1】国際公開公報第02/50191号
【特許文献2】米国特許第6,482,525号
【特許文献3】米国特許第6,620,514号
【特許文献4】米国特許第6,607,994号
【特許文献5】米国特許第6,649,266号
【特許文献6】米国特許第6,629,070号
【特許文献7】国際公開公報第03/014232(A1)号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、ファブリックが意図されている環境に設置されるときに、耐固着性を提供する、耐汚染性ナノ粒子でコーティングされた製紙用ファブリックが利用可能であれば、望ましいであろう。ファブリックが意図されている環境に設置されているときに(すなわち:コーティングの現場塗布)、このようなファブリックならびにこのように処理されていないファブリックが、疎水性または疎油性の耐汚染性ナノ粒子コーティングのどちらか一方または両方ともによって、コーティングまたは再コーティングされることを可能にする方法が存在すれば、さらに望ましいであろう。また、耐汚染性疎水性および/または疎油性ナノ粒子コーティングを、これらのファブリックの選択された領域のみに、現場で塗布することを可能にする方法が存在すれば、望ましいであろう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
製紙用フォーミング、ドライヤまたは貫流空気乾燥(TAD)ファブリックのような、耐汚染物質性工業用テキスタイルと、このようなファブリックを耐汚染性にする方法とが、提供される。現在のところ好ましい本発明の第1の実施形態において、ファブリックが、製紙機械上の所定の場所に設置されている間に(すなわち、製紙機械は、作動準備ができている、または作動中であるが、製紙は行っていない)、水性ナノ粒子タイプ耐汚染物質性コーティングが、製紙用ファブリックなどの工業用テキスタイルに塗布される。コーティングは、疎水性特性または疎油性特性のどちらか一方、または両方を有してもよく、かつ、既に製紙設備内に存在している既存の熱源を使用して、またはファブリックに隣接して置かれる補助ヒータを使用することにより、製紙用ファブリック上で熱硬化される。好ましくは、ファブリックが製紙設備上で熱硬化される場合、これは、既存の熱源または補助ヒータによって、約32℃(90°F)から約120℃(248°F)の間の温度で行われる。全ての温度は、テキスタイルの表面の直近または上において、測定される。
【0009】
あるいは、ファブリックが、製紙機械上の所定の場所に設置されている(すなわち、製紙機械は、作動準備ができている、または作動中であるが、製紙は行っていない)間に、製紙用ファブリックなどの工業用テキスタイルの選択された部分のみが、水性ナノ粒子タイプ疎水性または疎油性耐汚染物質性コーティングで処理される。コーティングは、たとえば、ファブリックの側縁部のみに塗布され、かつ、これらの領域のみが、既に製紙設備内に存在している既存の熱源、またはファブリックに隣接して置かれる補助ヒータを使用して、続いて現場で熱硬化される。好ましくは、コーティングが工業用テキスタイル上に現場で硬化される場合、これは、約32℃(90°F)から約120℃(248°F)までの範囲内の温度で行われる。
【0010】
本発明の第2の実施形態において、コーティングは、テキスタイルが製造された後、しかし、テキスタイルが意図されている顧客へ出荷される前に、テキスタイルに塗布される。コーティングは、約52℃(125°F)から約204℃(400°F)までの範囲の温度を使用し、ファブリックにしっかりとコーティングを接合させるために、テキスタイル製造設備上で熱硬化されるが、全てのこのような温度は、テキスタイルの表面の直近または上において測定される。
【0011】
好ましくは、コーティングは、約66℃(150°F)から約177℃(350°F)までの温度で、テキスタイルが意図されている環境内にテキスタイルが設置される前に、熱硬化される。より好ましくは、コーティングは、約66℃(150°F)から約149℃(300°F)までのある温度で、設置の前に熱硬化される。
【0012】
好ましくは、ファブリックの表面領域全体が、水性ナノ粒子タイプ耐汚染物質性コーティングでコーティングされ、かつ約52℃(125°F)から約204℃(400°F)までの温度で続いて熱処理されるが、このような温度は、テキスタイル表面の直近または上において測定される。あるいは、テキスタイル表面の選択された部分のみが、このように処理されかつ熱硬化される。
【0013】
製紙用ファブリックの製造において一般に使用されているPET(ポリエチレンテレフタレート)ヤーンを含む、多くのテキスタイル材料が、約93℃を超える(200°F)高温で、テキスタイル材料の寸法安定性を失い始めることが、よく知られている。ファブリック全体が、たとえば、製造業者の施設でのヒートセット工程におけるように、約93℃(200°F)を超える温度に暴露されることになっている場合には、ファブリックの特定の寸法上の性質および他の物理的性質を所望の範囲内に維持するために、寸法安定性を制御するためのいくつかの手段が施されることが、推奨される。これを行う1つの手段は、幅出機によって、ファブリックを抑制する(すなわち、横方向および/または長手方向の応力を印加する)ことである。しかし、本発明の範囲から逸脱することなく、他の適切な手段を使用してもよい。
【0014】
本発明の第1または第2の実施形態の、どちらか一方または両方ともにおいて、ナノ粒子表面処理は、好ましくは、疎水性特性および疎油性特性の両方を含む。しかし、疎水性特性または疎油性特性のうちの一方しか有さないコーティングをファブリックにコーティングすることによって、効果的な結果が得られている。また、コーティングステップおよび硬化ステップを多重に実施し、たとえば、疎水性特性または疎油性特性のうちの1つを有する第1のコーティング層と、他方の疎水性特性もしくは疎油性特性、またはさらなる所望の特性を有する、第2または後続のコーティングとにより、ファブリック上に複合コーティングを形成することも、可能である。これにより、本発明による製紙用ファブリックのための強化された耐汚染性が提供される。
【0015】
別の態様においては、本発明は、また、本発明による工程によって生産される、改善された耐汚染性を有する製紙用ファブリックをも目的とする。このようなファブリックは、本発明に従って処理されなかったファブリックと比較した場合、非常に改善された相対耐汚染性値を有する。
【0016】
本発明を、現在の好ましい実施形態が示されている図面に関連して、更に詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
便宜上、特定の専門用語が以下の説明に使用されているが、限定を意図するものではない。「前(front)」、「後(back)」、「頂(top)」および「底(bottom)」などの語は、参照される図面における方向を意味する。この専門用語は、上記に特に示される語、これらの語の派生語、および類似の意味の語を含む。加えて、用語「a」および「one」は、特に断りのない限り、参照された項目の1つ以上を含むものと定義する。
【0018】
本明細書において使用する用語「幅出機」は、2つの末広がりになった無端チェーンの動作によって、テキスタイルをテキスタイルの完成した幅に伸ばし、織りをまっすぐにする装置を指し、この2つの無端チェーンのそれぞれには、布の縁部を保持しかつ高温ロールの上を通ってまたは温風ボックスの中を通って布を運搬する、一連のピン、クリップまたはクランプが備えられている。所望の最終結果を達成するために、本発明の精神から逸脱することなく、他の適切な手段が使用されてもよいことは、当業者にとって明らかであろう。
【0019】
本発明のコーティングされた工業用テキスタイルをヒートセットしかつ硬化させることに関連して本明細書において参照される全ての温度は、適切な手段により、テキスタイルの表面の直近または上において測定される。
【0020】
本発明の第1の実施形態によれば、貫流空気乾燥(「TAD」)ファブリック、フォーミングファブリック、またはドライヤファブリック10などの、工業用テキスタイルは、まず、所定の場所において(すなわち、製紙機械の通常の場所における、製紙機械のフォーミングまたはドライヤセクションにおいて)、製紙機械12が、低速または「徐行」速度でファブリック10を動かしながら、水、または選択的に、必要に応じて界面活性剤および/もしくはpH調整剤を含む水の、どちらかをシャワーすることによって、洗浄される。これにより、使用中にファブリック10に付着した分の汚染物質が除去され、後続のファブリック処理において、ファブリック10のヤーンにナノ粒子材料を、確実に十分に接合させやすくなる。シャワー14は、好ましくは既存の抄紙機シャワーであるが、図2において示されるような、携帯型スプレーブーム16、または他の適切な外部の洗浄システムが、使用されてもよい。いかなる過剰の水および/または洗浄液をもファブリックから除去するため、およびファブリックを乾燥させるために、この洗浄用シャワーに続いて、ファブリックの紙側(PS)および機械側(MS)のどちらか一方または両方に、真空ボックス22または他の空気処理装置が置かれてもよい。
【0021】
ファブリック10が洗浄かつ乾燥された後、適切な疎水性および/または疎油性ナノ粒子タイプ耐汚染物質性溶液/懸濁液20を、好ましくは、少なくとも1つの表面上へ上記溶液/懸濁液を液体状態でコーティングロール塗布、スプレーまたはシャワーすることにより、少なくとも1つのファブリック表面に塗布することができる。好ましくは、この耐汚染物質性溶液/懸濁液は、
1.接着促進剤と、
2.有機プレポリマーから構成されるナノ粒子材料と、
3.フルオロカーボンポリマーと、
からなる水性3成分系である。
【0022】
好ましくは、接着促進剤は、ビニル、メタクリレート、エポキシ、アミノ、またはメルカプト基のうちの1つである官能基を有する、有機官能性接着促進剤である。
【0023】
好ましくは、ナノ粒子材料は、ポリエチレンもしくはポリプロピレンを含むナノワックスなどの有機ナノ粒子、または、メチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシランもしくはフェニルトリメトキシシランなどの縮合シランのプレポリマーから構成される。シランプレポリマーの使用によって提供される利点は、接着促進剤と化学反応して有機プレポリマーのネットワークを構築する可能性があることである。
【0024】
好ましくは、フルオロカーボンポリマーは、フルオロアクリレートまたはフルオロアルキル−ポリウレタンコポリマーである。他の類似のフルオロカーボンポリマーが、適切である場合もある。
【0025】
これらの3つの材料は、所望の3成分系を提供するために、約10〜25重量%の接着促進剤、10〜25重量%のナノ粒子材料、および約30〜70重量%のフルオロカーボンポリマーという比率で化合される。
【0026】
コーティングは、図1に示すように、製紙機械内に既に置かれていてもよいような、既存のシャワー14によって、塗布されることが可能である。あるいは、コーティング20は、取り外し可能なスプレーブーム16、またはコーティングがファブリックに塗布される他の適切な手段を、適切に置くことによって、塗布されてもよい。スプレーブーム16は、複数のスプレーノズル18を好ましくは含み、かつ製紙機械12内のファブリックに隣接して、脚19に担持され、もしくは締め付けられてもよく、または他の方法で位置決めされてもよい。ファブリック10は、選択されたコーティング装置を使用し、かつ機械からファブリック10を取り外さずに、所定の場所において(たとえば、TADドライヤセクション内の場所で)コーティングされる。いかなる過剰なコーティング材料20も、塗布装置の下流にある真空スロットボックス22によって除去され、コーティングシステムへ入れられ再循環される。
【0027】
スプレー条件および処理時間は、抄紙機ファブリック10を効果的にカバーし、ナノ粒子をファブリック10のヤーンに確実に接合させるように、算出される。ファブリック10の速度および処理の温度は、可能な限り最高のコーティングの完全性を与えるように、算出される。機械横断方向が幅出機によって抑制されないファブリックのための典型的なコーティング温度は、約32℃(90°F)から約120℃(248°F)である。典型的塗布量が、ファブリック表面の1平方メートルにつき約23gの活物質を使用するように、算出される。材料は、0.5〜30%の範囲の活性ナノ固体を含む水希釈液で、塗布されることができる。使用した好ましい活性固体濃度は、固体分2.5〜10%であった。過剰量は、塗布が行われる領域の下流にある真空スロットで、好ましくは除去される。
【0028】
非常に厚いファブリックについては、ファブリックの内部容積を完全にカバーするために、単位面積あたりのコーティング率が高くなる必要がある場合がある。2.5から4メートル/分(8〜12フィート/分)のファブリック速度が典型的であるが、ヤーン材料の寸法安定性ポイントを超えて過熱しないように、ヒータゾーンでの滞留時間に関して調整しなければならない(幅出機がファブリックの寸法を制御する、ファブリック製造における最終的なヒートセットの場合を除く)。コーティング20は、次いで、ファブリック10の成分ヤーンと確実にしっかりと結合するように、好ましくは製紙機械12のドライヤセクションの加熱されたドライヤロール24を通過することにより、硬化される。
【0029】
コーティング20は、携帯型赤外線ヒータバンク26などを使用して、選択的に熱硬化されることが可能であるが、機械のドライヤシステム、特にTAD、すなわち貫流空気ドライヤセクションに由来する熱によって硬化されることが好ましい。ティシュマシンのTADセクションは、コーティング20を硬化させ、したがって、コーティングをしっかりとヤーンに付着させるための、少なくとも49℃(120°F)の十分な熱があるため、このコーティング20の塗布および硬化に特によく適している、と思われる。また、塗布が成功するために必要とされる要素の多く(すなわち、シャワー、真空スロットおよびロール、熱)は、ドライヤセクション内に既にあるか、または、このタイプの機械に容易に適合させることができる。いずれにしても、ファブリックが置かれる環境の温度は、コーティングが現場で硬化するために、十分でなければならない。好ましくは、ファブリックが置かれる製紙環境の温度は、約32℃(90°F)から約120℃(248°F)の範囲内である。より好ましくは、温度は、約49℃(120°F)から約93℃(200°F)の範囲内である。最も好ましくは、温度は、約60℃(140°F)から約82℃(180°F)の範囲内である。
【0030】
図4に示すように、赤外線ヒータ26の一時的なバンクを使用することなどによる、様々な熱処理手段のうちのいずれによっても、コーティングを硬化させることが可能である。このコーティング設備システムは、自立型の携帯型ユニットとして設計することができ、かつ製紙工場内で購入かつ使用されるか、または、再生工程のために賃貸されることができるであろう。加えて、図3Aおよび図3Bに示すように、設備は、機械12の全幅である必要はなく、コーティング工程を容易にするために、パスの間、ファブリック10の幅にわたって動かすことができるであろう。たとえば、ファブリック10の第1の半分は、第1の位置にあるスプレーブーム16によりコーティングされることが可能である。ファブリック10の第2の半分は、次いで、図3Bに示すように、第2の位置にあるスプレーブーム16によりコーティングされることが可能である。スプレーブーム16の寸法およびファブリック10の幅によっては、3つ以上のパスを利用することが可能であろう。経験により、塗布を繰り返しても(すなわち、既存の塗布したものまたは層の上に1回の塗布または層を加える)互いに接着しないことが示されており、したがって、重なって塗布されたものは、真空掃除されるか、さもなければ下流の真空装置によって除去されるため、問題にならないであろう。コーティングのこの性質のため、コーティングの薄膜が形成され、かつメッシュ開口部の上に残存し、1つ以上の場所でメッシュを事実上閉塞する、「窓ガラス化(windowpaning)」という現象が排除される。
【0031】
あるいは、装置は、紙ウェブ内の「固着物」および類似の異物による汚染、およびファブリック縁部での成分ヤーンの加水分解などの、ファブリックの縁部領域における、尚早なファブリックの破損の典型的な原因を阻止するため、ファブリックの縁部のみにコーティングするように、設計または使用されることができるであろう。驚くべきことに、本発明者らは、疎水性または疎油性ナノ粒子タイプ耐汚染物質性溶液/懸濁液でコーティングされ、続いて硬化された、TADファブリックの側縁部は、同様であるが非処理のファブリックと比較した場合、比較的柔軟なままであり、かつ加水分解の典型的徴候を示さないことが分かった。
【0032】
ナノ粒子表面処理を有するコーティング20は、好ましくは疎水性特性および疎油性特性の両方を含む。また、コーティングステップおよび硬化ステップを多重に実施し、たとえば、疎水性特性または疎油性特性のうちの1つを有する第1のコーティング層と、他方の疎水性特性もしくは疎油性特性、またはさらなる所望の特性を有する、第2または後続のコーティングとにより、ファブリック10上に複合コーティングを形成することも、可能である。これにより、本発明による製紙用ファブリックのための強化された耐汚染性が提供される。
【0033】
一旦、ファブリックが首尾よくコーティングされ、かつコーティングは硬化され、コーティングが、ファブリック表面およびヤーンに適度にしっかりと接合されれば、コーティング設備は機械から取り外され、紙の生産が再開される。
【0034】
本発明の第2の実施形態によれば、ファブリックは、製造の間、疎水性および/または疎油性水性ナノ粒子タイプ耐汚染物質性コーティングを塗布し、続いて、粒子状物質がファブリック成分の露出面に接着するようにコーティングを硬化させることによって、ファブリックを耐汚染性にするように、処理される。図5、ボックス100、に示すように、ファブリックは、製造の間にファブリックの表面に堆積し得るいかなる油または不純物をも除去するために、水、および、選択的に洗剤または界面活性剤を使用して、最初に洗浄される。ファブリックを安定させるためにファブリックがヒートセットされる前に、スプレー、ディップもしくはリック(lick)コーティングにより、または、従来技術でよく知られているような、疎水性および/もしくは疎油性水性ナノ粒子タイプ耐汚染物質性溶液/懸濁液をファブリックの一方または両方の平面側に慎重に制御された状態で塗布するために使用できる、他の手段により、ボックス102で示されるように、清浄なファブリックが、コーティングされる。テキスタイルの両側が、こうして処理されることが好ましい。あるいは、側縁部などの、ファブリックの選択された部分のみが、こうして処理される。
【0035】
現在好ましい処理材料は、水性3成分系であって、
1.接着促進剤であって、好ましくは、ビニル、メタクリレート、エポキシ、アミノ、またはメルカプト基のうちの1つである官能基を有する、有機官能性接着促進剤である、接着促進剤と、
2.有機プレポリマーから構成されるナノ粒子材料であって、好ましくは、ポリエチレンもしくはポリプロピレンを含むナノワックスなどの有機ナノ粒子、または、たとえば、メチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、もしくはフェニルトリメトキシシランなどの、縮合シランのプレポリマーから構成され、シランプレポリマーの使用によって提供される1つの利点は、接着促進剤と化学反応して有機プレポリマーのネットワークを構築する可能性があることである、ナノ粒子材料と、
3.フルオロカーボンポリマーであって、他の類似のフルオロカーボンポリマーが適切である場合もあるが、好ましくはフルオロアクリレートまたはフルオロアルキル−ポリウレタンコポリマーである、フルオロカーボンポリマーと、
からなる、水性3成分系を備える。
【0036】
これらの3つの材料は、所望の3成分系を提供するために、約10〜25重量%の接着促進剤、10〜25重量%のナノ粒子材料、および約30〜70重量%のフルオロカーボンポリマーという比率で化合される。他のコーティングもまた、利用してよい。
【0037】
コーティングのこの塗布に続き、ファブリックは、次いで、テキスタイルにとって適切な通常の方法で、ヒートセットされる。ヒートセット工程の間、ファブリックは、少なくとも約52℃(125°F)から約204℃(400°F)の範囲の温度に暴露される。好ましくは、ファブリックは、約66℃(150°F)から約177℃(350°F)のある温度に加熱される。より好ましくは、この温度は、確実に表面処理を硬化させ、かつテキスタイルの少なくとも第1の表面を構成するファブリック成分に表面処理を接合させるために十分である、約66℃(150°F)から約149℃(300°F)である。これには、ボックス104に示すように、ファブリックが、幅出機に張られるか、さもなければ、ファブリックの寸法安定性を維持するために適切な手段によって安定させられることが、必要である。ボックス106で示すように、ヒートセットのために必要とされる温度は、コーティングを硬化させるために同時に使用されることが可能である。
【0038】
ナノ粒子コーティングは、疎水性特性および疎油性特性の両方を有することが、現在のところ好ましい。しかし、上記に概説したように、コーティングステップおよび硬化ステップを多重に実施し、たとえば、疎水性特性または疎油性特性のうちの1つを有する第1のコーティング層と、他方の疎水性特性もしくは疎油性特性、またはさらなる所望の特性を有する、第2または後続のコーティングとにより、ファブリック上に複合コーティングを形成することも、可能である。これにより、本発明による製紙用ファブリックのための強化された耐汚染性が提供される。いずれにしても、効果的な耐汚染性の性質をファブリック表面に与えるために、ファブリックには、疎水性特性または疎油性特性のうちの1つを有するコーティング層を提供しなければならない。
【0039】
ファブリックは、次いで、シームを形成し、必要に応じて、ファブリックの長手方向縁部などをシールするために、通常通り処理される。ファブリックの一方または両方の表面が、これらの表面を単一平面(monoplanar)にするために、砂で磨くか、さもなければ物理的に処理しなければならない場合、これは、ナノ粒子コーティングを塗布する前に行われる。
【0040】
前述のように、本発明によるファブリックは、ファブリックが意図されている、ファブリックの製紙機械への設置に続いてコーティングされてもよく、または、ファブリックはファブリックの製造に続いてコーティングされてもよい。どちらの場合も、増大された効果および耐久性を有する複合体を得るために、異なるナノ粒子抗汚染物質系を複数回パスすることにより、ファブリックをコーティングしてもよい。
【0041】
上記したように、製紙機械12上に設置した後、ファブリック10は、本発明の第1の実施形態の方法に従って、再コーティングされることが可能である。これは、ファブリック10を取り外す必要なしに、製紙機械12上で行うことができ、したがって、ダウン時間およびコストを低減することができる。
【0042】
相対耐汚染性(RCR)は、汚染に耐えるファブリックの能力の指標である。RCRは、対照ファブリックを試験ファブリックと比較することにより測定される。試験において、試料が、大きなファブリック片から切り取られ、いかなる塵または油をも除去するために洗われる。同じような寸法の対照試料もまた、準備される。次いで、適切な長さの両面接着性カーペットテープが、温度85℃(185°F)および圧力4448N(1,000lb)で、1分間、試験ファブリックの表面および比較表面のそれぞれの短い寸法の方向にわたって、熱圧着される。次いで、テープは、CREタイプ引張試験機を使用し、一定のひずみ速度で、試験試料および対照試料のそれぞれの表面から180°の角度で剥がされる。次いで、試験試料からテープを除去するために必要とされる剥離力が、対照試料からテープを除去するために必要とされる剥離力と比較され、次いで、比率(RCR)として表される。1.0未満のRCR数は、対照の基準より小さい耐汚染性を表し、その一方で、1.0を超えるRCR数は、より良い耐汚染性を表す。
【0043】
実験および製紙機械試験において、本発明者らは、本発明の教示に従って準備されたファブリックが、ファブリックの非処理の相対物と比較して、約3から約14のRCR値を達成したことを、発見した。RCR値におけるこの差は、本発明の第1の実施形態に従って、コーティングが製紙機械上でファブリックに塗布されたか、または、第2の実施形態に従って、ファブリックがヒートセットされる時にコーティングが塗布されたかにかかわらず、生じた。本発明者らは、第2の実施形態の教示に従って塗布されたコーティングが、第1の実施形態に従って製紙機械上で塗布されたコーティングより高い耐久性を示すことも、発見した。
【0044】
本発明の教示に従って処理されたファブリックは、これに相当する非処理のファブリックよりも、水および油性汚染物質の両方をより容易に放出する傾向がある。本発明者らは、コーティングされたファブリックの、これに相当する非処理のファブリックより容易に水を「放す」、この改善された傾向によって、等しい量の紙を乾燥するのに必要なエネルギー量が10%以上も低減されることを、発見した。更に、本発明の教示に従ってコーティングまたは再コーティングされたファブリックは、類似の、コーティングしてないファブリックと比較して、より長い期間、より清浄な状態である傾向がある。更なる観察された利点は、この材料でコーティングされたファブリックは、動作時におけるドラグ(drag)負荷が低減していることであり、ドラグ負荷は、類似のコーティングされていないファブリックと比較して、20%も低減されている。ドラグ負荷とは、吸込ボックスおよびフォイルによってかけられる脱水力のために、ファブリックによって抄紙機の駆動メカニズムにかけられる負荷(したがって、所望の速度でファブリックを駆動するために必要とされる力の量)を指す。低減されたドラグ負荷は、工場操業費用にとって非常に有益である、低減されたエネルギー消費量を意味する。加えて、本発明者らは、側縁部がこのようにして処理されたTADファブリックは、同様であるが非処理のファブリックと比較した場合、TADファブリックの処理された側縁部における加水分解に対し、より良い抵抗性を示すようであることを、発見した。
【0045】
本発明の好ましい実施形態を詳述したが、本発明は、上述の特定の実施形態に限定されるものではなく、単なる例示としてみなされるべきである。本発明のさらなる変形例および拡張例が展開されてもよく、全てのそのような変形例は、添付の特許請求の範囲によって定義されるような、本発明の範囲内にあるものとみなされる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に従って、水性ナノ粒子タイプ疎水性または疎油性耐汚染物質性コーティングが機械上でファブリックに塗布されかつ硬化されている、製紙機械のドライヤセクションを図式的に示した側面図。
【図2】本発明に従って、ナノ粒子タイプ耐汚染物質性コーティングを塗布するために、ドライヤファブリックが製紙機械上にある間にドライヤファブリックに隣接して配置されることが可能な、スプレーブームの斜視図。
【図3A】ファブリックの第1の部分をコーティングするための第1の位置において示される、ドライヤファブリックの幅より小さい寸法を有する、スプレーブームの斜視図。
【図3B】ファブリックの残りの部分にコーティングするための第2の位置において示される、ドライヤファブリックの幅より小さい寸法を有する、スプレーブームの斜視図。この工程は、縁部上で汚染または加水分解を受けやすいファブリックの縁部のみを処理し、シート領域の外側にある問題のためにファブリックを尚早に取り外さないようにするために、使用されることが可能であろう。
【図4】ファブリックに塗布されるコーティングを硬化させるための位置において示される、携帯型ヒータの斜視図。
【図5】ファブリックのヒートセットの間にコーティングをヒートセットしかつ硬化させる前に、ファブリックにコーティングすることによって、製紙のために使用される工業用ファブリックの耐汚染性の性質を改善するための、本発明による工程の第2の実施形態を例示するブロック図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製紙工程で使用するための工業用ファブリックをコーティングする方法であって、
前記工業用ファブリックの表面を現場で製紙機械上で洗浄することと、
前記ファブリックが前記製紙機械上を進むにつれ、前記ファブリックの経路に沿った少なくとも1つの場所から、前記ファブリックの1つの表面の少なくとも一部分に、ナノ粒子表面処理を有するコーティングを塗布することと、
前記ナノ粒子表面処理から、前記ファブリックの前記1つの表面の少なくとも前記一部分上に、ナノ粒子材料を接合するために、前記コーティングを硬化させることと、
を含む方法。
【請求項2】
前記硬化ステップは、前記ファブリックを少なくとも32℃(90°F)まで加熱することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記硬化ステップは、前記製紙機械内に置かれた加熱されたロールを使用することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記硬化ステップは、前記ファブリックに隣接して置かれる携帯型ヒータを利用し、前記ファブリックを加熱することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ナノ粒子表面処理は、疎水性特性、疎油性特性、または疎水性特性および疎油性特性の両方、のいずれかを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ナノ粒子表面処理は、第1の表面処理であり、かつ疎水性特性または疎油性特性のうちの1つを含み、前記方法は、
前記ファブリックが前記製紙機械上を進むにつれ、前記ファブリックの経路に沿った少なくとも1つの場所から、前記ファブリックの1つ表面の少なくとも一部分に、前記他方の疎水性特性または疎油性特性を有する第2のナノ粒子表面処理を有する第2のコーティングを塗布することと、
前記第2のナノ粒子表面処理から、前記ファブリックの前記1つの表面の少なくとも前記一部分上に、ナノ粒子材料を接合させるために、前記コーティングを硬化させることと、
を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ファブリックは、製造に続いてコーティングされ、かつ製紙機械上で使用した後、前記ファブリックは、請求項1に従って再コーティングされる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記ナノ粒子表面処理は、少なくとも1つのシャワーを使用して塗布される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記シャワーは、前記製紙機械の既存の部分である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記シャワーは、携帯型シャワーブームである、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記シャワーブームは、前記ファブリックの幅より小さい寸法を有し、かつ、前記方法は、第1の位置において、前記シャワーブームにより前記ファブリックの前記第1の部分をコーティングすることと、前記ファブリックの少なくとも第2の部分にコーティングするために、少なくとも第2の位置に前記シャワーブームを動かすことと、を更に含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記コーティングは、前記ファブリックの縁部上のみに置かれる、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
請求項1に記載の前記方法に従って形成される、ナノ粒子をコーティングした製紙用ファブリック。
【請求項14】
製紙工程で使用するための工業用ファブリックの耐汚染性の性質を改善する方法であって、
製織後、前記工業用ファブリックの表面を洗浄することと、
前記ファブリックの1つの表面の少なくとも一部分にナノ粒子表面処理を施すことと、
前記ファブリックに寸法安定性制御を施すことと、
同時に、前記ファブリックを熱処理し、かつ前記ナノ粒子表面処理を前記ファブリックの1つの表面の前記少なくとも一部分上に硬化させることと、
を含む方法。
【請求項15】
前記硬化ステップは、前記ファブリックを少なくとも52℃(125°F)まで加熱することを更に含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
現場で製紙機械上で前記ファブリックの表面を洗浄することと、
前記ファブリックが前記製紙機械上を進むにつれ、前記ファブリックの経路に沿った少なくとも1つの場所から、前記ファブリックの1つの表面の少なくとも一部分に、ナノ粒子表面処理を有する新たなコーティングを塗布することと、
前記ナノ粒子表面処理から、前記ファブリックの前記1つの表面の少なくとも前記一部分上に、ナノ粒子材料を接合するために、前記新たなコーティングを硬化させることと、
によって、
製紙機械上での使用後、現場で前記ファブリックを再コーティングすることを更に含む、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記ナノ粒子表面処理が、疎水性特性、疎油性特性、または、疎水性特性および疎油性特性の両方、のうちのいずれかを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記ナノ粒子表面処理は、第1の表面処理であり、かつ、疎水性特性または疎油性特性のうちの1つを含み、前記方法は、
前記他方の疎水性特性または疎油性特性を有する第2のナノ粒子表面処理を有する第2のコーティングを、前記ファブリックの1つの表面の少なくとも一部分に、塗布することと、
前記第2のナノ粒子表面処理から、前記ファブリックの前記1つの表面の少なくとも前記一部分上に、ナノ粒子材料を接合するために前記コーティングを硬化させることと、
を更に含む、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
請求項12に記載の方法に従って形成される、ナノ粒子をコーティングした製紙用ファブリック。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2008−533316(P2008−533316A)
【公表日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−500784(P2008−500784)
【出願日】平成18年3月6日(2006.3.6)
【国際出願番号】PCT/US2006/007795
【国際公開番号】WO2006/098917
【国際公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【出願人】(598029210)アステンジョンソン・インコーポレーテッド (3)
【Fターム(参考)】