説明

耐熱性を有するプラスチック製のカップ状容器およびその一次成形品

【課題】耐熱性のある頚部を備えたプラスチック製のカップ状容器を精度良く形成すること。
【解決手段】プラスチック製のカップ状容器1の口部フランジ4、頚部3は延伸作用を受けることなく非晶状態のままとなっている。これらの部分4、3のうち、頸部3に、熱源であるヒータ33Aの加熱面38を当てて、接触加熱を行うことにより加熱して結晶化させる。接触加熱、結晶化および徐冷を、口部フランジ4、頚部3を上下、左右から挟んだ状態で行うことができるので、これらの部分に熱変形が発生しない。耐熱性が付与された頚部3を精度良く形成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一次成形品であるプリフォームを二軸延伸ブロー成形することにより得られる結晶性樹脂からなるプラスチック製のカップ状容器に関し、延伸されずにそのままカップ状容器の一部として残っている口部フランジなどに耐熱性を付与するための方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(PET)等の結晶性樹脂からなる一次成形品(プリフォーム)を二軸延伸成形することにより得られるプラスチック製のカップ状容器は、バリヤー性や衛生性に優れているので、飲料などの食品容器として多用されている。このようなプラスチック製のカップ状容器としてはPETボトルなどのように口部にキャップ用のねじ部が形成されたものが一般的であるが、近年においては乳飲料などの容器としてPET製の広口のカップ状容器が普及している。広口のカップ状容器は、底付きの胴部と、この胴部開口端部に連続して外側に広がっている口部フランジとを備えたカップ状をしており、内容物を充填した後に、口部フランジの表面にアルミ箔や樹脂合成紙などの蓋を接着して容器をシールするようになっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ここで、カップ状容器の内容物としては、85〜92℃ぐらいの高温状態で充填したい食品、例えばコーヒー乳飲料やお茶などがある。しかしながら、二軸延伸成形によって得られるカップ状容器、例えばPET製のカップ状容器では70℃程度の耐熱性はあるものの、それ以上の温度では熱により変形してしまう。
【0004】
特に、カップ状容器における、口部フランジおよび胴部開口端部分に形成された頚部は、二軸延伸ブロー成形による延伸を受けずに一次成形品の対応する部分がそのままカップ状容器に残った状態となっている。よって、これらの部分は、一次成形品が射出成形された時のままの非晶状態であり、耐熱性は70℃程度のままである。従って、これらの部分は、二軸延伸ブロー成形による延伸を受けて二軸方向に分子が配向されている胴部に比べて、耐熱性に乏しい。
【0005】
本発明の課題は、このような点に鑑みて、プラスチック製のカップ状容器に耐熱性を付与することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明は、結晶性樹脂からなる一次成形品をブロー成形することにより形成され、
底付きの筒状胴部と、この筒状胴部の開口端部に連続して外側に広がる平坦な口部フランジとを有するプラスチック製のカップ状容器において、
前記口部フランジはブロー成形時に延伸されていない部分であり、
前記筒状胴部の開口端部もブロー成形時に縦横方向に延伸されていない頚部となっており、
前記頚部が少なくとも85℃の内容物を充填しても熱変形しないように、当該頚部のみを加熱して結晶化させてあることを特徴としている。
【0007】
このように頚部を結晶化することにより当該部分の耐熱性が増す。頚部以外の筒状胴部はブロー成形による延伸を受けて結晶方向が配向されているので、所定の耐熱性が付与されている。従って、全体として耐熱性の高いカップ状容器を得ることができる。かかるカップ状容器は、口部フランジ位置まで高温の内容物を充填しても熱変形などが起きない。従って、ポリエチレンやポリプロピレン製のキャップを口部フランジに嵌めて使用する耐熱性の高い容器を得ることができる。
【0008】
なお、本発明のカップ状容器は、
ポリエチレンテレフタレート樹脂、
ポリエチレンナフタレート樹脂、
ポリエチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンナフタレート樹脂の重合体あるいは混合樹脂、または、
ポリエチレンテレフタレート樹脂とメタキシレンジアミンナイロン樹脂の混合樹脂およびポリエチレンテレフタレート樹脂、
からなる樹脂壁内に、ポリエチレンナフタレート樹脂またはメタキシレンジアミンナイロン樹脂が複数、例えば、3層または5層分挟まれた積層構成とすることができる。
【0009】
次に、上記構成のカップ状容器において、前記筒状胴部は、前記一次成形品を二軸延伸ブロー成形することに形成した部分である。当該筒状胴部を、25%から45%の範囲内で結晶化すれば、全体として充分な耐熱性を備えたプラスチック製のカップ状容器を得ることができる。また、当該筒状胴部を、密度が1.36g/cm3から1.39g/cm3の範囲内となるように、結晶化してもよい。
【0010】
この場合、プラスチック製のカップ状容器の素材としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂;ポリエチレンナフタレート樹脂;ポリエチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンナフタレート樹脂の重合体または混合樹脂;および、ポリエチレンテレフタレート樹脂とメタキシレンジアミンナイロン樹脂の混合樹脂のうちのいずれかを用いることができる。
【0011】
次に、本発明は、結晶性樹脂からなる一次成形品をブロー成形することにより形成され、
底付きの筒状胴部および、この筒状胴部の開口端部に連続して外側に広がる平坦な口部フランジとを有し、
前記口部フランジはブロー成形時に延伸されないまま残っている部分であり、
前記筒状胴部の開口端部もブロー成形時に延伸されないまま残っている頚部となっているプラスチック製のカップ状容器に耐熱性を付与する方法であって、
熱源を前記頚部に対してのみ接触させ、当該頚部のみを加熱して結晶化させることを特徴としている。
【0012】
本発明では、熱源を直接に頚部に接触させるようにしているので、従来のようなPETボトルのネック部を結晶化するためにネック部を輻射熱により加熱する方法に比べて、熱伝導が効率良く迅速に行われる。よって、頚部を所定の加熱温度まで速やかに加熱できる。また、頚部に接触させた熱源の加熱面を利用して頚部を挟み込むようにすれば、当該頚部を最終寸法の状態に保持できる。輻射加熱の場合には、加熱による頚部の熱膨張、およびその後の冷却による収縮を考慮してカップ状容器の一次成形品を用意する必要があるので高度な技術や経験が必要になる。しかし、本発明による接触加熱ではこのような課題を解消できる。
【0013】
また、前記熱源の温度および接触時間を制御することにより、前記頚部が、少なくとも85℃、好ましくは92℃の内容物を充填しても熱変形しないように、加熱して結晶化させることが望ましい。
【0014】
さらに、前記熱源の温度および接触時間を制御することにより、前記頚部の結晶化度が25%〜45%の範囲内となるように、当該頚部を加熱することが望ましい。
【0015】
次に、本発明は、底付きの筒状胴部および、この筒状胴部の開口端部に形成された外側に広がる平坦な口部フランジを有するプラスチック製のカップ状容器をブロー成形によって形成するために用いる結晶性樹脂からなる一次成形品であって、
ブロー成形により前記底付きの筒状胴部になる浅いカップ状のブロー成形部分と、このブロー成形部分の開口端部に連続して外側に広がっている口部フランジ形成部分とを有し、
前記口部フランジ形成部分は、前記プラスチック製のカップ状容器の前記口部フランジと同一寸法であり、ブロー成形時に延伸されない部分であり、
この口部フランジ形成部分に連続している前記ブロー成形部分の開口端部もブロー成形時に延伸されない頚部形成部分となっており、
当該頚部形成部分のみを、前記プラスチック製のカップ状容器に少なくとも85℃の内容物を充填しても熱変形しないように、加熱して結晶化させてあることを特徴としている。
【0016】
ここで、一次成形品の頚部形成部分を加熱して結晶化することにより耐熱性を付与するためには、カップ状容器の場合と同様に、この部分に熱源を接触させて直接に加熱する方法を採用することが望ましい。
【0017】
この場合、頚部形成部分の熱変形を拘束した状態で、この部分に熱源の加熱面を押し当てて加熱処理を行うことが望ましい。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明のプラスチック製のカップ状容器では、ブロー成形時に延伸されている胴部および延伸されずに残っている頚部を結晶化させて、所定温度の内容物を充填しても熱変形しないようにしてある。従って、本発明によれば、コーヒー乳飲料などの高温の液体を充填するのに適した耐熱性の高いカップ状容器を実現できる。
【0019】
また、本発明では、接触加熱によって、カップ状容器における延伸されずに残っている頚部を加熱して結晶化している。あるいは、ブロー成形前の一次成形品における頚部形成部分を接触加熱によって加熱して結晶化している。従って、輻射加熱などに比べて、これらの部分を効率良く結晶化して耐熱性を付与することができる。
【0020】
さらに、接触加熱を採用することにより、加熱対象の頚部を上下、左右から挟んだ状態で加熱結晶化および徐冷を行うことができるので、輻射加熱などとは異なり、これらの部分が熱変形して寸法精度が低下する弊害を回避できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
【0022】
(カップ状容器およびプリフォーム)
図1(a)は、本発明を適用可能なプラスチック製のカップ状容器の一例を半断面状態で示す立面図である。図1(b)は、カップ状容器を二軸延伸ブロー成形により形成するために用いる一次成形品であるプリフォームを半断面状態で示す立面図である。
【0023】
プラスチック製のカップ状容器1は、上側に広がっている底付きの円錐台状の筒状胴部2と、この筒状胴部2の開口端部分3に連続して外側に広がっている円環状の口部フランジ4とを備えている。胴部2の開口端部分3は一定の高さの円筒状の頚部となっており、この頚部3の下端に円錐台形状の胴部本体部分5が連続している。
【0024】
この形状のカップ状容器を二軸延伸ブロー成形によって得るために用いるプリフォーム11は、カップ状容器1の胴部本体部分5を形成することになるブロー成形部分15と、頚部3を形成することになる頚部形成部分13と、口部フランジ4を形成することになる口部フランジ形成部分14とを備えている。ブロー成形部分15は二軸方向に延伸を受けて膨張してカップ状容器1の胴部本体部分5になる。これに対して、頚部形成部分13および口部フランジ形成部分14は、延伸を受けずに、そのままカップ状容器1の頚部3および口部フランジ4として残る部分である。よって、これらの部分13、14の寸法および形状は、カップ状容器1の頚部3および口部フランジ4と同一とされている。
【0025】
ここで、カップ状容器1は結晶性樹脂から形成されたものであり、ポリエチレンテレフタレート樹脂;ポリエチレンナフタレート樹脂;ポリエチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンナフタレート樹脂の重合体または混合樹脂;および、ポリエチレンテレフタレート樹脂とメタキシレンジアミンナイロン樹脂の混合樹脂のいずれかの素材から形成したものである。
【0026】
この代わりに、積層構造のプラスチック素材から形成することもできる。すなわち、ポリエチレンテレフタレート樹脂、
ポリエチレンナフタレート樹脂、
ポリエチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンナフタレート樹脂の重合体あるいは混合樹脂、または、
ポリエチレンテレフタレート樹脂とメタキシレンジアミンナイロン樹脂の混合樹脂およびポリエチレンテレフタレート樹脂、
からなる樹脂壁内に、ポリエチレンナフタレート樹脂またはメタキシレンジアミンナイロン樹脂の層が複数積層された構成の積層素材から形成することもできる。例えば、図1(c)に示すように、ポリエチレンテレフタレート樹脂の層6の間に、メタキシレンジアミンナイロン樹脂の2つの層7が挟まれた積層樹脂壁構造とすることができる。
【0027】
(カップ状容器の耐熱化のための各種形態)
本例のカップ状容器1では、プリフォーム11の二軸延伸ブロー成形時に、二軸方向に延伸を受ける胴部本体部分15については、ヒートセットと呼ばれる加熱処理をして当該部分に耐熱性を付与している。すなわち、胴部本体部分15を、25%から45%の範囲内で結晶化して、その密度を1.36g/cm3から1.39g/cm3の範囲内の値になるようにしてある。
【0028】
次に、延伸を受けずに非晶状態のまま残るカップ状容器1の頚部3については、二軸延伸ブロー成形の後に、直接に熱源を頚部3に接触させて、これらの部分を接触加熱して結晶化することにより、当該部分に耐熱性を付与してある。
【0029】
図2は耐熱性付与の各種の形態を示してあり、図2(c)が本発明を適用した形態である。例えば、図2(a)に網掛けで示すように、口部フランジ4に耐熱性を付与するためには、当該部分を加熱して結晶化すればよい。本例では、92℃の内容物を充填しても熱変形しないように、熱源の温度および接触時間を制御することにより、口部フランジ4を加熱して、口部フランジ4の結晶化度を25%〜45%の範囲内となるようにしている。
【0030】
次に、口部フランジ4および頚部3に耐熱性を付与するためには、図2(b)に網掛けで示すように、口部フランジ4および頚部3を共に加熱して結晶化すればよい。この場合においても、92℃の内容物を充填しても熱変形しないように、熱源の温度および接触時間を制御することにより、口部フランジ4および頚部3を加熱して、これらの部分3、4の結晶化度を25%〜45%の範囲内となるようにすればよい。
【0031】
本発明を適用した図2(c)に示す形態では、網掛けで示すように、頚部3のみを結晶化してある。
【0032】
このように口部フランジ4、頚部3に耐熱性を付与することにより、全体として耐熱性の高いカップ状容器1を得ることができる。従って、このカップ状容器1には口部フランジ4の位置まで高温の内容物を充填することができる。よって、本例のカップ状容器1は、ポリエチレンやポリプロピレン製のキャップを口部フランジ4に嵌め込むことにより密閉性を確保する形式の乳飲料などの耐熱性容器として用いるのに適している。
【0033】
ここで、このように耐熱性を付与するために結晶化させた口部フランジ4の表面4aに、接着層が付加されたシートを熱接着して密閉されたカップ状容器を得る場合には、口部フランジ4の表面4aがヒートシール時に充分に溶融しないので、良好なシール性能が得られない。
【0034】
従って、アルミ箔シートや樹脂合成紙などの蓋を口部フランジ4の表面4aにヒートシールして、密閉容器とする場合には、当該口部フランジ4の表面4aを結晶化せずにそのまま非晶状態のまま残しておくことが望ましい。
【0035】
このためには、図2(d)に網掛けで示すように、口部フランジ4における表面4aを除く部分を加熱して結晶化すればよい。例えば、熱源を口部フランジ4の裏面4bにのみ接触させて加熱すればよい。この場合、図2(e)に網掛けで示すように、口部フランジ4の表面4aを除く部分と共に、頚部3も加熱して結晶化することが望ましい。いずれの場合においても、92℃の内容物を充填しても熱変形しないように、熱源の温度および接触時間を制御することにより、結晶化度を25%〜45%の範囲内となるようにすればよい。
【0036】
一方、図2に示す形態は、二軸延伸ブロー成形後においてカップ状容器1の口部フランジ4および/または頚部3に耐熱性を付与したものである。この代わりに、二軸延伸ブロー成形前において一次成形品であるプリフォーム11における口部フランジ形成部分14および/または頚部形成部分13に予め耐熱性を付与しておいてもよい。
【0037】
図3(a)〜(e)には、耐熱性を付与するために結晶化した部分を網掛け部分で示してある。図3(c)が本発明を適用した形態である。図3(a)はプリフォーム11の口部フランジ形成部分14のみを結晶化したものであり、図3(b)はプリフォーム11の口部フランジ形成部分14および頚部形成部分13を結晶化したものであり、本発明を適用した形態を示す図3(c)はプリフォーム11の頚部形成部分13のみを結晶化したものである。図3(d)は口部フランジ形成部分14における裏面側部分14bのみを結晶化し、表面側部分14aを非晶状態のまま残したものである。また、図3(e)は口部フランジ形成部分14における裏面側部分14bと、これに連続している頚部形成部分13を結晶化し、口部フランジ形成部分14の表面部分14aを非晶状態のまま残したものである。なお、これらの部分を結晶化するための加熱方法は上記のカップ状容器1における対応する部分の加熱方法と同様に接触加熱を用いることが望ましい。
【0038】
(結晶化装置)
図4(a)にはカップ状容器1の口部フランジ4の裏面側部分を結晶化するために用いるのに適した結晶化装置の一例を示してある。本例の結晶化装置20は、円環状の容器受け21と扁平な円柱状の芯出し治具22と、ヒータ23とを備えている。容器受け21の円形内周面24の上端縁24aはカップ状容器1の頚部3が丁度嵌る内径寸法となっており、その下側部分は頚部3とは非接触状態となるように大きな内径寸法とされている。この円形内周面24の上端縁24aに連続している円環状端面25は口部フランジ4の円環状裏面4bと同一の大きさであり、この円環状端面25がヒータ23の加熱面とされている。この円環状端面25の外周縁には円形内周面26が連続しており、この円形内周面26は口部フランジ4が丁度はまり込む内径寸法となっている。
【0039】
芯出し治具22は、カップ状容器1の口部フランジ4に丁度嵌る大きさの円形突部28を備え、この外周部分28aの上端には、口部フランジ4の表面4aと同一の大きさの円環状押さえ面29が形成されている。芯出し治具22の内部には、その円環状押さえ面29の上方において当該押さえ面29に沿って円環状に冷却液循環路27が引きまわされている。
【0040】
この構成の結晶化装置20において、カップ状容器1を容器受け21に装着し、しかる後に、不図示の昇降機構によって芯出し治具22を下降させる。この結果、まず、芯出し治具22の円形突部28によってカップ状容器1の芯出しが行われ、次に、芯出し状態で、円環状端面25と円環状押さえ面29の間に口部フランジ4が挟まれた状態が形成される。
【0041】
この後、ヒータ23を駆動すると、円環状端面25を介しての熱伝導によって、口部フランジ4がその裏面4bの側から直接加熱される。ヒータ23による加熱温度、加熱時間を制御することにより、口部フランジ4の加熱による結晶化度を制御できる。
【0042】
例えば、本発明者等の実験によれば、口部フランジ4が厚さ1mmのポリエチレンテレフタレート製のカップ状容器の場合、24℃の口部フランジ4の裏面4bを、45秒間、直接接触することで30%以上の結晶化度が得られた。このときの熱源であるヒータ23の温度は183℃であった。表1には、183℃に熱源を固定し、カップ状容器1の口部フランジ表面4aに熱源を直接接触させて加熱した場合の加熱時間毎の結晶化度を測定したデータである。
【0043】
【表1】

【0044】
ここで、熱源の表面、図示の例では、円環状端面25の表面にPTFEコーティングなどの表面処理を施すことにより、当該端面25に口部フランジ裏面4bが粘着してしまうことを防止できる。
【0045】
また、ヒータによる加熱中においては、冷却液循環路27を介して冷却液を循環させることにより、口部フランジ4の表面4aは円環状押さえ面29を介して直接冷却された状態に保持され、この表面4aを含む部分は非晶状態のまま残ることになる。また、本例では、頚部3には加熱面が接触していないので、この部分も非晶状態のまま残ることになる。
【0046】
さらに、本例では、口部フランジ4が、円環状端面25と円環状押さえ面29によって上下方向から挟まれている。また、口部フランジ4の内周面には円形突起28が差し込まれ、その外周面は円形内周面26に当たっている。従って、口部フランジ4が加熱結晶化の間に熱変形することを防止できる。
【0047】
よって、本例の結晶化装置20によれば、図2(d)に示すように裏面4bの側の部分のみが結晶化されて耐熱性が付与された口部フランジ4を寸法精度良く形成することができる。
【0048】
ここで、PETボトルのネック部の結晶化装置、方法については各種の提案がなされているが、その何れも輻射熱によりネック部を非接触状態で加熱し、その後、自然冷却させてネック部を収縮結晶化させる方法である。よって、結晶化後の最終所要寸法は多くの条件に左右されることになる。
【0049】
即ち、予め測定したりテスト型などで得られた最終寸法より大きなネック部を加熱し、その後、自然冷却するために、材料、射出成形条件、更には縦方向、径方向の収縮状態を見極めた一次成形品であるプリフォームを用意しなければならず、高度な技術や経験が必要であった。
【0050】
本例の装置では、口部フランジを接触加熱することができ、当該部分を所定時間加熱しながら、最終寸法の状態で挟み込み、この状態を保持したまま徐冷して結晶化させることができるので、口部フランジの正確な最終寸法が得られるという優れた効果が得られる。
【0051】
次に、図4(b)は、本発明を適用したカップ状容器1の頚部3のみを結晶化するための装置を示す図である。結晶化装置30も、容器受け31と、芯出し治具32と、ヒータ33A、33Bとを備えている。
【0052】
芯出し治具32は、昇降可能であり、その下端部分には、頚部3の内周面に丁度はまり込む寸法の円形外周面34が形成されている。この円形外周面34の内側には当該円形外周面34に沿ってヒータ33Bが円環状に配置されている。また、芯出し治具32の外周には円環状のフランジ押さえ35が固定されており、このフランジ押さえ35の円環状下面36は口部フランジ4の表面4aを押付けるための押付け面とされている。この円環状下面36の真上には当該下面36に沿って円環状に冷却液循環路37が配置されている。
【0053】
容器受け31の円形内周面38は、カップ状容器1の頚部3が丁度嵌る内径寸法となっており、その下側部分は頚部3とは非接触状態となるように大きな内径寸法とされている。この円形内周面38の上端縁に連続している円環状端面39は口部フランジ4の裏面4bの支持面とされている。容器受け31の内部には、円形内周面38を取り囲む状態にヒータ33Aが配置され、当該円形内周面38が加熱面となっている。
【0054】
装置30においては、頚部3のみを接触加熱により加熱して結晶化することができる。また、加熱結晶化およびその後の徐冷期間に亘り、口部フランジ4および頚部3が上下および左右から挟まれた状態となっているので、熱変形によりこれらの部分の寸法が最終寸法から外れたものとなってしまうことを防止できる。
【0055】
(プリフォームの結晶化装置)
なお、図5にはプリフォームの結晶化装置の例を示してある。図5(a)はプリフォーム11の口部フランジ形成部分14の裏面側部分14bを加熱結晶化するためのものであり、図4(a)に示す装置と同一構造であるので、対応する部位には同一符号を付してある。また、図5(b)は本発明によるプリフォーム11の頚部形成部分13を加熱結晶化するための装置であり、図4(b)に示す装置と同一構造であるので、対応する部位には同一符号を付してある。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】(a)は本発明を適用したカップ状容器を半断面状態で示す立面図であり、(b)はプリフォームを半断面状態で示す立面図である。
【図2】図1のカップ状容器の結晶化部分を示す説明図である。
【図3】図1のプリフォームの結晶化部分を示す説明図である。
【図4】図1のカップ状容器の結晶化装置の二例を示す説明図である。
【図5】図1のプリフォームの結晶化装置の二例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0057】
1 カップ状容器
2 胴部
3 頚部
4 口部フランジ
4a 口部フランジの表面(シール面)
4b 口部フランジの裏面
5 胴部本体部分
11 プリフォーム
13 頚部形成部分
14 口部フランジ形成部分
14a 口部フランジ形成部分の表面側部分
14b 口部フランジ形成部分の裏面側部分
15 ブロー成形部分
20、30 結晶化装置
21、31 容器受け
22、32 芯出し治具
23、33A、33B ヒータ
24、26、38 円形内周面
25 円環状端面
27、37 冷却液循環路
34 円形外周面
35 フランジ押さえ
36 円環状下面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性樹脂からなる一次成形品をブロー成形することにより形成され、
底付きの筒状胴部と、この筒状胴部の開口端部に連続して外側に広がる平坦な口部フランジとを有するプラスチック製のカップ状容器において、
前記口部フランジはブロー成形時に延伸されていない部分であり、
前記筒状胴部の開口端部もブロー成形時に縦横方向に延伸されていない頚部となっており、
前記頚部が少なくとも85℃の内容物を充填しても熱変形しないように、当該頚部のみを加熱して結晶化させてあることを特徴とするプラスチック製のカップ状容器。
【請求項2】
請求項1に記載のプラスチック製のカップ状容器において、
ポリエチレンテレフタレート樹脂、
ポリエチレンナフタレート樹脂、
ポリエチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンナフタレート樹脂の重合体あるいは混合樹脂、または、
ポリエチレンテレフタレート樹脂とメタキシレンジアミンナイロン樹脂の混合樹脂およびポリエチレンテレフタレート樹脂、
からなる樹脂壁内に、ポリエチレンナフタレート樹脂またはメタキシレンジアミンナイロン樹脂が複数積層されていることを特徴とするプラスチック製のカップ状容器。
【請求項3】
請求項1または2に記載のプラスチック製のカップ状容器において、
前記筒状胴部は、前記一次成形品を二軸延伸ブロー成形することに形成した部分であり、
当該筒状胴部を、25%から45%の範囲内で結晶化したことを特徴とするプラスチック製のカップ状容器。
【請求項4】
請求項1または2に記載のプラスチック製のカップ状容器において、
前記筒状胴部は、前記一次成形品を二軸延伸ブロー成形することにより形成した部分であり、
当該筒状胴部を、密度が1.36g/cm3から1.39g/cm3の範囲内となるように、結晶化したことを特徴とするプラスチック製のカップ状容器。
【請求項5】
請求項3または4に記載のプラスチック製のカップ状容器において、
ポリエチレンテレフタレート樹脂;ポリエチレンナフタレート樹脂;ポリエチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンナフタレート樹脂の重合体または混合樹脂;および、ポリエチレンテレフタレート樹脂とメタキシレンジアミンナイロン樹脂の混合樹脂のうちの一つから形成されていることを特徴とするプラスチック製のカップ状容器。
【請求項6】
結晶性樹脂からなる一次成形品をブロー成形することにより形成され、
底付きの筒状胴部および、この筒状胴部の開口端部に連続して外側に広がる平坦な口部フランジとを有し、
前記口部フランジはブロー成形時に延伸されないまま残っている部分であり、
前記筒状胴部の開口端部もブロー成形時に延伸されないまま残っている頚部となっているプラスチック製のカップ状容器に耐熱性を付与する方法であって、
熱源を前記頚部に対してのみ接触させ、当該頚部のみを加熱して結晶化させることを特徴とするプラスチック製のカップ状容器の耐熱化方法。
【請求項7】
請求項6に記載のプラスチック製のカップ状容器の耐熱化方法において、
前記熱源の温度および接触時間を制御することにより、前記頚部が、少なくとも85℃の内容物を充填しても熱変形しないように、加熱して結晶化させることを特徴とするプラスチック製のカップ状容器の耐熱化方法。
【請求項8】
請求項6に記載のプラスチック製のカップ状容器の耐熱化方法において、
前記熱源の温度および接触時間を制御することにより、前記頚部の結晶化度が25%〜45%の範囲内となるように、当該頚部を加熱することを特徴とするプラスチック製のカップ状容器の耐熱化方法。
【請求項9】
底付きの筒状胴部および、この筒状胴部の開口端部に形成された外側に広がる平坦な口部フランジを有するプラスチック製のカップ状容器をブロー成形によって形成するために用いる結晶性樹脂からなる一次成形品であって、
ブロー成形により前記底付きの筒状胴部になる浅いカップ状のブロー成形部分と、このブロー成形部分の開口端部に連続して外側に広がっている口部フランジ形成部分とを有し、
前記口部フランジ形成部分は、前記プラスチック製のカップ状容器の前記口部フランジと同一寸法であり、ブロー成形時に延伸されない部分であり、
この口部フランジ形成部分に連続している前記ブロー成形部分の開口端部もブロー成形時に延伸されない頚部形成部分となっており、
当該頚部形成部分のみを、前記プラスチック製のカップ状容器に少なくとも85℃の内容物を充填しても熱変形しないように、加熱して結晶化させてあることを特徴とするプラスチック製のカップ状容器の一次成形品。
【請求項10】
底付きの筒状胴部および、この筒状胴部の開口端部に形成された外側に広がる平坦な口部フランジを有するプラスチック製のカップ状容器をブロー成形によって形成するために用いられ、
ブロー成形により前記底付きの筒状胴部になる浅いカップ状のブロー成形部分と、このブロー成形部分の開口端部に連続して外側に広がっている口部フランジ形成部分とを有し、
前記口部フランジ形成部分は、前記プラスチック製のカップ状容器の前記口部フランジと同一寸法であり、ブロー成形時に延伸されない部分であり、
この口部フランジ形成部分に連続している前記ブロー成形部分の開口端部もブロー成形時に延伸されない頚部形成部分となっている結晶性樹脂からなる一次成形品に耐熱性を付与する方法であって、
熱源を前記頚部形成部分のみに接触させて、当該頚部形成部分を加熱して結晶化させることを特徴とするプラスチック製のカップ状容器の一次成形品の耐熱化方法。
【請求項11】
請求項10に記載の一次成形品の耐熱化方法において、
前記熱源の温度および接触時間を制御することにより、前記頚部形成部分が、前記プラスチック製のカップ状容器に少なくとも85℃の内容物を充填しても熱変形しないように、加熱して結晶化させることを特徴とするプラスチック製のカップ状容器の一次成形品の耐熱化方法。
【請求項12】
請求項10に記載の一次成形品の耐熱化方法において、
前記熱源の温度および接触時間を制御することにより、前記頚部形成部分の結晶化度が25%〜45%の範囲内となるように、当該頚部形成部分を加熱することを特徴とするプラスチック製のカップ状容器の一次成形品の耐熱化方法。
【請求項13】
請求項10ないし12のうちのいずれかの項に記載の一次成形品の耐熱化方法において、
前記頚部形成部分の熱変形を拘束した状態で、当該頚部形成部分に前記熱源の加熱面を押し当てて加熱処理を行うことを特徴とするプラスチック製のカップ状容器の一次成形品の耐熱化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−207561(P2008−207561A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−109699(P2008−109699)
【出願日】平成20年4月21日(2008.4.21)
【分割の表示】特願2002−223503(P2002−223503)の分割
【原出願日】平成14年7月31日(2002.7.31)
【出願人】(594082648)株式会社フロンティア (34)
【Fターム(参考)】