説明

耐雷ファスナ、航空機組立品、ファスナ部材、ファスナ部材の製造方法

【課題】寸法精度を、低コストで高めて、絶縁キャップの浮き上がり等を防止することのできる技術を提供する。
【解決手段】ファスナ本体31の頭部35に、ファスナ本体31の軸線とほぼ平行なストレート面70を形成し、頭部35の座面35aを研磨する際に、座面35aが加工誤差により位置ズレしたとしても、ファスナキャップ40をインサート成形するための金型に対し、ストレート面70の位置がずれるのを防ぐことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機の機体、特に翼に用いられる耐雷ファスナ、航空機組立品、ファスナ部材、ファスナ部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
機体を構成する翼は中空構造となっており、翼表面を形成する翼面パネルは、翼内部にある構造材にファスナ部材(留め具)によって固定されている。
ファスナ部材は、ピン状のファスナ本体を、翼および翼に取り付けられる部材の双方に形成された貫通孔に翼の外部側から挿入し、その先端部に翼の内部側からナット等の締結部材を締結することで、翼と部材とを固定する。
【0003】
ところで、航空機においては、落雷対策を万全に期す必要がある。金属材料で機体を形成する場合、落雷による電流は機体全体を流れるのに対し、複合材料で機体を形成した場合、落雷による電流の電荷が、翼面パネルの表面及び内部を移動し、移動する電荷の電流密度がファスナ部材の部分の耐力を越えた場合に、金属製のファスナ部材などを起点としたアーク放電が発生する。翼の内部空間は燃料タンクが収められているため、この被雷時におけるアーク放電の発生を確実に抑える必要がある。
【0004】
そこで、頭部の一端面が絶縁性のキャップで覆われたファスナ部材が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、上記文献に開示されたファスナは、製造時や航空機運用中に絶縁性のキャップがファスナ頭部からピールオフして(抜け落ちて)しまうおそれがあった。
そこで、航空機運用中の絶縁キャップのピールオフを確実に防止することができて、ファスナへの着雷防止効果および信頼性を向上させることができるよう、絶縁体層が、頭部の一端面を覆うように設けられているとともに、前記一端面に形成された係合部と機械的に噛み合っている耐雷ファスナが既に提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0006】
図4に示すように、特許文献2に記載の技術においては、絶縁キャップ1は、ファスナ2の頭部2aに対し、インサート成形されることで一体化されている。
そして、絶縁キャップ1とファスナ2との係合を確実なものとするために、ファスナ2の頭部2aの外周部に、周方向に連続する凹部3、凸部4が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第4,630,168号明細書
【特許文献2】特開2009−83640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記したような従来の技術においては、絶縁キャップ1を備えたファスナ2を、翼5および翼5に取り付けられる部材6の双方に形成された貫通孔7に挿入し、その先端部にナット等の締結部材8を締結して、ファスナ2の頭部2aの座面2bが翼5のテーパ面5aに押し付けられると、図5に示すように、テーパ面5aからの反力により絶縁キャップ1の外周部1aが浮き上がってしまうという問題があった。
絶縁キャップ1の外周部1aが浮き上がると、絶縁キャップ1がファスナ2の頭部2aから脱落し、絶縁性能を損なうこともあった。また、絶縁キャップの外周部1aが浮き上がって、翼5の表面よりも突出すると、空力的に悪影響を生じるという問題もある。
【0009】
本発明は、このような技術的課題に基づいてなされたもので、ファスナの頭部に設ける絶縁キャップの浮き上がりを防止し、絶縁性、空力性能を損なうのを確実に回避できる耐雷ファスナ、航空機組立品、ファスナ部材、ファスナ部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような問題に対し、本発明者らが鋭意検討を行った結果、図6(a)に示すように、ファスナ2の頭部2aの座面2bの外周側において、絶縁キャップ1のテーパ面1bを、座面2bよりも内側(頭部2aの頭面2cに近い側)に形成するのが有効であると考えた。こうすることにより、絶縁キャップ1のテーパ面1bが、翼5側のテーパ面5aに押し付けられるのを回避し、絶縁キャップ1の外周部1aの浮き上がりを防ぐのである。
【0011】
ところが、このような構成のファスナ2を実際に製作してテストしたところ、このような構成においても、絶縁キャップ1の外周部1aに浮き上がりが生じた。その原因を追及した結果、これは、ファスナ2の座面2bの外周縁部9の径寸法rに製造誤差があることに起因することが判明した。すなわち、図6(b)に示すように、外周縁部9の径寸法rが設計寸法よりも小さい場合、絶縁キャップ1を形成するための金型寸法は一定であるため、この金型により、座面2bの外周側に形成された絶縁キャップ1に、ファスナ2の座面2bに連続するテーパ面1cが形成されてしまう。このような絶縁キャップ1を備えたファスナ2を用いると、テーパ面1cが翼5のテーパ面5aに押し付けられて変形してしまうのである。
【0012】
外周縁部9の径寸法rは、外周縁部9の両側の凹部3の表面と座面2bによって決まる。座面2bは、ファスナ2の素材である棒状の金属を回転させながら、工具を外周側から突き当てることで研磨される。このため、工具の位置が、ファスナ2の軸方向にずれても、径方向にずれても、凹部3の表面と座面2bとの位置関係がずれ、その結果、外周縁部9の径寸法rが容易にずれてしまうのである。
これに対しては、加工精度を高めれば良いのであるが、現状でも加工機械を使ってファスナ2を製作しており、現状以上に加工精度を高めるのは困難である。また、加工後に、外周縁部9の径寸法rを計測し、規格外の径寸法rを有するファスナを選別することも考えられるが、外周縁部9の径寸法rの精度の高い計測は難しく、また、選別を行ったとしても、ファスナ2の製作歩留まりが向上する訳ではない。
【0013】
そこで、外周縁部9の径寸法rの精度を、低コストで高めて、絶縁キャップの浮き上がり等を防止することのできる技術を提供することを目的として、本発明者らは以下に示す発明をなした。
すなわち、本発明の耐雷ファスナは、航空機の機体を構成する第一の部材に対し、機体の内部側で第二の部材を締結するため、第一の部材および第二の部材に形成された孔に一方の側から他方の側に貫通させて設けられるファスナ本体と、ファスナ本体に装着される締結部材と、ファスナ本体の頭部を覆うよう設けられ、絶縁材料からなるファスナキャップと、を備える。そして、ファスナ本体は、孔の周囲に形成されたテーパ面に突き当たる座面と、座面の外周側に隣接し、ファスナ本体の軸線に対して0±2°の角度で形成された外周面と、を有し、ファスナキャップは、その内周縁部が外周面に突き当たるよう形成されている。
このように、ファスナ本体の軸線にほぼ平行な外周面を設けることで、座面を研磨した際に、座面の位置がファスナ本体の軸線方向にずれても、外周面の範囲内であれば、ファスナキャップの内周縁部がファスナ本体に突き当たる位置が、ファスナ本体の径方向に変動するのを抑制できる。したがって、ファスナキャップが想定外の位置で孔の周囲のテーパ面に突き当たるのを防ぐことができる。
【0014】
また、ファスナキャップは、外周部に対し、中央部が、前記ファスナ本体の頭部から離間する方向に突出した凸形状とされた構成とすることができる。これにより、ファスナキャップの外周部が孔の周囲のテーパ面に押し付けられて浮き上がってしまったとしても、ファスナ頭部の外周部が突出するのを防ぐことができる。
【0015】
また、ファスナキャップは、ファスナ本体の頭部に対し、インサート成形により形成するのが好ましい。これにより、ファスナキャップのピールオフを防止できる。
【0016】
ファスナキャップは、ファスナ本体の座面に連続する面よりも内側に位置するよう形成するのが好ましい。これにより、ファスナキャップが、孔の周囲のテーパ面に接触するのを防ぐことができる。
【0017】
本発明は、外板と、この外板を内側から支持する構造材と、これら外板と構造材とを結合するファスナとを具備した航空機組立品であって、ファスナが、請求項1から5のいずれか一項に記載した耐雷ファスナであることを特徴とすることもできる。
【0018】
本発明は、第一の部材と第二の部材を締結するために用いられるファスナピンであって、軸部と、軸部よりも大きな外径を有した頭部と、頭部において、軸部に連続する部分に形成され、当該ファスナピンが挿入される孔の周囲に形成されたテーパ面に突き当たる座面と、座面の外周側に隣接し、ファスナピンの軸線に対して0±2°の角度で形成された外周面と、を有することを特徴とすることもできる。
【0019】
さらに、本発明は、軸部と、軸部よりも大きな外径を有した頭部と、頭部において、軸部に連続する部分に形成され、当該ファスナ部材が挿入される孔の周囲に形成されたテーパ面に突き当たる座面と、座面の外周側に隣接し、ファスナ本体の軸線に対して0±2°の角度で形成された外周面と、を有したファスナ部材を金型内にセットする工程と、金型内においてファスナ部材の頭部との間に形成された空隙に絶縁性樹脂を射出することで、ファスナ部材の頭部を覆い、その内周縁部が外周面に突き当たるファスナキャップをインサート成形する工程と、を備えることを特徴とするファスナ部材の製造方法とすることもできる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ファスナ本体の軸線にほぼ平行な外周面を設けることで、座面を研磨した際に、座面の位置がファスナ本体の軸線方向にずれても、外周面の範囲内であれば、ファスナキャップの内周縁部がファスナ本体に突き当たる位置が、ファスナ本体の径方向に変動するのを抑制できる。したがって、ファスナキャップが想定外の位置で孔の周囲のテーパ面に突き当たるのを防ぐことができ、ファスナキャップの浮き上がりを防止できる。その結果、絶縁性、空力性能を損なうのを確実に回避できる。しかも、外周面を形成するのみでよいため、低コストで前記効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施の形態におけるファスナ部材により接合した翼パネルと部材とを示す断面図である。
【図2】ファスナ本体の頭部の一部を示す半断面図である。
【図3】ファスナ部材の他の例を示す図であって、ファスナ本体の頭部の一部を示す半断面図である。
【図4】従来のファスナ部材により接合した翼パネルと部材とを示す断面図である。
【図5】プラグキャップの外周部が浮き上がった状態を示す半断面図である。
【図6】プラグキャップのテーパ部を、ファスナ本体の座面よりも内側とした場合の半断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
図1は、本実施の形態における耐雷ファスナ、航空機組立品、ファスナ部材を適用した航空機の機体を構成する翼の一部の断面図である。
この図1に示すように、翼(航空機組立品)20は、その外殻が、例えばジュラルミンなどの金属材料や、炭素繊維と樹脂との複合材料(導電性を有する樹脂材料)であるCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)より形成された翼パネル(第一の部材、外板)21であり、その内部に、補強のための構造材や燃料タンク、各種の機器、これらを取り付けるためのステー等の部材(第二の部材、構造材)22がファスナ部材(耐雷ファスナ、ファスナ)30によって取り付けられている。
【0023】
ファスナ部材30は、ピン状のファスナ本体(ファスナピン)31と、翼20の内部側でファスナ本体31に装着されるカラー(締結部材)32とから構成される。
ファスナ本体31およびカラー32は、強度の面から一般に、チタン合金やインコネル等の金属材料により形成される。
【0024】
ピン状をなしたファスナ本体31は、軸状の軸部34と、軸部34より大きな外径を有した頭部35とから形成されている。
軸部34は、その外周面にネジ溝34aが形成されるとともに、先端部34bは軸部34よりも小径とされ、その外周面にもネジ溝34cが形成されている。
頭部35は、軸部34から漸次拡大するテーパ状の座面35aを有している。このファスナ本体31は、翼パネル21および部材22を貫通して形成された孔21a、22aに翼20の外側から挿入され、後端部の座面35aを孔21aのテーパ面21bに突き当てた状態で、先端部34bを翼20の内方に突出させる。
【0025】
カラー32は、筒状で、その内周面には軸部34のネジ溝34aに噛み合うネジ溝32aが形成されている。このカラー32は、翼20の内方に突出したファスナ本体31のネジ溝34aにねじ込まれる。これによって、翼パネル21と部材22とは、ファスナ本体31の頭部35の座面35aとカラー32とによって挟み込まれ、部材22が翼パネル21に固定されている。なお、カラー32と部材22との間には、ワッシャ36が介在して設けられている。
なお、この状態で、ファスナ本体31の軸部34の先端部34bは、カラー32よりも翼20の内周側に突出し、さらに、ネジ溝34cをカラー32から翼20の内周側に露出させている。
【0026】
さて、翼20の内部空間側において、ファスナ部材30には、キャップ25が装着されている。
キャップ25は、断面円形で、一端部25a側のみが開口し、他端部25b側に向けてその内径および外径が漸次縮小する形状とされている。このキャップは、PPS(ポリフェニレンサルファイド樹脂)、ポリイミド、PEEK(ポリエーテル・エーテル・ケトン樹脂)、ナイロン樹脂等の絶縁性を有した樹脂により形成するのが好ましい。
キャップ25の他端部25b側の内周面には、断面円形の有底状のネジ穴27が形成されている。キャップ25は、一端部25aの端面を部材22に押し当てた状態で、ネジ穴27にファスナ本体31の先端部34bがねじ込まれることで、キャップ25がファスナ部材30に対し、容易かつ確実に位置決め固定できるようになっている。
【0027】
このようなキャップ25は、ネジ穴27よりも一端部25a側の内周面が、その内径が漸次拡大する形状とされ、これによって、キャップ25をファスナ部材30に装着したときに、キャップ25の内周面とファスナ本体31およびカラー32との間に、予め定められた以上間隙が形成されるようになっている。
キャップ25をファスナ部材30に装着した状態では、キャップ25の内部に、絶縁性を有したシーラント剤29が充填される。このシーラント剤29が、キャップ25の内周面とファスナ本体31およびカラー32との間に介在することで、キャップ25とファスナ部材30との間の絶縁性がさらに高まる。
【0028】
図2に示すように、ファスナ本体31の頭部35において、座面35aと頭面35bとの境界部分には、周方向に沿って半径方向外側に突出する(拡径する)突条38aと、突条38aに対し、座面35a側に隣接して形成され、周方向に沿って半径方向内側に凹む(窪む)溝38bとからなるキャップ係合部38が形成されている。
【0029】
このようなキャップ係合部38において、座面35aに隣接する部分には、ファスナ本体31の軸線とほぼ平行なストレート面(外周面)70が形成されている。
【0030】
ファスナ本体31の頭部35には、絶縁性材料からなるファスナキャップ40が設けられている。ファスナキャップ40は、熱可塑性樹脂(例えば、耐熱性・強度を有する他、絶縁破壊電圧が高いポリエーテルイミド(PEI)、耐熱性・強度が優れている他、成形性・汎用性に優れたポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、耐熱性・強度を有する他、成形性・汎用性に優れたポリフェニルサルルファイド(PPS)、耐熱性・強度が特に優れているポリアミドイミド(PAI))や、熱硬化性樹脂(例えば、耐熱性・強度が特に優れているポリイミド(PI))等を用いて形成されている。
【0031】
ファスナキャップ40は、ファスナ本体31の頭部35に対向する側において、その内周側が、キャップ係合部38に係合するようキャップ係合部38に対応した断面形状を有している。すなわち、ファスナキャップ40の内周側には、周方向に沿って半径方向外側に凹む(窪む)とともに、キャップ係合部38の突条38aと合致する凹部41aと、周方向に沿って半径方向内側に突出するとともに、キャップ係合部38の溝38bと合致する凸部41bと、ストレート面70に対向する平面部41cが形成されている。
【0032】
ファスナキャップ40は、その外周側に、ファスナ本体31の頭部35の座面35aにほぼ平行なテーパ部42と、頭部35の頭面35bに沿う上面43と、を有する。
また、テーパ部42の外周面42aは、座面35aの外周側に連続して形成してもよいが、頭部35の座面35aの仮想延長面(図2中、点線(A)参照)に対し、0.1mm以上内側に位置するよう形成するのが好ましい。これは、ファスナ本体31の後端部の座面35aを孔21aのテーパ面21bに突き当てたときに、ファスナキャップ40が変形するのを防ぐためである。
【0033】
また、ファスナキャップ40は、内周側の表面43bが、上面43の外周縁部43aよりも、ファスナ本体31の頭面35bから離間する側に突出している。これは、ファスナ本体31を締結したときに、孔21aのテーパ面21bからの反力によってファスナキャップ40の外周部が押し上げられたとしても、外周縁部43aが、内周側の表面43bよりも高くならず、最悪でも内周側の表面43bと同等の高さ以下となるようにするためである。
このようなファスナキャップ40の各部の厚さは、MIL-STD-1757A Zone1の雷撃試験電圧(約40kV)に対しても十分な絶縁耐力を有するように、例えば、0.6mm〜1.0mm程度とされていることが望ましい。
【0034】
このようなファスナ部材30は、以下のようにして製造される。
まず、上記のようなファスナキャップ40を備えたファスナ本体31を形成する。ファスナ本体31は、ファスナ本体31の材料となるブランク材を予備成形した後、頭部35を旋削・切削加工して形成し、この後、ネジ溝34a、34cの転造を行うことで形成される。
【0035】
この後、ファスナ本体31を金型(図示無し)内にセットする。
この金型内には、ファスナ本体31の頭部35と金型表面との間に、ファスナキャップ40を形成するための空隙が形成される。
【0036】
そして、金型(図示無し)内においてファスナ本体31の頭部35との間に形成された空隙に絶縁性樹脂を射出することで、ファスナ本体31の頭部35を覆うファスナキャップをインサート成形する。
このとき、ファスナ本体31の頭部35には、ファスナ本体31の軸線とほぼ平行なストレート面70が形成されている。したがって、頭部35の座面35aを研磨する際に、座面35aが加工誤差により位置ズレしたとしても、ストレート面70はそのまま残存する。これにより、ファスナキャップ40をインサート成形するための金型に対し、ストレート面70の位置が、ファスナ本体31の径方向にずれるのを防ぐことができる。
その結果、ファスナキャップ40のテーパ部42の外周面42aが、孔21aのテーパ面21bに突き当たって変形するのを防ぐことができ、ファスナキャップ40の浮き上がりを防止することができる。これにより、ファスナ本体31の絶縁性、空力性能の低下を抑えることが可能となる。そして、このような効果は、ファスナ本体31に対しストレート面70を形成するのみで良いので、低コストで得ることができる。
【0037】
なお、上記実施形態において、ファスナ本体31の頭部35の外周部に形成されたキャップ係合部38は、他のいかなる構成としても良い。
例えば、図3に示すようにファスナ本体31の頭部35において、周方向に沿って連続し、半径方向外側に突出する(拡径する)一対の突条38c、38dと、これら突条38c、38dの間に、周方向に沿って半径方向内側に凹む(窪む)溝38eとからなるキャップ係合部38’を形成しても良い。
このようなキャップ係合部38’において、座面35aに隣接する部分(突条38d)には、ファスナ本体31の軸線とほぼ平行なストレート面70’が形成されている。
【0038】
そして、ファスナキャップ40’は、ファスナ本体31の頭部35に対向する側の内周側が、キャップ係合部38’に対応した断面形状を有している。すなわち、ファスナキャップ40’の内周側には、周方向に沿って半径方向外側に凹む(窪む)とともに、キャップ係合部38’の突条38cと合致する凹部41a’と、周方向に沿って半径方向内側に突出するとともに、キャップ係合部38’の溝38eと合致する凸部41b’と、ストレート面70’に対向する平面部41c’が形成されている。
【0039】
このようなファスナキャップ40’は、その外周側に、ファスナ本体31の頭部35の座面35aの外周側に位置するテーパ部42’と、頭部35の頭面35bに沿う上面43’と、を有する。
この場合も、テーパ部42’の外周面42a’は、頭部35の座面35aの仮想延長面(図3中、点線(A)参照)に対し、0.1mm以上内側に位置するよう形成するのが好ましい。
【0040】
また、ファスナキャップ40’は、上面43’の外周縁部43a’が、内周側の表面43b’よりも、ファスナ本体31の頭面35bに近い側に低くなっている。これは、ファスナ本体31を締結したときに、孔21aのテーパ面21bからの反力によってファスナキャップ40’の外周部が押し上げられたとしても、外周縁部43a’が、内周側の表面43b’よりも高くならず、最悪でも内周側の表面43b’と同等の高さ以下となるようにするためである。
【0041】
このようなストレート面70’を有するファスナキャップ40’を備えたファスナ本体31においても、頭部35の座面35aを研磨する際に、座面35aが加工誤差により位置ズレしたとしても、ストレート面70’はそのまま残存する。これにより、ファスナキャップ40’をインサート成形するための金型に対し、ストレート面70’の位置がずれるのを防ぐことができる。
その結果、上記実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0042】
なお、上記実施の形態では、ファスナ本体31に対し、翼20の内部側において、カラー32、キャップ25を装着する構成としたが、翼20の内部側における構成については何ら限定する意図は無く、ファスナ本体31を用いて二つの部材を締結できるのであれば、他のいかなる構成を採用しても良い。また、ファスナ部材30を用いて締結する対象は、翼20以外の機体の部材であっても良い。
また、ファスナキャップ40は、本発明の主旨の範囲内であれば、いかなる構成の変更、追加、削除を行っても良い。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0043】
20…翼(航空機組立品)、21…翼パネル(第一の部材、外板)、21a…孔、21b…テーパ面、22…部材(第二の部材、構造材)、30…ファスナ部材(耐雷ファスナ)、31…ファスナ本体(ファスナピン)、32…カラー(締結部材)、34…軸部、35…頭部、35a…座面、35b…頭面、38…キャップ係合部、38a、38c、38d…突条、38b、38e…溝、40…ファスナキャップ、41a…凹部、41b…凸部、41c…平面部、42…テーパ部、42a…外周面、43…上面、43a…外周縁部、43b…表面、70…ストレート面(外周面)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機の機体を構成する第一の部材に対し、前記機体の内部側で第二の部材を締結するため、前記第一の部材および前記第二の部材に形成された孔に一方の側から他方の側に貫通させたファスナ本体と、
前記ファスナ本体に装着される締結部材と、
前記ファスナ本体の頭部を覆うよう設けられ、絶縁材料からなるファスナキャップと、を備え、
前記ファスナ本体は、前記孔の周囲に形成されたテーパ面に突き当たる座面と、
前記座面の外周側に隣接し、前記ファスナ本体の軸線に対して0±2°の角度で形成された外周面と、を有し、
前記ファスナキャップは、その内周縁部が前記外周面に突き当たるよう形成されていることを特徴とする耐雷ファスナ。
【請求項2】
前記ファスナキャップは、外周部に対し、中央部が、前記ファスナ本体の頭部から離間する方向に突出した凸形状とされていることを特徴とする請求項1に記載の耐雷ファスナ。
【請求項3】
前記ファスナキャップが、前記ファスナ本体の前記頭部に対し、インサート成形により形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の耐雷ファスナ。
【請求項4】
前記ファスナキャップは、前記ファスナ本体の前記座面に連続する面よりも内側に位置していることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の耐雷ファスナ。
【請求項5】
前記外周面は、前記座面を研磨しても、前記ファスナ本体の軸線に直交する方向において、前記ファスナキャップの前記内周縁部が前記ファスナ本体に突き当たる位置が変動するのを抑制するためのものであることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の耐雷ファスナ。
【請求項6】
導電性を有する樹脂材料を主たる要素として構成された外板と、この外板を内側から支持する構造材と、これら外板と構造材とを結合するファスナとを具備した航空機組立品であって、
前記ファスナが、請求項1から5のいずれか一項に記載した耐雷ファスナであることを特徴とする航空機組立品。
【請求項7】
第一の部材と第二の部材を締結するために用いられるファスナピンであって、
軸部と、
前記軸部よりも大きな外径を有した頭部と、
前記頭部において、前記軸部に連続する部分に形成され、当該ファスナピンが挿入される孔の周囲に形成されたテーパ面に突き当たる座面と、
前記座面の外周側に隣接し、前記ファスナピンの軸線に対して0±2°の角度で形成された外周面と、を有することを特徴とするファスナピン。
【請求項8】
軸部と、前記軸部よりも大きな外径を有した頭部と、前記頭部において、前記軸部に連続する部分に形成され、ファスナ部材が挿入される孔の周囲に形成されたテーパ面に突き当たる座面と、前記座面の外周側に隣接し、前記ファスナ部材の軸線に対して0±2°の角度で形成された外周面と、を有したファスナ部材を金型内にセットする工程と、
前記金型内において前記ファスナ部材の前記頭部との間に形成された空隙に絶縁性樹脂を射出することで、前記ファスナ部材の前記頭部を覆い、その内周縁部が前記外周面に突き当たるファスナキャップをインサート成形する工程と、を備えることを特徴とするファスナ部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−68228(P2011−68228A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−219972(P2009−219972)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(508208007)三菱航空機株式会社 (32)
【Fターム(参考)】