説明

聴診補助具

【課題】装置、機器、配管を含む被聴診体を聴診棒で聴音する際、聴診棒の先端部を安定して保持可能で正確な聴音が行える聴診補助具を提供する。
【解決手段】装置、機器、配管を含む被聴診体40を聴診棒50で聴音する際の聴診点を提供する携帯可能な聴診補助具1であって、携帯可能な大きさで、底面に被聴診体40に取付け取り外し可能な着脱手段を備える、柔軟性を有する基体15を有し、断面が凹状の受部23と該受部23に連結する脚部25とからなる金属製のピン21が前記基体中央部に嵌め込まれ、前記ピン21は、端部29が前記被聴診体40に直接接触する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、装置、機器の作動状態、配管内を流れる流体の流動状態の確認等を聴診棒を用いて行う際に、聴診棒の先端が装置など被聴診体からずれないようにする聴診補助具に関する。
【背景技術】
【0002】
発電所、化学工場などにおいては、多くの機器、装置、配管が有機的に結合され、設備あるいはプラントが構成されている。近年、発電所、化学工場等では計測機器、コンピュータの発達に伴い、運転の自動化が鋭意進められているが、安全な又は安定した運転を行うために装置、機器の稼働状況を確認する現場パトロールも合わせて行われている。
【0003】
現場パトロールでは、通常、パトロール員による目視による観察、臭いの発生の有無などの他、音を聴くことで行われる。装置、機器が正常に稼働しているときは聞こえない音が聞こえれば、装置、機器に異常が発生している可能性が高い。回転機器の軸受部で発生する異常音等は小さいため、通常、聴診棒を用いて聴音される。標準的な聴診棒は、細長い金属製の棒の先端部を円錐状とし、末端部に球形の耳当て部が設けられている。聴診棒で聴音するときは、先端部を聴音する装置、機器に当て、末端部の耳当てを耳に当てて聴音する。
【0004】
聴診棒は、単純な構造で手軽に使用できることから非常に有用な聴音手段であるが、従来から問題点がいくつか指摘されている。聴診棒で聴音するとき、場所、位置の関係から機器等に対して聴診棒を斜めに当てて聴音することが多い。また聴音のときは、振動をしっかりと伝達させるため、聴診棒を機器等に対して押込むような感じで聴音する場合が多い。このため配管、回転機器の軸受部などの円筒部を聴音する場合、円筒部に当てた聴診棒の先端が滑り、聴診棒が円筒部から外れ、拍子に耳を突くことで大きな怪我をする恐れがある。また不安定な体勢で聴音を行うため正確な聴音が行えない。さらに長期の使用により聴診棒の先端部が磨耗し、被聴診体との密着性が損なわれ聴音をうまく行えないという問題がある。聴診棒先端部の磨耗については、これを解決する聴診棒が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−38735号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の聴診棒は、聴診棒の先端部を面取りし、その端面を粗面加工することで被聴診体との密着性を維持している。さらに端部を磁化させることで被聴診体との密着性を高めている。このような聴診棒は、円筒部を聴音する場合、従来の聴診棒に比較し先端部がずれにくく又安定して聴音することができるが、ずれを防止する対策として十分とは言い難い。これらのことから聴診棒で聴音する際、聴診棒の先端部を安定して保持する装置又は方法が待たれている。大きなプラント等では、聴診箇所は非常に多いことから聴診棒の先端部を安定して保持する装置又は方法は、簡便で安価に実施できることが好ましい。
【0007】
本発明の目的は、装置、機器、配管を含む被聴診体を聴診棒で聴音する際、聴診棒の先端部を安定して保持可能で正確な聴音が行える聴診補助具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、装置、機器、配管を含む被聴診体を聴診棒で聴音する際の聴診点を提供する携帯可能な聴診補助具であって、携帯可能な大きさで、裏面に被聴診体に取付け取り外し可能な着脱手段を備える、柔軟性を有する基体を有し、聴診棒の先端部が入り込む凹部を有する金属製のピンが前記基体中央部に嵌め込まれ、前記ピンは、端部が前記被聴診体に直接接触可能なことを特徴とする聴診補助具である。
【0009】
また本発明は、前記発明において、前記ピンは、断面が凹状の受部と該受部に連結する脚部とからなり、前記脚部の端部が前記被聴診体に直接接触可能なことを特徴とする。
【0010】
また本発明は、前記発明において、前記ピンに代え、聴診棒の先端部を前記被聴診体に直接接触させることが可能な貫通孔が前記基体中央部に設けられていることを特徴とする。
【0011】
また本発明は、前記発明において、前記着脱手段が、接着剤、粘着剤、接着シート、粘着シート又は磁石であることを特徴とする。
【0012】
また本発明は、前記発明において、前記基体は、表面が筆記具で筆記可能なことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の聴診補助具は、被聴診体に取付け取り外し可能な着脱手段を備える基体を有し、聴診棒の先端部が入り込む凹部を有する金属製のピンが基体中央部に嵌め込まれ、ピンの端部が被聴診体に直接接触可能なので、これをポンプなど被聴診体に取り付け、前記凹部を聴診点とすることで短時間内に安全かつ正確な聴音が行える。また聴診補助具は、携帯可能な大きさであるのでパトロールの際に携帯し易く、また柔軟性を有するので配管等の曲面にもしっかりと固定し使用することができる。
【0014】
また本発明によれば、前記ピンが、断面が凹状の受部と受部に連結する、端部が被聴診体に直接接触可能な脚部とからなるので、脚部を被聴診体にピンポイントで接触させることが可能となりより正確な聴音ができる。
【0015】
また本発明によれば、前記ピンに代え、聴診棒の先端部を被聴診体に直接接触させることが可能な貫通孔を基体中央部に設けてもよいので、簡単かつ安価に聴診補助具を製造することができる。
【0016】
また本発明によれば、着脱手段として磁石の他に、接着剤、粘着剤、接着シート、粘着シートを用いることもできるので、鋳物など磁石が吸着しない材料からなる装置、機器等にも本発明の聴診補助具を使用することができる。
【0017】
また本発明によれば、基体表面が筆記具で筆記可能なので、聴音した機器等に聴診補助具を取り付けたままとし、さらに基体表面に聴音状況を記載しておくことで、申送り又は注意喚起が可能となり作業効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施形態である聴診補助具1の斜視図である。
【図2】図1の切断面線A―Aから見た断面図である。
【図3】図1の聴診補助具1の使用状態を示す図である。
【図4】本発明の第2実施形態である聴診補助具2の断面図である。
【図5】本発明の第3実施形態である聴診補助具3の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明の第1実施形態である聴診補助具1の斜視図である。また図2は、図1の切断面線A―Aから見た断面図であり、図3は、図1の聴診補助具1を被聴診体40に取り付け聴診棒50で聴音する様子を示す図である。なお本実施形態に示す図1から図5は、必ずしも同一縮尺で描かれてはいない。
【0020】
聴診補助具1は、聴診棒50で装置等を聴音するとき聴診棒50と共に携帯し、装置等の被聴診体40に取り付け、聴診棒の先端部52を安定して保持する聴診点を提供する装置であり、基板11の表面に紙材13が貼付され形成された基体15の中央部に聴診点となるピン21を備える。
【0021】
基板11は、柔軟性を有するゴム磁石からなる矩形形状の板状体である。基板11は柔軟性又は可撓性を有し、ピン21をしっかり固定できることと被聴診体40に取り付け取り外すことができる着脱手段を底面17に備えることが必要である。ゴム磁石は周知のようにNBRなどのゴム材と磁性粉末とが混練、成形されたものであり、ゴム様の柔軟性を備えると共に金属面に対して着脱可能である。基板11は、柔軟性又は可撓性を有し、ピン21を固定することができ、かつ被聴診体40に着脱可能に取り付けることができればよく、ゴム磁石に限定されるものではない。ゴム磁石以外に、柔軟性を有するプラスチック磁石を使用することができる。基板11がゴム磁石、プラスチック磁石の場合、基板本体と着脱手段とが一体的に形成されるが、第2実施形態に示すように柔軟性又は可撓性を有するゴム板又はプラスチック板を基板本体とし、その裏面に着脱手段である接着剤、粘着剤、接着シート、粘着シート又は磁石を貼り付け基板11としてもよい。
【0022】
基板11の端部には、基板11の下半分を削り落した半円状の耳19が形成されている。この耳19は、被聴診体40に取り付けた聴診補助具1を取り外す際に使用する部材であり、聴診補助具1を被聴診体40に取り付けたとき、被聴診体40と耳19との間に隙間ができる。耳19を持ち上げることで被聴診体40に取り付けた聴診補助具1を簡単に取り外すことができる。なお、耳19は、被聴診体40に取り付けた聴診補助具1を取り外す際に使用する部材であるから、このような機能を有していれば、形状等を含め他の形態であってもよい。
【0023】
紙材13は、聴診棒50で聴音したときの被聴診体40の状態を記録しておくための部材であり、鉛筆、ボールペン等の筆記具で筆記可能な通常の紙材であり、基板11の表面全体に貼付されている。紙材13は、聴診棒50で聴音したときの被聴診体40の状態を記録しておくための部材であるから、例えば基板11の表面が、直接筆記可能に形成されている場合は、紙材13はなくてもよい。
【0024】
基体15の大きさは、ピン21をしっかりと固定できる大きさであればよく、特定の大きさに限定されるものではない。必要以上に大きくすると被聴診体40の大きさが小さい場合にうまく取り付けることができない。一方、極端に小さいと紙材13にメモ等を書くことができない。また聴診補助具1は、聴診の際に携帯するためポケットに入る大きさが好ましい。大きさを例示すれば、縦70mm、横50mm、厚さ5mm程度の大きさである。
【0025】
ピン21は、聴診棒50の聴診点となる部材であり、基体15の中央部に埋め込まれ固定されている。ピン21は断面凹状の受部23と受部23の下方に位置する脚部25とからなり、これらが一体的に形成されている。ピン21は、黄銅製であるが、これに限定されるものではなく、振動を減衰させることなく聴診棒50に伝達可能な材料、例えばステンレス鋼材などの金属材を好適に使用することができる。
【0026】
受部23は、聴診棒の先端部52が入り込む部分であり、断面形状を凹部27とすることで聴診棒の先端部52がしっかりと引っ掛り、これにより聴診棒の先端部52がはずれることなく安定的に保持される。受部23の大きさ及び凹部27の深さは、聴診棒の先端部52が入り、これを安定的に保持できる大きさであればよく、必要以上に大きくする必要はない。なお、聴診棒50の直径は通常10mm程度であり、先端部52は、円錐状に尖っているものが多いが、球状、平面状のものもある。
【0027】
脚部25は、端部29が被聴診体40に接触し、被聴診体40の振動を受部23に伝達する。このため脚部25の端部29は、基体(基板)の底面17から僅かに(図1中δ)突出するように取り付けられている。脚部の端部29を基体の底面17と面一としてもよいが、脚部の端部29を基体の底面17から僅かに突出させることで確実に脚部25を被聴診体40と接触させることができる。脚部25の大きさは、特に限定されないが、脚部の端部29を細くすることで被聴診体40にピンポイントで接触させることができる。上記のようにピン21を受部23と脚部25とで構成することでより正確な聴音が可能となる。
【0028】
本実施形態では、ピン21の高さと基体15の厚さとがほぼ同じであり、ピン21全体が基体15に埋め込まれているが、ピン21が基体15にぐらつくことなくしっかりと固定されていれば、必ずしもピン21全体が基体15に埋め込まれている必要はなく、例えば脚部25のみ基体15に埋め込み、受部23を基体15から突出させてもよい。
【0029】
聴診補助具1を使用するときは、図3に示すように聴診したい装置等の被聴診体40上に聴診補助具1を置き、軽く押えれば聴診補助具1は磁力で簡単に被聴診体40に吸着される。聴診補助具1は、基体15が柔軟性を有するので、被聴診体40が曲面であっても隙間なく取り付き、ピン21の端部29が確実に被聴診体40に接触する。この状態で受部23に聴診棒の先端部52を入れて聴音すれば、聴診棒の先端部52の位置が安定し無理なく正確な聴音ができる。
【0030】
図4は、本発明の第2実施形態である聴診補助具2の断面図である。第1実施形態に示す聴診補助具1と同一の構成には、同一の符号を付して説明を省略する。以下、第1実施形態の聴診補助具1と異なる部分を中心に説明する。聴診補助具2は、聴診補助具1と同様、聴診棒50で装置等を聴診するとき聴診棒50と共に携帯し、装置等の被聴診体40に取り付け、聴診棒の先端部52を安定して保持する聴診点を提供する装置であり、基板11の表面に紙材13が貼付され形成された基体15の中央部に聴診点となる貫通孔31を備える。
【0031】
基板11は、柔軟性を有する矩形形状のプラスチック製の基板本体12と基板本体12の底面に貼付された粘着シート14からなる。耳19は基板本体12の端部に基体本体12の下半分を削り落し形成されている。基板本体12は、プラスチック板の他、柔軟性又は可撓性を有するゴム板を使用することができる。粘着シート14は、金属面等に着脱可能な公知の粘着シートを使用することができる。粘着シート14は、聴診補助具2を被聴診体40に着脱可能に取り付けるためのものであるから、粘着シート14に代え、接着剤、粘着剤、接着シート又は磁石を使用してもよい。さらに第1実施形態の聴診補助具1と同様に、基板11に柔軟性を有するゴム磁石又はプラスチック磁石を使用することができる。
【0032】
貫通孔31は、第1実施形態のピン21に代わる聴診点であり、基体15の中央部に基体15の表面から裏面を貫通する形で設けられている。貫通孔31の大きさは、聴診棒50を傾斜させた状態で聴診棒の先端部52を被聴診体40に直接接触できる大きさがあればよく、必要以上に大きくする必要はない。
【0033】
聴診補助具2を使用するときは、被聴診体40に取り付け、貫通孔31に聴診棒50を差し込み、聴診棒の先端部52を直接、被聴診体40に接触させ聴音する。このとき、貫通孔31の側面33が聴診棒50の移動を阻止するので、聴診棒の先端部52の位置が安定し、短時間内に正確な聴音を行うことができる。
【0034】
図5は、本発明の第3実施形態である聴診補助具3の断面図である。第1実施形態及び第2実施形態に示す聴診補助具1、2と同一の構成には、同一の符号を付して説明を省略する。聴診補助具3は、聴診補助具2と基本的構成は同じであるが、基体15の形状が若干異なる。
【0035】
基板11は、第2実施形態の基板11に比較すると薄く、貫通孔31の周縁部35のみ厚さが厚くなっている。基板11の厚さを薄くすることで、柔軟性又は可撓性がより向上し、曲率半径の小さい配管等に対しても隙間なくしっかりと固定することができる。また貫通孔31の周縁部35の厚さを厚くすることで、聴診棒50のぐらつきを防止し、聴診棒50を安定的に保持することができる。なお、貫通孔31の周縁部35の盛り上がり部分を別部材とし、基板11にこれを貼り付けるようにしてもよい。
【0036】
上記実施形態を用いて説明したように本発明の聴診補助具1、2、3は構造が簡単でありながら、聴診棒50による聴音を安定的になさしめることができる非常に実用的な装置と言える。聴診補助具1、2、3と聴診棒50との組合せは特に限定されず、例えば第1実施形態に示す聴診補助具1に対して、先端部52が球状又は平らな聴診棒50を使用できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0037】
1、2、3 聴診補助具
11 基板
12 基板本体
13 紙材
14 粘着シート
15 基体
17 基体の底面
19 耳
21 ピン
23 受部
25 脚部
27 凹部
29 脚部の端部
31 貫通孔
33 貫通孔の側面
35 貫通孔の周縁部
40 被聴診体
50 聴診棒
52 聴診棒の先端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置、機器、配管を含む被聴診体を聴診棒で聴音する際の聴診点を提供する携帯可能な聴診補助具であって、
携帯可能な大きさで、裏面に被聴診体に取付け取り外し可能な着脱手段を備える、柔軟性を有する基体を有し、聴診棒の先端部が入り込む凹部を有する金属製のピンが前記基体中央部に嵌め込まれ、前記ピンは、端部が前記被聴診体に直接接触可能なことを特徴とする聴診補助具。
【請求項2】
前記ピンは、断面が凹状の受部と該受部に連結する脚部とからなり、前記脚部の端部が前記被聴診体に直接接触可能なことを特徴とする請求項1に記載の聴診補助具。
【請求項3】
前記ピンに代え、聴診棒の先端部を前記被聴診体に直接接触させることが可能な貫通孔が前記基体中央部に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の聴診補助具。
【請求項4】
前記着脱手段が、接着剤、粘着剤、接着シート、粘着シート又は磁石であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1に記載の聴診補助具。
【請求項5】
前記基体は、表面が筆記具で筆記可能なことを特徴とする請求項1から4のいずれか1に記載の聴診補助具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−47649(P2012−47649A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−191593(P2010−191593)
【出願日】平成22年8月28日(2010.8.28)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】