説明

耐食性及び耐黒変性に優れたリン酸塩処理亜鉛めっき鋼板

【要 約】
【課 題】 耐食性と耐黒変性に優れたリン酸塩処理亜鉛めっき鋼板を提案する。
【解決手段】 鋼板表面に、10質量ppm以上かつ固溶限界以下のNiを含有するη相単相からなる亜鉛めっき層と該亜鉛めっき層の上層としてMgを0.1質量%以上2.0質量%未満含有するリン酸塩処理層を形成する。これにより、シーリング処理を行なうことなく、耐食性と耐黒変性が顕著に向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建材用や家電用等に好適な表面処理鋼板に係り、特に、塗装用下地鋼板として好適なリン酸塩処理亜鉛めっき鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
建材、家電製品等の使途で耐食性を要求される部位には、亜鉛めっきや亜鉛合金めっきなどの表面処理を施された亜鉛系めっき鋼板が使用されている。これら亜鉛系めっき鋼板はそのままで使用されることは少なく、通常は塗装を施されて使用されている。塗装を施す際には、前処理として、リン酸塩処理、クロメート処理等の化成処理が施されている。
【0003】
リン酸塩処理は、リン酸イオンを含有した酸性溶液と亜鉛系めっき鋼板とを接触させ、反応させてリン酸亜鉛を主成分とする結晶性皮膜をめっき表面に形成させる処理であり、塗膜との密着性を向上させ、各種塗装に対して安定した塗装下地性能を有する。このため、リン酸塩処理を施された亜鉛系めっき鋼板は、建材用、家電用等の塗装用下地鋼板として幅広く使用されてきた。
【0004】
しかし、リン酸塩処理単独では耐食性が不足するため、通常、リン酸塩処理後に「シーリング処理」と称する封孔処理が施されてきた。この封孔処理は、スプレー、浸漬等の方法で6価クロム含有水溶液を鋼板と接触させ、その後水洗せずに乾燥する処理であり、この処理により耐食性が向上する。しかし、6価クロムが環境規制物質であることから、この6価クロム含有水溶液を使用する「シーリング処理」に代わる、リン酸塩処理皮膜の耐食性向上対策が要望されていた。
【0005】
このような要望に対し、例えば特許文献1には、亜鉛系めっき層面に、結晶質のリン酸塩系の化成処理皮膜層と、さらにその上に非晶質のリン酸系皮膜を有する耐食性に優れた表面処理鋼板が提案されている。また、特許文献2には、亜鉛含有めっき鋼板の表面に、リン酸亜鉛処理皮膜を有し、その上層に、銅化合物と、チタン化合物及びジルコン化合物の中から選ばれた少なくとも1種の金属化合物と、あるいはさらにビスフェノールAとアミン類とホルムアルデヒドとの重縮合樹脂化合物と、水とを含む液状組成物を塗布、乾燥させて得られたシーリング処理皮膜を有する耐食性および塗料密着性に優れた非クロム系リン酸亜鉛処理鋼板が提案されている。特許文献1、特許文献2に記載された技術は、クロムを全く使用しないシーリング処理である。
【0006】
また、特許文献3には、金属材料表面にZn系めっき層が形成され、さらに該めっき層上に0.1重量%以上望ましくは5重量%以下のMgを含有するリン酸塩系化合物からなる皮膜が形成されている表面処理鋼板が提案されている。特許文献3に記載された技術では、リン酸塩皮膜中に0.1重量%以上のMgを含有させることで、耐食性が向上するとしている。また、特許文献4には、リン酸亜鉛皮膜が、Mgを2%以上、Ni、Co、Cuから選ばれた1種以上の元素を0.01〜1%含有し,付着量が0.7g/m以上である耐食性および色調に優れたリン酸亜鉛処理亜鉛系めっき鋼板が提案されている。
【特許文献1】特開2000-313967号公報
【特許文献2】特開2004−143475号公報
【特許文献3】特開平1−312081号公報
【特許文献4】特開2002−285346号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1,2に記載された技術は、クロムを全く使用しないシーリング処理であるが、いずれも、最上層皮膜を形成する工程において、水溶性の薬液を塗布し、さらに加熱焼付けすることが必要であり、既存のリン酸塩処理亜鉛めっき鋼板の製造設備に加えて、新たにこれらの薬液を塗布するためのコーティング設備および焼付設備が必要となり製造コストの高騰を招くという経済的な問題を残していた。
【0008】
一方、特許文献3、特許文献4に記載された技術では、シーリング処理無しで、リン酸塩処理皮膜そのものの耐食性を向上できるとしている。しかし、特許文献3に記載された技術では、上層皮膜にMgを含有するため、高温多湿環境下に晒された場合に表面が黒く変色する場合があり、耐黒変性が劣化するという問題があった。また、特許文献4に記載された技術では、リン酸亜鉛皮膜中にMgを多量に含有することで高温多湿環境下に晒された場合に表面が黒く変色する場合があり耐黒変性が劣化するとともに、リン酸亜鉛皮膜にNi、Co、Cuを高濃度に含むことでリン酸亜鉛皮膜の色調が暗くなるという問題があった。
【0009】
本発明は、このような従来技術の問題に鑑み、クロムを使用するシーリング処理を行うことなく、従来のシーリング処理材と同等の耐食性を有し、しかも耐黒変性に優れたリン酸塩処理亜鉛めっき鋼板を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記した課題を達成するため、リン酸塩処理亜鉛めっき鋼板の耐食性および耐黒変性に影響する要因について鋭意検討した。その結果、鋼板表面に所定量のNiを含有するη相単相からなる亜鉛めっき層を形成し、引き続き、亜鉛めっき層の上層として所定範囲のMgを含有するリン酸塩処理層を形成することにより、シーリング処理を必要とすることなく、耐食性及び耐黒変性がともに優れたリン酸塩処理亜鉛めっき鋼板とすることができることを見出した。
【0011】
本発明は、上記した知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明は、鋼板の少なくとも一方の面に亜鉛めっき層と該亜鉛めっき層の上層としてリン酸塩処理層を有するリン酸塩処理亜鉛めっき鋼板であって、前記亜鉛めっき層が10 質量 ppm以上かつ固溶限界以下のNiを含有するη相単相であり、前記リン酸塩処理層がMgを0.1質量%以上2.0質量%未満含有することを特徴とする、耐食性及び耐黒変性に優れたリン酸塩処理亜鉛めっき鋼板であり、また本発明では、前記亜鉛めっき層の付着量が、1g/m以上100g/m以下であることが好ましく、また本発明では前記リン酸塩処理層の付着物全体の付着量が0.2g/m以上3g/m以下であることが好ましい。また本発明のリン酸塩処理亜鉛めっき鋼板の製造方法は、鋼板に、鋼板の少なくとも一方の面に亜鉛めっき層を形成する亜鉛めっき処理工程と、該亜鉛めっき処理工程で形成された亜鉛めっき層の上層として、リン酸塩処理層を形成するリン酸塩処理工程とを順次施すリン酸塩処理亜鉛めっき鋼板の製造方法において、前記亜鉛めっき工程が所定量のNi源を添加した亜鉛めっき液を使用し、10 質量 ppm以上固溶限界以下のNiを含有するη相単相の亜鉛めっき層を形成する工程であり、前記リン酸塩処理工程がMgイオン濃度とZnイオン濃度の比、Mg2+/Zn2+ が0.05超えを満足するリン酸塩処理液を用い、前記亜鉛めっき工程を施された鋼板を該リン酸塩処理液中に浸漬又は該鋼板に該リン酸塩処理液をスプレーして、前記亜鉛めっき層の上層としてMgを0.1質量%以上2.0質量%未満含有するリン酸塩処理層を形成する工程であることを特徴とするリン酸塩処理亜鉛めっき鋼板の製造方法とすることが好ましい。また本発明では前記Mgイオンが、硝酸Mgの添加によるものであることが好ましく、また本発明では、前記亜鉛めっき工程が電気亜鉛めっき工程であることが好ましく、また、本発明では、前記亜鉛めっき層の付着物全体の付着量が、1g/m以上100g/m以下であることが好ましく、また、本発明では前記リン酸塩処理層の付着量が0.2g/m以上3g/m以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、シーリング処理を行うことなく、従来のリン酸塩処理亜鉛めっき鋼板と同等以上の耐食性を有し、しかも同等の耐黒変性を有するリン酸塩処理亜鉛めっき鋼板を容易にしかも安価に製造でき、産業上格段の効果を奏する。また、本発明によれば、環境への悪影響を防止して、リン酸塩処理亜鉛めっき鋼板を製造できるという効果もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のリン酸塩処理亜鉛めっき鋼板は、基板である鋼板の少なくとも一方の面に亜鉛めっき層と該亜鉛めっき層の上層としてリン酸塩処理層を有する。基板とする鋼板は、亜鉛系めっき鋼板として適用できる鋼板であればよく、とくにその種類は限定されない。用途に応じ適宜選択すればよい。
【0014】
本発明では、基板である鋼板の少なくとも一方の面に形成される亜鉛めっき層は、結晶構造がη相である単相、すなわち純亜鉛めっき層とする。本発明ではこのη相に、Niを10 質量 ppm以上かつ固溶限界以下固溶させる。これにより、リン酸塩処理亜鉛めっき鋼板の耐黒変性が向上する。亜鉛めっき層中のNi含有量が、10 質量 ppm未満では、上層にMgを含有するリン酸塩処理皮膜を形成した場合、とくに高温多湿環境下で発生する黒変を防止することができない。なお、亜鉛めっき層中に含有するNi量が高いほど、黒変防止の効果が確実になるため、亜鉛めっき層中のNi含有量は好ましくは50質量ppm以上、より好ましくは100質量ppm以上とすることが望ましい。一方、亜鉛めっき層中のNi含有量が、η相へのNi固溶限界を超えると、δNi-Zn相やγNi-Zn相が析出し、上層のリン酸塩処理層に外観むらが生じる。この原因は現在までのところ明確になっていないが、下地の亜鉛めっき層の相構造の変化によって、リン酸亜鉛の析出状態が不均一になるためと推定される。なお、η相へのNi固溶限界とは、X線回析によって亜鉛めっき層にη相以外の相が検出されない上限のNi含有量を意味する。
【0015】
このようなことから、本発明では、亜鉛めっき層中のNi含有量は10質量ppm以上固溶限界以下に限定した。なお、固溶限界は、電気亜鉛めっきの場合、めっき浴組成、電解条件等により変化することから、亜鉛めっき層中のNi含有量の上限は一概には定義できないが、めっき浴組成、電解条件等を調整し、通常は5質量%未満、望ましくは1質量%未満、より好ましくは0.1質量%以下に制御することが好ましい。
【0016】
また、亜鉛めっき層の付着量は、用途に応じて適宜選択できるが、耐食性の観点から1g/m以上とすることが好ましい。しかし、付着量が100g/mを超えると耐めっき剥離性が低下する。なお、より好ましくは5g/m以上、70g/m以下である。
【0017】
本発明のリン酸塩処理亜鉛めっき鋼板は、上記した亜鉛めっき層の上層として、Mgを0.1質量%以上2.0質量%未満含有するリン酸塩処理層を有する。リン酸塩処理層中にMgを含有することにより、塩水噴霧試験において白錆が発生するまでの時間を遅延させることが可能となり、シーリング処理を施すことなくリン酸塩処理亜鉛めっき鋼板の耐食性を向上させることができる。リン酸塩処理層中のMg含有量を0.1質量%以上とすることにより、上記した効果が顕著となり、従来のシーリング処理を施したリン酸塩処理亜鉛めっき鋼板の耐食性とほぼ同等の耐食性を、シーリング処理を施すことなく確保することができる。一方、2.0質量%以上のMgを含有しても耐食性の向上効果は飽和するうえ、さらにリン酸塩処理層中のMg含有量が増加するにしたがい、耐黒変性が劣化する傾向となる。このため、リン酸塩処理層中のMg含有量は2.0質量%未満を上限とした。なお、Mgは耐黒変性の観点から1.4質量%以下とすることが好ましく、さらに好ましくは0.5〜1.0質量%である。また、リン酸塩処理層中には、リン酸塩処理液中に含まれる他のカチオン、例えばNi、Mn、Co等が、0.01〜0.4質量%程度であれば不可避的不純物として含有されてもなんら問題はない。
【0018】
また、リン酸塩処理層の付着量は、耐食性及び十分な塗料密着性を確保するために、0.2g/m以上とすることが好ましく、より好ましくは1.0g/m以上、さらに好ましくは1.5g/m以上である。なお、付着量の増加による上記した効果は、3g/m以上では飽和するために、3g/mを上限とすることが好ましい。
【0019】
つぎに、本発明のリン酸塩処理亜鉛めっき鋼板の好ましい製造方法について説明する。本発明では、基板とする鋼板に、まず鋼板の少なくとも一方の面に亜鉛めっき層を形成する亜鉛めっき処理工程と、該亜鉛めっき処理工程で形成された亜鉛めっき層の上層として、リン酸塩処理層を形成するリン酸塩処理工程とを順次施すことが好ましい。
【0020】
なお、前処理として、必要に応じ、電解脱脂、酸洗等および水洗を行い,鋼板表面を清浄化してのち、亜鉛めっき処理工程を行なうことは言うまでもない。
【0021】
亜鉛めっき層の形成手段としては、真空蒸着法、溶融めっき法及び電気めっき法などが例示できるが、本発明のリン酸塩処理亜鉛めっき鋼板製造における亜鉛めっき処理工程においては、電気めっき法を用いることが好ましい。以下、電気めっき法を用いる場合を例として説明する。
【0022】
亜鉛めっき処理工程では、通常のめっき浴組成を用いた電気めっき法がいずれも好適に利用できる。本発明ではこれら通常組成の電気亜鉛めっき浴にNi源を添加しためっき浴を用い、通常の電気めっき設備を利用して、10 質量 ppm以上固溶限界以下のNiを含有するη相単相の亜鉛めっき層を形成する。電気めっき法の場合、一般的に形成されるめっき皮膜の相構造は非平衡状態になり、η相中に含有されるNiも過飽和に固溶することが可能になる。めっき浴組成、電解条件等を調整して固溶状態のNi量を調整することが好ましい。
【0023】
亜鉛めっき浴としては、通常の純亜鉛めっき層を形成する亜鉛めっき浴である、硫酸亜鉛溶液、塩化亜鉛溶液等が、いずれも好適に利用でき、とくに限定する必要はない。また、Ni源としては、亜鉛めっき浴中でNiイオンを生成するものであればよく、とくに限定されないが、硫酸ニッケル、塩化ニッケル等が例示できる。亜鉛めっき層中のNi含有量に応じ、Ni源の添加量を調整して、亜鉛めっき浴中のNi量を調整することが好ましい。また、亜鉛めっき層の付着量、Ni含有量等の条件に応じ、電流密度等の通電条件を調整することはいうまでもない。なお、亜鉛めっき層の付着量は、1〜100g/mの範囲とすることが耐食性、耐めっき剥離性の観点から好ましい。
【0024】
また、リン酸塩処理工程では、Mgを0.1質量%以上2.0質量%未満含有するリン酸塩処理層を形成する。リン酸塩処理層は、亜鉛めっき層とリン酸塩処理液とを、スプレーあるいは浸漬等の常法により接触させて形成することが好ましい。リン酸塩処理層にMgを含有させるために、本発明では、Mgイオン濃度とZnイオン濃度の質量比、Mg2+/Zn2+ が0.05超え、好ましくは5以下を満足するリン酸塩処理液を用いる。なお、リン酸塩処理層中に取り込まれるMg量は、処理液中のMg2+/Zn2+比の他に、処理液中のZn濃度、液温、pH等によっても影響される。前記したMg2+/Zn2+の範囲は、通常の化成処理を行う条件下、例えばZn濃度:0.5〜5g/L、液温:30〜70℃、pH:1.0〜2.5の範囲の場合にとくに好ましい。Mg2+/Zn2+ が0.05以下では、Mgを0.1質量%以上含有するリン酸塩処理層とすることができない場合がある。また、Mg2+/Zn2+ が5を超えて高くなりすぎると、リン酸塩処理層中のMg量が適正範囲を外れる場合がある。リン酸塩処理液中のMg2+/Zn2+を適正レベルとするためには、Mg塩を適正濃度で溶解させる必要がある。このため、Mgと対になるアニオンの選択が重要となる。Mgイオン源として、水酸化Mg、炭酸Mg、硫酸Mgなどを用いた場合には十分な溶解度が得られない傾向がある。塩化Mgは溶解度は十分であるが、Mgイオンと同時に高濃度の塩素イオンがリン酸塩処理液中に混入してリン酸塩皮膜の形成に悪影響を及ぼすことがある。このようなことから、Mgイオン源としては、硝酸Mgが好適である。本発明で使用するリン酸塩処理液としては、亜鉛イオン、リン酸イオンを含有し、さらに促進剤等を含有する市販の処理液、例えば、日本パーカライジング(株)製の商品名「PB3312M」などに、さらに上記したMgイオン源を所定量添加したものが好適に利用できる。また、リン酸塩処理層の付着量は、亜鉛めっき層とリン酸塩処理液との接触時間を制御する常法により0.2〜3.0g/mの範囲に調整することが好ましい。
【0025】
なお、リン酸塩処理工程に先立ち、亜鉛めっき層表面の表面調整処理を行なうことが好ましい。亜鉛めっき層表面の表面調整は、チタンコロイド系活性処理剤を用いてスプレーにより行なうことが好ましい。チタンコロイド系活性処理剤としては、例えば、日本パーカライジング(株)製プレバレンZN(商品名)が例示できる。
つぎに、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0026】
板厚1.0mmの冷延鋼板から、大きさ:210×100mmの試験板を採取した。これら試験板に、まず前処理を施した。前処理は、オルソ珪酸ソーダ(60g/L)添加のアルカリ脱脂液(液温:70℃)中で、対極をステンレス板とし、電流密度:5A/dmで30秒間の電解脱脂と、電解脱脂後水洗を施し、さらに30g/Lの硫酸水溶液(液温:30℃)中に5秒間浸漬して酸洗したのち、水洗する処理とした。この前処理を施した後、試験板に電気亜鉛めっき処理を施し、試験板片面に、付着量:5〜40g/mの亜鉛めっき層を形成した。
【0027】
電気亜鉛めっき処理はつぎのとおりとした。
【0028】
440g/Lの硫酸亜鉛7水和物を添加した亜鉛めっき液を用いて亜鉛めっき浴とした。なお、亜鉛めっき液中に、Ni源として、硫酸ニッケル6水和物を0〜10g/Lの範囲で変化して添加し、亜鉛めっき層中のNi含有量を変化させた。亜鉛めっき液は硫酸を添加してpH:1.5に調整した。なお、亜鉛めっき浴の浴温は50℃とした。
【0029】
電気亜鉛めっき処理は、上記した電気亜鉛めっき浴中で、酸化イリジウム被覆Ti板電極を対極とし、試験板と極間距離10mmで平行に配置し、極間に流速1.5m/sでめっき液を循環させながら、電流密度70A/dm2で通電した。
【0030】
このようにして試験板表面に亜鉛めっき層を形成したのち、水洗し、ついでリン酸塩処理を施した。
【0031】
リン酸塩処理の前処理として、亜鉛めっき層表面に、表面調整剤(日本パーカライジング(株)製:商品名「プレンパレンZ」)による表面調整処理を施した。ついで、亜鉛めっき層に、リン酸亜鉛処理液(日本パーカライジング(株)製:商品名「PB3312M」に硝酸Mgを添加したもの;Zn濃度:3.5g/L、液温:60℃、pH:2.2)をスプレーして接触させ、水洗、乾燥して、亜鉛めっき層の上層としてリン酸塩処理層を形成し、リン酸塩処理亜鉛めっき鋼板(試験板)とした。なお、リン酸塩処理液中に添加するMg源の添加量を変化して、リン酸塩処理層中のMg量を変化させた。また、リン酸塩処理層の付着量はリン酸塩処理液と接触時間を変えて変化させた。
【0032】
また、比較として、Niを添加しない通常の亜鉛めっき浴を用いてNiを含有しない純亜鉛めっき層と、通常のリン酸塩処理液を用いてMgを含有しないリン酸塩処理層を形成しさらに、無水クロム(V1)酸を主成分とする水溶液(日本パーカライジング(株)製:商品名「LN62」)を用いてシーリング処理を施し、リン酸塩処理亜鉛めっき鋼板(試験板)とした(試験板No.26)。なお、シーリング処理なしのリン酸塩処理亜鉛めっき鋼板(試験板)も作製した(試験板No.24)。
【0033】
得られた試験板について、鋼板表面外観、亜鉛めっき層およびリン酸塩処理層の付着量、亜鉛めっき層の相構造、耐食性および耐黒変性について調査した。なお、調査面は、得られた試験板の亜鉛めっき層およびリン酸塩処理層が形成された面とした。調査方法はつぎの通りとした。
(1)鋼板表面外観
鋼板(試験板)の表面外観を目視して、リン酸塩処理後の外観均一性を評価した。評価は、外観均一の場合を○、不均一の場合を×とした。
(2)亜鉛めっき層およびリン酸塩処理層の付着量
亜鉛めっき層中のめっき付着量及びNi含有量は、亜鉛めっき層をJIS H 0401-1999に規定された付着量試験方法に準拠して、ヘキサメチレンテトラミン液に溶解させ、めっき層が溶解した液を、JIS K 0121-1993に規定された電気加熱方式原子吸光分析装置にて分析して求めた。リン酸塩処理層の付着量は重クロム酸アンモニウム水溶液で溶解して重量法で求めた。またリン酸塩処理層中のMg含有量は、リン酸塩処理層を重クロム酸アンモニウム水溶液で溶解し、その溶解液をICP分析(誘起結合プラズマ発光分析)により分析して求めた。
(3)亜鉛めっき層の相構造
亜鉛めっき層をX線回折法により、相構造および固溶限界以下のNi含有量であることを調査した。η相以外のピークの有無で判定した。下地の鋼板に由来するα-Feのピーク及びη-Zn相に由来するピークのみ検出される場合を○、α-Feのピーク及びηZn相由来のピーク以外のピークが出現する場合を×とした。
(4)耐食性
得られた試験板から、試験片(大きさ:100×50mm)を切り出し、試験片の端部及び裏面をテープシールした後、JIS Z 2371-2000の規定に準拠して塩水噴霧試験を実施した。定期的に試験片表面を観察し、試験片の全評価面積に対し白錆発生面積が5%になるまでの時間(白錆発生時間)を調べ、耐食性を評価した。白錆発生時間が、24時間以上である場合を◎、24時間未満8時間以上である場合を○、8時間未満4時間以上である場合を△、4時間未満である場合を×とした。
(5)耐黒変性
得られた試験板から、試験片(大きさ:100×50mm)を切り出し、分光式色差計SQ2000(日本電色製)を用いて、まず、試験片の初期のL値(明度)を測定した。ついで、試験片を、温度80℃、湿度95%RHの恒温恒湿槽中に24時間放置した。放置後、試験片のL値を同様に測定し、L値(初期値)からのL値の変化量ΔLを求めた。ΔLが、−1以上である場合を◎、−1未満−2以上である場合を○、−2未満−4以上である場合を△、−4未満である場合を×として耐黒変性を評価した。
【0034】
得られた結果を表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
本発明例はいずれも、均一な表面外観を示し、さらにシーリング処理を行うことなく、従来のリン酸塩処理鋼板と同等またはそれ以上の耐食性及び同等の耐黒変性を有するリン酸塩処理亜鉛めっき鋼板となっている。一方、本発明の範囲を外れる比較例は、耐食性、耐黒変性、表面外観のうちのいずれかが劣化している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板の少なくとも一方の面に亜鉛めっき層と該亜鉛めっき層の上層としてリン酸塩処理層を有するリン酸塩処理亜鉛めっき鋼板であって、前記亜鉛めっき層が10 質量 ppm以上かつ固溶限界以下のNiを含有するη相単相であり、前記リン酸塩処理層がMgを0.1質量%以上2.0質量%未満含有することを特徴とする、耐食性及び耐黒変性に優れたリン酸塩処理亜鉛めっき鋼板。

【公開番号】特開2006−57149(P2006−57149A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−240782(P2004−240782)
【出願日】平成16年8月20日(2004.8.20)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】