説明

耐薬品性の金型および治工具の製造方法

(A)少なくとも1種の樹脂系(a)と少なくとも1種の硬化剤系(b)とを含むシームレスモデリングペーストを支持体上に塗布して、硬化可能材料の連続皮膜を形成させる工程;および(B)該シームレスモデリングペーストを硬化させる工程;を含む、治工具または金型を製造するための方法が特許請求されている。使用される組成物は、2より大きい平均エポキシ官能を有するエポキシ樹脂(a1)を含む樹脂系(a)、および2より大きい平均アミン官能価を有するアミン化合物(b1)を含む硬化剤系(b)を含んでなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成分と硬化剤成分を含む二成分系硬化可能組成物、およびシームレス金型やシームレス治工具を製造するのに該硬化可能組成物を使用することに関する。
【背景技術】
【0002】
硬化可能な二成分系組成物は、例えば、接着剤、繊維強化複合材料、モデリングペースト、塗料、シーラント、パテ、マスチック、目止コンパウンド、コーキング材、封入剤、および表面塗料(ペイント等)などの幅広い分野で使用されている。このような組成物における、成分混合後の硬化時間は、多くのファクター(例えば、硬化可能な材料の性質や温度)に依存する。広く知られている二成分樹脂系の例としては、エポキシ/アミン系、イソシアネート/ポリオール系、およびエポキシ/無水物系、そしてさらに、エポキシ;アクリレート/アミン系やエポキシ;イソシアネート/ポリオール;アミン系等のハイブリッド系がある。
【0003】
自動車産業、航空宇宙産業、鉄道産業、風力タービン産業および海洋産業において製造するモデルは、こうした組成物に広く依存する。特に、より大きな形式のマスターモデルについては、寸法的に正確なマスターモデルを製造することが求められている。これらのマスターモデルが、部品製造用の生産用金型を製作するためにエンジニアによって使用される。これらの産業はますます、マスターモデル製造の段階を取り除き、機能金型を直接製作しようと努めている。
【0004】
複合材料製造業において使用する金型は、それ自体が複合材料、特に、繊維強化剤や無機質強化材を含む熱硬化性樹脂を使用して造られることが多い。
特に、本発明において詳述されている金型は、液体熱硬化性樹脂〔例えば、不飽和ポリエステル(UPE)やビニルエステル(VE)を、フリーラジカル重合により硬化されるビニルモノマーやアクリルモノマー(特にスチレン)等の反応性モノマーと共に溶液状態にて含有する〕を硬化させることによって部品を製造するのに使用される。これらの不飽和ポリエステル(UPE)組成物やビニルエステル(VE)組成物の硬化は、置換もしくは未置換のスチレン、ビニルモノマー、アクリレート、またはメタクリレート等の、こうした追加の反応性不飽和モノマーの存在下でのみ果たすことができる。しかしながら、これらの反応性モノマーは、金型の劣化を引き起こすことがある。
【0005】
金型の製造は通常、一般には液体熱硬化性樹脂を使用して、繊維強化材と積層するというプロセスにより、あるいは無機質フィラー強化材と共にキャストするというプロセスにより、その上に金型が作製されるフルスケールのマスターモデル(しばしばプラグと呼ばれる)を必要とする。
【0006】
マスターモデルの製造に対してはシームレスモデリングペースト(SMP)が使用される。液体熱硬化性樹脂組成物中に、1〜5部品より多い一連の部品の製造を可能にするよう使用されている反応性モノマーに対して十分な耐薬品性をもたらす金型を、SMP組成物から直接製造する(すなわち、マスターモデルを使用せずに製造する)ための満足できる方法は、これまで開発されていなかった。以前は、部品の製造時にSMP組成物の表面への化学的・物理的攻撃が起こり、このため表面品質の劣化を引き起こし、こうした劣化は、製造される部品の数とともに急激に増大した。耐薬品性は、熱硬化性樹脂において一般的に使用される反応性モノマー中への浸漬試験を使用して測定されることが多い。スチレン中に14日間浸漬したサンプルによる吸収率が、スチレン攻撃に対する材料の耐性を有効に示すことができ、吸収率は、サンプル重量を基準とする百分率として表示される。既存の配合物は一般に、15重量%以上のスチレン吸収率(40℃にて14日間)を示す。
【0007】
国際公開WO2006/024676には、高温耐熱性のモデルと治工具を製造するための組成物が開示されている。該組成物は、エポキシ樹脂、チキソトロープ剤、および、少なくとも1種のポリエチレンイミンと少なくとも2つのアミノ水素基を有する少なくとも1種の他のアミンと潜在反応性を有する少なくとも1種の他のエポキシ硬化剤とを含む硬化剤系を含有しており、ここで硬化剤系の成分は、エポキシ樹脂の硬化を引き起こすに足る量にて存在する。
【0008】
国際公開WO03/051649号は、ボンドラインのないモデルを製造するための別の方法を開示している。特許請求されている方法では、樹脂組成物とマイクロバルーンとを含む低密度のチキソトロープ硬化可能ペーストが使用される。該樹脂組成物は、エポキシ樹脂、チキソトロープ剤、および、少なくとも1種のポリエチレンイミンと少なくとも2つのアミン水素基を有する少なくとも1種の他のアミンとを含む硬化剤、を含んでよい。
【0009】
スチレンと他の低分子量モノマーに対する耐薬品性はよくない。硬化組成物がスチレンを吸収し、その結果硬化組成物が膨潤して亀裂が観察されることがあり、このためさらなる劣化が引き起こされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】WO2006/024676
【特許文献2】WO03/051649
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、低分子量モノマーに対する改良された耐薬品性を有するモデルや治工具を製造するのに有用な硬化可能組成物が求められている。このような組成物はさらに、熱硬化性樹脂モノマー溶液を成形するためのシームレス金型の製造を可能にするよう、必要な物理的特性を有していなければならない。硬化可能組成物の硬化プロセスに対する要件は、反応熱が高すぎないこと、すなわち、硬化時のピーク発熱量が、支持しているサブ構造材料のゆがみや損傷を引き起こさないよう充分に低いことである。組成物はさらに、非スランプ特性(垂直表面に30mmまでの厚さで塗布したときでも)、硬化時における低い収縮率と発熱量、良好な圧延特性、および優れた機械抵抗を有するシームレス皮膜を形成するよう塗布することができるようなレオロジーを有していなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の主題は、(A)少なくとも1種の樹脂系(a)と少なくとも1種の硬化剤系(b)とを含むシームレスモデリングペーストを支持体上に塗布して、硬化可能材料の連続皮膜を形成させること;および(B)シームレスモデリングペーストを硬化させること;を含む治工具または金型を製造するための方法であって、樹脂系(a)が、2より大きい平均エポキシ官能を有するエポキシ樹脂(a1)を含み、そして硬化剤系(b)が、2より大きい平均アミン官能価を有するアミン化合物(b1)を含むことを特徴とする製造方法である。
【0013】
本発明のさらなる主題は、(a)2より大きい平均エポキシ官能価を有するエポキシ樹脂(a1)を含む樹脂系;および(b)2より大きい平均アミン官能価を有するアミン化合物(b1)を含む硬化剤系;を含んでなる硬化可能組成物である。
【0014】
驚くべきことに、特定の組成物を使用して治工具や金型を製造する方法が、優れた特性を有する部品をもたらす、ということが見出された。特に、耐薬品性が大幅に改良された。
【0015】
本発明の組成物は、シームレスモデリングペーストとして使用することができ、またシームレスの金型、モデル、および治工具を製造するのに使用することができる。本発明によれば、本発明の製造方法の好ましい成分は、本発明の組成物の好ましい成分でもある。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の方法では、(a)特殊な樹脂系と(b)特殊な硬化剤系とを含む二成分系硬化可能組成物を含んでなるシームレスモデリングペーストが使用される。
本発明の方法は、機械分配/混合装置を使用して適切に利用することができる。本発明の方法の追加工程(C)では、SMP層が最終形態に機械加工される。
【0017】
樹脂系(a)は、それ自体が液体である1種以上のエポキシ樹脂からなっていてもよいし、あるいは1種以上の固体エポキシ樹脂と1種以上の液体エポキシ樹脂との液体混合物であってもよいし、あるいは1種以上の固体エポキシ樹脂を、希釈剤(例えば、エポキシ樹脂組成物中に従来使用されている任意の希釈剤)中に溶解して得られる溶液であってもよい。
【0018】
エポキシ樹脂(a1)は、分子中に2つより多い官能基を含む任意のエポキシ樹脂から選択することができる。本発明の好ましい実施態様では、樹脂系(a)は、3以上のエポキシ官能価を有するエポキシ樹脂(a1)を含んでよい。3つ以上の官能基を有するエポキシ樹脂(a1)は、グリシジルアミンから選択するのが好ましく、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−4,4’−メチレンビスベンゼンアミン、トリグリシジルp−アミノフェノール、トリグリシジルm−アミノフェノール、またはこれらの任意の混合物から選択するのがさらに好ましい。ビスフェノールAとグリシジルアミンのポリグリシジルエーテルが特に好ましい。適切なグリシジルアミンの例としては、Huntsman社から市販のAraldite(登録商標)MY0600-CH、MY721、およびMY0510、ならびに三菱ガス化学から市販のTetrad(登録商標)XおよびTetrad(登録商標)Cが挙げられる。
【0019】
樹脂系(a)は、2以下の平均官能価を有するエポキシ樹脂(a2)をさらに含むのが好ましい。
エポキシ樹脂(a2)は、多価アルコール(例えば、1,4−ブタンジオールや1,3−プロパンジオール)のモノもしくはジグリシジルエーテル、多価フェノール〔例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン(ビスフェノールF)や2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)等のビスフェノール類〕のモノもしくはジグリシジルエーテル、または、ホルムアルデヒドとフェノール(例えば、フェノール自体やクレゾール)から形成されるノボラックのモノもしくはジグリシジルエーテルであるエポキシ化合物から選択するのが好ましい。
【0020】
好ましい実施態様では、エポキシ樹脂(a)は、3以上のエポキシ官能価を有するエポキシ樹脂(a1)と、単官能もしくは二官能エポキシ樹脂(a2)との混合物である。樹脂成分は、エポキシ樹脂(a1)を、樹脂成分の総重量を基準として少なくとも10重量%の量にて含むのが好ましい。
【0021】
耐薬品性は、樹脂系の平均エポキシ官能価が、樹脂成分を基準として6.3eq/kg以上であるときに大幅に改良される、ということが見出された。
好ましい実施態様では、樹脂成分(a)は、アクリレートモノマー及び/又はメタクリレートモノマー(a3)〔(メタ)アクリレートと表示する〕をさらに含む。(メタ)アクリレートモノマー(a3)は、(メタ)アクリル酸のエステルまたはそれらのオリゴマーから選択することができ、樹脂系(a)の総重量を基準として1〜20重量%の量にて存在する。成分(a3)は、硬化時のピーク発熱温度を下げる際に有用である。
【0022】
硬化剤系(b)は、2より大きい平均アミン官能価(好ましくは3以上の平均アミン官能価、特に4以上の平均アミン官能価)を有するアミン化合物(b1)を含む。
2より大きい(好ましくは3以上)平均アミン官能価を有するアミン化合物は、ポリアルキレンポリアミンから選択するのが好ましい。好適な例としては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジプロピレントリアミン、またはトリプロピレンテトラミン;ポリアルキレンポリアミンのN−ヒドロキシアルキル誘導体〔例えば、N−(ヒドロキシエチル)ジエチレントリアミンやトリエチレンテトラミンのモノ−N−2−ヒドロキシプロピル誘導体〕;ポリオキシアルキレンポリアミン(例えば、ポリオキシエチレントリアミンやポリオキシプロピレントリアミン);環に結合したアミノ基もしくはアミノアルキル基を有する脂環式ポリアミン;芳香族ポリアミン;エポキシ樹脂と、上記の脂肪族アミン、脂環式アミン、もしくはアリール脂肪族アミンとのアミン末端付加物;3つ以上のアミノ基を有するN−アミノアルキルピペラジン;およびポリアミノアミド〔例えば、上記したようなポリアルキレンポリアミンと重合不飽和脂肪酸(例えば、三量化リノール酸や三量化リシノール酸等の重合植物油酸)〕との反応生成物〕;などが挙げられる。本発明によれば、これらアミンの任意の混合物を使用することができる。
【0023】
本発明の方法の好ましい実施態様では、硬化剤系はさらに、2以下の平均アミン官能価を有するアミノ化合物を含む。化合物(b2)は、アルキレンモノアミンもしくはアルキレンジアミン;ポリアルキレンモノアミンもしくはポリアルキレンジアミン;ポリアルキレンのN−ヒドロキシアルキル誘導体;ポリオキシアルキレンモノアミンもしくはポリオキシアルキレンジアミン;N,N−ジアルキルアルキレンモノアミンもしくはN,N−ジアルキルアルキレンジアミン;環に結合したアミノ基またはアミノアルキル基を有する脂環式モノアミンもしくは脂環式ジアミン;芳香族モノアミンもしくは芳香族ジアミン;脂肪族モノアミン、脂肪族ジアミン、脂環式モノアミン、脂環式ジアミン、アリール脂肪族モノアミン、またはアリール脂肪族ジアミンとエポキシ樹脂とのアミン末端付加物;N−アミノアルキル−ピペラジン;および、このようなアミンのモノアミノアミドもしくはジアミノアミド、またはこのようなアミンの2種以上の混合物;から選択するのが好ましい。
【0024】
芳香族アミン硬化剤、脂肪族アミン硬化剤、および脂環式アミン硬化剤は通常、組成物の成分(b)として使用するのが好ましい。(b)の量は、エポキシ樹脂(a)の1,2−エポキシド当量あたり約0.75〜1.25アミノ水素当量の範囲であるのが好ましい。本発明の好ましい実施態様では、硬化剤系(b)は、アミン化合物の混合物、すなわちモノアミン/ジアミン化合物とポリアミン化合物との混合物を含む。硬化剤系(b)中に存在するアミノ化合物の平均アミノ官能価は2より大きい。
【0025】
樹脂成分(a)はさらに、チキソトロープ剤を含んでよい。チキソトロープ剤は、チキソトロープ効果を達成するのに、主として粒子間水素結合に依存するチキソトロープ剤(特に、親水性のヒュームドシリカや他のケイ酸塩)であるのが好ましい。チキソロープ性を起こさせるのに必要なチキソトロープ剤の量は、使用するエポキシ樹脂とチキソトロープ剤の種類の性質に依存することがある。この量は、樹脂成分(1)の重量を基準として、一般には1〜20重量%であり、好ましくは3〜15重量%である。これは“物理的”チキソトロープ剤である。
【0026】
また、組成物は、チキソトロープ剤と混合したときに(物理的)チキソトロピーを増大させるチキソトロープ促進剤を含有するのが好ましい。好ましいチキソトロープ促進剤は、好ましくは700〜1000000、さらに好ましくは5000〜1000000、特に25000〜1000000、特に500000〜1000000、そして最も好ましくは500000〜750000の分子量(Mw)を有するポリエチレンイミンである。このようなポリエチレンイミンは市販されており、あるいはエチレンイミンから公知の方法によって製造することもできる。
【0027】
本発明の特定の実施態様では、ポリエチレンイミンの量は、ゲル化(場合によっては数時間かかる)の前にエポキシ樹脂組成物が流動しないような量である。所定の時間にわたって非流動特性を付与するのに必要なポリエチレンイミンの量は、簡単な実験によって容易に決定することができる。特に好ましい成分を含有する本発明の組成物に対しては、ポリエチレンイミンの量は、エポキシ樹脂100重量部当たり0.2〜2重量部であるのが好ましい。
【0028】
エポキシ樹脂組成物は、樹脂系(a)の成分の予備形成混合物と、硬化剤系(b)の予備形成混合物とを一緒に撹拌することによって簡便に作製することができる。チキソトロープ剤はさらに、樹脂混合物または硬化剤混合物中に存在するのも好都合である。
【0029】
本発明にしたがって製造される二成分系硬化可能組成物はさらに、希釈剤、フィラー(例えば炭酸カルシウム)、繊維、顔料、色素、難燃剤、消泡剤、湿潤剤、およびポリマー強化剤等の追加成分を含有してもよい。これらの補助材料は、樹脂成分または硬化剤成分と共に簡便に加えることができる。
【0030】
本発明の二成分系硬化可能組成物は、シームレスモデリングペーストとして使用するのが好ましい。モデリングペーストを計量分配するための方法は当業界に公知である(例えば、Tartler Nodopox装置を使用する方法)。別個のドラムに、樹脂成分と硬化剤成分を充填するのが好都合である。伴板を介してドラムに低圧を加えることで、材料のポンプ送りが容易になる。ポンプが、樹脂と硬化剤を、ドラムから混合ブロックまで移送するのが好ましく、ここで樹脂と硬化剤が混合される。混合ブロックでの滞留時間、機械的撹拌の速度、およびチャンバーに連結されたホースの長さが、混合物の均一性に影響を及ぼす。
【0031】
低粘度の樹脂混合物を使用するのが特に好ましく、好ましい粘度範囲は、25℃にて1〜1000Pa・sである(TA Instruments AR-G2、25℃、20mmプレート/プレート、剪断速度100s−1)。成分の粘度が高すぎると、ペーストを計量分配するのに高圧のポンプ輸送が必要となる。かなり高粘度の組成物が、当業界にパテとして知られている組成物であり、パテは半固体であって、ポンプ輸送も、装置による計量分配も不可能である。
【0032】
好ましい組成物は、60〜130℃の範囲において耐熱性を有していなければならない。
ペーストは、支持体を覆う平滑で機械加工可能な上面を生成させることによって金型を造りだすのに使用するのが好ましい。ペーストの層を、支持構造物表面上に、高生産量のメーター・ミックス装置(meter-mix machine)を使用して、モデル全体、上面、および側部(傾斜部分や垂直部分)を覆う連続層の形で分配する。ペーストは、約5mm〜約30mmの厚さで塗布するのが好ましく、約15mmの厚さで塗布するのがさらに好ましい。垂直表面に塗布したときに、良好な非スランプ特性と垂れ下がり抵抗特性を示すことが必要とされる。一般には、垂直表面上の25mm厚さの垂れ下がり抵抗が最小であることが必要とされる。次いでペーストを硬化させ、機械加工する。本発明のペーストは特に、シームレスの接合をもたらし、こうした接合が、平滑な表面が高機能の金型や治工具をもたらすことを可能にする。
【0033】
硬化可能な樹脂の硬化は、用途の種類に応じた従来のやり方にしたがって果たすことができる。一般には、組成物は、周囲温度にて硬化させる。必要に応じて、この段階において、部品を凡その寸法に機械加工することができ、次いでポストキュアーして反応を完全に進行させることができ、次いで必要とされる寸法への最終的な機械加工を行うことができる。金型や治工具を製造する前に、表面を処理して表面をシールすることもできもし、あるいはべたつきのない表面をもたらすこともできる。
【0034】
許容しうる耐熱性材料に対する全体的な要件を満たすためには、硬化組成物は、50℃を超える(好ましくは70℃を超える)加熱撓み温度(HDT)を有していなければならない。
【0035】
機械加工や切断は、所望の形状を得るために、従来の治工具(例えば旋盤)やカッター(例えば、フライス盤や複合工作機械)を使用して行うことができる。コンピュータ数値制御(CNC)工作機械を使用するのが好ましい。したがって本発明は、マスターモデル、金型、および治工具を製造するのに適している。
【0036】
以上のことからわかるように、本発明の方法を使用することによる金型や治工具の全体的な製造プロセスは、マスターモデルの製造(例えば、金属、木材、石膏、マスチック、繊維強化ラミネート、またはモデリングペーストを使用して)を追加的に必要とし、そして引き続き金型の製造を必要とする従来の方法と比較して、より単純化されていて、より経済的且つ速やかである。重要なさらなる利点は、こうして得られる、全面(上面および垂直側部や傾斜側部)を覆うモデル表面がシームレスであって、接合線が認められない、という点である。
【0037】
本発明において使用されるペーストは、上記の利点(すなわち、より速やかなプロセス、より良好な機械加工性、より平滑な表面特性、およびより高い全体的効率)に加えて、低い線収縮を示し、寸法的安定性が極めて高い大きな金型を製造するのに使用することができる。最終的に得られる物品は、優れたエッジ強度、優れた硬化ショアー硬度、優れた曲げ強度、高い熱撓み温度、高い圧縮強度、および低い熱膨張係数を有する。
【0038】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、これらの実施例によって本発明が限定されることはない。特に明記しない限り、部とパーセント値は全て重量基準で示されている。
【実施例】
【0039】
本発明の実施例
下記の表は、本発明の代表的なシームレスモデリングペーストと、先行文献中に記載の比較用SMPの配合処方例、および本発明の詳細を示す。
【0040】
次のように専門用語を使用する。
(混合比) 硬化サンプルを作製するために混合する樹脂と硬化剤との比(体積と重量にて表示)。
(ピーク発熱量) 2つの成分を23℃の開始温度にて混合してペースト状の組成物(シームレスモデリングペースト=SMP)を得、次いでこの組成物を発泡ポリスチレン支持体(密度30kg/m)に30mmの厚さで塗布し、次いで40℃のオーブン中に静置して硬化させる。熱電対を挿入して、ペースト層の中心部の温度を測定する。ピーク発熱量は、材料の硬化時にSMPにおいて測定される最高温度であると定義される。
(密度) 硬化配合物の密度は23℃にて測定される(ISO 1183)。
(硬度) ショアーD針入度計(ISO 868)。
(ガラス転移温度:T) 完全に硬化した材料に対し10℃/分にてDSCによって測定(IEC 1006)。
(スチレン吸収量の測定) サンプルを40×40×10mmのサイズにカットし、正確な天秤で計量してから、スチレン中に40℃にて14日間浸漬する。浸漬後、全サンプルを、吸い取り紙上で23℃にて1時間自然乾燥してから再び計量する。吸収量は、サンプル重量の百分率として表示する。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
【表3−1】

【0044】
【表3−2】

【0045】
比較例1・2(標準的なSMPペースト)は、20〜30%程度のスチレン吸収量を示し、サンプルは、浸漬後にひどい亀裂を示した。
比較例3(高耐熱性SMP)のスチレン吸収量はかなり低かったものの、低温(20℃〜60℃)で硬化させると極めて脆く、使用中に崩壊しやすい。浸漬後に幾らかの亀裂も見受けられる。硬化ペーストの寸法安定性を高めるためには、したがって精密部品を製造するのに適したものにするためには、後硬化温度が140℃以上である必要がある。後硬化温度がこのように高いと、低温〜中温(20℃〜60℃)のみで達成できるある範囲の用途に対して、得られる精密部品が不適切なものになる。
【0046】
配合物1は、標準的なSMPペーストの改良であり、希釈剤を全く含まない。スチレン吸収量は、標準的な例と比べて大幅に減少している。しかしながら、スチレン浸漬した後にひどい亀裂を示す。
【0047】
配合物2と3は、それぞれ、ある割合の高官能価(すなわち、2より大きい官能価)アミン樹脂またはエポキシ樹脂を含有する。どちらの場合も、スチレン吸収量は、配合物1と比較して減少している。浸漬後の表面外観も大幅に改良されている。
【0048】
配合物4は、高官能価樹脂と硬化剤とを含有し、配合物2および3と比較して、スチレン吸収量のさらなる減少をもたらす。40℃で14日間浸漬した後でも、浸漬サンプルの明らかな変化は認められなかった。
【0049】
樹脂、硬化剤、および混合ペーストの液状(未硬化)特性は、SMP用途に広く用いられる専門装置にてポンプ移送・混合するのに適したものとなるような特性である。しかしながら、樹脂100:硬化剤72という容量混合比は、ポンプ移送/投入装置に使用する上で望ましい比ではない。
【0050】
配合物のTは、不飽和ポリエステル樹脂と他の液体熱硬化性樹脂との成形において生じる温度に、配合物が、変形を起こすことなく耐える(これは治工具にとって重要なことである)ことができるような温度である。
【0051】
配合物の発熱量と硬度が若干高く、このことが、実際面でのこの配合物の有用性を限定することがある。厚い層では発熱量が高いため、ゆがみと亀裂引が引き起こされることがあり、したがってこの配合物の塗布厚さはかなり制限されるようである。硬度が高いことが、配合物を所望の最終寸法にミル仕上げするのを困難にし、こうしたことは、この種の物品に対して望ましくない。
【0052】
配合物5は、高官能価樹脂と硬化剤の両方を含有し、配合物4とほぼ同等のスチレン吸収量を有する。40℃にて14日間浸漬した後でも、浸漬サンプルに明らかな変化は認められなかった。
【0053】
さらに、二成分の液体特性により、この配合物は、ポンプ移送と塗布に対して適切なものとなる。さらに、混合比が樹脂100:硬化剤50(重量比と容量比)に改良され、したがってポンプ移送/投入装置に対して極めて適したものとなる。
【0054】
この配合物の密度は配合物4より低く、したがって硬化時における材料の発熱量が、そしてさらに硬度も低下し、このため最終寸法に対するミル仕上げがより簡単になる。これらの特性は、シームレス金型を製造すべく材料の塗布を行う上でメリットとなる。
【0055】
配合物5の実験結果は、優れた性能特性(特に、装置によるポンプ移送と混合に適したレオロジーと混合比、低いスチレン吸収量、浸漬後に変形しないこと、および良好な耐熱性等であり、これらはいずれも、生成物をわずか20〜60℃の硬化温度で使用できることと組み合わさっている)を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)少なくとも1種の樹脂系(a)と少なくとも1種の硬化剤系(b)とを含むシームレスモデリングペーストを支持体上に塗布して硬化可能材料の連続皮膜を形成させる工程と;
(B)該シームレスモデリングペーストを硬化させる工程と;
を含み、樹脂系(a)が、2より大きい平均エポキシ官能を有するエポキシ樹脂(a1)を含み、硬化剤系(b)が、2より大きい平均アミン官能価を有するアミン化合物(b1)を含む、治工具または金型の製造方法。
【請求項2】
SMP層を最終的な形態に機械加工する工程(C)をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
樹脂系(a)が、好ましくは多官能グリシジルアミンから選択される、3以上の平均エポキシ官能価を有するエポキシ樹脂(a1)を含む、請求項1〜2の少なくとも一項に記載の方法。
【請求項4】
グリシジルアミンが、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−4,4’−メチレンビスベンゼンアミン、トリグリシジル−p−アミノフェノール、トリグリシジル−m−アミノフェノール、またはこれらの任意の混合物から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
樹脂系(a)が、好ましくは、多価アルコール、多価フェノール、ホルムアルデヒドとフェノールから形成されるノボラック、もしくはこれらの任意の混合物のモノグリシジルエーテルまたはジグリシジルエーテルから選択される、2以下の平均官能価を有するエポキシ樹脂(a2)をさらに含む、請求項1〜4の少なくとも一項に記載の方法。
【請求項6】
樹脂系(a)が、3以上のエポキシ官能価を有するエポキシ樹脂(a1)と単官能もしくは二官能エポキシ樹脂との混合物、または単官能もしくは二官能エポキシ樹脂(a2)の混合物である、請求項1〜5の少なくとも一項に記載の方法。
【請求項7】
樹脂系(a)が、1kg当たり6エポキシ当量より高い、好ましくは6.3エポキシ当量以上の平均エポキシ官能価を含む、請求項1〜6の少なくとも一項に記載の方法。
【請求項8】
樹脂系が、少なくとも1種の(メタ)アクリレートモノマー(a3)を、樹脂系(a)の総重量を基準として1〜20重量%の量にてさらに含む、請求項1〜7の少なくとも一項に記載の方法。
【請求項9】
硬化剤系(b)が、3以上の、好ましくは4以上の平均アミン官能価を有するアミン化合物(b1)を含む、請求項1〜8の少なくとも一項に記載の方法。
【請求項10】
3以上の平均アミン官能価を有するアミン化合物(b1)がポリアルキレンポリアミンから選択される、請求項1〜9の少なくとも一項に記載の方法。
【請求項11】
ポリアルキレンポリアミンが、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジプロピレントリアミン、またはトリプロピレンテトラミン;ポリアルキレンポリアミンのN−ヒドロキシアルキル誘導体、好ましくは、N−(ヒドロキシエチル)ジエチレントリアミンやトリエチレンテトラミンのモノ−N−2−ヒドロキシプロピル誘導体;ポリオキシアルキレンポリアミン、好ましくは、ポリオキシエチレントリアミンやポリオキシプロピレントリアミン;環に結合したアミノ基もしくはアミノアルキル基を有する脂環式ポリアミン;芳香族ポリアミン;エポキシ樹脂と、脂肪族ポリアミン、脂環式ポリアミン、もしくはアリール脂肪族ポリアミンとのアミン末端付加物;N−ポリアミノアルキル−ピペラジン;ポリアミノアミド;およびこれらの任意の混合物;から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
硬化剤系が、アルキレンジアミン;ポリアルキレンモノアミンまたはポリアルキレンジアミン;ポリアルキレンのN−ヒドロキシアルキル誘導体;ポリオキシアルキルンモノアミンまたはポリオキシアルキルンジアミン;N,N−ジアルキルアルキレンジアミン;環に結合したアミノ基もしくはアミノアルキル基を有する脂環式モノアミンまたは脂環式ジアミン;芳香族モノアミンまたは芳香族ジアミン;エポキシ樹脂と、脂肪族モノアミン、脂肪族ジアミン、脂環式モノアミン、脂環式ジアミン、アリール脂肪族モノアミン、またはアリール脂肪族ジアミンとのアミン末端付加物;N−アミノアルキルピペラジン;および、モノアミノアミド、ジアミノアミド、またはこのようなアミンの2種以上の混合物;から選択される、2以下の平均アミン官能価を有するアミノ化合物(b2)をさらに含む、請求項1〜11の少なくとも一項に記載の方法。
【請求項13】
(a)2より大きい平均エポキシ官能価を有するエポキシ樹脂(a1)を含む樹脂系と;(b)2より大きい平均アミン官能価を有するアミン化合物(b1)を含む硬化剤系と;を含んでなる硬化可能組成物。
【請求項14】
請求項13に記載の組成物のシームレスモデリングペーストとしての使用。
【請求項15】
シームレス金型、シームレスモデル、およびシームレスの治工具を製造するための、請求項13に記載の組成物の使用。

【公表番号】特表2012−524675(P2012−524675A)
【公表日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−506413(P2012−506413)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【国際出願番号】PCT/EP2010/052325
【国際公開番号】WO2010/121853
【国際公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(504177804)ハンツマン・アドヴァンスト・マテリアルズ・(スイッツランド)・ゲーエムベーハー (43)
【Fターム(参考)】