説明

耐炎ポリマー含有溶液および炭素成形品

本発明の目的は、従来にない形状の耐炎成型品をも得ることができる成形加工性の優れた耐炎ポリマー、耐炎ポリマー溶液およびこれらを簡便に得られる製造方法を提供すること、ならびに耐炎ポリマー用いた炭素成型品およびそれらを簡便に得られうる製造方法を提供することにある。
その解決手段としては、アミン化合物で変性された耐炎ポリマーおよび極性有機溶媒に溶解した耐炎ポリマー含有溶液、アミン化合物で変性された耐炎ポリマーにより一部または全部が構成されてなる耐炎成形品、アミン化合物で変性された耐炎ポリマーを炭化してなる炭素成分により一部または全部が構成されてなる炭素成形品、並びにそれらの製造方法である。耐炎ポリマーを含有する溶液であることから、さらに加工することにより種々の形状の成型品を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐炎ポリマー、および耐炎ポリマーを含有する溶液に関するもので、さらに詳しくは耐炎成形品等を得るのに好適な耐炎ポリマーおよび耐炎ポリマー含有溶液および製造方法に関する。
【0002】
さらには、前記耐炎ポリマーを含有する耐炎成形品、炭素成形品およびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
耐炎繊維は耐熱性・難撚性に優れていることから、例えば溶接作業等で飛散する高熱の鉄粉や溶接火花等から人体を保護するスパッタシート、さらには航空機等の防炎断熱材などで幅広く利用され、その分野における需要は増している。
【0004】
また耐炎繊維は炭素繊維を得るための中間原料としても重要である。該炭素繊維は力学的、化学的諸特性及び軽量性などにより、各種の用途、例えば航空機やロケットなどの航空・宇宙用航空材料、テニスラケット、ゴルフシャフト、釣竿などのスポーツ用品に広く使用され、さらに船舶、自動車などの運輸機械用途分野などにも使用されようとしている。また、近年は炭素繊維の高い導電性や放熱性から、携帯電話やパソコンの筐体等の電子機器部品や、燃料電池の電極用途への応用が強く求められている。
【0005】
該炭素繊維は、一般に耐炎繊維を窒素等の不活性ガス中で高温加熱することにより炭化処理する方法によって得られる。また、耐炎繊維は、例えばポリアクリロニトリル(PAN)系耐炎繊維であればPAN系前駆体繊維を空気中200〜300℃の高温で耐炎化(PANの環化反応+酸化反応)することによって得られている。
【0006】
しかし、この耐炎化反応は発熱反応で、また繊維形態すなわち固相の状態の反応である。そのため温度制御のためには長時間処理する必要があり、耐炎化を所望の時間内に終了させるにはPAN系前駆体繊維の繊度を特定の値以下の細繊度に限定する必要がある。このように現在知られている耐炎化プロセスは十分効率的なプロセスとは言いにくい。
【0007】
また、耐炎製品として、繊維以外の形態、例えばシート、フィルムといった平面形状、各種立体形状等の耐炎成形品を得ることも、先に述べたように耐炎化反応が発熱反応であるため、除熱が難しく実質的に得るのが困難であった。従って、耐炎成形品は繊維状物に限られ、平面シートなどはかかる繊維状物を織物等にして製造しているのが現状である。
【0008】
任意の繊度の耐炎繊維や、繊維状物以外の耐炎製品(耐炎成形品)、例えばシート状物、立体成形品等が得られるようになれば、耐炎成形品の用途が格段に拡がる。さらにそれらの製造条件や炭化条件を適正化することによって、任意の繊度の炭素繊維や、繊維状物以外の炭素製品(炭素成形品)、例えばシート状炭素、立体炭素成形品といった炭素製品群を得ることができ、その使用用途を拡大できる。また、炭素成形品の高物性を維持しながら収率を向上させることができればコスト的に優位となる。
【0009】
以上の技術的課題を解決する一つの方法として、溶媒による溶液化が検討されてきた。
【0010】
例えば、アクリロニトリル系重合体粉末を不活性雰囲気中で密度が1.20g/cm以上となるまで加熱処理した後、溶剤に溶解して繊維化せしめた繊維状物を熱処理するという技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0011】
しかしながら、耐炎化の進行していないアクリロニトリル系重合体粉末を使用しているため溶液の経時的粘度変化が大きく糸切れが多発しやすいという課題があった。また溶剤として、一般の有機ポリマーを分解させやすい硫酸、硝酸等の強酸性溶媒を使用しているため、耐腐食性のある特殊な材質の装置を用いる必要があるなど、コスト的にも現実的ではなかった。
【0012】
また、加熱処理したアクリロニトリル系重合体粉末と加熱処理しないアクリロニトリル系重合体粉末を混合して同様に酸性溶媒中に溶解する方法が提案されているが(例えば、特許文献2参照)、前述した装置への耐腐食性付与や溶液の不安定さについて課題が解決されないままであった。
【0013】
さらに、ポリアクリロニトリルのジメチルホルムアミド溶液を加熱処理してポリアクリロニトリルが環化構造を伴うポリマーへ転換することが開示されているが(例えば、非特許文献1参照)、ポリマー濃度が0.5%と希薄溶液であり粘性が低すぎるため実質的に繊維等への賦形・成形は困難であるし、その濃度を高めるようとするとポリマーが析出し溶液として使用することができなかった。
【0014】
一方、ポリアクリロニトリルを1級アミンで変性した溶液は開示されているが(例えば、非特許文献2参照)、かかる溶液は耐炎化の進行していないポリアクリロニトリル自体に親水性を与えたものであって、耐炎ポリマー含有溶液とは、技術思想が全く異なるものである。
【0015】
また、特殊な炭化条件において耐炎繊維から炭素繊維の転換例において高物性と伴に収率向上できる技術が開示されているが(例えば、特許文献3参照)、より容易な方法での両立が求められていた。
【特許文献1】特公昭63−14093号公報
【特許文献2】特公昭62−57723号公報
【特許文献3】特許2636509号公報
【非特許文献1】「ポリマー・サイエンス(USSR)」(Polym.Sci.USSR),1968年、第10巻,p.1537
【非特許文献2】「ジャーナル・オブ・ポリマー・サイエンス,パートA:ポリマー・ケミストリー」(J.Polym.Sci.Part A:Polym.Chem.),1990年,第28巻,p.1623
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、前記課題に鑑みて、従来にない形状の耐炎成形品をも得ることができる成形加工性の優れた耐炎ポリマー、耐炎ポリマー含有溶液およびこれらを簡便に得られる製造方法を提供することにある。さらにはかかる耐炎ポリマーを用いた耐炎成形品、炭素成形品およびそれらを簡便に得られうる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために、本発明は下記構成を有する。
(1)アミン系化合物で変性されてなる耐炎ポリマー。
(2)耐炎ポリマーの前駆体がアクリロニトリル系ポリマーである前記の耐炎ポリマー。
(3)耐炎ポリマーおよび極性有機溶媒を含む耐炎ポリマー含有溶液。
(4)極性有機溶媒がアミン系有機溶媒である前記耐炎ポリマー含有溶液。
(5)アミン系有機溶媒が2以上の官能基を有するアミン系化合物である請求項3の耐炎ポリマー含有溶液。
(6)耐炎ポリマーがアミン系化合物で変性されているものである前記いずれかに記載の耐炎ポリマー含有溶液。
(7)前記耐炎ポリマーがアクリロニトリル系ポリマーを前駆体として得られたものである前記いずれかに記載の耐炎ポリマー含有溶液。
(8)下記式で求められる耐炎ポリマーの濃度が2〜70重量%である前記いずれかの耐炎ポリマー含有溶液。
耐炎ポリマー濃度(重量%)=100×耐炎ポリマー重量(g)/耐炎ポリマー含有溶液重量(g)
耐炎ポリマー重量:耐炎ポリマー含有溶液を窒素中、50℃/分で300℃まで昇温した際に、残存する固形成分の重量。
(9)耐炎ポリマーの前駆体をアミン系有機溶媒中、またはアミン系化合物を含有する極性有機溶媒中で耐炎化することを特徴とする耐炎ポリマーおよび極性有機溶媒を含む耐炎ポリマー含有溶液の製造方法。
(10)耐炎ポリマーをアミン系有機溶媒に、あるいはアミン系化合物を含有する極性有機溶媒に溶解することを特徴とする耐炎ポリマーおよび極性有機溶媒を含む耐炎ポリマー含有溶液の製造方法。
(11)アミン系化合物で変性された耐炎ポリマーにより一部または全部が構成されてなる耐炎成形品。
(12)繊維状である前記耐炎成形品。
(13)シート状であって、かつ厚みが5mm以下である(11)の耐炎成形品。
(14)アミン系化合物で変性された耐炎ポリマーを炭化してなる炭素成分により一部または全部が構成されてなる炭素成形品。
(15)繊維状である前記炭素成形品。
(16)シート状であって、かつ厚みが5mm以下である(14)の炭素成形品。
(17)請求項14〜16のいずれかに記載の炭素成形品であって、広角X線で測定した結晶サイズLc(オングストローム)が30以下であり、かつ、Lcと窒素含有量N(重量%)が、N≧0.04(Lc−30)^2 +0.5 の関係を満足する炭素成形品。
(18)(3)〜(8)のいずれかに記載の耐炎ポリマー含有溶液を賦形する賦形工程と、前記工程の後に溶媒を除去する除去工程とを含む、耐炎成形品の製造方法。
(19)前記賦形工程が、シート状に賦形する工程である、前記耐炎成形品の製造方法。
(20)前記賦形工程が、繊維状に賦形する工程である、(18)の耐炎成形品の製造方法。
(21)(11)〜(13)のいずれかに記載の耐炎成形品を炭化することを特徴とする炭素成形品の製造方法。
(22)(18)〜(20)のいずれかに記載の方法により得られた耐炎成形品を炭化することを特徴とする炭素成形品の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、以下に説明するとおり、種々の形状に成形加工な耐炎ポリマーを含有する溶液を得ることができる。また、かかる耐炎ポリマーを用いることによって従来にない形状の耐炎成形品をも得ることができる。また、かかる耐炎成形品をそのまま炭化することも可能であり、種々の形状の炭素成形品を効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例2で使用した乾式紡糸方法の概念図。
【図2】実施例6で得られたアミンで変性された耐炎ポリマーおよび実施例5で得られたアミン変性していない耐炎繊維の固体NMRスペクトル
【符号の説明】
【0020】
符号は以下のとおりである。
【0021】
1 耐炎ポリマー流路
2 紡糸ヘッド
3 紡糸筒
4 加熱窒素導入口
5 加熱窒素排出口
6 繊維状耐炎成形品
7 巻取ローラー
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の耐炎ポリマーとは耐炎性のあるポリマーであり、また、耐炎ポリマー含有溶液とは耐炎ポリマーを主とする成分が有機溶媒に溶解している溶液である。ここで、溶液してはは粘性流体であり、賦形や成形する際に流動性を有するものであればよく、室温で流動性を有するものはもちろんのこと、ある温度で流動性のない固体やゲル状物であっても、加熱やせん断力により加工温度付近で流動性を有するもの全てを含む。
【0023】
また、本発明において耐炎とは、「防炎」という用語と実質的に同義であり、「難撚」という用語の意味を含んで使用する。具体的に耐炎とは燃焼が継続しにくい、すなわち燃えにくい性質を示す総称である。耐炎性能の具体的評価手段として、例えばJIS Z 2150(1966)には薄い材料の防炎試験方法(45°メッケルバーナー法)についての記載されている。評価すべき試料(厚さ5mm未満のボード、プレート、シート、フィルム、厚手布地等)をバーナーで特定時間加熱し、着火後の残炎時間や炭化長等を評価することで判定できる。残炎時間は短い方が、炭化長も短い方が耐炎(防炎)性能が優秀と判定される。また繊維製品の場合、JIS L 1091(1977)に繊維の燃焼試験方法が記載されている。該方法で試験した後に炭化面積や残炎時間を測定することで同様に判定できる。本発明の耐炎ポリマーや耐炎成形品の形状・形態は多種多様であり、耐炎性能の度合いも非常に高度で全く着火しない耐炎性を持つものから着火後に燃焼がある程度継続するものまで広範囲にまたがるものであるが、後述する実施例に示される具体的な評価方法によって耐炎性能が定めた水準以上で認められるものが対象となる。具体的には耐炎性能が優秀あるいは良好であることが好ましい。特に耐炎ポリマーの段階においては単離の条件によってポリマーの形状・形態が変化し耐炎としての性質としてかなりバラツキを含みやすいので、一定の形状に成形せしめた後に評価する方法を採用するのが良い。
【0024】
耐炎ポリマーを成形してなる耐炎繊維等の耐炎成形品も、後述の実施例に示される具体的な耐炎性の評価手段を持って測定しうる。
【0025】
本発明における耐炎ポリマーとは通常耐炎繊維や安定化繊維と呼称されるものの化学構造と同一または類似するものであり、ポリアクリロニトリル系ポリマーを前駆体とし空気中で加熱したもの、石油や石炭等をベースとするピッチ原料を酸化させたものやフェノール樹脂系の前駆体等が例示される。溶液化が容易な点からポリアクリロニトリルを前駆体として得られる耐炎ポリマーが好ましい。
【0026】
ポリアクリロニトリル系ポリマーを前駆体とする場合であれば、耐炎ポリマーの構造は完全には明確となっていないが、アクリロニトリル系耐炎繊維を解析した文献(ジャーナル・オブ・ポリマー・サイエンス,パートA:ポリマー・ケミストリー・エディション」(J.Polym.Sci.Part A:Polym.Chem.Ed.),1986年,第24巻,p.3101)では、ニトリル基の環化反応あるいは酸化反応によって生じるナフチリジン環やアクリドン環、水素化ナフチリジン環構造を有すると考えられており、構造から一般的にはラダーポリマーと呼ばれている。もちろん未反応のニトリル基が残存しても耐炎性を損なわない限りよいし、分子間に微量架橋結合が生じることがあっても溶解性を損なわない限りはよい。
【0027】
本耐炎ポリマー自体またはその溶液の核磁気共鳴(NMR)装置により13−Cを測定した場合、ポリマーに起因して150〜200ppmにシグナルを有する構造であることが好ましい。該範囲に吸収を示すことで、耐炎性が良好となる。
【0028】
耐炎ポリマーの分子量は特に限定されず、成形方法に応じた粘性を有する分子量とすればよい。
【0029】
また、本発明の耐炎ポリマーとしては、アミン系化合物によって変性されたものが好ましく使用される。ここでいう「アミン系化合物によって変性された」状態としては、アミン系化合物が原料前駆体ポリマーと化学反応を起こした状態、または水素結合若しくはファンデルワールス力等の相互作用によりポリマー中に取り込まれた状態が例示される耐炎ポリマー含有溶液中の耐炎ポリマーがアミン系化合物によって変性されているか否かは、以下の方法でわかる。
A.分光学的方法、例えば先に示したNMRスペクトルや赤外吸収(IR)スペクトル等を用い、変性されてないポリマーとの構造との差を解析する手段。
B.後述する方法により耐炎ポリマー含有溶液中の耐炎ポリマー重量を測定し、原料とした前駆体ポリマーに対して重量増加しているか否かによって確認する手段。
【0030】
前者の手段の場合、通常空気酸化によって得られたポリマー(アミン変性なし)のスペクトルに対し、アミンで変性された耐炎ポリマーのスペクトルには変性剤として用いたアミン化合物の由来する部分が新たなスペクトルとして追加される。
【0031】
後者の手段の場合、通常、一般に空気酸化によっては前駆体繊維の重量に対して、耐炎繊維は同程度の重量が得られるが、アミンで変性されることにより前駆体ポリマーに対して、1.1倍以上、さらに1.2倍以上、さらに1.3倍以上に増加していることが好ましい。また増加量としての上の方としては、3倍以下、さらに2.6倍以下、さらに2.2倍以下に増加している方が好ましい。かかる重量変化が小さいと、耐炎ポリマーの溶解が不十分となる傾向があり、耐炎成形品とした際や、炭素成形品とした際に、ポリマー成分が異物となる場合がありうる。一方、かかる重量変化が大きいとポリマーの耐炎性を損なう場合がある。
【0032】
ここで耐炎ポリマーは水不溶性の場合もありえるし、水溶性の場合もありうる。水不溶性、水溶性は溶媒の選択や前記重量変化の割合と関係があり、アミン系化合物を溶媒として用いた際重量増加率が大きいほど水溶性となる傾向が認められるが、詳細は明らかでない。
【0033】
また、水不溶性あるいは水溶性のポリマーとするのかは目的、用途によって適宜選択できるものの、加熱処理が強いほど、後の成形品の段階では水不溶性となる場合が多い。
【0034】
耐炎ポリマーを得るためのアミン変性に用いることのできるアミン系化合物は1級〜4級のアミノ基を有する化合物であればいずれでもよいが、具体的にはモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−アミノエチルエタノールアミン等のエタノールアミン類やエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、N−アミノエチルピペラジン等のポリエチレンポリアミン等やオルト、メタ、パラのフェニレンジアミン等が挙げられる。
【0035】
特にアミノ基以外にも水酸基等の酸素、窒素、硫黄などの元素を有する官能基を有していることも好ましく、アミノ基とこのようなアミン以外の官能基とも含め2以上の官能基を有する化合物であることが反応性等の観点から好ましい。これらは1種または2種以上併用して用いることができる。アミノ基以外の官能基を有する化合物、例えば水酸基を有する場合、水酸基が耐炎ポリマーを変性することもあり得る。
【0036】
本発明の耐炎ポリマーは有機溶媒を溶媒とする溶液とすることができる。含まれる耐炎ポリマーが、下のほうでは、2%重量以上、10重量%以上、20重量%以上の順に好ましく、上のほうでは、70重量%以下、60重量%以下、50重量%以下の順で好ましい。濃度が低い場合、本発明自体の効果を損じないが、成形の際の生産性が低い場合があり、濃度が高い場合、流動性に乏しく成形加工しにくい場合がある。ここで耐炎ポリマー濃度は下記式で求められる。
耐炎ポリマー濃度(重量%)=100×耐炎ポリマー重量/耐炎ポリマー含有溶液重量
なお、耐炎ポリマー重量は熱重量分析装置(TG)を用いて、耐炎ポリマー含有溶液を窒素ガス中、50℃/分で300℃まで昇温した際に残存する固形成分の重量として求められる。 また、適当な凝固剤(沈殿剤)を用いて固形ポリマーを分離できる場合は直接凝固ポリマーの重量から求めることができる。具体的には水不溶性ポリマーの場合、水中に耐炎ポリマー含有溶液を投入し、90℃の温水で水溶性成分を十分ポリマー中から洗浄除去し、乾燥した後の固形ポリマーの重量として求められる。
【0037】
有機溶媒としてアミン系有機溶媒を使用できる。かような溶媒としては、1級〜4級のアミン構造を有する化合物であればいずれであってもよい。かかるアミン系有機溶媒を用いることによって、耐炎ポリマーが均一に溶解した耐炎ポリマー含有溶液となり、かつ良好な成形性を兼ね備えた耐炎ポリマーが実現するものである。
【0038】
また、本発明の耐炎ポリマーは極性有機溶媒を溶媒とする溶液とすることができる。この溶媒には、アミン系有機溶媒などアミン系化合物を含むことができる。アミン系化合物で変性された耐炎ポリマーは極性が高く、極性有機溶媒が該ポリマーをよく溶解するためである。
【0039】
ここで極性有機溶媒とは水酸基、アミノ基、アミド基、スルホニル基、スルホン基等を有するもので、さらに水との相溶性が良好なもので、具体例は、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、分子量200〜1000程度のポリエチレングリコール、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等やアミン系有機溶媒として前記したモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−アミノエチルエタノールアミン等のエタノールアミン類やエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、N−アミノエチルピペラジン等のポリエチレンポリアミン等やオルト、メタ、パラのフェニレンジアミン等をアミン変性剤と兼用して用いることができる。これらは1種だけで用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
【0040】
とりわけ0、ジメチルスルホキシドは耐炎ポリマーが水中で凝固しやすく、また緻密で硬いポリマーとなりやすいため、湿式紡糸にも適用可能な点から好ましい。
【0041】
アミン系溶媒の場合、アミノ基以外にも水酸基等の酸素、窒素、硫黄などの元素を有する官能基を有していることも好ましく、アミノ基とこのようなアミン以外の官能基とも含め2以上の官能基を有する化合物であることが溶解性の観点から好ましい。耐炎化ポリマーがより均一に溶解した耐炎ポリマー含有溶液とすることで、異物の少ない耐炎成形品を得ることができ、また後述する繊維状、シート状への成形性が向上する。
【0042】
また、本目的を妨げない範囲で、例えば耐炎ポリマーが水溶性の場合には、水等の他の溶媒(例えば、水溶性溶媒)を極性有機溶媒と組み合わせて用いることで均一な溶液としてもよい。水を用いることは、後述する成形時の溶媒除去が比較的容易である点やコストの観点から好ましい。水を添加する場合の添加量は耐炎ポリマー100重量部に対して、下のほうとしては5重量部以上、10重量部以上、20重量部以上、上の方としては300重量部以下、200重量部以下、150重量部以下の順に好ましい。
【0043】
また、アミン系溶媒の場合、その他混合される少量成分として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、分子量200〜1000程度のポリエチレングリコール、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等の極性有機溶媒が含まれていてもよい。かかる化合物をアミン系有機溶媒と併用することにより低コストで耐炎ポリマー含有溶液を得られるばかりでなく、後述する成形工程での溶媒除去が容易になり好ましい。
【0044】
本発明の耐炎ポリマー含有溶液の粘度は、ポリマーを用いての賦形方法、成形方法、成形温度、口金、金型等の種類等によってそれぞれ好ましい範囲とすることができる。一般的には50℃での測定において1〜100000Pa・sの範囲で用いることができる。さらに好ましくは10〜10000Pa・s、さらに好ましくは20〜1000Pa・sである。かかる粘度は各種粘度測定器、例えば回転式粘度計、レオメータやB型粘度計等により測定することができる。いずれか1つの測定方法により上記範囲に入ればよい。また、かかる範囲外であっても成形時に加熱あるいは冷却することにより適当な粘度として用いることもできる。
【0045】
次に、本発明の耐炎ポリマー含有溶液を製造する方法の例を説明する。本発明の耐炎ポリマー含有溶液を得る方法としては、以下の方法が例示される。
A.前駆体ポリマーを溶液中で耐炎化する方法。
B.耐炎ポリマー成分溶媒に直接溶解する方法。
【0046】
前記いずれの方法であっても原料となる前駆体ポリマーとしては、例えば、ポリアクリロニトリル系ポリマー、石油または石炭を原料とするピッチを原料とするポリマー、フェノール樹脂等を用いることができる。中でもポリアクリロニトリル系ポリマーは溶解性の点から好ましい。
【0047】
ポリアクリロニトリル系ポリマーとしては耐炎化反応の進行しやすさおよび溶解性の点から、アクリロニトリル由来の構造を有するアクリル系重合体からなるものが好ましい。かかるアクリル系共重合体の場合は、アクリロニトリル由来の構造単位を好ましくは85モル%以上、より好ましくは90モル%以上、更に好ましくは92モル%以上のアクリロニトリルとその他の共重合成分からなる共重合体からなるものが好ましい。かかるアクリロニトリル系重合体を重合する方法としては、特に限定されないが溶液重合法、懸濁重合法、スラリー重合法、乳化重合法等が適用できる。
【0048】
具体的な共重合成分として、アリルスルホン酸金属塩、メタリルスルホン酸金属塩、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルやアクリルアミドなども共重合できる。また上述の共重合成分以外にも、耐炎化を促進する成分として、ビニル基を含有する化合物、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸等等を共重合することもでき、これらの一部又は全量を、アンモニア等のアルカリ成分で中和してもよい。アクリロニトリル系ポリマーの数平均分子量は1000〜1000000程度の任意のものを選択できる。数平均分子量は希薄溶液の極限粘度の測定等から求めることができる。
【0049】
前駆体ポリマーを極性有機溶媒に溶解する場合には、前駆体ポリマーの形状・形態は粉末、フレーク、繊維状いずれでもよく、重合中や紡糸時に発生するポリマー屑や糸屑等もリサイクル原料として用いることもできる。好ましくは粉末状、とりわけ100μm以下の微粒子となっていることが、溶媒への溶解性の観点から特に好ましい。また、予めモノマーの段階から溶媒に溶解しておき、適当な重合方法によりポリマー化したポリマー溶液をそのまま用いることもできる。
【0050】
耐炎ポリマーを直接極性有機溶媒に溶解する場合には、ポリマーとしては前記前駆体ポリマーを酸素雰囲気下、適当な温度、例えば200〜300℃で酸化したものを用いることができる。かかる耐炎化が進行したポリマーは、形状は特に限定されず、繊維状であっても、粒子状であっても、粉末状であっても、多孔質状であってもよい。かかる耐炎ポリマーとして、予め前記形状にした前駆体ポリマーを耐炎化したものを用いても良いし、例えば長繊維状前駆体ポリマーを耐炎化した後に、切断、加工するなどして適当な形状にしてもよい。また、市販の耐炎製品を用いても良いし、かかる耐炎製品を製造する過程で発生した屑類を用いても良い。かかる方法によれば、一旦発生した耐炎繊維屑を再利用して耐炎製品を製造することが可能になる。
【0051】
前駆体ポリマーをアミン系溶媒、あるいはアミン系化合物存在下、極性有機溶媒に溶解させる場合であっても、耐炎ポリマーをアミン系溶媒、あるいはアミン系化合物存在下、極性有機溶媒に溶解させる場合であっても、溶解は常圧下に行ってもよいし、場合によっては加圧下あるいは減圧下行ってもよい。溶解に用いる装置としては通常の撹拌機付き反応容器以外にエクストルーダーやニーダ等のミキサー類を単独もしくは組み合わせて用いることができる。
【0052】
この場合、アクリロニトリル系ポリマー100重量部に対して、アミン系溶媒、あるいはアミン系化合物と極性有機溶媒の合計を100〜1900重量部、より好ましくは150〜1500重量部用いて溶解することがよい。
【0053】
前駆体ポリマーをアミン系溶媒、あるいはアミン系化合物の存在下、極性有機溶媒に溶解した後に、耐炎化する場合に、耐炎化を十分進めるには酸化剤を用いることが好ましい。また耐炎化が進んだポリマーの耐炎化度をさらに上げるために、酸化剤を用いることができる。かかる酸化剤としては、有機若しくは無機の酸化剤を用いることができる。中でも空気を加えることは取扱いおよびコストの面で好ましい。また、耐炎化および溶液化を液相で均一的に進行させるためには溶媒系に混合しやすい酸化剤を用いることが好ましい。具体的にはニトロ系、ニトロキシド系、キノン系等の酸化剤が挙げられる。中でも、特に好ましいのはニトロベンゼン、o,m,p−ニトロトルエン、ニトロキシレン等の芳香族ニトロ化合物を挙げることができる。これら酸化剤の添加量は特に限定されないが、前駆体ポリマー100重量部に対して、0.01〜100重量部が好ましく、1〜80重量部がより好ましく、3〜60重量部がさらに好ましい。かかる配合比とすることで最終的に得られる耐炎ポリマー含有溶液の濃度を前記した好ましい範囲に制御することが容易となる。
【0054】
前駆体ポリマーをアミン系溶媒、あるいはアミン系化合物の存在下、極性有機溶媒に溶解した後に、耐炎化する場合において、アミン系溶媒と酸化剤、あるいはアミン系化合物および極性有機溶媒と酸化剤は、前駆体ポリマーを加える前に混合していてもよく、前駆体ポリマーと同時に混合してもよい。先に前駆体ポリマーとアミン系化合物および極性有機溶媒等を混合し、加熱溶解してから、酸化剤を添加し耐炎ポリマーを得る方が不溶性物が少ない点で好ましい。もちろん、前駆体ポリマー、酸化剤、アミン系化合物、極性有機溶媒以外の成分をかかる溶液に混合することが妨げられるものではない。
【0055】
かかる前駆体ポリマーとアミン系化合物および極性有機溶媒等の混合液を適当な温度で加熱することにより前駆体ポリマーの溶解および耐炎化を進行させる。この際、温度は用いる溶剤や酸化剤によって異なるが、100〜350℃が好ましく、110〜300℃がより好ましく、120〜250℃がさらに好ましい。もちろん、予め耐炎化が進行した前駆体を溶解させた場合であっても加熱により更に耐炎化を進行させてもよい。
【0056】
上記方法により得られた本発明の耐炎ポリマー含有溶液中には未反応物や不溶性物やゲル等はない方が好ましいが、微量残存することもありうる。場合によっては、繊維状化などの成形前に、焼結フィルター等を用いて未反応物や不要物をろ過・分散することが好ましい。
【0057】
なお、本発明の耐炎ポリマー含有溶液中にはシリカ、アルミナ、ゼオライト等の無機粒子、カーボンブラック等の顔料、シリコーン等の消泡剤、リン化合物等の安定剤・難燃剤、各種界面活性剤、その他の添加剤を含ませても構わない。また耐炎ポリマーの溶解性を向上させる目的で塩化リチウム、塩化カルシウム等の無機化合物を含有させることもできる。これらは、耐炎化を進行させる前に添加してもよいし、耐炎化を進行させた後に添加してもよい。
【0058】
また、前記した極性化合物であるエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等を含ませる場合には、アミン系有機溶媒にこれら化合物を添加しておいても良いし、前駆体ポリマーにこれらの化合物を含ませておいてもよい。
【0059】
最終的に得られた耐炎ポリマー含有溶液の粘度、ポリマー濃度や耐炎性の進行度合、溶媒の種類等によって、前記した好ましい範囲に適宜調整することができる。
【0060】
次に、耐炎ポリマーを使用した耐炎成形品について説明する。本発明の耐炎成形品は、アミン系化合物で変性された耐炎ポリマーにより一部または全部が構成されてなる耐炎成形品である。また、前記本発明の耐炎ポリマー含有溶液がその他のポリマーや化合物に配合されているものにより構成されていてもよい。
【0061】
かかる本発明の耐炎成形品は、前記本発明の耐炎ポリマー含有溶液を賦形する賦形工程と、溶媒を除去する工程を経て得ることができる。
【0062】
かかる耐炎成形品は繊維状であってもよく、シート状であってもよく、その他の立体あるいは平面形状であってもよい。すなわち、賦形工程において繊維状に賦形することで繊維状の耐炎成形品が、シート状に賦形することでシート状の耐炎成形品が、その他立体形状に賦形することで立体耐炎成形品を得ることができる。
【0063】
本発明の繊維状の耐炎成形品は、長繊維状であっても短繊維状であってもよい。長繊維状の場合には引き揃えてそのまま炭素繊維の原料として用いる場合などに好適であり、短繊維状の場合には例えば捲縮糸として織物、編物、不織布等の布帛として用いる場合などに好適である。
【0064】
また本発明の繊維状の耐炎成形品は、単繊維であっても、複数の単繊維からなる束状の繊維であってもよい。束状の繊維とする場合には、1束中の単繊維本数は使用目的によって適宜決められるが、高次加工性の点では、50〜100000本/束が好ましく、100〜80000本/束がより好ましく、200〜60000本/束が更に好ましい。
【0065】
また、各単繊維の繊度は、炭素繊維の原料とする場合には0.00001〜100dtexが好ましく、0.01〜100がより好ましい。一方、布帛等に加工する場合には0.1〜100dtexが好ましく、0.3〜50dtexがより好ましい。また、単繊維の直径は、炭素繊維の原料とする場合は1nm〜100μmが好ましく、10nm〜50μmがより好ましい。一方、布帛に加工する場合は5〜100μmが好ましく、7〜50μmがより好ましい。
【0066】
また、本発明の繊維状耐炎成形品の各単繊維の断面形状は、円、楕円、まゆ型 場合によっては不定形であってもよい。
【0067】
また、本発明の繊維状の耐炎成形品の比重は、1.1〜1.6が好ましく、1.15〜1.55がより好ましく、1.2〜1.5がさらに好ましい。かかる比重が1.1未満であると空孔が多く強度が低下する場合があり、1.6を超えると緻密性が高まりすぎ伸度が低下する場合がある。比重は液浸法や浮沈法によって測定できる。
【0068】
また、本発明の繊維状耐炎成形品の単繊維引張強度は0.1〜10g/dtexが好ましく、0.2〜9g/dtexがより好ましく、0.3〜8g/dtexがさらに好ましい。かかる引張強度は万能引張試験器(例えばインストロン社製 モデル1125)を用いて、JIS L1015(1981)に準拠して測定できる。
【0069】
また、本発明の繊維状耐炎成形品に含まれる溶媒成分の残存量は10重量%以下が好ましく、5重量%以下がより好ましく、1重量%以下が更に好ましい。かかる溶媒残存率が10重量%を超えると耐炎性が損なわれる場合がある。
【0070】
次に、本発明の耐炎成形品の製造方法について、説明する。本発明の耐炎成形品は、前述の本発明の耐炎ポリマー含有溶液をそのまま繊維状、シート状、その他の平面または立体形状の耐炎成形品に加工できる。場合によっては本発明の耐炎ポリマーを他のポリマーや化合物へ配合して、賦形、成形し、耐炎成形品とすることもできる。具体的には、本発明の耐炎ポリマー含有溶液をアクリロニトリル系ポリマーへ配合せしめた後に紡糸し、繊維状の耐炎成形品を得ることもできるし、エポキシ樹脂に耐炎ポリマー含有溶液を配合した後、成形し、硬化せしめ耐炎成形品とすることもできる。この場合極性有機溶媒、特に好ましくはアミン系有機溶媒をそのままエポキシ樹脂の硬化剤として活用することもできる。溶液化しているため、広範な用途に使用することができる。
【0071】
次に、繊維状、シート状、その他の形状の耐炎成形品についてそれぞれ具体的な製造方法について以下に記す。
【0072】
耐炎ポリマー含有溶液を繊維状に成形する、いわゆる耐炎繊維を得る方法としては、特に限定されないが湿式紡糸法、乾湿式紡糸法、乾式紡糸法やフラッシュ紡糸法等の紡糸方法をそのままあるいは改良して応用することができる。また、電子紡糸法等も使用することができる。
【0073】
プロセスの簡便性から好ましいのは乾式紡糸法で耐炎ポリマーを口金から吐出し溶媒を蒸発せしめる方法である。場合によって金属塩の入った水浴等で凝固を進め、水溶性成分を除去することを併用できる。乾燥方法としては通常の熱風や水蒸気を送る、赤外線や高周波数の電磁波を照射する、減圧状態とする等を適宜選択できる。通常熱風を送る場合、繊維の走行方向に並行流あるいは直交流させることによって行うことができる。輻射加熱方式の赤外線は遠赤外線、中赤外線、近赤外線を用いることができるし、マイクロ波を照射することも選択できる。乾燥温度は50〜450℃程度の範囲で任意にとることができる。
【0074】
また、プロセスの生産性を上げるために好ましいのは湿式紡糸や乾湿式紡糸であり、耐炎ポリマーとして水不溶性のものを選択すれば、水を凝固浴の1成分として用いることができる。
具体的には10〜60℃程度の水浴あるいは溶媒/水の混合浴で凝固させ、凝固糸を水洗・延伸または収縮させて糸中の溶媒を除去した後に50〜450℃程度の範囲で乾燥する。乾燥の方法としては乾式紡糸法と同様の方法を選択できる。また、別途さらに200〜400℃程度の範囲で熱処理することもできる。凝固浴濃度としては溶媒/水=0/100〜95/5の任意の範囲とすることができる。また、凝固浴の温度は0〜100℃の任意の温度とすることができる。また、凝固欲としてはプロパノールやブタノール等の水との親和性を低減させたアルコールなら100%浴として用いることができる。
【0075】
耐炎繊維としては長繊維、短繊維いずれも得ることができるので、紡糸法を含め適宜選択する。さらなる延伸は冷延伸、加熱延伸いずれの方法を取ることもできる。加熱は熱風、スチーム等を適宜選択する。延伸倍率は1.1〜4倍が好ましく、1.2〜3倍がさらに好ましく1.3〜2.5が特に好ましい。延伸倍率は必要とされる耐炎繊維の強度や繊度から設定される。
【0076】
また、高次加工の必要性に応じて油剤を適宜付与することができる。油剤の種類としては特に限定されず、ポリエーテル系、ポリエステルの界面活性剤、シリコーン、アミノ変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーンを単独あるいは混合して付与することができるし、その他の油剤を付与してもよい。
【0077】
繊維状成形品は複数本の単繊維からなる束状であってもよく、1束に含まれる単繊維の数は、使用目的に合わせて適宜選べるが、前記した好ましい本数とするには、口金孔数によって調整することもできるし、複数本の繊維状耐炎成形品を合糸してもよい。
【0078】
また、単繊維の繊度を前記した好ましい範囲とするには口金孔径を選択したり、口金からの吐出量を適宜定めることにより制御することができる。
【0079】
また、単繊維繊度を大きくする場合には、乾燥時間を長くする、或いは乾燥温度を上げることが、溶媒残存量の低減の点で好ましい。より単繊維繊度が小さい繊維状耐炎成形品を得たい場合には、電子紡糸法等を用いることが好ましい。かかる方法により、好ましくは直径100nm以下、より好ましくは1〜100nm、さらに好ましくは5〜50nmといったナノファイバーレベルの繊度とすることもできる。
【0080】
また、繊維状耐炎成形品(耐炎繊維)の断面形状は丸孔、楕円孔、スリット等の口金吐出孔の形状と溶媒除去する際の条件によって制御することができる。
【0081】
本発明の耐炎繊維の比重は例えば乾燥または熱処理条件により制御することができる。乾燥条件として、乾燥温度を50〜450℃とすることでまた熱処理条件として200〜400℃の範囲とすることで前記した好ましい範囲の比重とすることができる。また、乾燥が空気中であれば酸化も進行し、炭化収率アップ等の好ましい事象に通じることもある。
【0082】
また、乾燥条件として乾燥温度を溶媒の沸点より高い温度とすることで、耐炎繊維中の溶媒・揮発成分の残存量を前記した10%以下にすることができる。
【0083】
次に、本発明のシート状の耐炎成形品を説明する。ここでいうシート状とは、薄地のフィルムも含む概念である。その厚みは特に限定されないが5mm以下が好ましく、より好ましくは2mm以下、更に好ましくは1mm以下である。かかる厚みが5mmを超えると脆くなる傾向にある。また、かかる厚みは用途によって適宜好ましい厚みを選ぶことができるが、一般工業用品として使用する場合には0.5mm程度に薄ければ十分な場合が多い。
【0084】
また、シート状の耐炎成形品の比重の好ましい範囲は1.1〜1.6である。比重が1.1未満であるとクラックが発生しやすい場合があり、1.6を超えると低伸度の場合がある。
【0085】
また、シート状の耐炎成形品の揮発成分含有量の好ましい範囲は10重量%以下である。かかる揮発成分含有量が10重量%を超えると耐炎性を損なう場合がある。揮発成分含有量は少なければ、少ないほど好ましく、5重量%以下がより好ましく、3重量%以下がさらに好ましく、理想的には0であるが、1重量%程度含まれていても実用上問題ない場合が多い。
【0086】
次に、本発明のシート状の耐炎成形品の製造方法の例を説明する。例えば、前記した本発明の耐炎ポリマー含有溶液をキャスト製膜法にてシート化する方法が挙げられる。均一にキャストした後、恒温乾燥機中で乾燥し、場合によって水浴等の浴中でゲル化させることもできる。また、直接凝固浴中で形態を固定することも可能である。
【0087】
本発明の耐炎成形品は上記した繊維状、シート状の他に、様々な平面または立体形状とすることができる。例えば、球に代表される粒子状、薄板に代表される板状、棒に代表される円柱状、その他不定形等である。
【0088】
かかる成形品の製造方法の例を説明する。熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂の成形で用いられる成形方法、例えば、射出成形、押出成形、圧縮成形などを用いることができる。またキャスト成形法を応用することも可能である。キャスト成形は多様な形状を付与できる点で好ましい。具体的には前記した本発明の耐炎ポリマー含有溶液を好みの形状の型に入れ、例えば恒温乾燥機中である程度乾燥させる。さらに、流動しなくなる直前に押さえ型を用いて最終的な形状に固定する
この場合、用いる耐炎ポリマー含有溶液は前記したものであれば特に限定されないが、耐炎ポリマー濃度が5〜50重量%のものが流動性の点で好ましく用いられる。また、50℃における粘度が10〜150Pa・sのものが流動性の点で好ましい。
【0089】
上記した各種耐炎成形品をさらに炭化することで炭素成形品を得ることができる。本発明の炭素成形品は、繊維状の炭素成形品(炭素繊維)、シート状の炭素成形品(炭素シート)、その他の形状の炭素成形品を挙げることができる。ここでいう炭素成形品とは炭素含有量が80重量%以上のものをいい、より好ましくは90重量%以上のものをいう。
【0090】
さらに炭素成形品の広角X線で測定した結晶サイズLc(オングストローム)が30以下であり、かつ窒素含有率N(重量%)の関係は、N≧0.04(Lc−30)^2 +0.5であることが好ましい。該範囲にすることで結晶性が高いため高物性を維持しながら、窒素量も多いため炭素成形品の収率が向上し、コスト面から好ましい。ここで窒素含有量は元素分析装置を用いることで測定できる。一般に炭素成形品の結晶サイズを上げようとすると熱分解のため窒素含有量は下がってしまうが、これらの範囲の炭素成形品は本発明のアミンで変性された耐炎ポリマーを原料とした耐炎成形品を炭化することで容易に形成しうる。
【0091】
本発明の繊維状の炭素成形品は、強度として100MPa以上、200MPa以上、300MPa以上であることが好ましく、また強度の上のほうとしては10000MPa以下、8000MPa以下、6000MPa以下の順に適当である。強度が低すぎると補強繊維として使用できない場合がある。強度は高ければ高いほど好ましいが、1000MPaあれば本発明の目的として十分なことが多い。
【0092】
また、本発明の繊維状の炭素成形品は、繊維直径が1nm〜7×10nmが好ましく、10〜5×10nmがより好ましく、50〜10nmがさらに好ましい。かかる繊維直径が1nm未満では繊維が折れやすい場合があり、7×10nmを超えるとかえって欠陥が発生しやすい傾向にある。また、本発明の繊維状炭素成形品は、比重が1.3〜2.4が好ましく、1.6〜2.1がより好ましく、1.6〜1.75が特に好ましい。1.3未満だと繊維が折れやすい場合があり、2.4を超えるとかえって欠陥が発生しやすい傾向にある。比重は液浸漬法や浮沈法によって測定できる。ここで繊維状炭素成形品は中空部を含む中空炭素繊維であってもよい。この場合、中空部は連続であっても非連続であってもよい。
【0093】
繊維状の炭素成形品を得る具体的な方法としては、前記本発明の繊維状耐炎成形品(耐炎繊維)を、不活性雰囲気中最高温度を300℃以上、2000℃未満の範囲の温度で処理することによって得られる。より好ましくは、最高温度の下のほうとしては、800℃以上、1000℃以上、1200℃以上の順に好ましく、最高温度の上のほうとしては、1800℃以下も使用できる。
【0094】
また、かかる炭素繊維を、さらに不活性雰囲気中、2000〜3000℃で加熱することによって黒鉛繊維とすることもできる。
【0095】
得られた炭素繊維、黒鉛繊維はその表面改質のため、電解処理することができる。電解処理に用いる電解液には、硫酸、硝酸、塩酸等の酸性溶液や、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、テトラエチルアンモニウムヒドロキシドといったアルカリ又はそれらの塩を水溶液として使用することができる。ここで、電解処理に要する電気量は、適用する炭素繊維、黒鉛繊維により適宜選択することができる。
【0096】
かかる電解処理により、得られる複合材料において炭素繊維材料、黒鉛繊維材料とマトリックスとの接着性が適正化でき、接着が強すぎることによる複合材料のブリトルな破壊や、繊維方向の引張強度が低下する問題や、繊維方向における引張強度は高いものの、樹脂との接着性に劣り、非繊維方向における強度特性が発現しないといった問題が解消され、得られる複合材料において、繊維方向と非繊維方向の両方向にバランスのとれた強度特性が発現されるようになる。
【0097】
この後、得られる炭素繊維材料に集束性を付与するため、サイジング処理をすることもできる。サイジング剤には、使用する樹脂の種類応じて、樹脂との相溶性の良いサイジング剤を適宜選択することができる。
【0098】
本発明のシート状の炭素成形品は炭素含有量が80重量%以上が好ましく、90重量%以上がより好ましい。また、厚みは好ましくは5mm以下、より好ましくは 2mm以下、更に好ましくは 1mm以下のものである。シート厚みは用途によって適宜選択でき、いわゆるフィルムと称されるような0.01〜2mm程度の厚みのものであってもよい。
【0099】
また、シート状の炭素成形品は、前記した本発明のシート状の耐炎成形品を炭化することによって得ることができる。具体的には不活性雰囲気中、300℃以上、2000℃未満で処理することによって得られる。より好ましくは、最高温度の下のほうとしては、800℃以上、1000℃以上、1200℃以上の順に好ましく、最高温度の上のほうとしては、1800℃以下も使用できる。
【0100】
また、かかるシート状の炭素成形品を、さらに不活性雰囲気中、2000〜3000℃で加熱することによってシート状の黒鉛成形品とすることもできる。
【0101】
また本発明の耐炎ポリマー含有溶液は、基板に対するコーティング等も応用できる。ガラス基板や金属基板の表面にコーティングすることによって耐炎性の付与や前記した耐炎繊維と同様に炭化することによって炭素特性を付与することもできる。
【0102】
以上のように、本発明の耐炎ポリマーから耐炎成形品を経由して炭素成形品に転換する製造法について記載したが、耐炎成形品を得る工程と炭素成形品を得る工程はそれぞれ独立して行うこともできるし、連続的に直結して一つの工程として製造することもできる。
【0103】
具体的に耐炎ポリマーから耐炎繊維を経由して炭素繊維を得る場合には、耐炎ポリマー含有溶液を紡糸し耐炎繊維とした後に炭化まで巻き取り工程を入れることなく連続的に行い、さらに表面処理およびサイジング剤付与工程を含め連続した一つのプロセスとして製造することができる。
【0104】
低コスト化の観点から、耐炎ポリマーから炭素成形品まで一つのプロセスで連続的に製造する方が好ましい。
【実施例】
【0105】
次に実施例により本発明をより具体的に説明する。なお実施例では、各物性値または特性は以下の方法により測定した。
【0106】
<耐炎ポリマー含有溶液の濃度>
耐炎ポリマー含有溶液約15mgを精秤し、熱重量天秤装置(略称TG装置)を用いて、25℃より20℃/分で300℃まで加熱した時点での残存固形分を耐炎ポリマー量として測定し、かかる耐炎ポリマー量を耐炎ポリマー含有溶液量で除して百分率で耐炎ポリマー濃度(重量%)を求めた。なお、熱重量天秤装置としてはセイコーインスツルメンツ(株)製 TG−DTA2000SAを用いた。
【0107】
また、水中にて完全に凝固する耐炎ポリマーの場合は耐炎ポリマー含有溶液5gを90℃に加熱した水1Lで30分処理を3回繰り返し、固形成分だけを集め120℃で1時間乾燥し耐炎ポリマーを分離した。その重さを測定し、かかる耐炎ポリマー量を耐炎ポリマー含有溶液量で除して百分率で耐炎ポリマー濃度(%)を求めた。
【0108】
<耐炎ポリマー含有溶液の粘度>
ソリキッドメータ(レオロジ社製)のプレート−プレート型レオメーターを用いて、条件として周波数0.1Hz、振幅1゜で測定した。測定温度は25℃〜150℃まで測定し、50℃の値を代表値とした。
【0109】
<耐炎ポリマーおよび耐炎ポリマー含有溶液のNMR測定>
耐炎ポリマーの固体状での核磁気共鳴スペクトルは観測周波数75.2MHz、観測幅30kHz、試料回転速度10kHzで測定した。なお、核磁気共鳴装置としてはケミマグネチックス社製CMX−300を用いた。
【0110】
耐炎ポリマー含有溶液の核磁気共鳴スペクトルを、測定核周波数67.9MHz、スペクトル幅15015kHz、試料回転数15Hz、室温で既知である溶媒のスペクトルを内部標準として測定した。なお、核磁気共鳴装置としては日本電子株式会社製GX−270を用いた。
【0111】
<耐炎性の評価法>
A.不定形ポリマー
JIS Z 2150(1966)の薄い材料の防炎試験方法(45°メッケルバーナー法)に準拠した方法であるが、条件を選定し各試料の耐炎性を評価した。不定形のポリマーの場合は粉砕して20μm程度の粒子とし、加圧成形機(圧力10MPa)を用いて直径20mm、厚さ1mmの円盤状ディスクを作成し試料とした。このディスクを、燃焼試験箱に設置した45°に傾斜した試験片支持わく内にセットし、高さ160mm、内径20mmのメッケルバーナーの火で10秒加熱し、残炎時間と燃焼後炭化物として残存するかどうか評価した。残炎時間、すなわち加熱終了から試料が炎を上げて燃え続ける時間が短い方が優れているものであるが、試料の形状を保持したまま炭化物を含む全面積を測定し測定前の70%以上残存すれば耐炎性能が「優秀」と評価した。40〜70%以上残存すれば「良好」、40%未満の場合は「不良」と判定した。
B.繊維
繊維の場合は合糸による1500本のフィラメントで試料長を30cmとし、耐炎ポリマーの評価と同様に、同様メッケルバーナーの炎で残炎時間および炭化長を求めその値から耐炎性を評価した。耐炎性が優秀(残炎時間が10秒以下、炭化長5cm以下)、あるいは耐炎性良好(残炎時間10秒以下、炭化長10cm以下)、耐炎性あり(残炎時間10秒以下、15cm以下)、不良(残炎時間10秒を越える、15cmを越える炭化長)の状態を判定した。測定数はn=5とし、もっとも該当数が多かった状態をその試料の耐炎性とした。
C.シート、成形品
シート・成形品の場合、試料長30cm、幅1cmに切断し耐炎繊維と同様に評価した。
【0112】
<耐炎繊維、炭素繊維の単繊維引張強度>
いずれも、JIS L1015(1981)に従って引張試験を行った。表面が滑らかで光沢のある紙片に5mm幅毎に25mmの長さの単繊維を1本ずつ試料長が約20mmとなるよう両端を接着剤で緩く張った状態で固着した。試料を単繊維引張試験器のつかみに取り付け、上部のつかみの近くで紙片を切断し、試料長20mm、引張速度20mm/分で測定した。測定数はn=50とし、平均値を引張強度とした。
<耐炎フィルム、炭素フィルムの破断強度>
フィルムの引張強度は、JIS K7127(1999)に規定された方法により、万能引張試験機を用いて25℃、65%RH雰囲気で測定した。なお、万能引張試験機としてインストロン5582型材料試験機を用い、サンプルは長さを100mmを超える寸法、幅10mmの短冊状に切り出した。初期引張りチャック間距離は100mmとし、引張り速度200mm/分とした。測定数はn=5とし、平均値を破断強度とした。
<耐炎成形品、炭素成形品の比重測定>
電子天秤を付属した液浸法による自動比重測定装置を自作し、具体的に耐炎成形品の場合にはエタノールを用い、炭素成形品の品はジクロロベンゼンを液として用い、この中に試料を投入し測定した。なお、予め投入前にエタノールまたはジクロロベンゼンを用い別浴で試料を十分濡らし、泡抜き操作を実施した。
<炭素成形品の結晶サイズ測定>
炭素繊維の場合、試さ4cmに切断し、金型とコロジオンのアルコール溶液を用いて固め角柱を作り測定試料とした。理学電気社((株))製広角X線回折装置を用い、X線源としてCuKα(Niフィルター)、出力40kV20mAで測定した。
【0113】
繊維以外についても同様に適当な大きさに切断後に試料を作成し、結晶サイズを測定した。
<炭素成形品の窒素含有量>
柳本製作所製作所製CHNコーダーMT−3型装置を用い、試料分解炉950℃、酸化炉850℃、還元炉550℃の条件で試料を酸化分解し測定した。

(実施例1)
アクリロニトリル99.5モル%とイタコン酸0.5モル%から水系スラリー重合法で得られたポリアクリロニトリル系共重合体の微粒子20重量部、モノエタノールアミン74重量部を秤量し、フラスコ中に投入し、撹拌し、160℃に加熱した。内容物は、除々に環化反応やその他の化学反応が進行しオレンジ色に変色した。20分程度で溶液化し、そのままさらに10分撹拌した。
【0114】
その後、オルトニトロトルエン6重量部を添加すると、酸化反応により溶液は黒褐色から黒色に変色し、そのまま160℃で30分間撹拌を続け反応を終了させた後に冷却して耐炎ポリマー含有溶液を得た。該耐炎ポリマー含有溶液を300℃で処理し、溶媒・揮発成分を除去し耐炎ポリマーを得た。この耐炎ポリマーの耐炎性を前記した方法に従ってディスク試料で評価したところ、残炎時間8秒と短く、形状は全面積の80%が炭化物を含む形で残存し、耐炎性が優秀であることがわかった。
【0115】
該耐炎ポリマー含有溶液の粘度は25℃で1000Pa・s、50℃では150Pa・sであった。
【0116】
また、該耐炎ポリマー含有溶液を13C−NMRで解析したところ、溶媒であるモノエタノールアミン以外にo−トルイジンを4重量%を含む溶液であることがわかった。160〜180ppmには明確に前駆体ポリマーであるポリアクリロニトリルや溶媒類に認められない耐炎ポリマーの化学構造に由来するピークが存在した。
【0117】
該耐炎ポリマー含有溶液中の耐炎ポリマーの濃度を前記した方法により測定したところ40重量%であった。すなわち、ポリアクリロニトリル系ポリマー濃度20重量%であったものが、溶媒であるモノエタノールアミンによって変性され、耐炎ポリマー濃度40重量%となり前駆体ポリマーの2倍に増量していた。
【0118】
(実施例2)
実施例1の耐炎ポリマー含有溶液を図1で示す乾式紡糸装置で繊維化した。具体的には、耐炎ポリマー含有溶液を、耐炎ポリマー流路1を通じ、さらに紡糸ヘッド2に0.15mmの孔径を3ホール有する口金から加熱窒素により雰囲気を300℃に保持した紡糸筒3に吐出し、溶媒を気化させた。なお紡糸筒3には加熱窒素導入口4および加熱窒素排出口を有しており、これら出入口を通じて加熱窒素が流出、流入している。得られた繊維状耐炎成型品6を100m/分のローラー速度で巻取ローラー7に一旦巻き取った、巻取ローラを取り外し、さらにオーブン中300℃で5分定長熱処理し残存する揮発成分を除去し耐炎繊維を得た。なお図1では、内部を説明する目的で、紡糸筒3は一部切除して示してある。
【0119】
得られた耐炎繊維の単繊維繊度は2.0dtex、強度は2.0g/dtex、伸度は20%であり、耐炎性を単繊維で評価したところ、燃焼することなく赤熱し、炭化長2cmと優秀な耐炎性を有していることがわかった。
【0120】
さらに、耐炎ポリマーから得られた耐炎繊維を窒素雰囲気中、300〜800℃で予備炭化し、次いで窒素雰囲気中、1400℃で炭化処理した。得られた炭素繊維の強度は1600MPa、弾性率は160GPaであった。
【0121】
(実施例3)
実施例1の耐炎ポリマー含有溶液をキャスト製膜法にてフィルム化した。具体的には以下の手順である。まず、耐炎ポリマー含有溶液をガラス板状に均一な厚みとなるようキャストした。それを恒温乾燥機中100℃で5分乾燥し、得られたポリマーを一旦ガラス板から剥離させた。その後、金枠に固定し300℃で5分、空気雰囲気で処理することで余分な溶媒・揮発成分を除去し耐炎フィルムを得た。
【0122】
この耐炎フィルムの最終厚みを接触式厚み計で測定したところ0.03mmの厚みを有することがわかった。得られた耐炎フィルムの破断強度は180MPa、伸度は18%であった。
【0123】
この耐炎フィルムの耐炎性を上述の方法で評価したところ、一旦わずかに着火するものの、燃焼は継続せず、火は消え炭化長2cmでその形態を保持したので、耐炎性が優秀であることがわかった。
【0124】
さらに、この耐炎フィルムを窒素雰囲気中300〜800℃で予備炭化し、次いで窒素雰囲気中、1400℃で炭化処理することで炭素フィルムが得られた。
【0125】
得られた炭素フィルムの破断強度は1200MPa、伸度は1.5%であった。
【0126】
(実施例4)
実施例1の耐炎ポリマー含有溶液をステンレス板の表面にコーティングし、100℃のオーブン中へ入れ5分間溶媒・揮発成分を除去し、さらに300℃で5分間残存している溶媒・揮発成分を除去させ厚さ10μmの表面コーティング膜を固定した。
【0127】
この成形品の耐炎性を実施例3と同じ方法で評価したところ、着火せず炭化長2cmと耐炎性が優秀であることがわかった。
【0128】
さらに、不活性雰囲気中、300〜800℃で予備炭化し、次いで不活性雰囲気中、900℃で炭化処理し炭素を主成分とする表面コーティング膜を有するステンレス板が得られた。
【0129】
(実施例5)
アクリロニトリル99.5モル%とイタコン酸0.5モル%から得られた共重合繊維(単繊維繊度0.9dtex、フィラメント数3000本)を240℃で100分間空気酸化した。得られた繊維の耐炎性を実施例3と同じ方法で評価したところ、着火せず炭化長2cmと優秀な耐炎性を有する繊維となっていることがわかった。該耐炎繊維20重量部にトリエチレンテトラミン80重量部を溶媒としてフラスコ中に投入し、撹拌下加熱環流すること2時間で耐炎ポリマー含有溶液を得た。
【0130】
微量の不溶成分を加熱ろ過によって除去した後、実施例3と同様な方法で耐炎フィルム製作した。得られた耐炎フィルムの耐炎性は炭化長3cmと優秀であった。
【0131】
(実施例6)
アクリロニトリル100重量部、イタコン酸0.6重量部、ジメチルスルホキシド371重量部、アゾビスイソブチロニトリル0.4重量部、オクチルメルカプタン1重量部を反応容器に仕込み、窒素置換後に65℃で5時間、75℃で7時間加熱し重合し、ジメチルスルホキシド(DMSO)を溶媒とするアクリロニトリル99.5モル%とイタコン酸0.5モル%からなるポリアクリロニトリル共重合体(PAN)を含む溶液を調製した。、系全体をポンプを用いて排気により30hPaまで減圧することで脱モノマーした後に160℃に加温しDMSOとモノエタノールアミン(MEA)を加え60分間均一な状態で反応させた。さらにオルトニトロトルエン(ONT)を加え160℃で120分間反応させ、黒色の耐炎ポリマー含有溶液を得た。この際の仕込み重量比はPAN/DMSO/MEA/ONT=12/77/8/3であった。
【0132】
冷却して得た耐炎ポリマー含有溶液の粘度は25℃で300Pa・s、50℃では100Pa・sであった。
【0133】
また、該耐炎ポリマーを温水中に投入し、凝固したポリマーをろ過によって分離し、120℃で乾燥させ耐炎ポリマーを単離した。固体状態で13C−NMR解析をDDMAS法およびCPMAS法で行った。図2のA−1がDDMAS法、A−2がCPMAS法でのスペクトルである。また図2のBが実施例5で得られたアミン変性していない耐炎繊維のスペクトルである。図2のA−1およびA−2のケミカルシフト160〜180ppmには前駆体ポリマーであるポリアクリロニトリルに認められない耐炎ポリマーに由来するピークが存在し、分子運動性が低い部分を測定しているCPMAS法のスペクトルはアミン変性してない耐炎繊維と類似している。また、分子運動性の高い部分を測定しているDDMAS法では特に明瞭に40〜50ppmおよび58〜68ppmにアミン変性剤として用いたMEAの化学結合ピークが認められ、MEAが耐炎ポリマーを化学変性し、ポリマー骨格に取り込まれていることがわかる。
【0134】
該耐炎ポリマー含有溶液中の耐炎ポリマーの濃度を前記した方法により測定したところ18.5重量%であった。すなわち、耐炎ポリマーはモノエタノールアミン等によって変性されポリアクリロニトリル系ポリマー濃度12重量%であったものが、耐炎ポリマー濃度18.5重量%となり前駆体ポリマーの1.54倍に増量していた。
【0135】
該耐炎ポリマーの耐炎性を実施例1と同様に評価したところ、残炎時間は8秒と短く、ほとんど100%円盤状のディスク形状を保持しており、耐炎性が優秀であることがわかった。
【0136】
(実施例7)
実施例6の耐炎ポリマー含有溶液を湿式紡糸装置で繊維化した。具体的には0.08mmの孔径を100ホール有する口金から20℃の水浴中に吐出し、溶媒類を水に置換した後に10m/分のローラー速度でローラーを通しさらに洗浄し、アミンシリコーン油剤を付与した後に180℃のホットロールを用い加熱乾燥し、さらに300℃で1.8倍に延伸と同時に熱処理して耐炎繊維を得た。
【0137】
得られた耐炎繊維の単繊維繊度は3.0dtex、強度は2.5g/dtex、伸度は18%であり、耐炎性を評価したところ、燃焼することなく赤熱し、炭化長1cmと優秀な耐炎性を有していることがわかった。
【0138】
さらに、耐炎ポリマーから得られた耐炎繊維を窒素雰囲気中、300〜800℃で予備炭化し、次いで窒素雰囲気中、1400℃で炭化処理した。得られた炭素繊維の強度は1800MPa、弾性率は200GPa、比重は1.54であった。
【0139】
また得られた炭素繊維を広角X線で測定したところ25オングストロームの結晶サイズを有し、元素分析から求めたN含有量は8%と多いことがわかった。N≧0.04(Lc−30)^2 +0.5の関係式を満たす。
【0140】
(実施例8)
アクリロニトリル100重量部、ジメチルスルホキシド371重量部、アゾビスイソブチロニトリル0.4重量部、オクチルメルカプタン1.6重量部を反応容器に仕込み、窒素置換後に65℃で5時間、75℃で7時間加熱し重合し、ジメチルスルホキシド(DMSO)を溶媒とする実質的にアクリロニトリル100%であるポリアクリロニトリル(ホモPAN)を含む溶液を調製し、脱モノマーした。さらにDMSOとONTを加え150℃に加温しモノエタノールアミン(MEA)を加え60分間均一反応させ耐炎ポリマー含有溶液を得た。この際の仕込み重量比はホモPAN/DMSO/MEA/ONT=10/76/8/6であった。
【0141】
冷却して得た耐炎ポリマー含有溶液の粘度は25℃で50Pa・s、50℃では30Pa・sであった。
【0142】
また、該耐炎ポリマーを温水中に投入し、凝固したポリマーをろ過によって分離し、120℃で乾燥させ耐炎ポリマーを単離した。13C−NMRで解析したところ、160〜180ppmには明確に前駆体ポリマーであるポリアクリロニトリルや溶媒、変性剤に認められない耐炎ポリマーに由来するピークが存在した。
【0143】
該耐炎ポリマー含有溶液中の耐炎ポリマーの濃度を前記した方法により測定したところ13重量%であった。すなわち、耐炎ポリマーはモノエタノールアミン等によって変性されポリアクリロニトリル系ポリマー濃度10重量%であったものが、耐炎ポリマー濃度13重量%となり前駆体ポリマーの1.3倍に増量していた。
【0144】
該耐炎ポリマーの耐炎性を実施例1と同様に評価したところ、残炎時間8秒と短く、ディスク形状はほとんど100%保持し、優秀な耐炎性を有していることがわかった。
【0145】
(実施例9)
実施例8の耐炎ポリマー含有溶液を湿式紡糸装置で繊維化した。具体的には0.08mmの孔径を100ホール有する口金から20℃のDMSO20重量%を含む水浴中に吐出し、溶媒類を水に置換した後に10m/分のローラー速度でローラーを通しさらに洗浄し、180℃のホットロールを用い加熱乾燥し、さらに300℃で1.5倍に延伸と同時に熱処理して耐炎繊維を得た。
【0146】
得られた耐炎繊維の単繊維繊度は1.6dtex、強度は2.8g/dtex、伸度は17%であり、耐炎性を単繊維で評価したところ、燃焼することなく赤熱し、炭化長1cmと優秀な耐炎性を有していることがわかった。
【0147】
さらに、耐炎ポリマーから得られた耐炎繊維を窒素雰囲気中、300〜800℃で予備炭化し、次いで窒素雰囲気中、1400℃で炭化処理した。得られた炭素繊維の強度は2000MPa、弾性率は210GPa、比重は1.65であった。
【0148】
また得られた炭素繊維の結晶サイズは24オングストロームであり、窒素含有量は7.8重量%であり高い結晶サイズと窒素含有量を維持していた。N≧0.04(Lc−30)^2 +0.5の関係式を満たす。
【0149】
(比較例1)
溶媒を硝酸に変えた以外、実施5と同様に耐炎ポリマー含有溶液を得ようとした。温度を 50〜300℃の範囲で変更してみたが、耐炎繊維を十分溶解することができず耐炎ポリマー含有溶液を得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0150】
本発明の耐炎ポリマーは耐炎繊維に成形することで防炎繊維製品として広く利用することができる。また、耐炎繊維を炭化することで炭素繊維とし、複合材料の補強繊維として広く利用できる。
【0151】
また、耐炎ポリマー溶液は繊維以外にシートや成形品等の任意の形状にも成形できるため耐炎性を必要とするあらゆる用途で使用可能となる。また、耐炎成形品を炭素成形品にすることも容易であるため、電気・電子部品等にも有用となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミン系化合物で変性されてなる耐炎ポリマー。
【請求項2】
耐炎ポリマーの前駆体がアクリロニトリル系ポリマーである請求項1記載の耐炎ポリマー。
【請求項3】
耐炎ポリマーおよび極性有機溶媒を含む耐炎ポリマー含有溶液。
【請求項4】
極性有機溶媒がアミン系有機溶媒である請求項3記載の耐炎ポリマー含有溶液。
【請求項5】
アミン系有機溶媒が2以上の官能基を有するアミン系化合物である請求項3の耐炎ポリマー含有溶液。
【請求項6】
耐炎ポリマーがアミン系化合物で変性されているものである請求項3から5いずれかに記載の耐炎ポリマー含有溶液。
【請求項7】
前記耐炎ポリマーがアクリロニトリル系ポリマーを前駆体として得られたものである請求項3〜6のいずれかに記載の耐炎ポリマー含有溶液。
【請求項8】
下記式で求められる耐炎ポリマーの濃度が2〜70重量%である請求項3〜7いずれかに記載の耐炎ポリマー含有溶液。
耐炎ポリマー濃度(重量%)=100×耐炎ポリマー重量(g)/耐炎ポリマー含有溶液重量(g)
耐炎ポリマー重量:耐炎ポリマー含有溶液を窒素中、50℃/分で300℃まで昇温した際に、残存する固形成分の重量。
【請求項9】
耐炎ポリマーの前駆体をアミン系有機溶媒中、またはアミン系化合物を含有する極性有機溶媒中で耐炎化することを特徴とする耐炎ポリマーおよび極性有機溶媒を含む耐炎ポリマー含有溶液の製造方法。
【請求項10】
耐炎ポリマーをアミン系有機溶媒に、あるいはアミン系化合物を含有する極性有機溶媒に溶解することを特徴とする耐炎ポリマーおよび極性有機溶媒を含む耐炎ポリマー含有溶液の製造方法。
【請求項11】
アミン系化合物で変性された耐炎ポリマーにより一部または全部が構成されてなる耐炎成形品。
【請求項12】
繊維状である請求項11記載の耐炎成形品。
【請求項13】
シート状であって、かつ厚みが5mm以下である請求項11記載の耐炎成形品。
【請求項14】
アミン系化合物で変性された耐炎ポリマーを炭化してなる炭素成分により一部または全部が構成されてなる炭素成形品。
【請求項15】
繊維状である請求項14記載の炭素成形品。
【請求項16】
シート状であって、かつ厚みが5mm以下である請求項14記載の炭素成形品。
【請求項17】
請求項14〜16のいずれかに記載の炭素成形品であって、広角X線で測定した結晶サイズLc(オングストローム)が30以下であり、かつ、Lcと窒素含有量N(重量%)が、N≧0.04(Lc−30)^2 +0.5 の関係を満足する炭素成形品。
【請求項18】
請求項3〜8のいずれかに記載の耐炎ポリマー含有溶液を賦形する賦形工程と、前記工程の後に溶媒を除去する除去工程とを含む、耐炎成形品の製造方法。
【請求項19】
前記賦形工程が、シート状に賦形する工程である、請求項18記載の耐炎成形品の製造方法。
【請求項20】
前記賦形工程が、繊維状に賦形する工程である、請求項18記載の耐炎成形品の製造方法。
【請求項21】
請求項11〜13のいずれかに記載の耐炎成形品を炭化することを特徴とする炭素成形品の製造方法。
【請求項22】
請求項18〜20のいずれかに記載の方法により得られた耐炎成形品を炭化することを特徴とする炭素成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【国際公開番号】WO2005/080448
【国際公開日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【発行日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−510241(P2006−510241)
【国際出願番号】PCT/JP2005/002564
【国際出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】