説明

耐食性及び導電性に優れた表面処理金属板

【課題】耐食性、耐アルカリ脱脂性、導電性、塗装性、耐アブレージョン性、及び、耐テープ剥離性を一層向上した表面処理金属板を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の表面処理金属板は、金属板と、該金属板の少なくとも片面に形成された樹脂水性液から得られる樹脂皮膜を備え、前記樹脂水性液が、不揮発性樹脂成分、及び、シリカ粒子を含有し、前記不揮発性樹脂成分として、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液の不揮発性樹脂成分(EC)とカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂水性液の不揮発性樹脂成分(PU)とを、質量比でEC:PU=90:10〜40:60で含有し、さらに、前記不揮発性樹脂成分とシリカ粒子との合計100質量部に対して、シランカップリング剤を5〜20質量部と、アルコキシシランを1〜14質量部含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表面処理金属板に関するものであり、より詳細には、自動車、家電製品、建材等に使用される耐食性、耐アルカリ脱脂性、導電性、塗装性(塗膜密着性)、耐アブレージョン性、耐テープ剥離性に優れる表面処理金属板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車、家電製品、建材等に使用される材料としては、電気亜鉛めっき鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板等の亜鉛系めっき鋼板に加えて、より一層の耐食性向上や耐指紋性向上を目的として亜鉛めっき系鋼板上にクロメート処理やリン酸亜鉛処理を施した鋼板が多く用いられてきた。また、さらなる耐食性の向上や塗装性、加工性の向上を目的としてクロメート処理が施された表面処理鋼板の上に、有機樹脂皮膜を形成した樹脂塗装鋼板が提案されている。
【0003】
近年になって地球環境保全の観点からクロメート処理を施さない鋼板の需要が増大しており、6価クロムを含まずに有機樹脂皮膜を形成した鋼板が種々提案されている。しかしながら、クロメート処理なしで耐食性を確保することは非常に難しいことから、薄膜で十分な耐食性を確保することは非常に困難な状況にある。
【0004】
一方、電気機器の高性能化に伴って使用する鋼板に対しても帯電防止や電磁波シールド性に対応するために導電性に優れた材料への要求が増加している。導電性については、亜鉛めっき鋼板の上に皮膜が施される場合には、皮膜の付着量を下げて導電性を確保する必要がある。しかしながら、亜鉛めっき鋼板上に有機樹脂皮膜が設けられた製品では有機樹脂皮膜の付着量が低いと耐食性や加工性が劣化するため、導電性以外の特性が不十分となり実用に適さない。
【0005】
このような樹脂塗装鋼板が有する上記問題点を解決するために、樹脂皮膜として、無機高分子化合物及び固形潤滑剤を有する皮膜が形成された潤滑鋼板や、更に水性樹脂を有する皮膜が形成された潤滑鋼板が提案されている。しかしながら、地球環境保全の観点からプレス加工後の洗浄工程で従来から使用されてきたトリクロロエチレンや塩化メチレン等の有機溶剤系の脱脂剤に代わってアルカリ脱脂による洗浄が増加しており、これらの製品では耐アルカリ脱脂性が不十分であるために実用に適さない状況にある。また、例えば、特許文献1には、樹脂水性液にシリカ及びシランカップリング剤を含有する樹脂皮膜も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−43913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されている表面処理金属板では、樹脂皮膜を構成する不揮発性樹脂成分中のポリウレタン樹脂含有率が67〜90質量%と高くなっている。そのため、アルカリ脱脂条件が厳しい使用態様では十分な耐アルカリ脱脂性を有しているとは言えず、より耐アルカリ脱脂性に優れた表面処理金属板が要望されている。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、耐食性、耐アルカリ脱脂性、導電性、塗装性、耐アブレージョン性、及び、耐テープ剥離性を一層向上した表面処理金属板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決することができた本発明の表面処理金属板は、金属板と、該金属板の少なくとも片面に形成された樹脂水性液から得られる樹脂皮膜を備える表面処理金属板であって、前記樹脂水性液は、不揮発性樹脂成分20〜45質量部、及び、平均粒子径が4〜20nmのシリカ粒子55〜80質量部を合計で100質量部になるように含有し、前記不揮発性樹脂成分として、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液の不揮発性樹脂成分(EC)とカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂水性液の不揮発性樹脂成分(PU)とを含有し、これらの配合比率が、質量比でEC:PU=90:10〜40:60であり、さらに、前記不揮発性樹脂成分とシリカ粒子との合計100質量部に対して、式(a)で表されるシランカップリング剤を5〜20質量部と、式(b)で表されるアルコキシシランを1〜14質量部含有することを特徴とする。前記式(b)で表されるアルコキシシランは、ヘキシルトリメトキシシランが好適である。前記樹脂皮膜の付着量は、0.05〜1g/m2が好ましい。
【0009】
【化1】

[式(a)中、R1、R2はアルコキシ基、R3はアルコキシ基又は炭素数1〜4のアルキル基、Xは炭素数1〜5のアルキレン基を表す。]
【0010】
【化2】

[式(b)中、R4、R5、R6はアルコキシ基、R7は炭素数5〜7のアルキル基を表す。]
【発明の効果】
【0011】
本発明の表面処理金属板は、樹脂皮膜が、樹脂成分としてのエチレン−不飽和カルボン酸共重合体及びカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂と、シリカ粒子を所定量含有し、且つ、特定のシランカップリング剤及び特定のアルコキシシランを含有する樹脂水性液から形成されている。特に、樹脂成分中のエチレン−不飽和カルボン酸共重合体含有率が高くなっている。よって、本発明の表面処理金属板は、耐食性、導電性、塗装性、耐アブレージョン性、及び、耐テープ剥離性に優れ、且つ、耐アルカリ脱脂性にも優れたものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の表面処理金属板は、金属板と、該金属板の少なくとも片面に形成された樹脂水性液から得られる樹脂皮膜を備える。
本発明で使用する樹脂水性液は、不揮発性樹脂成分20〜45質量部、及び、平均粒子径が4〜20nmのシリカ粒子55〜80質量部を合計で100質量部になるように含有している。ここで、前記不揮発性樹脂成分としては、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液の不揮発性樹脂成分(EC)とカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂水性液の不揮発性樹脂成分(PU)とを含有し、これらの配合比率が、質量比でEC:PU=90:10〜40:60に調整されている。さらに、前記樹脂水性液は、不揮発性樹脂成分とシリカ粒子との合計100質量部に対して、式(a)で表されるシランカップリング剤(以下、「シランカップリング剤(a)」)を5〜20質量部と、式(b)で表されるアルコキシシラン(以下、「アルコキシシラン(b)」)を1〜14質量部含有する。
上記のように、不揮発性樹脂及びシリカ粒子の含有量、不揮発性樹脂の種類、並びに、これらの不揮発性樹脂とシリカ粒子との親和性を高めるための特定のシランカップリング剤(a)及びアルコキシシラン(b)の含有量を全て高度に制御した樹脂水性液を用いて樹脂皮膜を形成することにより、耐食性、導電性、塗装性、耐アブレージョン性、及び、耐テープ剥離性に優れ、且つ、耐アルカリ脱脂性にも優れた表面処理金属板が得られる。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
1.不揮発性樹脂成分
前記樹脂水性液は、不揮発性樹脂成分としてエチレン−不飽和カルボン酸共重合体とカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂とを含有する。
本発明では、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体とカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂とを併用することによって、塗装性、耐食性、耐アブレージョン性、及び、耐アルカリ脱脂性に優れる表面処理金属板が得られる。前記エチレン−不飽和カルボン酸共重合体とカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂は、それぞれエチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液、カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂水性液として、樹脂水性液に配合される。
【0014】
1−1.エチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液
本発明において使用するエチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液について説明する。
本発明において使用するエチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液は、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体が水性媒体中に分散した液であれば、特に限定されない。前記水性媒体には、水の他、アルコール、N−メチルピロリドン、アセトン等の親水性の溶媒が微量含まれていても良い。
【0015】
前記エチレン−不飽和カルボン酸共重合体は、エチレンとエチレン性不飽和カルボン酸との共重合体である。不飽和カルボン酸としては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等が挙げられ、これらのうちの1種以上と、エチレンとを、公知の高温高圧重合法等で重合することにより、共重合体を得ることができる。共重合体としては、ランダムが最も好ましいが、ブロック共重合体や、不飽和カルボン酸部分がグラフトしたような共重合体でも良い。尚、不飽和カルボン酸としては、(メタ)アクリル酸が好適である。また、エチレンの一部に変えてプロピレン、1−ブテン等のオレフィン系モノマーを用いてもよい。この場合、エチレン以外のオレフィン系モノマーの含有量は10質量%以下が好ましい。さらに本発明の目的を阻害しない範囲であれば、他の公知のビニル系モノマーを一部共重合(10質量%程度以下)してもよい。
【0016】
前記エチレン−不飽和カルボン酸共重合体は、モノマー全量を100質量%とした時に、不飽和カルボン酸成分が10〜40質量%共重合されているものであることが好ましい。不飽和カルボン酸が10質量%以上であれば、イオンクラスターによる分子間会合の基点、あるいは架橋剤との架橋点となるカルボキシル基が多くなる。そのため、皮膜強度効果が向上し、脱脂工程後の耐食性がより良好となるとともに、水性分散液の乳化安定性も向上する。より好ましい不飽和カルボン酸の下限は15質量%である。一方、不飽和カルボン酸が40質量%以下であれば、樹脂皮膜の耐食性や耐水性が一層向上し、アルカリ脱脂工程後の耐食性がより良好となる。より好ましい上限は25質量%である。
【0017】
本発明で使用するエチレン−不飽和カルボン酸共重合体は、カルボキシル基を有しており、斯かるカルボキシル基を有機塩基や金属イオンで中和することにより、水性分散液とすることができる。
前記有機塩基として沸点100℃以下のアミンを用いることが好ましい。沸点が100℃を超えるアミン類は、樹脂水性液を乾燥させたときに金属板上の樹脂皮膜に残存しやすく、樹脂皮膜の吸水性が増すため、耐食性の低下を招く。よって、本発明で使用されるエチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液には、沸点100℃超のアミン類は含まれないことが好ましい。また、アンモニアの添加効果も認められなかったため、アンモニアも含まれないことが好ましい。上記沸点は、大気圧下での沸点を採用する。
【0018】
前記沸点100℃以下のアミンの具体例としては、トリエチルアミン、N,N−ジメチルブチルアミン、N,N−ジメチルアリルアミン、N−メチルピロリジン、テトラメチルジアミノメタン、トリメチルアミン等の3級アミン;N−メチルエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジエチルアミン等の2級アミン;プロピルアミン、t−ブチルアミン、sec−ブチルアミン、イソブチルアミン、1,2−ジブチルプロピルアミン、3−ペンチルアミン等の1級アミン;等が挙げられ、1種又は2種以上を混合して使用することができる。これらの中でも3級アミンが好ましく、最も好ましいものはトリエチルアミンである。
【0019】
前記沸点100℃以下のアミンの量は、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体中のカルボキシル基1モルに対し、0.2〜0.8モル(20〜80モル%)の範囲とすることが好ましい。この範囲であれば、耐食性が良好だからである。沸点100℃以下のアミンが0.2モル以上であれば、水性分散液の樹脂粒子の粒径が小さくなって、上記効果が向上するものと考えられる。また、0.8モル以下であれば、水性分散液が増粘してゲル化することが抑制される。より好ましい上記アミンの量の上限は0.6モル、さらに好ましくは0.5モルであり、より好ましい上記アミン量の下限は0.3モルである。
【0020】
本発明では、前記沸点が100℃以下のアミンに加えて、1価の金属イオンを中和のために用いることも好ましい。耐溶剤性や皮膜硬度の向上に効果的である。1価の金属の化合物としては、ナトリウム、カリウム、リチウムから選ばれる1種又は2種以上の金属を含むことが好ましく、これらの金属の水酸化物、炭酸化物又は酸化物が好ましい。中でも、NaOH、KOH、LiOH等が好ましく、NaOHが最も性能が良く好ましい。
【0021】
この1価の金属の化合物の量は、含有される1価の金属量が、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体中のカルボキシル基1モルに対して、0.02〜0.4モル(2〜40モル%)の範囲とすることが好ましい。上記金属量が0.02モル以上であれば、乳化安定性がより良好となり、0.4モル以下であれば、得られる樹脂皮膜の吸湿性(特にアルカリ性溶液に対して)が低減され、脱脂工程後の耐食性が一層向上する。より好ましい金属量の下限は0.03モル、さらに好ましい下限は0.1モルであり、より好ましい金属量の上限は0.3モル、さらに好ましい上限は0.2モルである。
【0022】
上記沸点100℃以下のアミンと上記1価の金属化合物のそれぞれの使用量の好ましい範囲は上記したとおりであるが、これらはいずれもエチレン−不飽和カルボン酸共重合体中のカルボキシル基を中和して水性化するために用いられる。従って、これらの合計量(中和量)が多すぎると、水性分散液の粘度が急激に上昇して固化することがある上に、過剰なアルカリ分は耐食性劣化の原因となったり、揮発させるために多大なエネルギーが必要となるため好ましくない。しかし、中和量が少なすぎると乳化性に劣るため、やはり好ましくない。従って、沸点100℃以下のアミンと上記1価の金属の合計使用量は、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体中のカルボキシル基1モルに対し、0.3〜1.0モルの範囲とすることが好ましい。
【0023】
本発明で使用するエチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液は、沸点100℃以下のアミンと1価の金属イオンとを併用して乳化することにより、平均粒子径が5〜50nmという極めて小さな微粒子(油滴)状態で水性媒体中に分散したものが得られる。このため、得られる樹脂皮膜の造膜性、金属板への密着性、皮膜の緻密化が達成され、耐食性が向上するものと推定される。上記水性媒体には、水の他に、アルコールやエーテル等の親水性溶媒が含まれていても良い。尚、上記水性分散液の樹脂粒子の粒子径は、例えば光散乱光度計(大塚電子社製等)を用いたレーザー回折法によって測定することができる。
【0024】
沸点100℃以下のアミンと1価の金属イオンによるエチレン−不飽和カルボン酸共重合体の中和工程(水性化工程)では、沸点100℃以下のアミンと1価の金属の化合物とを同時に共重合体へと添加するか、沸点100℃以下のアミンを先に添加することが望ましい。理由は定かではないが、沸点100℃以下のアミンを後添加すると、耐食性の向上効果が不充分となることがあるためである。
【0025】
本発明で使用されるエチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液の調製方法としては、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体を水性媒体と共に、例えば、ホモジナイザー装置等に投入し、必要により70〜250℃の加熱下とし、沸点100℃以下のアミンと1価の金属の化合物を適宜水溶液等の形態で添加して(沸点100℃以下のアミンを先に添加するか、沸点100℃以下のアミンと1価の金属の化合物とを略同時に添加する)、高剪断力で撹拌する。
【0026】
1−2.カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂水性液
本発明で使用するカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂水性液としては、カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂が水性媒体中に分散した水性分散液、或いは、前記カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂が水性媒体に溶解した水溶液のいずれも使用することができる。前記水性媒体には、水の他、アルコール、N−メチルピロリドン、アセトン等の親水性の溶媒が微量含まれていても良い。
【0027】
前記カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂は、ウレタンプレポリマーを鎖延長剤で鎖延長反応して得られるものであることが好ましい。
前記ウレタンプレポリマーは、例えば、後述するポリイソシアネート成分とポリオール成分とを反応させて得られる。前記ウレタンプレポリマーを構成するポリイソシアネート成分としては、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)及びジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水素添加MDI)よりなる群から選択される少なくとも1種のポリイソシアネートを使用することが好ましい。斯かるポリイソシアネートを使用することにより、耐食性、反応制御の安定性に優れる樹脂皮膜が得られる。
【0028】
前記ポリイソシアネートの他にも、耐食性や反応制御の安定性を低下させない範囲で他のポリイソシアネートを使用することができる。上記ポリイソシアネート成分以外のポリイソシアネートとしては、例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカンメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート等を挙げることができる。上記ポリイソシアネートは、単独、或いは、少なくとも2種以上を混合して使用してもよい。他のポリイソシアネートを使用する場合、上記ポリイソシアネート成分(TDI、MDI、水素添加MDI)の含有率は、全ポリイソシアネート成分の70質量%以上としておくことが望ましい。これらのポリイソシアネート成分の含有率が70質量%以上であれば、耐食性・反応制御の安定性が一層向上する。
【0029】
前記ウレタンプレポリマーを構成するポリオール成分としては、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ポリエーテルポリオール、及び、カルボキシル基を有するポリオールの3種類の全てのポリオールを使用することが好ましく、より好ましくは3種類全てをジオールとする。かかるポリオール成分を使用することにより、耐食性や摺動性に優れる樹脂皮膜が得られるからである。また、ポリオール成分として1,4−シクロヘキサンジメタノールを使用することによって、得られるポリウレタン樹脂の防錆効果を高めることができる。
【0030】
前記ポリエーテルポリオールは、分子鎖にヒドロキシル基を少なくとも2以上有し、主骨格がアルキレンオキサイド単位によって構成されているものであれば特に限定されるものではなく、例えば、ポリオキシエチレングリコール(単に、「ポリエチレングリコール」と言われる場合がある)、ポリオキシプロピレングリコール(単に、「ポリプロピレングリコール」と言われる場合がある)、ポリオキシテトラメチレングリコール(単に、「ポリテトラメチレングリコール」或いは「ポリテトラメチレンエーテルグリコール」と言われる場合がある)等を挙げることができ、市販されているものを使用することができる。上記ポリエーテルポリオールの中でも、ポリオキシプロピレングリコール又はポリテトラメチレンエーテルグリコールを使用することが好ましい。前記ポリエーテルポリオールの官能基数は、少なくとも2以上であれば特に限定されず、例えば、3官能、4官能以上の多官能であってもよい。
【0031】
前記ポリエーテルポリオールは、例えば、活性水素を有する化合物を開始剤として、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドを付加させることにより得られる。前記活性水素を有する化合物としては、例えば、プロピレングリコール、エチレングリコール等のジオール;グリセリン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール、トリエタノールアミン等のトリオール;ジグリセリン、ペンタエリスリトール等のテトラオール;その他、ソルビトール、ショ糖、リン酸等を挙げることができる。この際、使用する開始剤として、ジオールを使用すれば、2官能のポリエーテルポリオールが得られ、トリオールを使用すれば、3官能のポリエーテルポリオールが得られる。また、ポリオキシテトラメチレングリコールは、例えば、テトラヒドロフランの開環重合により得られる。
【0032】
前記ポリエーテルポリオールは、例えば、数平均分子量が約400〜4000程度までの市販のものを使用することが好ましい。数平均分子量が約400以上であれば樹脂皮膜の柔軟性が向上し、4000以下であれば、柔らかくなりすぎることを抑制できる。尚、数平均分子量は、OH価(水酸基価)を測定することにより求めることができる。
【0033】
本発明において、前記1,4−シクロヘキサンジメタノールとポリエーテルポリオールの質量比を、1,4−シクロヘキサンジメタノール:ポリエーテルポリオール=1:1〜1:19とすることも好ましい態様である。防錆効果を有する1,4−シクロヘキサンジメタノールを、一定比率使用することによって、得られるポリウレタン樹脂皮膜の防錆効果を一層高めることができるからである。
【0034】
前記カルボキシル基を有するポリオールは、少なくとも1以上のカルボキシル基と少なくとも2以上のヒドロキシル基を有するものであれば、特に限定されず、例えば、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸、ジヒドロキシプロピオン酸、ジヒドロキシコハク酸等が挙げられる。カルボキシル基を有するポリオールの使用量は、所望とする水酸基価に応じて調整すればよい。
【0035】
前記3種類のポリオール成分の他にも、耐食性を低下させない範囲で他のポリオールを使用することができる。この場合、上記3種類のポリオール成分の含有率は、全ポリオール成分の70質量%以上であることが望ましい。上記3種類のポリオール成分の含有率が70質量%以上であれば、耐食性がより向上する。上述した3種類のポリオール成分以外のポリオールとしては、水酸基を複数有するものであれば特に限定されず、例えば、低分子量のポリオールや高分子量のポリオール等を挙げることができる。
【0036】
低分子量のポリオールは、平均分子量が500程度以下のポリオールであり、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール等のジオール;グリセリン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール等のトリオールが挙げられる。
高分子量のポリオールは、平均分子量が500程度を超えるポリオールであり、例えば、ポリエチレンアジペート(PEA)、ポリブチレンアジペート(PBA)、ポリヘキサメチレンアジペート(PHMA)等の縮合系ポリエステルポリオール;ポリ−ε−カプロラクトン(PCL)のようなラクトン系ポリエステルポリオール;ポリヘキサメチレンカーボネート等のポリカーボネートポリオール;及びアクリルポリオール等が挙げられる。
【0037】
また、上述したウレタンプレポリマーを鎖延長反応する鎖延長剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリアミン、低分子量のポリオール、アルカノールアミン等を挙げることができる。前記低分子量のポリオールとしては、上述したのと同じものを使用することができる。前記ポリアミンとしては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ポリアミン;トリレンジアミン、キシリレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン等の芳香族ポリアミン;ジアミノシクロヘキシルメタン、ピペラジン、イソホロンジアミン等の脂環式ポリアミン;ヒドラジン、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、フタル酸ジヒドラジド等のヒドラジン類等を挙げることができる。これらの中でも、エチレンジアミン及び/又はヒドラジンを鎖延長剤成分として使用することが好ましい。また、前記アルカノールアミンとしては、例えば、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン等を挙げることができる。
【0038】
本発明で使用するカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂の水性液の作製は、公知の方法を採用することができる。例えば、カルボキシル基含有ウレタンプレポリマーのカルボキシル基を塩基で中和して、水性媒体中に乳化分散して鎖延長反応させる方法;カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂を乳化剤の存在下で、高せん断力で乳化分散して鎖延長反応させる方法;等がある。以下、カルボキシル基含有ウレタンプレポリマーのカルボキシル基を塩基で中和して水中に乳化分散させる方法に基づいて、ポリウレタン樹脂の水性液の調製方法を説明するが、本発明は、かかる方法に限定されるものではない。
【0039】
まず、上述したポリイソシアネートと上述したポリオールとを使用して、NCO/OH比でイソシアネート基が過剰になるようにして比較的低分子量のカルボキシル基含有イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーを作製する。ウレタンプレポリマーを合成する温度は、特に限定されないが、50〜200℃の温度で合成することができる。また、ウレタンプレポリマーの合成には、公知の触媒を使用することができる。前記触媒としては、例えば、トリエチルアミン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン等のモノアミン類;N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N”,N”−ペンタメチルジエチレントリアミン等のポリアミン類;1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン(DBU)、トリエチレンジアミン等の環状ジアミン類;ジブチルチンジラウリレート、ジブチルチンジアセテート等の錫系触媒等が挙げられる。
【0040】
また、ウレタンプレポリマーの合成に際しては、ワンショット法を採用してもよく、また、プレポリマー法を採用してもよい。ワンショト法とは、ポリイソシアネートとポリオールとを一括に反応させる方法であり、プレポリマー法とは、多段階でポリイソシアネートとポリオールとを反応させる方法であり、例えば、一旦低から中分子量のウレタンプレポリマーを合成した後、さらに高分子量化する方法である。
【0041】
本発明では、例えば、ポリイソシアネートと上記3種類のポリオールの全てを一括に反応させる態様;ポリイソシアネートと、上記3種類のポリオール成分の内、まずポリエーテルポリオールとを反応させた後、次いで、1,4−シクロヘキサンジメタノール、及び、カルボキシル基を有するポリオールをさらに反応させる態様;ポリオール成分の内、まず、ポリエーテルポリオールと1,4−シクロヘキサンジメタノールとを反応させた後、次いで、カルボキシル基を有するポリオールを反応させる態様;等を適宜選択して、ウレタンプレポリマーを合成するようにすればよい。
【0042】
カルボキシル基含有イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーの作製に際しては、粘度の調整及び、該プレポリマーの乳化分散性を向上させる観点から溶剤を使用することも好ましい態様である。前記溶剤としては、イソシアネート基に対して不活性な溶剤で、比較的親水性の高い溶剤を使用することが好ましく、例えば、N−メチルピロリドン、アセトン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、N,N−ジメチルホルムアミド等を使用することができ、好ましくは、N−メチルピロリドンを使用する。N−メチルピロリドンは、カルボキシル基を有するポリオールに対する溶解性が高く、イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーを調製する反応を均一にできるからである。尚、ウレタンプレポリマーの反応は、例えば、ジブチルアミン滴定法によりイソシアネート基濃度を求めて、反応率を求めることができる。
【0043】
ウレタンプレポリマー反応終了後、得られたカルボキシル基含有イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーは、塩基で中和することによって、水中へ乳化分散できる。前記中和剤としては、特に限定されるものではないが、アンモニア;トリエチルアミン、トリエタノールアミン等の3級アミン;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物を使用することができ、好ましくは、トリエチルアミンを使用する。
【0044】
カルボキシル基含有イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーを乳化分散した後、水中でポリミアン等の鎖延長剤を使用して鎖延長反応を行うことができる。尚、鎖延長反応は、使用する鎖長延長剤の反応性に応じて、乳化分散前、乳化分散と同時、或いは、乳化分散後に適宜行うことができる。
【0045】
本発明で使用するカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂の酸価は、10mgKOH/g以上、60mgKOH/g以下であることが望ましい。酸価が10mgKOH/g未満であると、ポリウレタン樹脂水性分散液の安定性が低下するからである。また、酸価が60mgKOH/g超になると、得られる樹脂皮膜の耐食性が低下する傾向がある。前記酸価の測定は、JIS−K0070に準ずる。
【0046】
1−3.樹脂成分の配合量
本発明で使用する樹脂水性液は、上述したエチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液とカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂水性液との不揮発性樹脂成分及び後述するシリカ粒子の合計量を100質量部としたとき、前記不揮発性樹脂成分の含有量は、20質量部以上、より好ましくは25質量部以上であり、45質量部以下、より好ましくは35質量部以下含有する。上記不揮発性樹脂成分量が少なくなりすぎると、耐食性、耐アルカリ脱脂性、及び、塗装性が劣化する傾向がある。一方、上記不揮発性樹脂成分の量が多くなりすぎると、耐アブレージョン性、耐テープ剥離性、導電性が低下する傾向がある。
【0047】
ここで、前記エチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液の不揮発性樹脂成分は、上述したエチレン−不飽和カルボン酸共重合体であり、前記ポリウレタン水性液の不揮発性樹脂成分は、上述したカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂である。上記不揮発性樹脂成分は、水性液若しくは水性分散液の技術分野において公知の方法により測定することができ、例えば、水性液若しくは水性分散液を100℃〜130℃で1〜3時間加熱乾燥したときの蒸発残分である。
【0048】
また、前記エチレン−不飽和カルボン酸共重合体(EC)とカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂(PU)の配合比率は、質量比でEC:PU=90:10〜40:60であり、好ましくは80:20〜50:50である。エチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液の不揮発性成分(EC)とポリウレタン樹脂水性液の不揮発性成分(PU)との配合比率として、ECの割合が90:10より大きくなると、耐テープ剥離性が劣化する。一方、ECの割合が40:60よりも小さくなると、耐アルカリ脱脂性が低下する。
【0049】
2.シリカ粒子
本発明で使用される樹脂水性液には、上述したエチレン性−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液とカルボキシル基含有ポリウレタン水性液との不揮発性樹脂成分に加えてシリカ粒子を含有する。
前記シリカ粒子は、得られる樹脂皮膜に導電性、耐食性、塗装性を付与するとともに、皮膜の硬度を高くして、耐アブレージョン性を向上する。
【0050】
また、前記シリカ粒子の効果を最大限に発揮させるためには、シリカ粒子の平均粒子径が4〜20nmの範囲にあることが好ましい。シリカ粒子の平均粒子径が小さくなるほど、樹脂皮膜の耐食性が向上するが、平均粒子径が4nm程度未満になると、耐食性の向上効果が飽和する傾向があり、また、樹脂水性液の安定性が低下してゲル化しやすくなるからである。一方、シリカ粒子の平均粒子径が20nmを超えると、樹脂皮膜の造膜性が低下し、耐食性、塗装性、耐アルカリ脱脂性が低下するおそれがある。
【0051】
前記シリカ粒子の平均粒子径の測定方法としては、シアーズ法(4〜6nm)又はBET法(4〜20nm)を採用することが好ましい。また、鎖状シリカの場合は動的光散乱法を採用することが好ましい。このようなシリカ粒子は、通常、コロイダルシリカとして知られており、本発明におけるコロイダルシリカについては市販のコロイダルシリカを採用することが可能である。
【0052】
市販のコロイダルシリカの一例としては、日産化学工業社製の「スノーテックス(登録商標)」、ADEKA社製の「アデライト(登録商標)」、日本化学工業社製の「シリカドール(登録商標)」等が挙げられる。平均粒子径が4〜6nmのコロイダルシリカとしては、例えば、日産化学工業社製の「スノーテックス(登録商標)XS」が、平均粒子径が10〜20nmのコロイダルシリカとしては日産化学社製の「スノーテックス(登録商標)40」、「スノーテックス(登録商標)N」、「スノーテックス(登録商標)C」等やADEKA社製の「アデライト(登録商標)AT−30」等を使用することができる。
【0053】
本発明で使用される樹脂水性液中、上述したエチレン性−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液とカルボキシル基含有ポリウレタン水性液との不揮発性樹脂成分及びシリカ粒子の合計量を100質量部としたとき、前記シリカ粒子の含有量は、55質量部以上、好ましくは65質量部以上であって、80質量部以下、好ましくは75質量部以下である。シリカ粒子の含有量が55質量部より少なくなると導電性、耐アブレージョン性、及び耐テープ剥離性が低下する傾向がある。また、シリカの含有量が80質量部を超えると、樹脂皮膜の造膜性が低下し、耐食性や耐アルカリ脱脂性が低下する傾向がある。
【0054】
3.シランカップリング剤
本発明で使用する樹脂水性液は、さらにシランカップリング剤を含有する。シランカップリング剤は、耐アブレージョン性、塗装性、耐食性等を高めるとともに、金属板と金属板上に形成される樹脂皮膜との密着性を高めるために使用されるものである。
【0055】
前記シランカップリング剤としては、下記式(a)のシランカップリング剤を使用する。式(a)のシランカップリング剤を含有することによって、形成される樹脂皮膜の塗装性、耐食性を高めることができる。
【0056】
【化3】

[式(a)中、R1、R2はアルコキシ基、R3はアルコキシ基又は炭素数1〜4のアルキル基、Xは炭素数1〜5のアルキレン基を表す。]
【0057】
1、R2、R3で表されるアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基等が挙げられる。これらの中でも、炭素数1〜4のものが好ましく、より好ましくはメトキシ基、エトキシ基である。また、アルコキシ基の加水分解によって生じるアルコールは皮膜中に残留すると特性劣化を招く懸念があるため、エタノールが生成するエトキシ基よりも沸点の低いメタノールが生じるメトキシ基の方が好ましい。
【0058】
3で表される炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基等の直鎖状アルキル基;イソプロピル基、イソブチル基、tert−ブチル基等の分岐状アルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基等の環状アルキル基が挙げられる。これらの中でも、直鎖状アルキル基が好ましく、メチル基、エチル基がより好ましい。
尚、アルコキシ基の加水分解による水への溶解性の観点から、シランカップリング剤としては、アルコキシ基が2つの「ジアルコキシシラン」よりも3つの「トリアルコキシシラン」の方が好ましい。よって、R3はアルコキシ基であることが好ましい。
【0059】
Xで表されるアルキレン基としては、メチレン基、ジメチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基等が挙げられる。これらの中でも、炭素数2〜4が好ましい。
【0060】
上記化学式(a)で表されるグリシドキシ基を有するシランカップリング剤としては、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等を挙げることができ、本発明ではこれらの1種又は2種以上を使用することができる。
【0061】
上記化学式(a)で表されるシランカップリング剤は市販されており、例えば、信越化学工業社製の「KBM−402」、「KBM−403」、「KBE−402」、「KBM−402」や東レ・ダウコーニング社製「Z−6040」、「Z−6044」、「Z−6041」、「Z−6042」、「Z−6043」等が挙げられる。
【0062】
樹脂水性液中におけるシランカップリング剤の含有量は、上述した不揮発性樹脂成分とシリカ粒子との合計100質量部に対して、5質量部以上、好ましくは10質量部以上であり、20質量部以下、好ましくは15質量部以下である。
シランカップリング剤の含有量が少なすぎると、シリカ粒子と上述したエチレン性−不飽和カルボン酸共重合体やカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂等との反応性が低下して、耐アブレージョン、塗装性、耐食性等が低下する。一方、シランカップリング剤の含有量が多くなりすぎると、樹脂水性液の安定性が低下してゲル化が発生するおそれがあるとともに、反応に寄与しないシランカップリング剤の量が多くなり、金属板と金属板上に形成される樹脂皮膜との密着性が低下する場合がある。
【0063】
4.アルコキシシラン
本発明で使用する樹脂水性液は、さらにアルコキシシランを含有する。アルコキシシランはシリカと樹脂の親和性を向上させて、より緻密な皮膜を形成し、耐食性、耐アルカリ脱脂性等を高めるために使用されるものである。
【0064】
前記アルコキシシランとしては、下記式(b)のアルコキシシランを使用する。
【0065】
【化4】

[式(b)中、R4、R5、R6はアルコキシ基、R7は炭素数5〜7のアルキル基を表す。]
【0066】
4、R5、R6で表されるアルコキシ基としては、前記R1、R2、R3で例示したものが挙げられる。これらの中でも、炭素数1〜4のものが好ましく、より好ましくはメトキシ基、エトキシ基である。また、アルコキシ基の加水分解によって生じるアルコールは皮膜中に残留すると特性劣化を招く懸念があるため、エタノールが生成するエトキシ基よりも沸点の低いメタノールが生じるメトキシ基の方が好ましい。
7で表される炭素数5〜7のアルキル基としては、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−へプチル基等の直鎖状アルキル基;イソペンチル基、sec−ペンチル、tert−ペンチル基、ネオペンチル基、イソヘキシル基、sec−ヘキシル基、tert−ヘキシル基、イソヘプチル基、sec−ヘプチル基、tert−ヘプチル基等の分岐状アルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等の環状アルキル基等が挙げられる。なお、アルキル基の分子量が小さいと処理液中での安定性が劣化する。一方、アルキル基の分子量が大きいと処理液中への溶解が困難になる。これらの中でも、そのため、直鎖状アルキル基が好ましく、n−ヘキシル基がより好ましい。
【0067】
上述のように本発明におけるアルコキシシラン(b)としては官能基のない特定のアルキル基を一つ有するものであり、ペンチルトリメトキシシラン、ペンチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、ヘプチルトリメトキシシラン、ヘプチルトリエトキシシラン等を挙げることができ、本発明ではこれらの1種又は2種以上を使用することができる。
【0068】
前記アルコキシシラン(b)は市販されており、例えば信越化学工業社製の「KBM3033」、「KBM3063」、「KBE3063」や東レ・ダウコーニング社製の「Z−6582」、「Z−6583」、「Z−6586」等が挙げられる。
【0069】
樹脂水性液中におけるアルコキシシラン(b)の含有量は、上述した不揮発性樹脂成分とシリカ粒子との合計質量部を100質量部としたときに、1質量部以上、好ましくは3質量部以上であって、14質量部以下、好ましくは12質量部以下である。
アルコキシシラン(b)の含有量が少なすぎると、シリカ粒子と上述したエチレン性−不飽和カルボン酸共重合体やカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂等との親和性が低下して、耐食性、耐アルカリ脱脂性等が低下する。一方、アルコキシシランの含有量が多くなりすぎると、樹脂水性液の安定性が低下してゲル化が発生するおそれがあるとともに、塗装性、耐テープ剥離性等の密着性が低下する。
【0070】
5.その他の添加剤
上述した沸点100℃以下のアミン及び1価の金属イオンによって中和されたカルボキシル基を有するエチレン−不飽和カルボン酸共重合体は、イオンクラスターによる分子間会合を形成し(アイオノマー化)、耐食性に優れた樹脂皮膜を形成する。しかし、より強靱な皮膜を形成するためには、官能基間反応を利用した化学結合によってポリマー鎖同士を架橋させることが望ましい。そこで、本発明で使用するエチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液は、カルボキシル基と反応し得る官能基を2個以上有する架橋剤を含有することが好ましい。
【0071】
前記架橋剤の含有比率は、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液中の不揮発性樹脂成分(EC)を100質量部としたときに、1質量部以上、より好ましくは5質量部以上であって、20質量部以下、より好ましくは10質量部以下の比率で含有することが望ましい。
1質量部以上であれば、化学結合による架橋の効果が良好となり、耐食性の向上効果がより発揮される。一方、20質量部以下であれば、樹脂皮膜の架橋密度が過度に高くなりすぎて硬度が上昇することが抑制され、プレス加工時の変形にも追従できる。よって、プレス加工時のクラックの発生が抑制され、その結果耐食性や塗装性が一層向上する。
【0072】
カルボキシル基と反応し得る官能基を1分子中に2個以上有する架橋剤としては、特に限定されないが、ソルビトールポリグリシジルエーテル、(ポリ)グリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、(ポリ)エチレングリコールジグリシジルエーテル等のポリグリシジルエーテル類や、ポリグリシジルアミン類等のグリシジル基含有架橋剤;4,4’−ビス(エチレンイミノカルボニルアミノ)ジフェニルメタン、N,N’−ヘキサメチレン−1,6−ビス(1−アジリジンカルボキシアミド)N,N’−ジフェニルメタン−4,4’−ビス(1−アジリジンカルボキシアミド)、トルエンビスアジリジンカルボキシアミド等の2官能アジリジン化合物;トリ−1−アジリジニルホスフィンオキサイド、トリス〔1−(2−メチル)アジリジニル〕ホスフィンオキサイド、トリメチロールプロパントリス(β−アジリジニルプロピオネート)、トリス−2,4,6−(1−アジリジニル)−1,3,5−トリアジン、テトラメチルプロパンテトラアジリジニルプロピオネート等の3官能以上のアジリジン化合物あるいはこれらの誘導体等のアジリジニル基含有架橋剤が好適例として挙げられ、これらのうちの1種又は2種以上を用いることができる。中でも、アジリジニル基含有架橋剤が好ましい。なお、多官能アジリジンと、1官能アジリジン(エチレンイミン等)を併用してもよい。
【0073】
本発明の表面処理組成物は、さらに球形ポリオレフィンワックス粒子(好ましくは球形ポリエチレンワックス粒子)を含んでいても良い。球形ポリオレフィンワックス粒子を含有させることにより、樹脂塗装金属板の潤滑性が向上し、プレス成形等の加工時において、金属板と金型との接触抵抗を低減させることができる。
【0074】
潤滑性を効率良く発揮するための球形ポリオレフィンワックス粒子の平均粒子径は、好ましくは0.6μm以上、より好ましくは1μm以上である。しかしその平均粒子径が大きくなりすぎると、塗膜密着性が劣化するおそれがあるので、球形ポリオレフィンワックス粒子の平均粒子径は、好ましくは4μm以下、より好ましくは3μm以下である。球形ポリオレフィンワックス粒子の平均粒子径は、コールター・カウンター法により測定することができる。
【0075】
球形ポリオレフィンワックス粒子としては、例えば三井化学(株)製の「ケミパール(登録商標)」シリーズ(ポリオレフィン水性ディスパージョン)、より詳しくはケミパールW−100、W−300、W−400、W−500、W−700及びW−900等が挙げられる。
【0076】
球形ポリオレフィンワックス粒子の量は、潤滑性及び塗膜密着性の観点から、上述した不揮発性樹脂成分とシリカ粒子との合計質量部を100質量部に対し、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1.0質量部以上であり、好ましくは5質量部以下、より好ましくは4質量部以下である。
【0077】
さらに表面処理組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、希釈剤、皮張り防止剤、界面活性剤、乳化剤、分散剤、レベリング剤、消泡剤、浸透剤、造膜助剤、染料、顔料、増粘剤及び防錆剤等を含有することもできる。
【0078】
6.樹脂水性液の調製方法
前記樹脂水性液の調製方法は、特に限定されるものではないが、前記エチレン性−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液、カルボキシル基含有ポリウレタン水性液、シリカ粒子、シランカップリング剤(a)、アルコキシシラン(b)、及び、必要に応じて、ワックス、架橋剤等を所定量配合することにより得られる。シリカ粒子、シランカップリング剤(a)、アルコキシシラン(b)、ワックス、及び、架橋剤等はいずれの段階で添加してもよいが、架橋剤及びシランカップリング剤(a)添加後は架橋反応が進行してゲル化しないように、熱を掛けないようにすることが望ましい。さらに、上記事情より前記水性液の保管時においても熱が掛からないようにすることが望ましく、30℃以下、好ましくは20℃以下で保管することが望ましい。
【0079】
また、処理液調製の際には、界面張力を低下させ、金属板への濡れ性を向上させるために、少量の有機溶剤を配合しても良い。このための有機溶剤としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、ヘキサノール、2−エチルヘキサノール、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等を挙げることができる。
【0080】
7.金属板
本発明で使用する金属板は、鋼板、アルミ板、Ti板等特に限定されないが、亜鉛系めっき鋼板であることが好ましい。例えば、溶融純亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、溶融Zn−5%Alめっき鋼板、溶融Zn−55%Alめっき鋼板、電気純亜鉛めっき鋼板、電気Zn−Niめっき鋼板等を好適に使用することができる。また、樹脂皮膜を形成する前に、金属板表面にCo又はNi等処理、インヒビター処理、或いは、各種ノンクロメートの下地処理を行ってもよい。
【0081】
8.樹脂皮膜の形成方法
金属板上に樹脂皮膜を形成するには、上記樹脂水性液を、公知の塗布方法、すなわち、ロールコーター法、スプレー法、カーテンフローコーター法等を用いて、金属板表面の片面又は両面に塗布して加熱乾燥すればよい。加熱乾燥温度は、水性液中の水分が十分に蒸発する温度で行うことが好ましい。また、潤滑剤として、球形のポリエチレンワックスを用いる場合は、球形を維持しておく方が後の加工工程での加工性が良好となるので、70〜130℃の範囲で乾燥を行うことが望ましい。
【0082】
樹脂皮膜の金属板への付着量(厚み)は、乾燥後において、0.05g/m2以上、より好ましくは0.2g/m2以上であって、1g/m2以下、より好ましくは0.5g/m2以下であることが望ましい。付着量が少なすぎると、耐アブレージョン、耐食性、及び、耐アルカリ脱脂性が低下する。一方、付着量が多くなりすぎると、導電性や塗装性が低下する傾向がある。この表面処理金属板は、用途に応じて加工工程を経た後このまま用いたり、あるいは従来条件による電着塗装・粉体塗装・シルク印刷(130〜160℃、20〜30分程度)を施して用いてもよい。
【実施例】
【0083】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、前・後記の趣旨に適合しうる範囲で適宜変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0084】
[評価方法]
1.耐食性
得られた表面処理金属板(樹脂塗装鋼板)について、エッジシールした平板材の塩水噴霧試験を、JIS Z2371に従って実施して、白錆が5%発生するまでの時間にて評価した。
評価基準
◎:白錆発生 240時間以上
○:白錆発生 120時間以上〜240時間未満
△:白錆発生 72時間以上〜120時間未満
×:白錆発生 72時間未満
【0085】
2.耐アルカリ脱脂性
液温60℃に調整したアルカリ脱脂剤(日本パーカーライジング社製、「L−4460」)20g/lに、供試材を2分間浸漬し、引き上げ、水洗、乾燥した後、当該供試材をJIS Z2371に準じて、塩水噴霧試験を実施し、白錆が1%発生するまでの時間にて評価した。
評価基準
◎:168時間以上
○:96時間以上168時間未満
△:48時間以上96時間未満
×:48時間未満
【0086】
3.導電性
得られた表面処理金属板(樹脂塗装鋼板)の表面抵抗を、表面抵抗計(ダイヤインスツルメンツ社製、「Loresta(登録商標)−EP」、4端子4探針法)にて10箇所測定した。
評価基準
◎:1mΩ以下でオーバーロード0回/10箇所
○:1mΩ以下でオーバーロード1回/10箇所
△:1mΩ以下でオーバーロード2回以上4回以下/10箇所
×:1mΩ以上でオーバーロード5回以上/10箇所
【0087】
4.塗装性
得られた表面処理金属板(樹脂塗装鋼板)に、メラミンアルキッド系塗料(関西ペイント社製、「アミラック(登録商標) #1000」)を、乾燥後の塗膜厚が約20μmになるように、スプレー塗装を実施し130℃で20分間焼き付けて後塗装を行った。続いて、この供試材を沸騰水に1時間浸漬した後、取り出し、1時間放置後にカッターナイフで1mm角の碁盤目を100升刻み、これにテープ剥離試験を実施して、塗膜の残存升目数によって塗膜密着性を4段階で評価した。
評価基準
◎:残存率:100%
○:残存率:90%以上〜100%未満
△:残存率:80%以上〜90%未満
×:残存率:70%以上〜80%未満
【0088】
5.耐アブレージョン性
得られた表面処理金属板(樹脂塗装鋼板)について、梱包貨物−振動試験(JIS Z0232)に準じて、振動試験を実施し、所定時間後の供試材の外観を下記の基準に基づき評価した。尚、振動試験装置は、アイデック社製の商品名「BF−500UC」を用いた。
評価基準
◎:皮膜への損傷なし
○:皮膜への損傷あるが、亜鉛めっき表面への損傷無し
△:亜鉛めっき表面への目視で確認できる程度の損傷がある
×:亜鉛めっき表面への損傷が著しい
【0089】
6.耐テープ剥離性
供試材の表面にフィラメントテープ(マクセルスリオンテック社製、「フィラメントテープ #9510」)を貼り付け、40℃×RH98%の雰囲気下で120時間保管した後、フィラメントテープを剥がし、皮膜の残存している面積の割合(残存率)を測定した。
評価基準
◎:残存率100%
○:残存率90%以上100%未満
△:残存率80%以上90%未満
×:残存率80未満
【0090】
エチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液の調製
撹拌機、温度計、温度コントローラを備えた内容量0.8Lの乳化設備のオートクレイブに、水626質量部、エチレン−アクリル酸共重合体(アクリル酸20質量%、メルトインデックス(MI)300g/10min(190℃、2.16kg))160質量部を加え、エチレン−アクリル酸共重合体のカルボキシル基1モルに対して、トリエチルアミンを0.4モル(40モル%)、水酸化ナトリウムを0.15モル(15モル%)加えた。150℃、5Paの雰囲気下で高速撹拌を行い、40℃に冷却してエチレン−アクリル酸共重合体の水性分散液を得た。続いて、前記水性分散液に架橋剤として、4,4’−ビス(エチレンイミノカルボニルアミノ)ジフェニルメタン(日本触媒社製、「ケミタイト(登録商標) DZ−22E」)を、エチレン−アクリル酸共重合体の不揮発性樹脂成分100質量部に対して5質量部の比率になるように添加した。
【0091】
カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂水性液の調製
撹拌機、温度計、温度コントローラを備えた内容量0.8Lの合成装置に、ポリオール成分としてポリテトラメチレンエーテルグリコール(保土ヶ谷化学工業社製、数平均分子量1000)を60g、1,4−シクロヘキサンジメタノール14g、ジメチロールプロピオン酸20gを仕込み、さらに反応溶媒としてN−メチルピロリドン30.0gを加えた。イソシアネート成分としてトリレンジイソシアネートを104g仕込み、80から85℃に昇温し5時間反応させた。得られたプレポリマーのNCO含有量は、8.9質量%であった。さらにトリエチルアミン16gを加えて中和を行い、エチレンジアミン16gと水480gの混合水溶液を加えて、50℃で4時間乳化し、鎖延長反応させてポリウレタン樹脂水性分散液を得た(不揮発性樹脂成分29.1%、酸価41.4mgKOH/g)。
【0092】
樹脂水性液の調製と表面処理金属板の作製
実験例1
上記で得たカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂水性液、エチレン−アクリル酸共重合体水性分散液、シリカ粒子(日産化学社製、「スノーテックス(登録商標) XS」、平均粒子径(BET法)4〜6nm)を表1に示した配合比率となるように不揮発性成分換算で合計100質量部配合し、この合計100質量部に対して、さらにシランカップリング剤として、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、「KBM−403」)を12質量部、アルコキシシランとしてヘキシルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、「KBM−3063」)を6質量部添加して樹脂水性液を調製した。
この樹脂水性液を電気純亜鉛めっき鋼板の表面に絞りロールにて塗布し、板温90℃で加熱乾燥して、付着量0.5g/m2の樹脂皮膜が形成された表面処理金属板(樹脂塗装鋼板)を得た。得られた樹脂塗装鋼板について、耐食性、導電性、耐アブレージョン性、耐アルカリ脱脂性、塗装性等について評価した結果を表1に併せて示した。
尚、上記電気純亜鉛めっき鋼板としては、クロメート処理を施さない電気亜鉛めっき鋼板(Zn付着量20g/m2、板厚0.8mm)を用いた。
【0093】
【表1】

【0094】
鋼板No.4〜9、14〜18は、樹脂水性液が、不揮発性樹脂成分20〜45質量部、及び、シリカ粒子55〜80質量部を合計で100質量部になるように含有し、前記不揮発性樹脂成分として、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液の不揮発性樹脂成分(EC)とカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂水性液の不揮発性樹脂成分(PU)とを含有し、これらの配合比率が、質量比でEC:PU=90:10〜40:60となっているものである。これらは、いずれの鋼板も、耐食性、耐アルカリ脱脂性、導電性、塗装性、耐アブレージョン性、耐テープ剥離性に優れることがわかる。
鋼板No.1〜3は、不揮発性樹脂成分の比率が20質量部未満の場合であり、耐食性、耐アルカリ脱脂性が低下した。
鋼板No.10、11は、不揮発性樹脂成分の比率が45質量部を超える場合であり、導電性、耐アブレージョン性、耐テープ剥離性が低下した。
鋼板No.12、13は、不揮発性樹脂成分中のECの比率が高すぎる場合であり、耐テープ剥離性が低下した。
鋼板No.19、20は、不揮発性樹脂成分中のPUの比率が高すぎる場合であり、耐アルカリ脱脂性が低下した。
【0095】
実験例2
上記で得たカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂水性液と上記エチレン−アクリル酸共重合体水性分散液と、シリカ粒子とを、不揮発性樹脂成分が30質量部、シリカ粒子が70質量部の合計100質量部となるように配合し、この合計100質量部に対して、さらにシランカップリング剤として、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、「KBM−403」)を0〜30質量部、アルコキシシランとしてヘキシルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、「KBM−3063」)を6質量部添加して樹脂水性液を調製した。尚、シリカ粒子としては、日産化学社製、「スノーテックス XS(平均粒子径(BET法)4〜6nm)」を用い、不揮発性樹脂成分中のエチレン−不飽和カルボン酸共重合体(EC)とカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂(PU)との配合比率は質量比で、EC:PU=70:30とした。
この樹脂水性液を電気純亜鉛めっき鋼板の表面に絞りロールにて塗布し、板温90℃で加熱乾燥して、付着量0.5g/m2の樹脂皮膜が形成された表面処理金属板(樹脂塗装鋼板)を得た。得られた樹脂塗装鋼板について、樹脂皮膜の組成、耐食性、導電性、耐アブレージョン性、耐アルカリ脱脂性、塗装性等について評価した結果を表2に示した。
尚、上記電気純亜鉛めっき鋼板としては、クロメート処理を施さない電気亜鉛めっき鋼板(Zn付着量20g/m2、板厚0.8mm)を用いた。
【0096】
【表2】

【0097】
鋼板No.6、22〜25は、樹脂水性液が、不揮発性樹脂成分とシリカ粒子の合計100質量部に対して、シランカップリング剤(a)を5〜20質量部、アルコキシシラン(b)を6質量部の比率で含有する場合であるが、いずれの鋼板も、耐食性、耐アルカリ脱脂性、導電性、塗装性、耐アブレージョン性、耐テープ剥離性に優れることがわかる。
これに対して、シランカップリング剤(a)を含有しない鋼板No.21では、耐食性、耐アルカリ脱脂性、塗装性、耐アブレージョン性、耐テープ剥離性が低下した。
また、シランカップリング剤(a)の添加量が多すぎる鋼板No.26、27では、塗装性、耐アブレージョン性、耐テープ剥離性が低下した。
【0098】
実験例3
上記で得たカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂水性液と上記エチレン−アクリル酸共重合体水性分散液と、シリカ粒子とを、不揮発性樹脂成分が30質量部、シリカ粒子が70質量部の合計100質量部となるように配合し、この合計100質量部に対して、さらにシランカップリング剤として、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、「KBM−403」)を12質量部、アルコキシシランとしてヘキシルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、「KBM−3063」)を0〜20質量部添加して樹脂水性液を調製した。尚、シリカ粒子としては、日産化学工業社製、「スノーテックスXS(平均粒子径(BET法)4〜6nm)」を用い、不揮発性樹脂成分中のエチレン−不飽和カルボン酸共重合体(EC)とカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂(PU)との配合比率は質量比で、EC:PU=70:30とした。
この樹脂水性液を電気純亜鉛めっき鋼板の表面に絞りロールにて塗布し、板温90℃で加熱乾燥して、付着量0.5g/m2の樹脂皮膜が形成された表面処理金属板(樹脂塗装鋼板)を得た。得られた樹脂塗装鋼板について、樹脂皮膜の組成、耐食性、導電性、耐アブレージョン性、耐アルカリ脱脂性、塗装性等について評価した結果を表3に示した。
尚、上記電気純亜鉛めっき鋼板としては、クロメート処理を施さない電気亜鉛めっき鋼板(Zn付着量20g/m2、板厚0.8mm)を用いた。
【0099】
【表3】

【0100】
鋼板No.6、29〜33は、樹脂水性液が、不揮発性樹脂成分とシリカ粒子の合計100質量部に対して、シランカップリング剤(a)を12質量部、アルコキシシラン(b)を1〜14質量部の比率で含有する場合であるが、いずれの鋼板も、耐食性、耐アルカリ脱脂性、導電性、塗装性、耐アブレージョン性、耐テープ剥離性に優れることがわかる。
これに対して、アルコキシシラン(b)を含有しない鋼板No.28では、耐食性、耐アルカリ脱脂性が低下した。
また、アルコキシシラン(b)の添加量が多すぎる鋼板No.34、35では、耐食性、耐アルカリ脱脂性、塗装性、耐アブレージョン性、耐テープ剥離性が低下した。
【0101】
実験例4
上記で得たポリウレタン樹脂水性液と上記エチレン−アクリル酸共重合体水性分散液と平均粒子径が4〜100nmのシリカ粒子(日産化学社製、「スノーテックス」シリーズ)とを、不揮発性樹脂成分が30質量部、シリカ粒子が70質量部の合計100質量部配合し、この合計100質量部に対して、さらにシランカップリング剤として、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、「KBM−403」)を12質量部、アルコキシシランとしてヘキシルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、「KBM−3063」)を6質量部添加して樹脂水性液を調製した。尚、不揮発性樹脂成分中のエチレン−不飽和カルボン酸共重合体(EC)とカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂(PU)との配合比率は質量比で、EC:PU=70:30とした。
この樹脂水性液を電気純亜鉛めっき鋼板の表面に絞りロールにて塗布し、板温90℃で加熱乾燥して、付着量0.5g/m2の樹脂皮膜が形成された表面処理金属板(樹脂塗装鋼板)を得た。得られた樹脂塗装鋼板について、樹脂皮膜の組成、耐食性、導電性、耐アブレージョン性、耐アルカリ脱脂性、塗装性等について評価した結果を表4に示した。
尚、上記電気純亜鉛めっき鋼板としては、クロメート処理を施さない電気亜鉛めっき鋼板(Zn付着量20g/m2、板厚0.8mm)を用いた。
【0102】
【表4】

【0103】
鋼板No.36、37は、シリカ粒子の平均粒子径が4〜6nm又は10〜20nmの場合であるが、いずれの鋼板も、耐食性、耐アルカリ脱脂性、導電性、塗装性、耐アブレージョン性、耐テープ剥離性に優れることがわかる。
これに対して、シリカ粒子の平均粒子径が40〜60nm又は70〜100nmである鋼板No.38、39では、耐アルカリ脱脂性、導電性、塗装性、耐アブレージョン性、耐テープ剥離性が低下した。
【0104】
実験例5
上記で得たポリウレタン樹脂水性液と上記エチレン−アクリル酸共重合体水性分散液と、シリカ粒子(日産化学社製、「スノーテックス XS」、平均粒子径(BET法)4〜6nm)とを、不揮発性樹脂成分が30質量部、シリカ粒子が70質量部の合計100質量部配合し、この合計100質量部に対して、さらに表5に示すシランカップリング剤を12質量部、アルコキシシランとしてヘキシルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、「KBM−3063」)を6質量部添加して樹脂水性液を調製した。尚、不揮発性樹脂成分中のエチレン−不飽和カルボン酸共重合体(EC)とカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂(PU)との配合比率は質量比で、EC:PU=70:30とした。
この樹脂水性液を電気純亜鉛めっき鋼板の表面に絞りロールにて塗布し、板温90℃で加熱乾燥して、付着量0.5g/m2の樹脂皮膜が形成された表面処理金属板(樹脂塗装鋼板)を得た。得られた樹脂塗装鋼板について、樹脂皮膜の組成、耐食性、導電性、耐アブレージョン性、耐アルカリ脱脂性、塗装性等について評価した結果を表5に示した。
尚、上記電気純亜鉛めっき鋼板としては、クロメート処理を施さない電気亜鉛めっき鋼板(Zn付着量20g/m2、板厚0.8mm)を用いた。
【0105】
【表5】

【0106】
表5に示すように、式(a)で表されるシランカップリング剤以外の化合物を用いた鋼板No.42〜44では、樹脂水性液の安定性が悪く、樹脂皮膜を形成できなかった。
【0107】
実験例6
上記で得たポリウレタン樹脂水性液と上記エチレン−アクリル酸共重合体水性分散液と、シリカ粒子(日産化学社製、「スノーテックス XS」、平均粒子径(BET法)4〜6nm)とを、不揮発性樹脂成分が30質量部、シリカ粒子が70質量部の合計100質量部配合し、この合計100質量部に対して、さらにシランカップリング剤として、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、「KBM−403」)を12質量部、表6に示すアルコキシシランを6質量部添加して樹脂水性液を調製した。尚、不揮発性樹脂成分中のエチレン−不飽和カルボン酸共重合体(EC)とカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂(PU)との配合比率は質量比で、EC:PU=70:30とした。
この樹脂水性液を電気純亜鉛めっき鋼板の表面に絞りロールにて塗布し、板温90℃で加熱乾燥して、付着量0.5g/m2の樹脂皮膜が形成された表面処理金属板(樹脂塗装鋼板)を得た。得られた樹脂塗装鋼板について、樹脂皮膜の組成、耐食性、導電性、耐アブレージョン性、耐アルカリ脱脂性、塗装性等について評価した結果を表6に示した。
尚、上記電気純亜鉛めっき鋼板としては、クロメート処理を施さない電気亜鉛めっき鋼板(Zn付着量20g/m2、板厚0.8mm)を用いた。
【0108】
【表6】

【0109】
表6に示すように、アルキル基の炭素数が1、2であるアルコキシシランを用いた鋼板No.45、46では、樹脂水性液の安定性が悪く、樹脂皮膜を形成できなかった。また、アルキル基の炭素数が3、4であるアルコキシシランを用いた鋼板No.47、48では、耐テープ剥離性が悪かった。一方、アルキル基の炭素数が8、10であるアルコキシシランを用いた鋼板No.50、51では、アルコキシシランの樹脂水性液への溶解性が悪く、樹脂水性液を調製できなかった。
【0110】
実験例7
上記で得たポリウレタン樹脂水性液と上記エチレン−アクリル酸共重合体水性分散液と、シリカ粒子(日産化学社製、「スノーテックス XS」、平均粒子径(BET法)4〜6nm)とを、不揮発性樹脂成分が30質量部、シリカ粒子が70質量部の合計100質量部配合し、この合計100質量部に対して、さらにシランカップリング剤として、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、「KBM−403」)を12質量部、アルコキシシランとしてヘキシルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、「KBM−3063」)を6質量部添加して樹脂水性液を調製した。尚、不揮発性樹脂成分中のエチレン−不飽和カルボン酸共重合体(EC)とカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂(PU)との配合比率は質量比で、EC:PU=70:30とした。
この樹脂水性液を電気純亜鉛めっき鋼板の表面に絞りロールにて塗布し、板温90℃で加熱乾燥して、ロールの絞り圧を変更することにより付着量0.05〜2.0g/m2の樹脂皮膜が形成された表面処理金属板(樹脂塗装鋼板)を得た。得られた樹脂塗装鋼板について、樹脂皮膜の組成、耐食性、導電性、耐アブレージョン性、耐アルカリ脱脂性、塗装性等について評価した結果を表7に示した。
尚、上記電気純亜鉛めっき鋼板としては、クロメート処理を施さない電気亜鉛めっき鋼板(Zn付着量20g/m2、板厚0.8mm)を用いた。
【0111】
【表7】

【0112】
表7に示すように、金属板上の樹脂皮膜の付着量が0.05〜1g/m2の範囲であれば、耐食性、耐アルカリ脱脂性、導電性、塗装性、耐アブレージョン性、耐テープ剥離性に優れた表面処理金属板が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明の表面処理金属板は、耐食性、耐アルカリ脱脂性、導電性、塗装性(塗膜密着性)、耐アブレージョン性、耐テープ剥離性に優れるため、自動車、家電製品、建材等に好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板と、該金属板の少なくとも片面に形成された樹脂水性液から得られる樹脂皮膜を備える表面処理金属板であって、
前記樹脂水性液は、不揮発性樹脂成分20〜45質量部、及び、平均粒子径が4〜20nmのシリカ粒子55〜80質量部を合計で100質量部になるように含有し、
前記不揮発性樹脂成分として、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液の不揮発性樹脂成分(EC)とカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂水性液の不揮発性樹脂成分(PU)とを含有し、これらの配合比率が、質量比でEC:PU=90:10〜40:60であり、
さらに、前記不揮発性樹脂成分とシリカ粒子との合計100質量部に対して、式(a)で表されるシランカップリング剤を5〜20質量部と、式(b)で表されるアルコキシシランを1〜14質量部含有することを特徴とする表面処理金属板。
【化1】

[式(a)中、R1、R2はアルコキシ基、R3はアルコキシ基又は炭素数1〜4のアルキル基、Xは炭素数1〜5のアルキレン基を表す。]
【化2】

[式(b)中、R4、R5、R6はアルコキシ基、R7は炭素数5〜7のアルキル基を表す。]
【請求項2】
前記式(b)で表されるアルコキシシランが、ヘキシルトリメトキシシランである請求項1に記載の表面処理金属板。
【請求項3】
前記樹脂皮膜の付着量が、0.05〜1g/m2である請求項1又は2に記載の表面処理金属板。

【公開番号】特開2013−108126(P2013−108126A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252999(P2011−252999)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】