説明

肌荒れ改善皮膚外用剤

【課題】肌荒れ改善効果を有し、敏感肌、肌のかさつき、乾燥による炎症を防止し得る皮膚外用剤を提供する。
【解決の手段】
タラノキ及びその類縁植物の粉末もしくは抽出物又は抽出画分及び/又はサポニン画分より選ばれる1種又は2種以上を有効成分として含有することを特徴とする肌荒れ改善皮膚外用剤。本発明の肌荒れ改善皮膚外用剤は、角化細胞内でのアポトーシスを抑制し、炎症反応を伴う敏感肌、肌のかさつき、乾燥を改善することが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚を構成する細胞のアポトーシス亢進に起因する肌荒れ、炎症、敏感肌、湿疹の予防および/または改善する皮膚外用剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プログラムされた細胞死とも言われるアポトーシスは元来形態学的に定義された概念であり、細胞壊死(ネクローシス)と対照的な細胞死の様式である。アポトーシスの誘導メカニズムとしては、細胞障害性T細胞やNK細胞によるFas分子とFasリガンド(FasL)の結合を介した経路やパフォーリンおよびグランザイムを介した経路など種々の機構が明らかとなりつつある。[Nagata S.,Cell,88,355−365(1997) ;Ashkenazi A.and Dixit V.M.,Science,281,1305−1308(1998) ;Nagata S.,Annu.Rev.Genetics,33,29−55(1999) ;Pinkoski M.J.and Green D.R.,Curr.Opin.Hematol.,9,43−49(2002)]。
【0003】
アポトーシスに陥った細胞は収縮し、核が凝集して断片化する。断片化した核は細胞膜に包まれたアポトーシス小体を形成し、これは食細胞により処理される。この過程は一連の遺伝子により制御され、エネルギーを消費し能動的に遂行される。ネクローシスと異なり原則的に炎症を惹起しないという性質より、生体内の細胞環境のホメオスターシスを維持する重要なメカニズムであると考えられてきた。しかしながら最近、アポトーシスを司るカスパーゼの一部が炎症をはじめとする病変の発症・進展に関与することが示されている[Daemen M.A.et al.,Clin.Invest.,104,541−549(1999) ;Miwa K.et al.,At.Mod.,4,1287,761−767(1998)]。
【0004】
従って、アポトーシスの抑制によりある種の炎症性反応に対して改善効果が期待される。事実、FasL中和抗体が実験的炎症性肺線維症や炎症性腸疾患モデル動物に対して優れた治療効果を有することが報告されており[Via C.S.et al.,J.Immunol.,157,5387−5393(1996) ;Miwa K.et al.,Int.Immunol.,11,925−931(1999) ;Kuwano K.et al.,J.Clin.Invest.,104,13−19(1999)]、アポトーシス抑制剤は各種炎症性疾患での症状、病態、組織障害の予防もしくは治療において優れた効果が期待されている。
【0005】
皮膚においては、急性および慢性炎症時に皮膚に浸潤したリンパ球の産生するIFN−γの作用により角質細胞上のFas分子の発現が著明に誘導され、リンパ球の発現するFasLとの反応によってアポトーシスを引き起こすことが明らかとされている[Trautmann A.et al.,J.Clin.Invest.,106,25−35(2000) ;Takahashi H.et al.,J.Invest.Dermatol.,105,810−815(1995) ;Moers C.et al.,Int.J.Cancer,80,564−572(1999)]。また、角質細胞は互いにデスモソームと呼ばれる結合装置で強く結合されており、角質細胞のアポトーシスによってスポンジ様の水泡形成を引き起こし、海綿状態(spongiosis)と呼ばれる特徴的な病理変化をもたらして湿疹症状を呈すると考えられる[Trautmann A.et al.,J.Allergy Clin.Immunol.,108,839−846(2001)]。
【0006】
こうしたアポトーシスによる表皮のバリア機能傷害は、外界からの様々な刺激物質の生体内への進入を容易にし、さらなる炎症反応を惹起させ症状悪化を招く要因となるものと考えられる。加えて、表皮に傷害を生じると角質細胞のターンオーバーが促進されるが、慢性的炎症状態ではそのターンオーバーの規則性が失われ、未分化な角質層を形成しやすい。このような未分化な角質細胞上では、保湿性の水溶性アミノ酸の産生が低下し皮膚の保湿能が失われやすくなることから乾燥肌傾向を呈すると推測され、知覚異常などの敏感肌になると考えられている[Fragrance Journal,vol.10(2002) ;田上八郎,皮膚の医学,中公新書(1999)]。
【0007】
これらのことから、皮膚角質細胞のFas介在性アポトーシスの抑制は、角質細胞のターンオーバーを正常化し、炎症症状の抑制とともに乾燥肌や敏感肌等の種々の症状を伴う皮膚異常の予防や改善につながると考えられる。抗アポトーシス物質としては、FasL中和抗体の他、カスパーゼ系を阻害するZ−VAD−FMKなどのような基質アナログの例が知られ、各種の合成ペプチドが研究用試薬として市販されている。これらは蛋白あるいはペプチド類であるため、安全性、すなわち作用および副作用の観点から問題を有し、人体への投与においては安全な作用を発現するに至らないのが現状である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、皮膚を構成する細胞の新陳代謝、すなわちアポトーシスと細胞新生のバランスを正常化し、皮膚を構成する細胞のアポトーシスの亢進に起因する皮膚疾患、症状、病態、組織障害の予防もしくは改善する皮膚外用剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明においては、タラノキ及びその類縁植物の粉末もしくは抽出物等及び/又はサポニン画分より選択した1種以上を皮膚外用剤基剤に含有させることにより、上記課題を解決した。以下に、本発明に関して詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の肌荒れ改善皮膚外用剤は、上記したようにタラノキ及びその類縁植物の粉末もしくは抽出物又は抽出成分及び/又はサポニン画分から選択した1種又は2種以上を含有して構成される。
【0011】
本発明において用いるサポニン画分は、タラノキから抽出したものであることが好ましい。抽出物より濃縮、精製したものを用いることもできる。
【0012】
上記生薬の粉末化や抽出は常法によって行うことができる。抽出は、例えば上記生薬を乾燥して刻み、または粉末状にして抽出溶媒を加え、冷浸または加熱することによって行うことが出来る。抽出溶媒としては、水、エタノール、1,3−ブタンジオール、イソプロパノール等の1種又は2種以上の混合溶媒を使用することが出来る。
【0013】
なお、本発明における抽出物とは、抽出液、該抽出液の希釈液もしくは濃縮液、該抽出物を乾燥して得られる乾燥物、または抽出エキスのいずれをも意味するものとする。上記抽出物からのサポニン画分の粗精製および精製は常法によって行えば良く(名取信策、池川信夫、鈴木信言編、天然有機化合物実験法−生理活性物質の抽出と分離、1977、講談社)、例えばダイアイオン(DIAION)HP−20などの多孔性ビーズなどの合成樹脂担体を用いた固相抽出法、もしくはセファデックスLH−20(SephadexLH−20)、シリカゲル、アルミナ等の吸着剤による吸着および溶出クロマトグラフィーやその他の各種クロマトグラフィー等を適当に組み合わせて実施することが出来る。
【0014】
以上のようにして得られるタラノキの粉末、抽出物、該抽出物の粗精製物、精製物及び成分は、後述する実施例から明らかなように、肌荒れ改善作用を有するため、肌荒れ改善皮膚外用剤の有効成分として使用することが出来る。本発明の肌荒れ改善皮膚外用剤は、抗アポトーシス効果の試験で細胞毒性を示さず、実施例の使用試験において問題となる皮膚刺激性が認められないことより、安全性が高いと考えられる。
【0015】
本発明の肌荒れ改善皮膚外用剤は、医薬部外品や化粧品として提供して問題ない。配合量は外用剤中の有効濃度や外用剤の安定性等を考慮して10重量%程度以下が適当である。外用剤の形態としては、ローション、乳剤、クリーム、軟膏等、種々の形態をとる事が出来る。また、化粧水、美容液、乳液等の肌荒れ改善皮膚化粧料としても提供することができる。
【0016】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。なお「%」は特に断らない限り重量%を意味する。
【実施例1】
【0017】
Fas/FasL経路を介して誘導したJurkat細胞のアポトーシスに対するタラノキ抽出物あるいはサポニン画分及びチクセツサポニンVの抗アポトーシス活性の評価
【0018】
4×10cells/mLになるように調製したJurkat細胞(ヒト白血病Tリンパ腫由来)を96穴プレートに分注し、常法より調製したタラノキ抽出物またはサポニン画分またはチクセツサポニンV(終濃度:12.5−50μg/mL)を添加して1時間培養した後、5ng/mLのFasLで刺激してさらに24時間培養した。対照としてカスパーゼ・ファミリー・インヒビター[Z−VAD−FMK,Caspase Family Inhibitor(Fluoromethyl ketone),Medical & Biological Laboratories Co.Ltd.]を2μMとなるように加えた。細胞の生存率はAlamar Blue法[Page,B.et al.,Int.J.Oncol.3,473−476(1993)]により測定し、アポトーシス抑制率を[(抽出物あるいは生成物およびFasLを添加した細胞の生存率)−(FasLを添加した細胞の生存率)/(未処理の細胞生存率)−(FasLを添加した細胞の生存率)]×100の式より算出して抗アポトーシス活性の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0019】
【表1】

【0020】
表1はFas/FasL経路を介して誘導したJurkat細胞のアポトーシスに対するタラノキ抽出物あるいはサポニン画分、チクセツサポニンVの抗アポトーシス活性を示したものである。表中のZ−VAD−FMKは、抗アポトーシス作用を有する既知のペプチドであり、ポジティブコントロールとして使用した。本検討により、タラノキ抽出物あるいはサポニン画分及びチクセツサポニンVはFas分子介在性のJurkat細胞のアポトーシスを著明に抑制することが明らかとなった。チクセツサポニンV以外のサポニンにも活性のあることも明らかとなった。また、抽出分画液の各濃度において、顕著な細胞毒性は認められなかった。
【実施例2】
【0021】
肌荒れ改善皮膚化粧水の処方を下記表2に示す。
【0022】
【表2】


【0023】
表中の(9)に(5)、(6)を加えてそれぞれ膨潤させ、(1)、(2)、(4)、(7)を混合後加熱溶解して80℃とし、溶解後、40℃に冷却、(3)、(8)を添加し、混合する。表中(8)のタラノキ抽出分画液は、タラノキ500gを5Lの50%エタノールにて室温で1週間抽出し、調製した。また、表中(8)の替わりに50%エタノールを配合したものを比較例とした。
【0024】
続いて本発明の実施例および比較例について使用試験を行った。アポトーシスが抑制されると、肌荒れが改善されることが推察されるため、以下の試験を行った。肌荒れを感じているパネラー25名を1群とし、各群にそれぞれ実施例および比較例をブラインドにて顔面に使用させ、肌荒れについては、「改善」、「変化なし」、「やや悪化」、「悪化」の4段階、水分量については「上昇」、「変化なし」、「やや低下」、「低下」の4段階で評価し、各評価を得たパネラー数は下記表3に示した。
【0025】
【表3】

【0026】
上記に示すように、エタノール配合の比較例と比べ、タラノキ抽出分画液を含有する本発明の実施例の使用により、ほとんどのパネラーにおいて肌荒れが改善し、16例において水分量が顕著に上昇することが認められた。
【発明の効果】
【0027】
以上詳述したように、本発明に係る肌荒れ改善皮膚外用剤は、皮膚内での炎症によるアポトーシス誘導を抑制し、敏感肌や肌荒れ防止に効果を発揮させることが出来る。また、抗アポトーシスの試験で細胞毒性を示さず、実施例の使用試験において問題となる皮膚刺激性が見られないことより、安全性が高いと考えられ、副作用が比較的少なく、安全性にも優れた皮膚外用剤である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウコギ科(Araliaceae)タラノキ(Aralia elata)の粉末もしくは抽出物又は抽出成分を含有することを特徴とする、肌荒れ改善皮膚外用剤。
【請求項2】
ウコギ科(Araliaceae)タラノキ(Aralia elata)及びその類縁植物〔リュウキュウタラノキ(Aralia ryukyuensis)、ミヤマウド(Aralia glabra)、ウラジロタラノキ(Aralia bipinnata)、フクリンタラノキ(Aralia elata f.variegata)、メダラ(Aralia elata f.subinermis)、キモンタラノキ(Aralia elata f.aureovariegata)、オオバウド(Aralia cordata f.biternata)、カラフトウド(Aralia cordata var.sachalinensis)、シチトウタラノキ(Aralia ryukyuensis var.inermis)〕の粉末もしくは抽出物又は抽出成分を含有することを特徴とする、肌荒れ改善皮膚外用剤。
【請求項3】
ウコギ科(Araliaceae)タラノキ(Aralia elata)の粉末もしくは抽出物から調製したサポニン画分からなる組成物を有効成分とする肌荒れ改善皮膚外用剤。
【請求項4】
ウコギ科(Araliaceae)タラノキ(Aralia elata)もしくは請求項2記載の類縁植物の粉末もしくは抽出物から調製したサポニン画分からなる組成物を有効成分とする肌荒れ改善皮膚外用剤。
【請求項5】
タラノキの粉末、抽出物又は抽出画分、請求項2記載の類縁植物の粉末、抽出物又は抽出画分と、サポニン画分の1種または2種以上を含有することを特徴とする、肌荒れ改善外用剤。

【公開番号】特開2010−241779(P2010−241779A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−103378(P2009−103378)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年3月5日 発行の「日本薬学会 第129年会 CD要旨集」に発表
【出願人】(397036365)株式会社アイビー化粧品 (10)
【出願人】(598041566)学校法人北里研究所 (180)
【Fターム(参考)】