説明

耐震補強方法

【課題】 既設建造物の耐震補強を行う際、必要な強度を十分得ることができ、施工時にドリルによる穴あけ作業時の振動と騒音を低減し、また臭気を発生せず、低コストの耐震補強方法を得ることを目的とする。また、既設躯体と補強部材との隙間に充填する無収縮モルタルの補強部材への地震力伝達性能を向上させ、かつ、アンカーボルトの設置本数を低減する、または設置位置を応力が生じると考えられる位置に限定した、施工効率と耐震補強効果に優れる既設建造物の耐震補強工法を提供することを目的とする。
【解決手段】 既設建造物の柱梁架構内に、補強部材を配置して一体化する既設建造物の耐震補強方法であって、柱梁架構の内周に、複数のアンカーボルトを配置して固定する工程と、フランジを有するH鋼を少なくとも外枠の一部に含む補強部材を柱梁架構内に配置する工程と、補強部材と柱梁架構との間に、高性能水硬性モルタルを充填して硬化させる工程とを含む、既存建造物の耐震補強方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性モルタルを用いた既設建造物の耐震補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の耐震補強分野は今後も市場規模の拡大が見込まれている分野の一つである。この耐震補強工法の主流は、アンカーボルトを設けた既設建造物の柱梁躯体(既設躯体)と補強部材(鉄骨ブレース)を連結する枠付鉄骨ブレース補強工法(以下、「在来工法」という)となっており、近年、アンカーボルトを設置せずエポキシ接着剤で既設躯体と補強部材を接着する工法(以下、「エポキシ接着工法」という)なども実用化されている。
【0003】
この在来工法は、アンカーボルトを既設躯体に設置した後、スタッドボルトのついた補強部材を配置し、隙間に無収縮モルタルを充填する工法であり、アンカーボルトとスタッドボルト及び無収縮モルタルを介して地震力が補強部材に伝達され、高い補強効果を得られるという利点を持っている。しかしながら、既設躯体に振動ドリルで穴をあけ、エポキシ接着剤を使ってアンカーボルトを穴に埋め込んでいくことから、施工時にドリルが既設躯体の鉄筋に接触し穴をあけられない、また、穴あけ作業時の振動と騒音が大きいため、建物を供用しながら耐震補強を行うには適さないなどの問題がある。
【0004】
特許文献1に開示されているエポキシ接着工法は、既設躯体内に補強部材をセット後、隙間にエポキシ接着剤を充填する工法となっており、振動と騒音が発生しないという利点を有している。しかしながら、地震時の補強部材への力の伝達がエポキシの接着力によることとなり、補強効果が在来工法に比べ低くなるという問題がある。また、地震力伝達性能面からエポキシ接着剤の厚みを厚くできないことから、施工に必要な既設躯体と補強部材の間のクリアランスを確保した場合、隙間にスペーサーを設置した後、エポキシ接着剤を充填する必要がある。また、エポキシ接着剤の臭気やコストが高いことも問題である。
【0005】
また、樹脂系接着剤は火災により溶融して補強効果を喪失するという危険性も有している。
【0006】
無収縮モルタルを使った工法としては、無収縮モルタルとPC鋼棒で地震力を補強部材に伝達する工法(特許文献2)や、無収縮モルタルと埋め込みスタッドボルト及び補強鉄板で地震力を補強部材に伝達する工法(特許文献3)などがある。これらは、エポキシ接着工法で問題となる補強耐力低下や臭気の改善はなされているが、PC鋼棒や補強鉄板などの設置といった新たな問題が生じる。また、施工に必要な既設躯体と補強部材間のクリアランスの確保という課題も残っている。また、いずれの無収縮モルタルを用いても、必要な強度を十分得ることができないという問題があった。
【0007】
一方、高強度セメント硬化体の初期ひび割れ防止方法として特許文献4には、炭素繊維、耐アルカリ繊維、ポリプロピレン繊維など、引張強度が70kg/mm以上の短繊維を含有させた、初期ひび割れが発生せず、美観に優れた耐久性のある高強度セメント硬化体が開示されている。
【0008】
また、建材の改良や進歩に伴う建物の高層化、技能工不足による建設工事の省力化などを目的とした、プレキャスト鉄筋コンクリート部材を現場で接合する工法が普及しつつある。このような工法に用いられる継手用スリーブの空隙部に充填するグラウト材として、特許文献5では、セメント、超微粉、膨張材、高性能減水剤、及び重量骨材を含有してなる水硬性モルタル(グラウト材)が開示されている。
【0009】
また、セメント、骨材、鉱物質微粉末及び水を用いるモルタル及びコンクリ−ト、中でも鉱物質微粉末を多量に用いるモルタル及びコンクリ−トにおいて微粒分の欠如した細骨材を混用することにより、これら各材料の配合量を適切に調整して、ワ−カビリテイに優れ、通常のモルタル及びコンクリ−トと同等以上の性能を有するモルタル及びコンクリ−トとして、特許文献6では、鉱物質微粉末及び微粒分の欠如した細骨材を用いることを特徴とするモルタル及びコンクリ−トが開示されている。
【特許文献1】特開平11−71906号公報
【特許文献2】特開2000−303701号公報
【特許文献3】特開2004−60245号公報
【特許文献4】特開昭64−69541号公報
【特許文献5】特開平6−293549号公報
【特許文献6】特開平9−52744号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、既設建造物の耐震補強を行う際、必要な強度を十分得ることができ、施工時にドリルによる穴あけ作業時の振動と騒音を低減し、また臭気を発生せず、低コストの耐震補強方法を得ることを目的とする。また、既設躯体と補強部材との隙間に充填する無収縮モルタルの補強部材への地震力伝達性能を向上させ、かつ、アンカーボルトの設置本数を低減する、または設置位置を応力が生じると考えられる位置に限定した、施工効率と耐震補強効果に優れる既設建造物の耐震補強工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の既設建造物の耐震補強方法では、既設躯体と補強部材との隙間に充填する無収縮モルタルに、付着強度及びせん断強度が改善された高性能水硬性モルタルを用いることにより、より優れた耐震補強性能を得ることができる。また、本発明の耐震補強方法では、アンカーボルトの設置位置(配置して固定する位置)を所定の位置とすること、及び補強部材の外枠のH鋼の形状を、所定の形状とすることにより、良好な施工性及び施工効率と、より優れた耐震補強性能を得ることができる。
【0012】
すなわち、本発明は、既設建造物の柱梁架構内に、補強部材を配置して一体化する既設建造物の耐震補強方法であって、
柱梁架構の内周に、複数のアンカーボルトを配置して固定する工程と、
フランジを有するH鋼を少なくとも外枠の一部に含む補強部材を柱梁架構内に配置する工程と、
補強部材と柱梁架構との間に、水硬性モルタルを充填して硬化させる工程とを含み、
水硬性モルタルが、セメント組成物及び水を混練して得られる水硬性モルタルAと、水硬性組成物及び水を混練して得られる水硬性モルタルBとから選ばれる少なくとも1つの水硬性モルタルであり、
セメント組成物が、ポルトランドセメント、細骨材、有機系短繊維、無機系膨張材、再乳化形粉末樹脂、消泡剤、金属系膨張材、増粘剤及び流動化剤を含み、ポルトランドセメント100質量部に対し、細骨材の含有割合が120〜180質量部、繊維径が0.1〜0.3mmでかつ繊維長が9〜16mmの有機系短繊維の含有割合が0.2〜0.8質量部、無機系膨張材の含有割合が4〜15質量部、再乳化形粉末樹脂の含有割合が4〜15質量部、消泡剤の含有割合が0.05〜1.2質量部であるセメント組成物であり、
水硬性組成物が、セメントとフェロニッケルスラグを含む細骨材とを含有し、フェロニッケルスラグは、フェロニッケルスラグ100質量%中に粒径0.075〜2.4mmの粒子を80質量%以上含み、粒径0.075未満の粒子を10質量%未満含む水硬性組成物であることを特徴とする、既存建造物の耐震補強方法である。
【0013】
好ましくは、アンカーボルトを配置して固定する工程において、
柱梁架構の内周と補強部材との間の応力が生じると考えられる位置にアンカーボルトを有するように、柱梁架構の柱又は梁に複数のアンカーボルトを配置する複数の部分と、アンカーボルトを配置する2つの部分の間に位置するアンカーボルトを配置しない部分とを有するようにアンカーボルトを配置して固定する、耐震補強方法である。
【0014】
また、好ましくは、補強部材の外枠に含まれるH鋼のウェブ部が、柱梁架構の内周に面するように配置され、H鋼のウェブ部より柱梁架構の内周に面する側のフランジの少なくとも一部が切除されたH鋼を含む、耐震補強方法である。
【0015】
また、好ましくは、補強部材の外枠に含まれるH鋼のフランジが、柱梁架構の内周に面するように配置され、H鋼が、柱梁架構の内周に面するフランジの少なくとも一部又は全部を切除されたH鋼であり、H鋼のウェブ部に水硬性モルタルを介してアンカーボルトを定着する、耐震補強方法である。
【0016】
また、好ましくは、セメント組成物に含まれる消泡剤が、ポリエーテル系消泡剤であることを特徴とする、耐震補強方法である。また、好ましくは、セメント組成物に含まれる金属系膨張材の含有割合が0.0001〜0.01質量部であることを特徴とする、耐震補強方法である。
【0017】
また、好ましくは、水硬性組成物が、さらに消泡剤を含むことを特徴とする、耐震補強方法である。また、好ましくは、水硬性組成物に含まれる細骨材が、細骨材100質量%中にフェロニッケルスラグを70質量%以上含む、耐震補強方法である。また、好ましくは、水硬性組成物に含まれるフェロニッケルスラグが、フェロニッケルスラグ100質量%中、粒径0.15〜1.2mmの粒子を80質量%以上含み、粒径0.15未満の粒子を10質量%未満含むことを特徴とする、耐震補強方法である。また、好ましくは、水硬性組成物が、さらに膨張材、流動化剤及び増粘剤から選ばれた少なくとも1種以上の成分を含むことを特徴とする、耐震補強方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の既設躯体の耐震補強方法により、既設建造物の耐震補強に必要な強度を十分得ることができ、施工時にドリルによる穴あけ作業時の振動と騒音を低減し、また臭気を発生せず、低コストで、施工性に優れた耐震補強方法を得ることができる。また、既設躯体と補強部材との隙間に充填する無収縮モルタルの補強部材への地震力伝達性能を向上させ、かつ、アンカーボルトの設置本数を減少させ、あるいは設置位置を応力が生じると考えられる位置に限定することができる。なお、本明細書において「応力が生じると考えられる位置」とは、耐震補強を行った構造について構造強度計算を行って、柱梁架構の内周と補強部材との間の、引張応力や剪断応力などの応力分布を求めたときに、他の位置と比較して高い応力が生じるとの計算結果を示す位置のことをいう。本発明の方法により、アンカーボルトの本数や径を減らすことができ、施工時にドリルによる穴あけ作業時の振動と騒音を低減することができることから、既設建造物を供用しながらの耐震補強が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の既設建造物の耐震補強方法は、柱11及び梁12から形成される既設建造物の柱梁架構(二本の柱11及びそれらの柱11の上下を横に接続する梁12を有する既設躯体)内に、補強部材1を配置して、既設建造物の柱梁架構と補強部材1とを一体化する耐震補強方法である。柱梁架構の内周に、複数のアンカーボルト2を配置して固定した後、フランジ10aを有するH鋼10を少なくとも外枠の一部に含む補強部材1を柱梁架構内に配置し、補強部材1と柱梁架構との間に所定の高性能水硬性モルタルを充填して硬化させることにより、補強性能を高めることができる。また、所定の高性能水硬性モルタルを用いるので、所望の補強性能を得るために必要なアンカーボルト2の本数を、従来のモルタルを用いた場合と比べて減らすことができるため、低コストで必要充分な既設建造物の耐震補強を実現することができる。
【0020】
また、所定の構造強度計算の結果を用いて、アンカーボルト2の設置位置(配置して固定する位置)を応力が生じると考えられる位置に限定する。その結果、補強部材1と柱11及び梁12との間に配置するアンカーボルト2の本数を従来の耐震補強方法と比べて減らすことができるため、さらに低コストで必要充分な既設建造物の耐震補強を実現することができる。また、補強部材1に用いるH鋼10のフランジ10aの一部を切除(フランジカット)し、フランジ10aの側からアンカーボルト2を後施工(補強部材1を柱梁架構内に配置後、アンカーボルト2の設置すること)によって設置することもできる形とすることにより、施工手順の選択肢が広がるとともに、施工性が向上し、モルタルの充填も容易となる。以下、本発明の詳細を説明する。
【0021】
<第1の実施態様>
まず、本発明の耐震補強方法の第1の実施態様について説明する。図1に、アンカーボルト2で既設建造物の柱梁架構(既設躯体)と補強部材1(鉄骨ブレース)を連結する枠付鉄骨ブレース補強工法(以下、「在来工法」という)を示す。本実施態様おいて、柱梁架構内に配置する補強部材1の構造は在来工法とほぼ同様であるが、柱梁架構と補強部材1との間に充填する水硬性モルタル21の種類を、後述する所定の高性能水硬性モルタルを用いることが本発明の特徴である。なお、図1の左側半分は、ボルトの配置を示すための断面模式図である。
【0022】
本発明の第1の実施態様を、図1を用いてさらに説明する。既設建造物は、柱11及び梁12が配置され、柱梁架構を形成している。既設建造物の耐震性能が劣る場合、柱梁架構を形成する柱11及び梁12の内面および補強部材1には、それぞれ多数のアンカーボルト2とスタッドボルト3が配置・固定され、補強部材1をこの柱梁架構の内周に配置して既設建造物を補強する。柱梁架構と補強部材1によって形成された空間に所定の高性能水硬性モルタルを充填・硬化させて、柱梁架構と補強部材1とを一体化させる。
【0023】
本発明の耐震補強方法では、後述する所定の高性能水硬性モルタルを用いるために、在来工法の場合より強度の高い耐震補強を行うことができる。また、同程度の耐震補強が必要な場合は、アンカーボルト2の本数を従来の補強方法と比較して減らすことができる。在来工法の場合、柱梁架構の内周に振動ドリルを用いてアンカーボルト2を配置・固定するための多数の穴を設けなければならず、建造物を供用しながら耐震補強工事を実施した場合、騒音や振動が無視できない問題となっていたが、本発明の耐震補強方法により、これらの騒音や振動を大幅に低減することができる。
【0024】
<第2の実施態様>
次に、本発明の耐震補強方法の第2の実施態様について説明する。本発明の耐震補強方法の第2の実施態様は、図2に示すように、柱梁架構の内周、すなわち、柱11及び梁12の補強部材1が配置される側の面に、複数のアンカーボルト2を配置する際、応力が生じると考えられる位置にアンカーボルト2を部分的に配置する点が第1の実施態様と異なる。なお、図2の左側半分は、ボルトの配置を示すための断面模式図である。
【0025】
「アンカーボルト2を部分的に配置する」とは、アンカーボルト2を配置する部分と、アンカーボルト2を配置しない部分とを設けるように、アンカーボルト2を配置することをいう。アンカーボルト2を配置する部分(ボルト配置部分)は、柱梁架構の内周と補強部材1との間の応力が生じると考えられる位置にアンカーボルト2を有するように、柱梁架構の柱又は梁に複数のアンカーボルト2を有するボルト配置部分を設ける。ボルト配置部分は、応力が生じると考えられる複数の位置に対応する複数の部分であることが好ましく、また、図2に示すように、少なくとも柱11または梁12の両端にボルト配置部分を設けることがより好ましい。また、1つのボルト配置部分においては、アンカーボルト2の配置は等間隔に行うことが好ましい。また、2つのアンカーボルト2を配置する部分の間には、アンカーボルト2を配置しない部分(ボルト無配置部分)が位置することとなる。ボルト配置部分の位置は、構造強度計算の結果から、応力が生じると考えられる位置に対応する位置に限定することが好ましい。また、アンカーボルト2の本数及び径についても構造強度計算を用いて決定することが好ましい。また、構造強度計算の結果から、応力の比較的小さい位置に対応する位置は、ボルト無配置部分とすることが好ましい。
【0026】
アンカーボルト2は、例えば、19mmφ−@150(S)のアンカーボルトを用いることができる。通常、アンカーボルト2は接着剤によって柱梁架構に形成された穴に固定され、水硬性モルタル21により定着される。したがって、そのような機能を有するものであればアンカーボルト2の代用が可能であり、例えば、接合筋(D19−@150(ナット付))をアンカーボルト2の代わりに用いることもできる。すなわち、本明細書において、アンカーボルトとは、上記アンカーボルト2だけでなく、その機能を有するものも含む概念である。なお、補強部材1は、鉄骨ブレースを有することが補強性能を向上させるために好ましい。
【0027】
また、さらに柱梁架構と補強部材1との間の空間にスタッドボルト3やスパイラル筋4および図5に示すシャーコッター5を配置することによって補強強度を高めることができる。
【0028】
補強部材1を柱梁架構内に配置した後、柱梁架構と補強部材1との間に水硬性モルタル21を充填する。水硬性モルタル21として、後述する所定の高性能水硬性モルタルを用いることが本発明の特徴である。H鋼10を型枠として利用し、さらに合板などを型枠として用い、水硬性モルタル21を柱梁架構、補強部材1及び合板型枠によって形成した空間に充填、固化させることにより、柱梁架構と補強部材1を一体化させ、耐震強度を得ることができる。なお、空間への水硬性モルタル21の充填は、充填を確実にするという施工性の観点から、空間の最下部から行うことが好ましい。所定の高性能水硬性モルタルを用い、柱11の間隔を8m、梁12の高さを3mとした場合に必要なアンカーボルト2の本数を構造強度計算より求めると、図1に示す在来工法の構造において、通常の水硬性モルタルを用いた場合には、19mm径のアンカーボルト2を74本必要としたが、本実施態様の構造の場合には、同じ径のアンカーボルト2を32本しか必要とせず、半分以下の本数に減らすことができる。
【0029】
<第3の実施態様>
次に、本発明の耐震補強方法の第3の実施態様について説明する。本実施態様は、第1及び第2の実施態様と比較し、H鋼10のフランジ10aの一部を切除したことを除き、基本的に同様である。本実施態様の、図2の所定部分の断面図を、図3(A−A′断面図)及び図4(B−B′断面図)に示す。本実施態様では、補強部材1の外枠に含まれるH鋼10のウェブ部10b(二つのフランジ10aを接続する部分)が、柱梁架構の内周に面するように配置された構造である。
【0030】
本実施態様では、補強部材1の外枠に含まれるH鋼10のウェブ部10bが、柱梁架構の内周に面するように配置され、H鋼10のウェブ部10bより柱梁架構の内周に面する側のフランジ10aの少なくとも一部が切除された構造を有する。そのため、施工クリアランスを確保した状態で補強部材1への地震力伝達性能を向上させた高性能水硬性モルタルを充填することができる。なお、図7では、アンカーボルト2に接合用ナット6(長ナット)を配置したものを示す。
【0031】
また本実施態様では、第2の実施態様と同様に、アンカーボルト2の設置位置を応力が生じると考えられる位置に限定して配置することもできるため、アンカーボルト2の本数を減らすことができ、高性能水硬性モルタルを充填する際の施工性が大幅に改善することとなる。また、H鋼10が、フランジ10aの少なくとも一部が切除された構造を有するため、アンカーボルト2の後施工が可能となり、施工手順の選択肢が広がる。
【0032】
なお、図5に別の例のB−B′断面図を示す。この図のように、柱梁架構には、シャーコッター5を配置することにより、補強強度をさらに高めることができる。また、柱梁架構と補強部材1との間の空間に、さらにスタッドボルト3やスパイラル筋4を配置することによって補強強度を高めることができる。
<第4の実施態様>
【0033】
図6に、本発明の第4の実施態様を示す。なお、図6の左側半分は、ボルトの配置を示すための断面模式図である。本実施態様は、H鋼10の断面の向きが90度回転し、フランジ10aの一部切除の仕方が異なることを除き、第3の実施態様と基本的に同様である。なお、本実施態様では、フランジ10aがスタッドボルト3と同様な役割を果たすこととなるため、スタッドボルト3の設置が不要になるという利点を有する。この場合、アンカーボルト2は、H鋼10のウェブ部10bに対して水硬性モルタル21を介して定着されることとなる。
【0034】
図6の所定の位置の断面図を、図7(A−A′断面図)及び図8(B−B′断面図)に示す。図7及び図8に示すように、本実施態様では、補強部材1の外枠に含まれるH鋼10のフランジ10aが、柱梁架構の内周に面するように配置されている。また、図7に示すように、柱梁架構の内周に面するフランジ10aの少なくとも一部(図7に相当する部分では、柱梁架構の内周に面するフランジ10aの全て)が切除されることで、切除されたフランジ10aの側からアンカーボルト2が水硬性モルタル21を介してウェブ部10bに定着される。このような構造とすることにより、柱11の間隔を8m、梁12の高さを3mとした場合の必要なアンカーボルト2の本数及びボルトの径を構造強度計算より求めると、図1の在来工法の構造の場合には、19mm径のアンカーボルト2が74本必要であったところ、図6に示す本実施態様の構造の場合には13mm径という細い径のアンカーボルト2を使用することができ、またその本数も72本に減らすことができる。
【0035】
柱梁架構の内周に面するフランジ10aの全てが切除されたH鋼10のかわりに、断面が「T」であるT字鋼を用いることもできる。
【0036】
H鋼10をこのような構造とすることにより、施工クリアランスを確保することができる。また、H鋼10をこのような構造とし、補強部材1への地震力伝達性能を向上させた後述する高性能水硬性モルタルを充填することによって、アンカーボルト2の本数及び径を減らすことができるのである。また、アンカーボルト2の設置位置を第2の実施態様と同様に応力が生じると考えられる位置に限定することが好ましく、そうすることによりさらにアンカーボルト2の本数及び径を減らすことができる。また、アンカーボルト2の本数及び径を減らすことで、高性能水硬性モルタルを充填の際の施工性が大幅に改善することとなる。また、H鋼10が、フランジ10aの少なくとも一部又は全部を切除された構造を有するため、アンカーボルト2の後施工が可能となり、施工手順の選択肢が広がる。
【0037】
なお、H鋼10と柱梁架構の最短距離が広いほど、補強部材1の据え付けは容易となり、またアンカーボルト2を後施工する場合に、その施工性が向上し、水硬性モルタル21の充填作業性も向上する。しかし、水硬性モルタル21の使用量は増大するため、この距離は所定の範囲とすることが好ましい。このような観点から、H鋼10と柱梁架構の最短距離は、10mm〜200mmであることが好ましく、20mm〜100mmであることがより好ましい。
【0038】
また、図7に示すようにアンカーボルト2を接合用ナット6等で接合したり、図9に示す別の例のB−B′断面図のように、シャーコッター5やスタッドボルト3を配置することにより、補強強度をさらに高めることができる。また、柱梁架構と補強部材1との間の空間に、さらに必要に応じて補助的にスタッドボルト3やスパイラル筋4を配置することによって補強強度を高めることができる。
【0039】
<水硬性モルタル>
次に、本発明の耐震補強方法の水硬性モルタル21として用いる高性能水硬性モルタルについて説明する。本発明では、二種類の水硬性モルタル、すなわち、所定のセメント組成物及び水を混練して得られる水硬性モルタルAと、所定の水硬性組成物及び水を混練して得られる水硬性モルタルBとを用いることができる。また、これらの水硬性モルタルを、適宜混合して用いてもよい。以下、水硬性モルタルA及び水硬性モルタルBについて、詳しく説明する。
【0040】
<水硬性モルタルA>
水硬性モルタルAは、流動性に優れかつコンクリートとの付着強度に優れた水硬性モルタルである。以下、水硬性モルタルAについて詳しく説明する。
【0041】
本発明に用いる水硬性モルタルAは、ポルトランドセメント、細骨材、有機系短繊維、無機系膨張材、再乳化形粉末樹脂、消泡剤、金属系膨張材、増粘剤及び流動化剤を含み、ポルトランドセメント100質量部に対し、細骨材の含有割合が120〜180質量部、繊維径が0.1〜0.3mmでかつ繊維長が9〜16mmの有機系短繊維の含有割合が0.2〜0.8質量部、無機系膨張材の含有割合が4〜15質量部、再乳化形粉末樹脂の含有割合が4〜15質量部、消泡剤の含有割合が0.05〜1.2質量部であることを特徴とするセメント組成物と、水とを混練することによって得ることができる。
【0042】
また、そのセメント組成物の好ましい態様は、下記のものであり、またこれらは複数組み合わせることができる。
1)消泡剤がポリエーテル系消泡剤であること。
2)金属系膨張材の含有割合が0.0001〜0.01質量部であること。
3)セメント組成物100質量部と水8〜30質量部とを混練して得られる水硬性モルタルであること。
4)セメント組成物100質量部と水8〜30質量部とを混練して得られる水硬性モルタルが硬化して得られる硬化体であること。
【0043】
本発明に用いるセメント組成物は、特定の繊維長と繊維径を有する有機系短繊維を用い、再乳化形粉末樹脂と消泡剤とを組合わせて用い、さらに無機系膨張材と金属系膨張材とを配合することにより、収縮低減材を用いることなく、流動性に優れた水硬性モルタル及びコンクリート補修部分との付着強度が高く、圧縮強度特性に優れ、さらに寸法安定性に優れた水硬性モルタル硬化体を得ることができる。
【0044】
本発明に用いるセメント組成物は、ポルトランドセメント100質量部に対し、細骨材を好ましくは120〜180質量部、さらに好ましくは125〜175質量部、より好ましくは130〜170質量部、特に好ましくは135〜165質量部を含むものである。
【0045】
本発明に用いるセメント組成物には、ポルトランドセメントとして、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、等を用いることができる。特に、建設工期の短縮のために短期間に良好な強度発現を必要とする場合には、早強ポルトランドセメントや超早強ポルトランドセメントを用いるのが好ましい。
【0046】
また、そのセメント組成物に用いる細骨材は、珪砂、川砂、海砂、山砂、陸砂などの砂類が使用できる。細骨材の粒度は、3.5mm以下のものを用いることが好ましく、細骨材100質量%中に、粒径0.15〜2mmの細骨材が好ましくは70質量%以上であり、さらに好ましくは80質量%であり、特に好ましくは90質量%以上含むものを用いることが好ましい。また、細骨材としては、粒度分布の異なる細骨材を2種以上混ぜ合わせて用いることができ、5号珪砂、6号珪砂及び7号珪砂など、5号珪砂と5号珪砂より粒度の小さな珪砂などの骨材との混合物などを好ましく用いることができる。
【0047】
本発明に用いるセメント組成物では、セメント組成物に水を加えて得られる水硬性モルタルが、流し込み施工及び/又は注入施工に適した流動性を有するように、繊維径と繊維長が特定の範囲の有機系短繊維を使用して適正量を添加する。また、有機系短繊維は、水硬性モルタル硬化体の靭性を向上させる効果も併せ持つ。
【0048】
有機系短繊維の好ましい例は、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維等のポリオレフィン繊維、ポリスチレン繊維、ポリアクリロニトリル繊維、ビニロン繊維等のポリビニルアルコール繊維が用いることができ、特にポリビニルアルコール繊維が好適に用いられる。
【0049】
有機系短繊維の繊維径は、水硬性モルタルの粘性を適正な範囲に保つため、0.1mm〜0.3mmが好ましく、さらに0.13mm〜0.27mmが好ましく、特に0.15mm〜0.25mmが好ましい。有機系短繊維の繊維長は、水硬性モルタル中に良好に分散させることができ、安定した流動性が得られ、また、水硬性モルタル硬化体の靭性の向上効果を得るために、9mm〜16mmが好ましく、さらに9.5mm〜15mmが好ましく、特に10mm〜14mmが好ましい。有機系短繊維の繊維長が9mm未満では、フロー値の低下が顕著となり、さらに曲げ強度の低下も大きくなる。繊維長が15mmを超えると、水硬性モルタルの粘性が大きくなり、Jロート流下時間が増加するだけでなく、硬化体の長さ変化が大きくなることから好ましくない。
【0050】
有機系短繊維の添加量は、良好な施工性が得られる粘性を持った水硬性モルタルが得られ、良好な靭性を有する水硬性モルタル硬化体を得るために、ポルトランドセメント100質量部に対して好ましくは0.2〜0.8質量部、さらに好ましくは0.3〜0.75質量部、特に好ましくは0.4〜0.7質量部を添加する。
【0051】
特に、有機系短繊維の添加量が、0.8質量部を超えると水硬性モルタル硬化体の長さ変化が顕著になり、硬化体の曲げ強度の低下やコンクリートと付着強度が低下するため好ましくない。
【0052】
このセメント組成物に用いる膨張材は、セメント組成物の硬化過程に起こる体積変化を補償するものであり、特に金属系膨張材と石灰系膨張材とを併用して用いることで、コンクリート補修部分と水硬性モルタル硬化体の密着性が向上して、高い付着強度が得られる。膨張材としては、アルミニウム粉、鉄粉等の金属系膨張材、カルシウムサルフォアルミネート系、石灰系などの無機系膨張材などを使用することが好ましい。
【0053】
金属系膨張材としては、比重が小さく反応性が高いことから、アルミニウム粉の使用が特に好ましい。アルミニウム粉は、JIS・K−5906「塗装用アルミニウム粉」の第2種に準ずるものが好適に使用できる。金属系膨張材の添加量は、ポルトランドセメント100質量部に対して、好ましくは0.0001〜0.01質量部、さらに好ましくは0.0003〜0.005質量部、より好ましくは0.0005〜0.004質量部、特に0.001〜0.003質量部の範囲で用いることが好ましい。
【0054】
無機系膨張材は、カルシウムサルフォアルミネート系としてはアウイン、石灰系としては生石灰、生石灰−石膏系、石灰−エトリンガイト系、仮焼ドロマイト等が好適に用いられ、これらから選ばれた少なくとも1種を使用できる。特に、石灰−エトリンガイト系の膨張材を用いた場合、水硬性モルタル硬化体の寸法変化が際立って小さく、コンクリートとの付着強度においても特に優れた特性を示すことから特に好ましい。無機系膨張材の添加量は、ポルトランドセメント100質量部に対して、好ましくは4〜15質量部、さらに好ましくは4.5〜13質量部、より好ましくは5.5〜12質量部、特に6〜10質量部を用いることが好ましい。無機系膨張材の添加量が、4質量部未満の場合、コンクリートとの付着強度が充分に得られないばかりでなく、硬化体の長さ変化率が大きくなるため好ましくない。また、16質量部以上では、硬化体の膨張が著しくなり好ましくない。
【0055】
このセメント組成物では、再乳化形粉末樹脂と消泡剤とを併せて用いることにより、高い圧縮強度の水硬性モルタル硬化体が得られるとともに、その硬化体と柱梁架構との間、及び、その硬化体と補強部材1との間で高い付着強度が得られる。
【0056】
このセメント組成物に用いる再乳化形粉末樹脂は、屋外利用における耐久性上好ましいものとして、ポリアクリル酸エステル樹脂系、スチレンブタジエン合成ゴム系、又は酢酸ビニルベオバアクリル共重合系のものが使用することができ、これらを予めセメント等と混合しておくことで、施工現場で水を加えるだけでポリマーディスバージョンを用いた場合より、より分散性を高く、硬化後のコンクリートとの付着強度の高い硬化体が得られる。
【0057】
再乳化形粉末樹脂は、ポルトランドセメント100質量部に対して、好ましくは4〜15質量部、さらに好ましくは4.5〜13.5質量部、より好ましくは5〜12質量部、特に6〜10質量部の範囲で用いることが好ましい。再乳化形粉末樹脂の割合が、上記範囲より大きい場合、水を加えて得られる水硬性モルタルの粘度が高くなり施工性が低下するとともに、硬化体の圧縮強度の低下が顕著になるとめ好ましくなく、また、上記範囲より小さい場合には、柱梁架構、及び、補強部材1との付着強度が充分に得られず、硬化体の長さ変化も大きくなり好ましくない。
【0058】
このセメント組成物に用いる消泡剤は、硬化後の水硬性モルタル硬化体の組織を緻密化して、コンクリート補修部分との付着強度を向上させるとともに、水硬性モルタル硬化体の外側表面の状態を密実にして、炭酸化などに対する耐候性を向上させる効果がある。
【0059】
消泡剤には、シリコン系、アルコール系、ポリエーテル系などの合成物質、石油精製由来の鉱物油系又は植物由来の天然物質など、公知のものを用いることができる。特にポリエーテル系の消泡剤を好適に用いることができる。
【0060】
消泡剤の添加量は、ポルトランドセメント100質量部に対して、好ましくは0.05〜1.2質量部、さらに好ましくは0.1〜1.0質量部、より好ましくは0.15〜0.9質量部、特に0.2〜0.8質量部含むことが好ましい。消泡剤が上記範囲に満たない場合、コンクリートとの付着強度が低く、さらに硬化体の収縮が大きくなるため好ましくない。また、上記範囲を超えて消泡剤を添加した場合、硬化体の長さ変化が増加するため好ましくない。
【0061】
再乳化形粉末樹脂と消泡剤とをそれぞれ上記範囲で添加すると、水硬性モルタル硬化体と柱梁架構、及び、水硬性モルタル硬化体と補強部材1との付着強度の向上効果がさらに大きくなり、また高い圧縮強度の硬化体が得られることから好ましい。
【0062】
このセメント組成物に用いる増粘剤は、水硬性モルタルの粘性と流動性を調整し、材料分離を抑制しつつ適正な施工性を確保するために添加することが好ましい。増粘剤には、セルロース系、蛋白質系、ラテックス系、及び水溶性ポリマー系などを用いることができ、特にメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース系などを用いることが好ましい。増粘剤の添加量は、ポルトランドセメント100質量部に対して、好ましくは0.001〜2質量部、より好ましくは0.005〜1質量部、特に0.0075〜0.5質量部の範囲が好ましい。増粘剤の添加量が上記範囲を超えると、流動性の低下を招く恐れがある。
【0063】
このセメント組成物に用いる流動化剤は、材料分離を抑制しつつ適度な流動性を確保し、硬化体の強度を高め、且つ、乾燥収縮を低減させるために、減水効果を合わせ持つ流動化剤を添加することが好ましい。流動化剤としては、減水効果を合わせ持つ、メラミンスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物、カゼイン、カゼインカルシウム、ポリエーテル系、ポリカルボン酸系、ポリカルボン酸ポリエーテル系等、市販のものが、その種類を問わず使用できる。流動化剤は、ポルトランドセメント100質量部に対し、0.001〜5質量部、より好ましくは0.01〜4質量部、特に好ましくは0.05〜3質量部の範囲で使用する。
【0064】
本発明に用いるセメント組成物は、水の添加量を調整することにより、水硬性モルタルの流動性、可使時間、材料分離抵抗性などの性状を調整することができる。水の添加量は、本発明の流動特性及び強度特性を損なわない範囲で添加でき、セメント組成物100質量部に対し、好ましくは8〜30質量部、さらに好ましくは10〜25質量部、より好ましくは12〜22質量部、特に好ましくは14〜20質量部の範囲で添加することが好ましい。
【0065】
本発明に用いるセメント組成物は、水と混練して
1)Jロート流下値が、充填性を損なわないために、好ましくは20秒以下、さらに好ましくは18秒以下、より好ましくは16秒以下、特に好ましくは15秒以下であり、
また、Jロート流下値の下限は、材料分離抵抗性を損なわないために、好ましくは5秒以上、さらに好ましくは7秒以上、特に好ましくは8秒以上であり、
2)モルタルフロー値が、より確実な充填性のために好ましくは280mm以上、さらに好ましくは300mm以上のポリマーセメントモルタルを得ることができる。
【0066】
本発明に用いるセメント組成物は、水と混練して気中養生により得られた水硬性モルタル硬化体の圧縮強度が、材齢28日で好ましくは44N/mm以上、さらに好ましくは46N/mm以上、より好ましくは48N/mm以上、特に好ましくは50N/mm以上の硬化物を得ることができる。
【0067】
本発明に用いるセメント組成物は、水と混練して気中養生により得られた水硬性モルタル硬化体の曲げ強度が、材齢28日で好ましくは9N/mm以上、さらに好ましくは9.5N/mm以上、より好ましくは10N/mm以上、特に好ましくは10.5N/mm以上の硬化物を得ることができる。
【0068】
本発明に用いるセメント組成物は、水と混練して水中養生により得られた水硬性モルタル硬化体の圧縮強度が、材齢28日で好ましくは40N/mm以上、さらに好ましくは45N/mm以上、より好ましくは48N/mm以上、特に好ましくは50N/mm以上の硬化物を得ることができる。
【0069】
本発明に用いるセメント組成物は、水と混練して水中養生により得られた水硬性モルタル硬化体の曲げ強度が、材齢28日で好ましくは7.5N/mm以上、さらに好ましくは7.7N/mm以上、より好ましくは7.9N/mm以上、特に好ましくは8N/mm以上の硬化物を得ることができる。
【0070】
本発明に用いるセメント組成物は、水と混練して湿空養生により得られた水硬性モルタル硬化体のモルタル板との付着強度においては、材齢28日で好ましくは1.8N/mm以上、さらに好ましくは2.0N/mm以上、より好ましくは2.2N/mm以上、特に好ましくは2.5N/mm以上の硬化物を得ることができる。
【0071】
本発明に用いるセメント組成物は、水と混練して得られる水硬性モルタル硬化体の長さ変化率が、材齢28日で好ましくは−0.15〜0%であり、さらに好ましくは−0.12〜0%、より好ましくは−0.1〜0%、特に好ましくは−0.06〜0%の範囲にある硬化体を得ることができる。
【0072】
本発明に用いるセメント組成物は、流動性に優れ、柱梁架構、及び、補強部材1との付着強度が高く、圧縮強度発現に優れた水硬性モルタル硬化体を得ることができる。
【0073】
<水硬性モルタルB>
本発明に用いる水硬性モルタルBは、流動性および強度特性に優れた水硬性モルタル(グラウト材)である。水硬性モルタルBは、所定の水硬性組成物と、水とを混練することによって得ることができる。以下、水硬性モルタルBについて詳しく説明する。
【0074】
水硬性モルタルBに用いる水硬性組成物は、粗骨材は含まず、水硬性成分、フェロニッケルスラグ及び消泡剤を用いて、良好な流動特性、高い圧縮強度及び、高弾性特性が得られる水硬性組成物である。
【0075】
すなわち、本発明に用いる水硬性モルタルBは、セメントとフェロニッケルスラグを含む細骨材とを含有する水硬性組成物であって、フェロニッケルスラグは、フェロニッケルスラグ100質量%中に粒径0.075〜2.4mmの粒子を80質量%以上含み、粒径0.075未満の粒子を10質量%未満含むことを特徴とする水硬性組成物と、水とを混練することによって得ることができる。
【0076】
また、この水硬性組成物の好ましい態様は、下記のものであり、またこれらは複数組み合わせることができる。
1)水硬性組成物は、さらに消泡剤を含むこと。
2)細骨材は、細骨材100質量%中にフェロニッケルスラグを70質量%以上含むこと。
3)フェロニッケルスラグは、フェロニッケルスラグ100質量%中、粒径0.15〜1.2mmの粒子を80質量%以上含み、粒径0.15未満の粒子を10質量%未満含むこと。
4)水硬性組成物と水とを混練して硬化させて得られる水硬性モルタルの硬化体の材齢28日の静弾性係数が、42.0kN/mm以上であること。
5)水硬性組成物は、さらに膨張材、流動化剤及び増粘剤から選ばれた少なくとも1種以上の成分を含むこと。
【0077】
本発明に用いる水硬性組成物は、水硬性成分と特定の粒度構成を有するフェロニッケルスラグとを含むことにより、モルタル流動性に優れ、高強度・高弾性で、無収縮の硬化体を得ることができ、土木建築分野の各種注入工法で優れた特性を発揮する水硬性モルタル(グラウト材)として用いることができる。さらに、本発明に用いる水硬性組成物は、消泡剤を配合することにより、緻密なモルタル硬化体組織を形成して高強度で高弾性な硬化体を得ることができる。
【0078】
本発明に用いる水硬性組成物の水硬性成分としては特に限定されるものではなく、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメントなどのポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメントなどの混合セメント、アルミナセメントなどを用いることができる。特に、建設工期の短縮のために短期間に良好な強度発現を必要とする場合には、早強ポルトランドセメントや超早強ポルトランドセメントを用いるのが好ましい。
【0079】
本発明に用いる水硬性組成物は、水硬性成分100質量部に対し、細骨材を好ましくは30〜300質量部、さらに好ましくは50〜250質量部、より好ましくは80〜200質量部、特に好ましくは110〜180質量部を配合する。
【0080】
その水硬性組成物に含まれる細骨材は、フェロニッケルスラグを含むものであり、細骨材100質量%中にフェロニッケルスラグが占める割合は、好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは73質量%以上、より好ましくは76質量%以上、特に好ましくは80%以上である。細骨材中にフェロニッケルスラグが占める割合が上記範囲にある場合、優れた圧縮強度と高い弾性率を有する水硬性組成物の硬化体が安定して得られる。
【0081】
その水硬性組成物に含まれるフェロニッケルスラグは、シリカ(SiO)とマグネシア(MgO)を主体とするエンステタイトを主たる鉱物組成とするものであり、フェロニッケルを製造する製造工程で発生するスラグを、徐冷、風砕、水砕法などによって加工して細骨材としたものである。フェロニッケルスラグとしては、例えば、山川産業社製などの商品名:NEサンドなどを用いることができる。
【0082】
その水硬性組成物に含まれるフェロニッケルスラグの粒径は、最大粒径が3mm以下のものを使用することができ、フェロニッケルスラグ100質量%中に、
好ましくは粒径0.075〜2.4mmの粒子を80質量%以上含むとともに、粒径0.075未満の粒子を10質量%未満含むもの、
さらに好ましくは粒径0.15〜2.4mmの粒子を80質量%以上含むとともに、粒径0.15mm未満の粒子を10質量%未満含むもの、
より好ましくは粒径0.15〜1.2mmの粒子を80質量%以上含むとともに、粒径0.15mm未満の粒子を10質量%未満含むもの、
特に好ましくは粒径0.3〜1.2mmの粒子を80質量%以上含むとともに、粒径0.3mm未満の粒子を10質量%未満含むものを好適に使用できる。
フェロニッケルスラグは、その粒径が2.4mmを超えるものを20質量%を超えて含む場合、充填性が低下することがあるので好ましくなく、粒径が0.075mm未満のものを20質量%を超えて含む場合、良好な流動性を確保するのに必要な水量が増加して、その結果目標とする硬化体強度が得られなくなることがあるため好ましくない。
【0083】
その水硬性組成物に使用する細骨材には、フェロニッケルスラグのほかに、粒度が3mm以下の細砂を用いることができる。
細砂としては、特に限定されるものではなく、珪砂や石灰石砂等の砕石や砕砂を製造する過程で発生する微細粒の珪砂、石灰石砕砂を使用できる。
細砂の粒径は、前記のフェロニッケルスラグの好ましい粒径と同様に、細砂100質量%中に、
好ましくは粒径0.075〜2.4mmの粒子を80質量%以上含むとともに、粒径0.075未満の粒子を10質量%未満含むもの、
さらに好ましくは粒径0.15〜2.4mmの粒子を80質量%以上含むとともに、粒径0.15mm未満の粒子を10質量%未満含むもの、
より好ましくは粒径0.15〜1.2mmの粒子を80質量%以上含むとともに、粒径0.15mm未満の粒子を10質量%未満含むもの、
特に好ましくは粒径0.3〜1.2mmの粒子を80質量%以上含むとともに、粒径0.3mm未満の粒子を10質量%未満含むもの
を使用することができる。
【0084】
本発明に用いる水硬性組成物は、組織が緻密で優れた強度を有する硬化体を得るために、消泡剤を添加することが好ましい。消泡剤は、シリコン系、アルコール系、ポリエーテル系などの合成物質、石油精製由来の鉱物油系又は植物由来の天然物質など、公知のものを用いることができる。特にポリエーテル系の消泡剤を好適に用いることができる。
消泡剤の添加量は、本発明の特性を損なわない範囲で一種又は二種以上を添加することができ、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.005〜2質量部、さらに好ましくは0.01〜1.5質量部、より好ましくは0.025〜1質量部、特に0.05〜0.5質量部含むことが好ましい。消泡剤を上記範囲で添加すると、消泡効果が良好で、さらに水硬性モルタルの硬化体組織の緻密化による硬化体強度の向上効果が著しいため好ましい。
【0085】
本発明に用いる水硬性組成物は、細骨材のほかに、本発明の特性を損なわない範囲で必要に応じて、膨張材、石膏、流動化剤、増粘剤、凝結速度調整剤などの成分を少なくとも1種以上配合することができる。
【0086】
本発明に用いる水硬性組成物に含まれる膨張材は、水硬性モルタルの硬化過程に起こる体積変化を補償し、柱梁架構、及び、補強部材1との密着性向上に有効である。膨張材としては、アルミニウム粉、鉄粉等の金属系膨張材、カルシウムサルフォアルミネート系、石灰系などの無機系膨張材などの使用が好ましく、特に金属系膨張材と石灰系膨張材を併用して用いることが好ましい。
【0087】
金属系膨張材としては、比重が小さく反応性が高いことから、アルミニウム粉の使用が特に好ましい。アルミニウム粉は、JIS・K−5906「塗装用アルミニウム粉」の第2種に準ずるものが好適に使用できる。金属系膨張材の添加量は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.0001〜0.01質量部、さらに好ましくは0.0002〜0.007質量部、より好ましくは0.0003〜0.006質量部、特に0.0005〜0.005質量部の範囲で用いることが好ましい。
【0088】
無機系膨張材は、カルシウムサルフォアルミネート系としては、アウイン、石灰系としては生石灰、生石灰−石膏系、仮焼ドロマイト等が挙げられ、これらから選ばれた少なくとも1種を使用できる。特に石灰系としては、生石灰、生石灰−石膏系が好ましい。無機系膨張材の添加量は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは1〜40質量部、さらに好ましくは1.5〜30質量部、より好ましくは2〜25質量部、特に3〜20質量部を用いることが好ましい。
【0089】
本発明に用いる水硬性組成物は必要に応じて石膏を配合することができる。石膏としては、無水石膏、半水石膏、二水石膏等の石膏がその種類を問わず、一種又は二種以上の混合物として使用できる。
【0090】
本発明に用いる水硬性組成物は、材料分離を抑制しつつ適度な流動性を確保し、硬化体の強度を高め、且つ、乾燥収縮を低減させるために、減水効果を合わせ持つ流動化剤を添加することが好ましい。流動化剤としては、減水効果を合わせ持つ、メラミンスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物、カゼイン、カゼインカルシウム、ポリエーテル系、ポリカルボン酸系、ポリカルボン酸ポリエーテル系等、市販のものがその種類を問わず使用できる。流動化剤は、使用する水硬性成分に応じて、特性を損なわない範囲で一種又は二種以上を適宜添加することができ、水硬性成分100質量部に対し、好ましくは0.001〜5質量部、さらに好ましくは0.005〜4質量部、より好ましくは0.01〜3.5質量部、特に好ましくは0.1〜3質量部の範囲で使用する。
【0091】
増粘剤は、水硬性モルタルの流動性を調整し、材料分離を抑制するために添加する。増粘剤には、セルロース系、蛋白質系、ラテックス系、及び水溶性ポリマー系などを用いることができ、特にセルロース系などを用いることが好ましい。増粘剤の添加量は、本発明の特性を損なわない範囲で一種又は二種以上を添加することができ、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.001〜2質量部、さらに好ましくは0.002〜1.5質量部、より好ましくは0.0025〜1質量部、特に0.005〜0.5質量部の範囲が好ましい。
【0092】
本発明に用いる水硬性組成物に、特に好適な成分構成は、ポルトランドセメント、フェロニッケルスラグを含む細骨材、消泡剤、流動化剤、増粘剤、無機系膨張材及び金属系膨張材を含むものである。
【0093】
ポルトランドセメント、フェロニッケルスラグを含む細骨材、消泡剤、流動化剤、増粘剤、無機系膨張材及び金属系膨張材などを混合装置で混合し、水硬性組成物のプレミックス粉体を得ることができる。
【0094】
本発明に用いる水硬性組成物のプレミックス粉体は、所定量の水と混合・攪拌して、スラリー組成物(水硬性モルタル)を製造することができ、そのスラリー組成物(水硬性モルタル)を硬化させて水硬性組成物の硬化体を得ることができる。
【0095】
本発明に用いる水硬性組成物は、水の添加量を調整することにより、水硬性モルタルの流動性、可使時間、材料分離などの性状を調整することができる。
本発明に用いる水硬性組成物は、水と混練して
1)水硬性組成物と水とが、均一に混ざり合った状態になるまでの所要時間を液状化時間とし、液状化時間が、好ましくは60秒以下、さらに好ましくは50秒以下、より好ましくは40秒以下、特に好ましくは35秒以下で均一に混ざり合った混練物を得ることができ、
2)モルタルフロー値が、好ましくは200mm以上、さらに好ましくは235mm以上の水硬性モルタルを得ることができ、
得られたモルタルを硬化させることにより、
3)圧縮強度(材齢28日)が、好ましくは110N/mm以上、さらに好ましくは120N/mm以上及び、
4)静弾性係数(材齢28日)が、好ましくは42.0kN/mm以上、さらに好ましくは43.0kN/mm以上の硬化体を得ることができる。
【0096】
水の添加量は、本発明の流動特性及び強度特性を損なわない範囲で添加でき、水硬性組成物100質量部に対し、好ましくは6〜36質量部、さらに好ましくは6.5〜33質量部、より好ましくは7〜30質量部、特に好ましくは7.5〜27質量部の範囲で添加することが好ましい。
【0097】
本発明に用いる水硬性組成物は、流動性に優れた水硬性モルタル、及び、高強度・高弾性で無収縮のモルタル硬化体を得ることができ、土木建築分野で水硬性モルタルとして広く利用され、特に柱梁架構と補強部材1との空隙部に充填する水硬性モルタルとして好適に使用できる。
【実施例】
【0098】
<水硬性モルタルAに用いるセメント組成物>
水硬性モルタルAに用いるセメント組成物を、実施例に基づいてさらに詳細に説明する。但し、本発明は下記実施例により制限されるものでない。
【0099】
(特性の評価方法)
1)Jロート(秒):
土木学会充てんモルタル試験方法(案)(JSCE・F542−1993) J14ロートによる流下値を示す。
2)フロー値(mm):
JIS R 5201のフロー試験に定めるフローコーンを用いて,厚さ5mm以上の磨き板ガラスの上で練り混ぜた水硬性モルタルをJIS R 5201に示されている方法によって充填した後、直ちにフローコーンを上方に引き上げる。広がりが静止した後、最大と認める方向とこれに直角となる方向の直径を測定し、その平均値をフロー値とする。
3)付着強度(N/mm):
JHS416「断面修復材品質規格試験方法」(以下、JHS416規格という)のコンクリートとの付着性試験方法に準じ、24時間水中に浸漬したモルタル板表面に厚さ1cm充填施工し、温度20±2℃、湿度85%以上で28日間養生を行った試験体を用いて、接着強度を建研式引張試験機で測定する。
4)気中養生圧縮強度、曲げ強度(N/mm):
JHS416規格の圧縮強度試験方法に準じ、JIS R 5201に示すモルタル供試体成形用型を用いて成形後、温度20±2℃、湿度65±5%で28日間養生を行った40×40×160mm試験体を用いて、圧縮強度をJIS R 5201圧縮強さ試験機で測定し、曲げ強度をJIS R 5201曲げ強さ試験機で測定する。
5)水中養生圧縮強度、曲げ強度(N/mm):
JIS R 5201に示すモルタル供試体成形用型を用いて成形後2日間、温度20±2℃、湿度65±5%で養生した後、脱型した試験体を水温20±2℃で28日間水中養生を行った40×40×160mm試験体を用いて、圧縮強度をJIS R 5201圧縮強さ試験機で測定し、曲げ強度をJIS R 5201曲げ強さ試験機で測定する。
6)長さ変化(%):
JHS416規格の硬化収縮性試験方法に準じ、ゲージプラグ付金型を用いて成形後2日間、温度20±2℃、湿度65±5%で養生した後脱型した試験体を用い、JIS A 1129−3に示すダイヤルゲージ方法(以下、ダイヤルゲージ方法という)で脱型後の基長を測定し、さらに温度20±2℃、湿度65±5%で28日間養生した試験体の長さ変化量を測定し、ダイヤルゲージ方法に記載された計算式により、長さ変化率を計算する。
【0100】
原料は以下のものを使用した。
1)水硬性成分:
・ポルトランドセメント(宇部早強ポルトランドセメント、ブレーン比表面積4500cm/g)。
2)細骨材:
・珪砂(5号+6号)、粒度(篩)は表3に示す。
3)有機系短繊維:
・ポリビニルアルコール短繊維a:繊維長12mm、繊維径0.2mm(クラレ社製)。
・ポリビニルアルコール短繊維b:繊維長8mm、繊維径0.2mm(クラレ社製)。
・ポリビニルアルコール短繊維c:繊維長18mm、繊維径0.2mm(クラレ社製)。
4)再乳化形粉末樹脂:
・酢酸ビニル・ベオバ・アクリル酸エステル共重合体(ニチゴーモビニール社製)
5)膨張材:
・無機系膨張材a:石灰−エトリンガイト系膨張材(電気化学工業社製、パワーCSA)。
・無機系膨張材b:石灰−石膏系膨張材(太平洋セメント社製、太平洋ジプカル)。
・無機系膨張材c:エトリンガイト系膨張材(電気化学工業社製、CSA#20)。
・金属系膨張材 :アルミニウム粉(粒度44μm以下を60質量%以上含有、大和金属粉工業社製、ALCファイン及びK−250の混合品)。
6)流動化剤 :
・ポリカルボン酸エーテル系流動化剤(デグサ社製)。
7)消泡剤 :
・ポリエーテル系消泡剤(サンノプコ社製)。
8)増粘剤 :
・セルロース−エーテル系増粘剤(信越化学工業社製)。
【0101】
[実施例A1、比較例A1]
表1及び表2に示す成分をアイリッヒミキサを使用して混合してセメント組成物を得た。
【0102】
温度20℃、相対湿度65%の条件下で、セメント組成物100質量部に対し、水17質量部を加え、ホバートミキサーを用いて、低速1分間、さらに高速2分間混練して、水硬性モルタルを調製した。
【0103】
水硬性モルタルのJロート及びフロー値、及び、水硬性モルタル硬化体とモルタル板との付着強度、気中及び水中で養生した場合の圧縮強度及び曲げ強度、長さ変化率を評価した結果を表1及び表2に示す。
【0104】
【表1】

【0105】
【表2】

【0106】
【表3】

【0107】
1)消泡剤を添加していない比較例A1と消泡剤を添加した実施例A1とを比較すると、水硬性モルタルの流動特性を示すJロート流下値及びモルタルフロー値にはほとんど差異がなく、また硬化体の長さ変化のおいてもほとんど同等の特性を示している。
しかしながら、モルタル板との付着強度及び圧縮強度においては、比較例A1と較べて実施例A1では強度特性の向上が極めて顕著である。
【0108】
2)消泡剤を増加して添加量を適正化した実施例A2の場合、実施例A1と比較してモルタル板との付着強度がさらに向上し、水硬性モルタル硬化体の寸法安定性(長さ変化)においてもより優れた特性が得られた。
【0109】
3)無機系膨張材について、実施例A2とは異なる成分の無機系膨張材を用いた実施例A3及び実施例A4でも、流動特性、付着強度、圧縮強度、曲げ強度及び長さ変化のいずれの性状についても優れた性状を示した。
実施例A2と実施例A3、4を比較すると、実施例A2は特に付着強度及び長さ変化においてより優れた特性を示した。
【0110】
4)繊維長が8mmの有機系短繊維を用いた比較例A2の場合、水硬性モルタルの流動性の低下が顕著であり、また、繊維長が18mmの有機系短繊維を用いた比較例A3では、繊維長が12mmの有機系短繊維を用いた実施例A2と比較して、水硬性モルタルの流動性の低下と、水硬性モルタル硬化体の寸法変化の増加(材齢7日)が見られた。
【0111】
5)有機系短繊維の配合量が、適正な配合量を超えた比較例A4及び比較例A5の場合、実施例A2と比較してモルタル板との付着強度が明確に低下し、材齢28日の長さ変化においては著しい増加が見られた。
【0112】
6)無機系膨張材を配合しない比較例A6の場合、モルタル板との付着強度が小さく、材齢28日の硬化体の長さ変化も著しく大きい。一方、無機系膨張材を過剰に配合した比較例A7の場合、膨張が著しく、無機系膨張材を適正量配合した実施例A2と比較して、圧縮強度及び曲げ強度の低下が著しい。
【0113】
7)再乳化形粉末樹脂を配合しない比較例A8では、モルタル板との付着強度が著しく小さく、硬化体の長さ変化は大きい。再乳化形粉末樹脂を適正量を超えて配合した比較例A9では、流動性及び圧縮強度の低下が著しく、長さ変化についても顕著である。
【0114】
8)消泡剤を過剰添加した比較例A10の場合、流動性や強度性状には大きな変化はないが、長さ変化が著しく大きくなっている。
【0115】
上記のような性能を有するセメント組成物は、水を混練して水硬性モルタルAとすることにより、本発明の既設建造物の耐震補強方法において好適に用いることができる。
【0116】
<水硬性モルタルBに用いる水硬性組成物>
次に、水硬性モルタルBに用いる水硬性組成物を、実施例に基づいてさらに詳細に説明する。但し、本発明は下記実施例により制限されるものでない。
【0117】
(特性の評価方法)
1)液状化時間(秒):
水硬性組成物と水とが均一に混ざり合った状態になるまでの時間を目視にて確認し、液状化時間(秒)とする。
2)フロー値(mm):
厚さ5mmのみがき板ガラスの上にJIS R 5201の凝結試験に定めるコーン(上端内径75mm、下端内径85mm、高さ40mm、内容積約200ml)を置き、練り混ぜたモルタル組成物を充填した後、コーンを引き上げる。広がりが静止した後、直角2方向の直径を測定し、その平均値をフロー値とする。
3)圧縮強度(N/mm):
試験体φ5×10cmを作製し、JIS・A−1108に記載の試験方法に準じて測定する。
4)静弾性係数(kN/mm):
試験体φ5×10cmを作製し、JIS・A−1149に記載の試験方法に準じて測定する。
【0118】
原料は以下のものを使用した。
1)水硬性成分:
・ポルトランドセメント(宇部早強ポルトランドセメント、ブレーン比表面積4500cm/g)。
2)フェロニッケルスラグ:
・細骨材A(山川産業社製、比重3.1)
・細骨材B(山川産業社製、比重3.1)
・細骨材C(山川産業社製、比重3.1)
・細骨材D(山川産業社製、比重3.1)
・混合品E(133質量部) : 細骨材A(86質量部)と細骨材B(47質量部)との混合物。
・混合品F(117質量部) : 細骨材A(77質量部)と細骨材B(40質量部)との混合物。
・混合品G(104質量部) : 細骨材A(69質量部)と細骨材B(35質量部)との混合物。
篩を用いて測定した細骨材A〜D及び混合品E〜Gの粒度構成を表6に示す。
3)細砂:
・混合品H(133質量部) : 新特5号珪砂(105質量部、宇部サンド工業製)と6号硅砂(28質量部、宇部サンド工業製)の混合物。
篩を用いて測定した混合砂Hの粒度構成を表6に示す。
4)混和材料:
・無機系膨張材:石灰系膨張材(太平洋マテリアル社製)。
・金属系膨張材:アルミニウム粉(粒度44μm以下を60質量%以上含有、大和金属粉工業社製、ALCファイン及びK−250の混合品)。
・流動化剤 :ポリカルボン酸系流動化剤(BASFポゾリス社製)。
・消泡剤 :ポリエーテル系消泡剤(サンノプコ社製)。
・増粘剤 :メチルセルロース系増粘剤(松本油脂社製)。
【0119】
[実施例B1〜7及び比較例B1〜3]
表4及び表5に示す成分を、アイリッヒミキサを使用して混合し、表4及び表5に示すセメント、細骨材及び混和剤を含む水硬性組成物を得た。
【0120】
温度20℃、相対湿度65%の条件下で、水硬性組成物100質量部に対し、水11.2質量部を加え、ホバートミキサーを用いて、低速1分間、さらに高速2分間混練して、混練物を調製した。
【0121】
得られた混練物の液状化時間及びフロー値、混練物の硬化体の圧縮強度及び静弾性係数を評価した結果を表4及び表5に示す。
【0122】
【表4】

【0123】
【表5】

【0124】
【表6】

【0125】
1)水硬性組成物の細骨材として、適正な粒度構成を有するフェロニッケルスラグを用いた実施例B1〜実施例B7は、細骨材に珪砂を用いた比較例B2、比較例B3と比較して、硬化体の圧縮強度の向上及び弾性率の向上が顕著である。
2)消泡剤を配合した実施例B4、比較例B2は、消泡剤を配合していない実施例B7、比較例B3と対比すると、硬化体の圧縮強度の向上が顕著である。
3)水硬性組成物の細骨材に粒度の異なるフェロニッケルスラグを用いた実施例B1〜3及び比較例B1では、フェロニッケルスラグの粒度が小さくなるにしたがって流動性を示すフロー値が小さくなる傾向を示し、75μm未満の粒子を14.04%含む細骨材Dを用いた比較例B1では良好な流動性が得られなかった。また、スラリー調整時の液状化時間も90秒と長い時間を要した。
硬化体強度においても、実施例B1〜3については、材齢28日で120N/mm以上、硬化体の静弾性係数においても材齢28日で43.0kN/mm以上が得られている。
4)水硬性組成物の細骨材の添加量を変化させた実施例B4〜6において、細骨材量の最も少ない実施例B6は、実施例B5及び実施例B4と比較して粉体量(セメント量)が相対的に多くなり、液状化までの時間が長くなる傾向を示した。細骨材の多い実施例B5及び実施例B4は、硬化体の材齢28日の圧縮強度は実施例B6と対比して若干低いものの120N/mm以上の高強度が得られており、弾性率においては43.0kN/mm以上の値を示した。
【0126】
上記のような性能を有する水硬性組成物は、水を混練して水硬性モルタルBとすることにより、本発明の既設建造物の耐震補強方法において好適に用いることができる。
【0127】
<せん断伝達性能評価実験>
本発明の既設建造物の耐震補強方法に用いる補強部材と梁との間の、せん断伝達性能評価実験を行った。せん断伝達性能評価実験は、図10に示すせん断伝達性能評価用試験装置30を用いて行った。せん断伝達性能評価用試験装置30は、試験装置用鉄骨枠38に固定される油圧ジャッキ32、油圧ジャッキ32の可動ピストンに連結する可動部34および油圧ジャッキ32とは反対側の試験装置用鉄骨枠38に固定される固定部33を含む。油圧ジャッキ32は、300kNの加圧が可能なものを用いた。なお、試験装置用鉄骨枠38の内側の寸法は幅2085mm、高さ1364mmだった。
【0128】
図10に示すように、試験体40は、可動部34と固定部33との間に、ボルトおよびナットを用いて取り付けられる。可動部34に試験用梁42を取り付け、固定部33に試験用H鋼41を取り付ける。取り付けは、ボルトおよびナットを用いて行う。このように取り付けた試験体40に対して、油圧ジャッキ32により荷重Qを加えることで、試験体40の試験用水硬性モルタル43を有する部分に水平方向の荷重Qが加わる。そのため、荷重Qが十分大きい場合には、水硬性モルタル43の塑性変形により試験用梁42が移動し、試験用梁42と、試験用H鋼試験体41との相対的位置が、水平方向に移動することとなる。そこで、油圧ジャッキ32により加えた荷重Qと、試験用梁42および試験用H鋼41の相対的位置の水平方向の移動量(すべり量δ)とを測定し、荷重Qとすべり量δとの関係から、せん断伝達性能を評価した。具体的には、下記の式(1)を用いてせん断伝達強度τ(N/mm)を求めた。
τ=Q/(b・L) ・・・(1)
Q:荷重(N)
接合面幅:b=125mm
接合面長さ:L=300mm
【0129】
なお、試験用梁42の移動を容易にするため、試験用梁42は、移動可能な可動台35の上に配置される。また、可動部34の重みによる装置の変形を防ぐために、可動部34は、ロープ及び滑車を介して連結した錘37により、吊り上げられる構造になっている。
【0130】
本実験では、第4の実施態様の構造の試験体を用いてせん断伝達性能を評価した。図11および図12に、本実験で用いた試験体40a(実施例C1)および試験体40b(実施例C2)の構造の模式図を示す。図11に示す試験体40aは、図8に示す構造の試験体であり、図12に示す試験体40bは、図7に示す構造の試験体である。図11および図12に示すように、試験体40aおよび40bは、所定の試験用H鋼試験体41と試験用梁42との間に試験用水硬性モルタル43を有し、また、所定のアンカーボルト2および/またはスタッドボルト3を配置した構造である。水硬性モルタル43を導入する前に、試験用梁42の表面に対して目荒しを行い、プライマーを塗布した。なお、図11および図12には、本測定で用いた試験体40aおよび40bの、典型的な寸法をmm単位で示している。
【0131】
図11に示す試験体40aを用いた実験(実施例C1)では、試験用水硬性モルタル43として、水硬性モルタルA、水硬性モルタルBおよび汎用グラウト(U−グラウト)の3種類のモルタルを用いた。図12に示す試験体40bを用いた実験(実施例C2)では、試験用水硬性モルタル43として、水硬性モルタルAおよび水硬性モルタルBの2種類のモルタルを用いた。
【0132】
この実験で用いた水硬性モルタルAの組成は、表1に記載されている実施例A2のモルタルの組成と同じである。
【0133】
この実験で用いた水硬性モルタルBの組成は、表4に記載されている実施例B5のモルタルの組成と同じである。
【0134】
汎用グラウト(U−グラウト)の組成は、セメント100質量部に対し、細骨材150質量部、膨張材7質量部および流動化剤0.18質量部加えたものを水硬性組成物として、その水硬性組成物100質量部に対し、混練水を16質量部加えたものである。
【0135】
本実験で測定した力Qとすべり量δとの関係を図13(実施例C1)および図14(実施例C2)に示す。また、表7に、この測定結果から(1)を用いて得られたせん断伝達強度τを示す。なお、(1)式の荷重Qとしては、図13および図14に示す最大荷重の値を用いた。
【0136】
【表7】

【0137】
上記の実験から、水硬性モルタルAおよび水硬性モルタルBは、本発明の第3の実施態様の構造の構造と組み合わせて用いることにより、汎用グラウトを用いた場合に比べ、試験用梁とのせん断伝達強度が向上すること、および第4の実施態様の構造と組み合わせ用いることにより、試験用H鋼との良好なせん断伝達性能を有することを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0138】
【図1】在来工法及び本発明の第1の実施態様の模式図である。
【図2】本発明の第2の実施態様の模式図である。
【図3】本発明の第3の実施態様の場合の、図2のA−A′断面図である。
【図4】本発明の第3の実施態様の場合の、図2のB−B′断面図である。
【図5】本発明の第3の実施態様の場合の、図2の別の例のB−B′断面図である。
【図6】本発明の第4の実施態様の模式図である。
【図7】本発明の第4の実施態様の模式図の、A−A′断面図である。
【図8】本発明の第4の実施態様の模式図の、B−B′断面図である。
【図9】本発明の第4の実施態様の模式図の、別の例のB−B′断面図である。
【図10】せん断伝達性能評価実験に用いたせん断伝達性能評価用試験装置の模式図である。
【図11】せん断伝達性能評価実験に用いた実施例C1の試験体の模式図である。
【図12】せん断伝達性能評価実験に用いた実施例C2の試験体の模式図である。
【図13】実施例C1のせん断伝達性能評価実験の結果である。
【図14】実施例C2のせん断伝達性能評価実験の結果である。
【符号の説明】
【0139】
1 補強部材
2 アンカーボルト
3 スタッドボルト
4 スパイラル筋
5 シャーコッター
6 接合用ナット(長ナット)
10 H鋼
10a フランジ
10b ウェブ部
11 柱
12 梁
21 水硬性モルタル(グラウト材)
30 せん断伝達性能評価用試験装置
32 油圧ジャッキ
33 固定部
34 可動部
35 可動台
36 床
37 錘
38 試験装置用鉄骨枠
40、40a、40b 試験体
41 試験用H鋼
42 試験用梁
43 試験用水硬性モルタル(試験用グラウト材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設建造物の柱梁架構内に、補強部材を配置して一体化する既設建造物の耐震補強方法であって、
柱梁架構の内周に、複数のアンカーボルトを配置して固定する工程と、
フランジを有するH鋼を少なくとも外枠の一部に含む補強部材を柱梁架構内に配置する工程と、
補強部材と柱梁架構との間に、水硬性モルタルを充填して硬化させる工程とを含み、
水硬性モルタルが、セメント組成物及び水を混練して得られる水硬性モルタルAと、水硬性組成物及び水を混練して得られる水硬性モルタルBとから選ばれる少なくとも1つの水硬性モルタルであり、
セメント組成物が、ポルトランドセメント、細骨材、有機系短繊維、無機系膨張材、再乳化形粉末樹脂、消泡剤、金属系膨張材、増粘剤及び流動化剤を含み、ポルトランドセメント100質量部に対し、細骨材の含有割合が120〜180質量部、繊維径が0.1〜0.3mmでかつ繊維長が9〜16mmの有機系短繊維の含有割合が0.2〜0.8質量部、無機系膨張材の含有割合が4〜15質量部、再乳化形粉末樹脂の含有割合が4〜15質量部、消泡剤の含有割合が0.05〜1.2質量部であるセメント組成物であり、
水硬性組成物が、セメントとフェロニッケルスラグを含む細骨材とを含有し、フェロニッケルスラグは、フェロニッケルスラグ100質量%中に粒径0.075〜2.4mmの粒子を80質量%以上含み、粒径0.075未満の粒子を10質量%未満含む水硬性組成物であることを特徴とする、既存建造物の耐震補強方法。
【請求項2】
アンカーボルトを配置して固定する工程において、
柱梁架構の内周と補強部材との間の応力が生じると考えられる位置にアンカーボルトを有するように、柱梁架構の柱又は梁に複数のアンカーボルトを配置する複数の部分と、アンカーボルトを配置する2つの部分の間に位置するアンカーボルトを配置しない部分とを有するようにアンカーボルトを配置して固定する、請求項1記載の耐震補強方法。
【請求項3】
補強部材の外枠に含まれるH鋼のウェブ部が、柱梁架構の内周に面するように配置され、H鋼のウェブ部より柱梁架構の内周に面する側のフランジの少なくとも一部が切除されたH鋼を含む、請求項1又は2記載の耐震補強方法。
【請求項4】
補強部材の外枠に含まれるH鋼のフランジが、柱梁架構の内周に面するように配置され、H鋼が、柱梁架構の内周に面するフランジの少なくとも一部又は全部を切除されたH鋼であり、H鋼のウェブ部に水硬性モルタルを介してアンカーボルトを定着する、請求項1又は2記載の耐震補強方法。
【請求項5】
セメント組成物に含まれる消泡剤が、ポリエーテル系消泡剤であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項記載の耐震補強方法。
【請求項6】
セメント組成物に含まれる金属系膨張材の含有割合が0.0001〜0.01質量部であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項記載の耐震補強方法。
【請求項7】
水硬性組成物が、さらに消泡剤を含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項記載の耐震補強方法。
【請求項8】
水硬性組成物に含まれる細骨材が、細骨材100質量%中にフェロニッケルスラグを70質量%以上含む、請求項1〜4のいずれか1項又は請求項7記載の耐震補強方法。
【請求項9】
水硬性組成物に含まれるフェロニッケルスラグが、フェロニッケルスラグ100質量%中、粒径0.15〜1.2mmの粒子を80質量%以上含み、粒径0.15未満の粒子を10質量%未満含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項、請求項7又は請求項8記載の耐震補強方法。
【請求項10】
水硬性組成物が、さらに膨張材、流動化剤及び増粘剤から選ばれた少なくとも1種以上の成分を含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項又は請求項7〜9のいずれか1項記載の耐震補強方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図13】
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【図14】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−30427(P2009−30427A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−122206(P2008−122206)
【出願日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【出願人】(508042593)山陽建設サービス株式会社 (2)
【Fターム(参考)】